2009/10/14 00:16
テーマ:【創】二人の街角 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「二人の街角」4最終回



 
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BYJシアターです。

本日は、【二人の街角】4(最終回)です。


言葉は要りません。続きをどうぞ!

(泣けますので、ハンカチを用意してどうぞ!)



では、これより本編。
お楽しみください^^


~~~~~~~~



「二人の街角」4(最終回)




僕には
君でなきゃ
いけない


君には
僕でなければ
いやだ



君に
思いを告げよう


これまでの
辛かった日々を


君が
耐えて

君が
飲み込んできた事実を


今日、
僕が受け止めよう



空に
太陽があるように

人に
愛があるように



僕たちに
必ず
明るい未来が
開けていくことを



僕は
願わずにはいられない





主演:ペ・ヨンジュン
   チョン・ドヨン





4年前の10月の今日。昼下がり。

ソウルのあるショッピングモール。
ヨンソンが早朝の撮影の帰りがけ、現場の近くのモールに買い物に立ち寄り、上りエスカレーターに乗っている。何気なく見た隣の下りエスカレーターにリヨンが乗って上から下りてくる。


ヨ:リヨン!(上から下りてくるリヨンに向かって叫ぶ)


リヨンはわからず、周りを見回す。


ヨ:リヨン!(手を振りながら叫ぶ)


リヨンが上りエスカレーターに、ヨンソンを見つける。何も言わず、じいっとヨンソンの顔を見つめている。驚いたように、目がヨンソンに釘付けである。
二人は真横になり、じっと見つめあい、リヨンはヨンソンを見つめながら、下りていく。
ヨンソンは慌てて、人を掻き分け、エスカレーターを逆行し、リヨンを追いかけていく。


リヨンは突然ヨンソンに会ってしまい、心臓が止まりそうに驚いてどうしていいかわからない。逃げるように早足でモールの出口までやってきた。
だが、立ち止まる。
もう一度、ヨンソンの顔が見たい。振り返り、ヨンソンがやってくるのを待った。

ヨンソンは必死になって走り、モールの出口に向かう。

そこにリヨンが立っていた。

去年のクリスマスイブに本屋でばったり出会って以来だ。
あれから、10ヶ月が経った。

リヨンがまっすぐな視線でヨンソンを見つめている。


ヨ:リヨン・・・。(胸が懐かしさでときめく)
リ:久しぶり。
ヨ:この近くに住んでるの?
リ:うん・・・。ヨンソンも?
ヨ:いや、今日は撮影で近くまで来たから、ちょっとここへ寄ったんだ。


こんな暢気な会話がしたくて、今、自分はここまで走ってきたのではない。
・・・リヨンに会いたかった。とても、会いたかった。

おまえにすごく会いたかった。
忘れたことなんて、なかったよ。


彼女は少しも変わっていなかった。


リ:元気だった? ・・・少し痩せた? 痩せたよね?(マジマジと顔を見る)
ヨ:・・・うん・・・。いろいろ忙しくてね・・・。
リ:そう・・・。


リヨンは、ヨンソンの頬を撫でてあげたかった。

どうしたの。こんなにやつれて・・・ヨンソンらしくないよ・・・。


ヨンソンはどことなく、疲れたような、やつれた感じだった。少し、不精ヒゲも生えている。
体力だけは自信があるといつも言っていたのに・・・その人がこんなに見てわかるほど、やつれている・・・。


リ:ものすごく忙しいの?
ヨ:・・・う~ん、まあね。・・・リヨン、少し話ができる?(おまえを少し見ていたいんだ)
リ:えっ?
ヨ:時間がある? ・・・久しぶりに話がしたいんだ・・・いい?
リ:(考えるが)いいわよ。でもこの辺は地元だから・・・。
ヨ:分かった・・。オレの・・、僕の車に乗って、ちょっと行ったところで、ゆっくり話そう。
リ:・・・うん、わかった。


あんなに苦しい思いをして自分から別れたくせに、彼を見ると、見つめてしまうし、近くにいたいと思う。
こんなに胸がときめいて・・・。


まったく、私という人間は何なんだろう!
弱虫!
意気地なし!
なんで自分を貫けない・・・!
この人を振り切ることができない。


でも、少しだけ・・・ほんの少しだけ、神様、私にお時間をください・・・。
この人の近くにいさせてください。
この人の家庭や人生を壊しません・・・。
ただ、隣に座るだけ・・・それなら、許してくれますよね?



ヨンソンの車に乗る。撮影機材を載せて、彼の車の中は、カメラマンらしい様子を呈している。


リ:どこまで行くの?
ヨ:少し走ろう。後で、送ってあげるよ。


とりあえず、車を出す。ヨンソンは黙って前を見ている。

リヨンがチラッとヨンソンの横顔を見る。
少し痩せて、少し大人になった。

私と彼とは、たった1歳しか違わないのに、顔も体もすっかり大人になっている。
きっと心も。
男の人はこうやって、どんどん大人になっていってしまうのだろうか。


あんな別れ方をしたのに、私を憎んでいないの?
私は・・・あなたを、ずっと思っていたのよ・・・。


ヨンソンは黙って車を走らせている。
何を思ったのか、高速に入る。


リ:ヨンソン! そんなに遠くへ行くの?(待ってよ)
ヨ:少し走ろう。帰りは送るから。遅くならないようにするから。
リ:・・・うん・・・。


話もせず、ただひたすら走る。
リヨンの胸のときめきは、ヨンソンに聞こえているのだろうか。
ただ座っているだけで、精一杯だ・・・。

1時間ほど走って、郊外の何の変哲もない街に降り立つ。


リ:ここはどこ?(外を見る)
ヨ:よくわからないけど・・・。なんとなく、古びてていい感じじゃない?
リ:まあね・・・。(街の様子をみる)なんか懐かしい感じね。子供のころの風景みたい・・・。
ヨ:どこかに車を止めよう・・・。
リ:ヨンソン。見て、あの看板! ガラス工房だって。建物もレトロでかわいらしい。


リヨンはこんなことを言っている自分に呆れた。

今の状況・・・結婚したと風の便りに聞いた昔の彼と、見知らぬ街に降り立って、二人で少しの時間を共有しようとしている。
これって、もしかしたら悪いことなのに。
危険なことなのに。
でも、ヨンソンと二人だと、そんな危なげなところなんて、少しも感じない。
彼を信頼して・・・一緒にいることがとても自然に思えてしまう。




あの時だって、彼を信じた。

リヨンの部屋。初めての夜。
付き合って3年めのあの夏の日。ヒジンのいない土曜日の夜中、ヨンソンはリヨンを訪ねてきた。
あの時も、リヨンはヨンソンを信じて、ヨンソンに身を任せた。


ヨ:ああ、リヨン。オレを信じて・・・。怖くなんかないよ。
リ:うん・・・。
ヨ:リヨン。大好きだよ。おまえもオレのことをずっと好きでいて・・・。
リ:うん。ずっと好きでいる。キライになんかなれないよ・・・。ずっと、ずっと好きでいる・・・。





ヨンソンがガラス工房を見て、

ヨ:行ってみるかい?
リ:やっぱりやめるわ・・・。
ヨ:なんで? 遠慮するなよ。見ながらでも話はできるし。君の好きな小物があるかもしれないよ。
リ:・・そうね・・・。


二人はガラス工房の前に車を止めて、中へ入っていく。
ヨンソンは少し気持ちがラクになった。


彼女と何がしたいわけでもない。
ただ一緒にいたかっただけだ。
会いたくて仕方がなかった彼女に会えたのだから。たった二人になれたのだから。
どこにいても、何をしていても同じだ。
彼女さえいれば。


リ:わあ、すごい。ヨンソン、見て。こんな細かい細工がしてあるわ。
ヨ:ホントだね。
リ:なんか買いたいわ。・・・そうだ。動物シリーズがいいわ。あなた、動物園が好きだったもん。(なにげなく話している。まるで昔のように)


ヨンソンはそんな彼女が懐かしくて、後ろをついて行く。


