2009/12/27 01:19
テーマ:【創】Step to・・・ カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【シアター】「Step to the Next」

Photo






BYJシアターです^^

こちらは2007年12月の暮れに書いたものです。

まだ・・・冬ソナの続編のアニメができると知らなかった頃のお話です・・・。

このBGMにあったストーリーを書いてみたいなと思って、
年末に書いたものです・・・。




今年は、自分でも不本意な後半の終わり方になりましたが、
また年が明けたら、また新作の連載を続けたいと思います。

今年も一年、シアターを読んで下さってありがとう^^
また、よろしくお願いします^^




本日は単発で・・・いつもとは、ちょっと違ったストーリーです・・・。


ではここより本編です・・・。




~~~~~~~~~~






「お母さん、一人置いていくなんて・・・」

  
「さきこ、行くぞ~」

「ほら、行ってらっしゃい」


母親のよしこがさきこの髪を撫でた。

「だって・・・お母さんが具合が悪いの、わかってるのに」
「だから、早く行って早く帰ってきたいんじゃないの」
「でもお・・・」

「修一さんのご両親を大切にしなくちゃ。あなたはお嫁さんなんだから」
「でも」
「さきこ、明日の晩には戻るって言ってたじゃない。ちゃんとご両親に新年のご挨拶してらっしゃい。お母さんだって、修一さんを婿養子みたいに扱ってると思われると嫌だもん」
「うん・・・」

「さきこ! 早く!」

修一がよしこの部屋を覗いた。


「お母さん、明日には戻りますから」

「ええ。ゆっくりしてらっしゃい。病気と言ったって、今に始まったことではないんだから。一日や二日、家を開けたってどうってことないわよ」
「心配しないでください。ホントに明日、戻りますから。さ、早く行こう」
「うん。お母さん、ご飯は冷蔵庫に・・・」
「大丈夫だから。修一さん、お父様やお母様によろしくお伝えしてね」
「じゃあ、行ってくるね。ジャジャ、お母さんをよろしくね」
「行ってらっしゃい。気をつけてね。私は少し寝ますよ」
「・・・行ってきます」


娘のさきこは母の愛犬ジャジャの頭を撫でて、母に笑顔を見せると出かけていった。

娘たち夫婦が新年の挨拶に、婿の実家に顔出しに出かける。






よしこは、またゆっくり布団をかけて眠りにつく。
  
今年で57歳を迎えたよしこだが、お腹の中に発生したガンには克てなかった。
ガンも元気だったよしこと同じく、元気によしこの体の中を支配していった。
まだ、3か月は余生があると言うものの、病院では手の施しようがなくて、現在は自宅療養だ。
そんなよしこを心配して、結婚したばかりの娘のさきこが1か月前に夫と共に自宅へ戻ってきた。
よしこは、愛犬とのんびりやるからいいと言い張ったが、一人娘のさきこには、母を放っておくことができなかった。
夫の修一も人の良い男で、さきこの気持ちをよく汲んで、毎日を気持ちよく過ごさせてもらっている。
  
よしこは娘のおかげで、ゆっくり自宅養生できるようになり、今のところ、小康状態が続いている。

  

「さあ、少し寝ますよ。ジャジャ、あんたも寝なさいよ」


よしこは、痩せた体を横にして目を瞑った。





  
【Step to the Next】

主演:ペ・ヨンジュン







「ねえ! ねえ! よしこちゃん!よしこちゃんてばあ!」
「なあにい~。いったい、何事?」

よしこがゆっくり目を開けると、愛犬のジャジャが布団の上に乗っかって、うれしそうに白い歯を抜き出しにして笑っている。


