2009-08-19 00:18:54.0
テーマ:【創】さよならは言わないで カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「さよならは言わないで」4





 
BGMはここをクリック!



BYJシアターにようこそ。

本日は、【さよならは言わないで】第4部です。

3部が長くてすみません・・・vv
各章に題がついているので、適当なところで切って読んでくださいね^^


これはすべてフィクションです。
出てくる団体・会社・病院・島は実際には存在しません。ここに出てくる事件も存在しません。


今回の展開は見逃せません。
どうかジヒョンと一緒に最終章までたどり着いてくださいね!




ジウォンが語るヨンスという男。

それはまったくジヒョンの考えも及ばない姿だった。


彼の真実とはなにか。


ジヒョンはもう引き返すことはできない。

その目ですべてを確認するまでは。

この思いに決着をつけるまでは!





これより。本編。
では、覚悟して、お楽しみください!



~~~~~~~



恋の始まりは、
偶然か
あるいは必然か

それは許される恋なのか

人は意図せずとも
恋に落ちてしまう

たとえ、
それが叶わぬ恋だとしても・・・


そして
それがあなたに命を吹き込むことがある



主演:ぺ・ヨンジュン/キム・ヘス
【さよならは言わないで】4





【第13章 自負と偏見、または哀れなジヒョンと私】


あの見る影もなかった哀れなジヒョンが、7割かた再生して帰ってきたのには驚いた。客間を開けて入ってきた姉の顔の輝きは、ふつうではなかった。

失脚したはずの女だったのに・・・。また私の目の前に光を持って現れる。

あの女。

私よりブスのくせに、その人気たるや、語るもいやになる。全盛期の頃といったら、親戚中、いや家の周りの人たちがジヒョン、ジヒョンと言って、バカみたいに持て囃して・・・。

私のほうが千倍は美人よ。それがわかるのは男だけ。皆、あの女の笑顔に騙されている。

高校生の頃まではあの女の君臨が一生続くのかと、内心、冷や冷やしたけれど、あっけなく、たった一人の男のために、あの女は見る影もなくなり、一瞬にして老婆のようになってしまった。
それは哀れとしか言いようがなかった。



チョヌお兄さんが亡くなってから、引きこもりがちだった姉を連れ出して、母が散歩に出かけるようになったのは、あの事件から3ヶ月してからだった。

いつも母と姉の二人で出かけたが、あの日は、高校の中間試験後で、早めに帰った私を母が誘った。
体力がなく、外へ出かけるのを恐がる姉といっしょに一歩一歩、ゆっくり歩く。

髪の真っ白な痩せこけた老女のような女。それが姉だった。
何を見ているのかわからないうつろな目をして、静かに淡々と姉は歩いている。
少し前まで、いつも走り回っていた姉。
歩いているのなど見たことがなかったのに。今の姉はうつろに歩くことしかできない。

40分ほど歩いて、ある家の塀の脇を通った時、道端のアスファルトを押しのけて、元気よくタンポポが咲いていた。私が見つけ、母と姉に、

ジウ:あっ、タンポポだ。

と叫んだ。
それはなにげない光景に思えた。

しかし、それは、姉にとっては大きな出来事だった。


姉のジヒョンは、その無力な瞳をゆっくりとタンポポのほうへ向けた。まるでスローモーションのような表情で、じいっと見ている。
そして何を思ったのか、急にその場にしゃがみ込んで、声を立てて泣き出した。大きな声で、ああ~ああ~と。


私は驚いて姉を見つめた。姉の気がおかしくなってしまったのかと。

ところが、母の反応はまったく違っていた。なぜか笑顔で、姉を抱き締めたのだ。姉は母の胸の中で延々と声を立てて泣いていた。

あの時、母には何が見えたのだろう。


それからしばらくして、姉は一人家を出て行った。
チョヌお兄さんが姉の名義にして残していったマンションへ。そこで、一人暮らしを始めた。高校教師の職を見つけ、見た目はまったく普通の人のように。ただ髪が白いだけの普通の人のように、暮らし始めた。


しかし、なぜチョヌお兄さんは、自分が買ったマンションの名義を姉にしていたのだろう。あのような日がいつか来ると思ったのだろうか。それとも姉に家を贈るという愛の証をしたかったのか、今では謎だ。

