2011/07/22 01:18
テーマ:【創】恋のタイトルマッチ カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

今日も追悼「恋マッチ」2


こんばんは^^

21日は土用の丑の日ということで・・・
でも、涼しくて、
ほんのひととき暑さにお休みをいただいて体が楽になったね^^

うちの近くのファミマはまるっきり「ペ・ヨンジュン」に対して
やる気がないところだけど^^;

うちわは、私が催促して倉庫から出て・・・
私がうちわの客1号を務めて。

まあ、知らないうちに終わってた・・・

1店舗20枚ってすぐ終わっちゃう枚数だよね^^;


でも、本日(21日)のファミマはうな重がお茶つきで安く売っていたので、
それを夕飯にしました^^


「韓国の美」のDVD、ブロコリ独占販売はうれしいね~^^

孫さん、よかった^^

22日19時から予約開始だね^^

痩せっぽちになる前のjoonに会えるね。





さて。

本日もBYJシアターは芳雄ちゃん追悼作品です。
以前にもアップしましたが、
「恋のタイトルマッチ」の2部です。















【恋のタイトルマッチ】第4・5話です。


隣のヨンシュンさん(ペ・ヨンシュン)・・・・ ぺ・ヨンジュン (32歳)
相棒のタクヤ(木島拓哉) ・・・・・・・・・ 木村拓哉   (32歳)
私・通称リコ(牧村キリコ)・・・・・・・・・  小雪     (28歳)

リコの職場の後輩(岡本准一)・・・・・・・・  岡田准一

京香先輩(佐藤京香)・・・・・・・・・・・・  鈴木京香
アニキ(牧村桔平)・・・・・・・・・・・・・・・  椎名桔平







恋のタイトルマッチ。
それはたくさんの相手に勝つことではない。

これぞ!と見込んだ相手、好きになった相手と結ばれる。
それが勝利者という称号を手にすることだ。
負けない!
誰に?

自分の弱虫に!


そして、大好きなあなたと結ばれるまで
私は、

頑張る!







【恋のタイトルマッチ】2

主演:ぺ・ヨンジュン
   小雪
   木村 拓哉







「第4話 ステキな餃子」


リコが、PCで四星物産のショールームの内装図面を書いている。次から次へアイデアが浮かんできて、考えがまとまらない。全くアイデアが出てこなくて困る仕事もあるのだが、なぜかここの仕事はやりたいことがあふれていて、頭の中の整理をしないと、イメージが定まらなくて困る。
後ろから京香がPCを覗き込む。


京:リコ、すごいじゃない。(驚く)何度描き直してるの? さっきのもかなりよかったのに・・・。
リ:いろんなパターンが浮かんできすぎちゃって・・・まとまらなくて・・。
京:へえ・・・。(リコの顔を覗き込む) それって・・・もしかして、違うところからパワーもらってる?
リ:なあに? それ?
京:(笑って)まあいいや、気がついてないなら・・・。私はあんたがいい仕事してくれればOKだから・・・。ふ~ん、そう?・・・・そうなんだ・・・。(立ち去る)
リ:先輩!(立ち上がる) なあに? その独り言、やめてくださいよ・・・。ねえ、ちゃんと言いたいことがあるなら言ってよ。気持ち悪いな・・・。(ちょっと眉間に皺を寄せて座る)
京:(戻ってきて耳元で囁く)あの男でしょ? ちょっとカッコよかったわよね・・・。デートしたの?(腕組みしながら、顔を覗き込む)
リ:えっ! デートなんて・・(顔が赤い)ただ私の現場を見に来ただけですよ。
京:(ちょっと不満そうに)あら、そう? ふ~ん、准一がさ、二人とも目がハートだったって言ってたわよ!(ちょっとつんとして言う)
リ:(より赤くなって)やだ。准一君、どこ?(見回す) ひどいな・・・そんなこと、ないですよ。(あっ!)他になんか言ってませんでしたか?
京:え~。なんかあったの? そうでしょ! 何? ねえ何?(興味しんしん)


そこへ准一が現場から帰ってくる。


准:ただいま~。外はくそ暑いぜ。
京:准一! ねえ、この間、高校の図書館で何があったの?


リコが准一に目配せする。准一はリコに「何?」という顔をする。


准:何がって何? 別に変わったことはなかったですよ。ああ、ヨンシュンさんが見に来ましたけど。
京:それだけ? うそ。何かあったんでしょ?
准:別に。
京:そう? なあんか怪しいなあ・・・。(二人を睨む)

部長:(遠くから)佐藤君! ちょっと。青山の子供ランドの件、どうだった?
京:あ、部長。それがですねえ・・・・。


京香が部長のほうへ真面目な仕事人の顔に戻って歩いていく。准一がリコのところへ来る。


准:先輩、何言ったの?
リ:・・・ねえ、あのこと、京香先輩に言わなかったでしょうね? ぶつかっちゃったこと・・・。
准:何?・・・先輩!(リコに呆れる)男がそんなこと、言うわけないでしょ。そんなこと、女の人に話すわけないじゃない、先輩、少しおかしいよ。(呆れ顔で去っていく)
リ:そうよね・・・うん。はあ~。(ため息)・・・なんか、いろいろ気になっちゃうのよね・・・うん。(またPCに戻って仕事を始める)




タクヤが会社の自分のブースから、イスで伸びをしながら、リコに携帯で電話をしている。リコはPCの図面を睨んでいる。


リ:なあに?(ちょっと冷たい)
タ:ねえ、今日、豆腐、買っといてくんない?(甘えてる)
リ:なんで? 自分で買いなさいよ。私はあんたの嫁さんじゃないわよ。(つっけんどんに言いながらPCを見ている)
タ:いいじゃん、そのくらい。オレ、いいもの、持ってるんだ。
リ:何?
タ:おまえの好きな「ペー」がつく人の、あるチケット。
リ:「ペ」? 本当? 何のチケット?
タ:内緒・・・。それ、やるよ。豆腐、買ってくれたら。
リ:ホント?
タ:うん。暑いうちは毎日、冷やっこ、食べたいじゃない?
リ:わかったわよ。毎日、買えばいいんでしょ? 本当にくれるのね。・・・「ペ」さんの。
タ:うん。「ペー」さんの。
リ:OK.。絹ごし? 木綿?
タ:もち、木綿でよろしく!


タクヤは携帯を切って、「林家ペー」の公演会のチケットを眺める。





二日後の会社の帰り道。
今日の日付の「ぺー」の公演会のチケットを2枚持って睨んでいる。

私もバカよね・・・。まんまと、あいつの罠に引っかかったわ。ひと夏の豆腐代がこれだよ。やんなっちゃう・・・。


ヨ:リコさん?

後ろから呼ぶ声がする。リコは立ち止まり、声のほうへ振り返る。


リ:あっ、ヨンシュンさん! 今、お帰りですか?(微笑む)
ヨ:ええ。(後ろから小走りでやってきてリコの横に並ぶ)よかったら、一緒に帰りましょう。
リ:ええ。あっ!(いいことを思いつく)ヨンシュンさん、日本の漫才って見に行ったこと、ありますか?
ヨ:いえ。
リ:これ、もらったんですけど。行ってみます? おもしろいかどうかわからないけど、あなたと似た名前の人の公演会なんです。ペーさんって人の。
ヨ:(興味が湧いて)おもしろそうですね。いいんですか、僕と一緒で。
リ:いいの? 行っても・・・。じゃあ、ご一緒、しちゃいましょうか。2枚あるから、よかったわ。

二人は見つめあって楽しげに寄席まで出かける。





寄席の帰り道。
ヨンシュンとリコが並んで歩いている。


ヨ:ああ、今日は本当に笑ったな。本当におもしろかったですね。(リコの顔を覗き込み、目をキラキラ輝かせている)
リ:ええ。(ホントに?)


リコはヨンシュンほど感激していない。寄席の間、ヨンシュンはお腹をかかえて笑っていた。これが抱腹絶倒というやつかと、リコが感心したほどだった。確かにおもしろかったが、そこまでは・・・リコには理解できなかった。ヨンシュンは幸せいっぱいという顔をしている。


ヨ:いやあ・・・本当におもしろかった。(思い出し笑いをしている)


一人で感心して何度も頷いている。それを見て、リコはぺーさんを見ているより、ヨンシュンのほうがかわいいというか、なんか憎めないというか・・・とにかく彼を見ているだけで、幸せな気分になってくる。


ヨ:ああ、お腹、空きましたね。(楽しそうにリコの顔を覗き込んで)リコさんの好きなもの、なんでも奢りますよ。今日のお礼です! ああ、楽しかった! また行きましょう! ね!(目を輝かせる)
リ:ええ。(また?・・ちょっとやだな・・)そうですね・・・。(笑顔を作るが、少しテンションが下がり気味)


またぺーさんは・・・ふ~。でも、まあいいや。なんか、うれしい。ヨンシュンさんと一緒だと、なんか、楽しいもん。


ヨンシュンの顔が笑顔でいっぱいだと、なんだか、リコも自然に笑顔になってきてしまうのだった。





数日後。
東京丸の内の高層ビル。10階。
外資系ワイワイバンクの融資部の広い会議室の窓際でヨンシュンが窓の外を眺めている。
ドアが開き、融資部の部長が入ってくる。年の頃は36、7。なかなかすっきりした感じのいい男である。
男はにこやかに笑いながら、


部:お待たせ致しました。融資部の部長の牧村でございます。
ヨ:四星物産のぺ・ヨンシュンです。初めまして。
牧:さあ、どうぞ、お掛け下さい。


ヨンシュンと牧村は名刺を交換し合い、席に着く。


「ワイワイバンク融資部・部長 牧村桔平」


ヨ:牧村さん・・・牧村さんていう苗字は日本では多いんですか?
桔:いえ、それほどでは。なぜですか?
ヨ:いや、同じ苗字の方を知っているので・・・。
桔:そうですか。奇遇ですね。では、ええ~と、今回の四星さんの新プロジェクトをまず概要から伺っていきましょうか?
ヨ:はい。ではこちらの資料を・・・。(資料を差し出して説明を始める)


商談後。



ヨ:よろしくお願いします。韓国では、こちらのスキンケアは非常に好評ですし、企業としても優良企業として今注目されています。もともと長い歴史のある老舗の会社なんです。
桔:「古くて新しい」ですね。期待できそうですね。わかりました。検討させていただきます。
ヨ:・・・ところで、牧村さん、あなたとお話していると、不思議な気分になります。初めてお会いした気がしないんです。(不思議そうに牧村を見つめる)
桔:そうですか?(苦笑する) それはうれしいな。私たち、気が合うかもしれませんね。ぺさんのプロジェクトにはこちらもとても興味があるんですよ。
ヨ:ありがとうございます。しかし、目がとても・・・懐かしいというか、不思議です。
桔:ハハハ。そうですか? これはご縁があるかもしれませんね。ではまた、後日。お返事させていただきます。
ヨ:よろしくお願いします。(きちんと頭を下げる)





土曜日の夕方。
買い物帰りのリコが駅の改札を出てぶらぶらと歩いていると、駅前の本屋からヨンシュンが出てくる。


リ:ヨンシュンさん。(見つけてニコッとする)
ヨ:あ、リコさん。(うれしそうな顔になる)お買い物ですか?(買い物袋を見る)
リ:ええ、ちょっとバーゲンに行ってきました。
ヨ:ふ~ん。女の人ってそういう楽しみがあっていいな。
リ:ヨンシュンさんは行きませんか?
ヨ:僕はあんまり・・・。(ぐ~っとお腹が鳴る)
リ:あ、(笑って)お腹が鳴ってますよ。
ヨ:(時計を見る)もう、そんな時間ですね。
リ:よかったら、この近くにおいしいラーメン屋さんがあるの。ご一緒しませんか?お勧めのお店なんですよ。
ヨ:いいですね。連れてってください。リコさんもそれでいいの?
リ:ええ。実は私もすごくお腹が空いていて・・。(微笑む)お腹が鳴らなかっただけ、よかったわ。



二人は連れ立って、駅から歩いて3分ほどいったラーメン店に入る。


リ:まずは、ここの名物、しなちくラーメンとジャンボ餃子は食べなくちゃ。
ヨ:リコさんもそんなに食べるの?(驚く)
リ:ええ、私、大食なんです。(笑う)
ヨ:(笑う)じゃあ、それをいただきましょう。


二人はフーフーいいながら食べる。


リ:ねえ、おいしいでしょう? しなちくがいっぱいで。好きなんです、私。ここはお勧めですよ。ソナさんも好きでよく来るのよ。
ヨ:そうなんだ。やっぱり、韓国で食べるのと、一味、違いますね。日本の味がしますよ。(笑う)


ヨンシュンがリコを見つめる。リコの笑顔をじっと見て、


ヨ:リコさんて、なんか不思議な感じだな。リコさんのリズムって人をホッとさせるものがありますね。
リ:そうですか?
ヨ:うん。なんか独特ですよね・・・。主張しすぎず、それでいて存在感があって・・・。う~ん、韓国でも、佐藤さんみたいな感じのキャリアウーマンの人はよく見かけるんですよ。
リ:京香先輩? やり手が多いんですね。(笑う)私、先輩はすごく尊敬しているんです。バンバン仕事はできるし、生き方がとっても積極的なんです。
ヨ:リコさんだって、バンバン仕事してるじゃないですか・・・。佐藤さんには・・・僕はちょっと構えちゃうんです。年上でガンガンやりますって感じだと、こっちもガンガンやりますって感じになってしまって。・・・たぶん、僕がまだ、子供っぽいんですよね。(笑う)
リ:そんな・・・。でも、先輩には、「リコは今、考えているのか、ボーっとしているのか、よくわからない」っていわれることがあって(笑う)。これでも一生懸命仕事をしているんだけど。変でしょ?
ヨ:いえ・・・リコさんのなんとも言えないそのゆったり加減がいいです・・・。好きです、そういうの。

リ:ありがとう。ヨンシュンさんて・・・時々とっても恐く感じる時と、すごくやさしく感じる時とがあって、ちょっと謎なんです、私。
ヨ:そうお? ふ~ん、恐いですか? 今は?
リ:今は楽しいですよ。(笑う)・・・目力が強いのかしら。睨まれてると思うことがあります・・・ごめんなさい・・・。
ヨ:そうですか・・・。気をつけよう。(自分に言い聞かす)リコさんを睨みつけるほど、憎々しく思ったこと、ないですよ。(笑って見つめる)
リ:そうですか? よかった。(ホッとする)
ヨ:リコさんとこんなに親しくさせてもらって、すごくうれしいんです。
リ:私も。・・・私たち、友達ですよね? ただの仕事仲間じゃなくて。
ヨ:友達? 友達・・・。そうですか。(ちょっと物足りない)
リ:違う? いいでしょ? こんなに仲良しなんだもの。
ヨ・・・ええ。・・友達。まずはそこから始まる・・・。うん。(自分に言い聞かせる)
リ:えっ?(聞き取れない) ねえ、このジャンボ餃子、すごくおいしいでしょう? 皮の焼き加減がいいの。外側がパリっとしてて中がジューシーで・・・。
ヨ:ホントですね・・・・。(リコをじいっと見る)
リ:ね! ヨンシュンさんも食べて。(餃子を食べて微笑む)
ヨ:(リコが食べている姿を見つめる)ホントにステキです・・・。
リ:えっ? ヨンシュンさん、餃子は「ステキ」とは言いませんよ。(笑う)
ヨ:(少し赤くなって、下を向いて微笑む)・・・そうでした・・・「おいしい」でしたね。
リ:ええ。(笑って見つめる)

ヨンシュンは前に座っているリコに目が釘付けである。








「第5話 3階さん揃い踏み」


リコがソナのスナックで、焼きそばとサラダを食べている。
ソナのスナックは8人ほど座れるL字型のカウンターとテーブル席が10席というこじんまりとした店である。
バイトに来ていたチャコがリコのアニキと失踪してから、バイトを雇うのがイヤになって、今は一人で切り盛りしている。


ソ:食べ合わせ、悪いよ。もっと力が出るもの、食べな。肉でも焼く?
リ:いいよ。焼きそばにお肉も野菜もたくさん入れてもらってるもん。これで、いい。
ソ:そうお? ねえ、たまにヨンシュン先輩に会う?
リ:うん。クライアントだからね。ソナさんだって会うでしょ? ここにもよく来るんでしょ?
ソ:まあね。週に3回かな。もっと来てほしいよ。
リ:でもそれで2日に1回じゃない。それだけくれば、十分じゃない?
ソ:まあね。
リ:ねえ。たまにヨンシュンさんて、韓国語をつぶやくんだけど。意味がよくわからないの。
ソ:そう? なんて言った?
リ:ええとね・・・「ケンチャナ?」だったかな?
ソ:ああ、「大丈夫?」っていう意味だよ。
リ:そうか・・・そう・・・。(図書館で二人で抱き合ったあと、リコがため息をついた時に言った言葉だ)
ソ:いつ、言ったの?
リ:・・・う~ん、たいした時じゃないの・・・。あと、イッ・・なんだっけ? 忘れた。
ソ:韓ドラ見てると、少し言葉、覚えるよ。
リ:そうだね。最近、見てないからな・・・吹き替えはだめだね。
ソ:うん、やっぱり韓国語で見ないとね。


リコの携帯が鳴る。


リ:もしもし、あ、タクヤ? 何? お豆腐? うん、今、ソナさんとこでご飯食べてるの。来る? じゃあ、待ってるね。(携帯を切る)これから来るって。お豆腐食べたいって。
ソ:そう、豆腐チゲでも作るか。(笑う)


その時、ドアが開き、ヨンシュンが入ってくる。


ソ:先輩!(うれしそうな顔をする)


リコも振り返る。ヨンシュンがリコに気づき、笑顔になる。


ヨ:来てたんですか?(うれしそうに言う)
リ:ええ。(うれしそうに見つめる)


なぜか今日はヨンシュンを見ただけで、リコは胸がドキドキしてしまう。ヨンシュンがいつもよりめちゃくちゃステキに見える。
たった3日、会わなかっただけなのに、うれしくて胸が弾けそうだ。
ヨンシュンが顔を輝かせて、リコに会えて幸せという顔をするものだから、もう、リコの動悸は激しくなってきている。


ソナがなにげなく、リコを見た。ソナに心の中を気づかれないかとヒヤヒヤで、より緊張して、胸がバクバクだ。
しかし、ソナはリコのことなど、まったく気にせず、


ソ:先輩、豆腐チゲ食べる? (ヨンシュンのテーブルの前をセッティングしながら)
ヨ:いいね。その前に、ビールちょうだい。お元気でしたか?(リコの隣に座ってリコの顔を見て微笑む)
ソ:OK! あ、今日は全員勢揃いするね。
ヨ:何が?(ソナを見る)
ソ:あのマンションの3階さん。先輩と同じ年のタクヤ君が来るのよ。先輩と同じくいい男。タクちゃんもお豆腐が好きだから、豆腐チゲで乾杯しよう。
ヨ:リコさんも仲良しなんですか?(リコの方へ少し体を向けてにこやかに言う)
リ:えっ、ええ。


この至近距離で、こんなににこやかに見つめられると、ホントに呼吸困難に陥りそうだ。


ヨンシュンさんがこっちへ体を向けて話しているだけなのに、なんか・・・それだけで包囲されているような気がする。
別に彼が手を伸ばして、私の肩を抱いている訳じゃないのに、まるで肩を抱き寄せられているような・・・。

私って変?

最近、ヨンシュンさんといると、妄想なのか・・・変な気分になっちゃう・・・。

今日は特に変。久しぶりに会ったから? ソナさんがいるから? タクヤが来るから?

たぶん、第三者に自分の心が透けて見えそうな気がして、心が危険信号を鳴らしているんだ。
私が今、どうも恋をし始めているらしいことを、二人に知られるのが恥ずかしいのかもしれない。

そう、きっと・・・恋だよね・・・。こんなにバクバク胸が高鳴ってるもん。



にもかかわらず、リコの胸の高鳴りなんかお構いなしに、ヨンシュンは積極的にリコに笑顔で迫ってくる。


ヨ:皆で一緒にお酒を飲んだりするの?(リコをじいっと見つめて話す)
リ:ええ。(なんとなく息が漏れたような声になる)ソナさんのところで、皆で夕飯食べたり、飲んだり。ダーツをしたり・・・。
ヨ:そうお。楽しそうですね。・・・会ったことないよね、僕。(ソナに聞く)
ソ:そうね、ホント。来る日が違うのね。あ、来た!(ドアのほうを見る) タクちゃん!(手を振る)


タクヤが入ってくる。ヨンシュンと目が合う。一瞬、タクヤが構える。リコからもソナからも話だけは聞いている男だ。


タ:こんばんは。(軽く会釈する)・・・あのう、ヨンシュンさん? 
ヨ:ええ。タクヤさんですか?(にこやかに言う)
タ:あ、はい。よろしく。リコ・・ソナさんから伺っています。
ヨ:そうですか。同じ3階なんですか?
タ:あ、ええ。・・・リコの・・・隣部屋です。


リコが赤い顔をしてタクヤを見ている。タクヤもちょっとリコを盗み見する。今日のリコは、いつものリコと少し違って、しとやかな感じだ。


ソ:ねえ、とにかく、座りなさいよ。どこに座るの? 先輩と並んだら。二人でチゲ食べて、飲んで。リコは?
リ:もうお腹、いっぱい。
タ:うそ! まだ食えるだろ?(疑わしそうに)
ソ:まだ食べられるわよ!(なんで?)


ヨンシュンが噴出して笑ってしまう。


リ:ヨンシュンさん、なんですか?(ヨンシュンを見る)
ヨ:本当に大食漢なんですね。(笑ってしまう)
リ:やだ・・・今日は、もう、お腹がいっぱいなんです!(本当に胸がいっぱいだ)
ヨ・タ・ソ:そうお?(なんで? 皆で見つめる)
リ:やだ・・・今は・・・お腹がいっぱいなの!(何よ、皆で)
タ・ソ:ふ~ん。(どうしたの?)


ヨンシュンだけ、微笑んでいる。まるで、リコのときめきに気づいているように・・・。


ソ:とにかく、陽気にやろうよ! あとで、ダーツ大会もやるよ。看板、出しちゃおうかな。
リ:お店閉めちゃうの?
ソ:うん! 今日は遊びたい気分なんだよね~。だって、先輩も加わって、皆揃ったし。3階さん、仲良し結束記念コンバ、やらない?(ビールを出して注ぐ)皆で、パアっとやろうよ、ね!


ソナにつられて、皆で楽しげに笑う。
ビールで乾杯しながら、ヨンシュンがうれしそうにリコを見つめて笑う姿を、タクヤはじっと見ていた。




翌日。
会社からの帰り道、リコが駅の改札を出ると、この間のように、ヨンシュンが駅前の本屋にいる。


リ:ヨンシュンさん!
ヨ:あ、リコさん。
リ:また会いましたね。(うれしそうに微笑む)
ヨ:・・・。(照れたように笑う)
リ:どうしたんですか?
ヨ:・・・偶然じゃないんです。リコさんに会いたくて。(リコの顔を見てから下を向く)実は待ってました。
リ:あ~・・・。(リコも下を向く)私も会えて・・・うれしいです・・・。
ヨ:そうお?(リコの顔を覗く)
リ:ええ・・・。
ヨ:一緒に帰りませんか・・・いえ、一緒に夕飯を食べましょう。・・・いい?
リ:ええ。(うれしそうにヨンシュンを見る)
ヨ:じゃあ、どこへ行きましょうか。
リ:う~ん、何が食べたい? ここのことなら、なんでも聞いて。イタリアンでもフレンチでも、居酒屋でも。
ヨ:いろいろ、探索しているんですか?(笑う)
リ:ええ。・・・何にします?
ヨ:う~ん・・・リコさんは・・・。

ヨンシュンがちょっとリコの背に手を当てて、二人は通りを歩いていった。





数日後。
京香が得意先での打ち合わせを終えて、丸の内のビジネス街を歩いていると、前から見たことのある男が歩いてくる。身なりのキチンとした、いかにも仕事ができそうな感じのビジネスマン。


京:ちょっとあんた!(走り寄る)桔平じゃない!


男が驚いて京香を見る。


丸の内のコーヒーショップの窓際に、京香が座ってタバコを吸っている。


桔:久しぶりだな・・・元気だったか。
京:生きてたのね。(睨む)いいもん、着てるじゃない、グッチ?
桔:よくわかるな、さすがだな。(うれしそうにする)
京:あんたの好みくらい・・・覚えてるわよ。(タバコの煙を吐き出す)
桔:そうか・・・。
京:夜逃げなんかじゃなかったわけね。(じっと顔を見る)
桔:まあな。(とぼけて、コーヒーをスプーンでグルグルかき混ぜる)
京:なんであんなサル芝居したの?
桔:えっ、まあ。(笑う)
京:私から逃げたかった?
桔:いや、とんでもない!
京:フン。でもそれもあるでしょ? 桔平の新しい女、はたちだって?
桔:まあ、いろいろあってさ・・。
京:リコから聞いた時は驚いたわ。あんたが、たかだか30万円の借金で、20の女と夜逃げしたなんて。
桔:まあ・・・な。

京:ただのヘッドハンティングだったのね。
桔:まあ・・・。
京:今どこに住んでるの?(腕を組んでタバコを吸う)
桔:代々木・・・あたり・・・。
京:外人用のマンション?
桔:まあな。
京:いい暮らししてんのね・・・。(タバコの灰を落とす)
桔:・・・。(困って笑う)
京:ところで、あんた。いつまで、あの子にあんな暮らしさせてんの?
桔:誰?(チャコ?)
京:リコに決まってんでしょ。あんなことさせてたら、お嫁に行けなくなるわよ。
桔:どうして?
京:・・・タクヤ君にでも頼まれたの?(タバコをふかす)
桔:別に・・・タクヤは何にも知らない。
京:二人を騙してどうすんの?
桔:いやあ・・なんかあの二人、いい感じだったんだよなあ・・・それでさ・・。それで・・・キューピット。
京:バカじゃん。フン。(タバコの灰を落とす)あんた、間違えてるわよ。
桔:どこが?
京:リコはタクヤなんか好きじゃないわよ。
桔:・・・そうか・・でもかなりいい男だぞ。(ノンキに言う)
京:まあね。私は好きだけど・・・。リコは違うやつが気になってんのよ。
桔:だれ?
京:あんたの知らないやつ・・・。(タバコを吸う)
桔:そうか。
京:(タバコの煙を吐き出して)ねえ・・・。(灰を灰皿に落とす)来る? (冷たいが情熱的な目)
桔:えっ? (少し赤くなる)
京:今夜、うち来る?(見つめる)
桔:えっ?(頭の中に、チャコが家で食事の支度をしている姿が思い浮かぶが) いいの?(うれしそう)


京香がタバコの火をもみ消して、桔平を睨みつける。二人はぐっと見つめあい、笑った。





午後8時。
マンション一階のエレベーターホール。ヨンシュンとタクヤが並ぶ。


タ:こんばんは。今、お帰りですか?
ヨ:ええ。タクヤさんも遅くまで、忙しいんですね。
タ:ええ。


エレベーターのドアが開き、ヨンシュンとタクヤが乗り込む。タクヤの頭がヨンシュンの鼻の近くをかすめて、ヨンシュンがタクヤの髪の香りに気づく。


この香りは・・・。


エレベーターが3階に着く。ヨンシュンが「開」を押している。


タ:あっ、すみません。じゃあ、お先に。(ちょっと頭を下げて出て行く)


ヨンシュンはタクヤの後から降り、タクヤの歩く後ろ姿を見ながら歩く。


タクヤが入っていく部屋を確認する。
302号室。リコと同じ部屋だ。


ヨンシュンは最初、不思議そうに見て、そして次の瞬間、顔が強張った。





続く・・・。










by あらまりりん






2011/07/20 21:32
テーマ:【創】恋のタイトルマッチ カテゴリ:趣味・特技(コレクション)

さよなら・・・芳雄ちゃん


こんばんは^^

本日はペ・ヨンジュン様ではなくて・・・

長年大好きだった芳雄が逝ってしまった・・・

ほんの数ヶ月前まで元気だったのに。


ホントに・・・人はいつ、命を落とすかわからないね。

でも、最後に自分の頑張って作った映画を発表できて、
ファンの皆に別れの挨拶ができて、俳優人生を全うできたんだろうか・・・。




ということで。


大好きだった原田さんを偲んで。

前にもここにアップしましたが、
BYJシアターで原田芳雄が出演している作品をアップしました。

たぶん・・・10回ぐらいかかります。




原田さん、
いつも素敵な作品をありがとう^^
大好きだったよ。

あなたはいつの時代でも
色あせないでいたよね。

それってホントにすごいことだったよ。

もうあなたの作品は増えないけど・・・
私の作品を楽しんでください。

「おお、暇になったから見てやるか^^」

そうだよ、そうして!
夢の競演だよ。



長年、楽しませてありがとう。
ゆっくりとお休みください・・・。


With Love


kiko3


















これは、2005年の作品なんですが、
登場人物が多くて、TV代わりに楽しめる作品です^^



では配役をざっとご紹介します。

今回は東京とソウルの二都物語です。
このほかにも登場人物はいますが、メインの役柄だけここにご紹介します。
また、秘密の配役もあるので、お楽しみに!




隣のヨンシュンさん(ペ・ヨンシュン)・・・・ ぺ・ヨンジュン (32歳)
相棒のタクヤ(木島拓哉) ・・・・・・・・・ 木村拓哉  (32歳)
私・通称リコ(牧村キリコ)・・・・・・・・・  小雪     (28歳)

近くのソナ(キム・ソナ)・・・・・・・・・・・・  ユンソナ
リコの職場の後輩(岡本准一)・・・・・・  岡田准一

京香先輩(佐藤京香)・・・・・・・・・・・  鈴木京香
アニキ(牧村桔平)・・・・・・・・・・・・・・  椎名桔平


(特別出演)
父  (牧村徳道)・・・・・・・・・・・・・・  原田芳雄



(韓国にて)
パク・テヒ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  キム・テヒ
ペ・ソンジュン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  ホ・ジュノ(ホテリアの支配人・若者のひなたでボクサー)




ではここより本編。
お楽しみください!








恋のタイトルマッチ。
それはたくさんの相手に勝つことではない。

これぞ!と見込んだ相手、好きになった相手と結ばれる。
それが勝利者という称号を手にすることだ。
負けない!
誰に?

自分の弱虫に!


そして、大好きなあなたと結ばれるまで
私は、

頑張る!





【恋のタイトルマッチ】

主演:ぺ・ヨンジュン
   小雪
   木村 拓哉





【主題歌】「逢いたくて」

♪♪~~
逢いたくて逢いたくて
今日もあなたに逢いたくて

逢いたくて逢いたくて
あなたにあなたに逢いたくて


いつか巡り会うはずだけど
あなたがいないと寂しくて
今日もあなたに逢いたくて


地下鉄のホームで
駅の階段で
会社のエレベーターで
街のコンビニで


いつか巡り会う約束を
きっと二人はしているはずね
もっともっと待つの? 逢いたくて


道ですれ違っても
すぐに私だとわかってほしい
あなたの好きな香りをつける
すぐに気がついてほしいから


街角の花屋で
公園のベンチで
劇場の入り口で
会議室の隣の席で


きっとあなたは探してるわね
あなただって会いたいはずよ
今日もあなたに逢いたくて


この気持ちは出会うまで
いつまでも続いていくのかしら
逢いたくて逢いたくて

あなたにとっても逢いたくて
私の大切な人だから
今日もあなたに逢いたくて
♪♪~~










「第1話 まずは自己紹介」


私の名前は牧村キリコ。
私は今、超イケ面の彼と同棲している。彼の名はタクヤ。はっきり言って、こんなハンサムな彼ってそうそういない。
彼とはかれこれ、一年半一緒に住んでいる。お互いに気心も知れていて・・・まあ、それ以上だが、いつ結婚してもおかしくない関係だ。


ということに、友人には言っている・・・。実はただの同居人だ。


タクヤは失踪した兄の友人で、このバカ高いマンションの家賃が払えなくて、妹の私を巻き添えにして責任を取らせているだけだ。
じゃあ、やめればって? ここの地の利の良さってないし・・・だから、私もここの生活に甘んじている。

兄の失踪だって、なんてことはない。飲み屋のつけを貯めすぎて雲隠れしているだけだ。


28歳という私の年齢やタクヤの美貌ってやつが、私に見栄を張らせて、「同棲」しているってことにさせているだけ。
実際には、タクヤには年上の女がいて・・と私は推察しているんだけど、二人して、今の生活を隠れ蓑にして、暮らしている。



こんな二人のサバサバした関係を知っているのは、ちょくちょく家へ遊びにやって来る近くのスナックのママ、ソナさんと職場の佐藤京香先輩だけだ。

京香先輩はアニキと大学時代の友人で、たぶん、もっと近い仲になったことがあると踏んでいるが、男勝りで頑張り屋の先輩はキャリアを選んだというわけだ。そして、二人の関係が変化した後も、仲良しでいられるというのは先輩の度量の深さともいえる。
私を今の会社に引っ張ってくれたのも京香先輩だった。

一方、ソナさんは歩いて2分のところにあるマンションに住んでいる。
ソナさんのスナックに借金をこしらえてアニキが失踪してから一年半。
ソナさんは家へ毎日のようにうちへ偵察にやって来る。
彼女はアニキに惚れていた・・・なのに、アニキは借金を踏み倒し、スナックでバイトをしていた専門学校に通う20歳のチャコちゃんと逃げちゃった。

ソナさんは踏んだり蹴ったりだ。

でも、あまりにうちに入り浸っていたので、今では私の親友のような、姉貴のような存在にまでなってしまった。

ソナさんは私より1.5歳年上で・・2歳上って言うと、本人が嫌がるので・・・少しでも若く言いたいらしくて、こういう言い方をさせるんだけど。とっても気のいい姉御だ。韓国から一人でやってきて、芝居の勉強をしに来たみたいだけど、今やスナック「サラン」のオーナーママだ。


ソナさん曰く、

ソ:リコ、あんた、今の生活してると、絶対行き遅れるよ。タクちゃんの顔を平気で見られるようになったら、女もおしまいよ。もう誰にもトキメかないよ。

韓国語なまりで私に忠告する。


リ:ソナさんだって、もうトキメかないでしょ?
ソ:えっ?(ちょっとうろたえる)
リ:ウソ? 好きなの? やだ、本当?
ソ:いいじゃん。どこが悪いのよ・・・。(すねる)
リ:・・・そうなんだ・・・。ふ~ん。
ソ:リコ、あんたって・・・(心配そうな顔をして)もしかして不感症?
リ:ええっ!


私は絶句してしまった。
確かにタクヤはキレイな男だ。
二人でよくラーメン屋に行くのだが、女も男も振り返る・・・私にではなく、タクヤに。


しかし、私は彼の実態を知っている。だから・・・恋には落ちない・・・。
そうじゃないのかな・・本当に不感症なのか・・・。ええっ! やだ!



いつから、タクヤが私のことを本当の妹のように、あるいは男友達のように思い出したかは定かではないが、今や彼は、家の中をトランクス一枚で歩いている。
8月の今、風呂上りの彼は、首にタオルを巻いて、トランクス一枚である。


リ:ねえ、そういう格好やめてくれない? おかしいよ。(ブラブラ歩いているタクヤに注意する)
タ:そう? ラクだよ。それに、誰も見てないじゃん。(キッチンへ行く)
リ:(バ~カ)私がいるでしょ?
タ:ああ、おまえね・・・忘れてた。(冷蔵庫を覗いて)おい、缶ビール、一本飲んだ? オレが冷やしてるやつ。(冷蔵庫に顔を突っ込んで話す)
リ:一本くらい、いいじゃない。5本、入ってたよ。(小さな声で)ケチなやつ。
タ:なんか言った?(ビールを一本持ってリビングのほうへやってくる)
リ:そんな格好するなって言っただけよ。
タ:これでも気を遣ってるの、わからない? 本当はさ、ボクサー、はきたいの。(わかる?)でもおまえの為にこれ、はいてるの! 家の中では。
リ:あっ、そう。どうもありがと。(バ~カ)それにしてもさ・・・。(タクヤの全身を見つめる)
タ:何?


あいつは極端に格好を気にしてるヤツだ。


リ:背が高いわりに、足、短いよね・・・。(そう言って、雑誌を見る)
タ:おい、ちょっと来いよ。(眉間にしわを寄せる)
リ:何よ?(顔を上げる)
タ:比べようぜ。
リ:何を?
タ:足の長さ!
リ:(バカ。また引っかかった)いいわよお。


私は立って、タクヤの横に並ぶ。比べると、背の高さは同じくらいだが、足の長さは私のほうが7~8cmくらいは長い。
タクヤは如実に嫌な顔をする。


リ:バカみたい。いつもやってるのに、懲りないのね。(ソファに座りなおす)


タクヤが嫌な顔をして、私の横の、L字型に並べた彼のソファに座る。お互いのソファを持って引っ越してきているので、二人掛けが二つある。


タ:おまえって、本当に性悪だよな・・。(リコの顔をマジマジと見る)普通だったら、かわいい子と一緒に住んだら、その気になるけど・・・これだからな・・・。(憎々しいといった顔でリコを睨む)
リ:かわいい? サンキュ! お酒のおつまみ、持って来てあげようか?(ちょっと見る)
タ:うれしいね・・・。(ウィンクして目が甘えている)


いつもこれだ。だから、私たちは進まない・・・。





午前6時50分。

戦いの時間だ。キレイ好きなタクヤがシャワーを浴びる時間。私だって、朝シャンしたいんだ、シャワーで!
なのに、いつも乗り遅れる。それは単に私が朝寝坊だからだけど。


タクヤが朝の長い儀式をしている間に私は洗面台で髪を洗う。洗っていると、バスルームを開けて、タクヤが怒鳴る。


タ:おい、オレのシャンプー、使っただろ。足りねえよ。
リ:知らないよ。(こっちだって髪の毛、洗ってるのに)
タ:取ってよ、早く。棚から、新しいの。
リ:こっちだって今、流してんの。
タ:裸で行くぞ!
リ:(バカ)待ってよ。


私は濡れた髪のまま、洗面台の横の棚から新しいシャンプーを取って渡す。
タクヤが受け取る。


タ:おまえ、自分の使えよな・・。(ドアをバタンと閉める)



タクヤのシャンプーは一本3200円なので、これを使うと、髪はサラサラ、育毛にも良くて、さらにセットのコンディショナーを使うと、仕上がりが最高にいい。アンド香りもセクシー。だから、ちょっと決めたい日には失敬して使っている・・・。



タクヤの長いグルーミングの間に、私は化粧をし、着替えて、コーヒーを用意し、トーストを焼く。新聞を取ってきて、メガネをかけて新聞を読む。
洗面所から、


タ:リコちゃん、コーヒー入れといて。


私は新聞を読みながら、タクヤのカップにコーヒーを注ぐ。


タ:おまえさ、そういう格好、男に見られたら、振られるよ。(席に着く)
リ:なんで?(訳がわからん)
タ:おっさんくさい!(胸に花柄のお気に入りのタオルをかけながら言う)
リ:何よ、その格好こそ、千年の恋も冷めるわね。(とっちゃん坊や!)・・あれ? いいの、着てる! 新しいね。何かあるの、今日?
タ:まあな・・・。(トーストをかじって流し目をする)
リ:ふ~ん。・・・泊まってくる?
タ:う~ん。遅くなる・・・きっと。
リ:ふ~ん。そう・・・?(顔を覗く)
タ:う~ん。そう。(ニコッ)


二人は意味深に見つめあう。こういう時のタクヤってちょっと好き・・・。ちょっとHな顔・・・。
普段は言いたい放題だけど、ちょっと秘密がある時のほうが謎めいていて、ドキドキする。少しステキに見える。


東京の大手広告代理店で、コピーライターをしているタクヤは、服装も自由だ。それだけにその日の予定がバレバレだ・・・。


7時40分となり、いつものようにタクヤは出勤していった。






「第2話 隣のヨンシュンさん」


東京青山にあるビルの8階。 
四星物産の日本オフィスの会議室。

リコと佐藤京香先輩の二人が緊張した面持ちで座っている。
韓国、四星物産が、この冬、日本で発表する新スキンケア商品のショールーム、及びエステを兼ねた7店のメイン店舗の、内装を一手に手がけるのが、ファイン・アーキテクツ(株)の、京香先輩率いるニュージェネレーションスタッフである。

この「ニュージェネレーションスタッフ」という訳のわかるようなわからないチームの命名は、部長の発案で、要するに、女・子供に関わる業種のビル・店舗の設計及び内装を行う部署である。部長は初め、高をくくって、こんな名前をつけ、京香先輩をチーフに5名で発足させたが、どうしてどうして時流に乗って、今や社内では飛ぶ鳥を落とす勢いである。今やチーム全体も10名と膨れ上がった。

四星物産のこの仕事は、一部、実際の設計を始めているところもあるが、今日は通常の会議プラス、いよいよ韓国本社からボスのぺ氏がやってくるというので、このプロジェクトに関わる関係者たちが一堂に集められた。

全体で15名ほどだが、女性は京香とリコの他に4名ほどだった。
時計は午後2時15分を指していた。


京:(眉間にしわを寄せて)遅いわね。約束は2時じゃなかった? 今日がムリなら、予定通り明後日でよかったのに・・・。緊急とか言って集めておいて、遅刻だなんて・・・。(呆れる)


キム部長が入ってきた。


キ:皆さん大変お待たせして申し訳ありません。車が今、首都高速の竹橋辺りで渋滞に巻き込まれておりまして。そこで、ぺのほうからですね、電話回線で皆様にご挨拶を申し上げたいと言っております。では電話を繋ぎます。


キム部長が機械を操作すると、車の中からのぺ氏の声が入った。


ぺ:皆様、たいへんお待たせして申し訳ありません。ぺ・ヨンシュンです。この度は、四星物産の新プロジェクト「スキンケアシリーズ・ベスト・レボリューション」にご尽力いただき、ありがとうございます。本日、ソウルから成田に到着いたしましたが、ここ、竹橋の辺りで事故がございまして、渋滞しておりまして、到着が遅れております。今回の新スキンケアシリーズ「ベスト・レボリューション」は・・・あ、ちょっと待ってください・・・大丈夫? そう? あと15分? わかりました。ありがとう。・・・ええ、皆さん、やっと渋滞が解消され、あと15分で到着だそうですので、それまでの間、キム部長からプロジェクトの詳細な説明をお聞きいただいて、お待ち下さい。


京:ふ~ん。遅刻したけど・・・ちょっといい声だったわね。年齢は判らないけど、声に深みがあったわ。ちょっと楽しみね。
リ:先輩ったら。もう・・・。(笑う)


キム部長から、このスキンケアシリーズの日本上陸にかける意気込みと従来の日本のスキンケアとの違い、この革命的なスキンケアを、どのように、日本の消費者にアピールしていくかという話を延々と聞いているうちに、会議室のドアが開き、ぺ氏が現れた。

サラリーマンらしいスーツ姿のキム部長とは一味違って、白シャツに薄茶のジャケット、焦げ茶のパンツをはいて、ノーネクタイ。颯爽と入ってきたぺ氏の姿は若々しく自信に満ち溢れていた。


京:いい男ね・・・。(囁く)
リ:先輩!(横目で京香を見る)


ペ氏が挨拶をして、関係者の大まかな挨拶が終わると、京香とリコが前に出て、ショールームと店舗のイメージコンテを指し示しながら、そのコンセプトをプレゼンして、この会は無事に終了した。

帰りがけに、リコと京香に、ぺ氏が後ろから声をかけてきた。


ぺ:牧村さん。(しっかりとした声だ)
リ:はい。(振り返り、顔を見て緊張する)
ぺ:いいプレゼンでした。期待しています。(鋭い瞳で見つめる)よろしくお願いしますね。
リ:(緊張して)あ、はい! よろしくお願いします!(頭を下げる)


帰りの地下鉄の中で、京香がフンと笑った。


京:ぺさん、いい男だったわね・・・。よし、がんばろ!
リ:・・・何を?
京:仕事に決まってるじゃない。なんだと思ったの?
リ:あ、いえ。
京:かなり、かっこいいわね。
リ:でもなんか、私、睨まれちゃって。威圧感があって、恐かったです。
京:(リコを見る)あら、気がつかなかったの? あいつ、リコを名指しで声をかけてきたでしょ。あんたのこと、気に入ったっていう目をしてたわよ。
リ:え、うそ。かなり鋭かったですよ。
京:目力が強すぎて、そういう目をする男もいるのよ・・・。あんたってホント勉強不足ね。ま、いいわ。これで仕事も楽しくなってきたし。相手に不足はないわ。ガ~ンと一発やってやろうじゃないの。女の底力をみせてやるわ。リコ、あんたもよ! しっかりね!
リ:はい。(ふ~!)


