2006/12/08 21:28
テーマ:ひとりごと カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

『ベルばら』を読んだ事はありますか?

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 ものすごく久しぶりに『ベルサイユのばら』を読んでいます。

 フランス革命前夜を舞台池田理代子さんのこのコミックについては、ここで改めて説明する必要など、なにもないですね。
 ここで私が言いたいのは、同じようにこれを読んだ友人が力説したことについてです。

 言うまでもなく、彼女はヨンジュンssiをこよなく愛する一人なのですが、これを読んだのは初めてとのことでした。
 これが超有名だということは、十分知っていたのですが、なんとなく今まで手にとる機会がなかったようなのです。
そして・・・、彼女はすぐにとりことなってしまったのでした。

 このあたり、ヨンジュンssiの超有名なドラマのようですね。

 まあ、その超有名なドラマはさておいて、ベルばらにはまってしまった原因として、彼女は、私の顔を見るたびに、熱くかたったのです。
 それは、やはりというか、ヒロイン(いや、ヒーローかな?)であるオスカルにあるというのです。


 ご存知のように、オスカルは、貴族の令嬢として生まれながら軍人とさせるために男として育てられたのでした。そして、その心のうちには、愛する男性への思いが秘められていたのです。
彼女は、そのあたりに魅かれたというのです。

 もうおわかりでしょう?
 心のうちに愛の炎をおしかくして、自分の課せられた任務にまい進するオスカルの姿に、『彼・ヨンジュン』を、わがヨン友は重ね合わせたというのです。
 任務に忠実であること、自ら良いと信じる人々に忠実であること、それがオスカルの魅力のひとつなのですが、そのために彼女は、愛や女としての部分を犠牲にしなければならなかったのでした。
 男と女の違いはありますが、そのあたりが『彼』と重なるというのです。

 もちろん、オスカルの両性的な部分が、ヨンジュンssiが時々感じさせるものに通じるものがあるとも言いたいのでしょうが・・・。

 なるほど・・、と思うと同時に、私などは、心に抱いた愛を押し隠そうとして苦しむオスカルを、かげにひなたに守り、かつ心から愛していたアンドレにも、また、『彼・ヨンジュン』の姿に重ね合わせてみたりもするのです。

 これを読んでくださる方がいるのなら、ちょっとお聞きしたいです。

皆さんは、『ベルばら』を読んだ事はありますか?


2006/12/07 22:58
テーマ:【創作】高句麗王の恋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

海翔ける~高句麗王の恋 耐えること

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☆「ひっぱりますねえ・・。」なんて言われちゃったので、何とかここまで書いてみました。

