2010/05/19 22:29
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage-儚い夢-32.隠された顔

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「ジニョン・・・おはよう」

「あ・・先生・・おはようございます」

レイモンド先生は相変わらず、優しげな微笑を私に向けてくれていた。

昨日、フランクが先生に対してあまり良い態度を示さなかったことは想像がつく。

フランクはどうしてあんなに先生を嫌っているんだろう

フランクは“焼もち”だと言った

でも本当にそれだけ?

「ん?」 
つい、見つめていた私の視線に気が付いて、先生が私に首を傾げて見せた

「あ・・いえ・・」

フランクの非礼に対する申し訳ない思いが、逆に先生を意識してしまってる

「レイ・・挨拶はジニョンにだけですか?」

「やあ・・ジョルジュ・・おはよう」

「まるで付け足しみたいだな」

「ふ・・すねるな」

「昨日はありがとうございました」

でも、先生の優しさに無頓着に甘えることがフランクの心を騒がせるのなら・・・


「いや・・余計なことしたんじゃないかと・・あの後、少し後悔したよ・・・
 彼はかなりやきもちやきのようだね」

「あ・・あの・・お気を悪くなさらないでください」

「昨日?やきもちやき?・・・何のこと?」

ジョルジュがふたりの会話の意味を探るように私と先生の顔を交互に伺っていた

「ううん・・何でもない」

「・・・・・」

「おっと・・・ここにもいたか・・・やきもちやき」

先生はそう言ってジョルジュにからかうような視線を送った。
ジョルジュは話題の主がフランクであることを直ぐに悟って、さっきまでの笑顔を
私たちの前で瞬時に曇らせた。

「先生・・・」

「レイ・・って・・・」 

「えっ?・・」

「呼んでくれないんだね・・最近・・ん?・・」

先生が私の目線まで頭を下げて下から覗くように訊ねた。
フランクによく似た深い褐色の瞳があまりに近くにあって私は少し動揺していた。

「あ・・あの・・私、次の授業が・・・ジョルジュ・・後でね」

「ああ・・じゃあ、後でな」



ジニョンが急に慌てたようにその場を去った後、俺はジニョンを見送るレイの横顔を
重い気持ちで見ていた。

「・・・・・レイ・・・」

「ん?」

「ジニョンは駄目ですよ・・・」

「駄目って?」

「あいつはいずれ韓国に連れて帰ります」

「連れて帰る?」

「ええ・・・俺の嫁さんとして」

「へ~・・・それは初耳だ・・・でも・・どうして、そんなことを・・・私に?」

「あなたの目」

「目?」

「あなたのあいつを見る目は、一生徒を見る目じゃない・・・そう思って」

「ふ・・・そうか?」

「俺はあなたが好きだ・・・
 だから、あなたとは戦いたくない・・・それに・・・」

「それに?」

「・・・戦うのは・・・ひとりで沢山だ・・・」

俺はフランク・シンを思い浮かべて眉を顰めると独り言でも言うように小さく呟いた。

「フランク・シン・・か・・・」 レイモンドがポツリと言った。

「・・レイ・・彼といつ?」

「んー・・大分前から・・・」

「・・・・?」

「して・・君は奴に勝てるのかな?」

「・・・・・」

「ジョルジュ・・・」

「はい・・・」

「私を好きだと言ったね・・・戦いたくないと・・・」

「・・・・・」

「甘いな・・・いったい君は・・・私の何処を見てるんだ?・・・」

「何が言いたいんです?」
 
「いや・・忠告をしてるだけだ・・・上辺だけで人を判断するなと・・・
 もしかしたら、私は君の将来を脅かす人間かもしれない」

「レイ・・やっぱり、ジニョンを?」

「さあ・・どうかな・・・」

そう言って口の端で小さく笑ったレイの目が一瞬不気味な光を放ったように見えた。
今まで見たことのないようなレイの冷たい視線に得体の知れない何かを感じて
俺の背筋を震えさせた。

 


 

僕は昨夜から、レイモンド・パーキンの発した言葉の裏に何が隠されているのかを
読み取ろうと模索していた。

  ただ、僕を組織の手中に収めたい・・・それだけなのか・・・


奴のことになると、先が読めない自分が情けなく、苛立ちを覚えた。

  あいつの狙いは・・・いったい何なんだ

そのこととは間逆に合併問題はスムーズに運んでいた。このまま行けば、一ヶ月後には
取引も終結し、僕は予定通り、二ヵ月後、ジニョンの父上にお目通りが叶う。

  そうしたら・・・
  何もかも上手くいく・・・
  

「ボス・・・グランドホテルの株価の動きが変だな」

僕の目の前で先刻からPCの画面と睨み合いをしていたレオが苦虫を潰したような顔つきで
そう言った。

「急激に落ちてる・・・大口が売りに出たな・・」

「・・・・・」

「このままでは俺達の損害が大きくなるぞ・・手に入れるのには苦労したが・・・
 ここはひとまず・・・離すか・・・」

「いや・・待て」

順調に上昇していたはずの株価が暴落の動きを見せていた。
このまま暴落が続けばグランドホテル優位に取引が運ばない。
そんなことにでもなったら最後、僕の信用は瞬く間に失墜することになる。


「レオ・・・このままにしておいてくれないか」

「しかし、ボス・・・もし、このままだと
 俺達は一文無しだぞ・・わかってるんだろうな」

「わかってる・・・」

「フランク・・確かにお前はすごい奴だよ・・・しかしな・・
 俺の長年の経験からすれば、今回は俺の勘の方に分がある・・・
 そう思わないか?
 正直、お前はまだ経験が浅いんだ・・・な・・悪いことは言わん」

「・・・・駄目だ・・・いや・・頼む。」 僕はレオに食い下がった。

「・・・・・」

確かに今回はレオの意見が正しいかもしれない。客観的に考えれば彼の言う通りだった。
どうしてだ、と言われても、返す正論すら見つけられなかった。

    それでも・・・僕の中の何かがそうさせた

    自分を信じろと・・・

    迷うなと・・・

 

 


「どうだ?」
「揺さぶりに動じる様子はありません・・・」
「そうか・・・」
「いかがなさいますか」
「買い戻せ」

 

「レオ・・信用取引の上限は?」
「あと20といったところだ」
「すべて使え」
「バカなこと言うな」
「いいから・・・やれ」

 



「ジニョン・・・」

「あ・・先生・・・」

校門近くでばったりとレイに出会った。

「サークルは?」

「い・・いいえ・・・今日は・・」

「・・・ジニョン・・さっきから何だか変だね・・・
 まるで私を避けているみたいだ」

「い・・いいえ!避けてなんか・・・」

「そう?・・・じゃあ・・行こう」

そう言うなりレイが私の手首を掴んで歩き出した。

「先生!・・離して・・・何処へ行くんです?
 先生!・・・レイ!」 レイが私の大声でぴたりと足を止めた。

 

