創作の部屋~朝月夜~<48話>【再びR】
☆「注意事項」は、前回と同様です。ご注意くださいませ・・・。
「どう、順調?」
照明機材を車に積んでいると、同僚に声をかけられた。
「えっ・・・?」
「ソウルの町を楽しそうに歩いてた?」
「見たのか?」
「オレじゃないけどね」
「そうか・・・」
「若い子だって?結婚するのか?」
「いや・・・まだそこまでは」
「もたもたしてると、また、逃げられるぞ」
同僚は、「また・・・は、余計だったな」と言いながら、僕の肩を叩いて、スタッフの輪の中に入って行った。
楽しそうに・・・か。
確かに、マリと一緒にいると元気になれた。
若いだけに、会話も豊富で、日々新しい話題を提供してくれる。
「今日、嫌なことがあっても、明日はいいことがあるかも、と思ったら、頑張れるじゃない」
仕事がうまくいかなかった日も、マリの明るさに助けられた。
肌を合わせることで、萎えていた気力を取り戻せたと思えた夜もあった。
そんなマリと暮らし始めて、3月が経っていた。
互いの部屋を行き来するようになって、遅くなったら泊まる、という状態が続いていた。
「一緒に暮らさない?」
提案したのは、マリだった。
「コンビニって、給料安いの。今住んでるアパート、古いけど結構、家賃高いし・・・」
「ソウルにおばあちゃんがいるって言ってたろう?」
「おばあちゃんちに行けって言うの?会えなくなるよ、私と」
「なぜ?」
「門限があるもん」
マリは一緒に暮らした方が何かと便利だと、大して理由にもならないようなことを散々しゃべり続けた。
僕が「うん」と言わないものだから、最後には「インスといつも一緒にいたいの」と、しおらしいことを言った。
僕は、いかにも君の事情を考慮して仕方なく・・・と、言うそぶりを見せながら承諾の返事をした。
しかし、本当は、マリの甘い言葉にほだされたのでもなく、マリに同情したのでもなかった。
僕が、マリを手放したくなかった。
いつも、目の届くところに置いておきたいと思い始めていたのだった。
「ねえ、今日、時間ある?」
朝食を食べながら、マリが聞いた。
「いつもどおりに仕事だけど」
「ちょっとだけ、私に付き合ってくれる?」
「なに?」
「う・・・ん、ちょっと」
「だから、なに?」
「うん・・・。パパとママが来るの」
「どこに?」
「ソウル」
「それで・・・?」
「一緒に行ってくれないかなあ・・・なんて」
「行ってどうする?」
「パパとママを安心させたいの」
「男と暮らしてるって聞いて、安心するか?」
「安心するわよ。相手がインスだから」
「どういう意味?」
「深く追求するならいい。もう頼まない」
マリはそれっきり黙ってしまった。
朝食を食べ終えた僕は、「時間と場所は?」と、聞いてみた。
「行ってくれるの!」
不機嫌な顔が、たちまち輝いた。
「何とかする」
「Pホテル、3時」
「そう言うことは、夕べのうちに言えよ」
ホテルの名前を聞いて、この格好ではまずいと僕は思った。
Pホテルは、国内でもトップクラスの格式あるホテルだ。
ジャンパーにジーンズで、入れるような雰囲気ではない。
僕は、クローゼットを開けて、スーツに着替えた。
「スーツ姿はじめて見た・・・すてき」
マリの視線を逃れるように、僕は、「遅れるなよ」と言い残し、部屋を出た。
約束の時間より、早くホテルに着いたのに、マリはすでに先に来て僕を待っていた。
マリは、小花を散らしたふわりとした素材のピンクのワンピースを着ていた。
「そんな服、持ってたんだ?」
「一応ね」と、言うと、マリは僕の耳元で「かわいい?」と囁いた。
「パパたちは、カフェにいるわ」
「ちょっと、緊張するなあ」
「大丈夫、パパもママも気さくな人だから」
マリに連れられてカフェに入ると、窓際の席に並んで座っている両親の姿が見えた。
初対面の挨拶をした僕に、マリの父は名刺を差し出しながら、「マリがお世話になっているようで」と言った。
名刺には、名前と会社名が記され、「代表取締役」と言う肩書きが添えられていた。
「やっぱり、韓国はいいなあ」
ソウルの街が見下ろせる席で、マリの父が呟いた。
しばらくは、久しぶりに訪れた韓国の話しが続き、やがて、夫婦の恋物語へと話が発展した。
「彼女の心を掴むために、涙ぐましい努力をしたよ。日本語を必死に覚えたりしてね」
「私だって、韓国語の勉強をしました」
若かりし日の話しをする時、マリの父の精悍な顔は柔和な顔に変わった。
傍らで、微笑むマリの母は、美しい人だった。
中年と呼ばれる年齢に近づいた今も、美しいと感じるのだから、若い時の美しさはどれほどのものだったのだろうかと僕は思った。
「昔の話はそれくらいにして、そろそろ失礼しないと・・・」