リ:ねえ、このキリン、見て。これ、いいよね。この首の細さとラインがいいわ。これ、買ってくる。待ってて。
ヨ:ああ・・・。


リヨンが奥の店員のところへ行く。


リ:すみません。あそこにある動物の置物のキリンを一つください。
店:一つですね。
リ:あ、すみません・・・。二つ、ください・・・。一つはプレゼントなので、リボンをつけてください。
店:かしこまりました。


奥からリヨンが出てきた。


リ:買っちゃった。(笑顔で言う)はい、これ、プレゼント。あなたにも一つあげる・・・。
ヨ:(受け取ってリヨンを見る)同じの?
リ:・・・うん・・・。(大切にして)
ヨ:そう・・・ありがとう。大切にするよ。(今日の思い出にするよ)


二人は車に戻った。しんみりと座っている。
こうして、二人だけの空間にいる・・・。
なぜか心が温まる。それだけでいい。


ヨ:ありがとう。これ・・・。
リ:いいのよ・・・。
ヨ:少し寒くなってきたね。どこかで座ってお茶でも飲んで温まるかい?
リ:・・・そうね。
ヨ:さっき、見かけたコーヒー店はどう?
リ:うん・・・。



コーヒー店に入り、向かい合って座る。


ヨ:何か食べるかい? 
リ:うううん・・・。お腹は空いてないわ・・・。(下を向く)
ヨ:そう・・・コーヒーだけでいい?
リ:うん。


ウェーターにコーヒーを二つ頼む。


リヨンは、ヨンソンの最近の様子を聞きたいが、あの人のことは聞きたくない。
何から話そう・・・。

それは、ヨンソンも同じだ。
リヨンの最近の様子を聞きたい。でも夫の話など聞きたくもない。



二人は静かにコーヒーを啜る。


リ:写真の仕事は順調?
ヨ:そうだね・・・。うまく行ってるかな・・・。
リ:この間・・・広告大賞を取ったでしょう?(カップの中を見ながら言う)
ヨ:よく知ってるね。(驚いて顔を見る)
リ:うん。ちらっと雑誌で見た。受賞の言葉も読んだ。おもしろかった。変にギャグ入れるから、笑っちゃったよ。(カップの周りを見ながら言う)
ヨ:そうかい。(微笑む)


見てくれたんだ。ありがとう。


広告の業界誌だった。普通の人が目を通すことはない・・・。何かの用で覗いたにして、リヨンがちゃんと自分の足跡を見ていてくれることがうれしかった。





リヨンの部屋の中。
電気をつけてリヨンが入ってくる。バッグをソファにおいて、買ってきた雑誌を大切そうにリビングテーブルにおいて、ソファの下に座り込む。袋から雑誌を出して、ヨンソンの写真を見る。受賞のインタビュー記事を読む。
リヨンは少し微笑んで、それから、鼻をすすった。それでも鼻水が出るので、近くのティッシュを取り出し、鼻をかむ。
真っ赤な鼻をして、記事を読むが、涙で文字が滲んで読めない。涙を拭き拭き、ヨンソンの記事を愛しそうにじっと見つめている。





ヨ:こんど東欧へ取材旅行へ行くんだ。(コーヒーを飲みながら言う)
リ:そうなんだ。どのくらい?
ヨ:う~ん、半年くらい・・・。
リ:そんなに?(そんなに長く行っちゃうの)じゃあ、二人で行くの?
ヨ:・・・いや、一人で。
リ:えっ? (なぜ、奥さんと一緒じゃないの?)
ヨ:仕事だから・・・。
リ:そうなの・・・。(俯きながら)あの人とはどうやって知り合ったの?
ヨ:え?・・・親友のスンジョン。覚えてるだろ・・・あいつの彼女の友達。あいつに勧められたんだ。・・・オレが寂しそうだったから・・・。
リ:・・・そうだったの・・・。


久しぶりに会っても、あまり話すことがない・・・。
今の暮らしは聞きたくても余計な人のことも聞かなければならないから、言葉を選ぶ。
結局、あまり聞けない・・・。


リ:ヨンソン。もう帰るわ。遅くなるもん・・・。
ヨ:そうだね。送るよ。


レジの横にこの街の市役所で発行している無料のガイドブックがあった。
そとへ出て、周りを見渡す。


ヨ:なんかいい感じの街だな。ここはなんて言うところ・・・。ふ~ん。
リ:見せて・・・へえ。(横から覗く)あの辺にバス停があるんだ。あ、あそこだ!(発見する)
ヨ:あ、ホントだ。(リヨンを見て)でも送らせて。いいだろ。
リ:・・・うん・・・。



二人はまた黙って、ヨンソンの車に乗っている。

高速に入ろうとすると、事故で高速が閉鎖されている。


ヨ:困ったな・・・。ごめんな。遅くなるけど、下から行くしかないね。家に電話を入れておく?
リ:(困って)まだ、この時間はいないからいいわ・・・。
ヨ:そう。
リ:ヨンソンは?
ヨ:僕は・・・こんな仕事だから、時間なんて関係ないんだ。風来坊みたいなもんさ。
リ:そう・・・。


奥さんはそれでOKなの?
私といた時はよく電話してくれたよね・・・。



ヨンソンが路肩に車を止めて、地図帳を広げてソウルまでの帰路を確認している。
リヨンは、助手席のドアにもたれて、そんなヨンソンの様子を眺めている。


ヨ:(顔を上げて)なあに?
リ:うん・・・。私たちって、今、迷子なの?
ヨ:・・・そう。
リ:ふ~ん。(笑う)子供の頃はよく迷子になったけど、大人になっても迷子になるとは思ってもいなかったわ。
ヨ:そうお?(地図に目を落として)僕は大人になってから、ずっと迷子みたいだよ・・。(地図を見ている)


リヨンは静かにヨンソンを見つめていたが、


リ:ちょっと外の風に当たってくる。


ドアを開けて外へ出る。閉めたドアに寄りかかって後ろを向いているので、ヨンソンからは顔が見えない。


ああ・・・。
こういう時、人はどうやって自分の気持ちを整理するんだろう・・・。
私は弱虫だ。
抑えることができない・・・。


こみ上げてくる涙を我慢して、心が落ち着くまで、リヨンはじっと風に吹かれ、佇んだ。




時計は7時を過ぎたが、ソウルはまだ遠かった。
車は二人の知らない街を走り続けている。


ヨ:どこかで電話を入れたほうがいいね。
リ:ヨンソンて心配症ね。大丈夫よ・・・。ヨンソン、言ってなかったけど、今日は出張でいないの・・・。だから、まだ大丈夫よ。
ヨ:(顔をチラッと見る)・・・そう。ホント?
リ:うん・・・。
ヨ:・・・君はいつもやさしいから・・・。信じていいのかな。うそじゃないよね?
リ:うそなんか、つかないわよ。
ヨ:よかった。じゃあ、安心して車を運転するよ。
リ:・・・ヨンソン。私ってやさしくなんかないわよ。
ヨ:そんな事ないよ・・・君はいつもやさしい。僕に考える時間をくれる。いつも逃げ場を作ってくれる・・・。
リ:そんなことはないわ・・・。(助手席の窓の外を見る)


ヨンソン、そんなことはないわ。
あなたをあんな風に切り捨てたのは、私だもん。
私はちっともやさしい人なんかじゃない・・・。
ただ、あなたが好きなだけよ・・・。


リヨン、おまえはいつもオレの気持ちを優先してくれた・・・。
おどけたり笑わせたり、天真爛漫のくせに・・・いつもオレを一番に考えてくれた・・・。
そのことはよくわかってたんだ。
他の人は、もっと自分の気持ちを表すよ。
もっとオレを問い詰める・・・。
出口を塞いで。閉じ込めて。
そして、壊れるまで・・・。





ミンジャが若いヨンソンを見つめている。
ヨンソンはソファで俯いて、座っている。


ミ:はっきり言ってよ。何がだめなの? 私にはわからないのよ、あなたが求めているものが。
ヨ:・・・。君が問題にしていること自体がよくわからないんだ。何がいけないの? 僕の何がいけないの? わかるように話して。(困惑している)
ミ:私を見てないこと・・・。私のどこがだめ? どこがイヤ? はっきり言ってよ。
ヨ:そんな・・・。ただ好きなだけじゃだめなの?






暗い道を走る。まだ8時だが、道は真っ暗だ。電燈があまりない地域に入った。

リ:なんかお腹が空いちゃった。(笑う)
ヨ:ホントだね。(笑う)なんか食べる? どこか店はないかな・・・。もう少し行かないとだめだね。(探しながら、走る)