そして、姉は、見た目には元気に生きていたが、内面は死んだように静かに、10年という歳月を過ごしてきた。





ジウォンには自負があった。自分に傅かない男はいないと。
今までの人生で、自分という超一級品の美女に従わない男など一人もいなかった。

そんなジウォンではあったが、一つ、身近で目の上のたんこぶといえば、姉のジヒョンであった。男からも女からも好かれる姉。しかし、姉はたった25歳にして、その最強の立場からあっさりと身を引いてしまった。


その後は、ジウォンには恐いものはなく、そして、男たちは簡単に傅いた。
ジウォンは一言言えばよかった。

ジウ:バーキンがほしいの。


その一千万ウォン(百万円)は下らないバッグだって、何人かの男は簡単にプレゼントしてくれた。
もっと安い身近なものであれば、ジウォンがタイミングよく囁けば、それでOKだった。ジウォンのクローゼットの中はその戦利品でいっぱいだ。


ただし、唯一、そのプレゼントができない男がいた。

それがヨンスだった。
彼にはそんなお金もなかったが、そのものも知らなかったし、その価値もよくわからなかった。
彼にできたのは、たった0.3カラットのダイヤが入った婚約指輪を贈ることだけだった。

それでも、ジウォンは構わなかった。彼という存在がほしかったから。

初恋の、あの姉の恋人、チョヌによく似た男。
あの姉がどんなに望んでも手に入らなかった男と同じ熱を発する男。
ジウォンにとっては千に一遇のタイミングで現れた、広い鉱山でたった一粒のダイヤを見つけたのと同じ重さを持つ男だった。


初め、自分は本当にヨンスを愛しているのか、ほしかった姉の持ち物を自分が先に見つけ、手に入れたかっただけなのか、よくわからなかった。

しかし、あの姉のジヒョンが、「ヨンスをちょうだい」と言った時に、心の底から沸き上がった激しい嫉妬の渦は、確実に自分がヨンスを愛していたことを知らしめるものだった。


お姉ちゃんは、ヨンスと寝たのかしら・・・。


ジウォンには他に寝た男などいくらでもいたのに、ヨンスとはそういう関係になっていなかった。
当時はまだヨンスへの強い愛にも気づかず、ヨンスより他の男との付き合いを密にしていた。





ERに勤めるヨンスの勤務時間は不規則で、夜勤があったりと、なかなかデートしにくい状況だったが、ジウォンにとってはそれはかえって好都合だった。


ある夜、ジウォンがソンジュの部屋で、いつものようにじゃれ合っていると、携帯がなった。

ヨンスからだった。


ジウ:ソンジュ、待ってて。友達からだわ。(体を離して立ち上がる)
ソ:後でいいじゃない。(ジウォンの手を引く)
ジウ:だめよ。いい子にしてて。(ちょっとセクシーに睨む)


携帯を持って、マンションのベランダに出た。


ジウ:もしもし、ヨンス? 仕事中でしょ?
ヨ:今、休憩なんだ。病院の屋上からかけてる。


白衣のヨンスが夜の病院の屋上でフェンスにもたれ、携帯でジウォンに電話をかけている。その顔はうれしそうだ。


ヨ:ジウォンの声が聞きたくてさ。ここのところ、忙しくて会えないから。君に寂しい思いをさせててごめんよ。(やさしい声で言う)
ジウ:ううん、大丈夫よ。(顔は無表情だが、声だけはやさしい)友達がね、変わりばんこに誘ってくれるの。ジウォンの彼が忙しくてかわいそうだって・・・。
ヨ:そうか・・・。(感心してうれしそうに目を落とす)ありがたいな。今日は夜勤だから。明日の朝は遅くても7時には上がれる。(ジウォンに甘えるように)明日、デートできる?

ジウ:(考える)ねえ、8時にあなたのマンションの近くのファミレスに行っていい? 早く会いたいのよ。(甘い声で)いいでしょ? それとも少しは仮眠を取りたい?
ヨ:(うれしくなる)そんなに早くいいの? 支度がたいへんだろ?
ジウ:いいのよ。タクシーを飛ばして会いに行くわ。
ヨ:ありがとう。あっ、急患だ。(腰につけたポケットべルを見る)それじゃ明日ね。・・・愛してるよ。
ジウ:私も。


ジウォンはツンとした顔で携帯を切った。そして、ソンジュのもとへ行く。


ジウ:今日は泊まるわ。
ソ:いいの? お父さんに怒られない?
