2010/04/08 22:06
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-20.さざなみ

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「そろそろ・・・こっちを向いてもらってもいい?」
「・・・・・・」

「キスしたい・・・」
僕が彼女の耳元でそう囁くと、彼女は不意に振り返り僕の首に飛びつくなり
僕の唇に自分の唇を強く押し当てた。

彼女の突然の行為に驚いた僕はその瞬間、不覚にも彼女から手を離してしまったけれど
急いでもう一度彼女を抱きしめ直すと、先を越されてしまった甘いくちづけの主導を
今度は僕が握った。

   確かめ合うかのような甘美で執拗なくちづけが
   息を付かせることさえ許さない愛撫の繰り返しが
   逢いたかった激しい思いを互いへ訴えると
   恋人達は逢えなかった時間を取り戻していく

その狂おしいほどの自分の感情をなだめた後で僕はやっと、彼女を解放した。
そして潤んだ眼差しで見上げる彼女の髪を撫でながら、その濡れた唇に誘われて、
また、何度も何度も小さいキスを繰り返えした。

 
   逢いたかった・・・ジニョン・・・


   触れたかった・・・ジニョン・・・


   呼びたかった・・・


「ジニョン・・・・・・・・
 ねぇ・・本当のことを言ってごらん・・寂しかっただろ?」

僕は彼女を抱きしめたまま、彼女の髪を愛しげに梳きながらそう言った。

「いいえ・・少しも・・・」

「本当に?」

「・・・言わない。・・・悔しいから・・・」

彼女は僕の背中に回した両手で僕の服を握り締めながら口を小さく尖らせた。

「悔しいから?・・・それって・・寂しかったって
 言ってることじゃない」

「・・・・・・・」

「いいから素直に言ってごらん?・・・寂しかったって・・・」


「・・・・・・・言わない。」

「強情だな」


「あなたこそ・・・
 どうして、そんなにしつこく言わせたがるの?」

「寂しかったから。」 僕は即座にそう答えた。


「・・・・」

「僕が寂しかったから・・・
 君の“寂しかった”をいっぱい聞きたい」


「フランク・・」

「ん?」


「・・・・・寂しかった・・・すごく寂しかった・・・
 死ぬほど寂しかった・・・
 寂しくて寂しくて・・・いつもベッドの中で泣いてた・・・
 あなたの・・・声が聞きたくて・・・
 寝る前に目を閉じて、あなたの“愛してる”を思い出してた
 逢いたくて・・逢いたくて・・・こうして・・・
 あなたの顔を・・・この目を・・・この唇を・・・思い出してた・・・」

そう言いながら彼女は目を閉じて僕の顔に細い指を這わせた。


「・・・・・・」

「・・・・・・」

僕は彼女の瞳を熱く見つめながら、僕の顔に触れた彼女の細い指先一本一本に
丁寧にキスをした。

そして僕達は、しばらくの間言葉もないまま、ただ強く抱きしめ合っていた。


「・・・行こうか・・・」

「え?・・・」

「このままこうしていても・・・いいけどね・・・
 もっと他のことをしたくなった・・・」

彼女を見つめた僕の瞳の中にその意味を見つけた彼女が頬を赤く染めた。

僕はそんな彼女を愛しく思いながら手を取ると、ソフィアの部屋とは反対の方角へと進んだ。

「待って・・・行くって?・・・ソフィアさんが・・・」

「いいんだ」

「いいって・・・ビネガー待ってる・・」

「待ってないよ・・・」

「・・・・・?」

「ソフィアがそうしろと言ったんだ」


      《迎えに来ないで・・・フランク・・・》


「・・・・・でも・・・何処に行くの?」

「僕たちの家・・・」

「・・・・・?」

「いいから・・・おいで・・・」

僕は握ったジニョンの手を更に強く握り締めると、道路の向こうに止めてあった車に急いだ。

 


    迎えに来ないで・・・フランク


ジニョンさんと過ごしたこの三日間は意外とシンプルだったわフランク。

   本当はね

   彼女のこと・・・もっと憎らしく思うのかと思ってた

   でも・・・何故か彼女と一緒にいると・・・

   穏やかな気持ちになっていく自分に驚いたわ

   不思議な子ね・・・あの子・・・

   
   フランク・・・
   
   あなたも苦しんだのね・・・


   でももう戻りましょう

   私達にこんなのは似合わない


   私はいつもの私に・・・

   あなたもいつものあなたに・・・


   ひとつだけ・・・

   戻れないことはあるけれど・・・

   それでも・・・あなたを失うよりは・・・

   絶えられそうな気がする・・・


   あなたの辛そうな目は・・・


   いつまで経っても・・・苦手なのよ・・・私・・・

 

 

  ルルルーー♪  
 

「ハロー・・・」

「ソフィア?」

「リチャード?・・・何してるの?」

「何してるって?・・・」

「だって、あなた・・今頃はNYで・・」

「ああ・・コンサートのこと?あれは・・・
 ある女に断られた時点で、既に消滅・・・」

「消滅?」

「破って捨てたってこと・・・」

「まあ、もったいないことするのね・・・あれプラチナ・チケット・・・よ」

「僕にとってはその女と行けなければゴミ同然・・・」

「・・・・・・」

「どう?」

「どう?って?」

「少しは感動した?」

「・・・・あなたって・・・変な人・・・」

「それは褒め言葉と取ってもいい?・・・」 

「・・・リチャード・・・ところで・・ご用は何?」
  
「ああ、僕の声を聞きたいんじゃないかと思って」

「フフ・・・何の冗談?・・」

「・・・聞きたかっただろ?」

「リチャード・・」  
 
「実際思ってなかった?ああ、そういえば今日はまだ・・・
 彼の声を聞いてなかったなって・・ね」

「・・・・・・」

「毎日聞いていた声が聞こえないと・・・妙な気分になる・・・」

「リチャード・・・」

「だから僕は・・・こうして君に毎日電話してる・・・」

「・・・強引な人は好きじゃないわ・・・」

「食事でもどう?・・・迎えに行く・・・」

「・・・悪いけど・・・切るわ」

「・・・会いたい・・・」

「ごめんなさい・・・じゃあ・・・」

「・・・・・」
 
 ピンポーン♪

 

   ・・・・・強引な人は嫌いだと言ったでしょ?

 
   でもまだ・・・電話・・・切ってないね・・・

 

 



僕はレオに頼んでNY郊外に人里離れた小さな家を探してもらった。


    『どうして、家なんかを?』


    理由がないといけないか?


    『いや・・・しかしボス・・これから俺達は嫌でも忙しくなる
     そうなると殆どホテル住まいが多くなるぞ』


    ・・・・・・


    『ま、いい・・・ご希望の物件当たってみるさ・・・』


   

       

「この辺のはずなんだ・・・」

「暗いのね・・・まるで森の中みたい」

「家の周りに灯りを灯してくれることになってるんだけど・・・
 あ・・あった・・・あそこだ・・・」

「何だか怖いわ」

「大丈夫・・・僕が付いてる」

「ええ・・・」

レオが用意してくれた家は白いカントリーハウスだった。
それはジニョンが表現した通り森のような樹木に覆われていた。

見渡す限り隣家と思しき建物ひとつ見当たらず、闇の夜に浮かんで見えるのは
白っぽい小さな家とそれを照らすひとつの灯りと妖しげな朧月だけだった。

玄関を入ると、右手にしゃれたダイニングキッチン、左手にはソファーやテーブル、
キャビネットが白い布で覆われたまま僕たちを出迎えた。

そしてその奥に白い壁で半分仕切られただけのベッドルームが見える
大きなワンルームタイプの間取りになっていた。

 

「気に入った?」

「え?・・・」

「気に入らないの?」

「そんなことないわ・・・素敵なお家」

「ここが僕たちの新しい家・・・さあ・・布を外そう・・・」

「え?・・ええ・・・」

僕はふたりの新しい生活の幕開けに白布を大きな音を立てて勢いよく取り除いた。
中からは小ぶりながらもセンスのいい家具が現れ僕は満足だった。

しかし、僕の後に続いて外した布を片付けるジニョンの、少し元気の無い様子が
気になってしかたなかった。

「 ジニョン! 」 僕は彼女に不意にクッションを投げつけてふざけて見せた。

彼女は一瞬驚いてそれを受け損なってしまったけれど、直ぐに僕の行動に反応して、
僕以上の攻撃を仕掛けてきた。


いつもの明るい・・子供みたいなジニョン・・・

それなのに彼女の不安げな憂い顔が僕の心にさざなみを立てる。 

 

   ジニョン・・・何がそんなに不安なんだい?・・・

   僕との生活が?・・・

   韓国のご両親のことが心配なんだね

   ジョルジュというあいつのことも・・・


   ジニョン・・・僕は・・・君の

   その手を掴んで来てしまったこと・・決して後悔はしていない・・・

   でも・・・君のその・・・

   瞳の中の憂いを僕はどう受け止めればいいんだろう


   ジニョン・・・

   どうか僕に・・・君のくったくのない笑顔だけをくれないか・・・

          


