2010/03/22 17:49
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-12.君より大切なもの

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「結局・・・こんなとこ?」 僕は不平を込めて言った。

「だって・・・もったいないもの・・・」

彼女に促がされて入った店はアパート近くのハンバーガーショップだった。

「もったいないってこと無いだろ?・・・初めてのデートなのに」

「えっ?・・やっぱり・・デートなのね!」 彼女の目が嬉々と輝いたのを僕は無視して
ぶつくさ言いながら、カウンターの向こうの店員にバーガーとコーヒーをふたつずつ注文した。
「ポテトも」 彼女が隣で言うと、「ひとつ・・後は?」定員と彼女を交互に見て僕が言った。 
「後はいい」 彼女は満足、というように満面に微笑んだ。

「こんなんじゃ、サンドウィッチと変わりやしない」
僕は注文したバーガーを窓際のふたり掛けの席のテーブルに置きながら
まだぶつぶつ文句を言っていた。

「でもいいわ・・・ここで十分」

彼女は本当に満足そうに頷いて、ハンバーガーを口いっぱいに頬張った。
僕はそんな彼女の食べっぷりを呆れたように見つめていた。

「フランク・・・そんな無愛想な顔しないで、もっと笑って?」

「必要も無いのに笑えない」

「笑うのって、必要があるからじゃないわ・・・
 心が幸せって感じたら、自然に顔に現れるのよ
 今、私といて、幸せじゃないの?」

「・・・・・」 “幸せじゃないの?”・・・彼女にそう聞かれて、僕は答えを詰まらせた。

「ねぇ・・幸せじゃないの?」 彼女はもう一度聞いた。

「・・・・・」 しかし僕には“幸せ”という意味が定義できなかった。

「ん?」 それでも彼女は首をかしげて僕の答えを待っていた。

「・・・・・・・そんなこと・・わからない・・・」 僕はやっと口を開いた。

「わからない・・って・・・また私のまね?・・・
 ね・・笑ってみて・・笑えるはずよ・・ほら・・・リラックスして・・・自然に・・・
 いい?・・あなたは今・・・幸せな気持ちのはずよ・・・」

「まるで催眠術だな」
そう言いながら僕は今、自分がきっとこの上ない幸せそうな笑顔を彼女に向けただろうと
自分でも感じていた。

「ほら!やっぱり!あなたは凄く素敵な笑顔の持ち主だった!」

彼女は自分が今まで信じてきたことが目の前で実現したと言わんばかりに
満面に笑顔をたたえて感嘆して言った。


   君の笑顔って・・・誰かに似てる・・・

   誰だっけ・・・


彼女のほころぶ笑顔を前に僕は更に表情を崩してしまっていた。
僕の頑なな心は彼女の幼いまでに純粋な心にいとも簡単に屈していた。


   なんてことだ・・・


僕はそんな自分を心の中で少しばかり嘲笑していた。

僕は今まで女の子とこんなデートをしたことがない。
たとえ安いハンバーガーショップであろうとも二人でいるということだけを楽しいと感じる

こんなささやかなことが・・・しあわせ・・・なのか?

   幸せ・・・

その言葉を心に描いたのも・・・きっと・・・初めてのことだった。

僕は今彼女を前に、彼女だけを見つめている自分が、それを幸せだと微笑む自分が
何故だか無性に愛おしかった。


「今度はもっと、いいところで食事しよう」 僕は彼女に得意そうに言った。

「いいところって?」 彼女は首を傾げて聞いた。

「んー・・綺麗なドレスを着て・・・ちゃんとフォークとナイフを使って・・・
 高級なレストランで・・・美味しいもの食べる」

「これだって十分美味しいけど」 それはきっと彼女の本心だった。

「そうじゃなくて・・・君に色んなことをしてあげたい・・・
 仕事が成功したら、何でも買ってあげる
 洋服も・・靴も・・アクセサリーも・・NYで一番高いものを君に贈るよ」

僕はまるでその全てを空想に描き、夢を見ているように話していた。

   君の喜ぶ顔を・・・もっともっと見たい・・・

心からそう思った。

僕は彼女に対して、彼女がくれる笑顔へのお返しをと僕なりの言葉で現していた。

「高いもの?・・・そんなの・・・いらない・・・」 

それなのに彼女は不満げな表情を僕に隠さなかった。

「何故?」

「私はあなたがそばにいてくれればそれでいいもの・・・

     ≪そうかも知れないけど・・・≫

 あなたと初めて出逢った時から・・・私の心があなたを求めたの・・・
 そのあなたが今、少しであっても私を見てくれてる・・・それだけでいい

     ≪どうして?≫

 だって・・・そんなことって・・・そんな幸せなことって、あると思う?