「いったい・・・どうしたと言うんです?レイ・・
 何だかいつものレイじゃない」

「ごめん・・・ちょっと強引だったね・・・
 きっとジョルジュにあんなことを言われたからだな」

「あんなこと?」

「私が君を見る目・・・変なんだそうだ」

「変って?」

「つまり・・・君を愛してる・・・」

「え?」

「そういう目をしてると・・・」

そう言いながら私に近づくレイの瞳は憂いを帯びていて、まるで遠い宇宙に
吸い込まれそうな程だった。
彼のくちびるが静かにゆっくりと近づく様を私はまるで磁石で留められでもしたかのように
身動きできないまま見つめていた。
 
「離せ・・・」

レイの肩越しに恐ろしい目をしたフランクが見えた。
私を睨みつけてでもいるかのような目が私の今までの金縛りを瞬時に解き放った。
レイはフランクの声に驚くでもなく、振り向きもせずに私に向かって薄く微笑んだ。

フランクの登場をわかってでもいたかのようなその不適な微笑みは・・・
決して今まで私に見せていた温和で優しさに溢れた微笑ではなかった。

  レイ・・・今私の目の前にいるあなたは・・・


       いったい・・・



           ・・・誰?・・・

 

 










 









 


 


2010/05/19 00:08
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage-儚い夢-31.沈黙

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      ジニョンに知られると・・・後悔する?

   どういう意味だ・・・

 

 

僕が部屋に戻るとジニョンがコーヒーを淹れていた。僕が無言でパソコンの前に座り、
仕事を始めてしまったことが、彼女は気になっているようだった。

「あの・・ドンヒョクssi・・コーヒー飲むわよね」

「いらない」

僕は取り付く島も与えないようなそぶりを露に彼女から視線を逸らしたまま、
仕事を続けた。

彼女は僕の顔色を伺うようにデスクを挟んで僕の正面に立っていた。

「あ・・・先生ね・・ジョルジュに頼まれて・・その・・」 

「・・・・・・」

「上までは結構ですって・・お断りしたのよ・・でも・・その・・

  ・・最近は・・アパートの中も物騒だからって・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・ドンヒョクssi・・・ドンヒョクssi?! 」

「怒鳴らなくても聞こえる」

「だったら返事してくれてもいいでしょ?

 先生はご親切に私をここまで送ってくださった・・

 それって、そんなに悪いこと?」
ジニョンは必死に自分の分を取り戻そうと、強い口調で言った。

 

「さあ・・」

「さあ・・って・・・そんな言い方、ないわ」

「じゃあ、どう言えばいい?

 先生に送ってもらった・・それは悪いことじゃないんだろ?

 だったらそれでいいじゃないか・・・

 僕のどんな言葉を待ってるわけ?」

「・・・・そんなに・・怒らないで」

「怒ってないよ」

「怒ってるじゃない!」

「怒ってない!」

「こんなことくらいでそんなに怒る理由がわからない!」

「わからない人間に何を言ったところでどうなる?

 君にとって、男の車に軽々しく乗ることはごく普通のことなんだろ?」

「男って・・・先生よ?」

「男に変わりない」

「ご好意を無下にできないことだって・・」

「もういい!これ以上、話しても平行線だ!」

僕は思わず席を立って、彼女を避けるように窓際に向かった。

 

「フランク!」

「・・・・・・」

「ドンヒョクssi・・・」

彼女が突然、僕の背中にぴたりと体を沿わせ頬をつけたかと思うと
細い腕を僕の胸に回して交差させた。

「ドンヒョクssi・・・ドンヒョクssi・・・ドンヒョクssi・・・  」

彼女の僕を呼ぶ声が次第に小さく涙声に変わる。

まるで・・・フランクと化した僕からドンヒョクを呼び出してでもいるかのように
僕の名を呟き続けていた。

 

  “ドンヒョク”はきっと・・・

  これ以上彼女の震える腕を放っておくことはできない

  それを知ってるんだね・・・ジニョン・・・

 

「怒鳴って・・・ごめん・・・」

「・・・・・・」

「でも・・・嫌なんだ・・・君が・・あいつの視線に触れられる・・・
 それを考えただけでも・・・」

僕はそう言いながら、彼女の右腕を引いて彼女を僕の正面に抱いた。

「妬いてるの?・・・先生に?」

「ああ・・・妬いてる・・・この目も・・この頬も・・この唇も・・・
 本当は・・・僕だけが見ていたい・・・」

「私はあなただけを見てるわ・・それだけじゃ・・・駄目?・・・」

「君はずるいね・・・」

「ずるい?どうして?」

「僕の弱点を握ってる」

「ドンヒョクssiの弱点て?」

「君の涙に弱いこと・・・」

「あなたの怒った顔・・・震えるほど怖いんだもの」

「そう?・・・気をつけるよ」

「もう誰にも送ってもらったりしないわ」

「ああ・・そうして・・・ここへ来る時は僕が迎えに行く」

「うん」

 

   君の困惑が・・・安堵に変わり・・・

   君の涙は僕の胸の中で乾いていく

   これから先・・・

   僕は何度・・・君を泣かせることになるんだろう・・・

   その度にこうして、君の涙を拭っていけるのか

   君を守ることができるのは・・・

   ドンヒョクなのか?

   フランクなのか?

   それとも・・・

 

 

 

 

数日経って、レオの報告が届いた。

「ボス・・・ソウルホテルとソ一家との関係がわかったぞ」
「・・・・・」

「話は19年前に遡る・・・
 ひとりの若い女がある小さなホテルに宿泊した」

電話口で突然語り始めたレオの口調を訝しげに聞いていた。

「何の話だ」

「まぁ聞け・・・
 その小さなホテルとは現在のソウルホテルの前身
 チェ社長夫妻が営んでいた・・・

 宿泊した若い女は訳あり風で当初から夫妻は
 彼女を気にかけていたらしい・・・

 ある日・・・屋上に昇った女を夫妻は慌てて追いかけた
 夫妻のあまりの慌てぶりに女は笑ったそうだ・・・

 まさか、飛び降りるとでも?と・・・

 しかし、女の目が笑っていなかったことを彼らは見逃さなかった

 茶化したように振舞いながらもふたりの誠意を感じ取った女は
 突然真顔になって自分から身の上話を始めた・・・ 

 自分が今身ごもっていること
 体の弱いことを悲観して子供を生むことを躊躇していること・・・

 『生んだとしても満足に育てることができそうもない』

 そう言って泣いたそうだ

 その彼女にチェ夫妻は誠心誠意尽くして       
 生きることの大切さと子供を生む勇気を説いた

 その後、女はそのホテルで働きながら日々を過ごし
 子供もそこで生んだんだそうだ・・・」

レオの話は長々と続いたが、僕には一向に彼の意図が読めなかった。

「話が読めない」

「そうだな・・・先にその生まれた子供がジニョンさんだと
 言えば、先が聞きたいか?」

レオはそう言って、今度は僕の関心を引いた。

「・・・・・それで?」

「女は子供を生んで一年も経たず亡くなった」

「そんなはずはない・・・ジニョンの母上はご健在だ」

「いや・・生みの親は亡くなってる

 ジニョンさんはその後、兄夫婦に引き取られ育った」

「ジニョンはそのことを?」

「知らないそうだ・・・事実を知っているのは
 チェ一家の人間と・・・ジニョンさんの育ての親・・・
 それと、ごく親しい友人らしい・・・」

 