僕たちはその夜、いつの間にかベッドに倒れ込むように眠ってしまった。
僕はこの数日ろくに寝ていなかったこともあって珍しく熟睡していた。


薄く射し込んだ光彩に揺り起こされて目覚めると、ジニョンは僕に体を添わたまま
まだ深い眠りの中だった。


しばらくの間、彼女の寝顔を見つめながら、僕は昨日までのことを思い起こしていた。


   自分達に降りかかった現実と・・・


   まだ見えないふたりの未来・・・


今までは僕に想像できないものなど存在しなかった
それなのに・・・彼女との未来が見えてこない・・・


ただはっきりしていることは・・・


   僕がもう彼女を失えない・・・

   そのことだけだ・・・

 

僕はその自分の決心だけを信じて生きようと思った・・・
彼女さえそばにいてくれれば・・・何もいらない・・・


そして僕は彼女の額にそっとキスをしてベッドから起き上がると、窓辺に向かい、
朝日が薄く差し込むカーテンを開けて、まばゆいばかりの光をジニョンの眠るベッドに採り込んだ。


「ジニョン!起きて!ジニョン!」

「んっ?・・・ん・・・」

「来てごらん・・・湖だ・・・朝日が反射して綺麗だよ」

僕の誘いにまだ眠気まなこの彼女がベッドを降りて窓辺に近づいた。

「うわー本当ね・・・凄く綺麗!」

昨夜の彼女の不安げな顔が、湖畔に映る朝焼けを前に輝きを取り戻したように見えた。

「ジニョン・・・朝食を作ろう・・・」

「材料は?」

「少しは用意してもらってる・・・あとで買い物にも行こう
 足りないもの、調べないといけないね・・・」

「ええ」

僕に向けた彼女の笑顔はいつもの明るいジニョンだった。


   どうしたんだろう・・・僕は・・・昨日から

   何故か彼女の笑顔を探しては、その都度胸をなでおろしている


「ジニョン・・・これから・・・
 ふたりで色んなことをしよう・・・」

「色んなこと?」

「ああ・・・ふたりで映画を観たり・・・
 ミュージカルを観たり・・・
 素敵なレストランで食事をするのもいい・・・

 あの湖畔にボートを浮かべるのもいいね・・・

 とにかく・・・
 君がやりたいことは何でも言ってごらん?
 君の言うことなら、何でも叶えてあげる

 ふたりで沢山のことを経験して・・・君と・・・
 幸せを描いていきたい・・・」

「ええ・・・」

僕はジニョンの背中を自分の胸に抱いて窓辺に少し体を預けた。

しかし、湖畔に向けたままの彼女の表情を僕は覗かなかった。

胸の中のざわめきが彼女の心の奥深くを僕に覗かせなかった。

それでも、水面にきらめく神秘な光華が僕の心を少しだけ慰めてくれていた。


   フランク・・・大丈夫だ・・・


      彼女はきっと・・・

 


      ・・・お前の元で笑ってくれる・・・


 




    

 





 


 


2010/04/06 11:03
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-19.抱擁

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「そんなに睨まないでくれる?」

「えっ?」

「さっきから、あなたの視線が痛いわ」

ソフィアさんが淹れてくれたコーヒーを飲みながら私は、自分でも気づかない内に
ずっと彼女を凝視していたようだった。

「あ・・ごめんなさい・・・そんなつもりじゃ・・・」

「・・・何か付いてる?私の顔・・・」

「あ・・・・いえ・・あの・・お肌が・・・綺麗だなって」

「ふふ・・ありがとう・・・・・?」

ソフィアさんは私の慌てぶりに少しばかり苦笑しながら視線を下ろした。

「・・・・・・」

「申し訳ありません・・・あの・・私みたいな・・・」

私はまだ彼女とどんな話しをすればいいのかもわからず、自分の身も何処に
置いていいものなのかすらわからない中途半端な心境だった。

奇妙なことに、そんな中で彼女を目で追うことが唯一冷静を保つ手段だった。

「誤解のないように言っておくわ・・・
 あなたを預かったのは私にとっても得策と思ったからよ・・・
 私はね・・・学校を出たら弁護士になる予定なの・・・
 彼が成功しているということは大きなコネクションにも繋がる

 つまり今後の私自身の仕事にも関わるということ・・・それだけのことよ・・・
 だから、あなたが恐縮する必要は何も無い。・・・いい?」

彼女はそう言って、先ほどまでの温和な表情を少し険しく変えた。

「あ・・・は・・い」

「そうだわ・・・お腹すいたでしょ?
 少し遅くなったけど・・・何か作るわね・・・」

そしてまた、元の温和な彼女に戻って、キッチンへと向かった。

「あの・・お構いなく・・・」

口ではそう言いながら、悲しいことに自然現象には勝てなかった。
お腹が小さく鳴る音を彼女に聞かれて、私は気まずく照れ笑いを浮かべた。
彼女は“クスッ”と優しい笑みを返してくれた。

  こんな時・・・食べ物が喉を通らない・・・

  そんな女だったら・・・カッコいいのにな・・・  

ソフィアさんが「有り合わせね」と言いながら振舞ってくれた料理は想像以上に美味しくて
食事を摂りながらの彼女との会話もまるで私を緊張させない心遣いに溢れていた。

彼女の所作ひとつひとつが優雅で上品で、この世の中にこんな女性がいるのかと
本気で思え、何故か悔しかった。

事実、今日一日彼女に付いて歩いただけで、どれほど彼女が優秀で人望が厚く
完璧と言える女性であることを思い知らされた。


   フランク・・・やっぱり・・・この人と残るんじゃなかったな・・・

   彼女のそばにいるとひどく自己嫌悪に陥りそうよ・・・


   あなたとソフィアさんて・・・

   似合い過ぎるくらい・・・似合ってる・・・

 

「シャワーどうぞ・・・疲れたでしょ?これに着替えて・・・
 もう休むといいわ・・・そっちのベッド・・・使ってね」

彼女は自分の部屋着を私に差し出してそう言った。

とても几帳面にベッドメイクされた少し大きめのベッドは、その上に落ち着きのある
色調のスプレッドが掛けられ、住まう人のセンスを覗わせるものだった。

「あ・・でも・・・ソフィアさんは・・・」

「私はここでいいの・・・まだ、やりたいこともあるし」

そう言って彼女は腰掛けている椅子に視線を流した。

「でも・・それじゃ、あまりに窮屈・・・申し訳ないです」

ラブチェアー程の長さしかないその椅子はとても休むのに使えるとは思えなかった。

彼女はもう一度その椅子を眺めた後、私に振り返った。

「・・・確かに・・そうね・・・じゃあ、一緒に・・いい?」

そしてベッドを指差してウインクしながらそう言った。

「あ・・はい・・・」

改めて見渡すと、何もかもが洗練され落ち着いたレイアウトの彼女の部屋が
どことなくフランクの部屋に似ているような気がして私は思わず視線を落とした。


バスタブの柔らかいソープに身を包まれながら、今自分の身に起きていることの重大さに
おののくことよりも、ソフィアさんの存在が大きくのしかかってくることの方が切なかった。

   ソープの香りが・・・彼女の香りと同じ

   そして・・・何より・・・

   フランクが好きそうな・・・香り・・・


心地よいはずのこの香りさえもひどく私を動揺させた。



「もしかして・・・気にしてるのかな?」

お風呂から出て、私がベッドの傍らで立ち尽くしていると、背後から彼女が声を掛けた。

「えっ?」

「フランクはここには来たことないのよ・・・」 彼女は微笑みながらそう言った。

「あ・・いえ・・そんなこと・・・」

「気になってたでしょ?・・フランクが好きそうな部屋だなって・・・」

「いいえ・・そんな・・」


   ≪気になっていた・・・≫

       
「フランクとは・・・何処で?・・・あ・・ごめんなさい・・・」

自分の意思に反してつい口にしてしまったというように、ソフィアさんは一瞬後悔の色を
顔に浮かべた。でも私はきっと、彼女のその問いかけを待っていた。

「助けてもらったんです・・・不良に絡まれてるところを」

「へ~らしくないわね・・・余程あなたに惹かれたのかな」

「いいえ、私が追いかけました・・ごめんなさい
 あなたという方がいらっしゃることも聞いていました・・
 彼ははっきり、恋人がいる・・邪魔をするな、そう言いました、
 でも私が無理やり・・追いかけたんです」

私はつい早口になっている自分に気づきながらも、勝手に動く自分の口を止められなかった。
「だから、あの人は悪くないんです・・・私が・・・
 凄く好きになって・・・しつこく付きまといました」

「そんなに・・・必死に庇うことはないわ・・・」 彼女は驚いたような顔をして、笑った。

「でも・・・本当のことです」

「じゃあ、あなたが私から彼を横取りしたの?」

冗談のような口調とは裏腹に、彼女は私に少し厳しいまなざしを向けていた。

「えっ?・・」

「例え、あなたが無理やり彼を追ったところで・・・
 彼は誰にでも簡単に心を許したりしない男よ・・わかってるでしょ?」

「・・・・・・」

「私が愛した男を・・そんな簡単な男だと言って欲しくないわ」

「あ・・・」

「ふふ・・冗談よ・・・そんなに怖がらないで?

