2009/09/14 22:50
テーマ:【創】恋がいた部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋がいた部屋」14部終




BGMはこちらで^^




BYJシアターです。

本日は「恋がいた部屋」14部、とうとう最終回です。



ではここより本編。
お楽しみください!




~~~~~~



あなたと
私は
一緒にいるのが
自然


もう
あなたを
失わないように


何が
あろうと
あなたを
手放すまい・・・


いつも

私の手を
握っていて・・・






「少し冷ます?」
「うん」

ミンスは、ヒョンジュンのお茶をフ~フ~と冷ましてから、笑った。





主演:ペ・ヨンジュン
   チョン・ジヒョン
「恋がいた部屋」14部・最終回



ミ:はい、どうぞ。
ヒ:ありがとう。


ヒョンジュンが笑顔で湯のみを受け取って、ミンスを見て、ちょっと甘えた目をした。

こんな目を見るのは、なんて久しぶりだろう・・・。
ミンスは、ちょっと胸がいっぱいになった。

ヒョンジュンは今だ人の夫ではあるが、今二人の気持ちはぴったりと寄り添っている。
ヒョンジュンがわき腹に近い背中を刺されて、ここの大学病院に運ばれてきた時には、もしや彼がこの世から消えてしまうのではと思って、生きていくことさえ、苦しいことに感じた。

留学も新しい生活も全てのことが、もう、どうでもよくなった。彼が人の夫であろうと、そんなこともどうでもよくなった・・・。ただ、彼が生きていてくれることだけを祈って、それが叶うなら、あとのことは全て捨ててしまっても惜しくない。ただ、彼のためにできること、それだけを考えた。


ヒョンジュンが刺されてから、2週間が経過して、こんなに気持ちを素直に出せるヒョンジュンがいて、それを笑える自分がいることに、今、感謝したい・・・。

最初に見舞った時の瀕死のようなヒョンジュンを思うと、こうやって、笑顔でお茶を飲み合えるのが、まるで夢のようだ。


ミ:こんなに元気だってバレたら、夜間の付き添いは首にされちゃうわね。
ヒ:もう少し、病人のふりしていたほうがいいかな。(笑って首をかしげる)
ミ:かもね。(笑う)

ヒ:でも、寝返りしようとするとまだまだ痛いんだよ。刺されたところだけが鉛みたいに重い感じで、なんともいえない感覚なんだ。
ミ:それは仕方ないわよ。それだけの怪我だったんだもん。治ってもそういう痛みはしばらくは残ってくるのかもしれないわね。
ヒ:もうすぐここも追い出されるかな・・・。
ミ:(笑う)出血がひどかったわりには回復が早くてよかったね。
ヒ:そうだね。どんどん動けって先生に言われて、痛くても動いたのがよかったかな・・・。

ミ:そうよ、きっと。ヒョンジュン、ヒョンジュンの体の中には、私とジフンの血が流れているんだから、元気にならないはずがないわ。
ヒ:それで、最近、体が熱いのかな・・・。(いたずらっぽく微笑む)
ミ:そうなの?
ヒ:ミンスの情熱で、あったかい。(笑う)
ミ:本当?(疑いの目)

ヒ:・・・ジフンさんにお礼を言わないといけないね。
ミ:うん・・・。(俯く)
ヒ:・・・。



ヒ:そうだ。今晩、会長の弁護士が来ることになってるんだ。昼、電話が入った。目立たないように夜、お邪魔しますって。
ミ:何の用?
ヒ:離婚のことか、退職のことだと思う。


離婚・・・。


ミ:ソルミさんは今、どうしてるのかしら? ここにはぜんぜん来ないんでしょう?
ヒ:うん・・・わからないな。大きな病院の分院で静養しているらしいけど。
ミ:どこが悪いの? ・・・心の病気なの?

ヒ:わからない・・・。お父さんに、幽閉されているんじゃないかな。
ミ:フ~ン・・・。かわいそうね・・・。
ヒ:うん・・・。原因はオレのせいでもあるわけだけど・・・。
ミ:・・・うん。




二人がソルミのことで、少し沈んだ気分になっていると、ドアのノックの音がした。



ミ:はい! 弁護士さんかしら?(ヒョンジュンを見る)


ミンスがドアを開けた。


弁:ヒョンジュンさんのお部屋ですか?
ミ:はい。
弁:キム氏の弁護士のホ・ウンスです。
ミ:あ、どうぞ、お入りください。


ミ:ヒョンジュンさん、弁護士さんがお見えです。
ヒ:そう。お通しして下さい。


弁護士が入ってきた。


ミ:お茶をお入れします。
弁:お構いなく。それより、二人にしていただけますか?
ミ:あ、はい。(ヒョンジュンを見る)
ヒ:すみません、廊下に出ててもらえますか?(ミンスを見つめる)
ミ:はい・・・では、廊下のベンチにいるので、なんかありましたら、声をかけてください。


ミンスは弁護士にイスを差し出し、軽く会釈して部屋を出ていった。



ヒ:お世話になります。
弁:(イスに座る)ヒョンジュンさん、本日は、あなたの今後について、少しお話をしたいと思います。
ヒ:はい。
弁:あなたの現在の怪我につきましては、会長のほうで100%、治療費を出させていただきます。ということで、請求書は全て、病院から直接、会長宛に送っていただくことになっています。
ヒ:そうですか、ありがとうございます。
弁:その他、保険についてもこちらに任せてください。悪いようにはしません。
ヒ:はい・・・。


弁:それから、あなたの仕事についてですが、明日付で、H(アッシュ)・joonは依願退職という形をとらせていただきます。
ヒ:わかりました。お手数おかけします。

弁:それと、あなたが一番、気になっていらっしゃるであろうことですが。ソルミさんとの離婚ですが、本日、離婚届にソルミさんのサインをいただきましたので、ここにお持ちしました。
ヒ:・・・。(驚く)彼女がサインしてくれたんですか・・・?


ヒョンジュンはあまりにすんなりソルミのサインがもらえたので、驚いた。


弁:ええ。それで、オフィスも明日退職となったわけです。全てが明日付。そのほうが、日付が同じで仕事がやりやすいですからね。
ヒ:はあ・・・。

弁護士の合理的な考え方にまた驚く。


ヒ:・・・ソルミは今、どうしているんでしょうか?

弁:今あ・・・ちょっとソウルから離れた病院の分院で静養しているんですが・・・。
ヒ:が?

弁:まあ、いろいろありまして・・・それで、離婚も早めにということで・・・。
ヒ:いったい、どうしたんですか?

弁:それが・・・。あなたはもうソルミさんと別れたいんですよね? (確認する目をする)
ヒ:・・・ええ・・・すみません・・・。ただ、とても気がかりなんです・・・最後があんなだったから。

弁:いえ、いいんです、いいんですよ。あなたの気持ちもわかりますから。ソルミさんはあなたを愛してらした。あなたと離婚したくなくて、逃げ回って、日本へ行って、あの男と知り合ったんです。それで、意気投合とか言ってましたが、まあ、ズルズルと関係して・・・ソウルのあの男の所まで行ってしまったわけですが・・・。
ヒ:・・・。


弁:実は、先日。今ソルミさんがいる分院に、あの男が現れたんです。
ヒ:え? 捕まったんですか? 
弁:ええ。それも、ソルミさんに暴行を加えて。
ヒ:え?

弁:実はどこで調べたのか、逃げる費用の無心に来たんですよ。ところが、今のソルミさんは、現金もクレジットカードも持っていない。
ヒ:彼を逃がした時、彼女がバッグごと、渡していました・・・。
弁:やはり、目撃されていたんですね? それは忘れてください。それはなかったことに。(睨む)
ヒ:・・・はい・・・。

弁:あなたは何も見なかったことに・・・よろしくお願いします・・・。財布に入っていたクレジットカードもキャッシュカードもその日のうちに止めましたから、実際のところ、あの男にはいくらも行かなかったんですよ。まあ、その前に貢いでいた額が半端じゃありませんでしたが。
ヒ:それで?

弁:それで、お金の出せない彼女に、病室のイスを投げつけましてね、怪我をさせたんです。それで、付き添いのシンジャさんが、あ、シンジャさんはご存知でしょう? 助けを求めて、ナースステーションに駆け込んで、病院から通報されたんですよ。本当に、やくざは怖いです・・・。
ヒ:それで? 怪我は? 
弁:ご心配なく。(きっぱり)

ヒ:でも、なぜそれが急な離婚に結びつくんですか?
弁:うん・・・。(言おうかどうか、考える)その時の怪我で、わかったことなんですが・・・ソルミさん、妊娠されていたんですねえ・・・。

ヒ:え?(驚く)

弁:なんて言ったらいいのかなあ・・・。あなたのお子さんではないと、ソルミさんはおっしゃってるんですよ。まあ、そうでしょう。逃げている間にできた子どもですから。
ヒ:(言葉がないが)・・・彼女とはここ数ヶ月、そういう関係はありませんでした・・・。
弁:うん。あの男と一緒の時期にできた子のようです・・・。

ヒ:・・・。(驚く)それで、それで、ソルミは大丈夫なんでしょうか? あの男に付きまとわれるとか・・・。僕のことが元で、彼女の人生がめちゃくちゃになってしまったら・・・。本当に大丈夫なんでしょうか?

弁:ヒョンジュンさん。あなたは当事者だから、忌憚なく、この話をしているんですよ。他の方には絶対に内緒にしてくださいね。
ヒ:もちろんです・・・。そんなことは・・・絶対に誰にも言いませんから、安心してください。

弁:それで、急遽、会長の計らいで、ソルミさんが結婚されることになったんですよ。
ヒ:あの男とですか?!

弁:まさか・・・。会長の下で働いている人間ですよ。
ヒ:でも、そんな・・・。そんな結婚・・・。

弁:ソルミさんは、もう中絶はしたくないそうです・・・。そして、子供を持つことを機に、人生をやり直したいということでした。まあ、相手の彼も、会長の全てが手に入るわけですから、それは喜んでOKなんですけど・・・。

ヒ:・・・。

弁:(笑う)あなたは、富や出世とは別のところに住んでいたわけだ。


それに心惹かれた時もあるが・・・それより、自分には、ミンスとの愛が大切だった・・・。


弁:あの資産家と離婚したいなんて言い出すんですからね。妻の見えないところで、いくらだって浮気だって何だってできるのに。それだけのお金も自由もあるのに。(笑う)まあ、その点を会長は非常に買っているんですよ、あなたのそういうところ。信頼してるんです。お金で動かないところを。あなたが真にソルミさんを心配して連れ出そうとしたことを。

ヒ:・・・。

弁:それで、まあ、ソルミさんが、なるべく早く結婚できるように、あなたとの離婚を急いだわけです。あの男が捕まっている間に、パリで新生活を始めて落ち着いたところで、籍を入れるそうです。
ヒ:そうですか・・・これはハッピーエンドなんですね? 僕にはよくわからないけど。
弁:まあ、それに近いというべきじゃないかな。ソルミさんにも人生を考え直す機会ができたわけだから。子は鎹ともいうし・・・今まで好きに生きてらしたんだから、いいんじゃないでしょうか?

ヒ:・・・。

弁:さて。あなたのことに戻ります。まずは、こちらの離婚届にサインをいただいて・・・。(用紙を出す)


ヒョンジュンは弁護士の差し出すペンでサインをする。


弁:ありがとうございます。それから、こちらが慰謝料と退職金の明細です。明日振込みになります。ええと・・・しめて、10億ウォンということになりますね。
ヒ:そんな。

弁:少ないですか?(笑う)
ヒ:いえ・・・多すぎるなと思って・・・。

弁:まずは今後、キム家とは一切の縁を切っていただくこと。これは、あなたもそう思ってらっしゃるでしょうが。この金額の大半は、あなたがキム家の事業に尽力を尽くしたという退職手当に準ずるものです。まずは、H(アッシュ)・joon。こちらは、人気ブランドですね。あなたが撤退後も、あなたのデザインコンセプトはそのまま引き継ぎたいということですので・・・これは了承していただけますね?
ヒ:はい。

弁:このブランドが、今後作り出すお金を考えると、これは、キム家にとっては非常に安い買い物なんです。
ヒ:はあ・・・。
弁:まあそれと、会長であるお父様からの慰労金ですね。
ヒ:慰労金:・・・?
弁:会長はあなたが好きでしたから。でも、あの方は、仕事には厳しい人ですから、その辺の採算も取られているとお考えになっていいです。ですから、あなたも堂々とこのお金を受け取ってください。

ヒ:・・・わかりました。
弁:いいですね。今後は全てがあなたの手を離れるのです。
ヒ:わかりました。





弁護士が帰ったあと、ヒョンジュンは深いため息をついて、ソルミのこと、ビジネスのことを考えた。
なんと合理的な! なんと明解な・・・!




ミンスが心配顔で、病室に入ってきたが、ヒョンジュンはそんなミンスを笑顔で迎えた。
今日、ソルミと自分が離婚届にサインをして離婚することになったこと、そして、あの家とは一切、手を切ったとだけ伝えた。

ミンスはヒョンジュンの話を聞いて、泣きそうな顔になった。
ここまで来るのに、二人はなんと遠回りをしたのだろう。


ヒ:おまえにたくさん苦労をかけたけど、これからは、本当に二人で生きよう。ミンス、もう君を絶対放さないよ。
ミ:うん・・・。


ミンスはヒョンジュンの言葉に感慨深げに頷いた。
ヒョンジュンは、これからの人生は、自分たちの力で生きていこうと思った。
ソルミの父親がくれたものは、当てにはせずしまっておこうと。





翌日、ヒョンジュンは、昼間付き添いをしてくれたヘルパーさんに、自分でなんとか動けるようになったので、昼夜の付き添いはもう終わりにします・・・と伝えた。
そして、翌日からミンスが仕事ではなく、晴れて、恋人として、ヒョンジュンの看護をすることになった。


ヒョンジュンは、ミンスが仕事に出る気配がないので、内心ではミンスの仕事のことも気になっていた。


ミ:今日は、お昼を作ってきちゃった。一緒に食べよう。(弁当を開ける)
ヒ:ねえ、おまえの仕事はどうなってるの?
ミ:うん? ちょっと休んでる。ヒョンジュンが一番大事だから。
ヒ:でも、もう具合もよくなってきているし、そんなに毎日、来なくてもいいよ。あんまり仕事を休むのはよくないだろ?
ミ:・・・いいじゃない。今まで離れていたんだし。一緒にお弁当食べようよ。
ヒ:うん。


ヒョンジュンには、まだまだ気がかりなことがあった。
それはジフンだった。この同じ病院内にいて、ヒョンジュンのために献血をしてくれた男・・・。それは医者である彼にとっては当たり前のことかも知れないが・・・ミンスを思えばこその行為だったとも言えるだろう。彼は、自分の好きな女の、好きな男のために、いろいろ骨を折ってくれた。
礼を言うのが礼儀というものだが・・・実際に、顔を合わせて、お礼を言うのも、自分の気持ちとしては、少し憚れるのである・・・。






しばらくして、ミンスは、ジフンのいる小児科病棟を訪ねた。
子供学級のボランティアの一人として一時活動したミンスを発見して、子供たちが喜んだ。


子1:ミンスさん、遊びに来てくれたの?
ミ:うん。
子2:どうして最近、来てくれないの?
ミ:実はね、私の大事な人も病気で入院しちゃったの。それでそっちの看護をしてるから・・・。
子1:そうなんだ。残念だな。
ミ:ごめんね。

子1:ジフン先生も寂しそうだよ。
ミ:・・・。
子2:読み聞かせを見に来ても、前みたいに笑わないもん。
ミ:そう・・・。
子2:今日は子供学級に来てくれたの?
ミ:・・・ジフン先生に会いに・・・。ジフン先生がその人を助けてくれたから。
子1:そうなんだ! すごいね。
ミ:うん・・・。
子2:あ、ジフン先生だ!


子供たちが顔を輝かせて見ている方へ目をやると、ジフンがやってきた。
ジフンもミンスに気がついて、ちょっと複雑な顔になったが、すぐにいつもの笑顔になった。


ミ:ジフン!


ミンスが笑顔で駆け寄った。


ジ:やあ・・・。(少しぎごちなく手を上げる)
ミ:こんにちは。
ジ:どう? H(アッシュ)さんは、元気になった?
ミ:うん・・・ありがとう。
ジ:うん・・・。

ミ:彼がジフンにお礼が言いたいって言ってるんだけど・・・。
ジ:そんな・・・。
ミ:ヒョンジュンのために、献血もしてくれたし・・・私も付き添えるようにしてくれたでしょ?


ジフンがちょっと寂しそうな目をして、ミンスを見ている。ミンスはすっかり元気になった。初めて出会った時のような屈託のない微笑みを浮かべている。


ジ:ごめん・・・今、忙しいんだ。
ミ:じゃあ、いつ時間ができる?

ジ:・・・。
ミ:・・・。(ジフンを見上げる)

ジ:別にいいよ。礼なんて・・・。
ミ:・・・。
ジ:そんなことしないで。


ジフンがミンスをじっと見つめた。


ミ:・・・そう?
ジ:うん・・・。正直・・・。(下を向いてから、周りを見る)会いたくないんだ・・・。

ジフンは、ミンスを見ず、遠くを見ている。

ミ:・・・ごめん。
ジ:・・・いいんだよ。じゃあ、忙しいから。(ミンスを見る)

ミ:・・・うん。
ジ:じゃ!

ジフンが去っていこうとしたところを、ミンスが呼び止めた。


ミ:ジフン! 
ジ:ん?(振り返る)


ミ:・・・元気でね。
ジ:・・・うん。(見つめる)君も、元気で。
ミ:・・・うん。(頷く)


ジフンは笑顔で去っていった。

もう彼には会わない・・・。
もう、終わっちゃったね。・・・ありがとう、ジフン!







ヒ:どこ、行ってたの?
ミ:なんで? 探した?
ヒ:うん・・・。一緒に購買会に行ってほしかったから。
ミ:なあに? 買ってきてあげるわよ。
ヒ:自分で歩いていきたいからさ。ちょっとここから、遠いから。
ミ:わかった。一緒に行ってあげる。(まるで思い出したように)あ、それから、今、ジフンに会ったらね。


ミンスは、小さなバッグをロッカーから出している。そして、用事をしながら、ヒョンジュンにジフンの話をした。


ミ:今、とっても忙しいんだって。だから、お礼なんていいって。医者としてやったことだからって。
ヒ:そうか・・・。小児科のボランティアはどうするの?

ミ:う~ん、あれも今は引き受けられないでしょ? あなたみたいな大きな子供がいると。
ヒ:・・・そうか。


ミンスはジフンに別れを言ってきたのだろうか?


ヒ:オレの離婚話をしたの?

ミ:ああ・・・。(顔をヒョンジュンに向けた)忘れてた。言うべきだったかな。忘れちゃったわ。


ミンスは、ジフンと別れてきたんだ・・・。



ミ:もう行ける?
ヒ:うん。

二人は連れ立って病室を出ようとした。


ミ:何がほしいの?
ヒ:いろいろ。
ミ:いろいろ何よ?

ヒ:いろいろ。お菓子とか・・・。

そういって、ヒョンジュンがちょっと甘えた目でミンスを見た。
ドアの内側で、ミンスのすぐ隣に立ったヒョンジュンが、じっとミンスを見下ろしている。
ミンスがスッと手を伸ばして、ヒョンジュンの頬を撫でた。そして、ゆっくりと微笑んだ。


ミ:あなたがいれば、私は幸せ・・・。
ヒ:・・・。


ヒョンジュンは胸がいっぱいになった。








ソウルから少し離れたある有名病院の分院の一室で、ソルミとシンジャが退院の準備をしている。

シ:お嬢様はお座りになっていてください。まだ、左手が不自由なんですから。
ソ:・・・ごめんね。全部やってもらって。
シ:いいんですよ。


ソルミがギブスをした左手をかばいながら、ベッドに腰掛けた。


ソ:ここともこれでお別れ。こんな去り方をするとは思ってもいなかったけど・・・でも、シンジャ。私、なんかほしいものを手に入れた気がするわ。
シ:お嬢様。


シンジャはパッキングする手を休めて、お腹を撫でるソルミを見た。



ソ:ここに赤ちゃんがいるでしょう。今まで空っぽだった心が、なんか、とっても満たされているのがわかるの。
シ:・・・。
ソ:これで、私もお母さん。これからは、ちゃんとやっていくつもりよ。子供を愛して・・・夫も愛せるといいけど・・・。
シ:お嬢様は、あの方を愛してらしたんですか?


先日、やくざのスンジョンがここで大暴れしたのを思い出した。ソルミは投げられたイスが腕に当たって、腕にひびが入った・・・。


ソ:シンジャ。私、この子のことを思うと・・・ヒョンジュンの顔が浮かぶのよ。
シ:・・・。
ソ:なぜか、ヒョンジュンが浮かんじゃうの・・・。それで、幸せな気分になれる・・・。ホントは、ヒョンジュンの子じゃないのに・・・。(ちょっと残念な顔をする)でも・・・私にはあの人の子なの。そう思っていてもいいわよね?
シ:お嬢様。

ソ:この子を授かって、やっと彼を手放せた・・・。そして、私はやっと幸せになれたわ。もう、彼にやきもちを妬いたり心を痛めたりしなくていいの・・・。私のここに愛が宿っているから。だから、この子は産みたいの。だから、お父様の提案も呑んだの。それに、今度結婚する人は優しそうだし。シンジャ。一緒にパリまで来てくれるわね?
シ:はい。

ソ:うん。これで、安心。今度こそ、幸せになるわ。この子と・・・。シンジャ、大丈夫よ・・・この子は、スンジョンの子じゃないの・・・東京で出会った人の子・・・。でも、彼じゃないから、安心して。
シ:お嬢様・・・。
ソ:そして、私にとっては・・・愛しいヒョンジュンの忘れ形見よ・・・。
シ:・・・。(胸が痛い)


シンジャは、ソルミを見て、この運命に胸を痛くしたが、今、ソルミの顔には安らぎが見い出せる。
無条件に愛せるものを初めて手にしたソルミには、平安が訪れたように思う。シンジャは今のソルミがいじらしくて、抱きしめてあげたいと思わずにはいられなかった。








ヒョンジュンが退院して、またあの部屋へ戻った。そして、ミンスも姉のところから荷物を移し、二人は初めて一緒に暮らし始めた。

まだ、ヒョンジュンの体は全快とはいえなかったが、それでも二人の暮らしは、ミンスにもヒョンジュンにも幸福を運んできた。


ヒョンジュンがミンスを胸に抱くように、二人はソファに寝そべりながら、本を読んでいる。


ミ:こんな体勢で大丈夫? あなたのお腹に私が少し乗っちゃうでしょ?
ヒ:いいよ・・・。
ミ:でも、やっぱり傷口が開いたら、大変だもん。


ミンスが起き上がった。


ヒ:大丈夫だよ。(笑う)それよりさ。(本を読んでいる)おまえ、大切な話、してないだろう?
ミ:何かあったっけ?

ヒ:チェスクさんから聞いたよ。
ミ:・・・。

ヒ:留学の話、どうしたの?
ミ:・・・だって、もうヒョンジュンとこうして一緒にいるんだし・・・。いいのよ。

ヒ:でも、それとこれとは違うだろ?
ミ:でも、今はヒョンジュンが大切。
ヒ:ミンス。これからは、お互いなんでも話し合っていこう。二人で暮らしていくんだからさ。
ミ:うん・・・。

ヒ:オレも一から出直しだし。また、画家に戻れるかな。
ミ:大丈夫よ。ヒョンジュンなら・・・。
ヒ:・・・ありがとう・・・。頑張ってみるよ。
ミ:うん。

ヒ:ミンスも頑張ってみたら? ニューヨークで。
ミ:あれは・・・一人になりたかったこともあったし・・・。
ヒ:オレと、二人で行くかい?
ミ:・・・。
ヒ:・・・どうする?

ミ:いいの?
ヒ:うん・・・。絵を描くのはどこででもできるし。今は、芸術の発信地だよ、ニューヨークは。(笑う)ソーホーにも行ってみたかったんだ。バリとパリは、オレたちの合言葉だったけど・・・二人でニューヨークもいいじゃない?
ミ:・・・ヒョンジュン、ホントにいいの?


ミンスはヒョンジュンの言葉にうれしくて、ヒョンジュンの胸に顔を埋める。


ヒ:ミンス・・・ちょっと痛いよ。
ミ:バカ・・・。


見上げたミンスの目には涙が光った。








あれから、3年の月日が経った。

ミンスとともに、渡米したヒョンジュンだったが、韓国でのデザイナー歴も評価されて、彼は画家でありながら、時々、デザイン・バイ・ヒョンジュンという形で、いろいろなブランドに作品を提供している。
ミンスも学校を卒業し、テーブルコーディネーターとして、アメリカでもなんとか細々と仕事を始めた。



久しぶりに、チェスクの依頼で、ヒョンジュンの個展のために、二人は韓国へ帰国した。

折しも大雪の日で、空のダイヤは大幅に狂い、やっと着いた空港でも、荷物がなかなかバッゲージカウンターに出てこない。



ミ:どこに出てくるのかしらね?
ヒ:これだけ混雑しちゃうとわからないねえ・・・。あそこのカウンターがそうお? NY5便ってオレたちだろ?
ミ:あ、ホントだ。


二人は遠くの電光掲示板を見た。


ヒ:取ってくるよ。おまえはここにいていいよ。
ミ:いいの?
ヒ:ヘスの土産を割ったら、怒られるだろう?
ミ:ホント。(笑う)


ミンスは、姉に頼まれた陶器の置物を大事そうに抱えている。ヒョンジュンがカートを押して少し離れたカウンターまで荷物を取りにいった。

ミンスがそんなヒョンジュンの後ろ姿を見ていると、後ろから声がかかった。



男:ミンス! ミンス! おいで。


ミンスはその声のほうへ振り返った。


背の高い男が、2歳ぐらいになる女の子を呼んでいる。
女の子はミッキーマウスの耳のついたカチューシャをしていた。ディズニーランドの帰りだろうか。
男は、はしゃいで動き回っている娘を取り押さえ、軽々と抱き上げた。

ジフンだった・・・。

ジフンは優しい目で、娘を見て肩車をした。


彼は父親になっていた。
ミンスは懐かしさに胸が震えた。思っていた通り、優しい父親になっている。

彼の視線の先を見ると、清楚で爽やかな感じの女が歩いてきた。彼女は、荷物のカウンターを探していたらしい。
女は肩車された娘の足を触って笑った。

ジフンは温かな家庭を築いている。

私でもなく、CAをしていた大学時代の友人でもなく、彼にピッタリの爽やかな感じのやさしそうな相手だ。



ヒ:ミンス!

ミンスが振り返った。
ヒョンジュンがカートを押しながら戻ってきた。

ミ:ご苦労様!
ヒ:ずいぶん離れたカウンターだったよ。どうしたの? 目がちょっと赤いよ。
ミ:え? 目にごみが入ったから。
ヒ:見てやろうか?(近くで目を覗き込む)
ミ:大丈夫よ。
ヒ:そう? じゃあ、行くか?
ミ:うん。


カートを押すヒョンジュンと並んで、ミンスは出口のほうへ歩き出した。





ジフンは、さっきのヒョンジュンの声で振り返った。そこには、あのミンスがいた。

あれから、3年。
ミンスは相変わらず、凛とした佇まいで立っていた。懐かしい姿がそこにあった。
そして、幸せそうに、夫であるヒョンジュンと一緒に笑いながら、見つめ合っていた。


妻:どうしたの?
ジ:うん? 別に。知り合いかなと思ったけど、違った。
妻:あそこのカウンターみたいよ。
ジ:そう。じゃあ、行ってみるか。


そういって、ジフンは妻の顔を見た。

妻:なあに?
ジ:うん。なんでもない。(笑う)行こうか。ミンスもいい子にするんだよ。混んでいるんだから、ふざけちゃ駄目だよ。
ミ:パパ~。
ジ:また、抱っこか。


ジフンは小さな娘を抱き上げて笑った。








人は、心の中に「恋がいた部屋」を持っている。
そこの住人になるのは・・・それは、持ち主が恋してやまない「あの人」だ。

ミンスの部屋にはヒョンジュンが住み着き、ヒョンジュンの部屋にはミンスが住み着いた。

お互いがそこの住人となり、家主である相手とともに人生をともにする。
それができれば、この「恋がいた部屋」はもっと大きな「愛の部屋」となって、その人の生きる原動力ともなっていくだろう。


時にその部屋の存在を忘れてしまっても、人はある時思い出す・・・。
自分の心の中に存在したあの部屋を・・・。

恋に身を震わせた思い出を・・・そして、「あの人」の存在を・・・。



ミンスは今もヒョンジュンとこの部屋をシェアしている。
そして、ジフンもまた、自分の部屋に美しい妻を招き入れて温かい家庭を築いている。

ソルミはどうしただろう・・・。

彼女の心を癒し、生きる力を与えてくれた小さな命が、今はその部屋の大いなる住人なのかもしれない・・・。









入国ロビーを出た瞬間、「笑顔で高く飛び上がっている若い女」の広告が壁一面にあり、否が応でも目に入ってきた。

「H(アッシュ)・joon」の広告だ。


初代デザイナーに画家のヒョンジュンを迎えて誕生した「H・joon」
その斬新で繊細なフォルムがあなたの生活を彩る・・・


H・joon  
You’re beautiful!



ミンスはその広告の前に佇んだ。
そして、笑顔でヒョンジュンのほうへ振り返った。


ヒョンジュンには、ミンスがポンと、その広告から抜け出てきたように見えた。

そして、もう二人には過去になったH・joonより、今はもっと新たな大きな夢があるよと、ミンスの笑顔が語っているようにも見える。


ヒ:行こう。


ヒョンジュンが手招きして、ミンスの肩を抱き寄せた。

二人は笑顔で、久しぶりのソウルへの第一歩を歩み出した。










THE END








長い間、「恋がいた部屋」をありがとうございました。






2009/09/13 01:25
テーマ:【創】恋がいた部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋がいた部屋」13部




BGMはこちらで^^




BYJシアターです。

もう日曜日。1週間が早いです・・・。

本日は「恋がいた部屋」13部です。

涙腺の弱い方は、ティッシュを用意して・・・。



ここより本編。
どうぞお楽しみください。




~~~~~~~


どうか

あの人の命を
救ってください


どうか

あの人の
苦しみを
取り除いて
ください


どうか

あの人を

私に
返して
ください





  



「ジフン! ジフン!」
「どうしたの? 慌てて」

小児科病棟でジフンにやっと出会えたミンスは、泣きそうになった。




主演:ペ・ヨンジュン
    チョン・ジヒョン
    チョ・インソン

「恋がいた部屋」13部

  



ジ:どうしたの? (驚く)
ミ:ああ・・・ジフン、どうしよう。(今にも泣き出しそうな目)

ジフンの目にもミンスの精神状態が普通ではないことは明白だ。


ジ:落ち着いて。(両肩に手を置く)落ち着いて話してごらん。
ミ:今、一階でエレベーターを待ってたら、救急車で、ヒョンジュンが運ばれてきたの。ストレッチャーの上のシーツが真っ赤に血で染まっていて・・・。
ジ:落ち着いて。(じっと見つめる)
ミ:ああ、どうしよう・・・。あの人、あの人、大丈夫かしら? ねえ、ジフン、わかる? 調べられる? 彼が行った先。(懇願するように見つめる)


ジフンの瞳が翳り、悲しい色になった。
ミンスが今、全身を震わせて安否を心配しているのは、彼女の元彼のヒョンジュンだ。結局、彼女の心は、ヒョンジュンの元に置かれたままだった。今の彼女は、その思いも隠さず、ジフンに助けを求めてきているのだ。

ジフンはじっとミンスの顔を見つめてから、おもむろに、そして寂しそうに微笑んだ。

ジ:大丈夫だよ、オレが探してやるよ。


ジフンはナースステーションの中に入り、電話をかけた。

ミンスにもわかっていた。
彼が今の瞬間、自分の心を読み取ったことを。私の愛の在り処を。
もう、ジフンに別れの言葉も言う必要はない・・・。
今、「親友である」私のために、問い合わせの電話をかけている・・・。


ジ:ミンス、今、H(アッシュ)さんは、3階の外科のオペ室に入っているそうだよ。
ミ:何が起きたの?
ジ:背中を刺されたらしい・・・。

ミ:・・・どうして? 普通、人が刺されるなんて、滅多にないことでしょう?
ジ:まだ理由はよくわからないけど・・・奥さんが事情聴取されてるらしい。
ミ:・・・ソルミさんが刺したの・・・? (愕然とする)
ジ:わからない・・・。
ミ:何てことなの。

ジ:まだまだ時間がかかるよ。どうする? 待つだろ? 
ミ:・・・。
ジ:少し、下の喫茶でお茶でも飲むか?
ミ:・・・ううん・・・。今日は、読み聞かせの日だもん・・・。子供学級へ行くわ。あっちで、子供たちと勉強して待つ・・・。
ジ:・・・大丈夫? 無理はしなくていいんだよ。

ミ:いいの。ありがとう。ここにいたほうが、気が休まるの。
ジ:そう?
ミ:うん。



ミンスは、ジフンと一緒に子供学級へ行き、約束の読み聞かせをした。


ミンスの周りに子供たちが集まり、ミンスの読むお話を聞いている。
ジフンもいつものように、後方にイスを持っていき、座って一緒に読み聞かせを聞いている。
ミンスの読み聞かせはいつもとても劇的なので、ジフンは、いつもそれを聞いて大笑いをした。そして、いつも幸せそうにミンスを見つめた・・・。しかし、今日のジフンは、途中で涙が滲んできて、席を立った。


ミンスもそれに気がついた・・・。彼女も途中胸がいっぱいになったが、笑顔で最後まで読み通した。


読み聞かせの後、子供たちの勉強を見てやっていると、ジフンが教室の入り口まで来て、ミンスを見つめている。

それに気がついたミンスは、皆に「今日はここまでね」と言って、ジフンのほうへ向かった。

ジフンは、ミンスに笑顔を向けた。


ジ:よかったな。手術は成功したよ。
ミ:・・・。(一瞬泣きそうになる)
ジ:なんとか命は繋がったよ。刺されたところも臓器を避けていたそうだから、まあ、よかった。
ミ:そう。
ジ:うん・・・。
ミ:いろいろ、ありがとう。(俯く)
ジ:・・・うん。

ジ:それから・・・刺したのは、奥さんじゃないそうだ。
ミ:そう。(ホッとする)
ジ:事情はよくわからないけど・・・奥さんの男らしい。刺したの。
ミ:・・・男って・・・。(驚く)
ジ:うん・・・なんか、一緒に暮らしてたらしいよ。
ミ:・・・。
ジ:・・・どうなってるんだろうね。
ミ:・・・。

ジ:大丈夫か?
ミ:・・・ごめんね。心配かけて。

ジ:いいんだよ・・・。・・・。友達じゃないか。
ミ:・・・。・・・。
ジ:・・・。

ミ:ごめんなさい。(涙が出る)

ジ:夜にでもまた来るか?
ミ:夜?
ジ:うん。奥さんやあっちの家族に会いたくないだろ?
ミ:・・・。

ジ:連れてってやるよ。Hさんのいる所。
ミ:・・・うん。
ジ:いずれにせよ、今日は献血していけよ。
ミ:・・・。(ジフンを見上げる)
ジ:今日、明日がヤマなのは確かだから。Hさん、O型だろ? オレもするけど、君もしたほうがいい。もしもの時のために。
ミ:・・・。

ミンスは驚いて言葉が出なかった。ただ、ジフンの言う言葉に頷くしかなかった。
命は繋がったが、今日、明日が山場なのだ・・・決して楽観的には考えてはいけない・・・。





手術室の横の処置室で、ジフンとミンスは献血をした。

この血がもしもの時は、ヒョンジュンの中へ流れ込む。ジフンとミンスの血が・・・。






夜になって、またミンスは大学病院を訪ねた。ジフンの計らいで、集中治療室にいるヒョンジュンに会いに行くことができた。

体にチューブをつけて寝ているヒョンジュン。朝剃ったであろう髭も伸びて彼は静かに眠っている。頬も心なしかこけて見える。

今朝はきっといつものように、元気に出かけていったに違いない。人は傷ついた瞬間から、その人が持っていた生気はみごとに奪われてしまう。


ミンスはベッドのヒョンジュンの姿を見て、涙がはらはらと流れた。
胸に走った痛みが全身へ広がっていく。泣き声を押し殺しても、体の震えは収まらなかった。ミンスは、真っ赤に泣きはらした目で呆然とヒョンジュンを見つめた。

ジフンがそんなミンスの肩をぎゅっと抱いた。


辛い思いをして別れた末がこれなのか。

今のヒョンジュンは声をかけることもできない・・・。
彼はひっそりとしているが、死と戦っている。


機械音が支配する部屋の中で、ミンスがむせび泣く声と、鼻をすすり上げる音が悲しげに響く。


ジ:手を握ってあげたら?
ミ:・・・いいの?
ジ:ああ。ここに座って。

ジフンはミンスをイスに座らせ、ミンスにヒョンジュンの手を握らせた。ミンスは手を握りしめ、彼の顔を見つめた。

ヒョンジュンの手は温かかった。

どうか、彼が、このまま、温かいままでありますように。
彼を助けてください。



ミ:ありがとう。
ジ:もういいの?
ミ:ええ・・・。


二人は集中治療室から出てきた。

暗い夜の廊下で、ジフンがミンスをじっと見つめた。


ジ:・・・ちょっと聞いたんだけどね、相手はやくざみたいだって。
ミ:・・・。
ジ:その男の所から、奥さんを連れ出そうとしたらしいよ。
ミ:なんでそんな人と・・・。

ジ:そこはよくわからないけど。なんか・・・離婚話があったみたい。やけになって、そんな男の所へ行っちゃったのかな・・・。わかんないけど。
ミ:そんな・・・。
ジ:結構、危ない所に住んでいたらしいよ・・・それで、Hさんがそこから連れ出そうとしたら、後ろから刺されたみたい。

ミ:・・・その男は捕まったの?
ジ:いや、逃げてるんだ。
ミ:・・・逃がしたのかしら・・・?
ジ:わからないな。
ミ:でも、あの人、救急車を呼んでくれたのよね・・・。

ジ:・・・。恨まない? 彼女を。
ミ:・・・。わからない・・・。でも。でも、命を救ってくれたことだけは・・・感謝するわ。

ジ:・・・。
ミ:・・・。

ジフンがミンスを抱き締めた。ミンスの頭を胸に抱くように、しっかりと抱いた。

ジ:・・・。
ミ:・・・。

ジ:・・・。きっと・・・(少し涙声になる)きっと、助かるよ。
ミ:・・・。うん・・・。

ミンスには背の高いジフンの顔は見えなかったが、彼が泣いているのはわかった。
ジフンと自分はまた、親友に戻った・・・戻ったのだろうか・・・。
いや、全てが終わったのかも知れない・・・。


ジ:またおいで。また、明日。担当の先輩に頼んでおくよ。
ミ:・・・ありがとう。
ジ:元気出せよ。
ミ:うん・・・。


ジフンは、病院を出ていくミンスの後ろ姿をやるせない目をして見送った。

「恋の終わり・・・」
ジフンがそっと呟いた。







翌朝早くに、会長が秘書やSPを引き連れて、ヒョンジュンの見舞いにやって来た。
ヒョンジュンは集中治療室の中でひっそりと眠っていた。今日の未明に患部から出血があり、緊急に輸血をしていた。

会長はじっと娘婿を見つめて、硬い面持ちで病室を後にした。


会:で、正直、どうなんでしょうか?
医:まあなんとか落ち着いてきました。今朝は少し危なかったのですが、出血が落ち着いてよかったです。背中と言ってもわき腹に近い所を刺されたので、幸いなことに臓器に損傷はありませんでした。ただ、運ばれてきた時にかなり出血があったので・・・とにかく、あとは、本人の回復する力を信じて待つしかないですね・・・。

会:そうですか。できる限りのことはしてやってください。よろしくお願いします。(頭を下げる)

医:わかりました。それで、こちらは完全看護ではありますが、大切な息子さんです。付き添いをつけますか?
会:(考える)そうですね・・・。しかし、今彼に付き添えるものが思い当たらないんです。
医:なんでしたら、こちらで、スタッフをご用意しますが。こちらの大学病院と契約している所が何軒かあるので、聞いてみましょうか?

