2009/11/14 01:20
テーマ:【創】君に会えるまで カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「君に会えるまで」9(最終回)



BGMはこちらで^^


BYJシアターです。

本日は「君に会えるまで」第9部最終回です。

いつもよりロングバージョンでお送りします。

私の創作は長すぎて読めないという方もいるので
大変申し訳ないのですが・・・
切ってしまうと、臨場感がなくなってしまうので、
一気にアップしています。

では、
週末、ゆっくり読んでくださいね^^v


こちらはフィクションですので、ここに登場する人物、団体は実在のものとは異なります。



【配役】
インジュン、ケイジュン、ウォンジン:     ぺ・ヨンジュン
ユナ、      メイリン、 メイファー:      チャン・ツィイー



ここより本編。
では、最終回、お楽しみください。


~~~~~~~~


初めて
君に
会ったのは

いつの日だったろう



どんなに
激しい恋をしても

どんなに
ある人を切なく思っても


いつも
心のどこかで

君が囁いて



君のほうへ
心が
動いていく



許してほしい

僕が

掴み取る幸せを



僕は

僕は


必ず

幸せにするよ





主演:ぺ・ヨンジュン
        チャン・ツィイー


【君に会えるまで】第9部(最終回)




イ:もしもし、あ、ユナ?
ユ:インジュン! 元気だった?
イ:うん。今度の日曜日、そっちへ行くよ。
ユ:あ、そう・・・。(困る)
イ:どうしたの?
ユ:う~ん、友達の結婚式なのよ。
イ:何時から?
ユ:午前中からだけど、2時くらいまではかかりそうなの・・・。(困ったな)
イ:いいよ。待ってるよ。
ユ:ねえ、外で会わない? そのほうが時間を短縮できるし、一緒にどこか行かない? (声が弾んでいる)
イ:オレは・・・ユナの部屋で会いたい・・・。
ユ:・・・そう? (少しがっかりする)
イ:うん・・・久しぶりだろ?
ユ:うん・・・。私も・・・そうしたい・・・。(胸がいっぱいになる)待っててくれる? 途中抜け出して帰ってくるから? いいでしょ?
イ:うん・・・遅くなっても待ってるよ。最終の夜行バスで帰ってもいいし・・・。
ユ:ホント? うれしい! ありがと、インジュン。・・・待っててね・・・。必ず来てね。
イ:必ず行くよ。ユナに会いたいから。
ユ:うん! 私も!
イ:じゃあね。




ユナに嘘をついた。


どうしても、おまえのお母さんに、メイリンに会いたかっただけだ・・・。


ごめん、ユナ。
おまえをこんなに愛しているのに・・・嘘をついたよ。






イ:住職さん、生まれ変りを信じますか?
僧:生まれ変り? (インジュンをじっと見る)君は・・・。
イ:ジソン、君にはもう僕がわかるね?
僧:!!




どうしても、メイに会わなくちゃ・・・。

もちろん、ユナ、おまえが恋しいよ。







メイリンが、お茶をコーヒーを飲みながら、リビングの時計を見る。


メ:2時には帰ってくるって言ってたけど、あと、1時間くらいね・・・。
イ:心配しなくてもいいですよ、今日は、夜行バスで帰ることにしているので。
メ:そう? それはよかったわ。ユナがあなたに会いたがって・・・。とっても、楽しみにしてたから。
イ:僕もです・・・。(メイを見つめる)
メ:そう・・・。(見つめ返す)


イ:つまらないことを聞いてもいいですか?
メ:ええ。
イ:ユナが、パパとママは私たちみたいに大恋愛だったのよって、言ってたから・・・。お二人の成り染めを、聞いてもいいですか?
メ:・・・。(見つめる)
イ:・・・パリで知り合って、お父さんと22歳も年が違うって聞いたから・・・。失礼なら、いいんです・・・。ごめんなさい・・・。
メ:いいのよ・・・。うん・・・。秘密を教えてあげる。(インジュンを見つめる)
イ:秘密?
メ:ええ・・・。私が押しかけ女房だってこと。(じっと見つめる)
イ:お母さんが結婚を申し込んだんですか? (驚く)
メ:ええ。私が21になったばかりで、彼が43歳の時なの・・・。ある事件が起きて・・・。それが1月18日で・・・私が夫のイ・ソンジュの所を訪ねたのが1月23日だったわ。
イ:・・・。(じっと聞く)
メ:その時、プロポーズしたの・・・。どうしても、彼を引き止めなくちゃならなかったの・・・。その翌日、ソンジュは韓国へ帰国しなければならなかったから・・・。彼は大切なものを、韓国に住む彼の友人のご両親に届けなければならなかったから・・・。とても大切なものを。
イ:!!
メ:だから、帰国する前に、彼を私のものにしなくちゃならなかったの。
イ:・・・なぜ?
メ:どうしても・・・韓国へ行きたかったのよ。(じっとインジュンの目を見る)・・・・「彼」の故郷の、韓国へ・・・。
イ:・・・「愛してた」んですね・・・・。
メ:ええ・・・「彼」をとても・・・。だから・・・。切羽詰って訪ねた私を、ソンジュは受け入れてくれたの・・・。静かに、力いっぱい抱き締めて。
イ:・・・。
メ:それからしばらくして、私たち、結婚したのよ。それからは、パリを出て、彼の赴任先のアメリカへ行って・・・11ヵ月後にユナを生んだわ。結局、韓国で暮らせるようになったのは、ユナが中学に入ってからなの。14年かかって、やっと、韓国へ来られたのよ・・・。(微笑む)


メイとインジュンはじっと見つめ合った。


イ:・・・大切なものって何だったんですか?
メ:あるもの・・・私ね・・・その一部をここに入れているの。


メイが洋服の内側に提げていた小さな筒型のロケットのペンダントを取り出して見せた。


メ:ここにね、それの一部が入っているの・・・。私がソンジュを訪ねた時、彼がくれたのよ。
イ:!!!(涙が出そうになる)
メ:うちの夫って、ちょっと不思議な人だった・・・。


思い出すようにメイは自分の手元を見た。


メ:彼はこのロケットを、私が首からずっと提げていることを全く嫌がらなかったの・・・。普通なら、夫が嫌がりそうなものが入っていたのにね・・・。そういう人だったわ。
イ:いい方だったんですね・・・。
メ:そう、最高の夫でしたよ。(ロケットを触って)ソンジュはこれを、「私たちのキューピットだ」と言ったわ・・・。守護天使だとも・・・。(ロケットを握り締める)
イ:・・・。(その仕草を見つめる)



リビングの暖炉の横に、筒型をした大きめなバカラの花瓶があり、そこに白いカラーの花が数本活けてある。



メ:ねえ、インジュン君。あの花あるでしょう。(指差す)
イ:カラーですか?
メ:そう、あれは私が結婚してから好きになった花なの・・・。ユナが2歳になった時に、ソンジュがプレゼントしてくれた花なのよ・・・。それまでは、私は時々憂鬱になって・・・苦しくなって、全てがイヤになったりしてたの・・・。でも、それを夫には言えなかった・・・。ユナの誕生日の日にね、彼がこの花をくれて・・・この花のように生きろって。
イ:どんな風に? (胸が熱くなり、それだけ聞くので精一杯だ)
メ:白いカラーの花は、あんなにシンプルでいながら、喜びも悲しみも苦しみも、あの大きな口で全てを飲み込んでも、いつも清楚で美しい佇まいをしているって。だから、君もそうであってほしいって・・・。
イ:・・・・。
メ:カラーの花言葉はね、乙女のしとやかさ、情熱、清浄、清らかさ、歓喜。それに、白のカラーは愛情と、乙女の清らかさ。・・・ユナにもこうあってほしいわ。
イ:・・・・。すみません。ちょっと洗面所をお借ります。(立ち上がる)
メ:・・・ええ・・・。




インジュンは堪えることができなかった。

自分が亡き後の数年間、メイがどんな気持ちで生きたのか、そして、ソンジュがそれをどれだけ支えてくれたのか。それを思うと、胸が苦しくなって、メイの前に座っていられなかった。

ソンジュがいたから、彼女は今こうしてあのカラーの花のように、美しい佇まいで生きているのだ。



先輩・・・あなたはやっぱり、生き方の達人だったよ。
そして、ありがとう。
僕だけじゃなくて、メイにもそれを伝授してくれたんだね・・・。

あなたの愛はとても、とても、深いよ・・・。



インジュンは泣けて、しばらく洗面所から出てくることができなかった。






メイはまた時計を見た。


メ:まだかしら? もうすぐ帰ってくると思うけど。
イ:いいですよ、そんなに心配しなくても。僕はお母さんとお話しているだけでも楽しいから。
メ:・・・。(微笑む)


インジュンとメイがしばし、見つめ合った。


イ:実はこの間、あるものを見にいったんです・・・。
メ:何を?
イ:お母さんが演奏する「魂の在り処」は、実は韓国の民謡で、今、僕のいる支局のある所の民謡だったんです。
メ:!
イ:それで、それには詞が付いていて、ある領主が亡くなった妻の生まれ変りを探して歩く、切ない歌だったんです。(メイを見つめる)
メ:そう・・・・。
イ:この間、その領主が描いた妻の絵を奉納してあるお寺に行ってきたんです。
メ:!(インジュンを見つめる)
イ:それを見せていただいてきました。
メ:・・・普通にいっても見られるの?
イ:もし、いらっしゃるなら、僕がお寺に連絡します。僕はKBNの取材で行ったので。
メ:そうなの・・・。


メ:どんな絵だったの?
イ:韓服を着た女性の絵です・・・。美しい人でした。
メ:そう・・・。



そうだ。
この記憶はオレにしかない。メイはこの記憶を持ってないんだ・・・。

君の若い時に瓜二つだったよ・・・。



メ:一度見てみたいわ・・・。チャンスがあったら伺いたいわ。・・・ねえ、インジュン君、紅茶、飲まない? 今、入れてくるわ。





メイはキッチンへ逃げ込んだ。

インジュンの前に、これ以上座っていられない・・・。

今日のインジュンはケイジュンにしか見えない。

彼はケイジュンではないか?
ケイジュンの記憶を持っているのではないか?

今までのインジュンとは目の輝きが違う・・・私を見る目がぜんぜん違う・・・。大人の目をしている。


思い違いかしら?


でも何か気づき始めているのは確か・・・どこまで知っているの・・・。


メイはキッチンの流しの前で、呼吸を整えた。






玄関のドアが開く音がして、ユナが勢いよく入ってきた。


ユ:ただいま~!(リビングへ入ってくる)


今までの重苦しい空気が、一気に華やいだ。


ユ:インジュン! 待った? ごめんね! 


ユナはバッグや引き出物などの紙袋を投げ捨てるように置くと、インジュンの座っているソファの前に膝まづいて、インジュンを見上げた。

インジュンが愛しそうに、ユナを見つめて、髪を撫でた。


イ:・・・。
ユ:・・・。(微笑む)


インジュンは立ち上がって、ユナの手を引いた。ユナはインジュンの目を見て、彼についていく。
そして、2階へ上がっていく。


メイはその後ろ姿を見て、紅茶を持って、キッチンへ戻った・・・。






ユナの部屋に入ると、インジュンがユナを抱きすくめてキスをした。
それから、ぎゅっと抱き締めて、しばらく動かなかった。


ユ:どうしたの?
イ:ごめんよ・・・。
ユ:何が?
イ:・・・待ってただろ?
ユ:いいのよ、インジュン・・・。


インジュンがユナのジャケットを脱がし、ユナの首元に、胸にキスをした。


ユ:ねえ、待って、待って。このドレス高いの・・・。


インジュンは、そんなことは聞いていなかった。
ユナの式服用のシルクデシンのスリップドレスの肩を外す。


ユ:ねえ、待って。脱ぐから、少しだけ待って。


ユナは、インジュンの顔を見上げた。

燃えるような瞳で見つめている・・・。


ユ:インジュン・・・。


もうユナはドレスのことは言わなかった。

そのまま、ベッドへ倒れ込み、インジュンが、ドレスの裾をたくし上げた。




ユナ、
今のオレを許して・・・。

今の本当の気持ちを
許して・・・。




愛してるよ・・・メイ。



インジュンは、今自分の中に渦巻く、全ての感情を吐き出すように、ユナを抱いた。










男:インジュン! 3番に、おまえに電話!
イ:あ、すみません! (受話器を取る) もしもし、ハン・インジュンです。
メ:インジュン君? チェン・メイリンです・・・。
イ:あ!(胸がズキンとする) どうしましたか?
メ:あなたにお願いがあるの・・・。
イ:何ですか?


メ:あなたが見たという、その絵を見たいの・・・そのう、領主さんが描いたという・・・。
イ:西宮のお寺の?
メ:ええ・・・。「魂の在り処」のホントの在り処を見たいの・・・。
イ:・・・わかりました。
メ:そのお寺に連絡、取ってくださる? いいかしら?
イ:ええ・・・是非、見てください・・・。お母さんには見てほしいんです・・・。住職には、僕から連絡入れておきますよ。
メ:ありがとう。この事・・・ユナには内緒にしてくれるかしら?
イ:ええ・・・。
メ:ありがとう、じゃあまたね。


イ:メイ!・・さん!



メイは一瞬驚く。
インジュンがメイを名前で呼んだ。
でも、気づかないふりをして答える。



メ:なあに?
イ:もう一枚・・・もう一枚、絵があるんです・・・。母屋に。
メ:もう一枚?
イ:ええ・・・。住職にお願いしておきますので、それも見てください。
メ:・・・わかったわ。行けばわかるのね?
イ:ええ。それと・・・それを描いた画家のお墓もあるんです・・・。菩提寺なんです、そこが。
メ:!!
イ:そちらにも是非お参りしてください。







それから、数日経って、メイはインジュンから聞いた西宮の寺へ向かった。

寺の脇にある玄関を訪ねると、住職が出てきた。そして、その顔は蒼白になった。




ケイジュンの墓もお参りして、メイは疲れたような顔をして、寺を後にした。









境内をゆっくり歩き、山門まで来ると、メイは自分の目を疑った。

そこに、ケイジュンが立っていた。



メ:・・・・。(目を見張る)
ケ:メイ、久しぶりだね・・・。(じっと見つめる)
メ:・・・ケイジュンなのね?
ケ:うん・・・。わかるかい?(微笑む)
メ:ええ・・・。


ケ:君とちゃんと話がしたくて、ここで待っていたんだ。
メ:・・・。(見つめる)ケイ・・・。


メイは、ケイジュンの頬を触り、肩を撫でて、胸に手を当てた。


メ:ホントにケイなのね?(目を見る)


メイの頬を涙が伝う。


ケ:うん・・・。この前、ここへ来て、思い出したんだよ。でも、それを君になかなか言えなくて・・・。
メ:・・・そう・・・。(見つめる)
ケ:でも、言わなくちゃね・・・。君が人生をかけて、僕を探してくれたんだから。
メ:・・・。
ケ:ちゃんと、君と向かい合わなくちゃ。
メ:ケイ・・・。こんなことって、こんなことって・・・。今、私は全てを見てきたわ・・・。ウォンジンの愛を・・・ケイ、あなたの絵もお墓も・・・。そして、今のあなた・・・。住職さんが、私を見て驚いていたわ、ウォンジンの絵にそっくりで。
ケ:うん・・・。(頷く)僕もここへ来てわかったんだよ。ここが、昔、僕がいた所だったって・・・。ここの空気が、風が、木が僕の中のものを目覚めさせた。僕の中の全てを・・・。そして、メイ、君が僕の全てだったということも・・・。



ケイジュンは、メイを抱き締めた。
メイは戸惑いながらも、ケイジュンに抱かれ、顔を見つめる。



メ:やっぱり、あなただわ・・・。ケイ、会いたかった・・・。


ケイジュンがメイをまぶしそうな目で見つめた。


ケ:やっと、会えたね。








二人は、お寺から少し行った、近くの海の浜辺に座っている。
24歳の姿のケイジュンと50歳になったメイが並んで座っている。


メ:ケイ・・・・。また会えたなんて・・・本当に記憶のある、あなた自身に会えたなんて・・・。
ケ:君は僕を見つけて、すぐにわかった?
メ:ええ。インジュンに会ってすぐに直感したわ。そして、だんだんに確信したの、あなただって・・・。
ケ:ありがとう、探してくれて。
メ:ケイ、違うわ。あなたが先に気が付いたのよ。ユナを見て・・・ユナに懐かしさを感じて・・・。
ケ:ユナは君にそっくりだね。・・・ソンジュは、君を大切にしてくれたんだね?
メ:ええ、そうよ。私をとても大切にしてくれたの・・・。そして、ケイ、あなたを一緒に探したいって言ってくれたの。
ケ:僕を? (驚く)
メ:ええ、私、彼に、私たちの生まれ変りの話をしたの。あの人は無神論者だったのに・・・信じてくれた・・・。まるで、雷にあったようだって言ったわ。彼も、あなたがとても懐かしい人だって。もう一度あなたに会いたいと、言ってくれた。それで・・・アメリカ時代に一生懸命、伝を探して、私のLPを韓国で出してくれたのよ。まだ見ぬあなたが気が付くようにって。
ケ:そうか・・・。




ケイジュンは海を見つめている。



ケ:僕は、ここを馬で全速力で走ったことがあるんだ。
メ:?
ケ:ウォンジンとしてね・・・。君が重態だと聞いて・・・夢中で馬を走らせた・・・。
メ:!!
ケ:そして、メイファー亡き後は、君の生まれ変りを探して、彷徨ったんだ・・・。



ケイジュンは自分が座っている浜辺の砂を握りしめる。そして、少しずつコブシの中から砂を落としていく・・・。



ケ:そして・・・ここは、メイファーを探す旅を終えた場所でもあるんだ・・・。
メ:なぜ?
ケ:10年も旅を続けて探して・・・領主としての務めを疎かにしていたから・・・。
メ:そんなに長い間! (驚く)
ケ:ここで、沈む夕日を見ながら、父親代わりに僕を育ててくれた侍従に諭されて・・・旅をやめたんだ・・・。でもね・・・メイ。僕がここで旅をやめたのに・・・その侍従はね、密かに君を探してくれたんだよ。そして、小さな君を僕は養女に迎えることができた。(メイを見て微笑む)
メ:そうだったの・・・うろ覚えにしか覚えてなくて・・・。確か、お爺さんがやさしく私の手を握ってくれたわ。(微笑んで顔を見る)
ケ:(にこやかに頷く)そうだよ。それが僕。でも、メイ、君を探してくれた人って誰だかわかる?
メ:さあ・・・。
ケ:ソンジュだよ・・・。(見つめる)
メ:!!(胸が痛い!)


ケ:彼はいつもいいやつだった・・・。どの時代でも、僕たちに尽くしてくれる・・・。
メ:・・・ああ、ソンジュ・・・。(泣けてくる)
ケ:一緒にいて、素敵な人だったでしょ?
メ:(何度も頷く)ええ、ええ、とても! すばらしい人だった。最高の夫だったわ・・・。最愛の人だったの・・・。(泣く)
ケ:そうだよね・・・すばらしい人だったよ・・・いつの時代も。




ケイジュンは、砂の上に仰向けに寝転んだ。


ケ:・・・いつの時代も生きていくことは辛いねえ・・・。
メ:・・・。
ケ:ああ・・・。(空を見る)


メ:・・・。ケイ、私、今まで、私たちって、不幸だと思っていたけど・・・。そうでもないのかもしれないわね・・・。(考えながら話す)
ケ:そうかな・・・。
メ:うん・・・。(砂をいじる)結ばれないけど・・・心はいつも結ばれているじゃないの・・・いつでも。今だって・・・。(ケイジュンを見る)
ケ:うん・・・。(やさしくメイを見る)
メ:それだけでもすごいことよ・・・。それだけでも、幸せなことよ、きっと。(ケイをじっと見つめる)
ケ:そうだね・・。


メ:あなたは、私と同じ、一つの貝だった。だから、心は一緒。愛していて当たり前・・・。
ケ:うん。
メ:努力なんていらないのよ・・・。だから、それ以上求めちゃダメ。・・・いけないわ・・・。それだけで幸せなことなのよ・・・。今、やっとわかったわ。




24歳のケイジュンと50歳になるメイリンはじっとお互いを見つめ合う。




ケ:当たり前に愛しているよ、メイ。
メ:私も、ケイ・・・。




ケイジュンが立ち上がった。



ケ:じゃあ、住職に挨拶してくるよ。もうここには来ないからって・・・。やつは中学の同級生なんだ。最後の挨拶をしなくちゃ・・・。もう、僕は、インジュンとして生きていくから!
メ:そうね・・・。一緒に行くわ。


ケイがメイの手を引いて、メイが立ち上がる。
メイがケイジュンの背中を叩いた。


メ:もう、あなたったら、砂だらけよ。(うれしそうに砂を払う)
ケ:(にこやかに顔を見る)行こう。


ケイが手を差し出した。


ケ:さあ。
メ:うん。


メイはその手を見つめて、手を繋ぐ。



二人は笑った。


一歩一歩、沈む砂の上を踏みしめて歩く。

ケイが手を解いて、メイの肩を抱き直す。
メイはケイを見上げた。


ケ:君も僕を抱いてよ。いつもそうやって歩いたじゃない。(笑顔で言う)
メ:うん・・・。(少し泣きそうになるが、笑って顔を見る)


メイはケイジュンに抱きつくようにして歩く。



少し歩いて、ケイジュンが止まった。

そして、もう片方の手で、メイの顎を掴んだ。

メイが見上げると、ケイジュンが口づけをした。


そして、二人はお互いをじっと見つめ合った。

メイは泣きそうな思いを我慢する。
ケイが涙を落とした・・・。



二人は黙って歩く。
一歩一歩の重さを感じながら。


帰っていくことが・・・
現実の暮らしに戻ることだから・・・。








寺の山門が見えてきた。

ケイジュンがメイに言った。


ケ:ちょっと待ってて。住職に別れを言ってくるから。
メ:うん。

そこから、ケイジュンだけ小走りに、山門の近くまで走る。



メイはケイジュンの後ろ姿を見ながら、何気なく、山門の屋根を見た。

屋根の瓦が一枚、ズルッとズレたように見える。
不思議そうに屋根を見つめながら、メイは山門に近づく。


やはり、瓦が外れている。


メイには、それが、スローモーションのように見えた。

次の瞬間、ケイジュンが目に入って、メイリンは叫んだ。



メ:ケイ! ケイジュン! だめ! そこへ行ったらだめよ! 屋根が落ちるわ! 止まって! アタンシヨン! アタンシヨン! ケイ! ケイジュン! (走っていく・・・)


ケイジュンがその声に振り返った時、メイの体がケイジュンを押し倒した。









イ:メイ! メイ、しっかりして。(メイの手を握る)
メ:ケイジュン・・・。
イ:もうすぐ、もうすぐ、ユナが来るからね。ユナが来るから、頑張って!
メ:うん・・・。あなたは大丈夫なのね?(インジュンを見つめる)
イ:うん。メイ、ありがとう。君のおかげで助かったよ。ありがとう。(辛そうに見つめる)
メ:よかった・・・。


インジュンはベッドに横たわるメイの髪を撫でる。
愛しそうに顔を見る。
目を見て、額を見て、唇を見て、メイの顔を見つめる。


そのしぐさはケイジュンだった。


メ:ケイジュン・・・。
イ:メイ、メイ、僕の愛しい人・・・。(涙が落ちる)


インジュンがメイの手を取って、自分の頬に手を当てる。


メ:ケイ・・・。私って幸せ者ね・・・。二度もあなたに会えて、こうやって・・・見送ってもらえるなんて・・・。
イ:何を言ってるんだよ。これからも、ずっと一緒にいよう・・・。
メ:うううん・・・もうだめのはわかっているの・・・・胸が痛いわ、呼吸が苦しい・・・。
イ:メイ、メイ・・・。君が犠牲になるなんて・・・。(涙がこぼれる)
メ:いいのよ、うれしいの。今度は・・・助けることができたもの・・・。
イ:メイ・・・。(頬に当てたメイの手を握り締める)
メ:ケイ・・・。言い残しておきたいわ。(苦しくて息が漏れる)私、あなたより大人だから、わかったことがあるの・・・。運命の糸だけじゃなくても、人を愛することができるということ・・・。ソンジュをちゃんと愛せたわ。胸が痛くなるほど・・・。
イ:うん・・・。(頷く)
メ:だから、ケイ。ユナを愛してね。今まで通り、ユナを愛してね・・・。愛してるでしょ?
イ:うん、胸が痛くなるほど・・・。
メ:よかった・・・。(幸せそうに微笑む) 幸せにしてあげて・・・。私の分も・・・私のかわいい娘・・・。
イ:わかった、わかったから・・・もう何も言わないで。苦しくなるから、少し休んで・・・。もうすぐ、ユナが来るから、着くから。少し休んで!
メ:ユナを大切にしてね・・・。
イ:わかってるよ・・・。メイ、今の僕はユナを愛しているんだから。
メ:うん・・・。(苦しい中で微笑む)





病室のドアが開く。


ユ:ママ! ママ! どうしたの!
メ:ごめんね、ユナ・・・。


ユ:インジュン!
イ:お母さんがオレを助けてくれたんだ。お寺の山門の瓦が落ちてきて・・・。
ユ:いったい、どうしたの、ママ!
メ:「魂の在り処」の絵を、お寺に見にいったのよ・・・インジュンに頼んでもらって・・・。
ユ:ママ! ママ! 苦しい? ねえ、ねえ? (泣けてくる)
メ:ユナ・・・。
イ:先生を呼んでくるよ!
ユ:(メイの手を握りながら)お願い、インジュン!


メ:ユナ・・・私の、かわいいユナ・・・。インジュンと幸せにね・・・。
ユ:ママ・・・。
メ:彼はとってもいい人よ・・・私にはわかるの・・・。
ユ:うん。きっと幸せになるから・・・。お願い、ママ。しゃべらないで。苦しいなら、話さないで。今、先生が来るから・・・。インジュンが呼びに行ってるから!
メ:幸せになって・・・パパとママみたいに・・・。
ユ:うん。絶対に幸せになるから!
メ:彼を大事にしてね・・・。
ユ:ママ! 大事にするから。ママ! ママ!


インジュンが医者と一緒に入ってくるが、メイはもうここにはいなかった・・・。







病院の外のベンチで、ユナがインジュンに肩を抱かれている。


ユ:なんで私に内緒でインジュンのところへ一人で来たの?
ィ:・・・この間、君のうちへ遊びに行った時に、オレがこっちで、「魂の在り処」の元歌の詞を書いた領主の絵を見つけたって話したから。
ユ:そう・・・。それで、ママは、その絵をお寺に見にいったのね?
イ:うん・・・・。オレが案内したから・・・。帰りにそこの山門の屋根の瓦が落ちてきて。
ユ:そうだったの。それも運命だったのかな・・・。パパが名づけた通りに「魂の在り処」だったのかな・・・そこが。



インジュンがユナの頭を抱き寄せる。

ユナは思いがあふれて、インジュンの胸で声を出さずに、体を震わせて泣いた。

それはまるで、悲しみがインジュンの胸に沁み込んでいくような泣き方だった。









メイリンがこの世を去ってから3ヵ月が経った。


トレンチコートを着たインジュンが、片手に大きな白い花束を抱えて・・・坂道を下っていく。


ユナの両親の眠る墓地へ来た。


ユナの父親は、生前、宗教というものを拒んで生きた人だった。
彼の唱えたのは、サルトルと同じく無神論的実存主義で、彼自身、長い間、無神論者だった。

しかし、亡くなる少し前、妻のメイリンの勧めで、彼女と同じキリスト教の洗礼を受け、今二人は同じ墓地に眠っている。


父親のイ・ソンジュがただ一つ、自分の意思を貫かなかったことだ。


彼は、自分の遺骨を海に撒いてほしいと言った。

でも、妻のメイリンはそれを拒んだ。
拒んだというより、自分はソンジュのそばで眠りたいと言ったのだ。

運命などに負けず、自分が生きた証を残したいと言った。22年という歳月をいつも自分と共にいてくれた夫のそばにありたいと言った。

その言葉は、夫ソンジュの心の奥深くで、いつもくすぶっていた不安を消し去った。
そして、彼は妻の願いを聞き入れた。




インジュンは、メイリンの葬式の時に来た彼女の墓地の前に立った。
そこに、彼女は現世の夫とともに埋葬されている。



インジュンは枯葉を取り除いて、墓をやさしく撫で、メイの好きだった白いカラーの花を手向けた。

そして、長い時間、墓を見つめてから、彼は呟いた。


イ:ソンジュ・・・。君がメイを守ってくれたんだね。・・・ありがとう・・・。いいよね? 僕は結婚するよ。そして、君たちの大切なユナを大事にするよ。それでいいだろう? 




メイリンの愛した一人娘のユナとインジュンは結婚する。

彼女を大切にしていくことが、メイリンへの愛の証であり、自分の幸せへの道だと、インジュンは考えている。

そして、何よりも今の自分、インジュンとして生きている自分にとっては、ユナは初恋の相手であり、激しい恋の相手であり、最愛の女である。


しかし、自分の中に目覚めてしまった、自分がケイジュンだった頃の生々しい記憶。
それが今のインジュンの中には残されている。

メイを愛しながらも添い遂げることができなかった自分。
メイを愛した記憶と共に、メイの最期を見送った時の喪失感は一生忘れないだろう。




これからも、ユナを愛して、幸せにするよ。

そして、この時代の僕は、ユナとの幸せな家庭を築き、メイ、君が運命に負けず、一人の男の人を愛し抜いたように、僕も全力で生きるよ。



彼は墓をじっと見つめたまま、立ち上がった。そして、また呟いた。



彼:また会う日まで、メイリン・・・。僕の愛する君、愛しかった君、さようなら!


彼はそう言って、墓を後にした。













ユ:パパ~。アップルパイ、できたわよ。

アップルパイと紅茶を持って、ユナがリビングへ入ってきた。


イ:ん。(PCをやめて、ユナのほうを見る)サンキュ! メイ! メイリン! アップルパイだよ~。
メ:わあい!


リビングの隅のほうで遊んでいた5歳になるメイリンが、父親の膝目指して、走ってきた。

ドンっと父親の膝に乗った。


ユ:もう、パパ! 一人で食べさせてよ。パパがうちにいる日は甘えんぼになって困るわ。
イ:いいじゃない。たまの休日くらい。ねえ~。(メイリンを見ながら言う)
メ:ねえ~。(パパを見ながら笑う)
ユ:ホントに二人で結託してるんだから!


イ:おいしいねえ~。
メ:おいしいねえ~。
ユ:(笑う)全く!


イ:しかし、これを食べると、お母さんを思い出すね。(しんみりとする)
ユ:そうねえ。
メ:メイによく似たおばあちゃんだったの?
イ:うん、そうだよ。メイにそっくり。(メイをキュッと抱きしめる)


それをじっとユナが見つめる。


イ:なんだよ?
ユ:(口を尖らす)・・・。
イ:おまえ、バカじゃないの。自分の娘だよ。それもおまえによく似た娘。ママはホントにヤキモチ焼きだよねえ。(メイを見て笑う)
ユ:ふん。(二人を見る)もう、あなたたちには、お手上げだわ。(呆れる)
イ:(笑う)バカだなあ。


メ:メイはおばあちゃん似?
イ:ママとおばあちゃん似。二人ともそっくりだから・・・でも、どちらかというと、お母さんに似てるよね、佇まいが。(ユナを見る)
ユ:そうね。・・・パパ、それって私がガサツだっていうこと?
イ:そう。(笑う) でも、そこが元気があって、ママのいい所だもんねえ。(メイを見る)
メ:ねえ。(パパを見る)
ユ:やな親子!



ユナはこうやって、子供を大事にするやさしい夫と、楽しく穏やかな日々を送っていることをとても幸せに思っている。


その反面、なぜか・・・自分は妻で・・・もちろん、彼と一緒に夜を過ごしているのも自分で・・・彼はとても愛してくれていて・・・働き者で、最高のパートナーなのに・・・、娘と二人でいる様子を見ると、なぜか胸の辺りがザワザワとする。


インジュンの言う通り、自分にそっくりな娘を彼は愛してくれているのだ。
それって最高に幸せなはずなのに・・・。


そっくりな娘をいつも膝に乗せて、かわいがってくれているのに。


自分の母親が生きていた頃は、母と二人でいるインジュンを見ると、いつも胸がざわめいた。


インジュンにとっては、私は初恋の人で、たった一人の女で・・・彼は私に全てを預けてくれているのに・・・。

彼はただ、私の周りの人を大切にしてくれているだけなのに・・・。
私に似た二人を愛してくれているだけなのに。

自分の身内に一々ヤキモチを焼くなんて・・・どうかしてるのに!


私って、ホントに嫉妬深くて、バカみたい!

なんでこうなんだろう!!





イ:今日は買い物に行くの?(食べながら言う)
ユ:うん。
イ:どこまで?
ユ:ソウルデパート。バーゲンやってるから。(うれしそうに言う)
イ:そうっか。じゃあ僕はやめておこう。
ユ:インジュンも出かけたかったの?
イ:だって、すごくいいお天気じゃない。
ユ:じゃあ、どこか行く?
イ:いいよ。(笑う)バーゲンて今の時期じゃないとやってないんだろ。せいぜい安いいいものを探して、我が家の経済に寄与してください。
ユ:わかった!
イ:そう言って、おまえはたくさん買っちゃうんだから。(笑う)
ユ:フフフ・・。バレた? ねえ、メイ、置いていってもいいでしょ?
イ:いいでちゅよお。仲良くお留守番するよねえ。
メ:ねえ。
ユ:もう勝手にして!(笑う) なるべく早く帰ってくるね。
イ:うん!



ユナとインジュンは見つめ合って笑った。






メ:パパ~。これ、読んでえ。


イ:またこれ? 好きだねえ。メイは、サンボのお嫁さんになりたいのかな?
メ:ええ~! 違うよ、パパのお嫁さん!
い:そうか、それはうれしいな。おいで。

絵本を持ったメイを膝に乗せる。


イ:そうだ・・・。おばあちゃんもこの本、好きだったんだよ。
メ:メイにそっくりな?
イ:そう、遺伝するのかなあ? おばあちゃんが、子供のころ読んでいたフランス語版のこれがうちにあるんだよお。
メ:とってあるの? (メイが驚いた目をしてインジュンを見る)
イ:(メイが驚いていることに驚くが)そうだよ。パパが大事に、おばあちゃんの思い出としてしまってあるんだよ。
メ:・・・へえ・・・。おばあちゃんのものをまだ持ってるの?
イ:うん、パパにとっては大切な人だったからね・・・。そうだ。いつか、メイもフルートを習おうね。おばあちゃんみたいに。・・・・久しぶりに、聴いてみようかな・・・。
メ:何を?
イ:パパとおばあちゃんが一緒に演奏した曲。おばあちゃんがフルートを吹いてパパがピアノを弾いて・・・。それから、二人で、ピアノで連弾したんだよ。一緒に並んで座って・・・ピアノを弾いたんだよ。


メイがパパを見ている。


イ:ちょっと(メイを膝から下ろす)ちょっと待ってねえ。


インジュンがCDラックから探し出す。


イ:これだ・・・。カセットテープをCDにしておいてよかったな。


リビングのオーディオデッキに入れる。


あの時の曲がリビングいっぱいに流れる。

インジュンは、娘のメイリンのことを忘れ、デッキの前に座り込んでじいっと聴いている。

ソファに一人残された娘のメイリンがそんな父親の様子を、じっと見つめている。


曲が終わってからも、インジュンはしばらく動かなかった。




メ:パパ?


娘の声に、娘のことを思い出して、インジュンは立ち上がり、メイを見てにこっと笑って、ソファのほうへやってきた。
その目はちょっと涙で光ったように見えた。


イ:ごめんねえ。ちょっとおばあちゃんを思い出しちゃったんだよ。(溜息をつく)


メイのところへ戻って、また膝に抱いて、絵本を広げる。


イ:さあ、大好きなサンボ君を読もうか。
メ:パパ?
イ:何だい?
メ:パパ、おばあちゃんのこと、思い出して悲しいの?
イ:え?
メ:少し泣いてる。悲しいの? 
イ:うん。大好きだったからね。懐かしさで胸が痛くなっちゃったんだよ。
メ:メイが生まれる前に死んじゃったんでしょ?
イ:そうだよ。パパはね、高校生のころから知っていたからね・・・・。キレイでやさしい人で・・・大好きだった・・・。
メ:そうなんだ。今でも?
イ:うん、今でも大好きなんだよ。(メイを見て微笑む)
メ:メイにそっくり?
イ:そう、メイにそっくり・・・。メイの名前もおばあちゃんからもらったんだよ。おばあちゃんを忘れないように・・・いつも心のそばにいるように・・・。



インジュンは、メイを後ろから抱きしめ、娘のニオイを嗅ぐ。
いつもの日向のニオイだけでなく、やさしい懐かしい香りがする。



メ:パパ。おばあちゃんのことだけじゃなくて、メイのことも大好きでしょ?
イ:パパは、メイのことは大、大、大好きだよ! メイもパパのことを大好きかな?(より強く抱きしめて、顔を寄せる)


メ:うん! メイもパパが大、大、大好き! ・・・大好き・・・。ずうっと昔から、ずうっと・・・大好き。・・・ずうっと愛してるわ・・・。
イ:え?(顔を上げる)
メ:私もあなたが一番好き。ずっと好き。(インジュンの顔を見る)


インジュンは驚いて、娘のメイの顔をマジマジと見る。


メ:インジュン、今はあなたの子供だけど・・・でもいいの。親子ですもの、もう絶対離れないでしょう? 一生あなたを見ていけるわ。
イ:君は・・・。(娘の顔をまじまじと見つめる)
メ:やっと一緒になれたわね。あなたの腕に抱かれて・・・とても幸せよ。(うれしそうに見つめる)
イ:・・・・。(愛しそうに娘の顔を見つめる)
メ:いつまでもそばにいてね・・・いつかまた、ずっと未来に、結ばれる時が来るわ。でも今は、私を見守るやさしいお父さんでいてください。
イ:ああ。(力強く抱きしめる)やっぱり君だったんだね・・・君だったんだね・・・。(泣けてくる)
メ:ケイジュン、あなたに会いたかった・・・。とってもあなたに会いたかった。もうこんな近くにいるんだもの。とっても幸せよ。
イ:メイリン! 会いたかったよ、とても会いたかったよ、君に。
メ:愛してる・・・。
イ:うん、うん。僕も愛してるよ。君を忘れた日なんてなかったよ。(強く抱きしめる)


インジュンは娘を抱きしめてメイリンの唇にキスをして、二人は見つめ合う。





玄関のドアが開き、ユナが帰ってきた。


ユ:ただいま~。



メ:さよなら・・・インジュン。
イ:行かないで! メイリン、行かないで。
メ:また、いつか一緒になりましょう。またいつかね・・・。
イ:メイ! メイ!


インジュンはメイを強く抱きしめた。




メ:もう、パパったら! やだ!


インジュンはメイを見つめた。
彼女はもういつもの娘の顔に戻っていた。



この子の中に、本当のメイリンの魂がいるんだ!



イ:ごめんよ、あんまりにメイがかわいいから。(目を見張りながら言う)
メ:パパったら、もう! (笑って、インジュンの膝から降りて、玄関のほうへ走っていく)ママ~、お帰りなさ~い。



インジュンはまるで抜け殻のようになって、愛しい娘の後ろ姿を見送った。







そして、母親のもとへ走っていくメイリンの瞳に、涙が光ったことなど、インジュンは知らない・・・。











THE END






2009/11/12 01:45
テーマ:【創】君に会えるまで カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「君に会えるまで」8



BGMはこちらで^^



BYJシアターです。


本日は「君に会えるまで」第8部です。


こちらはフィクションですので、ここに登場する人物、団体は実在のものとは異なります。


【配役】
インジュン、ケイジュン、ウォンジン:     ぺ・ヨンジュン
ユナ、      メイリン、 メイファー:      チャン・ツィイー



ここより本編。
お楽しみください。