「重いったら! どいて!」
「でもねえ、聞いて、よしこちゃん。すごいニュースだよ!」
「なあに?」
「一番街の映画館で、あの人の映画やってるって!」
「ええ! 本当!」


よしこはびっくりして目を丸くした。


「映画って聞いてないよお~。映画なんか最近撮ったっけ~?」
「ねえ、行こうよお!」
「待って! ちょっと伸びさせてよ。あ~あ!」


よしこはベッドの中で大の字になり、全身をいっぱいに伸ばす。



「ねえ!行こうよ」
「でも、あんた、どこでそのネタ、仕入れてきたの?」


よしこは、ガバッと起き上がって、ジャジャを見た。


「それは内緒だよ」
「へえ。まあいいわ。行ってみるか!」
「そうでなきゃ!」
  

よしこは元気にベッドから飛び起きて、洗面所へ行く。

髪をアップにして、歯を磨く自分の顔を覗き込む。



「あれ。私ってこんな顔だっけ?」
「よしこちゃん、何言ってるの」


横に座り込んでいるジャジャがよしこを見上げた。


「だってさあ・・・。(首を傾げる)そうだっけ?(しげしげと自分の顔を覗きこむ)なあ~んか、違うような・・・。私、自分の顔、忘れちゃった・・・。でも、ちょっと目尻ヤバいかなあ・・・」
「大丈夫だよ。そんなもんだよ」
「そうかなあ・・・この年で小じわなんて嫌だからさ・・・」


よしこは鏡で顔を確認すると、顔を洗う。


「よっしゃ! ちょっと化粧水ぐらいつけておくかな」


洗面を済ませて、部屋の箪笥を開ける。


「あれ、母さんの服ばかりだ・・・」
「よしこちゃんのは、2階の、ほら、勉強部屋だったとこにあるだろう?」
「ええ? あ、そうだっけか? 私、最近、ぜ~んぜん記憶がな~い!やば~い!」


よしこは威勢よく階段を上って、さきこの部屋に入った。



「あった、あった。ええと、ジーンズにシャツ・・・どれにしようかな・・・。あ、これ!かわいいから、これ!」

そういって、チュニックを取り出し、タートルネックに重ね着をする。

「OK。これでいいかなあ・・・」
「いいよいいよ。かわいい」

「よっしゃ! ええと・・・一番街だっけ?」
「そうそう!」
「OK,OK」


よしこはいつもジャジャを入れて歩くバッグを取り出す。

「あんたも行くでしょ?」
「もちろんです。ヨン様だもん」
「だよね、おいで!」
  

よしこが用意したバッグにジャジャが飛び込むと、二人は一番街に向かった。






「あ! ホントだ! 『チュンサンの奇跡』か・・・」
「へえ・・・」

ジャジャがバッグから顔を出した。


「知らなかったねえ。こんな映画が存在したなんて・・・。続編作ってたんだね。入るか!」
「うん!」



「大人一枚」
「大人ですね・・・。あ、お客様」
「はい」
「今、ヤングのお客様には半額でご入場いただいております」
「え?」
「IMXのヤング家族獲得キャンペーンでございます」
「へえ。ラッキー」




映画館の中へ入ると、よしこだけである。


「やだ、誰もいないよ」

よしこは周りを見渡した。

「よしこちゃん、大みそかだもん」
「まあねえ」
「あ、始まるよ!」
「うん!」
  

映画は、冬ソナの続きだった。
ユジンと再会後のチュンサンが再び二人でニューヨークに向かい、目の手術をする映画だ。



「ああ・・・チュンサン・・・」


目の包帯を取るシーンに、よしこは胸がいっぱいになった。



チュンサンがゆっくり目を開ける。

じいっとこちらを見ている。


医師の声が聞こえる・・・。

「Can you see?」
「Yes・・・Yes, I can see よしこ・・・」

  
え?!



