2009/07/09 00:38
テーマ:【創】愛しい人2部 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「愛しい人2部」最終回





BGMはこちらで^^





BYJシアターです。

本日は、「愛しい人2部」第8部、最終回です。

底なし沼のように、毎回長いシアターですが・・・
本日も長いです・・・vv

あのジュンスとテスのその後の、あるエピソードです。
「愛しい人」がまだの方はそちらからどうぞ。
そのほうが、おもしろいです。


これはフィクションであり、ここに出てくる事故、補償、医療行為は実際とは異なります。
また、人物、団体は実在しません。



ではここより本編。
お楽しみください。




ペ・ヨンジュン
キム・へス   主演

「愛しい人2部」第8部(最終回)



二人が
愛し合うことは
当たり前


私たちは
家族になる


家族

それは複雑で

それは温かい・・・






【第8章 家族】


ジ:どう? その後、変化ない?



午前6時30分。ジュンスが起きてきて、ダイニングテーブルに着いた。


テ:うん。大丈夫そう。でも、お印はあった・・・。だから、今日か明日には始まると思う。



テスは普段通りに朝食の支度をしている。


ジ:そうか・・・。明日だといいなあ。明日から休みに入るからさ。もう一日待ってほしいよ。
テ:でも、すぐには生まれないから、大丈夫よ。だいたい陣痛が始まってから、8時間とか、すごい人だと丸一日とか。

ジ:苦しそうだなあ・・・。(顔をしかめる)よく我慢できるよね、女の人は。
テ:仕方ないわ。産まないわけにはいかないんだから。


テスがテーブルに出したサラダからプチトマトを摘んで食べる。


ジ:なんか余裕だね。(笑う)
テ:だって、皆がやってることだもん。きっと大丈夫よ。(微笑む)
ジ:うん・・・。でも、無理はするなよ。(真面目な顔をする)
テ:うん。


ジュンスがリビングに行って電話をする。


ジ:あ、お袋。おはよう・・・。うん? まだ。でも、今朝、お印があったんだって。テスがたぶん、今日明日だろうって。今日はうちにいるの? ・・・そう・・・。
テ:なんだって?
ジ:老人会の慰問だって・・・。(電話に戻る)今日まで、オレも仕事が入ってるんだ。そっちも今日までなの? そうか・・・。仕方ないな・・・。うん・・・。病院の場所と電話番号知ってるよね? うん、わかった・・・じゃあね。

テ:コーラスの慰問の日なの?
ジ:そうだって。今日までの予定だったって。困ったなあ・・・今日は皆いないわけだ・・・。(ちょっと考える) ねえ、早めに入院できないの?
テ:陣痛が一時間置きにならないと、家へ帰されちゃうのよ。
ジ:そんな冷たいなあ。
テ:でも、皆が早く行ったら、病院が満杯になっちゃうでしょ?
ジ:まあね・・・。

テ:大丈夫よ。すぐは生まれないだろうし。ジュンスだって、そんなには遅くならないでしょ?
ジ:うん・・・たぶんね・・・。今日の子、すぐ泣いちゃう子だからなあ・・・。早く切り上げたいんけど・・・。泣くと、気持ちが収まるまで、また少し待たなくちゃならないだろ?
テ:なんで泣くの? セクハラしてないでしょうね?
ジ:まさか! 勝手に泣くんだよ。感受性が強いんだ。良くても悪くても泣ける・・・。だからといって、全部泣いてる写真ってわけにはいかないだろ?
テ:まあねえ・・・。コーヒー飲む?
ジ:うん。

テ:何時に出発?
ジ:7時半には出る。
テ:車、気をつけてね。もし生まれそうでも、スピードなんか出さないでよ。
ジ:わかってる・・・。
テ:ジュンスが来るのを、気合で待つから!
ジ:(笑う)そうして!


出かける前に、ジュンスがテスの荷物をスタジオの入り口のベンチまで運び、何かあったら、絶対タクシーを呼ぶようにと言い残して、ロケへ出かけた。


お印はあったものの、テスにはまだ何の変化もなかった。


もしかして、あれって、違ったのかな・・・。
ジュンスもお母様も気にしてるわよね・・・。

違ったら・・・やだな・・・。
でも、皆明日以降のほうがいいんだから、まあいいか。



テスは部屋に掃除機をかけ、おやつをつまんで、ベッドに寝転んだ。
少し寝てみるが、やはり兆候はない。
それでももう暢気に寝ている気にはなれなくて、起き上がる。
トイレ掃除をして、ついでに洗濯をして、これは乾燥機にかける。


窓の外を見る。

梅雨らしく雨が降っている。


ああ、長いなあ、今日は・・・。期待しちゃうと、だめよね・・・。
一日が待ち遠しくて長く感じる・・・。

もう一回、荷物の点検をしておこうかな・・・。


テスは、普通に階段を下りようとした。
階段の途中で、急にお腹が収縮した。

あ!


テスはちょっと気が動転して、階段を踏み外すが、手すりに捕まって、尻もちをつく。


いったあ~い!

もう!


少し、お腹の収縮が収まるのを待つ。



ああ、よかった。階段を絨毯敷きにしておいて・・・。
下まで落ちたら、たいへんだった。


あれ、今のが陣痛?

これが陣痛でいいのかしら?

痛いってわけじゃないのね・・・。

あ、時間を見なくちゃ。


テスは階段で打ったお尻を抑えながら、スタジオへ降りて、時計を見る。


11時10分ね・・・。


これって本当に陣痛でいいのかな・・・。


テスは、病院へ電話を入れる。


テ:ええ、収縮した感じで、痛くはないんです。
病:たぶん、それは陣痛の始まりですね。ええとお印が午前5時半ですね・・・。では、陣痛の間隔を測っていただいて、一時間置きになったら、こちらへいらして下さい。
テ:これって、これから痛くなるんですか?
病:(笑う)そうですよ・・・。なんともいえない、じわっとした感じから、どんどん深い収縮に変わって、痛くなってきますから・・・。ああ、一時間置きといっても、あまりに陣痛が強く痛いようなら、心配ですから、早めに来て下さいね。
テ:わかりました・・・。


ふ~。
やっぱり、痛くなるんだ・・・。

昼になったら、ジュンスに電話を入れておくかな・・・。





ジ:お、いい感じだね。少しアゴを上げてごらん。うん、かわいいよ。そこから、右へ動いて。あ、いい感じ・・・。


ジュンスのポケットの携帯が震えている。
ジュンスが時計を見ると、12時を過ぎている。


ジ:じゃあ、この辺で、休憩にしようか・・・。


ジュンスは携帯を持って、撮影している山のロッジのベランダに出る。
こちらは、ソウルと違って晴れている。


ジ:もしもし?
テ:ジュンス、とうとう陣痛が来たみたい。
ジ:大丈夫? 痛い?
テ:まだ痛くないの。お腹が収縮してる感じで。陣痛かどうかわからないから、さっき病院で確認した。やっぱりそうだって。
ジ:ふ~ん・・・。そのまま、痛くないといいねえ。
テ:(笑って)そうはいかないみたい。やっぱりこれがだんだん痛くなるらしいわ。じわっときて、深い痛みに変わっていくんだって。
ジ:・・・聞いてるだけで痛いなあ・・・。そうか・・・。午後からの撮影を2時ごろには終わらせて・・・それから、車で2時間はかかるなあ・・・。(時計を見ながら計算する)
テ:大丈夫。まだまだだって。間に合うわよ。
ジ:うん・・・。途中で電話を入れながら、帰るよ。

テ:なんかあったら、病院から携帯に電話入れてもらうから。
ジ:うん。2時過ぎにはお袋の慰問も終わるから、状況によっては、あっちの携帯に電話して。
テ:うん、そうする。
ジ:じゃあ・・・。(小さな声で)・・・頑張ってね・・・。
テ:(ちょっと笑う)うん・・・。






テジョンが三脚に乗って、シンジャの部屋で電球を取り替えている。


テジ:はい、古いの。(渡す)
シ:サンキュ! (新しい電球を渡す)
テジ:(しっかりと留めて)よし、できた!


テジョンが三脚から降りる。

シ:ありがとう。
テジ:他に直すとこ、ない?
シ:う~ん、今のとこ、大丈夫。

スリップ姿のシンジャがキッチンのほうへ歩いていく。


シ:テジョン、なんか飲む?
テジ:うん。ところで、この間の写真、どうした?
シ:現像したわよ。見る?
テジ:うん・・・。
シ:デスクの上。



シンジャが冷蔵庫の中を覗きながら言う。

テジョンはシンジャのデスクの方へ行き、写真の束を見つける。
テジョンは、白のTシャツに、トランクスである。


テジ:あ、これ? (キッチンのほうに見せる)
シ:そうお。


テジ:(写真を手に取って)いいじゃない。よく撮れてるね。
シ:好きなの、取ってて。
テジ:いいの?
シ:うん。


シンジャがコーラ片手にやってくる。


テジ:「写真、ソン・シンジャ」って入れてもらうから。
シ:そうお? (微笑む)
テジ:オレのエッセーにシンジャの写真なんて、いいコラボじゃない? (笑う)

シ:ホント。好きなものが似てるから、テジョンのイメージが掴みやすい。やりやすかったわ。コーラ、飲む?
テジ:まだ、コーラ飲んでるの?
シ:だって、好きなんだもん。

テジ:ホントに妊婦にしては、体に悪いことが好きだよね。
シ:そうでもないわよ。(笑って意味ありげにテジョンを見つめる)

シ:はい、コーラ。
テジ:サンキュ! でも、シンジャの写真は文が浮かぶんだなあ・・・。自分で撮ったみたいに撮りたいタイミングがバッチリだからさ。
シ:テジョン! 私も、あなたのイラストが好き! 文章も大好き!
テジ:そうお? ありがとう!


シンジャがベッドのあるほうへ歩いていく。


シ:ねえ、この枕、ちょっと柔らかくなかった?
テジ:そうだね。枕は韓国のほうが頭に合ってるよ。
シ:女も韓国のほうがいいでしょ?
テジ:・・・なんだよ、それ? (ちょっと嫌な気分になる)
シ:こっちの子とどっちがいい?

テ:バカみたい・・・オレはそういう人間じゃないよ。(見つめる)
シ:ごめん・・・。
テ:そんな、軽く言わないでよ。オレはそんな遊び人じゃないよ、わかってるでしょ?
シ:わかってる・・・。


テジョンがじっとシンジャを見つめる。
シンジャが、テジョンの目に追い詰められたような顔をした。


シ:好きでなきゃ、しないこと、わかってる・・・。
テ:それで。 感想は? (じっと見つめて言う)
シ:え?
テ:そういう男と寝た感想・・・。
シ:・・・。(胸が痛い)

シ:テジョン。
テジ:何?

シ:ここで一緒に暮らさない?
テジ:どうして?

シ:二人でいたいの・・・。
テジ:オレは、3ヶ月したらソウルへ帰るよ。それでもいいの?
シ:ええ。

テジ:君が一番たいへんなことに、君を置き去りにしていくんだよ。
シ:それでもいい。
テジ:君は・・・。(じっと見つめる)君が高校生の時にオレが生まれたんだよ。だから、そんな君を一生愛せるかどうか、わからない・・・。
シ:それでもいい・・・。
テジ:オレはまだ子供だから、君の生まれてくる子供を愛せないかもしれない・・・。それで、君を置き去りにするかもしれない・・・。
シ:それでもいいの。私は今、あなたといたいの。
テジ:シンジャ・・・。

シ:あなたが好きなの・・・。どうしようもないほど・・・。こんな年上のくせに・・・。あなたに甘えたいの。あなたに抱かれていたいのよ・・・。
テジ:シンジャ、オレも君が好きだよ。でも、保障できないんだ、ずっと愛していけるかどうか・・・。
シ:・・・。それでもいい・・・。昨日今日って、一緒に過ごして・・・テジョンと離れているなんて、考えられなくなっちゃった・・・。今までで、一番好きなの。テジョン、あなたが一番好き・・・。キライなところなんて、一つもないの・・・。
テジ:オレの言ってること、わかるよね?


シンジャがテジョンに近づいてテジョンの顔を撫でる。


シ:なんでこんなに好きなんだろう・・・。こんな、今頃、出会うなんて・・・。お腹が大きくて・・・こんな年上で・・・いいとこ、ないよね。



テジョンがシンジャをやさしく見つめる。

そして、テジョンもシンジャの頬を撫でる。



テジ:全くいいとこないよ。めちゃくちゃ年上のくせに、大雑把だし、やさしくないし、自分勝手だし・・・。
シ:ごめん・・・。
テジ:なのに・・・。・・・。オレも君が好き。おかしいね・・・ちっともいいとこなんかないのに。


シ:一緒にいて・・・。今だけでもいい・・・。あなたが好きでいてくれる間だけでもいい・・・。

テジ:なんだよ・・・。そんな言い方して・・・。自分勝手な言い方ばっかりして・・・。
シ:ごめん・・・。でも、ここにいてほしいの・・・。
テジ:全く! とんでもない女に引っかかったな・・・。かわいげがないくせにかわいくて・・・やさしくないくせにやさしくて・・・。誰のものにもなる気がないくせに、オレを好きだって言って・・・。一緒にいてって言って・・・。我儘ばかり・・・。


テジョンがシンジャの頬を触っていた手で、アゴを掴んで、少し上げる。


テジ:でも、好きだよ。すごく・・・君が好き。・・・・君が一番好き。


テジョンがシンジャのアゴをもっと上に上げ、キスをする。
そして、シンジャを抱き締める。

シンジャもテジョンの頭を抱くように、ギュッとテジョンを抱きしめる。


テジ:(シンジャの顔を覗きこむ)困った人だね・・・君は。いつまで続くんだろう・・・。いいよ。少しずつ更新していこう・・・。(髪を撫でて、顔を見る)二人が本当に好きでいられるか・・・本当に暮らしていって、楽しいか。
シ:うん・・・。あなたとなら、暮らせる・・・。あなたとなら、愛し合える。きっと・・・ずっと。ずっと愛し合える。
テジ:ホント? (顔を覗きこんで笑う)
シ:ホント・・・。(微笑み返す)


テジョンの唇がシンジャの唇を塞ぎ、シンジャを強く抱きしめた。
シンジャの手がテジョンの髪の中に入り、髪をくちゃくちゃっと掻き揚げて、抱きしめた。






ジュンスの撮影も順調に進み、このままいけば、午後2時には終わりそうだ。

スタイリストがジュンスのところへやってきた。


ス:どうしよう・・・。透けるシャツはイヤだって、泣いた・・・。
ジ:・・・そう・・・。キャミは?
ス:それもイヤだって・・・。胸が透けて見えるのは全部イヤだって。・・・待つ?
ジ:・・・仕方ないね・・・。いつものことだろう?
ス:うん・・・。


ジュンスは、ロッジのベランダへ出て、腕時計で時間を確認すると、ふうっとため息をついて、遠くを眺めた。




テスは、もう一度シャワーを浴びて、いよいよ入院する時期を待っていた。
時計が2時半を指して、さっき感じた陣痛より心なしか腰が重くなってきているような気がする。


電話が鳴った。


テス:もしもし。(受話器を持ってソファに座る)
母:テスさん?
テス:あ、お母様。
母:どうお? 今、慰問が、終わったところなの。陣痛はあった?
テ:ええ。11時過ぎから。まだちゃんとした周期では来てないんですけど。
母:そう・・・始まっちゃったのね。・・・それは心配ね。ジュンスはまだなんでしょう?
テ:ええ、たぶん、4時か5時近くになっちゃうと思うんです。
母:そう・・・どんな感じで痛いの?
テ:さっきから、腰がず~んて重くなってきていて。

母:ふ~ん。それって男の子かもね。お腹も尖っていたし・・・。だいたい男の子は腰に来るって言うから。テジョンの時もそうだったし。
テ:そうなんですか? だと、ジュンスが喜ぶわ・・・。
母:まあ、当てにはならないけど。(笑う)ねえ。腰は重いなんて、入院したほうがいいんじゃない? 思ったより早いかもしれないわよ。
テ:そうですか?
母:うん。もう行きなさい。行っちゃったほうがいいわ。
テ:でも、まだ一時間置きじゃなくて・・・。
母:行ったほうがいいわよ。これからタクシー呼んで行きなさい。私もこれから病院へ行くわ。
テ:でも、追い返されちゃうかも・・・。
母:私が掛け合うわ。いずれにしても、病院へ行ってたほうがいいわ。一人でいて動けなくなると、マズイわよ。
テ:はい。
母:じゃ、病院で会いましょう。私は、一時間くらいかかっちゃうかもしれないけれど。
テ:はい・・・。


電話を切って、立ち上がろうとすると、大きな波がやってきた。


やだ、まだ、早すぎるって・・・。

うう~ん、ジュンス・・・。動けない・・・。助けて・・・。




ジ:よし! お疲れ様でした~。


やっと撮影が終わった。
アイドルの女の子が途中で泣き出したので、撮影時間が延びてしまった。
終わってみれば、胸まで見せてくれて・・・自分の予想外の展開だった。

女とは不思議な生き物だ。


ジュンスは、機材を片付け、携帯でテスに電話を入れる。


ジ:もしもし。テス?
テ:ジュンス? 今、病院。
ジ:もうすぐ?
テ:まだだけど、結構、大きい波が来る・・・。仕事、終わったの?
ジ:うん。予定より遅れちゃったけど、今終わった。大丈夫?
テ:今は平気だけど。お母様がさっさと病院へ行きなさいって言うから来ちゃったの。
ジ:よかったね、入院できたんだ。
テ:うん。タイミングよく、破水しちゃったの。(笑う)
ジ:危なかったな・・・。
テ:ホントに。待合室で待ってる間だったの。タクシーの中だったら、たいへんだったわ。(笑う)ちょうど病室が空いたから、今はベッドの上よ。これで安心でしょ?
ジ:そうだね。
テ:ジュンス。オンドルの部屋よ。一緒に泊まれるよ。
ジ:そう? 当たりだね。じゃあ、これから向かうから。頑張って!
テ:うん。ジュンスも気をつけてね。スピード出しちゃだめよ。
ジ:わかってる!




病室は、三種類あって、デラックスな個室、子どもなど家族も寛げるオンドルの部屋、それに、二人用のベッドの部屋がある。

今回、オンドルの部屋を申し込んでいたが、人気のある部屋なので、混んでいたら、二人部屋になると言われていた。
ここが取れると、家族も泊まれて、ここから出勤していく夫もいる。


きっと今日はジュンスも泊まるだろう。
彼は寂しがり屋だから・・・。

でも、よかった・・・。


それにしても、腰が重くて痛い・・・。




ジュンスは、車を飛ばして、なんとか2時間以内に病院についた。
駐車場に車を止め、カメラバッグに、下着と洗面用具を入れてある小さなバッグを押し込む。それを肩から提げて、病室へ急ぐ。


ジ:テス?


病室を覗くと、テジョンの母がいた。


ジ:お袋。来てくれたの? (荷物を降ろす)
母:ああ、ジュンス! よかった! かなり、痛いみたいなの。もうすぐ、陣痛室へ移るんだって。
ジ:そう・・・。テス、大丈夫?

テ:ああ、ジュンス。 
ジ:痛いの?
テ:かなり・・・。腰が重くて痛いの。陣痛の波がすごくて目まいがしそう。

母:ジュンス。腰を擦ってあげたら? 私、ちょっと出てきていい? なんか買ってきてほしいもの、ある? 
ジ:特にはないよ。
母:あなた、なんか食べてきたの?
ジ:まだ。
母:じゃあ、軽いもの買ってくるわね。
ジ:ありがとう。


母が部屋を出ていった。


ジ:(笑う)お袋、気を利かせてくれたね。どう、どの辺が重いの?
テ:うん、腰全体。
ジ:ちょっと横を向いてごらん。
テ:うん。


ジュンスがテスの腰を擦る。


テ:ジュンス。
ジ:何?
テ:さっき、あまりに陣痛が痛くて、泣きそうになっちゃった。
ジ:そんなに? (腰を擦っている)
テ:うん。でも、相手がお母様だったから、泣けなかった。ジュンスだったら、もう泣いちゃってたわ。
ジ:じゃあ、お袋の付き添いのほうがいいね。
テ:うん、甘えないで、ちゃんと我慢して産めそう。
ジ:代わってもらおうか?
テ:うん。ねえ、もっと擦って。
ジ:(笑う)やっぱり、甘えちゃうんだね。
テ:うん・・・。次回は泣くかも。(笑う)
ジ:頑張って。


テ:カメラの準備は?
ジ:うん、するよ。
テ:じゃあ、そっちをやって。
ジ:いいの?
テ:今のうちよ。10分以内でやってね。
ジ:わかった。(笑う)


ジュンスはカメラをバッグから取り出して、フィルムを入れて、準備する。


ジ:しかし、ここ、当たりだね。ここに布団を敷いて、今晩は泊まるよ。
テ:うん。ジュンスももう休みでしょ? うまく当たったね。来客用のシャワールームもあるのよ。
ジ:へえ、すごいね。
テ:ただし、食事なし。本当は、それがほしいよね。
ジ:うん。いいよ、食事は近くに食べにいくから。
テ:うん。

テ:ジュンス、来て・・・。一緒にヒッヒッフーして。
ジ:うん。


ジュンスがカメラを置いて、テスの横へ行った。




それから、しばらくして、ナースが病室へやってきた。

ナ:ヤンさん、どう?

テスにつながっている装置を見る。


ナ:いい感じで陣痛の波が来てるわね。普段はこの辺で陣痛室なんだけど、今日は混んでるの。だから、この後、直接、分娩室に入ってね。
テ:歩けるかしら?
ナ:ご主人に抱っこしてもらって。(笑う)
ジ:え?
ナ:車椅子もあるから、大丈夫よ。(笑う)でも、病室取れてよかったわね。後から来た人なんか処置室で寝てるのよ。今日は混んでるわ。
テ:大丈夫なんですか?
ナ:それがいつも大丈夫なの。うまく回っちゃうのよ。じゃあ、もうすぐね。また、すぐ回ってくるけど、なんかあったら、ここのブザー押してね。
テ:はい・・・。



ナースが出ていく。



ジ:なんか大量生産って感じだねえ。
テ:ホント。でも、出産の時間て、潮の満ち引きと同じだって言うじゃない? 結局皆今頃に産気づいちゃうのよね、きっと。
ジ:すごいね、それこそ、神秘の世界だね。
テ:ジュンス・・・。
ジ:どうしたの?
テ:もう我慢できなくなっちゃった・・・。産みたいって感じ・・・。すごく腰が割れそうに痛い・・・。
ジ:おい!


ジュンスが近くのブザーを押した。



テスは、結局、ナースの予想通り、ジュンスに抱かれて、やっとの思いで分娩室に入った。
今、テスは分娩台に斜めに腰かけるように座っている。

ジュンスが、分娩室用の割ぽう着とキャップをかぶって、カメラを持って入ってきた。

テスに額や髪が濡れている。


ジ:大丈夫?
テ:・・・うん・・・。


助産婦がやってくる。


助:あ、お父さん? 今、先生が会陰切開したので、もうすぐね・・・。頭の大きさを測ったら、ずいぶん大きな赤ちゃんね。お母さん、頑張らないと。
ジ:そうですか・・・。(心配そうにテスを見る)
助:たぶん、3800くらいはあると思うわ。二人とも大きいものね。仕方ないわね。
ジ:ええ。
助:先生がお父さんの写真、楽しみにしてたわよ。先生もかっこよく撮ってあげてね。
ジ:ええ。(笑う)


テ:うう~ん・・・。
助:う~ん、まだだめよ!息まないでね。ヒッヒッフーして。あ、お父さんも一緒に呼吸してあげてね。
ジ:あ、はい!


ジュンスは緊張感でいっぱいになる。カメラを肩にかけて、テスの横へ行く。
テスの手を握る。

テスが苦しそうに喘ぎながら、ジュンスと一緒に呼吸して息みを逃している。


助産婦がテスの状態を見る。


助:うん。いいわね。全開したし、頭が見えてきたわよ。もう一頑張りね。もうちょっと待ったら、いよいよ産むからね。
テ:はい。(苦しそうな顔で答える)
助:手は、こっちの棒を握って。そのほうが力が入るから。お父さん、カメラの準備してね。
ジ:あ、はい!


ジュンスは、カメラのファインダーを覗いてみる。
自分の熱と息で、ファインダーが曇る。

自分でも、おかしいほど、緊張している。


テ:うう~ん。
助:(実習生のナースに)先生、呼んできて。隣で出産終えたはずだから。
実:はい。
助:お母さん、あと一回待ってね~。いい感じだから。もう赤ちゃんはすぐそこよ。
テ:はあ・・・。
ジ:・・・。


医師が入ってきて、様子を見る。


医:異常はないね。じゃあ、次でいくよ。お母さん、いいね?
テ:はあ、はい・・・。
医:あ、お父さん。今日はお世話になります。(笑う)よろしく。
ジ:あ、はい!


ジュンスがカメラの準備をする。
息で曇る、ファインダーを拭きながら、覗く。自分の額からもテスと同様に汗が流れている。

テスの汗を実習生が拭いている。


医:さあ、いこう。息んでえ~。
テ:うう~ん。
医:もっと・・・集中して・・・。
テ:うう~ん。

医:今度こそ、いくよ。もう赤ちゃんの頭が回って出てこようとしているからね。
テ:はい!
医:はい!息んでえ。
助:ほら、息んで。
テ:あ~ん・・・。


テスが最後の力を振り絞る。

ジュンスはテスの顔から、先生、助産婦、赤ちゃんの出てくる様子を連写していく。

パシャパシャパシャパシャ!
パシャパシャパシャパシャ・・・!


カメラの音の中で、テスの中から、大きな真っ赤な赤ん坊が出てきた。

医師の手で取り上げる。


生まれたての赤ちゃん。
初めて見るその姿は、ジュンスの目には不思議な存在だ。


今までの赤ん坊のイメージとは全く違う、赤くて得体の知れない生き物のようだ。

これが本当の出産したばかりの赤ん坊か・・・。


ジュンスの中で、複雑に感動が入り乱れる。



赤ん坊が大きな声で泣いた。


その声を聞いて、安堵からか、テスの大きな目から、涙がこぼれ落ちた。


赤ん坊は、新生児の台に乗せられ、体をチェックされている。

テスは放心状態でそれを見ている。

そんなテスをファインダーの中からジュンスが見つめた。


次にテスが顔をしかめて後産をした。


ジ:痛いの?
テ:うん・・・なぜかこっちのほうが痛い気がする・・・。
ジ:へえ・・・。(笑う)


医師による会陰縫合が終わると、助産婦がキレイになった赤ちゃんをテスのところへ連れてきた。

そして、テスの胸の上に置いた。


助:はい、お母さん。初めまして・・・。ボクちゃんですよお・・・。
テ:ああ・・・。


テスが我が子の顔を覗いた。


テ:ありがとうございます・・・。(また涙がこみ上げる)ああ・・・パパにそっくり・・・。寝顔がパパにそっくりよ・・・。


ジュンスはファインダーの中から、二人を覗き、連写する。


助産婦が実習生に何か言って、実習生がジュンスのところへ来た。


実:お父さん。お写真、お撮りします。
ジ:え?
実:赤ちゃん、抱いてください。私がシャッターを切ります。
ジ:・・・。
助:お父さん、ご苦労様。はい!



助産婦がジュンスのほうへ赤ん坊を渡そうとする。

ジュンスはカメラを実習生に渡し、赤ん坊を抱く。

そして、カメラに向かって笑う。

パシャパシャ、パシャパシャ!



ジュンスはもう一度、自分と対面するように、赤ん坊を抱きなおす。

首の辺りを大きな手で支え、しっかりと向き合う。

ジュンスの手の中の小さな命。


ジュンスとそっくりな顔をして、ちょっとクシャっと顔をしかめて寝ている。


ジュンスは赤ん坊をじっと見つめた。


今、この世に生を受けて、自分に会いに来た我が子。


ジュンスの目から、涙が零れ落ちた・・・。


パシャ!


カメラの音がした。







慌しくも、ジュンスとテスの時間は流れている。

この愛しい存在が来てからは、二人の生活も楽しい活気がある。

寝室の二人のベッドの横には、ベビーベッドが置かれている。
でも、それは一人で寝るときだけで、普段は、二人のベッドの真ん中を陣取っている。
そして、夜中、ベッドの上で、テスは寝ぼけ眼で、母乳を飲ませながら、自分も寝ている。

昼は、ベビーベッドのキャスターを押して、彼はリビングで寝ている。

夜になれば、最愛のパパが帰ってきて、お風呂へ連れていってしまう・・・。


ジュンスは沐浴も上手だった。

手が大きくて器用だから、テスが見ていても、安心だ。


3ヵ月になった今は、パパと一緒にお風呂を楽しんでいる。

パパは、テスが怖くてできないような、荒々しい洗髪もしている。

テスと一緒の時は、シャンプーが目に入らないように、注意しながら洗ってあげているのに、パパのダイナミックな洗髪では、シャンプーも目に入っているはずなのに、ちっとも泣いたりしない・・・。

全く、エコひいきだ!