 こうは思えない?
 あなたたちが出逢ったのはある意味必然で・・・
 あなたでなければならなかった・・・」

その言い方はまるで、ソフィアさんが自分自身に言い聞かせているように聞こえた。

「フランクの・・・何処が好き?」

「えっ?」

「フランクって・・・ぶっきらぼうで・・・一見、決して優しいとは言えないわ・・・
 そんなフランクの何処に惹かれたのかしら・・・」

「・・・・・・考えたこと・・・ありません・・・
 初めて逢った日から・・・あの人のことが頭から・・・
 いいえ・・心から離れなくて・・・必死に探したんです・・・
 何処の誰かもわからなかった・・・知っていたのは・・・
 フランクという名前だけ・・・でも・・・
 きっと逢えるはずだと信じてました・・・」

「信じてた?・・・どうして・・・信じられたと思う?」

「それもわかりません・・・」

「わかりません・・・か・・・」

「フフ・・・」

「な~に?」

「フランクにもよく、“また・・わかりません・・・か・・”って・・・」

「そう・・・でも、好きになるのに理由なんてないわよね
 “こんなところが好きです”と言われるより・・・ずっとここに伝わるわ・・・」

彼女は自分の胸に掌を当てて、そう言いながらにっこり笑った。

「・・・・・」 私はその時、この人の大きさを心に感じた。

「私のことを・・・何処までご存知?」

「大切な人だと・・・」

「フランクが・・・そう言ったの?・・・あなたに?」 彼女は目を丸くして言った。

「はい・・・」

「ばかね・・・・女心がひとつもわかってないのね・・・」

私は彼女のフランクを非難するような言葉の中にも、彼への愛を感じて切なかった。

「気になる?私のこと・・・」

「あ・・・いいえ・・・」

    ≪本当は凄く・・・気になります・・・≫

「愛されている・・・自信かな?」

「あ・・いいえ!」

「冗談よ・・・ごめんなさい・・・ちょっといじわる言ってみただけ・・・
 フフ・・・心配することないわ・・・私は・・彼にとって家族のようなものよ
 大切というのは・・・そういう意味・・・
 あなたにも大切な家族・・・いるでしょ?」

「本当に・・・そうでしょうか・・・」

「自信がないの?」

「彼はあなたを愛してると思います・・・
 あなたも・・・あなたは・・・どれほど彼を愛してきたんでしょう・・・
 そして今でも・・・
 私はあなたの・・・彼への愛に敵うことができますか?」

私は不躾と知りながら、偽らない本心を彼女にぶつけていた。

「私の・・・彼への愛に?・・・・」

「・・・・・・」

「それは・・・無理だわ・・・」 彼女は凛とした顔でそう答えた。

「・・・・・・」

「私の心は・・・私だけのものだもの・・・
 あなたの心も・・・あなただけのもの・・・ねぇ、思わない?

 人を思う心を・・どちらが勝っていて・・・どちらが劣ってる・・・
 そんなこと・・・どうやって計れるかしら・・・」
それは彼女が、彼女自身の彼への想いがどれ程に大きいのかを私に告げていた。

「・・・・・・」

「ただ・・・彼が必要としたのが私ではなく・・・
 あなただった・・・それだけのことよ・・・」

「・・・・・・・」

「男と女はね・・・
 神様に生を受ける前はひとつの体だったんですって・・・

 神はそれをわざと引き裂いて・・・この世に遣わした

 引き裂かれたそのふたつの体は何とかひとつの体に戻りたくて
 もうひとつの体を無意識に探すの・・・
 そして・・・惹き合い・・・愛し合う・・・

 でもね・・・誰もかれもがその引き裂かれた体と巡り会う訳じゃないわ
 だから世の中には上手くいかないカップルもいる

 その代わり・・・本当に引き裂かれたふたつの体なら・・・
 まるで磁石のように引きあい離れないはずよ・・・」

「・・・・・・」

「フフ・・・昔母にね・・・教わったの
 “あなたも・・・その半身に巡り会うといいわね”って・・・」

「半・・身・・・」

「そう・・・半身・・・あなたたちがもしそうなら・・・」

彼女はそう言ってしばらく言葉を呑みこみ、繋げなかった。

      あなたたちがもしそうなら・・・


彼女はその後にどんな言葉を繋げたかったのだろう。

「・・・・・・」
「ひとつだけ・・・お願いしてもいい?」

「・・・・・・?」

「彼を・・・フランクを・・・いつも・・・抱きしめてやって・・・
 心が壊れないように・・・いつも・・抱きしめてやって・・・

 フランクの心はガラスみたいで・・・あなたよりも・・・うんと子供で・・・
 誰かが抱いていてやらないと・・・
 いいえ・・・あなたが・・抱いていてやらないと・・・
 きっと簡単に砕け散るわ・・・」

「・・・・・・・・どうして・・・」

「・・・・・・?」

「どうしてあなたは・・・そんなに・・・」

「そんなに?」

「いいえ・・・何でも・・・ありません・・・」


   ≪どうして、そんなに彼のことがわかるんですか?≫


そう言いかけて私は口を噤んだ。聞いてしまったところで・・・どうすると言うの?

聞いてしまったところで、ソフィアさんがフランクをどれだけ愛しているのかを
思い知るだけ。
  
   ≪きっとそう≫


   ソフィアさん・・・
   私はあなたのように大人ではありません・・・


   あなたのことが気にならないなんて・・・嘘・・・
   あなたを・・・大切な人だという・・・フランクの心が・・・
   まだ胸の奥に突き刺さっていて・・・凄く・・・苦しいんです・・・


   あなたたちが半身同士なら・・・
   あなたのその先の言葉を訊ねなかったのは・・・

   もしかして・・・フランクの半身が・・・
   私ではなく・・・本当はあなたではないのか・・・

   そんな自分の思いを恐れたからです・・・

 


 

 

俺はまず、韓国のジニョンの父親に帰国の延期を連絡しなければならなかった。
もちろん・・・あいつに彼女を連れて行かれたなどとは言えない。

ジニョンは誤解していたが、俺は親父さんにあいつのことを一切話していなかった。
そんなことを話でもしたら、親父さんは直ぐに飛んで来ただろう。

家出同然に国を出ていた俺自身が心を入れ替え帰国を決意したことを理由に、
親父さんにジニョンの帰国を提言した。
もともとジニョンの留学に乗り気ではなかった親父さんは直ぐに同意してくれた。

とにかく、今回のことは上手く理由をつけて、親父さんに当面の帰国延期を
納得してもらうしかない。


あいつのアパートを俺が知っていることはジニョンも知っているはず。
だからきっとそこにはいないだろう。しかし、今の俺にはそこしか手掛かりは無かった。

翌日、あいつはひとりでアパートに戻ってきた。≪ジニョンは?≫

   ジニョンを・・・何処へ?

俺はしばらく奴の行動を追うしかなかった。

 


レオと待ち合わせたホテルのロビーで彼を見かけた。アパートから僕をつけているのは
わかっていた。
僕は彼に気づかない振りをしながら、今はとにかく急ぎの仕事に集中した。

「ボス・・・流石だな・・・昨日一晩でよくこれだけの準備を・・・
 またこれで・・俺たちの勝利は確実だ」 レオはホッとしたようにそう言った。

「待たせて・・・済まなかった・・・」

「実際のところ、お前を信じてもいいんだろうか・・今回は本当にそう思ったぞ。
 ボス・・しかし、これで何んとか上手く切り抜けられそうだ・・
 やはり、俺の目に狂いは無かったな」 レオがそう言って笑顔を向けた。

「・・・・・・」

「だが・・・これから先も上手く行くとは思うなよ・・・
 お前の実力は今、この業界でも認知されつつある・・・
 出過ぎる杭は打たれるのが常・・・もちろん・・・
 闇に潜む黒幕たちとねんごろにやっていくというなら、話は別だがな・・・
 それなら、奴らもお前を歓迎するだろうよ」

「どういう意味だ」

「どういう意味かは・・・自分で考えろ・・・
 俺はお前のするように動く・・・それはこれまでと同じだ
 ただひとつ・・・覚えておいてくれ・・・
 お前に信用が持てなくなったら・・・もしそうなったら・・・
 俺はあっさりとお前を切り離す・・・いいな。」

「・・・・・・」

   出る杭は打たれる・・・

そんなこと・・・今までにも何度も経験してきた・・・


   やれるものならやれ・・・

僕にはどんなものにも負けない自信があった。
僕の周りに潜む闇がどんなものであるかは想像はつく


「ところで・・・今度の利益もいつものように投資に?」

「いや・・・今回は少し使いたいことがある」

「・・・・・・」

しかし・・・僕は必ずこの世界で頂点に立つ・・・
その決意は変わっていない・・・


  心配するな・・・レオ・・・


  僕の歩く途は・・・誰であろうと・・・


  絶対に邪魔はさせない・・・

 

 


   

「あ・・いけない・・・買い忘れたわ・・・
 ジニョンさん・・・悪いけど、ビネガーを・・・買って来てくださらない?」

「あ・・はい・・・」

ソフィアさんの部屋にお世話になって五日目、フランクからの連絡がこの二日なくて、
私は少し心細くなっていた。
それでも彼女は、学校へも必ず私を連れ立って、レポート作りや資料作りなどを
手伝わせてくれたり、私が気が紛れるようにとの配慮を惜しまなかった。


      彼女はやはり凄い人だと思う


彼女との時間は互いの微妙な関係をも忘れさせてくれるほど、楽しかった。
もしもフランクとのことがなければ、私はこの人と親しい関係になれたかもしれない、
そんなことを思っていた。
一緒に映画を見たり・・・食事に行ったり・・・買い物をしたり・・・
この人になら、何でも打ち明けられそうな気がした。