でも、Rまでには至らなかったので、期待はずれかも・・・・。

ブログにはRは入れないほうが・・、というご意見もあるので、どうしようかと思案中です。

でも、いずれ避けて通れない道なんですけどね。

次回は、そのあたりも入れてみようかな。

 

~~~~~~~~~~~

 

ジョフンの言葉は、しばらくの間タシラカをしあわせな気持ちにさせた。

高句麗王タムトクとは、百済王によれば、『残虐で野蛮で女好きな・・』とのことだったのに、この国に来てから耳にした話では、若いながら、北方の雄、高句麗の名を不動のものにした英雄だということだった。

そして、彼の乳母であるジョフンは、女であれ男であれ、まっすぐな方なのだといったのだ。

ジョフンの言う通りかもしれないと、タシラカは思った。

彼女がその日草原で見たタムトクとは、無邪気に雲雀の姿を追う少年の心を持ち、
今夜訪ねて行ってもよいかなどと唐突に言って、彼女を戸惑わせた人であり、
それから、ふいにタシラカの頬にくちづけして、驚かせた人だった。


 だが、彼がどんなに心魅かれる人であっても、彼女がどんな思いを抱いたとしても、彼は敵国の王であり、タシラカは人質の身なのだ。
それは、何も変わらないままなのだと、彼女は当たり前のことをかなしい気持ちで受け止めた。


それに、タムトクはもうすぐ正妃を迎えるとのことだった。
妃となるはずの姫をさしおいて、なぜ彼は自分などに声をかけたのだろう?
彼の言葉のどこに、ジョフンの言う真実があるというのか・・・?

本当は、彼にとってタシラカは、ほんのいっときの気まぐれな相手でしかないのかもしれなかった。
となれば、彼がやってきたとき、タシラカはどうすればいいのだろう?


 その一方で、彼が訪ねてきたら長老屋敷の人々はどう思うだろうと、タシラカは思った。
誰にも何も知らせていなかったから、その時がきたら皆さぞびっくりするだろう。
だいたい、自分たちの屋敷にいる人質の娘のところに王が毎朝通ってくるのさえ、
ジョフン以外の屋敷の人々は、首をかしげている様子さえあったのだ。
もしかしたら、タシラカのことを、彼らの敬愛する王をたぶらかしたふとどきな娘などと考えるかもしれない・・・。

また、タシラカといっしょに人質として引き渡された侍女たちは、百済や倭に対する裏切り者だと思うに違いなかった。
特に、ハルナなどは、あからさまにタシラカにきびしい視線を浴びせているのだ。

どちらにしても、彼が今夜やってきたら、彼女は孤立することになるのかもしれなかった。
それでもいいわと彼女は小さな笑みを浮かべた。
頬には、まだ、あのふわりとしたくちづけの感触が残っているような気がしていたのだ。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。


 タシラカは落ち着かない気持ちのまま、夜を迎えた。
だが、その夜遅い時刻になっても、タムトクは姿を見せなかった。

何ごとか城であったのかと思ったが、何の知らせもない。
タムトクの重臣であり、長老家の長でもあるジュンギも、いつものように夕刻には城からもどっていたのだ。
屋敷の中は変わったことは何もなく、すべていつものままだった。
ジョフンさえ、昼間、つんとして彼女の前から立ち去ったのに、
けろりとして、言ったのだ。

『早くおやすみになったほうがいいですよ。
明日は朝からまた、タムトク様がいらっしゃるでしょうからねえ。』

仕方なしに、タシラカは侍女たちといっしょに、早々に床についたのだった。

 
 寝静まった屋敷の中で、目をさえざえとさせたまま、タシラカは馬の駆けてくる音がしないかと耳をすませていた。

だが、何の物音もしないまま時は経っていく。

今となっては、物静かなたたずまいも、やさしい笑みも、『そなたといっしょにいたい』などという言葉の熱さも、どこか遠い世界のことのように思えてくるのだった。

そして、残ったのはただひとつの思いだけだった。

やっぱり、彼は高句麗の王。
そして、私は人質・・・。

不安な目をした人質の娘に同情して、
ほんのいっときいい夢をみせてやったとか・・?
それとも、ほんの余興程度に、からかってみただけとか・・・?
そういうことなの、タムトク様?

もしかしたら、明日の朝、彼はいつものように馬で駆けてきて、
何事もなかったかのように、
血のついたままの山鳥か何かをどさりと彼女の前に投げ出したりするのだろうか?
ならば、そのときは、私も何食わぬ顔で朝の挨拶などをしなければならない。
にこやかに?
そう、この上なくにこやかに。
いかにも夜中お待ちしていましたのに、などという顔で出迎えてはいけない。
そう、間違っても、赤い目のままうらみ言を言ったりしてはいけないし、
涙をみせたりしてはいけない・・・。

彼は敵国の王なのだから。
私は人質の身なのだから。
何を、どうされても仕方がないけど、
でも、私は、倭の王族に連なる身、
心を強く持って・・、
泣かないで・・、
そう、高句麗の王などには負けないで・・・。

タシラカはそう心に決めた。

それでも、たとえようもなく、タシラカはさびしかった。

タシラカの思いだけが空回りして、部屋の隅にひっそりと息づいたまま、
夜は更けていった。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


 どれくらい時間が経ったか・・・、
うとうととまどろんだタシラカは、短い夢をみた。


明るい朝の日差しの中、いつものようにやってきたタムトクにタシラカは言う。

『昨夜は、お見えにならなかったんですね。』

タムトクは無邪気に笑った。

『ハハハ・・・、
私を待っていたのか?
許せ、ほんの戯言のつもりだったのだ。
まさか、そなたが本気にするとは思わなかった。
まもなく、私は妃を迎えることになるが、
そなたがその気ならば、一度くらい相手をしてやってもよいぞ。』

あら、本気になんかするはずはないじゃないですか、
タシラカはそう言おうとした。
でも、涙があふれて・・・、
心がずきずきと痛んで・・・。


タムトク様!
思わず、そう叫んでいた。


そして目が覚めた。
頬が涙でぬれていた。
胸が痛かった・・・。


あたりはまだ薄暗かったが、薄く朝の光が差し込もうとしていた。
やはり彼は来なかったのね、そう心の中でつぶやく。
私は、こんなところで何をやっているのだろう、
ちょっとからかわれた言葉を真に受けて、ひとりでどきどきしたりして、
ばかみたいだと・・。
もう、やめよう、
誰も信じるのは・・・。
誰も愛するのは・・・。
誰も・・・。


そのとき、屋敷の外で、馬のいななきが聞こえた。


 おもわず、タシラカは立ち上がっていた。
引き戸を開け、部屋の外に出る。
薄暗い回廊には誰もいなかった。
静けさに包まれたままの回廊を、小走りに走る。
表門に通じる扉のある方へ・・。

途中、見覚えのある侍女が、続いてジョフンが・・、
突然現れたタシラカを見て、驚いたような顔で何か言ったようだったが、
彼女は何も答えなかった。

タムトク様・・!

ほどなく、外に通じる扉を開けた。

冷たい外気が頬に触れる。


タシラカの視線の先に、見覚えのある姿が、馬からひらりと跳び下りるのが見えた。
胸の奥につんと痛みを感じる。
私は、こんなにもこの方が好きなのだ・・・、
この方を待っていたのだ、
タシラカはぼんやりとそんなことを思いながら、
開け放った扉の前に立ちすくんでいた。

 

「こ、これはタムトク様、今日はまたお早いことで・・・。」

屋敷の門を守る長老家の家臣のひとりが、びっくりしたような声を上げる。

「早いのではない、遅すぎたのだ。」

そんなことを言う大きな声・・・。

そして、後ろに従者らしい若者を一人従えて、彼は足早にこちらに向かって歩いてきた。
すぐに、扉の前にたたずんでいる彼女を見つける。
足を止めて、うれしそうな笑みを浮かべる。

「・・・待っていたのか?
すまない、急用ができてどうしても来る事ができなかった。」


。。。。。。。。。。。。。。。。


 彼女は何も答えないまま、扉の前に立っていた。

「タシラカ、怒っているのだな?」

タムトクの言葉をきっかけに、彼女はくるりと後ろを向くと、
屋敷の中に入っていってしまった。

泣いていたような・・・?

すぐに、彼女の後を追う。


 屋敷の中に入ると、そこで待ち構えていたジョフンが、がしっと彼の腕をつかんだ。

「ちょっと!どうなってるのよ?」

「なんでもない!」

短く答え、その手を振りほどくと、小走りに駆けてゆく彼女の後ろ姿を追った。


 彼女が駆け込んだ部屋の引き戸の前まで来ると、声をかけた。

「入るぞ。」
 
中からは返事はなかったが、かまわず手をかけると、すっと戸は開いた。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


彼女は向こうを向いたままでいる。

「どうしようもなかったのだ、タシラカ。
事情があって、連絡もできなかった。許せ。」

向こうを向いたまま、意外なほど明るい声で、彼女は言った。

「もう、お見えにならないと思っていました!」

「タシラカ・・・」

「タムトク様は、・・・からかわれたのかと思いました。」

「そのようなことを・・・・」

ふっと笑いかけて、今度は真剣な顔になる。

「そなた、本当に、そんなことを思っていたのか?
私がそなたをからかって、それで・・・?」

タムトクはたまらない気持ちになった。
彼女の小さくふるえる肩に手を置くと、後ろから抱き寄せていた。
こめかみのところに唇を寄せて言う。

「私がそんなことをすると思うか?」

彼女はいやいやをするように、首を横に振る。

「私は・・・、タムトク様のことをよく存じません。
お会いしたのも数えるほどですもの。
でも、この方は信じられると、そう思えたから、だから、私は昨日・・・。
なのに、タムトク様は・・・。」

涙がすーっと頬をつたう。

「タシラカ・・・」

「・・いいえ、ほんとは私、
タムトク様はおいでにならないと・・そう思っていました。
お待ちしてなんか、・・いませんわ。
さっさと・・寝てしまいましたもの・・・。」

「わかった。もう、よい。私が悪かった。」

タムトクは、彼女をくるりと自分の方に向けた。

「もう、よい、よくわかったゆえ・・。」

濡れた瞳をじっと見つめながら、タムトクは彼女の唇に、自分のそれを重ねていった。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


「ね、ジョフン様、静かになったけど、どうしちゃったんでしょうね?」

いぶかしげに、倭の姫の部屋の方をながめながら、ジョフンの侍女は声をひそめて言った。