二人の写真の飾り棚もかわいい息子、ジュンソンの写真がいっぱいだ。

ただ一つ・・・。

特別な写真・・・。
それは、大きなパネルになって、壁に貼ってある。


割ぽう着にキャップを被ったジュンスが息子ジュンソンの顔をじっと見つめている写真だ。

その写真はちょっとブレているが、二人のお気に入りだ。


ジュンスがなんとも言えない顔をして、我が子を見入り、涙を流している。

ちょっと気恥ずかしい写真ではあるが、それを見るたびにジュンスは言う。


ジ:あの実習生さん。ナースにするには勿体ないな。カメラマンのほうが合ってるのに。
テ:ジュンスったら! スカウトしないでよ。あちらさんは、カメラマンなんて浮き草稼業より、人の命を救う仕事につきたいんだから。親御さんに恨まれるわ。
ジ:そうかなあ・・・。(写真を見る)感性がいいけどなあ・・・。

テ:ねえ、ジュンス。あのナースさんて、実は分娩室付きのカメラマンさんだったりしてね。人は見かけによらないから。(笑う)
ジ:かもね!(笑う)


ジュンソンがいる。
それだけで幸せが倍増したような気持ちになる。

二人は今すっかり、親家業に満足している・・・。






今日は、久しぶりに、テジョンの母親が遊びに来て、ジュンソンをあやしている。
彼女は産後の手伝いに2週間逗留し、それからは、月に1、2回の割合でジュンスたちを訪ねている。

テスがジュンソンの重湯を用意している。
母がジュンソンを抱いてあやしている。

テ:テジョンさん、ソウルに帰られたんですか?
母:この間、帰ってきたんだけど、また、行っちゃったの。
テ:どうして?
母:あっちで、しばらく暮らすって。なんでも、お友達と部屋をシェアしたからって。まあ、あの子の仕事ってどこにいてもできるんだけど・・・。今は、イラストよりその横に書いた文章のほうがおもしろいって、仕事がエッセー主体になってきちゃったから。どこでも書けるのよね。
テ:そうなんですか。

母:でも、私は怪しいと思ってるの。あの子、顔が輝いてたもん。恋してるのかもね。
テ:確かめたんですか?
母:うううん。そんなことしたら、怒られそうでしょ? (笑う)まだ27だもん。これで決まるかどうかもわからないから・・・。それに、あの子って自由人だから。よくわからないわ。(笑う)
テ:テジョンさんて、いい人ですよね。きっと皆に好かれるタイプなんでしょうね。
母:そうね。でも、あれで好みはうるさいのよ。簡単には恋をしないの。不思議でしょ? あんな軽やかそうなのに、簡単に恋はしないの。でも、今度は本気かしら・・・。まだ、わからないわね。


テスが渡した重湯を、母がスプーンで少しずつ、ジュンソンの口へ運ぶ。



母:よく食べるわねえ。重湯が好きなの? そう・・・しゅきなのお~。(抱いているジュンソンを見る)テスさん、この子、食欲、旺盛ね。(笑う)
テ:そうなんです。おっぱいもぐいぐい飲んで、たまに歯茎で噛むから痛くて。
母:そうお。(顔をまた見る)あなたはパパさんにそっくりねえ・・・。パパみたいにハンサムさんになるのかしらねえ。
テ:(微笑む)・・・。

母:私、あの子の赤ちゃんの頃って知らないでしょう。だから、こうやって、ジュンソンを見てると、幸せ・・・。ジュンスを赤ちゃんの時から、育てたような気になってくる・・・。そんな楽しみがあるわ・・・この子には・・・。
テ:・・・。


母がジュンソンの小さな手に自分の人差し指を持たせる。



母:私ね、昔、保母をしてたの。それで、主人の再婚の相手にって白羽の矢が立ったのね・・・。お見合いをして・・・初めて会ったジュンスはとても礼儀正しいかわいい子だった・・・。おとなしくて・・・私に対してやさしくて・・・。ある日ね。キムの家に用事があって、家へ行く途中、公園の近くを通ったの。ジュンスが遊んでた・・・。あの子、腕白坊主だったのよ。他の子を引き連れて、遊んでたわ・・・。その時の顔って、私の知らない顔だった・・・。それでね、ああ、この子は、新しいお母さんになる人に嫌われないように、いい子に振舞っているんだなあって思ったの。そうしたら、ものすごく、ジュンスが愛しくなって、お母さんになってあげたいって思っちゃったの。・・・確かに、お父さんもいい人だったけど・・・おばあちゃんがとても癖のある人だったから・・・たいへんそうに思えて、この結婚をどうしようか、ホントは迷っていたのよ・・・。きっとジュンスのお母さんもこの人と折り合いが悪かったんだろうなって・・・。それなのに、あの時のジュンスを見て決めちゃった。おかしいでしょう?



テスは、この母の話を聞いて、涙が止まらなくなった。


母:あらあら、そんなに泣かなくてもいいのに・・・。まあ、今はすぐ泣けちゃうのよね。私もそうだったわ。テジョンを生んだ後。(微笑む)ジュンスは今の今までいい子で・・・。本当に親思いのいい子なの・・・。この前ね、あなたが入院中にここへ来て、掃除をした時、そこの写真たての中に、ジュンスのお母さんの写真を見つけたの。


テスはドキッとする。


母:それで、それを眺めていたら、ちょうどジュンスが来たから、「これ、飾ったのね?」って言ったら、無愛想に「ああ」って・・・。「お母さんのこと、許せたのね?」って言ったら、「ああ」って。それから、「お袋のことは一番に思ってるから。でも、これはオレを産んでくれた人だから。その事実は変えられないだろう?」って言ったの。だから、私は「いいのよ。あなたが本当のお母さんを許せたこと、うれしく思うわ」って言ったの。


テ:どうしてですか?
母:だって、人って自分の生まれを知ることって大事でしょ? ルーツって言うの? それが人を作っている根底にあるじゃない。自分の人生の根源を認めることって大切かなって。ジュンスも、自分のすべての歴史を認めたわけだから、きっと人間的に成長したんじゃないかなって。ちょっとイヤだったものも認めるって大事よね。

テ:ジュンスにそう言ってあげたんですか?
母:ええ。あの子、「ありがとう」って、私を抱いてくれたわ。それがすごくうれしかったの。

テスは涙が流れて仕方がない。
ジュンスはちょっと斜に構えたように見えても、とても温かなのは、この人がたくさんの思いやりの中で育ててくれたからだ。


テ:お母様、ありがとうございます。私からもお礼を言わせてください。
母:そんな・・・。でも、そう言ってくれてうれしいわ。テスさん。だから、私、この子をこうやって抱いていると、ジュンスが本当に自分の子になっていくような気がして、すごくうれしいのよ。かわいいわ、とっても・・・。(ジュンソンを見つめる)


テスは母のやさしい笑顔を見て、この子が自分たち夫婦とこの母を本当の家族へと導いているのだと思った。
一つの命が皆を繋げていく・・・そんなことに気づいて、テスは幸せな気持ちになっていくのを感じた。





ジ:さあ、パパとお風呂へ入るぞ!


ジュンスがロケから帰るとすぐに、荷物をおいて楽しそうにジュンソンのところへやってきた。


テ:パパ、お帰り! 待ってましたよ~。ねえ、ジュンソンとママで、パパを待ってたよねえ。
ジ:おいで。(ジュンソンを抱く)待ってた? パパも急いで帰ってきたよ。
テ:じゃあ、パパ、よろしくね!



ジュンスが湯船で、腕の中にジュンソンを抱えて浮かべている。

ジュンソンは気持ちよさそうに浮かんでいる。



テ:気持ちよさそうね。


バスタオルを持ったテスが息子の顔を覗く。



ジ:このまま、寝ちゃいそうだな。
テ:ホントね・・・。いいなあ。
ジ:何が?
テ:私もパパと入りたい。
ジ:バカ。
テ:もう全然一緒に入ってないね・・・。
ジ:そうだな・・・。


二人の目が合って、ジュンスが笑った。



ジ:じゃあ、そうっとジュンソンを寝かせよう・・・。
テ:うん。


テスはうれしそうに笑って、ジュンソンをバスタオルの中へ受け取る。


ジュンソンはあくびをして、目を瞑る。気持ちよさそうに、寝息を立て始める。

テスは静かに運び、ジュンソンを起こさないようにそうっと着替えをさせて、ベビーベッドの中へ寝かしつけた。

ベビーベッドの高い柵を留めて、ジュンソンの顔を見る。


テ:しばらく、いい子にしているのよ・・・。パパとママの時間だからね・・・。いい子で寝ててね・・・。ほんの少しだけ、パパをママにちょうだいね・・・。



テスは寝室を静かに抜け出して、バスルームへ向かった。
脱衣所で、さっと服を脱いでバスルームに入る。

ジュンスが暑そうにバスタブの縁に座っている。



テ:パパ、お待たせ。
ジ:もう熱くて、茹っちゃうよ。
テ:ごめん。



テスがジュンスの後ろに立った。

ジュンスが後ろを振り向くふりをして、テスを抱きかかえ、ジャボンっとバスタブの中へ二人で落ちた。テスは頭から濡れて、ジュンスに抱きついた。


テ:もう! もういきなり入るんだもん、ジュンスったら!
ジ:(笑っている)驚いた?
テ:もう、あんなとこに座って、わざとらしいんだから!


ジュンスが濡れた長い髪を掻き分け、テスの顔を出す。


テ:もう遊ばないで。
ジ:じゃあ、どうするの?
テ:今は、大人の時間よ・・・。

ジ:いいよ、その気なら・・・。でも、ジュンソンみたいには浮かべてあげられないよ。おまえは重いからさ。(笑う)
テ:もうバカ・・・。(笑う)


二人で楽しそうに見つめ合う。
ジュンスがテスを抱いた。


ジ:・・・。(笑う)
テ:なあに?
ジ:幸せ?
テ:ふふ~ん。そうね・・・。(笑ってから、じっと見つめる)

ジ:たまにはいいよね・・・。
テ:うん・・・。
ジ:二人きりも・・・。
テ:うん・・・。
ジ:・・・。


ジ:よし! 沈めるぞ!
テ:やだ~。


ジュンスが思いきりテスに覆いかぶさった。



テ:やだっ! やだったら!


ジ:どこでだったら、いいの? ベッドだったらいいの?
テ:・・・・うううん・・・。(笑う)どこででも・・・。ジュンスならいいの・・・。
ジ:じゃあ・・・。覚悟して!



ジュンスが思いきり、テスにお湯をかけた。


テス:もう、もうやだ! もう、パパ、やだ!
ジ:ごめん・・・。
テ:もう、許さないから! ふざけてばっかり!
ジ:ごめん・・・。



ジュンスがテスの髪を後ろへ流す。



テ:もう、ひどい!
ジ:ごめん・・・。久しぶりに、髪、洗ってやるよ・・・。
テ:もう、絶対許さない・・・。
ジ:体も洗ってやるよ。
テ:もう意地悪なんだから・・・。


ジ:ごめん・・・。(抱く)
テ:・・・。
ジ:幸せだから、許して・・・。(やさしく言う)
テ:もう、絶対許さない・・・。(甘く言う)
ジ:ねえ・・・。(顔を覗く)
テ:もう・・・はい、スポンジ。ちゃんと洗ってね・・・。
ジ:うん・・・。


スポンジを受け取りながら、ジュンスがテスを見て、はにかんだように微笑む。


テ:もう、なあに~? (ちょっと赤い顔をする)


そして、テスを抱く。


ジュンスの唇がテスの顔に近づいた。

テスはうれしそうに腕をジュンスの首に巻きつけ、幸せそうにジュンスにキスをした。






あなたの存在が私の人生を彩る。

私はあなたを見つめ、二人の明日を生きる。


いつだって

あなたがいて・・・


いつだって


私たちの心は一緒だ。









THE END









2009/07/08 00:53
テーマ:【創】愛しい人2部 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「愛しい人2部」7





BGMはこちらで^^




BYJシアターです。


本日は、「愛しい人2部」第7部です。

あのジュンスとテスのその後の、あるエピソードです。

「愛しい人」がまだの方はそちらからどうぞ。
そのほうが、おもしろいです。


これはフィクションであり、ここに出てくる事故、補償、医療行為は実際とは異なります。
また、人物、団体は実在しません。



ではここより本編。

お楽しみください。




ペ・ヨンジュン
キム・へス   主演

「愛しい人2部」第7部



二人が
愛し合うことは
当たり前


私たちは
家族になる


家族

それは複雑で

それは温かい・・・






【第7章 新しい風】

店:骨付きカルビの上3人前でございまあ~す。
テジ:サンキュ! ここに置いて。

テジョンの壮行会とテスの出産激励会を兼ねてやってきた焼肉店で、ジュンスはテジョンの前に置かれた皿を見て驚く。

ジ:おまえ、そんな高いの、頼んだの?
テジ:え? なんでも好きな物食べていいって言ったじゃない。
ジ:言ったけど・・・少しは遠慮しろよな。
テジ:ケチだなあ。

テ:お兄さん、ここのところ、ちょっとお金がないのよね。(ジュンスを見る)
ジ:・・・。
テジ:え? 仕事がうまくいってないの? (心配そうな顔をする)
ジ:仕事は順調だよ。少し必要経費がかさんだだけだ。
テジ:そう。

正直ここのところ、テスの出産準備、実母の男の入院費、母への心づけと、出費続きだった。


ジ:もう頼んじゃったんだから、食べろよ。(無愛想に言う)


テジョンとテスがうれしそうに顔を見合わせる。


テジ:いただきま~す。
テ:いただきま~す。

ジ:ねえ、なんでおまえ・・・。そっちに座ってるの?


ジュンスが、向かい側にテジョンと並んでいるテスを見た。


テ:こっちのほうが食べやすいんだもん。
ジ:ふ~ん。(ちょっと不機嫌そうに見つめる)

テジ:ケンカでもしてるの?(二人の顔を見る)
テ:そうじゃないの。私が食べ過ぎるってうるさいの。しょっちゅう、目を吊り上げて、監視してるのよ。それで、産後もこのまま太ってたら、浮気するって脅すの。恐いでしょう?
テジ:(笑う)この人が浮気するはずないじゃない。
テ:そうお?

テジ:だって、こういう顔したことなかった人だよ。テスさんを見る目が違うもん。
ジ:何を言ってるんだか。(嫌そうに焼肉を焼く)
テジ:大丈夫だよ、テスさんに惚れてるんだから。
テ:・・・・。(ジュンスを見つめる)

ジ:やなやつらだなあ・・・。欠食児童が2人揃っちゃって・・・。仕方ない! オレも食べるか!
テジ:よっしゃ! そう来なくちゃ! アニキ、ここ、クレジット利くよ!
ジ:おまえねえ・・・。(テジョンを見る)

テジ:テスさん、隣に座ってあげてよ。一人にしておくと、寂しくて泣いちゃうから。(笑う)
ジ:なんだよ。(ちょっと赤くなる)


テスがうれしそうにジュンスの隣に移る。
ジュンスがちょっと横目でテスを見つめる。


テジ:やっぱり、うれしそうじゃない。
テ:ホントだ! (ジュンスの顔を覗き込む)


ジ:もうこのメンバーとは来たくないな。
テジ:よし! 追加しよう! ねえ、テスさん! 何食べたい?

ジ:おい、仲間に入れろよ!
テジ:じゃあ、未来のパパ、どうぞ。(メニューを渡す)まずはスポンサーのご意見を伺おうね。(テスを見る)
テ:そうね!(テジョンを見る)

ジ:(メニューを受け取りながら)やっぱり、ツルんでる・・・。(悲しそうに言う)
テ:そんなこと、ないわよ!(笑う) パパ、どれがいい?(一緒に見る)

テスに言われて、ジュンスが幸せそうに笑った。





楽しい食事が進んだところで、テジョンが財布から紙を出した。


テジ:子供部屋のタンスは、赤ちゃんが生まれたら、ここへ電話を入れて。(領収書を渡す)
ジ:ありがとう。(受け取って見る)
テジ:値段は男女一緒なんだ。あとは、男の子か女の子か電話で言ってもらえばいいから。
ジ:わかった。サンキュ!
テ:すごく素敵なのよ。
ジ:ふ~ん。(うれしそうにテスを見る)

テジ:それから・・・実はね、アニキ・・・。マリさんがやっと退院して、仕事に復帰するんだ。
ジ:・・・。
テジ:オレ、マリさんの病院に、定期的に様子を見に行ってたんだ。
ジ:そうか・・・。
テジ:あの人、寂しがり屋だから・・・。でも、最近は、事務所に届くファンレターを見て、ファンの皆が自分のことを恋しがって待ってくれているってことに気づいて、気持ちが落ち着いてきたんだよ。
ジ:ふ~ん・・・。長かったなあ・・・一年以上入院してたんだ・・・。


テジ:あれだけのこと、しちゃったからね・・・。今は元気だよ。ただ、普通の人よりは、心が弱い・・・。
ジ:・・・。

テジ:それでね、復帰第一弾として、雑誌「She」で撮りおろしの写真集を出すんだって。今、カメラマンを探してるらしいよ。


テスがちょっと心配そうな顔で話を聞いている。


テジ:なんか、編集者のキムさんから聞いたんだけど、いい人がいないんだって。
ジ:たくさんいるだろ、カメラマンなんて。
テジ:皆、それぞれ色があるじゃない? マリさんが売り出してファンを掴んだのってアニキの写真だからさ。もちろん、アニキじゃない人をということで探しているらしいけど。カメラマンも名がある人って癖があるからね。

ジ:そうか・・・。いい人は・・・いると思うよ。

テジ:まあ、そういう話さ。だから・・・これからはどっかですれ違うかもしれないってこと。
ジ:うん・・・わかった・・・。


テ:ジュンス・・・会ってみたい?
ジ:えっ?

テ:会いたいかなと思って・・・。
ジ:・・・わからないよ、急に言われても・・・。
テ:そうね・・・。


テジ:昔に比べたら、ずいぶんしっかりしたと思うよ。気持ちの揺れが・・・うん・・・落ち着いてきた・・・。
ジ:そうか・・・。

テ:・・・。食べよ。(ジュンスを見る)マリさんも退院できて・・・。皆、新しい生活を始めるお祝いね。
ジ:・・・。(テスを見る)だめだよ、おまえは、あと2枚ぐらいでやめなくちゃ。
テ:え~え!

テジ:テスさん。テスさんがグレちゃえば。結構、ぽっちゃりした美人て、好きな人、多いよ。
テ:う~ん・・・そうね!
ジ:・・・。おまえねえ・・・。(テスの顔を覗くように見る)

テジ:ほら、心配そうな顔した!(笑う)
テ:ホント!(笑う)

ジ:(うんざり!)やっぱり、この二人はイヤだ! もう一緒に来ないぞ!
テ:パパ~。私とは来てね!(顔を覗き込む)
テジ:パパ~。オレとも来てよ。(顔を見て笑う)

ジ:もう絶対イヤだ!(呆れる)


3人は大きな声で愉快に笑った。




その夜、ベッドの中で。
寝そべっているテスの足元に、ジュンスが座って、テスのふくらはぎを揉んでいる。

テ:マリさん。挨拶に来るかな・・・。
ジ:さあ・・・。
テ:足の裏も揉んで・・・。
ジ:注文が多い客だな・・・。
テ:うん。(微笑む)

テ:どう思う?
ジ:何が?

テ:マリさん、来るかなあ・・・。


ジ:さあ・・・。おしまい!
テ:うん、ありがとう!


ジュンスが洗面所へ行って戻ってきて、テスの頭を引き寄せるように腕枕して寝る。


テ:ねえ・・・。(マリのことを話したい)
ジ:このシャンプー、いいニオイだね。(テスの髪を嗅ぐ)
テ:そう? 変えてみたの。 よかった?
ジ:うん・・・いい感じ。
テ:そうお? ジュンスが気に入ってくれて、よかったわ。
ジ:うん・・・。


ジ:もうすぐだね。


ジュンスがお腹を触る。


テ:私の入院中に何かあると、ヤダな・・・。
ジ:? 大丈夫だよ。

テ:そうお?
ジ:撮影の仕事は、予定日前後合わせて、2週間休んだから。
テ:そんなに?
ジ:だって、出産に立ち会うことになってるじゃない。
テ:それはそうだけど・・・。予定通りにその時期に産めるかなあ?
ジ:だめな場合もある?
テ:早まることがあるから・・・。
ジ:そうか・・・。でも、遠出はしないから、なんとかなるよ、きっと。
テ:そうね。
ジ:そんなすぐには生まれないだろ?
テ:たぶんね。初めての自然分娩だから、よくわからない・・・。
ジ:ふ~ん、まあ、そうか・・・。テスにとっても、初めての出産なんだ・・・。
テ:そうよ・・・。(微笑む)


ジュンスがテスを引き寄せる。


テ:ああ、早く、仰向けとか、うつ伏せで好きなようにゴロゴロ、寝たい!
ジ:ふん、そうだな。(笑う)
テ:もう飽きちゃった、この体勢。横向きだけって、結構疲れるのよ。(笑う)
ジ:もう少しの我慢・・・。でも、今度は寝られなくなるな。
テ:そうよ、パパ。 だから、私が入院中、一人でゆっくり寝ておいたほうがいいわよ。最後の眠りだから・・・。
ジ:・・・あ、クギを刺したな。
テ:え?

ジ:一人でゆっくりって・・・。
テ:ホントだ。(笑う)


ジ:でも、きっと一人だと寂しいだろうな・・・。
テ:でも、だめよ・・・。
ジ:このシャンプーでテスを思い出すように、誰かに・・・。
テ:でも、だめよ・・・。自分の頭のニオイで我慢してね。
ジ:(笑う)わかったよ。さあ、寝よう。これって貴重な眠りなんだろ?
テ:そうよ。オヤスミ、パパさん・・・。
ジ:オヤスミ・・・。

ジュンスが抱いているテスの額にキスをした。





テジョンがニューヨークに旅立って、一週間。
いよいよテスの出産も近づいてきた。

風呂場には乾燥機も付いて、今年の長雨もなんとか乗り切っている。

子供部屋には、長逗留するであろう、テジョンの母親のための布団も用意した。

あとはテスの陣痛がくれば、OK.。




朝食を食べながら、ジュンスが部屋に飾られた大きなカレンダーを見ている。

ジ:結構、待つ態勢に入ると、まだかまだかって感じになるよなあ・・・。
テ:ホントね。今までに比べてここ2、3日ってすごく長く感じるもん。

ジ:そうだ、まだまだ先だと思おう。
テ:そうね・・って言っても、気持ちが切り替えられないわ。だって、先生が言ったのよ。子宮口が2センチ開き始めてるから、これは早くなるなあって。

ジ:テスが頑固なのを知らないんじゃない?(笑う)
テ:ひど~い。でも、ちょっと期待しちゃったわね。きっと、予定日通りなのよ。(笑う)
ジ:そうだな。といっても、あと2週間だからな。できれば来週に入ってからがいいなあ。休みに入るからさ。
テ:そうねえ・・・パパから、この子に頼んでよ。
ジ:そうするよ。(笑う)・・・シンジャ先輩も順調かな?
テ:テジョンさん、会ったってメールくれたわよね。
ジ:何事もなく、いってくれるといいけど。
テ:そうね。






テジョンが時計を見ると、午後1時半。
まだ、シンジャが現れない。
携帯を出して、電話をしようとする。


シ:テジョン!

シンジャがやってきた。
髪をよりベリーショートにして、パンツ姿で颯爽と歩いてくる。

シ:ごめ~ん!
テジ:どうしたの? 遅刻だよ。
シ:ごめん!
テジ:何時に待ち合わせしたの?
シ:確か、12時半ね。
テジ:今は?
シ:ええっと、1時半。ちょうど1時間ね。
テジ:1時間、どうしたの?
シ:遅刻しちゃったの。

テジ:何してたの?
シ:ごめん・・・。美容院へ行ってたのよね。
テジ:ふ~ん・・・。

シ:ホントに悪かったわ。お昼、奢るから・・・。
テジ:何? ハンバーガー? ホットドッグ?
シ:ホットドッグ! あそこのオジサンの店で、買いましょう。


テジョンが笑った。

シ:なあに?
テジ:そんなことだろうと思ったよ。
シ:仕方ないわよ。お互い、安く済ませたいんだから。
テジ:あれ、奢ってくれるんでしょう?
シ:あ、そうだった。(笑う)なら、余計、ホットドッグへの道を行かなくちゃ。


露天のホットドッグ屋で、ホットドッグを買って、二人は、近くのビルに寄りかかる。


シ:ねえ、「ダヴィンチ・コード」見た? (食べながら)
テジ:まだ。 (食べながら)
シ:じゃあ、それにしない?
テジ:いいよ、それで。
シ:じゃあ、そうしよう。

テジ:(食べながら)その髪型、似合ってるよ。
シ:ホント? よかった。ちょっと切り過ぎたかなと思ったから。
テジ:颯爽としていて、いいよ。なんか、お腹が大きくてもカッコいいよ。

シ:ありがとう。もう5ヶ月に入ったんだ。これからどんどん大きくなるわ。
テジ:そうなんだ。テスさん、もうパンパンだったよ。
シ:でしょうね。あの二人の子だから、きっと大きいのよ。
テジ:そうだね。


テジョンの横髪がサラサラと風になびいて、口元にかかる。

シンジャが手を伸ばし、髪を直して、テジョンの耳にかける。


テジ:(やさしい目をして)ありがとう。
シ:うううん・・・。(見つめる)


二人はニューヨークの気持ちのよい風に吹かれて、ホットドッグを食べている。


食べ終わったテジョンがシンジャの顔を見て、微笑む。

シ:なあに?
テジ:子供みたい・・・。(笑う)
シ:何よ?


テジョンがシンジャに顔を寄せて、シンジャの唇の脇をちょっと舐めた。


テジ:ケチャップがついてたよ。
シ:やだ。ホント? やんなっちゃうな。(笑って口を拭く)

テジ:行こうか?
シ:うん。


一歩、歩いて立ち止まる。テジョンがシンジャの靴の紐が解けているのに気づく。


テジ:全く!


テジョンが屈んで、シンジャの靴の紐を結ぶ。


テジ:紐靴なんてやめなよ。これから、履きにくくなるし、ヒールも少し低くしたほうがいいよ。
シ:だけど、このNo Nameってすごく流行ってるのよ・・・。


そう言いかけて、シンジャはテジョンを見つめて笑った。


シ:テジョン!
テジ:なあに?
シ:あなた、やっぱり、コッキリに似てるわ。(笑う)
テジ:似てないよ。

シ:そうかなあ・・・。でも、私はあなたのほうが好き。
テジ:そう? それはよかった・・・。(見つめる) 行こう!
シ:うん!


シンジャがテジョンの腕に捕まった。

二人は顔を見合わせて笑った。



今日もニューヨークの空は快晴。

二人に幸せを呼び込むように、爽やかな風が吹いている。





ジ:はい、もしもし。「スタジオ・コッキリ」。・・・ああ、キムさん・・・。
キ:その声の感じからいくと、もう察しがついてるの?
ジ:答えは、NOだよ。
キ:冷たいな・・・。
ジ:当たり前だろ?
キ:まあね・・・。それはそれとして・・・。
ジ:なんだよ?

キ:会いたいんだって。
ジ:・・・ムリ。
キ:やっぱり、だめか。
ジ:もうすぐ、子供が生まれるんだよ。こんな時期に会いたくないんだ。
キ:だよね・・・。
ジ:悪いけど、カメラは他の人を当たってよ。
キ:わかった・・・。
ジ:会うのもね。テスが心配するから。
キ:・・・うん、わかった・・・。ジュンちゃんに迷惑なのはわかってたんだ。悪かったね。
ジ:うん・・・。
キ:じゃあ、また。


ジュンスは受話器を置いた。
編集者のキムさんからの電話だった。


マリが自分に会いたいという。


会って何を話す・・・。

元気だったか?
オレは結婚して、もうすぐ子供が生まれるよ。


それで、いいのか?


かつての男だったカメラマンに笑顔を作り、撮影してもらえるとでもいうのだろうか・・・。

それも心中しそこなった男に・・・。
自分を捨てた男に・・・。



ジュンスは、スタジオの窓を開ける。
外は大雨だ。

梅雨の真っ只中。

あいつはオレに会って、何を話したいのだろう。





翌日、テスは出産前に髪を少し切ると言って、美容院へ出かけた。

確かに今の髪の長さでは、産後がたいへんかもしれない・・・。

つい、この間も、狭い風呂場で、ジュンスがテスの髪を洗った。


テ:ねえ、美容院だと、「お痒いところはありませんか?」って聞くのよ。
ジ:何でそこまでするの? 痒いところは、自分で擦れよ。
テ:やってよ、気持ちがいいから。(にこやかに言う)この辺をよろしく。(指差す)

ジ:(シャンプーを泡立てながら)人の頭って小さく感じるね。自分の頭だと、結構大きい気がするけど。
テ:それって、おもしろいよね。


ジュンスがテスの髪をどんどん洗っている。


テ:ねえ、赤ちゃんの沐浴も手伝ってね。
ジ:暇だったらね。
テ:うん・・・。ジュンスは手が大きいから、きっと上手にお風呂へ入れられるわ。それで、少し大きくなったら、パパと一緒にお風呂へ入るの。
ジ:暇だったらね。
テ:うん! 


