2009/11/07 10:58
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

創作の部屋~朝月夜~<47話>【R】

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★今回は、【R】的要素を含めた描写がありますので、お嫌いな方はスルーしてくださいね。

「四月の雪」のインスのイメージを壊したくな~いと言う方も、スルーしてください。






「逞しい腕にぎゅっとされると、なんだか安心する・・・。」

僕の腕の中で、マリーが呟いた。


「子供の頃、パパに抱っこされたこと思い出すなあ」

「僕は、君の父親か・・・?」

マリーとの年の差が頭をよぎって、苦笑いとともに、そんな言葉が口を突いて出た。


「父親の愛は、無償の愛よね。その人に、世界中の誰よりも愛してほしいと思ったら、恋人よりも、奥さんよりも・・・その人の子供になることかな、って思うわ」

父親になり損なった僕には、マリーの言葉の意味をすべて理解することはできなかった。


「ねえ・・・」

マリーが上目づかいで僕を見上げた。

「愛してるって言ってくれたら、もっといい気分になれるんだけどなあ・・・」

僕は、マリーから視線を逸らすと、「愛してる」の言葉の代わりに、「ビールでも飲むか?」と言って、立ち上った。


「なによ、照れちゃってぇ・・・つまんないの」

後ろで、マリーが独り言を言っていたが、僕は聞こえないふりをした。


                                      


マリーに缶ビールを手渡し、僕はビールをひと口飲むと煙草に火を着けた。

煙を吐き出す様子を隣に座っているマリーが、じっと見ていることに気づいた。


「なに?」

「煙草を吸ってる横顔・・・すてき」

「からかうなよ」

「からかってなんかいない。本当にそう思うから言ったの」


「煙草は?」

僕は、照れ隠しに聞いた。

「ちょっと、吸ったこともあったけど、止めた」

「いいことだな」


「ずっと前に、好きだった人が言ってたわ。終わったあとの1本が最高においしいって」

「終わったあと・・・?」

声にした瞬間、意味が解った。

「いっつも、私の横でおいしそうに吸ってた。それで、私も・・・って」


「おいしかった?」

「ううん、おいしくなかった。だけど・・・その人の唾液で少し湿った煙草の感触が好きで・・・指先から奪うと真似して吸ってたの」

顔の見えない男の横で、煙草をふかすマリーの姿が浮かんだ。

それは、嫉妬と呼ぶには程遠いものだったが、心の片隅をかすかにくすぐるような感情だった。


「その男とは・・・?」

「別れた。ふられたの」

「会いたいと思ったり、思い出したりしない?」

なぜこんなことを聞いているんだろうと思った。


「しない。私がふった男なら、今もひとりでいるのかなあなんて思ったりするけど。ふられた男のことは考えない。だって、私の知らない誰かと一緒になって、幸せに暮らしてるかも・・・なんて想像するとくやしいじゃない」

「君らしい考えだな」

「あなたは?」


「時々思い出す」

「どっちを?離婚した奥さん?それとも別れた恋人?」

「両方」

「はぁ・・・呆れた。ビールもう1本持って来て」


                                    


缶ビールを冷蔵庫から2本取り出して、再びソファに座ると、マリーは「ねえ・・・」と、また何かを問いた気な様子で僕を見た。

「君に、ねえ・・・って、言われるとヒヤッとするよ。今度は何?」

「私たち、あれからしてないけど。したい?」


「そう言うこと、露骨に言うな」

「答えてよ、したい?したくない?」

「したい・・・って、言ったら?」

マリーの表情が一瞬、固くなったような気がした。


「冗談だよ。襲う気はないから、安心しろ。今でも・・・後悔してる」

「え・・・?」

「あの日のこと。申し訳ないことをしたと思ってる。悪かった」


マリーに詫びるきっかけをやっと得られたような気がして、さらに僕は謝罪の言葉を口にした。

「謝って済むことではないと解っている。それでも、きちんと君に謝りたかった」

「嫌じゃなかった・・・。どんなに乱暴に扱われても、少しも嫌じゃなかった。あの時すでに・・・あなたを好きだったから」

マリーは俯いたまま言った。


「嫌だったのは・・・身代わりにされたこと。別れた人を思いながら、私を抱いたこと・・・」

身代わりにしたつもりはない。

そうではないんだ・・・。


あの日、マリーは恋愛について語った時、「日本の女」と言う言葉を引き合いに出した。

そのことに僕は無性に苛立った。

そして、理不尽な行為に及んだ。


だが・・・今、そのことを言っても意味のない気がした。

理由はどうであれ、僕のしたことが正当化されることはない。

「ごめん・・・」

もう、この言葉しか見つからなかった。


                                    


「本当に悪かったって思ってる?」

「思ってる」

「だったら・・・キスして」

「どうして、そういう発想に繋がるのか、解らない」

「謝罪の証」

マリーは僕に向かって目を閉じた。


僕も目を閉じて、躊躇いながらもマリーの唇にそっと唇を寄せた。

離れて、目を開けるとマリーの頬に一筋の涙が流れていた。

「好きになるのに時間なんて関係ないのね。出会って間もないのに・・・切なくなるほど、あなたが好き」

マリーは、震える声でそう言った。


「らしくないなあ・・・」

そう言いながらも、僕の胸の中にマリーに対する愛しさが、急速に広がっていった。


触れるだけのキスは、やがて深いキスに変わり、僕たちは何度もキスを繰り返した。

「嫌じゃなかったら・・・」

最後まで言わなくても、僕の言いたいことは、充分マリーに伝わった。

僕は、マリーの手を引いて、寝室のドアを開けた。


あの時は・・・マリーの体を眺める余裕はなかったのだと気が付いた。

柔らかなうなじ。

整った乳房。

贅肉のない下腹部。

みずみずしい爪。

ダンスで鍛えたマリーの体は、随所で若さを主張していた。


この体を独り占めしていいのか・・・。

謙虚な気持ちは、瞬くうちに、独り占めしたいという欲望に変わった。

「好きな人に抱かれるって・・・しあわせ」


「このまましてもいい?」

マリーは、僕の腕の中で、喘ぎながら頷いた。


                                     


つかの間のまどろみから目覚めたのは、窓から吹き込む冷たい風のせいだった。

「どうした?」

「雪が降ってる・・・駅まで送ってくれる?」


「明日の朝、送るから・・・」

そう言って、僕はマリーを手招きした。

マリーは素直に僕の横に滑り込むと、冷えた足を絡めてきて、「インス」と、言った。


「おじさんでも、あんた・・・でもなく、インス?」

「そうよ、インス」

「君は僕よりだいぶ年下だ。インスさんと言うのが普通だろう?」


「日本では、これが普通。恋人同士は、多くの人が呼び捨てで相手を呼ぶわ。私は、あなたをインス・・・と呼んで。あなたは私をマリ・・・って、呼ぶの」

「マリ・・・?」

「そう、それが私の本当の名前。マリーは店で使ってる名前なの」


「マリ・・・。また、君が欲しくなった」

僕は毛布の下で、マリの細い腰を抱き寄せた。


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