2010/01/08 00:18
テーマ:【創】One Night ・・ カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【シアター】One Night Stay 後編









BYJシアターです。


本日は「One Night Stay」後編です。


ではここより本編。
お楽しみください!


~~~~~~~~~~~~~




【One Night Stay 】後編
主演:ペ・ヨンジュン







電燈は消したものの、窓の障子を通して雪明りに部屋の中がぼうっと薄暗く見える。

男が寝ている隣に、女は静かに横たわった。
背中から、男の熱が伝わってくる・・・。


なして・・・こんたら事になってすまった・・・。


「寝たかい?」

背中から男の声がした。女は男の声にビクッとした。

「うううん・・・」
「怖がらなくてもいいよ・・・」
「怖がってねえ・・・」
「だったら・・・こっちを向いてくれる?」
「なして・・・?」
「顔を見たいから・・・」

女は内心びくびくしながら、寝返りを打つ。二人は向かい合った。
雪明りに目が慣れてきて、お互いの顔が見えた。
男が女の顔を見つめて、頬を撫でた。
男の瞳がうるうると揺れて見えた。

「・・・オレを抱きてえのが?」
「・・・」
「オレをどうすたいんだ?」
「・・・一緒にいるだけでいい・・・君にちょっと触れて、見つめるだけでいい・・・」

男が優しい声で囁いた。
少し震える手で、女の髪を撫で、また頬を撫でた。
二人は静かに見つめ合い、男は女の顔を眺め回す。


「君は・・・ここに一人でいて・・・寂しくないの?」
「・・・・」
「・・・辛い思い出のこの町にいて・・・。雪の中に閉じ込められて。酔った男の相手をして。この町では雪だけが生きている・・・そんな気がする・・・町が静かに眠ったように見える・・・」
「・・・。んだ・・・元気な若いもんはもうここにはいねえ・・・。自然だけがここでは生き生きとすてる・・・。残った人の生気まで飲み込んで・・・そんでも足りねえって・・・今も音を立てて荒れ狂ってる・・・」


「寂しくないの?」
「・・・そったらこと、聞かねえで・・・」
「・・・」
「わかりきったこと・・・聞かねえで・・・」


女は男を悲しげに見つめた。
二人は見つめ合いながら、小さな声でつぶやくように話す。

「オレは檻の中で・・・妻も仕事も失って・・・いったい、何のために自分が生きているのか、わからなくなった。なんでここにいるんだろうって・・・ある時期、むなしさだけに押し流されそうになった。もちろん、自分がしでかした事のせいなんだけど・・・。それは、ほんの一瞬のことだったけど・・・あの瞬間をなぜ自分が迎えなくちゃいけなかったのか。なんで、こんなに長く悔いて、自分は償わなくてはいけないのかと・・・。でも、事は起きてしまった。そして、刺したのは紛れもなく、オレなんだ」
「不条理だな・・・」
「・・・」


「あんたは、どんな仕事をすてたの?」
「オレか? 製薬会社で営業をしてたんだ」
「それで、あの子と知り合ったんだ・・・」
「そう・・・オレが回ってた病院に彼女がいたんだ」
「そうか・・・」

「だけど・・・そんな仕事をしてたために、変な薬の横流しはなかったか、事件後、いろいろ取り調べられたよ。ヤクザの叔父なんて持つと・・・全てがそれにつながっていく・・・」
「・・・大変だったなあ」

「それも、彼女の心に負担をかけた・・・。あいつが勤めていた病院の薬も全て調べられたんだ。あいつ自身もね」
「・・・それで・・・」
「それで、あいつの中で何かが壊れた・・・」
「・・・」
「あの時、なんでオジキとなんか会ったんだろうと思うよ・・・」
「・・・なんで会ったの?」


「それこそ、製薬会社に勤めるオレのツテがほしかったのさ。でも、オレは、ヤクザが嫌いだったから、それを断るために会いに行ったのに・・・そこに敵対する組のチンピラがやってきて・・・」
「それで、巻き込まれたのか・・・」

「うん・・・。揉み合って、腹に重症を負わせてしまったんだ・・・」
「・・・」

「あの一瞬が今、オレの人生を支配している・・・。オレの心を支配して、オレが今生きていることさえ、間違いだって・・・あの時がオレに言うんだ」
「あんた・・・そんな弱気では駄目よ・・・」

「でもね・・・生きるのが辛いんだ・・・一歩間違えれば人殺しだから・・・」
「辛ぐてもその罪を背負って生ぎねば・・・。失敗してしまったことは・・・仕方ねえ」

「そうだね・・・。幸い、相手は生きているんだし。でも、妻まで失ってしまった・・・」
「・・・」


あの子は・・・夫の傷害事件だけで、自殺したのだろうか・・・。
あの伯父がいて・・・。



「・・・檻の中で何度も考えた・・・。結局、ヤクザを憎むオレの心が、あんな事件を引き起こしてしまったんだって。自分の心の中に、鬼がいたんだよ・・・。ヤクザなんて、死んでもいいって・・・」
「・・・自分を追い込んでは駄目よ・・・」

「でもね、自分の心の中にいる鬼を発見しちゃったんだよ」
「・・・人の心の中には・・・見えない鬼がいる・・・。誰でもいるよ。オレだって、悔しさに泣ぐ時がある・・・でもね、それに振り回されたらいげない・・・あっちが強ぐなるから・・・」

女は男の頬に手を当てる。

「自分の心の弱さに気づくと・・・人は辛い・・・。足りねえもんばっかで、悲すくなる。自分が小さすぎて嫌になる・・・でもね、それを背負ってでも、乗り越えないと・・・」

「君は? 乗り越えられる? 君の未来は?」
「・・・」