~~~~~~~~~



初めて
君に
会ったのは

いつの日だったろう



どんなに
激しい恋をしても

どんなに
ある人を切なく思っても


いつも
心のどこかで

君が囁いて



君のほうへ
心が
動いていく



君が
僕の前に

いるというのに



僕は

僕は


いったい
どうしたら

いいんだろう!





主演:ぺ・ヨンジュン
        チャン・ツィイー


【君に会えるまで】第8部




インジュンは自分のアパートに帰り着いた。
ソウルのユナの家から、まるで逃げ帰るようにここまで来てしまった。

今、胸のポケットに入っている写真や手紙を、もう一度見るのが怖い・・・。

いったい、あの画家は何者なんだ!

ユナの母親のメイリンは何を知っているんだ。

ただ自分の元恋人に、娘の教え子が、娘の恋人が似ているということだけなのか・・・。

それとも、もっと何かあるのか・・・。

何かあるって何が・・・?

何かの因縁?

そんな薄気味悪いこと・・・。


それとも、実は、オレはこの画家の子供とか?

それにしても、今オレの頭の中を行ったり来たりしている記憶はなんだ?
本当の父親がオレを呼んでいるのか?


インジュンは、ジャケットの内ポケットに入っている写真を掴んだが、見るのが怖くて、さっと取り出して、机の引き出しにしまってしまった。

とても見る気になれない・・・。

なぜ持ってきてしまったのか。
持ってくるんじゃなかった・・・。


なぜ、ユナはオレにあのレターケースを見せたんだ?
それも何もかも運命的なものなのか?



あの母親は・・・自分の元恋人の子と自分の娘が結ばれることを望んでいるのか・・・。

お袋は、帝王切開で、オレを生んだと言ったが・・・。




しばらくはユナの家には行きたくない・・・。

でも、ユナ・・・。
君に会えないのは・・・辛いよ・・・。

ユナ・・・。






悶々とした気持ちのまま、寝付いたインジュンは、ユナに起こされる。


ユ:ねえ、早く起きてよ・・・。
イ:もう少し寝かせてよ。
ユ:もう! 私は帰らなくちゃいけないんだから・・・。あなたみたいに、ずっと寝てていい人と違うのよ。
イ:わかった・・・。もう少し・・・送っていくから・・・。
ユ:もう! ホントにお寝坊さん! 私8時には家についてなくちゃ、またパパに大目玉だわ! 知ってるでしょ? 門限に遅れたときのパパがものすごく怖いって!


ベッドでまだ寝ているインジュンの上に跨ったユナが言う。


イ:わかったよ、起きるから・・・パパ、パパって・・もう!


ユナはベッドから降りて、キッチンへ向かう。


イ:(ぼうっとしながら)パパって・・・お父さん、もう亡くなったじゃない・・・。


インジュンはユナの言うことが変なので、重い目を開ける。


ユナの後ろ姿が見える。ユナは綿の短い白いスリップを着ている。
いつもは、ブラジャーとパンツしかはいていないのに・・・スリップ?


ユ:早く起きてね。今日は春巻きはやめ。チンジャオロースーにするわ。時間がないもん。油の処理ができないから。




話しながら、首を少し前に傾げ、長い髪を後ろでクルクルっと巻いて、ピンで留めた。

あの手つきって・・・。



そして、ユナが振り返って言った。


ユ:ねえ、ケイジュン! 早く起きて!


ああ!


インジュンはその顔、その声に驚いて、飛び起きた。


外はまだ真っ暗だ・・・。


ユナはオレのことをケイジュンと呼んだ。
いや、違う・・・あれはユナではない・・・母親のメイリンだ!




寝汗をいっぱい掻いて、インジュンはベッドの上に座り込んだ。

そして、ベッドサイドのスタンドの電気を点け、ベッドから降りて、机へ向かう・・・。

机のスタンドを点け、イスに座り、引き出しを開ける。


ユナの家から持ってきた手紙と写真があった。




怖いが、写真をよく見る。


ユナに似た母親はとても若い。
そして、インジュンにそっくりなその男は、インジュンより少し年上だ。


あ、あの葉書。

カンヌからのメイの葉書の一節。



『あなたはもう30のオジサンだから、わからないのかしら?
20の女の子の生理が!』



当時30歳か・・・。

なぜ、メイはこのケイジュンから父親のソンジュに乗り換えたのか・・・。
こいつが冷たかったのか?


ユナの両親が結婚して、このケイジュンがいったん、韓国へ戻って、うちのお袋となんかあったとして、その後、またパリに戻って、大聖堂で死んだのか?

しかし、うちのお袋が画家と恋をするかな・・・。



こいつの名前、ソン・ケイジュン。


コンピュータで、検索してみようかな。
出てくるかな。


インジュンがコンピュータの電源を入れ、「ソン・ケイジュン」を打ち込む。



結構、たくさんいるな。


ええと・・・。

建築家・・・先生・・・泌尿器科? おもしろいな・・・ええと・・・彫刻家、へえ、コピーライター・・・画家・・・。


画家。クリック。


「ソン・ケイジュン」 

フランス在中時に死亡・・・。遅れてきたロマンの画家。
没後、友人であった哲学者イ・ソンジュが持ち帰った作品13点が今、愛好者の中でブームを呼んでいる・・・。


これだ!


フランス留学時は壁画の修復を手がけ、デッサン画・油絵ともに「恋する娘」シリーズでは、瑞々しい乙女の恋心を描き出している。


出身地・・・ここから近いな。

ええと・・・没年・・・。30年前?



インジュンは愕然とした。
あの写真の直後ではないか!


どういうことだ。

つまり、オレの父にはなれない・・・。


そして、30年前に亡くなった男の記憶がオレの中にある・・・。








昨日も余り寝ることができなかった。

ユナの家を訪ねて以来、頭の中が混乱している。
あの日から、寝るのが怖い。
自分ではない自分がドンドン自分の中に広がっていく感じがするのだ。

寝たら、またあの母親の夢を見そうで怖い。




朝の支度をして、出社の準備をしていると、電話が鳴った。



イ:もしもし、インジュン。
ユ:インジュン? 私、ユナ。朝早くからごめんね・・・。
イ:・・・ユナ・・・。
ユ:もう出かける?
イ:まだ大丈夫・・・。何?
ユ:あれから連絡がないから・・・心配になって。・・・なんか、私のこと、怒ってる?
イ:ユナ!
ユ:なんか・・・なんていっていいか、わからないけど・・・いけないことがあったら、ごめんね・・・。
イ:ユナ・・・君のことを怒ってなんか・・・それよりオレのほうが悪かったよ、連絡しないで、ごめん・・・。
ユ:インジュン・・・。私、今度の日曜日にそっちへ行く。いいでしょ?


イ:・・・。
ユ:だめなの?
イ:ごめん・・・。今度、新しい番組を持つんだ。それの準備とかあって・・・今休みが取れないんだよ。
ユ:インジュンが担当なの!(うれしい・・・)
イ:うん・・・朝の5時半から30分だけど、「おはよう朝、名曲の旅」っていうんだ。
ユ:すごいわ! よかったね。よかった! 自分の番組が持てて! すごいよ!
イ:ありがとう。
ユ:じゃあ、忙しいね。うん・・・わかった・・・私は待ってる。こっちで待ってる。それでいいんだよね?
イ:ありがとう、ユナ。君に心配させたね。でもオレを信じて。
ユ:うん、うん、いつも信じてるもん。
イ:ソウルでは放送しないから、ビデオ録っておくよ。
ユ:今度持ってきて! ママと一緒に見るから!
イ:(言葉に詰まるが)・・・うん、持って行く。
ユ:じゃあ、忙しいところ、ごめんね。切るね。
イ:じゃあな・・・。
ユ:頑張ってね!
イ:うん、じゃあ。



インジュンは電話を切ると、座り込んでしまった。


ユナ。
おまえのせいなんかじゃないんだよ・・・。
オレがおまえの所へいけないのは・・・。


ごめんよ、心配かけて。




イ:ごめんよ、メイ・・・。


自分の言葉に驚いて、インジュンは苦々しい顔をして、放送局へ向かった。







来月から始まる新番組「おはよう朝、名曲の旅」の準備で、第1回の曲選びをするために、インジュンが放送局のCD/LP資料室へ来ている。

地方の支局の小さな資料室に並んだCDラックやキャビネットの中から、紹介する海外の旅映像に合わせたBGMを選んでいる。


何気なく、インジュンはハミングしながら、狭い通路を移動してCDを探している。


ホ:おい! インジュン!

今まで視聴ブースでヘッドホーンをして、音楽を聴いていた先輩のホが呼んだ。


ィ:あ、はい!(屈んでいた体勢から立ち上がる)
ホ:おまえ、その曲知ってるの?
ィ:どれですか?
ホ:今、ハミングしてたやつ。
ィ:ああ、これですか。中国の曲でしょう?
ホ:何言ってるんだよ。それ、ここの地元の民謡だよ。
イ:え? 中国のじゃないんですか? (興味を持って先輩のほうへやってくる)


ホ:何寝ぼけてるんだか。ここの、昔の領主様の歌さ。
イ:領主?
ホ:そお。おまえ、知らないで歌ってたの?
イ:ええ、てっきり、中国の曲だとばかり・・・。詞が付いてるんですか?
ホ:ああ、もちろん。確かね・・・ああ、そうだ。ええ~と、題はね、「そは何処に」(その人はどこに)だ。

♪~~
去りし君、
在りし日の君を思ふ

愛しき君を尋ねて、幾年ぞ

そは何処
そは何処にと尋ねしも~

♪♪~~

っていう詞でさあ、終わることなく、我が旅は続くよ、とかそんな感じの歌だ。
イ:へえ。
ホ:最愛の妻を亡くした領主が、その生まれ変りを探して旅する歌だよ。結局会えたのかな・・それは知らないけど。
イ:ずっと旅を続けたんですか?
ホ:いや、10年続けて、侍従に諭されて、旅をやめるんだ。このままでは国がだめになるってね。それで、晩年はずっと絵を描いて過ごしたって話さ。


イ:絵を描く・・・その妻の絵ですか・・・。(驚く)
ホ:そう。確かどっかのお寺に奉納されているんだ。
イ:奉納?
ホ:ああ。この領主は人望があって、皆が亡くなった後に、その呪いを解いて成仏できるようにって、寺に絵を奉納したんだよ。
イ:呪い?
ホ:うん、それが・・・。



男:ホPD、会議始まりま~す。
ホ:あ、ありがとう。(席を立つ)
イ:先輩。なんですか? 呪いって?
ホ:恋の呪い・・・。妻の生まれ変りを探し続ける呪い・・・そして、結ばれない呪い。
イ:なんで!
ホ:おい! もう仕事だから行くよ。そんなにムキになるなよ。



ホは行ってしまった。


オレが高校時代に悩まされた夢・・・領主・・・恋の呪い・・・韓服の女・・・ユナの母親メイ・・・ケイジュン・・・。


領主・・・確か、夢の中ではウォンジンだった・・。



インジュンはその日の仕事が終わったあと、また資料室に戻り、コンピュータで、ここの土地の民謡である「そは何処に」を検索した。


すると、とんでもないものが存在していた。


それは、あのユナの母親がフルートを演奏する「魂の在り処」のLPである。

あの母親はデビューしていたのだ。

早速、資料室のデータで「魂の在り処」と民謡「そは何処に」を検索する。
ともに存在した。

LPのキャビネットから探し出し、視聴ブースに持ってくる。



インジュンが民謡のLPのジャケットの紹介文を読む。

「そは何処に」
韓国の西部、海岸線にある町の領主が書いた詞が基になっている。
若くして病に伏して亡くなった妻が生まれ変ってまた添い遂げると誓って逝ったため、その生まれ変りを探し続けた時期に書かれた詞である。
10年の後、領主は国のため、旅を断念し、領地に戻り、亡き妻の鎮魂のためか、あるいは再会を夢見てか、その在りし日の面影を描き続けたという。
その絵は現在、当地の西宮のお寺に奉納されている。



そうか・・・。
でも、これでは領主の名前がわからないな・・・。



次にメイリンのLPのジャケットの裏を見る。

「魂の在り処」フルート演奏:チェン・メイリン

アメリカ在住の中国人チェン・メイリンは、哲学者であり夫であるイ・ソンジュの故郷の楽曲を集めた本LPで、その才能と、感情の揺らめきを遺憾なく発揮している。
特に、原題「そは何処に」本タイトル「魂の在り処」は、このLPにあって秀逸の演奏である。

推薦文(イ・ソンジュ)・・・妻の演奏の中で一番好きな作品が本タイトルの『魂の在り処』である。
この楽曲には、恋しい人を思う切なさや喜び、哀しみといった魂の叫びがよく表れている。そして、メイリンの演奏は、その世界へ細やかにセンチメンタルに聞き手を誘う。聞いている私たちが、この演奏の恋心に恋焦がれ、魂を奪われるという二重構造を持った素晴らしい名曲である。だからこそ、魂がそこに存在する。まさに「魂の在り処」であり、愛してやまない曲である。



う~ん・・・。



チェン氏の言葉・・・私は夫とともに海外の地にあって、夫の故郷である韓国をどれほど恋焦がれ愛しく思っていることでしょう。そここそ、魂の在り処。いつか訪れ、人々と言葉を交わし、そこで、真実の「魂の在り処」を探したいと思っています。



う~ん・・・・。


もう一度、コンピュータの前に座る。

チェン・メイリン 中国人 フルート奏者 検索!


「魂の在り処」「不思議な歩み」


不思議な歩み?


【アメリカ時代にレコードデビューしたチェンだが、夫の故郷・韓国に戻ってからは、小学校や幼稚園を中心に演奏会を開いている。
「私はもうレコードで、私の所在を皆様に知らしめる必要がなくなりました。もう目的地である韓国へやって参りました。
そして、これからは、私の子供より小さな、将来の韓国を担っていくお子様方にこの美しい韓国の民謡をお聞かせしたいと思うようになりました。
小学校や幼稚園で、一人ひとりのお子様の生き生きした目を見ながら、演奏することに、今、私は喜びを感じております」】



なぜ、子供なのかな。小さい子が好きだったのか・・・。
老人ホームの慰問はしなかったんだ。

まあいい。それは好みだから・・・。

現代の子供たちに、自分の国の美しい民謡を知れということかもしれないし。




まずは、お母さんの曲から聞いてみるかな。



視聴ブースに戻り、メイリンのLPをかける。

「魂の在り処」に針を落とす。

目を瞑って、その演奏を聴き入る。

その切なさ、センチメンタルさは、以前、高校時代に聴いた彼女の演奏より、もっと生々しかった。



聴いていると、急に胸が痛くなった。
本当にズキンズキンと痛い。
呼吸が苦しい・・・。

自分でも不思議なほど、動悸が激しくなっていく。





突然、男の声が聞こえ、急に目の前に情景が現れた。


ソ:ウォンジン様!


その声のほうを向くと、背の高い口ヒゲを伸ばした侍従らしき年配の男が彼を見ている。

二人は西日が海に沈もうとしている海岸線を、馬に乗り、ゆっくりと歩いている。


ソ:もう戻りましょう。
ウ:しかし・・・。
ソ:もう国を出てから10年です。このままでは、国は荒れ果ててしまいます。皆、ウォンジン様が好きでなんとか耐えて、あなた様の帰りをお待ちしているのです。帰りましょう。
ウ:ソンキュ・・・。しかし、まだ出会ってはおらぬ。
ソ:ウォンジン様、もうだめです・・・。
ウ:しかし・・・今、生まれ出でたかもしれぬ。
ソ:ならば、また10年後に旅に出ましょう。その時には、今生まれた娘も、今10になる娘もメイファー様の面影にまで育っておりましょう。
ウ:・・・。(重く沈む)
ソ:生まれ変るには時間がかかります・・・。まだまだ10年も20年も・・・50年も先かもしれませぬ。


ウォンジンが名残惜しそうに夕日を見ている。



ソ:ウォンジンや・・・。あなたをお育てした私が頼んでいるのだ。あなたと心を一つにして生きてきた私が。もう、帰ろう。あなたは領主なのだ。自分に課せられた職務を忘れてはいけない・・・。いいね?
ウ:ソンキュ! ソンキュ! すまない・・・。(泣けてくる)


父親代わりにここまで育ててくれた侍従のソンキュの言葉に、ウォンジンはもう旅を続けることができなかった。




今、広い屋敷の自室で、絵を描いている。
それはあの韓服の女だ。

メイにそっくりな女。




インジュンは、「ハア」と息を吐き出すように、胸を押さえて目を覚ました。



今の夢は、まるではっきりとした記憶のようにも思える。


高校生の頃、よく見た夢の中の領主だった。
それは、名をウォンジンと言った。

あの夢にとり憑かれ、そして、その絵の面影を持ったユナに恋した。


これはやはり只事ではない。


もし、この民謡の領主の名前がウォンジンだったら・・・。


行ってみよう、その西宮のお寺に。

きっと何か手がかりがあるはずだ。




その次の休日。
インジュンは今自分のいる場所から1時間ほど行ったその領主の絵が祭られている西宮のお寺を訪ねた。
そこは、海に近く、インジュンには、とても懐かしい景色に思えた。


イ:すみません。KBNのハン・インジュンです。先日、お電話で取材をお願いした者ですが・・・。


中から僧侶が出てきた。


僧:ああ、いらっしゃい。
イ:先日、お電話で取材をお願いしましたKBNのハンです。「おはよう朝、名曲の旅」で・・・。どうかされましたか?


60近い僧侶は、インジュンの顔を見て、口をあんぐりと開け、驚いたように、じっと見ている。


イ:あのう、どうかされましたか?
僧:君はおいくつですか?
イ:は? 24です。もうすぐ25になりますが・・・。
僧:そうか・・・他人の空似かな・・・。こちらのソン家とは関係ないですよね・・・ハンさんなんだから・・・。
イ:ソン?
僧:いやあ、すみません。あ、どうぞ、お上がりください。こちらです。


インジュンは僧侶に案内されながら、寺の長い廊下を歩く。


僧:いやあ、世の中にはよく似ている人がいるって言うけど・・ハンさん、あなたが私の中学時代の同級生にそっくりだったから。その子供かと思って・・・でも、違ったな。年が合わない・・・。
イ:ソン・・・なんていう人ですか? 



画家のソン・ケイジュンの出身地はこの辺である。



僧:いやね、ソン・ケイジュンといって、画家だった人で。
イ:ソン・ケイジュン!(驚く)
僧:あなたも知ってるんですか?
イ:はい。
僧:そうか・・・。今、一部マニアの人が彼の絵を集めているってね。うちにも一枚あるんだ。
イ:そうなんですか?
僧:ええ、なんせここが彼の菩提寺だから。それに同級生だったでしょ、留学する前にね、くれたんですよ。死んでからね、認められて・・・それも、彼のやりたかった壁画の修復じゃないほうで、名前が知れて。人生なんてわかりませんね。
イ:その絵も見せていただいていいですか?
僧:いいですよ。ケイジュンのは家のほうにあるから、帰りに見ていってください。
イ:はい。
僧:こちらです。



インジュンは僧侶に連れられて領主の絵が奉納されている仏間へ入った。

桐の箱から恭しく出して、その巻物を広げる。



夢で見た通りの絵だった・・・。



僧:これは40歳くらいの時に描いた絵だそうです。
イ:お名前は? (声が震えた)


僧:ここに署名がありますでしょ? チョン・ウォンジンです。


インジュンがじっと見る。
その通りの名だった・・・。


イ:亡くなった奥方がかけたという呪いは解けたのでしょうか?
僧:ああ、恋の呪いね・・・。このお寺でもずいぶん拝んだようですね。はっきりとはわからないのです・・・。ただ・・・。
イ:ただ・・・?
僧:これはとても不確かなので、放送には使ってほしくないんですが・・・。
イ:ええ・・・。(真剣に聞く)
僧:60を過ぎて、12の娘を養女にもらっているんですよ。そして、その子に後を継がせている・・・。
イ:跡取りがいなかったから?
僧:そうですが・・・普通は男の子を養子にするとか、親類の子供を養子にするでしょ?
イ:ええ。
僧:それが、漁師の娘を養女にして、それにわざわざ養子を取っているんですよ。ちょっとそれって不可解ですよね?
イ:・・・その娘が生まれ変り?
僧:文献がそこまでなんです。その後がない。でも、その後、国は平和に栄えていますから・・・きっと幸せだったんじゃないかって・・・。(絵を見る)
イ:探し当てたんですね・・・きっと・・・。



二人はウォンジンの絵を見入る。



イ:すごい話ですね・・・。
僧:ええ。
イ:巡り会えていたら・・・いいですね・・・。あの歌は悲しすぎるから・・・。
僧:ええ・・・。



イ:すみません。ケイジュンさんの絵を見せていただいていいですか?
僧:あ、どうぞ。こちらです。渡り廊下を渡ってすぐですよ。



寺から僧侶の母屋へ渡り廊下を渡っていき、リビングへ入る。


そこに一枚の風景画があった。
それはこの地方の風景らしいが、タッチがケイジュンそのものだ。



インジュンはじっと見入った。
それは懐かしく、自分の子供の頃の温かく、将来に夢を乗せた、あの胸が弾むような感覚が蘇ってくる。


自然と涙が出た。


僧侶はそんなインジュンをじっと見ている。


イ:いい絵ですね・・・。とても胸に迫ってきます・・・。
僧:あなたを見ていると、まるで彼がここにいるみたいです・・・。さっきよりもっと、あなたがケイジュンのように感じます。
イ:そうですか?
僧:ええ、ニオイというか、その人の持つ独特な人としてのニオイがあるじゃないですか・・・それがそっくりです・・・。彼を見た最後は22歳の時かな・・・。この絵をくれた。今のあなたによく似てますよ。


インジュンが僧侶を見つめた。



イ:彼のお墓をお参りしてもいいですか?
僧:ええ、そうしてやってください。きっと喜びますよ。



インジュンは寺の庭を歩いて、墓に向かう途中、それははっきりとした感覚でわかった。

ここは自分の菩提寺だと!

子供の頃に遊んだ。
どこを歩けば、近道で自分の家の墓に行けるか、知っている。



この空。
この空気。
この木々。

この緑!

全て全て知っている!



インジュンは僧侶と一緒に墓に頭を垂れた。

そして、墓を見つめてから、僧侶を見た。


イ:住職さん、生まれ変りを信じますか?