会:先生。状況が状況なだけに、口の堅い確かな所でお願いしたいのだが・・・。
医:わかっています。
会:よろしくお願いします。

医:ところで、奥さんのほうはどうしましたか?
会:・・・知り合いのいるT病院の静養所にお世話になることにしました。・・・あちらには、精神科があるので・・・。
医:・・・そうですか。

会:では、よろしくお願いします。
医:わかりました。付き添いのほうは任せてください。決まり次第、またご連絡致します。
会:ありがとうございます。(頭を下げる)何かありましたら、逐次、秘書のほうへご連絡下さい。


会長は、秘書とSPとともに帰っていった。






ミンスは、画廊を訪ね、事の顛末をチェスクに話した。

ミ:すみません。私から頼んでおいて。留学をお断りするなんて。
チ:仕方ないわね・・・。とりあえず、3ヶ月の猶予をあげるわ。
ミ:でも・・・。
チ:治ってからどうなるかわからないじゃない。留学の道はキープしておきなさい。
ミ:・・・。
チ:先のことはあなたの気持ちだけでは決められないでしょ?
ミ:すみません・・・。
チ:それに・・・私にも、ちょっと責任があるのよ。(ミンスを見つめる)
ミ:・・・。

チ:彼がね、あなたのことを知りたくて電話をしてきた時に・・・ソルミさんがソウルで男と同棲してるって教えちゃったの。それも、危ない男とね。
ミ:・・・。(胸が痛い)
チ:それで、出かけていったのね・・・。ソルミさんを助けようとして・・・。
ミ:・・・。(泣きたい)





ミンスは姉のヘスにも、ヒョンジュンのことを報告した。

ヘ:なんですって?
ミ:・・・。
ヘ:何なの、あの女・・・。

ミ:それで、お姉ちゃん。私、ヒョンジュンの看護をしたいの。
ヘ:・・・。留学はどうするの? やめるの?
ミ:うん。お姉ちゃんから見たら、未練がましいのかもしれないけど、そうしてあげたいの。
ヘ:・・・。未練ね・・・。

ミ:うん。留学はまたの機会があるけど。ヒョンジュンは今傷ついてるのよ。
ヘ:・・・それも、ジフンさんに頼んだのね?
ミ:ええ。

へ:そっか・・・。ミンス・・・。実は、あなたに黙ってたけど、ヒョンジュンがあなたを探して、電話をかけてきたの。

ミ:いつ?
へ:少し前。あなたに会いたいって。会って話がしたいって。
ミ:それで?
ヘ:私、あなたのいる所は教えられないって言っちゃったのよ。
ミ:・・・。
ヘ:ごめんね。あの時は、あなたにとって大切な時期だと思ったから。
ミ:そう。(やるせない)
へ:彼が、今、家を出て、あのマンションに戻ってるって。そう、ミンスに伝えてほしいって。その時、そう言ったのよ。

ミ:そう言ったの!?(驚く)
ヘ:うん。
ミ:そう・・・。


ミンスは胸がいっぱいになった。
ヒョンジュンがソルミを連れ戻そうとしたのは、ケジメのためだった。ケジメのために彼女に会って、危険なところから連れ出そうとしたのだ・・・。


ミ:そう。話してくれてありがとう。私、決めたわ。やっぱり、迷わず彼のところへ行くわ。
ヘ:ミンス。
ミ:彼の気持ちがわかったから・・・。あの人は、ソルミさんを見殺しにはできなかったのよ。
ヘ:・・・。

ミ:(涙があふれる)やっぱり、お姉ちゃん。私には、ヒョンジュンが、ヒョンジュンがいなくちゃ駄目なの。ヒョンジュンが生きていてくれなくちゃ。そんなに私を探してたなんて。(涙が止まらない)

ヘ:ミンス!

ミ:彼を助けてあげなくちゃ。このままじゃ、かわいそうすぎるわ。
ヘ:・・・。

ヘスは思わず、ミンスが不憫で抱き締めた。






ソルミの父親が自宅のソルミの部屋を覗いて、ソルミに話しかけた。


父:明日の準備はできたのか?
ソ:ええ。だいたい。

父:うん。今日、大学病院に行ってきたが、ヒョンジュンは、なんとか命を繋いだぞ。
ソ:そう・・・。(抜け殻のようになってベッドに座り込む)


父親が部屋の中へ入ってきた。


父:おまえ、あの男とは何処で知り合ったんだ?
ソ:日本で・・・。日本のバーで・・・。
父:・・・。あんなやくざと。
ソ:それで意気投合して・・・。彼と一緒にソウルへ帰ってきたの・・・。最初はやくざだなんて思わなかった・・・。

父:なんであんな男の所へ行ったんだ。
ソ:私たち、相性もよかったし、彼といると楽しかったの。それに・・・家には帰りたくなかったの。

父:ここは、おまえの家だよ。
ソ:でも、戻ったら、ヒョンジュンが私の返事を待っていたもの・・・。彼に別れようなんて言われたくなかった。別れたくなかったのよ! ヒョンジュンと、別れたくなかった・・・。彼を困らせたかったの・・・。でも・・・私がいけなかったのよね・・・。

父:あの男をどうした?
ソ:・・・。
父:なぜ、逃がした?

ソ:あの人も好きなのよ。ヒョンジュンは、私がいつも追いかける方で・・・でも、あの人は・・・。
父:・・・。

ソ:あの人は、私が全てだったから。私しか見えないって言ったから。
父:そんな言葉を信じて・・・。おまえをおもちゃにした男だぞ。

ソ:お願い! お父様、彼を見逃して。
父:・・・無理だ。
ソ:・・・。

父:おまえがこんなことになって・・・おまえがよくても、私は許さない。
ソ:お父様!

父:ヒョンジュンには大きな借りを作った・・・。あれをもう自由にしてやりなさい。
ソ:・・・。

父:これは、命令だ。
ソ:その代わり・・・彼を逃がして下さる?

父:それは別の話だ。ソルミ、これは生涯おまえに、いや、末代まで祟ってくるぞ。まともに生きたくても生きられないようになる・・・。不運の目は早めに摘まないと。
ソ:お父様!
父:こっちが捕まえなくても、警察が捕まえるだろう。どっちが先か・・・。
ソ:そんな・・・。お願い!

父:居場所を知っているのか?
ソ:いいえ。でも・・・。

父:おまえがあの男と心中したいのなら、それも仕方がない・・・。その時は。
ソ:その時は、この家を出ていけということ?
父:その時は、キチンと縁を切ってな。

ソ:つまり、財産は残さないということ?

父:おまえがあの男と二人でやっていくというなら、それもよかろう・・・。ただし、家族を巻き込むな。
ソ:・・・。

父:自分で生きるすべも持たないくせに・・・。
ソ:ひどい!

父:私の言うことを聞きなさい。もう十分好きなように生きてきたはずだ。あの男は今までおまえが付き合ってきた男とは違う。あいつにはプライドも何もない。わかるか?
ソ:・・・。
父:・・・。

ソ:私を捨てるの? あっちの家の子に家を継がせるつもり・・・?
父:それも考えなくてはならんだろう。おまえが今のままでは・・・。それに、あの男がうちに付きまとってきたら、おまえを切るしかない。あんな男を甘やかしたら、財産を食い尽くして終わるだけだ。
ソ:そんな・・・。

父:自分で結論を出しなさい。・・・ただし、ヒョンジュンは駄目だ。

ソ:お父様!

父:これ以上、あいつを不幸にするな・・・。もう十分だろう。おまえがこうなった原因はあいつかも知れないが、それなりに悩んだ。我が家には、あれなりに尽くしてくれただろう。ソルミ、おまえも自分で出直すことを考えるんだ。
ソ:・・・。

父:あのやくざは許さん! もうわがままは許さん。

ソ:お父様!

父:もっと、まっとうに生きる。それを考えなさい。


父親は、そういい残して席を立った。
ソルミは悔しさに、涙で目が潤んだ。



クローゼットの中から、コートを掴み、着ようとする。

しかし、彼女の手にはもうクレジットカードも現金もない・・・。
クレジットカードは全て、もう停止されてしまった。
男に散々貢いだあげく、彼女は全てを没収された。


何も持たない私・・・。
何も持ってなかった私。
いったい私に、何が残るの・・・。





リビングに下りてきた会長を見て、シンジャが心配そうな目をした。


父:明日から、ソルミを静養に出す。あなたも行ってくれるね?
シ:はい。
父:あなたは、あれの母親のようなものだ・・・。落ち着くまで一緒にいてやってください。自分を探し出せるまで。
シ:はい。旦那様。(目に涙が滲む)
父:今日はもういい。あとは、警備がソルミを見張るから。
シ:はい・・・。旦那様! お嬢様はまたここに戻ってこられるのでしょうか? 追い出されるのではありませんよね?

父:シンジャ。それは、あの子の心がけ次第だよ。


会長はそう言って、苦しそうな表情で仕事に出かけていった。








午後7時を回って、ヒョンジュンが眠りから目を覚ますと、昼と夜の付き添いが引き継ぎをしている声が聞こえてきた。



「今日お昼過ぎに、意識が回復したんですよ」
「そうでしたか。それはよかった。夕飯は自分で食べられたんですか?」
「ええ、重湯を少し。経過も良好だそうだから、明日から少しずつ固形物もいただけるみたい。明日あたりから体も拭けるかしら」
「そうですか・・・わかりました」
「カテーテルは今しばらく使うそうです」
「わかりました」
「経過を見て、明後日あたりから車イスを使おうかなんていう話まで出てましたよ、今日は」
「それはすごいですね・・・。わかりました。お疲れ様でした」




今日の昼、ヒョンジュンが目を覚ますと、そこは病院だった。
2日間、ヒョンジュンは眠り続けた。



ソルミを乗せて、車に乗り込もうとしたところに、背中に鈍い痛みが走って、自分の意思とは逆に後ろへ倒れた。それから、動けなくなった。

ソルミが飛んできて顔を覗き込み、「誰か助けて!」と叫んだのは覚えている。
寒気が襲ってきて、体の震えが止まらなかった。

そこへ男がやって来てオレを見下ろした。 ソルミが男を押しやって、少しもみ合った。そして、彼女がバッグを手渡して、男を逃がした。

それから、ソルミがオレの横にすがって、「ヒョンジュン!ヒョンジュン!」と泣き叫んだ。
意識が朦朧とする中、オレは「内ポケットに携帯がある・・・」と言って、力尽きた。


医者の話では、その後、救急車でここへ運ばれてきたわけだ。

  



付き添いはどうも昼夜に分かれているらしい。
夜の付き添いがカーテンの横で、何かしている。消毒だろうか・・・。


割烹着を着た手が見えて、カーテンを開ける。付き添いが入ってきた。

振り返ったその顔は、とても見覚えがあった・・・。

それは懐かしい顔だった。・・・愛しい顔だった。



ヒ:ミンス。
ミ:・・・起きてたの?
ヒ:・・・。
ミ:よかったわ。あなたに意識が戻って。
ヒ:なぜ、君がここにいるんだ。

ミ:うん? 夜の付き添いのバイトをしてるの・・・。
ヒ:・・・。

ミ:あなたが運ばれてくるのを見たのよ。


ミンスがイスをヒョンジュンの顔の近くへ持っていき、座る。


ミ:もう私が来たから、大丈夫。
ヒ:・・・。(涙が流れる)
ミ:あなたの世話は得意中の得意だから。(微笑む)
ヒ:でも・・・。

ミ:実はね。ここはジフンが勤めている大学病院なの。それで、ストレッチャーに乗ったあなたを見かけたの。それで・・・ジフンにあなたの居所を探してもらったの。
ヒ:・・・彼に?
ミ:うん。あなたの主治医の先生は彼の先輩なの。それで頼んでもらって、夜の付き添いとして、雇ってもらったの。

ヒ:・・・そんなことして、よかったの?
ミ:だって、あなたが一番大切だから。
ヒ:・・・。
ミ:心配しないで。大丈夫だから。
ヒ:・・・。

ミ:ソルミさんは、どこか他へ静養に出るらしいわ・・・。
ヒ:そうか・・・。

ミ:何があったか、よくわからないけど、今は治ることが一番ね。臓器は傷ついてないって。ほんの数ミリ、ズレてたら、腎臓を一つ取らなくちゃいけなかったって。
ヒ:そうか。

ミ:ソルミさんのお父様が、あなたにできることは全てやってあげてほしいって言ってらしたって。だから、安心して。

ヒ:・・・あいつは捕まったの?
ミ:まだ、わからない・・・。


ソルミが男にバッグを渡していた・・・。
誰があいつを捕まえるのだろう・・・。


ミ:ゆっくり寝るといいわ。
ヒ:おまえがいるのに?

ミ:ずっといるから。大丈夫だから。安心して寝てちょうだい。
ヒ:・・・。もう消えないで。
ミ:・・・。
ヒ:約束して。
ミ:・・・。ヒョンジュン、これは仕事だもん。いるわよ。(笑う)


ヒ:じゃあ、手を握って。一晩中握って。
ミ:ふふん。(笑う)いいわよ。私のかわいい・・・。


そういって、ふざけようとしたが、ミンスは涙が出て言葉に詰まった。
そして、手をしっかり握った。


彼が治った後の事はわからない・・・。
彼は私の元へ戻ってくるのか。
それとも、ソルミさんのところへいってしまうのか。
どんな結論が待っているのか・・・。

でも、少なくとも、事件の前、ヒョンジュンは家を出て、私を探していた。


そのあなたの気持ちがわかるの。
私だって・・・本当は、あなたの近くにいたかったから・・・。


ミ:寝て。
ヒ:うん。


ミンスが立ち上がって、片手でヒョンジュンの頬を撫でた。

ヒョンジュンもミンスの頬を撫でた。


ミ:背中が痛くなったら、教えてね。今は薬で痛みはないと思うけど・・・。薬が切れると、途端にすごく痛いみたいだから・・・。
ヒ:うん・・・。

ミンスはまた座った。


そして、ヒョンジュンの手をやさしく握って、彼が眠りにつくのを見届けた。







14部へ続く





次回は最終回です。



2009/09/12 01:11
テーマ:【創】恋がいた部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋がいた部屋」12部




BGMはこちらで^^




BYJシアターです。

本日は12部です。


ここより本編。
ではお楽しみください。


~~~~~




今、
どこにいるの?

どうしているの?


本当に
僕の前から
消えてしまうの?

どこ?

どこにいるの?



会って、
君と話したい



会って、
君を


抱きしめたい











「もしもし?」
「はい。どちら様ですか?」
「ヒョンジュンです」
「・・・」


ヘスは、電話の声に固まった。




主演:ペ・ヨンジュン
   チョン・ジヒョン
   キム・ヘス

【恋がいた部屋】12部



へ:何の用?
ヒ:君に聞きたいことがあるんだ・・・。
へ:・・・。

ヒ:今、ミンスがどこにいるか、知らない?
へ:なんで? なんでそんなことが知りたいの?
ヒ:いや、そのう、ミンスと会って話がしたいんだ。
へ:悪いけど、私には教えられないわ。

ヒ:・・・どうして?
へ:あなたのことで、ミンスは精神的にものすごく追い込まれたのよ。わかる? あなたは結婚して安泰かもしれないけど、ミンスは一人であなたをなくした悲しみに耐えなくてはならなかったの・・・。あなたを失ったのだって、あの子のせいじゃないでしょ? もう、そっとしておいてあげて。

ヒ:お願いだ。ヘス。
へ:・・・。
ヒ:教えてくれ。
へ:・・・。本当は、私もよく知らないの・・・。
ヒ:うそだ。パリで君へのお土産を買ったはずだよ。

へ:なんで、そんなこと、知ってるの?
ヒ:・・・。
へ:パリであの子に会ったの?
ヒ:偶然だけど。
へ:そうだったの・・・。あの子、何にも言ってなかったから。でも、もうあなたに会いたくないと思うわ。一人になりたいって言ってたから。
ヒ:・・・。

へ:その気持ち、わかってあげて。
ヒ:会いたいんだ。オレも家を出たからって。
へ:・・・ごめんなさい。


部屋のドアが開く音がする。


へ:ごめんなさい。主人だわ。電話、切るわね。
ヒ:ね! 元のマンションに戻ったって。そう伝えて!
へ:・・・。じゃあ。
ヒ:ヘス!



ミ:どうしたの?
へ:うん? ちょっとねえ。
ミ:お風呂、先に入ったわよ。
へ:そう。ビールでも飲もうか?
ミ:うん。
へ:今日は、彼も帰らないし、二人で飲もう。
ミ:全く、お姉ちゃんたら、不良主婦なんだから。(笑う)
へ:ふん。(笑う)いいでしょ?


ヘスが冷凍庫を開けてみる。


へ:ピザでも食べようか。
ミ:太るわよ。
へ:太っても食べるわ。
ミ:なんだかね。
へ:食べないの?
ミ:食べるわよ!(笑う)




ミンスは、本当に姿を消してしまった。

どこへ行ってしまったのか。
もっと早く探すべきだった・・・もっと早くに・・・。ミンスが決意する前に・・・。






翌日、ヒョンジュンはオフィスに出たが、もうする仕事もなくて、ぼんやりとしている。

ミンスが自分の部屋に住んでいたことも知らないで、ミンスを責めたりして・・・
あいつの心をズタズタにした・・・。



デ1:先生。次の新作のパターンなんですが。
ヒ:うん? うん・・・それは、チーフと話し合って決めてくれる? もう僕が見ても仕方ないから。
デ1:先生・・・。せっかく才能があるのに・・・。辞められるなんて勿体ないです。
ヒ:でも、仕方ないんだ。僕の場合は・・・もうわかっていると思うけど、仕事と結婚がセットだから。


ヒョンジュンが寂しそうに笑う。


デ1:残念です・・・。また、先生がアトリエを開いたら、呼んでください。
ヒ:・・・。ありがとう・・・。でも、僕のアトリエなんて・・・小さくて、君みたいな人は雇えないよ。
デ1:・・・。
ヒ:おかげでいい勉強ができたよ。
デ1:・・・。いつ、ここを去るんですか?
ヒ:いつかな・・・。(寂しそうに笑う)妻が戻ったら。かな? たぶん、もうすぐ。もうすぐ、日本から帰ると思うから。
デ1:そうですか・・・。



ヒョンジュンはオフィスの窓の景色を眺める。このソウルのどこかに、ミンスはいるはずなのに。
もう隠されて見つけようがない・・・。どこにいるんだ・・・。


チェスクさん・・・。

彼女の仕事をしていたな・・・。


ヒョンジュンは思いついて、チェスクに電話を入れる。


ヒ:ヒョンジュンです。ご無沙汰しております。あのう・・・。
チ:ちょうどよかったわ。私もあなたに連絡したかったの。この間、ちょっと噂を聞いてね。心配だったものだから・・・。
ヒ:ミンスのことですか?

チ:ミンス? いえ、違うわ。もう彼女とは別れたんでしょ?

ヒ:・・・。そのう・・・。
チ:それよりあなた。ソルミさん、どうしたの?
ヒ:ソルミ・・・ですか?
チ:ええ。
ヒ:彼女は今、日本へ・・・。
チ:日本で何してるの?
ヒ:・・・。

チ:何があったの?
ヒ:・・・彼女に離婚したいって申し出たんです・・・。

チ:・・・それで?
ヒ:それで・・・。家を出てしまいました。逃げたんです。でも、会長にはオレの気持ちを話して・・・黙って認めてくれました。あれだけの資産家ですからね。娘を大事にしない男には会長からも三行半ですよ。あとは、ソルミが帰ったら、離婚の話し合いをしたいと思っているんです。
チ:・・・。
ヒ:だから・・・もう、H・joonからも僕は撤退しました。
チ:そうだったの・・・。
ヒ:・・・。

チ:それがね。ソルミさん、ソウルにいるのよ・・・。
ヒ:え?
チ:それが心配で、あなたに電話しようか迷っていたの。会長もご心配だろうし・・・。
ヒ:会長も知らないんですか?

チ:ええ・・・。離婚ね・・・。うん、それもいいかもしれないわ。あの人、今、ちょっとゴロツキみたいのと一緒に住んでいて・・・。ちょっと危ないらしいの。
ヒ:危ないって?

チ:よくわからないけど・・・やくざみたいな男らしい・・・どこで知り合ったかわからないけど、一緒にいるらしいわ。あなたに離婚を切り出されて、自暴自棄になったのかしら・・・。
ヒ:どこにいるんですか?

チ:もう一度、確認するわね、正確な住所を。何事もなければいいけど。相手は普通の人じゃないから。


ヒョンジュンは頭から冷水を浴びせられた思いだ。
ソルミはソウルにいた。
それも、ゴロツキと一緒に。
日本で優雅に過ごしていたわけではなかった。






チェスクからの連絡を受け、ヒョンジュンはオフィスを早退して、その住所を訪ねた。
そこは、ソウルでもちょっと危険なニオイのする地域だった。

チェスクから聞いた住所のアパートの斜め前に車を止める。
その建物を見る。あの中に、ソルミはいるのだろうか・・・。


車に鍵をかけ、ヒョンジュンは、錆びた非常階段を2階へ上がる。

201号室・・・。


トントン!
トントン!


中からは返事がなかった。

ヒョンジュンはしばらく部屋の前で待った。


すると、階段を誰かが上がってくる音がする。
錆びた古い階段全体を揺らして、一歩ずつ上がってくる。
それはヒールのような音だ・・・。


ヒョンジュンが階段のほうを振り向くと、ソルミがスーパーの袋を提げて上がってきた。

ソルミは、ヒョンジュンを見て驚く。


ソ:!
ヒ:ソルミ!

ヒョンジュンが駆け寄ると、ソルミは急いで階段を下りていく。


ヒ:おい! 待てよ。 ソルミ! 待ってくれ!


ヒョンジュンがソルミを追いかけて階段を下りる。ソルミは持っていたスーパーの袋を捨てて走った。
袋の中からは、洗剤と菓子パンが出てきた。


ヒ:待って!



ソルミのミュールの片方が脱げて、彼女は立ち止まる。ヒョンジュンが彼女の肩を掴んだ。

ソルミがヒョンジュンを睨みつけた。
その目にヒョンジュンは驚いた・・・。お嬢様の仮面を取った彼女の目は・・・その顔は・・・「街の女」の顔だった。
驚いて、ヒョンジュンは手を放した。



ソ:誰に聞いたの?
ヒ:ソウルにいたのか・・・。
ソ:そうよ。

ヒ:ここで何をしてるんだ。
ソ:いい人と住んでるのよ。(にんまりとする)


ヒョンジュンは、その笑いの下品さに胸が痛くなる。


ヒ:いい人?
ソ:そうよ。あなたと違って、私を命みたいに愛してくれてる人なの。
ヒ:・・・。
ソ:だから、帰ってよ。

ヒ:・・・一度、自宅へ帰ろう。
ソ:・・・。
ヒ:お父さんも心配されてる。
ソ:帰ってどうするのよ。
ヒ:話し合おう。

ソ:あなたがほしいのは、私の返事でしょ? それは「ノー」よ。ノー!
ヒ:・・・それでもいい。まずは、帰って・・・。
ソ:嫌よ!
ヒ:ソルミ・・・。



今のソルミの姿を見ていると、ヒョンジュンは胸が苦しくなって、やっとの思いで腕を掴んだ。

着ているものは家を出たときのままだ。化粧も・・・。何も変わっていない・・・。
でも、その表情は荒んでいる。
この落差は何だ・・・。

もう誰も彼女を見ても、良家のお嬢様とは思わないだろう・・・。
いや、思ったとしても、もう、自分の目にはそうは見えない・・・。


オレが別れると言ったことが辛かったのか?
それほど愛していたというのか?


別れた後に会ったミンスを思い出す。
彼女は、一段と大人になって・・・表情が深かった。
理不尽な別れから、自分の生き方を探して、人として成長していた。そして、美しかった。


今のソルミは何だ・・・。
彼女から良家の子女という冠を取ったら、荒れた心をむき出しにした「ゴロツキ」と変わらない・・・。

ヒョンジュンは呼吸が苦しくなって、目頭が熱くなった。



ソ:何よ。何、泣いてるの? 私が離婚を拒否したから?
ヒ:・・・。
ソ:かわいそうにね。


ヒ:ソルミ。もうわかったから、一度帰ろう。・・・君が好きな人のところへ戻りたいなら、それはそれで、お父さんと話し合って。
ソ:お父さん、お父さんてうるさいわね。
ヒ:会長には、もう君に離婚の申し出をしたことは話したんだ。それで、僕は、もうH・joonからも撤退するんだ。
ソ:・・・。
ヒ:ソルミ。



男:おい!


後ろから男の声がした。振り向くと、20代後半か30頭の、ジゴロのような男が立っていた。
品行の悪そうな顔・・・。目が今のソルミとよく似ている。



ソ:あんた!


ヒョンジュンは、ソルミの「あんた」という言い回しに驚いた。話し方は上品だったのに・・・。



男:おまえ、何者だ。
ヒ:彼女の夫です。
男:なんだとお!


男は、凄んで、ヒョンジュンを見つめた。


ソ:スンジョン! やめて。
ス:あんたが来るところじゃねえよ。ソルミはもうオレの女なんだ。手を引けよ。
ヒ:・・・。(男とソルミを見つめる)

ソ:あんた。ちょっとあっちへ行っててよ。私、まだ彼と話をしたいの。
ス:話すって何をだよ。早く離婚してもらえよ。
ソ:あっちへ行っててよ!


ソルミは男を押し退けて、ヒョンジュンの胸を押す。


ソ:(小さな声で)早く帰ってよ。そして、お父様には言わないで! 言ったら最後、彼が何をされるかわからないわ。


ヒョンジュンは男を見つめた。

男は凄んだ顔をして、じっとヒョンジュンを見ている。その目は・・・狂っている・・・。
ソルミが考えているほど、生易しくはない。

愛している? そうだろうか・・・。


やくざ・・・。
でも、たぶん、会長の手下のほうが危ないのは確かだろう・・・。


ヒョンジュンは咄嗟にソルミの腕を掴む。


ヒ:ここにいたらいけない。帰ろう。まずは帰ろう。ここにいるのは危険だよ。


ヒョンジュンはソルミを掴んで引っ張り、自分の車のほうへ行く。
ソルミが驚いた顔をして、顔面蒼白になっている。


そう、ここにいたら、彼女は骨までしゃぶられて捨てられるだろう。
一人でこの世界からは脱出できないだろう・・・。


ソ:待って、待って、ヒョンジュン。
ヒ:駄目だ。危険すぎる! とにかく、ここを出るんだ!
ソ:でも!
ヒ:いいから! まずは、ここから出るんだ。


ヒョンジュンはソルミを車に押し込み、自分も車に乗り込もうとした。



ヒョンジュンは、背中に鈍い痛みを感じて、車に乗ろうとする意識とは逆に、彼は後ろへ倒れた。









ミ:チェスクさん。ありがとうございます。お陰様で、これで留学できます。テーブルコーディネーターとして、もうワンランクアップするように頑張ります。
チ:そうね。うん。あなたならできるわ。頑張って。うちのニューヨーク駐在のスタッフもいるし、わからないこと、困ったことがあったら、彼に言ってちょうだい。あなたの将来に期待しているわ。
ミ:ありがとうございます。


チ:ジフン君には言うの?
ミ:ええ。彼は、私の親友でもあるんです。ちゃんと自分の気持ちを話そうと思います。
チ:そう! まあ仕方ないわね。

ミ:今日、これから会います。この書類を見せて・・・よく話します。

チ:彼も元気になったの?

ミ:ええ。もう職場へ復帰していて。今日は、大学病院のほうへ行って、彼の患者さんたちに読み聞かせの日なんです。(笑う)その子たちにも、さよなら言わなくちゃ。(ちょっと寂しそうに俯く)
チ:全てを捨てるんだ。頑張ってね。
ミ:はい!



ミンスは、留学手続きの済んだ書類をバッグにしまうと、画廊を後にした。

今まで、ジフンに別れること、留学することを直隠しにしてきた。今日はちゃんと話さなければいけない。



ジフンがどう出るかわからないが、ミンスは自分で決めた道を進む決心をした。
画廊を出てから、ミンスはバッグからリングを取り出した。
これが結論だ。

彼女はそれをまた左手の薬指に嵌めて、地下鉄へ急いだ。






大学病院の裏の通用口から、ミンスは入った。


ミ:こんにちは。小児科病棟の子供学級のキム・ミンスです。
守:ああ、いらっしゃい。


守衛が笑顔でミンスにノートを差し出す。
ミンスは記帳して、首から臨時スタッフ用の名札を吊るした。


病院の裏口は、救急への通路でもある。ここを訪ねると、いつも慌しく救急車から搬送される人々がストレッチャーで運ばれていく。

ミンスがエレベーターのボタンを押していると、今日もまた、サイレンを鳴らして、救急車がやってきた。

これで、エレベーターは、一つ見送りね。


点滴をいっぱい吊るしたストレッチャーが搬送口からエレベーター目掛けて入ってきた。
ミンスが何気なく見ていると、そこに付き添っている女に見覚えがある。

あれは・・・。


ソルミ・さん・・・?


ミンスの目が釘付けになった。


ソ:はあ、はあ、ヒ、ヒョンジュン・・・ヒョンジュン・・・。
救:奥さんは少しヒステリー状態です。(引き継ぐ)
ソ:死んじゃう? 死んじゃうの?
医:大丈夫ですよ。(ナースに向かって)奥さんをよろしく。
ナ:はい。


ナースが、ソルミの肩を抱いた。


ヒョンジュン・・・?


ミンスの目の前を、血で真っ赤に染まったシーツの上に寝ているヒョンジュンが通った。


ヒョンジュン!


ヒョンジュン!


ミンスは目を見開いて、ヒョンジュンのストレッチャーがエレベーターに入っていくのを見つめた。







13部に続く





2009/09/11 01:34
テーマ:【創】恋がいた部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋がいた部屋」11部




BGMはこちらで^^





BYJシアターです。

本日は11部です。

「恋がいた部屋」もとうとう終盤戦にかかってきました。




ここより本編。
ではお楽しみください。



~~~~~




この恋は
どこまで

すれ違っていくのか



心は君のものだ

愛しているんだ


そう叫びながらも

君を

傷つけて
しまったことを

許してほしい



君を
疑ったことを

許してほしい



本当に
君に
許しを請いたい



どうか

許して
ください







ヒョンジュンがパリから帰国し、自宅へ戻ると、シンジャが出迎えに出てきた。


「お帰りなさいませ」
「ソルミは?」
「それが・・・」
「何?」
「旦那様を待つように言ったのですが、日本へ旅立たれました」





主演:ぺ・ヨンジュン
   チョン・ジヒョン
   
【恋がいた部屋】11部




ヒ:どうして?
シ:なんですか、お友達にご招待されたとかおっしゃって・・・。
ヒ:そう・・・。


玄関でスリッパに履き替え、ヒョンジュンは重い足取りで、リビングへ向かった。

ソルミは逃げた。
ヒョンジュンの切り出した離婚を拒むように。



シ:ホントにお嬢様ったら・・・。
ヒ:まあ、一生帰ってこないわけにはいかないでしょう。

シ:え? (返事に驚く)
ヒ:何日間くらいとも言わなかったんですね?
シ:ええ。すみません・・・。少なくとも、一週間は行かれるのかと。
ヒ:なぜそう思うの?
シ:お嬢様があちらでお約束されていたパーティが一週間後でしたので。
ヒ:そう・・・。僕も疲れているから、ちょうどよかったかもしれません。自分の部屋で広々とベッドで寝られるよ。
シ:・・・。
ヒ:あ、お土産。(バッグから出す)
シ:ありがとうございます。
ヒ:ソルミと重なると悪いけど・・・。
シ:いえ、ありがとうございます・・・。


シンジャは、ヒョンジュンが渡した包みを見る。ソルミは何にも土産など買ってこなかった。
それはいつものことだったが・・・。






ヒョンジュンは久しぶりに自分のベッドでゆったりと寝そべった。

まあ、一週間ぐらいの猶予なら、自分も考えを整理してゆっくりしたほうがいいだろう。


寝室に一人で大の字になって寝転ぶと、ヒョンジュンは、今までになく、ゆったりとした気分になる。いつも、隣のベッドに酔ったソルミが寝ていて、ヒョンジュンを追い詰めた。しばらくはここで、心安らかに眠れるだろう。



目を瞑ると、最後の日のミンスが目に浮かんだ。


ヒョンジュンを下から見つめ、やさしく笑った。

ミンスはいつもそうだった。
ヒョンジュンがほしいといえば、初めは5分の1よと言いながら、それが半分になり、最後には全てをくれた・・・。ヒョンジュンが嫉妬のあまり、悪酔いをして、ミンスを責め立てたのに、結局は、ベッドで抱きしめてくれた。そして、最後には、ヒョンジュンに全てをくれた・・・それも、やさしい笑顔で・・・。

いつも、ヒョンジュンの我儘や欲望に付き合ってきて、ミンスは本当に幸せだったのだろうか。

そう思うと、心が痛くなる。

年下のミンスとは、いつもじゃれて過ごしてきたので、ミンスの大きさにも気づかなかった。
あんな大きな心で愛してくれていたのに・・・。

過ちを犯したのは自分。
ただ苦しめただけ? それでも、おまえを失ったら、何が残る・・・。

こんなに愛していると、心が言っているのに、ミンスを幸せにするすべを、今の自分は、何も持っていないのだ。まだ、はっきり一人になれるかどうか、わからない自分が、ミンスを引き止めて手元に置くことはできない。

ミンスはいつも正直だった。だから、彼女が一人になると言ったからには、本気だ。
本当に、今の男と別れられるのだろうか。
その男が手放すだろうか。
自分がいつまでも、ミンスを思い続けているように、そいつもミンスを思い続けるのではないか。

でも、この旅で確信したことは、自分にはミンスがいなくては駄目だということだ。ミンスがいなくては、自分の幸せは完成しない。ミンスは全てを持っている人などいないと言った。皆、何かを諦め、生きているのだと。だから、全てを求めてはいけないと・・・。


でも、自分の一番ほしいものは何だ。


今、ソルミとソルミの父親から与えられた富と名声か・・・そんなもので、自分は幸せになったのだろうか。こんなに苦しく、こんなに恋しく一人の女のことを思っているではないか・・・。
それがなくては、生きていても無駄のように・・・。


ミンスは全てをゼロにしてやり直したいと言った。
自分も全てをゼロにして、ミンスを迎えにいこう。



あの晩、ミンスはヒョンジュンに安らぎをくれた。やさしく抱きしめ、ヒョンジュンを見つめた。


ミ:私にとっては、あなたが全てよ・・・。でもね、だからといって、あなたと続けていくことはできないの・・・。わかってくれるわね・・・。
ヒ:ミンス・・・オレにとっても君が全てだというのに・・・。
ミ:・・・。うん・・・ありがとう・・・。


あんなに酔って、彼女を責めたのに、彼女はやさしく笑顔で見つめてくれた・・・。

あんなにやさしいミンス・・・・。

ヒョンジュンは、頬を伝わってくる涙を拭った。







翌朝、いつになく、熟睡したヒョンジュンは機嫌よく2階から降りてきた。

ダイニングテーブルには、ソルミの父親である会長が座って、新聞を読んでいた。

父:おはよう。
ヒ:おはようございます。(席に着く)
父:疲れは取れたか。
ヒ:はい。お蔭様で、昨日はぐっすり眠れました。
父:そうか。

シ:おはようございます。アメリカンでよろしいですね?
ヒ:あ、お願いします。

父:パリは大盛況だったそうじゃないか。
ヒ:はい。なかなかの入りでした。
父:うん・・・。どうだ。一つ、パリに支店を出してみんか? それから・・・販促のパク君からなんだが、もう一世代上の服を出してみないか。
ヒ:上の世代?
父:うん。おまえのデザインは気に入ったが、サイズが合わんという声がある。ちょうど金を持っている4、50代はもう少し、アームを広げて、ウエストのラインを変えるなどして・・・。
ヒ:・・・それでは、H・joonではなくなります。
父:まあ、ネームがあれば、女は着るものだ。ソルミだって、エルメスと書いてあれば買うように。

ヒ:・・・会長。デザインの方向性をガラッと変えるんですか? H・joonは、縦長でアバンギャルドなところがいいんです。
父:うむ・・・。まあ、経営的な面からのデザインというのも覚えたほうがいい・・・。
ヒ:・・・それは、僕でなくてもできる仕事です。そっちのほうは、デザインチームでお願いします。
父:おまえが目を通さんでいいのか。
ヒ:・・・。最終チェックはしますが・・・皆さんのほうがそういうのは、お得意でしょうから。

父:うむ・・・。パリのほうはどうする?
ヒ:支店ができたからといって、僕が常駐するわけでもないですから、お好きなように・・・。

父:おまえ、どうした・・・? (不思議そうに見る)
ヒ:・・・。(パンにジャムを塗る)
父:まあ、疲れているか。よくあとで考えなさい。



会長はそういって、立ち上がった。

シンジャがサラダを持ってきて、ヒョンジュンの顔を覗き込む。



シ:どうか、なさったんですか?(サラダを置く)
ヒ:何が? (サラダに手をつける)
シ:いえ・・・。本日は、15日でございますが、どうなさいます?
ヒ:いつものように、送ってください。毎月15日は・・・。
シ:でも、お嬢様不在で・・・。

ヒ:関係ないでしょう? 彼女は何にも知らないんだから。いてもいなくても同じです。15日には、スタッフ向けに、差し入れをする・・・決めたことは実行してください。
シ:はい・・・。

ヒ:もちろん、ソルミの名でね。(無愛想に言う)


シンジャは、じっとヒョンジュンを見た。ヒョンジュンの言葉は、ヒョンジュンのものだったが、その表情はなぜかヒョンジュンではなかった。






パリから戻ってからのヒョンジュンは、オフィスのデスクに座って、目の前のトルソーをじっと見つめ、多くのため息をついた。彼はほとんど気の抜けた炭酸水のようだ。もう、ため息もほとんど残っていない。

アシスタントの女性が心配して、お茶を入れる。


ア:先生、どうしたんですか? ここのところ、お疲れですね?
ヒ:う~ん。疲れたねえ。(鉛筆をもって所在なさそう)
ア:これ、飲んで元気出してください。
ヒ:ありがとう。


ヒョンジュンは、出されたお茶をふ~ふ~と冷まして飲む。そして、また、ため息をついた。


アシスタントは、ヒョンジュンの部屋から出て、自分の席に着く。


デ1:どうだった?