テスは、きっとジュンスなら、楽しみながら、子供と一緒に風呂に入ってくれると思う。

前の夫には、そういうところがなかった。
いつも、テスは母子カプセルの中へ閉じ込められ、一人奮闘していた。


ジ:流すよ。
テ:うん。


ジュンスがシャワーでテスの長い髪を流す。
その手つきがやさしくて、テスは気持ちよさそうに身を任せた。


そうやって、頑張って長い髪を保ってきたテスだが、結局本日、「肩くらいまで切るわ!」と宣言して出かけていった。





ジュンスが、スタジオのデスクで仕事をしていると、ドアが開いた。


ジ:お帰り!



返事がない。

ジュンスが顔を上げると、そこに、マリが立っていた。

マ:こんにちは。ご無沙汰してました・・・。
ジ:ああ・・・。

マ:今、いい?
ジ:・・・うん・・・。
マ:誰か来るの?
ジ:いや、もうすぐテスが帰ってくる・・・。

マ:そう・・・結婚したのよね?
ジ:ああ。
マ:おめでとう。・・・このスタジオも雰囲気は変わった・・・。ああ、階段が変わったのね・・・。それに・・・あれ、給湯室なくなったの? 
ジ:ああ、現像室にしたんだよ。ここのほうがやりやすいから・・・。
マ:そうなんだ・・・。

マ:全体的に明るい感じになったわね。
ジ:そうか?
マ:うん。


ドアが開いて、テスが入ってきた。


テ:もうたいへん! ジュンス、スコールみたいな雨になっちゃった! もうズブ濡れ!



そう言って、中へ入ると、女性が立っている。

テ:お客様?


マリが振り返った。


マ:ご無沙汰しています。
テ:マリさん・・・。お久しぶり・・・。

ジ:今、来たんだよ。
テ:そうなの・・・。


マリがテスをしっかりと見る。

テスのお腹がふっくらとしている。

一瞬、マリは息が苦しくなった。


テ:どうぞ、座って。今、コーヒーを入れるわ。
マ:お構いなく。
ジ:テスのコーヒーはおいしいから、飲んでいって。それに外は雨なんだろ?
テ:そうなの、急にきちゃったわ。少し止むまでここにいたほうがいいわ。私、2階へ行くから・・・。マリさん、ごめんなさい。こんなにズブ濡れになっちゃったから、ちょっとシャワー浴びてきてもいい? その間にコーヒーを入れるわ。
マ:・・・。

ジ:そうしたら?
マ:じゃあ、お言葉に甘えて・・・。
ジ:座ったら、このデスクが空いてるよ。
マ:ええ。


テスが2階へ行き、マリはジュンスの前へ座った。


マリはかつての記憶の中のマリより、少し大人びて、顔も面長になっていた。
少し、憂いがあるが、前よりは、しっとり落ち着いていた。

マリはジュンスの前に座る。

ジュンスは穏やかな顔をしていた。
しかし、顔にはところどころ、細かな細い線の傷跡があった・・・。

あの時に作った傷だ。


でも、ジュンスの笑顔はやさしかった。

ジ:ずいぶん、長い間、頑張ったんだね。
マ:ええ。途中、病院を出たり入ったり・・・。でも、もう大丈夫ってお医者様が言ってくれて、仕事に復帰することができたの。
ジ:うん・・・。「She」で、写真集を出すんだって?
マ:うん。復帰第1弾ね。ファンの人がね、写真集を待ってくれてるの。

ジ:うん。よかったな。
マ:ありがとう。あんなひどい事しちゃって来られた義理じゃないんだけど・・・。だけど、これから芸能界でやっていくのに、ジュンスに知らん顔ではいけないと思ったの。ちゃんと、謝らなくちゃって。
ジ:うん。

マ:これからはしっかり仕事をやっていくつもり・・・。テジョンに励ましてもらって、元気になった。私にはたくさんのファンがいて、私を待っているんだよって、テジョンが教えてくれたの。
ジ:そうか・・・あいつ、今、ニューヨークだよ。
マ:うん。聞いた・・・。テジョンみたいに自由に生きたいな・・・。まずは、仕事を頑張るつもり。
ジ:そうだな。



2階から、テスが降りてきた。


テ:お待たせ。アイスコーヒーにしたわ。どうしようか・・・。こっちで皆で座る?



打ち合わせ用のテーブルに、アイスコーヒーを置いた。

ジュンスがちょっと躊躇したが、自分の席から立って、テーブルまで歩く。


何気なく、ジュンスを見たマリの顔色が変わった。

ジュンスは軽くではあるが、左足を引きずる。

マリは胸がいっぱいになって、涙が出てしまう。


テ:マリさん?
マ:ジュンス・・・。ごめんなさい・・・。本当にひどい事しちゃった・・・。私はこんなに元気なのに・・・。今もまだ、ジュンスは傷だらけで・・・。本当に、本当にごめんなさい!


ジュンスもテスも一緒に胸がいっぱいになった。


確かに、まだジュンスは足を引きずる。でも、これもいつかは痛みが取れるだろう・・・。
いや、多少のことが残ったとしても、今、最愛の人を得て、順調に家庭を築いている。


このくらいの怪我がなんだ。
そんなものは、もう乗り越えている・・・。



ジ:マリ。もういいんだよ。オレは今、幸せにやっている。だから、もう忘れていいんだ。


テスも頷いた。


今だ、ジュンスは、あの事故を思い出して、夢に魘されて一人起き上がることがある。
でも、それをマリに言ったところでどうなるのだろう。

マリがまた、精神を病んでいくだけだ。


テ:私たち、これでもすごく幸せなの。だから、心配しないで。
マ:そんなやさしくしないで・・・。
テ:本当にそうなの・・・。たぶん、誰よりも幸せなんだから。
マ:・・・・。

ジ:マリ。おまえには、まだまだ未来が開けているじゃないか。もっと大きなスターになれよ。
マ:うん・・・。そうね・・・。でも、簡単に自分を許しちゃだめだわ・・・自分を甘やかしちゃ。これからだって、もっとたいへんな事があるもの・・・。その時は、ジュンスの事を思い出す。そして、どれだけ、自分がバカだったかを・・・。そうやって、少し大人になる・・・。だから、この事は絶対忘れちゃいけないのよ・・・。


ジ:うん・・・そうか・・・。


テ:マリさん、キレイになったわ。きっと、心が顔に出ているのよ。これからきっと、いい仕事がたくさんできるわ。



マリはテスを見つめた。

やっぱり、この人だった。ジュンスを救ったのは・・・。

私とは違う温かな愛で、人を包むのだ。


マ:自分なりに頑張って生きてみます。
ジ:頑張らなくても、マリらしく生きればいいんだよ。
マ:はい。




マリは新しい道を歩み出した。

躓きながらでも、今度はちゃんと、地に足をつけて生きるつもりだ。

ジュンスが救ってくれた命だもの・・・。




一雨過ぎて、また太陽が顔を出し、マリは笑顔を残し、帰っていった。






それから2、3日して、早朝、テスがハッとベッドから飛び起きる。


ジ:どうしたの?
テ:ねえ・・・。
ジ:お腹が痛いの?
テ:うううん・・・。なんか・・・。
ジ:・・・。
テ:なんか、私、生臭くない?
ジ:・・・わからないよ。
テ:生理の時みたいなニオイしない?
ジ:ごめん。それもわからない。
テ:そうだったんだ。あれって、自分しかわからなかったんだ・・・。なんか、そんなニオイがするの、今・・・。
ジ:ふ~ん。
テ:もうすぐ始まっちゃうのかな・・・。

ジ:ニオイでわかるの?
テ:なんか原始的だけど、そんな感じがする・・・。ちょっと動物的だけど・・・動物だもんね。
ジ:うん・・・。大丈夫?
テ:まだ、陣痛もないし。今のうちに、シャワー浴びとくね。急に陣痛がくると、いけないから。
ジ:オレも起きてる?
テ:ジュンスはまだいいわよ。だって、まだ始まってないもん・・・。これ、動物的カンよ。(微笑んで、時計を見る)午前5時か・・・。今日は一日、長いのかな・・・。
ジ:頑張って、ママ。
テ:うん! じゃあ、パパ。ちょっとシャワー、浴びてくるね。


テスは起き上がって、バスルームの方へ歩いていった。


いよいよ、出産のときが近づいたようだ。







第8回へ続く・・・。




マリは、ジュンスに会って、許しを乞うた。

そして、ジュンスの体に、傷を残したことを知り、心を痛める。

でも、
ジュンスにとっても、テスにとっても、

それは終わったことだ。

二人は今、明るい未来に向かって、走り出している。


いよいよ最終回。

お楽しみにね!





2009/07/07 00:53
テーマ:【創】愛しい人2部 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「愛しい人2部」6





BGMはこちらで^^




BYJシアターです。

この回をアップしようとコピーすると、初回連載が2006年7月4日になってました。
あれから3年・・・私はちっとも変わらず・・・う~ん、かなり老けましたが^^
愛も変わらず^^!であります^^


本日は、「愛しい人2部」第6部です。

あのジュンスとテスのその後の、あるエピソードです。

「愛しい人」がまだの方はそちらからどうぞ。

そのほうが、おもしろいです。



これはフィクションであり、ここに出てくる事故、補償、医療行為は実際とは異なります。
また、人物、団体は実在しません。




ではここより本編。

お楽しみください。




ペ・ヨンジュン
キム・へス   主演

「愛しい人2部」第6部



二人が
愛し合うことは
当たり前


私たちは
家族になる


家族

それは複雑で

それは温かい・・・






【第6章 旅立ち】



ジ:おまえ、食べすぎ!


ジュンスは、テスが目の前でシュークリームを食べている姿を見ていて、うんざりした顔をする。

3時のおやつと称して、スタジオで仕事をしているジュンスに、アイスコーヒーを持ってきたテスは、ジュンスの真向かいのデスクに座って、おやつ用のシュークリームを幸せそうに食べている。


テ:どうして? おいしいわよ。ジュンスも食べてみたら?
ジ:なんで1パックに10個も入ってるのを買ってくるの? それだから食べ過ぎるんだよ。
テ:だってえ、安くていいじゃない!
ジ:一個ずつ売ってるのを買ったほうが食べすぎないだろう? まさか、一人で10個下さいなんて言わないんだからさ。高くてもそっちを買えよ。・・・おまえ、もう一人で半分食べてるよ・・・。(眉間にしわを寄せる)
テ:(手元を見る)あら、ホント!食べちゃった!(笑う)


ジ:ねえ、何キロ、太ったの? 
テ:え?
ジ:何キロ?
テ:さあ・・・。(惚ける)
ジ:知らないはずないだろ?
テ:わかんないわよ・・・。
ジ:今月に入ってすごく増えたよね。
テ:そう?
ジ:見てわかるよ。ねえ、全部で何キロ増えたの?
テ:う~ん・・・15キロくらいかな・・・。
ジ:・・・最悪・・・。(思いっきり嫌な顔をする)
テ:なんで? そのくらい太るものよ・・・。

ジ:でも、おまえの持っている雑誌によると、8キロくらいが理想的とか書いてあったよね。
テ:ふ~ん、そうだった?(笑う)理想と現実ね! (頷く)
ジ:子供って、大きくても4キロだろ? 羊水入れても、6~7キロ? 残りは全部おまえの体についてるんだよ。
テ:ま、そうね・・・。(シュークリームをまた食べている)


ジ:・・・まあ、いいや。産後、デブの女房のままだったら・・・。(テスを見るのをやめて仕事を始める)
テ:ままだったら? (顔を上げて、ジュンスを見る)

ジ:浮気されても仕方ないと思うんだな。(仕事をしながら淡々と言う)
テ:何よ、その言い草!
ジ:そうだろ? ブヨブヨの女房なんて・・・。
テ:ちょっと! 愛がないわねえ!
ジ:愛があるなら、愛がある体型に戻ってねえ。
テ:ひど~い!
ジ:・・・テジョンのお袋みたいになったら最悪・・・。
テ:あそこまではならないわよ・・・(ちょっと弱気)たぶんね。
ジ:そう・・・たぶん。
テ:うううん、きっとならない!
ジ:怪しいな。(つんとした顔で言う)
テ:ジュンス! 夫の愛があれば痩せられるわよ、きっと!
ジ:どうだか・・・。今の食生活を続けていたら、もうブタへの道はまっしぐらだよ。(憎たらしい顔で言う)
テ:ひど~い!


ジュンスは笑って、仕事を続ける。



テ:ねえ・・・ねえ・・・。

テスが立ち上がって、ジュンスのほうへ回る。


ジ:なんだよ・・・。(仕事をしている)
テ:浮気なんてしないでよ。(顔を覗き込む)
ジ:さあ、どうだか。おまえの心がけ次第だよ。(テスを見ないで仕事をしている)
テ:やだ!・・・そんなあ・・・絶対にしないでよ!
ジ:う~ん、わからないよ・・・。(仕事をしている)
テ:どうして、わからないの? ねえ・・・。

ジ:だって、そんな先のことはわからないだろ?
テ:そんなバカな・・・。やあよ、そんなことしちゃ・・・。ねえ、ねえ、ねえってたら・・・。
ジ:くどいなあ・・・。
テ:じゃあ、しないでね!
ジ:だから、わかんないって・・・。(フィルムを持って立ち上がる)

テ:ジュンス・・・やだあ・・・ねえ、ジュンス。ジュンスったら!
ジ:もう、くどいなあ・・・。


テスがジュンスにくっついて歩く。


テ:ジュンス、ねえったら!
ジ:うるさいな。知らないよ。
テ:ねえ、ねえったら! もう!





シ:こ・ん・に・ち・は! お取り込み中だった?

ジ・テ:え?


二人が振り向くと、シンジャが立っていた。


ジ:やあ、先輩。
シ:今来てよかったのかしら? (笑う)
テ:ええ、いいんですよ。別に・・・。
シ:そうお? (笑っている)
ジ:ちょっとこいつがじゃれてきただけですから。
テ:もう、違うでしょ!


ジュンスが笑顔でテスの肩をちょっと抱く。



シ:いつも仲良しね。(笑う)
テ:え、まあね・・・。(困って笑う)

ジ:どうぞ、2階へ上がってください。

テ:先輩。これ、一緒に食べましょう!(シュークリームの箱を見せる)
シ:(覗き込んで)あら、おいしそうね。 いただくわ。
テ:(ジュンスを見て)ジュンスだけよ、いっちゃもんつけてくるのは!
ジ:そうじゃないだろ?

シ:何よ? (ひょとんとして言う)

ジ:え? 別に。(笑う)どうぞ、お2階へ。遊んでやってください。
テ:もう!(ジュンスの顔を見てやな顔をする) 先輩、行きましょう!
シ:お邪魔するわ。





シンジャは、2階に上がり、テスがお茶をいれている間、二人の写真が並んでいる飾り棚を見ている。


シ:いろいろ並べてあるわねえ。ジュンスが好きなの? テスが好きなの? こういうこと。
テ:ええ~?(キッチンから見る)ああ・・・。なんか結婚したら、並べてみたくなっちゃったの、二人とも。
シ:そうなんだ・・・。



シンジャは全体を見回して、それからひとつずつ見ていく。


ドンヒョンも家庭を持ったら、こうやって自分たちの歴史を並べていくのだろうか。


結婚式の写真、二人のスナップ写真、子供時代。
テスの娘の写真・・・。


シンジャはテスの娘の写真を持って、じっと見つめた。
新しく焼き直してある。

テスの失った過去・・・。
そして、それを温かく受け入れているジュンスの愛が見える・・・。




その写真を元に戻し、ジュンスの子供時代の写真を見る。

小さなジュンスがキレイな女の人の膝に座って、微笑んでいる。


シンジャは興味深くその写真を取り上げた。


シ:テス。この写真の女の人って、なんか意味あるの?
テ:なあに?


テスは、お茶を入れたカップをテーブルに置くと、飾り棚のところへ来る。
そして、一緒にその写真を見る。


テ:どれ?


小さなジュンスが実母の膝で微笑んでいる。



テ:これね・・・。ジュンスの本当のお母さんなの。
シ:え? そうなの?
テ:うん。6歳で別れたお母さんよ。
シ:そうだったの・・・。じゃあ、前にお会いしたあの小太りの明るい感じの方は義母なのね?
テ:そう。テジョンさんのお母さん。
シ:そうだったの。ものすごくジュンスを愛してるみたいだから、本当のお母さんだと思ってたわ。
テ:8歳から育ててくれたから。実質的には本当にお母さんだけど・・・。
シ:そうなの・・・。かわいいわね、このジュンス。(笑う)
テ:ええ。



ジュンスはこの間の母との別れがあってから、実家へ遊びに行き、子供のころのアルバムを探した。納戸の奥に仕舞われたそのアルバムの中に、若い日の母がいた。

それを一枚選んで持ち帰り、ここに飾った。


テスはそのことで、ジュンスが今まで封印してきた自分の子供時代を認め、実母を受け入れたことを知った。




テ:さあ、座って、お茶でもどうぞ。
シ:ええ。



二人はダイニングテーブルに着く。



テ:シュークリームも食べて!
シ:いただくわ。おいしいわね。なんか、いくつでも食べられちゃいそう。
テ:でしょ? 最近、私がよく食べるから、ジュンスがこの食生活を続けていくとブタになるっていうの。
シ:(笑う)ホントね。テス、最近、太ったわよ。

テ:先輩まで。(笑う)でも、臨月近くなると、子供ってぐ~んと大きくなるんですよ。きっとこの子も欲しがっているのよ。(お腹を撫でる)
シ:そうやって、甘やかしているのね・・・。でも、1個じゃ収まらないわ。食べていい? (笑う)
テ:どうぞ。先輩も仲間になって!
シ:テスみたいにはならないわよ!
テ:ひどい。(笑う)


テ:ところで、先輩・・・。(真面目になる)ドンヒョン先生と何か進展ありました?
シ:うん。あった・・・。
テ:そう!(うれしそうな顔をする)
シ:今日はね、そのことを話したくて来たの。



テスは期待に胸を弾ませてシンジャの顔を見た。



シ:私が一人でこの子を産むことを許してもらったわ。
テ:え? (驚く)

シ:テスも結婚してほしかったのかな?
テ:ええ・・・。せっかく赤ちゃんを授かったんですもの・・・。それに今までお付き合いしてきたんだし・・・。


シ:そうよね・・・。でも、別れたの・・・。私の我儘。


テ:ドンヒョン先生はなんて言ったんですか?
シ:こういうことになったら、二人で育てるものだろうって・・・。結婚も申し込んでくれたけど・・・。
テ:ならなぜ?
シ:テス。彼ね。もう結婚決めてる人がいたのよ。
テ:・・・。それで、引き下がったの?

シ:違うの。彼に会う前はね、どうやってその結婚を阻止しようか、考えてたんだけど・・・。彼に会ったら、憑き物が落ちたみたいに、この人とは結婚しないで産もうと思っちゃったの。
テ:なんでかしら?
シ:顔を見たらね、思ってた感じと違った。ドンヒョンが違って見えた・・・。もう落ち着いちゃって、人のダンナみたいで・・・。今までのドキドキするドンヒョンはいなくて、普通の男に見えたわ。

テ:普通の男じゃだめなの? もう魅力がなくなっちゃったの?
シ:なんか変でしょ? でも、もう私の彼ではなかった・・・。時期を逸したって感じね。結婚するなら、もっと早くにするべきだったのかもね。
テ:それにしても・・・。赤ちゃんを産むってことは、ドンヒョン先生にだって責任も出てくるし・・・。だって父親でしょ? それって離れていても、一生父親よ。


テスはジュンスの母親のことを思い出す。
血のつながりというものは、切っても切れないものだと言うことをあの時痛感したので、シンジャのことが心配になる。


シ:そうね・・・。でも、なんか彼と一緒にやっていく気がしなくなっちゃったのよ。・・・。長い間、一人でやってきちゃったから、二人で生きるのが面倒に感じちゃったのかな・・・。結局、私って我儘な女なのかも・・・。自分の人生に一生懸命で、彼を振り回して終わっちゃった・・・。
テ:・・・。


ジ:それでいいの?

シ:(振り返って)コッキリ。


ジュンスが入ってきた。



ジ:我儘でしたで、それでいいの?
シ:怒った?
ジ:少しね・・・。先生は一人で産むことを認めたんだね?
シ:そう・・・。
ジ:たいへんなことだね。これから結婚するのに・・・。


ジュンスがテスの隣に座った。


シ:それでね・・・。子供は認知しないって・・・。
ジ・テ:・・・・。


シ:そう言われちゃった。それにはちょっとギャフンとしたけど・・・。でも、結局、私が自分の好きなようにしているんだから、仕方がないわよね・・・。
ジ:それじゃあ、ホントに父親のない子になるんだね?
シ:そうね・・・。おととい、そういう電話をもらいました。でも、その代わりね、慰謝料をいっぱいくれたの。
ジ:え?

シ:・・・私、ニューヨークで一人で赤ちゃん産むことにしたのよ。生まれてしばらくは姉が来てくれることになってるの。もう子供も大学生だからって。それでね、ドンヒョンにはニューヨークへ行く話をしてたから、仕事を休んでいる間の費用とか、いろいろ考えてくれて、ものすごい金額なんだけど・・・くれたの。

ジ:それで?
シ:つまり、その代わり、一人で頑張りなさいって。結婚する人にはやっぱり言えないって・・・。かなり悩んだみたいだけど・・・。その人のこと、すごく愛しているのよ。

ジ:そう・・・ドンヒョン先生もたいへんなものを背負っちゃったね・・・。先輩、先輩は自分ひとりで産むと決めたわけだけど、先生がそれを認めた時点で、先生も、先輩とその子の人生を背負ったんだよ。
シ:コッキリ・・・。

ジ:きっと何かあった時は、力を貸してくれるよ・・・。
シ:コッキリ・・・。
ジ:いい男だったじゃない? 悪くなかったよ・・・。

シ:そうお? 別れた私がバカ?
ジ:バカ。
テ:ジュンスったら・・・。(ジュンスのほうを見る)
ジ:でも、一緒には生きられないって思ったんだから仕方ないよ。これからは、我儘言わないで頑張らないと。
シ:そうね。うん、頑張るわ。テス・・・いいダンナじゃない? コッキリって結婚したほうが魅力的になったわ。

テ:先輩、持ち上げないで。その気になっちゃうから。だめよ・・・。
シ:どうしたの、テス? いい男でよかったじゃない。
テ:だめ・・・。
ジ:テス・・・。(笑う)

シ:よくわからないけど、二人でケンカなんかしないでよ。(二人を見る)
ジ:してませんよ。
シ:そうお? それならいいけど。

ジ:いつ発つの? ニューヨークは?
シ:来週。こっちのマンションは姉が管理してくれるの。・・・あんまりお腹が目立たないうちに、行きたいの。でもねえ、1件、雑誌の写真連載は取ったんだ。だから、細々と仕事は続けるわ。
ジ:そうか。うん・・・。空港まで送ってあげるよ。

シ:コッキリ・・・。ありがとう・・・。ホントにありがとう・・・。(涙が出てくる)
ジ:いいんだよ・・・。テスも散々お世話になったし。お互い様だよ。
シ:うん、甘えさせてもらうわ・・・。




シンジャは自分の思う人生を行く。

ドンヒョンは認知をしないという、一見非情な結論を出したが、その代わり、彼の持っているものの多くをシンジャとその子供に差し出した。


どれが最良な方法なのかはわからない。

ただ、二人がそれで納得して、別々の新しい人生を始めることにしたことだけは明確だ。



シンジャの話で、ちょっと気が重い夕べとなった。

シンジャは、ジュンスたちと夕食を共にした後、テスから必要な出産用品や、体調管理の注意点を聞いて帰っていった。





時計も午後9時を回り、ゆったりとした夜の時間になった。

テスが洗面所からサッパリした顔で出てきた。

キッチンでミネラルウォーターを飲んでいたジュンスと目があった。
ジュンスがちょっと怯えた顔をした。


テ:なあに?
ジ:歯を磨いてきたの?
テ:そうよ。お菓子が食べたくなっちゃったから、歯を磨いて誤魔化したの。どうしたの?
ジ:いや・・・。
テ:なあに?
ジ:いや、一瞬襲われるのかと思ったから。(笑う)
テ:やだ、ジュンスったら。(笑う)



テスは笑いながら、キッチンにいるジュンスの前に来て、ジュンスの手を引いて、リビングのソファまで連れていく。
手を引っ張って、隣に座らせる。


テ:さあ。
ジ:なあに?
テ:襲って。
ジ:なんだよ。(笑う)


ジュンスが立ち上がろうとすると、テスが手を引っ張る。


テ:ほら、襲って。
ジ:参ったなあ。(笑う)
テ:ジュンス。浮気なんてしないでね。
ジ:また、それ?
テ:誓ってよ。
ジ:わかんないよ。(はぐらかす)
テ:意地悪なんだから。
ジ:そんなに心配なの?
テ:そうよ。だいたい妻が出産で入院中っていうのも危ないらしいから。
ジ:バカみたい。(笑う)
テ:だって、ジュンスは、キレイな女の子がいっぱいいるとこへ仕事に行くじゃない。
ジ:そうだよ。より取り見取りだよ。(微笑む)
テ:またあ~。
ジ:だって、先生が声をかければ、簡単になびくよ。
テ:やだん。


テスがジュンスの顔を両手で押さえ込む。


テ:だめよ! そんなことしちゃ。変な女の子にひっかかっちゃうから。ちゃんとママのそばにいなくちゃだめよ。
ジ:大丈夫だよ。もう見る目はできてるから・・・。


ジュンスがやさしくテスを抱く。


テ;それでもだめよ。一生一緒にいるって誓ったんだから。ジュンスが一緒にいたいって言ったんだからね。
ジ:そうだったね。
テ:もう・・・。私たちは仲良くずっと一緒にやっていくんでしょ?
ジ:その予定だよ。
テ:でしょ? 別れたりしないんでしょ? 二人で一緒に子供を育てて、二人の家庭を築いていくんでしょう?
ジ:そうだよ。
テ:だったら、浮気しちゃだめよ。わかった? ねえ、絶対だめよ。ね?
ジ:じゃあ、一夫多妻制の国へ行こう。
テ:バカ・・・。


テスがキスをする。
そして、ジュンスを見つめる。


テ:ねえ、ちゃんとキスをして。ちゃんと相手をしてよ。
ジ:もう・・・。(少しはにかんだように笑う)


ジュンスが熱っぽい目でテスを見つめて、キスをする。


テ:もっとちゃんと。
ジ:じゃあ・・・浮気をする前に全力を尽くして・・・。



ジュンスがもっとテスを引き寄せて、長いディープキスをする。


ジ:これでいい・・・?