インジュンは住職と向き合った。







第9部へ続く・・・





2009/11/11 00:38
テーマ:【創】君に会えるまで カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「君に会えるまで」7



BGMはこちらで^^


BYJシアターです。

本日は「君に会えるまで」第7部です。


こちらはフィクションですので、ここに登場する人物、団体は実在のものとは異なります。



【配役】
インジュン、ケイジュン、ウォンジン:     ぺ・ヨンジュン
ユナ、    メイリン、   メイファー:     チャン・ツィイー





ここより本編。
お楽しみください。


~~~~~~~~




初めて
君に
会ったのは

いつの日だったろう



どんなに
激しい恋をしても

どんなに
ある人を切なく思っても


いつも
心のどこかで

君が囁いて



君のほうへ
心が
動いていく



君は
僕の前に

いるよね?




君は

君は


ホントに
僕の
運命の人なんだよね?





主演:ぺ・ヨンジュン
        チャン・ツィイー


【君に会えるまで】第7部






ユ:ママ、インジュンを駅まで送ってくるわ。


ユナが玄関でインジュンに続いて靴を履いた。


メ:そうね・・。行ってらっしゃい。
イ:いいよ・・・。もう暗いし。(心配そうな顔をする)
メ:大丈夫よ。これでも柔道3段よ! (笑顔で見る)
イ:ホント?
メ:バカね、うそよ。大丈夫! 一緒に行きたいのよ。
イ:仕方ないな。 どうも、ご馳走様でした。
メ:気兼ねせず、また、いらしてね。(やさしい笑顔で送る) 
イ:はい、ありがとうございます。失礼します。



門を出ると、ユナがインジュンの腕に腕を回した。
そして、顔を見上げた。


イ:何だよ?
ユ:・・・。ねえ、今日、ママのこと、ずっと見てたでしょ?
イ:そんなことないよ。
ユ:うううん、ずっと見てた・・・。(見つめる)
イ:おまえは、オレのこと、ずっと見てたんだ。(見つめる)
ユ:・・・・当たり前でしょ・・・他に何を見るの?
イ:・・・。(少し照れて笑って、歩き出す)


ユ:どうして、ママばかり見てたの? (歩きながら、インジュンに纏わりつく)
イ:どうしてって・・・そんなに見てた? 記憶にないな・・・。
ユ:ずっと目が追ってた・・・。(真剣な目をする)
イ:ふ~ん。オレはただ考え事してただけだよ。
ユ:何を?
イ:・・・。やっぱり、大学院には行かない・・・就職するよ。
ユ:インジュン! あなた、せっかく勉強してきたのに・・・。
イ:でも、もうオレの生きる方向は決まってるし。
ユ:方向?


イ:ユナと一緒になること・・・そうだろ? なら、バイトじゃなくて、早く自活して、結婚できるようにしなくちゃ!
ユ:インジュン・・・。
イ:どうしたの?
ユ:ありがとう・・・。(インジュンの腕にすがって、泣く)


イ:何だよ、おまえらしくないよ。


インジュンはユナの腕を解いて、逆にユナの肩を抱いて歩く。


イ:だってさ、早く結婚しないと、ユナがオバサンになっちゃうだろ?
ユ:ひどい! まだまだ大丈夫よ! (泣きながら睨む)
イ:まあね・・・。(顔を覗く)


ユ:ごめんね・・・。また、ヤキモチ、焼いた。私ってバカよね・・・。ママとあなたを見てると、なんか・・・時々・・・ダメなの・・・。
イ:変だよ。
ユ:うん・・・。おかしいよね・・・。あなたには、遊びに来てほしいし、ママは大好きなのに・・・。自分でもイヤになる・・・。



インジュンは立ち止まって、肩を抱いたまま、ユナをじっと見つめた。



イ:ユナ。おまえは・・・オレの初恋の人で・・・初めての女で・・・オレは他の人は誰も知らない。おまえが一番好きで・・・それでいいだろ? こんなオレでもいいだろ?
ユ:(胸がいっぱいになる)うん、うん! 当たり前よ。私もインジュンしか愛してないもん。私でいいよね? こんな私でもいいよね?
イ:うん。ユナがいい。ユナが好きなんだ。
ユ:インジュン・・・。(彼の体を抱きしめる)



イ:じゃあ、戻ろうか?
ユ:え?
イ:家まで送るよ。こんな暗い道、一人で帰させるはずがないだろ?
ユ:いいの?
イ:どこにおまえを狙いたい物好きがいるか、わからないからね。(笑う)
ユ:もう、ひどい! ・・・ありがと!





確かに今日のインジュンは何度もユナの母親を見つめた。
ほとんど、見つめ続けたといっていいほどだ。
でも、ユナにはその訳は言えない。

今、自分が感じている、この不思議な感覚を口に出していったら、ユナとの関係がおかしなことになる。

そうでなくても、なぜかユナは母親と自分のことを嫉妬してしまうことがある。

しかし、それも全く変な感覚だ。
自分の母親で、親のような年頃の人と、オレに何があるというんだ。
女友達なんか、軽く紹介してくれるくせに!




インジュンは食事中、何度も、ユナの母親のほうを見つめた。

髪をまとめていた時に見た幻のような笑顔はなかったが、スプーンを持つ手も、コーヒーカップを持つ手もよく知っているような気がする。

唇に人差し指を持っていった時は、驚いた。
次にきっと指を折って、第一関節の辺りを唇に当てるような気がしていたから・・・。本当にそうだった。





ユナの家の前まで戻ってきた。



イ:じゃあね。
ユ:ありがと。
イ:ユナ。オレが親と縁を切っても、ついてきてくれるよね?
ユ:うん・・・でも、その前に努力しよう。インジュンの大切なご両親だもん。
イ:そうだね・・・。今日はご馳走様。おいしかった・・・。そうだ。もっと、お母さんに料理習ってよね。
ユ:ひどい!(胸を押す)
イ:ありがとう。
ユ:インジュン・・・。(甘えて見つめる)


インジュンがユナの唇に軽くキスをした。


イ:じゃあね。
ユ:うん、お休み。




インジュンは帰っていった。

ユナはインジュンの後ろ姿を見送りながら、「恋をしているのは私とインジュン・・・」と当たり前のことを呟いてみた。そして、門の中へ入った。



インジュンは歩きながら、あの瞬間、自分に見えた母親の笑顔を思い出した。
それはあの夢の中の女によく似ていた。

それに、あの指先・・・。


これはいったいどういうことなんだろう・・・。
インジュンは不思議な思いにとりつかれていった。








インジュンが遊びに来てからしばらくして、メイリンは以前歩いたことのある道をまた歩いている。

以前来た時は、ユナの連れてきた高校生のインジュンがあまりにケイジュンに似ていたので、もう一度顔を見たくてこの道を歩いた。

でも、今回は、あのバラのむせ返るような香りの漂う家で、インジュンの母親と対峙しなければならない・・・。


娘たちに頼まれたわけではないが、愛するユナのため・・・そして・・・ケイジュンのために、何かしてあげたかった。

ケイジュンには、今度こそホントに幸せを掴んでほしいのだ。



門のところにあるインターホンを押し、


メ:イ・ユナの母親の、チェン・メイリンと申します。


と名乗った。




インジュンの母親にリビングへ通され、二人は向かい合って座っている。


メ:以前もお邪魔して・・・あの時はありがとうございました。
母:・・・。あの時は、お庭のお話をして、楽しかったですけどね・・・。
メ:・・・。(俯く)
母:お宅のお嬢さんとうちのインジュンがこんな関係になるとは、思ってもいませんでした・・・。
メ:・・・こんな関係って? ただの恋人同士です。
母:そうかしら・・・。5つも年上で、元教師・・・。息子は、何もわからないまま、手玉に取られたというか・・・。
メ:待ってください。そんな一方的な言い方をなさらないでください。私もインジュン君を知っていますが、二人ともごく普通の恋人です。それにちゃんと真面目に将来を考えていて。とても微笑ましいカップルですよ。


母:さあ、どうだか・・・。あなた方はいいでしょうよ。いい子を捕まえちゃったんだから! でも、私どもとしましては、この関係は許せないんです。息子はとても優秀で、ホントにいい子だったんですよ・・・。それが、すっかり変わってしまって。今では家にも寄り付かなくて・・・。(溜息をつく)
メ:お母様、インジュン君は少しも変わってないわ。お母様のおっしゃる通りのお子様ですよ。とてもやさしくて、素敵な人です・・・。どうか、彼の気持ちを理解してあげてください。・・・そして、うちのユナも、よく見てください。あの子だって、インジュン君に負けないくらい、いい子なんです。子供の頃は、主人の仕事の関係で海外生活が長くて。大学もアメリカでした。私は、胸を張って人前に出せる素敵な娘に育ったと思っています。どうぞ、娘の年齢に拘らず、本人自身を見てあげてください。
母:ご本人はよく見せていただきましたよ。・・・お洋服も着てなかったわ・・・。


メ:・・・。お母様、本気でおっしゃってるんですか?(声の調子が変わる)
母:ええ、もちろん。
メ:・・・あなたには、デリカシーというものがないんですか?



母親は驚いた。ユナの母親がインジュンと同じ言葉を吐いたから・・・。


メ:子供には子供の生活があります。まして、年頃の子なら、恋もするでしょうし・・・いろいろあるでしょう・・・。
母:何を言ってるんだか・・・。あの子たち、一緒に寝てたんですよ。
メ:・・・なぜ、そんなお部屋にお入りになったの? あの子たちだって、見せたかったわけじゃないでしょう?
母:・・・。
メ:インジュン君ももう大人です。いつまでもあなただけのものではありません・・・。
母:失礼ね! あの子はうちの跡取り息子です。口を挟まないでください!
メ:わかりました・・・。あなたのお気持ちはわかりました。でも、私はあの子たちを応援します。とても愛し合っているんです。あの二人なら、きっと幸せになれます。
母:お帰りください!


メ:そうします。あなたは、ご自分の息子さんの目を信用されてないんですね。あの子はそんないい加減な子ではありません。・・・いいです・・・あなたがもし、失望されて、彼を見放しても、私が母親代わりになってあげます。そうします。
母:あなた、何を言い出すの! 失礼ね! 大事な息子をあんた方親子なんかに、あげないわ!
メ:それも彼次第です。では失礼します!



メイは、怒って出てきてしまった。

二人の力になりたかったのに・・・返って足を引っ張ってしまった。

これもインジュンがケイジュンだからかもしれない。他の男の人だったら、自分が母親代わりになるなんて、言わなかっただろう・・・。
ユナの幸せのためといいつつ、結局はケイジュンへの愛で動いているのかしら・・・。

メイは少し情けなくなった。

ユナの母親としては、もっと頭を下げるべきだった。土下座をしても・・・なのに・・・。






それからしばらくして、インジュンの就職が決まり、彼とユナの結婚への道筋は着々と準備が進められていった。


入社をあと一週間に控えたある日、インジュンがユナの家で夕食をとりながら、重大発表をした。
インジュンとユナが並び、メイがユナの前に座っていた。

イ:実は、重大発表があります・・・。
ユ:なあに?(胸を弾ませて聞く)
イ:そんなにうれしそうだと、言いにくいな。
ユ:イヤな話?
イ:少しユナが怒る話・・・。
ユ:何?
イ:お母さん、実は僕、入社して3年間は地方回りなんです。
ユ:ええ! 聞いてないわ。
イ:放送局ってね、新人は地方勤務から始まるんだよ。でも、3年くらいしたら、またソウルに戻ってくるから、待ってて。(笑顔で見つめる)
ユ:ひど~い。
メ:ユナ!(たしなめる)でも、一流の放送局に入れたんですもの。将来が楽しみじゃない。少しくらい我慢なさい。
ユ:ふ~!(溜息をつく)


メ:一人で行くの? ユナと一緒に行ったら?
イ:それも考えたんですけど・・・。お母さん一人残して、ユナを連れていくのも・・・。
メ:あら、そんなこと心配しないで。私はあなたたちが幸せになることを一番に考えているのよ。
イ:それに、まだ僕の給料だけじゃ暮らせないし。ソウルなら、ユナと共稼ぎができるけど、地方へいくと、ユナが勤めるところもないから・・・。ユナ、待ってて。ここでお母さんと一緒に。
ユ:インジュン・・・。(悲しくて胸がいっぱいになる)
イ:ちゃんと定期的に帰ってくるよ。オレを信じて。おまえを裏切ることなんて、絶対しないから。
ユ:・・・。(信じてるけど)
イ:ごめんよ、結婚しようって言ったくせに、待たせて。
ユ:・・・。
メ:ユナ、インジュン君の気持ちも考えてあげなさい。
ユ:わかったわ。待つ・・・。でも、絶対、私のところへ帰ってきてね。
イ:うん。ありがとう。



夕食が終わって、母親は二人の気持ちを考えて、早々に自分の部屋へ引き上げた。
そして、ユナたちも、2階のユナの部屋へ上がっていった。



ユ:インジュン。絶対、私を捨てたりしないでね。
イ:何、言ってるんだよ。そんなことしないよ。
ユ;ホントね? 
イ:ああ。
ユ:だったらこっちへ来て。(ベッドに座る)
イ:ここで? ちょっとやめようよ・・・。
ユ:いいじゃない。来て・・・。ママは上がってこないわ・・・。そういう人じゃないわよ。来て。
イ:・・・。(ユナの隣に座る)
ユ:抱いて。お願い。私を信じさせて・・・。



インジュンは、ユナの家で初めて、ユナを抱いた。









インジュンは新任の地へ赴き、ユナは母親のメイリンとともに、ソウルに残った。

結局、インジュンが親に内緒で大学院への進学をやめ、就職を決めたことで、彼の両親とインジュンはケンカ別れのようになってしまった。
といっても、実際のところは、父親は就職の保証人になってくれたし、彼に好きなように生きろと言ってくれた。母親の干渉が強くてインジュンが息苦しかったことも理解していた。
しかし、母親とは、今回の一件でまったく疎遠になってしまった。


そのため、ソウルへ戻った時は、ユナの家で過ごしていた。


インジュンは1ヶ月に一度、定期的にソウルへ戻ってきた。
そして、一日をユナと一緒に過ごし、また帰っていく。


メイはインジュンが来ている時は決して2階へは上がらなかった。




あれから、インジュンが赴任してからは、インジュンのメイに対する不思議な感覚は収まっていた。


今は、しばらくぶりに会うユナのことに夢中で、メイのことなど、頭になかった。


駆け足で過ぎていく二人だけの時間。

それを貪るように、二人は見つめ、愛し合って過ごした。






そして、インジュンは24歳に、ユナは29歳になっていた。


インジュンがいつものようにやってきた。



ユ:いらっしゃい。待ってたわよ。(目を輝かせている)
イ:今日は、お母さんは?
ユ:今、出かけてる。あなたって、いつもママのこと、気にしてるのね。
イ:だって、一緒に暮らしている人のこと、聞くのは当たり前じゃない?



二人はリビングへ入ってくる。


ユ:ねえ・・・。
イ:何だよ?
ユ:1ヶ月ちょっと待っていた健気な恋人に、なんかないの?
イ:何が? ああ、そうだね。お待たせしました。(にっこりする)
ユ:なんだか、つまんない。倦怠期かしら? まあ、いいわ。ねえ、座って。お茶入れるから。




インジュンは、いつものように、一人掛けのソファに座った。
彼はここの席が気に入っていて、まるで、そこの家の主人のように一人掛けに座った。

でも、母親のメイは何も言わなかった。
3人でお茶をする時は、女二人で座っていたほうが話しやすかったから・・・。

ユナもそうだった。

母親と一緒に並んでいるほうが、インジュンの視線の先を心配する必要がない。
インジュンが母親を見つめっぱなしになることもない・・・。

今は、彼はちゃんと交互に、ユナを見て母を見て、話をした。





お茶を入れにキッチンへ歩いて行くユナの後ろ姿を見て、


イ:ユナ。ちょっとおいでよ。
ユ:なあに?
イ:いいから・・・。


ユナがインジュンの前に立つと、インジュンがサッとユナの手を引っ張った。
ユナは転げるように、インジュンの膝に座り込んだ。


ユ:なあに? ここ、窮屈。(笑う)
イ:いいじゃない。こっち、向いて。


ユナが振り向くと、インジュンが両手でユナの顔を包んだ。ユナも真似て、インジュンの顔を包み、二人は笑いながら、キスをした。

ユ:お帰り・・・。
イ:うん。・・・寂しかった?
ユ:わかってるでしょ!(顔を覗く)
イ:まあね・・・。
ユ:インジュン・AD(アシスタント・ディレクター)も寂しかった?
イ:そりゃあそうさ。だから、こうやってくるんだろ?
ユ:そうよね、ご苦労様・・・すごく待ってた・・・。(首に腕を巻きつけ、抱きつく)
イ:愛してるよ。
ユ:うん、私も・・・。早くインジュンと暮らしたい・・・。
イ:オレも・・・。
ユ:・・・。(目を見つめる)
イ:・・・。(見つめ返す)


幸せが二人の瞳の中に見えるようだ。


イ:あと1年だからね。我慢して。
ユ:うん。


二人は狭い一人掛けのソファに窮屈そうに、そして幸せそうに座っている。
インジュンはこうやって、二人で密着して座るのが好きだ。

ユナは、こういう、少し子供っぽいことが好きなインジュンが愛しい。



ユ:そうだ。インジュン。いいもの、見せてあげる。
イ:なあに?
ユ:(立ち上がって)パパがね、私がお嫁に行く時に持っていきなさいって言ってた絵があるのよ。
イ:へえ。
ユ:若い時のママを描いたデッサン画なんだけど、すごく素敵なの。昔ね・・。ねえ、パパの書斎へ一緒に来て。初めてだっけ?


二人は父親の書斎へ入っていく。


ユ:ここにある本、好きなのどれでも、貸してあげるわよ。ママがね、ここを片付けると、ホントにパパがいなくなった気がしてイヤだからって、そのままにしてあるの。でも、もう誰もここの本は読まないから。ほら、奥のあの絵、見て。素敵でしょ?


父親の書斎には、大きな格子の窓があり、その横に、一枚のデッサン画がかかっていた。


インジュンはその絵を見て、自分でも驚くほど動揺してしまった。

そのデッサンの母親の顔こそ、かつてインジュンが見た幻の母親の笑顔であり、その絵は胸が痛くなるほど、とても懐かしいものだった。

というより、この絵を描いたであろう画家の、母親への恋する気持ちがひしひしと、いや、生々しく伝わってくる。
そして、そのタッチは、上手い下手は別として、自分の絵にそっくりだ。


なぜか、インジュンの目から涙がこぼれた。

それは自分でも驚きだった。
ユナに見つからないように、そっと涙を拭いた。


ユナは何か探しものをしていて、本棚の下の観音扉を開けて顔を突っ込んで見ている。


ユ:あった!(顔を出す)
イ:何があったの?
ユ:その画家さんがペイントしたレターケース。(本棚の下から取り出す)これ。


そのちょうどB5が入る大きさの、蝶番がついた木製のレターケースは、知っている気がする。
その絵もよく知っている。まだ見ていない裏に描かれた絵も!



こんなデジャブがあるのか・・・。



ユ:結構、素敵でしょ? 植物画だけど。
イ:この絵描きさんて友達だったの?
ユ:うん、パパとママのね。パパがね、勤めていた大学から派遣されて、フランスに留学していた時代に、ママと知り合ったんだけど、これを描いた人もパリの大学に留学してて卒業してから、壁画の修復をやってたんだって。パパと同じアパートに住んでて、3人で仲良しだったんだって。(レターケースを見ている)
イ:今もフランスにいるの? (真剣な目をして聞く)
ユ:うううん、それがね、悲劇なの。修復の仕事をしていた古い大聖堂の、大きな鉄のシャンデリアが急に落ちてきて、死んじゃったのよ。だから、パパがこの人の絵をリビングに飾ろうとしたら、ママが悲しくなるからイヤだって。それでパパの書斎に飾ってあるの。素敵なのにね・・・。こっちの風景画もその人のよ。


インジュンはその絵をじっと眺めている。


ユ:あ、これ、開かない・・・。

ユナはそのレターケースを開けようとするが、開かない。
インジュンがユナの手元を見ている。


ユ:パパが亡くなる前にこの箱の開け方、聞いておくんだったな。素敵だけど、使えないわ。
イ:お母さんは?
ユ:実はね、ママはこれのこと知らないんだって。(ちょっと意味ありげな目をして)なぜか、子供の頃、パパが謎めいて言ってたわ。笑って。年を取ったら、ママにプレゼントするって。
イ:お父さんが亡くなったのに、教えてあげないの?
ユ:だって、ビックリ箱だもん・・・。ママが年を取ってから・・・あげる。でも、何が入ってるのかな? ママへのラブレターだったりして。恋の横恋慕ね。なんでこんな難しい鍵にしたのかしら。全く理解不能だわ。
イ:貸して。


ユナから受け取って、鍵を見る。


ユ:インジュン、ここでゆっくりしてて。本も見てていいから。私、お茶入れてくるわ。コーヒーでいい?
イ:うん、ありがとう。(鍵を見ている)


部屋を出ていったユナの声がする。


ユ:ねえ、いつも通り、ミルクも入れちゃうよ? カフェオレでいいよね?
イ:うん、そうして!
ユ:わかった!




インジュンは溜息をついた。


このレターケースを知っている。
そして、インジュンは、いとも簡単に鍵を開け、中を見た。


手紙が何通か入っている。

本当に恋の横恋慕なのだろうか。



封書に混ざって、葉書が数枚入っている。


葉書だけ抜き出して、それを読んでみる。

それはフランス語で書かれていたが、インジュンは第2外国語でフランス語をやっていたので、なんとか読んでみる。
まるで、魔法にかかったように、自分でも不思議なくらいに、スラスラと読めた・・・。




「ケイジュン! ケイジュン! ケイジュン!

昨日、私はホテルの便箋にあなたの名前を50回書きました。

今、ボルドーにいます。
パパがワイン工場を見たいといって、ここを訪ねたけど、私は早くパリに帰りたい。

お城のようなホテルより、ハトに占拠されて、フンだらけになったあなたのお部屋のほうが好き!
あなたのお部屋なら、1ヶ月拘束されてもいいわ。一生でもね!

ケイジュン、
あなたがいなくて、気が狂いそう!

あなたにプレゼントするワインを買ったわ。

赤白2本ずつ買いました。

お隣のソンジュさんにもプレゼントするわ!
いつも楽しいお話をしてくれるから。


5日後にはパリへ戻ります。
早くこの家族旅行が終わることを祈って・・・。

ボルドーより。

あなたが恋しくて恋しくて、
ちょっとクレイジーなメイより。

PS.浮気は絶対だめよ!」





インジュンは胸が苦しくなった。

メイはユナの母親で、ソンジュは父親だ。




ユナがやって来ないか、ドキドキしながら、次を見る。




「ケイジュン!

どうなってるの、あなたは!
カンヌのホテルの住所を置いてきたのに。

なんで手紙が来ないの?
こんなに、こんなに、待っているのに!

もし、これから3日たっても、・・・5日でもいいわ。
もし手紙が来なかったら、

私は海の藻屑になるか・・・
あるいは、そう、さっき声をかけてきたハンサムな金髪男性のものになります!


あなたはもう30のオジサンだから、わからないのかしら?
20の女の子の生理が!

もう、あなたがいなくて、寂しくて寂しくて仕方がないのに!
代わりの人を探すわ!

もう秒読みは始まったわよ。

覚悟してね!

あなたを好きになったことを悔やんでいるメイより」




「ケイジュン!

あなたからの電報が届きました。

【メイ、ジュテーム、ただそれだけ・・・。ケイジュン】

素敵で素敵で、泣いてしまいました。
その一言だけで、幸せ。

浮気もしません。
いい子であなたのもとへ帰れる日までじっと我慢します。

あなたの電報を小さくたたんでお守りのように、
首から提げました。
ママと妹が、あなたに夢中な私に呆れています。

でも、私は最高に幸せ!



カンヌより。 

あなたをめちゃくちゃ愛しているメイより」





ユナの母親の恋人は、本当はこのケイジュンという人だった。
ユナの父親は、どんな気持ちでこの葉書を読んだのだろう・・・。

インジュンは次の葉書を探すため、手に取った封書を順に送っていくと、一枚の写真が現れた。



オレとユナ?



日付は30年も前だ。

しかし、その色褪せたカラー写真には、確かに自分とユナがいる。


これっていったい・・・。

目を凝らして、写真を見る。





ユ:インジュ~ン! コーヒー、どこで飲む~?



ユナの声がした。

インジュンは慌てて、手に持っていた手紙と写真を自分のジャケットの内ポケットにしまい、レターケースに鍵をかけた。



ユ:ねえ、インジュン! 聞こえてるの!


ユナが書斎の中を覗いた。


イ:あ、ごめん。これ、やっぱり開かないや。(声が少し震えた)
ユ:そう・・・。でも、まだママにあげるまでには時間があるから、いろいろ試してみるわ。しまっておくね。(インジュンから受け取る)
イ:うん・・・。


ユナはまた元の場所にしまい込む。


ユ:ねえ、なんかほしい本、あった?
イ:いや。
ユ:こんな長い時間、鍵だけ見てたの?(不思議そうに見つめる)
イ:いや・・・ユナ・・・。
ユ:なあに?
イ:ごめん、急な用を思い出したんだ。今日はこれで帰るよ。
ユ:やだ、インジュン! 来たばかりじゃない。どんな用事?
イ:先輩に、ソウルへいったらお願いって用事を頼まれていたことを忘れてて。
ユ:わかった。じゃあ、ちょっと待ってて。私も一緒に行く。着替えてくる。
イ:え?
ユ:だって、そうすれば一緒にいられるじゃない。(笑顔で見つめる)
イ:いや、ユナ。今回はごめん。一人で行くよ。
ユ:そんなあ・・・。せっかく来たのに・・・。また、1ヶ月は会えないでしょ?
イ:いや、なんとかその前に来るよ。
ユ:ホントね?
イ:うん。ごめんね。(見つめる)
ユ:わかったわ。
イ:じゃあ。(急いで部屋を出る)
ユ:ねえ待ってよ・・・。インジュン?


インジュンは急いで靴を履いている。


ユ:(不安そうに)インジュン、あなた、大丈夫? ねえ!
イ:え? ああ、ただ急いでいるだけだよ。
ユ:じゃあいいけど・・・。ねえ・・・。
イ:え? 何?
ユ:・・・いいわ・・・。


インジュンは玄関のドアノブを掴んでから、振り返って、「ああ」という顔をして戻り、ユナを抱き締めた。


イ:ごめん・・・。急ぎすぎたね。


そして、軽くキスをした。
ユナはもっと抱かれていたかったのに、インジュンは腕を振り解いて、さっさと出ていった。

残されたユナは唖然として、ドアを見つめた。





今のインジュンの頭の中は混乱していた。
とても、ユナと楽しくお茶を飲む気にはなれなかった。



あのデッサン画、風景画、レターケース、全て知っていた。
そして、あの葉書。

極めつけは、写真だった。

自分にそっくりな男!
たぶん、一緒に写っていたのは、母親のメイだろう。



あの母親はいったい自分を見て、どう思っているのか・・・。


昔、ユナに内緒で、韓服を着たユナに似た女の絵をあげた。
あれを見た時、母親のメイは何を感じたんだ!

何を思ったんだ!


ただ胸が苦しい。
切ない・・・。

あんな葉書を出していた若い日のユナの母親、メイ・・・。




思いに耽りながら、通りを歩いていくと、前から、ユナの母親が買い物袋を抱えて歩いてくる。

インジュンは母親の姿を見て、なぜか気が動転してしまい、困って、通りを横道にそれて、母親の行きすぎるのを待った。

母親メイリンの後ろ姿が、胸を痛くする。

インジュンは混乱する思いを抑えながら、急いで赴任先へ戻っていった。







メ:ただいま~。(リビングへ入る)あら、ユナ、あなた一人? インジュン君は?


ユナが一人掛けのソファに座っている。


ユ:それがもう帰ったの・・・。今、通りで会わなかった?
メ:うううん・・・そう・・・。今日はご飯食べていかないんだあ。 3人分、買ってきちゃった。(残念な顔をする)
ユ:ごめんね、ママ。なんか急用を思い出したって・・・。(ちょっと不安そうな顔をしている)



メ:・・・ケンカしたの?
ユ:うううん・・・。(一人掛けのソファの袖を撫でる)いつも通り、仲良くしてたわよ・・・。
メ:そう・・・。どうしたのかしら。急用なら仕方ないけど・・・。おかしいわね。あの人、几帳面だから、そういうことは忘れない感じだけど・・・。
ユ:そうなのよねえ・・・そこがちょっと変・・・。(溜息をつく)


メ:あなたたち、何してたの?
ユ:え? ああ、パパの部屋のママのデッサン画を見せてあげてたの。私がコーヒーを入れてきたら、急に帰るって・・・。
メ:そう・・・。それで・・・。(何か思い当たる)
ユ:うん・・・。
メ:そう・・・。


母親がぼうっとしながら、買い物袋を提げて、リビングからキッチンへゆっくり歩いていく。


ユ:ママ? どうしたの?
メ:別に・・・。ユナ、きっと急用でしょ、ホントに・・・。
ユ:そうよね。(母に言われて安心する)



メ:ホントに思い出したのよ・・・大切なことを・・・。



メイの瞳が涙で曇った。








第8部へ続く・・・



2009/11/08 20:30
テーマ:【創】君に会えるまで カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「君に会えるまで」6



BGMはこちらで^^



BYJシアターです。

本日は「君に会えるまで」第6部です。

夜中アップし忘れてしまって、お待ちいただいたでしょうか、
すみません・・・vv


こちらはフィクションですので、ここに登場する人物、団体は実在のものとは異なります。



【配役】
インジュン、ケイジュン、ウォンジン:     ぺ・ヨンジュン
ユナ、    メイリン、  メイファー:     チャン・ツィイー


ここより本編。


涙腺の弱い方、ハンカチをどうぞ。
では、お楽しみください。


~~~~~~~~~~~~~~




初めて
あなたに
会ったのは

いつの日だったろう



どんなに
幸せな日々を送っても

どんなに
ある人を愛しても


いつも
心のどこかで

あなたが囁いて



あなたのほうへ
心が
動いていく



あなたは


幸せね?



私は
あなたの
幸せを

祈っています




主演:ぺ・ヨンジュン
    チャン・ツィイー


【君に会えるまで】第6部





イ:こんにちは。


インジュンがユナの家に4年ぶりに訪ねてきた。
玄関に出たユナの母親チェンとインジュンが顔を見合わせた。


チ:・・・こんにちは。
イ:ご無沙汰していました。
チ:・・・。すっかり、大人になったわね・・・。(まぶしそうに見つめる)
イ:チェンさんはお変わりありませんね。
チ:そんな・・・ずいぶん、老けたわ・・・。


イ:この間は・・・・。(言いにくそうに言う)
チ:なんですか?
イ:ユナが・・・先生が・・・。
チ:ユナでいいですよ。
イ:お母さんに全てお話ししたと言っていたので・・・。うちの母がユナにひどいことを言ってしまって申し訳ありませんでした。
チ:・・・。(首を横に振る)
イ:チェンさんは、お母さんは・・・僕たちを応援してくださると伺ったので・・・。
チ:・・・好きなら、一緒におなりなさいと言っただけです・・・。
イ:・・・・。(チェンを見つめる)
チ:あなたたちを助けて応援するという意味ではありません・・・。(見つめる)
イ:・・・。



ユナが2階から階段を下りて、玄関へ出てきた。


ユ:インジュン! いらっしゃい。ママ、インジュンとは久しぶりでしょ?
チ:ええ。
ユ:ママ。私、インジュンと一緒になりたいの・・・。やっぱり、私たち、別れられないの。それで、ママの力を借りたいの。
チ:私に何をしろというの? 私にできることなど何もないわ。
ユ:ママ・・・。
チ:二人で考えなさい。(インジュンの顔をじっと見る)



ユナの母親は、そういうとさっさと自分の部屋のほうへ行ってしまった。残されたインジュンとユナは母親の気持ちがわからず、彼女の後姿を見送った。



イ:まずかったかな・・・。急に来たりして・・・。
ユ:そんな。大丈夫よ。ママは怒ってなんかいないわよ。
イ:でも・・・。
ユ:ママにお母さんを説得してもらおうなんて、虫がよすぎたかな。
イ:そうだね。でも、ちょっと様子が変だったよね?
ユ:・・・パパのこと、思い出したのかしら?
イ:お父さん?
ユ:うん・・・。実は・・・パパとママって、22歳も年が離れているの。ママが21の時に、43歳のパパと、それも国の違う人と結婚したのよ。それって大恋愛でしょ?
イ:そうだね。
ユ:だから、きっとパパのことを思い出したんだわ・・・ママたちは、自分たちの力で道を切り開いてきたから、きっと私たちにもそうしろって言っているのよ・・・。


イ:そうか・・・。
ユ:ねえ、私の部屋へ来て・・・。ママはあなたのこと、好きだもん。これから、うちへ遊びに来ても怒ったりしないわ。ただ、自分たちのことは自分たちでしっかりやりなさいっていってるのよ、きっと。
イ:うん・・・。
ユ:ねえ、上がって。早く・・・・。(甘えた目でインジュンを見る)



ユナはインジュンの手を引いて、2階の自分の部屋へ上がっていった。








ユナの母は自分の部屋に入り、ベッドに腰掛けた。

久しぶりに会ったインジュンはすっかり大人になっていて・・・まだ線は細いものの、もうほとんど、彼女の知っていたケイジュンの姿になっていた。


彼女は溜息をついた。



遠いあの日。


あの時のことが、昨日のことのように思い出される。


人生の大きな岐路・・・。
一生の中で一番大きく揺れた日、自分の生きる道を決めたあの出来事。

長い間、忘れる努力をして、夫の愛でなんとか切り抜けた日々。

今は一人、あの時を思い出す。







夢の中を走るように、通りを駆け抜け、パリ病院の地下室に下りていく。

重い鉄の扉を押し開け、中へ入ると、シーツに包まれた彼を見つけた。

絶望感で胸が張り裂けそうになり、足が止まりそうになるが、一歩一歩近づいて、その顔を覗く。




ああ、愛する人!