デザイナーの女性がアシスタントのところへ行く。


ア:ため息ついてた。
デ1:ふ~ん。あの女の人のことが奥方にバレたのかな・・・。
ア:そんなにマリエのモデルに似てたんですか?
デ1:そっくりよ! でもね、その人のほうがモデルより先生の服、似合ってた・・・。あの人のために作ってきたんだな、きっと。

ア:でも、そしたら結婚してすぐからじゃないですか・・・。
デ1:ホント。
ア:じゃあ、なんで結婚しちゃったの?
デ1:さあ? (首をかしげる)なんでだろうね。
ア:なんか大きな理由があったのかしら・・・。別に画家でもよかったんでしょ?
デ1:うん、ちょっと注目されてきてたからね。

ア:なんか、裏がありそう・・・。でも、今まで仕事一途だったですよね。なんでやる気がなくなっちゃったんだろう。
デ1:なんか、チーフが言うには、路線を変更しろって言われたみたい・・・。ミッシー用に。もっとアームをとって、ウエストの絞りも緩くして、丈も詰めて・・・。もっと買わせろって・・・。
ア:じゃあ・・・普通の服にしろってことですか?
デ1:だよね・・・。私たちもつまらなくなっちゃったけど。なんか、角のない服になっちゃって・・・。

ア:それはちょっと・・・。せっかく成功しているのに・・・。
デ1:それで、パリへ出店しろでしょ? 訳わかんないのよ。

ア:それって・・・奥様が絡んでいるんでしょうか? 他の女にためじゃなくて、私のためにとか言っちゃって・・・。会長に頼んだのかな・・・。
デ1:さあね・・・。そうなのかな。奥方が好きな路線に変えろってこと? あの人、エルメスとか着てるわよね・・・。でも、できた奥方じゃない? いつも差し入れとか、バースデイカードとかくれて。
ア:ですよね・・・。
デ1:先生もどうするのかしら・・・。






ヒョンジュンは、デスクにうつ伏せて、目を瞑っている。


肝心のソルミは、あれから逃げたままだ。

会長や販促からは、売れるための服を作れと催促が来る。もっと売って、H・joonをグループの看板会社まで育てろという。おまえの顔でもっと営業しろという。でも、デザインの方針を変えてしまうのなら、それは自分である必要性は、もうどこにもない。


今が潮時なのかもしれない・・・。最初はおもしろかったり斬新だったりしたブランドがだんだんにどこも似たり寄ったりの類型化されてしまうのは、そういうことか・・・。
やっぱり、自分は素人だった・・・。つまり、最初の掴みを斬新にすれば、あとはブランドの名前でなんとかやっていけるわけだ。失敗がなければいい・・・。特に、スパイスの効いたものを発表し続けなくてもいいわけだ。


ということは、オレは十分役割を果たしたということだろうか?
会長への「恩」は果たした・・・そう理解していいのだろうか。


顔を上げて、ヒョンジュンはトルソーを見上げた。
トルソーにはもうミンスはいなかった。それはただのトルソーでしかなかった。



電話のスピーカーが鳴った。



ヒ:はい。
ア:会長がお見えです。
ヒ:あ、そう。お通しして。



ドアが開き、会長が入ってきた。


父:どうだ。この間のパリ出店の話は考えたか?
ヒ:ええ・・・。



アシスタントの女性が会長のためにコーヒーを入れていると、ヒョンジュンの部屋の声が聞こえてきた。
ヒョンジュンがスピーカーを切り忘れたようだ。


父:パリでもなんとか商売になりそうな報告を販促から受けとっているぞ。
ヒ:そうですか・・・。それは販促と話し合って決めてください。僕にはわかりませんから。
父:消極的だな。
ヒ:デザインの変更のことは販促の重役からも聞きました・・・。そこで、考えたのですが・・・。
父:何を? 
ヒ:このH・joonはもう僕から離れてもいいんじゃないかと。



それを聞いていたアシスタントとデザイナーが驚く。



父:なんでだ。おまえの顔がないと、売れないだろう。それにまだ始まったばかりじゃないか。
ヒ:顔はつけといて下さっていいですよ。でも、もう僕の仕事ではありません。僕のコンセプトを離れた商品はもう僕のものじゃない。
父:しかし、おまえ。これは仕事だ。デザイナーは商売をするんだ。夢だけを売っているわけじゃないぞ。

ヒ:わかっています。消費者が買いたいもの、使いたいもの、使いやすいもの・・・それをデザインすることが一番でしょう。でも、ここの商品は、いわば僕のメッセージでもあった。そのメッセージ性を失ったら、それは僕にとってなんの価値もない・・・。

父:青臭いことをいうな。これから、事業を継いでいくのに、そんな青臭いことでは駄目だぞ。


ヒ:会長・・・。いや、お父さん。ここまでお世話になっていて・・・あなたには、大変申し訳ないんですが・・・。
父:・・・何だ。
ヒ:実は、僕は・・・ソルミと離婚したいと思っています。



ア・デ1:え~。(スピーカーを見つめる)



父:急にどういうことだ。
ヒ:最初から無理だったんです・・・。妊娠していないとわかった時点で別れるべきだった・・・。それを今日まで引き伸ばしてきてしまった・・・。僕たちの間には、何も生まれなかった。このまま、一緒にいても不毛です・・・。

父:・・・。仕事はどうする・・・。おまえたち二人でよくやってきたじゃないか。あいつも一生懸命やってるぞ。
ヒ:・・・何を?
父:社内でも、評判がいいぞ。初めはバカ娘だと思っていたが、おまえを助けて内助の功を立てている。


ヒョンジュンは下を向いて、苦々しい顔をして、笑った。


ヒ:お父さん。あれは・・・。(ニヒルに笑う)僕がシンジャさんにお願いしているだけですよ。ソルミは何にも知りません。差し入れの日と、スタッフの誕生日の表を渡して、シンジャさんがそれに従って、順番にやっているだけですよ・・・。僕のあとの、次の男が来ても、シンジャさんに頼んでおけば、やってくれますよ。
父:・・・。

ヒ:お父さん。お父さんには、本当にお世話になりました。でも、もう行かせてください。ここには優秀なデザイナーがたくさんいるし、最初のコンセプトはできてるわけですから、それをアレンジしていけばそれでなんとかなりますよ。

父:・・・。ソルミはなんて言ってるんだ。

ヒ:彼女は逃げているだけです・・・。当分、韓国には戻らないでしょう・・・。赤ん坊がうそだったって知った時に、去ればよかった・・・。そうすれば、ソルミも苦しまなくてよかったでしょう。あいつも苦しいんです。愛がない関係は苦しいだけです・・・。僕は、その分、仕事に専念したけど・・・彼女は毎晩酔って時を過ごしてきた・・・。全く不毛だ・・・。

父:なんてことだ・・・。

ヒ:いずれにせよ・・・僕は辞めます。
父:・・・。

ヒ:ちょうど、潮時でした・・・。



スピーカーの前で、アシスタントとデザイナーがやるせない顔をした。


ソルミの父は、ヒョンジュンの言葉に返事をしなかった。ただ、机をコンコンと叩いて苦しそうな顔をして出ていった。



ヒョンジュンにとっても、それは思いもよらぬ展開だった。
ソルミと離婚したいと思っていたこと、もうここを去りたいと思っていたことは確かだったが、こんなにハッキリ、すんなり、自分が言葉にできるとは思ってもいなかった。

たぶん、ソルミがここ韓国にいないこと、そして、最後の晩のミンスが自分に力をくれたに違いない。




ヒョンジュンはデスクの上の書類に目を通した。
全てヒョンジュンがいなくても、もっとプロの人たちがやっていくだろう。
オフィスの中を見回す。もうここは、ヒョンジュンにとっては意味のない世界になった。


なんて簡単なことだったんだ・・・。

あんなに抜け出すことが不可能かと思っていたのに・・・。

確かに、会長は返事をしなかった。ソルミもいない。
でも、もう飛び出してしまえば、それは自然に解決していくだろう。あの会長が会社に穴を開けるはずがない。莫大な財産が絡んだ結婚をそんな簡単に見逃すはずがない。しかるべき跡取りを探しに走るに違いない・・・。

もうオレの役割は終わった。





そうはいっても、ソルミが戻らないまま、別れることもできず、仕事のほうも、急にメインのデザイナーを挿げ替えるというわけにはいかなかった。H・joonの顔はやはりヒョンジュンであり、この優しげでハンサムな伊達男のデザインを消費者は買っていたからだ。
今のところ、二シーズン先までの主力商品はデザインされていたので、H・joonの屋台骨が急に揺らぐということはない。

こうしてみると、ブランドの顔というのは、なんと儚いものであろう・・・。確かに、現在ではヨーロッパのブランドであっても、それは同じで、優秀なデザイナーがこっちのブランド、あっちのブランドと渡り歩いているのが現状だ。


会長からの申し渡しはなかったが、H・joonのメンバーたちにはもう事情がわかっていた。

とりあえず、ヒョンジュンは出勤してきて席に座り、いつものように振舞っていたが、彼のクビが会長の娘の帰国によって決まることは明白だった。

ただそれを知らないシンジャだけが、バースデイのスタッフに花とカードを送り続けた・・・。




もう背負うものがなくなったヒョンジュンは、自宅へ帰る道すがら、ブラブラと夜の公園を歩いていて、季節より早咲きの桜を見つけた。
まだ、今日もコートを着ているというのに、それは街灯に照らされてはかない風情で咲いていた。ピンクというより白みがかったその花びらに、ミンスを思った。


こんな花もあるんだ・・・。まだ咲く季節でもないのに・・・。
どこで道を間違えたやら・・・。


ヒョンジュンはミンスに電話をかけたくなった。

携帯の電話をかけてみる・・・。もうミンスの番号は使われていなかった。


ヒョンジュンは今来た道を引き返し、ミンスのアパートへ向かった。しばらく、通りの反対側で待ってみたが、帰ってきたのは、大学生らしい男の子だった。

もうミンスは知らない世界へ行ってしまった。



ヒョンジュンもそろそろ、自分の住まいを物色しなければならないと考え始めていた。いつまでもソルミの家にいるわけにもいかないだろう。

元の不動産屋に電話をかけてみたが、以前住んでいたマンションはもう他の人が住んでいて今は入居できないと言う。しかし、来月になれば、そこも空くので、そこでよければ、もう少し待ってほしいということだった。


その頃には、ソルミも帰ってくるかもしれない・・・。ソルミは今、日本国内を友達と旅している。
一時、帰国する様子を見せたが、また、雲隠れしてしまった。

あいつも、揺れる思いをどうすることもできずにもがいているんだ。


ヒョンジュンはしばらく待って、元の住まいに戻ることにした・・・。







ミンスは、帰国後、思いがけないことに巻き込まれた。

ジフンに土産を届け、別れるはずが土産を手渡したところで、ジフンの体調が悪くなり、緊急入院することになってしまったのだ。
ジフンは、虫垂炎を起こしていたが、受け持ちの子供たちのことを考えると、自分のオペどころではなかった。しかし、この日、薬で散らしていたものがとうとう爆発し、緊急オペとなった。

ミンスは、ジフンに別れを言うタイミングを逃した。

腹膜炎を併発したジフンだが、来月になれば、退院できるだろう。
しばらくは、別れることはジフンには言い出さず、看護の手伝いをすることにした。特に看護といっても、手をかけることはないが、母親一人ではたいへんなので、身の回りの世話に、ミンスは一日に一度は顔を出すことにした。


ミンスが部屋を引っ越したいということは、ジフンにも伝えてあったので、その日は病院には顔を出さず、ミンスは引っ越し業者とともに、あのマンションを引き払った。



そして、ミンスは今、姉のヘスの家に厄介になっている。



へ:それでどうするの?
ミ:うん・・・もう少しして、ジフンが元気になったら、言うつもり・・・。
へ:いいの?
ミ:うん・・・。

へ:それで、あっちのほうは?
ミ:うん。チェスクさんに頼んで、手続きしてもらってる。
へ:本当に行っちゃうの?

ミ:うん・・・韓国にいると、またどこで会うかわからないもん・・・。
へ:でも、あっちだって、ミンスのことを好きなんでしょう?

ミ:でも、お姉ちゃん。今は一人になりたいの。これから、仕事をいっぱいして忘れる。うううん、忘れることは諦めた。もういいのよ。
ヘ:・・・。


ミンスは、ヒョンジュンが「今でもおまえが全てだ」と言った言葉にうそはないと思っている。
だから、その言葉を、その思いを、抱きしめて生きていこうと思う。

自分から何か望めば、彼の生活は均衡を失うから・・・。今のミンスにはそんなことはできなかった。


ニューヨークへの留学については、手続きが終わったところで、ジフンに言おう。
それで、ジフンとも終わりにする・・・。そして、向こうで一から出直す・・・。







ヒョンジュンは、ソルミの帰りを待たずに、家を出た。
会長はそれを黙認した。別れようと思っている妻の家に、いつまでもいるのはおかしなことだから。
仕事のほうは、ソルミが帰ってから、辞任するように会長からの申し出があった。まだ、ヒョンジュンはH・joonの顔として使える男だったから・・・。





元のマンションに引っ越してから、10日目。
仕事帰りのヒョンジュンは、1階のメールボックスで郵便の束を掴んで、部屋に戻り、郵便の仕分けをしていた。

中にあったダイレクトメールの何通かは、前の住人のものらしい・・・。


キムさん・・・キム・ミンス?


ヒョンジュンは、その名前を見て驚いた。

キム・ミンス・・・。


鳥肌が立つ思いとはこのことか・・・。

ヒョンジュンは、部屋の中を見た。


ミンスはあの絵を自分の部屋に置いていたと言った。
ミンスは、ここで、あの絵と暮らしていた。


パリで、彼女は言った。


ミ:あの絵の中には、あなたの魂がいて・・・私とずっと添い遂げると思っていたから・・・。でもね、そのあと、わかったの・・・。あなたが、ソルミさんの妊娠がうそだったってわかっても、私のもとへ戻る気がなかったことが。・・・それがショックだった・・・。あなたは、ホントによその人のものになってしまったのよ・・・。


ミンスはここで、自分と、自分の分身と暮らしていたのだ・・・。


ルーブルの窓の外を眺めながら、彼女はこう言った。


ミ:外に見える景色を見るのが好き・・・。空があって、世界が開けていく感じが好きなの・・・。時々・・・部屋の中は変わっても、窓から見ている景色がいつもと同じだと、自分の周りがすっかり変わっていることに気づかない時があるわ・・・。いつもの景色を見て、振り返ったら、何もなかったってね・・・。エンプティ。空っぽ・・・。



ミンスが見ていたのは、この景色だ・・・。

二人で見たこの景色。

大きなイスにヒョンジュンが座り、その上にミンスを抱いて、愛を交わしながら見た景色・・・。



ヒョンジュンは胸がいっぱいになった。


ここで、ミンスは一人どんな思いで過ごしていたのだろう。

思い出だらけのこの部屋で・・・。


それなのに、一人で生きていくと言った彼女。



ヒョンジュンは苦しくなって、涙がこみ上げた。



一人にしてごめんよ・・・。

なんてひどいことをしてしまったんだ。
おまえもこんなに愛してくれていたのに・・・。


ヒョンジュンは、この部屋の全てが、自分に向かって、愛を放ってくるのを感じずにはいられなかった。






12部へ続く




2009/09/10 01:00
テーマ:【創】恋がいた部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋がいた部屋」10部

Photo


BGMはこちらで^^




BYJシアターです。

本日は「恋がいた部屋」10部です。


二人のデートはまだ続いています・・・。




ではこれより本編。
お楽しみください。


~~~~~




区切りをつける
勇気を下さい

あの人を
忘れることは
諦めました


でも
ここから
飛び出したいのです


飛ぶ勇気を
私に
ください



どうか
僕に
決断の勇気を
ください

二度と
失わないように


飛ぶ勇気を

僕に
ください



ヒョンジュンとミンスは、手をつなぎながら、ルーブルの中を練り歩く。



主演:ぺ・ヨンジュン
   チョン・ジヒョン

【恋がいた部屋】10部

  
ヒ:疲れた?
ミ:うううん・・・。


ミンスが笑顔でヒョンジュンを見る。


ヒ:どこかで座ろうか?
ミ:大丈夫・・・。せっかくだもん。もう少し見たいわ。
ヒ:そう?


二人はまた歩き出す。


ヒ:いい絵がいっぱいで、胸が痛くなるよ・・・。
ミ:また、絵を描きたい?
ヒ:・・・できるかな・・・。
ミ:できるわよ。あなたは才能に満ち溢れてるわ。(他を見ながら言う)
ヒ:だといいけど・・・。

ミ:力のある人は、急には駄目にはならないわよ・・・。8ヶ月? 描かなかったの? そんな人、いくらでもいるでしょ?
ヒ:うん・・・。
ミ:(ヒョンジュンの顔を見る)元気出して。大丈夫よ。
ヒ:・・・。


ヒョンジュンは寂しげに、ミンスを見つめる。


ヒ:ねえ、今日は一緒にご飯食べない? オレも一人だし・・・。いいだろう?
ミ:・・・。(見つめる)最後の晩餐・・・?
ヒ:・・・。
ミ:ラスト・ディナーね・・・。
ヒ:おまえがよければ・・・。
ミ:・・・いいわよ。(笑う)

ミ:そうだ・・・。私、まだ、お土産買ってないの。空港でもいいかしら・・・。チェスクさんの仕事で来たから、何か買っていきたいわ。
ヒ:じゃあ・・・そろそろ、出る?
ミ:うん・・・名残惜しいけど・・・。
ヒ:うん。



二人は連れ立って、ルーブルの外へ出た。そのまま、手はつないだまま、みやげ物店へ入った。



ミ:何がいいかしらねえ・・・。かさばらないものがいいわね。う~ん・・・。空港でブランドのスカーフでもいいんだけど・・・。



二人は手をつないだまま、店の中を見て歩く。


ミ:あら・・・。ちょっと待ってね。


ミンスは手を振り解いて、エッフェル塔が小柄模様になっているネクタイを手に取る。


ミ:かわいい・・・。
ヒ:・・・。
ミ:いいわね。(笑う)

ヒ:・・・男の人に買うの・・・? (ちょっと声がかすれる)
ミ:うん、そうよ。ちょっと当ててみていい? (ヒョンジュンに当ててみる)これ、楽しいわね。
ヒ:子供っぽくない・・・?
ミ:そうお? いいのよ、あなたより若いんだから。う~ん。(色を選ぶ)

ヒ:・・・付き合ってるの・・・?
ミ:まあねえ・・・。(色を考えている)う~ん、どうしよう・・・。
ヒ:・・・いくつ?
ミ:私より一つ上。あなたより、ハンサム。


ミンスは、ヒョンジュンを見ないで、真剣に考えている・・・。



ミ:う~ん。ネクタイ・・・ネクタイ・・・あなたに首ったけ・・・。やっぱり、やめるわ。あ、あっちのにする。


ミンスは、置物売り場のほうへ行って、丸い球の中に閉じ込められたエッフェル塔を見る。


ミ:やっぱり、これにするわ。(ヒョンジュンのほうを振り返る)


ミンスは透明なボールを振ってみせた。中で、小さな鳩が天高く舞い上がり、沈んだ。


ミ:チェスクさんもこれにするわ・・・。あの人は、何度もパリに来てるんだものね。こういうかわいいもののほうがいいかも・・・。あと、お姉ちゃんの分・・・。



ミンスは、同じものを3つ持って、レジへ向かった。



ミ:ごめんなさい。待たせちゃって。
ヒ:うううん。
ミ:あなたはいいわよね。ソルミさんは来ちゃったんだし。お土産はいらないでしょ?
ヒ:うん・・・。オフィスの子たちには、ストラップを買った。
ミ:それもいいかも。(笑う)




店を出て、二人はパリの街を歩く。



ヒ:どんな人?
ミ:何が?

ヒ:・・・その・・・付き合ってる人。
ミ:ああ。
ヒ:・・・。(苦しそうに、じっと見つめる)
ミ:背が高くて、ものすごくハンサムで・・・私より一つ年上って言った? そう。一つ上で、気が置けないの・・・すごくいい人・・・。

ヒ:何やってる人? (じっとミンスを見つめている)
ミ:お医者さん。小児科・・・彼らしいわ。(笑う)


ヒ:・・・好きなの・・・?
ミ:・・・ええ。
ヒ:・・・。
ミ:・・・。


ヒョンジュンがじっとミンスを見つめている。



ミ:ねえ、どこで食事する? フランス料理よね? パリだもん。
ヒ:・・・。
ミ:どこか連れてって。
ヒ:・・・。

ミ:あなたはフランス語できるから。私は大学の第2外国語でやっただけだから。
ヒ:・・・。うん。
ミ:おいしいもの、探して。(笑う)
ヒ:・・・。





二人は気のおけなそうなフランス料理店に入る。ヒョンジュンがメニューを見て注文した。


ミ:何、頼んだの?
ヒ:お楽しみ・・・。
ミ:・・・。(微笑む)


まずは、シャンパンがきた。


ヒ:乾杯しよう。
ミ:ええ・・・。


ヒョンジュンはぐいっと飲み干して、ミンスを見つめる。


ミ:食事だっていうのに、恐い顔してるわよ。
ヒ:・・・。そんなことはないよ。




エスカルゴが出てきて、二人はワインを飲みながら食べる。


ミ:ねえ、なんか話して。楽しい話・・・。
ヒ:う~ん・・・そうだなあ・・・。


ミンスはエスカルゴを口に運びながら、ヒョンジュンの顔を見る。


ヒ:オレに、生き別れの姉貴がいたの、知ってる? (エスカルゴを殻から出している)
ミ:え? 知らない。ホント?
ヒ:うん・・・。ヘスがそう言ったんだ。ソルミに。
ミ:・・・。(なぜ?)

ヒ:ゴルフ場でソルミを見かけて、妊娠していないのがわかって、「私はヒョンジュンの生き別れの姉です」ってそう言ったんだって。彼女、驚いてたよ。
ミ:そう・・・お姉ちゃんが・・・。
ヒ:きっと、お腹がペッチャンコのソルミを見て頭にきたんだ・・・。
ミ:・・・。


ヒ:おまえはなんか楽しい話、ある?
ミ:う~ん、別に・・・。こうして二人でいることが楽しいことかしら。
ヒ:うん。


ミ:ラストディナー イン パリス・・・。今、そんな感じ?(笑う)そういえば、昔、二人で、「ラストタンゴ イン パリ」見たわね。
ヒ:そうだったね。ベッドで見たんだ。よかったな。

ミ:あなた、あそこのシーンが好きだったじゃない。お風呂で洗うシーン。(笑う)
ヒ:ああ。雨に濡れた彼女を風呂に入れてあげるシーンね。スポンジで、お腹や尻を洗ってあげるところね。あのくらい、広いバスルームがほしかったよ・・・。

ミ:そうね。狭くて実行できなかったわね。(笑う)退廃的なのに、今でもキラキラして見えるのはなぜかしら? おもしろいわね、映画って。古びてしまうものと、輝きを持ち続けるものの違いって何かしらね。
ヒ:うん・・・。

ミ:デザインもそう?
ヒ:だろうね。



ヒョンジュンは、ミンスを見て、ちょっとにこっと笑ったが、また、恐い顔をして、ワインを飲み干した。




ミンスは、さっきからヒョンジュンが浮かない気分でいることに、気がついている。


本当の気持ちを話してあげたほうがいいのだろうか。
別れてしまうことには変わりはないけれど・・・少し、ジフンのことを嫉妬しているヒョンジュンがいじらしい。




ミ:そうだ。一つ、とっておきの話があるわ。


ミンスがそう言って、ヒョンジュンを見つめた時、メインの地鶏が出てきた。



ミ:おいしそう。(笑う)皮がパリパリしてるわね。
ヒ:ホントだ。(ナイフとフォークを持って)何? とっておきって?

ミ:どうしよう。食欲が無くなるかしら。
ヒ:いいよ。言って。何を言われても食べるから。



ヒョンジュンの目が少し怒っているので、やはり、本当のことを話してあげよう。

ただ、私は泣かない・・・。

神様、
最後まで泣かないで話せますように・・・。



ミ:とっておき・・・。これって、悲劇か喜劇か、危うい路線だけど。(笑う)
ヒ:・・・。


ヒョンジュンがじっとミンスを見つめている。
ミンスは心を決めて一気に話し始めた。


ミ:笑っちゃうかもしれないけど。私の今、付き合っている彼は、ものすごくハンサムで背が高いの。身長186cm。カッコいいったらないのよ。スッチーの友達なんか、彼と付き合いたくてあの手この手を使って大変・・・。でもね・・・彼は私を好きなの。おかしいでしょう?
ヒ:・・・。


ヒョンジュンが燃えるような目をして、ミンスを見つめている。



ミ:それに、頭もよくて、お医者様をしているの。その上、やさしくて縁の下の力持ち・・・。ガンの子供たちと一緒に戦ってるのよ。すごくいい人・・・。私が元彼のデザインした服を着ていても、そんなことで怒ったり嫌な顔をしたりなんてしないの。そんなことより、私の心が早く元気になることを願ってくれてる・・・。
ヒ:・・・。(じっと見つめる)

ミ:そんな人って・・・この世の中、そうそういないわ・・・。韓国中探しても、世界中探してもね・・・。
ヒ:・・・。
ミ:それほど素敵な人よ。(ヒョンジュンを見つめる)


ミ:でもね・・・。ここからが、悲劇か喜劇か。そんなすごい人に愛されているのに・・・私はパリから帰ったら、お土産を渡して、彼を振っちゃうの・・・。(じっと見る)
ヒ:・・・。なぜ?


ミ:そんな素敵な人を・・・私みたいなバカな恋をしている人間が関わっちゃいけないと思うの。彼には、もっと素敵な人と恋をしてほしいの。幸せになってほしいのよ。
ヒ:・・・。
ミ:そう思うでしょ?
ヒ:・・・。(胸が痛い)


ミ:これって、悲劇か喜劇かわからないわね。でも・・・私は、自分の気持ちに忠実に生きたいの。そういうこと・・・。
ヒ:・・・。



ヒョンジュンがまたワインを飲み干した。


ミ:飲みすぎよ。
ヒ:大丈夫。
ミ:うん・・・あなたは、お酒に強いけど、体には注意してね。
ヒ:うん。



ヒョンジュンの空いたグラスにワインが注がれる。


ヒ:じゃあ、オレのとっておきの話をしてやろう。
ミ:まだ、あるの?(笑う)
ヒ:うん。これは出来立てのほやほや。まだ、昨日の話だ。(じっと見つめる)おまえは、オレのスクープを手に入れることができるよ。
ミ:すごいわ。人気デザイナーの今ね・・・。何?


ヒ:うん・・・。昨日、長年好きだった女に振られた。
ミ:・・・。
ヒ:それと、妻に、離婚を申し出た・・・。その二つ。すごいだろ?


ミンスは驚いた顔をして、ヒョンジュンを見つめた。


ヒ:感想は? これ、酔って言ってるわけじゃないよ。
ミ:わかるわ・・・。あなたは酔わないもの・・・。
ヒ:そういうこと。
ミ:でも、振られたのはともかく、離婚して、仕事はどうするの? 大切な仕事だったんじゃないの?
ヒ:うん。まだわからない。また、画家に戻れるかどうか・・・。でも、もうデザイナーは続けられないから。
ミ:なぜ?

ヒ:ホントに好きな女に三行半を突きつけられたから。もうデザインする意味がないんだよ。
ミ:でも・・・。
ヒ:オレがやらなくても、誰でもできるよ、デザインなんて。愛情と仕事を秤にかけちゃいけなかったんだ・・・。(じっと見つめる)

ミ:・・・。
ヒ:ただ、これは実行するのに、時間がかかるかもしれない・・・。相手がノーと言ったからね。


ミ:そう。それはすごい話ね。私、まだ夫婦っていうのがわからないけど・・・きっと、恋人にはないものがあるんだと思う。そう簡単には別れられるものではないと思うわ。(極めて冷静に言う)
ヒ:・・・。(じっと見つめている)
ミ:でも・・・。そう・・・それは大変ね、あなたも。私は、もう誰とも付き合わないの。ずっと一人でいる決心をしたの。

ヒ:・・・なぜ?

ミ:人生をやり直したいのよ。もっとシンプルに・・・。笑顔がいっぱいだった頃にはもう戻れないかもしれないけど、なんとかやってみるわ。
ヒ:・・・。
ミ:だから、心配しないで。(見つめる)


ヒ:今、おまえを好きな人は別れてくれるんだろうか・・・。
ミ:・・・。

ヒ:・・・。
ミ:そんな目をしないで。もう妬くことなんてないんだから。ね。
ヒ:・・・。



ヒョンジュンは黙って、またワインを一気に飲み干した。






「最後の晩餐」を終えて、ヒョンジュンがビルにサインをし終えて、イスから立とうとすると、彼はふらついて、少し前かがみになった。


ミ:ヒョンジュン、大丈夫?
ヒ:(深呼吸して)大丈夫。メルシ。


ミ:・・・。タクシー呼んでもらう? 酔ってるもん。
ヒ:いや、歩こう。おまえのホテルまではそう遠くないだろ?
ミ:まあね・・・。そうね、歩いて少し酔いを醒ましたほうがいいわ。




二人は、レストランの外へ出た。


ミ:肌寒いわね。(夜空を見上げる)
ヒ:大丈夫?
ミ:ええ。このくらいの冷たい空気のほうが、なんかホッとするわ。不思議ね。
ヒ:歩こう。




二人は並んで歩く。もう手はつながない・・・。



ヒ:パリに住みたい・・・昔、おまえ、そう言ったよな。
ミ:そうだっけ? ああ、あなたが絵を描いて、私がフランス料理を習うっていう計画ね。うん・・・。
ヒ:バリにも住みたいって言った。

ミ:・・・もう、バリはいらないわ・・・。
ヒ:・・・。
ミ:・・・。

ヒ:とりあえずは、パリまで来たわけだ。

ミ:そうね。バラバラになってね。二人だった時は遠かったのに、今のあなたなんか、しょっちゅう、来られるでしょ? 私も来ようと思えば来られる・・・なんか、皮肉ね。(笑う)
ヒ:この通りを・・・こんな気持ちで歩くなんて思わなかった。

ミ:・・・。一緒にいても、そうだったかもしれないわ。(笑う)
ヒ:・・・。(足元を見る)
ミ:ヒョンジュン、月もキレイよ。
ヒ:(顔を上げる)ホントだ・・・。



ヒョンジュンは通りの反対側に立っている女を見る。


ヒ:夜の女が立ってるね。
ミ:ホントだ。
ヒ:あの人たちも恋をするのかな・・・?
ミ:人に歴史ありよ。
ヒ:うん・・・。






しばらく行って、脇に入る道がある。
ヒョンジュンが腕を引っ張った。


脇に入った通りの、もう閉まった商店の壁に、ミンスを押し付けた。横にあるショーウィンドーの薄暗いスタンドの照明がヒョンジュンの顔を映し出した。彼の表情は苦しさに満ちていた。


ミ:・・・。(ヒョンジュンを見上げる)
ヒ:本当に別れたいのか。
ミ:・・・。
ヒ:本当にオレを一人にするのか。(怒った顔をしている)


ミ:酔ってるわね?
ヒ:酔ってないよ。



圧し掛かるヒョンジュンはがっしりと重くて、ミンスは動きがつかない。


ミ:もう別れているでしょ。
ヒ:心の中には、いろよ。
ミ:・・・駄目よ。
ヒ:・・・。
ミ:・・・もう、あなたの近くに、私は何も残さない。
ヒ:おい。(もっと圧し掛かる)
ミ:重いわ。


ヒョンジュンはもっと二人の距離を縮めて、体をぴったりとつける。


ヒ:いろよ。心の中ぐらい、いろよ。
ミ:・・・。
ヒ:いるって返事をしろよ。
ミ:・・・。(答えない)
ヒ:なぜ、答えない!
ミ:・・・。

ヒ:・・・ホントにその男とは、別れられる?
ミ:酔ってる。(睨む)

ヒ:酔って何が悪い。こんなに苦しいのに・・・。(深く呼吸をする)
ミ:・・・私、一人になるって言ったでしょ?

ヒ:本当に、他の男を好きだったの?(苦しそうに呼吸する)
ミ:違うわ。私を助けてくれたの。私の壊れそうな心をね。
ヒ:・・・。
ミ:大切な友達よ。

ヒ:ホントかな・・・。そいつと寝た? 
ミ:何を言うの!

ヒ:そいつと寝たの?
ミ:そんなこと、しないわ。


ヒ:だったら、そんなやつに、心なんて奪われないで。
ミ:だから・・・一人になって・・・。

ヒ:ミンス・・・。オレのミンス。


ヒョンジュンはミンスの首筋に顔をつけて、抱きしめる。



ミ:・・・。
ヒ:オレと一緒にいろよ・・・心ぐらい残していけよ。
ミ:・・・。



ヒョンジュンがミンスのスカートの中に手を入れた。


ミ:ヒョンジュン・・・やめて。ここは公道よ。
ヒ:どこでならいいの?
ミ:・・・。
ヒ:・・・。
ミ:もう帰りましょう。

ヒ:どこでならいいんだ?
ミ:酔ってる・・・。

ヒ:・・・。(じっと見下ろす)朝まで一緒にいよう。
ミ:・・・。



ヒョンジュンは、ミンスに体重をかけて抱きつくように立っている。


彼は酔っている。
もし、ここで彼を押したら、そのまま、この歩道に倒れて、朝を迎えてしまうだろう・・・。

ミンスは、ヒョンジュンを捨て置くわけにもいかず、自分のホテルへ連れて帰った。









薄っすらとほの暗い中で、ミンスは目が覚めた。

酔ったヒョンジュンを抱いたまま、寝てしまった。ミンスのシャツは胸がはだけて、そこにヒョンジュンの顔があった。少し胸を寄せると、乳房にヒョンジュンの唇が触れた。彼は軽く寝息を立てて眠っている。



夜明けまでにはまだ時間がある。

ミンスはゆっくり体を離して、起き上がった。

スタンドを一つだけつけて、帰国の準備をする。今日、着る服だけ出してハンガーにかけ、あとのものをスーツケースにしまう。今、着ている服を脱いでスーツケースにしまうと、ミンスは、シャワーを浴びにバスルームに入った。



ミンスがシャワーを浴びて、バスローブを着て、部屋に戻ってきた。

ヒョンジュンはまだ、寝息を立てて眠っていた。
静かに荷物を片付け、部屋に用意された魔法瓶から、紅茶を入れる。

カップを持って、窓の外を覗く。



まだ街は、眠りの中にあった。
日の出までには、少し時間がある。

今は、昨日と今日の始まりの狭間だ。
日が昇ったら、私は新しい人生を生きよう。





後ろから、ヒョンジュンの声がした。


ヒ:起きてたの?
ミ:うん?(振り返る)目が覚めた? まだ、5時前よ。日の出前。寝ていてもいいわよ。
ヒ:うん・・・。シャワー借りてもいい? 昨日は、久しぶりに酔ったよ。

ミ:うん、どうぞ。バスタオルもバスローブも、歯ブラシも2人分あるから、使っていいわよ。
ヒ:うん。



ヒョンジュンはゆっくり起き上がって、服を脱ぎ、下着になって、バスルームへ向かった。

ミンスはそのまま、窓のほうを向いて、一人がけのソファに座り、ゆっくりと紅茶を飲んだ。




ヒョンジュンがバスルームから出てきた。

ミンスは気配を感じて後ろを向いた。


ミ:出たの?
ヒ:うん。
ミ:紅茶のティバッグがあるの。飲む?
ヒ:うん。



ミンスは立ち上がって、紅茶を入れる。
ヒョンジュンが窓際へ来て、窓の外を覗く。


ヒ:まだ、街は寝てるんだ。
ミ:そうね。はい。お湯が熱いわよ。
ヒ:ありがとう。



ヒョンジュンがフーフーと冷まして、紅茶を飲む。それを、目の前でミンスが見ている。彼は猫舌のままだ・・・。
ヒョンジュンは半分ほど飲んで、近くのテーブルにカップを置いた。
目の前のミンスを見て、彼女のバスローブの紐を解いた。

紐が解け、前がはだける。彼女は下には何も着ていなかった。
ヒョンジュンは、自分のバスローブを脱いだ。



ミ:抱きたい?
ヒ:うん・・・。
ミ:・・・。


ヒョンジュンが、ミンスのバスローブを脱がす。


ヒ:・・・。(ミンスを眺める)
ミ:もうすぐ日が昇るわ。私は新しい道を行かなくちゃならないの・・・。
ヒ:・・・。



ヒョンジュンがミンスをベッドのほうへ手を引く。



ヒ:まだ、日の出まで時間はあるよ。
ミ:・・・。
ヒ:それまでは二人の時を過ごそう。



ヒョンジュンがベッドに座り、目の前のミンスを抱く。


ヒ:おまえは、キレイなままだね・・・。


ヒョンジュンがミンスを抱いたまま、二人はベッドへ倒れこんだ。


ヒ:ホントにおまえはキレイだ。
ミ:・・・。







ベッドの中から、オレンジ色の日の出を、ミンスは一人、眺めた。
もう、ヒョンジュンはここにはいない。



新しい日が始まった。

瞳はうるんだが、もう涙は流さなかった。


彼が心に愛を残していってくれたから・・・。








11部へ続く





注)「ルーブルの窓」のフォトは、「恋がいた部屋」を連載していた当時,
友人が実際に行って撮影したフォトをお借りしたものです。
Thanks for nanamaria ( nanakiara )



2009/09/09 01:17
テーマ:【創】恋がいた部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋がいた部屋」9部




BGMはこちらで^^






BYJシアターです。
本日は「恋がいた部屋」9部です。

やっぱり~途中で分けにくい^^
ということで、長そうと思った人は、自分で分けて読んでください^^



二人の気持ちは大きく揺れています・・・。






これより本編。
どうぞ、お楽しみください。