リコはいつも京香のやる気と熱気に押されっぱなしである。




それから2日後の土曜日。朝早くソナがリコのマンションへやってきた。
リコがボーっとした顔でドアを開ける。


ソ:リコ、起きてた?
リ:(大あくびをして)ソナさん、おはよ。まだ8時半だよ。土曜日ぐらい寝かせてよ。
ソ:何時まで寝てる気よ。(どんどん入ってくる)タクちゃんは?
リ:お・泊・ま・り。そういうソナさんだって、今日は早いでしょ?(あ~あ、伸びをする)
ソ:まあね。それがさ、私の高校時代の先輩がこのマンションに引っ越してくるのよ、今日。もうすぐ車が着くと思うけど。
リ:何階?
ソ:うん、305号室。すぐそこよ。奇遇でしょう?
リ:ホントだ。仲良しなの?
ソ:というか、共通の知り合いがいて、お手伝いしてほしいって電話が入ったのよ。(テーブルに座る)
リ:ふ~ん。ソウルの人? (冷蔵庫に麦茶を取りに行く)
ソ:うん。305号室が会社の借り上げ社宅なんだって。2ヶ月くらい滞在するらしいわよ。
リ:そうなんだ。何か手伝うことがあったらお手伝いするよ。ソナさんの先輩だもの。(麦茶をコップに入れて出す)

ソ:(麦茶を受け取る)ありがとう。でも、今回は自分でお世話してあげたいの・・・。
リ:そう。仲良しなんだ。(テーブルに着く)
ソ:う~ん、というか・・・。(コップをいじっている)
リ:大切な人なんだ。ねえ、どんな人? キレイな人?
ソ:うん。キレイな人。
リ:やさしい人?
ソ:うん。やさしい人。
リ:かわいい?
ソ:うん。すっごくかわいい・・・。(目がハートになる)
リ:へえ、いくつくらい?
ソ:32。もうすぐ33。
リ:へえ、独身?
ソ:うん・・・。
リ:そう。なんか私たちの周りって、かわいくてやさしくてキレイなのに、独身て多いよね。もったいないよね・・・ソナさんもそうだけど。
ソ:ありがと。でもリコもね。(笑う)あ、トラックの音だ!(窓の外を見る)来たみたい。行くね。


玄関まで来て、ソナが振り返って、


ソ:リコも来てみる? 紹介するよ。
リ:うん。じゃあ、着替えてから行く。それでいいよね?
ソ:キレイにしておいで。じゃあ、待ってるね。


しばらくして、リコは身支度を整えてから、305号室の前へ行く。引越し業者が帰っていくところで、玄関が開いているので、玄関口から声をかける。


ソ:ソナさん、いる~? リコです~。


すると、中から男が出てくる。リコと二人、顔を見合う。


男:(首を傾げて)もしかして、牧村さん?
リ:あのう、ぺさんですか?
ぺ:ええ。どうしたんですか?
リ:あのう、こちらに友人のソナさんがお邪魔してると思うんですけど・・・。

ソナが出てくる。


ソ:リコ、来てくれたの? 先輩、同じ階に住んでる私の友達。紹介するね。





ソナとぺさんと、リコの3人が305号室のリビングで、缶コーヒーを飲んでいる。


ソ:本当に奇遇ね。同じ階に先輩とリコが住むなんて。これで私もお世話しやすくなったわ。(うれしい)
ぺ:世話なんていいよ。別にやってもらうこともないし。牧村さんのお部屋は何号室ですか?
リ:302です。(彼の人となりがわからないので緊張している)
ぺ:お近くですね。(やさしい目をする)


初対面の時の鋭さはなく、やさしい目をして話している。リコには、ペ氏がやさしい人なのか恐い人なのか、まだよくわからない。


ソ:何かやることがあったら言ってね。
ぺ:特には・・・。ちょっとの間だから心配しなくていいよ。ここの家具だって、すべて借り物だし。
リ:そうなんですか?(周りを見渡す)


確かに、借り物といった感じだ。まるで、ビジネスホテルにいるようだ。テーブルも机もこのリビングの応接セットも全てがあまりに無難で、全く魅力的ではない。この薄茶のソファもとても地味で、どちらかというと、事務所のようだ。


ぺ:会社の倉庫にあったものなんですよ。僕みたいな長期出張者用に貸し出すんです。
リ:へえ。でも結構揃っちゃうものですね。(あたりを見渡して、少し考える)あとは・・・うん、電気スタンドかなにかあるといいですね。そのほうが、部屋に陰影が出ていいですね。
ぺ:そうですね・・・。このままだと少し生活するには寂しいかな。(ちょっと寂しそうな顔をしてから)うん。牧村さんのアイデア、いいですね。(にこやかにリコを直視する)お暇だったら、牧村さん、一緒に買いにいってもらえますか?


ペの寂しそうな顔から笑顔への変化が、リコの中にあった、今までの恐い、鋭いイメージを払拭するほど・・・なぜか、かわいく見える。


ソ:やだ、先輩。(慌てる)なんで私を誘わないの? 私が公認のお世話係よ。(ちょっとふくれる)
ぺ:あ、そうか。(笑う)ただ牧村さんはインテリアのプロだから。プロの目で選んでほしくて。
ソ:リコ、いい仕事についてるわね。(ムッとする)
リ:ええっ?
ぺ:リコさんていうんですか・・・確かお名前は牧村・・・。
リ:キリコ。で、皆がリコって呼ぶんです。
ぺ:そうなんですか・・・ふ~ん、リコさん・・・。かわいい響きですね。僕はヨンシュンでいいですよ。(やさしく微笑む)
リ:ヨンシュンさん?(名前で呼んでいいの?)
ヨ:そう、ヨンシュンです。・・・じゃあ、これ、片付けたら3人で電気スタンドを買いに行く?(ソナを見る)
ソ:そうこなくちゃ!(目を輝かせる)


ヨンシュンとリコがソナを見て、顔を見合って笑った。




3人はリコの案内で、おしゃれで比較的手ごろな照明器具を売っている店へ行く。


ソ:かわいいのがあるね~。私もほしいよ。リコ、今度、お店の照明、変えてよ。(楽しそうに、目移りしながら、奥へ入っていく)
ヨ:ステキなお店ですね。
リ:比較的格安なんです。ペさん・・・。
ヨ:ヨンシュンです。(見つめる)
リ:ああ、ヨンシュンさんは長くお使いになるわけじゃないから、こういうところのがいいと思って。(見つめられて心なし顔が赤くなる)
ヨ:どれがいいかな。リコさん、選んで。(また見つめる)
リ:わかりました。


ソナは自分の世界に入り込んでいて、自分の好きなものを探して歩いている。リコが照明を探すのをヨンシュンが後ろからゆっくりついてくる。リコのすぐ後ろに立って一緒に見る。

リコはこんなに男の人に見つめて話をされたことがなかったので、普段より少し緊張している。
タクヤはいつもラフな感じで、離れぎみにリコを見ているし、近くで見つめ合う時は何か面白い事や冗談を言ったり、軽口をたたいたりする時で、こんなにくっついて笑顔で見つめられたことはない。


そうだ。アニキも父もどっちかというと、強い視線の人たちだが、渋くて、目がやさしいというより乾いているというか、女の私と同化しようとする感じがない。
でも、この人はとても・・・情感があるというか・・・私の中に溶け込みそうな目をしていて・・・ああ、緊張する。
そうだ、鋭く見えた時も、京香先輩の言うように、目に力があって、目でものを言おうとしているからかもしれない。だから、恐く見えたのだ。あそこに訴えるものがあったんだ。


それにこんな言い方は変だが、なんか・・・ヨンシュンさんが後ろにいると、まるで、後ろから抱きつかれているような感じがして・・・。

私って変?
そのくらい、身近に感じるのだ。


リコがヨンシュンの部屋にピッタリのものをいくつかピックアップした。


リ:どうですか? リビングに2つ、寝室に1つ買いたいんですけど。まずは、リビングのメインのものを決めて、それに他のものをテーストを揃えたいと思います。ヨンシュンさん、どれが好き? これか、これか、これ。どうですか?
ヨ:う~ん。どれもいいですね。じゃあ、リコさんはどれが一番お勧め?
リ:ヨンシュンさんの部屋だから・・・。
ヨ:じゃあ、同時に指差してみますか?
リ:ええ。
ヨ:じゃあ、せ~の! これ!


二人が同じものを指差した。ヨンシュンがにこやかにリコを見た。それもとてもうれしそうに。


ヨ:じゃあ、これで決まり!
リ:そうですね。じゃあ、寝室はね・・・。


二人の照明選びは、うきうきと楽しそうに続いていった。






「第3話 図書館の二人」


数日後、リコは四星物産の東京オフィスにヨンシュンを訪ねた。ショールームの陳列スペースのコンテを見てもらう約束だった。リコはヨンシュンの部屋へ通され、そこの作業テーブルに座って、会議が終わるのを待っていた。

ふと見ると、ヨンシュンの机の上にかわいいブタの陶器の置物がある。手にとって眺める。日本のブタとは少し違って、そのブタは少しおませな顔をしていた。リコは笑って見ていたが、ドアのノックが聞こえ、急いで机に戻そうとして、机の端において床に落としてしまう。
ドアが開いたので、落ちたブタを慌てて拾い、後ろ手で隠して笑顔を作る。
女性秘書がコーヒーを入れて入ってきた。


秘:どうぞ、おかけになってお待ちください。もうすぐ会議が終わりますので、コーヒーを召し上がってお待ちください。
リ:ありがとうございます。(軽く会釈する)


秘書が出ていくと、ブタをよく見てみるが、もう首はくっつかない。


リ:どうしよう・・・。


またドアの向こうでヨンシュンの声がして、また慌ててブタを机の上に置き、立ったまま、ヨンシュンを待つ。
ドアが開く。


ヨ:あ、リコさん。お待たせしました。(いつもの笑顔で)どうですか? いいアイデア、浮かびましたか?
リ:ええ。コンテ、見ていただけますか?
ヨ:どうぞ、テーブルのほうへおかけください。


ヨンシュンは会議のファイルを机の上に置きに行く。ふと見ると、ブタの首が折れている。


ヨ:ああ・・・。


ヨンシュンがちょっと眉間に皺を寄せて、ブタを手にとって見ている。


リ:ヨンシュンさん・・・。(こわごわ声をかける)
ヨ:どうぞ、お座り下さい。(目はブタのほうを見ていて、首をくっつけたりしている)
リ:あ、はい。・・・ヨンシュンさん・・・私・・(ブタを・・)
ヨ:どうぞ、かけて。う~ん・・・。(悲しそうな顔をしてブタを見る)
リ:(しょんぼりと)・・・。(どうしよう)


ヨンシュンはまだ未練があるようで、ブタを眺めまわしていたが、リコに悪いと思ったのか、


ヨ:フ~。(気分を変えて)さあ、始めましょう。どうぞ。
リ:はい。ではこちらのコンテをご覧ください。


結局、リコは言い出せなかった。打ち合わせのあと、


ヨ:ところで、この間、選んでいただいた電気スタンド。すごくよかったです。ありがとうございました。
リ:そうですか? 気に入っていただけましたか? あのう・・(ブタ・・)
ヨ:どうかしました? 何か問題点が残ってましたか?
リ:いえ。(困ったな・・・)あのう、ブタさん・・・。
ヨ:ああ、あれですか。(立ってブタのところへ行く)これ、スイスに美容学を学びに留学した時にいただいたものなんです。スイスは美容関係では世界最高峰ですからね・・・。
リ:えっ! そんなに大切なものなんですか・・・。
ヨ:仕方ないです。形あるもの、いつかは壊れますから・・・。(ため息をつく)
リ:・・・。(もう言えないかな・・・)

ヨ:(気分を変えて)そういえば、リコさんもソナのお店の常連だとか。
リ:ええ、ソナさんのところで、よく夕飯食べたりしてるんです。
ヨ:そうでしたか。じゃあ、今度ご一緒しましょう。ソナが僕の食生活を心配して、うるさく言ってくるので、これからは通わないといけないみたいなんです。(笑う)
リ:そうですか。ソナさんはヨンシュンさんを大事に思っているんですね。
ヨ:そうかな・・・。うん。まあ・・・お目付け役だから。(ちょっと苦笑いをする) 
リ:えっ?
ヨ:・・・。(ちょっと含み笑いをする)




それから数日後。

女:はい、ファイン・アーキテクツです。あ、四星物産のぺ様、いつもお世話さまでございます。牧村ですか? 只今、現場のほうへ出ておりまして、今日はこのまま社には戻りませんが。・・・ああ、はい。そうですか。私立高校の図書館の内装をしておりまして、見学? ええ、できますよ。場所はですね・・・。



とある都内の私立高校の図書館。
リコが後輩の准一と一緒に閲覧室の中をメジャーで計っている。


リ:准一君、そこで押さえててよ。行くわよ。


リコがメジャーを床に這わせるように引いていく。ずっと行って止まる。


リ:ここまでね。(長さを書き取り、周りを見て)まあ、いい感じね。


リコは前屈みになって座り込んでいた体勢から、勢いよく上体を起こして立ち上がろうとする。すると、頭が何かにぶつかった。後ろを振り向くと、ヨンシュンが立っていて、目を丸くしている。


リ:あら、ヨンシュンさん!(にこやかに笑顔を投げかける)
ヨ:・・・。ちょっと・・・失礼します・・・。
リ:えっ? ・・・どうしたの?(立ち去るヨンシュンを見送る)


前で准一が笑っている。


リ:何よ?
准:ハハハ・・・。(笑いが止まらない)
リ:やだ、何よ!
准:リコさん、ハハハ・・・わかりません? ハハハ・・・。
リ:なんなの?
准:今、今、ハハハ・・・。(お腹を抱える)
リ:やな子・・・何よ。
准:ヨンシュンさん、当たりどこが悪くて・・ハハハハ・・・。
リ:やあね、感じ悪い! 何よ!(そう言った後に思い当たる)やだ・・・。


リコは自分の後頭部を撫でるが、


リ:(撫でた手を見て)やだ! 准一のバカ!


ヨンシュンが戻ってきた。


ヨ:リコさん。


リコは振り返るが、ヨンシュンの顔を見て、思わず噴出してしまう。ヨンシュンも一緒に照れたように笑う。准一も一緒になって3人で大笑いする。
准一はヨンシュンの顔を見て、ヨンシュンがリコを訪ねてきた気持ちがなんとなくわかって、自分がここにいるのがお邪魔虫のような気になる。


准:リコさん、もういいですか。
リ:うん、いいわよ。
准:じゃあ、僕はこれで。先に帰ってもいいですよね?
リ:うん。いいわよ、ありがとう。今日はこれで直帰ね?
准:ええ。じゃあ、お先に失礼します。ヨンシュンさん、じゃあ僕はこれで・・・。(会釈する)
ヨ:お疲れ様です。(頭を下げる)


准一が肩を震わせながら、帰っていくと、二人は顔を見合わせて微笑むが、リコはちょっと気恥ずかしくなって、赤い顔になる。
ヨンシュンがやさしく微笑んで、


ヨ:リコさんの仕事を実際に見てみたくて来たんです。ここの内装を仕上げたんですよね。
リ:ええ、そうです。どうぞ、見ていってください。
ヨ:説明してください。(リコの顔をマジマジと見る)
リ:あ、はい。


リコは、ヨンシュンが強い視線で見つめるので緊張して、何度も咳払いをする。
そんなリコがかわいくて、ヨンシュンはまた覗き込むように笑顔で見つめる。


リ:(仕方なく、ヨンシュンの視線を無視して前を見ながら)ここは新築なんですけど、生徒たちが精神的に落ち着いて勉強できるような空間を作ってほしいという依頼でしたので、天井を高くして・・・実はこの床や天井の梁を見てください。
黒光りしているでしょう? 古い洋館の廃材なんです。でもとてもよく使い込んでいて・・・ハリーポッターが出てきそうでしょう? あそこに階段がありますよね? 中2階を作ってみたんです。あの手摺りの足を見て。すごい彫刻でしょう? それにどっしりしていて。
あんな階段にちょっと腰掛けて本を読むってステキでしょう? 高校時代ってちょっと夢があると、楽しくて図書館にも通いたくなると思うの。
全体的にはシックに。でもちゃんと机にはインバーターの目にやさしいライトを使うつもり。
今日はここに入れる、机の大きさの確認に来たんです。図面でわかっていても実際に測ってみないとイメージが違うこともあるんですよ。
ヨ:(全体を見回して)いい空間ですね。温かい感じがします・・・。リコさんの人柄かな。あの階段、座ってみていいですか。


と言って、ヨンシュンが行こうとする。


リ:ヨンシュンさん、待って。そっちはさっき・・・。


慌ててリコが飛んで行き、リコもヨンシュンと二人一緒になって転びそうになり、抱き合う。


リ:・・・さっき、ワックスをかけたばかりなんです・・・。(ヨンシュンに捕まるような、彼を支えているような・・)
ヨ:あ~あ・・・。(リコを抱き留めているような、抱きついているような・・)どうします? 動けないですね・・・。


転ばないように、お互いの体が頼りなので、動けない。


リ:・・・う~ん、ヨンシュンさん、左のほうへちょっと動いて。私は右へ・・・。


ヨンシュンが左へ寄ると、リコも同じ方向に寄って、よりバランスが悪くなり強く抱き合う羽目になる。お互いの顔が近づいて、リコの厚みのある唇がヨンシュンの目の前へ来る。少し半開きのその唇に、ヨンシュンは一瞬、引き付けられて吸い込まれそうになる。


リ:(赤い顔で目をそらしたまま)あ、ごめんなさい。・・・そうか。ヨンシュンさんと私、二人が同じ方向に行けばいいんだわ。お互いに自分に向かって、右に動きましょう。ね!


そう言ってヨンシュンを見上げると、彼の目がリコの口元に釘付けであるのがわかる。リコが咳払いする。ヨンシュンも気がついて、咳払いをし、思わず照れ笑いをして、リコを見る。
二人で同時に体を右へ動かし、二人の体勢を立て直す。お互いの体から離れると、リコが深くため息をつく。あまりにため息が深いので、ヨンシュンが驚く。


ヨ:ケンチャナ?(顔を覗き込む)
リ:え?(息を吐くような声で、ヨンシュンを見上げる)
ヨ:イップダ~。(やさしい声で囁き、笑顔で見つめる)
リ:えっ? なんですか?
ヨ:・・・いえ、なんでもないです・・・。(微笑んでいる)


リコにヨンシュンの感情が流れ込んでくるようで、このなんとも言えない甘い空気に、リコはだんだん息苦しくなってくる。少し状況を変えたくて、


リ:ゆっくり歩いていって階段に座ってみますか?
ヨ:そうですね。


二人はゆっくり歩いて階段に向かい、少し階段を上がって、並んで座る。


ヨ:落ち着きますね。いいですね、ここ。・・・ここは男女共学?
リ:そうです。(少し気持ちが落ち着く)
ヨ:いいな・・・僕もこんな図書館で、恋をしてみたかったです・・・。(リコの横顔をじっと見つめる)
リ:(ちょっと息を吐くような声で)ええ? ヨンシュンさん、ここでは勉強してください。(微笑みかける)
ヨ:ああ・・・そうでした。勉強する空間でしたね。(笑う)・・・リコさんの造る空間は温かいな・・・。うちのショールームやオフィスも期待できそうで、うれしいです。他に完成しているところで、できれば、店舗かショールームを見せてもらえますか?
リ:ええ、いいですよ。今日はこのまま、帰れるので、う~ん・・・そうねえ・・(時計を見て、ふらりと行ける店を考える)銀座の家具屋さんでもいいかしら? 行ってみます? 
ヨ:ええ、連れてってください。(リコをやさしく見つめる)


二人は立ち上がる。ヨンシュンが普通に歩こうとするので、


リ:ヨンシュンさん、気をつけて。
ヨ:あ、そうでした。今日はなんか・・・楽しいですね。(笑う)
リ:ええ? ああ。(さっきのことを思い出して笑ってしまう)


ヨンシュンがリコに手を差し伸べる。ヨンシュンがにこやかにリコを見つめるので、リコは恥ずかしそうにその大きな手に手を乗せる。ヨンシュンがぎゅっと握った。そして、うれしそうにリコを見つめて、二人はそろりそろりとゆっくり出口まで歩いていった。




夕方の銀座を二人が肩を並べて歩いている。プランタンの脇を通って、有楽町から銀座のほうへ歩く。


ヨ:いい香りですね。
リ:えっ? (ヨンシュンの顔を見る)
ヨ:髪の香りがいいです・・・。(横目でちらっと見る)
リ:どうも・・・。
ヨ:実はさっきもそう思ったんですが、あの体勢で言ったらおかしいでしょう。(微笑む)・・・とてもいい香りです・・・。
リ:・・・。(微笑み返す)ああ!ヨンシュンのところも、シャンプーも出してましたよね?
ヨ:ええ、今度使ってみてください・・・香りは負けるかな。(笑う)でも、ナノ化された黄土が入っているので、頭皮の脂もキレイに取れるし、ミネラルたっぷりだから、髪を健やかにしますよ。洗顔ソープやクレイパックも黄土が入っているから、毛穴の汚れをキレイに取り除いて毛穴をきゅっと引き締めるんです。いいですよ。
リ:そうですか。今度、使ってみます!
ヨ:なんか、宣伝しちゃったな。宣伝したくて「いい香り」って言ったわけじゃないんですよ。
リ:(笑って)わかってます・・・でも使ってみます。(笑顔で言う)
ヨ:リコさんは笑顔がステキですね。本当に幸せそうに微笑むんですね。(見つめる)
リ:そう? それはヨンシュンさんのことだと思いますよ、私は。(見つめる)


見つめ合って、二人ともすっかり目的を忘れて歩いている。
家具屋の通りをずいぶん前に通り過ぎている。リコがはっと気がついて、周りを見て慌てる。


リ:やだ。もっと手前の通りを曲がるんだったのに・・・私ったら・・・。こっちです。(彼に見とれててバカみたい・・・)ヨンシュンさん? こっち。(ヨンシュンのジャケットの肘を引っ張る)



ヨンシュンも、ボーっとリコを見とれていて、「あ~あ」と引っ張られて歩く。

二人は、通りを正しく曲がって、また笑って見つめ合い、家具屋の前を通り過ぎていった。



続く・・・・


2009/06/08 01:09
テーマ:【創】恋のタイトルマッチ カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋のタイトルマッチ」10(最終回)



 
↑BGMはクリックして^^

恋のタイトルマッチ主題歌「結婚して^^」(キョルレジュゲンニ)
歌/チョ・ソンモ













ブログでも
BYJシアターにおつきあい頂いた皆様、
ありがとうございます^^

ブログでこんなに長いって・・・vv
のところ、とうとう最終回までやってきました^^

これは、4年前に書いたのですが、
今でもこの二人は私の中で生活し続けていて、
まるで、彼らの過去を見ている気分なんです^^


どうぞ、最終回、最後までお付き合いください!



第19話・最終話&エピローグです。




隣のヨンシュンさん(ペ・ヨンシュン)・・・・ ぺ・ヨンジュン (32歳)
相棒のタクヤ(木島拓哉) ・・・・・・・・・ 木村拓哉  (32歳)
私・通称リコ(牧村キリコ)・・・・・・・・・  小雪     (28歳)

ハン・レナ(ヨンシュンの婚約者)&
パク・テヒ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  キム・テヒ  (27歳)

ソナ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  ユンソナ

岡本准一(リコの後輩)・・・・・・・・・・・  岡田准一



京香先輩(佐藤京香)・・・・・・・・・・・・  鈴木京香

アニキ(牧村桔平)・・・・・・・・・・・・・・・  椎名桔平


(特別出演)
牧村徳道(リコの父親)・・・・・・・・・・・  原田芳雄
レナのパパ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  ホテリアのボンマン社長



ではここより本編。
お楽しみください!








恋のタイトルマッチ。
それはたくさんの相手に勝つことではない。

これぞ!と見込んだ相手、好きになった相手と結ばれる。
それが勝利者という称号を手にすることだ。
負けない!
誰に?

自分の弱虫に!


そして、大好きなあなたと結ばれるまで
私は、

頑張る!







【恋のタイトルマッチ】

主演:ぺ・ヨンジュン
   小雪
   木村 拓哉






【主題歌】「逢いたくて」

♪♪~~
逢いたくて逢いたくて
今日もあなたに逢いたくて

逢いたくて逢いたくて
あなたにあなたに逢いたくて


いつか巡り会うはずだけど
あなたがいないと寂しくて
今日もあなたに逢いたくて


地下鉄のホームで
駅の階段で
会社のエレベーターで
街のコンビニで


いつか巡り会う約束を
きっと二人はしているはずね
もっともっと待つの? 逢いたくて


道ですれ違っても
すぐに私だとわかってほしい
あなたの好きな香りをつける
すぐに気がついてほしいから


街角の花屋で
公園のベンチで
劇場の入り口で
会議室の隣の席で


きっとあなたは探してるわね
あなただって会いたいはずよ
今日もあなたに逢いたくて


この気持ちは出会うまで
いつまでも続いていくのかしら
逢いたくて逢いたくて

あなたにとっても逢いたくて
私の大切な人だから
今日もあなたに逢いたくて
♪♪~~







「第19話 真実の愛を掴んで」


タクヤはレナの家のリビングに座り、レナの父と母が来るのを待っている。
いったんは拒否されたレナとの結婚であったが、レナのためにはやはり、ここはちゃんと許しを請いたい。

レナに頼まれ、父親と母親が出てきた。苦々しい顔をしている。タクヤがソファから立ち上がり、お辞儀をした。


レ:(韓)お父様、お母様。タクヤさんとちゃんと話をしてほしいの。
母:(韓)もうあなたのことでは、ものすごく恥をかかされたわ。こんな、どこの馬の骨かわからないような人と一緒になりたいなんて・・・。(なんてことなの!)それも傷物にされて・・・。(どうするの!)何もヨンシュンさんを振ってまで手に入れるような人じゃないでしょ?(目が覚めないの?)
レ:(韓)お母様には人を愛する気持ちがわからないの? ヨンシュンさんではだめなの・・・。彼だって私ではだめ・・・。だって、二人とも心を一つにすることができないんですもの! (両親の顔をマジマジと見る)

父:(韓)この男ならいいのか? こんな男がいいのか? こんな優男が!(吐き捨てるように言う)
レ:(韓)ええ、最高なの! 彼がいいの! 彼でなくちゃだめなの! 私たち、とっても感性が似てるの。ぴったりなの! そんな人に出会えたって最高のことでしょ?

父:(韓)レナ、よく考えなさい。今は熱くなっているだけだよ。
レ:(韓)・・・お父様。私がただ、有頂天になってるだけだと思っているの? こんなにお願いしてもだめなの? 政略結婚に使えなくて、残念なの?
父:レナ!

レ:(日)タクヤさん、この人たち、だめよ。私達の気持ちが理解できないの・・・。私がやっと愛に目覚めたというのに・・・。やっと自分というものがわかったのに・・・。まったく理解してくれないの。
タ:(日)レナ、もう一度話をさせてくれよ。決裂したままじゃまずいよ・・・。
父:(日)その必要はありません!



父親が初めて日本語を口にした。今までレナの通訳でしか話していなかった人が実にキレイな日本語で話をした。


(ここからすべて日本語)
タ:日本語がおできになるんですね・・・。なら、もっとちゃんと話し合いましょう。じゃないと、レナさんがかわいそうです。お願いします。(頭を下げる)
父:もう話すことはありません。うちとあなたとでは違いすぎます。

タ:何がですか?
父:(苦々しい顔になる)もうお引取りください。
タ:(きっぱりと)だめです。レナさんとの結婚を許していただくまでは。ここを離れるわけにはいきません。
レ:(タクヤの横に並ぶ)お父様、お母様。お願いします!
父:(レナを見て、憎々しく)そんなに・・・。(イライラする)やはり、おまえは・・・勘当だ! ここから出ていきなさい!
レ:・・・。(悔しさで涙がこみ上げる)



タクヤがレナを見つめる。そして、決意する。



タ:お父さん。僕は今、心を決めました。本当にレナさんはもうこの家にいらないんですね?
父:・・・(困るが)ああ。

タ:なら、僕がいただきます。ただ、ちゃんと縁を切ってください。もうそちらが手出しできないように。半端じゃなく手を切ってください。
父:何を言うんだ。
タ:お宅でいらないなら、僕が一生面倒を見ます。僕がもらっています。
父:この子には、びた一文もやらんぞ!(怒る)

レ:お父様、そんな言い方って失礼よ!(ひどい!)

タ:お金なんかつけていただかなくて結構です。僕のお金で十分に食べていけます。子供の教育もできるでしょう。ですから、安心して、縁を切ってください。
父:う~ん・・・。

母:(韓)あなた、なんか言ってちょうだい! どうしたの!
タ:ただ、レナさんだけをいただければいいんです・・・。
父:レナ、おまえもそれでいいのか?
母:(韓)あなた!
レ:いいです! お父様、タクヤさんは才能のある人です。私はそれを信じて、彼を愛して、彼についていきます。
父:では差し上げます・・・。どうぞ、持ち帰ってくれ! レナ、おまえとは縁を切る・・・。
レ:・・・。

タ:お父さん、その言葉だけでは信じられません。確約してください。はっきり、きっぱりと縁を切るという。
父:くどいやつだな・・・。どうしたいんだ。念書でも書かせるつもりか?
母:(韓)もう、あなたったら! レナを取り戻してくださいよ!
父:(韓)おまえは黙ってなさい!

タ:やってほしいことは一つだけです・・・。あさってのヨンシュンと予定していた教会の挙式を僕に譲ってくれればいいんです。そして、結婚許可をください。・・・その代わり、あなたと縁を切って差し上げます。

父:何を!(ぐうの音も出ない!)







ペ家のリビング。


ヨンシュンの母の妹であるミスクが入ってくる。

(全て韓国語)
ミ:お姉ちゃま? レナちゃんてヨンシュンちゃんと婚前旅行じゃなかったんですって! 大胆ねえ。(感心する)
姉:まったく! どうなっているのかしら!(もう!)
ミ:お姉ちゃまのお気に入りのお嫁さんだったのにね。(皮肉って笑う)
姉:笑い事じゃないわ・・・ああ、ヨンシュン・・・。(ため息をつく)
ミ:でもいいじゃない? こっちから断ったら角が立ったけど、あっちからならラッキーじゃないの?
姉:でもヨンシュンがかわいそう・・・。
ミ:そうかしら? 愛のない結婚はやめたほうがいいわ。ほら、ヨンシュンちゃんには、あのプルプル唇の日本人のお嬢ちゃんがいたじゃない。美人のデザイナー。あの人、ステキだったじゃない?
姉:(苦々しく妹の顔を見て横を向く)・・・。





ミスクの脳裏に若い頃のヨンシュンの父の面影が浮かぶ。
四星物産の廊下で、同じ職場の後輩であるミスクに、

ペ:ミスクさん、今度一緒に食事しませんか・・・。(恥ずかしそうに言う)
ミ:ええ、ヨンソンさん。喜んで・・・。(うれしそうに応える)

若い二人が見つめ合う。






ミ:やっぱり、好きな人と結婚すべきよ。(きっぱりと言う)
姉:もう、あなたは暢気でいいわね。子供がいない人にはわからないのよ。
ミ:あら! 失礼ね! ヨンシュンちゃんは、私の子供みたいなものよ。こんなにかわいがってきたんですもの。(失礼しちゃうわ!)


姉:ミスクちゃん・・・。(困った顔で)実は・・・ヨンシュンがね、明後日、挨拶に来るっていうのよ。あのデザイナーの子と・・・。
ミ:やっぱり!(そうだったのね!)
姉:まったく! 親の知らないところで、皆勝手なことをして・・・。
ミ:でもいい子だったじゃない? すごく美人だったし、感じもよかったし、頭もよさそうだったし・・・。お姉ちゃま、あの子の履歴書だってもう手に入れたんでしょ?
姉:まあね・・・。
ミ:別に問題ないんでしょ?
姉:まあね・・・。
ミ:ならいいじゃない? 韓国でも見つからなそうな子じゃない? 

姉:でも、普通のお寺の子よ。まあ、大きなお寺だけど・・・。(それほど嫌そうでもない)
ミ:まあ、硬い家の子でよかったじゃない?
姉:でもね・・・外人よ。
ミ:お姉ちゃまったら。(ちょっと笑うが、真面目に)ヨンシュンちゃんは頭もいいし、見た目もカッコいいし、やさしくていい子だし。仕事だって、頑張るし。他に何が必要なの? 別にお嫁さんで箔をつける必要なんてないじゃない? 自分で十分できる子だし。できる環境なんだから! そんなのに手伝ってもらう必要なんてないわ。私はあの子が政略結婚に使われるのが一番イヤ。かわいそうよ。すごくいい子なのに・・・。

姉:でもなんかいや・・・。

ミ:なにしろ・・・ヨンシュンちゃんが愛してるのが一番よ。(姉にやさしく言う)
姉:愛しているね・・・。

ミ:・・・なあに?
姉:やだわ、愛してるなんて・・・。

ミ:・・・。お姉ちゃま、何言ってるの? やだ、何考えてるの? 親はいずれ子離れしなくちゃならないのよ。・・・レナちゃんなら本気で愛さないと思った?
姉:(そっと妹の顔を見る)・・・。
ミ:バカね、お姉ちゃま。(呆れる)・・・気がつかなかったの? ヨンシュンちゃん、あれでもレナちゃんを一生懸命愛そうと努力してたのよ。そんな努力させておいて・・・ひどい母親ね。(じっと見つめる)
姉:(下を向く)・・・。
ミ:お姉ちゃま。ヨンシュンちゃんが愛してることが一番よ。幸せにしてあげて・・・。お姉ちゃまのことを捨てたりしないわ・・・。(やさしく言う)
姉:(ミスクを見る)・・・そうかしら?

ミ:ヨンシュンちゃんはやさしいもの・・・。でもあまり意地悪すると、ホントに嫌われるわよ。
姉:うん・・・。(がっくりする)
ミ:(姉がかわいそうになる)お姉ちゃま、いいこと考えた。こんな条件をつけてみたらどうかしら?
姉:なあに?






その日の夜。
ヨンシュンの携帯が鳴った。

(韓国語)
ヨ:あ、ミスク叔母さん。すみません、急ぎでたいへんなこと頼んじゃってて。
ミ:仕上がって、できてきたわよ。すごくステキ・・・。ちょっとサイズが心配なんだけど、あの数字でよかったのよね?
ヨ:ええ、たぶん。叔母さんに聞いた通りに採寸しましたから。
ミ:誰が?
ヨ:僕が。
ミ:ヨンシュンちゃんが? そう・・・大丈夫かしら。ソナさんとかいなかったの?
ヨ:だって、ソナさんより彼女のほうがデカイから僕じゃないと正確には測れなくて。
ミ:そっか。まあ、いいわ。すごくステキ。でもそれだけのお値段よ・・・。いいんでしょ?
ヨ:いいですよ。いくらでも出しますよ。(笑う)100万ウォンはいかないでしょう?(暢気に言う)
ミ:・・・やだ。そんなに安く見積もってたの・・・。(何にも知らないのね・・・)

ヨ:え~え? そんなに高いんですか?(愕然!)
ミ:もちろん! ピンクベージュの絽のチマチョゴリだもの、高いわよ。

ヨ:・・・そんなに凝ったものにしたの?・・・ただキレイなのって言ったのに・・・。(一回しか使わないのに!)
ミ:だから、キレイなのよ!・・・ねえ、これでお姉ちゃま達が陥落したら、例のもの、ちょうだいね。
ヨ:ええ。いいですよ。
ミ:どっちがいいかな?
ヨ:叔母さん、僕はもう韓国では車に乗る機会がないと思うので、どちらでも好きなほうをどうぞ。
ミ:ヨンシュンちゃん、それは甘いわ! きっとこれから・・・使うと思うわよ。
ヨ:え?
ミ:ま、いいわ。こっちについたら電話して。ソウルホテルの貴賓室、取っておいたわ。ホテルの美容室に着付けも頼んでおいたから。ちゃんとしっかりやるのよ!
ヨ:はい! でも、叔母さん、随分高いものばかり、選びましたね・・・。(ふ~!)
ミ:そりゃあ、ここが決め手ですもの!
ヨ:・・・わかりました。よろしくお願いします。
ミ:じゃあね。・・あ、ヨンシュンちゃん、ちゃんとお辞儀の練習してね。教えてあげるのよ。
ヨ:はい。じゃあ・・・。(切ろうとする)
ミ:ヨンシュンちゃん・・・私のかわいい甥だもん・・・今回のは、叔母ちゃんがおごってあげる。だから、しっかりやって、好きな人と結婚するのよ。
ヨ:!!・・・ありがとう、叔母さん!(うれしさで胸が熱くなる)







2日後のソウル。
タクヤとレナの結婚式が午後から行われる日の朝。
ヨンシュンとリコには一番難関である両親への挨拶があった。


午前10時。ソウルホテルの貴賓室。
ヨンシュンとリコがイスに座っている。



リ:ドキドキしちゃうわ。ちゃんとできるかな。
ヨ:大丈夫だよ。あんなに練習したんだからうまくいくよ。(美しいリコを見つめる)


リコがため息をついて立ち上がり、テラスへのガラス戸の前に立って外を見る。


ヨ:リコ。ちょっと、こっちを向いて。
リ:なあに?

ピンクベージュの絽のチマチョゴリを着たリコが振り返った。その立ち姿の美しさにヨンシュンが見とれる。
リコの隣へ歩いていく。
ヨンシュンは、ダークなスーツで正装している。



ヨ:リコ。イスに座るより、ここに立って両親を出迎えよう。外の緑に映えて、リコがすごくキレイに見えるから。
リ:ヨンシュン・・・。(見つめる)
ヨ:・・・こんなにキレイな人、見たことないよ・・・。(じいっと愛しそうに見つめる)
リ:・・・。
ヨ:・・・いますぐ抱きしめたいくらい・・・。キスしたいくらい。(茶目っ気たっぷりに言う)
リ:・・・して・・・。(微笑む)


ヨンシュンがリコの服を気遣って、首だけ伸ばして軽くキスをする。


リ:それだけ?(物足りなそうに言う)
ヨ:だって、抱けないよ。せっかくチマチョゴリがふっくら膨らんでるんだもん。触れないよ。
リ:キスもそれだけ?
ヨ:化粧が取れるといけない・・・。(リコの口紅を確認する)
リ:・・・。(笑う)
ヨ:なあに?(笑う)
リ:もっと、してよ。
ヨ:・・・後でね。タクヤさんたちの結婚式の後でね・・・ゆっくりとね。
リ:・・・。(見つめてる)
ヨ:いいだろ?(笑顔でやさしく言う)
リ:・・・うん・・・。

ヨ:じゃあ、ご褒美はこれを成功させたらね・・・。(顔を外に向けて、ちょっと横目で言う)
リ:・・・やだ・・・。
ヨ:どうしたの?(顔を覗く)
リ:やだ、私がねだったみたい・・・やだ・・もう・・・。(う~ん、負けた!)
ヨ:・・・。(笑ってリコを見つめている)




ドアが開く。




ホ:お連れ様がロビーに到着しました。
ヨ:わかりました。


リコはヨンシュンのネクタイをちょっと直し、髪を撫でる。
ヨンシュンがリコを見て横の髪をちょっと撫で付けてあげる。
二人はドアに向かって、キチンと並んで立った。


ドアが開いた。
ヨンシュンの父と母が入ってきた。


ふたりは一瞬、驚く。あまりにヨンシュンとリコの立ち姿がキレイだったから。
バックの緑に映えて、まるで対の人形みたいに二人はお似合いだった。




ヨ:(韓)父さん、母さん。お待ちしていました。(リコと一緒に前へ歩み出て両親の前に立つ)こちらが牧村キリコさんです。僕の愛している人です。



リコは頭を下げてから、韓国式にキチンと座ってお辞儀をした。これにはヨンシュンの両親は驚く。
父は用意してきた言葉を失う。



父:まあ、二人とも座りなさい。


ヨンシュンたちと向かい合って、応接セットに座る。ヨンシュンの母が父を見る。


(韓国語)
父:う~ん、ヨンシュンはこの牧村さんと結婚したいと言うのか。
ヨ:はい。
父:まだ、知り合って間もないじゃないか。
ヨ:父さん、時間じゃないですよ。恋に落ちるのに時間は関係ないです。
父:(日)牧村さん・・・。
ヨ:父さん、リコさんです。
父:(日)リコさん、あなたは今、美しいチマチョゴリを着ているが、本気でこの国の人間になるつもりですか?
リ:(日)・・・はい。ヨンシュンさんのいる所が私の居場所なので、彼の行くところについて行きます。
父:うむ。



父親から見てもリコに落ち度は考えられない。美人で賢くて人柄もよさそうだ。それに息子が愛している。息子との相性もよさそうだ・・・。
二人はまるでお互いのために創られたように見えるほど、似合っている。
ただ一点。同国人ではないということだけ。
母親を見る。困っているようだ。



(韓国語)
父:ママさん、あなたの意見は?
母:そうね・・・。(夫を見るとリコを気に入っているようだ)
父:よさそうな人じゃないか・・・。もうヨンシュンの好きな人と結婚させたら? ママさん?
母:ヨンシュン。結婚したらどこに住むの?
ヨ:東京です。これからスキンケアシリーズを発売していきますし。しばらくはこの仕事から目が離せませんから。
母:わかったわ。パパさん、ヨンシュンの仕事が軌道に乗ったらこっちへ呼び戻して。
ヨ:母さん!
母:(日)ヨンシュン、リコさん。私の条件は、ヨンシュン、あなたがうちの会社を継ぐこと。わかったわね。だから、日本の仕事にメドがついたら、戻っていらっしゃい。これが条件です。
ヨ:・・・。(リコを見る)


リコがヨンシュンを見て「うん」と頷いた。ヨンシュンはしばらく考えるが、


(韓国語)
母:この条件を飲まないなら、この結婚は認めません。
ヨ:わかった・・・いいよ・・・。軌道に乗ったら戻ります。
母:ではいいわね。これでいい? パパさん。
父:・・・そうだな・・・・。
ヨ:(両親の顔を見つめる)許してくれたんですか?
父:うん・・・。(頷く)
ヨ:ありがとうございます。父さん、母さん、僕は、リコのことを自分の全てを賭けて守ると、あちらのお父さんに約束しました。リコも、言葉も風習もちゃんと勉強して、ここの国で恥ずかしくないように頑張ると言っています。・・・だから、父さんも母さんもリコを大切にしてください。
母:ヨンシュン!
ヨ:母さん。リコはすごくやさしい人だよ。頑張りやだし。きっと母さんにもやさしくしてくれるよ。だから、心配しないで。父さん、仕事はキチンとやっていくので、安心してください。
父:わかってるよ。私は、おまえをいつでも信じているから。おまえを疑ったことなどないよ。
ヨ:ありがとう、父さん。(胸がいっぱいにある)



リコとヨンシュンの結婚の許しはもらえた。

二人は両親に挨拶して、部屋を出て行く。
これから、タクヤとレナの挙式に向かうのだ。


エレベーターが来て二人は乗り込む。そして、うれしさと今日の日の感動でお互いを抱きあう。
お互いの顔を撫でて、やさしく見つめ合い、キスをした。


1階のロビーに着き、エレベーターのドアが開く。たくさんの客が乗り込もうとするが、正装した大柄の美しい男女が抱きあって、キスをしているので、皆が見とれて、誰も乗り込めない・・・。

そしてドアが閉まり、エレベーターはまた、上の階へと昇っていった・・・。









「最終話 恋するが勝ち」




2ヵ月後。
ソウルの教会の小さな控え室。
リコと父が向かい合って座っている。父は少しウェーブの効いた髪をして、今日は花嫁の父としてモーニングを着て、いつになく畏まっている。


リ:お父さん、ステキよ。お父さんのそういう姿、カッコいいわ。(笑って)まるで新郎みたいよ。
父:そうか。意外に我ながら、いい男だと思うよ。(笑う)



父が感慨深げにリコを見る。
リコは肩が少しドロップぎみでいて、肩から胸にかけてオーガンジーでやさしくデコルテを囲ったデザインの、全体的にはシンプルでいて、上品なウェディングドレスを着ている。髪をアップにして、今はベールを上げた状態で父と話をしている。


父:キレイだ・・・すごくステキだよ。おまえよりキレイな女といったら、亡くなった母さんぐらいしか思い当たらないな。
リ:お父さん、今日は、本当に来てくれてありがとう。こんな遠くで、それも教会なんて呆れたでしょう?