「よしこちゃん・・・よしこって言ったよね?」
「ジャジャもそう聞こえた?」
「うん」


チュンサンの目はよしこに釘付けだ。



「チュンサン!」

ユジンの声が聞こえて、チュンサンは視線をずらした。


でも、その後も、ユジンの目をかすめては、よしこのほうを見ているような気がする・・・。

  
ヨンさんがこんな演技をするかしら・・・。
それとも、撮影中にカメラのほうに気になることがあったのかな・・・。

  
よしこの心拍数はどんどん上がって、結局ハッピーエンドで終わったこの映画も、よしこの中では奇妙なざわめきと不安感を残して終わった・・・。



映画館の電気がついて明るくなっても、よしこは動くことができなかった。


「よしこちゃん、大丈夫?」
「・・・ダメかも・・・」
「ねえ・・・」

「なんか変だったよね。ペ・ヨンジュンじゃないみたい・・・。あれって・・・まさに・・」
「チュンサン!」
「だよね・・・。芝居してないチュンサン。ユジンの目を盗んでこっちを見てた時の目が、ヨンさんじゃなかったもん」
「うん・・・本物っぽかった」


よしこはボーっとしたまま、ジャジャをバッグに入れ、映画館を出た。

外は、雪が降り出していた・・・。


  
「雪だ・・・」
「ホントだ・・・よしこちゃん、傘は?」
「持ってこなかった。失敗。ラーメン屋まで走るか」
「そうだね!」



よしこは、コートのフードを被り、バッグをしっかりと抱えると、映画館近くのラーメン屋へ走り出した。

途中、電柱が立っていて、よしこが通り過ぎようとすると、ふわっと人が電柱の影から出てきた。

  
「あのう、傘に入っていきませんか? 濡れますよ」
「あ、すみません」


よしこが傘の主のほうへ顔を見上げる・・・・。


「あ、チュンサン・・・」
「・・・」


チュンサンがにっこりと笑った。


「待ってたんだ」
「でも・・・いったい」
「君に逢いたくて・・・」
「でも・・・なんで」
「傘も持っていないようだったから、ちょっと心配した」
「え?」
「だって君、犬のバッグしか持ってなかったから・・・。外は雪が降り出しているのに・・・君ったら」
「はあ・・・」
「目の手術のあと、君の顔が一番に見られてうれしかった・・・」
「そんな・・・」
「よしこ・・・」
「ええ?・・・」
「逢いたかった・・・」


よしこは、目の前にいるチュンサンの目をじっと覗き込む。



「ドッキリカメラ? ドッキリカメラなの?」
「ん?」
「やだ・・・そうなの・・・」
「何?それ。日本の番組?」
「え? 違うの?」

「なあにい?(笑う)君、ラーメン食べに行くんだったろ?」
「あ、ああ・・・」
「行こう! ここは寒いよ。風邪引くよ」
「え、ええ」



てなわけで・・・よしこは、チュンサンと並んで、近くのラーメン屋に向かった。


「君が注文して」
「私が?」
「君のテリトリーだろ?」
「まあねえ・・・」
「何がおいしいの?」
「う~ん、チャーシューメンと棒餃子・・・」
「じゃあ、それにして」(微笑む)
「ええ・・・」

「へい、お待ち~」
「ええと、チャーシューメン2つに、棒餃子2つ・・・」
「へい、毎度~。チャーシューメン2枚、棒餃子2枚~!」

  
「あのう、聞いてもいいですか?」
「何?」(笑顔)
「どうしてここにいるの?」
「どうしてって・・・よしこのそばにいたいから」
「私の?」
「うん」
「あなたはだあれ・・・?」
「え?」
「ヨンジュンさんじゃないことはわかるの。ちょっと違う人だもん」
「じゃ、誰?」
「チュンサン・・・」
「その通り」
「でも、チュンサンは作品の中の人で・・・」
「君って、意外に頭の硬い人なんだね」
  


「へい、お待ち~」


「あ、おいしそうだ」
「・・・」
「食べなよ」
「ええ・・・」
「ワンちゃんは・・・食べなくてもいいの?」


ジャジャがバッグから顔を出した。


