2010/09/20 21:13
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirageside-Reymond-19

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ジニョンの身辺が四方八方で守られていることを改めて確認した後、私はその足で
NYグランドホテルへと向かった。

たった今までジニョンとの話題の渦中にいたフランクと、5年前、私達の前から
忽然と姿を消した義母に会う為・・・

そして・・・私の疎ましい人生に決着をつける為・・・

 

ホテルに到着するとソニーが既にエントランスで私を待ち構えていた。

「ひとりで行くと言ったはずだが?」 私はソニーを厳しく睨みつけた。

「たった今、昨日の輩を捕らえました」

ソニーはそんな私にお構いなしに自分の用件だけを話し始めた。

昨日、JFK空港に待機していた義母の車に既にライアンからの刺客が待ち受けていたことを
私は早くから察していた。


「!やはり・・そうだったのか」

「はい」

「・・・・」

「まだ何処に潜んでいるやもしれません・・ですからどうか」

「ひとりで行く。」

「お供させて下さい」

「駄目だ・・フランクとの約束だと言っただろ?」

「ご心配なく・・入り口でお待ち申し上げるだけです」

ソニーはそう言って、私に有無を言わせず私の前を歩いた。

「フッ・・・勝手にしろ」

「はい」

ソニーの心配は理解していた。

彼がこの所執拗に私のそばにいることを望む。

彼の言葉が決して大げさなことではない程に私の周辺が緊迫した状況であることも・・・

今や私の敵はライアンだけではない・・・

組織の人間全部を敵に回してしまったかもしれない。
今こうしてすれ違う見知らぬ人間から突如として刃を向けられたところで
決して不思議なことではなかった。

 

もしもそんなことが起こったら・・・
ソニーはきっと身を挺してでも私を守ろうとするだろう。

それが怖かった・・・

私は自分のことよりも、ソニーを守りたかった。

この18年・・・私から片時も離れることなく人生を共にしたソニーに・・・

一度でもいい・・安楽な人生を与えてやりたかった。

そのためにも・・私は必ず勝たなければならない。

もしも私が敗れることがあったなら・・間違いなく彼は自分の人生にも幕を引く

そんなことがあっては・・・ならない・・・

決して・・・ならない・・・

 

25階の特別客室エリアでエレベーターを降り、2503号室・・・
彼らの待つ部屋の前に辿り着いた時、ソニーは少し安堵したように私に笑顔を向けた。

「若・・・では」

「ん・・」

 

 

フランクに迎え入れられてその部屋に入るとフランクの肩越しに懐かしい人が見えた。

相変わらずの美しさを湛えながら、いかにも僕を意識したように静かに佇んでいた。

「お久しぶりです・・・母上・・・」

「まだ・・母と呼んでくれるの?」

「あなたがパーキンの名を捨てない限り・・」

「アンドルフは・・お元気?」

  義母さん・・・


  あなたがパーキンの名を捨てないのは・・・

 

「買っていただきたいものがあります・・・
 あなたが私達を襲ってまで欲しがっているもの・・・」

フランクの声が私の背後から時を急がせた。


  ああ・・そうだったね・・・

  君がそれを私の前に持ってくるのを

  待っていたんだよ・・・フランク
    

「君の望みは?」

「たったひとつ。」


  そう・・君の望みは最初から最後まで・・・

  たったひとつだけ・・・

 

  そのことが私にジニョンとの出会いを

  余儀なくさせた・・・

  しかし・・・これでやっと・・・


  君たちともお別れだ・・・

 

 

「何をする気なの?そんなことをしたらアンドルフがどうなるか!あなた!
 父親を売る気?!」

 
  そして義母さん・・・

 

  あなたの望みも・・・たったひとつだけ・・・

 

  やはりそうだったんですね・・・

  それが今・・・わかりました


  しかし・・義母さん・・許してください・・・

 

  僕はもう・・・

  止まることはできないんです・・・

 

「父さんも・・罪を償う必要があるんです
 トップとして・・責任を負わなければなりません・・

 いいですか?
 あなたは・・待てますか?」

私はまるで愛する人を宥めるようにいつのまにか、私よりも小さくなった義母の髪を
優しく撫でていた。

 

  
   《レイモンド・・・レイというのね

    なんて可愛い子なんでしょう・・・

    今日から私があなたのお母さまよ》


   《僕に触るな!》


   《レ・・イ・・》


   《レイ・・なんて・・呼ぶな!

    ママでもないのに呼ぶな!》

 

    
  ごめんなさい・・・

  あなたを傷つけていたのは・・

    この僕だった・・・


  あの頃・・・

  誰も僕のことなどわかってくれないと

  自暴自棄になっていた


  突然 母親から引き離され

  その母にもこの世に置き去りにされた


  あなたにとって僕という存在が

  あなたの・・・いや、あなた達の胸を

  どれほど苦しめていたのか・・・

  そんなこともわからずに

  自分だけが傷つけられたと誤解した

  
「・・・パーキン家は・・
 僕のこの手でマフィア組織を消滅させます

 いいですね・・・
 それでも・・・パーキンの名を捨てませんか?」

「・・・ええ・・ええ・・・あなたがまだ・・私を・・・
 母と・・・呼んでくれるなら・・・」

     

 

どれほど足掻き・・どれほど悔やみ・・・

どれほど力の限り拒絶したところで・・・

そうなんです・・・

僕はやはり・・・

レイモンド・パーキンでしかない・・・

   マム・・・僕は・・・


   やっとそれを・・・

 
 