軽食の店を見つけ、軽く食べて、そこでリヨンがレジに並んだお菓子と水を買って、車に乗り込む。


ヨ:ねえ、また食べるの?
リ:これ、おいしそうじゃない?
ヨ:おまえって・・君はいつもそんなことには目がないんだよな。
リ:フン。(笑う)走って! 私は食べるから。(食べる)おいしい! おもしろい味。
ヨ:へえ。
リ:ねえねえ、ヨンソンも食べてみて・・・。おもしろい味。ねえったら!(横から口へ押し込む)
ヨ:うん。(喉に詰まる)
リ:大丈夫?


リヨンが持っているペットボトルをヨンソンに差し出す。
ヨンソンが一瞬、躊躇して、リヨンのペットボトルを見るが、


リ:早く飲みなさいよ!


水を飲んで、ヨンソンが落ち着く。
そして、リヨンを見つめた。

たった一本のペットボトルで・・・。
昔の二人に戻ったはずが・・・次の瞬間、今の二人に引き戻された・・・。



長い道のりを走り、振り出しのショッピングモール近くに着いた。


リ:ありがとう。(ヨンソンを見る)
ヨ:・・・会えてよかった・・・。君が元気で・・・それだけでうれしかった。
リ:じゃあね。ヨンソンも元気で・・・。そうだ、東欧に行くのよね・・・。気をつけてね。


車から降りようとした時、ヨンソンがリヨンの手を握った。


ヨ:リヨン。また会って・・・。君の顔を見るだけでいいんだ・・・元気な君を見るだけで・・・。
リ:ヨンソン! そんな・・・。
ヨ:お願い。君の笑顔を見たいんだよ。
リ:ムリよ・・・そんなに簡単になんか・・・、(声を潜めて)会っちゃいけないわ。
ヨ:僕が東欧から帰ったら・・・。
リ:そんなすぐには会えない・・・。
ヨ:・・・じゃあ、一年後の今日。あの街で会おう。
リ:そんなすぐには・・・。・・・。・・・。・・・。2年後。
ヨ:絶対行く。必ず来て。待ってるから。あそこにあったバス停に、11時。僕は待ってる。ずっと待ってるよ。
リ:(顔を見ずに)・・・さようなら!






動物園の帰り道。

通り沿いにあるしゃれたカフェテリアに入る。
サンドイッチを軽くつまんで、カフェオレを飲み、二人は向かい合って、顔を見合わせて微笑む。







2年前もここでお茶を飲んだ。
あの時、ヨンソンは、今までリヨンに聞きたくても聞けなかった話を切り出した。


ヨ:リヨン・・・。結婚している君にこんなことを聞いてはいけないけど・・・。
リ:なあに?
ヨ:怒らないで聞いて。
リ:うん・・・。
ヨ:僕たちが別れた時、君がすごく具合が悪くて・・・。あの時は気づかなかった・・・。でも、後で、わかったんだ・・・。たぶん、あれはきっと・・・。
リ:(動悸が激しくなってくる)何を?
ヨ:つまり・・・あの時、君は・・・。ごめん。本当にごめん。
リ:・・・ヨンソン。もう終わったことよ。
ヨ:リヨン?
リ:もう、終わったこと。ヨンソン、心配しないでいいのよ。確かなことは・・・何も残せなかったっていうこと・・・。そういう運命だったのよ。
ヨ:・・・そう?(少し涙目になる)
リ:うん・・・。
ヨ:君ひとり、苦しい思いをさせて・・・ごめんよ。
リ:もう、いいのよ・・・。いいのよ、ヨンソン・・・。


二人は俯いて、それぞれの思いに涙した。






今の二人が向かいあっている。


リ:ねえ、モンゴルの話をして。どうだった?


ヨンソンがリヨンを見た。


そうだね、モンゴルの話をしよう。
おまえの好きな民族話を。
オレがウンチクを垂れるのを、いつもおもしろがって聞いていた。
そうだね、それが楽しいね。


ひととき、ヨンソンのモンゴル撮影記を聞き、リヨンはヨンソンの顔を眺めた。話の内容など、どうでもよかった。
目の前の彼をしっかり見つめるチャンスがあれば。
それでいい。

ヨンソンだって、正面に座ったリヨンに、誰はばかることもなく、やさしく微笑みかけられる今に、とても幸せを感じている。


このまま、時が止まってしまえばいい・・・。
リヨンがカフェテリアの外を見る。


こんなことなら、強がりなんて言わず、いっそのこと、ホテルへ誘えばよかった・・・。
言葉なんていらないもの・・・。



ヨ:今日はどこで、ご飯を食べようか。よかったら、僕の車でソウルまで送るよ。
リ:・・・ヨンソン。私、今日は4時半のバスで帰るの。
ヨ:えっ?(ちょっと固唾を飲む)今日は急いでるの?
リ:・・・うん・・・。今日はね。(下を俯く)
ヨ:そうか・・・。(力が抜けていく自分がわかる)
リ:・・・ごめんね・・・。
ヨ:車で送るよ。同じ方向だし。
リ:いいの・・・自分で帰るわ。



午後4時半のソウル行きのバスを待つ二人。
お互いに何も話さない。
ヨンソンには、引き止める言葉もない。彼女には彼女の生活があるのだ。

ここで、リヨンはバスに乗り、二人は別れる。そしてまた、2年後の今日、二人はこのバス・ステーションで再会する。


「16時30分発ソウル行き。改札を始めます。ご乗車くださ~い!」

係のオジサンが声を嗄らして叫んでいる。



ベンチに座っていたリヨンが立ち、ヨンソンも立ち上がる。

また、二人は2年間、会えない。
ヨンソンが名残惜しそうに、リヨンの顔をじっと見つめている。
リヨンも見つめ返したいが、とてもまともにヨンソンの顔が見られない。
きっと、正面から見たら、泣き出してしまいそうだ。


今日は心を鬼にして、ヨンソンに言わなければならない・・・。
今日はそのために来たと言っても過言ではない。

言いたくない言葉・・・。
それは、自分の青春に、あるいは、ほぼ自分の忠実な心に、別れを告げることでもある。



胸が張り裂けそうになるが、ぐっと我慢して、リヨンはヨンソンを睨みつけるように見つめた。
ここで、一度怯んだら、あとは崩れていってしまうだろう。
心を無にして言葉を吐き出す。それしかない。


リ:ヨンソン・・・。もうこれで会うのはやめよう。(ヨンソンの顔をしっかり見つめる)
ヨ:・・・。(驚いて、リヨンの顔を見入り、少し顔がゆがむ)
リ:あなたにはあなたの暮らしがあって・・・それを壊してはいけないわ。たとえ、2年に一度でもパートナーを裏切ってはいけなかったのよ。(ヨンソンを愛しそうに、辛そうに見つめる)
ヨ:裏切るなんて・・・。
リ:あなたに会うと昔を思い出しちゃうの。昔の自分に戻っちゃうのよ。(少し苦しそうな顔をする)
ヨ:リヨン。
リ:ただ道を歩くだけでもいけなかったのよ・・・。気持ちを裏切ってきたのよ・・・。
ヨ:リヨン・・・。
リ:あなたのあの人を悲しませちゃいけないわ・・・。
ヨ:(言葉に詰まる)君のご主人を・・・もう裏切ってはいけないね。
リ:・・・・。(本当の思いを伝えておきたい)あなたに会っているとね、あの人を思い出すの・・・。
ヨ:ヒジンかい?(驚く)
リ:うううん。私はもう、ヒジンの亡霊なんか恐くないわ。もうとっくに昔のことよ。これだけ苦しい思いをしたんだもの・・・。それに、考えてみれば、私たち、別に間違ったことなんかしていなかったんだし。もし今、あのコが私の前へ化けて出てきても平気よ。



あのころ、私は神経衰弱になって、気分のすぐれない日が続いていた。
それを、ずっとヒジンにとりつかれていると思い込んでいた。でも、あれは、妊娠初期の兆候でもあったのだ。早く気がついていれば、ヨンソンとも別れずに、また違う道を選択していたかもしれない。



リ:だって、あのコが私を恨んでもただの逆恨みでしかなかったんだもの・・・。それをあの時は、あんなに深く受け止めて・・・。あのコの死を自分のせいだと責めて・・・。あなたとの未来を捨ててしまった・・・。バカよね・・・私って。自分の手で、全てぶち壊しちゃったんだもん・・・。
ヨ:リヨン。そんなに言わなくても。気持ちはわかってるよ・・・。


リヨンは、涙が滲んでくるが、泣きたい気持ちに負けないように歯を食いしばり、ヨンソンをしっかりと見つめる。