ジウ:いい口実が浮かんだの。朝一番に帰れば大丈夫。
ソ:やった!(うれしそうだ)


フンと笑って、ジウォンは、寝そべっているソンジュの上に覆いかぶさった。



父はヨンスのような男を手に入れるためなら、外泊など大目に見てくれるだろう。
結婚してしまえば、この時間を誰と過ごしていたかなんか構いやしないわ。




そうやって、ヨンスを一番都合のいいように扱った。
そのためか、ヨンスとは軽いキスしかしたことがなかった。


それを姉は簡単にヨンスを手に入れたというの・・・?

ふざけないで!
ヨンスは私のものよ。

お姉ちゃん、あんたのプライドなんて、ズタズタにしてやるわ。

ヨンスは私のものだもの。


あんたになんかあげない。
大キライなあんたになんか、あげるわけないじゃないの!

それに・・・私に従わない男なんて、ありえない・・・。

簡単には渡さない・・・泣けばいいのよ、たくさん・・・チョヌお兄さんの時のように。

私を見くびったら、ケガをすることを覚えておくことね。



でもね、お姉ちゃん。

今はあんたが必要・・・。

あんたには、私にない才能がある。

愛する人のために、動ける力がある。頭脳がある。
私はそういうのが苦手だから・・・。

本当は、あんたなんかに頼みたくない・・・。
でも、悔しいけど、あんたの力を借りるしかない。


お姉ちゃん、あんたの輝いた顔を見た時、決心したの。
あんたに頼むって。


今のあんたならできるわ、お姉ちゃん。


ヨンスのプライドを回復するには、あんたが必要。

ヨンスの汚名を返上するには、あんたが必要なのよ。

お姉ちゃん、あんたしかいないのよ、私にも、ヨンスにも。






【第14章 信じる力】


ジスに調査を依頼したものの、ジヒョンも家で手を拱いているわけにはいかない。
自分でできることはやりたい。ただ一人、このマンションの一室で、じっと待っているなど、今のジヒョンにはできなかった。

昔のジヒョンのように、胸の奥から込み上げてくる大きなうねりが今の彼女にはある。
あの頃のように。

人を愛さずにはいられない、心のざわめき、一途さ。
一心不乱に何かに飛び込みたい気持ち。そして、それを持続していこうとする力。

こんな感覚はここ何年も味わったことがなかった。


ジヒョンは部屋にひっそりとなんてしていられない。
街へ出ていく。
夏の午後の日差し。ムッとする人ごみの中を行き、街の空気を吸う。

こんなに淀んでいる。
あの島での透き通った空と、胸いっぱい吸い込んだ新鮮な空気。

でも今のジヒョンにはここのほうが合っているのかもしれない。
この混沌とした気持ち。そして妙に研ぎ澄まされた頭。

前向きに進んでいこうとする気持ちとは裏腹に、信じていると言い聞かせても、ジウォンの放った毒はジヒョンを知らず知らずに腐食していく。
いつのまにか、自分さえ、汚いただのガラクタになったような気がする。




大通りのビルの一角に大きなテレビ画面がある。
人気者の若いシンガーが歌い、コンサートチケットの発売日を知らせている。
電話受付は○月○日○AMから、TEL NO.*******

ジヒョンはボーっと見上げていたが、ハッと気づく。そして、周りを見渡し、本屋のほうへ走っていく。

本屋の中を走るように歩き、旅コーナーに来る。
時刻表を手にする。
急いで、特急の時刻を調べた。



木浦(モッポ)行きのKTX(韓国高速鉄道)。
これが最短所要時間で行ける方法だ。バスでは5時間かかってしまう。

ソウル発 1日8本。これで、3時間3分。

ヨンスが、デートしたあとに乗るとして、平日、土日と違うのは、日中の時間だけだから関係ない。

17:25、18:20、19:30、21:00
このいずれかだ。

飛行機は一日1便。所要時間は一時間と短いが、13:00発だから乗れない。



木浦からのヨンスの島への連絡船の時刻を引く。

平日・土日とも、
8:00、12:00、17:30、21:45 の4便。
島からは、
6:00、10:30、14:30、20:00 の4便である。

所要時間1時間5分。


ということはヨンスがあの日、島へ戻ったとしたら、連絡船の21:45発に間に合わなければならない。
つまり、ソウル駅を17:25か18:20のKTXに乗らないかぎり、島へ戻ることはできない。




ジヒョンは急いで携帯で実家に電話を入れる。出ない。
母の携帯に電話を入れる。出ない・・・。何度もかけるが、出ない。
携帯の電池まで不足してくる。


苛立つ気持ち。待ちきれず、近くのホテルに飛び込み、公衆電話をかける。


今は午後3時半だ。イライラしながら、受話器のケーブルを指に巻く。


ジ:あっ、もしもし。
ヨ:もしもし、診療所です。
ジ:ヨンス!