       ・・・受け入れます・・・

    

 


2010/09/19 13:58
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mitage-儚い夢-44.リーチ

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緊迫したチェイスの末、フランクはやっとパーキン夫人と共にNYグランドホテルに
到着することができた。

そのホテルで彼女がリザーブしていた部屋はスイートルームひとつだった。

「あなたはそちらの部屋を使いなさい」
彼女はフランクに拒絶を許さないと言わんばかりにそう言った。

フランクは考えていた。

パーキン夫人は敢えて自分を狙っている敵の懐に入ることを選択した。
このホテルはパーキン家の表向きの仕事で成り立つ。
よって、彼らがここで騒ぎを起こすことは絶対に有り得ない。
しかも、ここにいるのが彼女ひとりではなく、第三者であり、彼らが望むフランクが
ピッタリと付いているとあっては手を出しようも無い。

  彼女はそう考えているに違いない
  ということは・・・

今彼女の身柄は、他ならぬパーキン家によって守られていることになる。
ローザ・パーキンという女は、本能で自分を守る術を知っていた。

  僕はしばらく立ち尽くしたまま・・彼女の表情を追っていた。

夫人はドレッサーにしなやかに腰をかけ、身につけていたジュエリーをイヤリングから
先に外していった。


「後ろ・・お願いできるかしら・・」

  僕が彼女からずっと視線を外していないことを楽しんでもいるかのように
  彼女は長いゴールドシルクのような髪を右にかき寄せ白いうなじを露にすると、
  ネックレスを外すよう僕にねだった。


「・・・・」

「何?・・何かご不満でもあるのかしら?ここを宿泊場所にしたこと?
 でも・・・何処よりもここが安全・・・そう思わない?
 それとも・・あなたを同室に留めていること?・・安心なさい・・
 摂って食おうとしてるわけじゃないわ」

「フッ・・あなたという人は何処までが本気で・・何処までが・・」

「何を考えているのかわからないのは・・・お互い様じゃなくて?」

「・・・・・・」

「ただ・・私は・・あなたなら・・」

「僕なら?」

「私の望みを叶えてくれそうな・・・そんな気がしたの」

「あなたの望み?・・・レイモンドをあの世界から追いやり・・あなたが・・
 いや・・あなたのご子息が天下を取ることを?」

「・・・・そうね・・そうだったわ・・」

夫人はフランクの言葉に、思い出したかのように微笑んで頷いた。

「・・・違うのですか?」

「さあ・・どうかしら・・」

「ご子息はどうしてご一緒にいらっしゃらなかったんです?」

「フレッド?・・・どうしてかしらね・・」

フランクは彼女に言われた通りネックレスの金具を外しながら、鏡に映る彼女の
伏せた睫毛の奥に隠された何かがあるようで、気になっていた。
フランクはそれを少し覗くように鏡に視線をくぐらせた。
しかし彼女は決してそれを悟られまいと、次に睫毛を上げたときには
いつもの企みを含ませた青い色を輝かせ、口角を上げた。


  

 

  静かな夜だった・・・

フランクはNYに戻っていながら、ジニョンにまだ連絡を入れていなかった。

ジニョンが無事でいることは、逐一レオからの報告で聞いていたし、そのことは
心配してはいなかった。

  きっと彼女の警護に力を尽くしている人間が他にもいる

自分が留守の間の彼女の安否に不安は感じていなかった。

しかし・・・


  ジニョン・・・怒っているね・・きっと・・
  でも・・・
  今君の声を聞いてしまったら
  逢いたい衝動に勝てる自信がないんだ

  この光の向こうに君がいる・・・
   
ホテルの部屋の窓ガラス越しに彼女の宿舎に視線を送っては溜息混じりに目を伏せ
震える自分の胸の鼓動を懸命に抑えた。

そしてもうひとつ・・・

  やっとここまで漕ぎ着けた・・・

  レイモンドとの・・・勝負・・・

  勝つか・・・負けるか・・・明日がその決着の時・・・

フランクは奮い立つ狩人の本能を初めて味わったような気がしていた。

 