父:いや・・・。いい人と出会えてよかったな。昨日、ゆっくり彼と飲みながら話せてよかったよ。父さんも彼を好きになったよ。しっかりやるんだよ。
リ:うん・・・ありがとう、お父さん・・・。

父:しかし、さすがオレと母さんの娘だな。・・・ホントにすごくキレイだ。(惚れ惚れする)中学時代のおまえを思うと・・・。こんなにスッキリしちゃって・・・女相撲なんて、あの頃は言ってたな。(笑う)悪かったな。あのおまえの中に今のおまえがいたんだ・・・。

リ:お父さん! あの頃のことは忘れて! もうそんなこと、言わないで・・・。

父:そうだな・・・。しかし、おまえが今まで謙虚な気持ちでいられたのも、あの太っちょの時代があったからだぞ。あんなステキな人に巡り会えたんだ。もうそのことは口に出すのはやめよう。あのハンサムな新郎に嫌われたらいかん。

リ:(ヨンシュンのことを思い出して笑いそうになる)そうよ。内緒よ。(父を強い視線で見つめる)
父:ああ、花嫁の父か・・・。教会でこんな役をやるとは思ってなかったよ(笑う)・・・でもまあ、いいさ。バージンロードをおまえと歩くのもいい。いい思い出になる・・・。何事も経験だよ。
リ:うん。



ドアが開いて、桔平が覗く。



桔:父さん、行徳叔父さんと叔母さんがお見えになったよ。(そう言って忙しそうに去っていく)
父:そうか。じゃあ、挨拶してくるか。(立ち上がる)ここまで来てくれたんだからな。ありがたいよ。
リ:そうね。叔父さんたちによろしく言ってね。式が終ったら挨拶に行くからって。
父:わかった。じゃあ後でな。花嫁さん!
リ:うん。





教会の中へ京香と准一が入ってくる。
二人ともどこへ行ったらいいか、わからない。


京:リコに挨拶したんだけど。控え室ってどこかしら。まったくわからないわね。
准:ハングルが読めないと、トイレと控え室の違いもわかんないですよね。
京:バカね。(笑って准一を見る)


そこへ正装したテヒが通りかかる。


准:すみません。日本語、わかりますか?
テ:ええ。
准:花嫁の控え室へ行きたいんですけど。
テ:ああ、それなら、ここをまっすぐ行った突き当りです。
京:ありがとう。じゃあ、准一。また後でね。私、挨拶してくるわ。(准一たちに軽く手を振って、控え室の方へ歩いていく)
准:(京香に軽く手を振る)じゃあ。(テヒを見て)ありがとうございました。

テ:リコさんの会社の方?
准:そうです。後輩なんです。さっきのが先輩。
テ:そうなの? じゃあ、同じ内装のデザイナー?
准:ええ。というより、うちは皆一級建築士で、建物の設計もするんですよ。
テ:そうなの!(准一の顔を見てひらめく)ふ~ん、そうなんだ。あなたって、ハンサムね。(准一を見入る)
准:えっ?(驚く)まあ・・・あなたも。・・・あなたは・・・?

テ:テヒよ。レナの従姉妹なの。
准:ああ、タクヤさんの・・・。
テ:ねえ、まだ時間があるわ。お話を聞かせて。(ぐいっと准一の腕を掴む)うちのパパって不動産業をやってて、韓国だけじゃなくて、ニューヨークとか東京なんかにも・・・・。


テヒが准一の腕を掴んで、腕を組み、准一を引っ張るように、教会のテラスのほうへ話しながら歩いていく。准一はドギマギしながらも美人のテヒに見とれて、テヒの話に引き込まれていく。





京香がリコの控え室のほうへ、いつものように、カツカツとヒールの音を響かせて威勢良く歩いていく。控え室からリコの父親が出てくる。二人は一瞬見つめ合う。それからまた、すれ違い様にゆっくり見つめ合う。そして少し行き過ぎてまた、二人は、振り返ってお互いをじっと見つめた。

リコの控え室のドアが開いて、京香が入ってくる。」


リ:先輩!(うれしそうに言う)
京:わあ、キレイ! すごいじゃない! こんなキレイな花嫁って久々・・・いや、初めてだわ。(笑う)よかったわね・・・。リコもとうとう捕まっちゃったんだ。
リ:先輩ったら・・・。(笑う)
京:そうじゃないわね。捕まえたのよね!(リコを睨んで微笑む)エライわ、あんた。
リ:ありがとうございます。
京:幸せになりなさい!(気合を入れる)
リ:はい!

京:・・・ねえ、今出ていった人、お父様?
リ:そうよ。

京:ふ~ん。お坊さんっていうから、もっと生臭坊主かと思ったら、ダンデイね・・・。髪が長いのね。
リ:うん、剃らなくてもいい宗派なの。
京:そう・・・お父様、モテたでしょ?(リコの顔を覗き込む)

リ:(笑う)そうね。母が生きてた頃はちょっとあったみたいだけど。
京:だろうな・・・。やっぱ、リコと桔平のお父さんだけあって、只者じゃないわ。ステキ・・・。よし、がんばろ!
リ:えっ、何を?


京香がリコをキッと睨みつける。そして、笑って言った。


京:何を? 決まってるじゃない! もちろん、恋よ!





教会の前。
タキシードのヨンシュンとウェディングドレスのリコが白いスポーツカーに乗り込む。
皆の前で、ヨンシュンがリコをキュッと引き寄せ、軽くキスをした。見送りの皆が歓声を上げる。
花吹雪の中、ヨンシュンがアクセルを踏むと、ぶら下った缶からがカラカラと音を立てていく。
「JUST MARRIED」のプラカードを後ろに張って、二人の車が教会から走り去っていく。


車には、幸せに笑い合う、笑顔の二人がいた。










【エピローグ】


3年後。

ニューヨークの街を白いリムジンが行く。
後部座席で、青年実業家になった准一がサングラスを外す。


准:今のところもいいね。なかなか建物がしっかりしてたよ。
テ:そうお? でもこれから行くところのビルも結構いいわよ。


隣の席に、超ミニスカートをかっこよくはきこなし、足を組んだテヒがいる。
二人とも、どこか、あくの強さを感じさせるが、その迫力に若さが漲っている。
二人で地図を見ながら、ニューヨークの物件を探索している。





東京都内の高級住宅地。
ゴールデンレトリバーを連れて、ちょっとウェスタン調ではあるが、こざっぱりした服装のタクヤが通りに出てくる。


タ:レナ、行くよ~!
レ:待って。今、行く~!


後ろから、レナが走ってくる。
テヒにそっくりだが、愛らしい表情で、そのスレンダーな容姿は人目を奪いそうなほど、輝いている。
レナがタクヤの腕にしがみつく。

幸せそうに、美しい二人がのんびりと楽しげに、犬の散歩に出かける。





日差しが入った明るい、代官山のおしゃれなコーヒーショップ。

カウンターの中にいるソナは少しグレードアップした高級なニオイのする女だ。
差し伸べた手をカウンターに座った桔平がやさしく撫でながら、冗談を言って、二人で笑っている。








ソウルの自宅の近くを散歩するヨンシュンとリコ。
緑の多い公園。
リコは大きなお腹を抱え、フーフーいいながら、お腹を擦って歩いている。


リ:もう産道が8cmまで開いているっていうのに、この子ったら、お腹の中でよく頑張っているわ。
ヨ:でも、もうすぐだよ。少し歩けば下へ下りてきてくれるよ。(リコのお腹を見る。)
リ:そうね。(笑う)早く出ておいで。(お腹に話しかける)
ヨ:ねえ、このベンチで一休みしようか。
リ:うん。よいしょ。(座る)


ヨンシュンが押していたバギーを止めて、子供の顔が見えるように向きを変える。そして前に座り込んで子供の顔を覗く。


ヨ:おまえたちももうすぐ、お兄ちゃんとお姉ちゃんでしゅよ~。


双子の二人の手を取る。


ヨ:ヨンジュン、リリカ、もうすぐ、赤ちゃんが来ましゅよ~。


1歳半になる二人の子供はパパに手を握ってもらって笑う。
リコがベンチに腰かけて、にこやかにその様子を見ている。


ヨ:うちの子らしく、ふっくらちゃんでしゅね~。(リコを見て)お腹の子も大きいからな。4000gだと生むのに時間がかかりそうだね・・・。(ちょっと心配そうにリコを見る)

リ:大丈夫よ。3人目だもん。・・・でも、このあとはしばらく、お休みするわ。

ヨ:そうお? (ちょっと残念)そうだな・・・。この子たちも手がかかるし。仕事もあるしな。(子供たちを見て)ママがまたいいよって言ったら、また妹や弟を作ってやるぞ。

リ:パパったら・・・。(笑う)しばらくはちょっと二人の時間が取れるように、お休み・・・。


ヨンシュンが立って、リコの隣へ行き、座って肩を抱く。


ヨ:そうだね・・・。でも母さんやミスク叔母さんが育児に夢中でよかったよ。本当に助かるよね。
リ:・・でも、とっても甘やかすのよ。この間だって・・・。
ヨ:リコ。・・・僕たち、今、幸せだよね?
リ:うん。・・・とっても! ヨンシュン・・・。(顔を見つめる)


笑顔のリコをちょっと見つめて、ヨンシュンが軽くキスする。と同時に、リコが急に顔をしかめる。


リ:来た! パパ、たいへん! 陣痛がきた。ちょっと・・・。(ヨンシュンに捕まる)
ヨ:・・・落ち着いたら歩けそう? 今のうちに帰ろう。大丈夫?
リ:ああ・・・ちょっと・・やだ、本格的! もう動けない!(首を横に振る)

ヨ:ええ~! 車を呼ぶよ。(携帯を取り出す)
リ:パパ! 救急車にして!(顔をしかめる)
ヨ:えっ! もう、そ、そ、そんななの?(慌てる)
リ:う~ん・・・パパ、救急車。(ヨンシュンを見つめる)ヨンシュン、早く!



ヨンシュンが慌てて携帯で救急車を呼んでいる。リコは苦しそうに前屈みになっている。
親のパニックなど気にせず、子供たちはお互いの髪を引っ張り合い、ケンカを始めている。泣き出すヨンジュン。


ヨ:ヨンジュン! 泣くのはやめなさい。リリカ! ヨンジュンの髪を引っ張るんじゃありません!(子供たちの仲裁をする)

リ:パパ! もうだめ!(ヨンシュンの腕を掴む)・・・生みたくなっちゃった!

ヨ:ちょっと待ってよ。ここじゃだめだよ。ママ? ママ? リコ! リコ! しっかり! リコ!



うっそうとした緑の公園のベンチで、救急車を待ちながら、ヨンシュンがリコの腰を擦っている。
遠くから救急車のサイレンが聞こえてくる。

やがて、彼らの姿は、晴れた日の景色の一部になっていく・・・。








京香の携帯が鳴る。

徳:もしも~し、お京さん? 
京:どう? 終わったの?(デスクで書類を見ながら)
徳:ああ、今終わった。これから着替えて、1時間で着くかな。お京さんは?(お寺の柱にかかった小さな鏡で髪を直しながら)
京:私も出られそうよ。じゃあ、1時間後。・・・今日の徳ちゃんは、お香のニオイ、たっぷりって感じかしら。(笑う)気をつけてね。安全運転よ!
徳:OK!(玄関から「住職さん、お世話になりました~」の声が聞こえる。玄関に向けて)あ、どうも。ではお気をつけて。また13回忌に。(京香に戻って)じゃあまた、あとでね。・・愛してるよ!



京香がデスクのPCの電源を落とす。



しゃれた服装に着替えた徳道が、お寺の駐車場にやってくる。離れたところから車のキーを、「ピコッ!」と開ける。
そして、黒のフェラーリに乗り込む。


京香が帰り支度をして、イスから立ち上がる。


京:よし、今日もがんばろ!

近くの若い女性スタッフが京香を見上げて言う。

社:先輩! 何を?



京香が不敵な笑みを浮かべて、ニンマリと笑った。


京:もちろん! 恋をよ!







恋のタイトルマッチ。
それはたくさんの相手に勝つことではない。

これぞ!と見込んだ相手、好きになった相手と結ばれる。
それがタイトルという称号を手にすることだ。
負けない!
誰に?

弱虫の自分に!


そして、大好きなあなたと結ばれるまで
私は、

頑張る!









THE HAPPY END!







お付き合いくださって、ありがとう^^



2009/06/04 18:37
テーマ:【創】恋のタイトルマッチ カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋のタイトルマッチ」9



 
↑BGMはクリックして^^

恋のタイトルマッチ主題歌「結婚して^^」(キョルレジュゲンニ)
歌/チョ・ソンモ









BYJシアターです。




本日は17・18話です。


隣のヨンシュンさん(ペ・ヨンシュン)・・・・ ぺ・ヨンジュン (32歳)
相棒のタクヤ(木島拓哉) ・・・・・・・・・ 木村拓哉  (32歳)
私・通称リコ(牧村キリコ)・・・・・・・・・  小雪     (28歳)

ハン・レナ(ヨンシュンの婚約者)・・・・・・  キム・テヒ  (27歳)

ソナ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  ユンソナ

アニキ(牧村桔平)・・・・・・・・・・・・・  椎名桔平


(特別出演)
牧村徳道(リコの父親)・・・・・・・・・・  原田芳雄



ではここより本編。
お楽しみください!








恋のタイトルマッチ。
それはたくさんの相手に勝つことではない。

これぞ!と見込んだ相手、好きになった相手と結ばれる。
それが勝利者という称号を手にすることだ。
負けない!
誰に?

自分の弱虫に!


そして、大好きなあなたと結ばれるまで
私は、

頑張る!







【恋のタイトルマッチ】

主演:ぺ・ヨンジュン
   小雪
   木村 拓哉









「第17話 あなたのもとへ」


家を勘当されたレナを連れて、タクヤがこの家に明日帰ってくると言う。


リ:どうしよう! この部屋をなんとかって言ったって・・・。時間がないもん。(周りを見渡す)いいや。女モノの目立つものだけ、撤去する! まったく、もう!



リコがリビングやダイニングなど、二人で使っていた部分の荷物を整理する。
そして、リコの部屋へ行き、洋服ダンスとチェストを開く。


リ:ええ~と、着替えは何日分、持っていけばいいのかなあ・・・。ふ~。(独り言を言う)


リコがベッドに座り込んで服を選んでいる。

ヨンシュンが部屋の入り口でその様子を静かに見ている。


ヨ:ねえ、リコ。戻ってくるつもり?
リ:え? だって、ここは私の・・・。
ヨ:もう、タクヤさんと暮らす必要はないじゃない?
リ:・・・。


リコがヨンシュンを見上げた。


確かにそうだ。もう、タクヤとは暮らす必要はない。
いや、もうお互い、暮らせない・・・。


リ:・・・。
ヨ:もうここは明け渡していいんじゃない?
リ:・・・。


何も言わず、リコは立ち上がって、リビングに出て、部屋の中を見渡す。


リ:ホントね・・・。もうすっかり状況が変わっちゃったのね。隣にヨンシュンが引っ越してきて・・・。「隣のヨンシュンさん」のせいで、生活がすっかり変わっちゃった。(ソファを撫でる)うん・・・タクヤが帰ってきたら、私はこの部屋にはいられないもんね。もう、ヨンシュンの所しか、行くとこがないんだわ。(しんみりと言う)



ヨンシュンがリコを見つめる。
リコがくすっと笑った。


ヨ:(急に笑ったので)どうしたの?

リ:今ね。こんな言葉を思い出したの。「女、三界に家なし」って。子供の時は親元に、結婚したら夫の所へ、老後は子供の所へ行って、女は自分の居場所を自分で持てないって。皆に従えってことだけど・・・。なんか、今、思い出した。ちょうどここが3階だから。(笑ってヨンシュンを見る)そんな、心境・・・。(ヨンシュンをじっと見る)ホントにヨンシュンの所しか、私の居場所がなくなっちゃった。(ちょっと泣きそうになる)


ヨンシュンがリコを抱きしめる。


ヨ:なら、リコはずうっと僕と一緒にいればいいよ。僕はリコのものだから。ずうっと一緒にいればいい。一緒にいてくれるだろう? そこがリコの居場所だから。僕の居場所はリコの居場所だからさ・・・ね。
リ:うん・・・ずうっと一緒にいる・・・。(両手をヨンシュンの背に回して、抱きついて目を閉じる)


リ:あっ、そうだ。(ヨンシュンを見る)お客様用の布団、出しておかなくちゃ。
ヨ:えっ?


リコはリコの部屋の、クローゼットの中へ入っていく。


リ:だって、タクヤのベッドってシングルだから、レナさんと一緒に寝られないじゃない? え~と、確か二組あったと思ったなあ。


ヨンシュンがリコの横に立つ。


ヨ:客用の布団があったんだ・・・。

リ:うん、あったわよ。(え~と敷布団と掛けと、OK。枕はと・・・)
ヨ:へえ~。(リコの動きに合わせて、顔を覗き込む)でも、僕には出してくれなかったね。
リ:えっ?(赤い顔になり、横目でチラッとヨンシュンを見る)
ヨ:ね!(リコの顔をもっと覗き込む)
リ:(もう! 反撃に出る)だって、ヨンシュンは、私のベッドの方が好きでしょ?(ぐっと顔を見る)


逆にヨンシュンが赤い顔になった。


ヨ:どいて。僕が出すよ。どれ? これでいいの?(怒ったように言う)
リ:うん。それでいいの。(うれしそうにヨンシュンを見る)


リビングの隅に客布団を積み上げる。


リ:あした、晴れたら布団を干すわ。そして、私の荷物は全部、305の「隣のヨンシュンさん」宅へ移動しなくちゃ。
ヨ:そうだね。でも、リコ、慌てることはないよ。レナは近いうちに一度韓国に戻らなくちゃいけないだろ? ご両親を説得しないと。とりあえず、使うものだけ、ヨンシュンさん宅へ移動しよう。
リ:そうね。(笑う)


ヨンシュンに箱に入れた荷物を運んでもらう。リコはまた、自分の服を整理している。
なにげなく、カレンダーを見る。


リ:あっ・・・そうだ・・・。


ヨンシュンは自分の部屋へリコの荷物を入れる。カレンダーを見る。


ヨ:もうそんな時期か・・・。


リコの部屋に戻ってくるが、お互い、それについては何も言わず、仕事を続ける。







翌日。
タクヤからの連絡で、午後5時頃にこちらに着くという。
リコは布団も干して、準備万端だ。


リ:タクヤ? 一応見かけだけだけど、女の気配はなくなった。(笑う)それでね、ソナさんが夕食はパッと「サラン」でやろうって。だから、部屋に荷物を置いたら、ヨンシュンさんと一緒にソナさんのとこへ来て。私はちょっとお手伝いに先に行ってるから。

タ:ヨンシュンさんは置いていくの?

リ:うん。だってヨンシュンさんの部屋だから・・・まるで、アリバイみたいね。(笑う)
タ:ありがとう。世話になるな。じゃあまたな。



午後5時近くになって、タクヤたちが帰ってきた。
ヨンシュンが玄関で二人を迎えた。タクヤとヨンシュンはにこやかに笑って、タクヤは荷物を持って部屋へ入っていく。
ヨンシュンとレナの目が合った。レナは今までより意志のある顔つきをして、キレイに輝いていた。
ヨンシュンがやさしく微笑んだ。ほんの少しの間、二人は見つめ合ったが、


ヨ:(韓)さあ、上がって。(スリッパを出す)
レ:(韓)お邪魔します。



タクヤが荷物を自分の部屋に入れた。


ヨ:リコのスーツケース、ありがとう。あとで届けるよ。(目でお礼を言う)
タ:いいんだよ、気にしないで。(笑う)あ~あ、(少し伸びをする)日本へ帰ってきたな。(ヨンシュンを見て)「隣のヨンシュンさん」のせいで人生、すっかり変わりましたよ。
ヨ:・・・。(くすっと笑う)
タ:何がおかしいの?
ヨ:昨日もリコに言われた。「隣のヨンシュンさん」のせいで、すっかり変わっちゃったって。
タ:そうお・・・。(にこやかにヨンシュンを見る)レナ、ちょっと一休みしよう。座って。


タクヤは冷蔵庫を覗きに行く。
レナがソファに腰かけようとすると、タクヤが、


タ:あ、そこはだめ。隣の茶色のほうに座ってくんない?
レ:こっち?(指差す)
タ:そう。
レ:なんで?
タ:だって、そっちはリ、リ・・・ヨンシュンさんのソファだからさ。レナは、オレのソファに座ってほしいんだ。
レ:わかったわ。(うれしそうな顔をする)



二人のやり取りを聞いていたヨンシュンが俯いて、微笑む。



レ:それにしても、ヨンシュンさんがこんなかわいいソファが好きだったなんて、知らなかったわ。(感心する)


タクヤとレナがコーラを一杯ずつ飲んだところで、


ヨ:準備ができたら、そろそろ、ソナさんの店へ行こう。(布団のことを思い出す)それから、この布団、二人分あるから使って。リコが貸してくれたんだ。
タ:えっ?
ヨ:(無表情で)こっちのほうが広々と寝られるだろう?
タ:(頭に自分のシングルベッドが浮かぶ)・・・ああ、そうだな・・・。う~ん、借りとくよ。サンキュ!

ヨ:(さらっと)それから、僕はしばらく帰ってこないから・・・。
タ:(軽く頷いて、無表情で)そうか。そうだな。
ヨ:じゃあ、行くか? レナ・・さんも準備できた?
レ:ええ。リコさんはどうしたんですか?
ヨ:なんか、ソナさんのところの手伝いをするって・・・。
レ:そうですか・・・。
タ:じゃあ、行こうか。




レナを真ん中に3人は並んで歩く。タクヤとレナが腕を組み、ヨンシュンは、一歩引き気味に歩く。
3人は静かに歩く。ヨンシュンがタクヤに、


ヨ:レナ・・さんに、聞いていい?

タ:(ヨンシュンを見る)何、遠慮してんの?(ちょっとばつが悪そうに笑う)自由に話せよ。
ヨ:うん・・・。レナ・・さん、お父さんとお母さんは、今度のこと、怒ってるの?
レ:・・・。(ヨンシュンを見て、一気に言う)そう。勝手に男を作って、外泊して、帰ってきて、結婚させてくださいって言ったから。



レナとヨンシュンが見つめ合う。今までのレナを知っているだけに、それがどんなにたいへんな事だったか、ヨンシュンにはよくわかる。
そして、今、どれだけレナがタクヤのことを愛しているかも、ヨンシュンにはよくわかる。



ヨ:僕にできる事があったら、なんでもするよ。おじさんやおばさんを説得してもいいよ。なんでも言って・・・。(真剣な顔をして言う)
レ:ありがとう・・・。でも、とりあえず、自分たちでやってみる。頑張ってみるわ。(笑顔を返す)
ヨ:うん。(微笑み返す)


レナは下を向いてちょっと笑った。
今まで、このヨンシュンの顔が恐くて、逃げ回っていた。・・・でも、今、冷静な気持ちでよく見てみると、恐そうに見えて、実はやさしいんだ。やっとわかった・・・。

そして、今、その顔に怖気づかず、ちゃんと話ができる自分がいた。






ソナのスナック「サラン」のドアを開けると、リコが立っていた。そして、ヨンシュンにやさしく微笑みかけた。


ヨンシュンは中へ入っていって、


ヨ:どうしたの? 何かあるの?
リ:何で?(にこやかに言う)
ヨ:何か企んでる顔をしてるよ。(顔を覗き込む)
リ:よくわかったわね。(ヨンシュンを見つめる)
ヨ:何?
リ:少しは気がついてるでしょ? 気になってるでしょう?
ヨ:?
リ:今日はなんの日?
ヨ:今日は・・・ああ・・・。(リコをにこやかに見つめる)
リ:あなたのお誕生日よ。


ソ:先輩、ケーキ用意したよ。



カウンターの中から平たくて大きなケーキを出す。リコが受け取り、テーブルに置く。



ソ・リ:お誕生日、おめでとう。

ろうそくを3本立てる。横でリコが微笑んでいる。
タクヤとレナも加わって、韓国語で、ハッピーバースディを歌う。

ヨンシュンがろうそくの火を消し、「ありがとう」と言って、リコの肩を抱きしめ、軽くキスをした。リコも驚いたが、周りの皆も驚いて拍手をする。
ソナが、


ソ:ねえ、ついでにケーキに二人でナイフを入れようよ。
リ:え~! 恥ずかしいよ、それは。
タ:やれよ。やってやれよ。
リ:え~え!(テレまくる)
ヨ:やってよ、リコ。二人でやろう。(うれしそうに顔を覗き込む)
リ:もう!皆!(恥ずかしいがうれしい!)


うれしそうに、二人でナイフを持ち、ケーキに入刀した。皆で爆笑する。


幸せそうに笑っていると、スナックのドアが開いた。



ソ:あっ、やっと来たね。(うれしそうに言う)



皆が振り向く。その人は!



リ:アニキ!(驚く)
ヨ:牧村さん!(驚く)

リ:知ってるの?(驚いてヨンシュンを見る)


二人はナイフを持ったまま、顔を見合わせた。










「第18話 曇りのち晴れ」


リ:アニキ!
ヨ:牧村さん!


「サラン」のドアを開けて入ってきたのは、行方不明になっていたはずの桔平だった。


桔:よお!(手を上げる)


リコとヨンシュンは驚いて桔平を見つめる。



ヨ:リコ、ワイワイバンクの牧村さんだよ。僕の担当だった・・・。
リ:え~え!


リコは驚いて、桔平の所へ行く。
桔平はノンキに笑ってリコを見ている。


リ:アニキ! なんなのよう!(桔平の胸をドンとたたく)
桔:元気だったか?(微笑みかける)
リ:バカ! 何してたの? ワイワイバンクって何よ?(まったく!) 人に心配させておいて! ホントにひどい人だわ、アニキって!


ヨンシュンがリコの後ろから行き、桔平に挨拶する。



ヨ:お兄さんだったんですか・・・。
桔:(明るく)いや、私も知らなかったんです。でも、ソナから聞いたリコの彼氏の名前があなただったんで、驚きました。
ヨ:そうですか・・・。


タクヤもやって来る。


タ:どこへ行ってたのよ。こっちはたいへんな目に会ったんだよ。急に消えちゃうから・・・。
桔:悪かったな・・・。(見つめる)

ソ:ねえ、皆、こっちへ来てよ。そんなとこに突っ立ってないでさ。座ろうよ。今日は先輩の誕生日、アンド、タクちゃんとレナちゃんの歓迎会、アンド、桔平ちゃんのご帰還祝いなんだからさ!


皆でテーブルに着く。テーブルにはビールと皿に盛られた料理が少しおいてある。
ソナが、桔平を後ろから抱くように首に手を巻きつける。


リ:ソナさん、そういうこと・・・。(二人の関係を見る)知ってたのね・・・。ひどい・・・。
ソ:ごめんね!(笑いかける)
タ:でも、なんで? 理由がぜんぜんわからないよ。


ソナと桔平が見つめ合う。

もう今更、理由は言えないだろう。リコとタクヤの縁結びだったなんて・・・。
それに、桔平はソナといい仲になって、当時、京香と別れたがっていたなんて、ソナの前では言えない。



リ:理由が言えないの? ただのヘッドハンティング? 今までだってそうじゃない。(ヨンシュンに)アニキは外資系で渡り歩いてるから・・。(あ、これも言わなくちゃ!)でも優秀なのよ、安心して。(桔平に)前だって、あったじゃない。なんで今度は夜逃げなの?
桔:まあ、ちょっと、さっぱりしたかったんだよな・・・。

リ:ふ~ん・・。あのチャコちゃんは?(どうしたの?)
ソ:チャコちゃんはね、学生が夜のバイトしてちゃだめだって桔平ちゃんがね・・・。(桔平を見る)
桔:引越し先が社宅だけど広くてさ。掃除の人がほしかったから、下宿代の代わりに部屋の掃除とおさんどん。それに少しお小遣いを払うからどうって誘ったんだ。
リ:アニキのとこなんか、危ないじゃない?(ちょっと笑う)
ソ:大丈夫。私がいるから・・・。ね、桔平ちゃん!(顔を覗き込む)


リ:そうか・・・。それでね・・・やっぱり変だと思ったのよ。
ソ:何が?

リ:え? ソナさん、前にゴーヤチャンプル作ってくれたでしょ?(リコが悪酔いした日だ)チャコちゃんに教わったって。あの時は気がつかなかったんだ。でも、後で変だなって。自分の好きな人を取った人に習った料理なんて、ふつう、もう二度と作る気になんかになれないじゃない。だから、ちょっと変だなって。
ソ:リコってそう思うんだ。私はおいしければいいけど。(笑う)

リ:どんなにおいしくても作んないわよ、ふつう。
ヨ:そうお?(顔を見る)
リ:(ヨンシュンを見つめて)ヨンシュンさんに振られたら、私、二度とキムチなんて食べない・・・。もう絶対、韓国なんか行かないわ。


リコとヨンシュンが見つめ合う。


ヨ:そう?
リ:うん。そういうものよ・・・。

ソ:リコって、結構激情の人だったのね。(笑う)
桔:負けず嫌いなんですよ。(ヨンシュンを見る)
ヨ:うむ・・・。僕も最近、気がつきました。(ちょっと笑う)
リ:やだ・・・でも、そうなの。(ヨンシュンの顔を覗き込む)
ヨ:だから、ちょっと恐くて。(笑う)
リ:恐くなんかないくせに!(ヨンシュンを見る)


ヨンシュンがリコの腰に腕を回して、キュッと締める。リコがヨンシュンを見つめた。


ソ:ねえ、今日はパアッとやろうよ。乾杯してさ。お料理、もっと出すからさ。(カウンターの方へ行く)
リ:そうよね。ソナさん! 手伝うわ!(立とうとして、桔平を見て)アニキ・・・今度のこと、ありがとね。恩に着る・・・。(見つめる)
桔:何が?(ニコッと笑う)
リ:う~ん。全部よ。いろいろ・・・。(桔平の目を睨みつけ、微笑む)ありがとう・・・。
桔:うん・・・。(頷く)





会も半ば過ぎ、ダーツをやったり、皆それぞれ、好きなようにしている。

レ:リコさん、日本料理、教えてくださいね。
リ:ええ、いいわよ。(微笑む)
ソ:リコの料理って・・・?
タ:結構うまいよ。(レナに言う)
レ:タクヤさん、食べたことあるの?
皆:あ!(ドキッ!)

タ:ソナさん、ほら、あの時、リコがシチュー作ってくれたじゃない! 忘れたの?!(ねえ!)
ソ:(ハッとして、話を合わせる)あ、そうだった。シチュー。食べたよね、うん。(危ない!)
リ:レナさん、他にもちゃんと日本料理も少しできるから、教えてあげる。
レ:ええ、お願いします。(かわいらしく微笑む)


皆で笑う・・・よかった・・・。危ない!



カウンターに、ヨンシュンと桔平が並んで座り、ウィスキーを飲んでいる。

ヨ:桔平さん、今回はありがとうございました。とても助かりました・・・。
桔:これからですよ、お手並み、拝見です。(笑う)・・・リコをよろしくお願いします。
ヨ:はい・・・。


リコがやってくる。


リ:ねえ、何話してるの?


リコが二人の間に笑顔で立つ。ヨンシュンがリコを後ろから抱くようにして、自分の席に座らせ、自分は一つズレる。リコが真ん中に座る。桔平が空いたグラスに、リコ用にウィスキーを注ぐ。


桔:おまえの悪口。(リコの水割りを作りながら言う)
リ:やだ・・・。
桔:(リコにグラスを出して)体が大きいですから、踏まれないように注意してくださいとか・・。寝言を言いますとか・・・。


ヨンシュンが思い出して、思わず笑う。


リ:やだ、私、寝言なんかいわないわよ。(ヨンシュンを見る)
桔:(グラスを持つリコの指を見る)いい指輪だ。・・・大切にしろよ。
リ:うん。アニキ・・・。私、ホントに心配した・・・。この一年半。(しんみり言う)
桔:ごめんよ・・・。

リ:どっかで野垂れ死にしちゃってないかって。
桔:悪かったな・・・。でも、おまえ、ホントはそんな心配してなかったろ?(顔を見る)
リ:(笑って)まあねえ。(ちょっと舌を出す)
桔:ふん。(鼻で笑う)

リ:だけど、よかった・・・結果的にはヨンシュンさんと知り合えたし。(ヨンシュンを見る)
桔:うん・・・。二人で親父に会いに行けよ。行ってやれ。リコのことは心配してるぞ。
リ:・・・うん・・・。(俯く)
ヨ:リコ。行こう。お父さんに会いに行こう。そして、許してもらおう。僕らの結婚を。
リ:ヨンシュン・・・!

3人でしんみりと、そして温かい気持ちになって見詰め合った。








晴れた日の午前中。
横浜郊外の大きなお寺の石段を、ヨンシュンとリコが登っている。

9月も半ばを過ぎて、周りの緑の木々は背が高く、うっそうとしていて、その木陰はもう涼しい風が入ってくる。虫たちも今を最後と一生懸命鳴いている。


ヨ:気持ちがいいところだね。(一段ずつゆっくり登る)
リ:そうでしょ? 子供の頃からここが好きだった。(ヨンシュンを見る)よく遊んだな、ここで・・・。裏から行くとね、お寺まですぐなんだけど、ここを登って行きたいの。

ヨ:・・・うん。風情があっていいよ・・・。(周りを見渡す)

リ:お父さんがね、お母さんを連れて、ここを登って、お祖父ちゃんに結婚の許しをもらいに行った道なのよ。
ヨ:・・・。(リコを見る)

リ:二人で緊張しながら、ここを登ったって。たったこれだけの階段なのに、ものすごくお寺まで遠い気がしたって・・・。二人で、絶対、許してもらおうって心に誓い合った階段なんだって・・・。昔、お母さんが言ってた。
ヨ:そう・・・。(立ち止まる)ねえ、リコ。僕たちも誓おうか。この階段を登りきったら、絶対、何があっても、二人で頑張るって。お互いをちゃんと思いあって、いつまでも一緒にいるって。(リコを見つめる)
リ:うん・・・。お互いを信じあって。(ヨンシュンを見つめる)
ヨ:(リコと手を繋ぐ)そうだね。・・・なんか緊張してきたな・・・。
リ:ふん。(微笑む)大丈夫よ、きっと。お父さんていい人よ。あの桔平ちゃんの親父だもん!
ヨ:え~え?(笑う)


お寺の50段の階段を登りきり、リコは寺の横にある玄関の方へヨンシュンを案内する。




リ:こんにちは~。


奥からお手伝いに来ているオバサンが出てくる。


手:は~い。ああ、リコちゃん。お久しぶり!
リ:あ、オバサン! ご無沙汰してます。お父さん、います?
手:(うれしそうに)待ってますよ。(ヨンシュンを見て)こちらの方?ふ~ん。(にこにこしながらヨンシュンに)さ、どうぞ! 上がってください。
リ:ねえ、来て。
ヨ:うん。


二人はスリッパに履き替える。


手:お父さんは書斎よ。(リコの横へ行って耳打ちする)い~い男ね~。リコちゃん!


リコが笑ってオバサンを見る。二人は母屋のほうへ行き、リコだけ書斎を覗く。


リ:お父さん?(書斎の引き戸を開け、覗く)
父:ああ、来たか。客間へお通しして。今行くから。
リ:はい。(後ろにいるヨンシュンに)客間へ行こう。


二人は客間の下手に並んで座る。ヨンシュンはちょっと恐い顔をしている。リコがヨンシュンの手をちょっと握って微笑んだ。
父の徳道が入ってくる。
徳道は住職らしく着物を着ていたが、髪は普通に伸ばしていて、天然のウェーブを生かしておしゃれな感じに仕上げていた。髪を丸めていないだけでも、ヨンシュンには少し気持ちを和らげるものがあった。

父親を見て、ヨンシュンが礼をして、


ヨ:初めまして、ペ・ヨンシュンです。
徳:どうぞ、足を崩して・・。
ヨ:いえ・・・。
徳:まあ、ラクにして。


手伝いのオバサンがお茶を持ってくる。


徳:うん。(お茶を受け取る)
ヨ:お父さん。僕は韓国の人間です。日本人ではありませんが、とてもリコさんを愛しています。二人で一緒にやっていこうと誓い合いました。何があっても、リコさんを守ります。
徳:うん。(頷く)
ヨ:リコさんと結婚することをお許しください。
徳:うん・・・。
リ:お父さん! お願いします。

徳:(窓の外の庭を眺める)リコ。君は、よその国でやっていけるの?
リ:・・・はい。
徳:言葉はできるの?
リ:これから頑張ります。
徳:向こうの風習もちゃんと身につけてやっていく気があるの?
リ:ヨンシュンさんに習って、恥ずかしくないように、一生懸命やります。
徳:料理は?
リ:それもこれからもっと頑張ります。
徳:そう・・。自分を信じてるんだね?
リ:お父さん! 自分もだけど、ヨンシュンさんを信じてます!

徳:・・・。(下を向いてちょっと考える)ヨンシュンさん・・・。私は娘の結婚に反対する気はありません。
ヨ・リ:・・・。(ホッとする)
徳:(ヨンシュンを見る)ただ、違う国の違うところで生きていくということは、覚悟がいることです・・・。この子にはもう母親もいないので、女の人のやるべきことを、親の私には教えられないんです・・・。本人が頑張るというなら・・・まあ、それもいいでしょう。
ヨ:ありがとうございます。

徳:だから、ヨンシュンさん。そういう覚悟でいく娘をあなたがしっかりサポートしていただきたいんです。わかりますね?
ヨ:はい。僕の全てを賭けて、リコさんをお守りします。


リコがヨンシュンを見る。


徳:うん・・・。それならいい。この子はあなたにお任せします。


徳道はヨンシュンをしっかりと見つめた。









今、タクヤとレナは韓国行きの飛行機の中にいる。今度は必ず許しを得られるように。
二人は窓の外を見ている。






リコとヨンシュンは、リコの母親の墓参りのために桶に水を汲んでいる。
玄関から、手伝いのオバサンが出てくる。


手:リコちゃん、頼まれてたお花。(花を持ってくる)
リ:あ、すみません。(振り返り、花を見る。大きなカサブランカだった)これ・・・。(見入る)
手:住職さんが普通のお供えの花じゃだめだって。これにしてくださいって。(手渡す)
リ:お母さんが一番好きだった花・・・。


リコは花を見つめる・・・。
今まで堪えていた思いがあふれるように、涙が出てくる。
思わず、座り込み、泣け崩れてしまう。


ヨンシュンがリコの肩をやさしく抱く。


今日の日の緊張が解かれ・・・父の母への愛を感じ・・そして自分へのはなむけとして、父が選んでくれた花・・・。
リコは花束を抱きしめ、自分を抑えることができず、ただただ、ヨンシュンに抱かれて泣き続けることしかできなかった。







続く・・・。




お楽しみに!



2009/06/02 01:15
テーマ:【創】恋のタイトルマッチ カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋のタイトルマッチ」8



 
↑BGMはクリックして^^

恋のタイトルマッチ主題歌「結婚して^^」(キョルレジュゲンニ)
歌/チョ・ソンモ










BYJシアターです。



本日はとうとう、16話です。





【配役】

隣のヨンシュンさん(ペ・ヨンシュン)・・・・ ぺ・ヨンジュン (32歳)
相棒のタクヤ(木島拓哉) ・・・・・・・・・ 木村拓哉   (32歳)
私・通称リコ(牧村キリコ)・・・・・・・・・  小雪     (28歳)

ハン・レナ(ヨンシュンの婚約者)・・・・・・  キム・テヒ  (27歳)



京香先輩(佐藤京香)・・・・・・・・・・・・  鈴木京香
アニキ(牧村桔平)・・・・・・・・・・・・・  椎名桔平

パク・テヒ・・・・・・・・・・・・・・・・・  キム・テヒ





ではここより本編。
お楽しみください!








恋のタイトルマッチ。
それはたくさんの相手に勝つことではない。

これぞ!と見込んだ相手、好きになった相手と結ばれる。
それが勝利者という称号を手にすることだ。
負けない!
誰に?

自分の弱虫に!


そして、大好きなあなたと結ばれるまで
私は、

頑張る!