すぐ目の前にいるテスをやさしく見つめる。
うっとりしているテスが目を開けて、ジュンスの目を見る。


テ:だめ・・・。
ジ:・・・。(見つめる)
テ:ジュンス・・・。これには終わりがないのよ。わかってる?
ジ:ふ~ん・・・。(見つめている)
テ:あなたが浮気をしないって言うまで続くの・・・。
ジ:そう? じゃあ本腰を入れて。今晩はこうしてずっとキスしてるんだ・・・。
テ:そうよ。唇が腫れちゃうまで・・・。
ジ:いいよ・・・そうしよう。(笑う)
テ:・・・ジュンスったら・・・。(笑う)


二人は見つめ合って、また長くて熱いキスをした・・・。






シンジャの旅立つ日。

ジュンスとテスがマンションへ迎えにいき、シンジャと共に空港へ向かった。


ジ:今日はドンヒョンは来るの?
シ:来ない・・・。もう会わない・・・。仕事仲間としては会うかもしれないけど・・・。
ジ:そう・・・。
シ:一昨日、ニューヨークの口座を確認したら、お金が入金されていたわ・・・。ちゃんとくれたわ・・・。
ジ:そうか・・・。もう始まっちゃったわけだ。
シ:うん。でも、おかげで助かった・・・ありがたいわ。
ジ:そうだね。

テ:今日は晴れててよかったあ。新しい門出にふさわしい空じゃない? もうすぐ梅雨に入っちゃうけど、今日はよかったわ。
ジ:この子が生まれる時は雨が降ってるね。
テ:そうね・・・。
シ:洗濯ものがたいへんね。

テ:そうなの。それで、お風呂場にも乾燥機を入れることにしたの。
シ:すごいじゃない。

ジ:洗濯乾燥機だと、子供のものが縮んじゃうでしょ?それで、風呂場に乾燥機を入れることにしたんだ。
シ:そう。でも、それは便利ね。赤ちゃんだけじゃなくてもあるといいわね。
テ:でしょ? 最初は子供部屋を干し場にしようと思ったけど、それだと、お母様が泊まりにくいでしょ?
シ:ふ~ん。コッキリってやさしいのね。私、コッキリにしておけばよかった!(笑う)
ジ:勘弁してよ。先輩。
シ:この人、年上はキライなのかしら?
テ:さあ?(笑う)


いよいよ、出発ロビーに立ち、シンジャが旅立つ。


シ:じゃあ、行ってくるわ。
ジ:気をつけてね。
シ:この次、会う時はお互い子持ちね。テス、頑張ってね!
テ:はい。写真、送ります。


ジュンスがシンジャを抱き、シンジャとテスも抱きあった。


シンジャは泣かずに笑顔を残していった。

テスはジュンスに寄りかかって涙を拭いた。



シンジャを見送って、後ろを振り返ったジュンスは、少し離れたところにドンヒョンを見つけた。


自分たちがいなかったら、ドンヒョンとシンジャは最後の別れの挨拶をしたのか・・・。

それとも、またよりが戻ったのか・・・。


たぶん、口座にお金が振り込まれた時点で、二人の関係はもう引き返せない状況になったのだろう。


シンジャはドンヒョンの姿を見つけたのだろうか。
それで泣かなかったのか・・・。


そんなことをいくら考えても仕方がない。

彼女はもう旅立ったのだ。


ジュンスと目が合ったドンヒョンはちょっと頭を下げて、くるりと後ろを向いて帰っていってしまった。


ドンヒョンの表情はよくわからない・・・。


でも、きっと長かった恋の終わりを見届けたかったに違いない。




それからしばらくして、テジョンがやってきた。

テジ:お久しぶり~。
テ:こんにちは、テジョンさん。
ジ:持ってきたの?
テジ:うん。お袋の荷物はどこへ入れておく?
テ:子供部屋に置いて。
テジ:わかった。


テジョンが、母親から預かったスーツケースを2階へ上げる。


テジ:よし! OK! これでいつでも来られるな。
テ:ありがと、テジョンさん。
ジ:おまえ、いつからニューヨークへ行くの?
テジ:来週から。今回は3ヶ月の予定なんだけど。
ジ:いいなあ。
テジ:うらやましい?(笑う)まあ、自由を謳歌してくるよ。ここに荷物を置いておけば、テスさんが退院したら、すぐにお袋も来られるだろうし。

ジ:そうだな・・・。ニューヨークに、カメラマンのシンジャ先輩も今行ってるんだ。
テジ:そうか・・・。ご馳走してもらおうっと。
ジ:・・・まあ、それもいいな。あっちは初めてだから、ちょっと助けてあげて。
テジ:わかった・・・。住所とかある? 連絡先。
ジ:また、おまえにメール送るよ。
テジ:わかった。
テ:よろしくね!

テジ:なんだよ、深刻なの? なんか。
ジ:どうして?
テジ:なんかありそうだな?
ジ:おまえはいつも鼻がいいな。まあ、ちょっと食事でもして、顔合わせして、あちらに何かあったら手伝ってあげてほしいんだよ。
テジ:わかった。オレはいつもの友達のところだから。オレがわからないことでも誰かわかると思うから。なんとか力になれると思うよ。
ジ:そうだな、よろしく。

テ:ねえ、暑かったでしょ? こっちでジュース飲んで。


テスがダイニングのほうから声をかける。


テジ:オレ、ビール飲みたい。
ジ:飲んでくか? そうだ。一緒に食事にでも行くか。壮行会を兼ねてさ。
テジ:いいねえ。そうだ、出産前祝いとか? テスさんの出産を応援する会とか。
テ:やだ~。でも楽しい!
ジ:じゃあ、行くか! ちょっと待ってて。仕事を片付けてくるから。
テジ:いいよ。


ジュンスがスタジオに下りていった。


テジ:テスさん、お袋をよろしく。いい人なんですけど。お嫁さんとはどうなのか、オレもわからないから。
テ:ええ。それはこっちも同じだから。お互い様。
テジ:2週間くらいの予定で来るみたいだから。
テ:わかったわ。
テジ:帰りは、荷物は送ってください。
テ:ジュンスがお母さんを送っていくと思うわ。
テジ:そうお? うん・・・。
テ:なあに?

テジ:オレもニューヨークへ行っちゃうから、フォローできないんだけど・・・。
テ:なんか問題あり?
テジ:アニキに言おうか迷ってるんだけど・・・。

テ:心配事?
テジ:それが・・・。
テ:どうしたの? 言って。

テジ:マリさんがやっと退院して、本格的に仕事を始めるんだって。
テ:え?

テジ:それって喜ばしいことでもあるけど・・・アニキと現場で会う可能性もあるでしょ?
テ:・・・・。


テスは、一瞬、頭の中が白くなって、言葉が返せず、テジョンを見つめた。






第7部へ続く



いよいよ出産が間近になってきたテス。

華やいだ気分の裏で、
あのマリが現場へ復帰する・・・。



2009/07/06 00:45
テーマ:【創】愛しい人2部 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「愛しい人2部」5





BGMはこちらで^^




BYJシアターです。

本日は、「愛しい人2部」第5部です。


あのジュンスとテスのその後の、あるエピソードです。

「愛しい人」がまだの方はそちらからどうぞ。

そのほうが、おもしろいです。


これはフィクションであり、ここに出てくる事故、補償、医療行為は実際とは異なります。
また、人物、団体は実在しません。




ではここより本編。

お楽しみください。






ペ・ヨンジュン
キム・へス   主演

「愛しい人2部」第5部



二人が
愛し合うことは
当たり前


私たちは
家族になる


家族

それは複雑で

それは温かい・・・




【第5章 選び取る生き方】


昼時になって、ジュンスがスタジオから2階へ上がっていくと、テスの姿が見えない。


ジ:テス?


どこへ行ったのかなと、部屋の中を見回して、寝室の扉を開けると、テスが横になっていた。


ジ:具合が悪いの?
テ:うん、ちょっとね。お腹がコチンコチンに張ってるの・・・。



ジュンスはベッドサイドに行き、お腹を触った。


ジ:ホントだ。大丈夫? (心配そうな顔をする) 
テ:うん、少し休めば大丈夫。さっき、クローゼットの中の整理をしてたの。ちょっと頑張りすぎたみたい。
ジ:そう。(笑った)
テ:何がおかしいの?
ジ:いや・・・。(笑っている)昨日のことがマズかったのかなと思って、一瞬ドキッとしたよ。
テ:え?・・・ああ、バカね・・・。(ちょっと嫌そうな顔をして笑う)そんなことはないわよ。



ジュンスがテスの横に寝転がった。そして、ちょっとテスの髪を撫でた。


ジ:この子が機嫌を損ねたのかと思ったよ。
テ:だったらどうする?(笑顔でジュンスを見る)
ジ:う~ん。(お腹を撫でて)パパも仲間に入れて。いいだろう。
テ:フフフ・・・。バカね。


ジュンスは、またテスの髪を撫でて、頬を撫で、顔を見つめた。


ジ:じゃあ、二人のご機嫌を取ろう。パパがなんか昼飯を作ってあげよう。
テ:あ~ん、パパ、素敵!
ジ:バカ。


ジュンスは笑って起き上がり、キッチンのほうへ行く。


テ:パパさん、ご飯があるの。ナムルもあるわよ。
ジ:そんなイージーな・・・。ええっと。キムチ・チャーハン、作るよ。いいよね?
テ:サンキュ! できたら教えて。
ジ:OK!




昼食の準備ができた頃には、テスのお腹も柔らかくなって、テスはダイニングテーブルに着く。


ジ:現金なお腹だな。(テーブルに皿を置きながら言う)
テ:私じゃないわよ。この子が現金なだけよ。きっと食い意地が張った子なのよね。(笑う)
ジ:そうだな。あんまり言うと聞こえるぞ。
テ:そうね。(お腹に向かって)ごめんね、パパもママも愛してるよ~。ママが代わりに食べてあげるからね~。(撫でる)
ジ:ふん。(笑う)

テ:納豆も少し入れたんだ。(チャーハンの中を見る)
ジ:そのほうが健康的だろ? (コップに水を注ぐ)
テ:サンキュ!(食べる)おいしい!
ジ:使えるパパさんでよかったね。
テ:(笑う)ホント!

ジ:(水を飲む)でも、さっきはちょっとヒヤッとしちゃったよ。
テ:そうお? ・・・ああ・・・あれね。「まだいいですよ」って、この間、先生が言ってたじゃない。
ジ:そうだよね・・・。

テ:でも、あの時も恥ずかしかった。(食べながら)夫が一緒に産婦人科に来て、そんな話を聞くって・・・前代未聞よ。たぶん。(水を飲む)
ジ:(食べながら話す)そうかなあ。でも、自然分娩の話はちゃんとわかったから、よかったよ、行って。出産までに問題がなければ、そのまま産むんだね?
テ:うん。いいでしょ?
ジ:うん。(顔を上げて、テスを見る)

テ:でも、ちょっと怖いの。(にこやかにジュンスを見る)
ジ:何が?
テ:だって、陣痛って初めてなのよ。きっとすごく痛いのよね。
ジ:そうだね・・・。頑張ってね・・・。その代わり、「ヒッヒッフ~」の講座には一緒に出てあげるから。
テ:サンキュ! でも、写真も取りたいんでしょ?
ジ:うん。分娩室で撮っていいって先生が言ってたからね。 だから、分娩室に入る前までね、一緒に「ヒッヒッフ~」は。
テ:わかった。でもさ・・・。(テスがスプーンをくわえてジュンスを見る)
ジ:なあに?
テ:あの先生、その写真、貸してくださいって言ってたよね。ちょうどカメラマンが来て、ラッキーって感じだったよね?
ジ:あ~あ。(頷く)
テ:どうする? 産科の待合の壁に貼られたら?
ジ:いいじゃない?
テ:ちょっと嫌なところの写真は勘弁してほしいなあ。
ジ:もちろん、それは断るよ! その時はちゃんと写真をセレクトするよ、もちろん!

テ:結構、先生が赤ちゃんを取り上げてニコっとしている写真がよかったりしてね。
ジ:それも撮ってあげよう。(笑う)でも、よかったじゃない? それをあげれば写真を撮らせてくれるんだから・・・よかったよ。
テ:そうね!




ジュンスがウーロン茶を入れた。


テ:サンキュ!
ジ:ところで、実は昨日・・・。
テ:昨日?
ジ:B出版のエレベーターで、ドンヒョンに会ったよ。
テ:それで? 言ったの? シンジャ先輩のこと?
ジ:う~ん。それが、あっちが「結婚おめでとう」って言うから、「ありがとうございます。子供がもうすぐ生まれます」って言ったら・・・。
テ:言ったら?
ジ:「オレも結婚するんだよ」って。
テ:え~! シンジャ先輩からぜんぜん聞いてないわよね?
ジ:・・・確認したら、違う人だって・・・。
テ:ええ! そんなあ・・・。
ジ:誰かの紹介で会った人みたい。
テ:そんなあ・・・。それで。
ジ:このまま、黙っているわけにはいかないから、オレがエレベーターを降りて、言ったんだ。「どうするんですか? シンジャ先輩のお腹の赤ちゃん」て。
テ:・・・どうするのかしら・・・。
ジ:どうするんだろうね・・・。
テ:う~ん・・・・。






ド:シンジャ!


外出から帰ったシンジャが、自分のマンションのエントランスに差しかかると、ドンヒョンが声をかけてきた。

4月の明るくなってきた夕暮れの中、ドンヒョンが真剣な眼差しで立っている。
そんな顔をされるようなことはシンジャには身に覚えがあるが・・・いったいドンヒョンの用事は何なのだろう。


シ:ドンヒョン、どうしたの? 怖い顔して。
ド:・・・。
シ:電話くれればよかったのに。何時になるかわからないじゃない。
ド:うん・・・まあな。
シ:どうしたのよ?
ド:おまえに話がある。
シ:私に?
ド:ああ。
シ:じゃあ、上がって。


シンジャの後をついて、ドンヒョンはマンションへ入っていった。


シンジャの様子は、いつもと変わったところはなかった。
全く変わらない笑顔で、いつもと同じように、ドンヒョンを部屋へ通した。


シ:何か飲む?
ド:うん。
シ:ビール?
ド:いや、お茶か水。
シ:へえ・・・それでいいの?


シンジャに差し迫った感じは一つもない。


でも、ドンヒョンにはわかる。
あのジュンスが口にした言葉だ。

確かに、オレはあいつを裏切るようなことをしたが、あいつは、人を引っ掛けるようなことをする人間ではない。



ジ:どうするんですか? 先生。シンジャ先輩のお腹の赤ちゃん・・・。父無し子にするんですか?

ジュンスが、エレベーターのドアが閉まる直前、ドンヒョンに一言残していった。



シ:ねえ、インスタントコーヒーでもいい?
ド:ああ。


シンジャがコーヒーを入れて、ソファのほうへ持ってきて、テーブルの上にマグカップを2つ置く。


シ:どうぞ。
ド:ありがとう。

シ:今日はどうしたの?
ド:うん・・・。
シ:なあに? 話って。・・・この間、実家へ帰ってたのね。
ド:なんで知ってるの?
シ:事務所に電話したから。
ド:そう・・・。
シ:結婚の挨拶?
ド:うん。

シ:彼女と一緒?
ド:・・・そう・・・。

シ:・・・そう。コーヒー冷めるとマズイわよ、インスタントだから。
ド:ああ。(一口飲む)おまえは何の用で電話してきたの?
シ:・・・うう~んと~。忘れた。大したことじゃないわ。

ド:・・・最近、変わったことはない?
シ:変わったこと? 別に。
ド:じゃあ・・・ここ一年くらいで変わることは?
シ:そうねえ・・・。ああ、私、実はニューヨークへ行くのよ。一年半くらい。
ド:・・・なぜ?
シ:今まで働き詰めできたじゃない? だから、ここで充電しようかと思って。
ド:いつから?
シ:・・・3週間後・・・。
ド:ずいぶん急だね。急に決めたの?
シ:そうでもないけど・・・。
ド:オレが結婚するから?
シ:・・・。
ド:それでか?
シ:・・・。・・・。違うわ。
ド:オレは関係ないのか?
シ:ええ。
ド:・・・。



ピンポ~ン!



シ:あ、ごめんなさい。宅配便だわ。この時間を指定したから。ちょっと待っててね。



シンジャはソファから立ち上がって、インターホンへ行き、「はい」と答えて玄関へ向かった。


ドンヒョンは、シンジャの急なニューヨーク行きの話の、本当の理由を聞き出したい。
シンジャが玄関で宅配便をもらっている間、ドンヒョンはソファの横のサイドテーブルの上にある雑誌に目をやった。


ドンヒョンがいつも撮っている婦人誌の下に「赤ちゃん」という文字が見えた。雑誌を退かすと、「初めての赤ちゃん5月号」があった。

やっぱり。

ジュンスの言ったことは本当だった。



玄関のドアが閉まる音がして、シンジャが戻ってきた。
ドンヒョンは、赤ちゃん誌の上に婦人誌を重ねた。


シ:ごめ~ん。ちょっとこれ、閉まってくるね。
ド:いいよ。


シンジャは寝室へ入った。
今、手にしているものは、通販で購入したマタニティ用のガードルである。
テスが勧めてくれたものだ。


テ:先輩。ここの通販のガードルがいいんですよ。蒸れなくて適度に締まって動きやすいの。これから暑くなると、あせもができやすくなるから、これはおススメです。



シンジャは、ちょっと自分のお腹を撫でる。大きな鏡で全身を見る。

今日はAラインのカットソーを着ているので、お腹が目立ちにくい。
5ヶ月に入って、最近急にお腹が大きくなってきたように思う。

鏡でお腹の感じを確認すると、シンジャはリビングへ向かった。



シ:ごめんね。待たせて。さあ、お話を聞くわ。(笑顔でソファに座る)
ド:なぜ、一年半も韓国を留守にする?
シ:だから、充電だってば。
ド:オレに言い忘れていることはないの?(睨むようにじっと見る)

シ:何かしら?
ド:・・・。
シ:ご結婚、おめでとうとか?
ド:オレは親に許しは得たけど・・・婚約式はまだなんだ。
シ:・・・・。

ド:・・・おまえの気持ちを聞きたい。
シ:だから・・・。・・・・。・・・。この間言った通りよ・・・。
ド:ホントに?
シ:ええ。
ド:オレに未練はないの?
シ:どうしてそんなことを言うの?(少し笑った顔になる)
ド:オレにはあるから・・・。(真面目な顔で言う)
シ:・・・。かわいそうよ、そんなこと言っちゃ、結婚する人に・・・。
ド:でも、今ならまだ間に合うだろ? 一生のことだもん。(じっと見つめている)
シ:・・・でも、私は・・・結婚する気はないわ。(見つめ返す)
ド:全く?
シ:・・・・。ええ。

ド:・・・・。(見つめ合う)
シ:・・・・。

ド:わかった。おまえはオレなんか愛してなかったんだね? (もう一度確認する)
シ:・・・。
ド:オレは、おまえにずっと引っかかっていたけど・・・おまえの中ではもう終わってたんだ。
シ:・・・。ごめんなさい。(下を向く)


ド:わかったよ。それなら、いいよ。それを確認したかったんだ。おまえを泣かせたくないからさ。
シ:・・・・。

ド:じゃあ、オレからの頼みも聞いてくれる?
シ:何?

ド:つまり・・・オレに内緒のことはしてほしくない。
シ:・・・何が? (ドンヒョンの顔を見る)

ド:つまり・・・オレを好きでもなくて・・・オレと結婚したくもないなら、勝手なことはしないでほしい。
シ:・・・何を?

ド:オレはこれから家庭を築く・・・その相手に対して、後で謝らなければならないことはしたくない。
シ:・・・・。
ド:だから、オレを愛してないなら・・・オレたちを後で困らせないで。
シ:・・・困らせるって?
ド:・・・そう・・・。(じっとシンジャを見つめる)


ド:一人で子供なんて産むな。
シ:・・・。
ド:どうして言わない?
シ:・・・。
ド:子供って女だけのものなのか?
シ:・・・。

ド:オレはおまえを信じていたよ。そういうことになったら、二人で一緒に育てるのが筋だろ?
シ:でも・・・。

ド:でも、おまえはそれがイヤなんだね・・・。それなら、そんな勝手なことはしないでください。
シ:ドンヒョン。(驚く)
ド:勝手なことはしないで。
シ:降ろせって言うの?

ド:なんでそんな大事なことを今まで言わなかったの? 一人で産みたいから? オレは邪魔なわけか?
シ:そうじゃないわ・・・。
ド:どうして? 子供だけがほしかったの?
シ:そうじゃないわ・・・。
ド:オレとは結婚したくない・・・一緒に育てるのはいや・・・でも、産みたいの?
シ:・・・。
ド:何を考えているの?
シ:何って・・・。

ド:もう二人だけの問題じゃないんだよ。
シ:・・・。
ド:オレが結婚したら・・・オレは家の外に子供を持つことになるんだよ。それがわかる?
シ:・・・。
ド:いったい何を考えているの?

シ:放っておいて。誰から聞いたの?
ド:放っておけると思うの?
シ:誰から聞いたの?
ド:なぜ?
シ:誰から?
ド:ジュンス。
シ:ジュンス?

ド:そう、ジュンス。おまえのことを心配して、教えてくれたんだ。確かに、オレとあいつの間はギクシャクしている・・・。それでも、あいつはオレに言ったんだ。おまえのことが心配なんだよ。

シ:・・・あなたには・・・迷惑をかけないわ・・・。一人で育てます。
ド:・・・。
シ:・・・そうしたいの。
ド:オレは全然いらないってことか?

シ:・・・ええ。
ド:・・・。


シンジャは自分でも不思議な成り行きだった。

こんなにドンヒョンを愛しているのに、こんなことしか口にできない。

自分でもよくわからないが、ドンヒョンは結婚する相手ではないように思う。


ついさっきまで、ドンヒョンにどのように告白して、彼の結婚を阻止しようか悩んでいたのに、実際にドンヒョンに会ってみると、まるで今まで夢の中にいたのが、急に目が覚めた思いだ。



今日のドンヒョンは、今までと違って、危なげな感じもなく、ただの普通の男に見える。

この人は、意外に平凡な人だった。


それのどこがいけないのか、よくわからないが、大学時代から一緒にカメラマンを夢見て過ごしてきた彼は、ちょっとファンタスティックで、たくさんの女に囲まれていて・・・それでいて、私を好きで・・・男ぶりもよくて、申し分のない恋人だった。


今、結婚を口にしている彼は、確かにハンサムでカッコよくて優秀なカメラマンであることには違いないが、なぜか、今日のドンヒョンは、ただの40男に見える。


もう、ちっともファンタスティックでもなんでもない・・・。


それは、彼のせいでもない・・・。ただ、自分がそんな幻想の中にいただけだ。


ドンヒョンは、真面目に私への愛を貫いてきたのだ。
私が振ったことで、その満たされない思いを解消すべく、他の女から女へ渡り歩いていたが、結局、普通の人である彼は普通の家庭に納まりたいのだ。

そういうことなのか・・・。


この間は、ドンヒョンから結婚の話を聞いて動揺し、彼を失ってしまうことへの喪失感に、ドンヒョンを手放すことの辛さで、胸が張り裂けそうだったのに。

今日、ここで改めて会う彼は、なぜか、あの時の彼とは違うように思える。


もう、彼は自分の男ではないのだ。


シンジャは醒めた目で、ドンヒョンを見つめた。



ドンヒョンも気がついた。

こんなに長い間心を引き摺られ、好きだった女は、ただの強情な女だった。

こちらの気持ちに答えるものがない。壁で包囲され、難攻不落だ。


今までの月日は何だったのだろう。

特に今日は彼女の性格が鼻につく。

今付き合っている女性はとても天真爛漫でやさしい。

ちょっと天然ボケもあるが、料理の先生である彼女は、自分の仕事に対してはとても厳しい目も持っているのに、そうした厳しさをドンヒョンには向けない。かわいい女だ。

そうだ。

彼女こそ、長年、自分の求めていた女だ・・・。



ドンヒョンは今、自分たちは完全に終わっていたことに気づいた。

子供ができたからといって、シンジャとの結婚を望むのは間違っていた。


きっと、シンジャは自分一人で育てていくのだろう。
彼女には、夫はいらなかったのだ。



ド:帰るよ。
シ:ドンヒョン・・・。


彼は立ち上がった。

ド:君の気持ちはわかった。
シ:ドンヒョン。

ド:今まで付き合ってくれてありがとう。これで本当にさよならだね。
シ:・・・。
ド:君の人生には、一切口出ししないよ。
シ:ドンヒョン・・・。
ド:そして・・・。オレは結婚するよ。
シ:・・・。


ド:皮肉だね。今、気がついたんだ。彼女を愛しているんだよ。さっきまでそれがよくわからなかった・・・。おまえのことで頭がいっぱいで、自分の本当の気持ちが見えてなかったよ。
シ:・・・。
ド:あまりにあっさり結婚を決めたんで、自分でもよくわからなかった。でも、今、気がついた。彼女が一番安らげる人だって・・・。実はもう、彼女を一番愛してるんだ・・・。


シ:ドンヒョン・・・。今度のことを許してくれる?
ド:・・・。
シ:絶対に迷惑をかけない・・・。頑張るわ・・・。あなたの奥さんに申し訳ないことはしない・・・。
ド:・・・。おまえは強情だよな・・・。

シ:すみません・・・。


ド:お元気で・・・。


ドンヒョンがシンジャに手を出した。
シンジャは、ドンヒョンの手を握る。


そして、二人はここで長かった関係に本当の終止符を打った。


ドンヒョンは最後に、シンジャに彼女の最大の我儘を許した。





ジュンスは、先週、母親に会ってから、母親の今後のことが気がかりだった。
もう一度、母親に会って、今後どうするのか聞きたかった。

年老いた母が、やくざ上がりの男の世話をしながら、場末のバーを切り盛りしていくと思うと、心が痛い。

確かに、あの人はそうやって生きてきた。これからもそうやって生きていくのだろう。
それが、あの人の人生だ。

そう考えても、何か母にしてあげられることはないのだろうかと思う。

先日、多少のお金は渡した。
それだって、きっと男のケガが完全に治る頃にはなくなっているだろう。



自分とテスは、生まれてくる子供を思い、部屋を改造し、名づけの本まで買って、戸籍に載る漢字の名前の画数まで検討している。
母だって、ジュンスが誕生するまでの時間をこうやって、父と過ごしたはずだ。

自分の誕生を喜び、母乳を与え、テスと同じように、小さな命を愛しんだにちがいない。




ジュンスは、病院へ電話を入れた。

聞いていた男の名前を告げて、看護している母を呼び出してもらった。

ナースステーションのカウンターに母親が呼び出されてくる。


母:もしもし、お電話変わりました。
ジ:お母さん、ジュンスです。
母:ジュンス・・・。どうしたの?
ジ:いつ退院ですか?
母:明後日の予定だけど・・・なあに?
ジ:うん・・・。もう一度会いたいと思って・・・。お母さんの今後のことも聞きたいし。
母:・・・そう・・・。
ジ:明日、病院のほうへ行ってもいいかな?
母:・・・そうね・・・。何時頃、来るの?
ジ:この間と同じ時間でいい?
母:わかったわ。・・・じゃあ、待ってるわね。
ジ:じゃあ、明日。



ジュンスが今、母にできることが何かわからない。

でも、これからは、母の男のためでなく、本当に母のために、力が必要な時に手を貸してあげたいと思う。
そのためにも、明日会って、もう一度、母と話がしたかった。



ナースステーションに、お礼を言って、ジュンスの母親は考え事をしながら歩いている。

前から小さな子の手を引きながら、若い夫婦が見舞いを終えて帰ってくる。
母はその姿をじっと眺めた。



病室に戻ると、担当医が訪れていた。

母:先生。
医:あ、奥さん。
母:どうしたんですか?
医:いや、明日、明後日って学会へ行っちゃうもんだから、最後の挨拶に来たんですよ。でも、元気になってよかったよ。
母:ありがとうございます。
医:ここまで治っていれば安心だね。

母:先生、退院の日、一日早めて明日でもいいですか?
医:急だなあ。
母:ええ、ちょっと他にも用ができたので、できれば明日がいいなと思って。
男:なんの用だよ。
母:後で話すわ。いかがですか?
医:それはいいけど・・・。
母:ではそうさせてください。お願いします。
医:じゃあ、そのように手続きしておくよ。午前中まででいいかな?
母:はい。ありがとうございます。



医師は病室を出ていった。


男:なんで急いでるんだよ。明後日でもいいじゃないか。入院費が足りないの?
母:そうじゃないの・・・。



母は窓際に立って、外を眺めた。
そして、振り返って言う。


母:今ね、電話がかかってきちゃったの。お金借りた人から。
男:それで?
母:やっぱり、念書書いてくれって。
男:どうするんだよ。
母:だから・・・逃げる。(男を睨みつける)
男:おまえ!
母:だって、返せないもん。こんな大金・・・。それに明日来て、あんたの顔も見たいって。
男:オレの顔?
母:うん。その人・・・ちょっと力のある人だから・・・顔が知れると怖いわ・・・。
男:・・・・。
母:私の店や住まいはバレてないから・・・。ここには、田舎へ帰るってうそついて、逃げよ。
男:じゃあ、これからの医者は?
母:それだけは、ここの先生に紹介状書いてもらう。もうここへ来たら危ないわ。
男:おいおい。今日は大丈夫なのかよ?(少し怯える)
母:たぶんね・・・。ソウルの中心街に住んでいる人だから、今日は来ないわ。明日、午後来るって。
男:おいおい・・・。参ったなあ。
母:これもあんたのためよ!(睨みつける)
男:わかったよ! 参ったな・・・。



母はまた窓の外を見る。
病院の中庭に、老人の車椅子を押す若い息子がいる。


自分にはそんな日は来ないだろう・・・。
あの子に、こんなややこしい人生を歩んでいる自分を押し付けるわけにはいかない。
それより、一人野垂れ死にしたほうがましだ。

あの子には新しい家族がいる。

何か書き残そうか・・・。
いや、言葉なんていらないだろう・・・。

私が消える・・・。それだけでいい。





翌日の夕方、テスはいつものように、買い物カゴを下げて、夕食の買い物から戻ってきた。


今日、ジュンスは母親とどんな話をしたのだろうか。
いつかこの家に、かわいい孫の顔を見に来るのだろうか。


2階へ上がり、部屋の電気をつける。

寝室の扉が開いている。

中を見ると、ジュンスが寝転んでいる。



テ:ジュンス。帰ってたの? 早かったわね。
ジ:うん・・・。(元気のなさそうな声)
テ:お母さんとはどんな話をしたの?

