2010/05/19 22:29
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage-儚い夢-32.隠された顔

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「ジニョン・・・おはよう」

「あ・・先生・・おはようございます」

レイモンド先生は相変わらず、優しげな微笑を私に向けてくれていた。

昨日、フランクが先生に対してあまり良い態度を示さなかったことは想像がつく。

フランクはどうしてあんなに先生を嫌っているんだろう

フランクは“焼もち”だと言った

でも本当にそれだけ?

「ん?」 
つい、見つめていた私の視線に気が付いて、先生が私に首を傾げて見せた

「あ・・いえ・・」

フランクの非礼に対する申し訳ない思いが、逆に先生を意識してしまってる

「レイ・・挨拶はジニョンにだけですか?」

「やあ・・ジョルジュ・・おはよう」

「まるで付け足しみたいだな」

「ふ・・すねるな」

「昨日はありがとうございました」

でも、先生の優しさに無頓着に甘えることがフランクの心を騒がせるのなら・・・


「いや・・余計なことしたんじゃないかと・・あの後、少し後悔したよ・・・
 彼はかなりやきもちやきのようだね」

「あ・・あの・・お気を悪くなさらないでください」

「昨日?やきもちやき?・・・何のこと?」

ジョルジュがふたりの会話の意味を探るように私と先生の顔を交互に伺っていた

「ううん・・何でもない」

「・・・・・」

「おっと・・・ここにもいたか・・・やきもちやき」

先生はそう言ってジョルジュにからかうような視線を送った。
ジョルジュは話題の主がフランクであることを直ぐに悟って、さっきまでの笑顔を
私たちの前で瞬時に曇らせた。

「先生・・・」

「レイ・・って・・・」 

「えっ?・・」

「呼んでくれないんだね・・最近・・ん?・・」

先生が私の目線まで頭を下げて下から覗くように訊ねた。
フランクによく似た深い褐色の瞳があまりに近くにあって私は少し動揺していた。

「あ・・あの・・私、次の授業が・・・ジョルジュ・・後でね」

「ああ・・じゃあ、後でな」



ジニョンが急に慌てたようにその場を去った後、俺はジニョンを見送るレイの横顔を
重い気持ちで見ていた。

「・・・・・レイ・・・」

「ん?」

「ジニョンは駄目ですよ・・・」

「駄目って?」

「あいつはいずれ韓国に連れて帰ります」

「連れて帰る?」

「ええ・・・俺の嫁さんとして」

「へ~・・・それは初耳だ・・・でも・・どうして、そんなことを・・・私に?」

「あなたの目」

「目?」

「あなたのあいつを見る目は、一生徒を見る目じゃない・・・そう思って」

「ふ・・・そうか?」

「俺はあなたが好きだ・・・
 だから、あなたとは戦いたくない・・・それに・・・」

「それに?」

「・・・戦うのは・・・ひとりで沢山だ・・・」

俺はフランク・シンを思い浮かべて眉を顰めると独り言でも言うように小さく呟いた。

「フランク・シン・・か・・・」 レイモンドがポツリと言った。

「・・レイ・・彼といつ?」

「んー・・大分前から・・・」

「・・・・?」

「して・・君は奴に勝てるのかな?」

「・・・・・」

「ジョルジュ・・・」

「はい・・・」

「私を好きだと言ったね・・・戦いたくないと・・・」

「・・・・・」

「甘いな・・・いったい君は・・・私の何処を見てるんだ?・・・」

「何が言いたいんです?」
 
「いや・・忠告をしてるだけだ・・・上辺だけで人を判断するなと・・・
 もしかしたら、私は君の将来を脅かす人間かもしれない」

「レイ・・やっぱり、ジニョンを?」

「さあ・・どうかな・・・」

そう言って口の端で小さく笑ったレイの目が一瞬不気味な光を放ったように見えた。
今まで見たことのないようなレイの冷たい視線に得体の知れない何かを感じて
俺の背筋を震えさせた。

 


 

