2010/05/01 17:49
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-28.リスク

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店内にラプソディが流れている間、僕はふたりだけの世界に酔いしれていた

まるで・・・僕達を・・・
周囲にうごめく暗黒の渦から遠ざけてくれるかのように、わずかな休息を与えてくれた。

こうして彼女を・・・腕の中にさえ抱いていれば・・・

きっと守ることができる・・・

僕は自分自身にそう言い聞かせていた。

   

「それじゃあ、ジニョン・・・おふたりの邪魔をしてもいけないから・・・
 これで私は失礼するよ・・・
 でも学校には出ておいで・・・
 この前・・・勉強が楽しくなったって言ってたじゃない・・・
 それとも何か、込み入った事情でも?」

僕達がダンスを終えて戻ると、あいつがまた席に近づいて心配そうにそう言った。

「いいえ・・・あ・・はい・・・
 実は・・・父に帰国するよう言われています・・・」

「帰国?」

「学校も辞めるようにと・・・」

「ジニョン」

僕は彼女に“余計なことを言うな”と言わんばかりの視線を送った。
しかし、当のジニョンは彼を、ことの他信用しているようで、事情を打ち明けることに
少しの躊躇も伺えなかった。

「そうなの?・・」

「はい・・でも、何とか説得するつもりです
 アメリカを離れるわけには行きませんので」

ジニョンは僕の顔をちらりと覗いてそう言った。
それに対して僕は仕方ないような笑みを向けた。

「そう・・頑張って・・・待ってるよ・・・では・・」

今度は彼が僕の方に向き直って姿勢を正した。

「Mr.フランク・・・またお会いできると嬉しいです・・・
 いや・・きっとお会いできそうだ・・・」

「・・・そうでしょうか・・・」 僕は冷ややかな口調で彼に答えた。

彼は少し苦笑いを浮かべながら、“それでは・・”と僕達の前から去っていった。

僕の彼への応対が気に入らないようだったジニョンが、彼が店を後にしてからずっと
僕を睨みつけていた。

僕はそんな彼女の様子に気付きながらもそ知らぬ振りをして、ディナーコース最後の
エスプレッソを口に運んでいた。

「ドンヒョクssi!」
「何?・・・」

「あなたがあんなにも失礼な人だとは思わなかったわ!」

「何のこと?」

「しらばっくれないで・・・私の学校の先生よ
 少しは愛想よくしてくれてもいいんじゃない?」

「それは悪かったね・・・しかし僕はあいにく君の保護者じゃない・・・
 何も君の先生だからといって、愛想振りまく義理が何処にある?」

「まあ!フランク!」

僕はジニョンの怒りを軽くかわしながらも、用意周到とも言える奴らの手口に
どう対抗していくか・・・今後の手段を考えていた。

 

「レオ・・・レイモンド・パーキンを調べろ」

「レイモンド・パーキン?」

「ああ・・きっとパーキン家の縁続きだろう」

「フランク・・・本当に知らないのか?・・・
 レイモンド・パーキン・・・調べるまでもないさ・・・
 パーキン家の三男28歳・・・腹違いだがな
 アメリカ生まれ、母親と一緒に幾つもの国を転々として育ってる
 十歳の頃からはイギリスで暮らしてたらしい・・・
 父親の希望で三年前にアメリカに戻った
 母親は韓国籍・・・十八年前に亡くなってる・・・
 オックスフォード大学を首席で卒業
 頭脳明晰・容姿端麗・・・
 マフィアの中にあって一風色が違う・・・
 しかし、本格的に組織の仕事に就いて二年・・・
 彼は瞬く間に、組織の中心人物となった・・・
 兄貴達を差し置いて、跡取りは彼だと専らの噂だ」

レオはレイモンド・パーキンについて、ろうろうと演説をぶった。
「その・・レイモンドが・・・どうした?」

「今日会った・・・ボスに会えと言って来た」

「話は断ったぞ・・・お前の望み通りにな」

「奴らはひと月も前から僕の周りを嗅ぎ回ってる」

「ひと月?・・・
 俺らがホテル業界に目を向け始めた頃か・・・」

「あぁ・・」

「それで・・どうするつもりだ・・」

「まだ何も・・・」

「そうなると、今回の案件に支障はないか?
 どうする?少し時間を置くか」

「いや・・進めろ・・奴らに怯むな」

「わかった」

 

        

 

「フランク・シン?・・いったい、そいつは何者ですか?」

「新進のM&Aハンター・・・」

「M&Aハンター?・・・それが?」

「その男が欲しい」

「欲しいって・・・父さんがその気なら、いくらでも方法がおありでしょう・・」

「いや・・それが面白い男だ・・・
 M&Aの手口は冷徹・・非道・・・法にこそ触れないが
 マフィア顔負けの強引さがある・・・
 しかし、頑としてマフィアが絡むことを拒む」