ジ:いなかったよ・・・。
テ:だって、約束したんでしょ?
ジ:うん・・・。でもいなかった。
テ:どうしたのかしら?
ジ:もう退院してたよ。午前中に・・・。
テ:え? それで、どこへ行っちゃったの?
ジ:わからない・・・。消えちゃった・・・。

テ:そんなあ・・・。
ジ:オレに何も言わずに消えちゃった・・・。
テ:ジュンス・・・・。



テスが寝室へ入り、ベッドで寝ているジュンスの脇に座る。
ジュンスは天井を見ている。

ジ:なんにも残さなかった。手紙も・・・言伝も・・・。


ジュンスの目がキラキラっと光った。


テ:そう・・・。これ以上、あなたに心配かけたくなかったのね・・・。
ジ:でも・・・。
テ:・・・あなたを大事に思っているのよ・・・。だから、あなたを守ったのよ。
ジ:・・・そんなことしなくてもよかったのに・・・。そんなこと考えなくても・・・。
テ:ジュンス・・・。あなたを本当に愛しているのね、お母さんは。お母さんはずっとあなたを愛していたのね。
ジ:テス・・・。


ジュンスはやりきれない顔をして、テスを見つめた。


ジ:来て・・・。
テ:うん・・・。


テスはジュンスの横に並んで寝転んだ。
ジュンスを腕枕して、抱き寄せ、頭を抱いた。


テ:きっとまた会えるわよ・・・。いつかまた、笑って会える日が来る・・・。それまで、一緒に待ちましょう・・・。二人で一緒に待ちましょう。


テスは、流れる涙をそのままに、やさしくジュンスの頭を抱き締めた。






第6部へ続く





何も告げずに去った母・・・。
一人、子供を産もうとするシンジャ・・・。


それぞれの決意のもとに、
また新しい生活が始まる。




2009/07/05 01:06
テーマ:【創】愛しい人2部 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「愛しい人2部」4





BGMはこちらで^^




BYJシアターです。


本日は、「愛しい人2部」第4部です。

あのジュンスとテスのその後の、あるエピソードです。

「愛しい人」がまだの方はそちらからどうぞ。

そのほうが、おもしろいです。



これはフィクションであり、ここに出てくる事故、補償、医療行為は実際とは異なります。
また、人物、団体は実在しません。




ではここより本編。

お楽しみください。






ペ・ヨンジュン
キム・へス   主演

「愛しい人2部」第4部



二人が
愛し合うことは
当たり前


私たちは
家族になる


家族

それは複雑で

それは温かい・・・






【第4章 母】



ジュンス、だめじゃない! また、パクさん家の木に登ったわね。お母ちゃま、今日も注意されちゃった!


振り返ると、母が暗い家の奥からこちらに向かって歩いてきた。

年の頃では、今のテスと同じくらい。暗闇から出てきた母は、華やかで美しい。
ジュンスをじっと睨みつけている。

6歳のジュンスは縁側でおやつを頬張っていた。


ジ:・・・。(食べながら母を見る)
母:もう、あなたったら、本当に危ないことばかりして!


母は手に持っているタオルで、ジュンスの口の周りにボロボロついているおやつを拭きとった。



ジ:大丈夫だよ! 落ちたりしないから!
母:・・・。そんなこと、言って! よそのお宅の木から落ちてごらんなさい。たいへんな事になるわ。木に登ったりしちゃいけないの。わかった?
ジ:わかったあ~。


母は、怒っているようで、少し笑顔がこぼれる。


母:この次、登ったら承知しないから!
ジ:いいよ! 今度はチャンさん家の木に登るから!
母:こら!


母がジュンスの顔を覗きこんだ。

母はパクさんの家の木に登ったことを注意しながらも、腕白で逞しい息子の成長を楽しんでいるような風情である。


ジュンスは腕白でいたずらっ子のところがあるくせに、いつも母と手を繋いで夕食の買い物に付き合った。
買い物カゴをジュンスが一生懸命持って歩く。

それを見て、八百屋のおばさんが、「いい子だね、エライね」と言って、氷で冷やした、まくわ瓜やスイカを一切れ、小さなジュンスにくれた。

帰り道では、よく二人で歌を歌ったものだった。



台所に一緒に入って、惣菜を作るのを見たり手伝ったりしているのが、ジュンスは大好きだった。

しかし、そうしていると、必ず、父親の母親である姑が覗きにやってくる。



姑:男の子がいったいここで何をやってるんだい?
ジ:お母ちゃまのお手伝い。
姑:さっさとこっちへおいで。男の子がこんな所へ入るものじゃない。
ジ:やだ! お母ちゃまのお手伝いをする!



嫌がるジュンスを姑が引っ張っていく。


時に父親からも、ジュンスと母親は並んで叱られた。



父:男の子を女みたいに育ててどうする!
母:この子はとても活発です。それでやさしくて・・・そんな2つのいい面を持った子なんですよ。



そんな母の言葉に父は耳を貸さなかった。


ある時、父はジュンスの目前で、母を殴った。
その理由はもう記憶のかなただが、ジュンスがいつまでも乳離れできないでいると大声で怒鳴ったことだけは覚えている。





ある日、ジュンスが外遊びから帰ってくると、母親が寝室の中でボストンバッグの中に衣類を詰めていた。



ジ:お母ちゃま、何してるの?
母:ああ、ジュンス。ちょっとね、お母ちゃまは、ご用でお出かけするの。いい子で待っていられるわね?
ジ:・・・。
母:どうしたの?
ジ:僕もいく!
母:・・・。・・・。大切なご用なの・・・。
ジ:・・・。(じっと母を見る)
母:ジュンス、こっちへおいで・・・。



母がジュンスを抱き締める。顔を見て頭を撫でる。



母:お父ちゃまとおばあちゃまと仲良くお留守番しててね。
ジ:でも・・・。それじゃあ、つまんない・・・。おばあちゃまじゃ、いやだ。
母:そんなこと言わないの・・・。
ジ:だってえ・・・。いつもイジワルばっかり言う!
母:・・・。(頬を撫でる)ジュンスが好きだから・・・いろいろ注意するのよ。
ジ:でも、やだ。
母:・・・ジュンス、いい子だから・・・。

ジ:じゃあ、お土産買ってきて!
母:・・・・。買えるかな・・・。ジュンスの好きなもの、売ってるかな・・・。大人の街へ行くからね。
ジ:大人しかいないところ?
母:そうなの・・・。だから、大人のものしかないわ、きっと。
ジ:ふ~ん・・・。
母:いい子にしててね。
ジ:うん・・・。でも、早く帰ってきてよ!
母:・・・。
ジ:早く帰ってこないと、おばあちゃまに叱られるよ。
母:そうね・・・。叱られないようにしないとね・・・。
ジ:うん!



母がジュンスを膝に抱く。
髪を撫でて、顔をじっと見る・・・。



母:何かお話、読んであげようか?
ジ:お出かけするんでしょ?
母:・・・。まだ、時間があるから・・・。ジュンスの好きなお話を読んだら、お出かけするわ。ご本を持ってらっしゃい。
ジ:うん!


ジュンスは急いで子供部屋へ行って、大好きな童話を持ってくる。
両親の部屋へ入ると、母が涙を拭いていた。



ジ:どうしたの?
母:うん? ちょっとね。お目目が痛いの。どれ、これ読むの? いっつも同じね。(微笑む)
ジ:そうだよ!


ジュンスはどんと母の膝に乗る。



母:じゃあ、読もうねえ。


母のやさしい声がジュンスの耳元に響き、ジュンスは童話の世界へ入っていく。





ああ!

ジュンスが、目を覚ました。
スタジオのデスクで転寝をしていた。

今日は午後から実母の男が入院している病院近くの喫茶店へ行く。
そこで、母親と会う。入院費の残りを母親に渡す約束をした。


そうだ。


ジュンスと一緒に暮らしていた頃の母は、今のテスと同じくらいの年頃で、今思い出すと、とても美しい人だった。
しばらく、顔を忘れていた。

母の顔にはベールがかけられ、思い出そうとしても、思い出せない時期があった。



この間会った母は、実年齢より老けて見え、とても厚化粧で・・・安物の化粧品のニオイがした。

テジョンの母親と、5歳も違わないのに・・・。
姿だけでなく、その香りも老けていて、安っぽかった。


あの再会の時は、自分と目鼻立ちがよく似ていたので、その人が母親だとわかったが、昔の顔をやはり思い出すことはできなかった。


今の夢に出てきた母は、とても生き生きとしていて美しかった。

そうだ。そういう人だった・・・。
とても華やかでやさしいニオイがして、明るくて、よくジュンスを膝に乗せ、お話を読んでくれた。


そんなこともすっかり忘れていた・・・。

声さえ、変わったように思う・・・。昔もあんなにハスキーな声だったのだろうか。
自分の中で記憶を塗り替えているのか・・・。



あの人の人生に何があったのか。

あんなにまで、人は変わってしまうものなのか・・・。


ジュンスは今の転寝で知らない間に涙を流していた。



自分でも思いがけない夢に、今まで忘れかけていた、母への思いに気がついた。


長い間、自分の中で封印されてきた思い・・・。
そして、たった6歳だった頃の出来事をこんなに鮮明に覚えていた自分・・・。


自分の心の中を覗いて、ジュンスは呆然としてしまった。






テスが買い物から帰ってきた。

テ:ただいま~。ジュンス! これ、持っていって。果物。あんまり大げさなものはいけないでしょ。
ジ:ああ・・・。(立ち上がって、テスの買ってきた果物の包みを取りにいく)
テ:その相手の人に気づかれちゃいけないんでしょ?
ジ:うん・・・そう言ってたけど。どんな相手かわからないけどね・・・。
テ:これだったら、お母さんがちょっと買い物してきたみたいでしょ?
ジ:ああ・・・。(果物の包みを見る)

テ:ジュンス・・・。大丈夫? やっぱり一人で行くの?(顔を覗きこむ)
ジ:うん・・・そうするよ。
テ:そうね・・・そのほうがゆっくり話せるものね・・・。でも、次は私も一緒に行くわ。
ジ:・・・。そうだね・・・。

ジュンスは寂しそうな笑顔を作った。
テスがジュンスの腕に軽く握った。


テ:お昼、早めに食べていくでしょう。
ジ:うん。
テ:支度ができたら呼ぶわ。
ジ:うん・・・。



テスが買い物カゴを下げて、2階へ上がっていく。

ジュンスは、果物をバッグへ入れ、中に入っている袋を取り出す。

袋の中の金額を確認するように、覗き込み、考える。

そして、また袋を閉まって、財布を取り出してポケットへ入れる。



階段の下から、テスに声をかける。


ジ:おい、テス!
テ:なあに~?
ジ:ちょっと、タバコ買ってくるから! 下のドア、鍵をかけていくから!
テ:わかったあ~。ジュンス~。タバコ、いい加減にやめてよ~。
ジ:ふん。わかったよ。行ってくるよ。
テ:うん。行ってらっしゃ~い!



ジュンスは急いで、スタジオを出ていった。


2階ではテスが楽しそうに鼻歌まじりに、お湯を沸かして、昼食の支度をしている。

ジュンスは通りを渡り、銀行のキャッシュディスペンサーに入っていった。






母親の男が入院している大学病院は郊外にあったので、ジュンスは早めの昼食を済ますと、早速出掛けることにした。


テ:なんて病院だっけ?
ジ:S大付属病院。
テ:ああ、あそこか・・・。遠いね。
ジ:うん。
テ:車、気をつけてね。近くの喫茶店?
ジ:うん。大きな大学病院だから、前に軽食屋とか喫茶店とかいくつかあるんだ。この間、会った店。
テ:そう。コーヒー店?
ジ:うん。なんで?

テ:別に。ちょっと聞いてみたかっただけ。
ジ:じゃあ、行ってくるよ。
テ:うん。車、気をつけてよ。
ジ:さっきも言ったよ。
テ:そうだっけ? ボケた?(笑う)
ジ:気をつけるから、大丈夫。(微笑む)
テ:うん。


ジュンスがバッグを肩にかけ、スタジオを出ていった。



テスは2階へ上がって、ベッドに横たわったが、しばらく考えてまた起きる。

リビングにあるPCの前へ行って、S大付属病院へのアクセスを見る。

電車の時間を確認して、書き留める。そして、クローゼットへ行き、着替える。


部屋の中の戸締りを確認して、下へ降り、また戸締りを確認する。

スタジオの鍵をかけ、足早に地下鉄の駅へ向かって、歩いていった。






シンジャは、今日は仕事が休みで、朝、定期検診へ行ってきた。
もう引返せないところまで来ている。


一人で産むと決めて、ついこの間までは、それが最良な生き方だと信じていたのに。

ドンヒョンの告白を聞いてから、心がゆらゆらと揺らめいている。


あれから、眠ることができない。





きっと今が勝負時なのだということはわかっている。


ドンヒョンはまだ結婚していない。
私は彼を愛している。
彼も私をずっと好きだった。


子供を一人で産むと決めた時、自分はドンヒョンに対して高をくくっていた。
それがあの告白で気がついた。


ドンヒョンは浮き草のように女から女へ渡って、結婚して、他の女のものになることはないと思い込んでいたこと・・・。



そして、子供が大きくなって道に迷った時、父親と再会する。

これがあなたの子・・・こんなに大きくなって・・・この子が悩んでいるの・・・女の私だけじゃだめ・・・父親のあなたが相談にのってあげて・・・。


そんな甘い夢を見ていた・・・つまり、私はドンヒョンに対して絶対の自信があって、最後の最後に、最後の女であることを彼に知らしめる生き方・・・。


バカだった・・・甘かった・・・本気のシングルマザーに比べて甘かった・・・。


そんな幻想なんて、男の現実は簡単に打ち砕いてしまう。

でも、それはドンヒョンがいけないのではない・・・。彼は正直に自分の気持ちを語った。



大学を出る時に、私は彼を手ひどく振った。

あなたがいなくても生きられるって・・・。私は仕事をしたいのって・・・。

そして、今回も彼が「いいよね?」って、私に最後のチャンスをくれたのに、簡単にOKした。


バカね。
私は何のためにこんなことを繰り返すのかしら・・・。
つまらないプライドのため?

あなたのほうが私を愛しているでしょ?ってドンヒョンに知らしめるため?
そんなことをしてどうするのよ・・・。

結局、自分が幸せになれないだけじゃない・・・。


ドンヒョンは一歩踏み出した。
まだ間に合う?

私って、なんて度胸がないの!!





ド:じゃあ、明後日まで実家に帰るから・・・。まあ、特に問題ないよね?


スタジオの事務の女性がスケジュール表を見渡す。


事:そうですね。今、問題になってることはありませんし・・・私のほうも特にありません。カメラマンのユンソンさんの仕事が入ってるだけですから、先生はゆっくり休んでください。
ド:OK! じゃあなんかあったら、携帯に電話かメールして。
事:わかりました。先生? なんかいいことですか?
ド:なんで?
事:だってえ、実家になんか帰ったことなかったのに~。
ド:まあ、そんな気分の時もあるさ。(笑う)
事:へえ・・・。(笑う)楽しみにしています!
ド:何言ってるんだか。じゃあ、お先に!
事:失礼しま~す!




ドンヒョンはビルの外へ出た。
一歩踏み出した・・・。



意外と簡単に決めてしまったが、結婚というものはそういうものかもしれない・・・。
これが縁というものかもしれないな。



ドンヒョンが実家へ帰るのは、何年ぶりだろう・・・。
両親に結婚の承諾を得るために、今日、実家へ向かう。

こんな年になってやっと身を固める自分を両親はどう思うのか。

きっと喜んでくれるにちがいない。


ドンヒョンは澄み切った空のように、晴れ晴れした気分で車に乗り込んだ。






ドンヒョンの事務所で電話が鳴った。

事:もしもし、「ドンヒョン・フォト・スタジオ」です。あ、シンジャ先生。こんにちは!
シ:ドンヒョンは?
事:今、お帰りになって・・・。
シ:戻らないの?
事:ええ。今日はご実家へ向かわれたんです・・・先生、携帯にお電話したほうが確実ですよ。
シ:あ、そう・・・。戻りはいつ?
事:明後日までお休みを取られているので・・・月曜日にはいらっしゃいます。
シ:そう・・・じゃあ、その時でいいわ・・・急ぎじゃないから・・・。
事:そうですか? では失礼します!




ドンヒョンは実家へ帰った・・・。
事は動き出したのね・・・。

今、スタジオを出たばかりじゃない・・・まだソウルよ。

間に合うわよ・・・携帯に電話すれば・・・。



シンジャは携帯でドンヒョンの番号を開くが、指が押せない。

もし今、その彼女と一緒に実家へ向かっていたら、バカみたいじゃない・・・。

シンジャは携帯を閉じる。


そう、わかっている・・・。

バカなのは私・・・。

意気地なしも私・・・。

勇気がないのも私・・・。





ジュンスは車を広い大学病院の敷地内の駐車場へ入れると、溜息をついた。

まだ、時間がある。
車から出てタバコを吸う。


あの人に会ってどんな話をしたらいいのか・・・。


空を見上げると、晴れ渡って、一点の雲もない。
こんな気持ちで二人が向かい合えたら・・・。


ジュンスはタバコの火を消した。




テスは郊外へ行く特急に乗っている。

ジュンスと母親が落ち合う場所もわからないのに、ここまで来ずにはいられなかった。


ジュンスはどんな気持ちで母親に会うのだろう・・・。

この間は、24年ぶりに母親を見て、少し落胆して・・・話もろくにできずに帰ってきてしまったらしい。


彼の気持ちは少し解れたかしら・・・。





昨夜は眠れなかったのか、ジュンスは何度も寝返りを繰り返していた。


今のテスはお腹が大きいので、ジュンスをギュッと自分のほうへ引き寄せるようには抱き締めることができない。

寝ているジュンスの頭を胸のほうへ抱え込むように引き寄せて抱いた。

しばらくして、ジュンスは寝息を立てて眠ったように見えたが、本当に安心して寝ることができたのか・・・。



あと、30分で着く。

行き先はわからないけど・・・まずは行ってみる。

病院の前の喫茶店をいくつか当たればわかるはずだ。





ジュンスが先日会った喫茶店の窓際の席に座っていると、
病院のほうから、通りを渡って、母親がやってきた。

先日に比べ、化粧が薄いように見える。

母親がジュンスを見つけ、にこやかに入ってきた。



母:待たせたわね。
ジ:そんなでもないよ。
母:あの人のお昼を片付けて、ちょっと買い物へ行くって言って出てきたの。
ジ:そう・・・。まず忘れないうちに、これを渡しておくよ。


ジュンスが入院費の残りを渡す。



母:ありがとう・・・恩に着ます・・・。



母がテーブルに置かれた封筒を胸元で持ち、恭しく頭を下げた。
ジュンスは胸が痛くなったが、テスからの果物の袋も出した。




ジ:あと、果物。よかったら食べて。
母:ありがとう・・・。いろいろ悪いわね・・・。迷惑かけるわね・・・。


母が果物に目を落として、じっと見ている。


先日より化粧が薄く見えるのは、口紅のせいだ。
今日の化粧はとても品よくまとまっている。



ジ:口紅変えたの?
母:え? あ、そう・・・。ナースさんにね、「私のお化粧、濃い?」って聞いたら、「口紅を薄くすると今風になりますよ」って教えてくれたの。濃い色は、今の人は使わないのね・・・。そうか・・・ジュンスはカメラマンだから、女の人の化粧もよく見ているのね。
ジ:・・・ごめん・・・。
母:いいのよ、気がついてくれて、うれしいわ・・・。

ジ:もう、大分よくなったの?
母:ええ、この間、抜糸して来週後半には退院できるという話よ・・・。
ジ:そう・・・よかったね。
母:うん・・・。ホントに、ジュンスには迷惑かけたわ・・・。あなたに頼るなんて・・・最低の親だけど・・・もう他に手立てがなくて。
ジ:うん・・・。仕方ないよ・・・。その人とは、いつからなの?
母:もう6年かな・・・。私より10歳も若いんだけど・・・。うちのお客だったのよ、最初。それが上がり込んじゃって・・・6年。

ジ:仕事は?
母:うううん・・・。ああ、でも、店の掃除とか仕方なくやってる・・・。仕事がないから。
ジ:・・・。探せば、なんかあるでしょ? 土方だってなんだって・・・。
母:力仕事ができないの・・・。やくざだったから・・・。そういう力仕事ができないのよ。
ジ:・・・。でも・・・足は洗ったんでしょ?
母:うん・・・。私、最初、知らなかったんだけど・・・務所帰りだったのよ、あの人・・・。
ジ:・・・・。・・・・。(言葉がない)
母:兄貴の代わりに入ったって言ってたけど・・・。あまりよくわからない・・・。
ジ:わからないって・・・。へんなことにはならないの!(驚く)
母:たぶん・・・ホントは弱虫で、気のいい人よ・・・。この間、抜糸する時にね。若い先生に、あ、ジュンスくらいの年頃の先生なの、ここの主治医が。その先生に、「痛い」って言ったら、「彫り物のほうがよっぽど痛かったでしょ?」って言われちゃったのよ。(笑う)
ジ:そう・・・。(笑えない)
母:そういえば・・・あなた、足を少し引き摺るのね・・・。(心配そうに言う)
ジ:ああ、これ、去年交通事故に遭ってね・・・。
母:そうだったの・・・。たいへんだったわね。まだ痛いの?
ジ:たまにね。一年過ぎると、痛みが取れるって。だから・・・そうしたら、足は引き摺らなくなると思う・・・。
母:そう・・・。


ジ:ところで、聞きたいんだ。
母:ええ、何を?
ジ:家を出た時の「人」はどうしたの?
母:・・・あの人は・・・。
ジ:どうしたの?
母:半年一緒にいて、別れたわ。

ジ:なぜ? その人のために・・・オレを捨てたんでしょ?(睨むようにじっと見つめる)
母:・・・。(言葉が見つからない)
ジ:そんな簡単にその男と別れたの? 家庭まで捨てたのに・・・。
母:・・・ごめんなさい・・・。
ジ:その男より・・・オレたちのほうが・・・軽かったってわけなの?

母:・・・。ごめんなさい・・・。ジュンス・・・。
ジ:何かあるなら言ってよ。もう親父も死んだし、おばあちゃんも死んだよ・・・。
母:・・・そうだったの・・・。
ジ:どうして家を出たの?・・・あなたには・・・何が一番大切だったの?



母親はしばらく沈黙した。

そして、ジュンスの顔を見て語り出した。



母:あなたに苦労をかけてしまったことは、謝ります・・・。あなたを不幸にしてしまったこと、本当にごめんなさい・・・。そして、成功しているあなたの前へ生き恥をさらけ出すように、現れた私をあなたがどう思っているかと思うと、とても辛いの・・・。でも、そうしなければならなかったのは事実です。首を括るか、息子に恥をさらすか・・・私は恥を選びました・・・。だって、こんなことで、終わってしまいたくなかったから・・・。
ジ:・・・。
母:それでも、あなたが会ってくれたこと。この間は、言葉は少なかったけど、あなたが封筒を差し出してくれた時、私、あなたにすがって泣きたいくらいだった・・・。
ジ:・・・。
母:そして、今日、約束通りに来てくれて、とてもうれしい・・・。あなたの大人になった姿をこの目で見られて、こうして一緒にいられるなんて夢みたい・・・。


ジ:なぜ、家を出たの? 幸せじゃなかったの?
母:・・・・。
ジ:おばあちゃんとはうまくいってなかったと思ったけど・・・。親父ともうまくいってなかったの?

母:私・・・。学校を出て・・・お父さんとお見合いして結婚したの。少し神経質だけど、お父さんはいい人だった・・・。でも、あなたが生まれてから、家の中が変わっていった・・・。跡取りのあなたを立派な男に仕上げることが責務で・・・おばあちゃんからは、毎日のように、お父さんをどうやって立派に育てたか聞かされたわ・・・。そんな重圧があって・・・。でも、あなたがかわいかった・・・。だけど、お父さんはいつもおばあちゃんの味方をして、とうとう、あなたの前でも手をあげるようになってしまって・・・。今思うと、お父さんだって、あのおばあちゃんの重圧に屈して辛かったのよね。それで、私を殴った。でも、あの頃は自分が苦しくて、そのことがわからなかった・・・。
ジ:それで、家庭を捨てたの?


母:ある日・・・おじいちゃんのお墓を掃除に行ったら、近くのお墓の前に、あの人が座っていた。お母さんを亡くして辛いって・・・泣いてて・・・。それで、ちょっと話をして・・・別れたの。祥月命日にお墓を掃除に行くとあの人がいた・・・。私も自分の話をして・・・二人、世間に捨てられたような気持ちだったのが、心があったかくなって・・・気がついたら、あの人の部屋で私はくつろぐことを覚えて・・・。
ジ:それで、面倒臭い現実を捨てたわけだ・・・。
母:・・・・。そうね。


ジ:それで、その人と一瞬でも幸せになれたの?
母:ほんの一カ月だけ、幸せだったのは。実際暮らしてみると、彼はまだ25歳だったから、暮らしていけなくて・・・。結局ケンカばかりして・・・だめになったわ・・・。それからは生活のために水商売に入って、どんどん落ちて・・・。

ジ:実家には行かなかったの? 助けてもらえばよかった。
母:実家も勘当されちゃったのよ・・・。おばあちゃんが怒鳴り込んできたから・・・。

母:それでもなんとか生きてきたわ・・・。なんにも知らないお嬢さんから、世間知らずの奥さんになって・・・一歩間違えて、こんなになっちゃった・・・。
ジ:これからも、今の人と生きていくわけね?
母:きっとね・・・。10年後はわからないけど・・・。
ジ:そう・・・。子供はオレの他にいないの?
母:うん・・・。あなたを産む時、あなたのへその緒が首に絡まってることがわかったから、帝王切開で産んだの・・・。でも、やぶ医者で、もう産めない体になっちゃった・・・。(寂しく笑う)



テスと同じ道を辿ったのに・・・。なんという落差だ・・・。



母:ジュンス、ごめんなさい・・・。あなたを不幸にしたこと、謝って済むことじゃないけど・・・ごめんなさい・・・。
ジ:オレは不幸じゃなかったよ。次に来たお袋はとてもやさしくて、自分の子供よりオレをかわいがるような人だったからね・・・。明るくて、親父やおばあちゃんの言うことも笑って聞ける人だよ。
母:そうだったの・・・。よかった・・・。



自分の性格はこのお袋によく似ているのかもしれない・・・。
うまく立ち回れないところなんて、そっくりだ。



母:もうそろそろ行かなくちゃ。あの人に気づかれるとマズイわ。あなたのことは言ってないの・・・。あなたをカモにされたくないから・・・。
ジ:そうだったの・・・。
母:もう行くわね。
ジ:送るよ、病院の入り口まで。


ジュンスと母親は並んで、喫茶店を出た。



テスはやっと病院の前についたが、どこの店へ入ったらいいのか、迷っていた。


すると、一つの喫茶店から、ジュンスが小柄で痩せた女性と出てきた。

テスは見えないように、木陰に隠れながら二人の様子を見る。


その人は、聞いていた年頃より老けていたが、ジュンスに面持ちがよく似ていて、ジュンスが母親似だということがわかった。


通りを渡って、病院に向かいながら、母は空を見た。



母:今日は、晴れていて、気持ちがいいわねえ。こんな空の下であなたに会えて、私の人生も満更でもなかったような気にさせてくれるわ・・・。


ジ:実は、今度子供が生まれるんだ・・・。
母:そう?(喜んでジュンスを見る)そうなの? そう・・・結婚してたのね・・・。うん・・・・。(幸せそうに顔を見る)
ジ:その果物は妻が買ってきたんだ・・・。
母:そう・・・そうだったの・・・。



母は、幸せそうに遠くを見た。



母:子供はいいわ・・・。家の中が明るくなって・・・活気があって・・・夢があって・・・愛にあふれていて・・・。子供は楽しいわよ! かわいいわよお・・・。


そう言って、ジュンスを見上げた。そして、はっとする。


母:ごめんなさい! それなのに、それなのに、あなたを捨ててしまって・・・。私といるより、置いてきたほうが、幸せになれると思ったのよ。(涙が出てしまう)
ジ:・・・。不幸じゃなかったよ・・・。オレは・・・。幸せだったよ・・・。ただ、ちょっと・・・寂しかっただけだよ・・・・。


ジュンスと母親は見つめ合った。



母:ここでいいわ・・・。今回のことは一生恩に着ます。(じっと見る)
ジ:・・・。いいんだよ。このくらいのことはさせて・・・。
母:あなたに会えて、うれしかったわ。


ジ:お母さん・・・。これも、持っていって。これはお母さんだけのために使って・・・。



ジュンスがもう一つの封筒を差し出す。



母:・・・。いけないわ、こんな・・・。もう十分もらったわ・・・。
ジ:これはお母さんにあげたいんだ。


母親は差し出された封筒をじっと見つめていたが、ゆっくりと手を伸ばし、受け取った。




ジュンスは母親と別れ、ぐったりとした気分で、駐車場の自分の車の前へ来た。

ちょっと溜息をついて、ドアのキーを開ける。


テ:ジュンス!