   
翌朝ルームサービスを受けて朝食を済ませると、約束通りレイモンドが部屋を訪ねて来た。

彼が部屋に入った瞬間、夫人は丁度コーヒーカップを口元に近づけたまましばし静止していた。

「お久しぶりです・・・母上・・・」

レイモンドが夫人に向かってそう言うと、彼女はカップをテーブルに戻し立ち上がり、
ゆっくりと彼に近づいた。

「まだ・・母と呼んでくれるの?」

そう言いながら彼女は彼と熱く抱擁を交わした。

「あなたがパーキンの名を捨てない限り・・」

「アンドルフはお元気?」

「ええ・・お陰さまで」

「そう・・」

「ところで・・・フランク・・私に用だとか・・・」

レイモンドは彼女との挨拶もそこそこに、フランクの方へと笑みを向けながら進んだ。

「買っていただきたいものがあります・・・
 あなたが私達を襲ってまで欲しがっているもの・・・」

フランクもまた、単刀直入に話の本題を切り出した。
    

「何処にある?」
レイモンドは終始落ち着いた表情を崩すことなく、フランクを見ていた。

「ここにはありません・・・」
フランクもまた、レイモンドを用心深く見るように、視線を逸らさなかった。
    
「渡してもらおう・・・それはきっと、もともとはこちらのものだ」

「だとしても・・今は私の手元にある」

「君の望みは?」

「たったひとつ。」

「聞こう」

「ソウルホテルから手を引いてください」

「ソウルホテル?何のこと?」

睨み合ったふたりの間に立っていた夫人が、初めて聞くソウルホテルという名前に、
首を捻ってみせたが、フランクもレイモンドもそれには答えなかった。

   
「それだけでいいのか」

「無論、ジニョンにも関わらないでいただきたい」

「フランク!」 夫人が声を荒げた。

「ああそうでした・・こちらの夫人にも要求があるらしい・・・」

「彼女の要求はわかっている」 レイモンドがすかさず答えた。

夫人の困惑に対して、ふたりの男達は彼女に一向に視線をくれるわけでもなく、
向き合ったまま冷静な取引に興じていた。


「では・・呑んでくれますか」

「ああ・・呑もう」

「でしたら・・」

「それは・・・今間違いなく君の手元にあるんだな。」

「ええ」

「レオナルド・パクだな?」

レイモンドは確認するようにフランクに強く念を押した。


「それは・・」

そんな簡単に重要書類の在処など答えられるわけがない、そう思いながらフランクは口をつぐんだ。

しかし次に発したレイモンドの言葉はフランクの予想とは違っていた。

「だとしたら・・彼に直ぐ指示を出せ。その書類を持って、すぐさまFBIへ向かえと。」

「・・・・?」

「それを君達が持っていては危ない。直ぐに手放せ・・この捜査官に直接届けろと言え。
 心配しなくていい、この男はマフィアの息が掛かっていない数少ない捜査官だ」

そう言ってレイモンドは一枚の名刺を差し出した。
    
「いいか・・それまで・・彼に渡しきるまでしっかりと隠し通せ。」
レイモンドは念を押すように繋げた。

「・・・・どういう・・」

   僕は最初、レイモンドの言葉の意味を理解できなくて戸惑いを隠せずにいた

「そういう意味だ」

「しかし・・これがここに渡ったら・・」

「どうなるか?・・バカじゃない・・わかってる」

「・・・・」

「レイモンド!」

さっきからふたりのやり取りに固唾を呑んでいた夫人が、突然、レイモンドの名を叫んだ。

「いったい!何をする気なの?そんなことをしたらアンドルフがどうなるか!
 あなた!父親を売る気?!」

「ええ。」 
レイモンドは夫人の言葉に、躊躇なく答えた。彼女に視線を移さないまま至って冷静に。


「そんなこと!させないわ!フランク!その名刺を渡しなさい!」

夫人はそう大声で怒鳴ると突然、自分のバックから小さな拳銃を取り出し、フランクに突きつけた。

しかし、フランクは彼女の威嚇に不思議と恐怖を感じなかった。それよりも、彼女の怒りの原因が、
決して自分に不利なことにではなく、敵であったはずのアンドルフ・パーキンにとって
不利益なことに端を発しているような気がして、不思議な気持ちだった。

「・・・そんなもの・・おしまいなさい」 レイモンドが夫人に視線を向けて言った。

「来ないで!」 
レイモンドは彼女の制止に耳も貸さず、そのまま彼女に向かってゆっくりと進んでいた。

「止まりなさい!レイモンド!」

「もうお止めなさい・・義母さん・・・あなたの気持ちはわかっている」

「私の気持ちが・・・何だと言うの・・」

「あなたは父さんをまだ愛してる」

「馬鹿なことを言わないで。」

「だから・・ここへ戻ってきたんでしょ?
 あんなものを持って動いたら狙われる、それをわかっていながら・・
 父さんの病気が気になったのでしょう?」

「・・そんなこと・・」

「フレッドは・・・兄さんはもう・・組織に興味などないんです
 それはあなたが一番良くご存知だ・・・
 だから僕が・・・彼をパーキン家から解放したんです」

「・・・・・」
「そしてあなたはライアンから父を守るためにあの書類を持ち出し、身を隠した・・
 あなたにとって・・信用できる人間はパーキン家には誰ひとりいなかった・・」

「・・・・」

「だから・・逃げたんだ」

「・・・・」  

「ライアンはあなたの血を分けた息子だ・・しかし彼を恐れていた
 かと言って、まさか・・私に助けを求めることなど・・できなかったでしょう
 でももしも組織の三代目が私ではなく・・ライアンになっていたら・・
 あなたはあの書類を使うつもりだった・・そうですね

 僕を敵対視していると見せたのも・・
 ライアンが変に勘ぐって僕に危害を加えないため・・・そうでしょ?
 それともそれは僕の思い過ごしですか?」

「どうして・・」

「最初はわからなかった・・あなたがどんな目的で、そんなことをしているのか・・
 本当に・・きっと僕の敵なのだろうと・・そう思ってました・・・
 でもこうしてあなたがフランクと一緒にNYに戻った。大きな危険を冒してです
 知っていましたか?空港で待機していたあなたの護衛と称した男達・・
 あなたはご自分で手配していたのでしょうが・・既にライアンの息が掛かっています」

「・・・・知ってたわ・・・いいえもしかしたらと・・だから・・
 あの時とっさに・・フランクの車に乗ったの」

「奴らは・・先程ホテルの玄関で捕らえました・・・
 白を切ってあなたの元へ戻ろうとしていたんです。フランクがいなかったら、
 きっと書類を奪われるだけでは済まなかったでしょう」