リ:・・・ただ、今はね。あなたに会っていると、いつもあなたの、あの人を思い出しちゃうの。(苦しいけれど言ってしまおう)・・・あの人のパッチワークをする白い手が、いつも私の心を悩ます・・・。一度しか会ったことのない人なのに・・・あなたに会っていると、あの人の手を思い出すの。・・・とても辛抱強く針を差す指を・・・。
ヨ:リヨン・・・。(苦しそうな顔をする)


「ソウル行き。あと3分で発車しま~す! 乗り遅れのないようにご乗車くださ~い」


リ:行くわ!(まっすぐバスのほうを見て歩き出す)
ヨ:リヨン!(彼女を止める手立てはない・・・)


しばらく歩いていって、リヨンが立ち止まり、振り返る。


リ:ヨンソン!(大きな声で名前を呼ぶ)
ヨ:リヨン・・・?


ヨンソンが、リヨンに近づいていく。リヨンが近づいてくるヨンソンに向かって言う。


リ:(決意して最後に言う)ヨンソン! 私、今までうそをついてきたわ。(涙がこみ上げてくる)私・・・私・・・結婚なんかしてないのよ。(嗚咽が入ってくる)5年前に、あなたが恋人と一緒だった時に、バッタリ会ったから、咄嗟にうそをついちゃったのよ。結婚なんかしてないの。(吐き出すように言う)
ヨ:リヨン! なんでそんな大事なことを!(驚く)どうして言わなかったの!
リ:あなたに負担をかけたくなかったのよ! それにあのクリスマスの後、あなたが結婚したって聞いて・・・。もう戻れなくなっちゃったの・・・。こうして会うのに、私だけ一人者じゃ、あなたがかわいそうだと思ったのよ・・・。
ヨ:リヨン・・・。


ヨンソンは、辛そうに、やりきれない顔になる。
しかし、次の瞬間、すべての想いをリヨンに託すように、リヨンをまっすぐ見つめ、リヨンの前に立つ。

リヨンの腕を掴んだ。


ヨ:行くなよ・・・。もう行くなよ。(強く言う)
リ:ヨンソン・・・。


ヨ:オレもおまえにうそをついてたよ・・・。あのクリスマスイブの本屋で、おまえが結婚すると聞いて、ショックだったんだよ。それで、おまえを諦めるために、結婚したんだ。でも、でも彼女とはたった半年だった・・・。とっくに別れてたくせに、おまえに言い出せなかった・・・。オレが一人だと、おまえが会いに来づらいんじゃないかと思って。
リ:ヨンソン・・・。(泣けてしまう。崩れていく自分がわかる)
ヨ:行くなよ・・・。リヨン。もう全て終わったんだよ、戦いは。オレは、今でもお前を一番、愛しているんだ・・・。ずっとおまえしか愛してないんだよ。だから、行かないで・・・。


リ:ああ・・・。(涙があふれてきて、堪えることができない)
ヨ:オレが悪かったよ。おまえに苦しい思いをさせて。オレがはっきりした態度をとらないから。おまえに嫌われたくなくて・・・。おまえには悪いところなんか何もなかったのに・・・。苦しかったろ? でも、もうオレたちには、どんな亡霊だって勝てやしないよ。そうだろ? これだけ辛かったんだ・・・。リヨン、もうずっとオレのそばにいてよ・・・。
リ:ヨンソン・・・。
ヨ:今度こそ二人でやっていこう? いいだろう? どんなに苦しい時だって、二人でいたほうがよかっただろう? 二人で乗り越えたほうがよかっただろ?
リ:ヨンソン!(涙が止めどなく流れる)
ヨ:一人でいちゃいけないんだよ、オレたち。なあ。


ヨンソンがリヨンを引き寄せる。リヨンは流れ落ちる涙も拭わず、ヨンソンを見つめる。
そして、彼の腕に身を任せた。



ヨンソンの胸には、懐かしいニオイと温かさがあった。

今までの暗闇にやっと出口を見つけた思いに、リヨンは彼の胸に溶けていく自分を感じていた。









【主題歌・エンディングテーマ】

「Only one true thing」            (たった一つの真実)


♪♪~~
Don’t speak any more, my darling.     (もう何も言わないで)
No words, we need.               (言葉なんていらないさ)
I wanna touch you.               (君に触れるだけでいい)


Don’t ask me why , my darling.       (なぜなんて聞かないで)
No reason, we need.               (理由なんていらないから)
I wanna love you.                  (ただ好きだというだけだよ)


Don’t think of anyone else but me.     (他の人のことなど考えないで)
Just me. Only look at me!            (今は僕だけを見つめていて・・・)
I wanna be with you.                (君と一つになりたいから)


二人、少し、
離れて歩いてきたけれど・・・            (韓国語の台詞)


Don’t leave me                   (僕から去っていかないで)
‘cause my heart’s beating to your love   (だって君への愛で生きてるんだもの)
You’re my destiny and my whole life!     (君は僕の運命の人、僕の命そのもの)


That is only one true thing           (それがたった一つの真実)
Between you and me・・・             (君と僕の間の・・・)

One true thing.                     (ただ一つの真実)
We’d better catch this feeling・・・       (僕たち、この気持ちをちゃんと受け止めたほうがいいよね)


Don’t cry any more, my darling.        (もう泣かないで)
No tears, we need.       (涙は終わりにして)
We can’t live without each other any longer. (僕たち、もう二人でなきゃ、生きられないよ)


I swear, I’ll never let go of your hand      (僕は誓う。もう二度と君の手を放さないと)
until the end of the world.               (この世が終わる時まで)
Please, my darling,                   (だから、お願いだよ)
don’t leave me alone any more!          (君も、もう僕を一人になんかしないで!)

♪♪~~







THE END










これは、ここで以前にアップしたラブコメディ「恋のタイトルマッチ」と
同時進行で書いていたものです・・・。

それにしても・・・。


ブログでこうやって、作品を続けてアップしていくと、
楽しい作品より苦しい思いの作品のほうが多いのかしらと
気づかされます・・・。



次回は・・・「Oh, My New York!」を考えています。

昨年の4月・・・NYに渡った時のペ・ヨンジュンの淡い恋のお話です・・・^^


ではまた!



2009/10/13 01:17
テーマ:【創】二人の街角 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「二人の街角」3



 
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BYJシアターです。


本日は、【二人の街角】3です。

言葉は要りません。続きをどうぞ!


では、これより本編。
お楽しみください^^