こんな、こんな!

ああ・・・!


メ:ケイ! ケイジュン、起きて、起きて! これからずっと一緒にいるって約束したじゃない! だめよ、まだだめよ。・・・お願い! 起きて、起きてよお・・・。(泣いてすがる)

 
ケイジュン・・・一人で逝かないでよ・・・・。(取りすがって泣く)



なぜ? 

なぜ、彼を奪うの?

私の命!
私の命なのに!


なぜ!
なぜ!

私の全てなのに!


結ばれれば、私のものだって言ったじゃない!


ああ・・・。

ああ・・・。





泣き崩れて立っていることができない・・・。

彼の眠るベッドから、崩れるように床に座り込む。




ああ・・・。

ああ・・・。




後ろからメイを抱きかかえる腕があった。


振り向くと、ソンジュが辛そうに、メイリンを見つめている。

痛々しいメイリンをソンジュが力いっぱい抱きしめて、メイリンは苦しくて悲しい思いを吐き出すように号泣した。




あの時の情景を一生忘れることはできない・・・。




全てを変えてしまったあの日。

ソンジュは、ケイジュンが壁画を修復している、大聖堂にあった大きなシャンデリアが突然落ちて、彼がその下敷きになったことを隠し、私を病院へ呼び寄せた。

ソンジュは電話で、私をやっと探し出せたといったが、それが彼の死だったとは、その時は言わなかった。
私が動揺しないように、思いやりのある電話の応対だった。



その日の昼前に事故は起こった。

古くなっていた天井は、重いシャンデリアを持ち堪えられなくなっていた。そして、この日とうとう、大きな音を立てて、天井の一部が崩れるように落ちた。

ソンジュがその知らせをもらったのが昼過ぎ。彼はケイジュンのアドレス帳から、メイの自宅の電話番号を探し出し、そこからまた、フルートの先生のお宅の電話番号を聞く。
先生のところへ連絡を入れた時には、もう私は帰っていて、市場で、夕食の材料を吟味していた。


ケイジュンは病院に運ばれた当初は生きていたが、内臓破裂で午後3時過ぎにはもう亡き骸になってしまった。



ソンジュは付き添いながらも、私を探し、私は何の胸騒ぎもなく、その日を過ごしていた。
少なくても、ケイジュンのチャームを拾った時、なぜ私は不安にならなかったのだろう。


私は幸せに酔いしれていた・・・全く前が見えていなかった。
初めての男であるケイジュンは運命の人で、それは必ずハッピーエンドに終わるという確信に似た驕りがあった。

でも・・・恋の呪縛は解けていなかったのだ・・・。



パリ病院の受付についた時、ソンジュは席を外していた。

私は受付で、ケイジュンの名前を告げ、病室を聞いた。


でも、答えは霊安室だった。



そこから、まるで夢の中を歩くように、地下へ降り・・・・彼のベッドまで辿り着いた。







メイリンは、ベッドの横に立てかけてあった二枚の絵を取り出して、ベッドに並べてみる。




ケイジュンが描いた油絵。20の頃のメイリン。その瞳は愛に満ちていた。

インジュンが描いた韓服の女性。それはかつてのメイリンにそっくりだ。その顔は、ケイジュンを亡くしたあとの数年間のメイリンによく似ている。

この絵をインジュンに描かせたであろう、インジュンの中の魂が、亡くした妻を求めて、彷徨った心情がとてもよく出ている・・・。
そして、それは当時のメイの心情ともよく似ていた。





メイリンは涙を拭いながら、その絵を愛しそうに眺めた。








21歳のメイリンは、再び占い師の部屋を訪ねた。

真っ黒な喪服に黒のベールのついた帽子を被り、黒い手袋をはめて、悲壮感たっぷりに、部屋へ入ってきたメイリンを見ても、占い師はまったく驚かなかった。


メ:知っていたんですね?
占:・・・。
メ:なぜ、教えてくれなかったの? そうすれば・・・。
占:恋に落ちなかった?
メ:・・・・。
占:そんなことはないね・・・。それは避けられないこと。恋に落ちることも、彼が命を落とすことも・・・。
メ:・・・どうしたらいいんです・・・私は? あの人はもう私の全てになってしまったのに・・・。私はこれからどうしたらいいの? これからずっとさすらうの? 200年もさすらっているように・・・。
占:見てあげるよ。おいで。


安い布を引き上げて、占い師はメイリンを奥の間へ通した。


彼女は向かい合って座ったメイの顔を見た。
そして、水晶玉を横において、メイの両手をしっかり握り締めて、目を瞑る。



占:う~ん・・・。近いね・・・。彼はおまえに何か言い残しているはず。次の彼に近づく手立てを。
メ:なんでしょう? 言葉ですか?
占:・・・人・・・。
メ:人ですか?
占:この次の彼が現れる場所へ誘ってくれる人・・・。
メ:誰?


占い師はパッと目を開けた。


占:でも、どうする? この次の彼はおまえの子供のような年齢だ。今回は見送ったほうがいいかもしれない・・・。また来世があるのだから。
メ:・・・。でも、会いたいです・・・。
占:あの男のことは胸にしまって、今回は他の男と一緒になったほうがいい。
メ:その道先案内をしてくれる人は、男性? 女性? (強い視線で占い師を見つめる)
占:(メイリンを見つめる) 男だ・・・。
メ:その人と一緒になれば、彼に会えるのね?
占:子供のような彼にな・・・。


メ:私をわかる?
占:初めは気がつかない・・・。もしかしたら、最後まで気がつかないかもしれない・・・。なんせ相手は子供だ。
メ:でも、見ればわかるのね? 
占:ああ。おまえなら、すぐわかる・・・。たとえ相手が子供でも・・・。同じ瞳。同じニオイ。同じ言葉を話す男。おまえは感覚的に探し出せる。いや出会える。・・・しかし、まだ子供だ・・・。これから時間をかけて、生まれ変わるのだから・・・。
メ:・・・。(占い師をじっと見つめる) その人は誰? 私を彼へ誘ってくれる人・・・。
占:その男を蔑ろにしてはだめだ。おまえの愛で包まなければ・・・そうすれば、きっと出会える。
メ:なんていう人ですか?
占:名前は知らない・・・。ただあの男の「運命」があの男の口を借りて、おまえにヒントを言っている。
メ:「運命」が私に話しかけている?
占:そうだ。
メ:教えて!
占:いいかい・・・。本気なんだね? もうおまえの人生はこれで決まったも同然だ。その男に尽くし、その男の子どもを生み、あの男の再来を待つ・・・。しかし、あの男とは結ばれることはない・・・。とても若いんだよ。おまえの子供より・・・。それでも、おまえは幸せになれると思うかい?


メ:その人との時間は、幸せに過ごせるのでしょうか?
占:・・・とてもやさしい人だよ・・・とても心が深くて・・・おまえの全てを飲み込んで、大事にするだろう。ただし・・・。
メ:ただし?
占:おまえの親のような年齢だ。国も違う・・・。
メ:親のような年齢? 国も違う?
占:そう・・・。
メ:その人って・・・。(驚く)
占:哲学者で、背の高い・・・。


メイリンは思いを巡らした。
ケイジュンの「運命」が彼の口から洩らしたヒント・・・。
ある日の会話が頭をよぎる。
ケイジュンと「その男」の会話が蘇る。



『じゃあ、少しの間、先輩にメイリンをお貸しします。僕が部屋を偵察してくる間だけ。戻ってきたら、ちゃんと僕に返してくださいね!』

『返さなくちゃだめか?』

『だめです・・・そこに本当の幸せがあるから!(笑う)』

『仕方ないな』

『じゃあ、ちょっと先輩の相手をしてあげて』

『ええ』

『これでも、結構いい男だから、心配だけど』

『早く行けよ。目障りだな。早く二人にしてくれ』

『わかりましたよ! (笑う)』





メ:(思い当たって驚く)あの人ね? イ・ソンジュさんね・・・? 隣のお部屋の・・・。
占:・・・。(頷く)
メ:あの人は私を大事にしてくれますか?
占:とても懐の深い人だよ・・・。



メ:うん・・・。(覚悟を決める)ありがとう。もう行きます。(立ち上がる)
占:お嬢ちゃん!(驚いて引き止める)
メ:行かなくちゃ。あの人、明日韓国へ帰るんです。彼のお骨を持って。これからあの人を引き止めに行かなくちゃ。あの人に会わなくちゃ!(涙が一筋落ちてくる)
占:運命に従うことはないよ、お嬢ちゃん! 他に幸せになる道はある。あの男と会うのは、来世でもできるんだから!
メ:(きっぱりと)いいえ! 私はあの人を追います! ケイジュンにもう一度だけ、会いたいんです! 生きているうちに、もう一度だけ!(涙が落ちる) だって、今の私は・・・今の私は、この時代にしかいないんですもの! この私が会いたいんです! ありがとう! さようなら!


メイリンは涙を拭き、占い師の部屋を足早に出ていった。









メイは両親や妹の反対を押し切り、イ・ソンジュのもとへ嫁いだ。

ソンジュは優秀な哲学者で人柄もよくて、彼個人をみれば、別段悪いところなどない。
しかし、メイより22歳も年上でその上、国も違って・・・・そして、今、メイ自身は恋人を失うという大きな試練の真っ只中にいるはずなのだ。やけになって取り返しのつかない結婚などしてほしくない・・・。


でも、メイの意志は固かった。



イ・ソンジュとの結婚は、ケイジュンの生まれた国、韓国へ彼女を誘ってくれるはずだった。

しかしソンジュが奉職した大学は、アメリカの地方都市にある大学だった。


慣れないアメリカ、それも大学の街で、ある意味、街全体がその学校によって生かされているので、どこへ行っても、ソンジュの大学関係者と顔を合わせ、メイには気の休まるところなど一つもなかった。

結婚して11ヶ月後、彼女は一人の子の母となった。しかし、それは喜びより、苦しいものとなった。



全く慣れない土地での初めての子育ては、21歳のメイにとっては試練そのものだった。
それでも、夫は協力的だったし、この生活を選んだのはメイ自身であることを、はっきり自覚していたので、夫にも弱音を吐くことはなかった。


ただ時折、虚ろな目をして、窓の外を眺めた。
一人部屋でフルートを吹いて、溜息をついた。




ユナの2歳の誕生日の日だった。

夫ソンジュは、白い花束を抱えて帰ってきた。見ると、それは白いカラーの花だった。


メ:これ、ユナにプレゼント?(驚く)
ソ:まさか、違うよ。(笑う)Mrs. Lee、これは君へのプレゼントだ。君がかわいいユナを僕にプレゼントしてくれた日に感謝して。(差し出す)


メイは少しニコッとして花束を受け取り、その花をじっと見た。今まで、この花に心を奪われたことはなかった。


メイは、ここ数年、花というものを避けてきた。

あの事件以来、メイは、ケイジュンの思い出のある、パリ郊外のサン・ピエトロ寺院の庭を思い出させるバラを、見るのもイヤだった。

まして、カラーほど、何の愛想もない花はもともと、あまり好きではなかった。



メ:これを私に?
ソ:そう・・・。メイ、こっちへおいで。


ソンジュはメイをソファのほうへ呼んだ。
二人は並んで座り、少し向かい合った。



ソ:君は・・・。・・・君がこの慣れない土地で、僕の大学の仲間たちと付き合うのに、苦労していることは、よくわかっているつもりだ・・・。皆、理屈っぽいやつらだからね・・・。それに・・・君が、学生と同じくらいの年齢で、他の先生の奥様方に奇異な目で見られていることも・・・。それが君を辛くしていることも。初めての子育てがたいへんなことも。そして・・・。


ソンジュは言葉を選びながら、メイを見た。


ソ:君があの事から心が癒えていないことも・・・。
メ:ソンジュ・・・私・・・。
ソ:ねえ、聞いてほしいんだ。その事を隠さなくていいんだよ。(少し俯く)メイ、ケイは僕にとっても、かけがえのない友人だったからね・・・。
メ:・・・。(俯く)
ソ:メイ、君は気が付いていないかもしれないけど・・・君はケイのことでとても不幸だけど・・・僕は知ってるよ。
メ:何を? (顔を見る)
ソ:君が・・・僕を愛してくれていることも・・・。(メイを見つめる)
メ:! (息が詰まる)
ソ:だから、僕は君が時々ケイを思って泣いても気にしない。だって、今の君は僕を愛してくれていて・・・僕にとても尽くしてくれる。
メ:ソンジュ・・・。
ソ:だから、心配しないで。その気持ちを隠さないで。僕は、君を・・・メイ、君を丸ごと、好きなんだよ。愛しているんだ。
メ:ソンジュ!
ソ:だから、隠さないで、君の心を。一緒に乗り越えよう。一緒に泣いて、一緒に笑おう。
メ:・・・・。(泣けてしまう)


ソ:今日はそれを言いたかったんだ。・・・この花をどう思う?
メ:・・・。(花を見つめる)
ソ:白いカラー・・・白と緑だけの花。この花びらのシンプルなこと。美しいだろ?
メ:・・・。(花を見つめている)
ソ:花びらを幾重に重ねても美しくない花もある・・・。でも、こんなにシンプルで・・・大きな口を開けて、喜びも悲しみも、全てを飲み込んでも、瑞々しくて、清楚で美しさを崩さない。君のような花だよ。・・・メイ、君にはそうあってほしい。この花のように生きてほしいんだ。


メイはソンジュを見つめた。

ソンジュの選んだ花はとてもシンプルなのに、その佇まいは美しい。ソンジュの大きな愛を感じて、メイは胸がいっぱいになり、ソンジュの首に抱きついた。


メ:ソンジュ、ソンジュ、ごめんなさい。あなたを苦しめていたわね。あなたも辛かったのよね。ごめんなさい。ごめんなさいね、ソンジュ。
ソ:謝らないで。ただそばにいて・・・。それだけでいいんだよ。




メイはその日以来、その花が好きになった。

カラーの花言葉は、乙女のしとやかさ、情熱、清浄、清らかさ、歓喜だった。そして、白のカラーは愛情と、乙女の清らかさだ。

全てがメイリンであり、メイリンの生きる道を指していた。
これからは前を見て、運命などに負けず、生きていこうと、メイリンは心に誓った。




そして、メイの心を抱きしめて支えてくれた夫も、今はもういない。









メイは病院の夫のベッドの横で、りんごを剥いていた。


メ:このまま食べるの? 絞ったほうがよくない?
ソ:最後に、固形のままリンゴを噛んでみたいんだ。飲み込めないけど・・・。
メ:うん・・・小さく切ってあげるわ。
ソ:ああ、君のアップルパイがもう一度食べたかったな。ちょっと酸っぱくて・・・生のまま載ったリンゴがおいしかった・・・。
メ:明日、作ってくるわ。
ソ:うん・・・。明日・・・。明日・・・。今日が小康状態だから・・・明日はあるのかな・・・。
メ:あなた・・・。
ソ:そんな顔しないで。


メイリンはガンに侵され、もう幾ばくもない夫を見つめながら、小さく切ったリンゴをフォークに刺して、差し出した。


ソ:ありがとう。・・・・。サクサクしておいしいね・・・。(よく味わって噛み、皿に吐き出す)
メ:もう少し食べてみる? (次のリンゴをフォークに刺す)
ソ:うん。・・・・・。(味わう)



ソ:おいしかった、ありがとう。
メ:明日はパイを作ってくるわ。
ソ:うん・・・。でも早く来てね。
メ:うん・・・。(ソンジュの手を握る)


ソ:メイリン、今日は気分がいいから、君にお礼を言っておきたいんだ。
メ:お礼って?
ソ:22年間も一緒にいてくれて、ありがとう。
メ:あなた・・・。
ソ:結構、長い時間が経ったはずなのに、まだ10年も経っていない気がするよ。不思議だね・・・。まるで、夢を見ていただけのような気もするし・・・。でも、あの日、君が、僕を訪ねてくれて・・・僕は君を妻に迎えることができた・・・。



21歳のメイがソンジュの部屋のドアの内側に立っている情景を思い出す。
喪服を着ていたが、目は強い意思で、ソンジュを見つめている。
ソンジュはそんな彼女が無償に愛しくて、抱きしめずにはいられなかった。




メ:あなた・・・。
ソ:本当に幸せ者だよ。君を愛せて、君に愛されて・・・。
メ:あなた・・・。私も幸せだったわ。
ソ:心残りは・・・彼に会えずにいくことかな。ケイジュンは僕たちのキューピットだったのに・・・。


メ:あなた、彼はもう死んだわ。
ソ:直に現れるさ。・・・僕はまた、君に会えるだろうか?
メ:あなた!
ソ:最近、こんなことを考えるんだ。君とケイジュンがある縁で結ばれていたなら、僕はきっとケイジュンと結ばれていたんじゃないかって。
メ:どういうふうに?
ソ:あいつに初めて会った時、とても懐かしかったんだ。きっと、僕たちは親子か兄弟か、あるいは主人と侍従か、きっと何か繋がりを持っていたんじゃないかって。そんな繋がりでも、それでも、君と結婚できてよかったよ。


メ:ソンジュ・・・。私はあなたと結ばれて幸せだったわ・・・。あの生まれ変わりの話がうそでも、あなたとの時間は本物だったし、素敵な人生を送らせてもらったわ。あなたこそ、私の運命の人だったのよ。
ソ:・・・。
メ:あなたが私の運命・・・。だから、そんなことは言わないで。
ソ:・・・。彼はどんな姿で現れるんだろうねえ。彼のそばには、僕がいるはずだけど・・・この時代ではもう生まれ変わっても、君に会えないな・・・。(寂しそうに言う)


メ:ソンジュ、そんなこと言わないで。まだ、私と一緒にいてちょうだい。
ソ:彼の子供か、あるいは・・・。
メ:ソンジュ!
ソ:あの曲を吹いて! 僕らしい子供を見かけたら、あの曲を聴かせてあげて! あれは、僕の魂の曲でもあるから!
メ:うん、うん、わかったわ、わかったから・・・そんな悲しいこと、言わないで!
ソ:お願いだよ。僕を見かけたら、思い出して!
メ:ええ、もちろんよ! 抱きしめるわ、よその子だって。あなたにあの曲を聴かせるわ!
ソ:ありがとう・・・。これで安心したよ。
メ:・・・。(泣けてしまう)
ソ:メイリンは・・・43歳になったの? 結婚した当時の僕の年になったね。43歳で、君と結ばれた・・・。メイ、君は僕の宝だったよ。君はまた、これから新しい人生が始まるんだ。胸を張って、生きなさい。
メ:まだ一緒にいてちょうだい。一人じゃ歩けないわ・・・あなたがいなくちゃ・・・一人じゃ、歩けないわ。
ソ:大丈夫だよ・・・君には・・・・新しい人生が・・待っている・・・。(目を閉じる)
メ:・・・。(顔を見つめているが)あなた? ねえ、ソンジュ? ソンジュ! ソンジュ!! ソンジュ!!






そして今、メイリンは、ケイジュンの描いた絵とインジュンの絵を撫でながら、感慨に耽っている。


メ:ソンジュ・・・。本当に出会えたわ、あの人に。そして、今度は娘のユナと恋をしている・・・。彼には、ユナが懐かしいニオイがしたのね・・・。ソンジュ・・・。あなたも応援してあげて。ケイジュンが、ユナが、幸せになれるように・・・。今度こそ、幸せになれるように・・・。







その日は、インジュンも一緒に、メイとユナと3人で食事をしていくという。
ユナが母に手伝ってもらって、夕食の準備をしたいとせがんだ。

インジュンの母親のことは気がかりだったが、メイも久しぶりにインジュンとテーブルを囲めるので、ユナには渋々という顔をしたが、内心とてもうれしかった。



食事の支度をするために、メイがリビングからキッチンへ向かう途中、肩までの髪を後ろで、クルクルっと巻いて、ピンで髪を留めた。



その後ろ姿を見ていたインジュンは、ちょっと妙な気分になる。


その仕草を以前から知っている気がするのだ。

頭を少し前かがみにして、クルクルっと髪を巻く。その時のうなじの感じも見覚えがある。


ユナは長い髪を後ろで無造作に縛るだけだ。彼女には、母親の持つ繊細な動きはない。

その大まかな感じがユナのよい所でもあるが、インジュンは、この母親の、この指先の動きを何度も見て知っているように思う。


それは夢か幻か、髪を結いながら、歩いていた母親がインジュンのほうを振り返り、満面の笑みを浮かべて、笑った。

その顔は、48歳の彼女ではなく、とても若くて、とても溌剌としていた。


ハッと思った瞬間、それは自分の思い過ごしで、母親は立ち止まることなく、まっすぐキッチンのほうへ歩いていった。










第7部へ続く




メイリンのストーリーが終わり、

いよいよ、インジュンに何か変化が起きてきたようです。




2009/11/06 01:24
テーマ:【創】君に会えるまで カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「君に会えるまで」5



BGMはこちらで^^





BYJシアターです。


「君に会えるまで」第5部です。


いよいよ終盤戦に入ってきました。

あなたの考えていたストーリーと同じでしたか?