「よしこちゃん、チャーシュー1枚恵んで」
「・・・わかったわよ・・・」

よしこはチャーシューメンの中から1枚チャーシューを取り出し、テーブルの上に置く。
ジャジャが顔を出し、パクっと食べた。


「かわいいねえ」
「そうお?」
「うん、いくつ?」
「ええと・・・あれ、いくつだっけ?」

「3つです」

「そうなんだあ」(笑顔)
「そうだったっけ・・・」(ちょっと浮かない顔)
「どうしたの?」
「なんか、私、最近物忘れが激しくて・・・今朝も・・・」


自分をちょっと思い出せなかった・・・自分の顔を・・・。
自分の服をどこにしまっているかも・・・。


「変なの、私・・・」
「そんなことはないよ。僕のことは覚えていてくれるし・・・ラーメン屋さんも覚えているし・・・」
「そうね・・・。でも、なんか変」


なんか変だ。
なぜ、チュンサンとラーメンを食べているかもよくわからない・・・。

少し、頭が変なのかも・・・。





「ねえ、君の話を聞かせて」


チュンサンは食べるのをやめて、箸を持った手で頬杖をつくと、よしこを見て微笑んだ。


「私のこと?」
「ああ。だって、君は僕のこと、よく知ってるだろ?」
「まあね」
「26歳の君のことを教えて」
「26・・・?」

  
自分の年も忘れてた・・・なんてことだ・・・。
もうお手上げ・・・。

もう、チュンサンがここにいることの説明を聞いても理解できないだろう。
だって、自分を忘れてしまうんだもの・・・。

  
「26の私ね。う~ん、3年前に大学を出て、本屋さんに勤めたんだけど、なんか仕事が合わなくて、11月に辞めたばかり」
「3年も勤めたのに?」
「ええ・・・」
「そうお」

  
本当は、職場の彼が上司のお嬢さんと二股かけてたのに、怒って辞めたの。
だって、あっちと婚約しちゃったのよ。



「それで、今は?」
「ブラブラ・・・年が明けたら、仕事を探すわ」
「そうか」
「ええ・・・」


でも・・・なぜか、これから編集者になるような気がする・・・。
これは予知能力かな・・・。
だと、いいけど。



「きっと君ならいい仕事見つかると思うよ」
「ありがとう」(笑顔)
「うん。笑顔がかわいいねえ」
「え?」
「かわいい・・・」


そう言って、チュンサンはラーメンを啜った。




「お腹いっぱい・・・」
「だね? おいしかった。ありがとう、いいお店に連れてきてくれて」
「どう致しまして」

「送っていこう」
「ウチまで?」
「ああ・・・」
「でも」
「君は傘を持っていないし。いいだろ?」
「ありがとう」



よしこは、チュンサンと相合傘で歩く。
  

「雪が降っているのに、あったかい」
「今、ラーメン食べたばかりだからね」
「あ、そうだった。私ったら。でも・・・チュンサンの隣は・・・あったかい・・・」
「そう? だとうれしいよ。もっとこっちへおいで」


チュンサンがよしこの肩を抱いた。

チュンサンが軽くハミングする。
よしこが笑った。



「なあに?」
「あなたって、ご機嫌な時、ちょっとハミングするのよね・・・ああ、これ、ヨンさんか」
「そうか・・・。気がつかなかったな」
「でも、そんなとこ・・・好きです」
「ん・・・ありがとう」
「結構降ってきましたね」
「だね・・・」

「あ、そこの角の家」
「ああ、ここね」

「ありがとう」
「どう致しまして」

「あのう・・・雪も降ってるし、少しお茶でも飲んで温まっていきませんか?」
「いいの?」
「ええ」
  

よしこは、チュンサンを家にあげた。




ダイニングテーブルに座っているチュンサンの膝には、ジャジャが座っている。


「ホントにかわいいねえ、この子は」
「そう? はい、紅茶」
「ありがとう」
「熱いから・・・注意してね」
「ん・・・あ、本当に熱い!」
「やけどした?」
「大丈夫。ここは、君だけで住んでいるの?」