「あ・・・もう、そんな時間か?」
「これから、親戚の人たちとの食事会があるの。インスは、この後どうする?」
マリに聞かれて、「会社に戻る」と、僕は答えた。
「忙しいのに、ごめんなさいね。どうしても、主人があなたに会いたいと言うものだから・・・」
「マリから、好きな人ができたと聞かされて。韓国人だと知った時は、うれしかったよ」
「男は、韓国。女は日本・・・これが、パパの口癖だもんね」
「何を理由にそうおっしゃるんですか?」
僕は、つい口を挟んでしまった。
「やだ~マジにならないでよ。ママが日本人だからに決まってるじゃない。要するに、根拠のない理論って、ヤツよ」
「まあ、なんて口の利き方でしょう」と、母に言われて、マリは思わず舌を出した。
ユキのことが頭に浮かんで、真剣に聞いてしまった自分が恥ずかしくなった。
「パパ、インスに会って、安心したでしょ?」
「もう、馬鹿な夢は諦めたんだろうな?」
「馬鹿な夢って・・・?」
僕は、マリに向かって尋ねた。
「知らない。何のことかしら?」
「ふたりの仲をとやかく言うつもりはないが、結婚となると話は別だぞ。解ってるな?」
「結婚・・・?そんなこと考えてないわよねえ」
マリは同意を求めるように僕を見た。
僕は、なんと答えてよいのか解らなかった。
「じゃあ、これで失礼する。とりあえず・・・マリをよろしく頼むよ」
マリの父が差し出した手を握り、僕は頭を下げた。
別れ際、「遅くなりそうだから、先に寝ていてね」と、マリは言ったが、なんとなく寝付かれず、ビールを飲みながら、マリが帰って来るのを待っていた。
「あ~疲れた!」と言う声とともにマリが帰って来たのは、深夜0時を少し過ぎた頃だった。
「まだ、起きてたの?」
「なんとなく・・・」
「シャワーを浴びて、寝よう」
マリはそのまま、浴室に直行した。
浴室から出てきたマリは、濡れた髪をタオルで拭きながら、「インス、今日はありがとう」と言った。
「飲むか?」
「うん、1杯だけ」
僕は、冷蔵庫から新しいビールを出して、マリのグラスに注いだ。
「一緒に暮らしてること、言ってないのか?」
「うん」
「どうして?」
「面倒だから」
「いずれバレるぞ」
「その時はその時。今は言いたくない。言ったら・・・間違いなく、日本に連れ戻される」
「そうだろうな」
「インスとの生活、失いたくないの。」
乱暴な口を利いたかと思うと、こうして男心をくすぐるようなことをさらりと言う。
これが、マリの魅力のひとつなのかもしれないと思った。
「眠い・・・もう、寝るね」
僕も少し遅れて、ベッドに入った。
「ねえ・・・」
すでに眠ったと思っていたマリが、背中をを向けたまま言った。
「ん・・・?」
「ママに見とれてたでしょ?」
「うん」
「うん?信じられない。普通は否定するもんよ」
マリがふり返って言った。
「きれいな人だな・・・って」
「ますます、信じられない」
「事実は事実さ」
実は、先ほどもビールを飲みながら、マリの母親の顔を思い出していた。
だが、さすがにそれは言わずにいた。
「マリにも半分、あの人の血が流れているんだよな・・・」
そう言いながら、僕はマリのパジャマのボタンに手をかけた。
「今夜はダメ・・・。疲れてる」
「マリ・・・」
僕は、マリの首筋に唇を寄せ、耳元で囁くように言った。
「同居を認めた条件は?」
「何で今、そのこと?眠い・・・」
「言って」
「夕ご飯は、必ず作ること」
「それから?」
僕は、3つ目のボタンをはずしながら聞いた。
「洗濯は毎日・・・あっ・・・すること」
僕の腕が、胸元に忍び込むと、マリは小さな声を上げた。
「そして?」
残りの2つのボタンをはずすと、マリの乳房が顕わになった。
「1日おきに・・・掃除をすること・・・」
僕は、片方の乳房を右手で掴み、もう片方の乳房の先端を口に含んだ。
「インス・・・」
マリは、僕の名を呼びながら身をよじった。
「もう、ひとつ、条件があったろう?」
マリは、黙って首を振った。
「拒否しないこと」
「そんなこと、決めてない」
「なら、今、決めた」
「イヤだって言ってるのに・・・」
僕は、マリのパジャマのズボンと下着を一度に剥ぐと、目標とすべき所に指を這わせた。
「マリはうそつきだな・・・」
「インス・・・」
マリは、再び僕の名を呼ぶと、自ら唇を求めてきた。
美しい人の顔が脳裏をよぎる。
あの人は・・・どんな姿態で夫を受け入れ、どのような声を発するのだろう。
淫らな想像は、いっそう僕を昂ぶらせ、潤った場所へと僕を駆り立てた。
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