     ≪お金があればもっと幸せが買える≫

 それ以上の高級なもの、私にはないもの・・・」

そう言った彼女の瞳はまぶしいほどに輝いていた。
しかし僕は彼女のひと言ひと言に対して心の中で反論していた。

「・・・・・・」

僕の表情を伺っていた彼女の瞳の輝きが僕の心を、まるで読んだかのように次第に
小さくなっていった。そして・・・

「フランクにはまだ・・・
 私より大切なものがあるのね・・・きっと」 
そう言った彼女が切なげに微笑んだ。

「・・・・・・」 僕は即座に “そんなことない” と答えられなかった。

今の僕の胸にはまだ多くの野望が渦巻いていて、彼女の気持ちには、素直に
応えられなかったのかもしれない。

「いいの・・・仕方ないもの・・・」

   そんな悲しそうな顔しないで・・・でも・・・

   僕の・・・本当の気持ちは・・・どうなんだろう・・・

   何よりも君が大切だと・・・言えるだろうか・・・

少しばかりの気まずさが彼女に合わせた視線を避けさせた。
彼女との会話に詰まって口に運んだハンバーガーもなかなか喉を通ってくれなかった。
 
それでも、彼女は直ぐにふたりの間の空気を変えてくれた。

「ね、これから何して遊ぶ?」 

「遊ぶ・・の?」




それからというもの僕たちは、昼となく、夜となく、時折デートを重ねるようになった。
普通の恋人たちがするように・・・食事をしたり、映画を見たり・・・公園を散歩したり。
ちょっと大人な雰囲気をと、彼女にせがまれてカクテルバーに立ち寄ることもあった。

「ねぇフランク、あれ頼んで?」

「また?飽きちゃったよ」

「お願い・・」

僕は彼女に仕方ない、という顔をしながらウエイターに声をかけた。
「ブルーマルガリータをひとつ」

彼女の要望で目の前に現れたそのグラスを、彼女は憧れの眼差しで見つめた。
「本当に綺麗・・・神秘的ね・・・」

以前僕がそれを頼んで以来、彼女は必ずといっていいほど、それをせがんだ。
僕はそのグラスを嬉しそうに見つめる彼女を、身を屈めてグラス越しに覗くと、
彼女と目を合わせ、微笑んだ。

「フランク・・・」
「ん?」

「しあわせ?」

「・・・ん・・・」

ふたりで過ごす時間は時を忘れるほどだった。



ある日僕達は互いに指を絡めて歩いていた。
そこは美しい噴水の上がる公園で、夜深くなると摩天楼が森の奥に小さく見えた。
その時
僕は、絡めた彼女の手を自分のポケットに押し入れて、彼女との距離を縮めた。
そして僕にぴったりと寄り添う彼女の香りに酔いしれていた。

「今日はもう遅いから、このまま送っていくよ」

「うん!あ~楽しかった~・・・」 彼女は愛くるしい笑顔を僕に投げた。
僕はそんな彼女がたまらなく愛しくて、彼女の肩を引き寄せると柔らかい黒髪に
大事なものにそうするようにキスを落とした。