「・・・・」

「義母さん・・・ライアンは・・もう駄目です・・
 先代から続いた違法行為が彼を取り巻く輩によって膨れ上がる一方です

 あなたの血を分けた子供ですが・・法の手に委ねます・・どうか・・・
 許してください・・・」

「レイ・・・」

夫人はレイモンドの言葉に、目に一杯涙を溜めていた。


それはフレッドと同じ血を分けた息子であるライアンへの哀切なのか
今の状況への諦めなのか・・・フランクにはわからなかった。

レイモンドは彼女が構えた小さな拳銃を彼女の手の中から抜き取り、
そっと自分のポケットにしまいこんだ。
そして、さっきよりもとても慈愛に満ちた表情で彼女をしっかりと抱きしめた。

「義母さん・・・その為には・・・あなたがきっと愛して止まない父さんも・・
 罪を償う必要があるんです
 トップとして・・責任を負わなければなりません・・

 いいですか?あなたは・・待てますか?
 5年・・いや・・10年かもしれない・・・それでも待てますか?」

レイモンドはまるで愛する人を宥めるように夫人の髪を優しく撫でながら話を続けた。

「父は・・あなたという人がありながら・・僕の母を深く愛してしまった・・
 そのことにあなたがどれほど傷ついていたか・・
 ごめんなさい・・
 僕はそれを知らなくて・・冷たく当たられたと誤解して・・・
 あなたを憎んで育った・・・

 父を憎んで・・育った・・・

 母に良く似た僕を見ることがどんなにか辛かったでしょうに・・・

 ごめんなさい・・・
 あなたを傷つけていたのは・・他でもない・・僕と母だったのに・・・」

「レイ・・・」

「昔・・あなたが僕をそう呼んだ時・・僕はあなたを睨みつけて・・・
 “母さんでもないのに・・そう呼ぶな”そう言いましたね・・

 あなたは最初・・僕を受け入れようとしてくれていた・・
 それなのに・・僕が・・拒絶したんだ

 あなたの愛に先に背を向けたのは僕でした」

「アンドルフの・・子供だもの・・愛した人の・・子供だもの・・・
 愛したかったのよ・・・あなたを・・・」

「父もきっと・・あなたの愛に気がつく・・それまで・・待ってやってもらえませんか?」

「・・・・・・・待って・・いても・・・いいの?」

「ええ・・そうして欲しい・・父の心を救えるのは・・きっと・・・
 あなたしかいない・・・」

「・・・・・」

「そして・・・パーキン家は・・僕のこの手でマフィア組織を消滅させます

 いいですね・・・
 それでも・・・パーキンの名を捨てませんか?」

「・・・ええ・・ええ・・・あなたがまだ・・私を・・・母と・・・呼んでくれるなら・・・」

「・・・・・・母さん・・・」

フランクは目の前で抱き合うふたりを見つめながら、レイモンドのこれまでの行動の疑問が
パズルのように頭の中で組み立てられていた。

 

  レイモンド・パーキン・・・


  彼の目的は・・・最初から・・・

 
     ソウルホテルでもなく・・・

 

     ジニョンでもなく・・・

 

     そして・・僕自身でもなく・・・

 
       僕が夫人に

 

 

          ・・・辿り着くことだった・・・










 









 


 


2010/09/19 00:43
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

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「逃げられた?・・・」

「はい・・申し訳ありません」

「フッ・・・相手はフランクだぞ・・・甘く見るなと言っただろ?」

「邪魔者がいたようでして」

「邪魔者?ま・・心配するな・・さっき、彼から連絡が入った」

「奴本人からですか?」

「ああ・・“あいにくでしたね”とのたまった」
そう言いながら、レイモンドは口元だけで笑った

「それで・・」

「明日、会う」

「では私もご一緒に・・」

「いや・・私ひとり・・・彼の条件だ」

「しかし・・向こうには夫人がいます。彼女の周辺には用心なさらないと・・
 奴らは間違いなくあなたを狙っているんですぞ。

 それにフランクもあなたを敵だと思ってる。彼が突然向かってくることも有り得ます」

「はは・・誰よりフランクの方が私は恐ろしい」

「若・・楽しんでる場合じゃないですぞ・・」

「楽しんでなどないさ」

「そうでしょうか・・私にはあなたがどこか
 フランクとの戦いを楽しんでいるように見えますな」


   そうだな・・そうかもしれない・・・しかし・・

 

   もう直ぐ・・それも終わる・・・


「フッ・・・生死を賭けてるんだ
 少しばかり楽しんだところで罰は当たるまい」

「若・・・」

「はは・・冗談だ・・・」

「・・しかし・・若・・決して無茶をなさらないように・・・」
ソニーは本心から、彼の無謀とも言える行動を案じた。

「ん・・」

   しかし・・・彼女が戻って来るとは・・・

 


私は義母・・ローザ・パーキンがフランクと一緒にNYに戻ることを想像していなかった。

   この地に足を踏み入れることがどれほど危険なことなのか

   様々な危機を掻い潜って来たあの人が察しないわけがない

 

   いったい・・・

 

   目的は何なんだ・・・まさか・・・

 

   母上・・・あなたは・・・

 

 

 


「ジニョン」

「レイ!お久しぶりです・・偶然ですね
 このところお見かけしませんでしたがお元気でしたか?」


   決して・・偶然ではないけどね・・・
  

「ああ・・君こそ・・元気だったかい?」

「えっ?ええ・・・」

「どうした?とても元気そうだとは言えないね」

「・・・・」

 


   ごめん・・・理由はわかっているよ・・・

 

