2010/11/11 09:26
テーマ:passion-果てしなき愛- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

passion-8.赤い道標

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collage & music by tomtommama

 

story by kurumi












  あなたを・・・許したわけじゃないわ・・・


以来ジニョンはサファイアヴィラに顔を出してくれなくなった。
フランクが用事を頼んでも、代わりの人間がそれに対応した。
彼もまた、それに対して敢えて苦情を申し立てはしなかった。
≪待つよ・・・ジニョン・・・≫


「ボス・・・探していた人が見つかったぞ」
一枚の紙を手に、レオが神妙な顔付きで近づいて来た。

「ん?」

手渡されたその紙には少し草臥れた男の写真が写っていた。

「仕事はどうする?」

「・・・・キャンセルしてくれ」

フランクはこの日が来るのを待っていた
この人に会う日を・・・いいや・・・

21年前、自分を捨てた男の成れの果てを
見定めるその日を・・・

 


フランクはレオの運転で車を走らせ、東海を訪れた。
21年ぶりに足を踏み入れたその町は、何もかもフランクの記憶の奥深くに
仕舞い込まれ、捨て去られたかのように・・・
≪僕の胸にたったひとつの感傷も蘇らせてはくれなかった≫

この小さな町でその男が住むアパートを探すのは
簡単なことだったがそこに辿り着く前に、フランクは既に
ここへ来たことを後悔していた。

アパートを訪ねると男は留守だった。

「どうする?ボス・・・またの機会にするか」

「いや、もういい」 
フランクは彼が留守だったことにホッとしていた。

「おい・・そう言うな・・せっかく見つかったんだ・・・
 な、食事でもしていかないか」
フランクが直ぐにもここから去ろうとしていることを察したレオは、
慌ててアパート近くの食堂を指差した。

「こんな場所で?」

「まあ、いいじゃないか」
レオは気が乗らないフランクの背中を押しやって、食堂の扉を開けた。

「おばさん、食事を頼む」
レオが声を掛けると、暖簾の奥から五十絡みの女が出て来て
客用の愛想を振り撒いた。

「あら、お客さん、いらっしゃい!刺身はどうだい?
 鍋はサービスするよ」

「それを頼む」

「酒はいいのかい?」

「ああ、酒はいい・・車なんでな・・」

レオがそう言いながら、フランクを見て“お前は?”と目で
問いかけ、フランクは首を横に振ってそれに答えた。
小さくうらぶれたその店は閑散としていて、客はフランク達だけだった。

「この店はどれくらい前からやってるんだい?」 
レオが店主に聞いた。

「そうだね、20年位になるかね・・どうしてだい?お客さん・・」

「いや・・そこのアパートに住んでるシンのおじさん知ってるだろ?」

「あんた達・・まさか借金取りかい?」

「いや、違う違う、昔の知り合いなんだ」

「そうかい・・・知ってるよ、うちにも良く来る・・
 実は迷惑なんだけどね」

「オンマ・・そんなこと言わないで」
暖簾の奥から二十歳位の娘が、会釈をしながらやって来ると、
フランクのテーブルに料理を並べながら、母親を嗜めた。

「何言ってんだい・・お前が甘やかすから、
 いつも来るんじゃないか」

「おじさんは可哀想な人よ・・」 

「可哀想なもんかい!いつも呑んだくれて、
 お前が悪いんだよ
 ただ飯食わしたりするもんだから、調子に乗ってるんだ、あの親父」

「そんなこと言うもんじゃないわ・・オンマ・・
 それにおじさんは小さい頃から私を可愛がってくれたわ」

「そりゃあ、捨てちまった娘のことを思い出してるのさ」

「娘?」 
フランクが鋭い目を店主に向けると、彼女はビクリと体を堅くした。

「あ・・そういやあ、シンのおじさんには息子がいただろ?」
レオがとっさに取り繕うように店主に言った。

「息子もとっくにアメリカに養子に出しちまったんだよ、
 まったく、ギャンブルに狂って、呑んだくれて・・
 自分の子供を売っちまったんだ・・
 ろくな生き方をしてないね!あの男は」