「え?そんなことは決まってるじゃないの・・。」

「ってことは、つまり、・・ってことですか?
タムトク様のお相手は、人質の姫君ってことですか?」

「そういうことになるかねえ・・・。」

ジョフンは苦笑しながら言った。

「いいんでしょうかねえ、タムトク様ともあろう方が寵愛されるのが、倭の姫君だなんて・・。」

「いいんじゃないの、べつに・・。
あの王子が選んだのなら、間違いないわよ。
ハン家の娘より、よっぽどいいよ。」

「そ、そうでしょうかねえ・・・。
まあ、あちらはねえ、ハン家の腹黒いスジムが後ろについているわけですからねえ・・。」

うんうん、とうなずいて、ジョフンは続けた。

「まあ、それはそれとしてもさ、ハン家直系の娘は一人しか残っていないからってさ、
まだ7歳の子供をタムトク様の正妃にっていうのはねえ、最初から無理があるんじゃないかと、私は思っていたんだよ。」

「で、でも、形だけだって聞きましたけど・・・。
だって、ハン家から正妃を出すのが慣例だからって、タムトク様も同意されたんでしょう?」

「そうなんだけどさ・・、最初から私は気に入らなかったんだよ。
だから、王子にちゃんとそう言ったのにさ、
王子ったら、『ジョフン、それが政治だ』なあんて、こ~んな難しい顔して言っちゃってたけどさ。
いくら高句麗の王様だからって、そんなにガマンすることないのにさ・・・。」

 


2006/12/06 00:27
テーマ:【創作】高句麗王の恋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

海翔ける~高句麗王の恋 訪れ

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 朝からひとり、思い悩んでいた。

すべて夢の中で起こったことのように思われた。

『・・・・今夜、訪ねて行ってもよいか・・』

向けられた彼の澄んだ瞳は、こわいくらい真剣で、
草原を渡る風はタシラカをどこか遠くへ連れて行ってしまうようで、
空の青さはまぶしいほどで・・・、
だから、
タシラカは思わずうなずいてしまったのだった。

彼は驚いたように目を見張り、
なにか言いたそうに小さく口を開きかけたが、
たったひとことつぶやくように言っただけだった。

『タシラカ・・・』

それから、彼女の前髪に長い指でそっと触れて、
彼女の頬に唇でやさしく触れた。

タシラカは、身動きもできなかった、
ただ、それを受け止めるだけで・・・。


あのとき、
時間が止まってしまったのだとタシラカは思った。

そっと頬に手をあてると、そこはまだ、
草原での出来事をあざやかにおぼえているかのようだった。
ふわりと触れた感触はやさしくて、
出会ったときの彼そのもので・・、
魂そのものを抱きとめられたような・・・。

『タムトク様・・・』

そっとその名を呼ぶと、今にも涙があふれてきそうで・・・。

あんなふうに澄んだ瞳で見つめられたら、
あんなふうに無邪気に話しかけられたら、
あんなふうに熱い思いをぶつけられたら、
あんなふうにふわりとくちづけされたら・・・・、
誰だってうなずいてしまう。
抗うことなんてできないわ。
そう、誰だって・・・。


でも・・・、とタシラカは首を横に振る。
どうかしていたのよ。
あの方は敵国の王、
夫となるはずだった百済王子を死に追いやった人・・・。

残虐で野蛮で女好きな・・・
百済王の言葉がよみがえる。
鋭い痛みが胸をさす。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。


「ちょっといいかしら?」

引き戸を開けて顔をのぞかせたのは、ジョフンだった。
返事も待たずに、タシラカにあてがわれた部屋に入ってくる。

「ずっと姫様が部屋にこもったままだからさ、
侍女たちが心配してね、私に見てこいって・・・、
まったく、人使いが荒いんだから。
仮にも人質っていう身分なんだからさ・・・。」

言葉は荒いが、にこにこしながら言う。

侍女たちとは、タシラカといっしょに人質になった、
百済の侍女たち二人と、倭からいっしょにやってきたハルナのことだ。
草原から戻ってきたタシラカの様子が気になって、ジョフンに相談したらしい。

「ご迷惑をかけて、申し訳ありません。」

タシラカが頭を下げる。
ジョフンは手をひらひらと振った。

「いいえ、いいんですよ、そんなこと、姫様が申し訳ないだなんてさ。
・・・で、草原はどうだったんです?
ずいぶん長い、・・その、散歩だったみたいだけど・・・?」

一瞬詰まったが、言葉を選びながら答える。

「いいお天気でした、風が強くて、・・・雲雀の鳴き声が聴こえて・・・」

ジョフンは、へえ、そうなの、などとうなずいてから、にっこりと笑って続けた。

「で、あのさ、タムトク様は、どうだったの?
なにかお話したんでしょう?」

タシラカも、小さく笑みを浮かべて言った。

「子供の頃のお話など、お聞きしました。」

ジョフンは、あはは・・・、と笑うと言った。

「ああ、そうなのよね~♪
あそこらは、王子にとって遊び場だったものね。
トンボやら蝶やら捕まえては羽をむしったり、ウサギを追い掛け回したりしてさ・・・。まあ、子供の悪さは一通りはやったわね。
ほら、いつもくっついているサトっていうしかつめらしい顔した家来がいるでしょう?
あいつといつもつるんでてさ・・・。」

ジョフンは遠い目になってしゃべっていたが、ふたたびタシラカに視線を戻すと言った。

「そんな話をしたってことは、よっぽど姫様のことを気に入ったってことですよ。」

またまた、にっと笑う。
それから、いかにも何気なさそうな様子で続けた。

「それで、あれかしら、
姫様にお城に来るようにとか、
え~と、まあ・・・、そんなようなことをおっしゃったのかしら?」

タシラカはどきっとした。
とっさに何と答えていいのか、わからなかった。

「いえ、べつに・・」

「あら、そうお?
私の見込み違いだったかしらね。
ほんとに、なあんにも言わなかったの?」

ジョフンは、何もかもお見通しよと言わんばかりの顔をしている。
タシラカはうつむいた。
そんなことはいいませんでした、と否定して済まそうかと思った。
だが、タシラカは確かめたいことがあった。

「あの方、タムトク様は、そんな方なんですか?
すぐに女人をお城にお呼びになるような・・・?」

あら、とジョフンはひとこと言った。
ちょっと気を悪くしたようだった。

「それは、タムトク様が女人にすぐにお声をかけるような
軽い男だってことかしら?
まあ、ずいぶんな言いようじゃないの!
それじゃあ、王子がかわいそうってもんだわ!
姫様のためによかれと思って、あれこれとやってくださっているのにさ。
了見違いもはなはだしいよ!」

ジョフンは一瞬押し黙ったが、再び続けた。

「姫様、あなたはどう思っているか知らないけど、
あなたは仮にも人質っていう身分なんですよ。
ご自分が育ったこの長老家にあなたを預けたのだって、
病気にかかった時に王家の薬師をつかわしてくださったのだって、
どれもこれも、異例中の異例!
みいんなびっくりしてますよ!」


「そんなタムトク様の気持ちを思えばこそ、
私だってせいいっぱいお世話しようと思ってるんですからねえ。
そんなことを言われちゃったら、
私の立場だってないわよねえ。」

あわてて、すみません、とタシラカは謝った。
だが、ジョフンの勢いは止まらない。

「だいたいね、相手はどなただと思っているの?
高句麗王タムトク様ですよ!
あの方がそんな方だとお思いなんですか?
やだねえ・・・、いくらここに来てからまだ日が浅いって言ってもさ・・。
いくら深窓の姫君だからって、それじゃ、人を見る目がなさすぎますよ!」

興奮してきたらしく、口から泡をとばすような勢いになってきた。

「王子は、そんな方じゃないんですよ。
三年前に出陣中にお妃様を病で亡くされたときだって、
おそばについていてやれなかったっておっしゃって、ずいぶん悔やまれてね、
それからは、周りの者がお勧めしてもメスネコ一匹だって近づけなかったっていう方なんですよ。」


「まあ、このところ、やっと新しいお妃を迎えることに同意されて、
私もほっとしていたんだ。
それがまた、実は王子はあんまり乗り気じゃなかったんだみたいだ、
なんて話もちらほらと小耳にはさんだりもしてさ・・・。
ま、それはお相手が、あのハン・スジムの娘だから、
私もあんまり気乗りがしないでいたから、どうでもいいんだけどさ・・・。
あ、あら、そんな話をしたかったんじゃないわよ、
ともかくね、私が言いたいのは、タムトク様ってのは、
女に限らず男にも、誰に対してもまっすぐな方なんだってことです!
そんなこと、この国じゃ、みいんな知ってることだけどさ、
この私が言うことだから、間違いないわよ。
先の王妃様、つまりお母上様亡き後、あの方をちっちゃな頃からお世話したのは、誰あろう、このジョフンさんなんだからね。
そこらへんはきっちりとお育てしたつもりですよ!」

はあ、とタシラカが頭を下げる。

「ともかく、そこんところ、よ~くお考えを。よござんすね!」

ジョフンは立ち上がると、つんと頭を上げて部屋から出て行ってしまった。


2006/11/27 22:05
テーマ:【創作】高句麗王の恋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

海翔ける~高句麗王の恋 草原


 月見の宴の翌日から、朝駆けの後長老家の屋敷を訪ねていくのが、
タムトクの日課になった。
初日に、途中でしとめた血のついたままの山鳥を持っていって彼女に悲鳴をあげられてからは、
彼の手土産は、名前も知らないような野に咲く花だったり、谷川で拾ったきれいな小石だったりした。

だが、そんなものを手にうれしそうな顔で長老屋敷へ馬を走らせる高句麗王の姿に、
サトら側近の者たちは困惑していた。

 王が女人に熱を上げるのは初めてのことではない。

だが、即位と同時に迎えた正妃を病で亡くしてから三年、そんなことも皆無だった。
だから、寵愛する女人ができたことは、正直言って喜ぶべき事なのかもしれなかった。
なんといっても、王はまだ若いのだ、いつまでも亡くなった正妃に義理立てして、女人を遠ざけているようであっては困る。
だが、時期と相手が問題なのだと誰もが思った。
半年後には、大豪族の娘を新しい正妃として娶ることになっている。
この時期に、いかになんでもそれはまずかろう。
それに、熱を上げている相手は敵国の人質の姫だ。
それがどんな影響を及ぼすことになるか、高句麗王を取り巻く家来たちは気がかりだったのだ。


 5日ほど経ったある朝のこと、いつものように馬を駆けさせながら、サトは思い切って王に声をかけた。