声のするほうを見ると、テスが歩いてくる。


ジ:どうしたの?
テ:家で待っていられなかったの・・・。


テスがジュンスの前に立った。



テ:大丈夫だった? ちゃんと話ができた?


ジュンスは、じっとテスを見つめていたが、テスを引き寄せて抱き締めた。



テ:ジュンス・・・?



ジュンスは堪えていた涙が次から次へとあふれ出てきた。


母と、最後、打ち解けて話をして、母がジュンスを愛していてくれたことがわかったのに・・・。



お金の封筒を差し出すことはできても、母親を抱き締めてやれなかった自分がいた。


様々な思いがあふれて、テスの顔を見たら、全てをさらけ出して泣きたい衝動にかられた。


テスもジュンスを抱き締めて、ジュンスの思いに涙した。






週が開けて火曜日。

B出版社へ打ち合わせにやってきたジュンスは、高層部行きのエレベーターに乗り込む。

最近の出版社は建物が高層になってきて、ここも20階建てだ。
下の部分には、テナントが入っており、出版社本体は10階からだ。


ジュンスは14階を押す。


いったんドアが閉まりかけたが、また開いて男が入ってきた。



ド:すみません。(中の人を見ずに乗り込む)
ジ:・・・先生。
ド:ジュンス。(17階を押して、奥へ入る)元気だったか?
ジ:ええ・・・。(少し睨みつける)
ド:体もすっかりよくなったんだな・・・。(ジュンスの様子を見る)・・・よかった。
ジ:ありがとうございます。
ド:・・・結婚したんだよな。
ジ:ええ。
ド:おめでとう・・・。
ジ:もうすぐ子供が生まれます。(ぶっきら棒に言う)
ド:・・・そうか・・・。それはよかったな・・・うん・・・。



二人は、ドアの上を見上げて、エレベーターの行方を見つめている。

1~9階まではこのエレベーターを止まらず直行する。



ド:(ぽつんと)・・・オレも結婚するんだ。
ジ:(意外そうに)そうですか・・・。(確認する)シンジャ先輩?
ド:いや・・・違う・・・。知り合いの紹介・・・。まあ、年貢の納め時というやつだ。
ジ:・・・そうですか・・・。



そう言って、二人はまた黙りこんだ。

14階に着いた。



ジ:ではお先に。(軽く頭を下げる)
ド:またな・・・。



ジュンスはスッとエレベーターを降りるが、ふっと立ち止まって、エレベーターの前のボタンを押す。

閉まりかけた、エレベーターのドアがまた開いた。


ジュンスが、エレベーターの奥の壁にもたれているドンヒョンをじっと見つめた。



ド:どうした?
ジ:どうするんですか? 先生。シンジャ先輩のお腹の赤ちゃん・・・。父無し子にするんですか?
ド:え?


ジュンスが手を放し、エレベーターのドアがゆっくり閉まった。


中に、少し顔を歪ませて、ジュンスを見つめるドンヒョンがいた。





第5部へ続く





人と人の相性もある・・・。


しかし、

人生で
何を選び取るかは

神はその個人に任せている・・・。




2009/07/04 01:44
テーマ:【創】愛しい人2部 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「愛しい人2部」3





BGMはこちらで^^



BYJシアターです。

本日は、「愛しい人2部」第3部です。

あのジュンスとテスのその後の、あるエピソードです。

「愛しい人」がまだの方はそちらからどうぞ。

そのほうが、おもしろいです。


第3部はちょうど中間点で重苦しい雰囲気ですが、
どうぞ、お付き合いください。



これはフィクションであり、ここに出てくる事故、補償、医療行為は実際とは異なります。
また、人物、団体は実在しません。





ではここより本編。

お楽しみください。





ペ・ヨンジュン
キム・へス   主演

「愛しい人2部」第3部



二人が
愛し合うことは
当たり前


私たちは
家族になる


家族

それは複雑で

それは温かい・・・






【第3章 それぞれの思い】


テスは、ジュンスが2階へ上がってくるのをじっと待っていたが、ジュンスはなかなか上へ上がってこなかった。


階段を静かに下りて、スタジオの様子を見てみると、ジュンスが今日の撮影のフィルムの整理をしている。

一人で仕事をするようになってからは、仕事の後片付けも手間がかかる。

テスはまた気づかれないように、静かに2階へ上がり、洗面所へ行く。
トイレのあとに、歯を磨いて、洗面所の扉を開けると、ダイニングテーブルの横にジュンスが立っていて、預金通帳を開いて、じっと中を見ている。

テスは行き場に困って、ドアの影からジュンスの様子を伺った。

しばらく、通帳を見ていたジュンスだが、キッチンのほうへ移動して、冷蔵庫を開けようとしている。

テスは、また静かに足音を忍ばせて、ジュンスに気づかれないように、寝室に入った。
そして、ベッドへ潜りこむ。心臓がドキドキしている・・・。


あ~、気づかれなかった!


でも。
考えてみれば、テスが隠れることはなくて、堂々とジュンスに詰問をすればいいのに、なぜかさっきのジュンスを見たら、逆に自分が睨まれそうで・・・逃げ回ってしまった。



全く変じゃない!



ジュンスは用意してあったお惣菜を摘んで、何か缶を開けて飲んでいる。



一人でビールを飲んでいるんだわ・・・。
今、行くかな・・・。



テスが起き上がろうとすると、ジュンスが歩いてきた。
寝室を開ける。



ジ:テス?


どうしよう・・・。


ジ:テス? 寝ちゃった?



ジュンスが去っていく。



バカね! 
今だったのに! 
ジュンスだって、あれがあそこに置いてあったんだから、私が何を言いたいか、わかってるじゃない!



ジュンスが洗面所へ入っていく。
シャワーの音がする。


テスは起き出して、テーブルの上を見ると、通帳が置いてある。


ここで、座って待つかな・・・。


ジュンスが洗面所から出てくる音がした。

テスはまた慌ててベッドへ逃げ込んだ。

しばらくして、ジュンスが寝室へ入ってきた。

シャワーを浴びて、ちょっと湿った感じのジュンスが隣に寝た。
シャンプーのニオイがした。


ジ:う・うん。


咳払いをする。

テスは固まったように、背中を向けて寝ている。


ジ:テス?


ジュンスが動いて、テスの顔を覗き込んだ。テスはスースーと寝息を立てて寝ている。
テスの顔の近くへ顔を寄せると、テスの口元から、磨きたてのペパーミントの香りがした・・・。
テスの頬をやさしく撫でてじっと顔を覗き込んでいたが、テスは気持ちよさそうに寝ていて起きる気配がない。




妊娠してから、テスはしょっちゅう歯を磨いている。


ジ:最近のおまえって、食べてるか歯を磨いているかだな。(笑う)
テ:なんか口の中がネバネバするの。妊娠中ってちょっといつもと違うのよね。
ジ:へえ。
テ:爽やかなお口とキスしたいでしょ?(微笑む)
ジ:バカ・・・。


ジュンスが呆れてテスを見て笑った。





テスはついさっきまで起きて、自分を待っていたのだろう・・・。


ジュンスがじっとテスを見下ろしている。


あんなにジュンスを待っていたのに、最後に寝たふりをしたまま、テスは本当に寝てしまった。
ジュンスは、いつものようにテスの頭の下に腕を通して、後ろからテスを抱いて、眠りについた。






翌朝、テスが目覚めると、もうコーヒーの香りがしていて、ジュンスは起きているようだ。


昨日は失敗した。
あんなに待っていたのに、テスは自分で怖気づいてジュンスに真相を聞くことができなかった。
それに、横になった途端、睡魔に襲われて寝てしまった。


寝室の引き戸を開けて、寝室からダイニングを見る。
ジュンスが新聞を読んでいた。


テ:おはよう・・・。
ジ:ああ、おはよう。


ジュンスがじっとテスを見ている。


テ:歯を磨いてくるわ。
ジ:うん。


テスは洗面所へ向かった。





ダイニングテーブルにテスが着くと、ジュンスが口を開いた。



ジ:昨日はずっと待ってくれてたの?
テ:うん。
ジ:そう・・・。お金のこと、聞きたいの?
テ:・・・うん・・・。そう・・・。何に使ったの?
ジ:・・・。
テ:今まで何でも話し合ってきたのに。なんで何も言わないで、お金を下ろしたの? 少額じゃないんだもん。なんか必要なことがあったんでしょ?
ジ:・・・。
テ:・・・正直に、話してほしいの。
ジ:・・・ごめん・・・。おまえに話そうと思いながら・・・話せなかった・・・。


テ:なんで? 私には言いづらいの?
ジ:うん・・・。(俯く)
テ:どんなこと?


ジュンスが大きく息を吐いた。


ジ:実はね、オレを捨てた母親から電話があったんだ。
テ:6歳の時に家を出たお母さんね。
ジ:うん・・・。オレの写真集を買って・・・それでここがわかって、電話してきたんだ。
テ:そう・・・。元気だったの?
ジ:ああ・・・あの人はね。
テ:何か問題があるの?

ジ:うん・・・。お金を貸してほしいって言うんだ。
テ:お母さんが?
ジ:そう・・・。オレもどうしようか、迷ったんだけど、結局、500万ウォン、渡したよ・・・。


テ:なぜ必要なんですって? 今、どんな暮らしをしているの?
ジ:場末の酒場のママだよ。悲しいほどボロボロだった・・・。顔はね、オレによく似ていて、一目で、ああ、お袋かってわかったけど・・・とても、惨めな気持ちになったよ。
テ:・・・。
ジ:テジョンのお袋と5歳も違わないのに・・・とても老けて見えて、10歳以上年上みたいで・・・。
テ:・・・それで?


ジ:あの人の男が、今、一緒にいる男が、客のケンカを止めようとして、腹を刺されたんだ。
テ:ええ!(驚く)それで?
ジ:それで、その入院費用がほしくて・・・。健康保険も入ってないんだ・・・。
テ:たいへんなことね・・・。
ジ:オレの写真集に載っているスタジオの名前を思い出して、調べて電話してきたんだよ・・・。
テ:・・・そう・・・頼れる人がジュンスしかいなかったのね?
ジ:オレに会いたかったわけじゃないんだよ。・・・お金がほしかっただけなんだ。



ジュンスは複雑な顔をして、やりきれなそうに、コーヒーカップを見つめている。



テ:・・・でもホントは会いたかったのよ。いつも気になっていて、写真集を買ったりしてたんじゃないの? でも、きっとあなたには申し訳なくて会えなくて・・・。それで・・・。
ジ:それで、今回は切羽詰って会いにきたわけだ。

テ:他になんか話したの?
ジ:うううん、あんまり・・・。
テ:そう・・・。

ジ:もう一度会うんだ。残りの入院費が必要だから。
テ:そう。お母さんも急で何を話したらいいかわからなかったのね。
ジ:・・・。(テスをじっと見る)
テ:きっと、そうよ。次に会う時はちゃんと話ができるわよ。


テ:ジュンス、ちっとも話せない話じゃないじゃない。
ジ:・・・でも、おまえに会わせたくないと思ったよ。
テ:なんで?
ジ:男から男へ渡って・・・スレッカラシみたいな感じの人だったよ・・・。

テ:ジュンス・・・見た目じゃわからないわ・・・。本当は何を考えているのか。
ジ:(テスを見る)そうだね。



あの人は、家を出てから・・・オレのために泣いたことがあったのだろうか。
テスがユニを不憫に思って泣いたように、置いてきた子供のために泣いたことがあったのだろうか。



テ:いつ、会うの?
ジ:今度の金曜日。
テ:あと4日ね。今、病院?
ジ:そう。
テ:私も行く?
ジ:いいよ・・・。
テ:なぜ?
ジ:・・・まだ、オレの中で、あの人を信じきれてないから。
テ:そうなの?
ジ:・・・うん・・・。


二人は、ダイニングテーブルを挟んで、溜息をついて、俯いた。






ソウル郊外、大学病院の入院病棟の中。
6人部屋の一番奥のベッドで、男は、お腹を縫った糸を医者に抜いてもらっている。


男:痛!
医:大丈夫だよ、このくらい。彫り物のほうがずっと痛かったんじゃないの? もうすぐ終わるよ。
男:先生。もっとやさしくやってよお。
医:やさしくやったよ。はい、おしまい。


新しいガーゼを当て、包帯を巻く。


医:治ってきてるよ。また、中から糸が出てきたら、引っ張って抜いちゃってね。大丈夫だから。
男:先生、荒っぽいなあ。
医:(笑う)男のくせに、意気地がないなあ。じゃあ、奥さん、もう治ってきてるから、予定通りの退院でいいと思いますよ。
奥:ありがとうございます。



医者が治療を終えて、部屋から出ていった。



男:全く、最近の若い医者は調子に乗ってるよ。
女:何言ってるのよ! あんたが意気地がないだけじゃない!
男:ふん! まあ、おまえもお腹に大きな傷があるけど、これでお互い様だな。
女:私はあんたみたいに痛いなんて泣かなかったわよ。
男:そんな傷をつけて産んだ子が今生きてりゃ、金の苦労もなかったのにな。
女:仕方ないじゃない。死んじゃったんだから。


男:それにしても、どうやって、金の工面したんだよ?
女:昔の男。
男:もっともらえそうか?
女:ムリよ! やっと借りたのよ。それも返せないのに、返すふりして借りてんのよ。
男:どんなやつだよ? おまえに金を貸すやつって?
女:うん・・・。(窓の外を見る)初恋の人・・・。
男:何をバカみたいな・・・。
女:ホントよ・・・絶対、忘れない初恋の人・・・だから、あっちも、私をかわいそうがって貸してくれたのよ。
男:へえ、ずいぶんとロマンチックな話だな。(笑う)
女:悲しいくらい、ロマンチックよ・・・。


女は窓の外を見ながら深い溜息をついた。






テスはジュンスの話を聞いてから、ジュンスの母親に会いにいくべきか、迷っていた。

でも、まだジュンスが母親に心を開いていない様子なので、下手に自分だけで動くのはよくない。

それに、母親が世話をしている男がどんな人間かわかったものではない。
場末のママのヒモだそうだから・・・。


ただジュンスの母親は別だ。

ジュンスをこの世の中へ生み出してくれた人だ。
あの彼をこの世に与えてくれたことを感謝したい。

それに、きっと、ジュンスが幸せな結婚をして、子供が生まれるということがわかれば、うれしいに違いない。
そう考えると、ジュンスと一緒に会いに行きたい気もする。


でもまだ、その人を、ジュンスが生涯背負っていくのか、これっきりなのか。それもわからない・・・。


ただ、ジュンスがテスに会わせたくないと言った言葉を思い出すと、ジュンスは母親に会ってかなり落胆したのだろう。そう思うと、複雑な気分だ。





リビングの電話が鳴った。


テ:もしもし、キムです。
母:テスさん?
テ:あ、お母様?
母:どう? 具合は?
テ:ええ、順調です。
母:テジョンから聞いたけど、赤ちゃんが生まれたら、お手伝いに行っていいのね?
テ:えっ・・ええ・・・。
母:あら・・・だめ?
テ:いえ、大歓迎です。


テスはそういいながら、この間とすっかり自分の気持ちが変わっているのに驚いた。
たぶん、あの日、テジョンがジュンスに尋ねた時のジュンスもこんなだったにちがいない。
テスは自分の気持ちが混乱して、少ししどろもどろになる。


母:じゃあ、私も予定に入れておいていいわね!(うれしそうに言う)
テ:ええ、ありがとうございます。
母:なんか、私までドキドキしちゃう。初孫でしょ? ジュンスに赤ちゃんなんて・・・うれしいわ。
テ:そうですか・・・。
母:ジュンスったら、子供部屋をいろいろ考えているんですって?
テ:ええ・・・女の子の場合と、男の場合と・・・いろいろ・・・。
母:あの子ったら、凝り性だわね!(楽しげに笑う)
テ:ええ、とても。お母様、申し訳ありません。これから、私、ちょっと用事があって・・・。
母:そうなの。
テ:ええ。でも、お母様。子供部屋は空いていますから、いつでも気兼ねなくいらしてくださいね。
母:ありがとう・・・。いいお嫁さんで、ジュンスも幸せだわ・・・。ジュンスをよろしくね。あの子は、とってもやさしい、いい子だから。
テ:ええ、もちろん、わかってます・・・ではまた・・・。



テスは電話を切った。テジョンの母親と話していて、息が詰まりそうだった。



別に、テジョンの母が悪いわけではない。
彼女は、ジュンスを自分の子供のように愛しんで育ててくれた。そして、今もそのジュンスに子供が生まれることを喜んで、こちらに手伝いに来ようとしている。
そして、テスのことも気に入ってくれていて・・・ジュンスのことも心配してくれている。


ついこの間まで、テジョンの母親を本当の母親のように思って、彼女が手伝いに来てくれるのを喜んでいたのに、ジュンスの母親の出現で、すっかり気持ちが変わってしまった。

ジュンスの母親が赤ちゃんを見たいと言い出したら・・・。そう思うと、気がそぞろになってしまい、テジョンの母と楽しく話をする気分になれないのだ。



8歳の時から、ジュンスを育ててくれたのに・・・。

血の繋がりっていったいなんだろう・・・。

今、急に産みの親が現れたからといって、テジョンの母親への愛が消えるわけではないのに。

そう思いながらも、複雑に揺れるジュンスの気持ちが痛いほどわかるテスだった。






シンジャは今日、ドンヒョンに会うことになっている。

ドンヒョンから大切な話があるという電話をもらったのだ。
いつものホテルのバーでシンジャがカウンターに座って待っていると、ドンヒョンがやってきた。



ド:待たせた?(にこやかに言う)
シ:うううん、私のほうがちょっと早目に来ただけよ。元気だった?
ド:ああ。
シ:久しぶりね。忙しいの?
ド:う~ん・・・。あ、バーボン、ロックでね。(バーテンに声をかける)一服していい?
シ:ごめんなさい。最近、タバコの煙がいやなの。
ド:そう?(驚く)まあ、いいや。(タバコをしまう)

シ:大切な話って?
ド:うん。まず、一杯飲ませてくれ。


ドンヒョンの前にバーボンが来た。
シンジャはいつもジントニックを飲むが、今日は、ドンヒョンが到着する前に注文して、半分飲んだかのように見せている。実はグラスに半分だけ入れてもらったのだ。


ドンヒョンがバーボンを飲んで、少し考える。そして、話し出した。



ド:実はね。これ、おまえに言わないのは、なんか、フェアじゃないような気がしてさ。
シ:何?
ド:まずは、一番におまえに報告する。
シ:・・・なあに?

ド:オレ、結婚するよ。
シ:え?(驚く)
ド:うん、結婚することにしたんだ。(自分自身に確認する)
シ:そう・・・。どんな人?(ゆっくりとした口調で尋ねる)
ド:うん・・・。友達に紹介してもらった人。
シ:え? (あまりに意外でドンヒョンを見つめる)
ド:いや・・・おかしいだろ? (少し照れた顔をする) でもさ・・・おまえはオレに興味がないみたいだし・・・。
シ:・・・。(胸が痛くなる)
ド:若い子は、遊ぶのにはいいけど、話に奥行きがなくてつまらないからな。それに安らぎが感じられない・・・やっぱり結婚するなら、年が近い人がいいと思って。それを友達に話したらさ・・・奥さんの後輩の料理の先生を紹介してくれて・・・。(照れて、手に持ったグラスをじっと見る)


シ:それで、結婚するの・・・。(小さな声でつぶやく)
ド:うん。なかなか落ち着いたいい人なんだよ。(ちらっとシンジャを見る)
シ:・・・いくつ?
ド:35。まあ、オレから見れば若いけど・・・ああ、コッキリのとこのテスくんと一つ違いか・・・。でも、20代とはぜんぜん違って、落ち着くよ。
シ:・・・。(少し物思いに耽る)
ド:どうしたの?
シ:え? 別に・・・。


ドンヒョンはゆっくりとバーボンを飲んだ。



ド:こんなことを言うのは、今さらおかしいのかもしれないけど。オレはおまえが好きだったよ。でも、おまえはどうも仕事のほうが好きみたいだし・・・。オレもここで区切りをつけたいと思ったんだ。いつまでも、大学時代の恋を引き摺って、生きるわけにはいかないだろ?(寂しそうに笑う)
シ:・・・そうね・・・。
ド:うん。ちょうどいい人が出てきたし、うん、申し分のない人だし・・・。ここで結婚することにしたよ。
シ:うん・・・。(グラスを見つめる)


ド:いいよね? (シンジャの顔をじっと見る)
シ:え? (顔を見上げる)
ド:オレ、結婚してもいいよね? (確認する)
シ:・・・。 (じっと見つめる)
ド:おまえにはちゃんと言って、結婚したいんだ。
シ:なんでそんな言い方するの? (負けん気が出る)

ド:うん・・・おまえが反対するなら・・・。
シ:するはずないじゃない・・・。
ド:・・・そうか・・・。
シ:・・・。
ド:わかった。
シ:・・・。
ド:今までありがとう。本当にありがとう。(シンジャの顔をじっと見る)
シ:・・・。

ド:あ、ここ、チェックして。(バーテンに言う)
シ:これで、最後?
ド:・・・カメラマン仲間としては、ずっと仲良くやっていこうぜ。
シ:そうね。うん、これからもよろしく。
ド:うん。


ドンヒョンは、バーテンの差し出した伝票にサインする。



ド:じゃあ行くよ。今日は一人になりたいんだ。置いていって悪いけど。
シ:うううん、いいの。一人で飲んでいくわ。ご馳走様。
ド:じゃあ・・・。


ドンヒョンは寂しそうな笑顔を作り、軽く手を振って出ていった。


シンジャはそれを見送ると、徐に立ち上がってバーを出た。

自分ではしっかりしているつもりだったが、少し歩くと、急に胸が苦しくなった。



ホテルの一階にあるトイレへ駆け込む。

大きな鏡の前に立って、自分の顔を映し出す。




何だったの?
さっきのあなた?


ドンヒョンの言葉、ちゃんと聞いてた?
あいつ、あんたが好きだったって。


笑えるよね・・・。



何で言わなかったの?
私は反対だって・・・。

一人で産むって決めたから?

それって、ドンヒョンが結婚するはずがないと思ってたからでしょ?



シンジャは、涙がこみ上げてきた。



こんなに好きだったじゃない!

あいつより・・・私のほうがずっとあいつを好きだったじゃない!

別れの言葉を言われて、どれほど苦しかったか!

あの時、はっきり気がついたくせに!

あいつを愛してるって! ものすごく愛してたって!

こんなに愛してるじゃない!
他の女と付き合っているのを見ても、あいつから離れることができなかったのは、私じゃない!

何で、最後まで強がり言って!
本当にバカよ!



シンジャはもう苦しくて、洗面台の淵を握り締めて座り込み、声を立てて泣いた。







ここのところ、テスとジュンスは、心にジュンスの母のことが引っかかりながら、ちょっぴり冴えない気分で毎日を過ごしている。



テ:ジュンス。3時のお茶でも飲む?



階段の上から、スタジオのほうを覗き込み、テスがジュンスを呼んだ。


ジ:そうだね。今行くよ。



ジュンスが2階へ上がってきた。


テ:ジュンス、大丈夫? すごく疲れた顔してるわよ。
ジ:うん? 大丈夫だよ。(ちょっと微笑む)
テ:はい。(コーヒーを出す)
ジ:サンキュ!

テ:ジュンス、明日ね。お母さんに会うの・・・。
ジ:うん。お金は下ろしてきたよ。
テ:そう・・・。
ジ:・・・・。(コーヒーを飲む)


テ:これが最後になるのかわからないけど、ちゃんとお話してきたほうがいいわ。
ジ:・・・。(テスの顔を見る)
テ:わだかまりを残してたら、勿体ないわ。自分の気持ちも話したほうがいい・・・。
ジ:何を話せって言うんだよ。あの人と。
テ:ジュンスが今まで感じてきたこと・・・。何で家を出たのかっていうこと・・・。

ジ:そんなこと・・・。
テ:だって、ジュンスの中で気になっているんでしょ?
ジ:・・・。
テ:お母さんが自分より・・・女であることを取ったって・・・。
ジ:・・・今さら聞くの? (テスを見る)
テ:うん・・・聞いたほうがいいわ。(ジュンスを見つめる)




テスはダイニングとリビングの間にある飾り棚のところへ行く。


そこには、二人の子供の頃からの写真がキレイにレイアウトされて置いてあり、二人の結婚式の写真もある。

ジュンスがテスを愛情たっぷりに撮ったポートレートは、テスの温かさを映し出していたし、スナップ写真の数々はテスの無邪気さを切り取っていた。


その中にユニの写真がある。


それは、元々は普通のスナップ写真であったが、ジュンスの手で焼き直されて、テスが驚くほど生き生きとした、陰影のある愛しい娘の写真になっていた。


テスはその写真を取り上げて、胸の前で持って眺める。



テ:ジュンス。こんなかわいい時代に別れたのよ。きっとお母さんだって、あなたに言いたい言葉があると思うの。
ジ:・・・。
テ:この写真を見ると、ユニが愛しくなる・・・。あなたと結婚して幸せになって、これから母になるというのに・・・。(じっと写真を見る)
ジ:テス・・・。

テ:私は、人生がやり直せるとは思わなかった。やり直すってとっても重たい作業よ。また、結婚して・・・また子供を産む・・・。二度、繰り返すって考えただけでとってもしんどくて、絶対できないって思ってた。
ジ:テス。
テ:でもね、そんな億劫になる気持ちなんか吹っ飛ばすほど、あなたが好きで、幸せで、私はまたやり直すことができた。このユニの写真だって、私を励ましてくれて、助けてくれて・・・。
ジ:テス。
テ:ジュンス。きっとあなたのお母さんだって、あなたの写真を見ながら、いろいろ感じて過ごしたはずよ。10歳の誕生日に会いにきてくれたんでしょ? それは、そこに連れがいたかもしれないけど・・・そんな人がいたって、ジュンス、あなたに会いたかったのよ。会わずにはいられなかったのよ。


ジ:あの人を見たら、そんなロマンチックなこと、言ってられないよ・・・。(溜息をつく)
テ:ジュンス。今度会ったら気持ち確かめたほうがいいわ。
ジ:・・・そうだね・・・。


テ:この間、テジョンさんのお母様と電話で話していて、しどろもどろになっちゃった。
ジ:何か言ったの!(驚く)
テ:そうじゃないの。ジュンスのお母さんのことが頭に浮かんで、あんなにやさしいお母様とちゃんと話ができなかったの。胸が苦しくなっちゃって。あんなにジュンスや私たち家族を思ってくれているのに。
ジ:そうだね・・・だから、傷つけたくないんだ。
テ:だから、ちゃんと話さなくちゃだめよ。本当のお母さんへの自分の気持ちを確かめたほうがいいわ。じゃないと、テジョンさんのお母様に対して失礼な気がしたの。・・・私もちゃんとお母様に対して尽くしたいし。それってジュンスの気持ちに左右されちゃうのよ。
ジ:うん・・・。





ジュンスは黙って立ち上がり、窓の外を見た。


街をたくさんの人が往来している。皆、ごく普通で、誰かと誰かを入れ替えてもあまり変わりがないようにも見える。

それに引き換え、あの母は、誰とも入れ替えることができないほど・・・強烈に存在していた。

ジュンスは街の人の顔をじっと見る。

もしかしたら、この人たちだって、誰かにとっては、替えることができないくらい強烈に存在しているのかもしれない。

誰かにすごく愛されて、誰かにすごく疎まれて・・・。


人にとってはただの妊婦のテスが、自分にとっては、最高に愛しい存在であるように。
人にとってはただお腹の子が、自分にとっては、自分たち家族の大きな夢であるように。



ジュンスは、窓辺に佇んで、じっと外の往来を眺めていた。





第4部へ続く。








それぞれが自分よがりの人生を歩んでいるわけではない。

人と人との関係で、

その生き方は、いろいろな方向へ転換していく。


何が最良な生き方なのか・・・。


それはどこにあるのか。









追記:韓国での健康保険制度はよくわかりません。
日本では、ケンカというより、暴漢に襲われたりしたケガには
健康保険は利かず、実費だそうです・・・。
ですから、日本的に言えば、この母の男のケガは医療費が実費になります。
たいへんなことですね・・・


2009/07/03 00:55
テーマ:【創】愛しい人2部 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「愛しい人2部」2





BGMはこちらで^^

BYJシアターです。


本日は、「愛しい人2部」第2部です。

あのジュンスとテスのその後の、あるエピソードです。

「愛しい人」がまだの方はそちらからどうぞ。

そのほうが、おもしろいです。



これはフィクションであり、ここに出てくる事故、補償、医療行為は実際とは異なります。
また、人物、団体は実在しません。


ではここより本編。

お楽しみください。





ペ・ヨンジュン
キム・へス   主演

「愛しい人2部」第2部



二人が
愛し合うのは
当たり前


私たちは
家族に
なる


家族


それは複雑で


それは

温かい・・・




【第2章 家族を形成するもの】


4月の暖かい日差しを受けながら、カメラマンのシンジャとテスがレストランのテラスで、おいしそうにシーフードを食べている。


シ:結構、いいお腹になっちゃってるわね。まん丸ね。8ヶ月?
テ:ええ。
シ:そんなに大きくなるんだ・・・。動きにくい? 辛い?
テ:まだフットワークは軽いですよ。だから、簡単な仕事ならできるのに。一度、知らない間に流産しちゃったでしょ。だから、ジュンスがうるさくて。
シ:なんかそういうとこ、あいつらしくないようで、あいつらしいわよね。(笑う)じゃあ、まだ動けるんだ。
テ:ええ。でも、デスクワークみたいに座りっきりは、腰が痛くなっちゃって辛いんですよ。同じ姿勢が続く仕事はだめかな。


シ:へえ、そうなんだ。それにしても、お腹がボンと前に突き出して見えるわね。
テ:やっぱり?(お腹を見る) ジュンスのお母さんが言うには、こういう突き出したお腹って、男の子なんですって。
シ:そうなのお?(楽しそうに笑う) じゃあ、ジュンス似かしら? コッキリじゃなくても、テス似の男の子でもかわいいけど。
テ:さあ、どっちが生まれるのやら。(笑う)ああ、おいしかった! もうお腹いっぱい!