「今のままで乗り越えられるの?」


男は女をじっと見つめて答えを待った。


「あんたは意地悪だ・・・」


男が女の首の下に腕を通し、寝ながら、女を抱きしめる。

「ごめん・・・君を追い詰めるつもりはなかったんだ・・・。こんなにいい人の君を追い詰めるなんて」
「あんたには・・・オレはどう見える?」 
「どうって? 君はとってもいい人で・・・」
「いい人でもないよ・・・」

男は女を抱きしめたまま、間近に迫った女の顔を見つめている。

「君はオレの鏡だ・・・オレの心を映し出す鏡」
「あんたの心を映し出す・・・?」
「そう、むなしさも苦しさも・・・全部、君の中にある」
「・・・それだげ?」

女は目を見開いて、男の顔をじっと睨みつけた。
男は女を見つめたまま、少し起き上がって女の顔を上から覗く。

「あんたは・・・オレをどうしたいんだ・・・?」
「わからない・・・ただ抱きしめたいだけだよ・・・」
「・・・」
「・・・」


男は女を、まるで大切なモノでも包み込むように抱きしめた。女は男の腕の中で男をじっと睨みつけていたが、何かを思い切ったように、男の首に抱きついた。
二人はお互いを強く抱きしめ合った。
いや、向かい合って見えた自分の心を取り戻すため、二人はお互いに自分の心を掴みにいった・・・。









朝、男が目覚めると、味噌汁のニオイがして、女が店の方でなにやら朝食の準備をしているのがわかる。

目を開けて、周りを見回すと、確かに昨日の部屋と同じだが、窓の障子から差し込む光は温かく、殺風景に見えていたこの部屋が温かな快い部屋にさえ思える。

女が入ってきた。女は昨日とは打って変わって、厚手の黒タートルセーターにパンツをはき、スポーティな感じだ。朝の光の中で見る女は、とても薄化粧で、きめの細かいすべすべとした肌が印象的だ。
明らかに、商売の時より、若々しく美しい。

台布きんで、コタツの上を拭き始めた。



「おはよう・・・早いね、君は」

男が布団の中から声をかけた。

「あ・・・おはよう・・・目が覚めだ?」
「うん・・・」

男は幸せそうな顔をして、微笑んだ。


「今、朝食の支度さするがらね」
「ありがとう。・・・ちょっとこっちへ来て」
「・・・」

女は少し恥ずかしそうな顔をして、寝ている男の横に座り、顔を見下ろした。


「キレイだね・・・君は」
「・・・何言ってるんだが・・・」

そう言いながら、女はうれしそうに笑って男の目を見つめた。
男の瞳には朝の光が入って美しい。昨日の混沌とした表情と違って、やさしさの中に甘いものがあった。


「あんたも、元気になっだみたい・・・」
「うん・・・」


男は、座って見下ろす女の腕を撫でて、微笑んだ。

「早ぐ起ぎて・・・。ご飯さ、一緒に食べるべ」
「・・・」
「ね・・・」
「そうだね・・・」
「顔洗って、支度すて・・・」
「うん・・・」

二人はお互いを見つめ合って、にっこりと笑った。



女が朝食を並べている間に、男は顔を洗って身支度をする。
向かい合って座り、女がご飯をよそった。


「しばらくぶりだなあ・・・こうして、朝ご飯を食べるのは」
「・・・オレも・・・」
「うん・・・」

男は味噌汁を啜って、にっこりとした。


「今日は快晴だあ。雲ひとつねえ」
「うん・・・」

「ご飯さ食べたら、オレは店の前さ、雪かきせねば」
「手伝おうか?」

「うううん、いいよ。あんたがやっだら、おかしい・・・。ああ、それに、誰かに見られて、伯父さんに言いつげられたら、困る」
「そうだったね・・・。君に何かしてあげたいのに・・・」
「そったらこと考えなぐてもいい・・・。ああ・・・。店の電球さ、替えて。あんたは背が高いから」
「いいよ。他に何かある?」

「そんだ・なあ・・・店の流すの下の、横の扉の蝶番が少しずれてきてんだ」
「いいよ、それも直そう・・・何でも手伝うよ」

「男手があるといいなあ・・・なんでもすぐ直ってすまうから」
「うん」


女はそう言って、自分のことを考える。
自分のどこか歪だった心さえ、男手一つで少し修正したような気がする・・・。


「どうしたの? 何か気になる?」
「何でもねえ。他は思いつかねえ。お代わりする?」
「うん」

男は茶碗を渡す。

「味噌汁もあっから・・・」
「うん・・・」



久々にゆっくりと、まともな朝食を取った。
それは、二人に幸福感をもたらした。



女は、寒さ避けの武装をして長いブーツを履き、スコップを片手に、店の外へ出た。
男は今、台の上に乗り、電球を取り替えている。



白い町が朝日に照らされてきらきらと輝いている。そして、吹雪の昨日と違って、真っ青な空だ。

女は、雪をすくっては店の脇へ投げる。もうすぐ、除雪車も来るだろう。
店の軒のつららも、朝日に照らされて、ぽたっぽたっと雫を落とす。

毎日やっている何気ない光景が、朝の爽やかな空気とともに、女の目には新鮮に映る。
毎日、毎日、太陽が照っている午前中に家を出て、泥濘かけた道を歩いてきては、スコップを持って、店の前の雪を退け、店の準備をする。そんな無機質とも思えた作業が、なぜか今日は華やいで楽しいことのように思える。

雪をかく手を止めて、女は朝日に輝く雪を見た。


それは、白であって・・・白だった。
車が通った後の解けて汚くなった雪でさえ・・・決して赤くはなかった。
いつも女の脳裏をよぎる赤の情景は、今日は訪れてこない。

周りを見回す。

全てが白く輝いている。
つららから落ちる雫も透明だ・・・。けっして、赤い血の色ではない・・・。


女はしばし、呆然と佇んだ。

毎朝、毎晩見る雪の中に、女が見続けた赤の幻覚。
今、ここには何一つ赤い血の色はない。