「フランク・・・私のこと好き?」

「・・・どうかな・・・」 僕は宙を仰いで彼女の質問をはぐらかした。

「素直じゃないのね・・・フランク・・・」

「君が素直すぎるんだ」

「でもあなたの目は正直よ」

「目?」

「好きだと言ってる」

「誰を」

「私を」

「気のせいだ」 僕はまた宙を仰いだ。

「ねぇ、フランク・・・もっと素直になれないの?」 彼女が呆れたように僕を横から見上げた。
「言ってみて!」

「何を!」

「君が好きだって」

「言えない」

「どうして?」

「どうしても!」

僕達はまるで子供の掛け合いのような会話を繰り返しながら、街路樹の歩道を歩いていた。

   君といると・・・まるで・・・

   遠い記憶の幼い日々に戻ったような・・・

   不思議な気持ちになる・・・

   心が真っ白で・・・汚れていない・・・

   そんな気持ちになる・・・

   こんな日が・・・こんな幸せな日が・・・ずっと・・・ずっと・・・

   続けばいい・・・

僕は心の奥深くで、決して叶うことのない願いをただ無心に祈る子供のように、
神の御前で手を合わせていた。

ふと僕は幼い日の自分に思いを巡らせた。幼い頃教会で祈りを捧げていた記憶が
微かに残っている。

   信じることは大切なことだと・・・

   あれは誰に教わっただろう・・・
   母だったのか・・・牧師だったのか・・・

今の僕には記憶の隅にすらない。記憶にあるのは・・・

いつの日も・・・
僕の祈りが叶えられることはなかった・・・
そのことだけだ・・・
そして今度も・・・

   また・・・


彼女の寮の近くまで来た時だった。ひとりの男が僕を突き刺すような鋭い眼光を放っていた。
あの時のジョルジュという男だった。
彼はあの時よりも怒りを増した形相でこの僕を睨みつけていた。

そして、そのままの勢いで僕たちに近づいたかと思うと、その怒りを拳に変えて
僕を目掛けて突進してきた。

僕の顔を見上げながら、腕にしがみつくように歩いていた彼女が、その瞬間やっと、
彼の存在に気がついた。

僕はとっさに彼女をそばから離そうとバランスを崩してしまい、彼の拳をまともに
顔に受けてしまった。

       
「オッパ!何するの!」  

「やっぱり・・お前か!・・・いったい・・こいつに何をした!」

「何言ってるの?ジョルジュ!」

「お前は黙ってろ!」

彼はジニョンに対して怒鳴りながら、睨みつけた目は僕から外さなかった。
その目は僕に対する怒りに血走り、握った拳はわなわなと震えていた。
ジニョンはそんな彼を必死になってなだめようと、彼にすがっていた。

その時僕は至って冷静だった。
二人の様子を冷めた目で眺めながら、切れた口の端を指で拭った。

再度向かってきた彼に今度は僕が容赦をしなかった。
彼は顔と腹に僕のパンチを数発浴びると崩れるように地面に倒れこんだ。

『ジョルジュ!ジョルジュ!』

彼は気絶しかけていたようだった。

『フランク!ひどいわ!・・・ひどいわ・・こんな・・』

   また・・・ハングル・・・

「そっちが先に殴りかかった・・・」

『そうだけど!・・・彼・・こんなこと慣れてないの!
 ジョルジュ!しっかりして!』 

ジニョンが泣きながら彼を揺さぶって、彼はやっと正気を戻した。

『ジョルジュ・・・大丈夫?』 

「・・・・こいつに・・・近・・づくな・・・
 ジニョンは俺のもの・・だ・・・お前なんかに・・・
 渡さない!絶対に・・・渡さない!」 

彼の意思はきっと、殴りかかろうと僕に向かっていただろう。
幾度となく立ち上がろうと懸命に歯を食いしばっていた・・・しかし・・・
僕の拳をまともに受けていた彼はジニョンの腕に支えられるしかなかった。
彼女は彼を抱きしめるように彼の動きを必死に止めていた。

   ≪そいつに・・・触れるな・・・ジニョン・・・≫

その光景を目の当たりにした瞬間、僕の周りが無音になった。
頭に血が激流のごとく上っていくのが自分でもわかった。

彼女の腕が彼を抱く姿に、僕の心は尋常を失っていた。

   この怒りは・・・何だ?

   嫉妬?・・・彼に対して?・・・

   これが・・嫉妬という感情なのか?・・・

   そんなばかな・・・

   そんな陳腐な戯言・・・僕に・・・存在するもんか・・・

それでも僕は努めて冷静に上から彼を見下して言った。

「君のものなんだ・・・それは悪かったね・・・
 僕はたかが女を争うつもりなんて、さらさらない・・・
 そんなに大切なら・・・鍵をかけてしまっておくことだ」

「フランク・・・」

僕のその言葉に彼女が驚きと悲しみの入り混じったような複雑な顔を僕に向けた。

「フランク・・・冗談・・言わないで・・・」

僕は彼女の瞳から逃れるように冷たく背中を向けた。


「フランク!待って!冗談は止めて!今の・・・どういう意味よ!」


「そういう意味だ!」 

 

   僕には幸せなんて・・・ない・・・

 

       ・・・そういう意味だ・・・








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