   ジョルジュは・・・知っているわけだ・・・

 

「ジニョンさんの亡くなった母上の遺言で
 子供を兄夫婦の実子として育ててくれるようにと・・・

 本当の親の温もりも知らず育つことなど・・・
 微塵も感じさせない、明るく太陽のような女の子に・・・

 そう残して息を引き取ったそうだ・・・

 だから、違法とは知りながら・・・
 そこにいた人間達で口裏を合わせ、兄夫婦の実子とした」

「そんな秘密がどうしてお前に漏れる」

「彼らの古くからの友人だ・・・
 ソウルホテルの為・・・そう言って口説いたそうだ」

「・・・ソウルホテルを調べるのは構わないが・・・
 ジニョンに知られないように・・・」 僕は独り言を呟いた。

「何だ?」

「レイモンド・パーキンが僕にそう言った・・・
 後で後悔することになる・・・と・・・」

「パーキンが?」

「ああ・・・ということは、パーキンもこのことを知っている・・・

 そういうことになる・・・

 しかし・・・ジニョンに知られてはいけない
 それがこのことだとしても・・・奴がソウルホテルの買収に
 自信ありげなのはどうして・・・・・・・」

僕はレイモンド・パーキンの真意を頭の中で懸命に探っていた。

 

「ボス・・・俺達は今、NYグランドホテルとプリンスホテルとの
 合併問題を抱えているんだぞ

 ソウルホテルのことをこれ以上調べてどうする・・」

 

   僕が今後奴らの言いなりに生きていかなければ

   ソウルホテルを潰す・・・

   ソウルホテルを潰すも生かすも僕次第・・・

   そう言いたいわけか・・・

   しかしソウルホテルは経営上なんら問題のないホテル・・・

   その優良ホテルを潰す手段は強引な乗っ取りしかない・・・

   それにはジニョンの父上が持つ株が必要

   ジニョンの父がそれを手放すとしたら?

   どんな時?

   それは・・・ジニョンの秘密を彼女に・・・

   そう脅されたら・・・父上はどう動くだろう・・・

 

 

 

「ボス・・・ボス・・・フランク!」

「あ・・すまない・・・」

レオの声が聞こえないほどに瞑想を巡らせていた僕が、やっと正気を取り戻して
彼の声を聞いた。

「どうしたんだ?・・・ボス・・・知ってるとは思うがな・・・
 お前の少ない資産はもう今回の案件で底を付いてる・・・

 そればかりじゃない
 信用取引で損益が出たら、俺達はお陀仏だ 

 頼む・・集中してくれ・・・ソウルホテルのことはもう忘れろ

 これを成功させれば・・・しばらく遊んで暮らせる
 それだけじゃないんだ・・お前の今後の指針となる道も開ける」

「わかってる」

「本当にわかってるんだろうな?
 しっかりしてくれよ・・・俺はお前に賭けてるんだぞ」

「・・・・・」

 

 

 

 

 

さっき、ジニョンを送って行った寮の前で僕は彼女の部屋を見上げていた。

 

   今頃もう眠っているね・・・ジニョン・・・

   君とこうして離れていると 

   心が寒くて・・・寒む過ぎて・・・

   本当に涙が出そうだ・・・

 

   君と出逢って・・・

   まだ三ヶ月しか経ってないのに・・・

   今まで君がいなかった時間の方が

   どれほど沢山あったかしれないのに・・・

   ジニョン・・・ 

   君の笑顔を・・・

   僕にくれる太陽のような笑顔・・・

   それを培ってくれた君の大切な人たちを

   この僕が・・・もし・・・

   もし・・・そんなことにでもなったら・・・ 

   君は僕を許してくれる?

   君の笑顔は変わらずに僕に向けられる 

   ジニョン・・・教えてくれ・・・

   僕はいったい・・・

 

 

         ・・・どうしたらいい?・・・

 


2010/05/18 16:10
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirage sidestory -Reymond-1

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mirage-儚い夢-sidestory Reymond 





私はフランク・シンとの接触を持つ最初の日を待ち望んでいた。

  いつ・・・

  どこで・・・

  彼の目との対峙を試みよう

この頃既にフランクの行動は私の監視下にあった。
いつ接触を持っても問題があるわけではなかったが、私はできれば彼とは、
少々劇的な出会いがしてみたかった。

ある日、フランクがしゃれたレストランを予約したことを知った。
どうもジニョンとのデートを楽しむらしい。

≪おもしろい≫

私は事前に黒い存在を彼の周囲に匂わせていた。

そろそろ彼には、私の影を認識しておいてもらわなければならない。

「Mr.フランク?」

「イエス・・そちらは?」

「そちらがお探しのようでしたので、ご連絡を」

目の前に携帯電話を耳に宛がったまま、呆然と立ち尽くすフランク・シンの姿があった。
写真で見るより、幼い印象だった。しかし、こちらを睨み付けた鋭い目は、

≪私とて震え上がりそうだよ≫



そして私は、ここ一番にと、フランクに更なる脅威を与えた。

「ジニョンじゃないか」

「先生・・レイモンド先生・・」

私は更に彼の至近距離に立った。
その時、ジニョンの肩越しに、彼の驚愕のまなざしがあった。

≪この時の君のその表情を、ジニョンに見せられなかったのは残念だよ、フランク≫



「紹介してくれないの?」 私は当然悪びれることなくジニョンに言った。

「あ・・Mr.フランク・シンです
 フランク・・こちらはレイモンド・パーキン先生。大学の講師でらして、
 私のサークルの顧問をなさってるの」

≪そうなのだよ、フランク・・・

  私は既に・・・君の弱みとやらを見つけていた≫




「フランク・シン?・・いったい、そいつは何者ですか?」

「新進のM&Aハンター・・・」

「M&Aハンター?・・・それが?」

「その男が欲しい」

「欲しいって・・・父さんがその気なら、いくらでも方法がおありでしょう・・」

「いや・・それが面白い男だ・・・
 M&Aの手口は冷徹・・非道・・・法にこそ触れないがマフィア顔負けの強引さがある・・・
 しかし、頑としてマフィアが絡むことを拒む」

「金を積んだらどうです?」

「やってみたさ」

「それで?」

「易々と乗らない」

「なら・・潰しますか?」

「いや・・出る杭は打たず、育てて、我が家の柵にする主義だ・・・」

「フッ・・・そうでした」

「奴は最近ホテル業界に狙いをつけたらしい・・・そこでだ・・・
 NYグランドホテルとカナダのプリンスホテルの合併をえさに蒔いた・・・
 きっと乗ってくるに違いない・・・」

