2008/06/07 01:52
テーマ:仕事 カテゴリ:趣味・特技(その他)

立葵

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先日、大学生と話をする機会がありました。その時、このような質問を受けました。

「意識がなくてしゃべれない患者さんが多いですが、やりがいはありますか?」

私はびっくりしたと同時に、少しムッとしてしまいました。何故かというと、この質問には“やりがい”は相手からの言葉によって得られるものであるというのが前提になっていると思ったからです。何らかの言葉がもらえないとやりがいはおきないのでしょうか。

もちろん“やりがい”が言葉によってもたらされることは多いと思います。やりがいをもたらすのだから、その言葉は自分の行為を肯定してくれる言葉でしょう。それは“認められているのだ”と思える気持ちを沸かせ、承認欲求を満たしてくれるでしょう。

自分は世に認められていると思える手応えほど嬉しい喜びはない。ここまできたのだからさらにもっと励まなければと奮いたつ。【谷沢永一 著『人間通』より】

谷沢氏の言うように、認められた人はもっとがんばろうという気持ちになります。それが“やりがい”ということでしょう。ですから、肯定された言葉をもらえるというのは“やりがいがある”仕事と言うことはできます。

しかし、私たちの仕事は必ずしも感謝や肯定した言葉がもらえるわけではありません。言葉を期待するというのは、自分たちの仕事の評価を他人にしてもらうことのように思います。自分の仕事の評価は自分で確認できなければプロと言えないのではないでしょうか。もちろん、評価は良かったか悪かったかという両極のどちらかに決めることでもありません。また、責任をもつのは仕事をやったかどうかということではなく、それによってもたらされた結果なんだと思います。   

    

私の職場の患者は少しのことでも命の危機を招いてしまいそうな重症な方たちばかりです。病気と治療によって身体が辛い状態にあるので、それを認識しないように意識を抑える薬剤を使うこともあります。 そのような方とは会話でコミュニケーションをとることができません。それで上記のような質問が出るのだと思います。

 

私たちの仕事は患者の心身に影響を与える環境をつくることです。それは、身体が回復する自然の法則に適うような影響であるべきだと私は思っています。目標には受けた傷害による障害をできるだけ小さくすることもあります。仕事の結果は患者を観察してわかることで、小さな変化でも捉えるようにします。私たちの行為だけで患者は変化するのではありませんが、意図とした変化が認められれば嬉しくなり、思うようにいかなければ落込みます。また、結果はすぐに表面化するとは限りません。毎日コツコツと同じことを繰り返すことが必要で、以外と地味な仕事だと私は思っています。

 

苦しい状態の患者は自分に精一杯です。いつもこの状態から逃げ出したいと思っています。意識がしっかりしている患者はいらいらしたり、落込んだりします。心の平衡が保てなくなって、一時的に意識が混乱し、幻覚が見えたり、場所がわからなくなったり、危険な行動が出てしまう場合もあります。そんな余裕のない患者は私たちの言動を受け入れるなんてできないでしょう。そのため、患者から私たちは自分を肯定する言葉をもらうことはありません。

でもそれは、私たち側にも言えることなのです。「今は起きられない」「水は飲めない」など患者がしたいということを“ダメ”という言葉で返さなければならないからです。患者の味方になりたいと思うのですが、できずに敵のようになってしまい、苦しいです。

昨夜もこんなことがありました。太い動脈に治療のためのカテーテルが挿入されていて、体を起こすことが制限されている患者です。

「向こうへ行ってくれ!うるさい!なんでこんなものつけなくてはならないんだ!」

カテーテルを取り外して、座ることを手伝うことができたらなんと楽でしょう。私たちの気持ちは軽くなります。でも、身体のことを考えたら辛い方を選択するしかありません。

私たちの仕事は患者の人生に巻き込まれることなんだなあと最近感じます。苦しい体験をしているその方の感情に自分の感情を使ってぶつかっていくからです。勤務が終了すると、肉体的な疲労とともに気持ちの疲れを感じることがあります。それは薬剤の投与や機器のアラームの音に緊張しつつ、患者と緊張した人間通しの付き合いをしているからかもしれません。

 

私は大学生の質問にこのように答えました。

言葉をもらえることはやりがいに直接結びつくかもしれないが、私たちの行為が患者に影響を与え、回復している反応が少しでも感じられたら、それもやりがいになります。それだけ患者の変化に敏感になることが必要ですけど・・・。

 

これまで私は自分の仕事についてブログに記してきませんでした。しかし、サッカーの中田英寿氏の番組『僕がみた地球』を見て、仕事を通じた自分の体験を他に伝えていくことも私の役割りとして大切なのかもしれないと思ったのです。あの番組に出演した過酷な状況で必死で生きている世界中の人たち、ギリギリの状態でがんばっているという意味では、私の毎日看ている方たちも同じだなと思ったのです。

 

写真は今盛りのタチアオイです。学名をAlthaea rosesというそうです。“アルテア”とはギリシャ語で「治療する」という意味とか。薬になるバラってことですかね。もちろんバラの仲間ではありません。

透き通った花弁と1年草なのに2mくらいにもなるその勢いに感動しています。青空に白色の花がなんともステキでした~。


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