2008/05/28 10:58
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

「朝月夜」(アサヅクヨ)⑭・・・こちらは戯言創作の部屋

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ホテルの最上階からは、会津の町が見下ろせた。

夜の闇の中で、ライトアップされた鶴ヶ城が、薄緑色に輝いていた。

僕達は、今日一日、観て回った会津の町のことを話しながら、夕ご飯を食べた。

賑やかな他のテーブルに比べて僕たちだけが静かだった。

 

「インスさんは、お友達と一緒の時もあまり喋らない人?例えば・・・お酒を飲みに行っても、ひとりで静かに飲んでいるとか・・・」

「場を盛り上げる、ということが得意ではないんです」

「いるのよね・・・そういうのが得意な人」と、言って君は笑った。

「やはり女性は、話し上手な男に惹かれますよね?」

「そうね・・・黙ってると、何考えてるのこの人・・・?って思っちゃうかも」そう言って君はまた笑った。

 

「無口な男は嫌いですか?」僕の問いかけに君は黙っていた。

またもや、的外れな質問をしてしまったと、思った。

「小学校の・・・3年生の時、クラスにとても無口な男の子がいたの。あまり笑わず、とても静かな子・・・。ある時、それを理由に何人かのクラスメイトが、その子をからかったの。それでもその子は何も言わず黙ってた。担任の先生がからかった子にこう言ったわ。たくさんの言葉で相手を罵るより、無口な方が尊いと言うことに気付きなさいって・・・」

君は、幼心にもその先生の言葉がとても印象に残っている・・・と言った。

                            

僕は、自分の少年時代を思い出していた。

けして静かな子供ではなかった。むしろ仲間と騒ぐのが好きな子供だった。

いつの頃からか、他人と合わせるのがなんだか億劫になって、自己主張することが苦手な大人になった。

 

「私は、饒舌な人より、静かな人が好き・・・。言葉は少なくても、心が豊かな人・・・」

「ユキさんの恋人はそういう人ですか?」

言ってしまってから、またも僕は後悔した。

君に恋人がいようがいまいが、僕が詮索することではなかった。

「そういう人にめぐり会えたらいいな・・・ってことです」と君は答えた。

                            

部屋に戻るため、下りのエレベーターに乗ると、君は何かを思い出したように、「1階」のボタンを押した。

「どこへ行くんですか?」と僕が聞くと、「あなたの宿泊予約の延長をしなければいけなかったことを思い出したんです」と言った。

フロントのカウンターで、今夜は二人でここに泊まるが、その後は、僕だけが、滞在することを、君は係りの男性に伝えた。

 

おそらく、係りの男性は、今の部屋をそのまま使いますか?と君に聞いたのだろう。

君は、「あの部屋はひとりでは贅沢よね?」と言った。

そして、僕のために、シングルの部屋を予約してくれた。

部屋まで案内してくれた女性従業員が、隣へ通じる襖を開けた時、僕の視界の端に飛び込んできた、セミダブルのベッド。

あの部屋は、確かに・・・ひとりでは贅沢と言うより、広すぎる・・・と、僕は思った。

 

「お酒でも飲みますか?」僕は、ホテル内にあるバーへの入り口を指差して言った。

「ごめんなさい。お酒よりも、お風呂に入って、早く寝たいんです」

「疲れましたか?」

「少し・・・」

そう言えば、食事もあまりすすんでいなかったようだと、今になって僕は気が付いた。

ひとりでは飲む気になれず、結局、僕は君と一緒に部屋に戻ることにした。

                              

「せっかく、温泉に来たのに、入りに行く元気がないわ・・・。私は、部屋のお風呂で済ませますから、どうぞ、行って下さい。ひとりで行かれますよね?」

日本語が解らなくても、温泉くらいはひとりで入れる。

そんなことよりも、温泉に入る気力もないほどに疲れさせてしまったことに責任を感じ始めていた。

しかし、君がお風呂に入っている間、部屋の中で待機しているのも妙な気がして、僕は、ひとりで温泉に入ることにした。

 

部屋に戻るとすでに君の姿はなく、遠慮がちにわずかに襖を開けると、君はすでにベッドの中で横になっていた。

声をかけるのも悪い気がして、僕はそっと襖を閉めた。

 

窓辺のイスに座って、昼間、酒蔵で買った、日本酒の瓶の蓋を開けた。

コップに酒を注ぎ、口に運ぶ自分の姿が、窓ガラスに映っていた。

女性と二人、同じ部屋に宿泊しながら、口説くこともせず、一人、窓辺で酒を飲んでる自分が、おかしかった。

中庭の篝火は、降り続く雪のせいで、勢いを失っていながらも、静かに燃え続けていた。

 