ヨ:(驚いて)どうしたの? 今診療中だよ・・・。
ジ:ねえ、1分ちょうだい。

ヨ:ああ、待って。(患者に)すみません、少し待ってください。すぐ診ますから。ウンニさん、先に血圧を測って。(ジヒョンのほうに)・・・どうぞ。

ジ:ごめんね、仕事中に。(早口で言う)すぐ済ませるから。ねえ、あのジウォンが事故にあった日。何時にジウォンに会ったの?
ヨ:なぜ?
ジ:とにかく答えて。(ぴしゃりと言う)あなたも忙しいんでしょ?
ヨ:大学病院に呼び出されてそれが終わったのが1時。そのあと、ジウォンと会ったのが、午後1時半くらいだったかな。
ジ:どこへ行ったの?
ヨ:えっ?
ジ:(たたみかけるように)どこへ行ったの?
ヨ:言うの?
ジ:(有無を言わさない)そうよ、ウソはだめ。どこ?
ヨ:ホテル・・・。
ジ:(目頭が熱くなり、泣き顔になるが、引かない)ど、どこの・・・。(少し声が震えている)
ヨ:ソウルホテル。結婚式の打ち合わせがあったんだ・・・。(ごめんよ)
ジ:(上を向いて涙をおさえるが、ほっとして)それで何時まで会ったの?
ヨ:4時半。・・・ジヒョン、君に話さなければならないことがあるんだ。実は・・・。(言えない)
ジ:また、ゆっくり話して。それで、何時の連絡船で帰ったの?
ヨ:9時45分だよ。
ジ:確かね?
ヨ:ああ、これが最終便なんだ。それに乗らないと次の日の診療に間に合わないから。その日は大学病院へ行って休みにしたから、次の日は休みにできなくて。

ジ:本当ね?
ヨ:なぜ?

ジ:わかった。・・ジウォンの事故を知ったのはいつ?

ヨ:お母さんからこっちに電話が入ったんだ。
ジ:何時?
ヨ:11時半頃かな。診療所へ帰ってきてすぐだったから。
ジ:この電話ね?
ヨ:ジヒョン、どうしたの。
ジ:ヨンス、ありがとう。また電話するわ。(急にやさしく)・・・愛してるわ。
ヨ:ジヒョン。僕もだよ。(人に聞かれないように、うつむいて言う)




ジヒョンは電話を切ったあと、安堵から涙が一筋流れた。
ホテルを出てまた歩き始める。コンビニで携帯の電池のバックアップを買った。
歩いていると、携帯が鳴った。見ると実家からだ。


ジ:もしもし。
母:電話もらったみたいね。携帯に何回も入っていたから。
ジ:うん。

母:今日ね、携帯持って出かけるの、忘れちゃったのよ。どうしたの? 急ぎの用だった?
ジ:今一人?
母:そうよ。今日はお父さんがジウォンを温泉のリハビリセンターに連れていく日なのよ、もうすぐ帰ると思うけど。

ジ:そう・・・。お母さん。あのジウォンの事故の日、事故の連絡は何時ごろ入ったの?
母:そうね、事故が午後10時でしょ。うちに電話が入ったのが10時半頃だったと思うわ。それから、あなたにも電話したでしょ。
ジ:ええ、ヨンスさんには何時頃?
母:ええっと。ああ、電話番号がわからなくて。ジウォンのところへ駆けつけてから、あの子の電話帳で調べて電話したのよ。11時にかけていなかったから、何度か続けてかけて、つながったのが、11時半近くになってたかしらね。
ジ:そう、何番か、電話番号、わかる?

母:何を調べてるの?