こちらはフィクションですので、ここに登場する人物、団体は実在のものとは異なります。



【配役】
インジュン、ケイジュン、ウォンジン:     ぺ・ヨンジュン
ユナ、    メイリン、  メイファー:     チャン・ツィイー




ここより本編。
お楽しみください。


~~~~~~~~~~




初めて
君に
会ったのは

いつの日だったろう



どんなに
激しい恋をしても

どんなに
ある人を切なく思っても


いつも
心のどこかで

君が囁いて



君のほうへ
心が
動いていく



君は


僕の前にいるよね




僕は
ちゃんと
君を

見つめているよね





主演:ぺ・ヨンジュン
    チャン・ツィイー


【君に会えるまで】第5部






それはインジュンが大学4年の夏だった。


交通整理のアルバイトをやっていた彼は、バイトが終わって、アパートまでの道を急いでいた。
大学3年になってから、自宅を出て大学に近いアパートを借りていた。

表向きは大学の授業で演習が増えたから、学校に近いほうがいいということになっているが、実は一人息子の自分への母親の関与が段々に煩わしくなってきただけだ。

このままでは母親の自分への依存度も高くなる一方で、自分にも母親にも「親離れ・子離れ」するチャンスが必要だと思い出したからだ。
それが一年前だ。
母も、最近はなんとか園芸以外の趣味も作り、自分の世界を広げつつあるようだ。




午後5時を過ぎても、まだ外は明るかったが、そろそろ子供たちは家路に戻ろうとしていた。


土手の上をフラフラと歩いていると、女が一人、土手の斜面に寝転がっている。
よく見ると、それは懐かしい顔だ。


久しぶりに、インジュンはユナの姿を見かけて、ちょっと脅かそうと思い、静かにユナに近づいていった。

仰向けになって静かに目を閉じている太ももの辺りを、インジュンが横から軽く蹴った。


イ:おい、何してんだよ?(わざと太い声で言う)


ユナがゆっくりと目を開けて、インジュンを見つめた。

その瞳が涙に濡れていたので、インジュンは驚いてしまう。


イ:・・・。(驚いて見つめる)
ユ:インジュン? やだ、インジュンなの?
 
イ:・・・・。(困った顔になる)
ユ:何よ。自分から蹴っておいて・・・。久しぶりね。元気だった?(涙を拭く)
イ:・・・。


インジュンはちょっと困った顔をしてユナを見つめている。


ユ:何、ボサッとしてるのよ。座んなさいよ。どうしたの? 久しぶりじゃない。
イ:どうしたの?って。先生こそ、どうしたんです。元気でしたか?(横に座る)
ユ:まあね。
イ:ずいぶん長い間、音信不通でしたよね・・・。(ちょっと皮肉を込めて言う)


ユナの家で、ユナの母親と連弾して以来、少しユナが冷たくなったのは、インジュンも気がついていた。その理由はわからなかったが、あんな素晴らしい時を3人で過ごしたのに、彼女は冷たかった。


ユ:大人には大人の都合っていうのがあるのよ。(少し怒ったように言う)
イ:子供は相手にはしないとか?
ユ:そうじゃないけど・・・。


イ:おばさんは元気?
ユ:あなたって、いつもママの心配してるのね。
イ:だって、いい人だから。好きな人のこと、心配しちゃいけない? 先生みたいに意地悪じゃないしね。
ユ:ひどい・・・。
イ:怒った?
ユ:少しね。
イ:・・・。(見つめている)
ユ:何よ?


イ:・・・泣いてたんですか?
ユ:まあね・・・。大人にはいろいろあるのよ。今日はどうしたの?
イ:バイトの帰り。
ユ:ふ~ん、大学は楽しい?
イ:別に。
ユ:そう! でも、いいなあ・・・。私もあなたの頃に戻りたいわ。もっと・・・もっと楽しい時代に・・・。(また泣ける)
イ:どうしたんですか?
ユ:う~ん・・・。
イ:振られたの?
ユ:おっ! 大人の口を利くじゃない?
イ:まあね・・・。もう22歳だよ。
ユ:そうっか・・・。私が教師をしていたのが、23歳の時だもんね・・・そうか・・・。
イ:今の会社の人?
ユ:うん・・・。ホントは結婚すると思ってた・・・。でも、もう結婚する人がいるんだって! バッカみたい! 私ってバッカみたい! 思いつめて・・・バカみたい・・・。(泣きそうな顔になる)
イ:バカじゃないよ・・・。
ユ:・・・・。(インジュンを見る)
イ:誰だってそういう辛い時はあるよ・・・。
ユ:そうね! 子供に慰められたわ。
イ:子供じゃないよ、もう。
ユ:そうだね・・・。もう子供じゃないよね。でも、元気になった。ありがとう!(起き上がる)



インジュンが先に立ち上がり、ユナに手を差し出す。


ユ:またまた、ありがとう!

ユナはインジュンの手を借りて立ち上がるが、インジュンの手の温かさになぜか泣けてきて、インジュンに抱きついて泣いてしまう。


ユ:ごめん・・・。ごめんね。少し泣かせて・・・。少しだけ、このままで泣かせて・・・。
イ:・・・。


インジュンはどうしたらいいかわからず、ただ強くユナを抱きしめた。






あの日、あんなことがあってから、ユナの存在が、インジュンにとって「先生」というより「女」という存在に変わってしまったことに気づいた。

確かに、その前からインジュンにとっては、ユナは先生というより、もっと近い存在ではあった。

夢の中の女性によく似たユナ。
ユナの母親の奏でる曲は、インジュンにとって、とても懐かしいものだ。

もしかしたら、ユナは自分にとって運命的な存在なのかもしれない。


ユナは自分の学校にたった3ヶ月しか勤めていなかったし、実際にはインジュン自身は2回程しか授業を受けたことがない。
それなのに、こんなに近い存在と思えるのは、二人が出会うべくして出会ったということではないか。
これは必然の恋ではないか。

そんな思いがインジュンの心を支配し始めていた。




ユナも久しぶりに会ったインジュンに、胸をときめかせていた。

高校を卒業した年、自宅を訪れたインジュンに、自分が恋をしていることに気付いたのは、母親とピアノの連弾をする彼を見た時だ。
でも、あの時はそんな自分の胸のときめきを封印した。
まだ高校卒業したての彼に、男として恋してしまった自分がとても不謹慎に思われたから・・・。


でも、母親と一緒にピアノで連弾しているのを見た時のあの胸騒ぎを忘れることはできない。
あの時、激しく母親に嫉妬した・・・それは胸が痛くなるほどだった。
26歳も年の違う男女が、意気投合して、連弾していただけなのに、見ているだけで胸が苦しくて苦しくて仕方がなかった。

本当に私はバカだわ・・・。


でも、この間のインジュンの胸は温かかった。そして、厚みがあって、私を力いっぱい抱きしめてくれた。

彼の体は、もう子供ではなかった。
顔も心も、もう子供ではなかった。

でも、彼はこんな5歳も年上の女と付き合ってくれるだろうか。


最近の私は少しおかしい。

この間まで胸を痛めていた男のことなどすっかり忘れて、今はインジュンのことで頭がいっぱいだ。
あの年下の、インジュンが愛しくて愛しくて仕方がない・・・。

彼のあの胸を他の人に渡したくない・・・最近、そんなことばかり考えている。


あの日から、またインジュンに会いたいと思っているのに、あの連弾した日から彼につれなくして、もらった電話も返さなかったり、手紙の返事も出さなかったりしていたものだから、こちらからは、今さら、とても連絡できそうにない・・・。

インジュンからの用事はいつも、ユナの母親への伝言でしかなかったのだが、その返事をするのも胸がざわめいて、ユナには冷静にできなかった。


母親は言葉には出さなかったが、たまにピアノであの曲を弾いたり、インジュンと連弾したテープを密かに聴いたりしていた。
それを見るにつけ、ユナは自分の心の狭さに嫌気が差して、悲しくなった。

二人はただ気の合う芸術家同士なのに・・・それを羨み、嫉妬してしまう自分が情けなかった。






あの土手で再会した日から2週間ほどした土曜日の午後、突然、インジュンからユナに電話が入った。
母親は外出していて、家にはユナ一人だった。


ユ:もしもし。あ・・・インジュン・・・。
イ:こんにちは。おばさんはいますか?
ユ:・・・今、出かけているの・・・ママに用事?


ユナは自分でも恥ずかしくなるほど、声が震えた。


イ:うううん、先生に用事。
ユ:そう・・・なあに?
イ:・・・なんか声がやさしいな。
ユ:そう?
イ:うん・・・。
ユ:何よ?
イ:どこか遊びに行きませんか?
ユ:え?
イ:だめ?
ユ:だめじゃないけど・・・。
イ:じゃあ、出ておいでよ。
ユ:ずいぶん、言葉遣いがぞんざいになったわね・・・。
イ:デートを申し込んでるんだよ。・・・だめなの?
ユ:え?
イ:だめなの?
ユ:う~ん・・・。
イ:いやなの?
ユ:・・・。
イ:じゃあ・・・はっきり断って。
ユ:え?
イ:はっきり、キライって言って。
ユ:え?
イ:じゃあ、5時に南口の「コーヒーカップ」で。
ユ:え? でも・・・。
イ:場所、わかるでしょ?
ユ:それは。
イ:じゃあ、待ってるね。
ユ:ねえ。


インジュンの電話は切れた。ユナは何も言い返すことができなかった。

行くとも行かないとも。
好きともキライとも・・・。
ただ彼の言うことを聞いていただけ。

でも、それだけでもう・・・バレているだろう・・・自分もインジュンが好きだということが。


ユナは自分の部屋に上がって、クローゼットの中を見た。
着ていくものがない・・・。


どうしよう・・・。


ふいに、そんな自分がおかしくなった・・・。

恋してるんだ。
本当に彼に恋してるんだ。

そして、彼も!


急に幸せが実感としてユナを包む。
そうすると、元気がみなぎってきて、ユナはまたいつものユナに戻っていった。












ケイジュンがモンマルトルのアパルトマンに戻ってからは、メイリンとケイジュンの二人は、時々隣の部屋に住む、あの哲学者のイ・ソンジュとも、ともに時を過ごしていた。
もともと、メイと出会う前から、二人は気の置けない友人で、いつも一緒に過ごしていた。それがメイの出現により、その関係に変化が起こっただけだった。

ジャンヌの時は・・・彼女はケイの愛人でしかなかったので、このように一緒に話し込んだり食事をしたりすることはなかった・・・。


彼はいつも頃合のいい時間に現れた。

二人がのんびりお茶を飲みながら語り合いたい時とか、笑いたい時とか、そんなリラックスタイムにタイミングよく現れた。


そして、ソンジュは、なぜか一人ゆったりと二人掛けのソファに座り、メイとケイジュンは一人掛けのソファに、窮屈そうに、いや幸せそうに・・・ケイジュンがメイを膝に乗せて・・・ソンジュの楽しい独演会に、笑い転げながら、耳を傾けた。



二人が激情に流されている時に現れることはなかった。
そのタイミングの良さは絶妙だった。



イ・ソンジュは、メイリンのフルートの演奏のファンでもあった。

彼女の吹くケイジュンの故郷の民謡は絶品だと言った。
それはまさにメイのために作られた曲だと言った。

そして、彼はそれを「魂の在り処」と名づけた。

そこに、メイリンの恋する魂が宿っていると。
そして、それは、聴いているケイジュンや自分たちにとっても、その恋する思いに恋するといった二重構造を持っていて、まさに「魂の在り処」だと。


そして、いつかケイジュンのピアノとメイリンのフルートのジョイントをその目で見たいとも言った。


全てに拘りのあるイ・ソンジュの話はおもしろかった。
そして、メイの曲に名前をつけたように、彼の周りには名前のついたものがたくさんあり、それが万年筆だったり花瓶だったりと、とてもおもしろい。


彼が加わると、ケイジュンがとても知的な話をするので、彼の存在は、ケイジュンを愛し、尊敬するためには必要不可欠といえた。

そんな時のケイジュンを見ると、メイの胸はときめく。
ケイジュンを尊敬し誇りに思う。

時々、ケイジュンに見とれるメイにケイジュンが気が付き、強く抱きしめたり、時に手を握った。

そんな姿をソンジュはさり気なく目にしながら、それについては何も言わなかった・・・。



ケイジュンは、メイと二人の時は、メイに合わせているのか、あまり難しい話はしなかった。
しかし、ソンジュと話す時は難しい言葉も使ったし、大人の意見を述べた。


そこへいくと、ソンジュは不思議な人だった。
どんな複雑なことでも、難しいことでも、とてもわかりやすく、こちらが興味を持てるように話してくれる。
メイにはまだまだ知らないことがいっぱいあった。
それを、少しも奢ることがなく、楽しく話してくれる。

そして、時々、「缶切りの歯の角度」とか、「靴べらの角度と長さ」などを熱っぽく話したり、大人のウィットに溢れた人だった。


ケイジュンはそこが彼の素晴らしいところだと絶賛していた。
自分たち常人とは違う視点を持っていて、彼のウィットに富んだ人柄は何者にも変えられないと。
人に対するやさしさがあるから、全ての話に思いやりがあり、温かいと。

そして、ソンジュも、ケイジュンの技術だけでなく、ケイジュンの芸術に対する審美眼を高く評価していて、彼の将来に大きな夢を描いていた。

そんな気持ちの良い二人の関係を見ていると、メイリンはとても幸せになる。彼らの話すことが全て理解できなくても、そこに存在する空気が素晴らしいこと、そこに自分が存在することを喜んだ。









年が明けて、1月も半ばに入った寒い日のことだった。

メイはいつものように、フルートの個人レッスンを受け、ケイジュンの部屋へ直行した。
今日はケイジュンの好きな春巻きと杏仁豆腐を作ろうと、仕込みをしている時だった。

ケイジュンの部屋の電話が鳴った。
ケイジュンの部屋の電話には出たことはなかったが、ケイジュンのいないこの時間に電話が入るということは、もしかしたら、ケイジュンからかもしれない。

電話の前で迷ったが、あまりに長いコールに、とうとう受話器を取った。



メ:もしもし?
ソ:もしもし、メイ?
メ:ええ、ソンジュさん?
ソ:よかった・・・。昼から君を探していたんだよ。
メ:今日はレッスンがあったんです。どうしたんですか?
ソ:うん・・・。
メ:ソンジュさん・・・もしかして、ケイジュンに何かあったの?
ソ:今、パリ病院に来ているんだ。ケイジュンの仕事場のシャンデリアが落ちてね・・・。
メ:・・・。ケガをしたんですか?
ソ:ああ、すぐ来てくれるかい? 場所はわかるね。タクシーで来ればいい。
メ:はい、これから行きます。着替えを持っていきますか?
ソ:それは僕が後でとりに行くよ。まずは君に来てほしいんだ。ケイジュンも待ってるから。まずは君の顔を見せてあげてくれるかい?
メ:わかりました。今すぐ行きます。そう伝えてください。すぐに行くからって。
ソ:わかった。待ってるよ。・・・気をつけてね。
メ:はい。


メイは、料理の材料をひとまず冷蔵庫にしまい、お湯の火を止め、部屋の中を見回し、コートを持って玄関に向かった。


玄関先に、メイがケイジュンにプレゼントしたかわいいチャームが落ちている。

チャームは魔よけで、メイが自分たちの恋が成就するようにと、ケイジュンの財布につけていたものだった。
チャームのストラップが切れていて、メイはそれを拾い、今度つけ替えなくちゃとバッグにしまい込み、ケイジュンの部屋の電気を消し、部屋を後にした。













インジュンとユナの初めてのデートは、コーヒー店で待ち合わせて映画を見に行くことだった。

いつになく、緊張しているユナを見て、インジュンが微笑んだ。

どうもこの辺で二人の関係に勝負がついてしまった気がする。


ユナは自分でもおかしいほど、インジュンを見てときめいていた。

今日のユナはいつもの元気の半分だった。
それがユナをとても女らしく見せたし、インジュンに自信を与えた。



たわいもない話をして、コーヒー店を出ると、サッとインジュンがユナの手を握った。
ユナは驚いて、インジュンを見たが、インジュンはにこっとユナを見ただけで、そのまま、当たり前のような顔をして手をつないだまま、歩いていくので、ユナはそれに従った。


それは、二人を象徴していた。

年上で跳ね返りのくせに意気地のないユナと、年下だがしっかり者のインジュンの構図がそこにあった。

インジュンには年上のユナのかわいらしさがわかったし、ユナも言葉は少ないが安定感のあるインジュンが心地良かった。




それから、しばらくして、初めてキスをした時もそうだった。
背の高いインジュンが、夜の街灯の脇でいきなりユナを抱きしめた。その時もユナは大きく目を見開いて、インジュンを見つめただけだった。

インジュンの顔がユナの顔を覆った。


ユナは、自分はインジュンを愛しすぎていると思った。だから、いつも大切なところは、彼の一本勝ちだ。

でも、それでもいい。
ふだんは、ユナの言いたい放題を聞いてくれるのだから。


そして、初めてのキスの時、不覚にもユナは膝がガクンとしてしまい、またインジュンが笑って、ユナを愛しそうに見つめた。






それから5ヶ月が経って、インジュンの大学の近くに借りていたアパートの一室で、インジュンとユナは二人の時を過ごしていた。

いつものように愛し合った後、二人で折り重なって、まどろんでいた時に事件は起こった。



インジュンの母親がものすごい形相でふたりの寝るベッドの前に立っていたのだ。


母:インジュン! 


その声にインジュンは目を覚ました。母が間近に立っていた。


イ:母さん!(驚いて起き上がる)

ユナはその声とインジュンが起き上がったのに、気がついて目を覚まし、インジュンを見た。


ユ:インジュン、どうしたの?


インジュンの驚いた顔にユナが振り向くと、そこにインジュンの母親が立っていた。


ユ:あ!
母:その顔は・・・。(ユナの母親の顔を思い出す)先生? 高校時代のあの時の先生?(驚く) どういうことなの!


イ:こっちがどういうことか聞きたいよ。人の部屋へ勝手に入ってきて!
母:あなた、先生となんか・・・・。


イ:恋人くらいいて、普通だろ?
母:・・・・。


ユナは困って、動けない。ショーツさえ、はいていないのだ。足で探って、足の指で掴み、インジュンの母親に気づかれないように、ゆっくりとショーツをはく。
しかし、それ以上の衣類は今、インジュンの母親の足元に落ちているのだ。


母:先生、起きてください。あなたにこの状況をお聞きしたいわ。


インジュンがユナを見た。裸のままのユナを今、ベッドから出すわけにはいかない。


イ:母さん、ちょっとこの部屋から出てて。
母:なぜ?
イ:オレたち、着替えたいからさ。
母:インジュン!
イ:出ててくれよ。そのくらいのデリカシーはないの?
母:・・・・。





イ:大丈夫?
ユ:・・・うん・・・・。

インジュンが洋服を拾って、ユナに渡した。ユナは困った顔をして一枚ずつ着る。


ユ:(小さな声で)インジュン、ごめんね。お母さん、怒ってるよね?
イ:なんで、ユナがそういうこと、言うの?
ユ:だって・・・私は大人なのに・・・。
イ:恋人だろ?
ユ:でも・・・。
イ:年なんて関係ないさ。


インジュンが先に着替え、ガラス戸一枚隔てただけのダイニングテーブルに座る。


イ:母さん、なんの用だったの?
母:あんた、あんな年上と・・・。
イ:たった5つだよ。
母:でも、一時は先生だった人よ。
イ:何がいいたいの? 恋人だよ、ユナは。
母:ユナなんて呼び捨てにして・・・。(呆れた顔をする)
イ:彼女とオレが付き合ってること、なんかいけない?
母:だって、ずっと年上でしょ?
イ:だから? 二人が愛し合ってるんだから、いいだろ?
母:インジュン!
イ:5つくらいの年の差のカップルなんていくらでもいるじゃない。
母:インジュン!!


母は立ち上がった。


母:先生! 先生、出てらっしゃい! もう服は着てるんでしょ!
イ:母さん、なんてひどい言い方をするんだよ! 女の子にそういう言い方するなよ。
母:だって、あの人はもう大人でしょ? それなのに、あなたにこういうことして・・・。
イ:母さん! オレがユナをベッドに誘って、寝たんだよ。


母がいきなりインジュンの頬を平手打ちした。


母:なんなの! その言い方! 母親の気持ちがわからないの?
イ:なんだよ。好きな女と寝てるところへ、母親がいきなり入ってきて、なんで頬を打たれなくちゃいけないんだよ? オレはお袋の子供で、旦那じゃないんだぞ!

母:・・・・。(インジュンを見つめる)


ユナがダイニングへ出てきた。


母:先生、もう分別のある年頃のあなたが、こんなことをうちの子にするとは思いませんでした。あなた、もう大人でしょう。よく考えてね。自分の立場を。
イ:母さん!


ユ:ごめんなさい・・・。インジュン、私帰るわ。
イ:ここにいろよ。おまえはオレの恋人なんだし、ここにいろよ。


インジュンがユナの肩を掴む。
ユナはその手を払って、玄関へ進む。インジュンが後からついていく。


ユ:だめよ・・・。(小さな声で)今はお母さんのほうを大事にして・・・ね!(顔を覗きこむ)
イ:ユナ!
ユ:(小さな声で頼む)お願い・・・。今は行かせて。行くわ! お母さん、失礼します。



ユナが帰っていくのを、憎憎しそうに見つめる母親の視線を見て、インジュンは裸足でユナを追いかける。
アパートの通路でユナを捕まえた。

イ:ユナ! ユナ! おい、待てよ。
ユ:放して! 今はお母さんとちゃんと話し合って。私の肩を持たないで。お願い。わかって。
イ:何言ってるんだよ? おまえのほうが大事だろ? 人が寝てるところに入り込んできて・・・。
ユ:インジュン! そんな言い方しないで。・・・私、あなたの先生だったってこと、まだ気にしてるのよ・・・。だから、そのこと言われると・・・。
イ:ユナまでそんなこと言うなよ。5つ違いなんて世の中にいくらでもいるじゃないか。
ユ:でも・・・。ごめん、帰るね。今日は帰らせて。
イ:待てよ、待って。



ユナが階段を下りていくのを後ろから腕を引っ張り、強引に抱きしめようとすると、ユナがインジュンを押し返した。


ユ:抱かないでよ。バカ! もっと、もっと気持ち考えてよ。(泣けてくる)


そういって彼女は階段を駆け下りていく。

外は雨。

ユナは雨の中を泣きながら、走っていった。










ユ:ママ、私って自分勝手な人間かしら?


自宅のダイニングテーブルに座って、ユナが母親の顔を見る。


母:どうしてそう思うの?
ユ:・・・今日、インジュンの部屋へお母さんが入ってきたわ。
母:インジュン? ・・・・。あの子とずっと付き合っていたの?(驚く)
ユ:うん・・・。彼が大学4年になってからね、また出会ったのよ。
母:そうだったの・・・。
ユ:驚いた?
母:ええ、少し・・・・。(呟く)縁は切れていないのね・・・。
ユ:なあに?
母:そうだったの・・・。縁があるのね・・・。
ユ:うん・・・。笑われるかもしれないけど・・・彼がすごく好きなの。あんな子供だった彼だけど、今はすっかり大人で・・・ママ、愛してるの・・・。おかしい?
母:うううん。(やさしく娘を見つめる)
ユ:これって、運命的な恋なのかしら? 初めは彼が私の顔が懐かしいって言って、ママの曲を気に入って・・・。よくわからないけど・・・これって縁よね?
母:・・・うん・・・そうね、きっと・・・。
ユ:インジュンも本気で私を好きでいてくれるのよ。でも、彼のお母さんにとっては、元教師で5つも年上だもん・・・許せないわよね・・・。


母:それでお母様はなんておっしゃったの?
ユ:分別もある大人の私が彼を・・・。ママ、実は私たち・・・(言い難いが)・・・寝てたのよ・・・。
母:・・・。(じっと娘を見る)
ユ:(俯きながら)パパが生きていたら、きっと怒られるわね。
母:どうかしら・・・。(少し胸が痛い・・・)
ユ:ママ? どうしたの?


母は少しぼうっとしたような顔をした。


母:・・・愛しているのね?
ユ:ええ、とっても。自分でもバカみたいに・・・。


母:そう・・・。なら・・・なら、一緒になりなさい。
ユ:ママ! 本気で言ってるの?
母:ユナ。どんなに愛している人でも来世で結ばれることは難しいわ。今、愛しているなら、今、一緒におなりなさい! 生きているうちしか、チャンスはないのよ!
ユ:ママ! (母の言葉に驚く)
母:・・・ごめんなさい。私はもう寝るわ・・・。(立ち上がる)
ユ:ママ! ママ!


母は立ち上がって、自分の部屋へ行ってしまった。


ユナは母の言葉を噛み締める。

いつも物静かな母が情熱的に語った言葉・・・それはとても重い。


母はそんな思いで、父親と一緒になったのだろうか・・・。
父に尽くして過ごした母を思い出す。
いつも 母を労わって、やさしく包んでいた父を思い出す。


ユナは自然に涙が出てきた。


そうだ。
たとえ、どんな抵抗にあっても、本当に愛しているものは、その愛を貫かなければ!
父や母がそうして生きてきたように・・・。


インジュン・・・・。










第6部へ続く・・・





いよいよ全貌がはっきりとしてきました。


インジュンとユナの恋は・・・。

そして、メイは。 ケイジュンは・・・。





2009/11/04 01:36
テーマ:【創】君に会えるまで カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「君に会えるまで」4



BGMはこちらで^^




BYJシアターです。

本日は「君に会えるまで」第4部です。

今、テサギやってますね~
これも生まれ変わりでした・・・
これは4年前の作品ですが・・・
なんか、タイミング悪いシアターのアップの仕方ですvv

長いですが、お付き合いください^^



また、こちらはフィクションですので、
ここに登場する人物、団体は実在のものとは異なります。



【配役】
インジュン、ケイジュン、ウォンジン:     ぺ・ヨンジュン
ユナ、     メイリン、  メイファー:      チャン・ツィイー



ここより本編。
お楽しみください。


~~~~~~~~~~




初めて
君に
会ったのは

いつの日だったろう



どんなに
激しい恋をしても

どんなに
ある人を切なく思っても


いつも
心のどこかで

君が囁いて



君のほうへ
心が
動いていく



君は


僕といるの?





僕は
ちゃんと
君を

見つめているだろうか





主演:ぺ・ヨンジュン
    チャン・ツィイー


【君に会えるまで】第4部





下校の途中の、インジュンはユナを見つけて、うれしそうに後ろから追いかけていく。



イ:先生!


ユナが振り返った。


ユ:ああ、ストーカー君。元気だった?(ちょっと睨みつけて笑う)
イ:ふん。(ちょっと笑う)元気でしたよ。
ユ:そう、それはよかった。
イ:先生、やめるの? (横に並んで歩く)
ユ:うん。今週いっぱいでね。・・・就職が決まったのよ。
イ:そう・・・。
ユ:これは、皆には内緒ね。
イ:いいですよ。まあ、先生は、教師には向いてなかったから、いいんじゃないですか?(横目で見る)
ユ:やあねえ・・・。ホントにそう思う? 
イ:う~ん、あんまり怒りっぽい人には合わない職業だと思うから。(茶目っ気のある顔をする)
ユ:やなこと、言うわね。(ちょっとムッとする)でも、ホント。(ちょっと苦笑い)ホントに向いてなかった・・・。ところで、なんか用?


イ:ああ。今度、遊びに行ってもいいですか?
ユ:ええ。何の用?
イ:先生には用はないけど、おばさんに会いに。
ユ:ママに?(驚く)
イ:ええ。僕の伴奏で、おばさんのフルートを聴いてみたいんですよ。
ユ:う~ん! それはいいわね! 私も聴きたいわ。・・・でも、今はマズイわね・・・入試が終わってからにしよう。
イ:・・・。(ちょっと残念)
ユ:勉強しないで、教師の家へ遊びに行ってるのはよくないわ。あなたが合格したら、ね。それでいいでしょ? 今は勉強に専念なさいよ。
イ:まあ、しょうがないか。
ユ:勉強、頑張ってよ。それに、その頃は私も教師じゃないし、気楽に遊びにこられるじゃない。
イ:まあ、そうですね。ところで、おばさんはお元気ですか?
ユ:ええ。おかげさまで。・・・あなた・・・ストーカーのターゲット、変えたの?
イ:ええ! 僕は才能のある人が好きだから・・・。それにおばさんのほうがやさしいし。
ユ:そう!(睨む)
イ:残念?
ユ:何言ってるんだか、おバカさん。・・・ねえ、年上の女が好きなの?
イ:(参ったという顔をして)先生こそ、「何言ってるんだか」ですよ。じゃあ、入試が終わったら、伺います。
ユ:うん、頑張ってね。絶対合格しなさいよ!
イ:はい。じゃあ! (走っていき、振り返って)あ、就職、おめでとうございます!
ユ:ありがと! じゃあね、バイバイ!




インジュンは元気に走り去った。

ユナは笑顔で見送りながら、ちょっと寂しくなった。
自分のことではなく、母のことを気にしているインジュンの態度がちょっと寂しい。


ふっと胸に穴が開いた。


ユ:私ってバカね。相手は高校生じゃない・・・。



ユナも足早に帰路を急いだ。










メイリンはドキドキしながら、占い師の部屋へ入った。


この前、ここへ来た時は、妹のシェリーと一緒で、少し心強かったが、今のメイはケイジュンとの恋にどっぷり浸かっていて、彼との恋に身を焼きながらも、あのジャンヌに言われた言葉が頭から離れなかった。



占:また、来たね。おまえはまた一人で来ると思っていたよ。(にんまりとする)
メ:どうしても聞きたくて。私とあの人のこと・・・。
占:うむ・・・。まあ、お座り。


メイと占い師は、安物の薄い布をくぐって、奥の小さなテーブルを挟んで向かい合って座った。


占:う~ん。おまえは今、悩んでいるね。
メ:わかりますか?
占:ははあ。(水晶玉を見る) パン屋の女か。
メ:なぜわかるの?
占:私には全て見えていると言っただろ? ずいぶん、ハスっぱな女だな・・・この女に何か言われたのかい?
メ:その、ジャンヌという人が、彼の・・・ケイジュンの愛人だったと、私に言ったの・・・あなたも捨てられないようにって。
占:そんなことを言われても、おまえはその男と寝たんだろ?
メ:ええ・・・。
占:なら、それでいいじゃないか。


メ:何がいいの? 私は今、恋に目が眩んでいて、自分では何が正しいか、よくわからないの・・・これが真実の恋なのか、わからないんです・・・。
占:恋というものはそういうものだろ? その男、ケイジュンを愛して、愛されているならいいじゃないか。どの道、恋というものは先が見えないものさ。
メ:愛されていますか?
占:そのくらい、自分でわかるだろう? その男の目を見ればわかるはずだ。
メ:たぶん、愛されています・・・。
占:何が不安なんだ?
メ:私が魂を売ったこと・・・恋の呪縛。彼がホントに運命の人であるかどうか・・・。私が、ただの愛人にはならないという保証というか・・・。



占:・・・おまえの欲深さは変わってないね。男の愛に対して、独占的で、寛容さがない。相手の過ちと真実の愛を見分けられない・・・自分だけの男にするために心を悩ます。いつの時代もおまえはおまえだ、全く変わっていない。
メ:ただ愛しているんです、あの人を!
占:そう、ただ愛している・・・自分の心に忠実に。でも、その先にあることを考えない。相手の将来も考えない・・・それがおまえさ・・・。
メ:そんな・・・。


占:おまえという人間の本性を教えてやったのさ。
メ:私はそんな身勝手な人間ではありません・・・。でも、今はあの人との因縁を知りたいんです。
占:それで、聞いても後悔しないかい? 聞いたら、おまえが生きている間、きっとおまえはこのことで頭を悩ますだろう・・・。
メ:なぜ、そう思うんですか? あの人と私が幸せになれれば、悩むことなどないでしょう?
占:まあ、そうだが・・・。言葉というものは人の頭に残るものだ。一度、発せられたものは、相手は決して忘れない・・・。おまえは私の言葉を、これから何度も心の中で反芻していくだろう。全てのことがそれに繋がっていくように・・・おまえの思考回路に私の言葉が繋がっていくのだ。それでもいいのかい?
メ:ええ・・・。
占:そして・・・おまえの過去の思い出もおまえの中に蓄積していく・・・。それでもいいのかい?
メ:ええ。
占:覚悟をしてきたというんだね?
メ:ええ、たぶん。あの人を愛しているんです。自分でもどうしようもないほど・・・。人はこんなに簡単に恋に落ちてしまうのかと思うほど・・・会ってすぐ恋をしてしまいました。そして、あの人も同じ思いなんです・・・。あの人には、私の心の声が聞こえるんです・・・。不思議でしょう?


占:つまり、本物の相手だということだよ。
メ:それに・・・。恥ずかしいほど・・・身も心もあの人で溢れているんです。自分でもどうすることもできないほど・・・。そして、ちょっとした疑いも、つまりジャンヌの言葉の真意も確かめるのがこわいほど・・・。この恋に溺れているんです・・・。
占:それでいいじゃないか? その男と楽しい時間を持つんだ。愛しているなら、その愛を貫けばいい。おまえたちはもともと一つの貝だったんだから・・・。


メ:・・・聞いてはいけない話なのね? そんなに不吉な話なの? (不安になる)
占:おまえはまだ若すぎる・・・。全ての記憶を持つには若すぎる。
メ:あなたを恨みません。私はただあの人との恋を全うしたいだけなんです!



占:うん・・・・。では・・・おまえの話を聞かせてあげよう・・・。とても長い話をね。



そして、小さなろうそくに明かりを灯した。

占い師は、立ち上がって、彼女の席の後ろにあるカウチに、メイで寝かせた。



占:さあ、この揺れるコインをご覧・・・。そうだ。そして、目を瞑って・・・。


メイがゆっくりと目を閉じる。


占:では話そう。この間も言ったが、おまえとその男の繋がり、それは太古の昔から始まっている。

メ:太古?
占:そうだ。魂というものは何度も何度も生まれ変わる。それは生まれ変わっては、新しい命の中に宿り、新しい魂としての役割を果たしていく。おまえとあの男は、初め、一つの貝だった。それが時を経て、進化を遂げ、二人の人間になっていく。しかし、元々一つのものであった二人はお互いを引き合い、恋をしたり・・・あるいは、親子となったり・・・お互いの存在を確認しながら生きていくんだよ。
メ:では、必ず二人は出会えるのね?


占:まあ、基本はね・・・。ただ、生まれ変わりの時期により、出会えても恋ができるとは限らない。
メ:そうなの・・・。それで、彼と私も引き合って、出会えたのね。それも釣り合う年頃で。それなら、今の私たちはハッピーエンドね。
占:・・・。
メ:違うの?
占:この前、私はおまえに、ある時期のおまえが、祈祷師に魂を売ったと言っただろう?
メ:ええ。
占:そのために、事態はたいへん難しくなってきている・・・。自然の摂理に任せていればよいものをおまえが捻じ曲げてしまった・・・。
メ:なぜ?(驚く) その・・・私は、なぜそんなことをしたの?
占:教えてあげよう。






今から200年も昔・・・。それは韓国が朝鮮時代だったころ。

領主だった30歳のウォンジンは、伯父の紹介で知り合った隣の領主の娘、5歳年下のメイファーと結婚して、それはそれは幸せに暮らしていた。
しかし、ある時、メイファーは姉の嫁ぎ先に病の甥を見舞いに行き、そこで疫病に倒れてしまう。

領内に疫病を持ち込むことを嫌った家臣たちの反対で、メイファーは、ウォンジンの元へ戻ることが許されなくなった。
メイファーを不憫に思ったウォンジンは家臣の反対を押し切り、屋敷から離れた領地内の海沿いの別宅へメイファーを連れ帰り、密かに静養させていた。


しかし、病状は悪化を辿り、もうメイファーの命のともし火も消えかかろうとしていた。

愛し愛されてきたメイファーは、ウォンジンを一人残してこの世を去ることができない。


その嘆きは大きく、彼女の乳母たちは、祈祷師を呼び、毎日のように、彼女の快復と心の平安を祈祷してもらっていた。



ある日、はっきり死が近いことを意識したメイファーは、祈祷師を呼び、自分の思いを告げた。


メ:祈祷師様、私の命はあとどれだけでしょうか?
祈:そのようなことを知ってどうなさる?
メ:あの方を置いていくのが悲しくて・・・。胸が張り裂けそうなんです。
祈:奥方様、人は今の命を全うしても、また次の命を得るものでございます。奥方様もまた同様に、また新しい命のもとへ魂が宿ってまいります。
メ:祈祷師様、私が望んでいることはあの方とまた添い遂げることです・・・。このまま、お別れしたくありません・・・。
祈:しかし、それは・・・。お二人が夫婦として出会えるのは天の定めでございます。私たちは、天が思し召すようにしか、生きられません。しかし、一度は夫婦になりましたお二人でございます。きっとまた、添い遂げることができましょう。
メ:・・・。ああ、祈祷師様、このまま、私に会えなくなったら、きっとあの方もお嘆きになります。どうか、お力をお貸しください。
祈:しかし・・・それは天を欺くことです。
メ:どうかお願い。あの方を悲しませたくありません。私の思いを汲んでください・・・・。



祈:ならば・・・ホウセンカを摘み、爪をお染めなさい。
メ:それだけでよいのですか・・・そのようなことは、毎年、娘たちがしていること。それで、あの方と私の思いが天に通じるとは思いません。
祈:私がお祈り申し上げます・・・。奥方様・・・あなた様のお命はもう幾ばくもございません。爪のホウセンカの色が褪める前にあなた様はお亡くなりになるのです・・・そうすれば、その恋の呪文ももう解けることはないのです・・・これから、幾千の年を過ごそうと、亡くなったあなた様から呪文を消すことはできません。
メ:ウォンジン様とずっとご一緒できるのですね?
祈:そうです・・・。




それからしばらくしたある日、祈祷師が帰ったあと、乳母のウネが部屋に入ってきた。


ウ:姫様、祈祷師様はお帰りになったのですか?
メ:帰られました。今日の祈祷で私の心も落ち着きました。(幸せそうな顔をしている)
ウ:それはようございました。(メイリンの布団をかけ直し、爪に気づく)姫様、その爪は・・・。
メ:祈祷師様にホウセンカで染めていただきました。
ウ:・・・姫様・・・その意味をおわかりですか?
メ:ウォンジン様と私がこれから先もずっと夫婦でいられるようにとお祈りしていただきました。


ウネはメイファーの爪を見つめ、そして、自分のチョゴリの袖で、爪の先を擦るように拭く。


メ:何をするの!
ウ:いけません!このようなことをなさっては・・・領主様が呪われてしまいます。
メ:何を言うの!
ウ:姫様がお亡くなりになった後も、領主様が嘆き苦しんで、このお館が滅びてしまいます。
メ:私たちの愛の誓いです。
ウ:姫様! これは呪いです。領主様を不幸に陥れる呪いです!
メ:何を言うの?
ウ:・・・領主様はこれから先、姫様の亡霊とともに生きるのです。もう新しい方を迎えることはできません。
メ:それでいいではないか・・・。


ウ:もうこのお館のあとをお取りになる方はいらっしゃらなくなります。そして、これから連綿と続く領主様の魂の生まれ変わりも、姫様を探すことに全てを費やし、領主様のお心が癒えることはないでしょう。
メ:ウネ! 私がいます。いつの時代でも私がいます。
ウ:天の思し召す摂理に背いたからには、姫様と結ばれることはないのです・・・。同じ時代にいても・・・必ず、結ばれる男女に生まれ変れる保証はないのです・・・。
メ:そんな・・・。


ウ:姫様は祈祷師に魂を売っておしまいになりました。
メ:なんていうことなの・・・なんでそんなことを言うの?
ウ:もう天の摂理に生きる魂ではなくなってしまった・・・。呪われてしまったのです・・・。
メ:いったい、どうしたらいいの? どうしたらいいの?
ウ:・・・お祈り申し上げるしか・・・いつの日かこの呪いが解けるようにお祈りするしか・・・。
メ:あああ・・・。(自分の赤く染まった爪を見つめる)







メ:じゃあ、ケイジュンと私は結ばれないの?
占:そのようなことはない・・・。運命に縛られず、愛し合うことだ。そうすれば、あの男はおまえのものだ。今まで、なんども生まれ変わっても、男と女になれる相手はいなかった。しかし、おまえたちは違う・・・やっと許されたのだ。だから、今のこの時を大事に過ごしなさい。
メ:運命は私たちを許してくれたのね? 二人がまた一つの貝になることを許してくれたのね?
占:それはおまえたちにかかっている・・・。その答えはまだ見えていないんだよ・・・。
メ:・・・。
占:さあ、思い浮かべてご覧。自分の過去を。






小学校の帰り道、年老いた男に声をかけられ、手を握られる自分がいる。


腰が曲がった年老いた自分が若い青年に道を尋ねている・・・。






白い韓服を着た男が早足に海辺の屋敷の廊下を歩いてくる。
メイファーの乳母のウネが走り寄る。



ウ:ああ、領主様、お待ちしておりました。姫様が・・・姫様が・・・。
ウォ:ん。


ウネが戸を開け、ウォンジンが部屋の中へ入っていく。

真っ白な顔をしたメイファーがぐったりと横たわっている。
もう、全く生気がなくなっている。



メイファーの横に膝をついて座り、顔を覗く。


メ:ウォンジン・・・来てくれたのね。
ウ:メイファー・・・。


メイファーが手をのばし、ウォンジンに手を握ってもらう。


メ:ああ、そんな悲しい顔をしないで、お願い。
ウ:ああ・・・。


彼はメイファーの横に寝転び、腕を伸ばして、腕枕をし、自分は少し起き上がった状態で、メイファーの頬を撫でる。


メ:泣かないで・・・。悲しまないで。これはきっと運命よ。そんな目をしないで。


ウォンジンは胸が詰まってしまい、やっとのことで言う。


ウ:私を置いて逝かないでおくれ。
メ:ごめんなさい・・・・。でももう限界なの・・・。許してね。
ウ:(愛しい妻の顔を撫でながら)君がいなくなってしまうなんて・・・。
メ:そんなこと、言わないで・・・。


ウォンジンはまた少し起き上がって、メイファーの顔を覗きこむ。


メ:ああ、あなたの腕が懐かしいわ・・・。ああ、温かい・・・。
ウ:メイファー・・・。
メ:こうやって、添い寝してもらうと、昔を思い出して幸せになるの。
ウ:ああ、メイ・・・。(涙が頬を伝う)
メ:泣かないで。・・・・これで最後じゃないわ、きっと。また生まれ変わって、あなたと一緒になるわ。
ウ:メイ・・・。これから、君をずっと待ち続けるのかい?
メ:ええ、私を待っていて・・・。ずっと待っていて。必ず戻ってくるから・・・。大丈夫よ。
ウ:でも、君に会えなかったら? 君を探し出せなかったら?