 


2008/05/15 11:16
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

「朝月夜」(アサヅクヨ)⑬・・・こちらは戯言創作の部屋

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ろうそくの灯りは、どうしてこんなにやさしいのだろう。

太古の昔から、灯りは人々の心の拠り所だった。

灯りの下に人々は集まり、語らい、食事をした。

そしてそこに愛が芽生えた。

古(いにしえ)の人々の生活に思いを馳せながら、私は鶴ヶ城のろうそくの灯りを見つめていた。

 

たけのこ型に作られた陶器の燭台は、小さなお地蔵様のようで、斜めに切り取られた孟宗竹の中で、ゆらめく炎はかぐや姫を連想させた。

「愛」 「希望」 「夢」 「未来」。

地元の中学生が作った燭台に書かれた文字は、春を待つ会津の人の心。

彼は何度もシャッターを切り、「来てよかった・・・」と呟いた。

                         

それにしても冷える。

寒さが足元から這い上がってくる気がした。

ろうそくの灯りを熱心に見つめている彼に「帰りましょう」とも言えず、私は彼の傍らで震えていた。

 

その内にちらちらと雪が舞い降りてきて、会場はよりいっそう、幻想的な雰囲気に包まれた。

鶴ヶ城を雪と光が包む。

ライトグリーンにライトアップされた鶴ヶ城とそれを取り巻く、幾千のろうそくの灯り。

「ろうそくまつり」が、別名「ゆきほたる」と言われる由縁が解ったような気がした。

 

「寒い・・・」つい、口に出してしまった言葉に、彼が気付き、「戻りましょうか?」と言った。

もう限界・・・と思っていた私は、待ってましたとばかりに「うん、うん」と頷いた。

                              

駐車場に戻ると、運転手に「あれ?もう戻ってきたんですか?天守閣には行かなかったの?」と聞かれた。

天守閣・・・?

と、私が不思議そうな顔をすると、「天守閣に上ると、全体が見渡せてそりゃあ・・きれいなんだけどなあ」と、言った。

 

私と運転手の会話を理解できない彼は、すでに、カメラをバックにしまっていた。

彼に申し訳ない気もしたが、もう、引き返す元気が私にはなかった。

「ホテルへ行ってください」

私は、凍える手に息を吹きかけながら、運転手に告げた。

 

ホテルの正面玄関の車寄せで車を止め、トランクから荷物を出しながら、運転手は私に「素敵な夜を・・・」と言った。

無骨な運転手に似合わぬ言葉に、私は意味を取り違えて俯いた。

そんな私の気持ちを察して、「ゆっくりと温泉に浸かって、うまいものを食べてという意味ですよ」と言い、豪快に笑った。

私たちは、運転手に今日一日の礼を言い、ハイヤーが走り去るのを見送った。

             

自動扉を開けると、別世界のような暖かさと、従業員のにこやかな笑顔が私たちを迎えてくれた。

駅前の観光案内所で紹介された・・・と、名乗ると、「お待ちしておりました」と、フロントのカウンターに案内された。

そこで私は、宿泊カードに自分の名前を記入し、「同行者1名」と、書き添えた。

 

通された部屋は、外観から受けたイメージと違い、純和風の落ち着いた和室だった。

案内してくれた、女性従業員から手渡されたパンフレットには、「会津で過す二人だけの大切なひととき」と書かれていた。

その文字を見つめていると、「お食事はいかがいたしますか?」と聞かれた。

希望により部屋まで運ぶこともできるし、最上階の「食事処」で食べることもできると言った。

私は、「夜景を見ながらの夕食」を選択した。

口数の少ない彼と、二人きりの夕食は、会話も途切れがちで、間が持てないような気がしたからだ。

 

さらに「浴室はお部屋にもございますが、今からお時間の予約をしていただければ、お二人だけで入れる貸切の露天風呂もございます」と言った。

老舗のホテルや旅館に限らず、従業員が宿泊客のプラーベートを詮索するのは、マナー違反と教育されているはずだ。

明らかに夫婦でないとわかっても、それを装うのがルールとされている。

だからこそ、このような説明がなされるのだろう。

「貸切露天風呂」のことは、「結構です」と言って終ったが、この時ばかりは、彼が日本語が解らない人でよかったと思った。

            