【恋のタイトルマッチ】

主演:ぺ・ヨンジュン
   小雪
   木村 拓哉







「第16話 新しい道へ進むために」


まだ朝の5時だというのに、ヨンシュンはリコのベッドの中で目を覚ました。
リコのベッドは長さだけは210cmと長いものの、幅は100cmしかない普通のシングルベッドで、二人はピッタリと寄り添って寝ている。
リコを背後から抱きしめるようにヨンシュンが腕枕をして寝ている。


今日は電話で父親に、ワイワイバンクのことを報告しておかなければならないだろう。
そして、レナとは結婚できないこと。リコを愛していること。二人で頑張って日本でやっていく決心をしたこと。

一人息子である自分がいかに親不孝であるかと思うと、父親の落胆した顔が頭に浮かんできて、今日はゆっくり寝ている気分ではない。

振り返ってみると、親には内緒で勝手にどんどん暴走して、最後にこれが結果ですと、最後通牒を突きつける感じになってしまった。


確かにレナはいい子だった。ただ、あまりに消極的すぎた。多少太ってはいたが、よく見るとかなりの美人でやさしくて素直な子だった。
そのかわいらしさに一時は結婚してもいいかなと心は動いたが、レナのガードはきつく、いつも従姉妹のテヒと一緒で、まるっきり自分にスキを与えない。
何を考えているのか、本当のところ、考える女なのか、まったくわからない不気味さがあった。

「どう思う?」という問いかけに、彼女がまともに答えてくれたことは数える程度しかない。
嫌われているのか・・? それさえ、よくわからなかった。
もし、結婚を前提とした相手なら、もっと心を許してくれてもいいはずなのにとも思ったりもした。


そんなことは悩まず、結婚してしまう人もいるのかもしれないけれど。
自分は甘えた性質なのか・・・よくわからない。

でも、心を許してもらえない相手と親の意のままに結婚して、お家が安泰になったとしても、その結果の自分の未来がなんだか、とても小さくて閉塞的で、つまらないものになっていくような気がした。
あのときは、息もできないくらい苦しくて、レナには申し訳なかったが、婚約式をすっぽかして、東京まで逃げてきてしまった・・・。


そして、初めての会議。
父の会社とは離れて、一本立ちすべく計画した日本での初めての会議だった。

そこにリコがいた。
ショールームや店舗の内装業者は、意外にも女性チームだった。初め、気の強そうな京香が全体の説明をして、


京:ではこちらを担当します牧村より詳細なご説明をさせていただきます。牧村は、とても斬新かつ温かな空間を提供することで定評のあるデザイナーですので、きっと皆様のご期待に沿えるものと信じております。


ヨンシュンが目を落としたプロフィールには、その名前と経歴が書かれていた。入社2年目から、頭角を現して、輝かしい賞を手にしていた。
ふ~んと、顔を上げると、ゆっくりと壇上に向かう女性がいて、背が高く、遠くからもハッキリとした目鼻立ちの美しい人だった。

リコには、上司の京香とはまるで違った空気感があって、もちろん、そのプレゼンの内容も気に入ったが、静かだが、ひたひたと押し寄せるエネルギーを感じさせる人だった。
その不思議な存在感に惹かれるものがあって、帰りに声をかけてみた。
振り返った彼女は、清楚でいて、キリっとした、しかしどこか、ぽあんと温かい感じのする女性だった。

そして、同じマンションの住人で・・・。

これは運命だったのかな。
自分が生まれた場所からこんなにも遠く離れたところで、人を好きになってしまうなんて・・・。
僕は君に会うために、ここまで来たのかもしれないね。

韓国に呼び戻されて、父に「責任を取りなさい」と言われた時は、本当に人生の袋小路に迷い込んだようだった。

たった一言、リコ、君に別れが言いたくて、声が聞きたくて、かけた電話だったのに・・・。
リコも僕を好きでいてくれたんだよね。

ありがとう、リコ。


リ:ヨンシュン・・・。


寝ているリコがつぶやいた。


ヨ:うん? なあに?
リ:・・・・。
ヨ:リコ?
リ:・・・。ねえ、いいでしょ・・・ヨンシュン・・・。


ヨンシュンは起き上がって、リコの顔を見る。
スヤスヤと幸せそうに眠っている。


ヨ:(微笑んで)リコ、ありがとう。君が力をくれたんだよね。


リコの頬にやさしくキスをする。そしてまた、もとの体勢に戻ってリコを抱く。


リコと出会って、たった1ヶ月半なのに・・・。
もう何年も二人でこうやって過ごしているような気がする。


リコは、僕に情けないところがいっぱいあることを知っている。
僕がとてもヤキモチ焼きなのを知っている。

そして、僕をとても信頼してくれて。
そして、愛してくれているよね。



朝になったら、父さんに電話を入れなくちゃ。
そして、韓国へ堂々と挨拶に行って、土下座しても認めてもらって・・・。

許してもらえなくても、仕事はなんとかやっていけるけど・・・それでも、できるだけ許しを乞おう。

一人息子の代わりはいないから・・・。きっと寂しい思いをさせるから。

そして、リコのお父さんに会いに行こう。横浜なんてすぐ近くだけど、まずは自分の身の上をキレイにしてからでないとね。


朝一番に電話を入れよう。

ヨンシュンはリコをもう一度きつく抱きしめて、また眠りに落ちた。






朝、リコがベッドの中で大きく伸びをする。
この二日間、ヨンシュンとずっと一緒で、心も体も充足感でいっぱいだ。


リ:あ~あ。う~ん!(大きく伸びる)

ふと気がつく。

そうだ、二人で寝てたんだ。
あれ、ヨンシュンさんは?


リコが飛び起きる。
部屋の中を見回す。ヨンシュンがいない!


リ:ヨンシュンさん? ヨンシュン!


急に寂しさが押し寄せる。

うそ! どこ、行っちゃったの? ヨンシュン!

泣きそうになる。


しかし、よく見ると、リコの部屋のハンガーには彼のジャケットが、その下には、いつもの通勤バッグが置かれたままだ。

リコは泣き笑いになる。

ちょっとヨンシュンの姿が見えなくなっただけで、人生の終わりみたいな気分になって、泣くなんて。

ホントに私って、バカみたい・・・。

リコはこんなにヨンシュンを好きになった自分に呆れて、胸がいっぱいになる。


ダイニングテーブルの上に、メモが置いてあり、

「305号室へ行ってきます。すぐ戻ります。 ヨンシュン」


なあんだ。 でもなぜ? 韓国にでも電話してるのかな・・・?






ヨンシュンは自分のマンションの部屋へ戻り、ソファに腰かけ、硬い顔をして、ソウルの父親の直通電話に携帯で電話する。

(韓国語)

ペ:もしもし。
ヨ:もしもし、父さん? ヨンシュンです。(緊張している)
ペ:ヨンシュン! おまえ、今、どこにいる? 心配したぞ。
ヨ:すみません。父さん、勝手なことばかりして・・。
ペ:それにしても、今回のことは・・・。
ヨ:父さん、聞いてください。日本の会社はどうしても自分の力でやってみたかったんです。それで、日本にあるワイワイバンクに融資を頼みました。

ペ:・・・どういうことだ?
ヨ:セブンバンクとは離れて、自力でどこまでやれるか試したくて。
ペ:うむ。(考える)おまえがセブンバンクとの馴れ合いを嫌がっていたのはわかる。私も将来を考えて、おまえと同様に新しい会社のあり方を考えていたが・・・ママさんがおまえの結婚を勝手に決めてしまったからな。それでおまえが悩んでいたのもわかっていたが・・・。担保はどうした?
ヨ:初め・・父さん、すみません。僕の持ち株を担保にしようとしました。でも、担保はなしで、その代わり、借り入れというより資本を出すという形で参加したいというんです。それで、利益に合わせて歩合で返済してほしいと。
ペ:うむ。それはかなり条件としてはいいように思うが。しかし、そこまで話を煮詰めておいて、今回のおまえの行動はなんだ?

ヨ:何がですか?(ワイワイバンクのことを承認してくれているのに、何が?)
ペ:来週になれば、レナさんと結婚するというのに・・・。
ヨ:・・・?(リコのことを怒っているのか・・)
ペ:それにせっかくワイワイバンクと話をつけて、セブンバンクと日本の会社を切り離しておいて・・。なぜ今、レナさんと婚前旅行に出る?(訝しい)
ヨ:えっ?(よくわからない)

ペ:今度のことで、あちらのお宅はおまえに期待しているぞ。やっとヨンシュンが本気でレナさんのことやセブンバンクのことを考え出したと。
ヨ:レナは今・・・。(どこにいるんだ。こんなことを父に聞くわけにはいかないか・・・)
ペ:いったい何を考えているんだ。まあいい。レナさんでいいとおまえが覚悟した、と考えていいんだな?(念を押す)まあ、日本の会社のことは、ちゃんと結婚後にあちらのお父さんに話したほうがいいだろう。日本の会社にもあちらは期待しているようだから。
ヨ:父さん。僕とレナが二人でいるって、誰に聞いたんです?
ペ:あちらのお母さんだよ。おまえが日本人のデザイナーを仁川空港へ送っていったあと、二人で落ち合って、旅に出たと。

ヨ:僕とレナが旅に出ている・・・。(そんな誤解が・・・)
ペ:ヨンシュン! どうした?
ヨ:いえ・・・。
ペ:今、いったいどこにいる?
ヨ:父さん、もうすぐソウルへ戻ります。そうしたら、ゆっくりお話しましょう。
ペ:ヨンシュン。あちらに場所だけでもお知らせしなさい。
ヨ:父さん、また電話します。今日はこれで。
ぺ:ヨン・・・。


カチャ! 電話を切る。


まいったな・・・。
まずはレナを探さなくちゃ! どこへ行ったんだ! レナは。







しばらくして、ヨンシュンがリコの部屋へ戻ってきた。それも例の恐い顔をして・・・。


リ:どうしたの?(顔つきを見て心配する)
ヨ:う~ん。韓国の父のところへ電話を入れたら、レナが行方不明なんだ・・・。
リ:え~! そんな! どういうこと?
ヨ:僕と婚前旅行に出ているらしい。(リコの顔を見る)
リ:なんで?(そうなるの?)
ヨ:僕がリコを空港へ送った後、レナと落ち合って、婚前旅行に行ってることになってるんだ。どうしてそんなことになっちゃったのかな・・・。僕がいなくなったのを知っているのは・・・。
リ:う~ん。誰だっけ・・・。運転手のパクさん!
ヨ:ソンジュン叔父さん。
リ:それだけよね・・・。う~ん。(考える。まさか)・・・タクヤ?
ヨ:でも、タクヤさんがレナに僕たちのことを話したとしても、それで、レナが、僕と一緒に婚前旅行に出かけるって、親に電話を入れて、姿を消すだろうか・・・?
リ:あなたを恨んで? でもそんな人じゃなかった気がする・・・。
ヨ:う~ん・・・。
リ:・・・。
ヨ・リ:・・・!!(ということは)・・・ タクヤ(さん)と一緒?!



リコが慌てて、バッグの中から手帳を取り出す。



リ:タクヤが成田で国際電話ができる携帯を借りたのよ。番号を控えたはず・・・え~と。


タクヤの番号を探す。


リ:これだ!(手帳を開いたまま、ヨンシュンに渡す)
ヨ:かけてみる?(リコを見る)
リ:うん!


タ:ヨボセヨ?
ヨ:タクヤさん?
タ:ああ、もしかして、ヨンシュンさん。お元気でしたか? ところで、何かご用ですか?
ヨ:タクヤさん(聞きづらい)・・・もしかして、レナと一緒ですか?
タ:ハハハ。もしかしなくても、一緒ですよ。
ヨ:え~! な、なんで?(驚く)
タ:なんでって、二人で楽しくやってますよ。(ノンキに楽しそうに言う)
ヨ:一体全体、どうなってるんです?
タ:う~ん。どうなってるって・・・。あなたもリコとよろしくやってるんでしょう? ヨンシュンさん。
ヨ:・・・えっ、まあ・・・。(赤い顔になる)

タ:それはよかった。ああ、お仕事、うまくいきましたか?
ヨ:ええ、お陰様で。
タ:それはよかった。とにかく、この計画は完璧です。
ヨ:計画って?
タ:あなたとレナが婚約しているお陰で、二人が一緒ということにしておけば、あなたは仕事もリコも手に入る。そして僕もレナと楽しいバカンスが過ごせるというわけですよ。
ヨ:しかし、僕と一緒なんて・・・。
タ:その方がいいでしょう、お互いに。少なくてもレナのご両親は心配しないだろうし。
ヨ:・・・。
タ:レナに代わります。(携帯をレナに渡す)


(ここから韓国語)

レ:ヨンシュンさん? ごめんなさい。ご心配かけてしまって。私・・・タクヤさんを好きになってしまったみたいなんです。ヨンシュンさん、結婚、お断りしてもいいですか?
ヨ:・・・。(ボーっとしてしまう)


(日本語)

リ:ねえ、どうなってるの? ヨンシュンさん!(腕を掴む)
ヨ:・・・。(ボーっとリコを見る)レナが結婚をやめるって。タクヤさんを好きになったって・・・。
リ:ヨンシュン? どうしたの?(顔を覗き込む) いいんでしょ? やだ、私でいいんでしょ?
ヨ:(リコを見る)うん・・・。ただ、こんなにハッキリ、レナが自分の気持ちを言ったことがなかったから・・。(驚いてしまう)

リ:代わって。(携帯を受け取る)もしもし、レナさん? リコです。今どこにいるんですか? ご両親が心配しているわよ。
レ:リコさんですね? 今、済州島でタクヤさんとバカンスです。私、ヨンシュンさんとは結婚しません。あの人とは、心が一つになれませんでした。そして、私・・・タクヤさんが好きなんです。(はにかむ)

リ:レナさん、本気なの?!(驚くと同時に心配)
レ:ええ。あなたは・・・ヨンシュンさんが・・・お好きなんですか?
リ:ええ・・・とても。(思いを込めて言う)
レ:じゃあ、これでおアイコ。これでいいですよね?
リ:・・ええ。でも、レナさん・・。
タ:(電話に出る)リコ? (うれしそうに)オレたち、すっかり気が合っちゃってさ、最高にピッタリなんだ。・・・心配いらないよ。(しんみりと言う)
リ:本当に?(しんみりと)
タ:うん。お互い、最高に好きな相手と幸せになろうぜ。
リ:・・・うん。本当ね? タクヤ、本気ね?
タ:くどいな。恋心に水を差すなよ。ヨンシュンは?
リ:ちょっと待って。(携帯を渡す)

ヨ:もしもし。
タ:オレたち、最高にピッタリのカップルのようです。ヨンシュンさん・・・リコをよろしくお願いします。(心を込めて、力強く言う)
ヨ:・・・ありがとう。タクヤさん、レナをよろしくお願いします。(力強く言う)
タ:お願いされなくても、幸せにしますよ。(当たり前でしょ!)

レ:(韓)(電話を代わって)ヨンシュンさん、明日タクヤさんと二人で、パパとママのところへ挨拶に行ってきます。
だから、それまでは内緒にしておいて。お願い。今回のことは自分の意思で動きたいの。
ヨ:・・・。(レナの行動力に感動する)レナ・・・幸せになれよ。・・・今まで、ありがとう。
レ:ヨンシュンさん。私こそ、今までありがとうございました。あなたが迷いながらも、私を受け入れようとしてくれたこと・・・うれしかったです。(本当の気持ちを言う)


ヨンシュンは電話を切って、横にいるリコを思わず、抱きしめる。


リ:ヨンシュンさん?(どうしたの?)
ヨ:二人で幸せになろう。いいよね、僕で。(確認するように見つめる)
リ:うん。私はあなたが好きなの。あなたがいいの。(顔を見つめる)
ヨ:リコ、僕もリコがいいんだ。レナたちがご両親に挨拶を済ませたら、僕たちも挨拶に行こう。
リ:うん。

二人にはもう障害はなくなった。リコは喜びに胸がいっぱいになった。

ヨンシュンがリコをやさしく抱きしめ、キスをした。







そして、次の日の夕方。

リコの部屋の電話が鳴る。


リ:はい。あ、タクヤ? どうしたの? え、二人で日本へ来るの? これからって。どうして・・・?
タ:それでさ。その部屋、まずいだろ・・・。オレとヨンシュンが住んでたことにしてよ。
リ:え~? そんな急に言われても。ねえ、ホテルに泊まったら?
タ:じゃあ今夜はね。でも明日は帰らないと。自分の家が都内にあるのに、帰らないと変だろ? とにかく、オレが持ってる部屋のカギは302なんだから、その部屋は変えられないよ。(念を押す)
リ:じゃあ私はどうしたらいいのよ!(叫ぶ)
タ:あ、レナが来た。じゃあな。その辺、よろしく!(カチャ!)
リ:タクヤ!


ヨンシュンが洗面所から出てくる。


ヨ:どうしたの?(ノンキそうに言う)
リ:タクヤがレナさんと、日本へ向かってるの。レナさん、ご両親に勘当されたんだって。・・・それでね、タクヤが私と住んでるのはまずいから、あなたと住んでたことにしてって言うの。
カギはこの部屋だから、ここへ戻るって言うのよ。今日はホテルに泊まってくれるみたいだけど・・・明日は自宅に帰るって・・・。(困った顔をする)
ヨ:・・・どうする?
リ:どうするって、ねえ、どうしよう!!


二人は部屋の中を見回して途方にくれた。







続く・・・。






2009/05/29 01:09
テーマ:【創】恋のタイトルマッチ カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】恋のタイトルマッチ7



 
↑BGMはクリックして^^

恋のタイトルマッチ主題歌「結婚して^^」(キョルレジュゲンニ)
歌/チョ・ソンモ








BYJシアターです。




本日は【恋のタイトルマッチ】第14・15話です。


隣のヨンシュンさん(ペ・ヨンシュン)・・・・ ぺ・ヨンジュン (32歳)
私・通称リコ(牧村キリコ)・・・・・・・・・  小雪     (28歳)

アニキ(牧村桔平)・・・・・・・・・・・・・  椎名桔平

(特別出演)
リコの父(牧村徳道)・・・・・・・・・・・・  原田芳雄



この物語はフィクションです。ここに出てくる団体や金融に関することは事実と異なります。





ではここより本編。
お楽しみください!








恋のタイトルマッチ。
それはたくさんの相手に勝つことではない。

これぞ!と見込んだ相手、好きになった相手と結ばれる。
それが勝利者という称号を手にすることだ。
負けない!
誰に?

自分の弱虫に!


そして、大好きなあなたと結ばれるまで
私は、

頑張る!







【恋のタイトルマッチ】

主演:ぺ・ヨンジュン
   小雪
   木村 拓哉








「第14話 二人の未来」


ヨンシュンとリコが自宅のマンションへ帰ってきた。リコは、部屋の鍵を開け、ヨンシュンをすばやく中へ押し込み、キョロキョロと左右を見て中へ入る。そして、ドアを閉める前にまた、外を確認する。
玄関の中で、ヨンシュンがリコの後ろで少し笑いながら、


ヨ:そんなにしなくても。大げさだな。
リ:(振り返って)スパイ大作戦みたいかしら?(笑う)
ヨ:何それ?(まん丸お目目で言う)
リ:ミッションインポッシブルよ。(笑う)
ヨ:(笑う)ハハハ、そうだね、まったく。
リ:ねえ、中へ入って。(ヨンシュンを後ろから押しながら部屋に入る)


ヨンシュンは初めてリコたちの部屋に入った。
部屋全体は、なんとなくリコを思わせるような、清楚でいてコンテンポラリーな感じではあるが、ところどころに、ウエスタン調のものが点在していて、どうも、それがタクヤのもののようである。全体的にはスッキリと温かな雰囲気である。


リ:ちょっと空気を入れ替えるわね。その辺に座ってて。


リコはリビングの窓際へ行って、カーテンを開け、窓を開ける。


リ:たった3軒先に隠れてどうなるってこともないかもしれないけど、少しは気持ちが落ち着くでしょう?


そういってヨンシュンのほうを振り返る。すると、ヨンシュンがウエスタン調の薄茶色の皮のソファに腰かけようとしている。


リ:あ、ヨンシュンさんはそっちじゃなくて、赤いストライプのほうに座って。


薄茶のソファと直角に、赤とベージュの太いストライプの布製のソファが並んでおいてある。


ヨ:こっち?(指差す)
リ:そう。
ヨ:決まってるの? (不思議そうに聞く)
リ:うん。だって、そっちが私のソファだから。茶のはタクヤのだから。
ヨ:ふ~ん。勝手に座っちゃいけないの?
リ:というわけでもないけど・・・。普通、自分の席があったら、自分のところへ座るでしょ?
ヨ:まあね・・・。なぜ、僕はこっちなの?
リ:だって、ヨンシュンさんは私のお客様だもの。
ヨ:・・・そう。
リ:そうよ。

ヨ:ふ~ん。テリトリーがハッキリ決まってるんだ・・・。(なぜかうれしい)
リ:決めてるわけじゃないけど・・・タクヤも私もなぜか守ってる・・・うううん、そうしてるほうがラクなの。
ヨ:ふ~ん・・・。リコ、ちょっとこっちへ来て。


呼ばれて、リコはヨンシュンの前へ立つ。


リ:なあに?(ヨンシュンを見下ろす)
ヨ:もっと来て・・・。(甘い声)


前に近づいたリコの腰をヨンシュンがぐっと引き寄せる。
リコがバランスを崩して、ヨンシュンの股の間に左膝をついてヨンシュンの方へ倒れこみ、ヨンシュンの肩に左手を廻す。


ヨ:(リコの腰を抱きながら)じゃあ・・・僕はリコのものだから、リコのところへ座ってるんだ。
リ:・・・うん・・・。(ヨンシュンを見つめる)
ヨ:じゃあ、ハッキリそう言って。(しっかり見つめる)
リ:・・・。(右手でヨンシュンの頬を撫でてじっと見つめ)ヨンシュンは・・・私のものだから、私のソファに座るのよ。(うっすら涙ぐむ)
ヨ:そう。僕はリコのものだから、リコのソファに座る・・・。(じっと見つめ返す)
リ:うん・・・。

ヨ:そして、リコは僕のものだから、このソファも僕のものだね・・・。
リ:・・・うん、そうよ・・・。


リコはヨンシュンに寄りかかりながら、両手をヨンシュンの首に巻きつけ、向かい合って抱かれる形になる。
二人は互いに見つめ合う。
リコの体が大きいので、リコがヨンシュンを少し見下ろす。


ヨ:やっぱり、大きいね、リコは。(笑う)
リ:でしょう? (ドンと体重をかけて座る)ごめんね、大女で。(微笑む)
ヨ:(もっと引き寄せて抱きしめる)それに、重い・・・。(笑って顔を覗き込む)
リ:もう・・・。あなたは・・・そういう運命なのよ。重い女の相手をする・・・諦めなさい。(やさしい顔で顔を見つめる)
ヨ:うん。諦めるよ、喜んで。(うれしそうに言う)

そして、静かに見つめ合い、吸い寄せられるように二人はキスをした。








夜になって、リビングの電話が鳴った。


リ:はい。あ、タクヤ?
タ:どう? うまくいってる?
リ:なんとか。このまま見つからないで明日を迎えたいわ。そうだ、ソナさんからもまだ電話が来ないわ。(不思議に思う)気がついてないのかな・・・。
タ:その辺はうまくこっちでやってるよ。
リ:何を?
タ:まあ、気にしないで。ヨンシュンにオレの部屋を使っていいって伝えてよ。
リ:うん、ありがとね、タクヤ。


ヨンシュンが近くで電話を聞いていて、


ヨ:タクヤさん? ちょっとお礼をいいたいから、代わって。
リ:うん。ねえ、タクヤ。ヨンシュンさんに代わるね。(受話器を渡す)
ヨ:タクヤさん、今回は本当にどうもありがとう・・・。なんとか、ここまでたどり着けました。
タ:そうですか。よかったです・・・。明日ですね・・・。
ヨ:はい。
タ:頑張ってください。・・・ヨンシュンさん、あなた・・・リコを本当に幸せにしてくれますね?
ヨ:・・・ええ。(決意した顔になる)

タ:何があっても、絶対、苦しい思いをさせないでくださいね。
ヨ:ええ、必ず。約束します・・・。
タ:・・・その言葉が聞けてよかったです。僕はまだまだこちらで楽しい時間を過ごすつもりなので、僕の部屋を自由に使ってください。
ヨ:ありがとう。そうさせてもらうよ。
タ:ヨンシュンさん・・・お互い、幸せになりましょう。
ヨ:タクヤさん!(ありがとう!)

タ:オレも容赦なく、幸せ、掴みますよ! あなたが驚くような、幸せを。
ヨ:タクヤさん? (どういうこと?)
タ:だから、あなたもリコを絶対手放したりしないで・・・お願いします。
ヨ:・・・ありがとう。(じ~んとする)
リ:どうしたの? (少し涙ぐむヨンシュンを見る)代わって! タクヤがなんか言ったの?

ヨ:幸せにって・・・。(電話を代わる)
リ:タクヤ?
タ:幸せになれよ。(やさしく力強く言う)
リ:タクヤ。(泣きそうになる)ありがとう。



電話を切って二人はしんみりしてしまった。
タクヤの言葉が温かく心に沁みる。
そして、絶対に明日は失敗してはいけないというプレッシャーがヨンシュンに圧し掛かる。
ヨンシュンがいつものように恐い顔をした。


リ:大丈夫よ、ヨンシュンさん。きっとうまくいくわ。(やさしく言う)


ヨンシュンがじっとリコを見つめる。


リ:大丈夫・・・。もし。万が一にもだめでも、二人で頑張りましょう! ね!(力強く言う)
ヨ:うん。(リコの頬を撫でる)
リ:どんな時だって、あなたが好き。きっとそれは変わらないわ。いつだって、あなたが好きだもん。
ヨ:リコ、ありがとう。でも大丈夫だよ。(しっかりした顔で)やるだけのことはやるよ。結果を気にしていたら、前へ進めないからね。
リ:そうよ、ヨンシュン。ファイティ~ン!


ヨンシュンが笑った。


ヨ:タクヤさんが、部屋を使っていいって言うから、遠慮なく借りるよ。


ヨンシュンがタクヤの部屋のほうへ行きかける。リコが手を掴む。


リ:ねえ、一緒にいましょう。せっかく二人の時間があるんだもん・・・。今日は一緒にいよう、ヨンシュン・・・。


リコがヨンシュンと手を繋いで、リコの部屋の前へ行く。ゆっくりドアを開け、


リ:ね。一緒にいましょう。


ヨンシュンはリコをじっと見つめながら、リコの部屋へ入っていった。









運命の朝を迎え、ヨンシュンは洗面所で顔を洗っている。
夜中にそっと取りに行ったスーツにリコがスチームアイロンをかけている。
できあがったスーツをじっと見る。


リ:ねえ、コーヒー、入れるね。
ヨ:ありがとう。


ヨンシュンが洗面所から戻り、二人でダイニングテーブルにつく。
二人は向かい合って座った。

少し恥ずかしそうに、そして幸せそうに、顔を見つめ合う。


ヨ:リコ。一生こうして、二人で朝を迎えたいよね。
リ:・・・うん・・・。(少し恥らいながら頷く)
ヨ:君が僕のことをいろいろ構ってくれて・・・。
リ:私は構うだけ? 構ってくれないの?(首をかしげて言う)
ヨ:もちろん、僕も君のために・・・。(言葉に詰まる)
リ:・・・?
ヨ:君のために、生きて・・・。
リ:・・・。(涙ぐむ)

ヨ:二人で一から作っていこう。(微笑む)
リ:うん。ヨンシュンとリコの世界をね。(じっと見る)
ヨ:うん。・・・よし!今日がその初日だね。まずは第1ラウンド!
リ:そうよ、ヨンシュン。頑張ってらっしゃい!(まるでアネゴのように、気合を入れる)
ヨ:・・・!(目を丸くする)
リ:京香先輩からの受け売り!(笑う)いつも仕事に行く前に先輩が気合を入れてくれるの。
ヨ:(笑う)よし、頑張るぞ!
リ:うん!





東京の丸の内。ワイワイバンクの会議室。

ヨンシュンが運命の扉を開けた。








「第15話 そこに居た人」


東京丸の内。ワイワイバンクの会議室。
ヨンシュンが座っていると、ドアが開き、融資部の牧村と上司で支社長でもあるマーク・オットマンが入ってきた。
ヨンシュンは立ち上がり、お辞儀をする。牧村の指示に従い、会社のコンセプト、今回の新事業の概要、日本における市場調査と未来図を、英語でプレゼンした。


オットマンは頷き、

(ここから全て英語で)
オ:あなたは自国でも、いろいろおもしろい事業を展開していらっしゃるが、今後、日本でも同じように展開していく予定はありますか?
ヨ:・・・はい。(新事業以外念頭になかった・・・)
オ:たとえば、今回の美容部門以外にはどんなものをお考えかな? あるいは準備されているのか? 構想だけでも伺いたいな。
あなたがどんな方か、知りたいのでね・・・。


ヨンシュンは一瞬、言葉を失って、怯みそうになるが、頭の中にリコの顔が浮かぶ。
昨日ベッドの中で、ヨンシュンに覆いかぶさるように、彼を見つめて、リコが言った。


リ:万が一だめでも、二人でなら乗り越えられるわよ。私たちはいつも一緒だもん。二人三脚でがんばろ!
そうでしょう? 
後ろ盾なんかなくたって、二人でなら、きっとやっていけるわ!


ヨ:(自信を持って)現在、進行中のものとしましては・・・建物のリフォーム部門を考えております。日本国内で、この部門ではいくつかの新人賞や、快適空間賞をとってきました、建築家でもあり、デザイナーでもある方を今回、スカウトすることができました。

オ:ほお。それはまたずいぶん違った方向から攻めていらっしゃるな。

ヨ:この方は、女性や次世代の若者・子供向けの店舗や学校の設計及びリフォームにおきましては、卓越した力のある人なんです。私どもは女性や子供の美や健康を追求してまいりましたが、リフォーム部門におけるこのデザイナーのコンセプトが、フォースターズ・ジャパンのコンセプトとピッタリなんです。

オ:なるほど・・・。で、なんという方ですか?
ヨ:まだ公には名前を明かすことはできません。あちらのお仕事の関係もありますので、はっきりと発表できる状況になりましたら、一番にお知らせいたします。


この話を聞いて、桔平の目が光った。


オ:わかりました。牧村君。では詳しいことは君からご説明をして。ヨンシュンさん、私はこれで失礼します。


オットマンが立ち上がり、ヨンシュンに手を差し伸べる。


オ:いい仕事をして下さい。期待していますよ。
ヨ:(その手を握り)ありがとうございます。


オットマンが去った後、牧村がヨンシュンに提示したものは、ヨンシュンが考えていたものとはかなり違っていた。

(ここから日本語)
牧:私どもとしましては、ヨンシュンさん、あなたが提示された、条件とは違ったことを考えております。(ヨンシュンの顔をしっかり見つめる)まず、こちらで調べさせていただきましたが、あなたは、この日本での新規事業の全権を任されている、いや、お持ちだ。
というより、まったく、韓国四星物産とは切り離した体系で、こちらの会社を設立されているんですね。その辺がとても不思議で・・・こちらもご融資することに少し躊躇いを感じていたんです。それで、この話も今日になってしまった・・・。まさに、この日本の会社は、あなたの個人の会社ですね?

ヨ:という形を取っているだけです・・・。現在、韓国のセブンバンクが資本金に絡んでいますが、もしご融資いただけたら、セブンとも、韓国本社とも離れ、まったくフリーの会社となります。

牧:ほお。その辺が少し心配でした。
ヨ:しかし、私自身は、韓国の本社の専務ですし、ご存知の通り株主でもありますので、これはただの手続き上の問題とお考えください。


ヨンシュンと牧村がお互いの思惑を持って、じっと見つめ合う。


牧:わかりました。そこで、あなたのご提案の担保は、あなたの韓国本社の持ち株でしたね?
私どもとしましては、それよりも日本のフォースターズ・ジャパンでの出来高に合わせて歩合で、ご融資の返済をしていただきたい・・・。

ヨ:えっ? それは・・・資本を出していただいて、株主に加わるということですか?・・・それでよいのですか?

牧:どう思われます? 肩の荷が軽くなったのか、重くなったのか・・・いかがです? (顔を覗き込む)
まあ、これで、あなたの失敗で、韓国本社がわが銀行に乗っ取られる危険はなくなった訳だ。
しかし、あなたが失敗された時は、首をくくらなければなりませんよ。(見つめる)
ヨ:・・・そうですね・・・でも、牧村さん。私には自信も力もあります。ここは、絶対乗り越えてみせますよ!

牧:そうですか。ではこれでお話を進めていきましょう。
ヨ:ありがとうございます。
牧:ところで、こちらの部長さんはヨンシュンさんの方向性をご理解なさってるのかな?
ヨ:ええ。彼は私の大学の先輩でもあり、友人でもあって、とても信頼できる人物です。
牧:そうですか・・・。それから、新しいリフォーム関係のデザイナーさんも信頼できる人ですか?
ヨ:ええ、とても。私にもっとも近い人です・・・二人で、二人三脚でやっていくことを誓いました・・・。


牧村はヨンシュンの最後の言葉を静かに聞いて、ファイルを閉じた。そして、ヨンシュンをじっと見つめ、


牧:ペ・ヨンシュンさん。あともう一つ。条件があります。
ヨ:なんでしょうか? (首を傾げる)
牧:(顔を睨みつけるように見る)噂では、あなたは来週、韓国のセブンバンクのお嬢さんとご結婚されるとか・・・。それはないですね?
ヨ:・・・。

牧:もし、それが事実だったら、私どもはあなたを信用しませんよ。この話はご破算です。
ヨ:それは・・・ただの噂です。そのようなことは絶対ありません。
牧:本当ですね?(しっかりと顔を睨む)
ヨ:ええ、大丈夫です・・・。私は・・・(堅く決意する)日本の女性と結婚する予定がありますので。それはただの噂です。

牧:・・・わかりました。あなたを信じます。どうか、裏切りのないように・・・。お願いしますね。(顔を覗き込む)これからはパートナーですから。
ヨ:はい。


牧村が笑顔で立ち上がった。そして、握手を求める。


牧:あなたのご活躍に期待していますよ。新事業も、まだ構想中のリフォーム事業も。きっと良いスタッフをお持ちなんだ。
ヨ:ありがとうございます。必ず、ご期待に沿います。(しっかりと牧村の手を握る)






リコは、ワイワイバンクの近くのカフェテリアで、まんじりもせずに、待っていた。
ヨンシュンの今日の成功を祈りながら・・・。

これに自分たちの未来がかかっているのだ。



もし、だめで・・・あの人が自分の家を捨てても・・・。
大丈夫よ。私たちなら、きっとやっていけるわ。やっていくわ! 
できるはずよ。
二人で一生懸命に生きていけば・・・。

それに・・・私たちには、それだけの力も愛もあるはずだもん。




リコがぼんやり、窓の外を見る。ヨンシュンが通りを渡ってやってきた。
リコは彼の姿を見て、心臓が止まりそうなほど、胸がいっぱいになっている。彼が歩いてくる・・・。


彼は私が見ていることを知らない。
気づくかしら・・・?
店を探して・・・。
ヨンシュン、ここよ。
ここにいるわ!



ヨンシュンが店を見つけ、ガラス越しにリコが見ているのを発見する。
一瞬、いつもの恐い顔をして、リコを見つめ・・・そして、ニッコリと笑った。






桔平は、自分のデスクでイスを右へ左へくるくる揺らしてから、電話をかける。


桔:ああ、父さん。お久しぶりです。
父:おお、おまえ、生きていたのか・・。まあ、おまえのことだ、元気だとは思っていたよ。(笑う)
桔:ご無沙汰してしまいました。
父:う~ん。私より、リコが随分心配してたぞ。今、どこにいる?
桔:東京の丸の内です。

父:そうか・・・。それよりどうした? (電話してくるには何か、あったか?)
桔:(明るい声で)いやあ、母さんの7回忌の法要が今年だなあと思って・・・。
父:おまえ、それは12月だよ。気が早いな・・・。しかし、今年は来るんだろ?
桔:はい、必ず、伺います。・・・お仕事、忙しいですか?
父:まあ、今年の夏は暑かったからなあ。老人にはちょっときつかったらしくて・・・随分、忙しい思いをしたよ。しかし・・・本当のところ、どうした? (何があった?)
桔:いやあ・・・ちょっと。娘を嫁にやる父親の心境になりまして・・・父さんをちょっと思い出したもんだから・・・。
父:うん・・・犬でも嫁にやるのか?
桔:まあ、そんなとこです・・・。

父:うむ。(遠くから「住職さん」と呼ぶ声が聞こえる)じゃあ、檀家が法事の打ち合わせにいらしたみたいだから。まあ・・・元気にやりなさいよ。
桔:はい。
父:リコには、ちゃんと連絡入れろよ。心配してるんだから。な。
桔:はい、近日中に。じゃあ、父さん、お元気で。失礼します・・・。


桔平は電話を切って、イスをくるっと後ろへ廻して、窓の外を眺めた。






ヨンシュンがリコをカフェテリアの外へ手招きして呼び出す。
リコが出てきて、心配そうに、

リ:どうだった?
ヨ:心配かけたね。うまくいったよ。(笑顔で見つめる)
リ:そう、よかった!(うれしい。ホントによかった)
ヨ:ちょっと外をブラブラ歩きたい気分なんだ。
リ:うん!


外は爽やかな秋風を感じる季節になっている。


ヨ:僕が考えてたのとは、ちょっと違ったけど。リコはどう思う? 歩きながら話したいんだ。それがね・・・。


二人は明るい午後の日差しを浴びながら、丸の内界隈を話しながら歩いている。
話しながら、なにげなく目に入った店を見ると、ちょっとしゃれた宝石店である。
ヨンシュンがウィンドウを覗く。


ヨ:リコ、入ってみない? あのリング、ステキじゃない?(ウィンドウの中を指差す)
リ:そんな、お金を借りに行く人が何を言ってるの。(笑う)
ヨ:リングの一つくらいは買えるよ。・・・一つくらいはあげたいんだ・・・。(店の様子を覗く)
リ:(ヨンシュンの言葉で胸がいっぱいになる)・・・。
ヨ:一つくらい・・・プレゼントさせて・・・。(顔を見ないで言う)
リ:・・・。いいの? (顔を見ないで言う)
ヨ:うん・・・。でもすごく安いのだよ。(笑う)
リ:いいわよ。値段なんて・・・。(笑って喜ぶ)


ヨンシュンがリコの肩を抱きながら、宝石店の中へ入っていった。







夜、リコの部屋のリビング。
ソファに座って、リコが左手の薬指を愛しそうに撫でながら見ている。10月生まれのリコに、誕生石のピンクトルマリンのリングをヨンシュンが買ってくれた。
18金のホワイトゴールドの台座に大きめのピンクトルマリンが2つ、斜めに双子のようについている。
ヨンシュンが自分たち2人みたいだと言って、このデザインにしようと言った。リコもとても気に入った。

ヨンシュンが缶ビールを持ってキッチンからやってきた。



ヨ:また見てるの? 飽きないねえ。
リ:うん。ぜんぜん飽きない・・・。(また見ている)



ヨンシュンが横に座ってもこちらを向かず、リングを見ている。
ウエストに腕を巻きつけても反応せず、見ている。
もっとリコを引き寄せて、顔に顔を近づけても、見ている。
顔をくっつけて、頬にキスをしても、見ている。
首筋にキスをしても、リングを見ている。



ヨ:(呆れて)僕より今はリングなの?
リ:うん。
ヨ:そんなにいい?
リ:うん。
ヨ:僕の顔を見るよりいい?
リ:もちろん。
ヨ:なんで?
リ:ここに二人の未来が約束されているみたいで・・・うれしいの。
ヨ:ふ~ん。でも、本物の僕のほうがいいと思うけど。
リ:そうお?(リングを撫でる)
ヨ:ねえ・・・。
リ:・・・。(リングを見つめる)


ヨンシュンがリコから手を放し、すっかり呆れ返って、ソファの肘掛にもたれる。


リ:(初めてヨンシュンを見て)どうしてやめちゃうの?
ヨ:・・・?
リ:続けてよ。・・・すごくよかったのに・・・。
ヨ:・・・?
リ:もっと続けて・・・。ヤキモチ焼きのヨンシュンさん!(ヨンシュンを見て笑う)



ヨンシュンが笑って、リコに反撃に出た・・・。










続く・・・。



さて、タクヤたちはどうしたのか・・・?

韓国勢の動きはいかに・・・?
レナは? テヒは? ヨンシュンさんのご家庭は?

なんか静かで不気味です・・・。


2009/05/25 01:36
テーマ:【創】恋のタイトルマッチ カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】恋のタイトルマッチ6



 
↑BGMはクリックして^^
恋のタイトルマッチ主題歌
「結婚して^^」(キョルレジュゲンニ)
歌/チョ・ソンモ









BYJシアターです。


本日は【恋のタイトルマッチ】第12・13話です。



隣のヨンシュンさん(ペ・ヨンシュン)・・・・ ぺ・ヨンジュン (32歳)
相棒のタクヤ(木島拓哉) ・・・・・・・・・ 木村拓哉    (32歳)
私・通称リコ(牧村キリコ)・・・・・・・・・  小雪     (28歳)

ペ・ソンジュン(ヨンシュンの叔父)・・・・・ ホ・ジュノ(ホテリアの支配人・日なたのボクサー)
パク・テヒ(婚約者レナの従姉妹)・・・・・・ キム・テヒ




この物語はフィクションです。
ここに出てくる団体・金融の流れも皆、事実とは異なります。



ではここより本編。
お楽しみください!








恋のタイトルマッチ。
それはたくさんの相手に勝つことではない。

これぞ!と見込んだ相手、好きになった相手と結ばれる。
それが勝利者という称号を手にすることだ。
負けない!
誰に?

自分の弱虫に!


そして、大好きなあなたと結ばれるまで
私は、

頑張る!







【恋のタイトルマッチ】

主演:ぺ・ヨンジュン
   小雪
   木村 拓哉




「第12話 トリプルデート」

ソウル・ヒルトンホテルの最上階「リストランテ・サバンテーニ」。
リコが約束のレストランに向かうと、ヨンシュンとソンジュンの二人が入り口に立っていた。

ヨンシュンは複雑な顔をして、ソンジュンはうれしそうに、リコを見つめた。


リ:お待たせしました。
ヨ:じゃあ、中へ入りましょうか。
リ:あ、待ってください。・・・タクヤもいっしょなの・・・。
ヨ:え? (リコをきつい目つきで睨む)
リ:今、ちょっと寄ってるの。(トイレのほうを指差す)
ソ:お連れがいるんですか?
リ:ええ。
ソ:そうですか・・。中で飲みながら待ちましょう。レナさんたちもまだだし。



レストランのバーに座って、アペリティフを飲みながら、ヨンシュン、ソンジュン、リコの3人が、タクヤが来るのを待っている。

ヨンシュンはリコのまん前に座り、恐い顔をして、熱い目でリコをじっと見つめている。

京香先輩が言った「興味のある女に対して目力のある目」をした、あの時の顔だ。
リコはこういう顔をしているヨンシュンを見るのは胸苦しくて、少し目を逸らし、横を見たりしながら、ヨンシュンをたまに盗み見している。







東京は丸の内。
外資系銀行の融資部の部長席。

桔平がデスクをボールペンでトントンとたたきながら、書類を見ている。


桔:これか・・・。

今朝、取り寄せたソウルからのファックス。
ヨンシュンとレナの写真である。

桔:この子ね・・。(ニンマリ笑う)


四星物産のファイルをじっくり読む。ヨンシュンの母親がここのオーナーの娘であり、父親は養子である。
その絶大な権力を持った母親が選んだ婚約者か・・・。

ふむ・・・。もしかしたら、これは、いけるかもしれないぞ・・・。

レナの父親がオーナーである銀行は、四星物産のメインバンクである。
これだけの後ろ立てがありながら、あのヨンシュンは、日本での新規事業にここワイワイバンク東京支社に融資の申し込みをしてきた。

つまり、ヨンシュンは日本で独立したいのだ。
レナとも手を切りたい・・・。
もしかしたら、韓国においてもこの両者のもたれ合いの関係をバッサリ切り捨てたいのかもしれない。
たとえ、考えられる一番小さな可能性として、あいつが、ただ日本に逃げ込むためにだけに、うちに融資を頼んだとしても、あの会社の御曹司であることには変わりはない・・・。

あいつの持ち株はと・・・ふむ。いいじゃないか!