「少しその公園まで歩かないかい?」

「え・・ええ・・」

「元気が無いのは・・・フランクに会ってないからかな?」

「・・・・」

「図星か・・・」

「どうして?」

「・・君の顔を見ればわかる」

「本当に?」

「ほら・・そこに書いてる」

そう言いながら私は彼女の頬に指先を触れた。


   大の大人が・・・


そうした瞬間に心を疼かせた。


   フッ・・何を・・・
  
   笑ってしまうな・・・

 

 

「また~レイ・・冗談」

「いや・・冗談じゃないさ・・本当だ・・
 あー君の顔にはいつもフランクが見える!」


   本当に・・・そうだね・・・


「君が嬉しそうに輝いている時はフランクもきっと元気なんだろう

 君が寂しげに沈んでいる時はフランクが病気か・・んー彼と喧嘩したか・・
 君のそばにいない時・・・」


   このまま彼を何処かに隠してしまったら・・・

   忘れてくれるかい?・・・彼を・・・


「それ以外何も無いな・・きっと君はわかりやすいから・・」

とても早口にフランクの話を続けた私の顔を覗いていた君が驚いたように口を開けていた。

「まあ・・まるで私ってバカみたい」

「はは・・いいさ・・バカで・・・んー名づけて・・“フランクバカ”とでも?」

「レイ!」

「はは・・ごめん・・」

「レイ・・・何だか・・変わりましたね」

「何が?」

「いいえ、変わったんじゃないわ・・・出逢った頃のレイに戻った感じ」

「出逢った頃?・・最近・・違ってたかい?」

「ええ・・違ってました・・・とても・・・」

「どう違った?」

「・・・・・」

「いいよ・・言ってごらん?」

「・・・・何だか・・怖かった・・・」

 

「怖かった・・・そう・・・悪かったね・・・怖い思いをさせて・・・」

「でも・・良かった・・だって・・“レイ”って、呼べるもの」

「さっきから呼んでたけど」

「いいえ・・最近はちょっと苦しかったんです、本当は・・そう呼ぶの・・・」

「そうなの?・・・そうか・・・良かった・・・」

「最初にレイが教壇に上がった時、 みんなに言ったでしょう?
 “レイ”・・そう呼んで下さいって・・・」

「ああ・・」

「あの時はみんな、驚いたんですよ~ホントは・・・
 特にアジア系の人たちはね。私もなかなかそう呼べなくて・・」


   そうだったね・・・君が一番遅かった・・・


「どうして?」

「だって・・先生だもの・・
 韓国では・・年上の人を呼び捨てになどする習慣・・無いし・・」

「そうか・・」

「でもレイが・・あなたが・・
 “ずっとみんなからそう呼ばれて来たからそう呼べ”って・・」

「そうだったね・・」

「ほぼ強制的だったわ」


   ああ・・君には特にね・・・


「韓国では・・・オッパ・・だったね。だから、ジョルジュはオッパなんだ」

「ええ・・だから、ちょっと変だったのレイを・・その・・“レイ”って呼ぶでしょ?
 ジョルジュを“オッパ”・・ちょっとちぐはぐ」

「フランクはフランクだったじゃない」

「だって・・フランクは・・」

「恋人だから?・・・」

「いいえ・・韓国では恋人もオッパと呼ぶことが多いです・・」

「そうなの?」

「でも・・フランクは・・・
 最初から・・フランクでしかありませんでした」

「そう・・・何故だろうね」

「・・・・・・・・・・・
 初めて出逢った時・・彼・・自分の名前だけを私に残したんです・・
 “フランク”って・・・
 次に・・いつ逢えるのか・・それすらわからない・・
 そんな出逢いでした・・・

 もう逢えないかもしれない・・
     
 でも私信じてました・・必ず逢える・・・そう信じてた・・・

 そして・・探したんです・・
 彼の名前を・・心の中でフランクを叫びながら・・・
 “フランク・・フランク・・フランク・・・”
 逢いたい・・逢いたい・・逢いたい・・
      
 そうやって・・やっと・・見つけたんです・・だから・・・」

「・・・・・・」

「・・・フランクは・・最初からフランクでしかなかった・・」


「・・・・・・・・・・・・
 実はね・・・今だから話すけど・・・
 君達に出逢うまで誰からも呼ばれたことなんて無いんだ
 “レイ”って・・・」

「えっ?そうなんですか?・・・・・だったら・・どうして・・」

「・・・・たったひとりの人を除いてね・・・」

「たったひとりの人?」

「ああ・・」

「その人は・・」

「今度も・・たったひとりの人にそう呼んで欲しくて・・・
 みんなに強制したのかも・・・」

「?・・・・・・」

  きっとそうなんだ・・・
  初めて君に会った時・・・母が戻ってきたかと驚いた

   ・・・レイ・・・

  まるで幼い頃そう呼ばれた
  その声が聞こえるようだった

  母と別れてからそれまで・・・
  僕は人にそう呼ばれるのが異常なほど嫌だった

  だから・・
  親しくなった人間が僕をついそう呼ぼうとしたときでさえ
  睨みを利かせてまで阻止していたくらいなんだ

  それなのに、君に会った瞬間・・・
  どうしても君にそう呼んで欲しくて・・・

  でも突然出会ったばかりの教師をそう呼べとは言えない

  だから・・・
  教壇に立った時、生徒達全員にそう呼ぶよう強制したんだ


  そうすれば君の口から・・・
 
  その声が聞こえるから・・・

  