次に「お休みになるときはこちらのお部屋で・・・」と、隣の部屋に通じる襖を開けた。

おそらく私は、その瞬間、顔色が変わっていたと思う。

ここに通された時から、部屋はふたつあるのだと解っていた。

その時点で私は、各部屋に一枚ずつ布団を敷いて・・・と、すでに考えていたのだった。

備え付けのテレビの使い方や空調の調整の仕方も上の空で、私は、ふたつ並んだセミダブルのベッドを見ていた。

ひと通りの説明を終えると、女性従業員は、「それでは、どうぞごゆっくり」と言って、部屋を出て行った。

その間、彼はずっと窓辺で、タバコを吸いながら、外を見ていた。

篝火が焚かれた中庭は、先程から降り始めた雪で白くなりかけ、遠くに流れる川音が聞こえていた。


2008/05/06 11:07
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

「朝月夜」(アサヅクヨ)⑫・・・こちらは戯言創作の部屋。

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「何もしませんから・・・」と言う彼の言葉に「当然です!」と言い返しながらも、動揺している自分を彼に悟られたくなくて、私は早足で、観光案内所を出た。

彼とひとつの部屋に宿泊することに対して、そんな場面は、微塵も思い浮かばなかった。

 

私は、ただ、病室で感じた気詰まりを、また、ホテルで彼も感じるだろうと思って、「どうしますか?」と聞いたのだ。

何もしませんから・・・?そんなこと、あえて口にする必要があるのかしら、と私は思った。

今まで意識していなかったことを、意識せざるを得なくなって、私は早くも彼との宿泊を決めたことを後悔し始めていた。

 

そんな気持ちが顔つきに表れたのだろうか。

彼は、ハイヤーに乗り込むと、「先ほどは、失礼なことを言いました」と言った。

私は、なんと言ったらいいのか、解らずに黙っていた。

           

「宿は取れましたか?」と、運転手に聞かれた。

私が、「はい」と短く答えると、「そりゃあ、良かった。この時期、野宿ってわけにもいかないもんなあ~」と言って、大きな声で笑った。

 

私たちは、運転手の勧めで、七日町の郷土料理店で、昼食をとることにした。

囲炉裏がある部屋で、会津の郷土料理を食べた。

「鰊の山椒漬」「棒だらの煮物」などの魚料理は、韓国人の彼の口に合うかと、心配したが、彼は、おいしいと言って食べていた。

 

和洋折衷の調和の取れた個室は、落ち着いた佇まいで、塵ひとつ落ちていない床は、黒光りするほどに磨きこまれていた。

客を迎え入れるため、心地よい空間を提供しようと言う店主の心遣いが感じられた。

 

郷土料理店を後にした私達は、老舗のろうそく店に立ち寄り、職人の熟練した技に、しばし目を奪われた。

「やってみてはいかがですか?」と言う、女性店員の言葉に、私たちは、乳白色のろうそくに、思い思いの絵付けをした。

出来上がったところで、彼が「交換しましょう」と提案した。

 

彼が差し出したろうそくには、ピンクの花びらを散らせている桜が描かれていた。

散る間際の、いっそう美しい桜を連想させる彼のろうそくを見たら、自分のろうそくがひどく幼稚に思えて、絵柄を隠すように私はろうそくを握り締めた。

彼は、私の手からろうそくを抜き取ると、「かわいい・・」と言って笑った。

ピンクの手袋をして、頬を赤く染めているろうそくの中の「雪だるま」は、今の私そのものだった。

           

「次は、有名な酒蔵へ行きますか?」

運転手に促されて、私たちはろうそく店を出た。

良い米、良い水、そして会津の冬の厳しさは、酒造りにもっとも適していると言われているそうだ。

酒蔵の中を見学する為には、事前に予約が必要だった。

見学はあきらめて、「きき酒コーナー」で、地酒を試飲することにした。

 

久し振りのアルコールに彼は感動したようで、薦められるがままに何杯かのお酒を飲み、そのうちの一本を購入した。

私は、匂いをかいだだけで、酔いそうなので、試飲も丁寧に辞退した。

 

その後、武家屋敷に向かい、そこを出た時には、辺りは薄暗くなりかけていた。

「ちょうどいい時間だと思いますよ」と、運転手は、鶴ヶ城に向けて車を走らせた。

鶴ヶ城に着いた頃には、薄闇の中、すでに何本かのろうそくに明かりが灯され、幻想的な雰囲気を醸し出していた。

 

夕方になったせいか、寒さが増したような気がした。

私は、コートの襟を立て、肩を抱いた。

そんな私の様子を見て、彼は「寒いですか?」と言いながら、首に巻いていたマフラーを取ると、私の首に巻いてくれた。

「いいです・・・大丈夫です」と言いながら、巻いてくれたマフラーを取ろうとした私の手を制して、「風邪を引いたら、僕のせいになる・・・」と、言ってもう一度巻き直してくれた。

彼の顔があまりに近くて、視線を合わせているのが照れくさくて・・・、私は慌てて横を向いた。

 


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