父が倒れた店の脇の雪の上でさえ、その雪を解かして広がったあの色はない。


父は私を許してくれたのだろうか・・・。
こんなにも清々しい朝を迎えたのは何年ぶりだろう。




女は内からあふれる幸福感と安堵に、少し泣きたい気分になった。


しかし、雪から通りへ目線を移すと、そこにはあの伯父の組の若い者が立っていて、女のほうを監視している。
女は気がつかないふりをして、反対側を見る。また、いた・・・。
女は次第に胸が苦しくなってきて、顔が強張りそうになるが、なんとか我慢して、周りの様子を何気ないふりをして見回す。

三方から、女の居酒屋を男たちが見張っている。





雪かきを終えて、女は店の中へ入った。


「あんた! あんた! どご?」
「・・・何だい?」
「どご?」

「流しの下・・・」
「え?」

女が店のカウンターの中へ入ると、流しの下を仰向けになって覗いている男がいる。


「水道管も緩んでるよ」
「・・・そう?」

「出来上がり・・・。どうしたの?」

男が顔を出した。

「あんたあ・・・」
「どうしたの? 思いつめた顔しちゃって」

「伯父さんの組のもんが店の周りさ囲んでる」
「・・・なんで?」
「あんた、何かすた?」
「・・・」
「ホントに伯父さんに、あの子に、何にもすながった?」
「・・・」


男は、地面に座り込んで女を見つめた。


「ホントは知ってたのね?」
「・・・」
「あの子の伯父さんがヤクザだってこと・・・」
「・・・」

「言ってよ、言ってよ。これは只事ではない!」
「・・・」
「何を知ってるの?」
「・・・」

「言いなさい! もうあんた一人の問題ではない。オレも巻き込んでるんだがら・・・」
「・・・遺書があった・・・」
「・・・」
「・・・あの親父が・・・あいつに薬を回せと脅してきていたと・・・。それで、製薬会社に勤めているオレに目をつけたって・・・」
「・・・それで?」
「それで、気のよさそうなオレと一緒になったって・・・。でも・・・それでも、愛していたと・・・。オレの事件で、あいつが病院の薬を少し横流ししていたことがバレそうになって・・・」
「それで、自殺すた?」
「・・・そう・・・。あいつをそんな苦しみに追い込んだあの親父が許せなかった・・・」

「それで? それで何すたの?!」
「あんたを恨むって手紙を出したんだ・・・」
「それだけ?」
「・・・ああ。いつか、あんたを思い知らせるって・・・。でも、それはまだ檻の中にいる時で・・・あいつが死んだばかりの時だったから・・・」


「それを覚えているんだ、あっちは・・・」
「・・・」
「それだけ?」
「・・・うん・・・」
「オレにうそつぐな!」



女は座っている男の襟首を掴んだ。


「そのために、ここに来たんでしょ? でなきゃあ・・・あんな時間なんかに来るはずがねえ・・・」
「・・・」
「伯父さんがあんたを探し回るはずがねえ」
「・・・」

「馬鹿!」

女は男の頬を叩く。

「あんたは馬鹿だ・・・暗い心の鬼に負げてすまった!」
「すまない・・・」

「今はどう・・・今も復讐すたいの?」
「・・・うううん・・・」

「そんたらことすても、あんたが駄目になっていぐだけだ・・・。あんたの勝てる相手ではねえ。ここは小さな町だども、あの人の力は大きい。隣の町も、隣の町もその隣の町も・・・全てあの人のもんだ」

「・・・すまない・・・」
「誰にすまないって思ってるんだ? ・・・オレに謝っても仕方ねえ・・・」
「・・・」
「あんたの知ってることはそれが全てか?」


男は女の顔を見上げた。

「他に何かあるのか・・・?」
「・・・あんたには言いたぐなかった・・・。でも、言わないわげにはいがねえな」
「・・・何だ?」


「この町のもんが皆、知ってること・・・」
「・・・何?」

「・・・あれは、あの伯父さんの妾だ・・・」
「・・・」


男は驚いて、女の顔を見つめた。


「でも・・・本当の伯父さんでしょ・・・?」
「・・・生ぎていぐには、自分で選べない事もある・・・。両親に死なれて、引き取られた先があの人の所だった・・・」
「・・・」

男は呆然として押し黙った。


「帰りの列車を調べんべ。見つからねえようにここを出なげれば・・・」


女は立ち上がって、店に貼り出してある列車のダイヤを見る。


「10時42分があるな・・・。後40分。間に合う。さあ、支度さして・・・」

「さっきの話は本当かい?」
「・・・本当だ」

「あいつにとってのオレはなんだったんだ・・・」
「あんた。もう終わったことだ。あの子が命をかげて、終わらせたんだ」
「・・・」
「あんたを何とも思ってながったら、死ぬ必要はねえ・・・全てがバレても構わないでしょ?」
「・・・そうかなあ・・・」
「そうだよ・・・あんたを思っていだから、死ななければならながった・・・」
「そうだろうか・・・」


男が、気が抜けたようになっているそばで、女が窓の障子を少し開け、外を窺っている。


「店の前は駄目だ・・・。裏はどうかな」

奥の間の窓の障子を開け、外を見る。

「裏には誰もいねえ・・・」



女は男のダウンジャケットを男に渡す。

「早ぐ着て。ぐずぐずなんかしてられねえ。あいつらは、あんたがここにいるのをわがってるんだ」
「・・・」
「オレには手は出せねえ。オレはもう父ちゃんの命をあげてっからな。だから、ここには踏み込めねえんだ」
「・・・」
「だども、ここを一歩出たら、あんたは半殺しだよ・・・もすかしたら、それではすまねえかもすれねえ」
「・・・馬鹿だったよ・・・」


「これ以上、問題を起ごすな」
「ホントに君にはすまない・・・君を巻き込んでしまった・・・」