「今日も、お立ち寄りになるのですか?」

横に並んで走る王の表情は明るい。

「むろんだ。」

「あえて申し上げますが・・・」

「何も言わなくてよい!」

きっぱりと言う。
そして、ハハハハ・・・という笑い声。

サトばかりでなく、伴走する側近二人が顔を見合わせる。

「そのほうらの言いたい事はわかっている。だから、何も言うな。」

少し作戦を変えることにした。

「いえ、ですから、それほどお気に召したならば、
おそばに置かれたらよろしいかと・・・。
こうして、毎日訪ねていくのは・・・・」

サトの言葉に、高句麗王は手綱を引いた。
黒毛の愛馬が歩みを止める。

「毎朝訪ねていくのが楽しいのだ。
・・・それがまずいとでも、そなたは言うのか?」

すっとした切れ長の目でじっと見つめる。

そんなにムキにならなくても、とサトは思った。
たかが、女のことではないか・・・。

「いえ、ただ、長老の家の者たちも驚いていましたゆえ・・、
王子の頃ならいざ知らず、王のご身分でありながら、などと。」

「ジョフンは喜んでいたぞ。」

「はい、確かに・・・。
ですが、毎朝立ち寄られる王のために、
屋敷内の者たちは、朝餉の用意などにも気を配らねばならず・・・、」

もごもごと続けるサトに、タムトクはふっと笑って言った。

「遠まわしな言い方はやめよ。いつものそなたらしくないな。
・ ・・長老家の者たちが迷惑だからなどというのではない、
ただ、人目につくのがまずいのだ、
ハン家との婚儀のことも考えよ・・・、
つまりそういうことだな?」 

いや、実はもうひとつあるが、だいたいはそういうことなのだと、サトは心の中でつぶやいた。
わかっているなら、それを実行してほしいぜ、と。

しかし、王は照れくさそうな笑みを浮かべた。

「・・・サト、わかっていても、どうしようもないこともあるのだ。
かの姫を、力ずくでそばに召すというようなことはしたくない。」

それから急いでつけ加える。

「・・どうやら、私は、かの姫の心がほしいらしい。
たかが、女のことだ、許せ。」

それから、ハハハ・・と大きく笑って言った。

「今日は、かの姫と二人でそこらの草原を歩くとしよう♪
屋敷内にいるから長老家の者たちに迷惑がかかるのだ。
朝餉は城に帰ってからとるゆえ、支度はいらぬと伝えよ。
・・・ああ、人目につくのはやむをえないな。
そのほうら、迷惑ならついてこなくてよいぞ。」


しかしながら、しかしながら・・・、
かの姫は、王に対してよからぬことをたくらんでいるのでは・・・、
サトはそう言いたかったが、この場ではそれは口にできなかった。

せめて、警備をしっかりとするしかないか、
サトはそう心に決めたのだった。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


ざわざわと風のわたる一面の草原。
朝の光を浴びて、草の背が光る。
柔らかな春のひざしの中で、
タムトクは、タシラカの手を引く。

横に付き従うのは、黒毛の愛馬。
春のゆったりした空気の中で、
ちょっと眠そうにゆっくりと歩を進めている。

こわくない、
タムトクが彼女に声をかける。
なのに、彼女は・・、
恐る恐る手を差し伸べて、そうっと愛馬の鼻のあたりをなでる。
いかにも緊張した顔で・・・。
今度いっしょに乗ろう、そんな彼の言葉にも曖昧に笑うだけだ。


さらに、数メートル離れたところには、
サトら側近たち3人の姿がある。
後に先にと大きな円を描くように取り囲む。


やがて、ざわざわとした風の音が一瞬止んで、
何か別のいきものの鳴き声がした。
雲雀だ!
どこか空の高いところにいるらしい。
タムトクは遠い空を見上げた。
だが、その青さに溶け込んでいるのか、姿は見えない。

顔を上向けたまま、言う。

「・・・を見た事はあるか?」

「ええ・・」

「私もだ。
今日は、見えないな。」

「・・見えませんわね。」

気がつけば、彼女も同じように並んで空を見上げている。
その無邪気な顔!
妙にきらきらしていて、いそいで言葉を探す。

「寒くはないか?」

「いいえ、いい気持ちだわ。」

白い歯がこぼれる。
タムトクも笑みを返す。

「このあたりは、私の縄張りだったのだ。
まだほんの子供の頃のことだが、
雲雀を追いかけたり、蝶を追いかけたり、トンボを取ったり、
後ろにいる、あのサトもいっしょだった・・・。」

タムトクの指し示す方をふり返りながら、彼女がうなずく。

「私が育った所には、こんな草原はありませんでしたわ。
山がすぐそこまで迫っていて・・。
でも、小さな川が流れていて、そこでオタマジャクシをとったり・・・。
乳母の親戚の男の子が、ずかずかと泥の中に入っていって、取ってくれました。
泥がはねて、その子の顔が真っ黒になったりして・・・」

タシラカはくすくす笑う。
タムトクはまぶしそうに目を細めて言った。

「私なら、オタマジャクシだけではないな、
姫のためなら、ドジョウでも、フナでも・・・・。
だから、いつまでもこの国にいよ。」


まあ・・、それきり、彼女は黙ってしまう。
その見開いた大きな瞳を、タムトクは見つめ返す。

そのまま、二人とも、ただ草原の中にたたずんでいた。


やがて、お決まりのように、風がまた吹き始める。
ざわざわと草原を渡る音。
タシラカの長い黒髪が後ろになびく。

「歩こう。」

うなずいた彼女の手を取り、先にたってずんずん歩く。
吹きすぎる風の音・・・。

後ろをふり返らずに、タムトクは大きな声で言う。

「そなたといっしょにいたい。」

彼女の声が後ろから追いかけてくる。

「どうしてですの?
私はあんなことをしたのに・・?」

風の中で聞く彼女の声・・。
まるで、夢の中の出来事のようで・・・。

「私にもよくわからない。ただ、そなたには嫌われたくない。」

そなたには嫌われたくない・・・、
その言葉が風の中で空に舞う。
まるで、夢の中の出来事のように・・・。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


 サトは二人の側近たちと少し離れたところに立っていた。
一応、王の警護をしているわけだが、
二人の楽しそうなやりとりは、ちらほらと耳に入ってくるのだった。

サトよりも少し年下のほうが、近寄ってくると小声で言った。

「いい感じですね~♪」

「ああ・・」

サトは短く答える。

と、もう一人、サトと全く同じ年ごろの男が話に加わる。

「これは、タムトク様、本気だな?」

「そのようだな。」

またもや、ぶっきらぼうに返事をする。

「へえ・・、じゃ、じゃあ、ハン家の姫はどうなるんです?」

「ばかだな。あっちは正妃になるんだ。
こっちの姫はよくても側室だな。
タムトク様だっておわかりだ。
比較にもならないよ。
な、サト、そういうことだよな?」

「へえ、そういうことですか。タムトク様、いいな、うらやましいな。」

「静かにしろ!タムトク様はともかく、俺たちは仕事だ。」

浮かれる年下の同僚を、サトたしなめる口調で言った。
なぜか、自分でも不機嫌になっているのがわかった。

「それにしても、いい感じだよな。」

同僚の言葉が、青空に吸い込まれていく。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


風のわたる草原を、どこまでも二人で歩いていきたかった。
が、タムトクはそろそろ、城に帰らなければならなかった。

「今日は楽しかった。」

われながら、気の利かない言葉だとすぐに後悔する。
言いたいことの半分も言えないものだと・・・。

だが、タシラカは微笑みながら、答えた。

「ええ、また連れてきてくださいね。
今度はお花の咲いているところがいいわ。」

ああ・・、とうなずきながら、タムトクはじっと考えていた。
サトにはあんなことを言ったのに・・・、とタムトクは思った。

今度は、明日ではなく、花の咲いているところでもなく・・・、
その言葉を胸の中でくりかえす。

ほんのわずかな沈黙に、
彼女が、ん?というように、小首をかしげる。
風の中でたたずむタシラカ・・・。
タムトクは彼女の手を取った。

「姫、・・いや、タシラカ、今夜、訪ねていってもよいか?」


風のざわめきが大きくなった。

 


2006/11/23 14:41
テーマ:ひとりごと カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

月9ドラマ・ゲスト出演!なんちゃって・・

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いきなりびっくりするようなタイトルで失礼しました。朝からずっと、こんな妄想がうずまいて頭から離れないんです。それで、これは、一度吐き出さないと息苦しくてたまらんと思ったので、ここに書かせていただきます。

 最近月曜夜9時からのテレビドラマにはまりつつあります。
ご覧になっている方もたくさんいらっしゃると思いますが、クールな音大生、千秋君と、彼にあこがれるピアノ科の女の子、ノダメちゃんのお話です。
このクールな音大生の彼っていうのがなかなかよい!
オーケストラの指揮者をめざしている才能あふれる若者なんですが、今どきの若者チックなところとクラシカルなところが入り混じっている、そこんところがよろしい!
そして、もちろん、音楽に対してすごく真剣なところもいい!
特に、コンクールなどで、オーケストラの指揮者として、タクトを振るときのまなざしと、すっと伸びた背筋、そういった彼を取り巻くものが、ものすごくいい!
(なんだか、どこかの方を思わせるでしょう?)
ろくにコンサートも行ったことのない私も、やっぱり、オーケストラのコンダクターって、こうなんだと思いました。

 で、私は当然ながら、こう思ったわけです。
われらがBYJが、このドラマに一話だけ特別出演するっていうのは、どうかと・・・。

 あ、お怒りになる前に、もう少し聞いてください、お願いします。

 そうですね、彼の役どころは、やはり韓国の新進気鋭の指揮者、ウィーンかどこかのコンクールで上位入賞したこともあるような・・・、それで、現在はどこかちょっと有名なオーケストラの指揮者を務めている・・・。
 で、主人公、千秋クンの噂を聞いて、千秋クンがコンダクターを務める学生オーケストラのコンサートを聴きに来る、しかも、うるわしの婚約者同伴で・・・。

 このあたりで、彼(BYJ)の回想シーンみたいな部分を挿入してもいいですね。
なんだか、あのチアキ君ってあなたに似ているところがあるわね、とうるわしの婚約者(私的にはジニョンさんみたいなタイプ)がささやく、隣にすわった彼はふっと笑って、そうかな?なんて目をふせる。