「金を積んだらどうです?」

「やってみたさ」

「それで?」

「易々と乗らない」

「なら・・潰しますか?」

「いや・・出る杭は打たず、育てて、我が家の柵にする主義だ・・・」

「フッ・・・そうでした」

「奴は最近ホテル業界に狙いをつけたらしい・・・
 そこでだ・・・
 NYグランドホテルとカナダのプリンスホテルの合併をえさに蒔いた・・・
 きっと食いついてくるに違いない・・・」

「あれはJAコーポレーションの話では?」

「ああ」

「そこは確かジェームスが・・」

「レイモンド・・・あいつの力なんて・・どれだけのものだ?
 お前だって知っているだろ?今は身内だから使ってやってる」

「・・・・・」

「フランク・シンには類まれな才能がある・・・
 きっとジェームスなど足元にも及ぶまい・・・
 私は何としても奴の頭脳をこの手にしたい・・・」

「それほどの男ですか?この・・・フランク・シン・・・22歳・・・
 ハーバード大学院生・・・飛び級か・・・なるほど・・かなり優秀なんだ・・・
 しかし・・まだ若い・・言ってみればひよっこじゃないですか?」

私は父に差し出されたフランク・シンという男の身上書を軽く指で捲りながら
興味なさげに呟いた。

「いや・・私の目に狂いはない・・・奴なら、きっとこの世界でも一流になる・・・
 お前と同じ匂いがするんだ・・・」

「私と同じ匂い?」

「ああ・・冷静沈着・・・いや冷酷・・冷淡・・・ということかな・・・
 そして人間を誰ひとりとして信用していない・・・」
        
「私が父上すら信用していないとでも?」

「違うかな?・・・」

「フッ・・・・」

「まあ・・いい・・・しかし、全てにおいて完璧・・・
 やることには抜かりがない・・・
 法を犯す人間はお前のように頭が良くなければならない・・・」

マフィアの世界などまったく興味すらなかった私を、強引なまでの手段で
自分の思うようにしてきた父の頑として引かない強い眼差しがそこにあった。

「褒められてるんでしょうか・・・」

「褒めてる」

「有難うございます・・・
 とにかく・・父さんがそれほどに惚れ込んだ男、ということですね・・・
 それで私に何を?・・・」

「奴の弱みを探せ・・・
 用心深く、弱みと言えるものが見つからん・・・」


今からひと月前、こうして父に、“探せ”と命を受けた「フランク・シンの弱み」・・・


   驚いたろうね・・・フランク・・・

   君にこうして面通りする前に・・・

   私は君のその弱みとやらに近づかせてもらっていた


   君の弱みは意外と簡単に見つかったよ・・・


   ソ・ジニョン・・・

   本当に可愛い人だ・・・

   人間を信じない君が彼女を信じた理由が

   私にはわかるよ・・・フランク・・・


   さあ・・・これからが君と私の本当の闘いとなる・・・

   用意は?・・・良さそうだね・・・

 

 

翌日、ジニョンはジョルジュに電話を掛けていた。

「わかっているわ・・・オッパ・・ごめんなさい・・・
 でも、私の決心は変わらないわ・・・・・・・・・・
 父には私から連絡する・・・・・・・・いいえ・・・
 駄目よ・・・・・・・・ね・・お願い・・わかって・・・」

ジョルジュとのやりとりがどんなものなのか想像はつく。
彼としても、諦めきれないものがあるだろう・・・
しかし・・・彼女の深刻そうな応答をそばで聞きながら、自分自身が
解決してやることができない歯がゆさに僕は唇を噛んだ。

電話を切った後、彼女はしばらく黙って電話を握り締めたままソファーから動かなかった。

「ジョルジュは父に自分からは言わないって・・・
 私達のこと・・・」

「諦めたってこと?」

「・・・・・・」


        『ジニョン・・・きっと後悔する時が来るぞ・・・
         親父さんに俺がお前達のことを話さないのは・・・
         親父さんを悲しませたくないからだ
         親父さんにお前のことを悪く思わせたくもない・・
         わかるな・・・ジニョン・・・』

               ジョルジュ・・・

       
僕は彼女の横に腰掛けて、彼女の肩をそっと抱いた。
彼女はそのまま言葉もなく僕の肩にもたれかかっていた。

彼女の心を何んとか慰めたくて、僕はその髪にそっと唇を落とした。
彼女の辛い想いが僕の唇を伝って胸を疼かせた。


「父への電話は・・・明日にするわ・・・」

「ああ・・・」

その日の夜、僕達はなかなか寝付けないでいた。

  彼女は多分遠い祖国の父親達に想いを馳せて・・・

  僕は昨夜、目の前に現れた戦うべき敵のことを考えて・・・

 


そして・・・翌日の朝・・・
ジニョンはやっと決心をつけたかのように韓国に電話すると言った。
大きなため息をひとつついて、ソファーの上で正座をすると

「きっと・・わかってくれる」 僕に向かってそう言った。

「困ったら・・僕に代わって?その時は、僕がお話しする・・・」

彼女はにっこり笑って頷いた。

そして父親と話を始めた彼女が突然狐につままれたような表情をした。

「え・・パパ・・・わかったわ・・・
 大丈夫・・私は元気よ・・ジョルジュも元気だわ・・・
 ・・・・・・・・・ありがとう・・・頑張るわ・・・・・・
 元気でね・・・・・・・・・・うん・・待ってる・・・・・・
 ・・・・・・・・・・はい・・・お休みなさい・・・」