ジ:ちょっと聞きたいだけよ。
母:ええっと。書き写してあるのよ、待ってね。これだわ。*******。
ジ:(診療所のだわ)ありがとう。お母さん。

母:ねえ、遊びにいらっしゃい。
ジ:そのうちにね。じゃあ・・・あっ、お母さん、もう一ついい?
母:なあに?
ジ:ジウォンにヨンスさんを紹介した人って誰だか知ってる?
母:なぜ?
ジ:えっ、(言葉に詰まる)ただ、ジウォンにはいい知り合いがいるなと思って・・・。

母:そうね。(ジヒョンが不憫になる)たしかリュ・・何とかさん。ヨンスさんと大学病院で一緒だった人よ。
ジ:そう・・・。

母:ジヒョン・・・。(やさしく)あなたは本当にいい子よ。きっとあなたならいい縁があるわよ。
ジ:お母さん、ありがとう。この事、ジウォンには言わないでね。お姉ちゃんはまだ諦めてないのって言われそうだから。
母:大丈夫、内緒ね。じゃあね。
ジ:またね、お母さん。



電話を切ってホッとする。
少なくとも、ヨンスはあの事故には関係なかった。



ジウォンにヨンスを紹介した人・・・同じ大学病院のリュ。・・・ソンジュと同じ苗字ね・・・。
やっぱり一度、実家に行かなくちゃ。






翌日の昼下がり。ジヒョンはジスと先日の公園の橋で待ち合わせをした。
気持ちが逸るジヒョンは早めに待ち合わせの橋まで来て佇んでいた。

どう手をつけたらいいのかわからない事件。
本当はヨンスに会って、はっきり真相を聞ければいいのだが。
一度会いに行くべきなのか。


こうして泥沼に足を突っ込んだようでも、なぜかヨンスを思い浮かべると、心が和む。
先日ヨンスが訪ねてきた時は心が動揺してしまったが、落ち着いて思い返すと、どうしてもヨンスが悪人とは思えないのだ。


あのヨンスが植物状態の女の子をどんなにかわいそうだと思っても、殺すようなまねをするだろうか。



私の知っているヨンス。
島でおじいちゃんが指を切り落としてしまった時も、あんな小さな指先を懸命につなぎ合わせたではないか。
外科医だから? 得意分野だから? そうではない。

あんな年寄りの指先なんて、ムリでしたと言ってしまったって、家族は納得したはずだ。
小さな子供でも前途のある若者でも働き盛りの大人でもない。まして、あの島の、あの診療所だもの。ここではできないと言ってしまっても、たぶん許されたのではないか。それを、リスクを負ってわざわざ挑戦したヨンス。ヨンスじゃない医者だったらどうだったろうか。


彼は根っからの医者で、一時的な感情や、お金なんかで動かないように思える。
違うのだろうか。
私の目は狂っているのだろうか。


最後の夜、彼は私とあんな抱擁をして涙ぐんでいたのに、たった一回の診療所の呼び鈴で、医者の顔に戻った。医者として、ただ感情に流されていくなんて、考えられない。





橋の欄干にもられ、難しい顔をして佇んでいるジヒョンの横に、ジスが来て、ジヒョンを見つめている。


ジス:どうした?
ジ:(ハッとして)あっ、来てたんですか。 声をかけてくださいよ。やだなあもう。
ジス:元気になったな・・。
ジ:ええ。
ジス:どうした? 何を考えていた?
ジ:ヨンスの医師としての資質についてです。
ジス:うん・・・。あそこの茶屋で少し話そうか。
ジ:ええ。



彼らは公園の茶屋まで歩く。ジュースやカキ氷くらいしかない簡単な茶屋だ。
表のベンチに座り、缶のアイスコーヒーを飲みながら話す。


ジス:・・・そうか。おまえの知っているヨンスはそういう男か。(景色を眺めながら)きっとそういう男なんだろうな。病院での評判もブレたところがあんまりないんだよ・・・。
まずその15歳の女の子だが、スジンという名前だ。・・・今でも病院にいるよ。交通事故に合って、意識不明のままだ。今も寝たきりだ。生命維持装置のスイッチを切られた後、発見されるまでの15分間、彼女は自発呼吸ができて、おかげでそのまま、生き長らえることができたんだ。

ジ:待って・・・。(ジヒョンが分析する)ということは、犯人は、そのスジンの口の中から、呼吸用の、あのマウスピースみたいのを外しておいたということですよね、自発呼吸ができるように。本当に殺すつもりじゃなかったのかしら?