「あれはJAコーポレーションの話では?」

「ああ」

「そこは確かジェームスが・・」

「レイモンド・・・あいつの力なんて・・どれだけのものだ?
 お前だって知っているだろ?今は身内だから使ってやってる」

「・・・・・」

「フランク・シンには類まれな才能がある・・・
 きっとジェームスなど足元にも及ぶまい・・・
 私は何としても奴の頭脳をこの手にしたい・・・」

「それほどの男ですか?この・・・フランク・シン・・・22歳・・・
 ハーバード大学院生・・・飛び級か・・・なるほど・・かなり優秀なんだ・・・
 しかし・・まだ若い・・言ってみればひよっこじゃないですか?」

私は父に差し出されたフランク・シンという男の身上書を軽く指で捲りながら
興味なさげに呟いた。

「いや・・私の目に狂いはない・・・奴なら、きっとこの世界でも一流になる・・・
 お前と同じ匂いがするんだ・・・」

「私と同じ匂い?」

「ああ・・冷静沈着・・・いや冷酷・・冷淡・・・ということかな・・・
 そして人間を誰ひとりとして信用していない・・・」
        
「私が父上すら信用していないとでも?」

「違うかな?・・・」

「フッ・・・・」

「まあ・・いい・・・しかし、全てにおいて完璧・・・
 やることには抜かりがない・・・
 法を犯す人間はお前のように頭が良くなければならない・・・」

マフィアの世界などまったく興味すらなかった私を、強引なまでの手段で
自分の思うようにしてきた父の頑として引かない強い眼差しがそこにあった。

 

「褒められてるんでしょうか・・・」

「褒めてるつもりだ」

「有難うございます・・・
 とにかく・・父さんがそれほどに惚れ込んだ男、ということですね・・・
 それで私に何を?・・・」

「奴の弱みを探せ・・・
 用心深く、弱みと言えるものが見つからん・・・」


今からひと月前、こうして父に、“探せ”と命を受けた「フランク・シンの弱み」・・・


   驚いたろうね・・・フランク・・・

   君にこうして面通りする前に・・・

   私は君のその弱みとやらに近づかせてもらっていた


   君の弱みは意外と簡単に見つかったよ・・・


   ソ・ジニョン・・・

   本当に可愛い人だ・・・

   人間を信じない君が彼女を信じた理由が

   私にはわかるよ・・・フランク・・・


   

「やあ・・ジニョン!復学できたのかい?」

「はい!先生・・・また、よろしくお願いします」

当然、ジニョンの復学は私が手を回して叶ったことだったが、彼女の無垢な笑顔は
どういうわけか、私の胸を刺した。
しかしそんなことなど、どうでもいいことだ。

「ジョルジュも・・久しぶりだね」

「レイ・・お久しぶりです・・丁度良かった・・・ジニョン・・サークルだろ?
 俺はこれから、バイトだから・・・
 サークル終わったら、真直ぐ寮に帰るんだぞ」

「うん・・わかった」

「それじゃ・・レイ・・よろしくお願いします
 こいつの面倒見てやってください」
ジョルジュはそう言って、私にジニョンを託した。

≪ジョルジュ・・フランクが君に頼んだことを忘れたのかい?
 どんなことがあっても”ジニョンから目を離すな”そう言われたんじゃないか?≫

「了解・・」

「行ってらっしゃい・・ジョルジュ」  

≪フランク・・・君はひとつ間違いを犯している
 ジョルジュは既に私に心酔している・・・そのことは知らなかったようだね≫

「慌しい奴だな・・・でも君のことがすごく心配なんだね」

「ええ・・今日は何故だかずっと私にくっ付いて歩くんです
 トイレにまで付いて来る勢いで、困ってました・・・」

「はは・・いいね、大事に思われて・・・」

「兄のような存在ですから」

「兄・・か・・・でもジョルジュにとっても・・・君は妹・・かな?」
「・・・・・」 

「ところで・・・どうしよう・・・」

「何がですか?」

「実は・・・今日はサークル、休みなんだ」

「そうだったんですか?このところご無沙汰してましたから、
 知らなかったわ」

「デートでも・・・する?」

「あ・・いいえ・・・私は行くところがありますから」

「寮に真直ぐ帰れと、言ってなかった?ジョルジュ・・」

「ええ・・・」

「嘘ついた?」

「ええ」

「しょうがないね、さて、私が君の嘘の片棒を担ごう」

「えっ?」

「送るよ・・君の愛しい人の元へ」






「ジニョン・・・お帰り・・・あ・・」

フランクは案の定、怒りを露に私を睨んだ。

「やあ・・フランク・・・」

「・・・・どういうこと?」

≪君に鋭い目で睨まれると、不思議と武者震いがする≫

「あの・・先生がここまで送ってくださったの・・・」

「・・・・・」

「先生・・・ありがとうございました」

「いや・・それじゃこれでお役ごめんだね・・・また明日・・ジニョン」

「ジニョン、先に入ってて・・・先生を下までお送りしてくる」

「あ・・はい・・」



フランクはジニョンを部屋に残し、私と連れ立ってエレベーターに乗り込んだ。

「どういうつもりだ」

「どういうつもり?何のことです?」

「とぼけるな」

「女の子の一人歩きは物騒ですからね・・・
 アパートのエントランスでさえ、何が起きるかわからない・・」

「何が物騒なんだか」 

「フッ・・そういう冷たい言い方は止めてもらえないだろうか
 私は結構小心者でね・・・胸が痛くなる」

「忠告したはずだ。ジニョンに近づくなと」

「それは無理な話です・・・彼女は僕の・・・」

「黙れ!・・・いったい何を考えてる・・・
 お前は、ジニョンに・・・ソウルホテルに何をする気だ」

「何を?・・・それは、君次第だと言ったはずですが?・・・」

「覚えておけ・・ジニョンにもし何かあったら・・お前を・・」

「私を・・・どうする?」

「・・・・・」

「仕事のことと・・・ジニョンには何の関係もないだろ?
 ましてソウルホテルに何の関係がある?」

「関係・・・ね・・・確かに何の関係もない・・・
 だから?それが我々に何の関係がある?」  

フランクの手が掴んだ私の胸倉から離れるのを待って、私は身づくろいをした。  

「・・・・・フランク・・・悪いことは言わない・・・
 黙って、我々の敷いたレールに乗りなさい・・・」

「お前達の乗った列車など・・・必ず脱線させてみせる」

「フ・・・それはそれは・・・楽しみだ・・・
 あ、それからご忠告をひとつ・・・ソウルホテルの件・・
 調べるのはいいが、ジニョンに悟られないように気をつけて・・・
 後で君が後悔することになる・・・」