「え? ええと・・・あら・・・。(どうだっけ・・・)ああ、父と母は温泉に出かけているの。毎年、年末年始は温泉で過ごすから」
「そう、君は?」

「ええと・・・。忘れちゃった。きっと、なんか用事があったと思うけど・・・」
「僕と逢うためかな?」(笑う)
「そうね! そうだわ、きっと」



チュンサンと二人でゆっくりとお茶を飲む・・・。


私たちって、波長が合うのかしら・・・。
言葉はなくても、幸せな気分・・・。



「よしこは・・・う・うん。(咳ばらいする)いい人だね」
「どうして? 普通って感じでしょ?」
「うん・・・そこも気に入った・・・」
「・・・」


チュンサンがじっとよしこを見つめた。



「君も時間があるみたいだから・・・僕と一緒に来ない?」

「・・・どこへ?」
「ニューヨーク」
「でも・・・私・・・」
「ちょっと遊びにおいでよ」
「でも・・・今日、あなたに逢ったばかりよ」
「でも、君は僕の過去も全て知っているわけでしょ?」
「あなたは・・・私を知らないわ・・・」
「知ってるよ。山本よしこ、26歳。只今、休業中。そして、かわいい犬を飼っていて・・・かわいい人」
「でも、中身を知らないでしょ?」
「でも、わかる・・・君がいい人だということは」


そうかな・・・。

  
「雪の中に僕を置き去りにしなかったし・・・君は僕といると暖かいと言ったけど、それは君が温かい人だからだよ」
「よくわからないわ、意味が・・・」

「一緒に行こう」

チュンサンがじっとよしこを見つめた。


「どうしよう・・・。父さんも母さんも出かけていて、困ったわ」
「君はもう大人でしょう?」(笑う)
「でも・・・」
「一緒に行こう。僕は君が気に入った」

「でも・・・ねえ、ジャジャ、どうしたらいい・・・?」

「行ったら?」
「え?」(驚く!)

「こういうチャンスはないよ。よしこちゃんの好きな人が迎えにきてくれたんだよ」
「・・・」
「そうだろう?」
「そうだけど・・・」

「よしこ。実は今日の便で帰るんだ」
「え?」
「ごめん。急で」
「でも、私・・・」



ジャジャが、チュンサンの膝から飛び降りて、リビングの引き出しを開け、中からパスポートを取り出してきた。



「ほら、よしこちゃん」

くわえてきたパスポートをよしこの前に置いた。


「・・・いつの間に・・・パスポートなんて」
「じゃあ、話は決まったね?」


チュンサンが微笑んだ。


よしこには、事の次第がよく飲み込めていないが・・・好きな人が自分を迎えにきたのだ。
行くしかないだろう・・・。
  


簡単な着替えをボストンバッグの中に入れた。



「よしこちゃん、足りないものは向こうで買えばいいんだから」
「ま、そうね」


よしこは慌ただしく支度をして、2階から、バッグを提げて、階段を駆け降りた。


チュンサンが玄関口で待っていた。

よしこはチュンサンの顔を見て微笑んだが、そのチュンサンの顔の横の壁に、絵が飾ってあった。



あら・・・この絵って・・・。
中学生か高校生が書いたような絵。
これ・・・私が書いたの?
絵なんて、上手じゃなかったのに・・・誰の絵・・・?




「さあ、行こうよ」
「ええ」


よしこが靴を履こうとすると、愛犬のジャジャが行儀よく玄関の框に座り、よしこをじいっと見上げている。



「ジャジャも一緒に来るでしょ?」
「よしこちゃん・・・僕はここで失礼するよ」
「そんな・・・」
「どうか・・・幸せになって・・・」
「・・・うん・・・でも」
「僕は、よしこちゃんの家族に、君が幸せになったって報告しなくちゃいけないからね。ここに残るよ」
「そう・・・」


あんなにかわいがっていたジャジャとも、よしこは別れることになった。

ジャジャはちょっと目をきらきらと光らせて、よしこをじっと見つめている。


「あんたも元気でね・・・」
「よしこちゃんも・・・」



たった3年間?