~~~~~~~



「二人の街角」3




あなたに
心を預けてはいけない


あなたに
依存してはいけない


過ぎ去った日々の
懐かしさに

あなたを
追い求めても


あなたの
人生を壊してはいけない


新たに
始めてしまった道が


二人を
隔てたことを



私は
よく知っている




主演:ペ・ヨンジュン
   チョン・ドヨン



市役所が発行している街のガイドブックを見て、ヨンソンが、


ヨ:ねえ、小さな動物園があるらしいよ。行ってみようか?
リ:動物園? こんな所に? 不思議~。(驚く)
ヨ:だよな。なんで、こんな街にあるのかな。まあ、あんまり期待できないけどね。(笑いかける)


二人は通りを曲がって東へ進む。

小さな花屋の店先に、かわいい秋の鉢植えが並べられている。少し背の高いものではコスモスも鉢植えで売っている。


リ:キレイな花ばかりね・・・。こんなにお天気だと、皆キレイに見えるわ。
ヨ:本当だね。


しばし立ち止まって、花を眺める。



ヨンソンには、その花々がパッチワークに見える。


ミンジャの声が聞こえる。


ミ:ねえ、ヨンソン。幸せ?
ヨ:当たり前だろ?


壁一面に、ミンジャの大作、花をイメージしたパッチワークが飾られたリビング。
ソファに座った若いヨンソンが雑誌を読んでいる。そのヨンソンの膝に手を置き、ミンジャがソファの下に座っている。

ミ:ねえ、ヨンソン・・・。私の何がもの足りない?
ヨ:もの足りないものなんてないよ。(やさしく言う)
ミ:・・・。じゃあ、なぜなの?(不安そうに見上げる)
ヨ:君はいつも何を心配しているの?(よくわからない。ミンジャの手を優しく撫でる)
ミ:あなた、自分では何も気づいてないの?
ヨ:・・・何が?(やさしい目でミンジャを見つめる)
ミ:(膝を立てて座り、ヨンソンの膝にもたれるようにして、ヨンソンを見つめる)ちゃんと私を見てよ。私だけを見て。私だけを愛して・・・ヨンソン。
ヨ:見てるよ、いつだって・・・。(どうしたって言うの?)
ミ:本当に愛してる?・・・ヨンソン・・・なぜ、私と結婚したの?


ヨンソンが驚いて、ミンジャを見つめる。


ヨ:なぜって・・・?
ミ:あなた、クリスマスに私と結婚したいってインスピレーションが浮かんだって言ったけど、何を感じたの?
ヨ:・・・君と暮らしたら、幸せになれそうな予感がしたんだよ。・・・本当にそうだったろ? 
ミ:その時に愛も感じた?
ヨ:当たり前だろ? 君は幸せじゃないの? 僕たち、こんなに仲がいいじゃないか?
ミ:・・・。私にはあなたの本当の気持ちが見えない・・・。心は全部見せてくれてるの? 本当に愛してくれてるの? 私だけを本当に愛して・・・ヨンソン。
ミ:ミンジャ・・・。


若いヨンソンが戸惑いながらも、新妻の頬を優しく撫でながら彼女を抱き上げる・・・。




花屋に並んだ鉢植えを見て、リヨンは、8月のあの日を思い出す。


ヨンソンのアパートの前。
24歳のリヨンとヒジンが立っている。リヨンがいたずらっぽく微笑んで、ヨンソンのアパートのドアの前にある植木鉢の下から、合カギを取り出す。


リ:ヨンソンてわかりやすいでしょ?(笑う) こんなところに置いてたら、簡単に泥棒に入られちゃうのにね!
ヒ:(驚いて)ホント!


二人はカギを開けて、ヨンソンの部屋へ入る。持ってきたケーキを冷蔵庫にしまう。
そして、奥のベッドの部屋へ行く。リヨンがベッドにダイビングして言う。


リ:ねえ、どう? 彼が帰ってきた時、私がここに寝てるの。驚くわよね。それで、抱きつくの! お誕生日おめでとうって!(興奮気味に言う)そしたら、彼、喜ぶと思う?
ヒ:どうかな?(あまり興奮せず、つまらなそうに言う)
リ:だめかな・・つまらない? 私が最高の贈り物よっていうの、だめ?
ヒ:・・・。(冷ややかに見る)
リ:やっぱ、だめか。
ヒ:ねえ・・・そういう関係なの?(真面目に聞く)
リ:何が?(ベッドから起き上がる)
ヒ:お兄さんとあなたの関係・・・。
リ:うううん・・・ぜ~んぜん!(明るく言う)でも、すご~く好きなの。胸がキュ~ンとするくらい!それはわかってるでしょ? もう3年も一緒にいるんだもん。
ヒ:・・・。やめといた方がいいわ。お兄さんはそういうの、好きじゃないと思う・・・。
リ:なあんだ・・・。じゃあ、当初の予定通り、プレゼントだけ置いていく。(ベッドから降りる)


リヨンがプレゼントの包みをベッドの上に置く。


ヒ:それ、何が入ってるの?
リ:ふ~ん。(笑う) ビックリ箱! きっと驚くわ!(うれしそうに言う)
ヒ:へえ・・・。お兄さんの誕生日はこれでおしまい?
リ:うん。ケーキも冷蔵庫に入れたし・・・。きっと気持ちは通じるわ。今、あの人、カメラマンの助手から一本立ちしようとしてるの。そんなに頑張ってる時に私のために時間を取らせたくないのよ。だから、これでOK!
ヒ:そう・・・。(ベッドのプレゼントを見ている)
リ:じゃあ、行こうか!