~~~~~




終わらせたはずの恋を

あなたは
蒸し返す


自分から
別れたのに


なんで今さら・・・


私の心は
痛いです


苦しくて
苦しくて

今にも
溺れそうです

助けて

あなたがいなくても
生きられるわ

生きていくわ


お願い
行かせて・・・


お願い・・・


もっと

そばにいて・・・







ミンスのホテルの部屋のベッドの上に、ヒョンジュンとミンスは向かい合って座っている。
ヒョンジュンが愛しそうに、ミンスを見つめている。




主演:ぺ・ヨンジュン
   チョン・ジヒョン   
  

【恋がいた部屋】9部





ヒョンジュンの手がそっとミンスの肩に触れた。
今までなら、簡単に触れられたミンス・・・。
ベッドの上で向かい合ってみると、今のミンスは、とても遠い人のような気がする。二人の間には、もうはっきりとした仕切りがあって、それを簡単に乗り越えることができない・・・。

自分から去っていったのに・・・今のヒョンジュンは、触れたくて触れられないもどかしさに、余計ミンスが恋しい。ミンスへの愛しさが募ってくる。


ヒ:ああ・・・。(ため息をもらす)


ヒョンジュンがミンスの肩を撫でた。
ミンスはやるせない目をして、ヒョンジュンを見ている。


ミ:なんで、あんなものを発表しちゃったの・・・?
ヒ:・・・。おまえもソルミも来る予定じゃなかったから・・・。オレが一番ほしいものを描いただけだよ・・・。
ミ:・・・。今でも・・・ほしい・・・?
ヒ:・・・うん・・・。(寂しく笑う) でも、こうしてみると・・・おまえにはもう、手が出せないんだね・・・。

ミ:・・・。私だけじゃなく、ソルミさんも傷つけるエゴイストのくせに・・・。
ヒ:・・・。ホントに・・・。
ミ:常識的になるのね・・・。
ヒ:おまえをまた傷つける・・・。
ミ:・・・。
ヒ:・・・。

ミ:帰ったほうがいいわ・・・。彼女が心配しているわ。あんなものを見せられたんだもの・・・。きっと辛いはずだわ・・・。
ヒ:・・・。オレはおまえといたいんだ。
ミ:私を愛人にするの? 2番目の女? 人気デザイナーの愛人・・・。

ヒョンジュンは俯いた。愛するミンスをそんな立場にはできない。

ヒ:おまえをそんな立場にはできないよ。
ミ:そう思っているなら、なぜ、私を追ってきたの? 周りの人はもうおかしいと思っているわ。恋も仕事もほしいなんて・・・そんなこと、もう許されないのよ。
ヒ:・・・。
ミ:もう少し大人になって。
ヒ:・・・。

ミ:もう終わりにしましょう。

ヒョンジュンが燃えるような目をして、ミンスを押し倒した。


ヒ:終わりになんかできない。(ミンスを見下ろす)
ミ:・・・。(睨むように見つめる)
ヒ:忘れることができないんだ。現におまえだって、こうしているじゃない。


ヒョンジュンは、ミンスの髪を撫でて、顔を見つめてから、ミンスの胸に顔を埋める。
ミンスもやさしくヒョンジュンの頭を抱くが、切なさに涙が流れる。


ミ:ヒョンジュン・・・。
ヒ:おまえがいなくなったら、心が空っぽになる・・・。


今、ミンスの上に覆いかぶさったヒョンジュンの温もり、どっしりと体にかかる重さ・・・。
懐かしさに、ミンスは全てを委ねたくなる・・・。


ミ:ヒョンジュン、やめて。
ヒ:・・・。(ゆっくりと顔を上げる)
ミ:駄目よ。

ミンスはヒョンジュンを押し退けるように、力いっぱいヒョンジュンを押す。


ミ:駄目よ。こんなことしちゃ。
ヒ:ミンス・・・。


こんなことしちゃ駄目・・・。
本当に私がほしいなら、正々堂々きて・・・。


ミ:ねえ、ねえ、駄目よ。
ヒ:・・・。

ヒョンジュンは嫌がるミンスの顎を掴んで、力づくでキスをする。ミンスがもがくので、ヒョンジュンは、ミンスの両手を、ミンスの頭の上のほうへ押さえつけた。

長いキスをして、二人は見つめ合う。


ヒ:・・・。(少し恐い顔をして見つめる)
ミ:・・・もう帰って。(負けない)
ヒ:・・・。

ヒョンジュンが荒く息をする。


ミ:帰って・・・。わかって、私の気持ち。
ヒ:・・・。


ミンスの顔の上にヒョンジュンの涙が落ちた。


ミ:諦めて。私のことは諦めて。ヒョンジュン、ほしいものを全部持ってる人なんていないわよ。手に入らないものもあるわ・・・。
ヒ:・・・。
ミ:もう行って。今日は打ち上げか何かあるんでしょ? (やさしく言う)今なら、間に合うわ。ね、ホストがいなくちゃ駄目よ。皆、待ってるわ・・・。
ヒ:ミンス・・・。(悔しそうな、悲しい目をしている)
ミ:・・・ね・・・。


ヒョンジュンがミンスの手を放した。
ミンスは、やさしくヒョンジュンの髪を撫でた。その指で、ヒョンジュンの顔をなぞる・・・。
唇に触れる。ミンスはじっとヒョンジュンの唇を見た。

大好きだった唇・・・。

また、上からヒョンジュンの涙が落ちてきた。
ミンスがヒョンジュンの目に視線を動かす。上からじっと見下ろしているヒョンジュンの目がやるせない。ミンスは少し微笑んだ。


ミ:泣かないで・・・おバカさん・・・。(涙を拭ってやる)
ヒ:・・・。
ミ:打ち上げをすっぽかしちゃ駄目よ。・・・さあ、起きて。
ヒ:・・・。
ミ:・・・。(優しい目をする)


ミンスはヒョンジュンの首に腕を回して、ヒョンジュンの頭を引き寄せて、抱きしめた。
二人はしっかりとお互いを抱きしめた。




玄関に立ったヒョンジュンのスーツのジャケットを後ろから、ミンスが直す。ヒョンジュンがミンスのほうを振り返る。
ミンスはヒョンジュンの顔を見ないで、ジャケットの襟を引っ張って、襟を直す。胸の辺りをちょっとはたいて全体を見る。

ミ:これでいいわ・・・。もう行きなさい・・・。
ヒ:・・・。(まだ本当は行きたくない)

ミ:ヒョンジュン・・・。ありがとう・・・。あのマリエは素敵だった・・・。素敵なショーだった。招待してくれてありがとう・・・。
ヒ:・・・ミンス。
ミ:もう行って。あなたのための会に、穴を開けちゃ駄目よ。
ヒ:・・・うん・・・。



ヒョンジュンは、ミンスに押し出されるように部屋を出た。
ホテルの前から、タクシーに乗り、打ち上げ会場へ向かう。

タクシーの窓の外の景色を見る。
少し気持ちが揺らいで、涙がこぼれたが、さっと拭って、次の瞬間、大人の男の顔になった。






ミンスは一人、ホテルの部屋に佇んだ。
まだ、ヒョンジュンの温もりもニオイも残っていた。


自分の選択は正しかったのか・・・。

彼しか愛せないのなら、愛人でもなんでもなればいいじゃないか・・・。

ヒョンジュンはさっきまでここにいた。久しぶりに、彼の体の重みを感じて、ミンスは抱かれたいと思った。
それなのに、彼を追い出して・・・自分の心さえ晴れない・・・。

さっき、受付でもらった手紙・・・。

ミンスは、バッグから封筒を取り出す。

読もうか・・・捨てちゃおうか・・・。

ゴミ箱の前まで行くが、ミンスは捨てることができなかった。


ベッドに座って封筒を開ける。


「ミンスへ

今日は来てくれてありがとう。
君とこうして、パリで出会ってしまうとは考えていなかったので、僕は、今日のコレクションでは、自分の一番描きたかったものをマリエに選びました。

君は怒るだろうか。
動揺するだろうか。

一昨日、君に偶然出会って、どうしても、君に見てほしくなった。僕の心のうちを。
君は僕をズルイと言ったけど・・・これが僕の心の中です。

僕は本当にズルイです・・・。

でも、君のいない世界を考えると、とても生きていけそうにありません。
君と別れたあとでも、君は僕の心の中にずっと住んでいました。

新しい仕事を始めるときに、励ましてくれたのも君だった・・・。

僕が何をデザインしたらいいか、迷ったとき、心の中の君が「私を描いて・・・」と僕に囁いた。

朝、コーヒーを飲もうとすると、「朝はカフェインの強いアメリカンの方が目が覚めるわよ」と君が囁く。

部下に何か陣中見舞いをと考えると、心の中の君が「ケーキにしたら」とアドバイスする・・・。

離れてしまったというのに、君は僕の中でどんどん大きくなって、僕の行くところ、どこにでもいて・・・僕に囁きかけるんだ。

でも、本当に再会した君は、妻を持ってしまった僕とは、一線を引いたところにいた。
それは、とても辛かった・・・いつも・・・一緒にいたはずなのに・・・。  

僕のこの気持ちが、君を困らせているね。君が出直そうとしているのを引き止めて・・・ごめん・・・。

最後に、我儘を言わせてください。

二人で行きたかったルーブルへ一緒に行ってください。

お願いです。

一つだけ、僕に思い出を残してください。

君がこの手紙を読まなくても、君が来なくても・・・僕は、ルーブル前のテュイルリー広場で待っています。

明日、午後1時。僕は、そこにいます。

ヒョンジュン」



ミンスは、涙で手紙の文字を滲ませながら、最後まで読んだ。

言葉にならない思い・・・。
ヒョンジュンへの思いを自分の中で整理してまとめることができない・・・。

彼に会うことがいいことなのか。会わずに去ったほうがいいことなのか・・・。

ヒョンジュンの最後の我儘。  

ジフンが言ったように、ルーブルに私の恋の終わりがある・・・。

悩むことはないわ・・・。
私には行くという選択しかないから・・・。
たとえ、今日の私の態度で、あなたが心変わりしても、私は行きます・・・。

あなたに会いに。
行かずにはいられないから・・・。







ヒョンジュンが打ち上げの会場からホテルに戻ると、ソルミがロビーで待っていた。


ソ:ヒョンジュン!(ソファから立ち上がる)
ヒ:・・・。どうしたの? (驚く)
ソ:・・・何してたの?

ヒ:スタッフと打ち上げ。
ソ:そう。
ヒ:どうしたの? 明日、帰る準備は? 友達は?

ソ:皆がね、あなたの晴れの日だから会いに行けって言うのよ。
ヒ:そう・・・食事は?
ソ:してきた・・・。
ヒ:うん・・・。

ソ:今日、泊まってもいいのよ・・・。(じっと見つめている)
ヒ:・・・。部屋へ行く?
ソ:うん・・。


エレベーターを待って、二人で乗り込む。
ソルミがヒョンジュンに抱きついた。ヒョンジュンはやさしくソルミを抱きしめた。






ミンスは、ジフンからの電話を受けて、明日ルーブルに行って、明後日、韓国に帰ると伝え、電話を切った。それ以上、彼には説明しなかった。

韓国へ戻ったら・・・彼にお土産を渡して・・・それで、ジフンとは別れよう。

彼に頼っていたら・・・きっと私は、自分の気持ちをごまかして、ジフンと付き合っていくに違いない。

あんなにやさしい彼・・・。

きっと、本当の相手は私ではないわ・・・もっとやさしい人・・・もっと彼を愛してくれる人・・・そうでなきゃ・・・。

もう一度、本当に一人になって出直そう。

あの部屋も引き上げよう・・・。
恋がいた部屋・・・私の夢がいっぱいだった部屋・・・もうそこに留まってはいけないわ。

寂しくても、それが自分を立て直す一番の道だわ。
甘えてはいけない・・・あの人に・・・。だって、私の心が一番にあの人を愛せないから。







ソ:ヒョンジュン・・・。

ベッドの上で、仰向けに寝転んでいるヒョンジュンの胸に、ソルミが頬を寄せた。


ソ:怒ってないわ・・・私・・・。
ヒ:・・・。
ソ:あのマリエはちょっとショックだったけど・・・。
ヒ:・・・。

ソ:あなたが愛してくれるのを待つ・・・。
ヒ:・・・。


ヒョンジュンが少し頭を上げて、ソルミの顔を見た。


ヒ:君にしては、ずいぶん殊勝なことを言うんだね。
ソ:あなたを恨めないの・・・。
ヒ:君が最初に、うそをついたから?
ソ:・・・。

ヒ:もうそんなことを考えなくてもいいよ・・・。
ソ:そう? (意外に思う)

ヒ:もうとっくに終わったことだ・・・。
ソ:なら・・・。


ソルミが起き上がった。


ソ:私たち、やり直せる?
ヒ:・・・。

ソ:・・・ヒョンジュン・・・?
ヒ:・・・ごめん・・・。

ソ:・・・ヒョンジュン?

ヒ:また、ソウルへ帰ってから、話し合おう。
ソ:ここでは駄目なの?
ヒ:帰ってから・・・。さあ、送っていくよ。


ヒョンジュンが起き上がった。
ソルミは、立ち上がった夫を見上げた。彼には、自分への愛は残っていない・・・。


結婚して2ヶ月。
それが二人の幸せな時だった。ヒョンジュンは、ソルミが妊娠していると信じていたし、夫らしく妻をかばい、やさしく愛してくれた・・・。しかし、時が経っても、変わらぬソルミのお腹を見て、ヒョンジュンが「病院へ行ったほうがよくないか。どこかおかしかったら、マズイよ」と言い出した辺りから、二人の間には気マズイ空気が流れた・・・。
ヒョンジュンがソルミの妊娠がうそだったということを確信したときから、二人の関係は、決定的に崩れた。

ヒョンジュンは、もうやさしい夫ではなくなったし、ソルミを抱くこともなくなった。
そして、ベッドでは眠らず、リビングのソファで眠った。

それでも、ソルミはそれもただの我慢比べだと思って、高をくくっていた。最初の2ヶ月は、素敵だった・・・。あの時のヒョンジュンをソルミは忘れることができない。あのヒョンジュンがいつかまた戻ってくると信じていた・・・。でも、彼は本気だった・・・。
彼は、二度と彼女のもとへは戻らなかった。



ソ:ここで寝かせて。
ヒ:帰りなさい。送っていくから。僕が送っていけばいいでしょ? 友達にも挨拶するよ。
ソ:そんなことじゃないの! 
ヒ:・・・。

ソ:いさせて!
ヒ:・・・。

ソ:もう駄目なの? あの女とまだ関係があるの? (訝しそうに見つめる)
ヒ:・・・。
ソ:そうなの?

ヒ:・・・君は来るべきじゃなかった・・・。彼女は全く関係ないよ。彼女の気持ちも関係ない。僕がまだ彼女を好きなだけだ・・・。

ソ:私たち、うまくいってたじゃない・・・。
ヒ:・・・失ったものは戻らないよ。
ソ:なぜ、あの女への気持ちは戻るの?

ヒ:・・・。ソルミ・・・ごめんよ・・・結婚すべきじゃなかったね。
ソ:・・・。
ヒ:僕は、君と生まれてくる子を不幸にしたくなかった・・・。でも、その前に、もっと考えなくちゃいけなかったんだ・・・自分の本当の気持ちを。

ソ:(不安そうに)・・・離婚するの・・・?
ヒ:・・・。うん・・・。(俯く)
ソ:そんなこと・・・あなたにできやしないわ・・・お父様や私の後ろ盾がなかったら、あなた、やっていけないもの。
ヒ:・・・そんなものはもういらないんだ・・・。君だって、不幸だろ? もっとちゃんと愛してくれる人とやり直したほうがいい・・・。

ソ:でも、お父様が・・・。
ヒ:僕の代わりなんて、いくらでもいるよ。本物のデザイナーを探せばいい。
ソ:そんな・・・。あなたは本物よ・・・。
ヒ:でも、君を喜ばすことができない・・・。そんな夫なんて捨てたほうがいい・・・。

ソ:・・・いや!
ヒ:・・・。
ソ:絶対いや! 今の話はなかったことにするわ! 絶対いやよ! もう帰るわ! あなたの言うことを聞く! 聞くから、別れるなんて言わないで!
ヒ:ごめん・・・。
ソ:一人で帰るわ。ヒョンジュン、私、そんな簡単にあなたを諦められないわ! もう帰るわ。
ヒ:ソルミ!  

バッグとコートを掴んで、ドアへ向かうソルミの腕を、ヒョンジュンが掴んだ。


ヒ:送るよ。(じっと見る)
ソ:・・・バカ!

ソルミはヒョンジュンの胸に顔をつけて、声を立てて泣いた。







翌日、ソルミの一行は、パリを発った・・・。



ヒョンジュンは、時計を見る。

もうすぐ午後1時だ。
ミンスは来るだろうか・・・。

時計から顔を上げると、前方からミンスがヒョンジュンのことを見つめていた。
ヒョンジュンのデザインした服を来て、長い髪を風になびかせて、ミンスが立っていた。

ミンスはヒョンジュンの前に来て、じっと彼の顔を見つめた。
ヒョンジュンは切なそうだけれど、うれしそうに微笑んだ。ミンスもやさしい笑顔で微笑み、ヒョンジュンに向けて、手を差し出した。


ミ:行きましょう。  

二人は昔のように、手をつなぎ、ルーブルへ向かった。




ミ:ねえ、ダビンチコースっていうのがあるみたい・・・。(案内を見せる)
ヒ:ホントだ・・・。広くて、一日じゃ見切れないね。
ミ:うん・・・。
ヒ:まずは、どこを見るかな・・・。(案内を見る)



二人は、つないだ手で、お互いを引っ張り合いながら、絵を見て歩く。
そして、時々、見つめ合って微笑んだ。

自分の好きな絵の前で立ち止まり、じっと絵を見入る。お互いに好きなものを相手に見せた。

久しぶりに、ヒョンジュンは画家に戻り、ミンスにうんちくを語った・・・。


4階に上がって、ふと見ると、窓から、ルーブルの向こう側の建物が見えた。


ミ:なんか、この窓の構図だけでも素敵・・・。
ヒ:うん・・・。


ミンスが窓際へ行って、窓の外を覗く。


ヒ:おまえは窓が好きだね。(少し笑う)
ミ:うん・・・外の景色を見るのが好き・・・。空があって、世界が開けていく感じが好きなの・・・。でも、時々・・・部屋の中が変わっていても、窓から見ている景色がいつもと同じだと、自分の周りがすっかり変わっていることに気づかない時があるわ・・・。

ヒ:・・・。(胸が痛い)

ミ:いつもの景色を見て、振り返ったら、何にもなかったってね・・・。エンプティ。空っぽ・・・。
ヒ:・・・。

ミ:それでも、窓は好きよ・・・。(窓の外を眺める)
ヒ:・・・。(切ない)

ミ:ヒョンジュン。私ね、大学のフランス語の授業で一番最初に出てきたのが、「セッタン ミューゼ」(ここは美術館です) ここは・・・「セッタン ミューゼ デゥ ルーブル!」 やっと使えたわ! (笑ってヒョンジュンを見る)

ヒ:やっと、来たね・・・二人で・・・。見たいところがいっぱいで・・・時間が足りないね。

ミ:うん・・・いつか、また一人でゆっくり来るわ・・・。
ヒ:・・・一人で?
ミ:うん・・・(頷く) 一人で・・・。
ヒ:誰かとおいでよ。(悲しい)
ミ:うううん・・・ここは、あなたと私の夢の実現だから・・・。次は、一人で来る・・・。
ヒ:・・・。


ヒョンジュンは胸がいっぱいになって、じっとミンスを見る。


ミ:まだまだ、見たいものはあるの。早く回らなくちゃ! 時間が勿体ないわ。行きましょう。


ミンスがつないだ手を引っ張る。

ヒョンジュンは、「うん」と頷いて、ミンスに手を引かれ、二人はまた、歩き出した。







10部へ続く





2009/09/08 00:48
テーマ:【創】恋がいた部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋がいた部屋」8部-2




BGMはこちらで^^





BYJシアターです。
本日は「恋がいた部屋」8部-2です。


これより本編。
続きをどうぞ、お楽しみください。


~~~~~






なんでそんなに
見つめるの

なんでそんなに
私を求めるの


もう終わったことと
諦めて


どうか
私の心を
解放して

どうか
もう
そっとしておいて・・・



お願い


どうか
もう・・・





どうか・・・


ずっと

私を
愛していてください











主演:ぺ・ヨンジュン
   チョン・ジヒョン
   
【恋がいた部屋】8部-2







翌日は、少し心が落ち着かなかったが、ミンスは精力的に仕事をこなし、明日のヒョンジュンのファッションショーへ行く準備をした。

ショーは夕方からだったので、仕事での会食用に持ってきたドレスをホテルのドレッサーからとり出した。

鏡の前で合わせる。

やっぱり、これにしよう。

それは、H(アッシュ)・joonのもので、まるでミンスのためにあつらえたように、ミンスを美しく見せるロング丈のドレスだった。モスグリーンの色合いは、ミンスの肌をキレイに映し出す色だったし、腕の長さも測ったように、彼女にぴったりだった。それに合わせて買ったコートを羽織る。コートから少し出る裾もまるでコートのデザインのように美しく決まった。

これを購入した時、店員が試着するミンスを見て、うれしそうに微笑んだ。

「こんなに絶妙なバランスで着られるお客様って少ないんですよ。皆さん、少し丈を上げて、バランスを取るんです。」


ヒョンジュンのお祝いだもの・・・これを着ていこう・・・。
これも、着納めかな・・・。もう、ヒョンジュンの服は捨てよう・・・。

もう、これで終わるんだ・・・。


ミンスは、鏡に映る自分の姿を名残惜しそうに見つめた。


自分の目で恋の終わりを確認する・・・。
もう、口には出さない・・・。

たとえあなたが、心から去らなくても、私はこれで終わりにするわ・・・。
だから・・・あなたが・・・本当は、まだ私を好きでも・・・終わりにしなくちゃ駄目よ・・・。

それが、これからのあなたの幸せだから・・・。

わかってる・・・私を好きだってことは・・・。
でも、終わりにしましょう・・・。




ミンスは首から提げていた純金のリングを外した。
手の中のリングを見る。


じっと思いに耽っていると、携帯が鳴った。


ミ:もしもし?
ジ:生きてる?
ミ:うん。大丈夫。
ジ:声がしっかりしてるな・・・。なんかあった?
ミ:なんかって?
ジ:うん? なんか・・・昔のミンスが戻ってきた感じがしたから。

ミ:戻ってきた?
ジ:元気がさ・・・。ルーブルは行ったの?
ミ:まだ。仕事ばかりしてたから・・・。明後日行って、帰るわ。
ジ:そうか・・・最後に行くのか・・・。(しんみりと言う)
ミ:どうしたの? しんみりしちゃって。
ジ:いや・・・。君の恋の終わりがあるのかなと思って・・・ルーブルに・・・。


ミンスは胸が詰まって、言葉が出なくなった。


ジ:ごめん、変な言い方して。まだ、ホントの元気じゃなかったね。うん・・・元気になる途中で、こんなことを言っちゃいけなかった。ごめん・・・。

ミ:ジフン!
ジ:・・・何?

ミ:あなたは、最高の人よ!
ジ:・・・。
ミ:ありがとう!(泣き声になる)

ジ:・・・。元気出せよ。
ミ:うん!


そう言うと、ミンスは電話を切った。


こんなに温かいあなたを一番に愛せたら、どんなに幸せだっただろう・・・。
何も失わず、心豊かに暮らせたはずよね・・・。
ホントにあなたほどの人はいないわ!

鏡に映った自分を見る。

ヒョンジュンのドレスをいつもまとっている自分を、丸ごと、愛してくれるジフン!

あなたほどのやさしさも包容力も、私にもヒョンジュンにもないわ!

私たちにあるのは、自分だけの「恋人」、自分だけを愛してくれる「恋人」を手に入れようとする気持ちだけ・・・。
うううん、それは、「ヒョンジュンと私」でなければ駄目なの。私たち、二人でなければ駄目なのよ!


ミンスは、ヒョンジュンへの思いを断ち切る苦しさに、声をたてて泣いた。








ショーの当日のヒョンジュンは朝から忙しかった。朝9時から、会場になるクラブハウスに入り、綿密な打ち合わせをし、モデルたちの衣装を確認した。
ときどき、ミンスのことが頭を過ぎったが、それをゆっくり考えている時間がなかった。

とうとう、5時近くになって、いよいよ開演の準備に入った。


スタッフがヒョンジュンのもとへ飛んできた。


ス:先生!
ヒ:何?
ス:奥様とお友達の皆さんがいらっしゃいました。
ヒ:え?
ス:それで、右側前列を皆さんにお取りしたんですが、それでいいですよね?
ヒ:あ、そう・・・。ありがとう。


やはり、ソルミはやって来た。
舞台の袖から覗くと、ソルミが楽しそうに遊び仲間と話している。一人がヒョンジュンを見つけ、ソルミに声をかけた。ソルミがヒョンジュンのほうを見て、うれしそうに手を振った。ヒョンジュンはちょっと作り笑いをして、袖に引っ込んだ。

控え室で、スタッフと打ち合わせをしていると、ソルミが入ってきた。


ソ:ヒョンジュン!
ヒ:来たのか。
ソ:当たり前でしょ? 断られても来るわよ。晴れの舞台だもの。いい感じね、ここ。
ヒ:ああ。
ソ:何よ。(笑う)まあ、あなたには迷惑をかけないわ。あなたが言う通り、ちゃんとお友達と一緒にきたんですもの・・・。今日はこの後、皆でお食事に行くの。それから明日はお買い物・・・。これなら、いいでしょ?
ヒ:・・・うん。

ソ:あなたのドレス、着るべきだったかしら・・・。でも、どれも似合わないの・・・。今度こそ、妻に似合う服を作ってね。(睨む)
ヒ:・・・。もう行ったら。もうすぐ始まるよ。
ソ:・・・うん・・・。じゃあね。頑張って! (スタッフに気づいて)あ、皆さんも頑張ってね!


ソルミが客席へ戻っていった。


ス:奥様はいつも元気ですね。
ヒ:ふん。(鼻で笑う) じゃあ、頑張っていきましょう!
ス:はい!



ミンスは、開演ぎりぎりの時間を選んでやってきた。準備は早めにしていたが、このショーをソルミが見に来ないという言葉が信じられなかったから・・・。
もし、ロビーでばったり出会ってしまったら、ヒョンジュンと自分のことを疑われるだろう・・・。

ミンスは人気のなくなった受付へやってきた。

ミンスが会場へ入ってくると、受付のスタッフ2人が驚いたように、ミンスを見つめた。
裏から出てきたスタッフも、ミンスを見ると、ぎくっとして、じっと見つめた。


ミ:お願いします。(招待状を見せる)
ス:こちらにご記帳願います。


ミンスはペンを持って、ちょっと考えたが、本名で書くことにした。

ス:キム・ミンス様ですか?
ミ:ええ・・・。
ス:あのう・・・こちらに、ヒョンジュン先生から、お手紙を預かっております。

ミ:そうですか・・・。


スタッフがミンスに封書を手渡したが、その手は、少し震えた。
ミンスが「え?」という顔をして、スタッフを見つめると、スタッフは顔を赤らめた。


ス:コートはあちらのクロークへお預けください。
ミ:そう・・・ありがとう・・・。


ミンスがクロークへ移動していくのを、スタッフたちがずっと見つめている。

ミンスはドアを開け、会場に入った。

その後ろ姿を見て、スタッフたちが顔を見合わせた。


ス1:あの人だよね、きっと。
ス2:そっくりだもん・・・。あの人なんだ・・・。あの人のために作ったんだ・・・。
ス1:でも・・・ソルミさん、来てるわよ。

スタッフは、顔を見合わせた。


会場の中は、少し薄暗かったが、ソルミが一番前を陣取っているのが見えた。ミンスは見えないように、ソルミ側の一番後ろに座った。


ショーが始まり、新作が続々と登場した。
どれも、ミンスの好みのデザインだった・・・。

でももう、これを買うことはないだろう・・・。

最後に会場が一段と暗くなって、最後のマリエ(花嫁衣装)が出てきた。

ゆっくりと、ゆっくりと、前へ歩いてくる・・・。

ミンスは、そのモデルに見入った。

それは・・・ミンスだった・・・。ミンスにそっくりな20ぐらいの東洋人・・・。
真っ白なウエディングドレスで、無表情にゆっくりと歩く・・・。

後ろから、細身の黒のスーツに白シャツ、ノーネクタイのヒョンジュンが現れた。

会場に、拍手と歓声が沸き上った。

後ろから来たヒョンジュンの腕に、マリエが腕を通す。

暗闇の中から、ミンスはヒョンジュンをじっと見つめた。
ヒョンジュンからも見えるのだろうか・・・。ヒョンジュンがミンスの方を見つめて、微笑んだ。

ミンスは息苦しくなって、立ち上がった。そして、ドアに向かう。
ドアのところに立っていたスタッフがミンスを呼び止めた。

ス:すみません。今、開けられません。光が入るので、3分ほどお待ちください。


ドアに貼りついたようにミンスは立ち尽くした。

ショーが終わり、会場のライトが点灯する瞬間、ミンスは逃げ出すように、会場を飛び出した。

ヒョンジュンはその後ろ姿を見つけて、控え室から、ミンスを追う。


ス:先生!
ヒ:ご苦労様!予定通り、皆で打ち上げに行って!
ス:先生は?
ヒ:後で・・・後で連絡します! ご苦労様!



ミンスは、クロークでコートを受け取り、足早にクラブハウスのタクシー乗り場へ急ぐ。


最後のマリエに、ミンスは衝撃を受けた。

どうしたらいいの・・・。どうしたら・・・。


タクシーを待ち、乗り込もうとすると、後ろから男が押した。

驚いて振り返ると、ヒョンジュンだった。
ヒョンジョンが一緒に乗り込み、タクシーは発進した。


隣に座ったヒョンジュンは、何も言わず、じっと前を見ている。

ミンスは涙を浮かべながら、ヒョンジュンの横顔を見た。
ヒョンジュンがやさしくミンスの肩を抱いた。

ミンスは、ヒョンジュンの方へ体を向き直して、両手でヒョンジュンの顔を包んだ。
ヒョンジュンと近い距離で見つめ合う。


ミ:エゴイスト!
ヒ:・・・。

ミンスは泣きそうな顔で、ヒョンジュンの顔を引き寄せ、熱いキスをした。




9部へ続く・・・




2009/09/07 00:36
テーマ:【創】恋がいた部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋がいた部屋」8部-1




BGMはこちらで^^





BYJシアターです。
本日は「恋がいた部屋」8部-1です。

自分で1話を半分ずつにといいながら、なかなか気持ちの流れがあるので、
切りにくいですねえ・・・。

でも、半分こでいきます^^




パリで出会ってしまった二人・・・。
では続きをどうぞ!


これより本編。
どうぞ、お楽しみください。


~~~~~






なんでそんなに
見つめるの

なんでそんなに
私を求めるの


もう終わったことと
諦めて


どうか
私の心を
解放して

どうか
もう
そっとしておいて・・・



お願い


どうか
もう・・・





どうか・・・


ずっと

私を
愛していてください









「なんでそんなこと言うの・・・」
ミンスは苦しそうに、ヒョンジュンの顔を見つめた。




主演:ぺ・ヨンジュン
   チョン・ジヒョン
   
【恋がいた部屋】8部-1






ミ:そんなこと、言わないでよ。
ヒ:・・・。(じっと見つめる)
ミ:お願いだから・・・。
ヒ:・・・いけない?
ミ:・・・。


ミンスは通りの真ん中で、今にも泣き出しそうだ。
さっきのさっきまで封印されていたヒョンジュンへの思いが噴き出すように、心の中を満たしていく。
今すぐ、ヒョンジュンの胸に倒れこむように抱きつきたい・・・。

でも、ミンスはそこで止まった。


ミ:困らせないで・・・。
ヒ:・・・。おまえは忘れたの・・・?
ミ:・・・。お願い・・・困らせないでよ。
ヒ:心から、おまえが消えないんだ・・・。

ミ:もう何も言わないで・・・。私のことは忘れて。
ヒ:おまえはそれでいいの?
ミ:・・・。

ヒ:少し歩こう。
ミ:・・・もう一人で帰るわ。(タクシーを探しにいこうとする)
ヒ:・・・。歩こう。

ヒョンジュンがミンスの左腕を掴んで引っ張った。

ミ:ヒョンジュン!

ミンスはヒョンジュンに引っ張られ、通りから脇道に入った。


ミ:放して。手を放してよ!
ヒ:・・・。
ミ:ねえ!


少し歩いたところで、アパートへの入り口なのか、黒い鉄格子の門があり、そこへミンスを押し付けた。ミンスは、鉄格子を背に、目を見開いて、ヒョンジュンの顔を見つめた。


ヒ:少し、オレに時間をくれ。
ミ:・・・。(じっと見る)
ヒ:ミンス・・・会いたかった・・・。(やさしい目をする)
ミ:・・・。

ヒョンジュンの顔が近づいたが、ミンスは横を向いた。


ヒ:ミンス・・・。
ミ:・・・。
ヒ:・・・ミンス。(少し目が潤む)
ミ:(横を向いたまま)・・・人の気も知らないで・・・。
ヒ:・・・。
ミ:自分の気持ちだけ、押し付けないで。
ヒ:・・・。
ミ:・・・。(ヒョンジュンの方を見る)帰ってこなかったくせに。
ヒ:?
ミ:赤ちゃんなんて・・・いなかったんでしょ?
ヒ:・・・。
ミ:でも、私のもとへは、戻らなかった・・・。
ヒ:それは・・・。
ミ:私、ずっと思い違いをしてた・・・。あなたは・・・。あなたは私を一番愛してるって、そう思い込んでた・・・。
ヒ:・・・。(泣きそうな顔)
ミ:でも・・・冷静に考えると、今、あなたは安泰な暮らしをしてて、それで私を求めているのよね?
ヒ:ミンス・・・。


ヒョンジュンは力ずくで、ミンスを引き寄せて、抱きしめる。

ミ:ねえ、言葉で言ってよ! あなたの気持ち。
ヒ:・・・。
ミ:・・・あなたは、私の思い出を懐かしんでいるだけよ、きっと。じゃなければ・・・本当の私を手放すはずがない!  自分だけ、安泰な所にいて、私を求めるはずがない!