「・・レイ?・・・」

「あ・・・何でもないよ・・・ジニョン・・・」

「・・・・・」

「そろそろ・・午後の授業が始まるね」

「ええ・・」

「じゃあ・・行って?・・それから心配しないで・・・
 もう直ぐ・・戻るよ・・フランクも・・・」

「えっ?」

「あ、それと、ジニョン・・今日でお別れだ」

私はできるだけ、“ついでに”を装って別れを告げた。


「えっ?」

「学校・・もう辞めた・・さっき、届けを出してきた」

「どうして?」

「家業が忙しくなるんだ」

「家業?」

「ああ・・これでも・・御曹司なんでね・・ジニョン・・今からでも遅くないぞ
 フランクから乗り換えるか?」

「レイ・・・」

「冗談だよ・・君達はその・・何だっけ?半身、というのだろう?」

「えっ?私・・レイにそんなこと話ましたか?」

「ああ・・話したよ・・・さっきも・・そうだ・・・
 君がどれだけフランクという男を想っているか・・
 うんざりするほど・・話した・・・」

そう言って、レイモンドはジニョンを優しく睨んだ。

「・・・・・・」

「あー・・そうだ・・ジョルジュは可哀想だけど・・
 僕が可愛がって・・諦めさせてあげよう」

「ふふ・・ジョルジュ・・あなたのこと好きです」

「おい・・そんな趣味は無い」

「きゃはは・・」

 
   ジニョン・・・

 

   その調子だ・・・

   君にはそのくったくのない笑顔が良く似合う

 

   今まで・・・

   悲しい顔をさせてしまってごめんよ・・


   でも・・・私もフランクと同じなんだ・・・

   君の悲しい顔を見るのは辛い

 
   だから・・・君にはもうお別れを言おう


   このまま君のそばにいると

   フランクから本当に奪いたくなってしまう・・・

   そうしたら・・また・・君を辛くさせてしまうだろう?


   君も感じているね・・・

   僕が離れていく・・そのわけを・・・

   だから・・さっきの答えを聞かないんだろ?

 

   ね・・ジニョン・・・安心おし・・

  
   もう直ぐフランクを君の元へ返す・・・


   それまで・・もう少しの・・・

 

 

      ・・・辛抱だよ・・僕の・・・

 

             ・・・ジニョン・・・

 

 


2010/08/09 23:56
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mmirage-儚い夢-43.チェイス

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フランクとローザ・パーキン、互いの思惑を乗せて飛行機はLAを飛び立った。

 

そして5時間後、JFK空港に着陸すると、フランクはパーキン夫人より先にタラップを降り
彼女とはまるで無関係であるかのように、歩き進んだ。

ローザ・パーキンもまた彼の後方を少し離れて歩いた。

 

空港の駐車場ではレオが予定通りフランクの到着を待っていた。  

 

  僕は車の前で待つレオに目線だけで応えた
  そして僕がおもむろに後部座席のドアを開けて、後ろから現れた女を
  エスコートしていることに怪訝な顔を向けていたレオが突然声を上げた。

 

「おい!ボス!・・・いったい・・まさか・・おまえ・・」

「いいから・・乗れ!」

 

  少しも言葉になっていない状態のレオにそう言い放つと僕は
  彼女の後から同じ後部座席へと乗り込んだ。

  レオは後ろを終始気にかけながらも、僕が顎で合図すると仕方なさそうに
  エンジンを掛けながら冷静を装い言った。

 

「ボス・・その方は・・・もしかして・・・
 いや・・ローザ・パーキン夫人とは言わないでくれ」

「この後はいかがなさいますか?・・・パーキン夫人・・・」

 

  僕はレオの疑問に答えるでもなく夫人に向かって声を掛けた。
  その瞬間、運転席のレオがハンドルを握っていた右手を自分の額に当てがい
  とたんに無口になった。


「・・・・」

「その書類・・私は今すぐにも欲しい
 しかし、あなたはそれを手放さないとおっしゃる・・
 私はどうしたらいいのでしょう」

「私がこの書類と一緒にあなたと行動を共にするわ」

「あなたにも危険が及びます」

「せっかくだけど・・ご心配は無用・・・」

パーキン夫人がそう言って後ろを振り向くと、フランクもそれに習って後ろを振り向いた。
そこには彼女の護衛らしき男達が数名乗り合わせた車がこの車にピッタリ付いて
走っているのが見えた。

 

「・・・・」

「さあ・・まず・・何を致しましょうか?フランク・・」 
パーキン婦人は不適に笑みを浮かべ、言った。

「明日レイモンドに会います」
フランクはその笑みを侮蔑して、坦坦と答えた。

「そう」

「あなたのお嫌いなレイモンドですが・・・それでもご一緒に?」

「・・あの子に会うのは・・・五年ぶりかしら
 相変わらず・・いい男?」

「さあ・・」   

「今日からNYグランドホテルに宿泊するわ」

「NYグランドホテル?」

そこはパーキン家の息が掛かったホテルだった。

「ええ、そうよ・・・フランク・・・もちろん、あなたも私と一緒に・・・
 しばらくそこに滞在してもらうわ」

「・・・・」

「私がLAに無事に帰るまで・・・
 あなたとしても私の身は心配でしょう?」

「・・・・」

「レイモンドともそこで会いましょう」

 

その時、突然妙な動きをした車の中でフランクと夫人が互いの体がぶつかるほどに
バランスを崩した。

 