すると、かつてのコンクールでオーケストラを前にタクトをふる渾身の姿が・・・、
曲はベートーベンの『英雄』。
・・なんていうのはどうでしょう???

 ええ、わかっていますよ~。
彼は次回作の撮影でお忙しいし、今はタムトクがその中に入っちゃってるから、周りがどんなに薦めてもそんな一回こっきりのドラマ出演なんて受けないでしょう。
ただでさえ、中途半端はおいやな方ですし・・・。

 でもね、あのロッテチョコのフォトを見たときから、私は一度でいいから、オーケストラの前に立ったお姿を見たいと思ったんです。
 インスのようなふつうの男もいいかもしれない。でも、彼は元々ふつうの男じゃないんだから、持って生まれた光の部分、オーラを必死に消して・・・、なんて難しいことを考えなくても、そのままのお姿をそっくり映像の中で見せてほしいんです。

もっとも、もうすぐオーラあふれるタムトクに会えますけどね、でも、コンダクター役の彼っていうのもいいでしょう?
 


2006/11/21 23:45
テーマ:【創作】タムトクの恋・番外編 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【タムトクの恋・番外編】海の向こうに帰る人~その4の1

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☆これは、サークルにアップしていたお話の続きです。

この場をお借りして、書かせていただきます。

なお、【高句麗王の恋】とは別のバージョンの続きですヨン。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「あんたの言う通りだ。こんなところでぐずぐずしていても始まらねえ・・・。
とっとと、けじめをつけに行くとするぜ!」

そんな捨て台詞をタムトクに残し、それからタシラカには「あばよ」と言う言葉を投げかけて、
あくる日の朝早く、キビノナカツヒコはヤマトへと発っていった。
吉備の兵の大半が出発して、朝からざわついていた屋敷の中は、少し静かになったように思われた。

が、それもほんの一時のことだった。
タムトクがすぐに行動を開始したからだった。
それは、彼女の決意をひっくり返す可能性のある要素は、すべて取り除いておこうとでもするかのようなすばやいものだった。


「そなたの一族は、今どうしているのだ?」

いかにもさりげない口調で言う。

「身内と呼べる者は、このあたりには誰もおりません。
・・・・もうご存知でしょう?
祖父がヤマトに対する反乱に加担して敗れて以来、
私の親族はこのあたりに住むことを許されなくなりました。
私が吉備で育てられたのは、乳母がナカツヒコ様の親族だったためです。」

答えるうちに、顔がこわばるのがわかった。
タムトクは、やわらかくタシラカの手を握って言った。
 
「タシラカ・・・、そんなことを言うつもりではなかったのだ。」

「わかっていますわ、ここの領地と屋敷のことでしょう?」

そう、確かに彼の言うとおりだった。
彼といっしょに高句麗に行くと決めたからには、後を引き継ぐ者をきちんと決める必要があった。


数十年前、手白香の祖父が加担した、ヤマト大王家に対する反乱(注)のために、王族の身でありながら一族は朝廷を追われ、領地の大半を奪われたのだった。
その一部である北の国がタシラカの所領となったのは、彼女が身重の身体で高句麗から帰ってきたときのことだった。
そのために奔走してくれたのが、朝廷で大将軍の地位にあったナカツヒコだったのである。


タシラカの考えはすでに決まっていた。

「ここは、隣国の吉備にまかせるのが一番よいと思います。
ナカツヒコ様は私がここを領有するように取り計らってくれた人ですし、
ナカツヒコ様の人柄は、ここの領民もよくわかっていますし、
それに、ナカツヒコ様の親族には私の乳母もいますし・・・・。」

「そう何度もナカツヒコ、ナカツヒコと言うな。
・・・よい、ヤツがヤマトから首尾よい返事を持って帰ったら、その話をしよう。」

「それから、ここの屋敷の者たちのことですが・・・、私といっしょに行きたいと言っている者もいます。できれば、そのような者たちは・・・・」


最後まで聞かずに、タムトクは言った。

「よい、船が沈まぬ限り連れて行くことにしよう。そなたも心強いだろう。」

満足そうな笑み・・・。
ひとつ片付いたぞ、彼は、そんなふうに思っているらしかった。

だが、タシラカは、自分の中に小さなしこりがあるのを感じていた。
そうなのだ、どうしてももう一度彼に確かめたいことがあるのだ・・・。


 明け方、まどろみの中で愛し合ったあとで、彼はささやいたのだった。

『タシラカ・・・、そなたを正妃にはできない・・・。』

厚い胸の下から響いてくるやわらかな低い声だった。

タシラカは、目を上げる勇気がなかった。
彼がどんな顔をしていても、自分は悲しいのに決まっているのだ。

『はい』

そう、短く答える・・・。
背中にまわした彼の大きなてのひら・・・。
そのいとおしむような手のあたたかさ・・・。

『・・・時には、むこうへ行かねばならない。』

はい・・、そう言おうとして、タシラカはその言葉を飲み込んだ。

『・・・それでも、私は、すべてそなたのものだ。』

はい・・・、信じています、タムトクさま・・・。
口に出す事もできないまま、タシラカは彼の胸に唇をあてた・・・。


彼が正妃を迎えたということが問題なのではない。
かつて、彼は彼女に誠実であろうとしたのに、ともに生きることから逃げ出したのだから。
今さら彼を責める資格など、何もない。
だが、何か、うっとりした時の流れのなかで、『そのこと』をいとも簡単にかわされたような気がしたのだ・・・。


「領地や屋敷の話は、そなたから屋敷の者たちに説明すべきだ。
早いほうがよい。
すぐにでも、主だった者たちを集めよ。・・・タシラカ、よいな?」

 どこかぼんやりしているタシラカに、彼はてきぱきと指示をすると、
乗馬の練習をしているワタルの様子を見てくるなどと言いながら、外に出て行こうとした。

その広い背中に、タシラカは声をかけた。

「あの・・・、タムトク様・・・」

彼は足を止めた。
くるりとふり返る。
なんでもない顔で、ひとこと言った。

「なんだ?」

やっぱり・・、タシラカは確信した。
タムトク様、あなた・・・。

「お話があります。」


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


 彼はちょっとの間黙っていた。
タシラカも・・・・。
沈黙の中でのやりとり。
やがて、彼は思い切ったようすで切り出した。

「スヨンのことだな?」

まっすぐに彼女の目を見つめる。

「もう、話した。あれがすべてだ。
だが、そなたの気が済むまで話してもよいぞ。」

すっとしたまなざし。
何の疑念も感じさせない瞳の色。
タシラカは何と答えていいかわからなかった。
激しい言葉を思い切りぶつけてしまいそうで、自分がこわかった。

彼は、領地の話でもするかのように、さらりと話しだした。

「今朝も話したとおりだ、
そなたを正妃にはできない、正妃はスヨンだ。
が、私にとっては、女人は、そなたただひとりだ。」

うん、と生真面目な顔でうなずく。
それから、急に恥ずかしくなったのか、彼は口元に照れたような笑みを浮かべた。

「おかしいと思うのなら、笑ってもいいぞ。
・・・・そんなことは信じられないと思うのなら、それでもいい。私の正直な気持ちだ。」


タムトク様、そんなステキなお顔をされてもだめですわ・・・。
タシラカの目にうっすらと涙が浮かぶ。
無理やり怒った顔を作ると、そっけない口調で言ってみる。

「・・・ほかの方にも、同じようなことをおっしゃったんでしょう?」

「タシラカ!」

せつない目!

「私が、そんなことをすると思うか?」

まいったな・・・というふうに首を振る。

「・・・ごめんなさい。ちょっと言ってみたかっただけなの・・・・・。」

思わず涙がこぼれる・・・・。


彼の腕がすっと伸びて、あっと思うまもなく、タシラカは抱き寄せられていた。
彼の匂い・・・、タシラカの好きな匂い・・・。

「タシラカ・・・・、彼女・・・スヨンには、最初に正妃の話が持ち上がったときに、ちゃんと伝えたのだ、私の心は別の女人にあると。」

ええっ!
広い腕と胸の作る空間で、タシラカは身じろぎする。

「スヨンは、驚いたようだった。
そなたかと聞かれたので、そうだと答えた。
そして、彼女は私の申し出を受け入れてくれた。」

「そんな・・・!」

思わず顔をあげると、彼を見つめる。

「いけないか?
彼女は彼女なりに、傾きかかったハン家のことを考えたのだと思う。
そして、結論を出したのだ。」

ひどいことを・・・と、タシラカは思った。
理屈抜きで悲しかった。

彼女とは、高句麗の城内ですれちがった時に、二言三言言葉を交わしただけだった。
まだ若い、気負いの感じられるような姫だったという印象しか残っていない。
だが、彼女は、今かつてのタシラカと同じような境遇にいるということになる。
ヤマトの大王の妃にと望まれ、これを断ったタシラカに対して、
スヨンは、愛しているのは他の女などといわれながらも、これを受け入れたというのだ。

「ひどいわ!スヨン様がお気の毒です!」

彼はちょっと戸惑ったように言った。

「タシラカ、私は・・・、
私は、そなたがつらいだろうと思ったのに・・・・・。」

「それとこれとは、別です!」

タシラカは強い口調で言った。
彼は小さなため息をついた。

「そなた、スヨンにはやさしくて、私には手厳しいのだな?
そうだ、私は、ひどいことを言った。
だが、言い訳かもしれないが、スヨンはそなたとは違う、
王の妃となるべく育てられてきた娘だ。
彼女は、そなたとは違う論理で生きている。」

「あの方が傷ついていないとでもおっしゃるんですか?
そんなことを言われても、それでもタムトク様の正妃になりたいと・・・・?」

「タシラカ、みながみな、そなたと同じではない。
だが・・・・、そうか、なるほどな、そなたはそう考えるのか。
・・・・そなたの言うとおり、私はひどい男かもしれない。
だが、王である以前に、私は私だ。
王として『形』を優先させねばならないのなら、
せめてそこにかかわる人間には筋を通しておきたかったのだ、
そなたに対しても、スヨンに対しても。」

彼は叱られた子供のような顔になった。

まあ、なんてさびしそうな・・・、
まっすぐな・・・・。
やっぱり、この方を放ってはおけないとタシラカは思った。

「タムトク様・・・、許してさしあげますわ。
・・・・ごめんなさい、あなたを困らせたりして。
私のためにせいいっぱいやってくださっているのに・・・・。