「とにがく、逃げろ・・・逃げられるところまで・・・」


女はレジのお金を全て取り出す。


「これ、持ってげ。金は必要だ」
「それはできない・・・」
「持ってげ!」


男は女の差し出す金を見つめる。

「あんたには、生きててほすいんだ・・・」
「・・・すまない・・・ありがとう」

男は辛そうに、そのお金を受け取った。


「オレも途中まで一緒に行ぐ。駅についたら、隠れろ。トイレは危ねえ・・・。駅長室で駅長と話すてればいい。そこには踏み込めねえと思うがら」
「・・・」


女は、帽子をかぶって出かける準備をする。
男は女の顔をじっと見て、女に向かって言った。

「一緒に行こう・・・」
「・・・」
「オレと一緒に逃げよう」
「・・・だども、オレには店がある・・・」
「ここを捨てられない?」

男が睨みつけるように、女を見た。

「・・・。あんたの心には、あの子がいる・・・」
「今は・・・君に来てほしい・・・。オレは、ここにはもう二度と戻ってこない」
「あんた・・・オレは、こんな着たきりすずめだす・・・」
「何もいらないよ」


「だども、あんだの事も何も知らねえ・・・」

女は苦しそうに息をしながら、男を見つめる。


「知ってるじゃない・・・オレの一番奥の気持ち・・・」
「・・・」
「行こう・・・来て!」

男は真剣な顔をして、女の腕を掴んだ。
女はこっくりと頷いた。



女は普段使っている小ぶりのバッグに、必要なものを詰め込んで、男と一緒に裏口から出る。

列車の時間まではあと20分。



店の裏口を見張っている者はいない。

通りに出ずに、家と家の間の凍った細い道を歩いていく・・・。

最後、通りを渡れば、駅だ。

二人が通りに出ようとすると、駅の入り口に組の男が立っている。


「待って。あそこに男がいる・・・」

二人は男を見る。


「正々堂々とは行けない?」
「駄目だ・・・」
「・・・」
「捕まったら終わりだ・・・。オレがおとりになるか・・・」
「駄目だよ。君も行かなくちゃ」


女は男の顔を見上げた。

「今は、君が一番大事だ・・・」
「・・・あんだ・・・」


渡りたい通りが渡れない。あと、30秒で駅なのに・・・。


上り列車の入るアナウンスが流れている。

これ以上は進めないのか・・・。


すると、上り列車に合わせて送ってきたのだろうか、一台の車が駅前に入ってきた。
解けた雪で薄黒くぬかった道路の泥を、見張りの男のほうへ撥ね上げた。

見張りの男が車の運転手のほうに食ってかかる。


「今だ!」


二人は手に手をとって通りを渡り、男の背後から駅の中へ入る。



「あ、姉ちゃん、おはよう」

駅員が声をかけてきた。



「あんた、先に行って。すぐに入るがら」
「きっとだよ!」
「うん」



「おっちゃん、ちょっと入れて。すぐ戻るがら」
「何か急ぎけえ?」
「うん、お客さんの忘れ物!」
「うん、そうか。いいよ」
「ありがと!」


女はホームに急ぐ。


男はどこに乗ったのか・・・。


あんだあ・・・。

どご・・・?


女は列車の外から男の姿を探す。


いねえ・・・。あんだあ・・・。

名前もわがらねえ・・・。


女は発車の予鈴を聞きながら探す。



駅前に立っていた男が上り列車に気づいて中へ入ってくる。


あんだあ・・・。



「居酒屋の来たけえ?」
「ああ、今中へ入ったども・・・」
「・・・!」


見張りの男が走る。


どご!


「おい!」


女の背後から声がした。

女が振り向くと、男が列車のデッキから顔を出した。

「早く!」
「あんだ!」


女は走って走って、男にデッキに引っ張り上げられる。



見張りの男が、ホームの中を歩き回って探している。


今、発車のベルが鳴った。
しかし、女が乗ったとも、男が乗ったとも、確信がないために、見張りの男は乗り込めない。


列車のドアが閉まった。


「あんだ・・・」
「・・・やっぱり、来てくれたね・・・」

「うん・・・名前も知らながった・・・」

女が男を見て笑った。

「本当だね」


男は女を愛しそうに抱いた。


「一緒に行こう。どこまでも一緒に行こう」


列車がガタンと揺れ、走り出した。

二人は一緒に揺れて、顔を見合わせ、笑った。

「座ろうか・・・?」
「うん・・・」


二人は揺れながら、手を取り合って客室の中へ入っていく。



見張りの男の前を、二人を乗せた列車がゆっくりと出ていく。


二人で繋いだ手を見合って、男も女も肩をすくめて、うれしそうに笑った。








THE END







2010/01/06 00:08
テーマ:【創】One Night ・・ カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【シアター】One Night Stay前

Photo









BYJシアターです。

あけましておめでとうございます^^

今年もよろしく^^

冬場の作品・・・ってもうあまりないような・・・vv


ということで、
本日も変り種の作品です・・・。

これは2007年1月12日の作品。
ちょうど、BGMに使っているjoonのHIROのCDが話題になったころです。



では、短編「One Night Stay」前編をお送りします。
こちらは、前後編の2回です。

少し暗い色調ですが、最後までお付き合いください。


ここはどこという場所の限定はありません。

雪深い小さな町。

そこに、女はひっそりと暮らしています。




ここより本編。お楽しみください。