シ:もうおしまい? これから、デザートが出てくるのよ。
テ:ええ! どうしよう・・・今食べられないな。
シ:赤ちゃんがお腹にいるのに、お腹空かないの?
テ:今、ちょうど胃を圧迫しているところなんです。もう少ししたら、赤ちゃんが降りてきて、いくらでも食べられるようになるんだけど・・・。今は一回に食べられる量が限られちゃって。
シ:そうか・・・。
テ:だから、コッキリから見ると、私が一日中なんか食べているみたいに見えて、しまりがないって。
シ:ハハハ。そうか。あいつ、わりときちんとしているのが好きだもんね。
テ:そう。(頷く)だから、オレの前であまり口を動かすなって言うんです。見てて気持ちが悪くなるって言われちゃうんです。
シ:ハハハ。あいつらしい! でも、それなら、後でお腹が空くわね。もう少ししてから、なんかおいしいケーキでも食べにいこ。
テ:ええ。ところで、シンジャ先生・・・。今日は何かお話があるんですか?


シ:ねえ、その「先生」はもうやめよ。恥ずかしいから。コッキリと同じく「先輩」でいいわ。現に後輩の奥さんなんだから。
テ:はい。(頷いて笑う)そうします。
シ:これからは、友達として付き合おう。いいでしょ? まあ、あんたが離婚でもしたら、使ってあげるけど。(笑う)
テ:やだあ!(笑う)


シ:今日はさあ、テスに聞いてほしいことがあるんだ。
テ:なんですか?
シ:うん・・・。(ちょっと言いよどむが)ホントはね、誰にも言わないで、一人で実行しようと思ってたんだけど、それもちょっと心配で、心もとないというか・・・。
テ:なんですか? (真顔になる)


シ:うん・・・。実はね。私も赤ちゃんができたの。(テスを見つめる)
テ:え?
シ:驚いた? そうよね。43歳まで、独身でやってきて・・・。
テ:付き合ってる人がいたんですか? 気がつかなかった・・・。


シ:うん・・・付き合っているというか・・・昔の彼なの。大学時代のね。私は仕事をしたかったから、彼を振って仕事に邁進したのよ。
テ:・・・じゃあ、その人と結婚するんですか?
シ:うううん。一人で産もうと思って。


テ:その人はどう思っているんですか? 先生、いえ、先輩のこと、心配じゃないんですか!
シ:さあ・・・きっと、もっと若い子が好きなのよ。
テ:なのに、そういう関係だったんですか!(解せない)
シ:なんていうかな・・・。彼は私の分身みたいにとても身近な人なの。だから、ちょっと気分が乗るとね・・・うん・・・。彼とのことは、別に構えなくていいというか・・まるで、自分のうちみたいな気分ていうかな。そういうことしても、気分的に負担にならないの・・・。ただ気持ちいいって感じ。
テ:(ちょっと首を傾げる)・・・。よくわからないけど・・・。お互いが気持ちいい関係なら、あちらだって、先輩と結婚するのが当たり前だと思っているんじゃないですか?
シ:う~ん、説明するのが難しいわね・・・。ただね、基本的には、あっちは、私とは結婚したいとは思ってないと思うわ。
テ:なんでそう言い切れるの? そんなに長い関係なのに!


シ:テス?
テ:はい。
シ:あなた、相手がぜんぜんわからないで、話しているの?
テ:ええ。私が知ってる人なんですか?
シ:・・・驚いたわ・・・コッキリって・・・、ホントに口が堅いのね。
テ:・・・コッキリ? 彼がなんか、関係しているんですか?


シ:だって、彼、私たちのこと、よく知ってるから。
テ:・・・でも、なんで私が知ってると思ったんですか?


シ:それは・・・相手がさ・・・あなたも知ってる人で・・・。
テ:私が知ってる?
シ:そう・・・彼・・・。


テ:ええ? 彼って・・・私たちが共通して知ってる人?
シ:うん。
テ:ええ?・・・う~ん・・・。(考える)もしかして・・・ドンヒョン先生?
シ:うん、そう・・・。



テスは驚いた。
シンジャは何も知らないが、ドンヒョンは、テスの元彼でもある。
10年前、前の夫と結婚する前に付き合っていたオトコだ。


シ:驚いた?
テ:ええ。
シ:私、コッキリがあなたに話していて、知っているのかと思ってた。
テ:ぜんぜん・・・。でも、話す必要もないと思っていたのかもしれません。終わったことだと思ってたのかもしれないし。
シ:そうね・・・。そうか・・・。



それにしても、オトコというものは、いや、ジュンスとドンヒョンだ。
彼らの口の堅さには驚いた。

二人は、ドンヒョンとシンジャ、そしてドンヒョンとテスの関係を知っていて、共に、寝物語にもそのことを話さない。

プレーボーイというものはそういうものなのか・・・。



テ:それなら、ドンヒョン先生と話をしたほうがいいですよ。あちらだって、独身なんだし。
シ:そうはいかないのよ。
テ:なぜ?
シ:テスも見てわからない? あいつは家庭に収まるようなオトコじゃないわ・・・。そりゃあ、若いころは、ものすごく情熱的だったけど・・・今は・・・彼は、若い子とのアバンチュールを楽しんでいて・・・私は茶飲み友達みたいだもん。

テ:茶飲み友達とは・・・そんな関係にはならないでしょ?
シ:やっぱり、テス、あなたは若いわよ。(笑う)
テ:・・・そうかなあ・・・。


シ:ねえ、コッキリとドンヒョンてちょっと似てると思わない?
テ:どうかなあ・・・そう感じたこともあったけど・・・。
シ:違う?
テ:ええ・・・。
シ:やっぱり、そう? うん・・・。あなたたちが結婚した時に、私も気がついたの。一見似ていても非なるもの、全く違ったわね。コッキリはやっぱり「コッキリ」だった。
テ:「コッキリ」だった?
シ:そう。「コッキリ」って私がつけたあだ名。知ってた?
テ:ええ。でも、その理由が知らないんです。
シ:あいつって、見た目はかなりかっこいいくせに、結構、頑固で、よ~くものを見たり考えてから行動するほうでしょ? 一見、どんどん女の子なんかタラシコミそうだけど。
テ:やだ! 先輩! (笑う)
シ:だって、あれでなかなかセクシーよ。(笑う)そっか、それでテスは捕まっちゃったんだもんね。・・・それでも、中身は意外と真面目なのよね・・・。だから、黙って静かに考えて、大胆に大きく一歩踏み出す。まるで、象みたいだから、コッキリ!(笑う) でも、その通りだったね。これって、彼が23の時につけたあだ名だけど、ホントにそうだったね・・・。
テ:・・・。


シ:あいつも若い時、いろいろあったけど、結局、テス、あんたを探して歩いていたわけだよね。
テ:・・・。
シ:それを見つけて、ちゃんと手に入れて・・・。テスが再婚でも、ぜんぜん気にしないで結婚しちゃうし。でも、ドンヒョンは違う・・・。私たち、ぜんぜん違う道を歩いていちゃったのよ・・・。確かに私たちは過去に最高に素敵なカップルだったけど・・・手を放した途端に、あいつ、凧みたいな風来坊になっちゃった! きっと元々、そういう人だったのよね。


テ:それでいいんですか・・?
シ:・・・うん・・・。彼を・・・私と私の子供に縛りたくないの・・・。

テ:ふ~ん・・・。


シ:でも、テス! あれでもいいやつ! そこは信じてるから、この子を産むわ。きっといつか、子供が道に迷った時、相談に乗ってくれるような気がするの。その時は彼に相談する。ねえ、テス。先輩ママとして、いろいろ教えて!
テ:・・・はい・・・。



テスはちょっと切ない気分になった。
そんなものなのだろうか?

ドンヒョンも同じ気持ちなのだろうか? シンジャ先輩が手に入らなくて、次から次へと女の子を渡り歩いているだけかもしれないのに・・・。
なんか勿体無いな・・・。

でも、自分とは違う大人の考えというものがあるのかしれない。

そう思っても、シンジャの決意は切なかった。




帰りに、夕食の材料を買って、テスは家路を急いだ。


スタジオに帰ってみると、まだ5時だというのに、スタジオの電気が消えていて、ジュンスはいなかった。

テスは、買い物袋を提げて、2階へ上がっていく。



テ:ジュンス? ジュンス?


返事がない。

冷蔵庫に三枚肉と野菜をしまって、冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出して、飲みながら、寝室のほうへ歩いて行く。

リビングから入る引き戸を開けると、ベッドの上にジュンスがいた。


テ:あ、驚いた! ジュンスいたの? 返事がないから、出かけてるのかと思ったわ。


一瞬、ジュンスの目が涙で光っているように見えた・・・。

でも、それは一瞬で、次の瞬間、ジュンスは笑顔でテスを見つめた。


ジ:帰ったの?
テ:うん。
ジ:先輩、元気だった?
テ:うん。

ジ:何食べたの?
テ:シーフード。カニさんよ!


テスが楽しそうに指をチョキチョキと動かした。


テ:おいしかったわよお。今度、一緒に行こう。すごくいいお店。ねえ、夕食のお肉も買ってきたわ。(寝ているジュンスをじっと見て)・・・ねえ、どこか具合が悪いの?
ジ:別に。ちょっと疲れただけ・・・。おまえも疲れただろう。来いよ。一緒に寝よ・・・。
テ:うん。



ジュンスは笑顔を作ったが、それはどことなく寂しさが漂っていて、テスの心にジュンスのウエットな気分が伝わってくる。

テスはペットボトルを冷蔵庫にしまって、ジャケットとスカートを脱ぎ、薄手のカットソーとペチコートだけになって、ベッドまでやってきた。
ベッドサイドに座り、パンストを脱ぎながら、ジュンスの顔を見た。少し疲れが見える。



テ:ねえ、大丈夫?
ジ:うん・・・。


ジュンスがぼうっとした目で、テスを見ているので、テスはちょっと心配になった。
確かに寝室には電気がついていなかったので、瞳孔が開いて見えるが、それだけではないような気がする。
テスはジュンスの横に寝転び、ジュンスが腕枕をした。

まるで、ジュンスの膝に、テスが腰掛けるように、テスの背中がジュンスの胸へお腹に密着して抱かれている。
ジュンスが後ろから、「ふ~」とため息をついて、テスを抱きしめ、うなじに顔を当て、テスの香りを嗅いだ。


テ:ジュンス?
ジ:・・・何?
テ:ホントになんでもない?



ジ:しばらくこうして寝よう。
テ:うん・・・。


背中に感じるジュンスの空気は重く、どことなく湿っぽい・・・。

しかし、ジュンスが何も切り出さないので、テスは黙ったまま、抱きしめるジュンスの腕を抱きかかえるようにして眠りについた。

テスも久々の遠出から帰って疲れていたので、二人はそのまま、8時近くまでぐっすりと眠ってしまった。





9時過ぎに遅い夕食の準備をして、二人はダイニングテーブルで向き合った。


お互いの顔を見て、ちょっとため息をついた。


ジ:どうしたんだよ?
テ:こっちが聞きたい・・・。留守の間、何かあった?
ジ:別に。

テ:そうお? なあんか変よ。ちょっとおかしい。
ジ:そんなこと、ないよ。
テ:だって・・・。
ジ:・・・。(じっとテスの顔を見る)


テ:なあに?
ジ:・・・。(じっと見ている)
テ:あなたって本当になんか言いたい時、そういう顔するのよね。
ジ:そんなことはないよ・・・。いただきます。(食べ始める)


テ:なんか気になる・・・。ねえ、浮気なんかしてないわよね?
ジ:(顔を上げる)おまえ、バカじゃないの?
テ:そう? じゃ違うんだ。(少し微笑む)
ジ:(嫌な顔をする)あんまり意味のないこと、聞くなよ。
テ:だってえ、なんか怪しいもん。(食べる)あ、これ、おいしくできた!
ジ:(呆れた顔をする)ホントに心配してんの?
テ:え? なんで? さっきから気になるって言ってるじゃない。
ジ:それなのに、おいしくできたとか、言っちゃうわけね。
テ:あら、だっておいしいわよ。食べてみて。


テスが箸でお惣菜を摘んで、ジュンスの口の中へ入れる。


テ:ね?
ジ:うん、うまい。
テ:(笑う)ほ~らね。
ジ:そういうことじゃないだろ?

テ:じゃ何?
ジ:おまえがホントに心配してるかだよ?
テ:してるわよ! でも、これもおいしいでしょ?
ジ:二つのことを、同時に言うなよ・・・。なんか、言葉に誠意がなくなるからさ。
テ:あら、そう? ごめんなさい。それで、なんかあったの?
ジ:ないよ。(嫌な顔をする)
テ:なら、いいじゃない。なんか勿体ぶっちゃって。(鼻にシワを寄せる)
ジ:やな言い方。


テ:ねえ、これもうまくできちゃった! はい! (ジュンスの口に入れる)
ジ:ホント、うまい。(笑う)
テ:奥さんが料理上手でよかったわね。(笑う)
ジ:でも、ここの奥さんは誠意がないからね。(今のおかずを食べる)
テ:ヒドイわね。こんなに思いやりがあって、やさしくしてるのに・・・。(睨む)
ジ:どこが?
テ:全く! 無理解な夫を持ってかわいそう。
ジ:ホントだね、ご愁傷様。
テ:どう致しまして。・・・なんか今日の料理は全体的にいい感じね。


ジ:そうだね、料理屋になればよかった。
テ:ホントよ。お客さんのほうがやさしくていいわよ。
ジ:じゃあ、ママさん、一本ちょうだい。
テ:だめ。
ジ:なんで?(驚く)
テ:ジュンスが決めたのよ。赤ちゃんが生まれるまで禁酒するって。
ジ:それはおまえだろ? 
テ:一人で禁酒なんてイヤよ。(睨む)
ジ:わかったよ。


ジ:ところで、おまえはなんかあったの?
テ:え?
ジ:さっき、ちょっとため息ついたじゃない。
テ:う~ん・・・いいわ。特になし。(おかずを摘む)
ジ:なんだよ。
テ:ジュンスに習って、右に同じく、特になし!
ジ:言えよ。


テ:・・・。(じっとジュンスを見る)
ジ:どんな話?
テ:・・・。(言い出しにくい)
ジ:今日、あった話だろ?
テ:・・・。
ジ:浮気したの?
テ:バカ!
ジ:お返し。
テ:(呆れる)・・・。
ジ:(食べながら)何だよ、早く言えよ。あ、これ、うまいわ。
テ:ジュンス。
ジ:何?
テ:あなた、聞く気があるの?
ジ:どうして?
テ:食べながらじゃない・・・うまいとか言っちゃって。
ジ:おまえだって、さっき言ってただろ?


二人はちょっと睨み合って笑う。


テ:ジュンス・・・。シンジャ先輩ね・・・赤ちゃんができたんだって。
ジ:ホント? へえ・・・。結婚するの?
テ:しないで、一人で産むんだって。
ジ:へえ・・・。
テ:相手、誰だか、わかる?


お互いをじっと見つめる。


ジ:誰?(ちょっと覚悟する)
テ:・・・ドンヒョン。
ジ:・・・そう・・・。


テ:二人の関係知ってて、私には言わなかったのね。
ジ:・・・。言いたくない話もあるだろ?
テ:・・・。「昔の彼女のこと」があるから?
ジ:「あいつ」の昔の彼女のことがあるから。(じっと見る)


テ:ごめん。
ジ:だから、ドンヒョンの話はしたくないんだよ。
テ:そう・・・。シンジャ先輩は、私のこと知らないでしょ?
ジ:話すなよ。

テ:それはもちろん話すはずがないでしょ・・・。
ジ:おまえは・・・オレと結婚したんだからさ。
テ:うん。
ジ:・・・。(じっとテスを見る)
テ:ジュンス。(ちょっと皿のおかずを見て)私には、ジュンスだけだから・・・。これからもずっと・・・。
ジ:うん・・・。


テ:先輩がね、先輩ママとして、私にいろいろ教えてほしいって・・・。だから、これから、うちにちょくちょく来ると思う・・・。
ジ:うん・・・。
テ:大きなお腹してね・・・。
ジ:うん・・・。
テ:そういうこと。
ジ:そうか・・・。今、どのくらいなの?
テ:16週とか言ってた。つわりも収まって、食欲が出てきて、今、気分がいいんだって。
ジ:そう・・・。
テ:この事、ドンヒョンには話してないんだって。
ジ:そう・・・。
テ:話すべきかしら?
ジ:おまえが頭を突っ込むことはないだろ?
テ:うん、でも・・・。
ジ:ドンヒョンに近づくな。
テ:じゃあ、ジュンスが話してくれる?
ジ:そんな必要、ないだろ? 二人とも大人なんだから。
テ:・・・大人なら・・・一人で産んでいいの?
ジ:・・・そう決めるには、それだけの理由があるんじゃないの? 二人の関係がどんなものかは二人しかわからないだろ?
テ:そうかもしれないけど・・・大人同士だから、返って、気恥ずかしくて、思いが口に出せないかもしれないじゃない?
ジ:いずれにしても、先輩のお腹が大きくなれば、ドンヒョンだって気がつくさ。あいつだってバカじゃないんだから・・・。おまえから言うなよ。そのために会いに行くなよ。
テ:ジュンス・・・。
ジ:わかったね。(念を押す)
テ:わかったわ・・・。



テスはジュンスをじっと見つめた。その視線を無視して、ジュンスはご飯を食べている。

こんな大きなお腹を抱えて、ドンヒョンに会っても、浮気なんかしないのに。
向こうだって、こんな妊婦なんて相手にしないのに。
私たちの関係が壊れるはずはないのに・・・。


でも。
きっと昔のオトコに親しげに話しにいくことは、夫としては耐えられないことなのかもしれない。

テスは、シンジャのことが気にかかりながらも、しばらく様子を見ることにした。





しばらくして、またテジョンがスタジオへ遊びにきた。


テジ:こんちは~。
ジ:よう! 最近、よく顔を出すなあ。
テジ:まあね。
テ:テジョンさん、こんにちは。


テスが2階から降りてきた。


テ:今、コーヒー入れたことなの。テジョンさんもご一緒に2階へどうぞ。ジュンス、コーヒー入ったわよ。
ジ:うん。サンキュ!



3人で2階へ上がる。

ジュンスはテジョンに子供部屋を見せている。


ジ:一応、壁紙は水色にしてあるんだけどね。子供が生まれたら、張り替えてもいいかなと思ってるんだ。それに合わせて、カーテンもね。女の子だったら、花柄とかのほうがいいだろ?
テジ:ずいぶん念入りだね。(笑う)男の子でも女の子でもこれでいいじゃない。
ジ:・・・そうか?
テジ:うん。水色ならどっちでもいいんじゃない? 「スタジオコッキリ」のドアの色だし、いいと思うけど。
ジ:そう・・・。ふ~ん・・・。(部屋の中を見回す)


後ろで、テスが笑った。
テジョンも、テスを見て一緒に笑った。


テジ:おかしいですよね、この人。なんでこんなに凝っちゃってるのかな? 
テ:でしょ? もう一つ一つ子供のもの確認されちゃうから、困ってるの。(笑う)
ジ:なんだよ。ちょっと小奇麗に作ってやろうと思ってるだけじゃない。
テジ:それにしてもさ。わざわざ壁紙まで張り替えることはないよ。
ジ:そうかなあ。雰囲気って大切だよ。
テジ:まだ赤ん坊だろ?
ジ:まあな。(笑う)



皆でダイニングへやってくる。
テスがコーヒーを入れて、クッキーを出した。


テ:どうぞ。(テジョンに出す)ジュンス、子供部屋はしばらく使わないんだから、ゆっくりでもいいのよ。
ジ:まあな。でも、赤ん坊が寝ている家で接着剤のニオイをさせたりするの、やだからさ。おまえが入院中にでも、できれば壁紙とかやりたいんだよね。
テジ:もうアニキ。ヤバイよ、それ。親バカ、入ってるよ。
ジ:そんなことないって。おまえって、やな奴だな。


コーヒーを一口飲んで、ジュンスがテジョンを見た。


ジ:ところで、今日は何の用で来た?
テジ:うん・・・お袋がね、テスさんのこと、心配してるからさ。産後、一人じゃたいへんだろうって。よかったら、最初のうちは、こっちへ来て面倒見たほうがいいのかなあって。心配して、オレのところへ電話してきたの。直接、こっちへ電話すればいいんだけどさ。
ジ:・・・そう・・・。


テジ:なんか、アニキ、冷たいな。
ジ:・・・なんで?
テジ:だって、ぜんぜん、ありがたそうじゃないじゃない?
ジ:うん・・ありがとう・・・。
テジ:なんか、気が抜けるな・・・。


テ:テジョンさん、ありがとう。(笑顔で)すごく助かるわ。私にとっては二人めだし、なんとか一人でもできそうだけど、最初の2週間くらいは手伝って下さると、ホントに助かるわ。
テジ:そう? なら、そう言うよ。きっとお袋も喜ぶと思うよ。(微笑む)とにかく、初孫で楽しみにしてるからね。ちょっとでも、手伝いたいんだよ。
テ:ありがとう。・・・あとで私からもお礼の電話を入れておくわ。
テジ:うん。そうしてくれる? よかった。


そういいながら、テジョンはジュンスの顔を見た。ジュンスがぼんやりとした顔をしていた。


テジ:アニキ?
ジ:え?
テジ:大丈夫?
ジ:何が?
テジ:ちょっと変だよ。
ジ:大丈夫だよ。(笑う)
テジ:お袋が来てもいいんだろう?

ジ:え?・・・ああ・・・。ありがとう・・。
テジ:来てほしくないの?
ジ:そういうわけじゃないよ。
テジ:・・・ねえ、そんなことでも、親孝行してやってくれよ。
ジ:うん・・・わかってるよ。よろしくお願いしますって、お袋に伝えておいて。
テジ:うん。(じっとジュンスを見る)
テ:テジョンさん、子供部屋に泊まれるから、お母様には、いつでもお気軽にいらして下さいって言って。
テジ:(微笑んで)うん、ありがとう。





テジョンが帰る時、テスも夕飯の買い物がてら、一緒に家を出た。


テジ:ねえ、アニキ、ちょっと変じゃない?
テ:そう思う?
テジ:やっぱり、なんか変なの?
テ:うん。最近、ちょっとね。考え事してるのか・・・少しね。でも、聞いてもなんにも言ってくれないの。
テジ:そうか・・・。ねえ、交通事故の後遺症とかで、ぼんやりしちゃうのかな?
テ:ええ! やだ、テジョンさん! 怖い! そうだったらどうしよう・・・。(心配そうに見つめる)
テジ:違うよね。そうじゃないよね?
テ:やだ、心配になってきちゃった。
テジ:ごめん、大丈夫だよ。きっと大丈夫。
テ:そうお?
テジ:うん・・・たぶん。


テスとテジョンは、不安そうに顔を見合わせた。






ジュンスは、一人スタジオの窓を開けて、ぼうっと街の往来を見ている。
そして、やるせなさそうに、ため息をついて、窓を閉めた。




テスが帰ってくると、ジュンスはいつもとわからず、てきぱきと仕事をしている。

ルーペでポジを覗いている。


テ:ただいま~。ジュンス?
ジ:うん?
テ:・・・別に。元気ならいいの・・・。
ジ:え?(ルーペから顔をあげて、テスを見る)なんか言った?
テ:別に。

ジ:今日の夕飯は? 
テ:お豆腐のチゲ。
ジ:そう、サンキュ!
テ:うん・・・。


ジュンスはまた仕事を続ける。


テスは、ジュンスの変わりない姿を見て、交通事故の後遺症というのも考えすぎかもしれないと、ちょっと安堵して2階へ上がっていった。





スタジオの仕事からすっかり足を洗ったテスは、ゆったりと昼を過ごしている。
今日は、朝早くからジュンスもロケに出かけていて、一人でのんびりとしている。

テスはダイニングテーブルでお茶を飲みながら、ベビー用品のレンタルカタログを眺め、必要なものに付箋を貼る。



ええと、これは買わないで借りるとして・・・。

ベビーベッドでしょ。マットレスに・・・ええと・・・。ああ、車のベビーシートもネンネの赤ちゃん用は借りるでしょ・・・。それから・・・。へえ・・・こんな、おもしろいものもあるんだ・・・。

レンタルでも結構かかるな。


ああ、それに、お母様用にお客布団も買わなくちゃ。




テスはとりあえず必要なものを書き出して、電卓をたたいて、合計金額を出す。


やだ・・・ずいぶん、かかっちゃうのね・・・。



チェストの引き出しから、預金通帳を取り出して、預金残高を確認する。



さて、どれだけ、使えるでしょうか・・・。

あれ・・・。

これって・・・。


500万ウォン?


最近の日付で、お金が引き出されている。

仕事関係のお金の出入りは、それ用の口座を使っているので、ここから流用するということはまずない。
カメラや機材の購入も減価償却が絡んでいるから、そっちの口座を使っている。

これはプライベートな口座だ。


こんな大金。何に使ったの?


ジュンスからは、お金をおろすとは、テスは一言も聞いていなかった。
今まで、二人の間で隠し事などなかった。


大きな買い物をする時は必ず二人で話し合ってきたのに・・・。


でも、こんな代金を支払う買い物をした形跡もなかったし・・・。
それに、普段はカードを使うから、大金をおろすということは、ほとんどない。

出産費用だって、ちゃんと分けたし。

税金だって引き落としだ。


いったい、何に使ったのかしら・・・。


テスはその通帳をじっと見つめた。




夜遅く、外で車が止まる音がした。

ジュンスが帰ってきた。



テスはベッドから起き上がり、窓の外を見る。

ジュンスが車から出てきた。



預金通帳を取り出して、ダイニングテーブルに座り、テスは、ジュンスが2階へ上がってくるのをじっと待った。







3部へ続く

ではお楽しみに!



2009/07/02 00:31
テーマ:【創】愛しい人2部 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「愛しい人2部」1

Photo



BGMはこちらで^^


BYJシアターです。

前回の「愛しい人」の続きを知りたい
といううれしいリクエストがあったので、

予定を変更して^^

「愛しい人2部」をお送りします。


こちらは、2003年6月から連載しました。

ちょうどストーリーも梅雨でした^^



「愛しい人2部」。

あのジュンスとテスのその後の、あるエピソードです。

「愛しい人」がまだの方はそちらからどうぞ。

そのほうが、おもしろいです。







これはフィクションであり、ここに出てくる事故、補償、医療行為は実際とは異なります。また、人物、団体は実在しません。




ではここより本編。

お楽しみください。






ジ:長い間、お疲れ様でした。これは退職金です。どうぞ、元気な赤ちゃんを産んでくださいね。
テ:ありがとうございます。


テスはジュンスから恭しく退職金の入った袋を受け取った。
中を覗き込む。


テ:あれ、先生。これ、私が計上した金額と違いますよ。こんなにいっぱいいらないわ。
ジ:そのくらい、必要だろ?


ジュンスは自分のデスクに戻り、テスの顔を見つめている。



テ:だってえ・・・。
ジ:おまえさ、なんか画策してない?
テ:何を?


テスは驚いてジュンスを見た。
ジュンスが自分の席から、テスを睨んでいる。


ジ:今朝、産婦人科の先生のとこ、電話で確認したの。
テ:何を?
ジ:最近、一緒にいってなかったから・・・。そうしたら、案の定・・・。
テ:何よ?!
ジ:「先生、私、どうしても自然分娩で産みたいんです!」って言ったんだってね。(少し怒った目をしている)
テ:・・・そうよ・・だから? それの何がいけないのよ!