彼女は思いのほか早く受話器を置いた。

「どうしたの?」

「今、ジョルジュの父親と酒を飲んでたとこだって・・
 NYでね・・・あ・・NYグランドホテルって知ってる?」

「ああ・・もちろん」

「そのホテルで、ジョルジュがホテリアーとしての
 見習いをさせてもらえることになったんですって・・・
 帰国を望んだジョルジュにおじ様がそのまま残るように命令なさったみたい」

「それで?」

「ジョルジュは韓国で有名なホテルの息子なの・・・
 いずれはそこを継ぐことになってるわ・・
 その父親のところにNYグランドホテル理事から直々に
 まだ学生の身だけど、修行させてみないかって・・お話があったそうなの・・・
 大学卒業後も数年面倒を見ると・・・
 
 もちろん、おじ様はこんないいお話は無いって・・
 そうなると、ジョルジュの帰国が私の帰国と関係していたわけだから、
 私はそのまま大学に通うべきだと・・

 父達はね・・昔から仲が良くて、何でも相談し合ってるの・・」

「・・・・・」

「さ来月、父親同士でふたりの様子を見に渡米するって」

「昨日ジョルジュはそんなこと言ってた?」

「いいえ・・どうも、向こうの時間で今朝の話らしいわ・・
 私がジョルジュと話した後だわ・・きっと・・」

「・・・・・」

「だから・・ごめんなさい・・・拍子抜けしちゃって・・・
 あなたのこと話そびれちゃった」

「それは・・いいさ・・・君がアメリカにさえいてくれれば・・・
 さ来月か・・・2ヶ月はあるね・・・その時にはきっと・・・
 君のお父さんがアメリカにいらっしゃる時には・・・
 きちんとお目にかかってご挨拶しよう・・・」

「挨拶?・・何て?」

「もちろん、決まってるだろ?」

「だから・・何て?」 ジニョンはグイと顔を僕の顔に近づけて言った。

「・・・・知りたい?」

「知りたい」

「教えない・・・」

「ドンヒョクssi ぃー・・・」

彼女は輝く笑顔のまま僕の首に巻きつけた腕で、僕の首を締め上げた。






   しかし・・・話ができ過ぎている・・・

NYグランドホテルと言えば、格式を重んじた特級ホテル・・・
易々と学生ごときを見習いなどに迎えるはずはない

そのことを巧みに巧作できるとすれば・・・

   奴らしかなかった・・・


案の定その日の夜、奴から電話が入った。


   レイモンド・パーキン・・・


「彼女はアメリカに残ることができましたか?」

「やはり、お前達の仕業だったのか・・・目的は?」

「目的は・・・もちろんあなたです・・・考えたんです、彼女がもし・・
 帰国でもしてしまうことになればあなたは仕事なんてそっちのけで
 追いかけてしまう・・違いますか?
 そうすると、うちのボスが嘆くものでね・・・」

「マフィアなどと仕事をする気はない・・・」

「Mr.フランク・・・諦めなさい・・・ボスが欲しいと思ってしまったら・・・
 あなたはもう我々の力になるしか手立てはない・・・」

「ふざけたことを・・僕は誰の傘下にも入らない。それが信念だ」
 
「今に、そんなつまらない信念・・・
 最初から持ってなかったと思うようになりますよ・・・」

「どうかな」

「あ・・それから・・・彼女を帰国させなかった理由・・・
 あなたの為だけとは限りませんよ・・・」

「!・・・何を考えてる」

「男と女に考えることなど・・・
 愛し合うふたりにステップは・・・必要ないんですよ・・フランク・・・」

「ジニョンに触れたら・・・ただで済むと思うな」

「ははは・・あなたは・・・まだ若い・・残念ながら、我々の敵でもない」

      
それにしても・・・
ジニョンが奴に話したのは父親に帰国を勧められている、ということ・・・

奴はたったそれだけで、ジョルジュをこの地に留めればその問題が解決すると結論付けた。

組織の計り知れない力に僕は正直不気味さを感じていた。

僕一人のことなら、何とでもして切り抜けることができる。その自信はあった。

しかし・・・今はジニョンが僕の隣で眠る・・・

彼女が穏やかな眠りから醒めないように僕は秘かに彼と戦わなければならない。

まずは彼らの思惑を知る・・・そのことが先決だった。


「僕に何を・・・」 ≪手の内を見せてもらおう≫

「父に・・・ボスに会いなさい」

「・・・・・・日時は・・」

「明日・・十二時・・NYグランドホテルロビーでお待ちしてます・・では」


   もちろん・・・
   彼らの言うことを聞くつもりはさらさらない・・・

   そして、受けてたった仕事は必ず成功させる

   奴らの妨害には決して屈しない・・・

 


   何故なら僕は・・・この仕事に人生を賭けた


      ジニョンとの・・・


            ・・・愛を賭けた・・・


 





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