まずは、あいつを取り込む。うまくいけば、大きな魚が釣れるかもしれないぞ!

第一、 このスキンケアシリーズだって、韓国での愛用者のリピート率は80%。
これは期待できそうだ。

リコ、でかしたな・・・。おまえがチャンスをくれたよ。おまえがやつの不可解な動きにヒントをくれたんだ。

よし、ここは勝負に出てみるか。



桔平が電話を取る。


桔:ミス・原田。融資部の牧村です。支社長をお願いします。(支社長を待つ)ハイ、マーク!(英語)ちょっとおもしろいクライアントがいましてね。少しお時間をいただけませんか?








レストランのバー。

リコは、ヨンシュンから目を逸らし、アペリティフのグラスの中を覗く。なぜか昨日のヨンシュンの顔を思い出してしまう。

ベッドに倒れたリコの顔をやさしく撫でているヨンシュンのなんとも言えない顔・・・。
そして、吐息まで・・・。


あ~。今のリコが深いため息をつく。


ソ:どうしました? リコさん。
リ:ええ?・・ああ。

少し赤い顔をしてソンジュンを見る。ソンジュンがうれしそうにリコを見る。


ソ:緊張してます?(にこやか)
リ:(また、ため息)・・・。
ソ:イップダ~。(見とれる)

リコはソンジュンから目を逸らす。ヨンシュンがソンジュンの最後の言葉にちょっとムッとする。


ヨンシュンもふと、リコの昨日の顔を思い出す。

ヨンシュンの手で頬を撫でられて、彼を愛しそうに見つめ、少し唇が半開きのリコ。

ヨンシュンが思いを払うように、咳払いをする。


ソ:どうした? 喉の具合でも悪いのか?(ノンキに言う)
ヨ:まあね。(下を向く)


ソンジュンがリコを相手に話を始める。


ソ:リコさん、ヨンシュンの婚約者のレナちゃんの親御さんが、うちのメインバンクのオーナーなんですよ。まあ、そんなわけで、レナさんの家とは、深~い繋がりがありましてね・・・。


ヨンシュンがきつい顔をして、そっぽを向いて酒を飲んでいる。
そんな彼をチラッと見て、リコは少し気持ちが重くなる。


ソンジュンさんはどんな気持ちで話してるのかしら。
ヨンシュンさんに釘を刺すため?
うううん、私にも釘を刺しているんだわ。
この男に手を出すなって・・・。


リコが「そうでしょう?」とソンジュンを見つめる。ソンジュンがニコッと笑った。

リコは切なくなって俯く。そして、チラッとヨンシュンを見る。
恐い顔をしていたはずヨンシュンが、リコと目が合って、一瞬、切ない目をした。

リコの心が軋んだ。





トイレに寄ったタクヤだったが、頭の中を整理することはできなかった。

結局、混沌としたまま、男子用トイレから出てくる。
ちょうどその時、二人連れの女性がトイレの入り口に入ってきて、狭い通路で太った女の子と、ぶつかる。


タ:あ、すみません。ぼんやりしていて。(英語で言う)
女:いえ、こちらこそ。(英語)


一瞬、二人は見つめ合う。女がタクヤに見とれる。


タ:失礼します。(英語)


女2:(韓)ねえ、レナ。早くしようよ。もうヨンシュンさんたち、来てるわよ。(トイレのほうへ引っ張る)
レ:(韓)そうね・・・。(ぼんやりしている)
女2:(韓)どうしたの? 顔が赤いわよ?
レ:(韓)ああ、ごめん。急がなくちゃね。

レナはそういいながら、振り返って今出ていったタクヤの後ろ姿を目で追う。


女2:レナ! 何してるの!(呆れる)
レ:(韓)ごめん! テヒちゃん。

二人は化粧室へ入っていく。






タクヤがレストランのバーへ入っていくと3人が座っていた。

(日本語)
タ:お待たせしました。(軽く会釈する)
ヨ:(立ち上がって)タクヤさん、お久しぶりです。(目が笑わない)
タ:そうですね。(昨日、リコを車に乗せたまま、急発進していったヨンシュンを思い出す)
ヨ:叔父さん。こちら、木島拓哉さん。リコさんのお兄さんの友達で、お兄さん代わりなんだ。


この紹介にタクヤがちょっとムッとする。


ソ:そうですか。叔父で副社長のペ・ソンジュンです。(立ち上がってタクヤと握手する)
タ:初めまして。木島拓哉です。



そこへ女性が2人入ってきた。


ソ:(韓)ああ、レナちゃん、来たか。

タクヤがその声に振り返り、テヒを見る。

これは・・・確かに、強敵だ。すごい美人だ!

ソ:(韓)レナちゃん、皆さんにご挨拶して。(レナの肩に手をかける)

タクヤが驚く。レナは、こっちか・・・。そして、この子はさっきの・・・。

レナがタクヤを見てニンマリと笑った。
タクヤはそれを見て、少し背中に汗をかいた。


支配人の案内で、レストランの一番奥の眺めの良い個室に通された。

そこは丸いテーブルで、年長者のソンジュンが皆の席順を決める。


まずは、祝福すべきヨンシュンとレナ、そして、ソンジュン、隣はもちろん、リコ。その隣がタクヤで、次がテヒ。
これでぐるり一周だ。

また、ヨンシュンがリコの目の前である。

ヨンシュンがレナをエスコートして、イスを引き、座らせる。
リコはそのしぐさに目が釘付けである。
見ていて、一瞬、涙が出そうになるが、隣でタクヤがリコを突付き、リコのイスを引いた。

リコは座ってからも、斜め前のレナをじっと見ている。


かわいい・・。ものすごく、かわいい・・・。

思っていたのと違う。写真の印象と違う。ずっとかわいい・・・。
この柔らかな表情・・・。
この人は、きっと痩せたら・・・ものすごく美人にちがいない。テヒさんみたいに・・・。
二人はよく似ている。確か、いとこ同士だった。
今のレナの美しさは、残念ながら、埋もれているけれど・・・。


じいっと切ない目をしてレナを観察しているリコを、ヨンシュンがじっと見つめている。
ヨンシュンの視線には途中から気づいていたが、今、彼を見たら、きっと泣いてしまうだろう。
リコはヨンシュンを無視した。


ソンジュンが、まずは、二人の結婚祝いにと、シャンペンを用意させた。

ソンジュンが音頭をとり、皆で乾杯する。
それにしても、なんとなく、お通夜のようで皆、元気がない。


シャンペンを一口飲んで、リコがふ~と、ため息をついた。

でもその時、リコはふと気がつく。

テヒのため息、OK。
リコ、ヨンシュン、タクヤも、OK。

でも、レナもため息をついたのだ・・・。


リコはレナの顔をじっと見る。

なんで? 
なぜ、ため息をつくの? 
ヨンシュンさんに一途じゃなかったの?



レナの視線が、リコのほうを向く。

リコは一瞬、顔を赤くするが、その視線を点線で伸ばしていくと・・・。

タクヤ? 
タクヤ! 
なんで?!



(日本語)
ソ:タクヤさんはどんなお仕事をされてるんですか?
タ:僕はコピーライターをしています。
ヨ:叔父さん。タクヤさんは、日本の大手広告代理店の電報社でコピーライターをしてるんです。いい仕事をたくさんしてるんですよ。

ソ:へえ、たとえば?

タ:まあ、日本でしか、出されていないものばかりなんで・・・。
リ:(タクヤが自分では言いにくいと思い)タクヤはいろんな賞を取っているんです。ねえ、あれは?この間のチョコレートのコマーシャルは? ロッタのチョコのコマーシャルなんですけど、「チョコをチョッコとかじってチョコ幸せ。チョコチョコかじろうチョコハッピー」っていうのも、タクヤのなんです。


ソンジュンは別に感動もしていないようだが、



レ:え~。そうなんですか?(うれしそうに言う)


今まで静かだったレナが突然、大きな声を上げた。
隣に座っていたヨンシュンがレナを見る。レナは実にキレイな日本語で、


レ:私、あれ、大好きなんです。どんな人が書いてるのかなと思ってたんです。日本の雑誌も大好きで、雑誌でも拝見しました!そうですか・・・あなただったんですか・・・。(感激している)
タ:ええ、まあ。(頷いて、頭を掻く)
レ:私、あと、「君の瞳にコーヒーの海が見える」っていうコピーも好きなんです。なかなか、ああいう発想の人っていないでしょう・・・。

タ:あ、それも・・・僕です。
レ:!(びっくりして口を押さえる) すごい! ねえ、ヨンシュンさん。この方、きっと天才だわ。(ヨンシュンを見る)


ヨンシュンが驚いた顔でレナを見る。
レナがこんなにハッキリと自分の感想を言ったことがなかったので、レナの感動している姿に驚く。
レナは、目をハートにして、タクヤを見つめ、もうリスペクト!という感じだ。

この成り行きに、向かい合ったリコとヨンシュンの目が合い、二人は見つめ合う。二人でちょっと首をかしげるが、二人とも同時に笑みを浮かべた。



ヨ:(レナに向かって)あとでゆっくりタクヤさんにお話を伺ったらどう?
レ:そうね。(ヨンシュンを見て頷く)ステキ・・・。うそみたいだわ・・・あんなステキなコピーを書ける人と、こうして一緒にいられるなんて・・・。



テヒがこの様子に、もうすっかり呆れ返って、「バッカみたい」という顔をしている。

ソンジュンはそれからも一人雄弁で、最初から最後までしゃべり通した。


会はお開きとなり、レナはタクヤにぴったりくっついて広告の話を聞いている。



ソンジュンがリコを誘う。

ソ:このあと、いかがです。二人でどこか行きませんか?



テヒもヨンシュンに、

テ:たまには二人でどこか行ってみない?・・・今日はフィアンセさんも許してくれるはずだもの。

と目をキラキラさせて、モーションをかけてくる。

確かに、今のレナは、ヨンシュンどころではない・・・。
しかし、ヨンシュンも、それどころではない。
ソンジュンとリコの様子を見て、割って入る。


ヨ:叔父さん。リコさんはまだ仕事が残ってるんです。これから、僕たち、仕事に戻りますから。
ソ:そんな。少しくらいいいだろ?
ヨ:だめですよ。仕事で来てるんですよ、リコさんは。だめです、叔父さん。リコさん、行きましょう。(リコの腕をギュッと掴む)昨日、回れなかったところへ行きましょう。
ソ:ヨンシュン! おまえはホントに仕事に厳しいな。(呆れる)



ヨンシュンがリコをどんどん引っ張ってエレベーターホールへ向かう。
そして、エレベーターに乗り、ドアが閉まると、リコの肩を抱き寄せ、軽くキスをする。


リ:ヤキモチ焼き! (ヨンシュンを見つめる)
ヨ:そうだよ。(笑う)韓国の男は皆そうだよ。(リコを見つめる)
リ:そうなの?
ヨ:だめ? (にこやかに、しっかり見つめる)
リ:・・・。
ヨ:(やさしい声で)リコだけがホントに好きだから・・・。許して。(じっと見つめる)
リ:・・・。(切ない目になる)



地下の駐車場でヨンシュンの車に乗り込む。


ヨ:どこへ行こうか?
リ:もう視察はいいの?
ヨ:う~ん、そうだ。(思いつく)やっぱり、昨日の続きをしよう。(ニッコリ、笑う)
リ:まだ、見て回らないといけないの?
ヨ:そうじゃないよ。(ギアを入れる)
リ:なあに?(ヨンシュンを見る)
ヨ:昨日は・・・。(車を発進させる)
リ:・・・?
ヨ:キスしかさせてくれなかったろ?(一瞬、リコを見る)
リ:やだ!(赤くなる)
ヨ:・・・。(ちらっとリコを見る)


二人を乗せた車がホテルを後にした・・・。









「第13話 恋のシャッフル・・・」

ヨンシュンとリコが漢江の土手に座っている。


ヨ:どこか行きたいところ、ある? どこでも連れてってあげるよ。(膝を抱えるように座って、リコを見る)
リ:うううん・・。
ヨ:会社と僕の家だけじゃ、つまらないだろ?
リ:・・・観光に来たんじゃないもん。
ヨ:・・・そうだね・・・。(足元の石を触る)
リ:・・・本当に結婚しちゃうの? (ヨンシュンを見る)
ヨ:・・・。
リ:・・・。レナさんて、かわいい人だね・・・。かわいらしすぎるよ・・・文句が言えない・・・。(ちょっと涙ぐむ)
ヨ:(漢江を眺めながら)日本の事業だけでも、レナのところと縁を切りたかったけど・・・。
時間が足りなかったなあ・・・。(立ち上がって石を川へ投げる)
リ:・・・。






東京オフィスのキム部長席の電話が鳴る。


キ:あ、ワイワイバンクの牧村さん? どうもお世話になります。はい。ペですか、只今、休暇を取っておりまして、ソウルへ戻っております。融資の件ですか? 至急? こちらへ呼び戻す? う~ん。それが本人の結婚式がありまして・・・。えっ? 来週から支社長がアメリカへ行かれるんですか? そうですか・・・。今週中なら、帰れるかもしれません。挙式は来週ですから・・・。





ヨンシュンとリコが漢江の土手を散歩していると、ヨンシュンの携帯が鳴る。


ヨ:(韓)もしもし、キム部長。どうしました? え? ワイワイバンクから? 今、電話が入ったんですか? それで、ちょっと待って。(日)リコ、ちょっとごめん。仕事の打ち合わせなんだ。

リ:うん、いいよ。


ヨンシュンが少し離れた所に移動して、キム部長と電話で話す。(韓国語)


ヨ:それはどういうことですか?
キ:支社長が来週、アメリカへ長期出張に行ってしまうから、今週中に会って話したいって言うんですよ。つまり、明日か明後日しかない・・・。こっちに興味を持ってるようで、いい感触ですよ。
ヨ:そう・・・。(考える)

キ:ヨンシュン。今がチャンスだよ。・・・レナさんから離れたいんだろ?
ヨ:・・・ええ。先輩もやっぱり会うべきだと思いますか?
キ:ああ、伸るか反るかだろ? 東京なら日帰りだってできるじゃないか・・・。
ヨ:ええ・・・。何て言ってソウルを出発したらいいのかな・・・。
キ:う~ん・・・。
ヨ:とにかく、行きます! 逃げ帰りますよ! 伸るか反るかですよね。


ヨンシュンが、離れた場所で一人佇んでいるリコを見る。




ワイワイバンクの桔平のデスク。

桔:はい、はい。明後日ですね。確実ですね? わかりました。お待ちしております。

桔平がキム部長からの電話をおき、ニンマリと笑った。




車に戻って、ヨンシュンが覚悟したようにリコを見つめる。


ヨ:リコ。明日、東京へ帰るよ。(強い目をする)
リ:え? 大丈夫なの? (心配する)
ヨ:うん・・・。東京の銀行が融資の件を考えてくれてるようなんだ。うまくいくかもしれない・・・。
一か八か賭けてみるよ。
リ:・・・。
ヨ:手伝ってくれる?
リ:えっ?





翌日の午前中。社内で。(韓国語)

ソ:ヨンシュン、どこへ行く?(後ろから声をかける)
ヨ:ああ、リコさんが今日、東京へ戻られるので、空港まで送ってきます。(軽く通勤バッグを肩にかけている)
ソ:そうか、随分お早いお帰りだな・・・。よし、わたしが行こう!
ヨ:いいですよ。僕が行きます。最後まで打ち合わせを兼ねてますから・・・。僕が東京不在であちらには本当に迷惑をかけているんですから。
ソ:そうか? うむ・・・。(顔を睨んでいる)
ヨ:その代わり、パクさんの車、使わせていただきますよ。
ソ:(社用車と聞いて安心する)そうか。じゃあ行ってこい。
ヨ:では行ってきます。



ソウルホテルの前。リコが小さなボストンバッグ一つで立っている。
そこへ黒塗りの車が入ってくる。
後ろの窓が開いて中からヨンシュンが覗く。

車は二人を乗せて、仁川空港へ向かう。



タクヤは昨日もらった住所を見ながら、カフェバーに向かっている。住所のビルの2階を見上げると、しゃれた感じの店がある。
2階の窓際の席に座ったレナから、タクヤが通りを渡ってくるのが見える。レナはコンパクトで顔をチェックする。



仁川空港の外。

ヨ:パクさん、ありがとうございました。ゆっくり帰って下さいね・・・。
パ:わかってますよ、坊ちゃん。(笑顔で見送る)

ヨンシュンがリコのボストンバッグを持って、二人は空港へ入っていく。
そして、手に手を取り合って、空港内を走っていく。


ホテルのタクヤの部屋。
リコのスーツケースがおいてある・・・。






タクヤが店に入っていくと、レナが中腰になって、手を振った。


タ:待たせた? すみません。ハングルが読めないものだから、道がよくわからなくて。
レ:ううん。大丈夫です。今日は来て下さってありがとうございます。
タ:本当に日本語が上手なんですね。
レ:ええ・・・。ヨンシュンさんが日本へ進出したいって言ってたので、それで勉強しました。
タ:そう。(胸が痛くなる)

タ:今日はお一人なんですね。相棒は?(笑う)
レ:テヒちゃん? 今日はおいてきちゃった。あんまり広告の話とか好きじゃないみたいだったから・・・。


タクヤも思い出した。美人ではあるが、ちょっと高慢ちきなところがあった。レナに対して、少しバカにした態度を取る女だった。


タ:そうですか。昨日はヨンシュンさんとのデートだって言うのに、ついてきてたから、てっきり今日も一緒なのかなと思ってました。
レ:・・・。
タ:気分を悪くしましたか? 
レ:いえ・・。ホント。今日は一人でよく来られたな。自分でも不思議です。(笑顔)

タ:そうなの? (顔を覗く)

レ:ええ。ヨンシュンさんとのデートもいつも一緒で・・・。ヨンシュンさんに何回も「二人では会ってくれないの?」って言われちゃって・・・。それでも、いつもテヒちゃんと一緒で。私がスローだから、質問もいつもテヒちゃんが答えちゃうの。・・・だから、テヒちゃんが化粧室へ立つと、ヨンシュンさんが、「ねえ、君の考えを話して」って、いつも言われてました・・・。

タ:そう・・・。でも、結婚したら、テヒさんとも、手を切るんでしょ?
レ:(ニッコリする)タクヤさんておもしろい! ヨンシュンさんと、同じこと言うのね。ヨンシュンさんは、「君、テヒも家に連れてくるつもりじゃないよね?」って。「僕は君と二人がいいんだけど」って。(笑う)

タ:そう・・・。じゃあ、あんまり二人で話したことってなかったんだ。

レ:(残念そうに)ええ・・・。ヨンシュンさんてすごくやさしい人なんだけど、時々、恐い顔をするんです。怒ってるみたいに。とっても目つきが恐くて。見つめられると、ドキドキしちゃって・・・。それがイヤで、テヒちゃんと一緒にいるうちに3人が普通みたいになっちゃって・・・。



タクヤはヨンシュンを思い出した。
昨日も、前に座っていたリコを怒ったような恐い目つきで見つめていた。
でも、リコが切なそうに見つめ返すと、その瞳は少し翳って、やさしくリコを見つめ返した。


タ:別に、怒ってるわけじゃないと思うよ。彼は・・・ヨンシュンは・・・物事にものすごく集中していると、ちょっと目つきがきつくなるだけなんですよ。たぶん、そういう時はそれに集中している。レナさんに気持ちが集中してたんですよ。


そういって、タクヤはヨンシュンの気持ちに気がついた。
ヨンシュンはレナが好きなんだ。いや、好きだったんだ。
今はリコを愛しているんだ・・・。



タ:だから・・・きっと結婚したら、テヒさんがいなくても幸せになりますよ。

レ:・・・。(下を向く)私が彼の言うことを聞かないで、いつもテヒちゃんと一緒だったので、ある瞬間から、ヨンシュンさんは・・・やさしいだけの人になりました。(少し涙ぐむ)
でもなんか。それから・・・ぜんぜん熱がなくなったというか・・・。
婚約式の前の日に、日本へ行っちゃったし・・・。

タ:そう・・・。(レナを見つめる)


レ:ところで、タクヤさん。広告のコピーだけじゃなくて、作詞とかやればいいのに。きっとステキだわ。

タ:・・・実は裏家業でやってるんです。名前を変えて。何個かやってるんだけど・・・。
『君は恋を切りとった』っていう歌があるんです。シュマッシュっていうグループが・・・。
レ:知ってます! というより、あの歌、大好きなんです。あれ、聴くと泣けちゃって。
『君はハサミも使わず、恋を切りとった』っていうとこが好き・・・。引きちぎられる感じがして、血を流して、恋を諦めていく感じがなんとも言えなくて、泣けちゃって、好きなんです・・・。

タ:(驚く)そう! わかってくれるの?!(すごい!)



タクヤが家で初めてCDをかけた時、リコが歌詞カードを見て、

リ:「ハサミも使わず・・・」ってこれ・・・ふ~ん・・・。なんか・・・。(解せない)

リコには、タクヤの持つ感性が今一わからず、タクヤはがっかりした記憶がある。




レ:すごく心の痛みが出ていて、いい詩でしたよね・・・。(感動している)
タ:(レナをじっと見る)レナさんてすごく美人なんですね・・・。
レ:えっ?
タ:さっきからそう思ってたんだけど、顔のパーツがテヒさんにそっくりなんですね。でも表情がすごくやさしくて。ホントにキレイですね。

レ:・・・。ありがとう・・・。そう言ってくれたのって、ヨンシュンさんとタクヤさんだけだわ。

タ:彼もそう言ったの? (驚く)

レ:ええ・・・。君ってすごくキレイだって・・・。テヒにそっくりだけど、比べ物にならないって。(赤い顔になる)
タ:そうなんだ・・・。




タクヤは、もしかしたら、ヨンシュンってやつは本当にいいやつかもしれないと思った。

実は、自分とヨンシュンはすごく好みがよく似ていて・・・まあ、自分はぺーさんは笑えないが・・・あいつはモノの本質をしっかり見極められるやつかもしれない。

タクヤは少しうれしくなった。

リコはヨンシュンに託してもいいかもしれない。


もし、テヒがいなかったら、ヨンシュンはなんの迷いもなく、このレナと一緒になっていたかもしれない。
そして、自分も、あんなに長い間同居を続けていなければ、リコにすんなりと恋心を打ち明けていたかもしれない。

まったく皮肉だ。

しかし、もしかしたら、これは・・・。
もっと自分に合った人、理解し合える人に巡り会うための・・・。



タ:レナさん、ヨンシュンと結婚して幸せになる自信がありますか?
レ:え?・・・・。(少し俯いて悩む)
タ:もし、時間があれば・・・。レナさん、僕は、あなたがとても気に入りました。あなたがすごく愛しく思えます・・・。

レ:(顔を見上げる)・・・タクヤさん!




二人は静かに見つめ合った。








続く・・・。










日本に逃げるように旅立ったヨンシュンとリコ。

お互いの感性が惹かれあうタクヤとレナ。


さて、この恋の続きは・・・お楽しみに!


ところで、もうお気づきだと思いますが・・・レナちゃんは、キム・テヒさんの二役です・・。





2009/05/22 01:01
テーマ:【創】恋のタイトルマッチ カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】恋のタイトルマッチ5










BYJシアターです。


本日は第10・11話です。


隣のヨンシュンさん(ペ・ヨンシュン)・・・・ ぺ・ヨンジュン (32歳)
相棒のタクヤ(木島拓哉) ・・・・・・・・・ 木村拓哉    (32歳)
私・通称リコ(牧村キリコ)・・・・・・・・・  小雪     (28歳)

近くのソナ(キム・ソナ)・・・・・・・・・・  ユンソナ
ペ・ソンジュン(ヨンシュンの叔父)・・・・・  ホ・ジュノ(注:ホテリアの支配人、日なたのボクサー)








ではここより本編。
お楽しみください!








恋のタイトルマッチ。
それはたくさんの相手に勝つことではない。

これぞ!と見込んだ相手、好きになった相手と結ばれる。
それが勝利者という称号を手にすることだ。
負けない!
誰に?

自分の弱虫に!


そして、大好きなあなたと結ばれるまで
私は、

頑張る!







【恋のタイトルマッチ】

主演:ぺ・ヨンジュン
   小雪
   木村 拓哉







「第10話 お家の事情」

副社長室でデスクのイスにふんぞり返って、ぺ・ソンジュンが社長のぺ氏と電話で話している。(韓国語)


ソ:ああ、先ほど来社して、今ヨンシュンと店舗を見て回ってますよ。
社:それで、いい女じゃないんだろうな?
ソ:え、まあ・・・仕事だけできる女ですよ。(笑う)
社:うむ・・・。まさか、足の長い、顔が面長の、背の高い女じゃないだろうな?
ソ:背ですか? (ドキッ!)いやあ・・・私の距離からはよくわかりませんでした。なんせ離れていましたから。
社:うちの会議室はそんなに広くはないだろ。
ソ:いや、そのう。ハハハ・・・。(笑ってごまかす)
社:その上、美人じゃないんだろうな。
ソ:まあ、それほどじゃあなかったような・・・。私のところからは霞んでしまって。ハハハ・・・。
社:う~ん。心配だな。・・・まさか、ヨンシュンはその女に手を出してなんかいないだろうな?
ソ:社長、兄さん。(ちょっと咳払いをする)大丈夫ですよ。それが・・・いやあ、お恥ずかしい話ですが、ヨンシュンに頼んで彼女を紹介してもらおうかと思ってまして・・。
社:なぜ? おまえの相手にか?
ソ:はあ・・いやあ、私好みというか・・う~ん、なかなか・・。一目でぐっと来るものがありまして・・・。
社:やっぱり、痩せた女か! 背の高いキレイな女なんだな! そんなのが出てきて・・・うちのママさんに知れてみろ! あいつが、一番、嫌いなタイプじゃないか!(困り果てる)




「ハア~クッション!」
広いリビング・ダイニングで大きなくしゃみがこだまする。
50代後半と60そこそこのご婦人が二人並んで、ダイニングテーブルで、フラワーアレンジメントをしている。

白を基調としたこのリビング・ダイニングは軽く40畳近くはあり、太陽の日差しがさんさんと入って、明るく陽気な雰囲気だ。
カーテン、ソファ、クッション、至るところに花柄が点在して、大きなバラ、小花といろいろな花柄が、花柄on花柄といった形で重なり合っている。
しかし、そのセンスの良さか、いやらしさがなく、上品にかわいらしく、温かな空間を作り出している。


(全て韓国語)
妹:お姉ちゃま、お大事に。(横に座っている姉を横目で見る)
姉:また、うちのパパさんだわ、きっと。いつもいつも噂話ばかりして。(ふっくらした手でバラをオアシスに挿す)
妹:お姉ちゃま、本当にヨンシュンちゃん、レナさんに決めちゃったのね?
姉:もちろんよ。私の見初めた子だもの。不足はないはずよ。(ふっくらした手でハサミを持つ)

妹:なんか、お姉ちゃまには申し訳ないけど、私から見たら、もっといい縁談あるような気がするのよね。あんなにキレイでいい息子を持っていて、よくあの子に決められたわね?
姉:あら、やさしい、いい子よお。レナちゃんは。(ふっくらしたお顔が妹を見る)
妹:ふ~。でもね、あのくらいのいい子なんて、もっとキレイどこでもいるはずよ。(細い指でラベンダーを一本選ぶ)

姉:そりゃあ、ヨンシュンは・・そう、今はキレイよ。でも私の子ですもの。いつかきっと、かなりの体格になると思うのよ。その時に、お嫁さんだけピカピカっていうのがいやなのよ。
妹:(痩せこけた横顔で)でもお姉ちゃまに似るかどうか、わからないじゃない? もしかしたら、私みたいにスレンダーかも。同じ姉妹でもこうですもの。お姉ちゃま、決め付けちゃだめよ。

姉:でもね、フフフ・・。(うれしそうに笑う)うちのパパさんは、このふっくらお胸がいいんですって。(色っぽい目つきで妹を見る)
妹:そう・・・(呆れてから、咳払い)まあ、どっちでもいいけど。レナさん・・・あの勢いでいくと、30前には100キロは越すんじゃない? その時は、お姉ちゃまがヨンシュンちゃんのお世話をするのね。(にんまり笑って姉を見る)


姉妹で一瞬、睨みあうが、姉が妹のアレンジメントを見て、


姉:やっぱり、作品は人を表すのかしら、ミスクちゃんのは寂しい感じね。(妹のを見て言う)
妹:あら。これ、高原っていう題なの。涼やかでしょう?(ラベンダーを基調にしている)
姉:まあ、よござんす。このお部屋にはやっぱり、これだわ。我ながら上出来だわ!(バラを豊富に挿したダイナミックな作品である)


姉はリビングテーブルの上に自分の作品を置くと、ふっと思い付く。



姉:そうだわ。うちの体重計って100キロまでしか計れないの・・・買いなおしておこうかしら・・・?
妹:お姉ちゃま!(呆れる) それよりもダイエットよ! 長生きしないわよ! 本当にヨンシュンちゃんがかわいそう・・・。






「ハックション!」
ソウルの店舗の視察に行ったヨンシュンがくしゃみをしている。

リ:お大事に。(顔を見て)かわいいレナさんが噂しているのかしら? (そういって店内を見回す)
ヨ:リコ。(つれなくされて、リコの後を追う)

リコはヨンシュンを無視して、どんどん店内を見て、メモを取っていく。ちょっとヨンシュンを盗み見すると、しょぼくれてリコを見ている。ほんの少し、見つめ合うが、またリコは店内を見てメモを取る。

リコがあんまりにつんつんしているので、女店員がヨンシュンに声をかける。(韓国語)

店:専務。あの方、少し変わってますよね・・・。
ヨ:え? ああ。外国の人だから・・・。
店:はあ・・?




車に戻って、二人は運転席と助手席に座っている。ヨンシュンがハンドルにもたれて、リコを見ている。リコはメモ帳をバッグにしまって、前を見て座っている。

リ:(つっけんどんに)次へ行かないんですか? 時間がもったいないですよ。私は仕事に来ているんですから・・・。
ヨ:(リコをじいっと見ている)いいよ、行かなくても。・・・リコの内装のほうがステキなのはわかってるんだから。
リ:(胸が苦しくなって、ヨンシュンを見る)ここに来た意味があったのかな・・。ちょっとバカみたいだったかな・・・。でも何も変わらないってことがわかっただけでもよかったのかしら?



二人はじっと見つめ合う。


リ:(俯いて)ホテルに帰ります。ソウルホテルに送ってください。


ヨンシュンは返す言葉が見つからなくて、仕方なしに車を出す。

ソウルホテルの前に着くと、リコがドアに手をかける。



リ:ありがとうございました・・・。明日、デートでしたよね? ダブルデート。(ヨンシュンを見つめる)
ヨ:リコ、やっぱり、僕は・・・。(辛そうな顔をする)



その時、ホテルの中からタクヤが出てきた。ヨンシュンの車の方を心配そうに見て、ヨンシュンに軽く会釈をする。ヨンシュンも会釈するが、急に胸が苦しくなってくる。


ヨ:タクヤさんと来たの? (目はタクヤを見ている)
リ:ええ、心配で一人じゃソウルにやれないって・・・。


ヨンシュンとタクヤがじっと見つめ合っている。二人とも一歩も引かないといった睨み合いである。


ヨ:リコ。もう少し二人で話をしよう。(ギアを入れる)
リ:話すことなんてもう・・・。


リコの言葉も聴かずに、ヨンシュンがいきなり車を発進させた。


リ:ヨンシュンさん、どうしたの? 私、ホテルへ帰ります。降ろして。
ヨ:だめです・・・。(前を見ている)
リ:ヨンシュンさん!
ヨ:君だって、気持ちを決めてきたんでしょ? ここまで来るということは。(横目できつく見る)
リ:え?






タクヤがベッドの上で寝転んで電話をしている。


タ:そう、二人でどこか行っちゃった・・・。え? 京ちゃんも来たければくれば? そんなに忙しいの? ふ~ん、そうか。んじゃね、うん、切るよ。バアイ。


タクヤは寝転んで、ちょっと切なそうな顔をする。





ヨンシュンは家の門を無線で開け、車で敷地の中をすうっと走り、家の前で車を止める。かなりの豪邸である。


リ:ここに住んでるの? すごいのね。(車の中から外観を見る)
ヨ:降りて・・・。(ちょっと命令口調)
リ:うん・・。


二人が玄関を入ると、お手伝いさんが出てきて、(韓国語)


手:坊ちゃま、お帰りなさいませ。
ヨ:只今。母さんは?
手:いらっしゃいますよ。ミスク様もお見えです。
ヨ:そう。(日本語)リコ、入って。母がいるみたいだし、母の妹も遊びに来てるみたい。
リ:そうなの。(フー!)お邪魔します。


二人でリビングへ入っていく。


ミ:(韓)まあ、ヨンシュンちゃん、お久しぶり。叔母ちゃまにお顔を見せて。まあ、いつもステキね。ピカピカね。あら?(後ろを見る)
母:(韓)ヨンシュン。あら?(後ろを見る)


二人が後ろから入ってきたリコをじっと見る。


ヨ:(韓)紹介するよ。牧村キリコさん、通称リコさん。母さんたち、日本ツアで覚えた日本語で話してよ。(リコに向かって日本語)結構二人とも日本語、うまいんだよ。リコさん、母に、ミスク叔母さん。
リ:(韓)初めまして。
母:(韓)初めまして・・・。
ミ:(韓)初めまして。キレイな方ね。

母:(韓)どんなお付き合いの方?
ヨ:(韓)東京のショールームや店舗の内装を手がけてくれてるデザイナーで、建築家でもあるんだ。優秀な人なんだよ。
母:(韓)そう? 今日はどんな御用?
ヨ:(韓)うん、こっちの店舗を見にいらしたんだ。母さん。僕が公私ともに仲良くしてもらっているので、よろしくね。(しっかり母を見る)
母:(韓)公私ともに?
ヨ:(韓・強い目つきで)そう、公私ともに。
母;(韓)まあ。(心配そうにリコを見る)

リ:(母親の様子を見て)なんて紹介したの? ちょっとショックを受けたみたいなお顔をさせてるわ。
ヨ:(日)そうだね、ちょっとショックなことを言ったから。
リ:なんて?
ヨ:(日)いいんだよ。さあ、僕の部屋へ行こう。
リ:ちょっと待って。そんないきなり、お部屋を訪ねられないわ。お母様に失礼じゃない?
ヨ:(日)う~ん。(母たちを見る)
母:(韓)ねえ、ここでお茶でもどうお? ミスクちゃんも来ていることだし。
ミ:(韓)そうよね。そのお嬢さんをよく観察したいわ!(リコを見つめる)




リビングに4人で、座る。どういうわけか、リコを挟むようにソファに3人で座り、ヨンシュンだけ一人、離れて一人がけに座る。
リコが緊張して目を伏せている。とてもお茶を飲むどころではない。


ミ:(韓)お姉ちゃま、この人、お肌がキレイだわ。きめがとっても細かいわ。シミも全然ないわね。唇なんてプルプルよ。
母:(韓)ホント。(日)リコさん、お肌がキレイね。何でお手入れしているの?
リ:え、ええ? ああ・・・う~ん、ああ、ぺ社のホームスキンケアシリーズです。


ヨンシュンが口からケーキを吐き出しそうになり、むせる。


母:(韓)まあ、そうなの?(よ~くリコの顔を見る)(日)そう、いいのね。私、使ったことがなくて。どれがいいの?
リ:(目を丸くする)ええと、まず、石鹸がいいです。
母:(日)どんな風に?
リ:(ヨンシュンを見ると、ヨンシュンが目をまん丸にしてリコを見ている)ええと、成分にですね・・・ナノ化された黄土が入ってまして、毛穴の汚れをよく落とすんです。(言えた・・ホッ!)
ミ:(日)それで?
リ:ええっと・・・(ヨンシュンがまん丸お目目で手に持っているミネラルウォーターを指差す)ミネラルウォーター・・?(少し考えて)ミネラルが豊富に含まれているので、お肌がすべすべになるんです。
母:(日)まあ、そうなの。すごいわ。他に何かある?
リ:(ヨンシュンが何かを搾り出す真似をする)ええと・・(ヨンシュンが塗る真似をする)クリームが(ヨンシュンの目が違うと言っている)クリーム状の・・・ああ、クレイパックがとっても効果的なんです。(ホッ!)
母:(韓)やっぱり、パパさんの会社のものはいいのね。
ミ:(韓)お姉ちゃま、今度使ってみましょう。
母:(韓)そうね。レナちゃんにも勧めなくちゃ。もっとリコさんみたいにキレイになってもらわなくちゃ。


レナという名前が聞こえて、リコがちょっとシュンとする。


ミ:(韓)お姉ちゃま、そんなことよりこの人をもらっちゃった方が早いんじゃない? スタイルもいいし、美人で頭もよさそうよ。
母:(韓)ミスクちゃんたら!(睨む)


姉妹で睨みあう。


リ:どうしたの?(二人の会話がわからず驚く)
ヨ:(日)さあ、上へ行こう。(韓)母さん、叔母さん、またあとで。僕たち、僕の部屋へ行きますので。
母:(韓)まあ、ヨンシュン!
ヨ:(韓)別に変なことはしないよ。ただ話をしたりアルバムを見たりするだけだよ。
母:(韓)そう。(ほっとする)
ヨ:(日)さあ、来て。(リコを誘う)


リコは挨拶をして一緒にヨンシュンの部屋へ上がった。


ミ:(韓)ヨンシュンちゃん、あの子が好きなのね。なかなか良さそうじゃない?
母:(韓)何言ってるの? 来週結婚するのよ。
ミ:(韓)でもまだ結婚してないじゃない?
母:(韓)そうだけど・・・。
ミ:(韓)このままだと、一生デブの家系よ。ヨンシュンちゃん×レナちゃんでだんだんに肥大していくわよ。(きっと睨む)


母は困り果てた顔をしながら2階のほうを見ている。








「第11話 恋の駆け引き」


ヨンシュンは自分の部屋のドアを開け、電気をつけずにリコを中へ入れた。リコは「え?」という顔をするが、ドアを閉めるなり、リコをぎゅっと抱きすくめて熱烈なキスをする。リコはぼーっとして暗闇の中でヨンシュンを見つめた。


ヨ:やっぱり、リコが好きだ・・・。
リ:そうなの?
ヨ:リコは? 今でも好きでいてくれる?(少し甘えた声で言う)
リ:うん・・・。(ため息交じりに言う)


ヨンシュンがまた抱きしめてもう一度、キスをする。二人の吐息がもれる。

ヨンシュンがパチンと電気をつけた。
急に二人の顔がはっきりした。ヨンシュンがリコを見て笑った。


ヨ:もうすぐ母さんがジュースを持ってくると思うから。(笑っている)こっちへ座って。


ヨンシュンの部屋は広く、20畳くらいで奥がベッドルームで手前に机とソファやテレビが置いてあった。
リコはソファに腰かけ、ヨンシュンが書棚からアルバムを出すのを見ている。


ヨ:きっとリコは驚くと思うけど。これ見ても、好きでいてくれるとうれしいな。中学校の頃の写真なんだけど・・・。
リ:なあに? おもしろい写真?
ヨ:まあね。これ!(笑いながら差し出す)


そこには、超ふっくらしたヨンシュンがいた。


リ:え? これヨンシュンさん? びっくりだわ。ずいぶん変わったのね。(少しおかしくて笑顔になる)
ヨ:キライになった?(ちょっと心配そうだが、目が甘えている)
リ:うううん。もっと好きになった。
ヨ:ホントに? (うれしそう)
リ:うん。かわいいもん、この子。それに今のあなたはすごくステキだし。(ヨンシュンに微笑みかける)
ヨ:ありがとう・・・。リコ。


ドアをノックする音がして、母が入ってきた。


母:(韓)どうお? 楽しくお話しているの?
ヨ:(韓)そうだよ。だから、母さんは下へ行ってて。
母:(韓)ヨンシュン・・・あなた、来週のこと、ちゃんとわかっているんでしょうね?
ヨ:(韓)う~ん。(知らん顔してジュースを飲む)
母:ヨンシュン?
ヨ:(韓)母さん、リコのほうが好きなのはわかってるよね? この人のほうが大事なのはわかってるよね?
母:ヨンシュン・・・・。
ヨ:(韓)後で話すよ。母さんが心配するようなことは起こらないから。大丈夫だから。
母:(韓)そう? じゃあ。(出て行く)



リ:心配そうだったわね。
ヨ:うん。来週のことはわかっているのかと聞かれたよ。
リ:それで?
ヨ:・・・。(答えない)
リ:それで?(前より強く言う)
ヨ:僕がリコのほうを好きなのはわかっているでしょ。この人のほうが大事って言ったんだ。
リ:そんなこと言っちゃったの・・・?
ヨ:う~ん。・・でも言わないともう時間がないだろ?
リ:だけど・・・。
ヨ:君は結婚を阻止するためにきたんでしょ?
リ:だけど・・・。あなたのお母様って人が良さそうな方だし・・・。ちょっとかわいそう・・。
ヨ:そうお? 僕に何も言わないで勝手に結婚決めたりする人だよ。
リ:でもちょっとね・・・。



母親がドアの向こうで話を聞いている。そして、ため息をついて去っていく。
 

ヨンシュンがリコの隣に座ってリコを抱きしめる。


リ:ちょっと待って。(ヨンシュンを押し戻す)
ヨ:なぜ? さっきはキスしたのに・・・。 
リ:そうだけど・・・なんだかよくわからなくなってきちゃったの。
ヨ:僕がいやになった?
リ:そうじゃなくて・・・もしかしたら私たち、国が違うだけじゃなくて家庭環境も違って、全然違って、本当に二人でこうして一緒にいていいのかしらって。

ヨ:自分の気持ちは?
リ:そうだけど・・・本当によかったのかしら・・・ここへ来て・・・わからない・・・わからなくなっちゃったわ。
ヨ:リコ。(見つめる)
リ:今日は帰ってよく考える。送って。(リコが立ち上がると、ヨンシュンがリコの手を引っ張る)
ヨ:リコ・・・やっぱり、僕は君を忘れられないんだ。
リ:・・・。考えさせて。あなた・・・さっき、タクヤがいたから、焼きもちでそう言ってない?