ジス:犯人の意図がよくわからないな。(考え込む)・・・それから、そのクビになったヘギョンというナースは・・。

ジ:ナースは?(ジスの顔を覗き込む)
ジス:うん・・・ヨンスの元恋人なんだ・・・。
ジ:えっ?(首をかしげてジスの顔を見入る)

ジス:しかし、恋人と言っても昔の話だけど、ヨンスが外科の研修医として大学病院に来た時、同じように新人で入ってきたのがヘギョンで、その頃のことなんだ。1年ほど付き合っていたらしい。そのあと、ヘギョンは家庭の事情で一年間、長期休暇を取っているんだ。それから復職して整形外科に移り、それぞれ別々の道を来たわけだが、2年前にERを設立してからは、また一緒になったというわけだ。ここ2年、周りの人間が見たところでは、まったく二人とも付き合っている様子はなかったというんだ。それが3月18日の事件で、へギョンはヨンスに頼まれてやったと証言したらしい。

ジ:ヨンスが直接手を下したんじゃないのね?

ジス:ああ、(ジヒョンを見る)よかったか、それだけでも・・・。
ジ:・・ええ・・・。(下を見る)
ジス:この女の証言があやしいんだな。


ジ:ジウォンは患者の親からお金が流れたように話していたけど。
ジス:うん。ヨンスにはもらった形跡がないんだ・・・。
ジ:へギョンは?
ジス:(ジヒョンを見る)ある・・・。父親を有料の老人介護施設に入れているんだ。(ジヒョンを見つめる)
ジ:(ジスを見つめる)ヨンスが彼女のために、その仕事をその親から請け負ったとでも言うの?


二人は苦しい表情で見つめあう。ジスが目を外した。ジヒョンが燃えるような目で遠くを眺める。



ジス:それが彼女の言い分さ。

ジ:ヨンスは?
ジス:何も知らなかったと。ただ同じチームの班長として責任は感じていると。しかし、疑わしい人間は、病院では排除するからな。

ジ:その親は? 何て言ってるの?
ジス:そこがまだわからない・・・。なにしろ、このスジンを引き受ける病院がなくて、今でも大学病院にいるんだ。病院からは口止めされているのかもしれない・・・。
ジ:もう少し待たなくちゃだめね・・・。先輩、ところで、ヨンスがなるかもしれなかった講師って、ERのなんですか?
ジス:いや、ERというのはまだ大学のほうにはなくて、外科の講師だな。
ジ:ふ~ん。それで、今回、なんていう人がなったんですか。
ジス:(メモ帳を出す)リュ・ソンジン・・・。ヨンスの高校時代の2年先輩で、大学で同期のやつだよ。

ジ:リュ・ソンジン?(聞き覚えがある。考える)

ジス:どうした? 知っているのか?

ジ:似た名前の人を知っているんです・・・。ジウォンがヨンスと同時進行で付き合っていた男、彼がリュ・ソンジュ。28歳で自動車のディーラー。それから、母から聞いたんですけど、ヨンスをジウォンに紹介した人って、同じ医局のリュという人らしいの。


ジヒョンとジスが見つめあう。何かありそうだ。


ジス:そいつを調べてみよう。
ジ:よろしくお願いします。

ジス:ジヒョン・・・。あと一つ。(言いにくそうな様子だが)そのヘギョンだが・・。
ジ:なんですか?

ジス:・・・未婚の母で今年7歳になる子がいるんだ・・・。
ジ:えっ?(驚く)

ジス:うん・・・。ちょうど別れた後に生まれた子なんだ・・・。
ジ:・・・。(ジスを呆然と見つめる)



ジスが立ち上がって歩いていく。
ジヒョンは見送るが、決意した顔で、走って追いかける。



ジ:先輩!(追いつく)住所を教えてください、そのヘギョンの。

ジス:どうするんだ。
ジ:会いに行くに決まってるでしょ。(ジスを睨みつける)
ジス:おい!(おまえ!)

ジ:先輩、考えてみて。私は今何も持っていないのよ。婚約者でもないし、彼の子供もいない。これから何を知っても立場は変わらないかもしれない・・・。(少し涙ぐむ)先輩、私にできることってなあに?・・・きっと、彼の真実を探すことよ、それだけよ!