それから2日後の土曜日の夜。
リヨンは、担任クラスの子供達の日記の添削を終えて、風呂から上がると、時計は午後11時を過ぎていた。
冷蔵庫から缶ビールを取り出し、一口飲む。

そこへ電話が鳴った。


リ:もしもし、ヒジン?
ヨ:リヨン、オレだよ、ヨンソン。
リ:ヨンソン。
ヨ:ヒジンはいないの?
リ:うん。今ね、実家に帰ってる。明日、中学校時代の友達の結婚式なんだって。でも、明日の夕方には戻るって言ってたわ。
ヨ:・・・そうか。
リ:なあに? 何か用?
ヨ:うん・・・。これから行くよ。
リ:でも、もう夜遅いじゃない。
ヨ:だから行く・・・。
リ:でも、ヒジンもいないし・・・。
ヨ:だから行きたい。
リ:ヨンソン?
ヨ:じゃあこれから、バイクで行くから!(カチャ。電話が切れた)
リ:ヨン・・!


リヨンはパジャマ姿の自分を見て困った。部屋の片付けも少ししないと。

真夜中になって、ヨンソンがやって来た。


リ:ヨンソン。こんな時間に・・・。


リヨンは、ドアを開けて中へ入れる。パジャマからカットソーとパンツに着替えている。


ヨ:リヨンが来させたんだよ。(部屋へ入ってくる)
リ:え、何言ってるの? 私が呼ぶわけないじゃない・・・。


お互いに石鹸のニオイがした。それが返って、二人の気持ちをドギマギとさせる。


ヨ:もういいだろ? 二人の時間を作っても。
リ:ヨンソン。
ヨ:ヒジンもいないんだし・・・。


ヨンソンがリヨンを抱きしめる。やさしい石鹸のニオイがする。


リ:でも・・・。(ヨンソンの胸を押して少し離れる)
ヨ:リヨン。(リヨンの手を握る)誕生日のプレゼント、ありがとう! あんなプレゼントもらったら、男は来るよ。
リ:・・ええっ? ただ、ふざけただけなのに・・。
ヨ:フン。(笑う)そう? でも、その気になった。(顔をじっと見つめる)
リ:ああ・・本気?(控えめに顔を覗く)
ヨ:もちろん!(自信たっぷりに言う)
リ:う~ん・・・。はいてみた?
ヨ:うん。今、はいてる。見たいだろ?(笑う)
リ:うううん。(首を振る)まだ見たくない・・・。(顔が心なしか赤い)
ヨ:うそ。
リ:うそじゃないもん。
ヨ:・・・泊まっていくよ。(しっかり見つめる)
リ:じゃあ・・・トランプしましょう。(笑顔を作る)
ヨ:後でね。見せたら・・・。
リ:・・・やだ・・・。(俯く)
ヨ:ホントにやだ? (顔を覗く)
リ:・・・う~ん・・・。Mサイズでピッタリだった?
ヨ:うん。(笑う)おかしいよ、おまえ。トランクス、プレゼントするなんてさ。
リ:そう? おもしろいと思ったのよ。笑ってくれると思ったの。
ヨ:笑った・・・。それで、すごく逢いたくなった。(じっと見つめる)
リ:・・・。(考えている)
ヨ:何て言って買ったの? 恥ずかしくなかった? リボンなんてかけてもらって。
リ:・・・主人にプレゼントするって言ったのよ・・・。
ヨ:フン。(笑う) じゃあ、そのご主人と一緒に寝てください。
リ:はあ・・・。(ため息をつく)
ヨ:いいだろ? 恐くなんかないよ。
リ:・・・。(困る)
ヨ:オレを信じて。
リ:(顔を見上げる)・・・う~ん・・・。(もう逃げ場がない・・・)
ヨ:・・・なんだよ?
リ:・・・。・・・。そうだ! お返しに私に下着、買ってきてくれたらいいわ。リボンをつけて。(見つめる)
ヨ:いいよ。1ダース? 買ってやるよ。ただし、明日。


ヨンソンはいきなり、リヨンを抱き上げて、テーブルに座らせる。


ヨ:おまえって、ホント、往生際が悪いな。(睨んで笑った)
リ:・・・。(緊張した顔で、ヨンソンを見つめ、ヨンソンの首に腕を廻す)


ヨンソンが抱きしめて、リヨンにキスをした。いつものキスよりリヨンは心臓がバクバクしている。
これから、リヨンには初めてのことが起こる。それはヨンソンも知っている・・・。


リヨンは手を繋いで、ヨンソンを自分の部屋へ招き入れた。





花屋の前で、ヨンソンとリヨンがそれぞれの思いに耽りながら、花を見ている。
二人は微笑んで、また、ゆっくり歩き始める。


しばらく歩いて、小さな動物園に着いた。ぶらぶらと散歩しながら、サルやヤギや鹿を眺めている。


リ:こういうところって独特のニオイがするよね。
ヨ:まあね。生き物相手だからな。(笑う)
リ:昔、よく動物園に行ったよね。
ヨ:ああ。料金が安かったからな・・・。




大学時代、よく三人で動物園へ行った。リヨンとヒジンがゴリラの前で、ゴリラの顔マネをして、ヨンソンを笑わせた。

ヨ:ホントに、おまえ達って、バカ!(呆れて笑う)


そんな所で見せるリヨンのお茶目な姿が、ヨンソンは大好きだった・・・。




ヨ:ここには、ゴリラがいないのかな?

ふと、そういって、リヨンを見ると、リヨンの目から、涙が落ちる。ヨンソンは言葉を飲み込んだ。


リ:・・・ごめんなさい・・・。(横を向く)
ヨ:ごめん・・・僕が悪かった。
リ:いいの・・・。

しばらく、リヨンは静かに涙を流した。




楽しかった日々の積み重ね・・・。
それには終わりがないように思えた。

いつもちょっとおどけて、笑って、そして、つまらないことでケンカをした。
それでも、二人には終わりがないように思えた。

ずっとずっと続いていくのが、当たり前のように思えた。

疑う余地なんて、なかった。
だって、こんなに気が合う人なんていなかったし・・・とても愛していたから・・・。

二人の時間の一つ一つを、今でも・・・覚えている。




ヒジンのことがあって、4月に入ってから、ヨンソンと暮らし始めたリヨンは、昼間の小学校と、ヨンソンの存在に支えられて、少しずつ、ヒジンの亡霊から自分の身を守ることができるようになっていった。

忙しくしていると、ヒジンは顔を出さない・・・。
なんとか仕事を作り、それに没頭することで、リヨンは前のリヨンに戻りつつあるように見えた。



5月に入って、ヨンソンは今まで断ってきた泊りがけの仕事を再開した。


それは、ヨンソンが2泊3日の仕事に出かけた直後に起こった。

リヨンはいつもより自分の体が重く、立ち上がることができなかった。幸い、日曜日だったので、昼近くまでゆっくりとベッドで過ごし、トイレに立った時だった。
洗面所で手を洗いながら、鏡で何気なく眺めた自分の顔に驚く。

青白い顔をして、肌もかさついている。生気のない顔つきだ。一遍に何歳も年を取ったように見える。

どうしたの? 私・・・。


急に激しい嘔吐に見舞われ、トイレに駆け込む。朝からなんにも食べていないのに、吐き気がひどくて、胃液まで吐き、喉が焼けて痛い。

便器を掴んだまま、リヨンは苦しさに耐えるしかなかった。


ああ、ああ・・・。
ヒジン!
お願い! もう許して。
もう私を解放して。お願い・・・。



その日は一日中、ベッドとトイレを往復し、歩くことさえ辛くなるほどだった。

頼みのヨンソンは仕事で遠くへ行っている。


ヨンソンがいないと、私は一人で立っていることすらできない・・・。
あの人がいないと・・・。
私は一人では生きられない。


ヒジンはどこまで、私を襲ってくるのだろう。



月曜日になり、昨日、あんなに寝て過ごしたのにもかかわらず、リヨンの体調は悪くなるばかりだ。
学校も病欠の電話を入れた。


私がいつまでもこんな状態で、ヨンソンは仕事をまともにやっていけるのだろうか。
彼の生活を、彼の人生を、このまま、こんな弱虫の私のために使ってしまっていいの・・・?