「レオ!どうした!」

「付けられてる」

「後ろの車は夫人の・・」

「いや・・別の車が割り込んだ!」

レオの緊迫した声にフランクが後ろを振り向くと、一台の黒い車が明らかに
この車を狙って接近していた。


もともと後ろについていたはずの夫人の護衛車は、その後ろでバランスを
崩したかのような動きを見せ、遭えなく路肩に逸れていた。

「タイヤを狙われるぞレオ!スピードを上げろ!」

「上げてる!」

その車がこちらにわざと接触しながら止まるよう合図を送ってきた。

「もっとだ!」

「これ以上は無理だ!」

レオの声は悲鳴にも似ていた

「レオ!代われ!」

「何バカなこと!」

「いいから!シートベルトを外せ!シート倒すぞ・・
 直進になったらすばやく移動だ!いいか!」

「わ・・わかった・・」

 

レオはフランクに言われた通り、まず、自分のシートベルトを外した。
そしてフランクが運転席のシートを横から操作して後ろへ倒すと、次にフランクが
ハンドルの左側、レオが右側を互いに握ったまま、レオは重そうな体を必死に
助手席へとずらした。

 

  そして僕は後ろから運転席へと体を滑り入れた瞬間
  アクセルを思い切り踏み込みそのままその足を離さなかった


「ボス!・・ス・・スピード・・出し過ぎ」

レオの表情にはさっきまでの緊迫した中に今度は恐怖に混乱していた。

「我慢しろ!
 マダム!頭を低く、しっかりつかまって!」

「ええ」

 

フランクが後部座席に視線を送ると、パーキン夫人がグリップにしっかりとつかまり
身を庇いながらも怯える様子も無く、至って冷静に見える姿があった。


   流石・・・マフィアのボスの妻・・

 

 

フランクはそれまでの車の通りの少ない道路から、街中へと進行方向を変え、
慣れた路を縦横無尽に走り回ると何んとかその車の追跡をかわすことに成功した。

「どうだ・・」

「もう大丈夫だ・・付いて来てない」

そして当初の目的地グランドホテルへと軌道修正した。

「いったい・・」

レオが大判のハンカチをポケットから取り出して顔の汗を拭きながら文句をいうように
口を開くと夫人がその言葉に答えるように静かに言った。

 

「あの男は・・レイモンドの側近ソニーの手下だわ」

「レイモンド?」

「ええ・・間違いないわ・・」

「そうすると・・レイモンドには
 僕があなたと会っていたことは知られている・・・」

「そういうことね・・
 あなたも・・レイモンドを甘く見たわね」

「あなたの連れこそ・・何の役にも立ちやしない」

 

僕は自分達の車の後を一向に付いて来る気配がない彼女の護衛車に向かって言った。

「ふふ・・確かに・・・」

 

しばらく走った後にフランクは安全な場所で一旦車を停車させ、今度はちゃんと
ドアから後部座席に移動した。

そして、夫人に向かって開口一番こう言った。


「渡してもらいましょうか・・」

「・・・・」

「こうしてあなたや僕がそれを持っている以上
 狙われることは必至・・・僕が安全な場所に隠します」

「・・・嫌だと言ったら?」

「腕ずくでも」

フランクは彼女の手首を瞬時に掴むと鋭く睨みつけた。
そしてその手に徐々に力を加え締め上げていった。


「・・・痛いわ・・」

「このまま・・折ってしまっても構いませんよ」

「そんなことできるわけ・・」

「あなたも命は惜しいでしょう?
 僕もこんなものの為に死にたくは無い・・」

「あなたが私を守る保障は?」
    
「あなたが・・・あなた自身の意志でかばんを離したら・・・」

「離したら?」

「あなたの命は必ず守る」

夫人は握っていたアタッシュケースのグリップから白い指をゆっくりと離した。
フランクもまた、強く握った彼女の手首を静かに離した。


そしてそのケースを受け取ると、そのままレオに手渡した。


「レオ・・今すぐ車を降りろ。僕達とは別行動を・・」

「わかった」

レオは彼女のアタッシュケースを手に、マンハッタンの街中へと消えた。


「本当に折れるかと思ったわ」

「本当に折るつもりでした。あなたが鞄を渡さなかったら」

「レディにすることじゃないわ」

彼女は自分の手首をさすりながら、彼を睨んだ。

「失礼しました・・・」

「許せないわ」

「お詫びはどのように・・」

「お詫び?・・ふふ・・そうね・・・キスしてくれたら・・」

「・・・・」

「ここへ」

  彼女は至って真面目な顔をしてそう言いながら
  僕がたった今まで強く握り締めていた自分の手首を
  僕の目の前に差し出した

 

  彼女は不思議な人だった
  不気味なほどに冷静で
  何を考えているのかわからない怖さを
  持ち合わせているかと思うと
  時に女性としての可愛さを垣間見せる

  さっきまで彼女からアタッシュケースを
  奪い取る為には手荒な行動も辞さないと
  覚悟を決め本気で向かっていた僕に、
  こうして肩透かしをするような
  想像も付かない言動をする

  僕はそんな彼女に苦笑いを向けながら、
  痛々しそうに赤くなった彼女の華奢な手首に

  今度は優しく手を添えて・・・


     そっと・・・

 


         ・・・くちづけをした・・・


 


 