元々は、私が悪いんですもの、だから、私には何も言う資格がないのに・・・。
それに・・、それに・・・・・・、一番ひどいのは、私かもしれないわ。
心の奥の奥のほうでは、あなたが私を愛してくださってるとわかって、
私、すごくうれしいんですもの・・・・。」

「タシラカ・・・、何度でも言う、愛してるよ。」

「私も・・・・・。」

「ひどい男でも愛していると言ってくれるのだな?
よかった♪
そなた、やさしいのだな?それに、他の妃にヤキモチも妬かない・・・。
私も、これからは余計な気遣いはしないことにする。
で、これからは、妃の二、三人、許してもらえそうだな?」

「それは・・・、だめです・・・、タムトク様、だめですわ!」


2006/11/21 19:48
テーマ:ひとりごと カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

焦がれる心の奥底で

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チェジュ島でのイベントに参加されると言う、

私は行けないけど・・・・。


写真展での斬新なお姿、なかなか魅力的、

私は落ち着かない気持ちだったけど・・・。


クラシックのCD、

同じ曲を同じ気持ちで耳にしているのだと思えば、それもいいわ・・・。

ミニョンさんのフィギュア、

ドラマの中の彼そのままで・・・、それもいいかも・・・・。

 

どれも、作品を待つ間の通過点として見るならば、確実に彼の足跡をたどることができるから・・・・。


ふわふわしたテレビ画面から流れる情報だけでは、いかにも頼りないから・・。

 

でも、それでも・・・、


じりじりと焦がれる心の底の底にあるのは、やはりひとつの思い。


作品が見たい!


タムトクに会いたい!

 

ただの名もない一人の王子が草原の中を走っていく姿が見たい!


スジニの手をとり玉座へといざなう姿が見たい!


愛馬の手綱を操りながら、馬上でりりしく行進する姿が見たい!


幾千もの兵たちの先頭に立って、突き進む姿が見たい!

 

草原の王はだれをも恐れさせる軍神の姿かたちをして、


硬い鎧に実をかためながらも、


やさしげな風貌の持ち主。


あたたかく深い懐で、


敵味方、すべての男たちをひきつけ


女たちの歓声を集める・・・。


そんな姿を、私は見たい!

 

 

ごめん、


私はどうしてもそう思ってしまいます!


2006/11/15 22:28
テーマ:【創作】短編 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

おしのび

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☆ちょっと噂を小耳に挟みまして、もうそわそわと落ち着かない日々を過ごしています。

それで、去年だったかな?『トウキョウの休日』っていうお話を書いたことを思い出しました。そうしたら、数日後、極秘来日っていうニュースがとびこんできて、それはもうびっくりしたものでした。

 

で、ここにその一部に新しく書き加えたものを追加して、アップしたってわけです。

 

そわそわしている方、よろしかったらおつきあいください。

なお、お断りしておきますが、これはフィクションです。

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 


チェジュ発の便が成田に着いた時、背の高いその人物に目を向けるものはほとんどいなかった。

 カジュアルというよりむしろくたびれたという表現に近いブルージーンズの上下、
穴が開いているのが目を引く真っ白いTシャツ、
帽子からはみだしたくしゃくしゃの長い髪、あごの辺りの無精ひげ・・・。
学生か、またはあやしい人物・・・、ともするとテロリストに間違えられてもおかしくない様子だ。
後ろを行く連れの男性は、さっきから笑いをかみ殺していた。
さすが、俳優だよな・・・、彼はそう思った。

 ともかく、そんなちょっとあやしい感じで『彼』は日本に潜入した。


 やがて『彼』は、入国手続きカウンターに歩み寄ると、パスポートを差し出した。

 担当の係官は、この道20年のベテランだ。
あやしい人物でも、彼は臆することなく無表情のまま目の前の人物をじろりと見た。
何となくひっかかるものを感じた彼は、パスポートに目をやる。

そこに書かれたハングルと英語表記のサイン、それから添付してある写真をたっぷり1分ほど見てから、顔を上げた。
目の前のあやしい男性をじっと見る。

 冗談だろう?もう少しましなウソをついてくれよ・・・。
彼はそう思ったが、もう一度パスポートの写真と目の前の顔を見比べた。
 
 と、目の前にいるあやしい『彼』はにっこり笑う。
それから右手の人差し指を唇にあてた。
シー・・・・。

 一瞬係官はあっけにとられた。が、彼もプロだ、ベテランだ。
元の表情に戻ると、なかなかの発音の英語で言った。
「疑うわけじゃないが、ちょっとここにサインをしてみてください。」
ぺらぺらの白い紙とペンを差し出す。

それから、さらに続けていう。
今度は、少し口ごもるのを抑えられなかった。
「・・・あ、サインのあとに、『ミチコさんへ』って書いてね・・・。
つまり、私の妻なんだけど・・。あ、よかったら、でいいから・・・。」
 
 その言葉を聞いて『彼』はうなずくと、後ろをふり返った。
連れの男性に何事か話しながら、手を差し出す。
相手の男性も心得た表情でうなずくと、手に持ったビジネスバッグの中から色紙らしいものを取り出し、
そのあやしい『彼』に渡した。

ラッキー♪ 色紙、もってるのね♪
係官は、ついうれしそうな顔をしてしまった。
その顔に、『彼』はにっこりと笑いかけると、日本語で言う。
「ナイショですよ・・・。」

さらさらというペンを走らせる音・・・・。
もう疑う余地もなかった。
ああ、ミチコが喜ぶだろうな、・・・あいつに、なんて言おう・・・。
係官はわくわくする気持ちを抑えて、いつもの顔を必死で作っていた・・・。

 やがて「入国審査」が終わり、係官は規定どおりの書類と、それから色紙を受け取った。
思わずにんまりとしてしまう。

今朝ちょっとまずいことになったが、これであいつの機嫌が直るな・・・。
それにしても、最後に「ナイショですよ」なんて・・。
係官はくすくす笑う。
隣の国の王子様なのよ、普通の人じゃないの・・、なんてあいつが騒いでいるわりには、
ぶっちゃけた、シャレのわかるおもしろい男じゃないか・・・。
まあ、これで当分の間、あいつに対して大きな顔ができるってもんだ・・。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


「だから~、本物だったんだってば~。
君はそんなこと言うけどさ、これでも必死だったんだよ。
ミチコのためだって思ったからさ~。」

ヒロシは鼻の頭に汗を浮かべてそう言った。

「ふうん・・・、ほんとっぽいけど、でもうそくさいわ。
あなた、今朝の仕返しをしようとしてるんでしょう?」

「そんなんじゃないって!」

「確かに、今朝は私もわるかったって思ってるわ。
でもさ、うっかり寝坊して、朝ごはん作る時間がなかったくらいで、あんなに怒ることないじゃない・・・。
私だって、わるいな~って、ちょびっと思っていたのにさ。
それを根に持って、こんな手のこんだ仕返し考え付くなんて、インケン!」

「そんなんじゃないって・・・。
今朝は少しいいすぎたかもしれないと思っていたんだ、俺も。
そしたらさ、目の前に立っていたのが、ミチコの好きな『彼』だったから・・・・。」

ヒロシは鼻の頭の汗をぬぐった。

「ほんとは仕事中にそんなことしちゃ、いけないんだけど、でもミチコのためだって思ったからさ・・・。」

「でも、『彼』は今撮影中なんだよ。
やっぱり、あなたの勘違いじゃないの?
だいたい、あなた、思い込みの激しいところがあるからさ。」

「そんなんじゃないって・・。
ちゃんとパスポートで確認したって言っただろう?
そこに名前がちゃんとハングルと英語で書いてあったんだから・・・。」

最後のほうはだんだん小さな声になる。
もしかしたら、あれはにせものだったのかな?
いやいや、あれは本物だった!

「だから、それは同姓同名ってやつじゃないの?」

そこまで言われて、ヒロシもむかっときた。

「じゃ、なんで、サインしてみてっていったら、こんなふうにサインしてくれるわけ?」

「そこがあやしいんじゃない、いかにも本物らしく見せようとして、『ミチコさんへ』なんて書いちゃって・・・。
でも、残念だけど、本物の彼なら、『お元気で』とかなんとか書きそえてくれるものなのよ、あなたは知らないだろうけど・・・。」

そんなこと知っててたまるかよ、そう思いながら、だんだん自信がなくなってきたヒロシは、半分やけになって言い放ったのだった。

「いいよ、君がそういうことを言うのなら、兄貴んとこのミチコにあげるからさ。」

「あ、あら・・、ちょっと待ってよ。お兄さんとこのミチコちゃんは、『彼』の大ファンだけど、まだ幼稚園生じゃない!
・ ・あの、これ、ご近所のサエコさんに見せてみるからさ。
あの人、三年もカジョクやってるから、すぐにわかると思うのよね。」

その言葉に、ヒロシはキレてしまったのだった。
10年連れ添った夫よりも、近所のファン歴三年のオバサンのほうを信用するのかよ、と。

「もういい!ぜったいに、兄貴んとこのミチコにやることに決めた!」

「ええっ!そんなこと言わないでよ。
・ ・・私、一度も言ってないよ、偽者だなんてさ、
かもしれないって言っただけじゃないよ~。」

「いいや、言った!もう、やめた!だいたい、これは俺がもらってきたんだからな。
俺のプロとしてのメンツにかけて、本物だって思ったから、だから君のために頼んだんじゃないか!それを君は・・・・。」

「なによ!泣かなくったっていいでしょ!
いいわよ!そんなもの、私だっていらないわ!
幼稚園通ってるミチコちゃんなら、彼のよ、って言えば、喜ぶでしょうよ!
たとえ、にせものでも!」

おまえは~!
もう、知らないぞ、あとでぎゃーぎゃー言うなよな!

ヒロシは、妻に絶対に教えてやらないと思ったのだった。
『彼』がくしゃくしゃの長い髪をしていたとか、
くたびれたジーンズの上下に、インナーは穴あきの白いTシャツだったとか、
にっこりと笑った笑顔が「とびきりステキ」だったとか、
『ナイショですよ』と、シーっと口元に指をあてたとか・・・・。

それにしても、とヒロシは思った。
兄貴んとこのミチコにも、ほんものじゃないわよ、おじちゃん、なんて言われちゃったりして・・。

 