「・・・・・」

「それじゃ・・可愛いジニョンに・・・よろしく・・・」


   その調子だ・・・フランク・・・もっと・・・怒れ・・・ 

 

   それが早い解決の道だ

   それにそうでなければ


       ・・・面白くもない・・・

 


 

   


 




2010/05/17 22:12
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-30.包囲網

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ジニョンがひとりで待つ家に戻った時にはもう日付が変わっていた。
部屋に入ると、明かりは点いているもののリビングに彼女の姿はなく
ひっそりと静まり返っていた。

ジニョンは寝室にいた。
ベッドで眠るジニョンを確認して僕はほっと胸をなでおろした。
しかし僕がベッドサイドに近づいても、寝ている彼女が動く様子はなかった。

自分の体を抱えるようにして丸くなって眠る彼女に、胸が切なく疼いた。

僕は彼女に向かい合うように体を滑らせ横になると、彼女の髪をそっと指で梳きながら、
しばらく静かに彼女を見つめていた。

「ジニョン・・・遅くなって・・・ごめん・・寂しかったろ?・・・」

僕が彼女に向かって独り言のように小さく呟くと、彼女の閉じたままのまつげの端から
一筋の涙が零れ落ちた。

「起きてたの?」

彼女はそれには答えず、かといって目を開けようともせず、自分の涙を飲みこむように
小さくのどを鳴らした。

「怒ってるんだね?」

彼女はそれにも答えなかった。
ただゆっくりと体を動かして、僕の胸に顔を埋めた。

僕はそんな彼女を胸に受け止め、包み込むように抱きしめた。
彼女は僕の腕の中で声を殺し、この胸を涙で濡らしていた。

「ごめん・・・ごめん・・・ごめんよ・・・ジニョン・・・
 泣かないで・・・お願い・・・泣かないで・・・」


   君の思うように・・・

   君のしたいように・・・

   君の願いは必ず叶えてあげる

   僕が必ず・・・叶えてあげる

   僕は今までに幾度となく君にそう誓っていた

   それなのに・・・


結局彼女はこの夜、言葉を発することなく、いつしか泣き疲れたように
僕に抱かれたまま眠り堕ちていた。

   ジニョン・・・僕は・・・本当に・・・

   君を守る術を・・・

   神に与えられた男なんだろうか

   こうして胸に抱いた君に・・・

   掛けるべき言葉も見つけられなくて

   君の涙にうろたえるばかりで何もできない

   なんて・・・情けないんだ

 



「おはよう・・・やっと起きてきたね・・急いで、顔洗っておいで・・・」

「うん・・・早いのね・・・ドンヒョクssi・・・」

昨夜のことで、気まずい思いを抱きながらもジニョンは懸命にいつもと変わらない笑顔で
僕に接しようとしていた。

朝食にとコーヒーを淹れながら、僕も彼女に自然を装って笑顔を向けた。

「早く朝食済ませて?・・・遅れるよ」

「えっ?」

「学校・・・」

「えっ?」

「僕も・・NYに用があるんだ・・・送っていく」

「いいの?・・行っても・・」

「ん・・」

「ほんとに?」

「しつこい。・・・早くしないと気が変わる」

「ありがとう!ドンヒョクssi!ありがとう!」

ジニョンは僕の首に細い腕を思い切り巻きつけて、喜びを表した。

   
   ジニョン・・・僕はきっと・・・

   君のその微笑に出逢うためにこの世に生まれ 

   その笑顔を守るために・・・生きているんだね

   足元すら見えない霧の中に立っていようとも・・・

   君の笑顔が僕に寄り添うと・・・

   ほら・・・聞えるだろ?

   僕はこんなにも心を弾ませる

 



僕はジニョンの学校に近づくと、校門から少し離れた沿道で車を止めた。

「ドンヒョクssi・・・ありがとう・・それじゃ・・行ってくるわね」

「待って・・まだだよ」
急いで車を降りようとするジニョンの腕を掴んで、僕は言った。

「えっ?」

「まだ来てない」

「まだって・・・誰が?」

「・・・・ジニョン・・・約束をして欲しい」 
僕は車の後方から、こちらに向かって走って来る男の姿をバックミラーで確認しながら
ジニョンに言った。

「何?」

「学校ではジョルジュのそばを離れないで」

「ジョルジュの?・・・どうして?」

「・・・・ジニョン・・さあ、もう・・行っていいよ」

「・・・ドンヒョクssi?・・」

理由を言わない僕にジニョンは怪訝そうな顔を向けながら、助手席のドアを開けた。


「授業終わったらアパート・・・来る?」


   君の近くにいるレイモンドに気をつけて・・・


   そう言えたら・・・どんなに楽だろう・・・

   でもそれは却って君を怖がらせることになる・・・

   それに・・・

   レイモンドの含んだ物言いが何故か気にかかっていた


「う・・ん・・」

「じゃ・・待ってるよ」

僕は不安げな彼女に「何も心配は要らない」というように笑顔でウインクをした。
素直な彼女がホッとしたように笑顔を返した。

そして僕は・・・
走って来たジョルジュがジニョンに近づく前にアクセルを踏んだ。

 

「ジニョン!」

私がその声に振り向くと、ジョルジュが息を切らせながら駆け寄ってきた。


「・・・・・ジョルジュ!・・・どうしたの?そんなに急いで・・・」

「・・・・どうしてって・・あいつが急に・・・ま・・いいよ・・・
 復学手続き・・・一緒に行くか?」

「え・・ええ・・・」

ジョルジュの前からあんな形で去ってしまってから二週間、今度会う時は、
きっと気まずい思いをするだろうと思っていた。
でも彼は以前と変わらず優しい眼差しのまま私に接してくれた。

   ジョルジュ・・・

   やっぱり私はあなたとは笑顔で向き合っていたい

   子供の頃・・・何の躊躇もなくあなたの腕にぶら下がっていた

   あの頃に戻りたい・・・

   それは・・・私のわがまま?・・・ジョルジュ・・・

そんなことを考えながら私は、先を歩くジョルジュの横を小走りに付いて行った。


 

 


「それで・・・どうっだった?調べはついたか?」

「韓国のソウルホテルの株は社長が15%、その妻が10%、
 ふたりの息子がそれぞれ10%ずつ
 親類縁者や親しい友人で20%保有している・・・たとえ
 市場や海外に出回っている分を全て買い占めたところで35%・・・
 乗っ取りまでは無理な話だ」

「親類縁者、友人?そんなもの当てになるか?全て裏切ったら・・・」

「たとえ、その殆どが裏切っても、そのうちの
 8%を持っている人間が決して裏切らない」

「何故そんなことがわかる?」

「その人間がソウルホテルにひとかたならない恩義を受けているからだ」

「ひとかたならぬ恩義?」

「ああ・・・ソ・ヨンス・・・ジニョンさんの父上だ」

「ジニョンの?」

「ソウルホテルとソ一家との関係・・・それも調べろと言ったな・・・ボス・・・
 付き合いは18年前からだ・・・詳しいことは今までの調べではまだわからないが
 とにかく、ソ・ヨンスはソウルホテルにというより、
 ホテルの社長一家に強い恩義を感じていることは間違いない・・・
 “彼は決してソウルホテルを裏切らない”誰もが口を揃えてそう言うそうだ
 今、彼はソウルホテルの顧問弁護士をやってる
 至って忠実で、堅実的な仕事ぶりだそうだ」