     でも・・・そんなこと・・・許されるわけがない

彼女の立ち居振る舞いを目で追いながら、自分のそんな感情が余りに身勝手であることを
私は寂しい思いを感じながらも、恥じていた。

「何?」 
私の沈黙の中にあった熱い視線に彼女は不思議そうに首を傾げ、笑顔を向けた。

「いえ・・何でもありません・・・それと同じものでいいんですね」

私は彼女が手にしたビネガーの瓶を指差して言った。

「ええ・・気をつけてね・・・外暗くなってるから・・・」

「はい」

私は彼女の部屋を出て、歩いて5分程のストアに向かった。
そこは彼女の知り合いが経営していて、私が彼女に唯一ひとりで行動することを
許された場所だった。

ソフィアさんに頼まれたビネガーだけをレジに運んで精算をすると、足早にそこを後にした。

その瞬間、私と同時に闇を動く人影が視覚に入ってきた。
いつも外出する時は気をつけるように彼女に言われていた。


      付けられてる?
      いいえ・・・気のせいかもしれない

私は小走りにソフィアさんの部屋へと急いだ。
しかしその影も私の速度に合わせたように動きを速めた。


      やっぱり・・・付けられてる

目の前にソフィアさんのアパートが見えてホッとして、更に速度を速めたとたん、
私はその影に背後から腕を掴まれ細い路地に引き込まれてしまった。

「 きゃー! うっ!」

悲鳴をあげた瞬間、私は口を塞がれ驚愕した。手から離れたビネガーのビンが
地面に叩きつけられ、割れて砕ける音が更に私の緊張と恐怖を煽った。

「うっ!うっ!・・」

私は必死にもがいたけれど、強い力で封じ込められた体は自由を妨げられ
ただ足だけを小さくばたつかせるしかなかった。

「シー」

その時、私の耳元に聞き慣れた低く響く音が届いた。

「うっ・・うっ・・」 でも口を塞いだその手はまだそのままだった。

「ごめん・・・そんなに驚くとは思わなかったんだ・・・
 いい?離すよ・・・もう叫ばないで」 その声がそう言った。

私はその大きな手が口から離れた後も、後ろを振り向くことはできなかった。
余りの驚きと安堵が入り混じって大きく息を吐きながら、体が脱力し屈み込みそうになった。

そんな私の体を、背後の大きな腕はまるで救い上げるように抱きしめた。
私はしばらく言葉もなく、その力強く優しい抱擁にただ身を任せていた。

 

     ・・・フランク・・・




 「・・・・待たせてごめん・・・心細かっただろ?」

彼女は無言のまま頭を左右に振った。

 

      フランク・・・本当はね・・・

      うんと・・・寂しかったわ・・・

彼女の仕草と裏腹の感情を、僕の腕を抱きしめた彼女の手の震えが教えてくれた。

「ごめん・・・これでも・・・急いだんだ・・・」

僕はしばらく彼女の背中を抱きしめたまま、彼女の体温を自分の冷えた胸に移して
少し疲れた心を温めていた。
 

  あぁ・・・

  こうして抱いていると・・・このまま君が・・・

  僕の胸の中に溶けていってしまいそうだ・・・

  ジニョン・・・もっと・・・もっと強く・・・

  抱きしめてもいいかい?・・・

  この小さな肩を・・・

  壊してしまいそうなほど君が・・・

 

    君が・・・


                          
       ・・・恋しかった・・・

 










 









 


 


2010/04/04 23:32
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-18.逃避行

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空港を後にした車の中で僕たちはしばらく無言だった。

この二日間に・・・
僕が自分自身に打ちのめされていた間に、彼女の身に起こっていたことを思って
身が切られる思いだった。

本当に失えないたったひとつのものを、実際に失うところまで来て僕はやっと自分の心に
決着をつけることができたというのだろうか。

しかし今はまだ・・・この想いを言葉に出して彼女に告げることを躊躇する自分がいた。

それは・・・まだ僕の奥底に潜むソフィアへの想いなのか・・・
それでも、僕は彼女の手をしっかりと握って離さなかった。

「怒ってるの?」

僕が前方を見据えたように黙したままハンドルを握っていると、彼女が恐る恐る
僕の顔を覗きながら声を掛けた。

「・・・・・」

「手・・・痛い・・・それに・・・フランク・・・怖い顔してる・・・」

「・・・・・」

「やっぱり・・怒ってるのね・・あなたに黙って帰国しようとしたから?」
「・・・・・」

「でも、あなただって。・・・その・・・連絡もくれなかったし・・・
 それに・・・きゃー!」
僕は突然、車を乱暴に路肩に移動すると、急ブレーキをかけ止めた。

「びっくりした・・・フランク・・・どうしたの?危ないじゃない!」
「・・・・・」

「フランク?・・・」
「・・・・・・愛なんて・・・」 僕は相変わらず、彼女から視線を外したままだった。
「・・・・?」
「愛なんて・・・邪魔なだけだ・・・そう思ってた・・いつも・・
 そう思ってた・・・」
「・・・・・」

「これから僕は・・・世の中を這い上がっていかなきゃならない・・・
 愛だの恋だのと、生ぬるいことに囚われてる暇なんて無い・・・
 そう思ってた・・・
 それなのに・・・その僕が・・・今何処か・・可笑しくなってる・・・
 とても本当の自分とは思えない・・・

 自分自身をコントロールできないなんて・・・どうかしてるんだ・・それって・・ 
 それって・・みんな・・・
 君のせいだ。・・・・すべて君のせいだ・・
 君のせいで・・・ 僕はまるで可笑しくなってしまった・・・」

「私が・・いない方がいいってこと?」
彼女の声は怒ったように、少し震えていた。しかし僕はその声を無視して続けた。

「・・・君さえいなければ・・・こんな苦しい想いをせずに済んだんだ・・・
 人の気持ちなんて・・・僕には何ら関わり知らぬこと・・・
 ただ仕事のことだけを考えて・・・ただ・・上に上り詰めることだけを考えて・・・
 世の中なんて楽に渡れたはずだった・・・」

「じゃあ・・迎えに来なきゃよかったじゃない」 彼女が不満を露に目に力を入れた。

「君さえ現れなかったら・・・」 それまで正面を見据えていた僕は彼女に向き直って続けた。
「君からの電話を受けてから・・・さっき、空港で君を見つけるまで
 僕がどれほど心配したか・・・わかる?

 君が遠くへ行ってしまうと思って・・・狂いそうだった・・・
 本当に・・・死ぬかと想うくらい心臓が張り裂けそうだった・・・

 君が・・僕の前からいなくなることが・・どれほど僕を恐怖に陥れることになるのか・・・
 君はきっと・・想像もできないんだろうね?・・・」 

僕はそう言って、彼女の目を更に強く睨んだ。

「・・・・・・」

「どうするつもりだったんだ?」

「・・・・・・」

「もし・・・あのまま、韓国へ戻ってしまって・・僕に何も言わずに戻ってしまって・・
 ・・・あのまま・・・はぐれてしまってたら・・・僕は・・・
 どうやって・・・君を・・見つければ・・・」 

        フランクはそう言ったまま・・・

        深く澄んだ褐色の瞳の端から一筋の涙を落とした

「フランク・・・」

「・・・・・・」

「フランク・・・ごめんなさい・・・もう・・しないわ・・・もうこんなこと・・しない・・・」

        今 私の目の前で涙を流すこの愛しい人は・・・
        私の・・・私だけの・・・フランク・・・
        そうよね・・・

        あなたを信じて・・・いいのね?・・・

        私は彼の頬に掌を添えて・・・指でその涙を拭いた

        彼は私の手を自分の手で包みこむと

        涙を拭った私の指にそっとくちづけをくれた

「ごめんよ・・ごめん・・君の方が辛かったのに・・・
 君のこと・・ずっと・・・ごめん・・・」 
僕は自分が何を言いたいのかわからなかった。言いたいことが言葉に現せなかった。

                         

「ひとつだけ・・・聞いてもいい?フランク・・・」
「・・・・・・」

「彼女のこと・・・」  
「・・・・・・」          
「・・・・・・・私・・・あの人に会って・・・凄くショックだった・・・
 いいえ・・・あの人の存在がショックだったんじゃないの・・・

 でも私・・・あの人に初めて会ったあの日・・・
 あの人の目に・・・簡単に射抜かれたみたいで・・・
 まるで逃げるように部屋を駆け出した・・・

 あの人のあなたを想う気持ちがきっと・・私にそうさせたんだと思う・・・
 私は・・・あの時・・あの人に簡単に打ちのめされて・・
 降参したんだわ・・・きっと・・・」

「それで?」

「えっ?」

「それで・・・降参したまま・・・逃げようとしたの?」

「・・・・・・・そう・・・なのかな・・・」

「彼女は・・・ソフィアは・・・僕にとって大切な人だ・・・」

「・・・・・・・」
僕がそう言った時の彼女の目は今にも泣きそうな程だった。

「そんな顔しないで・・・ジニョン・・・
 ごめん・・・きっとこの想いはこれからも変わらない・・・

 今更この感情が・・男と女としてじゃない、と言ったら卑怯かもしれない・・・

 彼女が僕を深く愛してくれていることも・・・
 その彼女の想いを僕が断ち切れず悩んだことも・・・事実・・・
 僕は彼女にあらゆる意味で愛を求めていた・・・それも事実だ