~~~~~~~~~~~~~~







店の扉を開けると、町は白く吹雪いている。
この天気では、今晩は商売にはならないだろう。
女は急いで、店の入り口にかけてあるのれんを外してしまい、表のちょうちんの電燈を消そうとしていた。

「あのう・・・」
「何だべ?」

女が顔を上げると、背の高い男が横に立っていた。

「ちょっと飲ませてもらえませんか?」

「あんのう・・・もう看板だべ・・・」
「だって、まだ10時前じゃないですか」

男は、横なぐりになってきた雪に、頭にすっぼりかぶったフードから、全身白く雪が張り付いたようになって、少し震えている。
そんな姿を見ると、女は心が少し揺らいだ。この雪では、女でさえ、もう家に辿り着くことは不可能に思える。

「んだども・・・今晩は吹雪くで・・・。もうおすまい。悪いけど・・・他を当たって」


男は辺りを見回した。
周りは雪が吹雪いて真っ白だ。どこの店も、もう店じまいをしている。
この居酒屋がたった一軒、店に明かりが灯っている場所だ。

男はまた女のほうをじっと見て、ここへ入れてもらえるのを待っている。

「駄目ですか?」

「だども・・・。あんた、ここの人ではないっしょ? 泊まる所さ、早く帰ったほうがいいんでねえが?」
「まだ・・・宿も決めてなくて・・・」
「そんたらこと、言われても・・・」

女は断りたいのに、断れない・・・。
もし、自分が断ってしまったら、この男は、この吹雪の中で凍死してしまうかもしれない。
困った女は仕方なく、店の戸を開けた。


「仕方ねえ・・・入れ・・・」
「・・・」




【One Night Stay】前編
主演:ペ・ヨンジュン






男は女の後について、店へ入ってきた。
男が中へ入ると、冷気が一気に店の中に広がった。

男の黒のダウンジャケットはびしょ濡れで、男はポケットからハンカチを出して、頭やジャケットを拭いている。

「あんた、それでは駄目だ・・・。ほれ、これ使って」
「あ、すみません」

男はカウンターの中に入った女から渡されたタオルで、髪やジャケットを拭く。

「なんかあったかいもん、食べるか?」
「ええ・・・。それと、お銚子を1本お燗してください」
「んだ・・・。すっかり冷えてきたもんね・・・」

「もう残りもんすか、ないけど、あっためるから」
「すみません」

女は残った煮付けに火を通し、小鉢に入れてカウンターの中から差し出した。

「あんた・・・ここの人じゃないよね?」
「ええ・・・」
「なして、こんな時間にこんたらとこさ、いんだ?」
「ちょっと・・・。北山の墓地に行きたくて・・・」

「ああ・・・。北山は行げねえ。急に降り出したども、除雪が間に合わなくて・・・。もともと北山は墓地すかねえから・・・後回すで、冬の間は行げねえ」

「そうでしたか・・・」

「それにすても、こったら時間に、あんたあ・・・」
「列車が大雪で遅れてしまったんで・・・」

「ふ~ん、参ったなあ」


男はお燗したお銚子をもらって、一人酒を注ぐ。
女はカウンターの中の高めのイスに腰掛けて、タバコをふかしながら、男を眺めている。


「まだ宿、決めてねがったのか?」
「ええ・・・」
「う~ん・・・電話すて、どごか聞いてみっか。あ、どんどん食べて。残りもんだども、うまいから」
「ありがとう。ホントにおいしいよ」
「そっか」

女はちょっと微笑んで、小鉢を突きながら酒を飲む男をじっと見つめている。


「おでんも食っか?」
「ええ」
「んだ・・・」

おでんを火にかける。

「ちょっと電話してみっから・・・。あ、おばんだす・・・。あ、じっちゃま、オレだあ。一人、宿探してる人がいんだけど、じっちゃまんとこ、空いてるかね? そっかあ・・・。兄さんとこは・・・うん・・・」