メ:大丈夫。私があなたを探すから。たとえ、どんなところでも、どんな時代でも、絶対に、あなたを探し出すから、安心して。


ウォンジンが愛しい妻の顔を見つめる。メイファーがそっと手をあげ、爪を見せる。


メ:ほら、見て・・・。


メイファーの赤く染めた爪を見る。


ウ:爪を染めたのかい?
メ:ええ、これで私の爪は二度と褪せないわ・・・。いい? このままでもいい? 怒ってる?


ウォンジンはメイファーの爪を見て、胸が痛い。
そこまでの思いを残して去っていかなければならない妻・・・。


ウ:うううん・・・いいよ。(爪を撫でる)私たちの愛は色褪せない・・・。永遠に続くんだね?
メ:(夫に許されてうれしそうな顔をする)そう・・・。だから、今は逝かせてちょうだい。


ウ:お願いだから、まだ、逝かないでおくれ。
メ:泣かないで。大丈夫よ。永久(とわ)の別れじゃないもの。悲しまないで。また会えるから。私が・・・あなたを探し出すから。


ウ:私をおいて逝かないで。
メ:ごめんなさい・・・。もう疲れてしまったの・・・。眠らせて。ああ・・・。あなたにこうして抱かれて・・・ああ・・・こんなに幸せに眠れるなんて・・・。もう・・・とても・・・起きていられないのよ・・・。


ウ:メイファー、愛してるんだよ・・・。
メ:ありがとう・・・とても・・・幸せだったわ。これからも・・・ずっと・・愛し続けるわ・・・。だから、心配しないで・・・。(静かに目を閉じる)


ウ:メイ? (息をしていないのに気づいて) メイファー!





全ての時代の自分が記憶の中へ入ってきて、メイリンはしばらくカウチから起き上がることができなかった。









3月に入り、無事、大学生になったインジュンから電話があり、今日、彼がユナの家へ来ることになっている。


教え子だった彼が来るというだけなのに、なぜか、ユナの気持ちは弾んでいた。


昼下がりになって、チャイムが鳴り、ドアを開けると、インジュンが立っていた。
そして、ユナを見ると、にこやかに笑った。

その顔が少し大人びて、ユナは心の動揺を隠し切れなかった。
つい先月まで、高校生だった彼が、一端の顔をして、自分の前に立っている。

ユナは、ちょっと気後れしながら、笑顔を作り、インジュンを中へ招き入れた。


奥から、母親が出てきて、インジュンの顔を見てうれしそうに微笑んだ。
インジュンも母親とそっくりな笑顔で母を見つめている・・・ユナから見ると、なぜか不思議なほど二人の笑顔が似ていた。


この前、インジュンが来た時は、母は途中で消えてしまって、二人の間には接点などほとんどなかったはずなのに、とても気が合っている。

同じ曲が好きだということが、二人の芸術性を刺激して求め合うのか。




リビングへインジュンを通すと、母親はケーキと紅茶を持ってきた。


母:どうぞ、召し上がって。


リビングテーブルの上に、母親の得意なアップルパイと紅茶を並べた。

インジュンとユナと、母親の3人で一緒にお茶を飲む。
インジュンがアップルパイを食べた。


イ:これ、おいしいですね。
母:そう? お口に合う?
イ:ええ。この、リンゴを生で使っているのがいい感じですね。ちょっと酸っぱくて。


母親がそう言ったインジュンの顔を見上げた。ユナは、その時、母の顔つきが変わったのを見逃さなかった。


ユ:ママ? 大丈夫? (心配そうに見る)
母:え? ええ・・・。よかったわ。お好きな味で・・・。ちょっと失礼・・・。


そういうと、母親はさっと立って、台所のほうへ行ってしまった。


イ:・・・。(後ろ姿を見送っている)
ユ:インジュン。気にしないでね。これ、ママのお得意のパイなの。パパもこれが大好物だったから・・・ちょっと思い出して、胸が痛くなっちゃったのかもしれないわ。
イ:そうなんですか。
ユ:あなたと同じこと言ってたのよ。「このリンゴの酸味がいい」って。・・・パパが亡くなった日ね、病院に付き添いに行ったママが、もう何も食べられないパパの頼みで、リンゴを小さく切って食べさせてあげたんだって。そうしたらね、パパが、「もう一度、君の作るアップルパイが食べたかったな」って言ったんだって。ママはそれを今でも悔やんでいるのよ。パパが「リンゴが食べたい」って言った時に、なぜ、アップルパイが頭に浮かばなかったのかって。作って食べさせてあげたかったって・・・。きっとさっき、思い出しちゃったのね。


二人はしんみりする。


イ:悪かったかな。あんなこと言って。
ユ:いいのよ、褒めたんだから。ただ、ちょっと思い出とオーバーラップしちゃっただけよ。(やさしく笑う)
イ:・・・・。(頷く)



ユナの母親は台所で、涙を拭いていた。インジュンの一言が思い出を刺激した・・・。

でも、それは、ますます確信を掴む発言だった。


顔だけではない。
音楽の好みだけではない。
絵だけではない。


大好きなアップルパイまで同じ・・・。


今日はそれが確かめたくて、あのアップルパイを出した。
そして、同じことを言った。「リンゴの酸味がよい」と。


あのインジュンはやっぱり・・・。






気持ちを立て直して、部屋へ戻ってきたユナの母親とインジュンは、約束通り、父親の名づけた「魂の在り処」を一緒に演奏することになった。

二人が音合わせをしている間に、ユナがカセットテープで録音の準備をする。


母:いいわよ。私たちは準備ができたわ。
ユ:そう? こっちもOK!
イ:先生、失敗しないようにね。(笑う)
ユ:バカ! このくらい、私にだってできるわよ!(睨む)
母:じゃあ、私が首を振ったら、録音始めて。いいわね?
ユ:うん!



部屋の中が静まり返る。


ユナの母親が首を振り、録音が始まった。


まずは、母親のフルートから始まった。それを追うように、インジュンが伴奏をつけていく。
二人の音が・・・心が共鳴し合っている。


ユナは見ていて、武者震いをしてしまった。


この空気をいったい、なんと表現したらいいのか・・・。

今までにも何度も、母のフルートとピアノの伴奏は聴いたことはあるのに・・・今日の演奏は特別だ。


父親が名づけた通り、それは「魂の在り処」そのもの。


曲が終わると、一瞬、ふわっと空気が軽くなったように思えた。

ユナがカセットテープの録音を止めようとした時、インジュンが即興でピアノを弾き始めた。
それは初めて聴く曲だったが、心の奥深く沁み込むような曲であり音色だった。


ユナの心がインジュンの中へ入っていってしまいそうような錯覚を起こした。


ああ。


ユナは息ができないほど狂おしく、インジュンの後ろ姿を見つめた。



すると、母親が、インジュンの弾くかたわらに、レッスン用の椅子を持っていき、アドリブで伴奏を入れ始めた。

二人で連弾をする。

まるで、初めて弾いたのではないように・・・いや、まるで、一人の人間が4つの手を使って弾いているように、息もピッタリで二人は音楽を奏でている。

インジュンが先行して弾くメロディに、母親がピッタリとついていく。



後ろから見ているユナは、とても不思議な気分になった。

二人の体が同じ方向に揺れ、心が共鳴し合っている。その姿はまるで・・・まるで、恋を語っているようだ。愛し合っているようだ。

二人の年の差は、26歳もあるというのに、後ろから見ていると、全く年の差など感じない。

どちらかというと、母親のほうが若いと錯覚をしてしまいそうなほど、インジュンが母親を引っ張っていくのだ。




ユナはそんな二人を見つめながら、自分の気持ちに気がついた。

それはユナを動揺させた・・・。

ユナは今初めて、自分が恋をしているということ、そして、そのために心がどうしようもないほど、母に「嫉妬している」ということに、驚きをもって気づいた。










占い師のところを訪ねてから、メイリンはとても幸せな気持ちになっている。


自分の「過去」が犯してしまった罪は、たぶんもう許されたのだろう・・・。

ウォンジンとメイファーの悲劇から、彼らは恋人として許される二人として出会うことはなかった。
でも、今のメイとケイジュンはまさに恋人そのもの。

やっと、二人は愛し合える機会に恵まれた。
そして、その順番が、今の自分であったことに、メイリンは感謝している。




フルートの個人レッスンの後、モンマルトルのケイジュンの部屋を訪ねている。


彼は次の壁画の修復作業のための準備をしながら、今は少し休養を取っている。


ここのところ、メイを油絵で描いていて、それももうすぐ仕上がりそうだ。

ケイジュンは画材を片付けながら、鼻歌を歌っている。


コーヒーを入れていたメイがその歌に興味を持つ。


メ:なんかいい曲ね。初めて聴くわ。
ケ:そうだろ? これは僕の故郷の韓国の民謡の一つなんだ。小さな地方都市に伝わる民謡の一つなんだよ。
メ:へえ・・・。どんな歌なの?
ケ:ある領主が亡くなった妻を思い出して、その思いを歌った歌なんだ。
メ:へえ・・。領主ね・・・。ねえ、私の領主様。その曲を教えて。フルートで吹いてみたいわ。
ケ:いいよ。


メイがフルートの準備をして、ケイジュンとともに、ベッドに腰掛ける。


メ:歌って。


ケイジュンが一旋律、ハミングすると、後からメイがそれをフルートで奏でる。
一旋律ずつ、二人が声とフルートを合わせていく。

そして、2番になって、二人は一緒に、フルートとハミングで歌う。

それはとてもセンチメタルな曲で、愛に溢れていた。


メ:素敵・・・。
ケ:メイのフルートっていいね・・・。(感動している)


二人は見つめ合った。


メ:ケイジュンのハミングがいいからよ。なんていう題なの?
ケ:それがよくわからない。(笑う) でもね、子供の頃から忘れられない曲なんだよ。
メ:そう・・・領主様と奥方ね・・・。ケイジュン、きっとあなたはその領主様だったのよ。そして、私がその奥方・・・。
ケ:韓国のお話だよ。
メ:国なんて関係ないわ・・・。
ケ:そうだね・・・。でも、僕たちはハッピーエンドだよね?
メ:そうね!(微笑む)


ケ:・・・。昔、ピアノをやっていたんだ。こっちにはピアノがないけど、いつか二人で演奏しよう。
メ:ケイジュン! うちへ来て。一緒にやりましょうよ。ね! パパとママにも・・妹にも紹介するわ。
ケ:・・・うん・・・。気に入ってもらえるかな・・・。
メ:大丈夫。私の愛する人ですもの・・・運命の人ですもの・・・大丈夫。

ケ:もう一度、メイのフルートを聴かせて。
メ:ええ。


メイは立ち上がって、本格的に、演奏し始めた。








それから数日後。ケイジュンは、メイリンの住むセーヌ川左岸のアパルトマンに来ている。

メイがケイジュンの腕に腕を回して、二人は仲良く建物に入っていく。

一階の天井は高く、床も壁も大理石でできており、重厚感に溢れている。


メ:ここの4階よ。(エレベーターのボタンを押す)
ケ:ずいぶん、立派なところだな・・・。なんか気後れしちゃうな。(周りを見回す)
メ:大丈夫よ。あなたくらい素敵な人はそうそういないもん。
ケ:(笑う)ありがとう。でも、それは君の主観だろ?
メ:でも、いいの。(笑う)
ケ:はあ・・・。(思わず溜息をついてしまう)


メ:じゃあ・・・。ウォーミングアップさせてあげる。


やってきたエレベーターに、メイだけ乗り、ドアを閉める。
しゃれた鉄格子の中にメイだけが入った。


ケ:おい!(睨む)
メ:(笑う)ウォーミングアップよ。さあ、階段で上がってらっしゃい!4階よ!


メイを乗せたエレベーターが動き出す。
ケイジュンは、慌てて、エレベーターの周りをぐるりと回る螺旋階段を上っていく。2階でエレベーターの中を見る。

メイが笑って上がっていく。


また、駆け上がり、3階へ。もうメイの足元しか見えない。

また、駆け上がり、4階へ。4階のフロアに、メイが立っていた。



ケイジュンは疲れた足で、メイのもとへ行き、抱きつく。


メ:お疲れ様!(笑う)
ケ:お疲れ様じゃないよ。はあ、はあ・・・。


ケイジュンが少し前かがみになって、息を整える。


メ:どう? 頭の中がスッキリしたでしょ?
ケ:(息を吐きながら、メイを見る) スッキリ? 真っ白だよ!
メ:よかったじゃない。もう何も構えなくていいでしょ?
ケ:おい。


ケイジュンが起き上がって、メイを抱く。


ケ:ありがとう・・・。もう何にも考えられないよ。(笑う)



二人は笑い合って、メイの家のチャイムを鳴らし、ドアの鍵を開けて中へ入っていった。





母親と妹が玄関ホールに並んで立っていた。


母:いらっしゃい。お待ちしてたわ。・・・そう・・・あなたが運命の人ね。(楽しげにケイジュンの顔を見る)
ケ:ソン・ケイジュンです。初めまして。
妹:初めまして。シャオリンです。シェリーと呼んでください。
母:さあ、入って。メイ、二人で演奏するの?
メ:ええ。お茶を飲んだら・・・。素敵な曲よ。
母:そう・・・。



4人はリビングへ入っていった。



お茶のあと、ケイジュンがピアノの前へ座り、軽くピアノを弾いた。


母親とシェリーがうれしそうに顔を見合って、頷きながら微笑んだ。


メイリンがフルートを持って登場した。
少し、恥ずかしそうに笑いを堪え、母と妹を見る。

そして、ケイジュンとちょっと打ち合わせをして、メイがフルートを構える。



部屋の中が緊張感で静まりかえった。



メイがフルートで演奏し始めると、それについて、ケイジュンがピアノを奏でる。


そこにある空気は独特で、高い天井までの全ての空気が色づいたように、淡いピンクの靄が垂れ込めているように見える。



メイの母親とシェリーが、「この恋は運命」と言ったメイリンの言葉が真実であることを確信した瞬間だった。






第5部へ続く・・・



2009/11/01 23:17
テーマ:【創】君に会えるまで カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「君に会えるまで」3



BGMはこちらで^^



BYJシアターです。


本日は「君に会えるまで」第3部です。

こちらは一日置きにアップしています。



とても古い作品ではあるんですが・・・
今、読み返して、自分ではおもしろいです。
その頃の自分の想いにも出会えるのがまた・・・懐かしくて・・・。



ストーリーは、またまた切ない方向とへ入り込んでいきます・・・。

わかりにくい作品ですが、どうぞ、最後までお付き合いくださいませ。



こちらはフィクションですので、
ここに登場する人物、団体は実在のものとは異なります。



【配役】
インジュン、ケイジュン、ウォンジン:     ぺ・ヨンジュン
ユナ、    メイリン、  メイファー:     チャン・ツィイー



ここより本編。
お楽しみください。



~~~~~~~~~~~~~




初めて
君に
会ったのは

いつの日だったろう



どんなに
激しい恋をしても

どんなに
ある人を切なく思っても


いつも
心のどこかで

君が囁いて



君のほうへ
心が
動いていく



君は


僕の前にいるの?





僕は

君を

見つめているのだろうか


 



主演:ぺ・ヨンジュン
    チャン・ツィイー

【君に会えるまで】第3部


  


メイリンがケイジュンのアトリエを訪ねてから、しばらくして、メイがベッドの上で雑誌を読んでいると、シェリーがベッドにダイビングしてきた。


シ:お姉ちゃま! 友達から、ものすごく当たる占い師の住所、聞いてきたわ。行ってみる?
メ:なんで?
シ:この間、言ってたじゃない、知らない人なのに懐かしいって。
メ:あ~あ・・・。


妹には、彼とキスをした事は話していなかった。
男の子と付き合うにも時間がかかるメイリンがそんな簡単にキスをしたと言ったら驚くだろう。



シ:そういうのを当てるんだって。お姉ちゃまのデジャブ、占ってもらわない?
メ:占いか・・・・。(考える)
シ:お小遣い、いくらある?
メ:なんで?
シ:だって、タダじゃないわよ。(素早くベッドから降りて、自分の豚の貯金箱を取ってくる)


メイリンも仕方なく、ベッドの下からブリキの小箱を取り出した。

二人はそれぞれの貯金箱を持ち寄り、中身を全てベッドの上に出した。


シ:ふ~ん・・・足りるかな? とりあえず、全部持っていってみよう!
メ:そんなにかかるの?(驚く)
シ:当たり前よ、すごく当たるのよ!
メ:ふ~ん・・・。
シ:運命の恋かも。その韓国人の人。

二人は見つめ合った。シェリーが二人のお金を数えて、紙幣に輪ゴムをかけて袋に入れ、二人は明日その占い師のところへ行くことにした。








占い師の家は下町のアパルトマンで、メイリンもシェリーも周りの様子にどきどきしながらも、シェリーの友人が書いた地図を手がかりにその家を探す。
そこは、小さな間口の古びたアパルトマンだった。

玄関先のベルを鳴らして、二人は占い師の返事を待った。
通りには、「街の女」たちやキケンなニオイのする男がふらふらと歩いていて、身なりの良い二人を意味ありげに眺めている。


占:はい・・・。
シ:電話したものです。
占:上がって。


「ジー、バタン!」という音がして、塗装の剥げかかった木のドアが開いて、二人は急いで中へ入り、狭い幅の階段を上っていく。
そこの4階に占い師は住んでいた。




占い師の部屋の前に立つと、ドアが自動ドアと思うほどのタイミングで開き、中から占い師が顔を出した。


占:お入り。


メイとシェリーは手をしっかり握り合い、黒人で小太りの女占い師の後について、部屋へ入った。
安い布で仕切られた暗い奥の部屋へ入る。
小さなテーブルがあり、そこに椅子が並んでいた。


占:さあ、まずは御代をいただこうか。お嬢ちゃんが用意してきたものでいいよ。


メイとシェリーは顔を見合って、シェリーがポシェットの中から袋に入ったお金を渡す。
占い師はにこりとして受け取った。


占:始めようか。おまえだね? 今日、用事のある子は。(メイを見つめる)
メ:はい。(緊張した目で見つめる)
占:では私の前に座って。お嬢ちゃんは横の椅子に座りなさい。
シ:はい。


またメイとシェリーは顔を見合って、それぞれの椅子に座った。


占:さあ、どこから始めようかな・・・。


テーブルの上に置いてある大きな水晶玉に手をかざし、中を覗く。


占:う~ん、この男か。なかなかいい男だね。
メ:・・・。
占:そうか・・・。(ニンマリとする)どうだった? キスの味は?
メ:・・・。(目を見張る)
シ:お姉ちゃま・・・。(驚く)
占:思った通りの唇、思った通りの感触・・・そうだったろう?
メ:・・・。(顔を赤くする)
占:う~ん。思った通りの胸、思った通りの腕、思った通りの、ニオイがしただろ?(メイを睨む)彼のたばこのニオイは・・・(まるでニオイを嗅ぐようにして)ジタンだ。そうだろう?
メ:どうしてそんなことを言うんですか?
占:私には全てが見えるから・・・。
メ:彼との未来も?
占:ああ、そして過去も。
メ:過去って・・・。私たち、まだ始まったばかりで・・・。
占:そうだった。今の時代を生きているおまえたちは、そうだった。
メ:・・・どういうことですか?(首を傾げながら、占い師を見る)


占い師はメイリンをじっと見て笑った。



占:おまえだって、気づいているだろう? これが必然の恋であることを。
メ:!!
占:そして、この男も。
メ:彼も?
占:そう。(笑う。そして真面目な顔で)おまえさんだね、祈祷師に魂を売った女は。
メ:え?
占:その昔おまえは、祈祷師に魂を売った・・・その話を聞きに来たんじゃないのかい?
メ:なんのことですか? (意味がわからない)
占:・・・。(笑う)今、おまえはあの男と出会えた。それはそれは、とても懐かしい男・・・。そうだろ? 抱かれてもいないのに、まるでその男を知っているような・・・。
メ:・・・。
占:愛しくて愛しくて仕方のない男・・・。あの男の心も、もう気がついているはずだ、そのことに。
メ:どんなことにですか?
占:おまえが運命の女だということに。
メ:なぜ懐かしいんでしょう? あの人は韓国人で、私とは国も違うです。
占:今の国籍など関係ない・・・。前世の、また前世の、・・・おまえたちは何度も生まれ変わっているからね・・・。
メ:どういうことですか?


妹のシェリーが怖くなって、メイの腕にしがみついている。


占:結ばれるまで出会いを繰り返さなければならない二人なんだよ・・・。今回は、やっと男と女になれる相手と巡り会えたわけだ。
メ:過去からの因縁ですか?
占:そう・・・。因縁というより、定め・・・。でも、おまえが祈祷師に魂を売ったせいで、呪われている。
メ:悪縁なんですか?(驚く)
占:う~ん、そうではない。もともと、おまえたちは一つの貝だった。それが時代と共に分かれ、人となり・・・いつかはまた結ばれるはずだった。しかし、ある時代のおまえが、あの男をどうしても手放したくなくて・・・。


シ:ちょっと待って! 何を言っているの?
占:この子とその男の因縁さ。この娘が愛しい男を手放すことができずにかけた呪縛。
メ:そんな・・・。
占:やっと恋しい男に出会えて、うれしかっただろう?
メ:・・・・。
占:おまえも気づいているはずだよ。あの男に出会えたときの喜びが、おまえの心とは別に、おまえの心の奥のほうで、うれしさで震えていたことを。
メ:!!
シ:お姉ちゃま、なんかヤバイよ。もう帰ろう! この人、何か変よ。
メ:でも・・・。聞きたいわ。(占い師を見つめている)
占:そう、おまえは聞きたいだろ? 自分が何者か。どうしてそう感じるのかを。
メ:ええ。
占:今、ここで、おまえは全てを知ることができる・・・。しかし知ったが最後、この世での生活は、その呪縛の中のことになる。それでもいいかい?!(メイをキッとした目で睨みつける)


シ:やめよう! お姉ちゃま、やめよう。ヤバイよ。聞いちゃだめよ。
メ:でも・・・。
シ:だめよ、さあ、行こう。行こうよ。
占:さあ、どうする? おまえが選ぶんだよ。魂を売ってしまった、おまえが。
シ:行こうよ。(立ち上がって腕を引っ張る)
メ:でも・・・。



シェリーが必死にメイの腕を引っ張り、メイは引き摺られるように、椅子から立ち上がった。

占い師がにんまりとして、メイを見つめた。



占:いずれにせよ、おまえはまた戻ってくるさ。それがおまえの運命だから・・・。それまで御代は預かっておくよ。
シ:お姉ちゃま、催眠術にかかっちゃだめ! 顔を見ちゃだめよ! さあ、行こう! 行こうってば!



メイの目は占い師に釘付けだったが、シェリーに引っ張られて、体はどんどん出口に向かっていく。
占い師は椅子に座ったまま、メイリンの目を見据えている。


占:またおいで。今度は独りで。


占い師は笑った。


メイリンは占い師の目を見つめたまま、シェリーに腕を引っ張られ、部屋の外へ出た。


シ:お姉ちゃま、ここはキケンよ。早くここから出よう。


二人は手をつないで、狭い階段を転げ落ちるようにどんどん降りていく。

メイが「待って!」と言っても、シェリーは止まることはなかった。
シェリーはメイの言うことなど聞かず、その手を引っ張って、二人はアパルトマンの外へ飛び出す。
周りの奇異な目付きに怯えながらも、固く手を握り締めたまま、二人は、このキケン地帯の下町を全速力で駆け抜けていった。








ケイジュンのアトリエを訪ねてから、初めての日曜日。
メイリンはまた彼のアトリエを訪ねている。


寺院は日曜日の午前中、礼拝があり、ケイジュンにとってもその日は安息日となっていた。


アトリエを訪ねてきたメイを当たり前のように、ケイジュンは中へ招き入れた。
彼はメイを見て、ただ微笑んだだけで、コンロにお湯を沸かしに行った。

そして振り向き、笑った。



メ:なあに?
ケ:今、君の声が聞こえたよ。
メ:何も言ってないわよ。
ケ:心の声・・・。(笑いながらこっちへ来る)
メ:心の声?


ケイジュンはこの間の出窓のところに行って座り、

ケ:さあ、おいでよ。(自分の膝を叩いた)


メイはケイジュンのほうへ向かって歩き、彼の前に立つと、彼はメイリンを抱き上げて膝の上に横座りに乗せた。


メ:私がなんて言ったの?(顔を見つめる)
ケ:さっさとお湯を沸かして、私にキスをしてって。(笑って顔を見た)


メイは驚いて、眉間にしわを寄せ、口を半開きにしてケイジュンを見つめた。


ケ:どうしたの?
メ:ホントにそう聞こえたの?
ケ:ああ・・・。
メ:・・・だったら、それは違うわ。(ちょっと笑う)私はこう思ったの。お湯なんて沸かしてないで、さっさと私の所へ来てよって。
ケ:そうか、微妙に違ったな。いずれにしても、君の気持ちと僕の気持ちが同じでよかったよ。(笑う)


メイも笑顔でケイジュンを見つめ、そして、ケイジュンの顔を両手で包み、彼に抱かれてキスをした。



でも・・・ホントはその通りだった。
あの時、確かにメイは思った。

「さっさとお湯を沸かして、私にキスをして」と。




この間の占い師といい、今日のケイジュンといい、何か運命に操られているのか、メイリンには不思議なことばかりだ。


ケイジュンとは、彼の顔を見つめて、膝に座っているだけでもいいような気がする。
何も話さなくてももうそれだけでいいような・・・。


この間、初めてここへ来て、彼がメイをデッサンして、キスをして見つめ合っただけなのに、もう全てがわかっているような気がする。

あえて、趣味とか、好きなものなど尋ねる必要もない・・・。


今、わかっていることは、彼が30歳であること。
韓国出身でパリの美大に留学してそのままここに残り、今、壁画の修復をしていること。そして、煙草はジタンを吸うこと。

ケイジュンが知っていること。
メイリンが20歳で、この6月に音楽学校を卒業すること。
父と母と、妹の4人暮らしであること。
そして、セーヌ川の左岸のアパルトマンのペントハウスに住んでいること。
それだけだ。




今、ケイジュンの入れたカフェオレを飲みながら、二人はメイリンの焼いてきたアップルパイを食べている。



ケ:これ、おいしいね。生のりんごを使っているところがいいな。ちょっと酸味があって。
メ:そう。よかった、気に入ってくれて。うちの母の十八番なの。だから私もこれが好き。
ケ:うん、おいしい。(笑顔で見つめる)
メ:ねえ、まだここにずっと住むの?
ケ:いや、モンマルトルのほうに本当の住まいがあるんだ。ここの仕事はあと2ヶ月くらいで終わる予定なんだ。


メ:そうしたら、そっちへ帰るのね?
ケ:ああ。
メ:たまには帰っているの?
ケ:うん・・・。(ちょっと楽しそうにメイを見つめる)それがね、この間、帰った時はハトの館になってたよ。(笑う)
メ:ハト? どうして?
ケ:(笑いながら)窓が割れていて、そこからハトが入ってきてた・・・。
メ:何羽くらい?
ケ:5羽はいたかな。
メ:そんなあ・・・雨が入ったりしなかったの?
ケ:もちろんしてたさ。ザアザア降りの後は、大変だったよ。それに、ハトが住んでいるということは・・・床もね、いろいろ。(笑う)とんでもなかったよ。
メ:!!(驚く)
ケ:今は大家さんが窓を直してくれて・・・といっても、この間見たら、ベニア板が張ってあっただけだったけど。


メ:そんな・・・。作品は大丈夫なの?
ケ:隣の部屋に変わり者の哲学の先生が住んでいてね、彼の部屋に全ておいてもらっているんだ。
メ:変わってる人なの?
ケ:少しね。一つ一つに拘りがあって・・・。そのわりにズボラで。(思い出して笑う)意外と気の置けない人なんだよ。・・・ホントは素敵な人。もう42になるんだけど、一人者で。実存主義って知ってる? サルトルとかボーボワールとか?
メ:ごめんなさい。名前は知ってるけど、よくわからないの。
ケ:それを研究してる人なんだ。僕と同じ韓国人でね。僕の作品には、僕の生き方や魂がこもっているからって、自分の部屋に、作品を大切に保管してくれているんだよ。
メ:へえ。


ケ:今度、紹介するよ。きっと好きになれるよ。やさしくて穏やかで、生き方を教えてくれる人なんだ。
メ:そうなの・・・。
ケ:哲学といってもね、堅苦しい人ではないよ。
メ:でも拘りがあるんでしょ?
ケ:そう。「なぜ君は、ぼくとここにこうしているのか」とか、(コップを持ち上げ)「このコップのふちの歪みはなぜ必要なのか・・・」とかね。(微笑みかける)
メ:(コップを見る)なぜ?
ケ:え? 安物だから!(笑う)
メ:(笑う。そして)・・・なぜ、あなたは、私とこうしてここにいるの?
ケ:・・・それは・・・君が好きだから。君といることが必然だから。
メ:必然? (同じ思いに驚く)
ケ:きっと僕たち、出会うべき運命だったんだよ。だって、君を好きになるのに理由なんていらなかったから・・・。(見つめる)
メ:(ちょっと俯く)そうよね・・・必然・・・。あなたを好きになるのに、理由なんていらなかったわ・・・。


ケ:・・・ねえ、この間の続きを描かせてくれる? 君を見ていると、君を描きたくなるんだ。
メ:ええ、いいわ。でも、お話しながらでもいい?
ケ:いいよ。じゃあ、座って。あ、それから今日は一緒に食事をしない? 帰りは送っていくから・・・。
メ:ええ・・・。(うれしさで顔が輝く)



メイリンはまた先ほどの出窓に座り、ケイジュンのほうに向かってポーズを取り、二人は見つめ合って笑った。








出会ってから、もう二人の気持ちには、他のものが入り込む隙などなかった。

ケイジュンは、仕事の休みの日は必ずメイリンのために時間を空けてくれたし、音楽学校を卒業したメイリンは、フルートの個人教授を受けながら、家事手伝いをして、ケイジュンのために料理学校に通い、幸せな時を過ごしていた。











初夏のパリの街をケイジュンとメイリンがそぞろ歩いている。
午前11時の光は午後と違って、街に華やぎだけでなく、透明感を与えてくれる。
半そでに薄いサマーセーターを引っ掛け、メイが輝くような笑顔で、ケイジュンを見つめている。


ケ:ここの上からの景色は最高だよ。上ったことある?
メ:うううん。
ケ:じゃあ、おいで!


ケイジュンはメイの手を引っ張って、ノートルダム寺院の中へ入っていく。

ノートルダム寺院。初期ゴシック建築の最高傑作。3つの大きなバラ窓のステンドグラスがとても素敵な教会だ。
二人は正面左の北塔の狭くて急な階段を上がっていく。


メ:ケイジュン! 待って。(笑いながら、彼の後を追う)


ケイジュンが後ろから来るメイリンの手を引いて、二人は笑いながら狭い階段を上がっていく。
そして、テラスに出て、怖い顔をした怪物の彫刻を眺めて笑い、テラスを横切って、南塔の階段を上る。
地上69mの鐘楼のある頂上に着く。
二人は息を弾ませながら、そこからパリの街を眺めた。


メ:素敵! すごい景色ね。
ケ:そうだろう。 こっちへおいで。


メイリンはケイジュンに手を引かれながら、景色を眺める。
真っ青に澄み切った空をバックに、初夏のパリの街が華やぎと落ち着きを持って、眼下に広がっている。


ケイジュンがメイリンを後ろから抱きしめた。
こうやって彼に抱かれて眺めるパリは、今までで一番美しい。

メイリンも抱きしめるケイジュンの腕をしっかりと握り締めた。
メイリンがケイジュンを見上げた。彼もメイを見つめている。

二人の瞳には光がいっぱい入って、いつもより開放的で、愛に満ちて、輝く瞳になる。
ケイジュンが少し前かがみに、そして、メイが首をいっぱいに伸ばして、二人はキスをした。

このパリの空の下、幸せが心を満たすこのひとときに、二人は酔いしれた。






ある日の午後、ケイジュンのモンマルトルのアパルトマンを訪ねるために、モンマルトルの長い階段をケイジュンとメイリンの二人はじゃれ合うようにして、楽しげに下りていた。

時に手すりに寄りかかって抱き合うように向き合ったり、手をつないだり。




下から、金髪の髪をポニーテールにした背の高い女が上がってきた。女は立ち止まり、ケイジュンを見上げている。

彼もそれに気が付いて、その女を見た。


女:久しぶりね。こっちに帰っていたの?
ケ:いや、今日は部屋の様子を見に来ただけだよ・・・。


女はメイリンを見上げた。メイも女を見つめた。


女:誰? ずいぶん若いのね。あなたの隠し子かしら?(皮肉った顔をする)
ケ:ジャンヌ。こちらは・・・僕の恋人。


ジャンヌは一瞬驚いた顔をしたが、急に笑い出した。


ジ:そういうこと?
メ:どなたですか・・・?


ケ:パン屋さんの・・・ジャンヌさん。
メ:初めまして。(軽く会釈する)
ジ:そう・・・ケイが大好きなパンを焼く、パン屋の売り子。そして、時々・・・ケイの愛人だった女です。
メ:・・・・。(顔が青ざめる)


ジャンヌとケイジュンが見つめ合った。


ケ:メイ、行こう。(手を引く)じゃあ。(ジャンヌを見て言う)
ジ:待ってよ。好きな女ができたなんて、あんた、言わなかったじゃない!
ケ:・・・。
ジ:ズルイじゃない?
ケ:ジャンヌ、君と別れたあと、知り合った人だよ。
ジ:・・・。あんたの別れる理由がよくわからない・・・。気に入ってたじゃない、私のこと・・・。
ケ:・・・もう終わったことだよ。
ジ:あんたはね・・・。でも終わる理由がわからない・・・。あんなに好きだったじゃない! (悔しそうに)そこのお嬢ちゃん、この人、人と楽しくやるだけやって、捨てる男よ。注意しなさいね。




ケイジュンの脇をぶつかるようにして、すり抜け、女は去っていった。


残ったメイとケイジュンは少し気まずくなったが、ケイジュンがメイを見て、また階段を下り始めた。
メイは・・・ついていくしかなかった。





一人者用のアパルトマンの入り口のドアを開け、ケイジュンがメイを中に入れて、3階まで上がる。


ケ:僕の部屋は302だけど、ちょっと部屋を見てからでないと、君を入れられないから、まずは先輩のところへ寄るね。


301のドアのチャイムを鳴らす。

中から男が顔を出した。


男:おお、お帰り。(もっと顔を出して)彼女?
ケ:そう。
男:どうぞ、入って。
ケ:メイもおいで。



部屋いっぱいの本棚と、本が積み上げられている部屋に入る。こんなに本だらけで無愛想な感じの部屋なのに、メイリンには、とても温かい安らぎを感じさせてくれる部屋だった。


男:僕はイ・ソンジュです。
メ:チェン・メイリンです。中国人です。


男は背が高く、ほっそりとしていて、あごや頬にヒゲをたくわえていた。
40を過ぎていると聞いていたが、雰囲気は青年のようで、それでいて重厚感もあって、その微妙なバランスがチャーミングな人だった。


ソ:まあ、コーヒーでも飲んでいけよ。
ケ:うん。
ソ:メイリンさん、あなたもどうぞ。



ケイジュンとメイは窓際に置かれたゴブラン織りの古いソファに座った。


ソ:あ、そういえば、ケイ、さっき、パンをたくさん貰ったんだけど・・・。(パンの袋を見せる)
ケ:ああ・・・。ここへ来る途中で会ったよ。
ソ:そうか・・・。


また、台所へ戻ろうとして、振り返り、


ソ:これ、持っていくか? (パンの袋を見せる)
ケ:いらない・・・。
ソ:うん・・・。


また、頷きながら、台所へ向かった。


メイは、この場を楽しむより、さっきの「ジャンヌ」のほうが気になっている。
メイがさっきのことで動揺していることは、ケイジュンもわかっていたので、今のパンの袋はダブルパンチだった。



ケイジュンは隣の座っているメイの手を握った。
メイはケイジュンを見つめて、控えめに微笑んだ。彼女の不安は取り除かれてはいなかった。


ソンジュがコーヒーを入れてリビングへ入ってきた。
二人の顔を交互に見ている。

ソ:さあ、どうぞ。(小さなテーブルにカップを置く)変な雲行きなのかな?
ケ:(苦笑いする)参ったな、先輩には。
メ:・・・。


ソンジュはコーヒーを飲みながら、自分の子供のようなメイリンを見つめる。


ソ:メイリンさんはおいくつですか?
メ:20です・・・。
ソ:そうか、若いな・・。私より22歳も若い。人生もこれからだな・・・。このケイジュンは・・・そんなに悪い男ではありませんよ。


メイは顔を上げてソンジュをしっかりと見た。ソンジュが味わい深い笑顔で微笑んだ。


ケ:先輩、僕は悪人ではないけど・・・たまに大きな失敗をするよ・・・。(ソンジュの顔を見る)
ソ:そうだね・・・。なぜ、ここへメイリンさんをお連れしたのか・・・それは、ホントの愛を僕に見せるためかな?


メイはじっとソンジュの顔を見ている。ソンジュを見つめるその顔は真摯で、この恋に答えをもらいたいと書いてある。そして、まだ幼なさの残るその顔は、翳りはあっても、光り輝くように美しかった。


ソ:う~ん、まず第一にケイジュンは、今、最高に幸せそうな目をしている。これが答えかな・・・なぜ、幸せな目ができるのかというと、そこに本物の幸せが見えたからだ。


ケイジュンがメイを見つめて、やっとメイは笑った。



ケ:じゃあ、少しの間、先輩にメイをお貸しします。僕が部屋を偵察してくる間だけ。戻ってきたら、ちゃんと僕に返してくださいね!
ソ:返さなくちゃだめか?(おどけて言う)
ケ:だめです・・・そこに本当の幸せがあるから!(笑う)
ソ:仕方ないな。
ケ:じゃあ、ちょっと先輩の相手をしてあげて。
メ:ええ。(頷いてケイジュンを見る)
ケ:これでも、結構いい男だから、心配だけど。
ソ:早く行けよ。目障りだな。早く二人にしてくれ。
ケ:わかりましたよ。メイ、君も気をつけてね。
メ:やだわ。(笑う)


ケイジュンは二人を残して自分の部屋を偵察に行った。





しばらくして、ソンジュがメイを笑わせているところへ、ケイジュンが戻ってきた。
そして、ふざけているように見えて、本気で、彼から奪い取るように、メイリンを自分の部屋へ連れていった。



そこはキレイに片付けられていた。


メ:キレイになっているわね。
ケ:うん。君を迎えるには、ハトがいる状態ではだめだろ? 先輩とは楽しかった?
メ:ええ。(ケイジュンの顔を見ず、窓のほうへ向かう)


二人は窓辺に来た。
メイは窓に張られたベニア板を軽く触って微笑み、窓の外を眺める。


ケ:何を話したの?(メイの顔を覗き込む)
メ:え? (外を見ながら)コーヒーカップとソーサーの関係について。ソンジュさんて、おもしろい人よね。
ケ:だろ? それでなんて言ってたの? (じっと見つめている)


メイはちょっとケイジュンを見つめたが、ケイジュンの瞳が狂おしくて、さっと視線を外した。


ケ:ねえ、先輩はなんて言ったの?
メ:(窓の外を見ながら)男と女の関係と同じだって・・・。
ケ:・・・。(メイを見つめている)
メ:(外を見たまま)一人をカップに例えると、もう一人はソーサーだって。カップの中にあるコーヒーはその人の思い・・・。それは決して留まることがなくて、そのカップの中で、いつも小刻みに揺れている。揺れていても、普段はこぼれることなく、カップの中に収まっている。ソーサーは、その思いでいっぱいの、重いカップを支えて、受け入れる愛でなくてはならないって・・・。
ケ:・・・・。(メイをやるせなく見つめる)
メ:そして、思いが溢れてこぼれてきても・・・たとえ、それが苦しみや悲しみでも、それを受け止めてあげるのがソーサーの役割だって・・・。(初めてケイジュンを見つめる)



ケイジュンがメイを抱こうとするが、メイは彼の腕をすり抜けて、部屋の中へ戻った。

メイが部屋の中を見回すと、ベッドに新しいシーツがかかっている。



胸の辺りがキュッと痛くなって、メイは立ち止まり、じっとベッドを見つめた。



ケ:ジャンヌのことが気になる?


後ろから、ケイジュンがやってきた。


メ:ええ、とても・・・。(ベッドを見つめたまま、答える)
ケ:うん・・・。
メ:あの人が・・・恋人ではなく、愛人と言ったことも・・・。(声が震えた)
ケ:(少し考えて)彼女の言った通りだよ。ある時期、彼女は僕の愛人だった・・・。的確な表現だ・・・。
メ:(泣きそうな目でケイジュンを見つめる)それで・・・遊んで、捨てたの?
ケ:そうじゃないよ。(苦しい表情になる)彼女のことは・・・楽しかったし・・・好きだった・・・。でも、君に出会う1ヶ月前に、急に彼女への思いが色褪せてしまったんだ・・・。なぜだかわからないけど・・・・。(少し俯く)憑き物が落ちたみたいに・・・。結果的に、彼女は恋人ではなかった・・・。でも、今思うと、君に出会うためだったかもしれない・・・。許してくれる? (辛そうに見つめる)
メ:・・・・。(ただ胸が痛い)
ケ:君に対する感情と、ジャンヌではまったく違うんだ。メイ、君を思うほど、他の人を愛したことはなかった・・・。君は特別。僕には特別な人なんだよ・・・。




占い師が言ったように、これは運命・・・。
運命に呼び戻されて、彼はジャンヌと別れた。

そして今、私といる。


ケイジュンは・・・・わたしにとっては・・・・。

そう、なくてはならない人。

代わりはいない。

たとえ、過去に他の女の人を愛したとしても、今は私のもの・・・。



メ:ケイジュン・・・・。信じていい? 



胸が苦しくて、それだけ言葉にするのがやっとだ。



ケ:メイ・・・。
メ:私にとってのあなたは、とても重いの・・・。それは運命・・・。(涙が出てしまう)
ケ:メイ、君は僕にとっても・・・運命そのもの。ああ、メイ。僕の過去を許して。そして、僕を受け入れて。


ケイジュンがメイリンを抱きしめた。


メイは今、恋する重さと、さっき出会ってしまったケイジュンの過去の恋への動揺で、胸が苦しくて、呼吸をすることさえ、ままならない。



でも、ケイジュンから離れることは、今の自分にはできない。



ケイジュンがやさしく頬を撫でる。

メイリンはやるせない思いに涙が出てくる。



そして、頬を撫でるケイジュンの手を見る。目を見る。


この人の、この手を知っている・・・。
この人の、この瞳を知っている・・・。

この人の、たぶん・・・全てを知っている。



メイは、自分の置かれた運命、恋の重さ、恋の呪縛の中で、愛するケイジュンが求めるままに、彼に身を任せ、抱かれるままにベッドに倒れ込んだ。










メイは自分のベッドに横たわり、ケイジュンとの恋について考えている。


あの瞬間から、いや、もっと前からかもしれないが、ケイジュンはメイの全てになってしまった。

ケイジュンはもう、自分から切り離して考えられない存在になっている。

ジャンヌのことで、彼に対して少し不安や疑いを抱いても、それを捻じ伏せるように、心の深いところから、彼を愛する喜びが溢れてくる。

ケイジュンが、彼女を、つまり、恋人というよりも愛人を持っていたという事実を、分析しようとしても、自分の奥深い子宮のようなところで、彼を求めていて、冷静に考えることを拒否している。
「男」というものの生理を考えたり、彼の姿をはっきり描き出そうとしても、自分の中の「女」がそれにふたをしていこうとする。

メイの中で、理性よりも、愛する思いが、まるで細胞分裂を急速に繰り返していくように、メイの中にあるものをドンドン勝手に、ケイジュンへの思いに塗りかえていく・・・。


これが運命ということか。
必然ということか・・・。


確かに、ケイジュンの瞳の中には、偽りは感じられなかった。
確かな愛を感じる。

でも・・・。


これでいいのね・・・?


本当にこの恋は運命でいいのよね?
私はもう戻ることができない・・・。


この思い・・・。彼を愛するという思い。

この思いに潰されそうなほど・・・私はケイジュンを愛している。
別れることなど、絶対できない・・・。
後戻りなど・・・絶対できない。



ああ・・・・。




あの人・・・。

あの人に会いに行こう・・・。


この胸の苦しさが正しいことを、あの人に答えをもらおう。

私のこの恋が、私の全てを覆っているこの恋が、真実のものであることを断言してもらうために!





メイはベッドから起き上がると、急いで身支度をして、一人、あの占い師のもとを訪れた。











第4部へ続く・・・






2009/10/30 23:24
テーマ:【創】君に会えるまで カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「君に会えるまで」2



BGMはこちらで^^



BYJシアターです。


本日は「君に会えるまで」第2部です。

また、こちらはフィクションですので、ここに登場する人物、団体は実在のものとは異なります。


【配役】
インジュン、ケイジュン、ウォンジン:     ぺ・ヨンジュン
ユナ、    メイリン、  メイファー:     チェン・ツィイー




ここより本編。
お楽しみください。