ヨンシュンが力いっぱいリコの手を引き寄せて隣に座らせる。


ヨ:それじゃだめなの? 焼きもち、焼いちゃだめなの? あの人に絶対渡せないって思っちゃだめなの?
リ:そうじゃなくて、純粋に好きかってこと。

ヨ:そんなの、当たり前でしょう? 好きなんだよ、リコを。君は僕の家を見て嫌になったんじゃないの? 母や叔母を見て。僕の周りはたくさん家族がいるからね。・・・とてもうるさいくらい・・・。
リ:・・・。もう一度、整理させて。お願い・・・。


見つめ合う。


ヨ:・・・。送っていくよ。(立ち上がる)
リ:ごめんなさい・・・。
ヨ:・・・いいんだよ。
リ:・・・・。
ヨ:行こう。
リ:うん。





ソウルホテル。
ヨンシュンが部屋の前まで送ってきた。リコがドアを開けるのを見ている。


ヨ:(躊躇ってから)タクヤさんと同じ部屋?
リ:まさか。違うわ。マンションだって、お部屋は違うわよ。(カードをドアに差し、ドアを開ける)
じゃあ・・・。(別れを言ってるくせに目はヨンシュンをじっと見つめている)


ヨンシュンが開いたドアを押さえる。リコとしばし見つめ合う。そして、ヨンシュンは自分の体でリコを中へ押し込むように部屋に入っていく。


リ:待って。ねえ、待って。
ヨ:だめなの? どうして・・・?
リ:だって、だって、ヨン・・・・。


ヨンシュンが後ろ手でドアを閉めた。







次の日。
リコとタクヤがホテルのダイニングで朝食をとっている。


タ:昨日、なんかあった?(心配そうな顔をする)
リ:えっ?・・・別に。(顔色が冴えない)
タ:二人で消えたじゃないか。
リ:うん・・・。ヨンシュンさんの家へ行った。
タ:・・そうなの?
リ:うん。豪邸だった・・・それに、お母様と叔母様がいて・・・。あ~。どうしよう・・・。

タ:何か言われたのか?
リ:うううん。でも・・・。あ~。(ため息をつく)ヨンシュンさんがお母様に、私のことを大切な人って紹介して・・・お母様が困った顔して・・・。(額に手を当てる)
タ:・・・・・。よかったじゃないか・・・。(胸がざわざわしている)
リ:すごくいい人なの、お母様って。なのに、私のことで傷つけちゃって・・・。
タ:・・・でも、一緒になりたいんだろ?
リ:うん。今はね・・・。(俯く)




リコの頭の中を昨日のことがよぎる。

ホテルのリコの部屋。ドアから少し入ったところで、


ヨ:なぜ? 好きなのになぜだめなの?
リ:・・・だめよ、だめ。
ヨ:どうして・・・僕が婚約しているから?
リ:わからない、わからないの。今、頭の中が混乱してるの。あなたの家庭を壊していいのか、わからないの。
それに・・・やっぱりだめ。(きっぱり言う)
ヨ:なぜ?


リコはヨンシュンを見つめる。


リ:あなたを忘れられなくなる。(強い視線で見つめる)だめよ。
ヨ:じゃあ今なら、忘れられるの? 僕はリコを忘れたくなんかないんだよ。(見つめ返す)
リ:あ~もう。(ため息をつく)悲しくさせないでよ。


ヨンシュンがリコを力づくで引き寄せ、抱きしめようとする。


リ:もう、もう。(ヨンシュンの胸をたたく)意地悪よ、あなたは。すごく・・・。(少し涙ぐむ)
ヨ:・・・・。ごめん・・・。(手を放す)僕は最低だ。いつも君を追い詰めるだけで・・・。
リ:・・・。(切なく見つめる)
ヨ:ごめん・・・帰るよ。


ヨンシュンがドアに向かう。ドアノブを掴む。
後ろからリコがヨンシュンの腕を掴む。
ヨンシュンが振り返った。


リ:(じっと見つめて)やっぱり・・行かないで・・・。







今、タクヤの前で、リコはため息をついて、辛そうな顔をしている。
タクヤも慰めようがなくて、じっと見つめている。


タ:今日はどうするの? あいつと会うの?
リ:うん・・・。でも、(言いたくない)ダブルデートなの・・・。(コーヒーカップの中を見ている)
タ:えっ? 何それ?

リ:ヨンシュンさんと婚約者の人と・・・ヨンシュンさんの叔父さんと・・・。
タ:何それ? もしかして、その叔父さんをリコに押し付けようっていう魂胆なの? (ちょっとムッとする)
リ:違うの。叔父さんが私たちのこと、知らないで私を紹介してくれって・・・。
タ:(怒った顔をする)なんだよ、それ! おまえ、それに行くのか。そんなバカにされていいのか!
リ:だって、しょうがないじゃない。あっちは私がただ仕事で来てると思い込んでるんだもん。

タ:そんなのに、行くなよ。(情けない!)やめろよ。ヨンシュンてあいつ、何考えてるんだよ。リコのこと、ホントに愛してないの? オレだったら、そんなバカなデート、引き受けないよ。
リ:タクヤ、怒らないで。彼を怒らないでよ。
タ:(もどかしい)リコ! おまえを一人でなんか行かせないよ。そんなみじめなデートなんかに。オレも一緒に行く!
リ:えっ?
タ:当たり前だろ。おまえ。おまえってやつは・・・。(くやしい!)バカだよ、やつの彼女に会うなんて・・・。
リ:タクヤ、落ち着いて。
タ:落ち着けるはずないだろ。なら、言ってやれよ。その女に。「私たちは愛し合ってます」って。
リ:タクヤ!
タ:おまえが言えないようだから、オレも行く。おまえをほっとけないよ。
リ:タクヤ・・・。



午前11時30分。ソウルのヒルトンホテル、最上階「リストランテ・サバンテーニ」で、ダブルデートならぬプラス1のデートとなった・・・。







続く・・・。




昨日は、気持ちの確認はできたのでしょうか。

揺れ揺れのリコ、ヨンシュン、そしてタクヤ。

いよいよ、レナちゃんも登場してきますよん・・・。

さあ、どうなる!






お楽しみに!




2009/05/19 23:51
テーマ:【創】恋のタイトルマッチ カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】恋のタイトルマッチ4











BYJシアターです。



本日は【恋のタイトルマッチ】第8・9話です。
私がこの作品が好きなのは、ものすごいラブシーンがあるわけでもないのに、
全編で甘く香る恋心・・・それは心地よく温かいです^^



隣のヨンシュンさん(ペ・ヨンシュン)・・・・ ぺ・ヨンジュン (32歳)
相棒のタクヤ(木島拓哉) ・・・・・・・・・ 木村拓哉  (32歳)
私・通称リコ(牧村キリコ)・・・・・・・・・・  小雪    (28歳)

近くのソナ(キム・ソナ)・・・・・・・・・・・・  ユンソナ
京香先輩(佐藤京香)・・・・・・・・・・・・  鈴木京香

ペ・ソンジュン(ヨンシュンの叔父)・・・・・  ホ・ジュノ(注:ホテリアの支配人・日なたのボクサー)





ではここより本編。
お楽しみください!








恋のタイトルマッチ。
それはたくさんの相手に勝つことではない。

これぞ!と見込んだ相手、好きになった相手と結ばれる。
それが勝利者という称号を手にすることだ。
負けない!
誰に?

自分の弱虫に!


そして、大好きなあなたと結ばれるまで
私は、

頑張る!







【恋のタイトルマッチ】

主演:ぺ・ヨンジュン
   小雪
   木村 拓哉








「第8話 お願い。まだ待って!」


ソ:何、驚いてるの? あれだけの人だもん、そんな人、いておかしくないでしょ? それより日本まで追ってくるなんてね・・・。(感心している)
リ:どういうこと?


婚約者がいる分際で、私を口説こうとしたの? そうなの!?



ソナがリコを駅へ送りながら、事情を説明している。


ソ:先輩とレナって、幼馴染なの。親が仲良しでね、まあ、上流家庭ってこともあるけど、子どもの頃に親が決めたいいなずけなのよ。レナはそのまま、先輩が好きで結婚を望んでいたんだけど、ヨンシュン先輩はそういう関係が嫌だって、自分で相手は探すって言って、婚約式の前日に、日本へ来ちゃったの。本当は婚約式を挙げてから来るはずだったみたいだけど・・・。
リ:(それで早く来日したんだ)それで、婚約者のような、違うような、なのね。・・・ステキな人?
ソ:それはね・・・。とにかく、血筋も学歴も揃ってる人よ。だって、先輩だって、揃ってるでしょ?
リ:ふ~ん。(なんか落ち込む)

ソ:どうしたの?・・・ねえ・・・えっ、うそ? リコ、あんた、先輩、好きなの?
リ:(憮然としながら、顔を赤くして、ソナを見る)・・・。
ソ:そうなの?(言いにくそうに)それは・・・。高嶺の花だよ・・・ああいう人は。あそこの会社の御曹司だもん。・・・まして・・・外人とは、結婚しないよ・・・。(横目で見る)
リ:・・・。(悲しそうにソナを見る)
ソ:やだ、本気なんだ。(本当!と言う顔でリコの顔を見る)
リ:だって・・・。
ソ:だって?
リ:昨日、友達じゃイヤだって。好きだって、自分から言ったくせに・・・。(さっきだってキスしたくせに!)
ソ:そうなんだ・・・。


駅前通りの歩道で、二人はやるせない顔つきになり、ソナがこれから出勤するリコの腕をぎゅっと握りしめてやる。





通勤電車の中。
ドアのところに立って、リコが外の景色を眺めている。


高嶺の花か・・・。ただの隣のヨンシュンさんではなかった。まあ、そうだよね。若いのに、あれだけのプロジェクトを引っ下げて来日してるだもん。冷静に考えれば、とても簡単にわかることだったなのに・・。

なのに、勘違いした・・・。 勘違いなの?
ヨンシュンさんは言ったんだよ。友達じゃイヤだって。もっと近づきたいってことでしょ?
好きだって言ったんだよ。キスまでしてるんだよ、私の勘違いじゃないよね・・・?
そうだよね、ヨンシュンさん・・・。

一人やるせない顔になる。






あれから、3日経ち、リコはなんか、スッキリしない日々を過ごしている。
もし、ヨンシュンが愛を告白しなければ、彼に婚約者が現れてもそれはそれでよかった気がする。
単なる片思いだ。

なのに、彼が余計な事を言ったが為に、彼がリコを本当に好きなのか、あるいはただの遊びだったのかと思い悩む羽目になってしまった。

もし、彼が許されない恋に身を投じようとしていたのなら、とてもドラマチックで、リコはそれに殉じたいが、もし外国での遊びの恋なら・・・なんてヤツなんだろう・・・。

でも、あの人っていい人に見えるんだよね! どうしても・・・。

なんなのよう!






しばらくしたある日。
いつものように、朝、新聞を読んでいると、タクヤがテーブルに着く。

タ:あいつに女がいたんだって?
リ:・・・。(話したくない。顔を隠すように新聞を捲る)
タ:まあ、かっこいいし、金持ちだしな。・・・おまえ、どうすんの?
リ:・・・。(ツンとして、コーヒーを飲む)
タ:答えろよ。心配してやってんだからさ。(真面目に聞く)
リ:(やるせなさそうに睨んで)わかんない・・・。何にも連絡がないから・・・。
タ:そうか・・・。


タクヤはいつになく、愛しそうな目でリコを見る。リコはそんなタクヤの視線に気づかず、サッと立って、ため息をつきながら、自分の部屋に入っていく。タクヤは心配そうに見つめ、頭を掻いている。






あれから、ヨンシュンからは何の連絡もない。会社も休暇を取っているらしい。
リコたちとの仕事も、キム部長一人が窓口になっていて、実質的にはストップしている。




会社の帰り、ソナのスナックへ行くと、ソナが一人手持ち無沙汰にカウンターに座っている。


リ:(後ろから)ソ~ナさん。
ソ:ああ、リコ。来てくれたの。
リ:どうしたの? 閑古鳥が鳴いてるよ。(バッグを置きながらカウンターに座る)
ソ:うん。近くにできたとこがさ、オープンキャンぺーンで大入り満員だって。(ふー)

リ:どこ?
ソ:2丁目のキャバ○ラ。
リ:でも客層が違うじゃない?
ソ:そうだよね~。うちは上品に飲むとこだよね~。
リ:そうだよ。相手じゃないよ! ねえ・・・ところでさ。ヨンシュンさん、どうしたか、知ってる?
ソ:ああ・・・。

リ:知ってるんだ。仕事もストップして休暇取ってるんだよね。
ソ:心配しているのは仕事じゃないんでしょ? (リコをまじまじと見る)
リ:うん・・・。
ソ:(ちょっとテーブルを拭きながら)ソウルに帰ってるよ。
リ:え? ・・・婚約式でもやりに行ったの? (探りを入れる)
ソ:アッタリ~!(にこやかに言う)
リ:うそお!(泣きそうになる)
ソ:うそだよん!

リ:驚かさないでよ。最近、心臓がちょっと弱ってるんだからさ。
ソ:ごめんね。それがさ・・・。(カウンターの中へ入る) 呼び戻されたのよ、お父さんに。逃げるように日本に来ちゃったでしょ?それをレナが追いかけて来ちゃったからさ。
リ:そう・・・。責任、取らされてんの?
ソ:・・・というよりさ。お父さんも、レナの家に申し訳なくて困ってるんだと思うよ。それでちゃんとしろって。(お絞りとコップを出す)
リ:ちゃんとする・・・? やっぱり結婚しちゃうのかな。
ソ:さあね。あっ、写真見る? レナの。
リ:うん! 見たい!


ソナが自分のバッグを取り出し、中から手帳に挟まっていた一枚の写真を、リコに渡す。


ソ:はい。一緒に並んでる女の子よ。
リ:うん。(受け取る)


リコが写真を見る。すごい美女だ。一緒に並んで、二人とも楽しそうに笑っている。
こんなキレイな人、日本だってあんまり見かけない・・・。

もう、がっかりだ。


リ:すごくキレイな人だね。がっかり・・・。
ソ:えっ? ちょっと貸して。(写真を見て)リコ、こっちの子だよ。向かって右側。
リ:見せて・・・。 (もう一度見る)


ソナの指差したほうを見る。

いわゆる・・・まん丸お顔の・・・なんというか、昔流に言えば、百貫おデブの、お嬢さんだった。


リ:ええっ? うそ!
ソ:そうだよ。これがレナちゃん。でもすっごくいい子なのよ。もう一途でさ。ヨンシュンさんしか見えないって感じなの。いじらしいのよ。だからさ・・・簡単には振れないんだよね。だって、振ったら、見かけで人を判断するやつってことになるでしょ?


リコはじいっと写真を見て、ため息をつく。

確かにそうかも・・。でもちょっとかわいそうな気もする・・・。
これは勇気のいる選択だ。結婚するのもやめるのも。

私だって、もし親の決めた婚約者だったら、きっとその特権を最大限、行使するもんね・・・。


それにしてもヨンシュンさんの左側の子はとんでもなく美人だ。


リ:この人って誰? (写真を指差す)
ソ:ああ、その子ね。レナのいとこ。実はその子がレナの後釜を狙ってるのよ。(きつい目をして言う)
リ:後釜?

ソ:そう。つまり、ヨンシュンさんを狙っているの。隙あらば、手に入れようとしてるの。
リコ、あんた、すごい人に惚れちゃったわね。このレナもこのテヒも手ごわいわよ!
二人とも強力な武器を持っているからね。それに二人とも韓国の上流社会のお嬢さんだし。リコより一歩リードしているわね。


なんてことだ。
どうしたらいいの? もっと普通の隣のヨンシュンさんでいてほしかった・・・。

本当に、あなたは簡単な相手ではなかったわ。








しばらくしたある日の午後、リコの会社の席に電話が入った。


リ:はい。ファイン・アーキテクツです。あっ、ヨンシュンさん?(うれしい!)お、お元気でしたか? (ドギマギして泣きそうである)今、どこにいるんですか? ソウル?

ヨ:仕事の途中で帰ってしまってすみません。この続きは部長のキムさんが引き継ぐので、安心して仕事を続けてください・・・。
リ:あの・・・ヨンシュンさん。あなた自身は・・・お元気なんですか?
ヨ:いや・・・何て言ったらいいのか。いろいろあって・・・。袋小路にいるみたいなんです。

リ:ソナさんから少し聞きました。・・・レナさんのこと。

ヨ:そうでしたか・・・。リコさん、この前、僕があなたに言ったこと、忘れてください。ごめんなさい。・・・リコ・・本当にごめんね・・・。
リ:え~えっ!(ヨンシュンの最後の言葉がリコの胸に突き刺さる)そんな・・・私は、忘れないわ。絶対に。簡単に忘れられると思ったら大間違いです。
ヨ:(寂しそうに)そうだよね・・・。
リ:そんなに状況は厳しいんですか?(心配そうに言う)

ヨ:リコさん、たぶん・・・結婚すると思います。
リ:ええ!(大声で叫んでイスから立ち上がる)やだ・・・絶対やですう。(泣きそうになる)
ヨ:本当にごめん、リコ。・・さん。・・・レナは本当にいい子なんです・・・僕が我儘だったんです。・・・だから、この際、早いほうがいいということになって、来週中には式を挙げる予定です。

リ:え~! 来週ですか? そんな! 私はイヤです! 絶対にイヤです! ・・・私。 私、ソウルへ行きます。今からすぐソウルへ行きます!

ヨ:リコさん! リコ、待って! 冷静に・・・。(慌てる)
リ:だめよ、諦めちゃ! 私も諦めません! そんな早まったこと、しないでください! これからあなたのところへ行きます!





タクヤの携帯が鳴る。タクヤがベッドから手を伸ばして携帯を取る。うつ伏せのまま、


タ:(だるそうに)はい・・・。あ、何? 今? ちょうど一休みしたところだから、いいよ。 えっ? おまえ、気は確か・・・うん、うん、それはできると思うけど。ホントに?ホントに行くの? おい。冷静になれよ。よく考えて。そんなとこへ乗り込んでさ・・・。だって、ヤバくない? あっちの家族が集まってるところだろ。・・・やめろよ。もう少し様子を見ようぜ・・・うん・・・うん。来週結婚しちゃうのか・・・それは・・・確かに困ったな。
・・・わかった、チケットは手に入れるよ。明日の便でいいんだろ? うん、わかった。
えっ? 京香先輩もソナさんもいないの? 相談しないで決めたの?
おい。あいつの気持ちはどうなの? 関係ないって・・・そんな。何の保障もなくて行くの? まあ、仕方ないか。とにかく、京香先輩とソナさんにはちゃんと話して行けよ。
チケットは今日中になんとかするよ。じゃあな。うん。おい、気を確かに持てよ。じゃあな。



タクヤは電話を切ってから仰向けになり、携帯を裸の胸に持ったまま、しばし考える。
隣から女の手が伸びてきて、タクヤの携帯を握る。



女:誰? 私の名を語ったやつ。
タ:リコ。明日、ソウルに行きたいんだって。ヨンシュンてやつの結婚を阻止したいらしいよ。
女:えっ? 何考えてるの?(驚いて飛び起きる)
タ:相談したくて、あんたを探したけど、見つからなかったって。
女:そう。超本気ね。行かせるの?
タ:チケット、頼まなくっちゃ! (ベッドから出る)
女:いいの? タクヤ。行かせて? 後悔しない?
タ:え? (ズボンを持ったまま女の顔を見る)

女:あんたの気持ちは見え見えだからさ。本当に行かせていいのね? (睨みつける)
タ:(黙って女を見つめるが)行かせるしかないだろ。そうしなくちゃ、気持ちの整理がつかないだろ・・・。オレもあいつも。

女:そう・・・ならいいわ! 私も社に戻る。あの子がいない間のスケジュール、組直しておかなくちゃ。


女は立ち上がって、洋服を着始める。タクヤがズボンをはきながら、


タ:京ちゃん、よろしくね。よろしくフォローしてやってよ。
京:わかってるわよ。私のほうが、あんたよりあの子と付き合いが長いんだから・・・。よし、がんばるぞ!
タ:ふん。(笑う)やっぱ、心強いな。さすが、アネゴだ。


京香が笑った。






夜、リコはソウルへ行くための荷造りをしている。
夕方、京香先輩が得意先から戻ってから、会議室で自分の気持ちを告白した。先輩は案外気持ちよく、リコのソウル行きを承諾してくれた。


京:リコ。ちゃんと気が済むように、話をつけてくるのよ。わかったわね。恋愛に引っ込み思案のあんたがそこまでするとは思わなかったけど、やる時はしっかりやるのよ。仕事と同じよ!
リ:はい。人生賭けて頑張ってきます!

京:(笑う)そうよね、伸るか反るかだもんね。よし、私もがんばろ!
リ:何を?
京:仕事に決まってるじゃない。あんたがいない間は優秀な人材が一人欠けるわけだから、アネゴ自ら設計しなくちゃ。
リ:先輩。本当にすみません。ご迷惑おかけします。(頭を下げる)
京:この貸しは大きいわよ。しっかりやってきな!(気合を入れる)
リ:はい!







荷造りが終ったところで、タクヤが帰ってきた。


タ:ただいま~。
リ:あ、タクヤ。どうだった?
タ:ちゃ~んと手に入れたぜ。(にこやかに言う)
リ:ありがとう! 遅いから心配しちゃった。(ホッとする)
タ:う~ん・・・。オレも今日はちょっと残業だったんだ。
リ:ごめんね、忙しい時に頼っちゃって・・・。(悪い!)
タ:いいんだよ。

リ:じゃあ、ちょうだい! (手を出す)
タ:えっ?
リ:チケット! (手を出したまま)
タ:うん。


タクヤがバッグの中から封筒を出す。リコの前に差し出す。リコが掴むが、タクヤは握ったままだ。


タ:もう気持ちは決まってるんだな。(真剣な顔)
リ:うん。(タクヤを見つめる)
タ:あいつじゃなきゃ、だめなんだな?
リ:うん。結婚してほしくないの、他の誰とも。(素直に言う)

タ:おまえ、向こうに行ったら、泣くことになるかもしれないぞ。
リ:そうでもいいの。ここにいたって、泣くんだから。それなら、ヨンシュンさんの元で泣きたいの。彼に自分の気持ちを話して・・・。


タクヤがじっとリコを見つめる。もうリコを止める手立てはなさそうだ。


リ:タクヤ。手を離して・・・。私にチケット、ちょうだい。(チケットを引っ張る)
タ:そうだな。


そう言うが、タクヤの手はチケットから離れない。


リ:ねえ、タクヤ、ちょうだい。
タ:うん・・・やるよ。
リ:だから、ちょうだい。
タ:うん・・・やる。明日。成田で。
リ:え? 成田まで送ってきてくれるの?
タ:違うよ、一緒に行くんだ。
リ:え~え? (驚く)

タクヤがまたチケットをバッグに仕舞い込む。


タ:おまえ一人じゃ心配だからさ、オレも行くことにしたんだ。それで残業。
リ:そんな・・・。タクヤまで巻き込めないよ。

タ:オレもそういうわけにはいかないんだ・・・。おまえ、一人で行ったって、困るぞ。あっちは家族でいるんだからさ。オレもあいつの気持ち、聞きたいし。(本音で言う)

リ:そう・・・ありがとね。タクヤって・・・ホントにアニキみたいなんだ・・・。
タ:(ドキッとする)ま、まあな。さ、今日は早く寝ようぜ。明日から戦いなんだから!
リ:うん。そうする!・・・寝られるどうかわからないけど・・・そうする。


タクヤがリコを愛しそうに見つめた。










「第9話 ソウル・ソウル・ソウル!」


朝。

桔平の家で携帯が鳴る。広いしゃれたリビングで桔平が携帯を取る。

桔:はい。ああ、おはよう!どうしたの? あ、そうだ。オレも話したいことがあったんだ。
いいよ、先に言って。
女:それがさ。リコがね。男の人を追いかけて、ソウルへ今朝、旅立ったのよ。
桔:ソウルって、韓国の? (驚く)
女:そう。

桔:男を追って? (ますます驚く)
女:うん。仕事で向こうから来てた人なんだけどね。彼が結婚することになってさ、それを止めたいって言って行っちゃったのよ。
桔:え~え? (どうなってんだ)


その時、チャコが通学用の服装で現れる。


チ:桔平さん。おはようございます。
桔:ああ、(電話の方に)ちょっと待って。(チャコに)おはよう。これから学校?
チ:はい。すみませんが、今週、来週は期末試験なので、おさんどんはお休みさせてもらっていいですか?
桔:いいよ。こっちで勝手にやるから。いつもありがとうね。じゃあ、試験、頑張ってね! 行ってらっしゃい!(やさしく言う)
チ:行ってきま~す。(出ていく)


電話に戻る。


桔:あ、ごめん。今チャコちゃんが来たから。期末試験なんだって。
女:そう。
桔:それで? タクヤはどうしたんだよ?
女:それがさ。タクヤもリコが心配だからって、リコと一緒にソウルへ行っちゃったのよ。どうする? まあ、行っちゃったんだから、仕方ないか。(心配しているような、あっけらかんとしているような)
桔:ふうん。(ため息をつく)そうだな・・・様子を見るしかないか。・・・リコがね・・・信じられない事態だな。ふ~ん、男を追いかけて・・・ちょっと信じられないよな。(感心する)
女:でしょう? 私も初め、聞いてびっくりしちゃった。

桔:ところでさ。代官山にいい物件があるんだ。行ってみないか? ちょっとしゃれた店だぞ。
女:いいわね・・。(もうリコのことは忘れている)
桔:代官山でデート。どう? (ちょっと甘い声)
女:早く見た~い!
桔:よし! 決まった。それでさっきの話に戻るけど、その韓国の男、リコの相手。どういう人?
女:私の高校時代の先輩なんだ。
桔:へえ・・・。ソナといい仲だったんじゃないんだろうな・・・。
ソ:まさか! やだ、桔平ちゃんったら。違うわよん。四星物産の専務でね、御曹司。ペ・ヨンシュンさんて言うの。
桔:え~え!(驚く)

ソ:どうしたの? 知ってんの?
桔:知ってるも何も、おまえ・・・。







午後2時。
ソウルに着いたリコとタクヤはホテルに荷物を預け、まずヨンシュンの会社を訪ねた。

二人は15階建ての「四星物産」の前に佇む。
タクヤがビルの前でリコに、


タ:おい、大丈夫か。(顔を覗きこむ)この落し前は自分でつけろよ。


といって、手を差し出す。リコはタクヤの手をぎゅっと握り、


リ:やるだけのことはやる。ここまで来ちゃったんだもん。もう恥ずかしがったって、ヨンシュンさんには気持ちがバレバレだもん。頑張るよ。
タ:・・・そうだな・・・頑張れ・・・。
リ:うん。


リコは大きく深呼吸して建物に入っていく。
英語で受付に、自分の名前を告げてヨンシュンを呼び出す。

すると、受付では、「お待ちしておりました」と言われる。
今日、リコが東京から打ち合わせに来ることになっていて、12階の会議室に通すように、ぺ専務から言われているというのだ。

会議室に通されると、お茶出しに来た女性が、ヨンシュンは今、ちょっと席を外したが、牧村さんがお見えになったら、すぐ戻ると言っていたと、英語で伝えた。



広い会議室の奥に、ヨンシュンのものと思われるファイルと筆記用具、そしてタバコとライターがあった。

ダンヒルのタバコ・・・日本でも、ヨンシュンがいつも吸っていたものだ。


リコはあの時を思い出した。

エレベーターで突然キスされた時、ほんのかすかにだが、ヨンシュンの唇からタバコのニオイがした。それは、決してイヤなニオイではなかった。

女の自分にはない、彼の持つ男のニオイだった。
たった数日前なのに、とても懐かしく思い出される。


リコはヨンシュンの席へ行って座り、箱からタバコを一本、取り出した。そして、タバコを横にして鼻の下に擦るようにして、ニオイを嗅いでみた。
ヨンシュンのニオイがほんの少し頼りなげに香った。でも、これでは本当の彼のニオイではない。

タバコを口にくわえ、火を点ける。ちょっと吸ってみる。普段吸わないので、むせて咳き込んでしまう。

でもこのニオイだ・・・。しんみり胸が痛くなる。
リコはじっとタバコの煙を見つめた。


会議室のドアが開いて、ヨンシュンが入ってきた。


ヨ:リコさん・・・。


リコは驚いてイスから立ち上がった。


リ:ヨンシュンさん。・・・私、来てしまいました・・・。


ヨンシュンがリコのタバコを見る。リコも自分の右手にあるタバコを見て、


リ:ごめんなさい。タバコを一本失敬しちゃいました。・・・吸いたかったわけじゃないんです・・・。ただ、あなたのニオイを思い出して、ちょっと嗅いでみたかっただけなんです。(タバコの火をもみ消す)


ヨンシュンはその様子を愛しそうに見つめた。

自分を思い出して、タバコを吸ったリコ。
自分の電話の言葉に動揺して、ソウルまで来てしまったリコ。

いじらしくて、胸が痛くなる。近くへ行き、思わず抱きしめたくなる。

こんな状況に追い込んでしまったのは自分なのに。自分のほうから、リコに仕掛けておいて・・・。
リコに対するすまなさと愛しさで胸がいっぱいになる。


ヨ:リコさん。・・・来てくれてありがとう・・・。僕は・・・。


ドアがバタンと開き、背の高い40がらみの男性が入ってきた。


男:ヨンシュン。
ヨ:(振り向いて)あ、副社長。・・・牧村さん、こちら、副社長で叔父のぺ・ソンジュンです。
リ:どうも・・・初めまして。(英語で言う)
ソ:大丈夫ですよ。私も日本語はできるんです。日本に留学していましたから。女性のかただったんですね、牧村さんて。非常に優秀なデザイナーのかたで、建築家でもあると聞いていました。ヨンシュンはあなたの作った空間を見て、とても感動したそうです。(ヨンシュンを見て笑う)


リコは今のソンジュンの言葉がうれしい。ヨンシュンが自分の作品に感動してくれたことが心に沁みる。しかし、これからの成り行きが見えない。


リ:はあ・・。どうもありがとうございます。
ソ:それで、今日はこちらの店舗を視察にいらしたとか。やはり、現場を見ないと納得がいかないほうかな。私と一緒だ。(笑う) さあ、時間が勿体無い、私もご一緒にお供しますよ。
ヨ:(内心慌てて)いや、叔父さん。大丈夫だよ。僕と二人で回るよ。そのほうがお互い、話が見えていて、問題点が探しやすいんだ。
日本における店舗と韓国の店舗の違いや打ち出す特色をよく相談したいんだ。(尤もらしく言う)
ソ:そうか・・?(ちょっと残念そうに) しかし、おまえも来週のことがあるから、忙しいだろう? 代わりに・・・。
ヨ:いいんだよ、叔父さん。この仕事は僕がやり遂げたいんだ。

ソ:(笑って)本当に仕事熱心なやつだな。うんうん、その責任感はいいぞ。
牧村さん、こいつは本当に仕事が好きで来週結婚するというのに、この有様です。
リ:はあ・・・。(力が抜けそうだ)ではヨンシュンさん、時間がもったいないから、もう回りましょうか?(話を合わせる)
ヨ:そうですね。では行きましょう。じゃあ、叔父さん、報告は明後日ということで。
ソ:わかった。まあ、結婚式が終わってからでもいいぞ。(笑う)


ヨンシュンの話に合わせて、リコもシャキッとしたキャリアウーマンのように大股でエレベーターホールまで歩いていく。

自分でもおかしくなる。気取ってお芝居をしなくても、本当に自分は本物なのに。なんだか妙な具合だ。


また、ヨンシュンとエレベーターで二人きりだ。リコは緊張して乗っている。
ヨンシュンの顔を見ると、ちょっと考え事をしているようで、この間のようなパプニングは起こらなかった。

地下の駐車場で、エレベーターを降りたリコはまた、深いため息をついた。ヨンシュンが振り返って、ちょっと微笑んだ。



駐車場に向かおうとすると、守衛室から運転手が現れて、


運:専務、お車へどうぞ。
ヨ:パクさん、今日はいいです。僕が自分の車で運転していきますから。
運:しかし・・・。
ヨ:副社長もご存知です。


そういうと、頭を下げて、運転手が帰っていった。

リコは、ヨンシュンが今まで思っていたより、どうもここではエライ人のようで、皆がまるで王子様のように彼を扱っているように見えてくる。


本当に来てよかったのかしら・・・。
一瞬、戸惑う。


ヨ:さあ、乗って。
リ:いいんですか?
ヨ:どうしたの? また二人っきりで緊張してるの?(笑う) 二人でも大丈夫だよ。(ふざけて)二人じゃいや?
リ:いえ。(真っ赤になり)乗ります。



ヨンシュンが車を発進させた。


リ:なんか、ヨンシュンさんてまるで王子様みたいで、とてもエライ人だったんですね・・・。
ヨ:そうじゃないんだよ。皆で監視してるだけなんだよ。僕が逃げないように・・・。また逃がしたら、うちの面目が立たないからね。
リ:・・・。(困った顔になる)
ヨ:だから、仕事ってことにしちゃったんだ。そうしないと出てこられなくて。(横目でリコをちらっと見る)
リ:そうなの・・・。
ヨ:でも、君が優秀なのは皆知ってるから大丈夫だよ。


リコは悩む。


こうしてヨンシュンさんと車に乗って・・・さてその先に何があるの? 
冷静に考えて、この人は、私が来たことで何か変わるのかしら? 
変えられるのかしら?


ヨンシュンの携帯が鳴って、運転しながら韓国語で話している。リコは隣で話を聞いている。


ヨ:****マキムラシ***? ネエ・・・ クリゴ*****、ダブルデート? オットケ~~***レナ***ああ、う~ん。***マキムラシ***?  ・・・OK.。(カチャ。電話を切る)

ヨンシュンがため息をついて、困った顔で考えている。


リ:どうしたの? 私の名前とクリゴとダブルデートと、オットケ~とレナさんとOKは聞き取れましたけど。
ヨ:(笑って)それだけわかれば十分です。だいたいわかったでしょ?(運転しながら、ちょっと横目で見る)
リ:ダブルデートの相手って、もう一人は誰?
ヨ:ぺ・ソンジュン。さっき会った叔父ですよ。・・・リコさんを紹介してほしいって・・・。
リ:(悩ましい顔でヨンシュンを見る)ひどいわ・・・。そんなの、引き受けたの?
ヨ:困ったな・・・。(考えている)

リ:あなた、私が来ても状況、変える気なんかないのね?(少し怒った口調で言う)
ヨ:・・・。それは・・・。(困ってしまう)
リ:なぜ来ちゃったか、わかる?・・・あなたが電話で・・・「リコ、本当にごめんね」って言ったから・・・。初めて、リコって名前で呼んだから・・・。ちょっと騙されました・・・。(少し怒った口調で言うが、最後にシュンとする)
ヨ:リコ、ちょっと待って。待ってよ。


ヨンシュンが車を路肩に寄せて止める。そして、リコを見つめて、


ヨ:リコ、本当に君に悪くて・・・ごめん。(そう言って、すまなそうに片手を握る)
リ:(ヨンシュンの目を見る)ねえ、ヨンシュンさん・・・。あなたって、本当はプレイボーイなの?(眉毛を八の字にして悲しそうに言う)
ヨ:ええっ!(驚く)









続く・・・。








ヨンシュンには会ったものの・・・。
オットケ~・・・vv

どうなるの? リコとヨンシュン。


2009/05/17 23:01
テーマ:【創】恋のタイトルマッチ カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】恋のタイトルマッチ3











BYJシアターです。



本日は【恋のタイトルマッチ】第6・7話です。

隣のヨンシュンさん(ペ・ヨンシュン)・・・・ ぺ・ヨンジュン (32歳)
相棒のタクヤ(木島拓哉) ・・・・・・・・・ 木村拓哉    (32歳)
私・通称リコ(牧村キリコ)・・・・・・・・・  小雪     (28歳)

近くのソナ(キム・ソナ)・・・・・・・・・・  ユンソナ









ではここより本編。
お楽しみください!








恋のタイトルマッチ。
それはたくさんの相手に勝つことではない。

これぞ!と見込んだ相手、好きになった相手と結ばれる。
それが勝利者という称号を手にすることだ。
負けない!
誰に?

自分の弱虫に!


そして、大好きなあなたと結ばれるまで
私は、

頑張る!







【恋のタイトルマッチ】

主演:ぺ・ヨンジュン
   小雪
   木村 拓哉





「第6話 なんでそうなるの?」


リコが打ち合わせのため、四星物産のヨンシュンのオフィスに来ている。
ヨンシュンの机の上を見ると、この間、割ってしまったブタの首が接着剤でちゃんとくっついている。
リコはそれを見て、一安心して微笑んだ。

ドアが開き、ヨンシュンが入ってきた。


リ:(弾んだ声で)ヨンシュンさん! このブタさん、直したんですね・・・。


次の瞬間、リコはヨンシュンの顔を見て萎む。
ヨンシュンが怒ったような、冷たい表情でリコを見つめていたから。


前の会議で何かあったのかな・・・。いつもとちょっと違う・・・・。


リ:ヨンシュンさん・・・?(首をかしげる)
ヨ:どうぞ、おかけ下さい。(ビジネスライクに言う)
リ:はい・・・。(少し戸惑う)
ヨ:では伺いましょう。


リコがヨンシュンと目を合わせようと見つめるが、ヨンシュンは図面から顔を上げない。
リコも仕方なく、仕事の話に入る。
ヨンシュンは仕事のことしか、話さなかった。いつもの親しさが微塵も感じられない。
打ち合わせが終わって、


リ:ヨンシュンさん。


ヨンシュンが上目遣いで書類から顔をあげた。恐い顔をしている。


やっぱり、打ち合わせ前の会議でなんかあったんだ。この人は、意外に気持ちが顔に出るもん。


リ:(楽しそうに)ねえ、ヨンシュンさん。私、この間、和食のおいしいお店を見つけたの。よかったら、一緒に行きませんか? ヨンシュンさん、酢の物、好きだったでしょ。そこね、しめ鯖をちょっとあぶったのが、すごくおいしいの。それとね、牛筋の煮込んだのもトロ~ンとしておいしいし。焼き鳥もね、軟骨を揚げて・・・。
ヨ:リコさん、ここはオフィスです。そういう話は・・・。(パタンとファイルを閉じる)
リ:・・・ごめんなさい・・・。(喜ぶと思ったのに)
ヨ:ショールームの控え室は会議もできるように工夫をしてください。大きな会議用テーブルは困ります。
部屋を効率よく使えるように。お願いしますね。(きっと睨む)
リ:(寂しそうに)わかりました。考えてみます・・・。(眉を八の字にして見つめる)
ヨ:ではこれで。(立ち上がる)


ヨンシュンはリコを残して、自分の机に戻り、他のファイルを開き、仕事を始める。
リコは困って、どうしていいかわからず、帰り支度をして立ち上がる。


リ:ヨンシュンさん、お忙しいんですね。
ヨ:・・・。(ちょっと上目遣いできっと睨む)
リ:じゃあ・・・和食はご一緒できませんね・・・。(諦める・・・)でも、お時間ができたら、また一緒に行きましょう。(笑顔を作る)
ヨ:しばらく、ムリです。(厳しい顔をする)
リ:そうですか・・・。じゃあ、失礼します。


リコは諦めて、寂しそうにドアまで行き、振り返る。ヨンシュンはじっとリコを見ていた。でも何も言わなかった。
リコは軽く会釈して出ていく。

しばらく、リコの帰ったドアを見つめていたヨンシュンだが、手に持っていたペンをポンと投げる。
そして、やるせない顔で、ブタを手にとって触る。軽くブタの頭を小突くと、首がポロっと落ちた。
ヨンシュンは深くため息をついて、イスの中に体を埋めた。




帰り道。
リコは気分が冴えなかった。ついこの間まで、どちらかというと、ヨンシュンのほうが熱烈にアタックしてきていたような気がしていたのに・・・。


私が何をしたっていうの?
会議でなんかあったって、私のせいじゃないし。もっとやさしくしてくれてもいいのに・・・。

気分屋さんなのかな・・・。
なんかよくわかんない。
ふ~、つまんない!


リコは、足元に転がってきた紙袋をちょっと蹴飛ばしたつもりが、自分のパンプスが飛んでいく。


もう! ぜんぜんついてない!





それから、しばらくした日の午後8時過ぎ。
タクヤは日課のジムの帰り、いつものようにコンビニに寄り、ノンキに歩いている。携帯が鳴る。


タ:はい。ああ、ソナさん。
ソ:タクちゃん、暇だったらお店に寄ってくれない? お客さん、いなくてさ。
タ:だけど、今コンビニで買っちゃったんだよな、弁当。
ソ:うち来て食べなよ。お客がいないとさ、絵にならないんだ。さくらでいいからさ。リコにもメールしたけど、まだ残業だって。
タ:そうか・・・じゃあいってやるか。
ソ:サンキュー! 待ってるよ~~。


家へ帰ってもリコがいないのではつまらないし、リコも店に来るなら、ソナのところで暇つぶししてもいいかもしれない。

タクヤがソナの店のカウンターでコンビニ弁当をおかずにビールを飲んでいると、ヨンシュンが入ってくる。


タ:ヨンシュンさん、お久しぶりです。お元気でしたか?(屈託なく言う)
ヨ:(ちょっと硬い顔をして)タクヤさん、お久しぶりです。
ソ:先輩もこっち来て。カウンターで一緒に飲もう。今日は暇で困ってるのよ。


タクヤの隣にヨンシュンが座る。


タ:忙しそうですね。
ヨ:ええ、まあ・・。そのために来日しましたから。
タ:そうでしたね・・・。リコたちも今日は残業みたいで。頑張ってますよ。


リコという名前にヨンシュンは少し固まる。


ソ:先輩。何飲む? ビール?
ヨ:うん、そうだね。
ソ:何か作るね。
ヨ:ありがとう。
タ:うちもお宅の仕事、取りたかったんですけどね。白日堂がめちゃくちゃ強かったな・・・。
ヨ:タクヤさんも参加されてたんですか?
タ:いや、僕がいなかったから、弱かったんでしょう。


二人が大声で笑って、雰囲気が和やかにうち解けてきたところで、ドアが開き、リコが入ってきた。


リ:遅くなっちゃった。ごめん。お腹、空いちゃった・・・。(二人に気がつく)


ヨンシュンとタクヤが振り返ってリコを見る。タクヤは普通だが、ヨンシュンの視線が少しリコを責めているように見える。リコが少し固まって、ゆっくり入ってくる。


リ:(頭に手をやりながら)こんばんは・・・。(声が消え入りそうだ)
ソ:タクちゃん、ちょっと詰めて。リコ、ここへおいでよ。特等席だよ。


ソナがタクヤとヨンジュンの間に席を作る。リコは仕方なく座るが、息が苦しい。

リコには、そこはまるで、針のムシロのようで・・・。



リコが二人の間に座って、小さくなっている。いつものリコなら、元気はつらつなのに、今日は少ししぼんでいる。


ソ:どうした?(心配そうに見る)
リ:何が?
ソ:元気ないよ。
リ:別に・・・。


ヨンシュンの目がリコを鋭く見つめる。タクヤがリコの顔を覗き込む。


タ:どうしたの? またヘマでもやったのか?
リ:なわけないでしょ。バカ!(軽口が自然に口から飛び出す)


親しげにそう言ってから、ヨンシュンの存在を意識してまた硬くなる。


タ:(気を使って)ヨンシュンさん、お宅の仕事をヘマしたなんて言ったわけじゃなくて・・・。
ヨ:そのくらい、わかります・・・。


カウンターの中から、


ソ:ねえ、ゴーヤチャンプル作ったよ~。これね、前、ここでバイトした子が沖縄出身で教えてもらったの。おいしいよ。(ハッとする)ごめん、リコ。
ヨ:どうしたの?(なんでごめんなの?)
タ:リコのアニキがその子と夜逃げしたんですよ。はたちの専門学校生。
ヨ:そうだったんですか。


ヨンシュンがリコを見つめるので、リコもこわごわヨンシュンを見るが、彼の目つきがきつくて、恐くて目を伏せる。
ソナが二人の雰囲気の悪さに気がついて、大皿に盛った料理を各自の皿に取り分ける。


ソ:このほうが食べやすかったね。


リコが皿を持って、


リ:私、あっちで食べることに専念するわ・・・失礼・・・。


そういって皿を持って、L字型のカウンターの一番隅っこへ移動する。





リコは隅の席で一人、黙々と飲み食いしている。焼酎のピッチがどんどん速くなり、少し目が据わっている。
タクヤとヨンシュンは話に花が咲いているようだが、タクヤは斜め前のリコを、ヨンシュンはカウンターの横にある鏡に映るリコの様子を眺めていた。

リコが立ち上がろうとして、カウンターのイスから落ちてしまう。皆一斉に驚いて見るが、飛んでいったのはヨンシュンだった。


リ:痛っ!(腰を押さえる)
ヨ:ケンチャナ? (手を貸そうとする)


リコが彼の手を振り払う。


リ:もう、やさしくなんかしないでよ!(いつもよりきつい言い方)


その声に皆、驚く。ソナが状況を察知して、タクヤに、


ソ:ちょっと外へ出よう。
タ:だって、リコが・・・。
ソ:いいからさ。


ソナがカウンターから出てきて、タクヤの手を引いて静かに店から出て行く。


ヨ:リコさん?
リ:触わんないでよ! あっちへ行ってよ。(ヨンシュンの手を振り払う)


ヨンシュンが本当に行こうとする。


リ:なんで行くのよ。(ちょっと泣きそうな声)
ヨ:えっ?
リ:起こしてよ。(手を伸ばす)


仕方なく、酔っ払ったリコを抱き起こそうとして、


ヨ:・・・タクヤさんを呼ぶ?(リコの顔を覗く)
リ:なんでよ? (訳がわからない)
ヨ:・・・ケンカしたの? (やさしく言う)
リ:なんでよ?(もう、泣きたい!)・・・なんで、冷たくするのよ? なんで、無視するのよ? このおたんこなす!
ヨ:えっ? (それ何?)
リ:バカ! (軽く胸をたたく)
ヨ:リコさん、大丈夫? (どうしていいか、わからない)
リ:起こして!