2010/08/01 21:32
テーマ:創作mirage-儚い夢- カテゴリ:韓国TV(ホテリアー)

mirageside-Reymond-17

Photo
   




mirage-儚い夢-sidestory Reymond 





「何の戯言でしょう・・・若・・・」

モーガンが私を睨みつけながら、それでも静かな口調でそう言った。

「・・・・」
私は彼から視線を逸らさなかったが、彼への答えをしばし探した。

「私の聞き違いでしたかな?」

「いや・・・聞き違いではない・・むろん・・・戯言でもない。」

「・・・・」
今度はモーガンが言葉を詰まらせていた。

「ご理解願いたい」

「それは無理というものです・・・」

「・・・・」

「30年です・・・」

「・・・・」

「私がボスの下でお仕えして・・30年です」

「私が生まれる前からだ・・・長いな」

「ええ・・私の人生の全てと言ってもいい・・それを今更・・・
 あなたは私の・・いや・・
 我々の生きる道を断つおつもりか」

「そんなことは言っていない。
 私は配下の者ひとりひとりに責任を持つ覚悟がある。」

「若!・・・あなたは勘違いなさっている
 我々はこの世界で生まれ・・この世界に育ったも同じ・・・
 その道を奪われたら、生きていく糧すらもない。」

「そうだろうか」

「あなたはそれでいいかもしれない
 あなたなら・・そうです・・あなたなら何処でも生きていける・・
 その技量が十二分にお有りだ。
 しかし・・若・・・悲しいことにこの世界でしか生きていくことができない・・
 そんな輩もいるんです」

「この世界でなくとも生かせてみせる」


「世の中は甘くはございません!」


「こちらが変われば世の中は変わる!」

互いを睨みつけながら声高に言い交わした後、私達は疲れたように溜息をついた。

そしてしばらくの沈黙の後、モーガンは柔らかい口調で繋げた。

「・・・・・お父上はこのことを?」

「いや・・知らない」

「父上が責任を問われることになりますぞ」

「父には責任を負う義務がある」

「父上を貶めるおつもりか」

「・・・・・」

「そんなに父上が憎いですか」

モーガンが悲しげにそう言った後、彼の言葉が突然途切れた。
私も黙って、ただ彼の目を見据えていた。


「あなたを・・・敵に回すことは避けたい」 
私は互いの沈黙をそう言って破った。

「私が敵になる・・・その覚悟もお有りだと・・・
 そういうことですな。」

「・・・・・」

「この話を聞いてしまった私が・・今ここであなたに刃を向ける・・・
 そのことはお考えになりませんでしたか?」

「その時は・・・」

私は言葉を途切れさせて、タダ黙って懐に手を差し入れた。

「私が・・・やられる・・・そういうことですな・・・」

「仕方がありません」

私のデスクを挟んで、モーガンと私が睨み合ったまま、しばしまた沈黙が続いた。

そして彼は辛そうな笑みを向けながら口を開いた。

「ふー・・・あの小さかった坊ちゃんが・・・」

彼はそう口にすると今度は目を細め、愛しいものを見つめるような笑みに変えた。

「・・・・」

「あなたを連れてくるようボスに進言したのは私です・・・
 そしてあなたが実際に我々の元に現れて・・・
 年月が流れて・・・あなたが成長されて・・・
 組織の中で活躍されるようになって・・・

 あなたなら・・・
 いやあなたこそが我々の組織の救世主になる
 そう思っていた・・・」

「・・・・」

「あなたの気持ちはわからないではない。だがしかし・・・
 今私はここで・・“はいそうですか”と易々承諾できる立場ではない・・
 私にも守らなければならない者たちがおります
 それはご理解いただけますかな」

「承知している」

「もしも・・・結果的に・・・
 私があなたの意に沿うことができなかったら・・・
 その時は・・・他の誰でもないあなたの手で・・私を・・どうぞ。」

「・・・・・わかった。」

モーガンは大きな溜息をひとつ吐いた後、部屋を出ようとノブに手を掛けた。
そしてそのままの姿勢で私に振り返った。

 

「・・・・若」

「ん?・・」

「好きな女でも出来ましたか・・・」

「・・・・」

「やはり、そうですか・・・その女を・・・
 本気で愛したのでしょうな・・若・・・」

「・・・・」

「あなたの父上も・・・一度だけ・・・
 あなたと同じことをなさろうとしたことがある・・・」

「父が?・・・」

「ええ・・・もう28年も前のことです・・」

「28年前?」

「その女と・・・生きたかった・・・
 私にそうおっしゃった
 泣きながら・・・そうおっしゃった・・・」

「・・・・」

「それを命がけで食い止めたのは・・・他ならぬ・・・私です」

「・・・・」

「そしてボスは・・・結果的に
 ご自分に課せられた宿命を受け入れられた」

「・・・・」

「あの時・・・ボスの思いのままにして差し上げていたら・・・
 あなたはここにはいなかった・・・」

「・・・・」

「若・・・あなたが恨むべき人間は・・・父上ではなく・・・
 この・・私でしょうな・・・」

そう言い残して、モーガンはゆっくりとドアを開け出て行った。 
  
  何を言ってるんだ・・・

  父さんが・・・28年前・・・

  全てを捨てて生きようとした女・・・

  それが母さんだとでも?
 
  そんなはずはない・・・

  あの人にそこまでの覚悟など・・

  僕は十年もの間・・

  父の存在すら知らず生きてきた

  母とふたり・・生きてきた・・・

 

  父さん・・・

  母さんと生きたかったら・・何故そうしなかった?

  そうしてくれていたら・・・

  こんなことをせずに済んだものを・・・

 

  今更・・・そんな話

  聞いたところで・・・

 

     ・・・何になる・・・

 

 

 


 

   


 




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