「オンマ!止めてったら」 娘は母の腕を引いた。

「娘さんも養子に出したのかい?」 レオは再度訊ねた。

「ああ、二歳にもならないうちにね」

店主の歯に絹着せぬ言い様が全てを真実だと物語っていて、
フランクは俯いたまま言いようのない怒りに体を震わせていた。

その時急に外が騒がしくなったかと思うと、ひとりの男が店に駆け込んで来た。

「大変だ!警察を呼んでくれ!」
「どうしたんだい?」 店主が言った。
「シンのおじさんが・・家の前でやくざに絡まれてる」 
男はひどく慌てていた。

その時、その言葉を聞くや否や、フランクが店を飛び出した。

フランクがその場所に走って向かうと、さっき訪ねたアパートの前で数人の
見るからに素性がわかる男達が、ひとりの老人に殴る蹴るの暴力を振るっていた。
フランクは駆けつけて瞬時に男達の腕を掴み、無言で彼らに立ち回った。
そして男達は彼によって簡単に地面に叩きつけられた。

「何しやがる!
 俺達はこいつに金を返してもらいに来ただけだぞ!」
「金?」
「ああ!こいつが借金を返さねえんだよ!」
「いくらだ」 フランクは男の腕を後ろ手にひねり上げたまま言った。
「1万ウォン」
「1万?」 
フランクは彼らを睨みつけた後、後から追いかけて来たレオに向かって
顎をしゃくった。

レオは財布から金を数枚出すと、その男にくれてやりながら、
「もう二度とシンに近づくな。」と凄みを利かせた。

男達は過分に渡された紙幣に対して、急にぺこぺこと頭を垂れながら、
その場から逃げるように立ち去った。
老人は殴られたからなのか、酔っていたからなのか、地面に座り込んだまま、
正体を失っていた。

突然フランクはその老人の襟元を掴むと、乱暴に彼をその場に立たせた。

「1万?たったの1万?・・そんなはした金のために・・・
 あんたは・・あんたはいったい何をやってるんだ!」

フランクは言いようの無い怒りがふつふつと沸いてくる自分と戦っていた。

≪あの男達と同じように・・・
 この男を死ぬほど打ちのめすことができたなら・・・≫

「離せー、俺を誰だと思ってるんだ。俺にはなー金持ちの息子がいるんだぞ~
 金なんか、いつだって返してやるよ~」
老人が突然、フランクの腕を払って、喚き散らした。

「息子なんていないだろ?本当にもう、何やってんだか・・
 ほら!しっかりしなよ」

「おじさん・・しっかりして・・大丈夫?」

老人の両脇に、さっきの店の親子が駆けつけていた。

「うるさい!息子はいるんだよ!俺の息子はな!アメリカで成功して、
 金持ちになってんだ・・」

「そうかいそうかい」
店主が聞き飽きたという顔でそう言った。老人は尚も続けた。

「俺がそうしてやったんだよ・・
 俺があいつらがちゃんと食べて、ちゃんと勉強できるようにな・・
 俺が手放してやったんだ~
 あいつを幸せにしたのは俺なんだぞ~」

「幸せ?」 フランクが小さく呟いた。
「・・・・・」 老人はフランクの声に、怪訝な顔をして、無言のまま彼を見上げた。

「あんたに・・・何がわかる・・・」 フランクはまたも呟いた。
そして老人の胸倉を再度激しく掴んで言葉をぶつけた。

「あんたに何がわかる!
 自分を捨てた親を一生恨み続けることしかできない子供の気持ちが!
 どんなに断ち切ろうとしても、断ち切ることも出来なくて。
 死に物狂いで勉強して、仕事で成功しても・・
 余るほどのお金を手にしても!
 いつまでも拘って拘って・・誰にも心が開けない!
 幸せなんて一度も!たったの一度も感じたことがない!
 そんな情けない気持ちが!あんたにわかるのか!」

フランクは今にも泣いてしまいそうな自分を怒りで堪えた。

老人はフランクの叫びに一気に酔いを醒ましたかのように目の前の若い男を見た。
そして、男のその瞳の中に、彼の子供の時の姿を見つけて、目を大きく見開いた。

「お・・お前は・・・」 

「あなたが・・・どんな生き方をしているのか・・・
 一度見てみたかった・・・」
そしてフランクは心の涙をごくりと飲み込んで、言葉を繋げた。

「これで本当に終わりです。もう二度と・・・
 会うことはないでしょう。」
フランクは止め処ない怒りを胸深くに押し込めて、努めて淡々と言い放つと
老人の胸倉からその手を乱暴に離した。

そして、自分の内ポケットから、白い封筒を出し、老人の胸に押しやるように
叩きつけた。
その封筒は呆然と立ち尽くす老人の胸から滑り落ちて、地面にひらりと舞い落ちた。