ミンスは泣きそうになりながら、強い口調で言った。


ヒ:許して・・・。ミンス、許して。


ヒョンジュンは腕の中のミンスの顔を覗き込んだ。

ヒ:許せない気持ちもわかるけど・・・許して。
ミ:・・・。(泣いている)そんなこと言っても、きっとあなたは今の城から出て来ないわ・・・。
ヒ:ミンス・・・。
ミ:仕事もうまくいってるし・・・もう、あなたはソルミさんのものなのよ・・・。


ヒョンジュンは、より力を入れて、ミンスを抱きしめた。

ヒ:怒らないで。説明させてほしいんだ。
ミ:あなたの都合のいいように?
ヒ:・・・。
ミ:・・・これ以上、私を惨めにさせないで!
ヒ:・・・。


ヒョンジュンがミンスを抱く手を緩めた。ミンスはゆっくり、ヒョンジュンから離れ、流した涙を指先で拭き取る。


ミ:この間、チェスクさんが、あなたの絵をうちから持っていったわ。こんな絵と暮らしてちゃいけないって。その時は胸が痛かった・・・。あの絵の中には、あなたの魂がいて・・・私とずっと添い遂げると思っていたから・・・。でもね、そのあと、わかったの・・・。あなたが、ソルミさんの妊娠がうそだったってわかっても、私のもとへ戻る気がなかったことが。・・・それがショックだった・・・。あなたは、ホントによその人のものになってしまったのよ・・・。

ヒ:・・・。

ミ:あなたの作る服を着て、あなたの愛を感じてた・・・。でも、もしかしたら、それは、ソルミさんより、私のほうが作りやすいだけで、それで作っていただけかもしれないって、気がついたの。・・・全て、私の勘違い・・・驕りだったわ・・・。

ヒ:・・・そんなことはないよ・・・。ホントにおまえのために作ってる・・・。おまえ以外のためになんか、作る気になんかなれないんだ・・・。
ミ:・・・。
ヒ:戻りたかった・・・すぐにでも、おまえの所へ戻って、謝って、抱きしめてほしかった・・・。

ミ:・・・でも、戻ってこなかったわ・・・。(俯く)
ヒ:・・・おまえを泣かせたのに、また泣かせそうで、怖かったんだ。
ミ:・・・そんなの、詭弁よ・・・。本当にそう思っていたら、実行するわよ。

ヒ:・・・かもしれないね・・・。


ヒョンジュンは、ミンスから目を逸らして、黒い鉄格子を握り締めた。


ヒ:オレって・・・ズルいんだ。きっと・・・。
ミ:・・・。


ミンスの目に、ヒョンジュンの左手の小指のリングが見えた。香港で買った純金のリング。彼はサイズを直して、小指に嵌めていた。
ミンスはそれから目を逸らした。


ヒ:愛しているのは、おまえなのに・・・この仕事も捨てられないんだ・・・。(鉄格子の向こうを見る)
ミ:・・・。

ヒ:結婚する時に、ソルミの父親の、会長がくれた仕事なんだ・・・。最初は嫌だった。画家を続けたかったから・・・。でも、実際やってみると・・・自分の力以上に大きな仕事ができる・・・。(ずっと鉄格子の向こうを見ている)
ミ:・・・。


門を入ったところは、中庭になっていて、アパートの住人たちの共有スペースだ。奥の建物から、小さな子供と母親が出てきて、母親がボールを軽く投げ、子供がボールを追いかける。


ヒ:結局、オレは・・・おまえと温かい家庭を夢見ながらも、鉄格子の中から出ていけないんだ・・・。(じっと親子の様子を見ている)
ミ:富と名声が必要なの? 画家としてだって、これから道は開けていくのに・・・。うそで作ったものを続けていくの? それとも・・・ソルミさんを捨てられないの・・・?

ヒ:会長はね・・・オレを信じているんだ・・・。オレに全てを託しているんだ・・・。あの人も・・・ソルミに騙された。2年前の医者の診断書で、騙された・・・。
ミ:え?(驚く)

ヒ:あれは、2年前のものだった・・・。日付を改ざんしてコピーしたものだよ・・・。会長は・・・もっと後継者になる男との結婚を望んでいたけど、ソルミに子供ができたと聞かされて・・・仕方なしにオレを受け入れたんだ。
ミ:・・・でも、もう、うそはバレたのよ・・・。

ヒ:うん・・・。でも、あの人はオレをかってくれる・・・。オレもそれに応えようとして、今までやってきた・・・。あの人を裏切れないんだ・・・。
ミ:・・・女は裏切っても・・・?


ヒョンジュンがミンスを見て、やるせない目をした。


ミ:二人の女の気持ちを裏切っている・・・今のあなたは・・・。ソルミさんもうそつきだけど・・・あなたもうそつきね・・・。結局、あなたは仕事を取ったのね?
ヒ:・・・。
ミ:そう・・・。女子供とは違うんだわ・・・あなたは・・・。
ヒ:・・・。


ミンスは、今までの苦悩の表情を変えた。そして、姿勢を正して、ヒョンジュンをまっすぐに見た。


ミ:・・・だったら、私なんて求めないで。忘れてください・・・。私も忘れます・・・。
ヒ:ミンス・・・。

ミ:・・・大恋愛だと思っても、人は恋を失うわ・・・。私もそう・・・。だから、あなたもそうして下さい。
ヒ:・・・。
ミ:そうしてくれたら・・・私も新しい一歩を踏み出せます・・・。もう、忘れて・・・。

ヒ:・・・おまえがいないと・・・。(そこで口ごもる)
ミ:ヒョンジュン、あなたは選択したのよ、私を捨てる。迷わないで。
ヒ:・・・。
ミ:私も、そうする・・・。あなたを捨てる・・・。今まで、あなたへの思いに引きずられて、周りの人に悲しい思いをさせちゃった・・・。もう、あなたはとっくに、私を捨てていたのに・・・。

ヒ:ミンス、そんな言い方、しないで。オレには、おまえが必要なんだから・・・。
ミ:・・・それは。それは、あなたの心の中だけにしてください。あなたはもう、妻もいて、大きな事業を継ぐ決心をしてるんです。私は・・・ただの思い出よ。
ヒ:・・・。
ミ:・・・よかった、今日、あなたに会えて。このままむなしく、無駄に時間を過ごすところだったわ。やっと決心できたわ。

ヒ:ミンス・・・。
ミ:さようなら。(睨むように見つめる)


一人歩き出そうとすると、ミンスの腕をまた、ヒョンジュンが掴んだ。


ヒ:いつ、帰るの?
ミ:・・・。(そっぽを向く)
ヒ:いつ?
ミ:・・・。(俯く)
ヒ:いつだよ!

ミ:日曜日・・・。


ヒ:なら、明後日のファッション・ショーだけは来てほしい・・・。
ミ:・・・。(ヒョンジュンの顔を睨む)
ヒ:おまえにも見てもらいたいんだ。

ミ:あなたの成功を?
ヒ:・・・。(じっと見つめる)
ミ:あなたが私のもとへ戻らなかった訳を?

ヒ:・・・ミンス・・・。
ミ:あなたが喝采を受けるところを?
ヒ:・・・。

ミ:ソルミさんだって来るでしょう? 夫の成功する姿を見に・・・。
ヒ:彼女は来ないよ・・・断った・・・。彼女には、オレの仕事に関わってもらいたくないんだ・・・。
ミ:ずいぶん、意地悪な夫なのね・・・。
ヒ:・・・。
ミ:奥さんなら、大切にしなくちゃ。

ヒ:とにかく来て。


ヒョンジュンは内ポケットから、手帳を出し、中に挟まっている招待状を一部、ミンスに渡した。

ミンスは、それを眺めた。
ヒョンジュンの胸で温められた匂い袋の香りがする。
それが今は、胸に痛く香る。


ヒ:仕事で会った人に渡そうと思って、予備に持って歩いているんだ。
ミ:・・・。
ヒ:おまえを忘れよう・・・。(言葉がつまる)でも。これだけは来てほしい。


ミンスは今のヒョンジュンの言葉に胸が詰まった。彼に「忘れろ」と言いながら、本当にその言葉を耳にすると、いても立ってもいられない気分になる。

この恋を終わらせるためには、このショーを見なくてはならないのかもしれない・・・。


ミ:最後通告ね。私が敗退した理由の・・・。(招待状を見ている)
ヒ:必ず、来て。(ミンスを見つめる)

ミ:(頷く)わかった・・・。行くわ。必ず・・・。


ヒョンジュンは、ミンスを引き寄せて、抱きしめた。ミンスは、これで最後と、素直に抱かれた。
ヒョンジュンの胸から、やさしい香りがした。

これが恋の終わり・・・。
ミンスは目を閉じて、彼に体を預けた。






8部-2へ続く・・・・





2009/09/06 00:06
テーマ:【創】恋がいた部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋がいた部屋」7部






BGMはこちらで^^



BYJシアターです。

本日は「恋がいた部屋」7部です。
せっかくの日曜日^^
長いままのほうが気持ちの流れがわかるので、分けずにいきましょう^^



これより本編。
どうぞ、お楽しみください。




~~~~~




あなたの愛が
突然、消えた

それは
いとも簡単に
私の中から姿を消した


あんなに
愛していたはずのあなた

あんなに苦しかった日々



私の心は空虚だ

何もない・・・



あなたを
愛することが

私が生きていることの
証だったのに











「う~ん・・・この絵ねえ・・・」

チェスクが、ミンスの部屋の絵の前で腕組みして考えている。




主演:ぺ・ヨンジュン
   チョン・ジヒョン
   チョ・インソン
   キム・へス

【恋がいた部屋】7部





ミ:公表すべきですか?

チ:これは・・・やめた方がいいわね。(きっぱりと言う)
ミ:・・・そうですか・・・。

チ:だって・・・やっぱり、これは・・・あなたにとってよくないわ。あなたはこれから結婚する人だし・・・。今さらヒョンジュンさんとの過去の恋を公表して、人の注目を受けるなんて・・・そんな必要はないわ。
ミ:でも、彼は、この絵が画家としての、とても大切なターニングポイントだって。
チ:そんなこと、あなたが心配する必要はないわ。・・・それに、彼はもう画家ではないのよ・・・。画家としては終わってしまった・・・。だから、この絵を公表しなくても、全く問題はないわ。
ミ:・・・そうですか・・・。


チ:ミンス・・・。ヒョンジュンさんとのことは忘れなさい。あなたも新しい人生の第一歩を踏み出さなくちゃ・・・。ね。あなた、こんな暮らししていたら、過去に留まったままよ。新しい恋をしなさい。
ミ:・・・。
チ:・・・ね。

ミ:・・・。でも・・・。ヒョンジュンがわざわざこの絵のことを言い出したのが気になるんです・・・。私に何かメッセージを送っているようで・・・。

チ:もし、送られたら、どうするの?
ミ:・・・。

チ:そんなことされても、困るにはあなたでしょ? あの人は、もう安定した生活の中にいるのよ。ソルミさんのお父様の後ろ盾があって、デザイナーとして成功している。これ以上、あなたに何をしてほしいの?(ミンスをキツイ目つきで見る)まずは、自分のことを考えなさい。あなたは自分で自分を守るしかないんだから・・・。私も協力するけど・・・あなたはこれから自力で生きていかなくちゃならないでしょ?
ミ:・・・。(俯く)

チ:彼を心配している場合じゃないわ。戦場にただ一人、残されたのはあなたよ。ミンス。・・・この絵・・・私が預かるわ・・・。うちの倉庫で保管しましょう。こんなの毎日見て暮らしていたら、あなたが駄目になっちゃう・・・。ヒョンジュンさんて・・・ホントに罪作りね・・・。

ミ:チェスクさん・・・。この絵がなくなっても、私の思いは止まらない気がするんです・・・。
チ:でも、駄目よ。大人の言うことを聞きなさい。
ミ:・・・。


チ:今日、運び出すわ。
ミ:そんな急に!
チ:もう別れは散々言ったんでしょ? もう手放しなさい。
ミ:・・・。


チ:あの、ジフン君は元気?
ミ:ええ・・・。
チ:いい人じゃない? ちょっといないわよ、あんな人。
ミ:それは・・・。
チ:陶器展の時、お母様もいらしてたわね?
ミ:ええ・・・。
チ:素敵な方じゃない? あなたが羨ましいっておっしゃって・・・。これからの人は、仕事も恋も結婚も皆、手に入って羨ましいって。あなたが仕事を続けること、勧めてたし。
ミ:・・・。

チ:ミンス・・・。今が変わるチャンスかもしれないわよ。ジフン君なら、きっと後でも後悔しないと思うの・・・。
ミ:・・・それは・・・。
チ:違う?


ミ:ジフンは、すごくいい人です・・・。ヒョンジュンなんかより、ずっと心が広くて思いやりがあって・・・。頭がよくて・・・。でも、駄目なんです・・・。そんなこと・・・わかっていても、私の心が駄目なんです。
チ:・・・。今すぐにとは言わないわ・・・。彼も若いし・・・ゆっくりでも、ジフン君に近づくことね・・・。ヒョンジュンさんは結婚しちゃったんだから・・・・。
ミ:・・・。
チ:そのことを忘れちゃ駄目よ。




チェスクがソン画廊の配送車を呼んで、ヒョンジュンの絵を運び出した。ミンスにも、頭ではわかっているのだ。
この絵と暮らすことが、自分をどんどん惨めな方向へと導いていくことだということも・・・。

  
チ:お預かりしたわ。あなたがちゃんと自分の生き方を確立したら、返してあげる・・・。
ミ:はい・・・。
チ:じゃあ、これで失礼するわ・・・。
  

チェスクが玄関のほうへ向かう。靴を履こうとして、立ち止まり、ちょっと考えて、ミンスのほうを振り返った。


チ:どうしようかと思ったけど・・・言うわね・・・。
ミ:・・・。
チ:ヒョンジュンさんの奥さんのソルミさん・・・。お腹なんか大きくないのよ。
ミ:・・・?
チ:そういうこと・・・。

ミ:・・・流産したんですか?
チ:・・・でも、ないみたい。ずっと元気にゴルフ、やってたって、友人から聞いたから・・・。
ミ:でも。
チ:ヒョンジュンさんは、赤ちゃんができたって言ったかもしれないけど・・・。
ミ:待ってください。だって、ヒョンジュンは、お医者様の診断書を突きつけられたんですよ。

チ:あなた、見たの?
ミ:・・・ええ(俯く)・・・コピーでしたけど、見ました。
チ:コピー?

ミ:ええ。でも、ヒョンジュンがもらったものです。あちらのお父様とソルミさんが並んで、ヒョンジュンの前に、それを突きつけたんです。
チ:・・・。ホント? ホントに、ソルミさんのものだったの?
ミ:・・・。

チ:今、持ってる?
ミ:いいえ、私は見ただけです・・・。ヒョンジュンと・・・あの診断書を前に、二人で話し合いました・・・。(胸が痛くなる)
チ:(ちょっと呆れたような目をして)ヒョンジュンさんて・・・本当にあなたに頼りきりというか、全て打ち明けていたのね・・・。
ミ:・・・。(泣きそうな目でチェスクを見る)
チ:そんなに近い関係だと、別れるのは容易じゃないわね・・・。
ミ:・・・。でも、確かに、ソルミさんの名前でした。私・・・何度も読みましたから。
チ:そう・・・。




ソルミは妊娠していなかった・・・。

そんな・・・。

ヒョンジュンと私の恋を終わらせたのは、赤ちゃんだったのに・・・。

ヒョンジュンはいつ、それに気がついたの?
結婚してすぐ? 彼女が打ち明けたの?

どんな気持ちだった・・・?

辛かった・・・?



ミンスは、絵のなくなった部屋を見回した。
今まであふれていたヒョンジュンの「気」のようなものが抜けて、部屋はまるで伽藍のように見える。さっきまで、ここには愛があった・・・。

でも、今はまるで抜け殻だ。

ミンスは、マグカップにコーヒーを入れ、両手で包み込むように持った。
ただ熱いだけだった・・・。
ヒョンジュンの愛はもうそこにはなかった・・・。


ミンスは部屋の中をぐるりと見渡した。壁にもカーテンにもソファにもキッチンにも、もう、ヒョンジュンの愛はなかった。ミンスはただ一人とり残された。
  
発狂してしまいたいくらいの、落胆・・・。

ミンスは苦しくて泣きたくなった。

エンプティ、それが今の心だ。
何も生み出すことのない「無」・・・。


空っぽ・・・。


終わってしまった・・・終わってしまったんだわ・・・。

あの人はもう、ここにはいない。







ヒョンジュンは今、ソウルデパートでの新作コレクションの発表を無事に終え、忙しく渡航の準備に追われている。

会長から、パリコレを見に行くように薦められたからだ。そして、小さなハウスでだが、東洋人を中心に招いてコレクションの発表をする。
たった一週間の日程で、まずはあちらで目ぼしいモデルを集めてのオーディションから始まり、途中、パリコレを見て、パリのテキスタイルの工房を何軒か訪ね、ヒョンジュンがH(アッシュ)・joonで展開したい独自のデザイン生地の製作を頼む予定だ。
今まで、自分が書き溜めてきた絵柄を生地にする。それは少々複雑な織を要するもので、韓国で作ったものでは、色彩も織りのうねりも、ヒョンジュンは気に入らなかった。そんなものをフランスで発注するなど、会長初め、経営陣は最初苦々しい顔をしていたが、H・joonの売れ行きが好調であることで、なんとか今回実現できるところまでこぎ付けた。

服のデザインも楽しいが、テキスタイルのデザインもヒョンジュンは好きだった。

それは油絵で培った感性を生かすことができたし、自分の心を映し出す作品を作り上げることができるから・・・。



ソルミは、最初、一緒にパリコレに行きたいと騒いだが、ヒョンジュンが一言、「これは遊びじゃないよ。君は友達と行ったら?」と言ったので、ソルミも、それ以上、食い下がれなかった。




  


ミンスは、心の中に、初めて大きな穴が空いてしまったことを発見した。
ヒョンジュンが結婚したときも悲嘆にくれたが、なぜか、心のどこかに、ヒョンジュンの愛が残っていて、ミンスを温めてくれた。そして、彼が去ったことはわかっていると言いながら、まるで、二人が一緒に住んでいるかのように、擬似的な生活を繰り返してきた。
でも、もう、ヒョンジュンは、ミンスに寄り添ってくれなかった・・・。


それは、「絵」がなくなったからだけではないと、ミンスは気づいている。

それは・・・ソルミが妊娠していなかったから・・・だ。


そのことがわかっても、連絡してこなかったヒョンジュン。
自分のところへは戻って来なかった彼・・・。

昔だったら、きっと戻ってきてくれたに違いない・・・おまえのほうが大事だからと。


でも、今の彼は、仕事を成功させて生き生きと暮らしている。

もしかしたら・・・心は私に残っているなんて、私の驕りでしかなかったのかもしれない。
ジフンが言ったように、今の生活を大事にして、いい旦那様に収まっているのかもしれない・・・。
そして、ジフンが考えたように、「彼は不幸」ではなく、ただ自分の画家としてのキャリアに、私との「恋を描いた絵」が必要だったのかもしれない・・・。





日曜日の朝、ミンスのもとへ、ヘスからの電話があった。


へ:ミンス、元気にしている?
ミ:うん・・・。うううん・・・実はあんまり・・・。
へ:どうしたの?

ミ:うん、ちょっとね・・・気分的に、今、暗い・・・。(暗いのではなく・・・空っぽ)
へ:そう・・・。私・・・あなたに教えたいことがあって・・・。でも、それを言うのも、あなたにどうかって、ものすごく悩んじゃって。(私もガックリしちゃったから)・・・でも、やっぱり、知らせておかなくちゃと思って。

ミ:何?
へ:ソルミさん・・・妊娠してなかった・・・。
ミ:・・・。(やっぱり・・・)

へ:この前って言っても、もう一ヶ月以上経っちゃったんだけど、ゴルフ場でね、見かけて。ほっそりとしてたわ。お友達とヒョンジュンの話に花が咲いてたのを、通りがかりに聞いちゃったの・・・。それで、その人がソルミさんだってわかった。
ミ:・・・そうだったの・・。

へ:驚いた・・・?
ミ:・・・うん・・・。

へ:それでね、私、思わず、「あなたのお金で彼を幸せにしてあげてください」ってタンカ切っちゃったの・・・。今、思うとマズかったかな。

ミ:・・そう。

へ:ミンス! あなた、大丈夫? 生きてる?
ミ:こうやって話してるじゃない・・・生きてるわよ。

へ:傷ついた?
ミ:でも、お姉ちゃんが言った通り、お金で幸せにしてもらっているのかも・・・。
へ:何言ってるのよ。あんなデザインして、幸せなはずないじゃない。仕事はやっていても、愛はないわよ。
ミ:そうかな・・・愛なんてなくたって、仕事があれば、男の人って生きられるんじゃない?
  
へ:ミンス。しっかりしてね。まあ、ヒョンジュンはもう人のものだけど・・・なんかさあ、これでハッピーエンドと思いたくないのよ。

ミ:まあね・・・でも、もうヒョンジュンは・・・私の中にいないの。
へ:え・・・?(驚く)

ミ:彼は、どこか遠くへ行っちゃった・・・。なぜか・・・私から消えたわ・・・。
ヘ:・・・他の人を好きになったの?
ミ:うううん・・・もう誰も好きになれないかもしれない・・・変な気分よ。

へ:・・・大丈夫・・・?

ミ:なんか・・・私の中が、空っぽなの・・・これから愛が生まれるなんて思えない。何にもないの。

へ:ねえ、こっちへいらっしゃいよ。一人暮らしはよくないわ。仕事休んでいらっしゃい、こっちへ。
ミ:大丈夫よ。死にはしないわ。死ぬ気も起こらないから・・・。それにね、お姉ちゃん、明日から、私、パリに行くのよ。
へ:なんで?
ミ:今度ね、ちょっと贅沢な会員制のレストランがオープンするんだけど、そこに置くダイニングのイス、ゴブラン織りにしようと思ったの。そしたら、特注がいいって言い出したのよ。それで、あっちのテキスタイルデザイナーと会うの。それとね、フランス刺繍のカーテンも注文しなくちゃいけないし。

へ:バカみたいに贅沢ね。そこまで、来たお客が見る?(笑う)
ミ:(笑う)その経営者の方が凝り性で、自分のためよ・・・ものすごいお金持ちなの。それで、迎賓館みたいの、作りたいって。

へ:へえ・・・それで、パリ? いいわね。一人?
ミ:うん。あ、あっちにはね、チェスクさんの知り合いの方がいるから。その方が工房とか全部、セッティングしてくれてるの。だから、私は行って、注文するだけ。(笑う)

へ:よかった・・・一人で全部するんだったらどうするのかと思ったわよ。
ミ:ホントはね・・・その人が全部やってもよかったのよ・・・。でも、チェスクさんがね、私があまりに寂しそうだからって、気分転換に行かせてくれるの。そのくらいの費用なんて、そのプロジェクトの中ではいくらでもないからって。

へ:そう・・・。じゃあ、パリの空気をいっぱい吸って元気になるのよ。ルーブルも行くんでしょ?
ミ:うん・・・それは外せないから・・・。(昔はヒョンジュンと一緒に行く約束だったけど)
へ:ごめんね。忙しいときに、変な話しちゃって。
ミ:うううん・・・ありがとう。でも、知ってよかったわ・・・じゃあね・・・。
  

ミンスは電話を切った。

もう皆が知っていることなんだ。

でも、あの医者の診断書はなんだったのか、その正体はわからないけれど・・・人の縁なんて、こんなものなのかもしれない・・・。







ジ:おい、毎日電話入れろよ。
ミ:大丈夫よ。そんなに心配しなくても。
ジ:「生きてます」でいいんだからさ。
ミ:バカね。(笑う) もうスーツケースも預けたし・・・さあ、あとは乗るだけ。



パリへ旅立つミンスを送って、ジフンも空港へ来ている。ジフンは、最近、ガックリと元気がなくなったミンスが心配で仕方がない。あの絵を画廊に預けたと言った時の、落胆したミンスの顔は、ジフンの胸を締め付けた。
たとえ、自分でなく、Hさんであろうと、ミンスには恋をして元気でいてほしい。あの時の空虚な目を忘れることはできない。



ジ:顔見せて。こっち、向いて・・・。
ミ:・・・。(ジフンの目を見る)何?

ジ:まあ、大丈夫そうだな。(笑う)
ミ:ありがとう。主治医が見送りまでついて来るなんて、ヴィップなみね。
ジ:当たり前さ。
ミ:・・・。


ジ:土産はいらないから。(笑う)
ミ:ほしいって聞こえた。(笑う)
ジ:・・・耳がいいなあ。(笑う)

ミ:あ、掲示板がついた・・・。もう、行くね。
ジ:うん・・・。


ジフンがミンスをギュッと抱きしめた。そして、顔を見た。


ミ:何?
ジ:・・・痩せたね・・・。あの絵を二人で見た時より、痩せた・・・。
ミ:・・・。
ジ:・・・。じゃあ・・・時間だから・・・行ってらっしゃい。(体を離す)
ミ:うん・・・ありがとう。


ミンスは、ジフンの差し出す手に握手して、笑顔を作った。









ヒョンジュンはオフィスの仕事の整理をして、パリへ持っていく資料を整えた。


だいたいこんな感じかな・・・。あ、そうだ・・・。

  
ヒョンジュンは、デスクの鍵のついた引き出しを開ける。
ヒョンジュンがお守りのように思っている匂い袋を取り出そうと、引き出しの中を覗くと、あの「診断書」が目に入った。

日付の改ざんされた診断書・・・。

結婚して、2ヶ月目にソルミの様子が心配になって、その医者を訪ねた。

そこで、わかったことは、あの診断書が2年前のものだったということ・・・。
つまり、彼女は2年前に誰かの子を宿したのだ・・・。そして、それを今回使った。


ヒョンジュンの中で、何かが大きく揺れた・・・。

愛する女を捨てて、結婚した顛末。

生まれてくる子供のために、築こうと努力した家庭・・・それはうその上に成り立っていた。ヒョンジュンは自分でも青臭いと思うが、うそとか偽善とか、大嫌いだった。なんとか、表面的に折り合いをつけて過ごせばいいのだろうが、ヒョンジュンにはそれができなかった。



医者の帰りに、懐かしい通りを歩いた。

そこには、ミンスが好きだった鯛焼きの店があり、彼女のような長い髪の女の子が、ボーイフレンドと鯛焼きを買っていた。しばらく行くと、二人がよく買いに行ったパン屋がある。あそこで、ミンスはいつも、普通のものより少し大きめのメロンパンを買った。

「これ食べると、元気になる・・・だから、寂しい時はこれを食べるんだ」
「結局、おまえは食い意地が張ってるだけだろ」(笑う)
「違うわよ!」



ヒョンジュンは、あの懐かしいメロンを買おうかと、パン屋に向かうと、中からミンスが出てきた。

懐かしい姿・・・。

今、彼女の所へ飛んでいって、「子供ができたのはうそだった。だから、またやり直そう」と言ったら、ミンスは自分を受け入れてくれるだろうか。

遠くからミンスを見つめていると、ミンスは、店を出たところに立っている電灯を見上げた。


「ねえ見て。あのチカチカいってる電灯って、ほら、言葉をしゃべってるみたい」
「なんて? ピーポ・ピーポ?」
「違うわよ・・・ほら!サランへ・サランへって・・・聞こえるでしょ?」
「ああ・・・ホントだ・・・」(笑う)
「ねえ!」
  

しばし、電灯を見入っていたミンスが、急に自分のほうへ振り返った。ヒョンジュンは、どうしていいかわからず、慌てて、脇道に隠れた。ミンスは、パン屋の袋を抱いて、自分の目の前を通り過ぎていった。


あの時でも、引き返せたのだろうか・・・。

でも、自分は恥ずかしかった・・・。ミンスにあんなに悲しい思いをさせたあげく、ケロッとした顔で彼女の前に出られるだろうか・・・。全部うそだったよと・・・。




  

ヒョンジュンは、診断書を奥へ押しやって、匂い袋を取り出した。それは胸ポケットに収まるように、薄く作られていた。パッチワークの袋の端に「M」と刺繍が施されている。大きな仕事に出るときは、必ずそれを内ポケットに忍ばせた。
それは、ヒョンジュンの心臓の鼓動を聞くと、ふわっとやさしい匂いを膨らませて、ヒョンジュンの心を癒した。
  







ミンスは、予定通りの日程を精力的にこなしていた。
チェスクが紹介してくれたパリ在住のテキスタイルデザイナーと何軒か目ぼしい工房を訪ね、美しいゴブラン織を注文することができた。


ミ:ヤンさん、ありがとうございました。おかげでいいものが手に入りました。
ヤ:よかった。ここのなら、どこへ出しても恥ずかしくないわよ。



二人は工房を出て、裏通りから細い抜け道を通って、大通りへの近道を歩いた。
もうすぐ、大通りに出るというところで、前から男が歩いてきた。


ミンスはじっとその男を見た。
歩き方、背格好、それはミンスがよく知っている彼にそっくりだ・・・。


男は立ち止まって、ミンスを見つめた。


ヤ:ミンスさん? どうかした?
ミ:・・・。


ヤンがミンスの見つめている方向を見ると、同じ東洋人が立ち止まってこっちを見ている。


ヤ:知り合い?
ミ:ええ・・・。


男は、ゆっくり近づいてきた。


ヒ:久しぶりだね・・・。
ミ:・・・。


二人は見つめ合った。


ヤ:どうしようか・・・。私、お邪魔かしら・・・。
ミ:そんなことはないです。
  
ヒ:二人でちょっとお茶でも飲める?
ミ:・・・。

ヤ:あなたがちゃんと帰れるなら、私・・・。
ヒ:送っていきます。

ヤ:じゃあ、失礼するわ・・・。
ミ:あ、すみません・・・。明日もよろしくお願いします・・・。


ヤンが一人帰っていった。

  
ヒ:仕事?
ミ:ええ・・・。
ヒ:歩こうか・・・。
ミ:ええ・・・。


ヒ:元気そうだね。
ミ:うん・・・。
ヒ:少し寒いね。どこかカフェでも入ろうか。

ミ:仕事で来ているの?
ヒ:そう。
ミ:もし、仕事なら・・・。
ヒ:もう今日はいいんだ。君と・・・少し、話をしたい・・・。(顔を見る)
ミ:わかった・・・。



二人は通りに出て、カフェに入った。外は少し寒いので、店の中の席に着いた。


ヒ:何にする? カフェオレ?(笑顔)
ミ:・・・うん・・・。

ヒ:デュ・カフェオレ、シルブプレ。


ヒ:今日は寒いねえ。
ミ:ホント・・・。
ヒ:ちょっとトイレ、借りていいかな。
ミ:どうぞ。(笑う)


ヒョンジュンがコートを脱いでイスにかけ、店の奥へ行って、化粧室の場所を聞いている。

ミンスはヒョンジュンが立った席を見る。やさしい香りがした。
  

はあ・・・。

ミンスは、こんな出会いにちょっとため息をついて、頬杖をつく・・・。

ふと懐かしい香りが鼻をかすめた。今薫っているのは・・・。

ミンスはヒョンジュンのコートのほうを見る。ヒョンジュンのコートから薫っているような気もしたが、そこに、カフェオレが来て、香りの所在はわからなくなった。


ヒョンジュンが戻ってきた。


ヒ:ごめん。
ミ:今、来たところよ。
ヒ:そう・・・。


二人は静かにカフェオレを飲む。


ミ:一人? 奥様も一緒?
ヒ:いや、オレとスタッフで来たんだ。今回は、パリコレを見て、生地を発注して・・・最後に、小さなハウスで、コレクションの発表をする・・・。
ミ:すごいのね・・・。

ヒ:君も仕事?
ミ:うん・・・。会員制の迎賓館みたいなレストランの内装を少し手伝ってるから。それで、こっちで買い付け。
ヒ:それもすごいな。

ミ:仕事は順調ね、お互い・・・。
ヒ:そうだね。

ミ:今の仕事、好き?
ヒ:う~ん・・・結構楽しいよ。
ミ:そう・・・。


ミ:あったまったわね。

ヒ:うん・・・。この間・・・ふと、君の好きだったメロンパンを思い出したよ・・・。
ミ:・・・あれ、おっきいよね・・・。
ヒ:うん・・・。あれ、食べると元気になるのを思い出した。
ミ:そうだった・・・。最近、買ってない。
ヒ:そう?

ミ:うん・・・一度買いに行ったけど・・・もう魔法は解けたわ・・・。
ヒ:そうか・・・。絵のことは・・・君に迷惑かけたね・・・。
ミ:迷惑だなんて・・・。


ミ:もう帰ったほうがいいわね・・・。暗くなってからの一人歩きは危ないもん・・・。


ミンスがコートを羽織った。


ヒ:送るよ・・・。どこのホテル?
ミ:・・・。
ヒ:オレには言えない・・・?
ミ:そういうわけじゃないけど・・・。
ヒ:送らせて。



ヒョンジュンも立ち上がって、コートを羽織った。
やさしい香りがミンスに届いた。


ヒョンジュン!


ミンスの鼓動は激しくなった。


カフェを出て、ヒョンジュンは、車の流れを見ながら、ミンスに聞いた。


ヒ:ここから遠いの? 歩いて行ける? タクシー捕まえる?
ミ:・・・。(じっと見つめる)
ヒ:どっち?
ミ:・・・。
ヒ:・・・。(ミンスのほうを振り返る)


ミ:・・・なぜ?
ヒ:?
ミ:なぜ、そんな古いもの、持っているの?


ヒ:何が?

ミ:匂い袋・・・。
ヒ:・・・。
ミ:・・・教えて・・・。(見つめる)


ヒ:・・・これは・・・君だから・・・。


ミ:・・・。
ヒ:いつも、おまえを抱いていたいから・・・。
ミ:・・・。


ヒョンジュンがそう言った瞬間、ミンスの胸の中に、ヒョンジュンへの想いが洪水のようにあふれ出して、ミンスは今にもおぼれてしまいそうになった。




8部へ続く・・・





2009/09/05 00:33
テーマ:【創】恋がいた部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋がいた部屋」6部-2






BGMはこちらで^^




BYJシアターです。

本日は「恋がいた部屋」6部-2(後編)です。



ミンスを忘れられないヒョンジュン・・・。
そして、ミンスは・・・。



これより本編。
では、お楽しみください。



~~~~~



愛が
僕を見放す

そんな時が
来るのだろうか


人の心を
裏切る

傷つける


そんなつもりなど
なかったのに・・・



真実の愛に
生きることは
難しい・・・

できれば
君といたい・・・


でも

それは今
不可能だ・・・





主演:ペ・ヨンジュン
   チョン・ジヒョン
   チョ・インソン(ジフン役)

恋がいた部屋6部-2





ミンスはマンションの窓から夜景を見ながら、考えている。

なぜ、ヒョンジュンは、「二人の恋」の絵を公表しようとしているのか・・・。
結婚してしまった彼がなぜ今、過去の自分との恋を明らかにするのか・・・。
少し前のヒョンジュンとは立場が違う・・・人気デザイナーの仲間入りを果たした彼の絵だもの・・・モデルがいったいどんな女か皆知りたいだろう・・・。

ああ、どうしたらいいの・・・?

・・・私には次の恋があるのかしら・・・。この絵を公表することは、私にとっていいことなの?

あなたも父親になるんでしょう・・・? 私への気遣いはなくなったの?


ミンスはどうしたらいいのか、わからない・・・。


まだ、同じ携帯番号を使っているの?
こんな時間に、女から電話をもらっても困るわね・・・。

どうしよう・・・。

ミンスは、携帯を開いて、ヒョンジュン番号を見ながらも、電話をしようか、悩んでいる。

そこへ携帯が鳴った。
ミンスはドキッとした。


ミ:もしもし?
ジ:元気?
ミ:・・・まあね。
ジ:これから、君を訪ねてもいい?
ミ:こんな時間に? 駄目よ・・・。
ジ:少しだけ・・・。
ミ:でも・・・。
ジ:ねえ・・・窓の下を見てよ。
ミ:え?


ミンスは身を乗り出して、窓の下を見た。
ジフンが立って、マンションを見上げている。


ミ:やだ・・・。
ジ:ちょっとだけ・・・ちょっとだけ会って・・・。

ミ:わかった・・・。下へ降りるわ・・・。待ってて。



ミンスがマンションのエントランスまで行くと、ジフンが手を振った。いつものジフンと少し違って、ちょっとしっとりとした感じだ。


ミ:どうしたの?
ジ:うん・・・。ちょっと飲まない?
ミ:コーヒー? お酒?
ジ:どっちでも・・・。(寂しそうに見つめている)
ミ:・・・いいわよ。


ミンスとジフンは連れ立って歩き出す。


ミ:どうしたの?
ジ:うん・・・。ちょっとねえ・・・僕の患者さんが、亡くなったから・・・。(パンツのポケットに手を入れ、寂しそうに俯く)
ミ:いくつ? まだ子供よね?
ジ:うん・・・11。ガンでね・・・。
ミ:そうだったんだ・・・。うちのお兄ちゃんと同じだ・・・。うちは12だったよ。
ジ:そうか・・・。寂しいよなあ・・・。
ミ:うん・・・。(ジフンの顔を見る) 慰めてほしいの?
ジ:誰かとさ、気持ちを分かち合いたいと思ってさ・・・。
ミ:・・・いいよ・・・。(ジフンを見つめる)


ジフンは控えめにミンスの顔を見る。そして、微笑んだ。


ジ:腕ぐらい、組ませて・・・。
ミ:図に乗った。(笑う)
ジ:いいだろ?
ミ:うん・・・。

ジ:(腕を組んで)あったかいなあ・・・やっぱり、人の温もりはいいよ。だろ?
ミ:・・・まあねえ・・・。(そっぽを向いて店を探す)
ジ:気のないやつ・・・。
ミ:ねえ、あそこで飲む?
ジ:酒? コーヒー?
ミ:両方ありよ。行こ!(引っ張る)






近くのカフェバーで二人は小さなテーブルを挟んで座る。


ジ:君に会ったら、少し気分が落ち着いたよ。
ミ:そうお?(コーヒーを飲む)

ジ:君は元気?
ミ:何が?
ジ:う~ん・・・。窓の下から見たらさ・・・ちょっと泣いてるようにも見えたから。
ミ:泣いてはいないわよ。
ジ:お兄さんに話してごらん。
ミ:やあだあ・・・。(笑う)


ジ:でも、なんかあったな・・・。
ミ:なんで気になるの?