~~~~~~~~~~





初めて
あなたに
恋したのは

いつの日だったろう



どんなに
激しい恋をしても


どんなに
ある人を切なく思っても


いつも
心のどこかで

あなたが囁いて



あなたのほうへ
心が
動いていく



愛しいあなた


きっと

私の心が
あなたを見つけるわ




どうか

そこで
私を
待っていて



そして


私に
気づいて






主演:ぺ・ヨンジュン
    チェン・ツィイー

【君に会えるまで】第2部



メイリンはここのところ、毎日自分の部屋に貼ったあの似顔絵を眺めている。
そこにいるのは、確かに自分だが、今の自分よりもう少し大人で、とても切なく熱い目をしているような気がする。



なぜそう思うのか。



あの絵描きは、大してメイのことなど見ていなかった。


あの人の頭の中に、私に似た女の人の面影があるのだろうか。


もう一度、あそこへ行ってみようかな。
あの人はあそこで絵を描いているはずだわ・・・。





メイは翌日、またあの絵描きが座っていたモンマルトルのテルトル広場を訪ねた。


しかし、男はいなかった。代わりに違う男が座って似顔絵を描いていた。



メ:すみません・・・。ここにこの間いた絵描きさんは?
絵:ここは僕の場所だけど・・・。
メ:・・・そうですか・・・。どうもすみません・・・。



メイが帰ろうとすると、今の絵描きが声をかけてきた。



絵:あのお、もしかして、先週座っていたやつのことですか?
メ:ええ、そうです! ここで似顔絵を描いてもらったんです。・・・あの方は?
絵:僕の友人だけど、なんか用ですか? 先週は僕の具合が悪くて午後からここを代わってもらったんだ。他の絵描きに場所を取られるといけないからね。なんか用ですか? 彼に。
メ:・・・。(躊躇うが)ええ・・・。あの方の絵があまりに素敵だったので、また妹や家族も描いてほしくて・・・。
絵:そうか・・・。そんなによかったんですか? (興味深々)
メ:ええ。


絵:あいつは、本職が壁画の修復なんですよ・・・。僕じゃだめかな? 僕も結構、ここでは腕がいいほうなんだけど・・・。
メ:(困って)あの方の絵が気に入っているんです・・・。
絵:そうか。(笑) やつなら、サン・ピエトロ寺院で壁画の修復をしていますよ。行ってみますか? でも、似顔絵なんて描くかな・・・。
メ:ありがとうございます。行ってみます。(立ち去ろうとする)
絵:あ、お嬢さん。やつの寺院での仕事はいつも午前中です。午後は寺院の中が暗くなるので、アトリエに戻ってるんですよ。でも、アトリエまであなたに教えていいのか、わからないから。
メ:ありがとうございます。明日にでも寺院に行ってみます。ところで、あの方は・・・日本人ですか?
絵:彼は韓国人ですよ。僕は日本人だけど・・・お嬢さんは・・・また感じが違うな・・・。
メ:私は中国人です。
絵:やっぱり。雰囲気がちょっと違うから、お互い東洋人同士だと、その辺がわかるね。こっちへ来ると、皆中国人って聞いてくるけど、やっぱり雰囲気がぜんぜん違いますよね。
メ:ありがとうございました・・・。




あの人は韓国の人だった。私には、韓国人に知り合いはいない・・・。

でも、この懐かしさって・・・何?





明日、あの人がいるサン・ピエトロ寺院を訪ねることにしよう。


きっと、何かがわかるわ・・・私の勘違いか・・・本当に縁があるのか。



ひとまずは彼のいるところはわかった。
でも、何を話したらいいかしら・・・。
ただ似顔絵を描いてもらっただけだもの。
あの人は私を覚えているかしら。


でも、会わずにはいられないこの気持ちって、何?





メイリンはテルトル広場の帰りに、本屋に立ち寄り、楽譜を覗きにいくことにした。
しゃれた本屋のウィンドーに、「あなたの前世を旅する」という新刊本が飾られている・・・。


なんかちょっと怖い本・・・。



メイが本屋のウィンドーを覗いていると、後ろを通りかかった人の荷物が肩に当たった。


男:あ、すみません!
メ:いえ・・・。


メイは振り返って、ぶつかった男のほうを見た。



あの男だった・・・。



メ:あ!(目が釘付けになる)
男:・・・あなたは・・・・?(思い出そうとする)
メ:あのお、先週似顔絵を描いていただきました。
男:似顔絵?・・・ああ。あそこでね。
メ:ええ。
男:気に入りましたか?
メ:ええ、とても!
男:そう、それはよかった。肩は大丈夫ですか? 重い荷物がぶつかってしまってごめんなさい。
メ:・・・大丈夫です。(控えめに微笑む)

男:よかった。じゃあ、どうも。(ちょっと頭を下げる)



男はそれだけ言うと、立ち去ろうとしている。



でも・・・何か話したい。

何を? 
どうしたらいい?

あの人と私の接点は似顔絵だけだもの・・・。

でも、もし、ここであの人を行かせてしまったら、明日、私がサン・ピエトロ寺院を訪ねるのはおかしなことになる・・・。



彼の後ろ姿はどんどん離れていく。


あの人は、私の思った通りのニオイがした・・・。
そして、目も口元も・・・その周りにできるしわも・・・想像通り。




メ:すみません! すみません、ムッスィウ! 待ってください! ムッスィウ!


男は背が高く足も長いので、大きな歩幅でドンドン歩いていく。


メ:ムッスィウ! ムッスィウ!


メイは人を掻き分け、必死に男の後を追いかけていく。
自分でもよくわからないのだが、どうしても、このチャンスを逃してはいけないような気がするのだ。



やっと彼に追いついて、背中に手を当てた。


メ:待って・・・ムッスィウ! ああ。(息が切れる) 待ってください!



男が振り返った。


男:どうしたんですか? ここまで追いかけてきたの?(驚く)
メ:ええ。すみません。
男:どうかしましたか? (見つめる)
メ:あのお・・・・。
男:はい?
メ:・・・・。(なんて言おう・・・)
男:・・・・。(見つめている)
メ:あのう、あなたが描いてくれた絵が気に入って・・・妹の顔も描いてほしいんです。
男:・・・そうですか・・・。でも、僕は似顔絵描きが本職ではないんです。美大時代の友人の代わりに、半日、あそこに座っていただけなんですよ。
メ:それでもいいです!
男:しかし・・・困ったな・・・申し訳ない・・・。お引き受けできないな。僕の仕事ではありませんよ。


メ:そうですか・・・。実は今日、あの広場へ行って、そのお友達の方に、あなたが今、仕事をしていらっしゃるのが、サン・ピエトロ寺院の壁画だと伺ってきたんです・・・。
男:・・・・。(メイをじっと見つめている)
メ:ごめんなさい・・・。変だと思われるかもしれないですけど・・・あのあなたの描いてくれた絵が私を惹きつけるんです。よくわからないけど・・・あの絵がなんか・・・。
男:なんか?
メ:なんか・・・大人のあなたにこんなことを言うのはおかしいけど・・・。
男:どうぞ。
メ:あなたの心の奥深く・・・心の深層にいる人の姿かなって・・・ちょっと興味を持ちました。
男:僕の?(笑う)
メ:ええ、私であって私ではないんです・・・もっと大人の、違う人みたいなんです。



男:う~ん・・・。僕は似顔絵を描きなれてないから、違うイメージが入り込んだかもしれませんね。ごめんなさい。
メ:いえ。
男:・・・。
メ:気に入ってるんです、私。
男:そうですか・・・。それはよかった。じゃあ僕はこれで・・・。
メ:あ・・・そうですね・・・・。(諦める)



男はまたスタスタと歩き始めたが、振り返って、



男:もしよかったら、明日の午前中、サン・ピエトロ寺院へいらっしゃいませんか? 僕のホントの仕事を見れば、僕が似顔絵を描けないこと、あなたも納得いくでしょう?
メ:ええ。行きます。行かせてください! 必ず、行きます!



男は若いメイリンを見て笑い、去っていった。

メイは男の後ろ姿を見送った。







それにしても。

あの男はたぶん、私より10歳は年上だ。でも、とても懐かしい。

年上なのに、気兼ねせずに話せる・・・というより、普段の私は、初めての人と話をするのが苦手だ。
なのに、あの人には、自分から話しかけなくてはいけないような気がした。


それは、まるで義務みたいに・・・。

あの人とのつながりを切ってはいけないような。

私の心の奥深いところから、私をけしかけるものがあって、それに突き動かされて、あの人と話をした。


明日、寺院へ行く約束をした・・・。
また、あの人に会うために。


なぜか、私の心の一部がそれをとても喜んでいるのがわかる。
不思議なほど・・・・幸せをかみ締めている・・・。


恋をしているのか・・・?

うううん、いつもの恋の感覚ではなくて・・・。

そうじゃなくて・・・・初めてあの人に恋をしているのではなくて、あの人に会いにいくのが当たり前のような感じがするのだ。
あの人と一緒にいることが当たり前のような。


必然。


これは必然。


こういうのを、人は運命の恋というのだろうか?

一目ぼれとか、胸が痛くなるほどあの人が好きというより、必然・・・。

あの人に抱かれるのが当たり前のことで、私はそこまで行き着かなければいけないような気がする・・・。



想像していた通りのニオイの人だった。

離れて話をしていても、あの人の胸の厚みまで、胸の熱さまでわかるような・・・。



私は少しおかしい・・・。

男の人なんて、ぜんぜん知らないのに・・・。

あの人のことがわかる。



明日は行かなくちゃ!

あの人に会いに行かずにはいられないから・・・。














翌日の午前11時。

メイリンは、あの男が壁画の修復をしているサン・ピエトロ寺院へ出かけた。



その寺院は、パリの郊外にあった。

バスを降りて、寺院のほうへ歩いていくと、たくさんのバラが咲いていて、草木の甘い香りもした。
鳥が鳴いている。

とてものどかな情景の中に、その寺院は立っていた。



重いドアを押し開けて、中へ入り、声をかける。



メ:すみません! どなたかいらっしゃいませんか?


メイリンの声が響く。


男:いらっしゃい!


メイは周りを見渡すが、姿が見えない。


男:上を見て。君の上!


メイが見上げると、二つの高い梯子の間に渡された板の上で男が笑っていた。


メ:おはようございます! (笑顔で見上げる)


メイはにこやかに彼を見た。

男は最初、にっこりと笑っていたのに、急に表情を変えて、メイをじっと見つめている。


メ:あのう・・・お邪魔でした?
男:(我に返ったように)あ、いえ、お待ちしていました。ちょっと待ってね。降りていくから。
メ:ええ。


男と会ったのはこれが四度目なのに、メイの胸はときめいている。
ずっと長い間待ち続けた彼に出会えたように、彼が梯子を降りてくるのが待ち遠しい。

こっちへ歩いてきたら、抱きつきたいほど、心の奥が彼を待ちわびている。


男がやってきた。


男:いらっしゃい。
メ:お邪魔します。すごいですね。(上を見上げる)あんなところでお仕事されているんですね。
男:ええ。
メ:怖くないんですか?
男:え? まあね・・・。
メ:私だったら、落ちそうだわ・・・。
男:実は僕も落ちそうになったことがあるんです。
メ:え? (驚く)
男:あまりに夢中になり過ぎて、自分のいる場所を忘れてしまって。普通に動こうとして、足を踏み外しそうになりました。
メ:たいへん・・・。
男:あわやで落ちなかったけど(笑う) 画材は全て落としました。
メ:大変なお仕事ですね。
男:まあ、好きなんですよ。
メ:お仕事、見せてもらっていいですか? 午前中しかできないんでしょ? どうぞ、続けてください。
男:ここは照明がないからね。午後は天井に近い壁画がよく見えなくなるんですよ。でも、今日はもういいです。
メ:私のせいですか?
男:いえ、用意してきた色がちょっと違ったから、また作り直さないと・・・。それはアトリエでの仕事だから・・・。
メ:そうなんですか。確かに似顔絵なんて描いている暇はないですね・・・。
男:どうです? ちょっと外を歩きませんか? ここの寺院は庭がとてもキレイなんですよ。
メ:・・・ええ・・・。


男がメイリンを見つめた。
そして、後片付けをして、メイを案内するように外へ出た。



二人は自然がいっぱいの庭に出る。バラも草木もやさしい風に揺れている。
庭にある小道を並んで歩く。


メ:バラがキレイですね。
男:そうでしょ? 今が見ごろですよ。あそこに腰かけませんか?