ヨンシュンが手伝って抱き起こすが、急に立ち上がって酔いが回り、気持ちが悪くなって目の前が暗くなる。


リ:気持ち悪い・・・。




長くいた化粧室からやっと出てくると、ヨンシュンが化粧室近くのイスに腰かけていた。


リ:待っててくれたんですか?
ヨ:大丈夫?(ちょっと困った顔で、心配そうに見る)
リ:ええ、すみません。ご心配おかけして・・・。
ヨ:(微笑む)もう酔いは醒めたんですね。
リ:ええ。(恥ずかしそうに)醜態をみせました。すみません・・・。ソナさんがカギをしまっているところ、知ってるから、もうお店の戸締りして帰りましょう。


ヨンシュンが立ち上がって、


ヨ:そう。じゃあ、そうしましょうか。
リ:ええ。


スナックの戸締りをして、二人は夜風に当たりながら、無言で歩く。
今、何を話していいのか、お互い頭の中でいろいろ考えながら歩いている。


ヨンシュンさんには、いつもそばにいるだけで、やさしく抱きしめてくれているような温かさがあるのに。今はそれがない・・・。
言葉はなくても隣にいるだけでちょっぴり幸せな気分なのに。


どうして気持ちがすれ違っているのか、リコにはわからない。

そうこうするうちに、ソナのマンションの近くへ来る。


リ:ヨンシュンさん。私、ソナさんの所へカギを届けるついでに、今日はこっちに泊まります。今日は・・・どうもありがとう・・。(顔がまともに見られない)
ヨ:わかりました。・・・気をつけて。じゃあ、おやすみ。
リ:おやすみなさい・・・。(顔を見ないで帰っていく)


ヨンシュンはリコの後ろ姿を見送るが、もうなんか、やりきれなくなって、肩を落として、マンションへの道を一人、寂しく帰っていった。








「第7話 好き・・・」


二日後の午後7時過ぎ。
マンションのエントランス脇のメールボックスで、ヨンシュンを見かけたリコは彼の姿がうれしくて、勇気を出して、ヨンシュンのそばへ行く。


リ:ヨンシュンさん、こんばんは。この間は、どうもありがとうございました。私、酔っ払っちゃって・・・申し訳ありませんでした。(一生懸命、笑顔を作って言う)
ヨ:(寂しそうな顔でチラッと見て)いいんです。酔った人を見捨てるようなまねができないだけなんですから・・・。


ヨンシュンが少しムッとしたような、避けるような態度を取っている。でもリコは必死で彼との接点を持とうとしている。


リ:ところで、ヨンシュンさん。ショールームの控え室の会議用テーブルなんですけど、こういうのはどうでしょう。いくつかのデスクを組み合わせ式にして・・・。
ヨ:リコさん、仕事の話は会社で聞きます。(きっぱり言う)
リ:あっ。ごめんなさい・・・。あなたに会えて、うれしかったものですから、つい、お話したくなっちゃって・・・。(笑顔で見つめる)
ヨ:・・・。今、どんな気持ちでそう言ってるんですか? (冷たく言う)
リ:えっ? どんなって気持ちって・・・(少し赤くなって)う~ん、・・・あなたに会えて、うれしくて胸がいっぱいというか、弾んだ気持ちというか、幸せな気分というか、とにかく・・うれしいんです・・・。(控えめに見つめる)
ヨ:・・・。ふざけてますか? (きつい顔をする)
リ:いえ・・・真面目です・・・。いつも真面目に言ってるんです。・・変ですか?
ヨ:変です!(きっぱりと言う)


ヨンシュンはどんどんエレベーターホールに向かう。リコが追いかける。


リ:ヨンシュンさん、私、変なこと言いました? いつ言いました? あなたを怒らせるようなこと、いつしました? 私たち、友達になったじゃない。ちょっとお礼を言って、ちょっと仕事の話をしただけじゃない。なのになぜ? ねえ!(詰め寄る)


ヨンシュンが振り返り、


ヨ:そうでした。ちゃんと、「この間は、どういたしまして」と答えるべきでした。そして、ちょっと仕事の話をしただけでした。そして、僕たちは友達になったんでした。・・・友達に。(見つめる)
リ:そうよ。
ヨ:友達でしたね・・・。(ぐっと見つめる)
リ:ええ。
ヨ:・・・撤回します。(後ろを向いて歩き出す)
リ:えっ? なんで? なんでなの? ヨンシュンさん。(ヨンシュンを追いかける)


ヨンシュンが立ち止まり、くるっと後ろを振り向くと、真後ろにリコがいて、背の高いリコと顔がくっつきそうになる。一瞬、リコの唇に目がいって、自分の顔がリコの唇に吸い込まれそうになるが、ヨンシュンは自分を律して、ちゃんとリコの目を見つめて、


ヨ:リコさん、・・・やっぱり、友達はイヤです。
リ:(眉間にしわを寄せて)キライ・・・ですか?
ヨ:・・・。失礼します。


ヨンシュンはまたくるっと向きを変えて、今度は非常階段の方へ歩いて行き、どんどん上って行く。リコもつられて、ついて行く。


リ:ヨンシュンさん、止まって! 待ってよお。


彼が大股で二段飛びで上がっていくので、リコは息切れしながらついていく。


リ:ヨンシュンさん! 理由を聞かせてください! ヨンシュンさんたら!(怒った顔になる)・・・もう怒った! ヨンシュン! ヨン! あなた何よ、その態度! 人をバカにして! ちゃんと訳を言いなさいよ! 訳を! あなたねえ、ふざけてるわよ! 何よ! フー!(息が苦しい)


リコが足元を見ながら手すりに捕まって、必死にヨンシュンについて階段を上がって行くと、3階の踊り場の手摺りの横で立ち止まっている彼のお腹に額をぶつける。
リコが顔を上げる。ヨンシュンが下を向いてそびえ立っている。リコは怒ったように、ドンドンと2段上がり彼と並ぶ。


リ:(怒った顔で彼を見て)なんで止まったの? 急にそんな所で立ち止まらないでください。追いかけてる身になってよ。ぶつかっちゃったじゃない。(自分の額を撫でる) 困ります! 急に立ち止まられると・・・。お腹に・・・ぶつかっちゃったじゃない・・・。(怒ったような、困ったような、恥ずかしいような顔で見つめる)
ヨ:(真剣な表情で)・・・リコさん。僕に内緒にしていることはありませんか?
リ:えっ? う~ん。特には・・。何かしら? (それで怒ってるの?)


リコは腕を組み、ヨンシュンを見つめる。右手の人差し指をアゴに当て、考える。ヨンシュンは真剣な顔つきでリコを見つめている。


リ:う~ん。あなたの机の上のブタさんのこと? ごめんなさい。割ったのは私です。でも。大切なものなら、あんな簡単に壊れそうな所になんか、置かないでください。・・・黙っててごめんなさい。(違う話?)
う~ん、(そうか!)この間、居酒屋の下駄箱のとこで、あなたの靴を踏んじゃったの、黙ってたこと、怒ってるのね?(済まなそうに) 確かにヒールで踏みました・・・凹んだわね・・・キズが残っちゃった? ごめんなさい。(申し訳ない)
・・違うの?(他には・・) あ、この前の会議の時のお弁当? そうでしょう?(ビンゴ?!) 私が焼肉弁当、先に取っちゃったの、怒ってるんですか? 私、そぼろ弁当があんまり好きじゃないんです。(違うの?)
ええ~と・・ああ、アイスコーヒーのこと?(少し笑う。そうでしょ!) 私が間違えて飲んじゃったから。だって間違えて私の前に出されたのよ。コーラだと思って少し飲んじゃったの・・・少し減ってて、気がついてたんですね(意外と細かいのね)・・・ごめんなさい。
ヨ:いろいろ、隠し事があるんですね。(まだ怒った顔で見つめている)
マ:ごめんなさい・・・私っておっちょこちょいだから・・・。(済まなそうにちょっと上目遣いで顔を見る)


ヨンシュンは少し呆れたような顔をして、ため息をつく。
あまりに・・・リコの態度が・・・あまりにかわいいというかおかしいので、もう、どうしようもない・・・。


ヨ:なんで、あなたは・・そんなに・・・。(困ったような、笑いそうな顔をする)
リ:ごめんなさい・・・。
ヨ:いいんです・・・そんなこと・・・。(やりきれない)
リ:・・・?(見つめる。まだ何かあるの?)
ヨ:本当はもっと知りたかったことがあるんです。・・・僕たちは友達ですか?
リ:(うなずきながら)ええ・・・。
ヨ:ずっと?
リ:・・・?
ヨ:変わりませんか?
リ:・・えっ?(どう答えていいかわからない)


リコが答えないので、ヨンシュンは仕方なく、自分から話す。


ヨ:あなたには、パートナーがいるんですね?(ちょっと悲壮な顔で)
リ:京香先輩のことですか?
ヨ:いえ、仕事のことじゃなくて・・・。
リ:仕事じゃなくて・・・?(わからない)
ヨ:・・・一緒に住んでいる・・・。
リ:一緒に住んでいる・・・? (わからない)
ヨ:ええ、一緒に暮らしている・・・。(あの人ですよ)
リ:一緒に暮らしている・・・ああ、タクヤですか?
ヨ:・・・。(見つめている)
リ:? (それが?)
ヨ:・・・。
リ:・・。(にこやかに)ヨンシュンさんは社宅だし、別に人と部屋をシェアしなくても暮らせるでしょう? 
ヨ:(リコを見てそれから上を見て、ため息をつく)
リ:え? (何よ?)


ヨンシュンは、よりによって人の彼女を好きになってしまった自分が情けなくて、くるりと向きを変えると、3階のドアを開け、出ていく。リコはしばし、その様子を眺めていたが、はっと気がついて、慌ててヨンシュンの後を追う。

リコが後ろからヨンシュンの腕を掴む。


リ:待って! 誤解よ。ヨンシュンさん、誤解してるわ。
ヨ:何を?
リ:私とタクヤは何でもないんです・・・。ただ一緒に住んでるだけです。
ヨ:・・・?
リ:部屋を二人でシェアしているだけなんです。ぜんぜん、他人です。恋人でもなんでもないんです。ただの同居人です。
ヨ:でもあなたをリコって呼びつけにしてますよ。
リ:あ~あ。だって、私の兄の友人なんだもの。アニキ代わりなんです。ただ、それだけの関係です。
ヨ:ホントに?
リ:ええ。ホントにそうなんです。

ヨ:(不思議そうに見る)彼に魅力を感じないんですか?
リ:タクヤですか? う~ん、(ちょっと考えるが)かわいい人だけど、それだけです。どうして? だってもう身内みたいなものだから・・今さら、好きとか、そういう感情は浮かんできません・・・。
ヨ:ぜんぜん?(驚いた目をする)
リ:ええ、ぜんぜん。(なんで?)
ヨ:まったく?
リ:ええ、まったく。
ヨ:・・・。(リコの顔を見つめる)
リ:おかしいですか?
ヨ:・・・。僕にはとっても魅力的に見えるんですけど。
リ:そうお?・・・私にはヨンシュンさんのほうが・・・。(ハッと自分の言葉に気がついて、うなずいて、伏目勝ちに)とても魅力的に見えます・・・。
ヨ:・・・。(リコの言葉がズシンと響いて、一緒に下を向く)
リ:・・・。
ヨ:ホントに?(ちょっと甘えた目で)
リ:ホントに。(そうよ!)
ヨ:どのくらい? (ここがすごく聞きたい!)
リ:すっ・・ごく・・・。(首をかしげて目は顔を見られず、ニヤけて笑う)
ヨ:リコさん、それでも僕たち、友達のままですか?(リコを真剣に見つめる)
リ:・・。(顔を見る)
ヨ:僕も、リコさんが、すごく・・好きなんです。大好きなんです。それでも友達のままですか・・?
リ:・・ヨン・・・。
タ:リコ!


リコが振り向くと、タクヤがにこやかに歩いてきた。


タ:こんばんは。ヨンシュンさん。(明るく挨拶する)
ヨ:こんばんは・・・。(ぎごちない笑顔)
タ:(リコに)ねえ、豆腐、買ってきてくれた?
リ:ええ・・・。
ヨ:じゃあ、僕はこれで・・・失礼します。(頭を下げて帰る)
リ:・・ヨンシュンさん! ・・おやすみなさい・・・。(小さく手を振る)
タ:おやすみなさい。(ヨンシュンににこやかに言う)


ヨンシュンも振り返り、にこやかに手を振った。
リコはヨンシュンを見送ると、タクヤをぐっと睨みつけて、黙ってさっさと歩いていく。


タ:(取り残されて)おい。もう、なんだよ、皆して・・。何?




マンションの部屋の中。
タクヤがリビングに入ってきて、リコに聞く。


タ:おい。どうしたんだよ? 何かあったの?
リ:(ムッとしてタクヤを睨みつけ)あんたの頭の中は、冷やっこしか考えられないの?!


リコが怒って、自分の部屋のドアをバタンと閉める。


タ:なんだよ!・・・えっ!(もしかして)・・・そういうこと・・・そう・なの?(頭を掻く)





翌日の朝。
いつものようにグルーミングに時間をかけたタクヤがダイニングテーブルに着き、いつものようにお気に入りの花柄のタオルを胸にかけて、


タ:おい。おまえさあ、(マグカップにカップスープの素を入れ)場所考えて、ラブシーンやってよね。(リコの顔を覗きこむ)あんな通路の真ん中でさあ。(テーブルの上の電子ジャーからカップにお湯を入れる)オレだって困るよ・・・。(スプーンでかき混ぜる)


リコは、いつものようにメガネをかけて新聞を読んでいるが、ちょっと目をつり上げてタクヤを睨む。タクヤが口元でスープをふーふーしながらリコを見ると、リコがベーと舌を出す。


タ:(呆れた顔で)・・・どこがいいんだろうね・・こんなやつの。(わからないという顔をして)おまえの、そういうやなとこ、あいつ、知らないだろ? ねえ、(笑いながら顔を覗きこみ)どんな顔してあいつとデートしてるわけ?(興味しんしんで言う)
リ:なんなの?(ちょっといやな顔をするが、思い出し笑いをして)・・・あ、彼ね。ペーさんの漫才、おもしろかったって。楽しかったって。あの券、もらってホントによかったわ。(ツンとした顔でトースターからパンをとり出しバターを塗る)
タ:(驚いて)あれ、行ったの? あいつと・・・。ふ~ん。・・・趣味が変わってんのかな、あいつって。おもしろそうなやつだな・・・。(サラダをガブリと食べる)

マ:タクヤと同じ年の32歳よ。(タクヤのほうに顔を突き出して)かわいいプチュプチュのおとめ座さん。あんた、毒針のさそり座でしょ?
タ:(ムッとして)おまえもな・・・。
リ:あんたほど、毒はないわよ。(サラダを食べる)
タ:ふ~ん。おもしろくなってきたな。おまえとあいつか・・・。ふ~ん。
リ:何? そのふ~んって。
タ:だって、かなりあいつ、かっこいいぜ。おまえ、わかってんの? 相当、かっこいいよ、隣のヨンシュンさん。
リ:わかってるに決まってるでしょ。(バカみたい) だから、いいなって・・。
タ:って思っちゃったんだ。でも、あいつもだろ? しかし、あいつの好みって不思議だよな、ぺーとおまえ・・・。(感心する)あいつもおまえが好き・・?
リ:う~ん。そうみたい。
タ:ふ~ん、そう?
リ:う~ん、そう。


二人は顔を見合わせるが、気恥ずかしくなり、リコはTVのリモコンのスイッチを入れた。




午前7時40分。
タクヤは定時に家を出る。ヨンシュンの部屋の前で、ちょっと立ち止まる。ドアを見る。ちょっとムッとした顔になる。口を尖らせ、怒ったような顔になる。そしてその顔のまま、エレベーターのほうへ歩いていった・・・。



リコが朝の支度をして出て行くと、ヨンシュンが自分の部屋の前に立っていた。リコの顔を見ると、ニコッと笑った。リコは昨日の会話を思い出して胸がいっぱいになる。ヨンシュンが自分を待っていてくれたのかと思うと、うれしくなった。


リ:おはようございます。
ヨ:おはよう。よかったら、一緒に行きましょう。
リ:ええ・・・。


リコは胸がいっぱいで、ちょっと下を向いてヨンシュンの少し後を歩く。ヨンシュンは笑いながら、


ヨ:リコさん、どうしたんですか? 静かですね。
リ:・・・ええ・・。


ヨンシュンは、リコとは反対に幸せそうにニコニコして堂々と歩いている。エレベーターの中でも彼は晴れやかな気分だ。
リコだけ、バッグを両手で前に持ってちょっとうつむいて緊張して固まっている。
胸のときめきでさっきから息苦しくて仕方がない。
ヨンシュンがにこやかに首をかしげて、リコを見た。
リコが「えっ、何?」とヨンシュンを見た瞬間、彼の唇がリコの唇を奪った。まったく瞬間技だったが、リコはバッグをドスンと下に落としてしまった。
エレベーターのドアが開いて、ヨンシュンがバッグを拾い、二人はエレベーターを降りる。


リコはホワンとした気分でエレベーターを降りた。そして、深いため息をついた。
リコのため息があまりに大きかったので、ヨンシュンは驚いたが、リコにバッグを渡しながら、少しうれしそうにリコの顔を覗き込む。


ヨ;リコさん? 僕と二人きりだと緊張する?(笑顔で愛しそうに見る)
リ:(夢見心地な顔をしてボーっと彼に見とれて)・・・ヨンシュンさん、私・・・。


ソ:先輩! ヨンシュン先輩!


リコとヨンシュンの二人が声のするほうへ振り向くと、ソナが息を切らしながら、走ってくる。


ソ:先輩! たいへん! レナが今朝、日本に発ったって。先輩のところへ向かっているらしいよ。
今、レナのお母さんから電話が入ったよ。
ヨ:・・・!(顔が引きつる)
ソ:先輩。どうする? 先輩の会社の住所はわかってるから、あっちへ行くみたいだよ。
ヨ:・・・。(リコをじっと見つめているが)リコさん、すみません。今日はこれで。急用ができたので先に行きます。


そう言って行こうとして、ハッと振り返り、リコとソナの二人を交互にマジマジと見つめ、もう仕方ないなという顔をして、諦めて走り去った。


リ:ソナさん。レナさんて誰?
ソ:先輩の、元というか、現というか、婚約者よ。(心配そうにヨンシュンの後ろ姿を目で追いながら言う)
リ:ええっ!


リコは絶句した。








続く・・・・。


いったいヨンシュンさんって・・・・???





2009/05/15 00:00
テーマ:【創】恋のタイトルマッチ カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】恋のタイトルマッチ2

Photo








BYJシアターです。

本日は【恋のタイトルマッチ】第4・5話です。


隣のヨンシュンさん(ペ・ヨンシュン)・・・・ ぺ・ヨンジュン (32歳)
相棒のタクヤ(木島拓哉) ・・・・・・・・・ 木村拓哉   (32歳)
私・通称リコ(牧村キリコ)・・・・・・・・・  小雪     (28歳)

リコの職場の後輩(岡本准一)・・・・・・・・  岡田准一

京香先輩(佐藤京香)・・・・・・・・・・・・  鈴木京香
アニキ(牧村桔平)・・・・・・・・・・・・・・・  椎名桔平






(オモ^^主題歌は、チョ・ソンモさん^^
♪~キョルレ ジューゲンニ~って、聞こえるでしょ?^^)






ではここより本編。
お楽しみください!








恋のタイトルマッチ。
それはたくさんの相手に勝つことではない。

これぞ!と見込んだ相手、好きになった相手と結ばれる。
それが勝利者という称号を手にすることだ。
負けない!
誰に?

自分の弱虫に!


そして、大好きなあなたと結ばれるまで
私は、

頑張る!







【恋のタイトルマッチ】

主演:ぺ・ヨンジュン
   小雪
   木村 拓哉












「第4話 ステキな餃子」


リコが、PCで四星物産のショールームの内装図面を書いている。次から次へアイデアが浮かんできて、考えがまとまらない。全くアイデアが出てこなくて困る仕事もあるのだが、なぜかここの仕事はやりたいことがあふれていて、頭の中の整理をしないと、イメージが定まらなくて困る。
後ろから京香がPCを覗き込む。


京:リコ、すごいじゃない。(驚く)何度描き直してるの? さっきのもかなりよかったのに・・・。
リ:いろんなパターンが浮かんできすぎちゃって・・・まとまらなくて・・。
京:へえ・・・。(リコの顔を覗き込む) それって・・・もしかして、違うところからパワーもらってる?
リ:なあに? それ?
京:(笑って)まあいいや、気がついてないなら・・・。私はあんたがいい仕事してくれればOKだから・・・。ふ~ん、そう?・・・・そうなんだ・・・。(立ち去る)
リ:先輩!(立ち上がる) なあに? その独り言、やめてくださいよ・・・。ねえ、ちゃんと言いたいことがあるなら言ってよ。気持ち悪いな・・・。(ちょっと眉間に皺を寄せて座る)
京:(戻ってきて耳元で囁く)あの男でしょ? ちょっとカッコよかったわよね・・・。デートしたの?(腕組みしながら、顔を覗き込む)
リ:えっ! デートなんて・・(顔が赤い)ただ私の現場を見に来ただけですよ。
京:(ちょっと不満そうに)あら、そう? ふ~ん、准一がさ、二人とも目がハートだったって言ってたわよ!(ちょっとつんとして言う)
リ:(より赤くなって)やだ。准一君、どこ?(見回す) ひどいな・・・そんなこと、ないですよ。(あっ!)他になんか言ってませんでしたか?
京:え~。なんかあったの? そうでしょ! 何? ねえ何?(興味しんしん)


そこへ准一が現場から帰ってくる。


准:ただいま~。外はくそ暑いぜ。
京:准一! ねえ、この間、高校の図書館で何があったの?


リコが准一に目配せする。准一はリコに「何?」という顔をする。


准:何がって何? 別に変わったことはなかったですよ。ああ、ヨンシュンさんが見に来ましたけど。
京:それだけ? うそ。何かあったんでしょ?
准:別に。
京:そう? なあんか怪しいなあ・・・。(二人を睨む)

部長:(遠くから)佐藤君! ちょっと。青山の子供ランドの件、どうだった?
京:あ、部長。それがですねえ・・・・。


京香が部長のほうへ真面目な仕事人の顔に戻って歩いていく。准一がリコのところへ来る。


准:先輩、何言ったの?
リ:・・・ねえ、あのこと、京香先輩に言わなかったでしょうね? ぶつかっちゃったこと・・・。
准:何?・・・先輩!(リコに呆れる)男がそんなこと、言うわけないでしょ。そんなこと、女の人に話すわけないじゃない、先輩、少しおかしいよ。(呆れ顔で去っていく)
リ:そうよね・・・うん。はあ~。(ため息)・・・なんか、いろいろ気になっちゃうのよね・・・うん。(またPCに戻って仕事を始める)




タクヤが会社の自分のブースから、イスで伸びをしながら、リコに携帯で電話をしている。リコはPCの図面を睨んでいる。


リ:なあに?(ちょっと冷たい)
タ:ねえ、今日、豆腐、買っといてくんない?(甘えてる)
リ:なんで? 自分で買いなさいよ。私はあんたの嫁さんじゃないわよ。(つっけんどんに言いながらPCを見ている)
タ:いいじゃん、そのくらい。オレ、いいもの、持ってるんだ。
リ:何?
タ:おまえの好きな「ペー」がつく人の、あるチケット。
リ:「ペ」? 本当? 何のチケット?
タ:内緒・・・。それ、やるよ。豆腐、買ってくれたら。
リ:ホント?
タ:うん。暑いうちは毎日、冷やっこ、食べたいじゃない?
リ:わかったわよ。毎日、買えばいいんでしょ? 本当にくれるのね。・・・「ペ」さんの。
タ:うん。「ペー」さんの。
リ:OK.。絹ごし? 木綿?
タ:もち、木綿でよろしく!


タクヤは携帯を切って、「林家ペー」の公演会のチケットを眺める。





二日後の会社の帰り道。
今日の日付の「ぺー」の公演会のチケットを2枚持って睨んでいる。

私もバカよね・・・。まんまと、あいつの罠に引っかかったわ。ひと夏の豆腐代がこれだよ。やんなっちゃう・・・。


ヨ:リコさん?

後ろから呼ぶ声がする。リコは立ち止まり、声のほうへ振り返る。


リ:あっ、ヨンシュンさん! 今、お帰りですか?(微笑む)
ヨ:ええ。(後ろから小走りでやってきてリコの横に並ぶ)よかったら、一緒に帰りましょう。
リ:ええ。あっ!(いいことを思いつく)ヨンシュンさん、日本の漫才って見に行ったこと、ありますか?
ヨ:いえ。
リ:これ、もらったんですけど。行ってみます? おもしろいかどうかわからないけど、あなたと似た名前の人の公演会なんです。ペーさんって人の。
ヨ:(興味が湧いて)おもしろそうですね。いいんですか、僕と一緒で。
リ:いいの? 行っても・・・。じゃあ、ご一緒、しちゃいましょうか。2枚あるから、よかったわ。

二人は見つめあって楽しげに寄席まで出かける。





寄席の帰り道。
ヨンシュンとリコが並んで歩いている。


ヨ:ああ、今日は本当に笑ったな。本当におもしろかったですね。(リコの顔を覗き込み、目をキラキラ輝かせている)
リ:ええ。(ホントに?)


リコはヨンシュンほど感激していない。寄席の間、ヨンシュンはお腹をかかえて笑っていた。これが抱腹絶倒というやつかと、リコが感心したほどだった。確かにおもしろかったが、そこまでは・・・リコには理解できなかった。ヨンシュンは幸せいっぱいという顔をしている。


ヨ:いやあ・・・本当におもしろかった。(思い出し笑いをしている)


一人で感心して何度も頷いている。それを見て、リコはぺーさんを見ているより、ヨンシュンのほうがかわいいというか、なんか憎めないというか・・・とにかく彼を見ているだけで、幸せな気分になってくる。


ヨ:ああ、お腹、空きましたね。(楽しそうにリコの顔を覗き込んで)リコさんの好きなもの、なんでも奢りますよ。今日のお礼です! ああ、楽しかった! また行きましょう! ね!(目を輝かせる)
リ:ええ。(また?・・ちょっとやだな・・)そうですね・・・。(笑顔を作るが、少しテンションが下がり気味)


またぺーさんは・・・ふ~。でも、まあいいや。なんか、うれしい。ヨンシュンさんと一緒だと、なんか、楽しいもん。


ヨンシュンの顔が笑顔でいっぱいだと、なんだか、リコも自然に笑顔になってきてしまうのだった。





数日後。
東京丸の内の高層ビル。10階。
外資系ワイワイバンクの融資部の広い会議室の窓際でヨンシュンが窓の外を眺めている。
ドアが開き、融資部の部長が入ってくる。年の頃は36、7。なかなかすっきりした感じのいい男である。
男はにこやかに笑いながら、


部:お待たせ致しました。融資部の部長の牧村でございます。
ヨ:四星物産のぺ・ヨンシュンです。初めまして。
牧:さあ、どうぞ、お掛け下さい。


ヨンシュンと牧村は名刺を交換し合い、席に着く。


「ワイワイバンク融資部・部長 牧村桔平」


ヨ:牧村さん・・・牧村さんていう苗字は日本では多いんですか?
桔:いえ、それほどでは。なぜですか?
ヨ:いや、同じ苗字の方を知っているので・・・。
桔:そうですか。奇遇ですね。では、ええ~と、今回の四星さんの新プロジェクトをまず概要から伺っていきましょうか?
ヨ:はい。ではこちらの資料を・・・。(資料を差し出して説明を始める)


商談後。



ヨ:よろしくお願いします。韓国では、こちらのスキンケアは非常に好評ですし、企業としても優良企業として今注目されています。もともと長い歴史のある老舗の会社なんです。
桔:「古くて新しい」ですね。期待できそうですね。わかりました。検討させていただきます。
ヨ:・・・ところで、牧村さん、あなたとお話していると、不思議な気分になります。初めてお会いした気がしないんです。(不思議そうに牧村を見つめる)
桔:そうですか?(苦笑する) それはうれしいな。私たち、気が合うかもしれませんね。ぺさんのプロジェクトにはこちらもとても興味があるんですよ。
ヨ:ありがとうございます。しかし、目がとても・・・懐かしいというか、不思議です。
桔:ハハハ。そうですか? これはご縁があるかもしれませんね。ではまた、後日。お返事させていただきます。
ヨ:よろしくお願いします。(きちんと頭を下げる)





土曜日の夕方。
買い物帰りのリコが駅の改札を出てぶらぶらと歩いていると、駅前の本屋からヨンシュンが出てくる。


リ:ヨンシュンさん。(見つけてニコッとする)
ヨ:あ、リコさん。(うれしそうな顔になる)お買い物ですか?(買い物袋を見る)
リ:ええ、ちょっとバーゲンに行ってきました。
ヨ:ふ~ん。女の人ってそういう楽しみがあっていいな。
リ:ヨンシュンさんは行きませんか?
ヨ:僕はあんまり・・・。(ぐ~っとお腹が鳴る)
リ:あ、(笑って)お腹が鳴ってますよ。
ヨ:(時計を見る)もう、そんな時間ですね。
リ:よかったら、この近くにおいしいラーメン屋さんがあるの。ご一緒しませんか?お勧めのお店なんですよ。
ヨ:いいですね。連れてってください。リコさんもそれでいいの?
リ:ええ。実は私もすごくお腹が空いていて・・。(微笑む)お腹が鳴らなかっただけ、よかったわ。



二人は連れ立って、駅から歩いて3分ほどいったラーメン店に入る。


リ:まずは、ここの名物、しなちくラーメンとジャンボ餃子は食べなくちゃ。
ヨ:リコさんもそんなに食べるの?(驚く)
リ:ええ、私、大食なんです。(笑う)
ヨ:(笑う)じゃあ、それをいただきましょう。


二人はフーフーいいながら食べる。


リ:ねえ、おいしいでしょう? しなちくがいっぱいで。好きなんです、私。ここはお勧めですよ。ソナさんも好きでよく来るのよ。
ヨ:そうなんだ。やっぱり、韓国で食べるのと、一味、違いますね。日本の味がしますよ。(笑う)


ヨンシュンがリコを見つめる。リコの笑顔をじっと見て、


ヨ:リコさんて、なんか不思議な感じだな。リコさんのリズムって人をホッとさせるものがありますね。
リ:そうですか?
ヨ:うん。なんか独特ですよね・・・。主張しすぎず、それでいて存在感があって・・・。う~ん、韓国でも、佐藤さんみたいな感じのキャリアウーマンの人はよく見かけるんですよ。
リ:京香先輩? やり手が多いんですね。(笑う)私、先輩はすごく尊敬しているんです。バンバン仕事はできるし、生き方がとっても積極的なんです。
ヨ:リコさんだって、バンバン仕事してるじゃないですか・・・。佐藤さんには・・・僕はちょっと構えちゃうんです。年上でガンガンやりますって感じだと、こっちもガンガンやりますって感じになってしまって。・・・たぶん、僕がまだ、子供っぽいんですよね。(笑う)
リ:そんな・・・。でも、先輩には、「リコは今、考えているのか、ボーっとしているのか、よくわからない」っていわれることがあって(笑う)。これでも一生懸命仕事をしているんだけど。変でしょ?
ヨ:いえ・・・リコさんのなんとも言えないそのゆったり加減がいいです・・・。好きです、そういうの。

リ:ありがとう。ヨンシュンさんて・・・時々とっても恐く感じる時と、すごくやさしく感じる時とがあって、ちょっと謎なんです、私。
ヨ:そうお? ふ~ん、恐いですか? 今は?
リ:今は楽しいですよ。(笑う)・・・目力が強いのかしら。睨まれてると思うことがあります・・・ごめんなさい・・・。
ヨ:そうですか・・・。気をつけよう。(自分に言い聞かす)リコさんを睨みつけるほど、憎々しく思ったこと、ないですよ。(笑って見つめる)
リ:そうですか? よかった。(ホッとする)
ヨ:リコさんとこんなに親しくさせてもらって、すごくうれしいんです。
リ:私も。・・・私たち、友達ですよね? ただの仕事仲間じゃなくて。
ヨ:友達? 友達・・・。そうですか。(ちょっと物足りない)
リ:違う? いいでしょ? こんなに仲良しなんだもの。
ヨ・・・ええ。・・友達。まずはそこから始まる・・・。うん。(自分に言い聞かせる)
リ:えっ?(聞き取れない) ねえ、このジャンボ餃子、すごくおいしいでしょう? 皮の焼き加減がいいの。外側がパリっとしてて中がジューシーで・・・。
ヨ:ホントですね・・・・。(リコをじいっと見る)
リ:ね! ヨンシュンさんも食べて。(餃子を食べて微笑む)
ヨ:(リコが食べている姿を見つめる)ホントにステキです・・・。
リ:えっ? ヨンシュンさん、餃子は「ステキ」とは言いませんよ。(笑う)
ヨ:(少し赤くなって、下を向いて微笑む)・・・そうでした・・・「おいしい」でしたね。
リ:ええ。(笑って見つめる)

ヨンシュンは前に座っているリコに目が釘付けである。








「第5話 3階さん揃い踏み」


リコがソナのスナックで、焼きそばとサラダを食べている。
ソナのスナックは8人ほど座れるL字型のカウンターとテーブル席が10席というこじんまりとした店である。
バイトに来ていたチャコがリコのアニキと失踪してから、バイトを雇うのがイヤになって、今は一人で切り盛りしている。


ソ:食べ合わせ、悪いよ。もっと力が出るもの、食べな。肉でも焼く?
リ:いいよ。焼きそばにお肉も野菜もたくさん入れてもらってるもん。これで、いい。
ソ:そうお? ねえ、たまにヨンシュン先輩に会う?
リ:うん。クライアントだからね。ソナさんだって会うでしょ? ここにもよく来るんでしょ?
ソ:まあね。週に3回かな。もっと来てほしいよ。
リ:でもそれで2日に1回じゃない。それだけくれば、十分じゃない?
ソ:まあね。
リ:ねえ。たまにヨンシュンさんて、韓国語をつぶやくんだけど。意味がよくわからないの。
ソ:そう? なんて言った?
リ:ええとね・・・「ケンチャナ?」だったかな?
ソ:ああ、「大丈夫?」っていう意味だよ。
リ:そうか・・・そう・・・。(図書館で二人で抱き合ったあと、リコがため息をついた時に言った言葉だ)
ソ:いつ、言ったの?
リ:・・・う~ん、たいした時じゃないの・・・。あと、イッ・・なんだっけ? 忘れた。
ソ:韓ドラ見てると、少し言葉、覚えるよ。
リ:そうだね。最近、見てないからな・・・吹き替えはだめだね。
ソ:うん、やっぱり韓国語で見ないとね。


リコの携帯が鳴る。


リ:もしもし、あ、タクヤ? 何? お豆腐? うん、今、ソナさんとこでご飯食べてるの。来る? じゃあ、待ってるね。(携帯を切る)これから来るって。お豆腐食べたいって。
ソ:そう、豆腐チゲでも作るか。(笑う)


その時、ドアが開き、ヨンシュンが入ってくる。


ソ:先輩!(うれしそうな顔をする)


リコも振り返る。ヨンシュンがリコに気づき、笑顔になる。


ヨ:来てたんですか?(うれしそうに言う)
リ:ええ。(うれしそうに見つめる)


なぜか今日はヨンシュンを見ただけで、リコは胸がドキドキしてしまう。ヨンシュンがいつもよりめちゃくちゃステキに見える。
たった3日、会わなかっただけなのに、うれしくて胸が弾けそうだ。
ヨンシュンが顔を輝かせて、リコに会えて幸せという顔をするものだから、もう、リコの動悸は激しくなってきている。


ソナがなにげなく、リコを見た。ソナに心の中を気づかれないかとヒヤヒヤで、より緊張して、胸がバクバクだ。
しかし、ソナはリコのことなど、まったく気にせず、


ソ:先輩、豆腐チゲ食べる? (ヨンシュンのテーブルの前をセッティングしながら)
ヨ:いいね。その前に、ビールちょうだい。お元気でしたか?(リコの隣に座ってリコの顔を見て微笑む)
ソ:OK! あ、今日は全員勢揃いするね。
ヨ:何が?(ソナを見る)
ソ:あのマンションの3階さん。先輩と同じ年のタクヤ君が来るのよ。先輩と同じくいい男。タクちゃんもお豆腐が好きだから、豆腐チゲで乾杯しよう。
ヨ:リコさんも仲良しなんですか?(リコの方へ少し体を向けてにこやかに言う)
リ:えっ、ええ。


この至近距離で、こんなににこやかに見つめられると、ホントに呼吸困難に陥りそうだ。


ヨンシュンさんがこっちへ体を向けて話しているだけなのに、なんか・・・それだけで包囲されているような気がする。
別に彼が手を伸ばして、私の肩を抱いている訳じゃないのに、まるで肩を抱き寄せられているような・・・。

私って変?

最近、ヨンシュンさんといると、妄想なのか・・・変な気分になっちゃう・・・。

今日は特に変。久しぶりに会ったから? ソナさんがいるから? タクヤが来るから?

たぶん、第三者に自分の心が透けて見えそうな気がして、心が危険信号を鳴らしているんだ。
私が今、どうも恋をし始めているらしいことを、二人に知られるのが恥ずかしいのかもしれない。

そう、きっと・・・恋だよね・・・。こんなにバクバク胸が高鳴ってるもん。



にもかかわらず、リコの胸の高鳴りなんかお構いなしに、ヨンシュンは積極的にリコに笑顔で迫ってくる。


ヨ:皆で一緒にお酒を飲んだりするの?(リコをじいっと見つめて話す)
リ:ええ。(なんとなく息が漏れたような声になる)ソナさんのところで、皆で夕飯食べたり、飲んだり。ダーツをしたり・・・。
ヨ:そうお。楽しそうですね。・・・会ったことないよね、僕。(ソナに聞く)
ソ:そうね、ホント。来る日が違うのね。あ、来た!(ドアのほうを見る) タクちゃん!(手を振る)


タクヤが入ってくる。ヨンシュンと目が合う。一瞬、タクヤが構える。リコからもソナからも話だけは聞いている男だ。


タ:こんばんは。(軽く会釈する)・・・あのう、ヨンシュンさん? 
ヨ:ええ。タクヤさんですか?(にこやかに言う)
タ:あ、はい。よろしく。リコ・・ソナさんから伺っています。
ヨ:そうですか。同じ3階なんですか?
タ:あ、ええ。・・・リコの・・・隣部屋です。


リコが赤い顔をしてタクヤを見ている。タクヤもちょっとリコを盗み見する。今日のリコは、いつものリコと少し違って、しとやかな感じだ。


ソ:ねえ、とにかく、座りなさいよ。どこに座るの? 先輩と並んだら。二人でチゲ食べて、飲んで。リコは?
リ:もうお腹、いっぱい。
タ:うそ! まだ食えるだろ?(疑わしそうに)
ソ:まだ食べられるわよ!(なんで?)


ヨンシュンが噴出して笑ってしまう。


リ:ヨンシュンさん、なんですか?(ヨンシュンを見る)
ヨ:本当に大食漢なんですね。(笑ってしまう)
リ:やだ・・・今日は、もう、お腹がいっぱいなんです!(本当に胸がいっぱいだ)
ヨ・タ・ソ:そうお?(なんで? 皆で見つめる)
リ:やだ・・・今は・・・お腹がいっぱいなの!(何よ、皆で)
タ・ソ:ふ~ん。(どうしたの?)


ヨンシュンだけ、微笑んでいる。まるで、リコのときめきに気づいているように・・・。


ソ:とにかく、陽気にやろうよ! あとで、ダーツ大会もやるよ。看板、出しちゃおうかな。
リ:お店閉めちゃうの?
ソ:うん! 今日は遊びたい気分なんだよね~。だって、先輩も加わって、皆揃ったし。3階さん、仲良し結束記念コンバ、やらない?(ビールを出して注ぐ)皆で、パアっとやろうよ、ね!