ジ:だって、順番待ちしてるからさあ・・・。
ミ:・・・。
ジ:あのH(アッシュ)さんのこと?
ミ:うん・・・。
ジ:ふ~ん・・・。


ミ:ねえ・・・順番待ちなんて、しないで・・・。
ジ:いいじゃない・・・。見込みのない男を待つ女に並んでも・・・。
ミ:無駄よ・・・。(きつい目をする)
ジ:待つよ・・・。6年は。
ミ:6年?
ジ:あの人って、オレより6歳上だろ? だから、あの人の年まで待つ・・・。ミンスを待つ・・・。

ミ:時間の無駄使い、しないで。
ジ:それは君に言いたい・・・。(じっと見つめる)
ミ:・・・。


ジ:なんで辛い顔してたの?
ミ:(コーヒーカップの中を見ながら)・・・もうすぐ、パパになっちゃうから・・・。
ジ:・・・。
ミ:もうすぐ終わっちゃうから・・・。私の恋が・・・。(涙ぐむ)
ジ:・・・。
ミ:・・・バカみたいでしょ?
ジ:そんなことはないよ・・・。よくわかるよ。(じっと見る)
ミ:ホントはわからないくせに・・・。
ジ:わかるよ。
ミ:・・・。


ジ:うまくいかないね。オレは君が好きで、君はH(アッシュ)さんを好きで・・・。
ミ:・・・素敵な彼だったの・・・。
ジ:君を置いてきぼりにしてね・・・。
ミ:・・・。(ちょっと睨む)


ジ:ごめん・・・。でも、あの人、君とキスをしたんでしょ? 君と抱き合ったり・・・。
ミ:・・・。
ジ:・・・いいな・・・。(じっと見る)

ミ:話題変えよう。

ジ:でも、少し元気になった・・・。(微笑む) 君にヤキモチを妬くと、いつも元気になるんだ。
ミ:おかしな人。
ジ:(笑う)おかしいね・・・。送っていくよ。夜遅くにごめん・・・。
ミ:いいの・・・。私も元気になったから。(笑う)



二人は立ち上がった。





店を出ると、ミンスがジフンの腕に腕を通した。


ジ:いいの、腕組んで?
ミ:あなたっていい人よ・・・。最高の友達。キスもしてあげる。(軽く頬にキスする)
ジ:・・・。
ミ:素敵な友達だわ・・・。
ジ:来いよ。


ジフンがミンスの手を振り解いて肩を抱いた。


ジ:辛いなら、泣けよ。
ミ:・・・バカ・・・。(涙が出る)
ジ:もっと泣けよ・・・。


ミンスはハラハラと涙を流した。


ジ:我慢なんかするなよ・・・。


ジフンが肩を強く抱きしめる。
ミンスは悔しそうな顔をして、そっぽを向けながら、涙を流した・・・。







ジフンは初めて、ミンスの部屋に入った・・・。

ここ半年、二人はつかず離れずで、友人として付き合っている。ジフンはミンスを好きで・・・ミンスはジフンとはなんでも話せる友達になった。


ジ:へえ・・・。あの絵が問題の絵? ちょっと電気消して見てみようよ。
ミ:スタンドだけつける?
ジ:うん・・・。


ミンスはベッドサイドのスタンドをつけ、ヒョンジュンの絵にライトが当るように、置く。
そして、部屋の電気を消した。


ジ:いいねえ。


ジフンは窓際にあった、大きめなイスを絵の正面に置く。


ジ:座って見ない?


ジフンがイスに腰掛けて、ミンスを呼んだ。ミンスはジフンの座っている方を見た。




かつて、ヒョンジュンの部屋で窓際にあったイス・・・。
別れる時、この絵とこの「イス」をもらった・・・そして、彼のマグカップを失敬した。

月の夜に、この「イス」に座ったヒョンジュンの膝に乗り・・・二人は愛を交わした。
その思い出の品・・・。


「ここのものって捨てちゃうの?」
「たぶんね・・・」
「そうか・・・」
「・・・ごめんな・・・一緒に揃えたのに」

「うううん・・・もう仕方ないよ」
「じゃあ、絵は運送会社の人に頼んでちゃんと送るから。あの絵だけはおまえに持っていてほしい」
「うん・・・」

「ヒョンジュン・・・」
「何?」

「・・・このイス、もらってもいい?」
「・・・」
「使いやすいじゃない? こんな大きいのってなかなか見つからないし・・・もらっていい・・・?」
「・・・」


ヒョンジュンがミンスをじっと見つめた。ミンスもなんとか自分の気持ちに負けないように見つめ返した。


「・・・いいよ。おまえがほしいなら・・・」
「うん・・・ありがとう」


そう言って俯いたミンスをヒョンジュンが抱きしめた。ミンスのお尻をギュッと掴んで引き寄せるように・・・。
ミンスは、そんなヒョンジュンの抱き方に苦しくなって涙が出てしまう。
それなのに、ヒョンジュンはもっとミンスを引き寄せる・・・。


「・・・あ~ん・・・」
ミンスは辛そうに、ヒョンジュンを見上げた。

ヒョンジュンの顔が近づいて、ミンスにキスをした・・・。
今までで一番長いキス・・・情熱的で・・・悲しいくらい熱いキス。

これが最後のキス・・・。

ミンスは泣きながらも、ヒョンジュンとキスをする。彼の首に腕を回して、もうこれ以上、抱きしめられないくらい彼を抱きしめて・・・。

顔を離すと、ヒョンジュンがミンスの頭を抱くように、ミンスを胸に抱いた。
ヒョンジュンの胸が小刻みに揺れて・・・彼が泣いているのがわかった・・・。




  

ジフンは大きく股を開いて、ミンスのスペースを作り、ミンスが座るのを待っている。
ミンスは笑顔でジフンを見て、そこに前向きに腰を下ろした。

後ろから、ジフンがミンスを抱きしめて、二人は、絵を見る。
ジフンがミンスの肩に顔を乗せた。



ジ:うん、いい絵だ・・・。君が裸なのに・・・ちっとも欲情しないよ。(ミンスの顔の横で言う)
ミ:(笑う)やだ・・・。
ジ:情熱的なのに・・・なんでかな・・・。純粋だから?
ミ:・・・。


ジ:まるで、あの人が見ているようだね?
ミ:そう?
ジ:うん・・・。この絵は君であって、君じゃない・・・。あの目はあの人なんだ・・・。そして、毎日、ミンスを監視している・・・。
ミ:・・・あなたにも、そう見える?
ジ:うん・・・。


ミンスは絵をじっと見つめながら、涙がこぼれる・・・。
ミンスのウエストを抱いたジフンの手の甲に、ミンスの涙が落ちる・・・。ジフンはそのまま、涙など気にせず、ミンスに語りかける。


ジ:この絵がある限り、君はオレのものにはならないね・・・。あの人が見てるから・・・。
ミ:・・・どうして、この絵を公表しようとしていると思う・・・? これって、普通の絵じゃないでしょ?
ジ:・・・そうだね・・・。魂があるみたい・・・。愛があるんだ・・・。二人の・・・。
ミ:うん・・・。(また涙が落ちる) どう思う? この絵を公表してもいい?

ジ:君に任されているわけね?
ミ:そう・・・。
ジ:それは困ったね・・・。今はもう恋人ではない人に、そんなことを任せるなんて・・・。これからの君のことを考えてないのかな・・・。君が断りにくいの、知ってて・・・。君のことを考えていたら、この絵を世に出さないでしょ? それとも・・・君を手放す気はないっていうことなのかな・・・。彼はどうしようと思ってるんだろう・・・。
ミ:・・・・。


ジ:一つわかることは・・・・。
ミ:わかることは?
ジ:彼は、不幸だ・・・。
ミ:そう・・・?(涙が流れる) どうしてわかるの?
ジ:富も名声も得たのに・・・君を諦めないこと・・・。
ミ:・・・。(じっと絵を見つめる)

ジ:どんなに激しい恋だったとしても、人は結婚して富と名声を得れば、過去のことにするだろう? それに子供も生まれるなら、なおさら、そうじゃない?
ミ:男の人はそういうもの?
ジ:・・・君をどんなに思っていても・・・そうなったら、オレだったら諦めるよ・・・諦めるというより、心の中で愛していて、今の暮らしを大切に生きるな・・・。そういうもんじゃない? 人間て・・・。
ミ:・・・。


ジ:でも、彼はそれじゃ嫌なんだ・・・。なぜだろう・・・? 赤ん坊のために、君を諦めたのに・・・なぜだ?
ミ:なぜかしら・・・?

ジ:なぜ、結婚前の君の裸なんか発表するんだ・・・。ただのモデルじゃない君の・・・。スキャンダラスじゃないか。
ミ:・・・何が彼を苦しめているの?
ジ:何だろうね・・・。


二人は、じっと絵を見つめた。









深夜2時近くになって、ソルミが帰ってきた。
ヒョンジュンはチャイムの音に、ドアを開けた。



ヒ:お帰り。
ソ:ただいまあ・・・。(酔っている)
ヒ:(ソルミを支えている運転手に)あ、ありがとう。もう休んでください。
ソ:シンジャは? (目をとろんとさせて言う)
ヒ:寝かせたよ。
ソ:何よ、ダンナ様にこんなことさせて・・・。
ヒ:こんな時間まで悪いじゃないか・・・。


ソルミは、ヒョンジュンに掴まりながら、靴を脱ぐ。


ヒ:ずいぶん、遅かったね。
ソ:ちょっとねえ・・・。あなたに言いたいことがあったんだけど・・・なんか忘れちゃった・・・。


ソルミは酔って、まともに歩けない。ヒョンジュンが抱きかかえながら、歩く。


ソ:何だったかしら・・・。ものすごく大切なことだったような・・・。あなた、着替えもしてないの?
ヒ:まだ、やることがあるから・・・。
ソ:何? 仕事ばっかりね・・・あなたのやることって・・・。
ヒ:まずは、ベッドまで行こう・・・。
ソ:お父様は?
ヒ:先に帰られて、もうお休みだ・・・。
ソ:そう・・・。


ヒョンジュンは、ソルミを自分たちの2階の部屋のベッドまで、抱きかかえていく。服を脱がせ、ベッドに寝かしつけて、水を持ってきた。


ヒ:一杯飲んで寝たほうがいいよ。(コップを渡す)
ソ:サンキュ。ああ・・・。(ヒョンジュンを見る) まだ、寝ないの?
ヒ:・・・ああ・・・。

ソ:私とは、寝ないの?
ヒ:・・・。
ソ:・・・じゃあ先に寝るわね・・・ああ・・・。


ソルミはベッドで伸びをして、眠りについた。
ヒョンジュンは、ソルミの寝顔を見ながら、布団を肩までかけた。


この女も、自分は不幸にしたかもしれない・・・。



ヒョンジュンはパジャマに着替えて、自分のベッドに腰を下ろし、寝ているソルミを見た。
酒に酔いつぶれている妻・・・。

ヒョンジュンはすくっと立ち上がり、掛け布団を持って、一階へ降りていった。
リビングのソファで、横になって寝る。

ソルミを見ていると、あの部屋では安らかに眠ることができない・・・。

毎夜、酔っ払っている妻・・・。
そんな彼女にしてしまったのは・・・自分だから・・・。


  



朝になって、ヒョンジュンはシンジャに起こされた。


シ:ダンナ様。もうお起きにならないと・・・。

ヒ:あ、今何時ですか?
シ:6時半です。もう少しすると、大ダンナ様が起きていらっしゃいますよ。
ヒ:そうだね。ありがとう。


ヒョンジュンはだるそうに起き上がって、布団を持って2階へ上がる。シンジャは辛そうにそんな姿を見送った。

こんな朝がいつまで続くのだろう・・・。

  

朝のダイニングでは、父親が正面奥に座って、新聞を読んでいた。
ヒョンジュンはシャワーを浴びて、すっきりした面持ちで、朝の食卓に着く。


ヒ:おはようございます。
父:おはよう。また、ソルミは起きんのか。
ヒ:ええ、昨日は遅かったものですから・・・。
父:困ったやつだ。


シンジャが朝食を運ぶ。


父:どうだ、仕事のほうは。なかなか売り上げもよさそうだな。
ヒ;おかげさまで。
父:今は、何をやっているんだ。
ヒ:春の新作のデザインを。冬物もぼちぼち売れ出しています。

父:そうか・・・うむ・・・。ソウルデパートでのファッションショーは、春物か?
ヒ:ええ、でも、これから冬物のシーズンですし、まずは冬物を出して、春を後半に持ってこようかなと思っています。
父:うむ・・・。まあ、忙しいのもいいが、スタッフにも少し労いをしてやらないとな・・・こういう商売は、スタッフの気持ちを掴んでおくことが大事だ。
ヒ:はあ・・・。
父:何か・・・差し入れでもしておくか?
ヒ:・・・。



ヒョンジュンには検討もつかなかった。今までチームで仕事をするということがなかったから。でも、今は自分を支えるデザイナーやパタンナーたち、スタッフは大切だ。


「ねえ、ケーキでも差し入れする? きっと、皆も、たまにはそういうもの、ほしいわよ」
「そうかな?」
「うん・・・あなたも疲れると、ちょっと甘いものが食べたいでしょ?」
「うん・・・」



ヒ:(お茶を入れるシンジャに)シンジャさん、すみませんが、会社のほうに差し入れお願いできますか?
シ:え?
ヒ:ノートルダムのケーキを・・・35個。昼過ぎに届けるように手配してもらえます?
シ:いいですよ・・・35個ですね。
ヒ:ええ。


「名前はソルミさんからがいいわ・・・」


ヒ:ソルミからの差し入れということでお願いします。


「モンブランは確保しなさいよ」(笑う)


ヒ:それから、ケーキはいろいろ取り混ぜてでいいですが・・・モンブランは社長用って、但し書きを入れてもらうように。
シ:(笑う)かしこまりました。モンブランがお好きだったんですね。
ヒ:ええ。(笑う)


父:うん、それでいいだろう。35個か・・・。
ヒ:ええ。総務の人たちも皆一緒のほうがいいでしょう?
父:そうだな。あ、今度の経営全体会議にも君も出なさい。これから大きく伸びる会社だ。皆の話を聞いておいたほうがいい。
ヒ:はい。





ダイニングにソルミが入ってきた。


ソ:ヒョンジュン! あなたに話があるの!
父:どうした? 朝から。物々しいな。
ソ:お父様は黙っていて。昨日、話そうと思っていたのに、忘れてたから・・・。

父:じゃあ、私は行くよ。ヒョンジュンも遅れないように。
ヒ:はい。
父:ソルミ、仕事の邪魔にならないようにな。
ソ:お父様!(怒った顔をする)


父親はダイニングから立ち上がり、シンジャが父親の背広を持って、玄関へ送っていった。
  

ヒ:朝から何だい?

ヒョンジュンはダイニングに座ったまま、ソルミを見上げる。
ソルミがヒョンジュンの横に立った。

ソ:昨日、ゴルフ場でへんな人に会ったの。
ヒ:へんな人?

ソ:あなたの「生き別れの姉」とか言っちゃって。
ヒ:姉?
ソ:そんな人なんていないでしょ?

ヒ:・・・。どんな人だった?
ソ:まあ・・・キレイな人・・・。背が高くて・・・。30代後半かな・・・。
ヒ:目が大きい?
ソ:うん・・・。


ソ:知ってるの?
ヒ:・・・もちろん・・・。それで、なんて?
ソ:ゴルフ場のクラブ・ハウスの真ん中で声をかけてきて。それも、私のお友達がいる前で・・・。(口ごもる)

ヒ:なんて?
ソ:・・・赤ちゃんはどうされたの?って・・・。
ヒ:・・・それで、なんて答えたの?(じっと見る)
ソ:・・・。






へ:私、ヒョンジュンの生き別れの姉です。
ソ:お姉さんなんて聞いてませんけど・・・。
へ:そうですか・・・でも、ヒョンジュンに聞けばわかるわ。私のこと・・・。
ソ:・・・。
へ:ところで・・・弟は、あなたに赤ちゃんができて結婚したはずですけど・・・。


周りの友人が驚く。


ソ:そ、そんな話、どこから聞いたの?
へ:だって、あなた。お医者様の診断書を持ってらしたでしょ? それで弟は、結婚寸前のところを、浮気相手のあなたと結婚したんですよ。
ソ:そ、そんなあ・・・。(周りの友人の視線を感じる)そんなことはなくてよ。それは、それは何かも間違えだわ。ヒョンジュンと私は純粋に・・・。


へ:ではなぜ、婚約者が泣いたんでしょう・・・。なぜ、辛い別れをしたんでしょう・・・。
ソ:さあ・・・ヒョンジュンが私に魅力を感じたからじゃないの?
へ:あんなに愛してたのに・・・。


周りの友人が顔を見合わせる。


へ:あなたも個展であの絵を見たでしょ? ああ、あの絵を買って・・・ヒョンジュンに、手を出したんだったわ・・・。そうね?
ソ:言いがかりをつけないで。私たちのこともよくわからなくて、何をおっしゃるの?
へ:あなたのことを知らないだけです・・・ヒョンジュンについても、あの子の恋人についても、私はよく知っていますよ。
ソ:・・・。

へ:よくわかりました・・・。このことは、あの子の婚約者だった人に伝えます。
ソ:・・・。
へ:あなたが騙して、ヒョンジュンを手に入れたことをね。
ソ:・・・ひどいわ・・・。

へ:ヒョンジュンを幸せにしてください。あなたのお金で・・・。
ソ:なんですって!
へ:失礼!


ヘスは、怒りに震えるソルミを置いて帰っていった。








ソ:赤ちゃんのことは、あなたとご両親しか知らないはずなのに・・・。
ヒ:・・・生き別れの姉だからね・・・家族は皆知ってるさ・・・。
ソ:でも、なんであんな人前で・・・。
ヒ:恥をかかされた?(じっと見つめる)
ソ:・・・。

ヒ:でも、真実なら仕方ないじゃない・・・。うそはいつかバレるよ。

ソ:恨んでいるの?
ヒ:君のこと?
ソ:・・ええ・・・。(見つめる)

ヒ:どうかな・・・。でも、感謝もしてるよ。これだけの仕事をさせてもらって・・・。この仕事は僕に合っているように思うし・・・。経営にも参加させてもらってるし。それで、十分だ・・・。婿としては、よくやってるだろ?


ソ:ヒョンジュン・・・。(ヒョンジュンに懇願するように見つめる) 私・・・ホントにあなたの子がほしいの・・・。だって、そうすれば、私たち円満でしょ? 仕事もうまくいっているし・・・あとは家庭だけ・・・。それもうまくいくわ・・・。


座っているヒョンジュンがソルミのお腹をやさしく撫でる。


ヒ:ホントに、ここに赤ちゃんがいればよかったね・・・。僕は君に悲しい思いをさせたくなかった・・・。


ソルミのお腹をやさしく撫でていた手がずっと下に下がる。ソルミは少しポッとした顔をする。


ヒ:(手を離して)でも、駄目だ。今は子供を作る時じゃない。
ソ:なぜ?(驚く)

ヒ:会社をもっと軌道に乗せなくちゃ。会長も期待してくれてるし。
ソ:ヒョンジュン、あなたが躍起にならなくても、うちは大丈夫よ。(笑う)


ヒ:僕がしたいんだ。・・・それに・・・。赤ちゃんなら、他でも作れるだろ? 僕に拘ることはないよ。
ソ:・・・。(驚く)
ヒ:じゃあ、出かけるよ。


凍りついたソルミを置いて、ヒョンジュンは席を立った。
ダイニングを出ようとしたところを、お手伝いのシンジャが立っていて、ヒョンジュンの顔を見上げる。


ヒ:ケーキの件はよろしくお願いします。ソルミの名前で差し入れしてくださいね。
シ:か、かしこまりました・・・。(緊張する)
ヒ:では、行ってきます。
シ:行ってらっしゃいませ。(頭を下げる)


ソルミは凍りついたまま、ダイニングに佇んだ。










7部へ続く


2009/09/04 00:39
テーマ:【創】恋がいた部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋がいた部屋」6部-1






BGMはこちらで^^




BYJシアターです。

本日は「恋がいた部屋」6部-1(前半)です。



これより本編。
では、お楽しみください。



~~~~~



愛が
僕を見放す

そんな時が
来るのだろうか


人の心を
裏切る

傷つける


そんなつもりなど
なかったのに・・・



真実の愛に
生きることは
難しい・・・

できれば
君といたい・・・


でも

それは今
不可能だ・・・











「お帰りなさいませ」
「ただいま」


夜11時を過ぎて、ヒョンジュンが家に帰ってきた。
50半ばのお手伝い、シンジャがヒョンジュンのバッグを受け取る。


ヒ:帰ってる?
シ:いえまだ・・・。お嬢様は、今日は帰りが遅くなると連絡が入りました。
ヒ:そう。会長は?
シ:もうお休みです・・・。
ヒ:うん・・・。あなたももう寝てください。ソルミが帰ってきたら、僕が玄関を開けるから。
シ:ありがとうございます・・・。お夜食は?
ヒ:いいよ。自分でやるから。そんなに気を使わないで下さい。
シ:でも、お手伝い致しますよ。お仕事でお疲れでしょうに・・・。
ヒ:(笑う)じゃあ、ビールを書斎に。
シ:かしこまりました・・・。(笑う)





主演:ぺ・ヨンジュン
   チョン・ジヒョン

   チョ・インソン
   キム・へス
【恋がいた部屋】6部-1








ヒョンジュンは、リビング奥の扉を開けて、書斎に入る。彼がこの家の中で唯一安らげる場所だ。



この部屋の主は、もうここにはいない・・・。
ここは、ソルミの母親の趣味の部屋だった。きらびやかな他の部屋に比べて、そこはしっとりと温かく、ヒョンジュンの心を抱いた。壁紙にしても調度品にしても、やさしい味わいのあるものばかりだ。

ソルミの母親は、夫と同じ上流社会の出身で、見合い結婚で結ばれたが、結局、我が強く、外にも女を作った夫に嫌気が差して、この家を出てしまった。今は、実家で年老いた母と静かに暮らしている。

両親が離婚したのは、ソルミが中学2年の時だった。
それからは、一人娘のソルミは自由奔放、好きなように生きてきた。この家の跡取り娘である彼女は家事を覚える必要もなく、有り余る自由の中で育った。

彼女は物質的には満たされていたものの、心には寂しい、満たされないものがあった・・・。父親は仕事に夢中で娘のことなど考えていなかったし・・・自分自身も男である父親に何かを相談するというのも嫌だった。
どちらかというと、父親似の性格の彼女は、穏やかで自分の気持ちをあまり口に出せなかった母親とはよく衝突した・・・。衝突というより、ソルミが一方的に攻撃的な言葉を母親に投げかけただけだが・・・。
  
衝突はした母だったが、去ってしまえば、母のいない寂しさは、他のものでは補えないものがあった。
母が恋しくて、母親の実家を訪ねてはみるが、ソルミの口から出る言葉はいつも強がりで、自分の本当の思いを結局母親には告げることができない。最近は用もないので、母を訪ねることもなくなって、二人の関係はより疎遠になった。一見やさしい穏やかな母も、気性の激しいソルミも、お互いに歩み寄れない・・・自分の人生が中心の二人。根っこでは性格がよく似ているのかもしれない・・・。

母と別れたあとは、母の温もりを感じるこの書斎が、ソルミの安息の場所となった。本当の母に会うより素直に母の温もりが感じられ、彼女の心を癒してくれるので、ソルミはこの部屋を愛した。

ヒョンジュンが来てからは、自分が買ったあの絵の女の顔を見るのも嫌で、この部屋には、あまり来なくなってしまった。その代わり、ヒョンジュンがこの部屋を愛し、今では書斎として使っている。

ソルミは、この部屋で、ヒョンジュンがあの絵と向かい合っているかと思うと、胸がざわめいて、いっそあの絵を捨てようかと思ったが、自分のやったことの「代償」であるのなら、それも仕方がないかもしれない・・・。気性の激しいソルミにしては、その点は、非常に寛容に見えた・・・。


やっと手に入れた理想の男、ヒョンジュン・・・。


ソルミは、父親のように、仕事に追われた生活など、大嫌いだった。自分の人生の楽しみを捨てている・・・彼女はそう考えていた。

彼女の母は美しい植物画をいくつも残した。この部屋の壁や棚の上に、彼女の植物画がある。仕事に追われ、家族を省みなかった父に比べ、母は一日中絵を描いて過ごした。その後ろ姿は、優雅そのもので、自分もいつかああして暮らしたいと思った。でも、ソルミにはそうした芸術的センスがなかった。

それを補うのが自分のパートナーとなるべき人であり、芸術家の夫を持って、あの母のように、二人は日々を優雅に過ごす、これが彼女の考えた夢だった。
それは父親の生き方への反発だったかもしれないが、ソルミはそれを実行した。
アーティストと呼ばれる、目ぼしい男を片っ端から貪る。それは音楽家であったり、写真家であったり、シンガーであったり、ダンサーであったり・・・。
でも、どの男も究極はソルミの財力に魅力を感じて付き合うだけで、心底、自分だけを愛そうとはしてくれない。彼女の財力で立身出世を夢見る。

そして、実際の彼らは、ソルミの美貌に酔うより、自分の才能に酔っていた。彼らの心の中は、エゴイストで・・・ソルミを姫のように扱っても、真実は少しも彼女に傅いてなどいなかった。


これだけの美貌を持っているのに・・・なぜ・・・?



ある時、画廊で見かけた画家の小さな紹介写真に、ソルミはときめいた。ヒョンジュンは将来を嘱望された画家であるだけでなく、その姿も顔も美しかった。その写真に、ソルミは心を奪われた。そして、本物の彼はもっと素敵だった。他のアーティストに比べ、鼻持ちならないところはなかったし、ある意味、純粋だった。ソルミの財産など全く念頭にないように思えた。

一つ面倒なことと言えば、いつも近くに恋人らしき女がいたこと・・・。
でも、それもソルミにとっては、あのように愛されたいという雛形に過ぎなかった。
あの絵に描かれた女のように、自分も愛されたいと思った。

彼に肖像画を描いてもらい、バリ島まで連れ出したというのに、彼は、バリの生活を楽しんでいるだけで、自分を女として手に入れようと努力さえしない・・・。ソルミがやっとなんとか、ヒョンジュンを手に入れたかと思ったら、彼はその翌日、逃げるようにして、バリを去った。



  

シ:旦那様、お待たせ致しました。
ヒ:ありがとう。あ、つまみも用意してくれたの。(笑顔)いつも悪いですね。
シ:少し召し上がったほうがいいですよ。・・・あまり、外食ばかりでは体によくないですから。
ヒ:そうだね・・・でも、今は仕事が一番だから・・・。男には、そういう時期もあるでしょう?
シ:・・そうですね・・・。
ヒ:お休み。(笑顔で)
シ:お休みなさいませ・・・。




シンジャが部屋を出ていくと、読書用に置かれた小さな丸テーブルに腰掛け、缶ビールを開ける。
一口飲んで、ヒョンジュンは壁をじっと見た。


ついこの間まで、そこにミンスがいた。


ソルミの絵は裸体であることもあって、自分たちの2階の部屋に飾ってあった。
父親がそれを客に見せるのをマズイと言ったので、2階へ隠したが、見せたがりのソルミは友達を呼んではその絵を見せ、皆の驚嘆に、胸をときめかせている。




ヒョンジュンは一日に一回はこの部屋で、ミンスに会った。
ミンスはあの絵の中から、いつもヒョンジュンを見つめていた。

結婚を機にデザイナーに転身するように、ソルミの父親に言われた時は、その衝撃に心が震えた。
「実業家の一人娘と結婚するのに、画家では使い物にならん」 それが父親の言葉だった。
「もし、君が我がグループの中で、一つのブランドを成功させることができたら、君をソルミの夫として受け入れ、私も君を誇りに思うだろう・・・」 父親はそう言った。



挙式のあとだったので、ヒョンジュンの心は、大きく揺れた。
夜一人でここへ来て、ミンスの顔を見た。


おまえはどう思う・・・?


彼女がやさしく話しかけてきた。


「ヒョンジュン、画家を捨てるのね・・・。残念・・・。でも、大丈夫。あなたならできるわ。好きなものを描けばいいのよ・・・私はあなたを信じているから・・・。あなたならできるわ」
「好きなものって・・・おまえを描きたいだけだよ・・・」
「そう・・・今度は私の心ではなくて、私の姿を描けばいいのよ・・・簡単でしょ? 同じ私だもん・・・あなたの好きな私を描くだけよ」
「それでいいの?」
「それでいいのよ・・・」




デビューの前日も神経が尖って苦しくなった時、絵の前に立った。


「熱なんて出しちゃ駄目。私が介抱しに行くことはできないから・・・。大丈夫・・・もう準備万端・・・失敗するはずがないわ・・・。やるだけのことはやったわよ」

ヒョンジュンは、ミンスの言葉に励まされた。





ソルミの父親は初め、ヒョンジュンがここまでできるとは思ってもいなかった。
父親である会長が初めて、画家であるヒョンジュンを見た時に浮かんだインスピレーション・・・それが「デザイナー」だった。

彼にしてみれば、今まで「使えない」芸術家を漁っていた我儘娘のソルミが、家へ連れてきた中では、一番、扱いやすい男に見えた。

ソルミ、またはその夫は、彼の事業を継がなくてはならない。それには、家業を継げるだけに力量もなければならない・・・。しかし、ソルミにはそのような才能はなかった。となると、その夫こそ、自分の跡取りだ。

経営者、それはこの男には難しいかもしれないが、デザイナーというのはどうか。

アパレル会社の「顔」としては、悪くないのではないか・・・。もし、この男が「デザイン」などできなくても、形だけデザイナーということにして、グループ内のデザイナーを集めてチームを作り、そこで、ヒョンジュンという男を祭り上げて、作品を作っていけば、会社の「顔」というものが成り立っていく・・・。

この男の履歴はその「顔」にふさわしいし、本人も美しく、「顔」として、顧客の女たちの心を掴むに違いない・・・。

父親である会長はそんなことを考えた・・・。


ソルミの妊娠を聞いた時、まさにそれは使えるアイディアとなった。


ヒョンジュンという男の持つ柔らかさは、きっと女性の顧客受けするだろうと予想はしたが、それは的中。ふたを開けてみれば、ヒョンジュンという男は、デザイナーになるという提案を真面目に引き受けて、デザイン画をすぐに覚え、どんどんデザインを始めたではないか。それには、父親も会社の役員も驚いた。
その上、素材の勉強など、衣服につながることを多岐に学んでいく・・・。

彼は、まるで結婚生活より仕事をするためにやってきたようにも見えた。






ヒョンジュンは、今、ミンスがいなくなった壁を見つめて、ビールを飲む。

絵はなくなっても、そこにミンスの心は残っているような気がする。
会社のトルソーの中にもミンスがいて・・・。
離れてしまった今になって、ヒョンジュンの周りのあちらこちらにミンスは確実に存在し始めた。

今まで気がつかなかった朝食のコーヒーやトーストの中にも、ミンスはいる。

「アメリカン・・・」それだけで、ミンスは存在した。
「トーストにバターを多目に塗る」そんな仕草の中にも、ミンスはいた・・・。


会社で使っている、ヒョンジュンのお気に入りの、ジノリの無地のマグカップにも、ミンスはいた。


鉛筆を削るだけでも、ミンスはいた。

「先っちょは、このくらいでいいの?」 今は自分で削り、「そう、これでいいんだよ」 と心で答える。



別れたというのに、ミンスの存在感はどんどん広がっていくだけで、前よりも二人が言葉を交わすことが多くなってきていることがわかる。

一緒にいる時は、会っていない時は、あまりミンスは顔を出さなかったから・・・。今、家にも会社にもミンスがあふれていて・・・唯一、ソルミといる時間だけ、ミンスは静かに姿を消している・・・。

  




6部-2に続く・・・




 


2009/09/03 00:52
テーマ:【創】恋がいた部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋がいた部屋」5部-2






BGMはこちらで^^




BYJシアターです。

本日は「恋がいた部屋」5部-2(後編)となります。
前回から、1部を2つに分けて、毎日アップしています。



ヒョンジュンと別れたミンス・・・。

二人の恋は本当に終わったのでしょうか・・・。


ではここより本編。
お楽しみください^^



~~~~




主演:ペ・ヨンジュン
   チョン・ジヒョン
   チョ・インソン(ジフン)
   キム・ヘス(ヘス)

「恋がいた部屋」5部-2




今日は、画廊の本店で、チェスクとの打ち合わせがあるので、ミンスは表通りのソン画廊へと急いでいた。
ヒョンジュンと別れてから、ミンスのことを不憫に思うチェスクは、知り合いがレストランなどを開店する時には、必ずミンスを紹介する。ミンスもそれに答えるべく、最善を尽くした。センスがよくて真摯な態度のミンスは顧客の信頼を得た。もともと大きなソン・グループという後ろ盾にあるので、紹介される相手も大きな仕事を手がけるところが多く、ミンスの仕事も順調に・・・というより、以前よりも飛躍的にその仕事の幅を広げた。
  

午後1時半の約束に、ミンスは、ソン画廊のあるビルの中へ入っていった。
画廊の前まで来ると、中から、細身のスーツに身を包んだヒョンジュンが出てきた。

二人は、半年ぶりに向き合った。
ミンスはあまりの懐かしさで、心臓が止まるかと思った。


ミ:こんにちは・・・。(苦しさを抑えて言う)


ミンスは胸をざわめかせながら、ヒョンジュンを見つめた。
ヒョンジュンはにっこりと、ミンスに笑いかけた。


ヒ:元気だった?
ミ:・・・ええ・・・。

ヒ:そう・・・。

ミ:あなたは・・・元気そうね。活躍してるの、知ってるわ・・・。
ヒ:うん。君も・・・頑張ってるって、チェスクさんから聞いたよ。
ミ:・・・。


ヒョンジュンは、ミンスの知っていた時代よりもほっそりとして、黒のスーツがよく似合っていた。それまでよりも顔つきが大人になって、その佇まいには落ち着いた男の力強さと色気があった。
  

ヒ:ねえ、ちょっと見せて。
ミ:何?
ヒ:君が着ているところをちゃんと見たいんだ。よく見せて。


ヒョンジュンは、ミンスが胸の前で荷物を抱きかかえていた手をちょっと払って、ミンスの全身を上から下までゆっくりと眺めた。
  

ヒ:やっぱり、似合うね。(笑顔でミンスを見つめる)
ミ:・・・。


一瞬、ミンスの目が曇って、俯いた。


ミ:ごめんなさい。チェスクさんと約束しているから・・・。行かなくちゃ。

  
ミンスはそれ以上、言葉にできなかった・・・。
ヒョンジュンの顔をまともに見られず、さっさと彼の前を通り過ぎて画廊の中へ入った。



あの人は言った・・・。

「やっぱり、似合うね」って・・・。
やっぱりって・・・?


ミンスは涙がこみ上げてきて、我慢ができなかった。
やっぱりって・・・ヒョンジュンは今でも自分のことを思っているのだろうか。

それと同時に、ヒョンジュンの落ち着き払った態度にも胸が締め付けられた。男は結婚してしまうと、あんなに落ち着いてしまうのだろうか・・・。昔の恋にゆとりを持って接することができるのだろうか・・・。

画廊の受付を通ったところで、壁のほうを向き、涙を拭った。
  

チ:ミンスさん?

中からチェスクが出てきた。


ミ:あ、すみません・・・。ちょっとすみません・・・。(ハンカチで鼻を押さえる)
チ:彼に会った?
ミ:ええ・・・。

チ:ヒョンジュンさんとは、午前中に会う約束だったんだけど、彼も忙しいみたいで、遅くいらしたから・・・。ちょっと辛かったわね。
ミ:・・・もう大丈夫です。
チ:そう? 電話でお話したレストランのことだけど・・・。
ミ:はい。
チ:お茶でもいただきながら、話しましょう。



二人は奥の事務室へ向かった。

  
ミ:ありがとうございます。やらせていただきます。
チ:よろしくね。ところで、今日・・・ヒョンジュンさんが来たのはね・・・。あの絵のためなの。
ミ:あの絵って?
チ:ソルミさんが買ったあなたがモデルの20号。
ミ:あれがどうしたんですか?
チ:うん・・・。あれを美術館に寄付するっていう話なの。
ミ:なんで・・・。


チ:彼も結婚してから、デザイナーとして今や売れっ子でしょ? それで画家時代の絵が見直されて、ほしいって言う人が出てきたのよ。彼の絵がある意味で、ちょっとしたブームなの。服より本人の描いた絵がほしいって。画家をやめて・・・今、認められてるのよ。世の中って不思議よね・・・あるいは皮肉・・・。死んでから認められたり、廃業してから認められたり・・・。それでね、今、うちの画廊で彼の作品集を作っていて・・・。この間、彼にも見てもらったの。

ミ:そうですか・・・。
チ:その時、美術館でもほしがってるって言ったら、ヒョンジュンさんがうちにある絵を寄付しますって言うのよ。それで、取りにいったら、あの20号だったの。
ミ:・・・そうですか・・・。(少し気持ちが暗くなる)

チ:ミンスさん、あなたを手放したんじゃないと思うの・・・。ある意味、ソルミさんから守ったんだと思うわ。あなたを素敵に描いた作品だから、嫉妬されるといけないものね。
ミ:・・・。

チ:それに・・・彼はこう言ったのよ。これは、自分が一番いい時期に描いたものだから、もっと多くの人に見てほしいって・・・。情熱がいっぱいあった時代の絵だからって・・・。

ミ:・・・。(涙ぐむ)

チ:今の仕事も自分に合ってるって言ってたけど・・・やっぱり・・・絵を描いていた時代が、彼としては、情熱があふれていた頃みたいね。
ミ:・・・。(唇を噛み締める)


チ:それからね・・・。作品集の年表を作るなら、自分にとって、とても大切な絵があるっていうのよ。
ミ:・・・。
チ:それ、あなたが持っているんですって?
ミ:・・・。

チ:あの20号の片割れって言ってたけど・・・。
ミ:・・・ええ・・・。最後の日にもらったんです・・・。これは君が持っていてって・・・。

チ:見せてくれるかしら・・・。今、どこに保管しているの?
ミ:私の部屋に・・・。
チ:あなたの部屋? だって、大きいんでしょ?
ミ:ええ・・・。

チ:写真、撮っていい?