~~~~~~~~~~~~

 

☆このときのお話では、『彼』は、空港を出た後、「テツコさん」に会いに行くのですが、今回はどうなのでしょう?


2006/11/14 22:41
テーマ:【創作】高句麗王の恋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

海翔ける~高句麗王の恋 ②月見の宴(その2)

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 倭の手白香(タシラカ)は、じっと相手の顔を見つめたまま、百済王から聞かされた言葉を胸の中で思い出していた。

『高句麗は山国じゃ、文化のかけらもない野蛮な所じゃよ。・・・・
高句麗王タムトクとはの、それはもう乱暴で残虐で女好きで・・・・、まだ若いからの、
まあ、見かけは少しばかり様子がいいもんじゃから、女などすぐにころりとだまされるがの・・・。
いやいや、それがどうしてどうして、これがなかなかの食わせものでの・・・、
そなたも知っての通り、わが息子もヤツの手にかかり、あえない最期を遂げたのじゃ・・・。
いや、まこと、不憫じゃった。
・・・妃になるべく倭から渡ってきたそなたの顔も見ずに逝ってしもうた・・・。まこと口惜しかったじゃろう。
それを思えば、そなたをヤツに引き渡したくはない・・・。
じゃが、国を守るためには、心を鬼にして決断せねばならぬこともあるのじゃ。』

『・・・なに、そなたほどの美貌じゃ、ヤツとて悪いようにはすまいて・・・。
先ほどから言うておるように、ヤツは無類の女好きじゃ、
おとなしくしておれば、命までとろうとはすまい・・・・。
うまくいけば、そば近くに侍る女の一人とするやもしれぬ・・・。
そうなれば、そなたにとっては亡き夫であるわが息子のカタキを討つこともできるというものじゃ・・・・。』

 
 カタキを討つ・・、百済王に言われるまでそんなことは考えてもみなかった。
だが、相手はごく当然のようにさらりと言った。
回りの侍女たちの話によれば、戦死した親族のあだ討ちは百済王家の美徳のひとつだとか・・・。

『姫様、こう申してはなんですが、
百済王は、その・・どちらかといえば武張ったことのお嫌いな、そのう・・・、
おやさしい、・・・そうそう、おやさしい方です・・・、
すでに高齢であらせられ、アテにはなりませぬ。
・・・となれば、亡き王子の恨みを晴らすのは、妻となられるはずだった姫様こそふさわしいかと・・・・・。』

 戦死した、顔も知らない夫のあだ討ちをする、しかも相手は百戦錬磨の高句麗王・・・、
それは理不尽な話のように思えた。
が、それならそれでいいと彼女は思った。
一通りの武術はこころえているつもりだった。
たとえそれが自分の身をまもるための若い女の手習いでしかなくても、
たとえ返り討ちにされて命を落とすことがあっても、
私にはもう何も残されていないのだから・・。
どちらにしても、二度と故国になど帰ることなどないだろうと心に決めてきたのだから。

だが・・・・。

 最初に百済王都で出会ったときから、高句麗王タムトクはいやな感じでは決してなかった。
むしろ百済王から聞いていた印象とはだいぶ違うと思った。
端正な容貌といい、物静かなたたずまいといい・・・・。
それに・・・、

『安心してよい、どんないきさつがあろうと、ここに来たからには、そなたの命は私があずかる。
そなたは私が守る。』

切れ長のすっとした目で見つめられ、そんな言葉さえかけられた。
なにかふわりと抱きとめられたようで、思わず涙ぐみそうになってしまった。

だが、人質の身であることに変わりはない。
窓も何もないみすぼらしい馬車に三人の侍女たちといっしょに押し込められ、
高句麗王都に連行される間、手白香は苦痛と心細さと屈辱に耐えなければならなかった。
やさしそうな顔をしていても、所詮は勝利に驕った敵王、
力のままに思い通りに支配しようとするのだと・・・。

高句麗王都に着いてから、風邪をこじらせてくずれるように病床についたのも、
そんなことがあったからかもしれない。
高熱と体中に走る痛みの中で、手白香は百済王の言葉を心の中でくりかえしていた。
高句麗王タムトクとは残虐で野蛮で女好きで、
そして、手白香を生かすも殺すも自在の男なのだと・・。

そう、たとえ、心魅かれるような男であっても・・・。


 そんな彼女が身を寄せていた長老一族の屋敷に、『女好きで野蛮な』高句麗王は、
王室付きの薬師(くすし)を派遣してきた。
それは、彼女の固くなった心の一部をちょっとばかり揺り動かしたが、
そんなうわべのやさしさなどに惑わされまいと、彼女は思ったのだった。

 そして、月見の宴に来るように声をかけられ、
王があんなことをおっしゃるなんてめずらしいのよ、などとジョフンに言いくるめられて、
城にやってくる途中、彼女は考えたのだった。
もう、このあたりで終止符を打とうと・・・・。

顔も見た事のない夫のカタキとしてでも、彼女を意のままにしようとする男としてでも、
もう何でもよいのだ。
あれこれと思い悩むのは、もうやめよう・・・。

そして、彼女は決行し・・・、すぐにそれは失敗に終わった。
かえってほっとした思いだった。
高句麗王の激しい怒りと刃が今にもその身にふりかかってくる、
そう思って覚悟を決めたのだった。

なのに・・・。
 
手白香は戸惑っていた。

「・・命令ではない。・・・そなたと話がしたい。
もう少しここにいてくれないか?」

手白香は耳を疑った。
慣れない高句麗の言葉を聞き間違えたのかと思った。
だが、王の目の中にあるのはせつない光だ。

「私を意のままになさろうとするのでは・・・?」

思わずそんな言葉が口をついて出てしまった。
その瞬間、彼は意外な表情になった。

「意のままにしてもよいと・・・?」
苦い笑みを浮かべる。

「そうだな・・・。そのようにそなたに思われても仕方がない。
私の本音は、そうかもしれない。」

やっぱり!
どきりとして身構えると、彼はなだめるように言った。

「そんな顔をしないでくれ。
なんて言ったらいいのか、私もよくわからない。
ただ、そなたと話がしたいのだ、
そなたの顔を見ていたいのだ、
・・・そなたといっしょにいたいのだ。」

最後のほうは真剣な顔になる。

「私は・・・、私は虜囚の身です。
王がそのように言われるなら、私は・・・」

「虜囚の身だなどと・・、
そのようにそなたのことを考えたことはない!
そなたが私の顔なぞ見たくもないというのなら、このままジョフンのところに留まればよい。
戦死した夫のカタキを討ちたいというのなら、それもよい、いつでも相手になる・・・、もっとも私はまだ死ぬわけにはいかないから、おとなしく討たれるつもりはないが・・・。」

長い腕がすっと伸びて、彼女の肩に置かれる。

「百済で最初に会ったときのそなたが好きだ。
凛として、まっすぐ私に目を向けていたではないか。
ふわりと笑ってくれたではないか。
姫、そなたには、虜囚の身だなどと恥じて、私の前にいてほしくない。」

「タム・・トクさま・・」

私も・・・。
あの時あなたにお会いして、やさしく包んでくださったような、そんな気がして・・・。
そう言おうとしたが、うまく言葉にならなかった。
涙があふれてきそうで、手白香はただうなずくだけだった。

タムトクはすっと手を伸ばすと、彼女の前髪にそっと触れる。
それから頬に手のひらをあてた。

と、そのとき、部屋のほうから侍女の呼ぶ声が聞こえた。

「タシラカ様、・・・どちらですか?・・・ジョフン様がお帰りですよ・・・」

はっとしたように、二人ともそちらをふり返った。

「帰るのか・・・?そうだな、今夜はうるさい目も光っているようだ。」

彼は口元に笑みを浮かべた。

「今夜は楽しかった。・・・少しでも話ができてよかった。」

ええ、つられるように、彼女は笑みを浮かべる。

「それで、姫、いや、タシラカと呼んでいいか?
明日の朝早く、迎えに行ってもよいか?
いっしょに朝駆けに行きたい!」

朝駆け?と手白香は目を見開く。
それは馬で、ということでしょう、タムトク様・・・。
くすくす笑いながら、手白香は言った。

「私、馬に乗れません。お供はできませんわ、タムトク様。」

思わず名前を言ってしまって、はっとなる。
私ったら、さっきはこの方に刃を向けたばかりなのに・・・。
そう思うとひどく恥ずかしくなる。
そして、もうこの方のことが何もかもわかったような気がしていると・・。