もっと長く一緒にいたような気もするけど。

愛犬との突然の別れ・・・。

でも、よしこはジャジャを置いて、家を出た。








今、チュンサンとニューヨーク行きの飛行機のタラップを見上げている。


「さあ、行くよ」
「これに乗っていくのね・・・」
「そうだよ」
「ユジンさんじゃなくて、私と・・・」
「そう。(笑う) 恋の逃避行って感じかな?」
「・・・」
  

よしこはなかなかタラップに足をかけられない。
  

「どうしたの?」
「私・・・帰ってこられるのかしら・・・?」
「なんで?」
「なんか・・・」
「なあに? どうしたの?」
「うううん・・・なんでもない。いいわ、行くわ! いつかは行かなくちゃならないんだもん・・・。あなたと一緒ならいいわ!」

「行こう」

「ねえ、チュンサン! ずっと私といてくれる? ずっと!」
「いるよ。当たり前だろ? おかしなこと言うね」
「なら、いいの・・・。私の手を握って。私の手を引いて」

「自分で登ってごらん」
「・・・」
「君の人生だ」
「・・・」


よしこは、目の前に高く聳えるタラップを見上げて、決意したように登り始めた。
一歩一歩、しっかりと踏みしめるように・・・。

  

私は振り返らない・・・人生を振り返らないわ!






飛行機の中は優しい花の香りがした。


「いい香り・・・」
「僕たちの席は・・・ここだね。君、窓際がいいだろ?」
「え?ええ・・・」



よしこはチュンサンに促されるように、窓際の席についた。窓の外は、少し霧がかかっていた。


「雪は上がったけど・・・霧ね・・・」
「そうだね。でも、僕たちは旅立っちゃうんだから、ここの天気はもう関係ないね」
「霧でも大丈夫?」
「うん」


そう言って、チュンサンがにっこり微笑んだ。
  

「そうね・・・」


よしこは自分の指先が冷たくなってきているのがわかる。
飛行機の中は、ほんわか暖かいというのに、よしこの指先はどんどん冷たくなってきている。


「どうしたの?」
「緊張しているのかしら・・・指先が冷たくて・・・」
「ああ・・・」

チュンサンがやさしく指を擦ってくれる。


「どうお? 少しあったかくなってきた?」
「うん、少し・・・」




よしこは何気なく窓の外を眺めていて、ハッとした顔をする。


「私、娘にさよなら言うの、忘れちゃった・・・」

目に涙を溜めて、ぼつんと呟いた。



玄関にかけてあった娘の絵。
高校時代に、優秀賞を取った最愛の娘の絵・・・。


『お母さん、私、美大へ進みたいの・・・』

  

「あの子に・・・いつもありがとうって。いつも、あなたの事、思っているよって言いたかったのに・・・」
「・・・」
「忘れちゃった。忘れてきちゃった・・・私の宝物だったのに・・・それなのに・・・一言も残さないで・・・」

「大丈夫だよ、君の気持ちは知ってるから」
「そうお?」


よしこが大きな目を見開いて、チュンサンを見つめた。


「うん・・・大丈夫」
「私、私ね、あの子を一人で産んだの。だから、あの子、一人になっちゃう・・・」
「今はご主人がいるじゃない」
「そうだけど・・・。幸せになれるかしら?」
「なれるよ・・・。もうすぐ、家族も増える・・・」

チュンサンが笑顔でよしこを見た。


「そうだったの? そうだったの?・・・だったら・・・大丈夫ね・・・。でも、ちょっと見たかったな、その子」
「・・・」
「あの子の赤ちゃん・・・抱いてあげたかったな・・・」

  
よしこの目から、大粒の涙が落ちた。
そして、よしこの涙を拭う優しいチュンサンの目を見上げた。



「あなたは・・・いつまで、私といてくれるの?」
「・・・?」

「だって・・・あなたも忙しいでしょ? そのう・・・一人に、そんなに関わりあっては、いられないでしょ?」
「・・・」
「どのくらい一緒? この飛行機を下りるまで?」

「・・・君が次の世界へ旅立つまで・・・」

「次の世界?」
「新しい命を得るまで・・・」
「それまで一緒?」
「ああ。だから、安心して」(微笑む)
「そう・・・。だったら、長居したいわ・・・そう・・・そうなの」

よしこが頷いた。

  


「ねえ、僕はニューヨークに行ったら、今まで通り、建築家としてやっていきたいけど・・・君はどうする?」
「私?」
「そう」


急な質問によしこは言葉に詰まった。