ミ:・・・。彼はなんて言ったんですか?
チ:あなたに任せるって・・・。あなたが了解するならどうぞって。ただ、その絵は自分の画家としての飛躍をもたらした作品で、そこを境に画家としての自分のスタイルが確立できたっていうの・・・。

ミ:あれは・・・。困ったわ・・・。私たちの恋そのものなんです・・・。それを公開していいのかどうか、わからないわ・・・。(迷う)

チ:一度見せて。私も一緒に考えるわ。
ミ:・・・ええ・・・。



二人で初めて遠出をした時の絵。

初めて結ばれた次の日に描いたミンスの裸婦像。
森の中の生き物のように、激しさと愛にあふれたミンスの姿・・・。
それはヒョンジュンの思いでもあった・・・。
そこには愛があった・・・。



ミンスはその絵をあのマンションの自分のベッドの横に飾っている。
あの絵を見ていると、今でも二人の恋に終わりがあるなんて、ミンスにはとても考えられない・・・。
離れてしまっても・・・終わることのない何かがそこには存在していて・・・ミンスの心に話しかけてくる。
絵の中のミンスの目は・・・ヒョンジュンの目だ・・・。ヒョンジュンが絵の中からミンスに話しかけてくる。

この間、会った現実のヒョンジュンがたとえ人のものであろうと、絵の中にいるヒョンジュンの心は、今だにミンスの心に寄り添っているように思う。

そして、ミンスは今、彼の部屋で、その絵と暮らしている。
  





ヒョンジュンが自分のオフィスで、お気に入りのトルソーを前にして、新作のデザインをしている。


女:先生。奥様からお電話です。
ヒ:回して。
女:はい。

ヒ:もしもし?
ソ:あ、ヒョンジュン? 今、ゴルフ場。ねえ、今夜のパーティ来られるでしょ?
ヒ:無理だな。新作の発表が近いから。
ソ:全く。付き合いが悪いわね。抜け出していらっしゃいよ。
ヒ:簡単に言うね、君は。仕事が押しているから、駄目だよ。

ソ:つまらないわ・・・。
ヒ:無理を言わないで。君だって、僕にいい仕事をしてほしいだろ?

ソ:仕方ないわね・・・。でも、あなたが仕事熱心だと、お父様も喜ぶから、いいかも・・・。いいわ。一人で行くわ。

ヒ:サンキュ。会長によろしく。
ソ:じゃあ、お友達が待っているから。
ヒ:ああ・・・。
  

ヒョンジュンは電話を切った。ドアがノックされ、女子社員がコーヒーを持って入ってくる。
  

ヒ:ありがとう。


女性社員がコーヒーをデスクに置いた。


女:先生って、仕事中毒ですね。(笑う) このトルソーが恋人みたい。(笑う)
ヒ:そうお?

女:だって・・・ずっと見てるでしょ?新婚なのに、トルソーばっかり相手にして。このトルソーがインスピレーションをくれるんですか?
ヒ:そう。(笑う) そうだな、まさに恋人だね。いいこと言うね。

女:先生っておもしろい。頑張ってください・・・。あ、夕食はいつものお弁当でいいですか?
ヒ:頼んでくれる?
女:はい。

ヒ:君は適当なところで帰っていいからね。
女:ありがとうございます。(笑う)


女子社員は出ていった。


ヒョンジュンは、イスを左右にゆらゆら揺らしながら、窓際に置かれたトルソーをじっと見つめている。
左手の小指にはめた濃い金色の太いピンキーリングを右手でグルグルと回しながら、懐かしそうな目をして、そのトルソーを眺めた。
  

やっと本物のおまえに会えたね。
やっぱり、おまえにピッタリだった・・・。

着てくれてたんだね・・・。

久しぶりに顔が見られて、とてもうれしかったよ。

全ておまえのために作っているんだ・・・。
他の人のためになんか作れない・・・。
おまえだけに・・・おまえだけのために、作る・・・。

だって、おまえがオレにインスピレーションをくれるから・・・。
今でもオレはおまえを・・・。


ヒョンジュンはじっとトルソーを見つめて、トルソーに向けてちょっと悲しげな笑顔で笑った。 
そして、何か頭に浮かんだのか、デザイン画を描き始めた。





ヘスは、ゴルフ好きの友人たちと週1回、メンバーであるゴルフ場でグリーンに出てゴルフを楽しんでいる。
いつものように、友人たちとクラブハウスで昼食を取ろうと入っていくと、華やかな
女性たちの笑い声がした。


「やだわあ・・・そんなことなんてなくてよ」


一人の女性が、グループの女たちから、からかわれ、うれしそうに切り替えしている。


通りかかったヘスは、何気なく、その声の主を見た。
短めのスカートから見える、スラッとした長い足を組んで、一際美しいその女は、華やかな笑顔で、幸せそうに笑っている。


連れ1:だって、ソルミさん。あんなハンサムで才能のあるダンナ様なんて、そうそういなくてよ。デザイナーになって、すぐにあんなに頭角を現すなんて、普通の人じゃないわよ。
連れ2:そうよ。私もそう思うわ。ああ、ご主人様の描いた絵がほしいわ・・・。だって、ソルミさんを描いた絵、すごく素敵なんですもの・・・。

ソ:そうお? ありがとう。(ちょっと上目遣いで微笑む)
連れ1:愛されているのね。わかるわあ・・・。
ソ:やだわ・・・もう・・・。(笑う)

連れ1:でもね、「H・joon(アッシュ・ジュン)」のお洋服って細身だから、私には着こなせなくって。ソルミさんを思い浮かべてデザインされているのね、うらやましい・・・。(笑う)
連れ2:それはそうよ。大恋愛ですもの! 画家とお嬢様なんて、まるでドラマだわ。でも、なぜ、着ないの? ご主人様だって、愛する奥様に着てほしいでしょ?

ソ:あら、私が着たら広告塔になってしまうでしょ。(笑う)そうしたら、皆さんに押し付けているようで。(笑う)それで、あえて、私はエルメスを着ているのよ。(笑う)

連れ1・2:まあ、ご馳走様!(笑う)

  
ヘスは行き過ぎて、「H・joon」というブランド名を耳にして、振り返った。

ヒョンジュンの妻と思われる女・・・。
エルメスのゴルフウエアをスッキリと着こなしている。


ミンスから聞いたヒョンジュンの結婚話とは違う・・・。

ミンスは寂しそうにこう呟いた。
もうじきヒョンジュンは父親となり、私の恋も完全に終わるのだと。


どこが妊娠しているの?


ヘスは立ち止まって、女のほうをじっと見つめている。
  

友1:ヘスさん、どうしたの?
友2:ヘス、どうしたのよ?

  
ヘスはつかれたように、まっすぐその女のもとへ歩いていった。そして、女の目の前で立ち止まり、座っている女をじっと見下ろした。



ソ:何か、何かご用?(驚いたようにヘスを見る)

へ:私・・・。ハン・ヒョンジュンの、生き別れの姉です・・・。
ソ:え・・・?



二人は見つめあった。








6部へ続く




2009/09/02 01:50
テーマ:【創】恋がいた部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋がいた部屋」5部-1






BGMはこちらで^^




BYJシアターです。

本日は「恋がいた部屋」5部です。


今まで、元の形でアップしてきましたが、
ちょっと長いので、短く区切ってアップします。


もともとは、何日もかかってアップしていったものなので、
読まれる方もゆっくり読めたんですが、
ここでは一日置きなので、こんな量はちょっとしんどいですよね。

ということで、
オリジナルとは、切れる部分が変わりますが、

お楽しみください^^




これより本編。
ではお楽しみください。




~~~~~~




恋を失うというのは
どんな状態だろう


あなたが
心の中から消えてしまうことか

それとも
現実的に
別れた状態を言うのか
  


あなたのいない世界を
考える

あなたと
交わした言葉を
忘れる・・・  


そんなことは
私にはできない



そんなことを
してしまったら

私が
私でなくなってしまうから


  
あなたなしには・・・
私は
存在しないから









「こんにちは」
「いらっしゃい」

ヘスがミンスの新しいマンションへ遊びにやって来た。



ミ:どんどん中へ入って。
へ:うん。はい、これ。ケーキ。
ミ:ありがとう。
  

へスは部屋の中へ通されて、リビングの窓から外の景色を眺めた。





主演:ぺ・ヨンジュン
    チョン・ジヒョン
    キム・へス

【恋がいた部屋】5部-1







へ:ここ、見晴らしがいいわねえ。
ミ:でしょ? ねえ、紅茶にする? ローズヒップティもあるけど・・・。
へ:それがいい。そっちにして。
ミ:わかった・・・。

へ:ずいぶん広いのねえ・・・。(今度は部屋の中を見る) ここって・・・ワンルームだったの?
ミ:そうよ。だけど、私には使いにくいから、カーテンで部屋を仕切っているの。あっちはベッドだけ。
へ:そうお・・・。


ヘスは部屋の中の家具を眺め、大きく息をついてから、ソファの背を手でなぞりながら、ダイニングテーブルのほうへ戻ってくる。


ミ:お姉ちゃん・・・。ここの家具は全部私のよ・・・。(姉を見つめる)
へ:わかってるわよ・・・。でも、ヒョンジュンのもあなたが選んであげたんでしょ?
ミ:・・・。


姉妹はちょっと見つめあった。



その通り・・・。

ヒョンジュンが新しいマンションに移る時、家具は全てミンスが選んだ。



「おまえの好きなのでいいよ」
「でも・・・」
「そのほうが一緒になってからでも使えるじゃない」
「やだあ」(うれしそうな顔をする)
「そうだろ? そうして」
「うん!」


ヒョンジュンとミンスはまるで新婚のように、二人で、家具やカーテンを見て回った。



だから・・・ここにある家具も同じテースト・・・。
カーテンもそう・・・ベッドも同じ・・・。
お姉ちゃんにはわかるのね・・・。
  



ミ:おねえちゃん・・・モンブラン・・・。
へ:そうよ。(席に着きながら)あいつの好きだったやつ・・・。なんでこんなマズイの好きだったのかしらね。(笑う)
ミ:私も好きよ。
へ:実は私も。(笑う)


ミ:好きなお店のだわ・・・。
へ:うん・・・。

ミ:お茶が入ったわ。食べよう。
へ:うん・・・。
  
へ:あいつって、子供の頃から、栗とかお芋が好きだった。(思い出し笑いをする)
ミ:そう?
へ:うん・・・。だから、しょっちゅう、プープーしてたわよ。
ミ:やあだあ・・・。(笑う)

へ:ジェンスとヒョンジュンと三人で、よく遊んだ・・・。
ミ:お兄ちゃんのこと、よく覚えてないの。
へ:そっか、うん・・・。あの子が死んだのって、12の時だもん・・・。あなたはまだ5つで・・・。覚えてるわけないよね・・・。

ミ:ヒョンジュンとは、どこで再会したの?(ケーキを食べる)

へ:ソウルの本屋さんで・・・。デートの前にね、時間潰してたら、あいつが声をかけてきたの。「ヘス姉さん?」って。その時、私って、ちっとも顔が変わってないって言われちゃった。ちゃんとお化粧してキレイになってたはずなのに・・・。(笑う)あいつは・・・カッコよくなってたけどさ・・・。(ケーキを食べる)

ミ:それで・・・恋に落ちたの?

へ:というかね・・・。その時、時間があったから、一緒にお茶を飲んだのよ。そしたら・・・ジェンスを思い出しちゃったの・・・。あいつと、すごくよく似てるんだ・・・。表情とか癖が・・・。それで・・・別れた後、また会いたくなっちゃって・・・。

ミ:ふ~ん・・・。お姉ちゃん、別れたあと、「考えてみたら、ヒョンジュンは弟みたいなものだった」って言ってたよね・・・。
へ:そうだっけ? 忘れちゃった・・・。そんなこと、言ったんだ・・・。ミンスは、どうやって知り合ったの?

ミ:画廊に食器を納めに行って・・・。そこに彼がいたの。画廊のチェスクさんて、お姉ちゃんも挨拶したことあるでしょ? あの人が紹介してくれた・・・。私の名前を聞いて、あのミンス?って、彼が驚いて・・・それから・・・。

へ:そうかあ・・・。全部、ジェンスが引き会わせてくれたんだね・・・。
ミ:うん・・・。


へ:ねえ、それにしても、ここって、一人で住むには高くない? 大丈夫? 赤字でしょう?
ミ:まあね・・・。でも、お金がなくなったら、それでおしまい・・・。


へ:金の切れ目が縁の切れ目?
ミ:・・・たぶん・・・。
ヘ:・・・そう・・・。

ミ:それまではいるわ。(微笑む)
へ:なんで、結婚しちゃったんだろうね・・・。考えてもみなかったなあ・・・こんな結末。
ミ:・・・。



ミンスが両手でマグカップを包み込むように持った。



へ:ずいぶん、金色が濃いのね、その指輪。
ミ:そうお? 24金だからかな。
へ:へえ、そんなのつけてるんだ。すごくおしゃれね。太くって。ミンスに似合ってるわよ。でも、あなた、そんなところにしてたら、モテないわよ。中指にしたら?


ミンスは、左薬指にはまっている指輪を見た。


ミ:でも、これ、サイズが小さいの。中指だとはまらなくて・・・。今は、どこの指にはめてもいい時代よ。お姉ちゃん、古いわね。
へ:そうかな・・・。(指輪を見ている)少し伸ばしてもらったら?
ミ:いいのよ・・・ここで。


ミンスは右手で指輪を触った。
  

へ:ねえ、あなたに聞くのもおかしいけど・・・なんで、ヒョンジュンが結婚したか、知ってる?

ミ:・・・うん・・・。それはね。

へ:どうして? あなたとうまくいってたじゃない。
ミ:・・・あっちに赤ちゃんができちゃったの・・・それで・・・。父なし子にはできないからって・・・。ましてや、中絶なんて駄目だって言って・・・。

ヘ:・・・浮気してたの? (驚く)
ミ:・・・うん・・・。
へ:そうなんだ・・・。ショック・・・。あなただけを愛してると思ってたのに。

ミ:それが・・・ちょっとした心のスキだったと思う・・・。本人はその時だけって言ってたけど・・・。それでも・・・。(辛くなる)
へ:それにしても、どんな女?
  

ミンスは、ヒョンジュンが結婚したソルミの話をかい摘んで話した。
ヘスもやるせない顔になった。


二人はしばらく黙ってお茶を飲んだ。
  

へ:辛かったね・・・。
ミ:・・・。
へ:そんなことがあったんだ・・・。愛だけじゃ超えられないこともあるのね・・・。
ミ:・・・。


ヘスは、ミンスをじっと見つめた。
  

へ:ミンスは・・・本当に知らないんだ・・・。
ミ:何が?
へ:私たちが別れた理由・・・。
ミ:うん・・・。

へ:もう終わったことだから・・・話しておくね。
ミ:秘密にしておきたかったら、言わなくてもいいよ。もうヒョンジュンはいないんだし・・・。
へ:うううん・・・こういう時こそ、妹のためにならなくちゃ・・・。あなたに教えてあげたいの、なんで・・・ヒョンジュンが結婚しちゃったかもわかるかもしれないから・・・。


ミ:・・・。
へ:さっき、本屋でデートの前に時間を潰しているところで、ヒョンジュンと会ったって言ったでしょ? 私、その頃、会社の人と・・・不倫してたの・・・。それが・・・ヒョンジュンと付き合い始めても別れられなくて・・・。

ミ:・・・お姉ちゃん・・・。(内心驚く)

へ:両親や周りの反対だけで、駆け落ちしたんじゃないの・・・。ソウルにいると、私がズルズルしちゃうからって・・・ヒョンジュンが二人でどっか違う所へ行こうって言って・・・。それで、駆け落ちしたの・・・。
ミ:・・・。
へ:ヒョンジュンは若かったけど、男らしかった・・・。オレがおまえを食べさせてやるからとか、言っちゃって・・・。なのに・・・。
ミ:なのに?

へ:駆け落ちした先でわかったことは、私が妊娠してたこと・・・その人の子をね。
ミ:・・・。
へ:それで・・・。



ヘスは言葉につまって、上を向いた。

姉の目が涙でキラキラと光っているのを見て、ミンスは確信した。姉は当時のことを後悔している。いや、今でもヒョンジュンのことが好きなのだと。

  
へ:それでね・・・。その田舎町の設備もよくない病院で中絶することにしたの・・・。
ミ:・・・。
へ:ヒョンジュンは止めたわ。ソウルに戻ってちゃんとした病院へ行けって。こんなところでするのはやめろって。あまりに怒ったように言うから、あの時の私は、意地になっちゃって・・・結局、ヒョンジュンを付き合わせちゃった・・・。それで・・・自分から別れを言ったの・・・。

ミ:・・・。愛してたんでしょ? ヒョンジュンを?
へ:まあねえ・・・。でも、私がひどいことしちゃったのよ。だから、仕方ないの。それに・・・その時、感じたの・・・。ヒョンジュンは、私を肉親の姉のように思っていて、私のバカみたいな不倫をやめさせるために、私を田舎町まで引っ張っていったんじゃないかって。・・・なんだか、私の中で、彼を愛していることや、彼が私を愛してくれる理由がわからなくなっちゃったの・・・。それで、自分から別れを言ったの。

ミ:今はどう思ってるの?
へ:ヒョンジュンにとっての私は・・・半分、アネキだったと思う・・・。懐かしかったアネキ。その懐かしさと恋が、彼の中でごっちゃになってたんじゃないかって思う・・・。彼が気がつかなくてもね。
ミ:どうしてわかるの?
へ:あなたといるのを見て、確信したの。彼は私を姉として、守ったって・・・。あなたには・・・ホントの心を見せていた気がするもん・・・。全部預けてる気がしたもん・・・。


ミンスが一瞬泣きそうになった。そんな風な間柄だって・・・壊れてしまう恋もある。


ミ:お姉ちゃんは・・・ヒョンジュンをどう思ってるの? 本当は・・・?

へ:え?(困って口ごもる)そんなの、どうでもいいじゃない・・・もう、終わったことよ。それより、ミンス。あなたに言いたいのは・・・あの時のことを、ヒョンジュンがとても気にしているんじゃないかってことなの・・・。今、私に子供がいないでしょ? だから・・・あれでできなくなったと思っているかもしれないわ・・・。でも、本当のことはわからない
の・・・。うちのが駄目なのか、私が駄目なのか、検査もしていないし・・・わからないの・・・。ただの相性かもしれないし・・・。

ミ:・・・そうだったの・・・。知らなかった・・・。
へ:ヒョンジュンに重い足枷をしちゃったね・・・。いけないのは・・・私ね・・・。


ミ:・・・。
へ:でもね、ミンス。こうなってしまったからには、仕方ないじゃない・・・。あいつを忘れるか・・・。忘れられなくても次に進まないと・・・。

ミ:・・・。(涙ぐむ)
へ:・・・残念だったね・・・。
  

二人はまたしばらく黙り込んだ・・・。

  
ミ:あ。コーヒーでも入れようか。



ミンスが立ち上がった。

ヘスは、ミンスを不憫に思いながらも、自分のことを思った。もう12年も前のことなのに、今だに、あの恋を引きずっている自分。ヒョンジュンの気持ちに気づいて別れたけれど、別れた後で、自分自身は彼を誰よりも愛していたことに気づき、それをずっと後悔した自分・・・。それを思うと、3年という月日を彼とともに過ごし、結婚直前までいったミンスが、簡単に彼を諦めて、すぐに出直すなんてことは、無理なことだろう。


かつて恋人が暮らしていた部屋を借りて住んでいる妹・・・。


きっと、家具なども同じようなものに違いない。

妹が手の中に包み込むように持っているマグカップは、もしかしたら、ヒョンジュンの使っていたものかもしれない・・・。妹の手がそう言っている・・・これは、ヒョンジュンのよって・・・。彼が好きそうなデザインだ・・・。
  

へ:ミンス・・・今着ているカットソーって・・・H・joon(アッシュ・ジュン)の?


ミンスはその言葉にドキッとして、姉を見た。


ミ:そうよ・・・。
へ:ピッタリね。まるであつらえたみたい。

ミ:コーヒーが入ったわ。

へ:あなたがこんなに似合う服を作るヒョンジュンて・・・。人の心の中ってわからないものね。

ミ:お姉ちゃん・・・H(アッシュ)、覗いたの?
へ:うん・・・。


ヘスは恥ずかしそうに俯いた。


へ:私もヒョンジュンのものがほしかったから・・・。でも、細いのよ。(笑う)今度、ミッシー用に作ってもらわなくちゃ・・・。(顔を上げる) あなたはよく似合ってるわ。
ミ:・・・・。




ヒョンジュンは、半年前に、キム・ソルミと結婚した。

そして、今では絵を捨て、ソルミの父親のアパレル・グループのデザイナーズ・ブランドのデザイナーとして成功している。作る作品の美しいフォルムや着やすさもさることながら、彼という人の美しさも、20代、30代の顧客の心を掴んでいる。

ミンスは彼がデビューしてから、ほとんどの洋服をH・joonの製品に変えた。
どれを組み合わせても、ミンスの体にぴったりだった。人より背が高く、細身で、腕の長いミンスが着ても、それはピッタリとフィットした。
  

姉もあのブランドを訪ねたんだ・・・。


ミンスは、自分たち二人にとっての、ヒョンジュンを思った。
とても近くにいたのに、手に入れることができなかった男・・・。




へ:たまには、うちへも遊びにいらっしゃいよ。
  
ヘスが玄関で、ミンスの腕を掴んで笑んだ。

ミ:うん・・・今度ね・・・。
へ:じゃあ・・・。


姉は笑顔を残して帰っていった。
  
ミンスは部屋に戻り、部屋の中を見回す。
そして、部屋を仕切っていたカーテンをザッと開き、部屋を広くした。





5部-2へ続く・・・・




2009/09/01 00:03
テーマ:【創】恋がいた部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋がいた部屋」4部






BGMはこちらで^^




BYJシアターです。

本日は「恋がいた部屋」4部です。


この恋の行方はどうなってしまうのでしょうか・・・?

このヒョンジュンはペ・ヨンジュンが演じていますが、
全く違う人です・・・・。

って毎回書いていますが、
正直さ、一途さそれは彼の因子ですが、違う人です・・・。




これより本編。
ではお楽しみください。



~~~~~





恋する気持ちで苦しく
時々、あなたを恨みたくなる
  
でも、私にはできない・・・
自分からあなたを手放すなんて
  
この苦しさの行き着くところは
わからないけれど
  
あなたが
私の全てであることに
変わりはない

あなたがいるだけで
私はきっと幸せなのだ

  
たぶん・・・

きっと


私は
あなたしか

愛することが
できないから








二人は電気もつけず、暗いホテルの部屋でベッドの上に並んで座っている。


ミ:絵は仕上がったのね・・・?(うつむき加減で静かに言う)
ヒ:うん・・・いい絵だよ・・・。
ミ:そう・・・。
ヒ:ミンス。・・・おまえに謝りたいんだ・・・。(気弱な声)
ミ:・・・。(ヒョンジュンの顔を見る)
ヒ:・・・オレがしちゃったこと・・・。
ミ:・・・。
ヒ:ごめん・・・。

ミ:・・・謝るようなこと・・・したの・・・? (声が震える)

ヒ:うん・・・最後の日に・・・。
ミ:・・・。(胸が苦しくなる)

ヒ:・・・おまえを、裏切った・・・。そのう・・・ソルミさんと・・・。
ミ:(息が詰まる)・・・。

ヒ:それなのに、おまえにここに来てもらうなんて・・・。虫が良すぎるね・・・。でも・・・どうしてもおまえに逢いたくて・・・。
ミ:・・・ソルミさんと・・・二人で・・・私を裏切ったということなの・・・?(やっとの思いで言葉にする)

ヒ:(肯く)・・・。最後の日に彼女と・・・。寝たんだ・・・。(はっきり言う)

ミ:・・・。どうして・・・。

ヒ:・・・。(答えられない)

ミ:自分で信じろって言ってて・・・。(涙が出てきてしまう)
ヒ:・・・ごめん・・・。


ミ:そんなことして・・・それで、バリを飛び出してきたの・・・?
ヒ:・・・。
ミ:なんで? ソルミさんとケンカしたの・・・?
ヒ:・・・オレが恋しかったのは・・・おまえだってわかったから・・・。それに気づいて・・・。
ミ:それで、あの人を置き去りにしたの?
ヒ:(肯く)・・・。

ミ:・・・。そんなこと・・・最初からわかっていたはずでしょ・・・。確かめなくてもわかっていたはずだわ・・・。
ヒ:ひどいね・・・。おまえにも・・・彼女にも・・・。


ミ:・・・。私は・・・ヒョンジュンを思ったら・・・ここに来ずにはいられなかった・・・。バリから一人で逃げ帰るなんて・・・のっぴきならない事が起きたんだと思った・・・。
ヒ:・・・。ごめん・・・。
ミ:なんで? なんでそんなこと、したの・・・?(ヒョンジュンを見る)
ヒ:・・・。


ミ:飛行機の中で、何度も考えた、あなたのこと・・・。お姉ちゃんのこと・・・ソルミさんのこと・・・。私一人、いつも心がザワザワと嫉妬に揺れて・・・。あなたと別れちゃえば簡単なのにって。嫌な気分にならなくていいのにって。

ヒ:・・・。

ミ:お姉ちゃんのことは・・・勝手に私が思いこんでるだけだけど・・・。それでも、たまに苦しくなっちゃうの・・・。あ、これって・・・。(額に手を当てる)もしかしたら、警告だったのかも。お姉ちゃんじゃなくて、他の人のところへあなたが行っちゃうっていう・・・。

ヒ:そんな・・・。浮気したことは謝る・・・でも、他の人のところなんか、行かないよ・・・。

ミ:あなたを心から追い出せればいいんだけど・・・。
ヒ:ミンス・・・。

ミ:・・・でも、できないのよ・・・。あなたと別れてしまうことが・・・。(俯く)
ヒ:ミンス・・・。おまえを苦しめてばかりだね・・・。


ミ:ねえ・・・私たち・・・この間まで幸せだったわよね? 個展が成功して・・・これから、二人の世界が開けていく気がして・・・幸せだったわよね?

ヒ:・・・戻れる? 前みたいに?
ミ:・・・わからない・・・。

ヒ:・・・オレはミンスじゃなくちゃ駄目なのに・・・。
ミ:・・・。

ヒ:それなのに・・・。
ミ:・・・。
ヒ:バリでも、ずっと、おまえのこと、思い出してたんだ・・・。おまえと一緒だったらって・・・。おまえが恋しくて仕方がないのに・・・。それなのに・・・結果的には、おまえを苦しめちゃうんだ・・・。おまえを・・・裏切っちゃうんだ・・・。

ミ:ヒョンジュン・・・。なんでそんなに正直なの・・・?(胸が苦しい)


ミンスは泣きそうな顔をして、ヒョンジュンを見た。


  
なんで、うそをついてくれないの?

あなたが私を裏切って、ソルミさんと一夜をともにしてしまったことを・・・。
なんで、そんなに正直に・・・私への愛を口にするの・・・?





ミ:・・・こういうのって、ずっと続くの? いつもいつも、あなたの身辺を心配し続けていくのって・・・。
ヒ:・・・。
ミ:あなたが正直だから・・・。私は余計に辛い・・・。あなたが私のこと、愛してるのがわかるから・・・。あなたが私を頼りに思っているのもわかるから・・・。私だって、いつもあなたを助けてあげられないのよ・・・。辛い気持ちになっちゃうのよ・・・。

ヒ:ごめんよ・・・。

ミ:私って本当に恋人なの・・・? あなたにとってなくてはならない人? ただ、都合がいいだけ? ただいつも助けてくれるから、付き合ってるの? 居心地がいいだけ?

ヒ:ミンス。もう絶対しないから。(ミンスの方を向く) もう絶対、裏切ったりしないから・・・。
ミ:だったら・・・ちゃんと私の気持ちになってよ。

ヒ:許してほしいんだ。おまえがいなくちゃ・・・。(辛そうにじっと顔を見る)
  

ミ:・・・信じていい・・・?
ヒ:・・・うん・・・。

ミ:もう私を苦しくさせないって。
ヒ:許してくれる?
  
ミ:・・・。誰もいないところで、ずっと二人だけでいたいわ・・・。そうしたら、幸せなのに。
ヒ:・・・。
ミ:他の人のことなんか、考えなくてもいいところに行きたい・・・。

ヒ:帰らないで、ここで、二人で暮らす?
ミ:うん・・・。(肯く) でも、一生逃げ続けるわけにもいかないもんね・・・。


ミンスがヒョンジュンの顔を見る。


ミ:本当に信じていい? 
ヒ:・・・信じてくれる・・・?
ミ:もう、絶対そばから離れちゃ駄目よ・・・。(顔をじっと見る)
ヒ:うん・・・。
ミ:ホントよ?
ヒ:うん。


ミンスがヒョンジュンの頭を引き寄せるようにして、抱きしめる。


ミ:もう絶対離れちゃ駄目・・・絶対、裏切らないで。
ヒ:うん・・・。

ミ:もう悲しくさせないで。
ヒ:うん。

ミ:・・・。
ヒ:愛してるよ。(顔をあげてミンスを見る)誰よりも愛してるから・・・。
(泣きそうな目をしている)
ミ:・・・。


今度はヒョンジュンがミンスをギュッと抱きしめた。
ヒョンジュンの愛がわかるだけに、ミンスには彼をそれ以上責めることができなかった。




  

主演:ぺ・ヨンジュン
   チョン・ジヒョン
   チョ・インソン

【恋がいた部屋】4部







  
午後7時近くになって、二人はホテルを出て、食事に向かった。


ヒ:どこへ行く?
ミ:安いとこ。お金がないんだから、うんと安いとこ。
ヒ:そうなの?

ミ:慌てて飛んできたから、空港で少ししか両替しなかったのよ。でも、安い店は現金でしょ? そんなことに気が回らなかったの・・・。小銭が足りないわ。


ヒョンジュンがポケットの中のお金を見せる。


ミ:全く、あなたは計画性がないわね。(笑う)たぶん、お金のことなんて考えないで、ここまで来ちゃったんだと思ったけど。やっぱり。
ヒ:ごめん・・・。(甘えた目をする)

ミ:ついてらっしゃい。安くておいしそうなお店を探すわ。(手を差し出す)
ヒ:(手をつなぐ) そうして。(笑う)
ミ:協力して!
ヒ:うん。(笑う)




二人は、賑わっていて、ちょっと安そうな感じの店へ入る。
渡されたメニューは、中国語と英語で書かれていた。


ミ:どれにする?
ヒ:この手羽先って何だろう? (メニューを指差す)
ミ:ふん。(笑う) 思い出しちゃった。(ヒョンジュンを見つめる)
ヒ:うん・・・。(笑う) 鳥の手ばっかりの料理が出てきたことがあったなあ。(手をパアにして動かす)
ミ:うん。でも、あれって、今考えると、コラーゲンたっぷりで体によかったのかもね。
ヒ:かもねえ・・・。(メニューを見る) 写真が載ってるのにする?
ミ:うん。それがいいね、間違いがなくて。(笑う)
ヒ:どれにしようか・・・。

  

二人は料理を三皿とスープとライスを頼んだ。

テーブルの真ん中に料理が三つ並んだ。


ヒ・ミ:いただきま~す。

  
二人は元気な声で言ったものの、料理に箸が出せない。
今まで、お互いのものを取り合って、好き勝手に食事をしていたのに、一つの皿から自分の分を取り分けることができない・・・。二人の間に気まずさが漂った。


ヒ:・・・。ごめん・・・。

ヒョンジュンの目が急に涙ぐんで、肘をついた手で口を押さえた。


ミ:・・・。(ヒョンジュンの顔を見る)
ヒ:・・・ホントにごめんよ。


ミンスは胸がいっぱいになった。


ミ:私が取り分けてあげる。貸して、お皿!
ヒ:・・・。


ヒョンジュンは自分の皿をミンスに渡す。


ミ:・・・嫌いなものも食べなくちゃ駄目よ・・・。もう我儘なんて許さないんだから。

ミンスはヒョンジュンのために、皿に料理を盛り付ける。


ミ:はい。(皿を突き出す)
ヒ:・・・ありがとう・・・。


ヒョンジュンは皿の中をじっと見ている。
ミンスも自分の分を取りながら、ヒョンジュンの様子を伺っている。


ヒ:・・・これ・・・。おまえにやるよ。(俯いたまま言う)


ヒョンジュンがピーマンの細切りをつまんで、ミンスの皿に差し出した。
ミンスは自分の皿に落ちるピーマンをじっと見つめた。


ミ:・・・バカね・・・こんなものが食べられないなんて・・・子ども・・・。(静かに言う)


ミンスは箸でピーマンの細切りをつまんで、それを口に運んだ。


ミ:好き嫌いしちゃ駄目よ・・・。(やさしく言う)
ヒ:うん・・・。


二人はゆっくりと見つめ合って、やさしく微笑んだ。




  
夕食のあと、二人は、二階建てのバスに乗り、二階の一番前に並んで座った。
まだ、寒さの残る三月初旬の宵。
二人の顔に冷たい風が当る・・・。
ミンスは長い髪をなびかせて、横を向いて街の様子を眺めている。


そんなミンスの顎をヒョンジュンが掴んだ。そして、自分の方へ顔を向けて見つめた。
ミンスが切なそうに、今にも泣きそうな顔をしている。
ヒョンジュンもその顔に胸が痛くなったが、思いの丈をぶつけるように、ミンスの唇に唇を重ねた。
そして、もう決して、ミンスを手放すことにならないように、ヒョンジュンは熱い口づけを繰り返した。






翌朝、ミンスは着替えをすっかり終えて、荷物の整理をして、バッグの中のものを確認している。
今日しなければならないことをメモ書きしているミンスの肩に、ヒョンジュンがそっと手を置いた。


ミ:今日はまず、帰りの便の予約をしなくちゃ。それと・・・銀行でエクスチェンジして・・・。それから、チェスクさんへのお土産を買って、それから・・・。(メモを見ている)
ヒ:ミンス・・・。
  
ミ:あなたも準備できたの?
ヒ:ミンス・・・。

ミ:なあに?


ミンスが顔を上げずに答えた。


ヒ:まだ、怒ってる?
ミ:怒ってなんかいないわ・・・。
ヒ:顔を見せて。


ミンスがゆっくり顔を上げて、ヒョンジュンの目を見る。


ヒ:オレはここで仲直りして帰りたいんだけど・・・。
ミ:・・・。
ヒ:だめ?

ミ:・・・これでも、私・・・頑張ってるのよ・・・。(見つめる)
ヒ:・・・。(切ない目で見つめる)


ミ:お願い。もう少し時間をちょうだい・・・。あなたを好きなことに変わりはないの・・・。あなたしかいないことにも変わりはないの・・・。わかるでしょう?
ヒ:ごめん・・・。

ミ:だから・・・。大丈夫・・・もう仲直りはしているわ・・・。(ちょっと微笑む) 
ヒ:・・・。(じっと見ている)
ミ:夫婦だって・・・ただ並んで寝てるだけの時があるでしょ、それと同じよ。今はそうさせて・・・。
ヒ:・・・ごめん・・・。


ミ:そんなに謝らないでよ・・・。まるで、私があなたを苛めてるみたいじゃない・・・。
ヒ:うん・・・。苛めてるのは・・・オレのほうだよね・・・。


ミ:・・・。もう出かけよう。まずは朝ご飯を食べて、チケット、予約しなくちゃ。

ヒ:うん・・・。いつ帰る?
ミ:明日・・・。

ヒ:もう一日いようよ・・・。二人だけの時間を作ろう・・・。仲直りしよう。(じっと見る)
ミ:(ちょっと苦しくて、俯く)・・・。わかった・・・。




ヒョンジュンとミンスはおかゆの店で朝食をとると、旅行代理店で明後日のソウル行きを予約した。
銀行で両替をしてから、二人はぶらぶらと街を歩いている。
手をつないではいるが、なんとなくよそよそしくて、お互いにぎごちない。

  
ミ:チェスクさんには何がいいかしら・・・。何でも持ってる人だけど・・・。やっぱり、お土産は必要よね。お世話になっちゃったもん・・・。食器でも見ようかな・・・。どうしようかな・・・。
ヒ:ミンス。ここへ入ってみない?


ヒョンジュンが通りかかった店を指差す。


ミ:貴金属店?
ヒ:うん・・・。香港は24金のものもあるからさ・・・。
ミ:だから、どうしたの?


ミンスはヒョンジュンに引っ張られて、金を扱う店へ入った。



店:May I help you ?  何かお探しですか?
ヒ:結婚指輪を・・・。24金で。

店:こちらにあるのは・・・ちょっと幅広で・・・結婚指輪というデザインではないんですが・・・逆にちょっとおしゃれな感じがしますでしょ?
ヒ:そうですね・・・かえってつけやすいかもしれないな・・・。

店:あとは・・・カマボコ型のもの・・・。24金は細工が難しいんで、あまり細かなディテールのものはないんですが・・・こちらは財産にもなりますよ。(笑う)
ヒ:そうですね。いくつか見せてください。
ミ:ヒョンジュン!