男は小鉢を突きながら、店の中を見回している。
この小さな居酒屋は、カウンターしかなく、7~8人の客が入ればいっぱいになってしまう。

店内は、木の温もりがして、古いながらも清潔で温かな感じがする。長い一枚板のカウンターはよく磨きこまれていて、女がキレイ好きなのがわかる。


今、電話をかけているこの女は、年のころは30前後であろうか。
顔には不釣合いの長い付けまつ毛をつけて、赤みの強い頬紅と真っ赤な口紅をつけている。くせっ毛の肩あたりまでの髪を後ろで束ね、赤いまだら模様の半纏のような上着を着ている。

どう見ても、田舎の・・・場末の酒場の女だ。




「だめだ。どうする、あんた。泊まるとこさ、ないよ」
「・・・ここで、朝まで飲んでたら、駄目かい?」

「・・・困った・なあ・・・」


女は窓の外を見て、ため息をつく。前にも増して、ゴーゴーという音を立てながら、雪が舞っている。

「駄目?」
「だどもあんた、行ぐところないんじゃあ、仕方ねえども・・・」


女はため息をついて、吹雪いている窓の外を見つめている。
瞬間、血に染まった雪を思い出す・・・。


「だども・・・困った・あ・・・」
「ねえ、お燗、煮えてない?」
「あ、いげねえ」

2本目のお燗を取り出して耳たぶに指を当てる。

「あっち!」

そう言って、女は笑った。


「仕方ない。ここで夜明かすかあ」
「悪いねえ」
「仕方ねえよ・・・。そんだら、奥で飲むか」
「奥?」

「んだ。ここだと、光熱費がかかってすまうからあ。奥の狭い部屋さ行って飲むべ」(笑う)
「オレはどこでもいいけど・・・」
「奥に4畳半の部屋さ、あっから。オレも普段は家さ帰るけど、今日はもう、これでは帰れねえがら」

「すまなかったね、迷惑かけちゃって・・・」
「うん・・・。なら待って。今、奥、片付けてくっから」


女は奥へ入って、コタツのスイッチを入れて、部屋の準備をする。


「こっちさ、入って」

「うん」

男は、自分の食べていた小鉢を持って移動する。
女は後から、お燗した酒とお猪口を2つ、お盆に載せて運ぶ。


「あと、おでんだったなあ。座って。コタツがあったけえがら」
「うん・・・」


男はその小さな部屋の中を見回しながら、コタツに入る。
部屋には、コタツの横に火鉢。それと、小さな食器棚と、布製の簡易なタンスと化粧箱があるだけだ。
女はここでは暮らしていない。ここでは簡単に服を着替える程度だろう。

部屋の明かりが先ほどまでの薄暗いものから、蛍光灯の明かりに変わり、女の顔もはっきりと見えた。部屋に入ってきた女の顔は、そのグロテスクとも言えるメイクが少しばかりいただけないが、表情からして、気のいい女のようだ。

「おでんだ。あったまって。食べて。オレは店さ、片付けてくっから」

男はまじまじと女の顔を穴が開きそうなほど見つめている。

「ああ、この顔? それもちょっと洗ってくっから」


女は店に戻り、戸締りをして、火元を消して、奥の流しのほうへ行った。
しばらくして、女が戻ってきた。


「ああ、すっきりすた。顔洗うとすっきりすんべ」

そういいながら、部屋の片隅にある化粧箱から化粧水やらクリームを出して塗っている。
化粧を落とした顔を見ると、まるで別人のように、人の良さそうなかわいい顔をしている。

「化粧してないほうがキレイじゃない。なんで、あんな化粧してるの?」
「あれ?(笑う)あれは営業用よ。居酒屋の女が、自分ちのカミサンとおんなじ顔じゃあ、男の人もつまらんべ。こういうとこの女さ、日常的な顔すてたら、駄目よ」
「そうかな・・・」

「あんた、都会の人?」
「・・・まあね・・・」
「ふ~ん・・・だと、わがらねえかもすんねえけど・・・。酒場の女は酒場のニオイさ、してねば男はつまらねえ」
「ふ~ん・・・」