 でも今・・・
 どんなに考えても・・・どんなに悩み抜いても・・・
 僕の中に息づいている女はたったひとりだった・・・

 ただひとりだけなんだ・・・僕が愛している女は。」

「・・・・・・・ただひとり?・・それは・・誰?」
彼女の涙が少しずつ渇き、僕へ向ける眼差しに、微かな余裕が見えた。
僕を信じる余裕が生まれていた。

「・・・・・・・教えない。」
僕は込み上げた涙をすすり上げて、タダひと言そう言った。

彼女は呆れたような笑顔で一度フロントガラスの方を向いて、再度僕に向き直り
小さく睨んだ。 「フランク・・・」

この時僕たちは、互いの瞳の中に映る自分の微笑みに満足していた。
だからこそ、優しく愛しさを込めて抱き合い、互いを慰めることができた。

「愛してると言って・・・」 ジニョンが大人びた口調でそう言った。

「愛してる・・・」 僕はそんな彼女に真摯に答えた。

「君だけだと・・・言って・・・」

「君だけだ・・・」      

     だったら・・・

     だったら・・・いいわ・・・あの人があなたの大切な人でも・・・  

     本当はね・・ちくりと胸が痛いけど・・・許してあげる・・・

「私も・・・」

「ん?」

「私も・・・愛してる人はひとりだけ・・・」

「・・・それは・・・誰?」

「・・・・・・教えない・・・」

「いいよ・・・教えてくれなくても・・・」

       彼はそう言いながら私の唇に静かにくちづけて

       私の言葉を心で聞いた

       静かに流れるこの時間(とき)を・・・

       ふたりだけで漂っていたかった・・・


       いつまでも漂っていたかった・・・


   君だけを・・・      あなただけを・・・


        ・・・愛してる・・・

 

 

あいつの前から彼女を連れ去ったことが何を意味するのか、これから僕は彼女の為に
何をしなければならないのか。

・・・ただ・・・
彼女を自分から切り離すことはもうできない。
    

彼女の話から、このまま彼女を僕のアパートに連れ帰ってもあいつに、簡単に
探し当てられてしまうだろう。

  今はまだ・・・僕には何も無い・・・

  何より韓国の彼女の身内に語れる歴史が無い・・・
  それはジニョンを愛する人達にとって、きっと重大なことだろう

僕は自分の断たれた歴史を一笑に付すような、名声と地位と財産を手に入れたいと
今まで以上にそう思った。


彼女との愛を成就するために成さなければならないことがある。今は、それだけが
僕の成すべきことだと、そう思っていた。

 

僕は取り敢えず、彼女をマサチューセッツの学校へ連れて行った。

夜遅く着いた時、校舎にはまばらに灯りが灯っているだけだった。僕は迷わず
自分の研究室に向かった。部屋に入ると、彼女は周囲を見回して言った。

「ここが・・・フランクがお勉強してるところ?」

「ああ・・・」

「ここ・・・さっき、門のところに、ハーバードって・・・
 もしかして・・・あの、ハーバード?・・・」

「あの?・・ハハ・・確かここは世界にひとつだと思うよ」

「・・・・・フランクって・・・凄い人なのね・・・」 彼女が頷きながら、感心して言った。

「ここでは変わり者で通ってるよ。・・・ね、疲れたでしょ?・・少し寝るといい・・・
 隣の部屋に仮眠用のベッドがあるから、使って?・・・」
僕はそのドアを目で示しながら、彼女に言った。

「でも・・・」 彼女が不安げに僕を見上げた。
「この部屋は僕の個室みたいなものなんだ。ベッドも僕の専用だよ・・・
 だから安心しておやすみ?・・・明日のことは、明日考えよう・・・」 
僕は彼女の不安を拭うように優しく言った。

「ええ・・・フランクは?」

「ん・・僕はちょっとやることがあるんだ」

「そう・・じゃあ、お先に・・・おやすみなさい」 彼女はやっとドアノブを握った。

「おやすみ・・・あ・・待って・・・」

「・・?」

僕は彼女の手首を掴むと、グイと抱き寄せて彼女の耳にくちづけながら囁いた。

「大丈夫・・・大丈夫だよ・・・君のことはきっと僕が・・守る・・・
 どんなことがあっても・・・離さない・・絶対に離さない・・いいね。」

「うん・・・」 彼女は僕の背中に回した腕に力を込めてただ頷いた。



『いったい!何を考えてるんだ!お前・・俺を殺す気か!』

レオの怒鳴り声が受話器を耳に当てるまでもなく響き渡った。

「すまない」 僕は素直に彼に謝るしか無かった。

『すまない?そんなことで済む仕事じゃないんだぞ!
 取り敢えず今回は俺の判断で切り抜けた・・しかし。
 お前・・本当に・やる気はあるんだろうな。』

僕をボス・・と呼ばないレオの言葉が怒りの程を現しているようだった。

「必ずやる。」 僕は何んとかそう答えた。

『・・・・・・明日、いや・・もう今日だな・・・
 会って話がしたい・・・それまでに資料の用意を・・・いいな。』

「あ・・・ああ」

この三日間、ろくに寝ていないことなど何の理由になろうか・・・
レオの怒りは当然のことで、僕は何ひとつ言い返す術を持たなかった。

『何だ?何か問題があるのか?』

「いや・・・何も無い。」


僕はレオとの会話を終えると直ちに、仕事に取り掛かった。
資料の分析に手間取って、やっと目処が付いた頃、気がつくともう朝日が昇っていた。

「フランク・・・」
一瞬睡魔が襲った時、隣の部屋のドアが開いて、ジニョンが不安げにこちらを見ていた。
「ん?・・・あ・・おはよう・・・起きたの?」

「寝なかったの?・・・」

「ん・・・」 僕は両目の間を指で摘んで、気休めに疲れを和らげた。

「大丈夫?」 彼女は心配そうに僕の顔を下から覗いていた。

「大丈夫・・・君のキスがあれば・・・」 僕は彼女を心配させまいと微笑んで見せた。

「フランク・・・フフ・・・じゃあ・・」
彼女はまるで女神のように微笑んで僕の頬を啄ばむようなキスをした。

「コーヒー・・・それ?」
「ああ」
それから、僕の部屋と同じコーヒーセットが置かれているのを見つけた彼女は、
慣れた手つきでコーヒー豆を挽いた。
僕はそれを彼女に任せて、資料の最終仕上げを急いだ。

 

「フランク?・・・」

研究室のドアをノックもせずに開け、僕の名を呼びながらソフィアが入って来た。

その瞬間、ジニョンは思わず隣の仮眠室へと走り去った。

逃げるな!」 僕は彼女に向かって叫んだ。「・・ジニョン・・出て来い。」 

ジニョンはゆっくりとドアを開けて、僕とソフィアの前に立った。


ソフィアは僕たち二人を交互に見て一度目を閉じた後、ひとつため息をついて僕に顔を上げた。

「昨晩・・何度もレオ弁護士から連絡があったわ。
 あなたの所在を知らないだろうかと・・・
 ・・・知らないと答えた・・・本当のことだったから ・・・
 でも朝方になって、どうしても気になって、ここへ来てみたの・・・
 そしたら明かりが・・・いったいこれは・・・どういうこと?」 
ソフィアは冷静な口調でそう聞いた。

「彼女を連れて・・逃げて来た」 僕は結果だけを率直に言った。

「逃げて?・・・」

「理由は言わないよ・・・でも・・・
 今、彼女をひとりにするわけにはいかない。」

「ハッ・・・それで?フランク・・ここは学校よ
 しかもこの棟は部外者立ち入り禁止。・・あなたはここの責任者でもあるわ
 そのあなたがあろうことか・・・」

ソフィアが呆れたようにため息をついて、僕ではなく、ジニョンに視線を向けた。

「住む場所を用意するまで・・・見逃して・・・」 僕はソフィアにそう言うしかなかった。

「あなた・・・大詰めを迎えた仕事があるんじゃないの?」 

その通りだった。正直僕は今、或る取引において窮地に立っている。

「ああ・・これから・・NYに帰る。レオと会わなけりゃならない」

「・・・彼女は?」

「一緒に・・・」

「あ・・フランク・・私は・・・何処か小さなホテルに
 あなたのお仕事の邪魔したくない」 ジニョンが口を挟んでそう言った。

「いや・・・一緒に連れて行く。」 僕は彼女に強く言った。

「だって・・」 ジニョンは困惑したように口ごもった。

「・・・・・・私が・・・預かるわ・・・」 その時ソフィアが言葉を挟んだ。

「・・・・・!」

ソフィアの突然の言葉に僕もジニョンも驚きを隠せず、彼女を振り返った。

「あなたの仕事が落ち着くまで・・・彼女を私が預かる・・・
 今、取り掛かってる仕事・・・不意にしたら、今までのあなたの苦労が無駄になる・・・
 そうでしょ?違う?」

「だけど・・・せっかくだけど、それはできない。」≪そんなこと・・できるはずがない≫

しかし、ソフィアは少しも引かなかった。そして彼女は僕にではなくジニョンに聞いた。

「あなたはどう?フランクはあなたをひとりにしたら誰かに連れて行かれる・・・
 きっと、そう思って恐れてるみたいね・・・理由はわからないけど・・
 でも、彼の仕事に、間違いなくあなたは邪魔になるわ・・・
 それでも・・・彼に付いていく?」 ソフィアはジニョンを真直ぐに見据えてそう言った。