ジ:おい。オレがいつ、おまえに命がけで子供を産んでくれなんて頼んだよ?
テ:・・・だけど、前回の帝王切開からもう8年も経っているのよ。先生が大丈夫だって。
ジ:・・・。なんかあったら、どうするの?
テ:・・・大丈夫よ。(笑う)その時は、帝王切開に切り替えてもらうから。

ジ:・・・。なんでそんなことに拘るの? 安全に産めよ。(眉間にシワを寄せる)
テ:だって・・・自然分娩で産めたら、もっと赤ちゃん産めるでしょう?(笑顔で答える)
ジ:・・・別に、オレは家族でバスケットやりたいとか、ベビールームを開きたくて、子供がほしいって言ったわけじゃないよ。
テ:それはわかってるけど・・・。


ジ:とにかく、危険は冒さない。それが第一条件! これからは一緒に医者へ行くからな。
テ:ええ~・・・来るの? (ちょっと嫌な顔をする)
ジ:なんでいやなの? (驚く)
テ:だってえ・・・変なことばかり聞くから・・・。


ジ:何が?
テ:「いつまでしていいんでしょうか」とか・・・。
ジ:だって、そういうことって大事だろ?
テ:普通、先生から言うのよ・・・「今の時期はしないで」とか・・・「してもいいですよ」とか・・・。
ジ:そうなの?(赤くなる)だって・・・先にそういってくれないから・・・聞いちゃったんじゃない・・・。
テ:・・・普通そんなこと、言い出すなんて思わないじゃない!
ジ:そうなの? 普通の人は聞きたくないの?(もっと赤い顔になる)・・・前のダンナは聞かなかったんだ・・・。
テ:(困って)・・・あの人は、病院にも来もしなかったけど・・・。(ニコッとして)その点、ジュンスはいいパパよね! でもね・・・。
ジ:でも、なあに?
テ:あれから、毎回言われちゃうの・・・。「いいですねえ! 情熱的なご主人で!」って・・・。


ジ:(困る)そ、そんな事、今さら言うなよ・・・。と、とにかく! とにかく、これからは一緒に行く!
テ:え~え!
ジ:おまえ一人に任せておくと、危なくて仕方がないからさ!
テ:そんなあ、何よ、その言い方!
ジ:・・・。とにかく、まだ顔も見てない子供のために、おまえが命を落とすようなことだけは許さないから。
テ:・・・。(ブスったれた顔でジュンスを見る)
ジ:・・・返事は?
テ:・・・。


テスは、ジュンスを睨みつけて、「フン!」という顔をしたまま、黙って、階段のほうへいく。


ジ:おい! 返事は!


ジュンスがデスクのほうから大声でテスに声をかけるが、テスは無視して階段を上がっていってしまった。



テスは2階へ上がって、少し怒った顔のまま、ダイニングテーブルに着いた。そして、ちょっと涙ぐむ。

確かにジュンスが心配する気持ちもわかるけど・・・。



ジュンスは、テスとの結婚のために、スタジオをリフォームして迎え入れてくれた。

一度、結婚に失敗しているテスをとても愛してくれている。
その彼の気持ちに報いたい。彼の望む通りの家庭を築きたい。

結婚前、ジュンスは子供をたくさんほしいと言った。



テスには、前夫との間に女の子がいた。
3年前に5歳で交通事故にあって、夭折してしまったユニ。
そのユニを産むために、テスは帝王切開をした。


一度帝王切開で出産したテスには、産めて3人が限度だ。
もう一人めの子はこの世にはいない・・・。


テスは32週に入ったお腹を抱えて、子供に話しかける。


テ:パパのために言っているのにね。あなたもママに協力してくれるでしょ? いい子で生まれるのよ。二人でパパの鼻を明かしてあげましょう。あなたのパパは頑固だから・・・。それに、ママに意地悪・・・。
あなたもそう思ったでしょ? さっき。意地悪だって。ね?
ジ:思わないよ。
テ:え! ・・・ジュンス・・・。


テスが驚いて、後ろを振り返ると、ジュンスがいた。
ジュンスは前に回って、テスの前に跪いて、テスのお腹を撫でた。


ジ:お前のママは頑固で困るよね・・・。パパの愛情がわからないんだよねえ・・・。


ジュンスはそういって、お腹を撫でる。
テスがちょっと笑った。


テ:この子、きっとすごく頑固になるわよ。
ジ:そうだな。ママの子だから・・・。
テ:パパに似た頑固な子になるのよ。
ジ:ふん、おまえも不幸だな!(お腹に向かって言う)


ジュンスがテスのお腹に耳を当てて、テスのお腹を抱きしめた。


テ:ジュンス・・・。


テスがジュンスの頭を抱いた。


ジ:やっぱり、パパの言う通りだって、言ってるよ。
テ:・・・。


テスは、ジュンスの言う通りにはしたくないので、ジュンスの髪をいじって、キューピーのように引っ張って尖らせたりしている。


ジ:ママはどうしてもやなんだ・・・。いいよ。今度、ちゃんと先生と話をしよう。でも、危険は冒すなよ。それは約束だから。
テ:・・・・。(まだ、ジュンスの髪をいじっていて、返事をしない)
ジ:おまえのママはしぶといね・・・。

テ・ジ:あ!(二人で驚く)


ジ:・・・・こいつ! (ジュンスが顔を上げてお腹を見た)オレの顔を蹴ったよ!(テスを見る)
テ:(笑う)やっぱり、ママの味方ね!



ペ・ヨンジュン
キム・へス   主演

「愛しい人2部」1部




二人が
愛し合うのは
当たり前


私たちは
家族に
なる


家族


それは複雑で


それは

温かい・・・




【第1章 二人の門出】


テスは今日から産休に入った。
事務ならまだまだ手伝えるのに、ジュンスはもう一切スタジオを手伝わなくていいと言う。


テスは現在、妊娠32週でまだまだフットワークは軽い。
あと1ヶ月近くはと思っていたのに、先だって、ちょっと残業をして、経費をまとめていたら、お腹が硬く張ってしまった。
いつもなら、その場で少し横になると、治るのに、硬くなったお腹がなかなか治らなくて、ジュンスに抱きかかえられてベッドまで行った。

このことで、最近、テスの監視に厳しいジュンスから、退職勧告が出されてしまったのだ。



ジュンスの交通事故から3ヵ月して、彼は銀行からお金を少し借り、スタジオの建物の中をリフォームした。
足を悪くしたジュンスのために、暗室を地下からスタジオ奥の給湯室へ移し、改造した。


今やスタジオの象徴でもあった階段を緩やかな絨毯敷きの階段に変えた。
絨毯は、汚れがつきやすいが、滑りにくいという利点があるので、家族が転びにくいこと、転んでもあまり痛くないことを優先した。


テスは知らなかったが、あの黒い鉄の階段は、ジュンスの大学時代の友人である彫刻家の第一作目だったそうで、多少使いにくくても、ジュンスは友情を大切にして、スタジオの象徴として、建物の真ん中に階段をおいていた。

この階段を取り除くと決めた時、その友人のところへ、丁寧なお詫びの電話を入れたジュンスだったが、それが講じて、友人が他へ売却してくれ、その分で、階段部分のリフォーム代を賄うことができた。


そして、2階には、今までワンルームだった一部に、自分たちの寝室と子供部屋を作った。



ジュンスの足はレントゲンでは完全に骨はついているという話だったが、まだ少し足を引き摺っていたし、あれだけの事故なら、多少の後遺症は間逃れないだろうと、ジュンスもテスも考えていた。

命が残ったことを感謝しなくてはいけない・・・。



たまに、真夜中、ジュンスは一人すくっと起き上がり、テスに気づかれないように、キッチンへ行って、水を飲み、しばらく立ち尽くしていることがある。


テスも気がついて、遠くからその様子を覗くが、たぶん、あの時の状況がフラッシュバックしてくるのだ。

ジュンスはそのことを言わない。


でも、わかる。


事故のあとで、警察と一緒に事故現場を訪れたテスと弟のテジョンの見た工事現場の穴は途方もなく深かった。


地下2階まで掘られたその大きな穴に組まれた木材の足場は、無残に折られていた。

ジュンスの車が停車するところを探して減速していたにしろ、急激にハンドルを切り、ジュンスの前にマリが覆いかぶさった状態でその穴の中へ落ちていったのだ。

穴の中を落ちていく途中で、車はその足場を壊しながらも、そこに引っかかって、その足場に助けられて、宙吊りになり、下まで落ちることはなかった。

車のフロントグラスには、工事現場の入り口のテントが覆い、前が見えなかったにしろ、それはジェットコースターなんてものではない・・・。命をかけたダイブだ。



テスとテジョンは、言葉もなくその大きな穴を見つめ、その場に立ち尽くした。


あのときのマリの精神状態が普通ではなかったことで、ジュンスの免許取り消しは間逃れた。

そして、車が入っていた保険のおかげで、工事現場の賠償金も支払うことができた。
もちろん、ジュンスの怪我の治療費も。




ジュンスはしばらくの間、車の運転することができなかった。

もちろん、ジュンスが足を骨折したこともある。
しかし、ハンドルを握って運転していると、急に汗が噴出してきて、運転を続けることができない。
そんなジュンスになり代わり、テスが車を運転して、ジュンスを撮影現場へ送っていった。



スタジオのリフォームの間、二人はテスの部屋で過ごした。

スタジオの2階は将来の二人の夢を実現すべく、夫婦の寝室と子供部屋を作っていた。



一人住まいだったテスの部屋は決して広くはなかったが、二人で暮らしてみると、もうそれだけで全ての用を足してしまう気さえした。


ダイニングとシングルベッド。

二人の世界ならそれだけで十分だ。


それにソファが一つ。

もうこれで完璧である。


二人に他に行くところはない。
ダイニング、ソファ、ベッド・・・。それだけで十分だ。



ジ:なんか、家ってそんなに広くいらないんだね。
テ:今はね。二人きりだもの。
ジ:このくらいのほうが暮らしやすかったりして。
テ:でも、ベッドは、ダブルにしたいわね・・・。
ジ:だめ? こんなに密着してちゃ?(テスをもっと抱き寄せる)
テ:ええ~?
ジ:いいじゃない・・・。二人ぴったり一緒で・・・。
テ:ずっとこれ?
ジ:そう、ずっとこれ・・・。これ、持っていこうか。スタジオのは大きすぎるよな。
テ:あれは、ダブルだもん・・・ねえ、なんで一人暮らしだったのに、ダブルなの?
ジ:? そのほうが結婚しても買い換える必要がないだろ?
テ:うん、そうね。(微笑む)
ジ:でも、今度からはこれに変えよう・・・。こっちのほうがいいじゃない・・・。(テスをもっと抱きしめる)
テ:・・・そう・・? ジュンス・・・ホントにそうする?(笑う)
ジ:(笑う)もちろん、そうするよ。
テ:バカね・・・。
ジ:楽しいじゃない。
テ:ケンカしたらたいへんね・・・。どっちかが怒ったら、蹴り落とすわね。
ジ:そんなあ。
テ:こうやって・・・。


テスはふざけて、ジュンスの足を蹴った。


ジ:痛い!
テ:ごめん!


テスが起き上がって、ジュンスの足を見る。


テ:骨折してたほう?
ジ:そうだよ・・・。
テ:ごめん・・・。
ジ:もういいよ。やっぱり、これは危険だな・・・。
テ:もう・・・あなたの急所が増えちゃって困るわ。
ジ:急所ね。(笑う)
テ:やだ・・・。へんな意味じゃないわよ。
ジ:へんな意味だよ。
テ:違うわよ!


ジ:じゃあ、オレを大切にして・・・。オレはどこもかしこもだめだから・・・。
テ:・・・。(ちょっと睨む)
ジ:もうあっちこっち、急所だらけだから・・・やさしくして・・・。


ジュンスがテスに甘えた顔をして、テスの体を引き寄せた。


テ:もう・・・あなたって・・・ホントに・・・。
ジ:なんだよ・・・。
テ:・・・(笑う)甘えん坊!
ジ:なんだよ!



狭いシングルベッド。

今の二人には、最高の空間である。



3ヵ月かけて、リフォームは完成し、テスとジュンスは、スタジオの2階へ引っ越した。

引越しにあたって、テスはほとんどのものを手放した。


もちろん、ジュンスの愛したシングルベッドも!


前の結婚のときの嫁入り道具でもあった洋服ダンスやテーブルをジュンスのもとへもって行きたくなかったし、それに、ジュンスのところには、すでにある程度の家財道具は揃っていたから。


テスに本当に必要なものといえば、ユニの写真とプーさんのグラスくらいだった。




引越しが終わってからも、二人は慌しく二人三脚で仕事をこなしていった。


ジュンスの代わりにテスが車を運転して、現場へ行き、アシスタントをして、また帰る。
二人はいつも一緒だった。




ある日夜遅く、ロケ先から戻った二人は、いつものように、車をスタジオ前に止め、ジュンスが重いバッグを担いで、スタジオへ入っていった。


テスは車のキーをかけ、あともう一歩でスタジオへ入ろうという時に、急に下っ腹に差し込むような激痛が走って、その場に蹲った。

得たいの知れない痛み・・・そして、股の間を伝わってくるものがある。


あ!


テスは本能的に、自分になにが起こったか、わかった。


テスがなかなか、スタジオへ入ってこないので、ジュンスが様子を見に出てきた。
そこに蹲ったテスがいた。


ジ:テス! どうしたんだよ!


テスがジュンスの顔を見て、このとき、脳裏によぎったもの・・・「マズイ」

ジュンスに対して、「マズイ」それが一番最初に感じたこと・・・。


ジ:どうしたんだ?(座ってテスの様子を見る)
テ:う~ん・・・痛くて動けないの・・・。


顔を見ると、脂汗が出ている。


ジ:動けない? ぜんぜん?
テ:うん・・・。(苦しそうに息をする)
ジ:医者を呼ぶか?
テ:(悔しいけど)救急車・・・呼んで・・・。(痛みを逃すように、苦しそうに息を吐き出す)
ジ:え!


ジュンスが驚いて、テスの様態を見る。テスのジーンズが濡れていた・・・。



それから、1時間後、ジュンスは総合病院の救急医と話をしていた。


ジ:どうですか?
医:残念でしたね。流産でした・・・。
ジ:え? (驚く)
医:まだ、9週でした。
ジ:9週・・・・。


ジュンスはよくわからないまま、医師の言葉を復唱した。


医:ええ。ご本人も自覚がなかったようですね。普段、生理不順だと言っていましたから。今日は産科の医師がいないので、明日、もう一度産科専門の診断を受けてください。キレイに掻爬したほうがいいでしょう。いい加減にしておくと、不妊にも繋がりますからね。
ジ:・・・はい・・・。(頭がぼうっとしている)
医:今日はこのまま、入院してください。
ジ:はい・・・。


ジュンスには、今、医師から告げられたことはまったく思いもよらないことだった。


病室のドアを開けて、テスを見た。
テスが困った顔でジュンスを見つめていた。


ジ:気がついてたの?
テ:うううん・・・・。ぜんぜん、気がついてなくて・・・。ちょっと疲れるな程度で・・・。
ジ:・・・。(じっとテスを見つめている)
テ:ジュンス・・・。ごめん。よく生理が遅れるから、気にも留めてなくて・・・。
ジ:・・・。(黙って見つめている)
テ:ごめん・・・。


テスはジュンスが子供をほしがっていたことを知っていたので、まずは自分の体よりジュンスに対するすまなさが出てしまう。


ジ:・・・・。もっと自分の体を大切にしろよ。



ジュンスが責めるような目をした。


テ:ごめんなさい・・・・。
ジ:もう痛くないの?
テ:うん。終わっちゃったから・・・。応急処置をしてもらって、抗生物質も飲んだし、この点滴で痛みが収まってるみたい・・・。
ジ:そうか・・・。(見つめる)
テ:明日、手術するって聞いた?
ジ:うん・・・。


ジュンスがイスを近くへ持ってきて、テスの横へ座った。そして、手を握り、テスの手の甲を唇に当てた。



テ:ホントにごめんね、ジュンス。
ジ:もういいよ。寝ろよ。
テ:うん・・・・。
ジ:寝たら、おまえの着替えを取りに帰るから。
テ:うん・・・。ジュンス、ごめんね・・・。(涙が出てくる)
ジ:泣くなよ・・・。


ジュンスも、テスを見ながら目が潤んだ。


それが、二人にとっての初めての妊娠だった。



この事がきっかけで、気づいたことがあった。



二人はまだ正式には結婚していなかった。
毎日の忙しさに追われて、その大切な一歩を踏み出していなかった。


ジュンスは、医師に「ご主人様ですか?」と聞かれて、一瞬戸惑い、言葉が出なかった。

あんなに家庭を作りたいとか、二人の子供がほしいとかいいながら、まだ結婚すらしていなかった。

自分の一番愛するテスを今だ不安定な状態にしていたことに気がついた。



新しいことを始まる。
それはやはり、ある手順を踏んでから始まる。


ジュンスとテスは、そんなことに気がついて、二人は正式な夫婦となった。


小さなレストランで行われた結婚式には、ジュンスの義母であるテジョンの母とテジョン、そして、テスの叔母夫婦が駆けつけた。

二人には、もう本当の両親はいなかった。

それだけに、テジョンの母は、ジュンスにとっても、テスにとっても大きな存在となった。

気のいいテジョンとよく似た母は、ジュンスの晴れの姿を何度も涙を拭いながら、うれしそうに見つめた。
やさしくて大らかな人、それが義母だった。



結婚式の夜、二人は、いつものように、自分たちのベッドの中にいた。



テ:なあに? ジュンス? そんな顔して?


ジュンスがテスをなんともいえない顔をして見下ろしている。


ジ:・・・。(テスの顔を覗き込む)
テ:ジュンス・・・。あなたって、いつも大切な時に何も言わないのね・・・。
ジ:・・・。(テスの髪を撫でる)
テ:ジュンス・・・。何か言って・・・。私、あなたの正式な妻になったのよ・・・。ジュンス・・・。


テスも上からテスを見下ろすジュンスの髪を撫でた。


ジ:・・・。ふん、(ため息をついて)結婚しちゃったね・・・。
テ:うん・・・。ため息なんてついて・・・。(笑う)いいんでしょう?
ジ:うん・・・。
テ:ジュンス。何か言ってよ・・・いいんでしょう?


ジ:もう、おまえはオレのものだよ・・・。
テ:うん・・・。
ジ:ずっと、一緒。
テ:うん・・・。
ジ:死ぬまで一緒。
テ:うん・・・。
ジ:いいよね? (確認する)
テ:うん・・・いいわ。ずっと一緒にいる。・・・あなたとずっと一緒にいるわ・・・。


ジ:テス・・・。



ジュンスは、愛しているとも好きだよとも言わなかった。

ただテスを力いっぱい抱きしめて、それから、テスの胸に顔を埋めた。



いいの・・・。何も言わなくても。

あなたが私を愛していることはよくわかっているから。

私が愛していることも、よくわかっているでしょ?


ずっと一緒にいるわ。

それが私の望みだもの。

二人で仲良くやっていきましょう・・・ね・・・。




あの流産があってから、ジュンスは車も買い換えた。


今まで運転の好きだった彼は、マニュアルの車を好んだ。
彼は、自分で加速するのが好きだった。

しかし、あの事故以来、彼の代わりに、テスが彼のワゴン車を運転していた。

テスは運転が下手なわけではなかったが、交通事故で娘を失って以来、人一倍安全運転を心がけていた。

それを思うと、乗りなれないマニュアル車の運転が、彼女にどれだけの精神的な疲労をもたらしてきたかと思うと、ジュンスは胸が痛くなった。



テ:ジュンス。何も買い換えなくてもいいのに。


ソファで車のカタログを見ているジュンスのところへお茶を出して、テスは隣に座った。


ジ:うん・・・。おまえが運転しづらかったのを、早く気がつけばよかったよ。
テ:そんなに気にしないで。ジュンス、赤ちゃんにも育ちやすい子と弱い子がいるのよ。だから、ジュンス、あなたのせいじゃないわ。
ジ:それに、これからはオレが運転するのにも、オートマのほうがいいんだよ。左足がときどき痛むだろ。クラッチがないほうがいいんだ。(カタログで、車を選んでいる)
テ:・・・そうお?(ジュンスの横顔を見る) なら、うれしいけど。どれがいいの?(一緒にカタログを覗き込む)
ジ:うん。家族が乗れて・・・機材も積めるとなると・・・・。
テ:うん・・・。これ?
ジ:うん・・・。



そして、新たにオートマのワゴン車に買い替えた。

実際、テスが運転しやすくなったことは言うまでもない。




気持ちを新たに新生活を始めて、4ヵ月を過ぎた頃。

いつものように、ジュンスとテスは、二人連れ立って、ロケ地の海岸へ、冬服のアイドルの撮影に出かけていった。



10月初旬の海岸は、涼やかで気持ちのよい風が通る。

空は高く、晴れ晴れとした気分にさせてくれる。


いつものように、ポットのコーヒーを飲みながら、二人で、パラソルの下でくつろいでいると、テスがとても肌寒いと言う。



テ:ねえ、寒くないの? なんかスースーしちゃう。
ジ:そうか? 気持ちがいいけどな・・・。あ~あ!


ジュンスは暢気に寝転んで、大きく伸びをした。



テ:やっぱり、寒い!
ジ:これも着るか?


ジュンスが自分のジャケットを差し出す。


テ:うん。サンキュ!
ジ:風邪でも引いたんじゃないの?
テ:かもね・・・。とにかく、なんとなく肌寒いわ。
ジ:じゃあ、帰りはあったかいものを食べようか。
テ:うん。


編集者が呼ぶ。


編:ジュンちゃん、始めていい?
ジ:OK! おまえ、大丈夫?
テ:大丈夫! これだけ着込んだし、帰りはなんかあったかいものを食べることにしたから。頑張るわ。
ジ:じゃあ、行こう!


二人は立ち上がり、また撮影に入った。



帰りに入った店で、体が温まるように、サムゲタンを頼んだテスだったが、目の前に出された途端、その湯気で気持ちが悪くなった。


テ:ごめん!


テスは席を立って、トイレのほうへ駆け込んでいく。
ジュンスは心配そうな顔をして、テスを見送ったが、テスはなかなか出てこなかった。



テ:ごめんね・・・。(戻って座る)
ジ:大丈夫?
テ:ジュンス、これ食べてくれる? 今、こういうの食べたくないの。
ジ:・・・いいけど・・・どうしたの?
テ:うん・・・ちょっとね。

ジ:じゃあ、オレの食べる?(自分の料理を差し出す)
テ:うううん。ええと・・・冷たいのがいい・・・。あ、冷麺にする!(にこやかに言う)
ジ:・・・。(驚く)
テ:今、そんな気分なの。お酢をいっぱい入れて、冷たいの、食べたい気分なの!
ジ:・・・そう・・・。ずいぶん、気分が変わったんだね。
テ:そうなの!(にこやかに笑う)
ジ:・・・ずいぶん・・・元気になったね。
テ:うん、なんか、いい気分になったの。
ジ:だって、さっき・・・吐きそうだったよ。(怪訝そうな顔をする)
テ:そう! (胸をさすりながら)だから、この辺はちょっと気持ちが悪いんだけど、気分は最高なの。ねえ、このサムゲタン、食べて・・・。もうこのニオイが今いやなの。



テスは自分の前の器をジュンスの前に押し出した。


ジ:まあ、いいけど・・・。




追加注文した冷麺に、お酢をたっぷりかけて、幸せそうな顔で、テスが冷麺を啜っている。


ジ:おまえ・・・大丈夫?
テ:ぜんぜん大丈夫! (食べながら、ジュンスを見る)
ジ:気持ち悪くない? すごい量の酢を入れたよ。(心配そうな顔をする)
テ:だから、大丈夫よ。(笑う)おいしい!
ジ:(いやな顔をする)どう見ても、マズそうだよ。変だよな。



そう言って、ジュンスは自分の料理を食べながら、呆れていたが・・・しばらく、考えるような顔をして、テスを見つめた。



ジ:そうなの?
テ:何が?
ジ:ちゃんと言えよ。
テ:何よ?
ジ:なんで言わないの?
テ:何を?
ジ:なんで・・・隠してるの?
テ:・・・何を?
ジ:気がついてるんだろ?
テ:ええ?
ジ:おまえ、しらばっくれるなよ。
テ:別にそういうわけじゃないけど・・・。


ジ:やっぱり!
テ:何よ!(笑う)
ジ:わかったよ。
テ:言ってごらんなさい!
ジ:何だよ! その言い方!(少し怒る)
テ:だって、気がついたんでしょ?

ジ:おまえ、何で隠してるの? (睨む)
テ:別にわざとじゃないわよ! (怒る)
ジ:じゃあ、なんでだよ!
テ:確証がなかったのよ。
ジ:でも、ちゃんと言えよ。

テ:だって、違ってたら、マズイでしょ?
ジ:でも、ちょっとぐらい話してくれたっていいじゃない!
テ:だから、あなたを失望させたくないから!
ジ:な、何言ってるんだよ!
テ:なんでそんなふうな言い方するかなあ!
ジ:普通は話すだろ!
テ:普通は様子を見るわよ!
ジ:早く言えよ!



店:お客様・・・。もう少し穏やかにお願いいたします。


ジ・テ:え?



二人が見回すと、周りの客が一斉に二人を驚いた顔で見ている。



ジ:あ、どうも、すみません・・・でした・・・。(周りに頭を下げる)
テ:ごめん・・・な・さい・・・。(一緒に頭を下げる)



店を出たところで、ジュンスが幸せそうな顔でテスを見た。


ジ:やっぱり、そうなんだ・・・。
テ:まだ、はっきりわからないけど。
ジ:明日、医者へ行くだろ?
テ:うん。



テスの顔を見ていて、愛しさが増したジュンスは、軽くテスの唇にキスをした。

すると、テスがジュンスを押し返して、口を押さえて、また、店のトイレへ駆け込んでいった。



車の中で、テスを待っていると、少し笑いながら、テスが車に乗り込んできた。


ジ:大丈夫?
テ:大丈夫。ああ、ジュンスのキスがイヤで吐いたんじゃないわよ。



ジュンスがエンジンをかける。



ジ:ホントにそうだったら、最悪だね。(ちょっと笑って顔を見る)



テスが笑った。


テ:でも、ホントはそうだったりして。
ジ:最悪! これって、厄介だね。
テ:でも、ちょっとうれしいでしょ?(顔を覗く)
ジ:・・・。(テスを見る)すごくうれしいよ・・・。


二人は見詰め合って笑った。




今日は、ジュンスの弟のテジョンが、二人に出産祝いを買ってくれるということで、スタジオへやってきた。


テ:やあ! あれ? テスさんは? (スタジオの中を見回す)
ジ:2階にいるよ。(2階に向かって)テス! テス! テジョンが来たよ。
テ:はあい。今、行くわ~。


テジョンがジュンスの顔を見た。


テジ:ふん。(笑う)幸せそうじゃない?
ジ:え? ああ・・・。(ちょっと赤くなる)
テジ:ふん!(笑う)



テスが妊娠8ヶ月のお腹を抱えて、階段を降りてきた。


テ:お待たせ! テジョンさん、こんにちは! わざわざありがとう。
テジ:うん。好きなの、選んでよ。子供用のタンスなんて、ぜんぜんわからないからさ。
テ:ええ。ありがとう。

ジ:子供が生まれてから、性別に合わせて注文してくれるんだろ?
テジ:ああ、一応ね。今日、2種類、借り押さえしておくよ。それで、男の子か女の子か決まったら、あったものを送ってもらうよ。
ジ:うん。そうして。
テジ:なんか、おかしいな。(笑う)アニキがそんなことに一生懸命になるのって。
ジ:別に一生懸命なんてさ・・・。
テジ:幸せって顔しているよ。ホントに。
ジ:・・・おまえねえ・・・。
テジ:いいことだよ。
ジ:ふん。(笑う)


テ:じゃあ、行きます?
テジ:ええ。じゃあ、アニキ。最愛のテスさんをいただくよ。
ジ:何言ってるんだよ。

テジ:ちょっとデート気分で家具を選びましょうね。
テ:テジョンさんたら! じゃあ、行ってきま~す。
テジ:じゃあねえ、パパ! お留守番、よろしくね!(手を振る)
ジ:早く行けよ!


ジュンスが嫌がって、テジョンを追い出すように大きく手を振った。



弟には、ちょっと嫌そうな顔はしたものの、内心はものすごく幸せだ。

今、ジュンスの中には、温かいものがみなぎっている。



ジ:あ~あ~。


ジュンスは大きく伸びをした。



幸せというのは、こんな暢気な気分なんだ・・・。





しばらくして、スタジオの電話が鳴った。



ジ:はい、もしもし、スタジオ「コッキリ」です。
女:あのう・・・。
ジ:はい・・・。
女:ジュンス?


ジ:あなたは・・・どちら様ですか?
女:・・・私よ、ジュンス・・・。



ジュンスの顔が、一瞬硬くなり、凍ったように、受話器の向こうの声に耳を傾けた。




第2部へ続く・・・。






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