ジスがジヒョンを見て少しつらくなり、目を逸らした。ジヒョンがジスの腕を掴んで頼む。


ジ:行かせて、先輩。ヨンスが、私の信じている通りの人だってことを探し出すだけでもいいの。証明するだけでいいの。教えて、そのへギョンの住所。お父さんの施設。自分の目で確かめます。(しっかりした顔でジスを見る。一筋涙が落ちてくる)

ジス:・・・。ジヒョン。(胸がつまる)







8月の夕暮れ。虫の音の中を、ジヒョンは今、ソウル郊外の町の坂を一生懸命上っている。
住所的にはここで正しいと思うのだが・・・。

小さな雑貨屋がある。そこに入り、訪ねる家の場所を確認する。
もう一度、道を反対側に進み、角を曲がる。コ・へギョンの住まいがあった。


昔ながらの佇まい。借家のようだ。

ジヒョンはその門をじっと見つめているが、思い切って門の扉を押し開き、中へ入っていく。







【第15章 心の彷徨】


湯上りのジヒョンがトランプを切っている。時々、ヨンスをチラッチラッと見る。そして笑う。


ジ:ヨンス。あなた、心理作戦に弱いわよ。必ずしも私のほうがいいカードを持っているわけじゃないのよ。でもね、心理的には私のほうが勝っているわ。・・・ねえ、フェイクと真実の違いってどこかわかる? どこかに絶対辻褄の合わない綻びがあるのよ。それを見つけるためには前から後ろから見るだけじゃなくて、横から斜めから上から下からも見なくちゃ。本物とウソの違い。きっと見つかるわ。


ヨンスはうつむき加減でジヒョンの話をじっと聞いていたが、顔を上げてジヒョンを見入る。


ジ:ねえ、私ってちょっとお姉さんっぽい?(微笑む)
ヨ:うん。すごく、お姉さんぽいよ!(笑う)


ジヒョンがうれしそうに、ちょっと胸を張ってみせた。



ヨンスが目を開けた。今日の仕事を終え、診察室のイスでしばし、まどろんでいた。懐かしいジヒョンを思い出し、ほんの一瞬ではあるが、彼女の温もりとそのやさしい香りがしたような気がした。


この間のふいの電話から、また封印していた思いがヨンスの中からあふれ出した。

あの時のジヒョンは、今までにないほど、ハキハキとした声で話していた。でも途中で、僕の返事を聞いて涙ぐんだ君の顔が見えるようだった。


なぜ、あんなに急いでいたの? どうしたの?


君は「ウソはだめ」と言ったけど・・・君にウソは言っていないけど・・・話したいことがあったんだ。
本当は今の気持ちをすべて話したかった。



今、無性にジヒョンに会いたくなった。
彼女の腕の中で、今の心の痛みを聞いてほしいヨンスだった。



早く打ち明ければよかった。
きっとジヒョンなら答えを探し出せたかもしれない・・・。

でも本当の気持ちを言うのが恐かった。
今愛しているジヒョンを傷つけてしまうかもしれない・・・。


あんなにやさしいジヒョン。

いつも僕の心を抱き締めるように、僕を抱いてくれた人。
君しかいないのに・・・。
君に打ち明けることができない。

それなのに、とっても会いたいんだ。

君は僕を救ってくれた。
君が僕のそばにいなくちゃ、また元へ戻っていきそうなんだ・・・。





ヨンスが立ち上がって、診察室から中庭を見る。

8月のまだ明るい夕暮れ。
そこにジヒョンが洗濯物をかかえて立っているような気がする。



ジの声:ヨンス。あなたがなぜ負けちゃうか、わかる? あなたはいつも私に負けるはずがないって思い込んでいるからよ。相手を見間違えているわ。あなたは私が女だから、自分のほうが少し頭がいいから、なんて思ってない? あなたはもともと私には勝てないのよ。私はトランプのプロよ。あなたになんか負けないわ。・・・ほら、そんな顔して。あなたはすぐ騙される。(笑う)


ヨンスは中庭から話しかけるジヒョンの姿を見入る。
ジヒョンがしっかりとヨンスの目を見据えている。


ジの声:ほら。また誘導された(笑う)。だめよ、騙されちゃ。・・・ヨンス、あいつを勝てない相手なんて思っちゃだめ。本当はあなたのほうが強いのよ。あんなやつ、あなたなんかよりずっと弱いわ。ヨンス、勢いに騙されちゃだめ・・・。本質を見極めるのよ!