「・・・・・」

「とにかく・・詳しいことはまだ調査中だ・・・しかし、ボス・・
 今回の案件と韓国のソウルホテルにいったい何の関わりがあるんだ?」

「わからない・・・」

   本当にわからなかった

   しかし、何かがある

   ソウルホテルののっとりは決して楽なことではない・・・

   なのにどうしてレイモンド・パーキンはあんなにも
   自信ありげなんだ・・・


 

 

「やあ・・ジニョン!復学できたのかい?」

「はい!先生・・・また、よろしくお願いします」

「ジョルジュも・・久しぶりだね」

「レイ・・お久しぶりです・・丁度良かった・・・ジニョン・・サークルだろ?
 俺はこれから、バイトだから・・・
 サークル終わったら、真直ぐ寮に帰るんだぞ」

「うん・・わかった」

「それじゃ・・レイ・・よろしくお願いします
 こいつの面倒見てやってください」
ジョルジュはそう言って、ジニョンをレイモンドに託した。

「了解・・」 レイモンドは優しげな笑みを浮かべた。

「行ってらっしゃい・・ジョルジュ」  

ジョルジュは何度もこちらを振り向きながら、大きく手を振って校舎を出て行った。
   

「慌しい奴だな・・・でも君のことがすごく心配なんだね」

「ええ・・今日は何故だかずっと私にくっ付いて歩くんです
 トイレにまで付いて来る勢いで、困ってました・・・」

「はは・・いいね、大事に思われて・・・」

「兄のような存在ですから」

「兄・・か・・・でもジョルジュにとっても・・・君は妹・・かな?」
レイモンドが突然、ジニョンの顔を下から覗き込んで言った。

「・・・・・」 

「ところで・・・どうしよう・・・」

「何がですか?」

「実は・・・今日はサークル、休みなんだ」

「そうだったんですか?このところご無沙汰してましたから、
 知らなかったわ」

「デートでも・・・する?」

「あ・・いいえ・・・私は行くところがありますから」

「寮に真直ぐ帰れと、言ってなかった?ジョルジュ・・」

「ええ・・・」

「嘘ついた?」

「ええ」

 

   ≪フランクのところへ行くなんて、ジョルジュには言えないわ≫

「彼のところへ?」 レイモンドは小首を傾げ聞いた。

「・・・・・」

「それじゃ、送っていこう」

「あ・・いいえ・・」

   ≪それは・・困ります≫

「ジョルジュに君を頼むと言われた。僕は彼に嘘をつきたくはないんでね」

「でも・・」

「ジョルジュに言いつけるよ」 

レイモンドがまた私に顔を近づけて、悪戯っぽく私を睨んむとそう言った。

「・・・・」


   レイ・・・

   あなたの瞳は・・・フランクと同じ色なんですね

   その中に輝く星も・・・とても似ている・・・

   いやだ・・・私ったら・・何を・・・

 

「どうしたの?」

「いいえ・・・何でもありません」

「送られる方が・・・まさか怖いとか?」

「いいえ!レイ・・・あなたは紳士ですもの
 それにとってもお優しい方だわ」

「光栄だな・・・君にそう言ってもらえると・・・
 僕は自分を優しいなどと思ったことがないんでね」

「いいえ!・・・目を見ればわかります」

「目?」

「はい・・・あなたも澄んだ目をしていらっしゃる」

「あなたも?・・・」

「ええ」


 

 

「ジニョン・・・お帰り・・・あ・・」

「やあ・・フランク・・・」

ジニョンだと思って笑顔で開けたドアの端に思わぬ奴を見て、僕は一瞬にして顔を曇らせた。

「・・・・どういうこと?」

「あの・・先生がここまで送ってくださったの・・・」

「・・・・・」

「先生・・・ありがとうございました」

「いや・・それじゃこれでお役ごめんだね・・・また明日・・ジニョン」

「ジニョン、先に入ってて・・・先生を下までお送りしてくる」

「あ・・はい・・」

 

 

 

「どういうつもりだ」

ジニョンが部屋に入ったばかりなのを気にかけて、僕は少々小声で
正面のエレベーターの扉に向かって声を発した。

「どういうつもり?何のことです?」

「とぼけるな」

「女の子の一人歩きは物騒ですからね・・・
 アパートのエントランスでさえ、何が起きるかわからない・・」

奴もまた、僕に合わせて正面を向いたまま答えていた。

「何が物騒なんだか」 僕は吐き捨てるように言葉を投げて彼を睨んだ。

「フッ・・そういう冷たい言い方は止めてもらえないだろうか
 私は結構小心者でね・・・胸が痛くなる」

エレベーターのドアが開いて、奴が先に乗り込むと僕は後から彼に続いた。

「忠告したはずだ。ジニョンに近づくなと」

そして僕はエレベーターの扉が閉まった瞬間に奴の胸倉を掴んでいた。

「それは無理な話です・・・彼女は僕の・・・」

「黙れ!・・・いったい何を考えてる・・・
 お前は、ジニョンに・・・ソウルホテルに何をする気だ」

「何を?・・・それは、君次第だと言ったはずですが?・・・」

「覚えておけ・・ジニョンにもし何かあったら・・お前を・・」

「私を・・・どうする?」

奴は僕の威嚇にも怯むことなく、僕に胸倉を掴まれたことで上にあがった顎をそのままに、
目だけは僕を冷ややかに見下ろしていた。

「・・・・・」

僕はゆっくりと奴のシャツから拳を緩め、静かに言った。

「仕事のことと・・・ジニョンには何の関係もないだろ?
 ましてソウルホテルに何の関係がある?」

「関係・・・ね・・・確かに何の関係もない・・・
 だから?それが我々に何の関係がある?」

レイモンドは茶化すようにそう言って、僕をあざ笑うように見た。        

「・・・・・フランク・・・悪いことは言わない・・・
 黙って、我々の敷いたレールに乗りなさい・・・」

「お前達の乗った列車など・・・必ず脱線させてみせる」

「フ・・・それはそれは・・・楽しみだ・・・
 あ、それからご忠告をひとつ・・・ソウルホテルの件・・
 調べるのはいいが、ジニョンに悟られないように気をつけて・・・
 後で君が後悔することになる・・・」

「・・・・・」

「それじゃ・・可愛いジニョンに・・・よろしく・・・」

エレベーターの扉が開くと同時に、奴は不適な笑みを残して消えた。
レイモンド・パーキンの不気味さだけが、エレベーターの空間に残され
包囲網と化した箱の扉は、僕を迷宮に誘い込むかのように妖しく閉じた。