「・・・・・・・いいえ。」 ジニョンはソフィアを前に姿勢を正した。

「じゃあ・・・どうするの?」

「・・・・・・・ここに・・残ります。あなたと。」 

「そう・・・なら、話が早いわ・・・フランク・・・
 そういうことだから・・・」 ソフィアは僕に振り向いてそう言った。

「ソフィア・・・どういうつもり?」 僕はソフィアの真意がわからなかった。

「どういう?・・・私が彼女を・・・どうにかするとでも?」 彼女が小さく笑って見せた。

「そんなこと思ってない。」

「なら・・任せなさい。」

「フランク・・・私は大丈夫・・・お仕事行って来て・・・
 お願い。・・・これ以上あなたの邪魔をしたくない」

必死に懇願するジニョンの目を見ていると、僕は仕方なく頷くしかなかった。


確かに、NYに連れ帰っても、仕事の間、結局は彼女をひとりにしてしまう。

まだ、彼女をNYから遠ざけていた方が安心はできた。

「・・・ソフィア・・こんなこと・・あなたに頼めた義理じゃないのはわかってる・・
 でも僕は・・・彼女をもう・・・失えない・・・」 
僕のその言葉はどれほどソフィアを傷つけていただろう。
しかし今の僕には、そんなことを考える余力など残されていなかった。

「いいから・・・早く、行きなさい。」 ソフィアは僕を真直ぐに見てそう言った。

結局僕はジニョンをソフィアの元に残してレオの待つNYへと急いだ。

 

ソフィアさんはフランクを見送った後、しばらくドアを見つめ小さくため息をついた。
そしてゆっくりと私に振り返った。

「・・・・さて・・・自己紹介がまだだったわね・・・ソフィア・ドイルよ
 多くは語らなくても・・・いいわね・・・」

そう言いながら彼女は白くて細い手を、私にそっと差し出した。

「ソ・ジニョンと申します」

「知ってるわ・・・この前あなたが自己紹介したじゃない?
 フランクの生徒だって・・」 彼女はそう言って笑った。

私は罰が悪くなって、苦笑いして俯いた。

「私が少し校内の用事を済ませる間・・・ここに・・・あ・・
 いいえ・・・私に付いて来る?」

「あ、はい。」

ソフィア・ドイル・・・

私はこうして彼女と初めて、真直ぐに対面した。

   理知的で・・・

   何もかもに隙がない・・・

私は彼女が校内の用事を片付けて歩く間、彼女の後を黙って付いて歩いた。

   斜め後ろから覗く彼女の凛としたうなじが私に、

   小さく・・ため息をつかせた


   フランクを・・・心から愛している・・・


         美しい人・・・

 

   でも・・・

      私もあなたに負けないほど・・・フランクを・・・


        ・・・愛しているんです・・・





 


2010/04/02 08:52
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-17.迷い…そして…

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  何を言えばいいのかわからなかったのは・・・僕の方・・・

  ソフィア・・・今ならよくわかる
  あなたが僕の孤独をいつの日もその手に抱いていてくれたことを・・・

  それなのに結局僕は、あなたに何も与えては来なかった
  ただあなたの優しさに甘えていただけだった

  僕にはあなたを包み込む度量など無かったんだ・・・


  肉親の愛の欠片も知らない寂しさから・・・

  いつの間にか慰めのすべてを・・・

  あなたに求めていたのかも知れない・・・

  
ソフィアが部屋を出て行ってからというもの、僕の心はぽっかりと穴が空いたようだった。

きっと泣きながら僕を待っているだろうジニョンのことさえ、考えてやれないほどだった。

無気力にベッドに寝転んで、僕は眠ることも食べることもできず、ひとりただそこにいた。
暗い空虚の中にありながら、天窓から見える上空の微かに移り行く時間(とき)の神秘を
ただ無心に見送っていた。

  僕はこんなにも弱い人間だったんだろうか・・・


ジニョンと出逢い、彼女との愛に目覚めたことが僕のすべてを変えた。
今まで気にも留めなかったものが激しく、僕を責め立てた。
そしてジニョンとの愛と引き換えにまるで、身にまとった鎧をすべて剥ぎ取られた
戦士のように深い手傷を負ってしまった。


  ソフィア・・・僕は本当に・・・

  あなたに何を言えばいい?・・・


時間(とき)はスカイブルーからグレイを帯びたオレンジへ、そしてまた・・・
ラピスラズリの世界へと移りゆく・・・まるで・・・

僕だけがこの世界に静止して宙に浮いたまま・・・
あらゆるものが僕の周りを無意味に回っているかのようだった。

 

気が付くと、二回目の朝を迎えていたことを時計の表示が教えた。

僕はベッドから這い出てやっと顔を洗った。鏡に映る無精ひげが情けなく僕を笑う。

冷たい水のシャワーは僕の弱さに鞭を打ち、体に流し込んだミネラルウォーターは
“それでも生きている”と僕を慰めた。

この二日間、枕元で幾度となく聞こえていた電話の着信記録はすべてレオのものだった。


  “なんてざまだ、フランク・シン”・・・

  レオの呆れた声が聞こえるようだ・・・


結局僕は彼のコールを無視して部屋を出ると宛てもなく外を歩いた。

無意識の内に僕が辿り着いた場所は数日前ジニョンと二人で見つけた小さな公園だった。

僕はベンチに座って目の前の噴水をただ無気力に眺めていた。

何気に横を向くと、いるはずのないジニョンが僕の隣で微笑んでいた。
それを幻覚だと理解するのに少しの時間が必要だった。

それでも、その幻影ですらジニョンという女は、しぼんでしまった僕の心を
再生へと導こうとする。僕は戸惑いながら幻とわかった彼女に笑顔を返した。


  ジニョン・・・

  君の力って・・・凄いんだね・・・

彼女とここへ訪れたのはいつだっただろうか。
あの時もそうだった。この噴水を前に、僕達はこうして座っていた。

『こんな時間に・・・こんなとこ来たの初めてだ・・・』

『そうなの?』

『昼も・夜も・・・部屋で過ごすことが多いから』

『そうなんだ・・・』

『昼間の・・・太陽の光に反射してる噴水って・・・・
 まぶしいくらいに・・・綺麗なんだな・・・』

『フフッ』

『何が可笑しい?』

『いいえ・・・フランクが言うと・・・もの凄く綺麗に感じて・・・
 不思議だなあ、と思って・・・でも・・・』

『でも?・・・』

『綺麗に見えるのはきっと・・・私といて幸せだからよ』

『そうだな・・・』

『えっ?』

『ん?』

『やだ・・フランク・・・どうしたの?すっごく素直・・・調子狂っちゃうわ』

『ハハ・・・君が言ったんだ・・・素直になれって』

あの日の君とのやりとりが僕の微かな笑みを呼び起こした。

  本当にそうなんだ・・・ジニョン・・・

  君の存在が・・・すべてのものを愛しくさせる・・・

 


 

「ジニョン・・・出発までもう少しある・・・飲むか?」

ジョルジュが缶コーヒーを差し出しながら私の手荷物に手をかけた。

「・・・・いらない・・・」

私は彼の手を跳ね除けて拒絶の姿勢を貫いた。


「まだ怒ってるのか?勝手にチケット用意してたこと・・・」

「・・・・・・・」

「おじさんとも話しただろ?とりあえず帰る・・
 それで、今後のことを話し合おうって・・・
 それを納得したんじゃないのか?」

「納得したわけじゃないわ・・・でも・・・」

「でも・・何だ・・・」

「もういいわ・・・ひとりにして・・・」

「好きにしろ」

私はジョルジュから少しだけ離れた待合室の椅子に腰掛けた。


父たちの強引なやり方を納得したわけじゃない。父はジョルジュが帰国するなら、
ひとりでアメリカに置く訳にはいかない・・・そう言っていた。
私は幼い頃から父の意見は絶対だと思っていた。

『電話で話したところで埒は明かない・・・とにかく一度帰ってきなさい』
それが父の結論だった。

一度ちゃんと話をして、その上でもう一度フランクのところへ帰って来よう、そう思った。
・・・でも・・・

本当にそれでいいんだろうか・・・私はひとり心の中で繰り返し問うていた。

  このまま、フランクに逢わないで帰ってしまって、
  もしも、二度と戻って来ることができなかったら?・・・

怖かった。
このまま、フランクに逢えなくなるような、そう思うとからだが震えてしかたなかった。

本当は自分の置かれた状況をフランクに知らせたかった。

聞いて欲しかった・・・でも・・・

あの日の・・フランクとあの人のことに拘って、彼の部屋に行く勇気が持てなかった。

フランクからも連絡が無くて・・・
もしかして・・・あの人と・・・そう思っただけで心が壊れそうだった。
   
フランク・・・

私は・・・今・・・間違ったことをしている?           