ヒ:おまえは黙ってて。
ミ:だって・・・。

店:こちらはどうでしょう? うちで扱っているものは、品質は確かですよ。このように(壁に飾った賞状を見せる)国や貴金属協会からも表彰されています。
ヒ:はあ・・・。これ・・・いいですね・・・。


ヒョンジュンがいくつか出された指輪の中から、少しボリュームのあるデザインのものを選んだ。


店:何号ですか? 合ったサイズをお出ししますよ。

ヒ:何号?(ミンスを見る)
ミ:7号・・・。
ヒ:じゃあ、7号と、僕は自分のサイズがわからないんです。指輪なんてはめないから・・・。
店:お調べしましょう。こちらをはめてみてください。


ミ:ヒョンジュン!
ヒ:いいだろう? 買っても。

ミ:・・・。
ヒ:オレは今買いたいんだ。
ミ:・・・。
ヒ:おまえを失いたくないから・・・。


ヒョンジュンが強い視線でミンスを見つめた。



店:ええと・・・16号ですね・・・。あ、奥様の指にはゴールドの色がよくお似合いですね。(笑う)
ミ:・・・。(自分の指をじっと見る)
ヒ:似合ってるよ。(笑顔でミンスを見る) これにしてください。


店:こちらはお二人のイニシャルを入れますか? 結婚式の日付とか・・・。
ヒ:イニシャルをお願いします。 あのう、明日までにできますか? 旅行できているので。
店:大丈夫です。ホテルにお届けしましょうか?
ヒ:ええ。
店:かしこまりました。では、イニシャルをこちらにお書きになって・・・こちらには、泊まっているホテル名と部屋番号・・・お名前を・・・。


ヒョンジュンが二人のイニシャルを書き、ホテル名を入れている。


店:お支払いは?
ヒ:クレジットカードで。


ミンスがじっとヒョンジュンを見ている。



ヒ:いいだろう? もう買っちゃったよ・・・。オレ一人でもつけるから。(ちょっと怒った顔でじっと見る)
ミ:うん・・・。(少し困ったような顔をするが、やさしく微笑む) いいよ・・・ありがと・・・。


ヒョンジュンがミンスの肩をやさしく抱いた。




二人の記念のものを買った・・・。

この顛末としては、Happy Endだ。

これから、二人の人生が始まる。
二人の心がまたつながった。




  
結局、チェスクさんへの土産は決められず、有名なホテルのチョコレートを購入した。
彼女はなんでも持っているし、こんなもののほうが喜ばれるのかもしれない。


ヒョンジュンの思いが通じて、二人はゆったりと二人だけの時間を過ごした。
二人のこと以外、何も心配するもののない外国。
こんなところにずっといられたら、ミンスはヒョンジュンが自分だけのものだと確信を持って生きていけるだろう。


ホテルの窓から見た香港もキレイな夜景だった。
ヒョンジュンがミンスを後ろから抱きしめて、二人は幸せそうに、ずっと夜景を眺めた。








それから、1ヶ月。
二人はまた、いつもの生活に戻っていた。

少し変わったことと言えば、ヒョンジュンがミンスに甘えきりではなくなったこと・・・。
彼は、ミンスの前でも大人になった。
そして、ミンスも、今までのように、自分が前に出て引っ張っていくようなところがなくなった。ヒョンジュンの心にズケズケとは入り込まない。
二人の仲のよさは変わらなかったが、何もなかった時のようには戻らなかった。

それは少し寂しいことでもあったが、ヒョンジュンに少し頼りがいも出てきて、これからは文字通り「夫唱婦随」になっていくのかもしれない・・・。

二人が愛し合っている・・・それは変わることはないのだから・・・。

  
ソルミの絵の代金は、ヒョンジュンはいらないと言ったが、チェスクがあとで問題になるといけないからと、ソルミの家を訪ね、絵に見合う代金を請求した。
そして、ヒョンジュンの「バリ」への出張旅費もチェスクが精算した。





ミンスが時計を見ながら走っている。
そして、約束のコーヒー店に駆け込んだ。


ミ:お待たせ。
ジ:走った?(笑う)

うれしそうな顔をして、ジフンが微笑んだ。


ミ:当たり前でしょ? 急に呼び出すんだもん。
ジ:ごめん。(うれしそうに見る)

ミ:困るわ。こっちもいろいろ予定が入ってるし。
ジ:でも、来てくれたんだ。
ミ:だって、あなたのお母さんが来るって言うから。あなただけだったら、振ってたわ。 
あ、アメリカン。(店員に言う)
ジ:そっか。バカ男だけだと来ないけど、ちょっと年上の人が来ると、OKなんだ。
ミ:・・・。(睨む)
ジ:よし、その手を使おう。
ミ:バカみたい。
ジ:・・・。(笑う)


ミ:あなたって、何科? なんのお医者様?
ジ:なんだと思う?
ミ:わからない・・・。なんか調子がいいから・・・。お調子者で務まるのってどんなところかしら・・・。
ジ:小児科。
ミ:ふ~ん・・・。(真面目な顔をする)

ジ:どうしたの?
ミ:いえ・・・ずいぶん、地味というか真面目というか・・・。
ジ:何?
ミ:ちょっと意外で、エライなって思っただけ。(コーヒーが来て口をつける)
ジ:そうお?

ミ:うん・・・。子供の病気ってどんどん変化して予断を許さないっていうから。たいへんな仕事だと思うわ・・・心がないとやっていけないもん・・・。
ジ:うん、そうだね。よく知ってるね。

ミ:小さい頃に、7つ上の兄が病気で亡くなったから・・・。
ジ:そうなんだ。
ミ:うん。
  


ミンスは、ヒョンジュンと小学校で同級生だった兄を思い出した。
自分はあまりに小さくてよく覚えていないが、ガキ大将の姉は、よく兄とヒョンジュンを連れまわして遊んだものだった。そして、大人になった彼と駆け落ちした後、姉は、ヒョンジュンのことを「よく考えたら弟のようなものだった」と語った。

ホントはどういうことだったのかな・・・。




ジ:でも、ありがとう、来てくれて。
ミ:どう致しまして。困った人よね、あなたも。
ジ:うれしいよ。

ミ:ねえ・・・お母さんにはなんて言ってあるの? ちゃんとただの友達って言ってあるわよね?
ジ:それはそうさ。君には彼氏がいるんだから。そうなんでしょ?
ミ:(笑う)そう、ならいいけど・・・。

ジ:お袋は、好きな和食器の話ができる人と、ちょっと友達になりたいだけだよ。
ミ:そうかな。・・・友達と言われてもね。
ジ:まあ少しだけ付き合ってあげて。
ミ:うん・・・。

ジ:君は今・・・幸せそうだね。(きらきらした目で見つめる)
ミ:・・・。(じっとジフンを見つめてから、肯く)

ジ:そうか・・・。駄目になったら、教えて。(笑顔で言う)
ミ:趣味悪い。(笑う)
ジ:だね・・・。あ、来た。

  

ミンスもジフンの見る方向を見る。
感じの良さそうな50代の女性が入ってきた。

  
母:お待たせしてしまって・・・。ジフンの母の、コ・ウナです。
ミ:(立ち上がって)あ、初めまして・・・。私、キム・ミンスです。
ジ:ねえ、座って。(席をつめる)
母:ありがとう。かわいい方ね。(座る)

ジ:ああ・・・。母さん、こちらのミンスさんは友達の友達で・・・。
母:・・・?
ミ:あのう・・・私はテーブル・コーディネーターをしていまして・・・。それで、共通の友人から頼まれて・・・。
母:まあ・・・そうなの・・・。でも、お一人でしょ?
ミ:それはそうですが・・・。

ジ:母さん、へんなこと言わないでね。ミンスさんを困らせないように。悪いけど、僕は夜勤があるから、これで。ミンスさんも適当なところで帰ってくださいね。
母:ジフンたら。
ジ:ミンスさん、ちょっと話をしたら、お店を紹介してやってください。母さん、それでいいだろ?
母:なんだか・・・。(物足りない・・・)
ジ:じゃあね。



ジフンは立ち上がって、二人に笑顔を残して去っていった。

  
母:なんだか・・・申し訳ありません・・・。
ミ:いえ・・・。
母:私はてっきり、あなたがあの子の彼女なのかと思って。
ミ:・・・どうも・・・。(下を向く)


母:でも。あの子はあなたが好きだわ・・・。(微笑む)
ミ:・・・。
母:さっき、遠くから見てたんです・・・。あの子の目が輝いていて・・・。

ミ:・・・ジフンさんは、いつも元気な方だから・・・。
母:そうかな・・・。そうでもないのよ。落ち込む時も、嫌な顔する時もあるの。私と二人暮らしだから・・・。でも、さっきは幸せそうでした。
ミ:・・・。(困る)

母:お友達のお友達なのに、困っちゃうわね。こんなこと言われても。でも、よろしく。お友達としては、きっといい子ですよ。
ミ:あ、はい。
母:じゃあ、お店を見ながら、お話できるかしら?
ミ:ええ。では行きますか? このお店のすぐ前なんです。
母:そう・・・。


ミンスとジフンの母親は肩を並べて、コーヒー店を出た。



  



ジフンの母親と和食器の店に寄ったものだから、ヒョンジュンとの約束には大幅に遅れて、ミンスはヒョンジュンのマンションにたどり着いた。



ミ:(玄関で靴を脱ぎながら)ごめ~ん。ちょっと急用ができちゃって・・・。

ミンスが急いで中へ入る。

ヒ:よう。(笑顔)

ミ:なんかいいニオイがするけど。(笑う)
ヒ:今日は、オレの料理を食べてもらおう。
ミ:どれどれ、見せてごらん。
ヒ:どうお? お母様、よくできてる?
ミ:なかなかいいじゃない。これで味がよかったら最高!(笑う) じゃあ私・・・テーブルの、用意するね。

ヒ:うん。今日は、ミンスを口説きたいからねえ・・・。頑張ったよ。
ミ:ふん。(笑う) もっと口説くの?
ヒ:そうだよ。
ミ:ふ~ん。(笑う)何を言い出すやら・・・。




テーブルを拭きながら、左手の薬指を見る。

香港で、ヒョンジュンが買ったお揃いの指輪・・・。
彼は、「結婚指輪」と言った。
確かに、ダイヤも入っていないから、婚約指輪ではないのかもしれない・・・。
でも、これは一生、この指にはめる指輪だ。
私たちの愛の証だ。


あの時のヒョンジュンを思い出して、ミンスはちょっと体が熱くなった。

あの香港のホテルの部屋で、彼は指輪の箱を開け、二つ並んでいる指輪の小さいほうを取り出して差し出すと、ミンスの目をじっと見つめてこう言った。

「いつもオレを温かく包んでくれる君。君にオレの全てを捧げます。どうか受け取ってください・・・」
「・・・ヒョンジュン・・・」
  
そういうと、少し震える手で、ミンスの薬指にはめた。

「いつまでも、一緒にいて・・・。愛してるよ。今もこれからもずっと・・・愛しているよ」
「うん・・・。私も・・・」
  
ヒョンジュンはミンスをギュッと抱きしめた。
ヒョンジュンの腕に抱かれると、ヒョンジュンの思いがどんどんミンスに伝染してくるようで、今まであったミンスの拘りが解けていくような気がした。
二人が愛し合っていること・・・この今の時点からまた全てが始まって、二人の幸せが約束されたような気がする・・・。

彼の腕に身を委ね、ミンスはヒョンジュンの顔を見上げた。
  
「愛して・・・全身で愛して・・・もうあなたの全てが私のものだって、教えて」
「・・・ミンス・・・。オレの全てはもうおまえのものだよ・・・おまえの全ても・・・」
「あなたのものよ・・・だから、教えて・・・二人はずっと一緒だって・・・」
「うん・・・」
  
ヒョンジュンがミンスを抱いたまま、ベッドに倒れこんだ。




ミンスがテーブルにカトラリーを並べていると、テーブルの上のヒョンジュンの携帯が鳴った。
  

ミ:携帯が鳴ってる。(ヒョンジュンのほうを向く)
ヒ:あ、今行く。



ヒョンジュンは火元を消して、携帯を取り上げる。知らない番号だったが、一応電話に出てみる。

  

ヒ:もしもし。
ソ:こんばんは。
ヒ:・・・。
ソ:ご無沙汰ね。
ヒ:ええ・・・。
ソ:今、ちょっと出先からなの・・・。
  
ミ:(小さな声で)誰?



ヒョンジュンが後ろを向いた。ソルミからの電話だった。



ヒ:何かご用でしょうか?
ソ:あなたが急用で帰ってしまったから、あれから寂しかったわ・・・。
ヒ:それはどうも・・・。


ミンスは後ろを向いているヒョンジュンの様子が少しおかしいので、イスに腰かけてヒョンジュンの背中をじっと見ている。


ソ:私、怒ってなんかいなくてよ。それより・・・。
ヒ:なんですか?
ソ:あなたにお知らせしなくてはいけないことができたの。
ヒ:何・・・?

ソ:そのね・・・。あれから・・・月のものがないの・・・。そのことを父に話したら、あなたを呼ぶようにって。
ヒ:・・・。(青ざめる)
ソ:わかるわね? 明日、5時にうちにいらして。必ずね。お話の意味、おわかりでしょう?
ヒ:・・・ええ・・・。
ソ:では明日。お待ちしているわ。じゃあ。
  


ヒョンジュンは、ゆっくりと携帯を切った。
携帯を閉じる自分の左手の薬指の指輪をじっと見つめる。



  
ミ:ねえ。どうしたの? 何かあった?

ヒ:・・・うん・・・。(力なく言う)

ミ:ヒョンジュン?


ヒ:・・・自分で・・・全て・・・壊しちゃった・・・。全てを壊しちゃった・・・。


ミ:え? ヒョンジュン? どうしたの?

  

しばらく固まったようにじっと考え込んでいたヒョンジュンが、決意したような目をして、ミンスのほうへ振り返った。







5部へ続く・・・






2009/08/30 00:25
テーマ:【創】恋がいた部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋がいた部屋」3部






BGMはこちらで^^




BYJシアターです。

本日は「恋がいた部屋」3部です。

とうとうjoonも37歳に・・・。


このヒョンジュンはまた34才です。

毎年、お誕生日にはBYJシアターを彼に贈っていますが、
もう短編が切れてしまったので、
今年は前の作品ですが、「恋がいた部屋」を送りました。

全部で何枚?って教えると読めなくなるので、内緒^^
このヒョンジュンは芸術家なので、ペ・ヨンジュンさんのように
聡明でも思慮深くもありません・・・。
彼は、とても繊細で大胆で・・・・そう、ヨンジュンさんとは違う人です。
でも、私は創作では同じ人は書きません。
だから、時に不愉快なほど、違う人ですが、演じる彼を見てください^^


そして、joonにももっといろいろな映画に出てほしいなあ~と思います^^


ではこれより本編です。
ではお楽しみください^^




~~~~~




雑踏の中に
あなたを見つけた


あまりの懐かしさに
私は思わず近寄って
あなたに声をかけたくなった


でも、実際は、
あなたに見えないように
そっと身を隠した

あなたにはもう
思い出かもしれないけど


たぶん・・・

きっと

私は
まだ

恋の中に

いるのだと、思う・・・









ヒョンジュンを腕枕して抱くように寝ていたミンスは、目覚ましの音で目が覚めた。
腕を伸ばして、手探りに目覚ましを取り、時間を見る。

昨晩遅くに、ヒョンジュンがやってきて、二人は久しぶりに一緒にベッドで寝た。
ヒョンジュンは男らしさを発揮して、ミンスを抱いたが、結局、いつものように甘えるように、ミンスの腕の中で眠っている。

いったい、彼に何があったのか・・・何が起ころうとしているのか・・・。


ミンスは、寝ているヒョンジュンの肩や背を撫でて、頭を抱いた。
彼は時にとても怖がりで、新しいことを始める前には、熱を出したり、眠れなかったり・・・ミンスを求めたりする。
そんな繊細なヒョンジュンをよく知っているから、そういう時はいつもミンスが寄り添う・・・。
ミンスに抱かれて眠る・・・これが今のヒョンジュンにとっては、一番の精神安定剤だ。


でも、昨日はどうしたの・・・?


ミンスがヒョンジュンの頭の下から、そっと腕を抜こうとすると、ヒョンジュンが目を覚ました。


ヒ:もう時間?
ミ:まだ大丈夫・・・。でも、ご飯のスイッチ、入れなくちゃ。
ヒ:そんなのいいよ、もう少し一緒にいて。(甘えるように抱きしめる)
ミ:でも、スイッチだけ入れさせて・・・(ヒョンジュンの腕を解く) 昨日、スイッチ入れるの、忘れちゃったから・・・。起きたら、すぐにご飯にしたいでしょ。ね。


ミンスは起き上がって、炊飯器のスイッチを入れた。



ヒ:ミンス・・・。(ベッドの中から呼ぶ)

ミ:今、行く。


ミンスはまたベッドに戻り、今度はヒョンジュンの胸に抱かれる。
ヒョンジュンがミンスを引き寄せて、自分の腕の中に囲うようにギュッと抱きしめた。


ミ:ねえ・・・。
ヒ:もう少し寝かせて。
ミ:いいけど・・・。
ヒ:あとにして・・・。
ミ:うん・・・。


昨日は・・・特に何もなかった・・・?
大丈夫よね?
変なこと、なかったわよね?
私が心配しているようなこと・・・違うわよね・・・?







ヒョンジュンがやっと起きて、ミンスの部屋のシャワーを借りて、頭を拭きながら、ダイニングテーブルのほうへやってきた。

ミンスはテーブルに着くヒョンジュンを心配そうにじっと見つめた。


ミ:ご飯、食べるでしょ?
ヒ:うん、腹減った。
ミ:うん・・・。


ミンスはヒョンジュンのご飯をよそい、彼が食事の体勢になるのを待った。


ヒ:食べよう。
ミ:うん。いただきま~す。

二人は朝食を食べ始める。


ミ:ねえ、ヒョンジュン・・・昨日、なんかあった?
ヒ:別に・・・。
ミ:そう、ならいいんだけど・・・。


ヒ:・・・それが・・・ミンス。しばらく・・・旅に出ちゃうから・・・ちょっと、会えないけど・・・すぐ、戻ってくるから・・・。


ヒョンジュンは、ミンスの顔も見ずにそれだけ言った。

それが言いたかったんだ・・・。


ミ:旅って?(ヒョンジュンの顔を見る)
ヒ:(言いにくそうに) ・・・バリ島・・・。
ミ:・・・。二人で行く約束だったじゃない・・・。バリとパリは、私たち二人で行く約束でしょ?(見つめる)
ヒ:・・・。(スープを飲む)

ミ:一人?
ヒ:・・・二人・・・。(食べている)
ミ:・・・誰と・・・。(見つめている)

ヒ:・・・ソルミさん・・・。(下を向いて食べている)
ミ:・・・。


ミンスは愕然として、ヒョンジュンを見つめている。


ミ:・・・女とそんな約束して、私のところに泊まって・・・朝ご飯一緒に食べてるの・・・?
ヒ:・・・女って・・・ただの客だよ・・・。
ミ:でも、二人で行くんでしょ?

ヒ:・・・ソルミさんのお父さんの会長が、せっかくだから、バリの別荘で絵を描いたらどうかって・・・。
ミ:なんでそんな人の指示を仰ぐの?
ヒ:だって・・・会長が・・・。

ミ:ヒョンジュン! ちゃんと、こっちを見なさいよ!


ヒョンジュンが顔を上げた。


ミ:なんで、そんな人の言うことを聞くのよ!
ヒ:オレの才能を認めてくれたんだ・・・。
ミ:だけど・・・父親が、年頃の娘を男と二人きりで海外に出すなんて、なんか変よ。
ヒ:あっちにも、お手伝いさんとか運転手さんとか、いろいろいるんだよ。
ミ:そんな人たちなんて、いてもいなくても同じことよ!
ヒ:・・・。

ミ:駄目! 行っちゃ駄目!
ヒ:でも、もうすぐソルミさんの絵も仕上がるんだ。
ミ:なら、こっちで仕上げなさいよ!
ヒ:それに・・・バリで絵を描きたいっていうのも夢だったから・・・。
ミ:それは・・・それは、私たち二人の夢だったでしょう?
ヒ:ミンス・・・。

ミ:行っちゃ駄目。これ・・・罠よ・・・。
ヒ:なんで? (笑う) 会長は、オレの才能をかって・・・。
ミ:それで、娘婿にしたいって? (睨む)

ヒ:そんなあ・・・。
ミ:・・・何があったの? 本当は何があったのよ?
ヒ:別に・・・。
ミ:・・・あの女と・・・あの女と、関係ができちゃったの?(胸が苦しい)
ヒ:・・いや・・・。(歯切れが悪い)

ミ:・・・。(苦しそうな顔をして睨んでいる)
ヒ:・・・。

ミ:だったら、やめなさいよ。お金、返して、あの絵を返してもらって・・・もう関わるの、やめよう。ね。
ヒ:そんなわけにはいかないよ・・・もうすぐ終わるんだから・・・。
ミ:何が終わるの? 絵を描くこと? あの女との関係?・・・私との関係・・・?
ヒ:ミンス・・・。


ヒョンジュンはちょっと困った顔をして、ミンスを見た。

ミンスは泣きたくなった・・・。

こんな簡単に二人の間にあの女が入り込んでくるなんて・・・。
あの女を抱いて、私のところへ来たの? だったら、私って何よ・・・?


ミ:ヒョンジュン・・・私はあなたの何・・・?
ヒ:恋人・・・。
ミ:だったら、恋人を大切にして。
ヒ:・・・。
ミ:誰を愛してるの?
ヒ:おまえ。
ミ:だったら、私の言うことを聞いて。

ヒ:でも・・・、大丈夫だよ・・・。
ミ:何が大丈夫なの? あの雌ギツネのいいようにされちゃって・・・。ヒョンジュン! あなたはもう画家として、世の中に認められているのよ。もう道が開けてるのよ。そんな女の所なんかに行かないで。行かなくたって、世間はもう認めてるんだから。
ヒ:ミンス。すぐ帰るから。すぐ帰るからさあ・・・。

ミ:あなたが断れないなら、私が代わりに断ってきてあげる。
ヒ:やめてくれよ、そんなこと・・・。おまえは、オレの母親じゃないんだから。
ミ:そんなこと、わかってるわよ・・・。ヒョンジュン。今、私たち、たいへんなとこにいるのよ。わかる? 

ヒ:(箸を置く)帰るよ。(立ち上がる)
ミ:ヒョンジュン!(見上げる)
ヒ:おまえはオレを信じていればいいんだよ。


ヒョンジュンは、ソファの上に置いていたコートを持って、玄関に向かう。


ミ:ヒョンジュン! ちょっと・・・。待ってよ! ちゃんと話を聞いて!


ミンスの目の前で、玄関のドアが閉まった。






主演:ぺ・ヨンジュン
   チョン・ジヒョン
   チョ・インソン(ジフン役)

【恋がいた部屋】3部





あれから、3日経って、彼はバリへ旅立ってしまった・・・。
最後に、見送りに行くと言ったのに、彼は来なくていいと言った。
「ソルミさんの家の車で送ってもらうから、おまえは来ることはないよ」と。


もっとうまく引き止める手立てはなかったのか。
言葉が過ぎたのか・・・ヒョンジュンは行ってしまった。

もちろん、ヒョンジュンを信じている。
そして、誰よりも愛している・・・でも、彼は行ってしまった。




ミンスは、やるせない顔をして、コーヒー店の外を眺めている。
目の前に、男が近づいてきて、大きく手を振った。
最初、ミンスは気づかず、その男の顔をぼうっと見ていたが、それが待ち合わせをしたソン・ジフンだと気がついて、思わず苦笑した。


ジ:(店に入ってくる)こんにちは。こんばんはかな・・・。(笑う)ねえ、君。ホントにオレを覚えてなかったんだね。
ミ:あ、ごめんなさい・・・。
ジ:いいよ。ま、そのほうがよかったかな・・・。


ジフンがミンスの前に座った。


ジ:オレを知らない、覚えてないほうが・・・君が純粋に買い物に付き合ってくれるんだってわかったから、そのほうがよかったかもしれない。(コートを脱ぐ)
ミ:・・・何、それ。(ちょっと嫌な顔をする)
ジ:まあ、いいさ。 (店員に) ブレンド1つ。
ミ:・・・。

ジ:ここの前の店? (窓の外を見る)
ミ:そうよ。買い物したら、別れましょう。(無愛想に言う)
ジ:冷たいなあ。

ミ:なんか、嫌な感じだわ・・・。別に、あなたなんか、なんとも思ってないのに・・・。あの日だって、へジンに頼まれたから、員数合わせに行っただけ・・・。別に何かを探しに行ったわけじゃないわ。
ジ:・・・わかった・・・。ごめん・・・。 (コーヒーが来る)あ、ありがとう。 なんか、オレの悪い癖かな。皆、オレに興味を持ってるなんて、思っちゃうの・・・。(コーヒーを飲む)
ミ:・・・。(じっと見る)

ジ:なあに?
ミ:心の声が聞こえなかった?
ジ:う~ん、あんたって自信過剰・・・かな?
ミ:バカ男・・・。
ジ:ふん。(笑う)ホントだ・・・。(コーヒーを飲む)買い物はちゃんと付け合ってよ。バカ男でも。(にっこりする)
ミ:わかった・・・。(ちょっと微笑む)




ミンスとジフンは、コーヒー店の前にある和食器の店へ入る。


ミ:どんなのがいいのかしら・・・?

ジ:これ、おもしろいね・・・。ランプ? (店の中に飾ってある行灯の中を覗く)
ミ:行灯・・・。中にろうそくを立てるの。
ジ:へえ・・・。
ミ:それより、どんな感じが好きなのかしら・・・。誕生日祝いだと、有田焼とか、華やかなのがいいかなあ・・・。
ジ:ああ、そういうの、うちにあるからいらない・・・もっと地味ぽいっていうか・・・。
ミ:「ワビサビ」系?
ジ:そうそう、その言葉。ビンゴ!

ミ:じゃあねえ・・・。


ミンスが皿を丹念に見て選ぶ姿を、ジフンがじっと見つめている。


ミ:ねえ、これどうお? 織部・・・。この緑色の釉薬が織部よ。
ジ:へえ・・・それ、いいねえ・・・。
ミ:中にベンガラっていう釉薬で絵を描いているの。これ、ちょっといいでしょ?
ジ:ホントだ・・・。(皿をじっと見て、ミンスを見て微笑む)

ミ:それから・・・こっちのは、黄瀬戸。黄色い色が華やかで、お誕生日に向いているかもしれないわね。
ジ:う~ん・・・どっちがいいかな・・・。二つでいくら?
ミ:二つ、買っちゃうの? (驚く)
ジ:だって、決められないから。
ミ:・・・(笑う) おかしな人・・・。


ミンスは、ジフンを見つめて笑い、そのまま奥の店主のところへ行く。店主が出てきて、それぞれの器の説明をして、結局、織部を購入した。


ジ:ありがとう。いい買い物ができたよ。
ミ:どう致しまして・・・。じゃあ。
ジ:え、ちょっと待ってよ。夕食ぐらい奢らせてよ。
ミ:・・・。
ジ:ホントにお礼のつもりだから・・・。
ミ:(じっとジフンの顔を見る)いいわ。






二人は、ステーキハウスで向かい合って食べている。


ジ:へえ。美術史を専攻してたんだ。
ミ:そう。それで、大手の食器メーカーに就職して、今はフリー。
ジ:へえ。女の人は、自由でいいなあ。オレなんか、親父の跡を継ぐために医者になったけど・・・結局、親父が死んで継ぐところなんてなくなっちゃったんだ。(笑う)
ミ:・・・そうなの・・・。
ジ:うん・・・。まあ、医者は自分には合ってるとは思うけどね。
ミ:ふ~ん・・・。

ジ:君ってミス大学?
ミ:まさか・・・ヘジンがそうよ・・・。
ジ:じゃあ、準ミスぐらい?
ミ:・・・そんなのには、出ないわ・・・。
ジ:だろうな、君は。そんなことには興味がなさそうだね。でも、美人だ。
ミ:・・・。
ジ:別に口説いてるんじゃないんだよ。(笑う)オレって、正直な人間だから。思ったことを言っちゃうだけだよ。
ミ:・・・そう・・・ありがとう・・・。


ジ:なんか、悩み事でもあるの? 時々、考え事してるみたいに見えるけど。
ミ:お医者様は全てお見通し?
ジ:って程じゃないけど・・・大丈夫?
ミ:・・・ちょっとね・・・彼のことが心配なの・・・。

ジ:彼氏がいるんだ・・・。
ミ:ええ・・・。
ジ:そうかあ・・・。ふ~ん・・・。オレも彼女がいる・・ってことになってる。
ミ:なってる?
ジ:うん・・・皆、へジンが彼女だと思ってるんだ・・・彼女もね・・・。でも、オレは・・・そう思ってなくて・・・困ったね。
ミ:・・・そうなの・・・?
ジ:直にわかるかな・・・。ただの友達だって・・・。(下を向く)
ミ:ヘジンがあなたを好きなのね・・・。
ジ:みたいで・・・。ちょっと、困ったねえ。(笑う)
ミ:・・・。ホント。困ったわね・・・。


そう言って、ジフンを見つめたが、頭の中ではヒョンジュンを思い出していた。
ソルミは、ヒョンジュンを全力で手に入れようとしているのだろう・・・。
ヒョンジュンは本当に、そのことに気がついてないのか・・・。それを楽しんでいるのか・・・あるいはもう・・・。


ジ:どうしたの? また暗いよ。
ミ:(笑う)ごめんなさい。ここのステーキ、おいしい。
ジ:だろ?(笑う)


一つ年上のジフンは屈託がなく、とてもフランクな青年だった。
時々、気落ちしてしまうミンスにやさしく付き合った。

二人は友達・・・それがぴったりの言葉のように思えた。







ソルミの家のバリの別荘は、膨大な敷地の中にあった。
庭には昔ながらのプールがあり、庭を歩くだけでもバリを楽しむことができそうだ。


バリの一日は、ゆったり、ゆったりと過ぎていった。
ソルミは、ヒョンジュンのモデルをする以外は、熱心にスパに通った。
ヒョンジュンも誘われたが、ヒョンジュンはそんなことより、スクーターに乗って、芸術村などに出かけ、日が暮れるまでその辺りをブラブラするのが好きだった。
ソルミも一日だけ、ヒョンジュンに付き合ったが、何がそんなに楽しいのか理解できなくて、モデルと食事の時間以外は自分の好きなスパやゴルフに費やした。


ヒョンジュンは一人、スクーターを飛ばして、ガイドブックで見たおもしろそうな場所を訪ねては見て回ったが、ふと、一人ぽっちだと感じると、ミンスを心に思い描いた。


ミンスと二人でこの地を訪ねるはずだった・・・。

ミンスを後ろに乗せて、バイクを走らせる・・・そして、芸術村を訪ねて、手をつなぎながら、そこにいる職人たちの仕事を見て回り、「へえ」「へえ」と言いながら笑い合って、この温かな大地に抱かれるはずだった・・・。

でも、今は一人だ。

ソルミは、ミンスではなかった・・・自分のためには動くが、ヒョンジュンのためには動かない・・・。

ソルミと食事をしながらも、ミンスを思い浮かべた。


「ヒョンジュン、駄目よ。それは私も好きなんだもん・・・全部はあげないわ。じゃあ、5分の1・・・じゃあ、半分だけよ・・・もう、わかったわよ。あげるわよ・・・」


ソルミはそんなことは言わなかった。
美しい笑顔で微笑んだが、二人で料理を分け合おうとは言わなかった。





5日目。とうとう、ソルミの絵が仕上がった。
ヒョンジュンは胸がいっぱいになった。
自分の中にある、男としての欲を払いのけ、仕事だけへの情熱で、絵を完成することができた。
思っていたより、よい出来だった・・・ミンスにも見せて、自慢したい気分になった。

裸の上に薄手のガウンをまとったソルミが仕上がった絵を覗いた。


ソ:素敵・・・。思っていた通りの仕上がりね・・・。ありがとう。


ソルミがねっとりとした目で、ヒョンジュンを見上げた。
ヒョンジュンがソルミのほうを見ると、ふと、ミンスの香りがした・・・。ミンスのコロンが香った。


ソ:あなたに、ご褒美をあげる・・・。


ソルミがガウンをサッと脱いで、ヒョンジュンに抱きついた・・・。ソルミから、あの懐かしいミンスが香った。
ミンスのことが、恋しくて恋しくてたまらなくなっていたヒョンジュンの鼻に、ミンスが香る・・・。


ソ:ねえ・・・ヒョンジュン・・・?(笑顔で見上げる)


ヒョンジュンはぼうっとソルミを見つめ、そして、ソルミを抱きしめた・・・。







ミンスは、裏通りのチェスクの画廊を訪ねていた。


チ:助かるわ。ミンスさんが手伝ってくれると。これで、春の陶器展のパンフはできたし・・・ありがとう。
ミ:どう致しまして。
チ:どうお? 最近、ヒョンジュンさんを見ないけど、元気?
ミ:チェスクさん、ご存知ないんですか?
チ:? (何を?)

ミ:・・・今、あのお嬢さんと一緒に、バリ島へ行っています・・・。(目を伏せる)
チ:なんですって?
ミ:あちらのお父様がバリで絵を描けって言って・・・。
チ:それで行ったの?
ミ:・・ええ・・・。
チ:・・・。


ミ:止めたんですけど・・・行っちゃったんです・・・。
チ:・・・。

ミ:私たち・・・もう駄目かも・・・。(辛そうな目をする)

チ:そんなあ・・・。ヒョンジュンさんにはあなたがいなくちゃ。
ミ:でも・・・。
チ:あの人は普通の人じゃないもの・・・。心がとても繊細で・・・それがわかっていて、愛してフォローできる人じゃないと務まらないわ・・・。あのお嬢さんでは・・・。(考える)
ミ:でも・・・。

チ:どうしてるのかしら、今頃・・・。
ミ:・・・。







朝、ヒョンジュンはミンスの残り香のあるベッドで目覚めた。伸ばした腕の中にはもうミンスはいなかった。
ゆっくり目を開けると、薄い麻のカーテンのかかったベッドの中に一人いた。

外では鳥がさえずっている・・・ここは、ソウルではなく、バリのソルミの別荘だった。

ヒョンジュンは、ぼうっと天井を見上げた。


すると、ミンスの顔が頭に浮かんだ。
ちょっと泣きそうな目をして、髪を掻きあげ、俯くミンス・・・。


あれはミンスではなく、ソルミだった・・・。
ヒョンジュンは両手で顔を覆い、目を閉じた。








夕方近くになって、ソルミがスパから帰ってきた。


ソ:先生は?
家:お帰りになりました。
ソ:お帰りにって?
家:なんか、ソウルに急用ができて急いで帰らなくてはならないっておっしゃって・・・。
ソ:ええ?!


ソルミは怒った顔をして、ヒョンジュンの部屋へ急ぐ。


荷物はキレイに片付けられていた。

ソ:どういうことよ! いったい、何時の飛行機で帰ったの!
家:さあ・・・。エージェントにお電話されていましたが・・・一番早い便を頼むって。
ソ:・・・。



ソルミは自分の部屋へ入る・・・。

あのコロンが漂っていた。
怒ったように窓を開け、外を眺める。そして、ドレッサーの上にあったコロンの瓶を取り上げると、それを窓の外へ放り投げた。


ソ:絶対に許さないわ・・・。あの女・・・。私が負けるなんて・・・。今に見てらっしゃい・・・。






ミンスが雑誌社で新企画ページの打ち合わせをしていると、携帯が鳴った。
ミンスは携帯を開く。

ミ:ちょっと、すみません・・・。


ミンスは席を立って、携帯に出る。


ミ:もしもし、チェスクさん?
チ:ちょっといいかしら?
ミ:ええ。何かお急ぎですか?
チ:それがね・・・今、ヒョンジュンさんから電話が入って・・・。
ミ:ヒョンジュンから・・・? (胸が苦しい)
チ:ええ・・・。今、香港にいるんですって・・・。
ミ:なんで・・・ソルミ、(携帯に手を当て、声を潜める)ソルミさんと香港へ行っちゃったんですか?

チ:そうじゃないみたい・・・一人みたい・・・。バリを発つ一番早い飛行機が香港行きだったとかで・・・。
ミ:それで?
チ:あなたから、彼に電話してちょうだい。番号を教えるわ。とにかく、あなたじゃないと、ちゃんと話をしないと思うの・・・。きっと、パニくってると思うわ・・・。

ミ:どうしよう・・・。香港なんて・・・。
チ:チケット用意してあげるから、すぐに飛びなさい。
ミ:ああ・・・でも・・・。


ミンスは振り向いて、編集者の顔を見る。


チ:とにかく、あなたじゃなきゃ駄目だわ・・・。行ってあげなさい。ミンスさん、ここは勝負どころよ。
ミ:・・・ええ・・・。


ミンスは編集者のところへ戻り、頭を下げた。


ミ:すみません・・・。どうしても行かなくちゃならない用ができてしまって・・・。
編:そう? じゃあ、次はいつにする?
ミ:ごめんなさい・・・。次の予定が立たないんです・・・。このお仕事は他の方に・・・。
編:ミンスちゃん・・・どうしたの?
ミ:ごめんなさい・・・。行かなくちゃ・・・。人が待ってるんです・・・行かなくちゃ・・・。
編:でも、ミンスちゃん?
ミ:本当にごめんなさい・・・。すみません!


ミンスは、震える手で仕事のファイルをバッグに詰め込むと、頭を下げて編集室を出た。エレベーターも待てず、階段を駆け下りる。

一人で、バリを離れるなんて・・・きっとたいへんなことが起きてるんだわ・・・。

通りに出て、タクシーを拾うと、ミンスは飛び込むように乗り込んだ。





チェスクから香港行きのチケットを受け取り、2泊3日程度の着替えを入れた手持ちのボストンバッグ一つで、ミンスは、香港へ旅立った。


ミンスが香港の空港到着ロビーに出てきた。
不安そうな顔で出迎えの人々の中にヒョンジュンを探すと、背の高い彼がやっと会えたという顔をしてやってきた。


ミ:ヒョンジュン・・・。(見つめる)
ヒ:・・・ミンス、ごめん・・・。ごめんよ、ミンス・・・許して・・・。


そう言って、彼はミンスを抱きしめた。
ミンスはヒョンジュンの頭を抱くように抱きしめて、それから顔を見た。


ミ:・・・。(顔をまじまじと見る)あとでゆっくり話を聞かせて・・・。
ヒ:・・・。
ミ:もう大丈夫。もう大丈夫よ、私が来たから・・・。


そう言って、ヒョンジュンの肩を撫でた。




4部へ続く・・・



こちらは一日置きにアップします^^






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