 

    《  その調子だ・・・フランク・・・

 

              もっと・・・怒れ・・・  》

 

 


 

   


 


2010/05/08 22:55
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

創作mirage-儚い夢-29.かけひき

Photo




      

「何してるの・・・」

僕がシャワーを浴びて寝室に戻るとジニョンがボストンバックにいそいそと
身の回りのものを詰めていた。

「明日、ドンヒョクssi、NYでしょ?一緒に出ようと思って・・・」
心なしか嬉しそうに見えた彼女が癇に障った。

「一緒にって?」 僕は冷めた口調でそう言った。

「寮に・・」 彼女はそう答えながら不思議そうに首を傾げた。

「どういうこと?」

「だって・・学校行かないと・・でも、ここからでは通うのは無理だわ」

「ここを出て行くってこと?」

「そうじゃないわ・・・学校に通う間は寮で・・
 週末はこっちへ戻ってくる・・・ドンヒョクssiだって
 お仕事はNYの方が便利でしょ?」

「駄目だ・・・勉強なら、僕が教える・・」

僕は彼女からボストンバックを取り上げるとそれをクローゼットの棚に投げ入れた。

「ドンヒョクssi・・・教えるって・・・そりゃあ、あなたは教え方上手だけど・・・」

「なら・・問題ないでしょ?」

「でも・・・」

「でも・・何?」

「でも!・・・昨日までとは状況が違うわ・・父も学校へ行くことを認めてくれた」

「だから?」

「だから・・・私は学校で勉強がしたい」

「何故?」

「何故って・・」

「あいつがそう言ったから?」

「あいつって?・・・レイモンド先生のこと?この前のこと、まだ怒ってるの?
 あの方は関係ないわ・・・でも!
 私にだって、夢がある・・・学校で学びたいことも沢山ある」

「一番の夢は僕だと、言わなかった?」

そんなことを言いたかったんじゃない。でも言わなくてもいい言葉がつい口を突いて出た。
僕のその言葉に彼女が一瞬悲げに瞳を曇らせた。

   君の言いたいことはわかってる・・・

   僕の言葉は揚げ足取りに過ぎない・・・だけど・・・


「あなただって!私のやりたいこと・・何でもさせてあげる・・・そう言ったわ!」

   そうだよ・・その気持ちは嘘じゃなかった・・しかし・・・

   あいつがのうのうと待ち構える学校に・・・

   どうして君を行かせられる?


「・・・・とにかく・・・明日は連れて行かない。ここで待ってて・・」

僕は聴く耳を持たないというようなそぶりで彼女に背を向け、ベッドに横たわった。

「・・・・・・私はここで・・・毎日・・じっと、あなたの帰りを待ってるだけ?」 
静かにそう言った彼女の声は至って冷静だった。

僕はその言葉を背中で聞きながら黙って目を閉じた。

   
   いいよ・・・僕のわがままと思うなら・・・

   それでもいい。・・ジニョン・・それでも・・行かせたくない・・・

 

 

 

僕がNYグランドホテルのエントランスホールに入ると、姿勢を正したふたりの黒服の男が
僕に近づき深々と頭を下げた。

「お待ちしておりました・・・こちらへ・・・」

「・・・・・」

僕は彼らに誘導されるままに、エレベーターホールへと向かい、エレベーターの前で
待っていたもうひとりの男に促がされて、僕はホテルの重厚なエレベーターBOXへと
足を踏み入れた。

   この中の向こうには、どんな運命が待ち受けているのだろう

   少なからず、この先にあいつが・・・

   そのボスとやらと共に待っているわけか・・・

ホテルの最上階に降り立つと、迎えの男達が更に加わった。
広々とした廊下にはスーツをきちんと着こなしたいぶかしい男達が等間隔で居並び、
僕に深々と頭を下げたまま微動だにしなかった。

どうも、この階は全てパーキン家の占有スペースのようだった。
そして、一番奥の部屋に通された僕を例の男が涼しい顔で待ち受けていた。

   レイモンド・パーキン

「お待ちしてました・・・Mr.フランク・・・
 先日はお楽しみのところをお邪魔して・・申し訳ありませんでした」

奴はにこやかに握手を求めながら僕に近づいたが、僕は彼の握手には応じなかった。
今日はジニョンの手前を気にして、奴に愛想を振り撒く必要などなかったからだ。

「用件を・・」 

「フッ・・・どうやら、私は嫌われたようですね」

「無駄な時間を費やしたくない。」 僕は無粋なまでに端的に言った。

「そうですか・・・しかし私は、結構あなたを気に入っている・・・
 あなたとの会話を、決して無駄とは思わないが・・・
 まあ・・いいでしょう・・・ではこちらへ・・」

僕を案内した男達は、入り口付近で佇んだまま動かなかった。
そしてその先を案内したのはレイモンド直々だった。

そのスイートルームの中で一番奥の部屋のドアを彼は開けると、
僕に中へ入るよう、目で促がし、僕はそれに黙って応じた。

広々としたその部屋の窓側に置かれた大きなデスクの向こうに、ひとりの男が
穏やかな顔で僕を迎えていた。

「Mr.フランク・・・やっと会えましたね・・恋焦がれてましたよ・・・」

ボスと呼ばれるその男は、至って温和な口調で僕に親しみを込めた。

「ご用件を伺いましょう」

しかし僕はここでも、無駄な時間を惜しむようなそぶりを強調していた。

「自己紹介もさせていただけないのかな?」

「存じ上げています・・・そちらも私をよくご存知のようだ・・・」

「そうですか・・・では・・・」 男はレイモンドに視線を向けて、顎をしゃくった。

「仕事に関することは全て私が一任されています
 私がお話いたしましょう・・・
 Mr.・・・あー・・フランク・・とお呼びしても宜しいかな・・・時間を省く意味で・・」

奴は皮肉を込めてそう言うと、にやりと口元だけで笑った。

「どうぞ・・」

「では、フランク・・・率直に伺います。このNYグランドホテルの案件・・・
 今、何合目まで来てますか?・・・」

「・・・・・」 僕は奴の問いかけに最初から言葉を詰まらせてしまった。

    何もかも・・・お見通しということか?
    