 


ふと気が付くとポケットの携帯が震えていた。
レオに連絡することを忘れていたことを思い出して、ポケットから携帯を取り出し着信を確認した。

  !ジニョンだった・・・

 

「ジニョン?」

「フランク・・・」

「ジニョン!今どこから?直ぐに逢いたい」 僕は早口にそう言った。

「空港・・なの・・韓国へ・・・帰るの・・」 

「韓国?・・何言ってる!意味が・・」

言葉が途切れ途切れのうえに小声のジニョンが何を言っているのか要領を得なかった。

それでも、今彼女がいるところが空港で、これから韓国へと向かおうとしていることが
電話の奥から流れるアナウンスや騒音で知ることができた。

瞬時に僕の心臓が音を立てて騒ぎ出した。

「今、そっちへ行く!ジニョン!行くな・・
 何処にも行くんじゃない!いいね!」

僕は急いでアパートにとって帰り車を出した。


  韓国へ帰る?そう言ったのか・・ジニョン・・


僕はまだ事の次第を飲み込めていなかった。ただそれでも本能の察っする危惧が
僕を突き動かしていた。

何が何だかわからず、頭の中が真っ白になりそうな状態を何とか、運転に集中できるように
コントロールしてアクセルを吹かせた。


  ジニョン!・・・どうか・・・そこにいて・・・

 



「ジニョン・・・そろそろだ・・・」

「・・・・・・」

「ジニョン・・・?」

「わかってるわ!」

私は出発時間が近づくに連れて動悸が激しくなる自分の胸を落ち着かせようとしていた。

  わかってる・・・

  父の言うことは・・・絶対・・・

  それでも・・・話せばきっとわかってくれる・・・

  こうすることが正解・・・

   
  でも・・フランク・・・


   


空港に着くなり、僕は急いで韓国便のゲートに向かった。
混雑するフロアを焦りの色を隠せないまま、懸命に走っていた。

しかしその時既に、空港の電光掲示板が無情にもソウル行き最終便の離陸の完了を
表示していた。

心臓の動悸が音を立て波打ち、僕の周りから一瞬にしてすべてのものが消え失せ
目の前がまた白い闇と化した。


  何故だ・・・

  何故だ!ジニョン!  ジニョン!

 

「ジニョン?・・・ジニョン・・・ジニョン・・・

 ジニョン!・・ジニョン!・・ジニョン!」

僕はそれでも諦め切れなくて、彼女の名前を叫び続けた。


 ジニョン! 


  そんなはずはない・・・・

  そんなはず・・・ない

  君が・・・僕を置いて行くはずがない・・・

 


《・・・ンク・・・フランク・・・》 絶望の中に・・・声が聞こえた・・・

それまで真っ白と化していた僕の周りが一瞬にして光の色を帯びた。
その希望の声を僕は背後に聞いて振り向きざま走り出した。


ジニョン?


「ジニョン!」 確かに聞こえた。


《フランク!》 聞き違いではない・・・確かに・・・聞こえた!


  ジニョン!何処だ!


その瞬間、ひしめく雑踏の中から羽をつけた天使が突然閃光を放ったように現れた。
僕を目掛けて走って来る天使の、涙交じりの笑顔が僕に次第に近くなった。


「 ジニョン! 」

「 フランク! 」

そしてその天使が僕の腕に勢い飛び込み、羽を閉じた。
僕は彼女を力強く抱きしめた。壊れそうなほどに抱きしめた。


「声が聞こえたの・・・あなたの声が・・・聞こえたの・・・
 だから・・・走ったの・・・あなたの声がする方に・・・走ったの・・」

「ジニョン・・・ジニョン・・・ジニョン・・・あぁ・・・」 
止めどなく零れ落ちる僕の涙が彼女の髪を濡らしていた。「心臓が・・止まるかと思った・・」

「フランク・・・」

「いったい・・何の悪ふざけ?」 
僕は彼女の髪に強く挿し込んだ自分の指がひどく震えているのがわかった。

「フランク・・・」

彼女はまだ僕の名前を口にするのが精一杯な様子で、声をあげて泣きながら
僕にしがみついていた。

僕は少しだけ心を落ち着けて、彼女の頭を自分の肩から離すと目の前の彼女を
確かめるかのように、彼女の顔中、少しの隙間の無いほどにキスを繰り返した。

そして最後に、まだ嗚咽が止まらない彼女の唇を奪うように塞いだ。
彼女のしょっぱい涙が無性に・・・愛しかった。


  僕は・・・

  何を・・・迷っていたんだ・・・

  こんなにも・・・愛してる・・・震えるほどに愛してる・・・

  心臓が止まりそうなほどに愛してる・・・

  ジニョン・・・

「許さない・・・僕を置き去りにするのは・・・許さない・・・ジニョン・・・」

 

 

「 ジニョン! 」

ジニョンの肩越しに息を切らしたあいつが見えた。ジニョンの肩がその声に一瞬ピクリと動いた。
しかし彼女は僕に顔を埋めたまま離れなかった。


『こんなことして・・・許されると思ってるのか』

『オッパ・・・私は・・・帰らない・・・』

彼らの間でハングルの言葉が交わされていた。


『そんなこと!許されるはず無い!』

『許されなくても!構わない!』 

ジニョンはやっと勢いをつけたように彼に振り返った。


『何処へ逃げても無駄だ・・ジニョン!俺は必ず、連れて帰る!必ず!
 ジニョン!こっちへ来い!来るんだ!』  

あいつの叫びのような言葉にジニョンはまた僕の肩に顔を伏せて、頭を大きく左右に振った。

あいつは一向に僕と視線を交えようとはしなかった。


『もうよせ・・・彼女は帰らないと言ってる・・』 僕は彼らを前に初めてハングルを使った。

その時、あいつがわざと合わせていなかった視線を鋭い眼光に変えて僕に放った。

『うるさい!・・・お前が口を挟むな!』

あいつは敵意をむき出しにして僕へと踏み出した。


そして彼が、ジニョンの手を掴もうと手を伸ばした瞬間、無意識に僕は
彼の顎を目掛けて拳を振るっていた。

彼は僕たちの目の前でもろくもその場に崩れ落ちた。


『 ジニョン!来い! 』 


そう言うなり僕は彼女の手を掴んだ。一瞬、彼を心配げに顧みたジニョンが

次の瞬間、意を決したように僕の手を強く・・・

 

   ・・・握り返した・・・ 


 


 

   


 


2010/03/31 08:40
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-16.存在の理由

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寮の前でジョルジュが待っていた。

「オッパ・・・」

数日前の気まずさが二人の互いへのまなざしに残っていた。

「どうした?・・・眼が赤いぞ・・」

「・・・・・・」

「あいつと何か・・あったのか・・・」

「何でも無いわ・・・何でも・・・無い・・・」

私は思わず目を伏せてジョルジュの疑いの視線を避けた。

「ジニョン・・・お前・・・相変わらず嘘が下手だな」
彼は溜息をひとつ吐き出すようにして言った。

「・・・・・・」

「お前は世の中のこと何にもわかっちゃない・・・ほんとに・・・ガキだ」

「・・・三つしか違わないくせに・・・」

二人の間に少しばかりの笑みがこぼれた。

「ジニョン・・・話がある・・・」
彼は少しだけ私の先を歩いて直ぐに立ち止まった。

「・・・?」
「・・・帰らないか・・・・国へ・・・」

私に振り向いて言ったジョルジュの突然の言葉に私は驚き、声を詰まらせた。

「・・・・・・」

「おじさんが心配してる・・・学校は辞めさせる・・・そう言ってた・・・」

「どうして?・・・そんな急に・・・いつ・・そんなこと・・・
 私は聞いてない・・・それにまだ学校始まったばかりだわ」

「昨日、おじさんと話した・・・
 学校は韓国で行けばいい・・・俺も・・・家に戻ることにした」

「・・・・・・父に・・・話したのね・・・彼のこと・・・」

「おじさんは俺たちの結婚を望んでる・・・」

「・・・・・オッパ!ごまかさないで。」

「少し早いけど、進めてもらうよう話した・・・わかってるな?
 おじさんの意見は絶対だ!」

「どうして?」

「どうして?・・・決まってるだろ!お前を愛してるからだ・・・
 それに・・・いつかはそうなることだった・・・」

ジョルジュは強い決意をみなぎらせて私の目をしっかりと見つめて言った。

「私の気持ち知ってるのに?ジョルジュ・・知ってるのに・・・どうしてこんなことを?」

「関係ない!」

「関係ない?それが一番大事なことだとは思ってくれないの?」

「・・・言ったはずだ・・・俺は・・・
 お前を取り戻すためなら、どんなことでもする!」

「そんなの・・卑怯よ!」

「何とでも言え!」

「私は・・・帰らないわ。」

「俺がお前を連れて帰らなければ、おじさんが連れに来る」

「・・・・・・」

「そんな目で見るな。・・・・卑怯だと思うならそれでもいい
 だが・・・何としてもお前をあいつに渡すわけにはいかない

 ああ、そうだ。おじさんに・・お前が!男にだまされてる・・・そう言った。        
 親父に泣きを入れて頭を下げた。
 家に戻らせて欲しい・・・そう・・・言った。
 それがお前との結婚の早道・・・そう思ったからだ。
        
 恨むのなら恨め!お前を取り戻すためなら・・・
 今まで親父に楯突いた男のプライドなんていくらでも捨ててやる。
 俺は絶対に後悔しない・・・」

「ジョルジュ!どうかしてる!」

「 ああ!どうかしてる!だがそれはお前もだ!
 あいつのことは忘れろ!あいつはお前には相応しくない!」

「どうして、そんなことわかるの?勝手なこと言わないで!」

「あいつにそうやって泣かされてもか!・・・
 俺はお前を絶対に泣かせたりはしない・・・な!帰ろう・・・」

「いや!帰らない!」

「おやじさんの援助なしでどうやってアメリカで暮らす?」

「オッパ・・・ひどい・・・」

「お前は!・・・俺と韓国へ戻る!・・・それが結論だ!」

幼い頃から今まで私に対して、決して自我を出すことなく受け入れる優しさだけを
見せてくれていたジョルジュがフランクと対峙して変貌したように思えた。

「・・・・・・」

私の言葉など聞き入れない、彼はそう決意したかのように、厳しいまなざしを決して
私から逸らさなかった。

 