彼の肩に、私とヒジンが重く圧し掛かっている。



翌日、ヨンソンが帰ってきて、リヨンの様子に驚く。


ヨ:どうしたんだよ。(顔を覗き込む)
リ:ごめん・・・。こんなで・・・。
ヨ:医者は? 医者には行ったの?
リ:うううん・・・。(首を振る)
ヨ:なんで行かないの?(怒る)
リ:ごめんなさい。・・・やっぱりだめ・・・。(泣けてくる)
ヨ:・・・。
リ:ごめん・・・。あなたがいないとだめ・・・。こんなことの繰り返しじゃあ、だめよね。
ヨ:リヨン、落ち着いて。大丈夫。もう一度やり直そう。大丈夫だから。オレがいつも一緒にいるから・・・。
リ:ヨンソン。ごめんね・・・。でも私、よく考えたの。・・・私たち、別れたほうがいいわ。
ヨ:!!(リヨンを怒ったような目で見つめる)
リ:このまま、あなたに寄りかかって生きていくわけにいかないもん・・・。
ヨ:何を言ってるんだよ。二人でやっていこうよ。大丈夫だから、ね、リヨン。


ヨンソンは、リヨンをギュッと抱きしめる。
今までのリヨンは、抱きしめると、ヨンソンの体を押し返してくるほど体に弾力性があってしっかりしていたのに、最近のリヨンの体にはその力強さがない。


リヨンには、なんの落ち度もなかったのに・・・。こんな目に遭ってしまって・・・ただオレがリヨンを好きだっただけなのに・・・。

ヨンソンはリヨンがかわいそうで仕方がない。


ヨ:お願いだから、別れるなんて言わないで。
リ:・・・あなたといると、ヒジンが怒って・・・まともに暮らせないの。あなたまでだめにする。
ヨ:そんなこと、言わないで。
リ:私、あなたの負担になっていくのが耐えられないの・・・せっかく、一本立ちしたのに・・・。こんな生活してたら、あなたまでだめになっちゃうもん・・・。
ヨ:そんなこと、気にしないで。別れるなんて、だめだよ。
リ:ヨンソン・・・。それに、私自身もだめになっていくだけだもん。別れれば、ヒジンも許してくれるわ。
ヨ:・・・。
リ:きっと、許してくれる。(ヨンソンの顔を見る)
ヨ:(辛そうに見つめるが)・・・どのくらい、別れていればいいの? おまえが元気になるまでなら、我慢して待つよ。
リ:・・・。
ヨ:1週間・・? 1ヶ月・・? 3ヶ月・・? 半年・・? 1年・・? リヨン?
リ:・・・・。
ヨ:2年・・? 3年・・? (目に涙が溜まる)5年・・? 10年・・? 20年・・?
リ:・・・。
ヨ:・・・死ぬまで・・? (涙が落ちる)
リ:ええ・・・。(頷く)私たちが死ぬまで・・・。


ヨ:リヨン・・・。 死ぬまで待つより、死ぬまで一緒に苦しんだほうがいいじゃないか・・・。二人で乗り切ろうよ。
リ:・・・二人はだめ・・・三人になっちゃうから。(涙がこぼれる)
ヨ:何を言ってるんだよ。おい、しっかりしろよ。
リ:ごめんね・・ごめん・・・。本当に愛してるのよ、それだけは信じて。でも、できないの。今の私には一緒に暮らし続けることが、苦しくてできないのよ。あなたを犠牲にして生きていくことが辛すぎて、できないの・・・。ごめんね・・・ごめんね・・・ヨンソン。
ヨ:・・・。・・・わかった。そんなに苦しいなら、少し待つよ。1ヶ月。・・・1ヶ月だけ待つよ。
リ:ありがとう。(ありがとう・・ヨンソン。別れるチャンスをくれて)
ヨ:でもその体調じゃあ、一人で暮らすなんてムリだよ。
リ:先輩の所へ行くわ・・・。同じ教職だし、頼りになるもん。


ヨンソンは不憫なリヨンを抱きしめて、思わず激しく泣き出してしまう。

でも、今はリヨンの健康の快復が先決問題だ。
しばらくの別れに、ヨンソンはじっと耐えることにした・・・。



大学の先輩のアパートに移ったリヨンだったが、体調はますます悪くなり、突如として襲う吐き気の他に、立ちくらみもするようになった。強い貧血にでもなったような感じだ。


10日経って、ヨンソンから電話が入った。


ヨ:リヨン? 
リ:ヨンソン・・・。
ヨ:10年、待ったよ。感覚的には10年待った・・・。
リ:じゃあ、あと100年待って・・・。そのくらい待てるでしょ。
ヨ:リヨン!
リ:ヨンソン、やっぱりだめよ。私一人の体じゃないみたい。今までとなんか違うのよ。感覚が変なの。なぜかしら。普通じゃないわ。
ヨ:これから行くよ。
リ:だめ、だめよ。そんなことしたら、あのコが出てくる。
ヨ:おい! しっかりしろよ。よく話し合おう。このまま別れるなんておかしいよ。
リ:これで終わりにして。・・・お願いだから。あなたには会わない・・・。会ったら終われないし。・・・あのコが怒るもん。
ヨ:リヨン!
リ:苦しいの。食事も喉を通らないほど。吐き気もして・・・。許して、ヨンソン。愛してるのよ、とっても。・・・でももうだめ・・・。お願い・・・許してちょうだい・・。



ヨンソンとの恋。
それは明るくて、未来に喜びがあふれていて、一点の曇りもなかった。
幸せだけが自分たちを迎えてくれると信じていた。
彼だけが全てと思えた日々。

でも、それは皮肉にも、こんな結末で終わった。


リヨンは、自らの手で、ヨンソンとの恋に終止符を打った。













続く(明日・最終回です)

明日は、ハンカチ・タオルをご用意ください!

では!













2009/10/12 01:11
テーマ:【創】二人の街角 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「二人の街角」2



 
BGMはここをクリック!


BYJシアターです。

本日は、【二人の街角】2です。

言葉は要りません。続きをどうぞ!