僕は昨夜から、レイモンド・パーキンの発した言葉の裏に何が隠されているのかを
読み取ろうと模索していた。

  ただ、僕を組織の手中に収めたい・・・それだけなのか・・・


奴のことになると、先が読めない自分が情けなく、苛立ちを覚えた。

  あいつの狙いは・・・いったい何なんだ

そのこととは間逆に合併問題はスムーズに運んでいた。このまま行けば、一ヶ月後には
取引も終結し、僕は予定通り、二ヵ月後、ジニョンの父上にお目通りが叶う。

  そうしたら・・・
  何もかも上手くいく・・・
  

「ボス・・・グランドホテルの株価の動きが変だな」

僕の目の前で先刻からPCの画面と睨み合いをしていたレオが苦虫を潰したような顔つきで
そう言った。

「急激に落ちてる・・・大口が売りに出たな・・」

「・・・・・」

「このままでは俺達の損害が大きくなるぞ・・手に入れるのには苦労したが・・・
 ここはひとまず・・・離すか・・・」

「いや・・待て」

順調に上昇していたはずの株価が暴落の動きを見せていた。
このまま暴落が続けばグランドホテル優位に取引が運ばない。
そんなことにでもなったら最後、僕の信用は瞬く間に失墜することになる。


「レオ・・・このままにしておいてくれないか」

「しかし、ボス・・・もし、このままだと
 俺達は一文無しだぞ・・わかってるんだろうな」

「わかってる・・・」

「フランク・・確かにお前はすごい奴だよ・・・しかしな・・
 俺の長年の経験からすれば、今回は俺の勘の方に分がある・・・
 そう思わないか?
 正直、お前はまだ経験が浅いんだ・・・な・・悪いことは言わん」

「・・・・駄目だ・・・いや・・頼む。」 僕はレオに食い下がった。

「・・・・・」

確かに今回はレオの意見が正しいかもしれない。客観的に考えれば彼の言う通りだった。
どうしてだ、と言われても、返す正論すら見つけられなかった。

    それでも・・・僕の中の何かがそうさせた

    自分を信じろと・・・

    迷うなと・・・

 

 


「どうだ?」
「揺さぶりに動じる様子はありません・・・」
「そうか・・・」
「いかがなさいますか」
「買い戻せ」

 

「レオ・・信用取引の上限は?」
「あと20といったところだ」
「すべて使え」
「バカなこと言うな」
「いいから・・・やれ」

 



「ジニョン・・・」

「あ・・先生・・・」

校門近くでばったりとレイに出会った。

「サークルは?」

「い・・いいえ・・・今日は・・」

「・・・ジニョン・・さっきから何だか変だね・・・
 まるで私を避けているみたいだ」

「い・・いいえ!避けてなんか・・・」

「そう?・・・じゃあ・・行こう」

そう言うなりレイが私の手首を掴んで歩き出した。

「先生!・・離して・・・何処へ行くんです?
 先生!・・・レイ!」 レイが私の大声でぴたりと足を止めた。

 

「いったい・・・どうしたと言うんです?レイ・・
 何だかいつものレイじゃない」

「ごめん・・・ちょっと強引だったね・・・
 きっとジョルジュにあんなことを言われたからだな」

「あんなこと?」

「私が君を見る目・・・変なんだそうだ」

「変って?」

「つまり・・・君を愛してる・・・」

「え?」

「そういう目をしてると・・・」

そう言いながら私に近づくレイの瞳は憂いを帯びていて、まるで遠い宇宙に
吸い込まれそうな程だった。
彼のくちびるが静かにゆっくりと近づく様を私はまるで磁石で留められでもしたかのように
身動きできないまま見つめていた。
 
「離せ・・・」

レイの肩越しに恐ろしい目をしたフランクが見えた。
私を睨みつけてでもいるかのような目が私の今までの金縛りを瞬時に解き放った。
レイはフランクの声に驚くでもなく、振り向きもせずに私に向かって薄く微笑んだ。

フランクの登場をわかってでもいたかのようなその不適な微笑みは・・・
決して今まで私に見せていた温和で優しさに溢れた微笑ではなかった。

  レイ・・・今私の目の前にいるあなたは・・・


       いったい・・・



           ・・・誰?・・・

 

 










 









 


 


2010/05/19 00:08
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mirage-儚い夢-31.沈黙

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      ジニョンに知られると・・・後悔する?

   どういう意味だ・・・

 

 

僕が部屋に戻るとジニョンがコーヒーを淹れていた。僕が無言でパソコンの前に座り、
仕事を始めてしまったことが、彼女は気になっているようだった。

「あの・・ドンヒョクssi・・コーヒー飲むわよね」

「いらない」

僕は取り付く島も与えないようなそぶりを露に彼女から視線を逸らしたまま、
仕事を続けた。

彼女は僕の顔色を伺うようにデスクを挟んで僕の正面に立っていた。

「あ・・・先生ね・・ジョルジュに頼まれて・・その・・」 

「・・・・・・」

「上までは結構ですって・・お断りしたのよ・・でも・・その・・

  ・・最近は・・アパートの中も物騒だからって・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・ドンヒョクssi・・・ドンヒョクssi?! 」

「怒鳴らなくても聞こえる」

「だったら返事してくれてもいいでしょ?