そんな手白香を、彼はまぶしそうにみつめて言った。

「では、朝駆けの帰りに、長老屋敷のそなたのところに立ち寄ってもよいか?」

「ええ・・、でも、ジョフン様は・・・?なんとおっしゃるでしょうか?」

「ああ、ジョフンなら心配ない。私はあの屋敷で育てられたようなものだ。
・・・では、姫、約束だ。明日の朝、そなたのところに行く、必ずだ。」

 

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☆画像加工は sakabou 様です。


2006/11/14 22:16
テーマ:【創作】高句麗王の恋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

海翔ける~高句麗王の恋 ②月見の宴(その1)

Photo

「今日は祭りの宴のこともありますので、政務はすべて日の沈む前に完了の予定です。」

事務的な顔で淡々とサトが説明する。

タムトクはその冷淡な顔にひとつうなずいてから、まったく別のことを口にした。
「・・声をかけたのは、誤りであっただろうか?」

側近のサトが顔を上げる。
王は珍しく弱気な顔をしている。

「月見の祭りは、誰もが待ち望んでいた祭りです。
虜囚の身であっても、祭りを楽しむくらい、さしつかえはないかと思います。」

「そのようなことを申しているわけではない。」
いらだたしげに、タムトクは言った。

顔が幾分赤くなっている。
サトは、ふうん・・という顔になった。
が、そこはさすがにタムトク王の一の側近だ。
返す言葉は的を射ている。
「では、どのような?
王に声をかけられたあの姫が不快に思ったのではないか、とか?
または、あの姫が、周囲の者どもに王の思い人の一人とでも思われたのではないか、とか?」

 タムトクは苦笑いした。
「そなた、嫌なヤツだな、そのように言いにくいことをずけずけと・・・。
そんなことではない。ただ、気になるのだ、あの姫のことが。
ここにとどまるのが嫌だろうかとか、
夫となるべき男を死に至らしめた男を、憎んでいるのではないかとか、
・・私の治めるこの国がきらいだろうかとか・・・。」

タムトクの目にせつないものが宿る。

それを見て取った側近サトは、釘を打っておかないといけないと思ったらしい。
「それは、そうでしょう。
が、それほどお気に召したのなら、今夜の祭りの宴になどといわず、
お側にお呼びになればよろしいと思いますが・・・。」

「・・私は、そんなことを望んでいるのではない。」

『では、どんな?』といいかけて、サトは言葉を飲み込んだ。
ここはもう一本釘だ。
「高句麗王なれば、お側にはべらせることはできましょう。
ですが、高句麗王なれば、倭の姫を正妃にはできません。
半年後にはスジニ様が正妃となられます。」

「そんなことは考えていない!」

「それならよろしゅうございます。
百済の王都攻撃のとき指揮をとられたように、私に一言命じればよいではないですか。
王のご命令とあれば、あの姫を宴に引きずり出してまいります。」

タムトクは薄く笑っていった。
「もうよい。今の話は忘れてくれ。
王としてではなく、友人として聞いてみたかっただけだ。」

それでその時は終わりだった。
すべてを飲み込んで、サトは深ぶかと頭を下げた。


。。。。。。。。。。。。。。。。。。


 少し飲みすぎたかな?
そう思って、タムトクは騒々しい部屋をひとりで出た。

いつものことだが、祭りの宴のときは、最初は王を意識してかたくなっているのに、時間がたつにつれて、大変な騒ぎになってしまう。

山岳の多い辺境の北の国で、稲をはじめとして農作物の収穫は十分とはいえない。
半分は狩猟に頼る生活だ。
今は半島では北の王者と言われているが、もとは遊牧を生業をする騎馬民族である。
常に質素と緊張を強いられる生活だったから、時折の祭典で羽目を外すのは仕方のない事であった。


 風にあたりたい、そう思い、タムトクは中庭に足を踏み入れた。
酔った部下たちの陽気な顔を思い浮かべる。
思いを寄せる女のことで部下たちからからかわれていたサトを思い出す。
思わずくすくす笑ってしまう。

いつもしたり顔でいるのに・・、
誰にもばれていないと思っていたんだろう。
だが、考えてみれば自分はなにも知らなかったのだと気がつく。
ちょっとさびしさを感じ、タムトクの顔から笑みが消える。
こちらは友人と思っていても、相手は高句麗王と見る、気安く好きな女の話などしない・・・。
だが、まあ、いい、それが私の役割なのだろう・・・。

そういえば、やはりあの姫は来なかったと、タムトクは思った。

少しだけでも、顔を見たかった。
王の命令だと称して、宴席にひきずりだせばよかったか・・・。

タムトクが、そんなことを思ったときだった。
背後にひっそりとした足音が聞こえた。

 サトかと思ったが、それはもっと軽い足取りだった。
タムトクは背後に神経を集中させたまま、ゆっくりと歩く。

 中庭の真ん中にある椿の木の下に来たときだった。
さっと何かが肩越しに飛んできた・・・・。
月の光を浴びて、先のとがったものが光る。

それを避けながら、タムトクは差し出されたものを右手でつかんで、ねじりあげた。
痛みに耐えかねたのか、小さな悲鳴が聞こえ、頭を覆った布がはずれ長い黒髪がこぼれる。

タムトクは、唇の端に薄い笑みを浮かべて言った。
「・・これが、倭人の挨拶なのか、姫?」

姫と呼ばれた相手は何も答えない。

「私が憎いだろうな?私の命がほしいのであろう?
そなたのような身なら、そう思っても無理のないことかもしれぬ。」

タムトクは言い終わると、彼女の持っていた銀色の刃をいとも簡単にもぎとった。
「だが、私はまだ死ぬわけにはいかない。」

左手を彼女の顎の下にあてて、顔を上向かせる。
額にふりかかる黒い前髪をかきわけると、さえざえとした美貌があらわになった。
まなじりからすっと涙が一筋流れ落ちる。
が、一文字に結ばれた唇は、一言も発しようとしない。
その美しい唇から何かの声を聞きたいような気がして、タムトクは皮肉っぽい笑みを浮かべた。

「今夜は、そなたのほうから飛び込んできたのだ・・・・。」

だから・・・・、と続けたかった言葉をかろうじて抑える。
彼女は敗北者の姫なのだ・・・。
つんとした痛みが胸をさす。

なのに、彼の意思とはかかわりなく、二つの腕は別の生き物のように動いた。
細い肩を抱き寄せるとそのまま自分の胸に・・・・。
まるで、そうしないではいられないかのように。

 そのとき・・・、
「タムトク様、何か、ございましたか?」
サトの押し殺したような声が聞こえた。
少し遅い、いや、早いというべきか・・、タムトクは苦笑いをした。

「なんでもない。下がってよい、いや、他の者を遠ざけよ。」

「しかし、それは・・。」

言いよどむサトの声。
およそのことを察しているらしい。

「ここは大事ない。これは命令だ。よいな。」


。。。。。。。。。。。。。。。。。。。


 女の扱い方など、一応心得ているつもりだった。
酔いにまかせて抱いてしまおうかとも思った。

 あの後、サトは引き下がったのか、気配すら感じられなかった。
それに、今夜は彼女のほうから飛び込んできたのだ、抱いてしまっても、それは道理であろう・・・、
そうする事によって、初めて会ったときから気にかかっていたことが、ひとつ片付くかもしれないと・・・。

 だが・・、自分の胸の中でうつむいたまま震えている細い肩を見ていると、心が痛んだ。
抱きたい、だが、抱けない・・・。
この娘に対して、簡単にそんなことをしてはならないような気がした。

 彼女の肩に両手を置くと、ぐいと彼女の身体を自分の胸から引き離す。

「もう、よい。」

彼女の顔が意外そうなものに変わるのがわかった。

何に対するものかわからなかったが、燃えるような怒りがこみあげてきて、くるりと背を向けた。
そんな顔をしないでくれ!タムトクは心の中でうめいた。


「・・・ジョフンといっしょに来たのか?・・・今頃、そなたを探しているかもしれないな。」

いかにもさりげなくそんなことを言いながら、すぐに後悔する。
これでは、すぐにここから立ち去れと言っているようなものではないかと・・。
ふりかえると急いで付け加えた。

「・・・もう少し、ここにいてくれないか?手荒なことはしない、王として約束する。」

まじめな顔でうなずくと、それがおかしかったのか、クスリと彼女が笑った。
ついさっき刃を向けられたことも忘れてしまうような、きれいな笑みだ。

「そなたと話をしたいだけだ。」

その瞬間、彼女は驚いたような顔になる。

「・・・それはご命令ですか?」

すずやかな声がその唇から漏れた。
思いがけず、はっきりした高句麗の言葉だった。
じっと彼女の瞳を見つめたまま言った。

「・・・いや、命令ではない、・・・私からそなたに頼んでいるのだ。」

彼女はゆっくりうなずいた。
濡れたままの大きな瞳がそこにあった。

 

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★画像は sakabou 様です。


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