ソナにつられて、皆で楽しげに笑う。
ビールで乾杯しながら、ヨンシュンがうれしそうにリコを見つめて笑う姿を、タクヤはじっと見ていた。




翌日。
会社からの帰り道、リコが駅の改札を出ると、この間のように、ヨンシュンが駅前の本屋にいる。


リ:ヨンシュンさん!
ヨ:あ、リコさん。
リ:また会いましたね。(うれしそうに微笑む)
ヨ:・・・。(照れたように笑う)
リ:どうしたんですか?
ヨ:・・・偶然じゃないんです。リコさんに会いたくて。(リコの顔を見てから下を向く)実は待ってました。
リ:あ~・・・。(リコも下を向く)私も会えて・・・うれしいです・・・。
ヨ:そうお?(リコの顔を覗く)
リ:ええ・・・。
ヨ:一緒に帰りませんか・・・いえ、一緒に夕飯を食べましょう。・・・いい?
リ:ええ。(うれしそうにヨンシュンを見る)
ヨ:じゃあ、どこへ行きましょうか。
リ:う~ん、何が食べたい? ここのことなら、なんでも聞いて。イタリアンでもフレンチでも、居酒屋でも。
ヨ:いろいろ、探索しているんですか?(笑う)
リ:ええ。・・・何にします?
ヨ:う~ん・・・リコさんは・・・。

ヨンシュンがちょっとリコの背に手を当てて、二人は通りを歩いていった。





数日後。
京香が得意先での打ち合わせを終えて、丸の内のビジネス街を歩いていると、前から見たことのある男が歩いてくる。身なりのキチンとした、いかにも仕事ができそうな感じのビジネスマン。


京:ちょっとあんた!(走り寄る)桔平じゃない!


男が驚いて京香を見る。


丸の内のコーヒーショップの窓際に、京香が座ってタバコを吸っている。


桔:久しぶりだな・・・元気だったか。
京:生きてたのね。(睨む)いいもん、着てるじゃない、グッチ?
桔:よくわかるな、さすがだな。(うれしそうにする)
京:あんたの好みくらい・・・覚えてるわよ。(タバコの煙を吐き出す)
桔:そうか・・・。
京:夜逃げなんかじゃなかったわけね。(じっと顔を見る)
桔:まあな。(とぼけて、コーヒーをスプーンでグルグルかき混ぜる)
京:なんであんなサル芝居したの?
桔:えっ、まあ。(笑う)
京:私から逃げたかった?
桔:いや、とんでもない!
京:フン。でもそれもあるでしょ? 桔平の新しい女、はたちだって?
桔:まあ、いろいろあってさ・・。
京:リコから聞いた時は驚いたわ。あんたが、たかだか30万円の借金で、20の女と夜逃げしたなんて。
桔:まあ・・・な。

京:ただのヘッドハンティングだったのね。
桔:まあ・・・。
京:今どこに住んでるの?(腕を組んでタバコを吸う)
桔:代々木・・・あたり・・・。
京:外人用のマンション?
桔:まあな。
京:いい暮らししてんのね・・・。(タバコの灰を落とす)
桔:・・・。(困って笑う)
京:ところで、あんた。いつまで、あの子にあんな暮らしさせてんの?
桔:誰?(チャコ?)
京:リコに決まってんでしょ。あんなことさせてたら、お嫁に行けなくなるわよ。
桔:どうして?
京:・・・タクヤ君にでも頼まれたの?(タバコをふかす)
桔:別に・・・タクヤは何にも知らない。
京:二人を騙してどうすんの?
桔:いやあ・・なんかあの二人、いい感じだったんだよなあ・・・それでさ・・。それで・・・キューピット。
京:バカじゃん。フン。(タバコの灰を落とす)あんた、間違えてるわよ。
桔:どこが?
京:リコはタクヤなんか好きじゃないわよ。
桔:・・・そうか・・でもかなりいい男だぞ。(ノンキに言う)
京:まあね。私は好きだけど・・・。リコは違うやつが気になってんのよ。
桔:だれ?
京:あんたの知らないやつ・・・。(タバコを吸う)
桔:そうか。
京:(タバコの煙を吐き出して)ねえ・・・。(灰を灰皿に落とす)来る? (冷たいが情熱的な目)
桔:えっ? (少し赤くなる)
京:今夜、うち来る?(見つめる)
桔:えっ?(頭の中に、チャコが家で食事の支度をしている姿が思い浮かぶが) いいの?(うれしそう)


京香がタバコの火をもみ消して、桔平を睨みつける。二人はぐっと見つめあい、笑った。





午後8時。
マンション一階のエレベーターホール。ヨンシュンとタクヤが並ぶ。


タ:こんばんは。今、お帰りですか?
ヨ:ええ。タクヤさんも遅くまで、忙しいんですね。
タ:ええ。


エレベーターのドアが開き、ヨンシュンとタクヤが乗り込む。タクヤの頭がヨンシュンの鼻の近くをかすめて、ヨンシュンがタクヤの髪の香りに気づく。


この香りは・・・。


エレベーターが3階に着く。ヨンシュンが「開」を押している。


タ:あっ、すみません。じゃあ、お先に。(ちょっと頭を下げて出て行く)


ヨンシュンはタクヤの後から降り、タクヤの歩く後ろ姿を見ながら歩く。


タクヤが入っていく部屋を確認する。
302号室。リコと同じ部屋だ。


ヨンシュンは最初、不思議そうに見て、そして次の瞬間、顔が強張った。





続く・・・。










by あらまりりん






2009/05/13 01:14
テーマ:【創】恋のタイトルマッチ カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYjシアター】恋のタイトルマッチ1

Photo










BYJシアターです。

これは、2005年の作品なんですが、
登場人物が多くて、joonの作品のない時はTV代わりに
楽しめる作品です^^

(4年前なんで、皆配役も若いです・・・)

ラブ・コメディなので、基本的に朝から読んで平気です。
というと、がっかりする人も多いかも。

でも、さわやか季節!

恋のタイトルマッチでどうぞ^^



一日置きの連載です。






では今回の配役をざっとご紹介します。

今回は東京とソウルの二都物語です。
このほかにも登場人物はいますが、メインの役柄だけここにご紹介します。
また、秘密の配役もあるので、お楽しみに!




隣のヨンシュンさん(ペ・ヨンシュン)・・・・ ぺ・ヨンジュン (32歳)
相棒のタクヤ(木島拓哉) ・・・・・・・・・ 木村拓哉  (32歳)
私・通称リコ(牧村キリコ)・・・・・・・・・  小雪     (28歳)

近くのソナ(キム・ソナ)・・・・・・・・・・・・  ユンソナ
リコの職場の後輩(岡本准一)・・・・・・  岡田准一

京香先輩(佐藤京香)・・・・・・・・・・・  鈴木京香
アニキ(牧村桔平)・・・・・・・・・・・・・・  椎名桔平


(特別出演)
父  (牧村徳道)・・・・・・・・・・・・・・  原田芳雄



(韓国にて)
パク・テヒ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  キム・テヒ
ペ・ソンジュン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  ホ・ジュノ(ホテリアの支配人・若者のひなたでボクサー)




ではここより本編。
お楽しみください!








恋のタイトルマッチ。
それはたくさんの相手に勝つことではない。

これぞ!と見込んだ相手、好きになった相手と結ばれる。
それが勝利者という称号を手にすることだ。
負けない!
誰に?

自分の弱虫に!


そして、大好きなあなたと結ばれるまで
私は、

頑張る!





【恋のタイトルマッチ】

主演:ぺ・ヨンジュン
   小雪
   木村 拓哉





【主題歌】「逢いたくて」

♪♪~~
逢いたくて逢いたくて
今日もあなたに逢いたくて

逢いたくて逢いたくて
あなたにあなたに逢いたくて


いつか巡り会うはずだけど
あなたがいないと寂しくて
今日もあなたに逢いたくて


地下鉄のホームで
駅の階段で
会社のエレベーターで
街のコンビニで


いつか巡り会う約束を
きっと二人はしているはずね
もっともっと待つの? 逢いたくて


道ですれ違っても
すぐに私だとわかってほしい
あなたの好きな香りをつける
すぐに気がついてほしいから


街角の花屋で
公園のベンチで
劇場の入り口で
会議室の隣の席で


きっとあなたは探してるわね
あなただって会いたいはずよ
今日もあなたに逢いたくて


この気持ちは出会うまで
いつまでも続いていくのかしら
逢いたくて逢いたくて

あなたにとっても逢いたくて
私の大切な人だから
今日もあなたに逢いたくて
♪♪~~








「第1話 まずは自己紹介」


私の名前は牧村キリコ。
私は今、超イケ面の彼と同棲している。彼の名はタクヤ。はっきり言って、こんなハンサムな彼ってそうそういない。
彼とはかれこれ、一年半一緒に住んでいる。お互いに気心も知れていて・・・まあ、それ以上だが、いつ結婚してもおかしくない関係だ。


ということに、友人には言っている・・・。実はただの同居人だ。


タクヤは失踪した兄の友人で、このバカ高いマンションの家賃が払えなくて、妹の私を巻き添えにして責任を取らせているだけだ。
じゃあ、やめればって? ここの地の利の良さってないし・・・だから、私もここの生活に甘んじている。

兄の失踪だって、なんてことはない。飲み屋のつけを貯めすぎて雲隠れしているだけだ。


28歳という私の年齢やタクヤの美貌ってやつが、私に見栄を張らせて、「同棲」しているってことにさせているだけ。
実際には、タクヤには年上の女がいて・・と私は推察しているんだけど、二人して、今の生活を隠れ蓑にして、暮らしている。



こんな二人のサバサバした関係を知っているのは、ちょくちょく家へ遊びにやって来る近くのスナックのママ、ソナさんと職場の佐藤京香先輩だけだ。

京香先輩はアニキと大学時代の友人で、たぶん、もっと近い仲になったことがあると踏んでいるが、男勝りで頑張り屋の先輩はキャリアを選んだというわけだ。そして、二人の関係が変化した後も、仲良しでいられるというのは先輩の度量の深さともいえる。
私を今の会社に引っ張ってくれたのも京香先輩だった。

一方、ソナさんは歩いて2分のところにあるマンションに住んでいる。
ソナさんのスナックに借金をこしらえてアニキが失踪してから一年半。
ソナさんは家へ毎日のようにうちへ偵察にやって来る。
彼女はアニキに惚れていた・・・なのに、アニキは借金を踏み倒し、スナックでバイトをしていた専門学校に通う20歳のチャコちゃんと逃げちゃった。

ソナさんは踏んだり蹴ったりだ。

でも、あまりにうちに入り浸っていたので、今では私の親友のような、姉貴のような存在にまでなってしまった。

ソナさんは私より1.5歳年上で・・2歳上って言うと、本人が嫌がるので・・・少しでも若く言いたいらしくて、こういう言い方をさせるんだけど。とっても気のいい姉御だ。韓国から一人でやってきて、芝居の勉強をしに来たみたいだけど、今やスナック「サラン」のオーナーママだ。


ソナさん曰く、

ソ:リコ、あんた、今の生活してると、絶対行き遅れるよ。タクちゃんの顔を平気で見られるようになったら、女もおしまいよ。もう誰にもトキメかないよ。

韓国語なまりで私に忠告する。


リ:ソナさんだって、もうトキメかないでしょ?
ソ:えっ?(ちょっとうろたえる)
リ:ウソ? 好きなの? やだ、本当?
ソ:いいじゃん。どこが悪いのよ・・・。(すねる)
リ:・・・そうなんだ・・・。ふ~ん。
ソ:リコ、あんたって・・・(心配そうな顔をして)もしかして不感症?
リ:ええっ!


私は絶句してしまった。
確かにタクヤはキレイな男だ。
二人でよくラーメン屋に行くのだが、女も男も振り返る・・・私にではなく、タクヤに。


しかし、私は彼の実態を知っている。だから・・・恋には落ちない・・・。
そうじゃないのかな・・本当に不感症なのか・・・。ええっ! やだ!



いつから、タクヤが私のことを本当の妹のように、あるいは男友達のように思い出したかは定かではないが、今や彼は、家の中をトランクス一枚で歩いている。
8月の今、風呂上りの彼は、首にタオルを巻いて、トランクス一枚である。


リ:ねえ、そういう格好やめてくれない? おかしいよ。(ブラブラ歩いているタクヤに注意する)
タ:そう? ラクだよ。それに、誰も見てないじゃん。(キッチンへ行く)
リ:(バ~カ)私がいるでしょ?
タ:ああ、おまえね・・・忘れてた。(冷蔵庫を覗いて)おい、缶ビール、一本飲んだ? オレが冷やしてるやつ。(冷蔵庫に顔を突っ込んで話す)
リ:一本くらい、いいじゃない。5本、入ってたよ。(小さな声で)ケチなやつ。
タ:なんか言った?(ビールを一本持ってリビングのほうへやってくる)
リ:そんな格好するなって言っただけよ。
タ:これでも気を遣ってるの、わからない? 本当はさ、ボクサー、はきたいの。(わかる?)でもおまえの為にこれ、はいてるの! 家の中では。
リ:あっ、そう。どうもありがと。(バ~カ)それにしてもさ・・・。(タクヤの全身を見つめる)
タ:何?


あいつは極端に格好を気にしてるヤツだ。


リ:背が高いわりに、足、短いよね・・・。(そう言って、雑誌を見る)
タ:おい、ちょっと来いよ。(眉間にしわを寄せる)
リ:何よ?(顔を上げる)
タ:比べようぜ。
リ:何を?
タ:足の長さ!
リ:(バカ。また引っかかった)いいわよお。


私は立って、タクヤの横に並ぶ。比べると、背の高さは同じくらいだが、足の長さは私のほうが7~8cmくらいは長い。
タクヤは如実に嫌な顔をする。


リ:バカみたい。いつもやってるのに、懲りないのね。(ソファに座りなおす)


タクヤが嫌な顔をして、私の横の、L字型に並べた彼のソファに座る。お互いのソファを持って引っ越してきているので、二人掛けが二つある。


タ:おまえって、本当に性悪だよな・・。(リコの顔をマジマジと見る)普通だったら、かわいい子と一緒に住んだら、その気になるけど・・・これだからな・・・。(憎々しいといった顔でリコを睨む)
リ:かわいい? サンキュ! お酒のおつまみ、持って来てあげようか?(ちょっと見る)
タ:うれしいね・・・。(ウィンクして目が甘えている)


いつもこれだ。だから、私たちは進まない・・・。





午前6時50分。

戦いの時間だ。キレイ好きなタクヤがシャワーを浴びる時間。私だって、朝シャンしたいんだ、シャワーで!
なのに、いつも乗り遅れる。それは単に私が朝寝坊だからだけど。


タクヤが朝の長い儀式をしている間に私は洗面台で髪を洗う。洗っていると、バスルームを開けて、タクヤが怒鳴る。


タ:おい、オレのシャンプー、使っただろ。足りねえよ。
リ:知らないよ。(こっちだって髪の毛、洗ってるのに)
タ:取ってよ、早く。棚から、新しいの。
リ:こっちだって今、流してんの。
タ:裸で行くぞ!
リ:(バカ)待ってよ。


私は濡れた髪のまま、洗面台の横の棚から新しいシャンプーを取って渡す。
タクヤが受け取る。


タ:おまえ、自分の使えよな・・。(ドアをバタンと閉める)



タクヤのシャンプーは一本3200円なので、これを使うと、髪はサラサラ、育毛にも良くて、さらにセットのコンディショナーを使うと、仕上がりが最高にいい。アンド香りもセクシー。だから、ちょっと決めたい日には失敬して使っている・・・。



タクヤの長いグルーミングの間に、私は化粧をし、着替えて、コーヒーを用意し、トーストを焼く。新聞を取ってきて、メガネをかけて新聞を読む。
洗面所から、


タ:リコちゃん、コーヒー入れといて。


私は新聞を読みながら、タクヤのカップにコーヒーを注ぐ。


タ:おまえさ、そういう格好、男に見られたら、振られるよ。(席に着く)
リ:なんで?(訳がわからん)
タ:おっさんくさい!(胸に花柄のお気に入りのタオルをかけながら言う)
リ:何よ、その格好こそ、千年の恋も冷めるわね。(とっちゃん坊や!)・・あれ? いいの、着てる! 新しいね。何かあるの、今日?
タ:まあな・・・。(トーストをかじって流し目をする)
リ:ふ~ん。・・・泊まってくる?
タ:う~ん。遅くなる・・・きっと。
リ:ふ~ん。そう・・・?(顔を覗く)
タ:う~ん。そう。(ニコッ)


二人は意味深に見つめあう。こういう時のタクヤってちょっと好き・・・。ちょっとHな顔・・・。
普段は言いたい放題だけど、ちょっと秘密がある時のほうが謎めいていて、ドキドキする。少しステキに見える。


東京の大手広告代理店で、コピーライターをしているタクヤは、服装も自由だ。それだけにその日の予定がバレバレだ・・・。


7時40分となり、いつものようにタクヤは出勤していった。






「第2話 隣のヨンシュンさん」


東京青山にあるビルの8階。 
四星物産の日本オフィスの会議室。

リコと佐藤京香先輩の二人が緊張した面持ちで座っている。
韓国、四星物産が、この冬、日本で発表する新スキンケア商品のショールーム、及びエステを兼ねた7店のメイン店舗の、内装を一手に手がけるのが、ファイン・アーキテクツ(株)の、京香先輩率いるニュージェネレーションスタッフである。

この「ニュージェネレーションスタッフ」という訳のわかるようなわからないチームの命名は、部長の発案で、要するに、女・子供に関わる業種のビル・店舗の設計及び内装を行う部署である。部長は初め、高をくくって、こんな名前をつけ、京香先輩をチーフに5名で発足させたが、どうしてどうして時流に乗って、今や社内では飛ぶ鳥を落とす勢いである。今やチーム全体も10名と膨れ上がった。

四星物産のこの仕事は、一部、実際の設計を始めているところもあるが、今日は通常の会議プラス、いよいよ韓国本社からボスのぺ氏がやってくるというので、このプロジェクトに関わる関係者たちが一堂に集められた。

全体で15名ほどだが、女性は京香とリコの他に4名ほどだった。
時計は午後2時15分を指していた。


京:(眉間にしわを寄せて)遅いわね。約束は2時じゃなかった? 今日がムリなら、予定通り明後日でよかったのに・・・。緊急とか言って集めておいて、遅刻だなんて・・・。(呆れる)


キム部長が入ってきた。


キ:皆さん大変お待たせして申し訳ありません。車が今、首都高速の竹橋辺りで渋滞に巻き込まれておりまして。そこで、ぺのほうからですね、電話回線で皆様にご挨拶を申し上げたいと言っております。では電話を繋ぎます。


キム部長が機械を操作すると、車の中からのぺ氏の声が入った。


ぺ:皆様、たいへんお待たせして申し訳ありません。ぺ・ヨンシュンです。この度は、四星物産の新プロジェクト「スキンケアシリーズ・ベスト・レボリューション」にご尽力いただき、ありがとうございます。本日、ソウルから成田に到着いたしましたが、ここ、竹橋の辺りで事故がございまして、渋滞しておりまして、到着が遅れております。今回の新スキンケアシリーズ「ベスト・レボリューション」は・・・あ、ちょっと待ってください・・・大丈夫? そう? あと15分? わかりました。ありがとう。・・・ええ、皆さん、やっと渋滞が解消され、あと15分で到着だそうですので、それまでの間、キム部長からプロジェクトの詳細な説明をお聞きいただいて、お待ち下さい。


京:ふ~ん。遅刻したけど・・・ちょっといい声だったわね。年齢は判らないけど、声に深みがあったわ。ちょっと楽しみね。
リ:先輩ったら。もう・・・。(笑う)


キム部長から、このスキンケアシリーズの日本上陸にかける意気込みと従来の日本のスキンケアとの違い、この革命的なスキンケアを、どのように、日本の消費者にアピールしていくかという話を延々と聞いているうちに、会議室のドアが開き、ぺ氏が現れた。

サラリーマンらしいスーツ姿のキム部長とは一味違って、白シャツに薄茶のジャケット、焦げ茶のパンツをはいて、ノーネクタイ。颯爽と入ってきたぺ氏の姿は若々しく自信に満ち溢れていた。


京:いい男ね・・・。(囁く)
リ:先輩!(横目で京香を見る)


ペ氏が挨拶をして、関係者の大まかな挨拶が終わると、京香とリコが前に出て、ショールームと店舗のイメージコンテを指し示しながら、そのコンセプトをプレゼンして、この会は無事に終了した。

帰りがけに、リコと京香に、ぺ氏が後ろから声をかけてきた。


ぺ:牧村さん。(しっかりとした声だ)
リ:はい。(振り返り、顔を見て緊張する)
ぺ:いいプレゼンでした。期待しています。(鋭い瞳で見つめる)よろしくお願いしますね。
リ:(緊張して)あ、はい! よろしくお願いします!(頭を下げる)


帰りの地下鉄の中で、京香がフンと笑った。


京:ぺさん、いい男だったわね・・・。よし、がんばろ!
リ:・・・何を?
京:仕事に決まってるじゃない。なんだと思ったの?
リ:あ、いえ。
京:かなり、かっこいいわね。
リ:でもなんか、私、睨まれちゃって。威圧感があって、恐かったです。
京:(リコを見る)あら、気がつかなかったの? あいつ、リコを名指しで声をかけてきたでしょ。あんたのこと、気に入ったっていう目をしてたわよ。
リ:え、うそ。かなり鋭かったですよ。
京:目力が強すぎて、そういう目をする男もいるのよ・・・。あんたってホント勉強不足ね。ま、いいわ。これで仕事も楽しくなってきたし。相手に不足はないわ。ガ~ンと一発やってやろうじゃないの。女の底力をみせてやるわ。リコ、あんたもよ! しっかりね!
リ:はい。(ふ~!)


リコはいつも京香のやる気と熱気に押されっぱなしである。




それから2日後の土曜日。朝早くソナがリコのマンションへやってきた。
リコがボーっとした顔でドアを開ける。


ソ:リコ、起きてた?
リ:(大あくびをして)ソナさん、おはよ。まだ8時半だよ。土曜日ぐらい寝かせてよ。
ソ:何時まで寝てる気よ。(どんどん入ってくる)タクちゃんは?
リ:お・泊・ま・り。そういうソナさんだって、今日は早いでしょ?(あ~あ、伸びをする)
ソ:まあね。それがさ、私の高校時代の先輩がこのマンションに引っ越してくるのよ、今日。もうすぐ車が着くと思うけど。
リ:何階?
ソ:うん、305号室。すぐそこよ。奇遇でしょう?
リ:ホントだ。仲良しなの?
ソ:というか、共通の知り合いがいて、お手伝いしてほしいって電話が入ったのよ。(テーブルに座る)
リ:ふ~ん。ソウルの人? (冷蔵庫に麦茶を取りに行く)
ソ:うん。305号室が会社の借り上げ社宅なんだって。2ヶ月くらい滞在するらしいわよ。
リ:そうなんだ。何か手伝うことがあったらお手伝いするよ。ソナさんの先輩だもの。(麦茶をコップに入れて出す)

ソ:(麦茶を受け取る)ありがとう。でも、今回は自分でお世話してあげたいの・・・。
リ:そう。仲良しなんだ。(テーブルに着く)
ソ:う~ん、というか・・・。(コップをいじっている)
リ:大切な人なんだ。ねえ、どんな人? キレイな人?
ソ:うん。キレイな人。
リ:やさしい人?
ソ:うん。やさしい人。
リ:かわいい?
ソ:うん。すっごくかわいい・・・。(目がハートになる)
リ:へえ、いくつくらい?
ソ:32。もうすぐ33。
リ:へえ、独身?
ソ:うん・・・。
リ:そう。なんか私たちの周りって、かわいくてやさしくてキレイなのに、独身て多いよね。もったいないよね・・・ソナさんもそうだけど。
ソ:ありがと。でもリコもね。(笑う)あ、トラックの音だ!(窓の外を見る)来たみたい。行くね。


玄関まで来て、ソナが振り返って、


ソ:リコも来てみる? 紹介するよ。
リ:うん。じゃあ、着替えてから行く。それでいいよね?
ソ:キレイにしておいで。じゃあ、待ってるね。


しばらくして、リコは身支度を整えてから、305号室の前へ行く。引越し業者が帰っていくところで、玄関が開いているので、玄関口から声をかける。


ソ:ソナさん、いる~? リコです~。


すると、中から男が出てくる。リコと二人、顔を見合う。


男:(首を傾げて)もしかして、牧村さん?
リ:あのう、ぺさんですか?
ぺ:ええ。どうしたんですか?
リ:あのう、こちらに友人のソナさんがお邪魔してると思うんですけど・・・。

ソナが出てくる。


ソ:リコ、来てくれたの? 先輩、同じ階に住んでる私の友達。紹介するね。





ソナとぺさんと、リコの3人が305号室のリビングで、缶コーヒーを飲んでいる。


ソ:本当に奇遇ね。同じ階に先輩とリコが住むなんて。これで私もお世話しやすくなったわ。(うれしい)
ぺ:世話なんていいよ。別にやってもらうこともないし。牧村さんのお部屋は何号室ですか?
リ:302です。(彼の人となりがわからないので緊張している)
ぺ:お近くですね。(やさしい目をする)


初対面の時の鋭さはなく、やさしい目をして話している。リコには、ペ氏がやさしい人なのか恐い人なのか、まだよくわからない。


ソ:何かやることがあったら言ってね。
ぺ:特には・・・。ちょっとの間だから心配しなくていいよ。ここの家具だって、すべて借り物だし。
リ:そうなんですか?(周りを見渡す)


確かに、借り物といった感じだ。まるで、ビジネスホテルにいるようだ。テーブルも机もこのリビングの応接セットも全てがあまりに無難で、全く魅力的ではない。この薄茶のソファもとても地味で、どちらかというと、事務所のようだ。


ぺ:会社の倉庫にあったものなんですよ。僕みたいな長期出張者用に貸し出すんです。
リ:へえ。でも結構揃っちゃうものですね。(あたりを見渡して、少し考える)あとは・・・うん、電気スタンドかなにかあるといいですね。そのほうが、部屋に陰影が出ていいですね。
ぺ:そうですね・・・。このままだと少し生活するには寂しいかな。(ちょっと寂しそうな顔をしてから)うん。牧村さんのアイデア、いいですね。(にこやかにリコを直視する)お暇だったら、牧村さん、一緒に買いにいってもらえますか?


ペの寂しそうな顔から笑顔への変化が、リコの中にあった、今までの恐い、鋭いイメージを払拭するほど・・・なぜか、かわいく見える。


ソ:やだ、先輩。(慌てる)なんで私を誘わないの? 私が公認のお世話係よ。(ちょっとふくれる)
ぺ:あ、そうか。(笑う)ただ牧村さんはインテリアのプロだから。プロの目で選んでほしくて。
ソ:リコ、いい仕事についてるわね。(ムッとする)
リ:ええっ?
ぺ:リコさんていうんですか・・・確かお名前は牧村・・・。
リ:キリコ。で、皆がリコって呼ぶんです。
ぺ:そうなんですか・・・ふ~ん、リコさん・・・。かわいい響きですね。僕はヨンシュンでいいですよ。(やさしく微笑む)
リ:ヨンシュンさん?(名前で呼んでいいの?)
ヨ:そう、ヨンシュンです。・・・じゃあ、これ、片付けたら3人で電気スタンドを買いに行く?(ソナを見る)
ソ:そうこなくちゃ!(目を輝かせる)


ヨンシュンとリコがソナを見て、顔を見合って笑った。




3人はリコの案内で、おしゃれで比較的手ごろな照明器具を売っている店へ行く。


ソ:かわいいのがあるね~。私もほしいよ。リコ、今度、お店の照明、変えてよ。(楽しそうに、目移りしながら、奥へ入っていく)
ヨ:ステキなお店ですね。
リ:比較的格安なんです。ペさん・・・。
ヨ:ヨンシュンです。(見つめる)
リ:ああ、ヨンシュンさんは長くお使いになるわけじゃないから、こういうところのがいいと思って。(見つめられて心なし顔が赤くなる)
ヨ:どれがいいかな。リコさん、選んで。(また見つめる)
リ:わかりました。


ソナは自分の世界に入り込んでいて、自分の好きなものを探して歩いている。リコが照明を探すのをヨンシュンが後ろからゆっくりついてくる。リコのすぐ後ろに立って一緒に見る。

リコはこんなに男の人に見つめて話をされたことがなかったので、普段より少し緊張している。
タクヤはいつもラフな感じで、離れぎみにリコを見ているし、近くで見つめ合う時は何か面白い事や冗談を言ったり、軽口をたたいたりする時で、こんなにくっついて笑顔で見つめられたことはない。


そうだ。アニキも父もどっちかというと、強い視線の人たちだが、渋くて、目がやさしいというより乾いているというか、女の私と同化しようとする感じがない。
でも、この人はとても・・・情感があるというか・・・私の中に溶け込みそうな目をしていて・・・ああ、緊張する。
そうだ、鋭く見えた時も、京香先輩の言うように、目に力があって、目でものを言おうとしているからかもしれない。だから、恐く見えたのだ。あそこに訴えるものがあったんだ。


それにこんな言い方は変だが、なんか・・・ヨンシュンさんが後ろにいると、まるで、後ろから抱きつかれているような感じがして・・・。

私って変?
そのくらい、身近に感じるのだ。


リコがヨンシュンの部屋にピッタリのものをいくつかピックアップした。


リ:どうですか? リビングに2つ、寝室に1つ買いたいんですけど。まずは、リビングのメインのものを決めて、それに他のものをテーストを揃えたいと思います。ヨンシュンさん、どれが好き? これか、これか、これ。どうですか?
ヨ:う~ん。どれもいいですね。じゃあ、リコさんはどれが一番お勧め?
リ:ヨンシュンさんの部屋だから・・・。
ヨ:じゃあ、同時に指差してみますか?
リ:ええ。
ヨ:じゃあ、せ~の! これ!


二人が同じものを指差した。ヨンシュンがにこやかにリコを見た。それもとてもうれしそうに。


ヨ:じゃあ、これで決まり!
リ:そうですね。じゃあ、寝室はね・・・。


二人の照明選びは、うきうきと楽しそうに続いていった。






「第3話 図書館の二人」


数日後、リコは四星物産の東京オフィスにヨンシュンを訪ねた。ショールームの陳列スペースのコンテを見てもらう約束だった。リコはヨンシュンの部屋へ通され、そこの作業テーブルに座って、会議が終わるのを待っていた。

ふと見ると、ヨンシュンの机の上にかわいいブタの陶器の置物がある。手にとって眺める。日本のブタとは少し違って、そのブタは少しおませな顔をしていた。リコは笑って見ていたが、ドアのノックが聞こえ、急いで机に戻そうとして、机の端において床に落としてしまう。
ドアが開いたので、落ちたブタを慌てて拾い、後ろ手で隠して笑顔を作る。
女性秘書がコーヒーを入れて入ってきた。


秘:どうぞ、おかけになってお待ちください。もうすぐ会議が終わりますので、コーヒーを召し上がってお待ちください。
リ:ありがとうございます。(軽く会釈する)


秘書が出ていくと、ブタをよく見てみるが、もう首はくっつかない。


リ:どうしよう・・・。


またドアの向こうでヨンシュンの声がして、また慌ててブタを机の上に置き、立ったまま、ヨンシュンを待つ。
ドアが開く。


ヨ:あ、リコさん。お待たせしました。(いつもの笑顔で)どうですか? いいアイデア、浮かびましたか?
リ:ええ。コンテ、見ていただけますか?
ヨ:どうぞ、テーブルのほうへおかけください。


ヨンシュンは会議のファイルを机の上に置きに行く。ふと見ると、ブタの首が折れている。


ヨ:ああ・・・。


ヨンシュンがちょっと眉間に皺を寄せて、ブタを手にとって見ている。


リ:ヨンシュンさん・・・。(こわごわ声をかける)
ヨ:どうぞ、お座り下さい。(目はブタのほうを見ていて、首をくっつけたりしている)
リ:あ、はい。・・・ヨンシュンさん・・・私・・(ブタを・・)
ヨ:どうぞ、かけて。う~ん・・・。(悲しそうな顔をしてブタを見る)
リ:(しょんぼりと)・・・。(どうしよう)


ヨンシュンはまだ未練があるようで、ブタを眺めまわしていたが、リコに悪いと思ったのか、


ヨ:フ~。(気分を変えて)さあ、始めましょう。どうぞ。
リ:はい。ではこちらのコンテをご覧ください。


結局、リコは言い出せなかった。打ち合わせのあと、


ヨ:ところで、この間、選んでいただいた電気スタンド。すごくよかったです。ありがとうございました。
リ:そうですか? 気に入っていただけましたか? あのう・・(ブタ・・)
ヨ:どうかしました? 何か問題点が残ってましたか?
リ:いえ。(困ったな・・・)あのう、ブタさん・・・。
ヨ:ああ、あれですか。(立ってブタのところへ行く)これ、スイスに美容学を学びに留学した時にいただいたものなんです。スイスは美容関係では世界最高峰ですからね・・・。
リ:えっ! そんなに大切なものなんですか・・・。
ヨ:仕方ないです。形あるもの、いつかは壊れますから・・・。(ため息をつく)
リ:・・・。(もう言えないかな・・・)

ヨ:(気分を変えて)そういえば、リコさんもソナのお店の常連だとか。
リ:ええ、ソナさんのところで、よく夕飯食べたりしてるんです。
ヨ:そうでしたか。じゃあ、今度ご一緒しましょう。ソナが僕の食生活を心配して、うるさく言ってくるので、これからは通わないといけないみたいなんです。(笑う)
リ:そうですか。ソナさんはヨンシュンさんを大事に思っているんですね。
ヨ:そうかな・・・。うん。まあ・・・お目付け役だから。(ちょっと苦笑いをする) 
リ:えっ?
ヨ:・・・。(ちょっと含み笑いをする)




それから数日後。

女:はい、ファイン・アーキテクツです。あ、四星物産のぺ様、いつもお世話さまでございます。牧村ですか? 只今、現場のほうへ出ておりまして、今日はこのまま社には戻りませんが。・・・ああ、はい。そうですか。私立高校の図書館の内装をしておりまして、見学? ええ、できますよ。場所はですね・・・。



とある都内の私立高校の図書館。
リコが後輩の准一と一緒に閲覧室の中をメジャーで計っている。


リ:准一君、そこで押さえててよ。行くわよ。


リコがメジャーを床に這わせるように引いていく。ずっと行って止まる。


リ:ここまでね。(長さを書き取り、周りを見て)まあ、いい感じね。


リコは前屈みになって座り込んでいた体勢から、勢いよく上体を起こして立ち上がろうとする。すると、頭が何かにぶつかった。後ろを振り向くと、ヨンシュンが立っていて、目を丸くしている。


リ:あら、ヨンシュンさん!(にこやかに笑顔を投げかける)
ヨ:・・・。ちょっと・・・失礼します・・・。
リ:えっ? ・・・どうしたの?(立ち去るヨンシュンを見送る)


前で准一が笑っている。


リ:何よ?
准:ハハハ・・・。(笑いが止まらない)
リ:やだ、何よ!
准:リコさん、ハハハ・・・わかりません? ハハハ・・・。
リ:なんなの?
准:今、今、ハハハ・・・。(お腹を抱える)
リ:やな子・・・何よ。
准:ヨンシュンさん、当たりどこが悪くて・・ハハハハ・・・。
リ:やあね、感じ悪い! 何よ!(そう言った後に思い当たる)やだ・・・。


リコは自分の後頭部を撫でるが、


リ:(撫でた手を見て)やだ! 准一のバカ!


ヨンシュンが戻ってきた。


ヨ:リコさん。


リコは振り返るが、ヨンシュンの顔を見て、思わず噴出してしまう。ヨンシュンも一緒に照れたように笑う。准一も一緒になって3人で大笑いする。
准一はヨンシュンの顔を見て、ヨンシュンがリコを訪ねてきた気持ちがなんとなくわかって、自分がここにいるのがお邪魔虫のような気になる。


准:リコさん、もういいですか。
リ:うん、いいわよ。
准:じゃあ、僕はこれで。先に帰ってもいいですよね?
リ:うん。いいわよ、ありがとう。今日はこれで直帰ね?
准:ええ。じゃあ、お先に失礼します。ヨンシュンさん、じゃあ僕はこれで・・・。(会釈する)
ヨ:お疲れ様です。(頭を下げる)


准一が肩を震わせながら、帰っていくと、二人は顔を見合わせて微笑むが、リコはちょっと気恥ずかしくなって、赤い顔になる。
ヨンシュンがやさしく微笑んで、


ヨ:リコさんの仕事を実際に見てみたくて来たんです。ここの内装を仕上げたんですよね。
リ:ええ、そうです。どうぞ、見ていってください。
ヨ:説明してください。(リコの顔をマジマジと見る)
リ:あ、はい。


リコは、ヨンシュンが強い視線で見つめるので緊張して、何度も咳払いをする。
そんなリコがかわいくて、ヨンシュンはまた覗き込むように笑顔で見つめる。


リ:(仕方なく、ヨンシュンの視線を無視して前を見ながら)ここは新築なんですけど、生徒たちが精神的に落ち着いて勉強できるような空間を作ってほしいという依頼でしたので、天井を高くして・・・実はこの床や天井の梁を見てください。
黒光りしているでしょう? 古い洋館の廃材なんです。でもとてもよく使い込んでいて・・・ハリーポッターが出てきそうでしょう? あそこに階段がありますよね? 中2階を作ってみたんです。あの手摺りの足を見て。すごい彫刻でしょう? それにどっしりしていて。
あんな階段にちょっと腰掛けて本を読むってステキでしょう? 高校時代ってちょっと夢があると、楽しくて図書館にも通いたくなると思うの。
全体的にはシックに。でもちゃんと机にはインバーターの目にやさしいライトを使うつもり。
今日はここに入れる、机の大きさの確認に来たんです。図面でわかっていても実際に測ってみないとイメージが違うこともあるんですよ。
ヨ:(全体を見回して)いい空間ですね。温かい感じがします・・・。リコさんの人柄かな。あの階段、座ってみていいですか。


と言って、ヨンシュンが行こうとする。


リ:ヨンシュンさん、待って。そっちはさっき・・・。


慌ててリコが飛んで行き、リコもヨンシュンと二人一緒になって転びそうになり、抱き合う。


リ:・・・さっき、ワックスをかけたばかりなんです・・・。(ヨンシュンに捕まるような、彼を支えているような・・)
ヨ:あ~あ・・・。(リコを抱き留めているような、抱きついているような・・)どうします? 動けないですね・・・。


転ばないように、お互いの体が頼りなので、動けない。


リ:・・・う~ん、ヨンシュンさん、左のほうへちょっと動いて。私は右へ・・・。


ヨンシュンが左へ寄ると、リコも同じ方向に寄って、よりバランスが悪くなり強く抱き合う羽目になる。お互いの顔が近づいて、リコの厚みのある唇がヨンシュンの目の前へ来る。少し半開きのその唇に、ヨンシュンは一瞬、引き付けられて吸い込まれそうになる。


リ:(赤い顔で目をそらしたまま)あ、ごめんなさい。・・・そうか。ヨンシュンさんと私、二人が同じ方向に行けばいいんだわ。お互いに自分に向かって、右に動きましょう。ね!


そう言ってヨンシュンを見上げると、彼の目がリコの口元に釘付けであるのがわかる。リコが咳払いする。ヨンシュンも気がついて、咳払いをし、思わず照れ笑いをして、リコを見る。
二人で同時に体を右へ動かし、二人の体勢を立て直す。お互いの体から離れると、リコが深くため息をつく。あまりにため息が深いので、ヨンシュンが驚く。


ヨ:ケンチャナ?(顔を覗き込む)
リ:え?(息を吐くような声で、ヨンシュンを見上げる)
ヨ:イップダ~。(やさしい声で囁き、笑顔で見つめる)
リ:えっ? なんですか?
ヨ:・・・いえ、なんでもないです・・・。(微笑んでいる)


リコにヨンシュンの感情が流れ込んでくるようで、このなんとも言えない甘い空気に、リコはだんだん息苦しくなってくる。少し状況を変えたくて、


リ:ゆっくり歩いていって階段に座ってみますか?
ヨ:そうですね。


二人はゆっくり歩いて階段に向かい、少し階段を上がって、並んで座る。


ヨ:落ち着きますね。いいですね、ここ。・・・ここは男女共学?
リ:そうです。(少し気持ちが落ち着く)
ヨ:いいな・・・僕もこんな図書館で、恋をしてみたかったです・・・。(リコの横顔をじっと見つめる)
リ:(ちょっと息を吐くような声で)ええ? ヨンシュンさん、ここでは勉強してください。(微笑みかける)
ヨ:ああ・・・そうでした。勉強する空間でしたね。(笑う)・・・リコさんの造る空間は温かいな・・・。うちのショールームやオフィスも期待できそうで、うれしいです。他に完成しているところで、できれば、店舗かショールームを見せてもらえますか?
リ:ええ、いいですよ。今日はこのまま、帰れるので、う~ん・・・そうねえ・・(時計を見て、ふらりと行ける店を考える)銀座の家具屋さんでもいいかしら? 行ってみます? 
ヨ:ええ、連れてってください。(リコをやさしく見つめる)


二人は立ち上がる。ヨンシュンが普通に歩こうとするので、


リ:ヨンシュンさん、気をつけて。
ヨ:あ、そうでした。今日はなんか・・・楽しいですね。(笑う)
リ:ええ? ああ。(さっきのことを思い出して笑ってしまう)


ヨンシュンがリコに手を差し伸べる。ヨンシュンがにこやかにリコを見つめるので、リコは恥ずかしそうにその大きな手に手を乗せる。ヨンシュンがぎゅっと握った。そして、うれしそうにリコを見つめて、二人はそろりそろりとゆっくり出口まで歩いていった。




夕方の銀座を二人が肩を並べて歩いている。プランタンの脇を通って、有楽町から銀座のほうへ歩く。


ヨ:いい香りですね。
リ:えっ? (ヨンシュンの顔を見る)
ヨ:髪の香りがいいです・・・。(横目でちらっと見る)
リ:どうも・・・。
ヨ:実はさっきもそう思ったんですが、あの体勢で言ったらおかしいでしょう。(微笑む)・・・とてもいい香りです・・・。
リ:・・・。(微笑み返す)ああ!ヨンシュンのところも、シャンプーも出してましたよね?
ヨ:ええ、今度使ってみてください・・・香りは負けるかな。(笑う)でも、ナノ化された黄土が入っているので、頭皮の脂もキレイに取れるし、ミネラルたっぷりだから、髪を健やかにしますよ。洗顔ソープやクレイパックも黄土が入っているから、毛穴の汚れをキレイに取り除いて毛穴をきゅっと引き締めるんです。いいですよ。
リ:そうですか。今度、使ってみます!
ヨ:なんか、宣伝しちゃったな。宣伝したくて「いい香り」って言ったわけじゃないんですよ。
リ:(笑って)わかってます・・・でも使ってみます。(笑顔で言う)
ヨ:リコさんは笑顔がステキですね。本当に幸せそうに微笑むんですね。(見つめる)
リ:そう? それはヨンシュンさんのことだと思いますよ、私は。(見つめる)


見つめ合って、二人ともすっかり目的を忘れて歩いている。
家具屋の通りをずいぶん前に通り過ぎている。リコがはっと気がついて、周りを見て慌てる。


リ:やだ。もっと手前の通りを曲がるんだったのに・・・私ったら・・・。こっちです。(彼に見とれててバカみたい・・・)ヨンシュンさん? こっち。(ヨンシュンのジャケットの肘を引っ張る)



ヨンシュンも、ボーっとリコを見とれていて、「あ~あ」と引っ張られて歩く。

二人は、通りを正しく曲がって、また笑って見つめ合い、家具屋の前を通り過ぎていった。










続く・・・。




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