ジヒョンがヨンスをぐっと睨みつけた。驚いて、目を凝らす。

空から雨が降ってきた。



そこにはジヒョンはいない。








日曜日の午後。
ジヒョンは木浦(モッポ)行きの特急KTXに乗っている。
外の雨はだんだん強くなってきた。

携帯から、ジスに電話をする。


雨の中、少年サッカーの試合を、傘を差して真剣に見守るジスがいる。
胸のポケットに入れた携帯が震えている。ジスが電話に出た。


ジス:もしもし。どうした?
ジ:これからヨンスに会いに行くわ。
ジス:この雨の中をか・・・。連絡船は出るのか?
ジ:とにかく行かずにはいられないの。ねえ、先輩のほう、なんかすごくうるさい。


ジスの傘に降りかかる雨の音が激しい。
そして、そんな雨の中、応援する親の声が響く。


ジス:今、息子のサッカーの試合を見に来ているんだ。あ~!(子供たちのほうを見ている)
ジ:しばらくソウルを離れるけど、先輩、あとはよろしく。島では携帯は使えないから。診療所に電話して。診療所の番号、わかってますよね?

ジス:(試合を見ながら)お~! えっ? ジヒョン、何て言った?

ジ:先輩、またね。



ジヒョンは携帯を切り、窓の外を眺めた。
特急の窓に流れる雨粒の量がますます激しくなってきた。







ヨンスは6畳間の文机に向かいながら、窓の外を見ている。

台風が近づいている。

今日は日曜日だが、もし明日上陸するようなら、月曜日といえど、診療所は休診になるだろう。
ここの診療所は台風が来ても大丈夫だと聞いているが、本当にこんなに浜に近くて、大丈夫なのか・・・。


診療所の電話がなる。急患だろうか。
ヨンスが走って診察室に行き、電話を取った。


ヨ:もしもし。診療所です。
ジ:ヨンス。ジヒョンよ。これからそっちへ向かうわ。
ヨ:(驚いて)ジヒョン。会いたいけど、今の天候では危ないよ。また日を変えて・・・。
ジ:だめ。連絡船のチケットをもう買っちゃったの。船は出るそうよ。これから乗るわ。
今日、会いたいのよ。


ジヒョンのせっぱ詰まった気持ちが伝わってくる。


ヨ:わかった。船着場まで迎えに行くよ。でもジヒョン、絶対にムリはしないで。君が船に乗っていなくても、僕は怒らないから。気をつけて。絶対に危険なことはしないで。わかったね。
ジ:ええ。でも行くわ。あなたに会わずにはいられないの。5時半の便よ。ヨンス。もう行くわ。今から乗るわ。



ジヒョンがやってくる。
嵐とともに。

ヨンスは空を見る。

雨はより激しくなってきた。


ヨンスの心は今大きく揺れている。


ジヒョンの無事を願う心がある。

そして、あのジヒョンが、今の自分の心のすべてを支配している、あのジヒョンがやってくるのだ。

もう逃げられないだろう。



午後6時半近く。
マホのご主人に借りた軽トラックの中、ヨンスは土砂降りの船着場でジヒョンを待つ。
ワイパーを動かし、連絡船が入ってくるのを待つ。


15分遅れ。
船が入ってきた。

あの中にジヒョンがいる。


ヨンスは今の激しい雨のように、心を震わせて、彼女を待つ。

レインコートに身を包み、ジヒョンがタラップを降りてきた。



ヨンスは車から傘を差し出して、ジヒョンのもとへ歩いていった。







続く・・・・。


嵐の中を会いに行かずにはいられないジヒョン。
心を震わせながら待つヨンス。

二人に何が待っているのか。




ジヒョンがやってくる。


ヨンスの心の中に、

ジヒョンがやってくる。






[コメント]

[トラックバック]

 
▼この記事のトラックバックURL
http://blog.brokore.com/kiko3/tbpingx/227.do

▼この記事にコメントする

コメント作成するにはログインが必要になります。

[ログインする]


TODAY 47
TOTAL 1657765
カレンダー

2024年9月

1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
ブロコリblog