 先生はご親切に私をここまで送ってくださった・・

 それって、そんなに悪いこと?」
ジニョンは必死に自分の分を取り戻そうと、強い口調で言った。

 

「さあ・・」

「さあ・・って・・・そんな言い方、ないわ」

「じゃあ、どう言えばいい?

 先生に送ってもらった・・それは悪いことじゃないんだろ?

 だったらそれでいいじゃないか・・・

 僕のどんな言葉を待ってるわけ?」

「・・・・そんなに・・怒らないで」

「怒ってないよ」

「怒ってるじゃない!」

「怒ってない!」

「こんなことくらいでそんなに怒る理由がわからない!」

「わからない人間に何を言ったところでどうなる?

 君にとって、男の車に軽々しく乗ることはごく普通のことなんだろ?」

「男って・・・先生よ?」

「男に変わりない」

「ご好意を無下にできないことだって・・」

「もういい!これ以上、話しても平行線だ!」

僕は思わず席を立って、彼女を避けるように窓際に向かった。

 

「フランク!」

「・・・・・・」

「ドンヒョクssi・・・」

彼女が突然、僕の背中にぴたりと体を沿わせ頬をつけたかと思うと
細い腕を僕の胸に回して交差させた。

「ドンヒョクssi・・・ドンヒョクssi・・・ドンヒョクssi・・・  」

彼女の僕を呼ぶ声が次第に小さく涙声に変わる。

まるで・・・フランクと化した僕からドンヒョクを呼び出してでもいるかのように
僕の名を呟き続けていた。

 

  “ドンヒョク”はきっと・・・

  これ以上彼女の震える腕を放っておくことはできない

  それを知ってるんだね・・・ジニョン・・・

 

「怒鳴って・・・ごめん・・・」

「・・・・・・」

「でも・・・嫌なんだ・・・君が・・あいつの視線に触れられる・・・
 それを考えただけでも・・・」

僕はそう言いながら、彼女の右腕を引いて彼女を僕の正面に抱いた。

「妬いてるの?・・・先生に?」

「ああ・・・妬いてる・・・この目も・・この頬も・・この唇も・・・
 本当は・・・僕だけが見ていたい・・・」

「私はあなただけを見てるわ・・それだけじゃ・・・駄目?・・・」

「君はずるいね・・・」

「ずるい?どうして?」

「僕の弱点を握ってる」

「ドンヒョクssiの弱点て?」

「君の涙に弱いこと・・・」

「あなたの怒った顔・・・震えるほど怖いんだもの」

「そう?・・・気をつけるよ」

「もう誰にも送ってもらったりしないわ」

「ああ・・そうして・・・ここへ来る時は僕が迎えに行く」

「うん」

 

   君の困惑が・・・安堵に変わり・・・

   君の涙は僕の胸の中で乾いていく

   これから先・・・

   僕は何度・・・君を泣かせることになるんだろう・・・

   その度にこうして、君の涙を拭っていけるのか

   君を守ることができるのは・・・

   ドンヒョクなのか?

   フランクなのか?

   それとも・・・

 

 

 

 