小さな屋根つきのベンチがあった。

並んで座ると、男がメイの顔をまたじっと見つめた。


男:なんか不思議だな。さっき、あなたが入ってきた時、一瞬でしたが、あなたがちょっと違って見えたんです。もっと大人で、少し憂いがあって、僕にやっと会えたという顔をしていたんです。
メ:・・・。
男:ごめんなさい。変なことを言いましたね。
メ:いえ・・・。
男:あなたを一瞬、知っているような気がしました。
メ:・・・実は私・・・あなたが・・・とても・・・懐かしくて・・・。ごめんなさい・・・。
男:・・・。僕もあなたが懐かしく感じた・・・。変ですね。
メ:自分でもよくわからないんだけど・・・。まるで、あなたを昔から知っていたみたいな気がして・・・。
男:・・・。デジャブかな・・・。二人とも。(笑う) でも、二人でそう感じるのはおかしいですよね。あ、お互い自己紹介していませんでしたね。僕は、ソン・ケイジュンです。
メ:私は、チェン・メイリンです。皆はメイって呼びます。中国人です。
ケ:僕は韓国人です。(メイの顔をじっと見る)
メ:・・・なんですか?(ケイジュンの顔をじっと見る)



二人はお互いをただじっと見つめ合った。


年も離れていて国も違って・・・でも、なぜだか懐かしくて、触れたこともないのにお互いを知っている感じがする。
キスもしたことがないのに、その唇の柔らかさまでわかる・・・。



彼のアトリエは寺院のすぐ近くだった。ここでの仕事の間、そこを借りているという。


彼に勧められて、アトリエを訪ねた。
そこは、あの寺院と同じく、花や木々が蔽い茂っていて、マーチ型をしたバラの門を潜り抜けると、彼の間借りしている部屋のドアがあった。


メイはこの風景が、彼と歩いていることが、当たり前のように思えた。


部屋の中へ入ると、大きな格子の窓があり、その外は緑でいっぱいだった。
天井には天窓が開いており、そこから晴れ渡った青空が見えた。


ケ:どうぞ、ゆっくりして。散らかっているけど。
メ:素敵なお部屋ですね。天窓があるんですね。(窓を見上げる)
ケ:ええ。ここは北向きで、普通はあまり借りたがらないみたいだけど、絵を書くにはいいんですよ。南側と違って、光が一定だから、僕のような人間にはぴったり。(笑う)
メ:・・・。(周りを見渡している)
ケ:コーヒーを入れるね。少し待ってて。



ケイジュンは、小さなコンロに火をつけ、お湯を沸かす。


メイリンには、彼のそんな姿がなぜか素敵に見える。ただ火をつけているだけ・・・。




大きな格子の窓の前にある出窓の部分に腰を軽く載せて外を眺める。
木々の緑がメイリンを迎え入れている。


ケイジュンはそんなメイの姿にしばし見とれて、


ケ:ねえ、よかったらそこに座って。君を描きたいな。
メ:私を?
ケ:いい?
メ:・・・ええ・・・。
ケ:今、スケッチブックを取ってくるから。そこに深く座っちゃって。そのほうがラクだから。


ケイジュンはデッサンの準備をしてメイリンをじっと見つめる。
バックの明るい緑の中に座り、こちらを見つめているメイリンが、とても・・・何物にもかえがたいほど愛しく、美しく思える。
ただそこに佇んでいるだけなのに、まるで自分に語りかけてくるようだ。


メイはケイジュンがデッサンしながら、メイを見つめるその目がとても・・・・愛しい・・気がする。
その瞳がまるで自分を狂おしく追い求めているような・・・。



座って、見つめ合っている二人の間に存在する空間の空気が、水を打ったように止まり・・・呼吸さえも止まったように、静かに、二人の魂だけが語り合い、愛し合っている。



ケイジュンが手を止めて、何か言おうとした時、お湯が沸いた音がした。
彼はメイをちょっと見つめていたが、コンロの火を止めに行った。



しかし、コーヒーは入れずに戻ってきた。

戻ってきたケイジュンとメイリンの目が合った。
二人の視線が絡んで、熱を発しているような・・・。


ケイジュンは黙ったまま、メイリンの前に立った。
二人はただ見つめ合ったが、彼が座っていたメイリンを抱き上げた。
メイリンは彼に吸い寄せられるように立ち上がり、抱かれるまま、二人は口付けを交わした。


不思議なほど、彼のキスは懐かしく、それはとても愛しいものだった。
それは・・・想像通りの唇であり、手順であり、その通りの熱を持っていた。

そして、ケイジュンもまた、彼女がまさに彼女そのものだった。



やっと追い求めてきた人に巡り会えたような・・・そんな思いに、二人は驚きと困惑と・・・甘い恋の訪れに、しばし見つめ合った・・・。














早く授業の終わった午後、インジュンがぶらぶらと家への道を歩いていると、女の人がメモを片手に、家を探しているようである。

インジュンは駆け寄って声をかけた。


イ:あのう、どこかお宅を探しているんですか?
女:ええ。この近くだと思うんですけど・・・。


女はメモを差し出しながら、顔を上げた。
その人は、ユナ先生の母親だった。
ユナの母親もインジュンに気づき、驚いて、彼を見つめた。


母:あ、あなたは・・・。
イ:ユナ先生のお母さんですね。
母:ええ・・・。(じっとインジュンを見つめている)
イ:こんなところでお会いするなんて。どこか家を探しているんですか? ちょっとメモを見せてください。僕も一緒に探しますよ。
母:いえ・・・。(メモを引っ込める)いいんです・・・。
イ:探させてください。
母:いえ・・・いいんです。
イ:・・・。(どうして?)
母:せっかくご親切に言ってくれたのに、ごめんなさいね。・・・ちょっと訳のあるお宅なの。だから結構よ。
イ:そうですか・・・。あのう、この間はフルートの演奏ありがとうございました。
母:いえ・・・気に入ってもらえた?
イ:ええ、とても。僕はあの曲がとても・・・。(ちょっと笑う)これを、先生に言うと、笑われるけど、懐かしいんです。・・・大好きなんです。
母:・・・ありがとう・・・。
イ:・・・僕のピアノ、聴いてくださいましたか?
母:・・・いいえ。(見つめている)
イ:あれをピアノで即興で弾いてみたんですよ。
母:そうですか・・・聴いてみたかったわ・・・。
イ:・・・。
母:・・・また、うちへ遊びにいらしてね。そして聴かせてください。私もあの曲は・・・とても思い出深い曲なんです。
イ:はい。
母:じゃあこれで・・・。(頭を下げる)
イ:・・・あのう、よかったら、今からうちへ来ませんか? もう、すぐそこなんです。
母:え?
イ:聴いてもらいたいんです、僕のピアノを。
母:(躊躇する)でも、娘の生徒さんのお宅へお邪魔するのって、ちょっと変でしょう。
イ:変じゃないですよ。僕のほうが・・・先生の家の前に立ってて変なんですから・・・。(笑う)




インジュンに案内されて、そこから3軒目のインジュンの家へユナの母親はお邪魔することになった。
インジュンの家の庭はなぜか、ユナの家の庭に似て、自然な感じに草木が植えてあった。



母:素敵なお庭ね。
イ:うちのお袋が、イングリッシュガーデンというのに凝っているんです。バラも結構育てているんです。おばさんと・・・すみません、おばさんなんて言っちゃって。
母:いいのよ。他に言いようがないもの。(笑う)
イ:おばさんときっと庭の話、合うかもしれませんね。この間、そんな気がしました。なんか好みが似てますよ。



庭を通りながら、ユナの母親は、インジュンの母親が丹精こめて育てているバラをじっと見つめた。そして、インジュンの顔を見てにっこりと笑った。



家の中へ入ると、インジュンの母親が出てきて、インジュンが二人を紹介すると、インジュンの母親は愛想よく、ユナの母を受け入れて、リビングへ通した。


ユの母:まあ、こちらにもバラがあるんですね、素敵ですね。
イの母:ここ4~5年、イングリッシュローズに凝っているんです。インジュンが先生のお宅はお庭が素敵だと言ってましたよ。
ユの母:ありがとうございます。でも、こんな素敵なバラはないです・・・ただ自然な感じの庭がとても好きで・・・。
イ:同じだわ。



イ:おばさん、僕の部屋へ来ませんか? 僕の部屋にピアノがあるんです。母さんも来る?
イの母:私はいいわ。お茶、持っていくわね。
イ:うん。じゃあ、おばさん、あ、なんか変な呼び方ですね。
ユの母:チェンです。チェンさんって言えばいいわ。
イ:そうですね。チェンさん、どうぞ、2階です。
チ:ではお邪魔します。(インジュンの母親に頭を下げる)



イの母:インジュン、窓、開けなさいよ。臭いから。(笑う)
イ:ああ。
チ:そんな、お気遣いなく。私も子供の親ですから。
イの母:すみません、男の子の部屋はホントに臭いから。(笑う)
イ:何度も言わないでよ。さあ、どうぞ。




二人は2階のインジュンの部屋へ入っていった。

チェン夫人はインジュンの部屋を珍しそうに・・・いや、胸をときめかせながら、見回した。


イ:散らかってるけど。
チ:うううん。いいのよ。素敵なお部屋だわ・・・。


インジュンが窓を開けた。
外から草木の香りが入ってきて、チェン夫人は胸がいっぱいになり、少し涙ぐんだ。


イ:どうかしましたか?
チ:いえ。気にしないでください。
イ:だって・・・。
チ:ごめんなさい・・・。私、少し目が悪いものだから、時々涙ぐむの。気にしないでね。理由はないの。
イ:そうですか・・・。ええと~。どこに座ってもらおうかな・・・。
チ:よかったら、この窓際に立って聴いてもいいかしら。お庭の草木の香りが素敵だから。
イ:ええ、どうぞ。



チェン夫人は、インジュンの部屋の窓際に窓枠に寄りかかるようにして立った。そして、インジュンを見て笑った。

インジュンも微笑みを返して、ピアノの前に座り、少し落ち着いてからあの曲を弾き始めた。


彼女はじっと息を殺したように、インジュンの横顔を見つめ、ピアノを聴き入っている。
まるで、魂の全てで、全身でその曲を受け止めるように。

インジュンはこの間より、よりアレンジを効かせて、情感たっぷりに弾いている。



階下では、2階の窓から漏れるピアノの音を聴きながら、インジュンの母親が鼻歌混じりにお茶の準備をしている。



ピアノが終わり、インジュンが一息をついてから、チェン夫人のほうを振り返った。
そして、チェン夫人を不思議そうにじっと見つめた。


二人はしばらく、声もなく、じっと見つめ合った。

チェン夫人から切り出すように、


チ:素敵な演奏でした。ありがとう・・・。
イ:・・・いえ・・・。(じっと見つめる)
チ:・・・どうかしましたか?
イ:いえ、あなたがとても・・・。

インジュンはそう言って言葉を飲んだ。
チェン夫人もじっとインジュンを見つめている・・・。



ドアのノックの音がした。


インジュンは母が来たのに気が付いて、ドアを開けた。



イの母:お待たせ。お聴かせしたの?
イ:うん。
イの母:どうぞ、おかけになって。インジュン、椅子を勧めなかったの?
チ:ああ、いいんです。ちょっとお庭の草木の香りが素敵だったんで、ここに立って聴きたかったんです。
イの母:そうですか。どうぞ、お掛けになって。お庭のお話も伺いたいわ。
イ:母さん。僕は音楽の話が聴きたいんだよ。チェンさんはちゃんとしたフルート奏者だからね。
イの母:そうでしたか・・・。じゃあまた後で。すみません、息子のお世話をさせてしまって。(笑う)ホントにこの子は強引で。
チ:いいんです。私もそういうお話が好きなんです。私のほうが、返ってお邪魔してしまって恐縮です。
イ:母さん、さっさと行ってよ。長々とそんなこと言い合ってもしょうがないじゃない。
イの母:(笑って)そうね。じゃあ、あとで声をかけてね。





インジュンの母親が出ていってから、チェン夫人は部屋の中を見回している。


イ:(紅茶を飲みながら)どうですか? 男の子の部屋は珍しいですか?
チ:え? そうね。そう・・・とても興味深いわ・・・。
イ:(笑って)チェンさんは・・・先生に似ているけど・・・。なんか僕にはおばさん、じゃない、チェンさんのほうが合ってるな。
チ:(どきっとして)え?
イ:だって、先生みたいに攻撃的じゃないし。なんか趣味も合いそうですよね。(微笑む)
チ:そ、そうね・・・。(ドキドキしてまた部屋を見渡す)ねえ、あそこにあるのは何? 絵も描くの?



部屋の隅に置かれたキャンバスが目に入る。


イ:(困る)あ、あれですか・・・。前、美術を選択していたから・・・。残りの油絵の絵の具で描いてみたんです・・・。
チ:見てもいい?
イ:(困った顔をして)どうしても見たいですか?
チ:ええ。どうしても。(笑う)
イ:いいですけど・・・怒らないって誓えますか?(心配そうな顔をする)
チ:なんで? (不思議)
イ:そういう絵なんです・・・。
チ:なんかとても興味深いわね。(笑う)



インジュンが観念して絵のほうへ行く。


イ:言い訳も聞いてくださいね。(心配そうに言う)
チ:わかった。言い訳も聞きます。(微笑む)
イ:じゃあ・・・。


チェン夫人はインジュンの後をついていき、部屋の隅に裏表に立てかけてあった絵のほうへ行く。

インジュンがチェン夫人の顔を見て、そして、絵を見せた。



それは、若い女が窓辺に立っている絵だった。
その女は韓服を着て髪を結っているが、その顔は、とてもユナに似ていた。

チェン夫人は感慨深げにじっとその絵を眺めている。


イ:怒らないでくださいね。これは・・・先生を描いたんじゃないんです。先生が来るずっと前に、いつも頭に浮かんできていた人の顔を描いたんです・・・。


彼女は黙って、じっと絵を見つめている。


イ:誤解しないでください・・・。(チェンの顔を覗きこむ)
チ:誤解なんてしてません・・・。(真剣に絵を見る)
イ:ホントに? (驚く)
チ:ええ。ただ娘に似ているだけでしょ?
イ:・・・ええ・・・。それに、今見ると、先生よりおばさんに似ている気がします。さっきもそう思ったけど・・・。
チ:そう・・・。
イ:気分を害さないでくださいね。
チ:ちっとも・・・。なぜ、私のほうが似ているの?
イ:性格とか顔つきとか・・・先生よりやさしくて情感があるというか・・・雰囲気ですよ。
チ:(インジュンをじっと見つめる)そう・・・。そうなの。(絵を見る)いい絵です・・・。瑞々しくて・・・タッチがいいわ・・・。
イ:そうですか?
チ:ええ。


チェン夫人がまた、じっとインジュンを見つめる。インジュンはバツが悪そうに少し下を向いた。


チ:ねえ、お願いがあるんだけど・・・。
イ:なんですか?
チ:この絵をいただけるかしら・・・。下さる?
イ:え?
チ:いただきたいの。
イ:やっぱり怒ってますか? この絵のこと・・・。
チ:そうじゃないの。この絵がとても気に入ったから、ほしいんです・・・。娘にも内緒で・・・私にください。
イ:・・・・。(チェン夫人の顔を見つめる)
チ:・・・・。
イ:差し上げます。先生には内緒で。
チ:ええ、内緒にしてくださいね。誰にも言わないで。(念を押す)
イ:わかりました。おばさんも先生には言わないでください。バレると怒られそうだから。
チ:もちろんよ。私も怒られるわ。生徒さんに絵をねだったって。(微笑えかける)



チェン夫人は、インジュンの母親とひとしきり庭や薔薇の話をすると、その絵を抱えて帰っていった。







家へ帰ると、ユナの母親は、自室に入り、スタンドを一つだけ点けて、もう一つの絵と、瓜二つの顔をしたインジュンの絵を並べ、一人眺めている。



こみ上げる思いに、目頭が熱くなるのを抑えることができなかった。










第3部へ続く



2009/10/29 01:33
テーマ:【創】君に会えるまで カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「君に会えるまで」1



BGMはこちらで^^



BYJシアターです。

シアターはお久しぶりです^^

本日から連載の「君に会えるまで」、これは3年8ヶ月前に書いたものです。

当時は、中国のチャン・ツィイーと共演できたら素敵だなと夢のように思っていました。
でも、最近、ジソプが共演していましたね。
この3年で、アジアは、世界はホントに狭くなってきたんだなと思いました。

ところで、
いつも創作にぴったりと自分では思っているBGMをつけています^^
こちらは、私のお気に入りで、私の中ではシアターBGMベスト5に入っているので^^
どうぞ、BGMも合わせてお聞きください。


また、こちらは1回1回が長いのですが、
切ってアップすると、おもしろさが半減するような気がするので、
一日置きにアップします。

話の進行がわからない人は、手を挙げてくださいね・・・。




「君に会えるまで」

これは、【二人】の恋の不思議な世界。

二人の恋の行方を追ってください・・・・。


【配役】
インジュン、ケイジュン、ウォンジン:  ぺ・ヨンジュン
ユナ、    メイリン、  メイファー:   チャン・ツィイー(初恋のきた道、グリーンデスティニィ、さゆりなど)




ここより本編。
では、お楽しみください。



~~~~~~~~






坂の上からトレンチコートを着た男が現れた。
片手には大きな白い花束を抱えて・・・男が歩いてくる。

教会の墓地に入り、一つの墓の前に立つ。
墓をやさしく撫でて花を手向けた。

長い時間見つめてから、彼は呟いた。


彼:いいよね? 僕は結婚するよ。そして、彼女を大切にするよ。それでいいだろう? 

彼はじっと見つめたまま、立ち上がった。そして、また呟いた。


彼:また会う日まで・・・。僕の愛する君、愛しかった君、さようなら!


彼はそう言って、墓を後にした。






人生というものは皮肉なものだ。

たとえ、どんなに深く愛し合った二人だとしても、必ず別れの時がやってくる。

死が二人を別つ。それは否応もなくやってくる。

でも、それで本当の別れがきたのだろうか。


今日、会ったばかりのあなたがなぜか懐かしくて仕方がないのはなぜだろう。

もしかしたら、これが私たちの初めての出会いではないのかもしれない・・・。









朝の通学路。
たくさんの高校生たちが次から次へと登校していく。

先週から、産休教員として、この高校に勤め始めたユナもまた、皆と一緒に登校している。

中国人の母と韓国人の父を持つ彼女は、アメリカから帰国して職を探す間、しばらく、この男女共学校で、英語の産休教員として働くことにした。



後ろから歩いてきた男子生徒がじっとユナの顔を眺めている。
それも、まじまじという感じである。

「な~に?」と言う顔をして見つめ返すと、さっさと行ってしまった。


彼は不思議なくらい、ユナを見つめていた。




主演:ぺ・ヨンジュン
    チャン・ツィイー
【君に会えるまで】第1部




初めて
君に
会ったのは

いつの日だったろう



どんなに
激しい恋をしても

どんなに
ある人を切なく思っても


いつも
心のどこかで

君が囁いて



君のほうへ
心が
動いていく



君は


どこにいるのだろう




僕は

君を

探し求めている







ここのところ、インジュンは変な夢にうなされている・・・。
というか、とり憑かれている。


夢の中では、彼は朝鮮時代の両班で、いつも白い着物を着て、寂しそうに筆を走らせている。

彼はいつも同じ女の人の絵を描いていて、なぜか、耳元には、衣擦れの音とともに、女と自分の囁く声が聞こえるのだ。





ウォンジン、来てくれたのね。


メイファー・・・。


ああ、そんな悲しい顔をしないで、お願い。


ああ・・・。


衣擦れの音がして、彼はその女性の横に添い寝しているようだ。


泣かないで・・・。
悲しまないで。

これはきっと運命よ。
そんな目をしないで。


私を置いて逝かないでおくれ。




ごめんなさい・・・・。
でももう限界なの・・・。
許してね。


君がいなくなってしまうなんて・・・。


そんなこと、言わないで・・・。



また、衣擦れの音がする。



ああ、あなたの腕が懐かしいわ・・・。
ああ、温かい・・・。


メイファー・・・。


こうやって、添い寝してもらうと、昔を思い出して幸せになるの。


ああ、メイ・・・。


泣かないで。

これで最後じゃないわ、きっと。
また生まれ変わって、あなたと一緒になるわ。


メイ・・・。
これから、君をずっと待ち続けるのかい?


ええ、私を待っていて・・・。

ずっと待っていて。
必ず戻ってくるから・・・。
大丈夫よ。



でも、君に会えなかったら?
君を探し出せなかったら?




大丈夫。
私があなたを探すから。


たとえ、
どんなところでも
どんな時代でも
絶対に、あなたを探し出すから
安心して。



ほら、見て・・・。



衣擦れの音・・・。



爪を染めたのかい?


ええ、これで私の爪は二度と褪せないわ・・・。
いい? このままでもいい?

怒ってる?


うううん・・・いいよ。

私たちの愛は色褪せない・・・。
永遠に続くんだね?



そう・・・。だから、今は逝かせてちょうだい。


お願いだから、まだ、逝かないでおくれ。



泣かないで。
大丈夫よ。
永久(とわ)の別れじゃないもの。
悲しまないで。
また会えるから。


私が・・・あなたを探し出すから。


私をおいて逝かないで。


ごめんなさい・・・。
もう疲れてしまったの・・・。
眠らせて。

ああ・・・。
あなたにこうして抱かれて・・・ああ・・・こんなに幸せに眠れるなんて・・・。

もう・・・とても・・・起きていられないのよ・・・。



メイファー、愛してるんだよ・・・。



ありがとう・・・とても・・・幸せだったわ。
これからも・・・ずっと・・愛し続けるわ・・・。
だから、心配しないで・・・。


メイ?

メイファー!













ユ:ねえ、ちょっとあなた!


ユナが、自分の学校の生徒であるインジュンの前に立ちはだかっている。


ユ:いつも私の顔ばっかり見てるわね。なんなの?(怒った顔で睨む)
イ:何なのって言われても・・・・。(少し困った顔をするが、見つめている)
ユ:あなたが生徒だから、あまり言いたくないけど、そんなに見つめられると、ちょっと気味が悪いのよ・・・。それで今日は、うちの前に立ってるでしょ。なんか・・・。(眉間に皺を寄せている)
イ:すみません。先生の顔が・・・なんか僕には・・・。
ユ:なあ~に?! (睨みつける)
イ:懐かしいというか、前に知ってたような気がするんです。・・・先生、僕を知りませんか?
ユ:あなたを? 知らないわ。だって、あなた、まだ18でしょ? そんな子供、知るはずないじゃない!
イ:子供って・・・先生はいくつですか?
ユ:・・・23・・・。(バツが悪そうに言う)
イ:5つしか違わないくせに・・・僕は子供ですか?
ユ:う~ん・・・そうよ!(怒ったように言う)


ユナの家の一階の窓が開き、中から女性の声がする。



女:ユナ? 誰かお客様なの? 玄関先であまり大声で話すものではないわ。上がってもらったら?
ユ:ママ。生徒さんなの。(まだインジュンを睨みつけている)
母:なら、上がってもらいなさい。
ユ:・・・来る?(ぶっきらぼうに言う)
イ:いいんですか?
ユ:仕方ないわ。母が気にしているから。いらっしゃい!


ユナはインジュンを引き連れて家へ入った。


ユ:上がんなさい。
イ:お邪魔しま~す。


二人は中へ入っていく。リビングの奥のサンルームにユナの母親がいるらしい。


ユ:ママ~。上がってもらったわ。
母:(遠くから)そうお。お茶でも入れましょうね。


インジュンがちょっとユナの顔を見て笑った。



ユ:何よ?
イ:先生でも、ママとか言うんですね。(笑顔で見つめる)
ユ:あら、おかしい?
イ:う~ん・・・ちょっとかわいいです・・・。
ユ:もうあんたって子は。人をおちょくってるの?
イ:いえ、別に・・・。さっき、フルートの音が聞こえてたけど・・・あれって先生が吹いてたんですか?
ユ:うううん。うちのママ、じゃない、母が吹いてたのよ。なぜ?
イ:(笑う)ママでいいですよ。いや、なんか懐かしい感じがして・・・。それで、聞き入っちゃって。

ユ:あんた、この間から、私を見ると、懐かしいとか言っちゃって。
イ:何ていう曲なんですか?
ユ:さあ、母に聞いて。よくわからないの。ただね・・・。
イ:ただ?
ユ:う~ん・・・亡くなった父がね、あの曲を「魂の在り処」って呼んでいたのよ。
イ:「魂の在り処」?
ユ:そう・・・。曲のタイトルじゃないけど、そのくらい、母が愛してやまない曲というか・・・。父の言いたかったことが、ホントのところ、私にはよくわからなかったんだけど。(笑う)
イ:どうしてちゃんと聞かなかったんですか?
ユ:父ってね、いい人なんだけど、なんでもそんな風に観念的にものを言う人だったから・・・。
イ:へえ・・・。(不思議そうにユナを見る)

ユ:うちの母は中国人なの。だから、あっちの曲かもしれないわね。・・・母の心の根っこにある曲というか。もうすぐ来るから、直接聞いてみたら?
イ:・・・。



ユナの母親がお茶の支度をして、リビングへ入ってきた。



母:お待たせしたわね。



インジュンがソファから立ち上がって、母親に挨拶をする。


イ:お邪魔してます。
母:ずいぶん、礼儀正しい生徒さんだこと。
ユ:そうかな~?


母親は、お盆をリビングテーブルに置き、顔を上げてインジュンの顔を見た。



にこやかだった母親の顔が凍りついたように強張って、じっとインジュンを見つめている。
インジュンもその顔を驚いて見つめている。


ユ:ママ、どうしたの?
母:え? いえ、別に・・・。(じっとインジュンを見つめている)
ユ:インジュン、あんたまでどうしたの? おかしいわよ。
イ:いえ、先生にそっくりだから、驚いちゃったんです。同じ顔してるんですね。
ユ:何言ってるんだか。(笑う) 親子だもん、似てるに決まってるでしょ? でも、そっくりじゃないわよ。


インジュンが、ユナの顔を見た。ユナによく似ているが、確かにそっくりではない。
でも、誰かにそっくりな感じがするのだ・・・。




ユ:ママ、大丈夫?
母:ユナに習ってらっしゃるの?
イ:はい・・・。ここが先生のうちだとわかって・・・。
ユ:ママ。この子って、ストーカーかもしれないのよ。(インジュンを睨む)
母:なんで?
ユ:私の後をついてきたの。私のことが懐かしいとか、言っちゃって。


母親がインジュンをじっと見つめている。



母:この子が懐かしいんですか?
イ:・・・すみません、変なこと、言っちゃって。でも、そんな気がしたので・・・。
母:そうですか・・・。
イ:あのう、さっきフルートで吹いていらした曲は何ていう曲なんですか?
母:え? (インジュンの瞳をじっと見つめる)
イ:また変なこと、言っちゃいますけど、懐かしいんです、さっきの曲・・・。
母:そうなんですか・・・? (じっと見つめたまま)
ユ:ママ、この子、ちょっと変わってるでしょ? ねえ、あの曲って確かママの故郷の曲よね?
母:え?・・・ええ・・・。曲名は私もよくわからないの。ただ、私の心に残っている曲で、とても好きで・・・、よく吹いているんですよ。
イ:そうなんですか。もう一度、聞かせていただいていいですか?
母:・・・。
ユ:ママ。いいお客さんじゃない。吹いてあげてよ。
母:そうね・・・。




母親はサンルームへフルートを取りに行き、インジュンたちからは少し離れたところで、顔を隠すようにフルートを演奏し始めた。


ユナは楽しそうに聞いていたが、インジュンは、じっと真面目に聞き入っている。そんなインジュンの様子がユナには不思議に思えた。


インジュンの魂が、母親のフルートの音色に乗って飛んでいってしまうように見えたのだ。

母親は一番を吹き終えると、リピートすることなく吹くのをやめて、サンルームのほうへ消えてしまった。



そんな母の態度も少し妙な気はしたが、インジュンと母は、そんなに社交的な感じではないから、きっとお互い、人見知りをして緊張しているだけなのかもしれない。



ユ:ママ~! こっちへ来て一緒にお茶を飲まな~い?
母:私はいいわ・・・。生徒さんにゆっくりしていかれるように言って。


ユ:ええ・・・。(お茶を飲む)あなたも飲みなさい。でも変ね・・・。ごめんなさいね、なんか妙な感じで。いつもはあんな人じゃないんだけど。
イ:いえ・・・。でも、とてもいい演奏でした。胸が熱くなりました。
ユ:大人っぽいこと言うわね。(笑う)
イ:でも、素敵でした。

ユ:そうね。ママはいろいろ演奏するんだけど、この曲を吹いている時は・・・なんか、郷愁が漂うのよねえ・・。ねえあなた、なんか楽器できる?
イ:え? ピアノを少し・・・。
ユ:そうなの? 今の曲、即興で弾ける?
イ:ええまあ・・・。
ユ:ねえ、弾いてみてよ。私、即興とかできないの。譜面があるものしか弾けなくて。一度、ピアノで聞いてみたかったのよ。こっちへ来て。


ユナはインジュンをピアノのほうへ連れて行き、ピアノの前に座らせた。



ユ:ママ~。インジュンがあれ、ピアノで弾いてくれるわよ~。どうしたのかしら? どっか行っちゃったのかな? まあいいわ。ねえ、弾いて。(ピアノの横に立つ)



インジュンはちょっと鍵盤を見てから、ピアノを弾き始めた。

それは、とてもセンチメンタルで、胸が痛くなるような演奏だった。




ユ:素敵だわ・・・。あなた、すごいわね・・・。(驚いた顔でインジュンを見る)
イ:・・・。(ユナの顔を見上げる)
ユ:すごい才能よ。(インジュンを見て微笑む)


ユナがインジュンを見直して、さっきまであった二人の間のギクシャクした感情がなくなり、二人はにこやかに笑いあった。



サンルームの奥から、そんな二人の様子を覗き見て、ユナの母親は、涙を溜めて静かに部屋を出ていった。











パリの街を闊歩する音楽学校に通うメイリン、通称メイ。


彼女は今年、20になったばかり。音楽学校の卒業試験も終えて、あとは卒業を待つばかりだ。
彼女の父は華僑でここパリでも手広く仕事をしている。


フルートのケースと楽譜を入れた大きなバッグを肩から提げ、石畳の街を歩く。


前から来た背の高い男の顔を何気なく見る。

同じ東洋人の彼と目が合って、ちょっとバツが悪い気がしたが、瞬間彼の目が笑ったような気がした。


何か不思議な思いで見つめていると、男もメイを見つめたまま、通り過ぎた。








妹:お姉ちゃま! どうしたの?


リセから帰ってきた妹のシャオリン、通称シェリーが部屋の入り口に近いスタンドの明かりをつけた。


メ:あっ! (驚いたように妹を見る)

真っ暗な部屋のベッドの上に、メイは座っていた。


妹:どうしたのよ? 考え事?


姉のベッドの上に上がり込む。


メ:え?
妹:電気もつけないで、おかしいわよ。


シェリーがベッドの横にあるスタンドの電気をつける。
二人は同じ部屋を使っている。


妹:どうしたの? 座って寝てたの? へんなの。
メ:・・・今日ね、道で男の人と擦れ違ったの・・・。
妹:いい男だったの?(顔を覗きこむ)
メ:というより、何か知ってる人だったのかなって思って。
妹:向こうが挨拶してきたの?
メ:そうじゃないの。ただ何となく、雰囲気がね。知ってる人みたいな・・・懐かしいような・・・前にもこんな風に道で見つめ合ったことがあったような・・・。変なのよ、感覚が。

妹:デジャブね、きっと!
メ:デジャブ?
妹:うん、前にこんなシーンがあったなって感じるのが、デジャブよ。
メ:そうなのかな。ホントに知ってるって感じなのよ。変な言い方だけど、擦れ違った瞬間、わかったの。私がその人を見て頭に描いたのと、同じニオイがしたのよ。

妹:へえ・・・。(不思議そうに姉を見る)いくつくらいの人?
メ:いくつだろう? 28か30か31か、その辺の人の区別ってよくわからない。
妹:な~んだ、おじさんか。
メ:おじさんと言っても、私と10歳くらいしか違わない人だもん。気になるのよ。
妹:ふ~ん・・・。でも、その人って今日初めて会った人なんでしょう? また会うか、わからないじゃない。
メ:まあね。(妹を見て微笑む)
妹:また会ったら教えて。
メ:うん。

妹:今ね、リセで流行ってるんだけど、占い師というか祈祷師みたいな人がよく当たるんだって。何かあったら、おもしろいからお姉ちゃま見てもらったら? その人に。友達にその人のこと、聞いてきてあげるよ。
メ:うん・・・・。
妹:お姉ちゃま? 大丈夫?
メ:うん・・・・。


メイはそのまま、ズルズルとベッドに寝転がった。


シ:ねえ、そんなに心に残る人なの?
メ:うん・・・。
シ:それって恋かな?
メ:30秒くらい見た人に恋するの?
シ:そうだよね・・・・。


シュリーも一緒になってメイの横に寝転び、二人は手をつないで天井を見つめた。







それから、2週間ほど経ったある日、親友のイザベルに誘われて、メイリンはモンマルトルのテルトル広場へ出かけた。

ここは、似顔絵描きの画家や風景画を売る画家、そして観光客で賑わっている。

そんな賑わいの中を、二人は最近流行しているミニスカートをはいて、伸び伸びと歩く。


イ:今度の大学はニューヨークだし、英語だからちょっとやだな。(周りを覗きながら言う)
メ:素敵じゃない。いいなあ、ニューヨークなんて。
イ:でも、フランス語訛りがあるから、すぐ外人だってバレちゃって、やだな。
メ:そうかなあ。フランス人の女の子ってモテるらしいわよ。いいじゃない。(突く)
イ:すぐ裸になると思われてるだけよ。ねえ、メイ。あそこで似顔絵、描いてもらわない?
メ:ええ、面倒臭いわ。恥ずかしいもん。
イ:一度描いてもらいなさいよ。私は前に描いてもらったことがあるの。パリに住んだ記念になるわ!
メ:でも、やだな・・・。
イ:あの人がいい! ハンサムだわ! いらっしゃい!(メイの手を引っ張って走る)



メイはイザベルに引っ張られて一人の絵描きの前へ座った。


イ:この子をお願い!


メイが恥ずかしそうに顔を上げると、この間、擦れ違った男である・・・。



男:こんにちは、お嬢さん。どうぞ、座ってください。
メ:・・・・。

男:まっすぐ僕を見てくださいね。


メイは震えそうなほど緊張しながら、男の顔を見つめた。


男はじっとメイを見つめてから、後はまるで彼女の顔を空案じているかのように、もうメイの顔を見ることなく、彼女の似顔絵を描き上げた。


そうして、顔を上げて、メイと絵を見比べている。


男:・・・。
メ:どうかしましたか?
男:・・・・。こんなにあっさり描けるなんて・・・不思議だな。まるで、あなたを知っているみたいに。
メ:知っているんですか?(同じ感覚に驚く)
男:え?(笑う) 今日は気持ちよく描けたので、この絵はあなたに進呈しますよ。
メ:え? お代は?
男:いらないです。差し上げますよ。
メ:・・・・。
イ:よかったじゃない。見せて・・・・。これって・・・。すごいわ。まるで、生き写し・・・。それになんか・・・。(男の顔を見て言うのをやめる)
男:なんですか?
イ:いえ。とても素敵!ということです・・・。





メイとイザベルはその絵を見ながら、歩いている。


メ:ねえ、あなた、さっきなんて言おうとしたの?
イ:え?
メ:言ってよ。私にならいいでしょ?
イ:うん・・・。(躊躇する)
メ:なんて言おうとしてたの。なあに? それになんか、の次・・・。


イ:それになんか、愛を感じるわって・・・。
メ:愛?
イ:変でしょ? でもさっきはそう思ったの。・・・この絵には相手に対する恋しさを感じるの・・・・。




メイは振り返って、さっきの絵描きのほうを見た。


男はもう次の客の仕事にとりかかっていたが、あの懐かしさと、この絵には何か、秘密があるのだろうか。




メイは立ち止まり、じっと男のほうを見つめた。











2部へ続く



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