頷く男の顔を見て、女は笑った。
男の顔もよく見ると、なかなか顔立ちの整ったキレイな男だ。
ただ、なんともいえない暗い影がある・・・。

「北山へは何すにきた? 大切な人の墓参りか?」
「・・・うん・・・」

男が肯いた。

「そうか・・・。だども、今の時期は駄目だ。また、春になってがら、来たほうがいい」
「そうか・・・」

「もっと飲むか?」
「いい?」
「うん・・・オレも飲むから。ここの火鉢でお燗すべ。よっこらしょ」

女は店からお湯を入れたやかんを持ってきて、火鉢の上に置く。


「北山は、お墓すかねえがらねえ。あすこんとこの道は、除雪が後回すだもんね。新しい町長に代わってがら、全く駄目さ・・・。だから、正月に、墓参りも行げねえ」

女は火箸で、炭をいじり、やかんの中にお銚子を入れる。

「ふ~ん・・・」

「おでんも食べて」

女は笑顔を作って、男を見た。

「うん・・・」

二人には特に共通の話題などないから、静かに、酒を飲む。
女の手は、テーブルを拭いたり、お燗したお銚子を拭いたり、忙しなく動いている。




「北山には・・・死んだカミサンの墓があるんだよ・・・」
「ふ~ん・・・つまり、ここの土地の人?」
「うん・・・」

「ふ~ん・・・そったら、オレも知ってる人かも知れねえなあ・・・。ここって、狭い町だから」


女はそう言って、酒を一口飲んで、ふっと男の顔を見る。

「どうした?」

「あんた・・・あの子のダンナ・・・? 看護師やってた・・・」
「・・・すぐ、わかるんだね・・・」
「・・・」

男と女はじっと見つめ合った。


「出てきたばがり・・・?」
「・・・うん・・・」
「そっかあ・・・」

女は俯いた。


「怖い?」
「・・・」

女は少し困った顔になった。


「傷害事件は起こしたけど・・・あんたを刺したりしないから・・・安心して」
「・・・だども・・・出てきたばかりなんっしょ?」

女は少し口ごもった。

「うん、1週間前にね」
「・・・何年いた・・・?」
「2年半・・・」
「ふ~ん・・・」

「正当防衛が認められてね・・・。オジキがヤクザだったから。オレは違ったけど。あの時は、その叔父といて・・・急にチンピラが飛び出してきたから・・・庇おうとして・・・揉み合って・・・逆に刺してしまった・・・」

男は少し俯いた。

「そうか・・・」

女は男を控えめに見つめた。
男はお猪口の中をじっと見つめて、静かに言った。


「ナイフも相手の持ってたものだから・・・。ヤクザなんて嫌ってたのに・・・それ以下のことをしてしまったよ・・・」
「う~ん・・・あの子はそれを苦にして死んじまったんだろか・・・」
「・・・うん・・・」
「あんたもあの子も・・・かわいそうだ・・・」

「出たら、すぐにあいつのとこへ行ってやらないといけないと思ってたんだ・・・」
「うん・・・だども・・・ここは、冬場は駄目だ・・・」
「そのようだね・・・」

「これから、どうすんだ?」
「まだ、決めてない・・・」

「あっちの世界へ入ったら・・・駄目だよ」
「・・・そうだね・・・」
「あっちの世界は駄目だ・・・。苦しくても自分で生きねば。すばらくはたいへんだな」
「うん・・・」

女は男の顔をじっと見つめてから、俯いた。


「オレだったら、死んだりせずに待ったのにな・・・残念だあ・・・」

そう言って、ため息をついた。

「そうだね・・・。待っててほしかったけど・・・」
「人の命は粗末にしてはいげねえ・・・。苦しくても・・・自分から、そったら事してはいげねえ」

「でも、オレがあいつを死にたくなるほど・・・うん・・・それだけのことをしてしまったんだよ。あいつには、オレもヤクザに見えて、悲しかったんだろうな・・・」

「あんたあ・・・あの子の家さ、知らねえの?」
「家?」
「んだ・・・」

「こっちへは初めて来たんだ。 お母さんもお父さんももう亡くなっているし。伯父さんがこっちのお墓に・・・」

「その伯父さんが・・・」





ドンドン!

ドンドン!

  

「誰だ・・・こんたら時間に・・・」
「・・・」
「ちょっと見てくる・・・」

女は部屋を出て、部屋の障子を軽く閉め、店の電気をつけて、店の戸を少し開ける。


「どなた?」
「オレだ」
「オレって・・・」

「よう」

年のころは60近い男が顔を見せた。女は戸をあけて、男は若い衆2人と入ってきた。

「ああ、おばんだす・・・。なんか、用ですか?」

女はちょっと困ったように笑った。

「あんたんとこさ、若い男さ来てねえが?」
「・・・若い男?」
「うん」

「今、オレ一人だども・・・」
「他に誰もいねが?」
「いねえ・・・。今日は吹雪いたども、店はとっぐに閉めてすまった。オレも家に帰れねえで、ここさいるんだ」
「・・・う~ん・・・。ホントに奥には、誰もいねが?」

男は障子の閉まっている奥の部屋を気にしている。

「いねえ。オレが泊まってるだけだ。誰か・・・探してるですか?」
「うん・・・。うちのあれの、亭主だったやつを今日、ここの駅で見かけだっていうのがいてな」
「はあ・・・」

「それがこっちのほうさ歩いでいぐのを見たって言うがら・・・」
「約束でもすてたんですかあ?」
「いや・・・あいつに会ったら・・・ちょっと顔さ貸すて、もれえてえんだ」

「・・・オレにはわがらねえけど・・・」

「・・・見かけたら、知らせろ」
「んだ・・・わがりますた・・・」

「じゃあ・・・」
「どうも・・・」

男は奥を気にしながらも、女にはそれ以上問いたださず、帰っていった。



奥の障子を開けると、男が女を見た。

「誰?」

女は男をじっと見つめる。

「あの子の伯父さん・・・」
「え?」

「会わねえで・・・よがった」
「・・・でも・・・」
「会っちゃ・・・いげねえ・・・」
「・・・」

女は自分が座っていたところに戻る。そして、火鉢の炭を見る。


「あれは・・・ヤクザだ・・・」
「え?」

「あれは・・・堅気ではない・・・」
「・・・」
「あの子の伯父さんは、堅気ではないよ・・・今も若い衆を2人連れて、あんたを探してた」
「・・・」

「理由はわがらねども・・・近づいたら・・・いげねえ」
「・・・」

「きっと、あの子もあんたの境遇が自分に似てて・・・そこが、よかったのかもしれねえ」
「・・・知らなかった・・・」
「言えねえよ・・・ながなが・・・」

女は新しいお燗を取り出して、男に注ぐ。

そして、しばし黙って、男の顔を見つめてから、目を逸らす。




「オレは、雪さ見ると・・・父ちゃんのことさ、思い出す・・・。雪は白くて、キレイなのに・・・オレには・・・たまに、血の色に見える・・・」
「・・・」

男は女の言葉に驚き、女の顔を見つめた。
女は、また、火鉢の炭を火箸でいじっている。


「オレも高校さ出て、都会で働いてたんだ・・・」
「何してたの?」
「デパートの食料品売り場にいだ」
「じゃあ、訛らなくても話せるんだ」
「・・・うん・・・でも、ここではこれが一番いい。ここの言葉が一番だ」
「・・・うん・・・」