数日経って、レオの報告が届いた。

「ボス・・・ソウルホテルとソ一家との関係がわかったぞ」
「・・・・・」

「話は19年前に遡る・・・
 ひとりの若い女がある小さなホテルに宿泊した」

電話口で突然語り始めたレオの口調を訝しげに聞いていた。

「何の話だ」

「まぁ聞け・・・
 その小さなホテルとは現在のソウルホテルの前身
 チェ社長夫妻が営んでいた・・・

 宿泊した若い女は訳あり風で当初から夫妻は
 彼女を気にかけていたらしい・・・

 ある日・・・屋上に昇った女を夫妻は慌てて追いかけた
 夫妻のあまりの慌てぶりに女は笑ったそうだ・・・

 まさか、飛び降りるとでも?と・・・

 しかし、女の目が笑っていなかったことを彼らは見逃さなかった

 茶化したように振舞いながらもふたりの誠意を感じ取った女は
 突然真顔になって自分から身の上話を始めた・・・ 

 自分が今身ごもっていること
 体の弱いことを悲観して子供を生むことを躊躇していること・・・

 『生んだとしても満足に育てることができそうもない』

 そう言って泣いたそうだ

 その彼女にチェ夫妻は誠心誠意尽くして       
 生きることの大切さと子供を生む勇気を説いた

 その後、女はそのホテルで働きながら日々を過ごし
 子供もそこで生んだんだそうだ・・・」

レオの話は長々と続いたが、僕には一向に彼の意図が読めなかった。

「話が読めない」

「そうだな・・・先にその生まれた子供がジニョンさんだと
 言えば、先が聞きたいか?」

レオはそう言って、今度は僕の関心を引いた。

「・・・・・それで?」

「女は子供を生んで一年も経たず亡くなった」

「そんなはずはない・・・ジニョンの母上はご健在だ」

「いや・・生みの親は亡くなってる

 ジニョンさんはその後、兄夫婦に引き取られ育った」

「ジニョンはそのことを?」

「知らないそうだ・・・事実を知っているのは
 チェ一家の人間と・・・ジニョンさんの育ての親・・・
 それと、ごく親しい友人らしい・・・」

 

   ジョルジュは・・・知っているわけだ・・・

 

「ジニョンさんの亡くなった母上の遺言で
 子供を兄夫婦の実子として育ててくれるようにと・・・

 本当の親の温もりも知らず育つことなど・・・
 微塵も感じさせない、明るく太陽のような女の子に・・・

 そう残して息を引き取ったそうだ・・・

 だから、違法とは知りながら・・・
 そこにいた人間達で口裏を合わせ、兄夫婦の実子とした」

「そんな秘密がどうしてお前に漏れる」

「彼らの古くからの友人だ・・・
 ソウルホテルの為・・・そう言って口説いたそうだ」

「・・・ソウルホテルを調べるのは構わないが・・・
 ジニョンに知られないように・・・」 僕は独り言を呟いた。

「何だ?」

「レイモンド・パーキンが僕にそう言った・・・
 後で後悔することになる・・・と・・・」

「パーキンが?」

「ああ・・・ということは、パーキンもこのことを知っている・・・

 そういうことになる・・・

 しかし・・・ジニョンに知られてはいけない
 それがこのことだとしても・・・奴がソウルホテルの買収に
 自信ありげなのはどうして・・・・・・・」

僕はレイモンド・パーキンの真意を頭の中で懸命に探っていた。

 

「ボス・・・俺達は今、NYグランドホテルとプリンスホテルとの
 合併問題を抱えているんだぞ

 ソウルホテルのことをこれ以上調べてどうする・・」

 

   僕が今後奴らの言いなりに生きていかなければ

   ソウルホテルを潰す・・・

   ソウルホテルを潰すも生かすも僕次第・・・

   そう言いたいわけか・・・

   しかしソウルホテルは経営上なんら問題のないホテル・・・

   その優良ホテルを潰す手段は強引な乗っ取りしかない・・・

   それにはジニョンの父上が持つ株が必要

   ジニョンの父がそれを手放すとしたら?

   どんな時?

   それは・・・ジニョンの秘密を彼女に・・・

   そう脅されたら・・・父上はどう動くだろう・・・

 

 

 

「ボス・・・ボス・・・フランク!」

「あ・・すまない・・・」

レオの声が聞こえないほどに瞑想を巡らせていた僕が、やっと正気を取り戻して
彼の声を聞いた。

「どうしたんだ?・・・ボス・・・知ってるとは思うがな・・・
 お前の少ない資産はもう今回の案件で底を付いてる・・・

 そればかりじゃない
 信用取引で損益が出たら、俺達はお陀仏だ 

 頼む・・集中してくれ・・・ソウルホテルのことはもう忘れろ

 これを成功させれば・・・しばらく遊んで暮らせる
 それだけじゃないんだ・・お前の今後の指針となる道も開ける」

「わかってる」

「本当にわかってるんだろうな?
 しっかりしてくれよ・・・俺はお前に賭けてるんだぞ」

「・・・・・」

 

 

 

 

 

さっき、ジニョンを送って行った寮の前で僕は彼女の部屋を見上げていた。

 

   今頃もう眠っているね・・・ジニョン・・・

   君とこうして離れていると 

   心が寒くて・・・寒む過ぎて・・・

   本当に涙が出そうだ・・・

 

   君と出逢って・・・

   まだ三ヶ月しか経ってないのに・・・

   今まで君がいなかった時間の方が

   どれほど沢山あったかしれないのに・・・

   ジニョン・・・ 

   君の笑顔を・・・

   僕にくれる太陽のような笑顔・・・

   それを培ってくれた君の大切な人たちを

   この僕が・・・もし・・・

   もし・・・そんなことにでもなったら・・・ 

   君は僕を許してくれる?

   君の笑顔は変わらずに僕に向けられる 

   ジニョン・・・教えてくれ・・・

   僕はいったい・・・

 

 

         ・・・どうしたらいい?・・・

 


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