「あなたが既に着手していることは承知してます
 私の調べでは・・・2合目・・・といったところかな・・・」

「ご存知なら、訊ねる必要もないのでは?」 しかし僕は努めて冷静を装った。

「ごもっとも・・・まぁ、確認です・・・
 あ・・それから・・誤解のないように申し上げますが・・・ 
 我々はそれについて意義を申し立てたいのではありません・・・
 あなたが動くことには何ら問題はない・・・
 何せ父は、我が従兄殿よりあなたの・・・
 実力の方が勝っていると考えていますのでね・・・
 それに仕事は早いに越したことはない・・・だが・・・」

「・・・・・」

「・・・ここは私達の・・・この言葉は私は好きではないが・・・
 いわゆる縄張りです。つまり我々にも面子というものがある・・・

 そこで・・・です・・・
 あなたには存分に力を発揮なさって成果をあげて頂くとして・・・

 その代わりと言っては何だが・・・
 最終的にはジェームスの・・・あ・・ご存知ですよね・・
 我が従兄弟です・・・その彼の仕事としてもらいたい・・・
 もちろん・・分け前は存分にお払いしますよ」

「分け前?」 僕は首を傾げて、奴の言葉に対して呆れたように訊ねた。

「・・・はっ・・・何を言うのかと思ったら・・あいにくだが、従えない話だ」

      
「んー・・・・・ということですよ・・ボス・・・」

そう言いながらレイモンドは、ただふたりの会話を前に目を閉じ黙したままのボス、
アンドルフ・パーキンを見た。

アンドルフは口元に笑みを浮かべるだけで、結局のところ言葉を発しなかった。
代わって、続けたのはやはりレイモンドだった。

「フランク・・・あなたはまだ、若い・・・今・・
 この世界で生きていくレールをひとつひとつ敷いている段階とも言える
 君のその純粋で真直ぐなレールに・・・
 小さな石ころで邪魔をしてもいいんだろうか」
レイモンドはゆっくりとした口調で、笑顔を交えながらそう言った。

「回りくどい。」

「ジニョン・・・」

「ジニョンの名前を口にするな」

「フッ・・・それは無理だ・・・私は彼女の・・」

「・・・・・・!」

奴の知ったような口ぶりが、奴がジニョンの名を口にすること自体が・・・
ひどくしゃくに障っていた。

「フランク・・そんな怖い顔しないで・・・落ち着きなさい
 いつも冷静沈着なあなたが彼女のこととなるとそれを失ってしまう
 あなたはそのことに・・・ご自分で気付いておられるかな?」

「・・・・・」
     
「韓国のソウルホテル・・・もちろん、ご存知ですよね・・・」

「・・・・・」

「そのホテル、結構繁盛してます・・経営状態は全く問題ない・・・しかし・・・
 そのホテルを潰す力が我々にはあります・・・
 しかも、さほど時間をかけることなく・・・簡単に。」

「それが僕と何の関係が?」

「関係・・・確かにあなたとは何の縁もない・・・しかし、ジニョンにはどうだろう・・・
 彼女にとって・・彼女の家族にとって・・ソウルホテルというところが
 どれほど思い入れのあるものか・・・あなたはご存知かな?

 そのホテルを・・・経営にまったく問題ないホテルを瞬時に失う
 その原因が、あなたの・・・一言・・・そういうことになる。」

 

    
       
見送りを頑なに拒んで僕は急いでエレベーターを降りた。
とにかく一秒でも早くここを出たかった。エントランスに向かい、ホテルのドアマンから
車のKEYを受け取ろうとした、その時だった。背後から突然男の声が僕に向かっていた。

「やっぱり・・・あなただったのか・・・」 振り向くとそこにはジョルジュが立っていた。

「君か・・・」

「この・・NYグランドホテルで働くことになりました」

彼が何を言わんとしているのかは想像がついていた。

「それが?」

「父から突然、言われました・・・ついこの間まで
 私の帰国を喜んでいた父が・・・帰ってくるなと・・そう言ったんです」 

「・・・・・・」

「当然、ジニョンの留学も続行の許可が出ました・・・
 随分と・・都合のいい話だ・・・誰かにとっては・・・」

「言ってる意味がわからない」

「とぼける気ですか」

「言っておくが・・・君がこのホテルで働くことと・・僕は何ら係りはない・・・」

「まあ・・いい・・・
 ジニョンも学校へ通うことは望んでいたことだ」

「僕は正直、彼女を学校には行かせたくはない」

「傲慢だな」

「そう思ってもらっていい」

「あなたの思い通りになるかな」

「とにかく・・」

「あいつには・・・こうと決めたら、意志を曲げない
 誰にも止められない頑固さがある」

「フッ・・・確かに・・・」

「私があなたのことをあいつの父親に話さないのは
 あなたの為じゃないことはわかっていますよね
 あいつの頑固さと父親を戦わせたくない・・・それだけのことです」

「いつの日か彼女の父上には認めていただく」

「その前に目を覚まさせる。」 ジョルジュの目は真剣そのものだった。

「・・・・・・」

「きっとあいつも気付く時がくる・・・
 共に歩くのがあなたではないことに・・・」

「共に歩くのは君だと?」

「この地に留めることには成功したかもしれないが・・・
 あいつの夢まではあなたには壊せない」

「夢・・・か・・・」

「そうです・・・私と・・・ジニョンの夢だ・・そこにあなたはいない。」

彼の力強い瞳に僕は何故か腹立たしさを覚えなかった。
彼もまたジニョンを心から愛している男。僕と同じ想いを抱えた男なのだと、
この時素直にそう思えた。

「君に頼みがある・・・」 僕はジョルジュに切り出した。

「頼み?」

彼は自分の挑発に動じた様子を見せないばかりか、頼みがあると言った僕を怪訝そうに見た。


「彼女が学校にいる間・・・目を離さないでもらえないか・・・」

「・・・・・?」

「じゃ・・・」 僕はそれだけを言うと、彼を残してホテルを後にした。

 




「これで彼はこの仕事を急ぐはずです」

「お前の思う壺・・・そういうことか・・・」

「ええ・・・この案件の出所がもともと我々であること・・・
 それに気付く頃には、彼はきっと成功の道を辿っている・・・」

「その後はどうなる・・・奴は私の手元に残るかね」

「最後には・・・背後に必ず我々がいることに気付く・・・
 この世界で生き抜くためには・・我々の力が必要不可欠であることにも・・・
 そして・・・それに気がついた時には・・・もう既に遅い」

「用意周到なお前の手腕には流石のフランクも敵うまい・・・」

「用意周到?・・・フッ・・・
 それはあなたには敵わないことです・・・父上・・・」
      

 


「レオ・・・時間を作れ・・・今すぐだ」

僕は確かにこの時、少しあせっていた。仕事のことと、ジニョンのことが同時に絡み合って
僕の思考を冷静に保たせてはくれなかった。

   落ち着け・・・フランク・・・

   焦ったところで・・・何も生まれはしない


   あいつの真意が何処にあるのか・・・

   今回の案件を僕に成功させた上で・・・
   それを飽くまでも自分達の手柄としたい・・それだけのことなのか?

   しかしたったそれだけの為に・・・
   韓国のソウルホテルをも巻き込む必要が何処に?・・・


僕にはまだアンドルフ・パーキンの、いや、レイモンド・パーキンの真意が測れなかった。

僕はジニョンをこの手に抱いたまま・・・

奴らが放つ鋭い弾丸を・・・


    ・・・避けることができるだろうか・・・

   


    


         


       

 


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