「う~ん、困ったわ」
「よく考えて。君の人生だよ。君が選択するんだよ」
「う~ん・・・。まずは、あなたの仕事を手伝う。それでいい?」
「わかった」

「私・・・奥さんて・・・したことがないの。さっき言ったみたいに一人であの子を産んだから」
「それで?」
「それで・・・。私たちって・・・何?」

「え~え! 僕たちは結婚するんだろ?」


そう言って、チュンサンがよしこの顔を覗き込んだ。


「そうなの?」
「そうだよ、結婚して過ごす・・・いいね?」
「え、ええ・・・」
「幸せになろう。君はまだ20代だし、これから二人でいろいろやっていこう」
「20代・・・」

「どうしたの?」
「え?」

「どうお?」
「ん?」
「僕について来てくれる?」
「・・・」
「・・・」


よしこはこれから始まる第2の人生がどうなるか、全くわからない・・・。

ただ、ひとつだけ・・・チュンサンに聞きたい。



「愛してくれる・・・?」
「うん」
「本当に愛してくれる?」
「もう、愛しているよ」
「・・・」



―この便は間もなく飛び立ちます。どなた様もしっかりシートベルトをなさって下さい―

  

「さあ、第2の人生だよ、よしこ」
「うん…信じるわ! あなたを!」



チュンサンがにっこりと笑って、よしこの目を見つめ、ギュっとよしこの手を握り締めた。


よしこは、ふわっと温かいものに包み込まれたような気がした。
そして、見つめているチュンサンの顔の輪郭がぼんやりと滲んだ。

  
次の瞬間、

「お母さん、ありがとう・・・」
遠くから、懐かしい娘の声がした・・・。


そして、辺り一面、光に包まれ、よしこの意識は遠のいていった。








今、よしこは1970年代のニューヨークに住んでいる。
夫は気が優しくてハンサムで働き者だ。

よしこと夫のチュンサンは、熱烈な恋愛結婚で結ばれた。
二人は生まれ育った国は違ったが、お互いの言葉をよく覚えて、とても仲良くやっている。


最近のよしこの気がかりは子供ができないことだ。
あんなに大好きな夫の子供がほしいのに、なかなか恵まれない。


でも、夫は言う。

「いいじゃないか。二人の人生をエンジョイしようよ。そんな夫婦もあるだろう?」
「でも・・・」
「夫婦仲がいいほど、子供ができないっていうじゃないか」
「でも、なんか、あなたに申し訳なくて」
「そんなことはないさ。人生には必ず何か足りないものがあるのさ。それが僕たちは子供かもしれないね。でも、一番好きな人と結ばれたんだから、これって最高に幸せなことだろ?」
「うん、そうよね」


確かにその通りだ。
こんな幸せって今までに感じたことがない・・・。

いつもふんわり愛の中にいる・・・。


まだまだ20代の自分が、人生経験もないのに、そんなことを言うのはおこがましいが・・・自分でも笑ってしまうが・・・こんな幸せはそうそうないに違いない・・・と思う。
  


夫のチュンサンは時折おかしなことを言う。
よしこをギュッと抱き締めると、顔をじっと覗きこんで、こう言うのだ。


「本当に愛しているよ」と・・・。


それがよしこにはちょっとこそばゆくておかしく思える。

彼は日本語を間違えて覚えているんだ、きっと。


「本当に愛しているよ」と言った時には、言葉の裏がある・・・。


でも、彼は本当に真剣な目をして言う・・・。

そんな彼が愛しい・・・。


だから、よしこもいつもこう言う。

「そんなことはわかっているわよ・・・。私もあなたがだ~い好き・・・」

  

ああ、なんていう幸せ・・・。

彼は浮気なんて全然しないし、私も愛しているんだから、なんの心配もないのに・・・。
彼ったら・・・。
日本人よりあちらの国の人のほうが情熱的なのかもしれないな。




どうか、この幸せがずうっと続きますように。


そう、
死が二人を別つまで・・・。



いいえ・・・
きっと、死さえ、私たち二人を別つなんてことはできないはずだわ・・・。



  




THE END





では皆様、年末年始、お体に気をつけて、良いお年を!

シアターはまた来年^^


そして、ブログは続きま~~~す^^



kiko3






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