それからフランクは、傍にいた店の娘の方に向き直って、彼女に一枚の小切手を
差し出した。

「食事の支払いです・・・それから・・・色々とありがとう」
フランクは厳しい顔も厳しい声も変えられぬまま、娘にそう言った。

娘は少したじろいだが、彼から手に押し込まれた一枚の紙を黙って受け取って、
それを見た。
食事の代金にしては余りに高額だった。

「あの・・」と娘が声を出した時には既に、フランクは車へ戻り、
レオに向かって怒鳴っていた。「車を出せ!」

「待ってくれ・・話を聞いてくれ」
老人はやっと我に帰って、フランクの後を追った。

レオは無言で運転席に戻ったが、しばしエンジンを掛けるのを躊躇っていた。

「いいから!出せ!」 
フランクは、車のドアで老人との間を遮断すると、前だけを見据えて再度怒鳴った。

レオは、仕方なくエンジンを掛けた。

「待ってくれ・・話を・・話を・・」
走り出した車に老人は追いすがったが、フランクは決して、老人を振り返らなかった。


「ね、凄いお金だよ・・億だよ・・億!」
さっきの封筒を拾った店主が慌てて、老人に駆け寄った。

老人は差し出されたその封筒を、言葉にできない悲しみと
自分自身への怒りに任せて、宙に放り投げた。


フランクは締め付けられる胸の奥で≪これで終わりだ≫と繰り返していた。

しかし、自分のその言葉に打ちのめされたように、予期せぬ涙が頬を伝った。
≪泣いてなんかいない≫
更にそう自分に言いきかせて、その涙を信じようとしなかった。
それなのに、それが自分の意に反して止め処なく流れると口の中に入り、
その苦さを教える。
フランクはとうとう、眼鏡を外し、手でその涙を押さえ、
堪えきれない嗚咽を我慢するのを止めた。




フランクが落ち着くのを待ってレオが声を掛けた。

「もう一度戻るか」

「どうして」

「・・・そうしたいんじゃないかと思ってな」

「余計なことを言うな」

「お前が成功したこと・・・親父さん、知っていたな」

「・・・・」

「親父さん、あんな風に言ってたがな、
 本当に喜んでいたそうだ・・お前の成功を・・」

「どうしてお前がそんなことを?」 
フランクは怪訝な目でレオを見た。

「おふくろさんの墓に寄るか?」

「いや・・今日はいい」 
≪こんな自分を母には見せられない・・・≫フランクはそう思った。

「毎月な・・・墓に花が添えられるそうだ」

「・・・?」

「若い女の人が来ていると、さっきの店の娘が言ってた」

「娘?・・お前、初めてじゃなかったのか」
≪そう言えば、あの娘はレオを見て会釈したようだった≫

「ああ・・お前を連れてくる前に一度訪ねた・・・
 時々親父さんと墓参りに行くんだそうだ、あの娘・・
 それで何度か綺麗な花を見かけて・・誰がこんなことをって
 親父さんと一緒に待ってたんだそうだ
 親父さんはな、最初・・もしかしたら、お前か・・娘か・・・
 そう思っていたらしい・・・」

「ドンヒじゃなかったのか?」

「違ったそうだ・・・」

「誰だったんだ?」

「誰だろうな」 
レオの言い方は決して知らない、とは言ってなかった。

「わかってるんだろ?」 フランクもまた同じだった。

「・・・・お前にも・・・もう・・わかるだろ?」

「・・・・・・」




赤い灯台の前を通ると、急に懐かしさが込み上げて、フランクはレオに
停車を促がした。

 ここは幼い頃、父に連れられてよく魚釣りに来ていた・・・
 その時の父はとても優しくて、餌をつけて僕に竿を握らせた

   ≪いいか、ドンヒョク・・しっかり握ってるんだぞ・・
     魚がえさに食いつくのをこうやってな・・
     静かに待つんだ・・≫

   ≪父さん!引っ張られるよ!≫

   ≪よ~し、そのまま踏ん張って竿を上げてみろ
    上手いぞ~その調子だ≫

   
フランクは突然走馬灯のように浮かんだ父の笑顔を思いながら、
フゥと大きく溜息をついた。

   「どうして今頃・・・あの人の笑顔なんか・・・
    思い出すんだろう・・・」

そう呟いてフランクは寂しく笑った。


   あの人を許せない僕と・・・

   君から許されない僕・・・

   どちらも・・・罪深い・・・

   そうだろ?・・・ジニョン・・・

    
そしてフランクはポケットから携帯電話を出すと、メールを打った。


   受信ソ・ジニョンssi・・・


      ・・・配信シン・ドンヒョク・・・


















 


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