「オレが23の時さ、失恋すて、ここさ戻ってきて、とうちゃんの店の手伝いさ始めた・・・。それが原因だった・・・」
「・・・何の?」

「父ちゃんが命を落とした・・・原因だ。酒に酔った客がオレにしつこく迫ってきたから。父ちゃんが中に割って入った・・・そしたら、あいつ・・・。ナイフさ持ってて・・・」
「・・・」

「あれから、オレには、雪が血の色に見える時がある・・・」
「・・・」

「あの男はチンピラだった・・・あの伯父さんとごの・・・。だから、いつも、いつもナイフさ持ってって・・・毎日、毎日、オレを目当てにやってきた・・・」
「・・・そうだったのか・・・」
「ながなが断れなぐて・・・。それが酔った勢いでオレに抱きついて・・・。父ちゃんがそれをやめさせようとしたら・・・。そすたら、すごい勢いで父ちゃんを外へ引き出して、雪の上さ、投げ飛ばして、殴って・・・。・・・それでも、それでも、気が済まなぐて・・・。雪の上に倒れた父ちゃんさ、刺した・・・」

「・・・」

「あれから・・・オレには時々、雪が赤く見える・・・」



「それからずっとここで、一人で店をやってるのか?」
「んだ・・・。行ぐとこなんてどこにもねえもん・・・。あの事件で、オレはここに縛り付けられてすまった・・・」
「そんな・・・。そのチンピラはどうしたんだ? 怖くないのか?」
「あの伯父さんが見張ってるから・・・オレには近づけねえ・・・。田舎のヤクザだども、おっかねえから・・・。だから、ここにいれば、安全だ。だども・・・オレの人生は、ここに縛り付けられてすまった・・・」

「まだ、若いのに・・・」

「あんたもね・・・まだ、若い・・・だども・・・道が塞がってすまった・・・自分が死んだほうがますだった・・・」

女は辛そうに、ため息をつく。


「さっきの化粧は、営業用って・・・人を近づけないため?」
「それもあっけど、オレの気持ちにぴったりだ・・・」
「・・・」

「オレのホントの気持ちは、もう、どっか行ってすまった・・・。ホントのオレは・・・心が寂しい女になってすまった・・・。だども、付けまつ毛つけて、口紅さつけると、またオレが戻ってくる・・・。それはホントのオレではないけど・・・元気で明るくて、シャキッとすた気持ちで働ぐことができるんだ」
「ふ~ん・・・」

「つまらねえ話さ、すてすまった・・・ごめん・・・許すて」
「・・・うううん・・・きっと、オレの刺した男の誰かは、そんな気持ちで暮らしているんだね・・・」

男は済まなそうな顔をして、女の顔を見つめた。



「酒ばっかりじゃあ、体に悪い・・・。腹、減んねえが? インスタントラーメンがあったなあ」

女は立ち上がって、流しのほうへ行き、インスタントラーメンを持ってくる。

「ここの火鉢で作んべえ」
「あんたはやさしい人だねえ。こんなに親切にしてもらって・・・オレには返すものがないな。結局、オレは、あんたに匿ってもらったんだ。迷惑かけちゃったね」
「そったらことはいいよ。たった一晩の付き合いだ。気にすなくてもいい」

女はインスタントラーメンを作る。

「一緒に食っか。鍋一つで作るから」
「うん・・・」

二人は火鉢にかかった鍋のラーメンが煮えるのを、じっと無言で眺める。
出来上がったラーメンの鍋をテーブルにおいて、女が男の分を取り分けた。

「ありがとう・・・」
「うん・・・」

二人は真夜中のインスタントラーメンを啜る。

「あったまるねえ」
「うん・・・」

「あんたは寝ないのか? 何もオレに付き合うことはないよ」
「オレはいい」
「でも、あんたは仕事して疲れてるだろう?」
「まあねえ・・・。だども、オレも普段はここに住んでねえがら、布団も使ってねぐて・・・どうすっかな・・・」

「オレはコタツで、雑魚寝でもいいよ」
「そっか。だども、コタツで寝ると風邪引くから・・・。ちょっと布団さ、見てくっか」

女は狭い4畳半の端にある、押入れから布団を取り出す。


「まあ、いっかな・・・。あんた、これ、使って」
「いや、いいよ」
「遠慮すないで」


「じゃあ、一緒に寝よう」
「そんたらこと・・・できねえ・・・」

「・・・」

「オレはこんな仕事すてるけど・・・体は売らねえ・・・」

「・・・そんな意味で言ったんじゃないよ・・・」
「・・・。悪いけど・・・一人で寝て・・・」

「君に何かしようなんて思ってないさ・・・もしよかったら、隣で寝てくれると、うれしいんだけど・・・。隣に人の温もりを感じたいんだ」

「・・・。あんたを泊めるんではながった・・・」
「・・・」


外の吹雪は一段と激しくなった。

  



続く









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