ソフィアは窓辺に寄りかかって静かに外を眺めていた。
彼女との心の距離を保ったまま、僕はベッドに腰掛けて自分の足先だけを見つめていた。

次第にその距離と静かな沈黙の時間がソフィアと僕に冷静を取り戻させていった。

もっと早くに彼女と話をしなければならなかった。
そう思いながら僕もまた彼女から逃げていたのかもしれない。

先に口を開いたのは僕だった。僕はそのままの姿勢で言葉だけを彼女に向けた。

「何を考えてる?・・・」

「・・・あなたは?・・・」

「・・・思い出してた・・・」

「・・・何を?・・・」

「四年前のこと・・・」

「・・・・・・」

「覚えてる?・・・」

「・・・・・・」

「四年前のあの日・・・僕がまだ18の時だ・・・
 バイト先で強盗に出くわした日・・・」

「ええ・・覚えてるわ・・・あの頃私たちは近くでバイトしていて
 よく一緒に帰ってた・・・あの日先に仕事が終えた私は・・・
 いつものようにあなたを迎えに行った・・・

 そのとき、周りの物々しさに驚いて慌ててあなたを探したわ・・・
 すると目の前に現れたのは・・・
 あろうことか・・自分の頭に銃を突きつけて
 今にも引き金を引きそうな勢いのあなただった・・・」

「・・・・・あの時・・・あなたが現れなかったら・・・
 本当に引いてたよ・・・きっと・・・」

そう言いながら僕は両手を枕にしてベッドに寝転がると上空を仰いだ。
        
「・・・・・・」

「昔・・・あなたに話したことあったっけ?・・・僕の身の上話・・・」

「いいえ・・・一度も・・・」

「そうだった?・・・・あなたはとっくに知ってるみたいだったけど」

「・・・・あなたを羨む輩から・・・あることないこと・・・声が聞こえてたわ」

「あることないこと?・・・噂はほとんど事実だったよ・・・」

「だからって・・・あなたが恥じることは何もない」

「そうかな・・・大きな弱みだと思うけど・・・」

「弱み?」

「ああ・・・僕の最大の弱み・・・
 10歳で親に見捨てられて・・・何もわからないままこの遠い国に連れてこられた・・・

 その頃の僕の気持ちをどう表現していいかわからない・・・
 突然・・・僕の周りの人間が・・・話す言葉すら違うんだ・・・

 結局養父母にもその生活にも馴染むことができなかった・・・
 とにかく・・・その家を出たかった・・・
 早くから全寮制の学校を望んだのも・・・そのためだ・・・

 最初はね・・・ひとりで十分生きられる・・・そう思ったんだ・・・
 誰に気兼ねすることもなく・・自分の思うように生きる・・・
 その方が僕の性に合ってる・・・そう思ってた・・・

 無心になって勉強したのも、コンプレックスの裏返し
 どんな些細なことにも、誰にも負けない・・・
 そう自分に言い聞かせて生きてた

 辛いことが遭った時はいいんだ・・・
 それは自分ひとりで十分解決できた・・・

 でも・・・嬉しいことが遭った時・・・
 喜びを誰かに伝えたい・・・そう思った時・・・
 本当にひとりきりなんだと思い知らされる・・・」


「不思議ね・・・どれだけの人間があなたを羨んだかしれないのに・・・」


「フッ・・・確かに・・・学校では誰もが僕に注目してた・・・
 最年少で奨学金を得られるほどの抜きん出た成績・・・
 大学はハーバードへ・・・
 何人もの教授が僕の未来に期待し、褒め称えた・・・
 褒められて・・・凄く心が弾んで寮に帰る・・・
 でも、その弾んだ心が次第にしぼんでいくんだ・・・

 何処を振り向いても喜んでくれる人が誰もいない・・・
 電話で知らせる親も・・兄弟もいない・・・

 気がつくと・・・鏡の中の自分に向かって話してた・・・

 それがね・・・笑えるんだ・・・
 自分に向かって、楽しげに話しかける
 それなのに・・・次第に・・・
 目の前の僕の顔が歪んでいく・・・それで初めて・・・
 泣いている自分に気がついた・・・

 今なら・・・そんなことどうってこと無い・・・
 でも子供だったんだ・・・あの頃・・・たかがそんなことで
 簡単に心がしょげ返ってた・・・

 いつの間にか・・・僕は・・・
 嬉しいことを嬉しいと感じなくなってた・・・

 物事を全て冷めた目で見るようになって・・・
 人との交わりもわずらわしく思うようになった

 何もかもが嫌になってた・・・

 僕は何のためにこの世に生まれたんだろう・・・
 自問自答しても・・・答えがみつからない・・・

 生きていることさえ面倒になってた・・・
 それでも毎日・・・食べて・・寝て・・息をしている・・・
 そんな自分が嫌だった・・・

 そんな時だった・・・あの男と出くわしたのは・・・

 銃を突きつけられて・・・最初は責任感から・・金を奪われまいとした・・・
 僕はレジを開けようとせず彼を逆上させていた
 僕のこめかみに冷たい銃口が当てられたとき・・・
 思わず“殺してくれ”そう口に出してた・・・打って変わって
 僕の狂喜した様子に、強盗の方がひるんでしまってた・・・

 “お願いだ・・死にたいんだ・・殺してくれ・・・
  どうした!殺せないのか!お前が殺せないなら!”

 僕は護身用に店長がしまってあった銃を取り出して
 自分の頭に突きつけた・・・

 あの時は・・・
 あの男より僕の方が狂ってた・・・」

「・・・・・・」

「引き金を引く寸前だった・・・あなたが群集から飛び出してきて
 僕に向かって大声で怒鳴った・・・

 “フランク!・・・ひとりで逝くのは許さない!・・・
  あなたは・・・ひとりじゃないのよ!・・・”

 僕はあなたの行動に驚いた・・・

 何をやってるんだ!銃を持ってる奴がそこにいるんだぞ!
 その男に背を向けて、僕の前に立ちはだかったあなたが
 逆に気になって・・・僕は引き金を引くのを・・忘れた・・・

 幸いに男はもう犯行を続ける気力を失いかけていて・・・
 あなたに危害を加えることはしなかった・・・
 警官が男を取り押さえている間・・・そんな外野をよそに
 あなたは僕をずっと睨んでた・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・あの時・・・周りのものは何も見えなかったわ・・・
 あなたの目が本気だと思った。・・・前から不安に感じていたの・・
 もしかしてあなたは、生きることに疲れていると・・・
 そのことが目の前で起きている・・・それしか見えなかった・・・」
   
「無鉄砲なんだよ・・・はらはらした」 僕はやっと彼女に視線を向けた。

「あなたに言われたくないわ」

彼女もまた、僕の方に向き直って微かに笑った。

「それに凶暴」

「誰が?」

「僕を叩いた」

「叩いた?・・・」

「思い切りね・・・痛かった・・・本当に痛かった・・・」

「それは忘れたわ」

「そのあと、僕を抱きしめてくれたことも?」

「・・・・・・」

「あなたは“バカ・・バカ・・”僕に向かって繰り返し言ってた
 僕はあなたの腕の中で思い切り泣いた・・・
 本当は怖かったのに・・・きっと逆上していた・・・
 僕が人前で声を上げて泣いたのはあの時が初めてで・・最後だ・・・

 それまでも・・・僕に嬉しいことが遭ったとき・・・
 あなたが心から喜んでくれていたことに
 その時、初めて気がついた・・・」

「・・・・・・」

「僕はいつの頃からか・・・あなたがくれるものを
 当たり前のように受け取っていたんだね・・・」

「・・・・・・」

「あなたが僕にとって・・特別な存在だった理由を・・・
 忘れていた・・・」

ソフィアは一旦窓の外へ視線を戻して遠くを見つめていた。
そしてまた彼女が視線を自分の足元に移して、小さく溜息をつきながらポツリと言った。

「特別な存在・・・それには理由が必要なの?」

「・・・・・・」

「彼女は・・・」

「・・・・・・」

「彼女はどうやって、あなたのあの笑顔を引き出せたのかしら・・・」

ソフィアはまた遠くに視線を移しながらそう言った。

「・・・・・・」

「さっき・・・私を彼女と間違えて振り向いたあなたの笑顔・・・
 ちょっとショックだったわ・・・
 今まで一度も見たことない・・・柔らかい・・優しい顔・・・
 そんな風に・・・彼女を・・見るのね・・・」

彼女は今度はそう言いながら僕に振り返り寂しそうに微笑んだ。
        
「ソフィア・・僕は・・・」

「フランク・・・帰るわ・・・何だか、凄く疲れた・・・」

「ソフィア・・・」

「お願い・・・今はまだ・・・何も言わないで・・・
 私は今・・・何も答えられない・・・」 

「・・・・・・・」


         何も言わないで・・・

   あなたはそう言った・・・

         今はまだ何も答えられない・・・

   あなたがそう言った・・・


   でも・・・


   何を言えばいいのかわからなかったのは・・・


             

      ・・・僕の方なんだ・・・

    


    


         


       

 


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