では、これより本編。
お楽しみください^^


~~~~~~~


「二人の街角」2



君に
期待してはいけない


やさしい笑顔を

僕だけのために
泣いてくれる君を

僕のために
心を砕いてくれることを



君にとっては
僕は過去




そして、
僕は

君のいない海を
君のいない丘を
ファインダーの中に切りとる



君はいつだって

僕を笑わせ、
僕を怒らせ、
僕を泣かせ、

僕の心を温めた




君のいない風景


それは、
無より虚しい




主演:ペ・ヨンジュン
   チョン・ドヨン



それはその年の3月中旬のことだった。
婚約式を一週間後に控えて、リヨンは充実した日々を送っていた。
胸がはちきれそうなくらいの幸せが彼女を包んでいた。

仕事から帰り、リヨンはアパートのドアを開ける。
女物の靴があった。いつものパンプスだ。


リ:ただいま~。ヒジン? ヒジン? あれ、まだ帰ってないのかな? (靴はあったのに)


冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターを出して、ペットボトルを口付けして飲む。


リ:あ~あ。(ペットボトルのキャップをする)


そうだ。婚約式の受付の手伝いを先輩にも頼まないと・・・。
ヒジンと先輩と・・・。女の子は二人でいいかな・・・。


何気なく、テーブルの上を見る。

二つ折りの手紙が置いてある。


なあに?


気軽に手に取って、開く。




「リヨン。

ごめんなさい。
あなたに迷惑をかけるつもりはなかったの。でも、もう我慢の限界。

ヨンソンお兄さんは、私の子供の頃からの憧れでした。
従兄だった・・・でもそれだけの気持ちではいられない人でした。
愛さずにはいられなかった・・・思わずにはいられなかった。

どうしても、諦めることができないのよ。
あなたとお兄さんが結婚することになったと聞いても。

ここ一週間、私は少し変でした。

リヨン、あなたを恨みました。
あなたがいなければ、もしかしたら、私とお兄さんが結ばれることがあったかもしれないと・・・。

でもそれはなかった。きっと、お兄さんはそんなことはしないわね。


確かに、お兄さんとリヨン、あなたはピッタリよ。

だからといって、あなたを許すことはできないの。

もうあなたに友情なんか持てないの。
ただ、あなたが憎いだけよ。

逆恨みよね、きっと・・・許して・・・でもどうすることもできないのよ。
理性ではわかっていても抑えることができないの。

あなたを恨む気持ちが後から後から、私を襲ってきて、私を捉えて放さない。

お兄さんを思う気持ちがどんどん、どんどん膨れ上がってきて、苦しくて苦しくて
仕方がないの!

こんなにも愛しているのに!

なぜ?
なぜ、あなたなの?

ちっとも美人じゃないのに。別に飛び抜けたところなんて一つもないくせに!
私のほうが、ずっとキレイなはずなのに! 私のほうがずっと頭がいいのに!

なんで、なんであなたなのよ!

リヨン、私はあなたを憎んで恨んで過ごしてきました。
あなたなんか、ちっとも好きじゃなかった。
気がつかなかった?
バカね、あなたって。


リヨン、ごめんね・・・そうしなければ、生きてこられなかったから・・・。

でも、もう変わることはできないの!

あと一週間たったら、あなたたちは、皆に祝福されて、認められて・・・。


そんなバカな!
私以外の人と結ばれるなんて、許さない!


そして、リヨン、私はあなたを一生、後悔させることにしました。

ヨンソンお兄さんと一緒になったことをね! お兄さんを愛したことをね!

一生!


さよなら、リヨン!

私は後悔しない!
だって、お兄さんを愛しているから!


あなたを好きだったけど・・・それだけに辛すぎたのよ!


ヒジン」




リヨンはじいっと手紙を見つめている。

これは・・・。
この手紙はいったい・・・。


ああ!


ヒジンはいったい今、どこにいるのだ。

私は玄関に入って来た時、あのコがいると思っていた。
なぜ?

靴だわ・・・。



リヨンは、玄関に戻る。

ヒジンの靴が並べてあった。



それからは、リヨンには、自分の呼吸しか聞こえなかった。
自分の呼吸が頭の中いっぱいに、体中に鳴り響いている。


ハア、ハア、ハア、ハア・・・・。

どんどん、不安とともに呼吸が激しくなっていく。


ヒジンの部屋の前に立つ。
震える手でノックをする。返事がない。

震える声で名前を呼ぶ。


リ:ヒジン! ヒジン!


ドアを開ける。

彼女はいない・・・。
気持ちが少しホッとする。


洗面所!


リヨンは自分の激しい呼吸の中で、目眩を起こしそうだ。


お願い・・・ここにいないで!


ドアに手をかける。


電話が鳴った。


ドアを開ける。
彼女はいなかった。


電話が激しく鳴っている。

しばらく、金縛りになるが、勇気を振り絞って、走って、電話を取りに行く。


リ:もしもし! ヒジン!
ヨ:リヨン。オレだよ、ヨンソン。
リ:ヨンソン!(もう泣きそうになる)ヨンソン、たいへんなのよ。ヒジンが、ヒジンがいないのよ!
ヨ:リヨン・・・。ヒジンのいる所なら知ってるよ。
リ:どこ?
ヨ:これから言う所に来て。
リ:待って。今、書き留めるわ。
ヨ:・・・。***病院。受付で、ソン・ヒジンと言えば、わかるよ・・・。
リ:どうしたの? 何があったの? ヨンソン、教えて。どうしてあなたが電話してきたの?
ヨ:・・・(言いにくいが)うちにいたんだよ。オレが帰ってきたら、ベッドの上に寝ていた・・・。
リ:ベッドで・・・何を?
ヨ:リヨン。とにかく来て。家に何か置いてなかった? 
リ:ベッドの上でどうしてたのよ!(まさか!)
ヨ:とにかく、来ればわかるよ・・・。オレも昨日から泊りがけの仕事だったから、何時に来たのか、よくわからないんだ。だから・・・だから今、調べてる。
リ:何を調べているの?(泣きそうだ)
ヨ:とにかく、来てくれる? オレはここを動けないんだ。叔父さんと叔母さんには連絡した。家に、彼女の部屋に何かなかった?・・・たとえば、(言いづらいが)書き置きとか遺書とか・・・。あれば一緒に持ってきてくれる? ・・・警察の人が見たがっているんだ・・・。
リ:あ~あ・・・! ハア、ハア、ハア・・・・・。(呼吸が苦しい!)
ヨ:リヨン? リヨン? 大丈夫? リヨン!


彼女にはもう自分の呼吸しか聞こえなかった。
そして、もう立ち上がることができなかった。







二人が歩いていると、後ろから救急車がサイレンを鳴らして通り過ぎていく。

ヨンソンは心配そうにリヨンを見るが、リヨンは顔色も変えずに歩いている。
あの日のサイレンを思い出してしまうのは自分だけなのか・・・。







あの日。
リヨンは病院へ行くことができなかった。あまりのショックに立ち上がることができなかった。

ヨンソンは、田舎からかけつけたヒジンの両親に挨拶を済ませると、急いで、リヨンのもとへ走った。

暗いアパートで、リヨンは、ぐったりとして、ソファの下に座っていた。


ヨ:リヨン・・・。大丈夫?


ヨンソンは電気をつけて、リヨンのそばへ行き、リヨンを抱きしめようとしたが、リヨンがヨンソンに気がついて、手を振り払った。

ヨンソンは驚いて、リヨンを見つめるが、リヨンが辛そうな顔をして言う。


リ:お願い。私に触らないで。今はあなたに触れられたくないの。
ヨ:リヨン。
リ:何があったか、教えて。あなたが帰ってきたら、彼女はどうしてたの? ヒジンは何をしてたの? ただ寝てただけ?
ヨ:・・・初め、おまえが寝てるのかと思った・・・。ヒジンがベッドにいるなんて、考えられなかったから・・・。声をかけても動かなくて・・・。近寄ってみたら、薬のビンが2つ、転がってたよ・・・。
リ:・・・。まだ、息はしてたの?(嗚咽が入る)
ヨ:・・・。(首を振る)
リ:・・・テーブルの上にヒジンの手紙があるわ・・・。読んで。


ヨンソンは、ダイニングテーブルまで行き、手紙を広げて読む。


ヨンソンが、静かに息をひそめて、ヒジンの手紙を読んでいる。
しばらく、この遺書を見つめていた。

そして、流しへ持っていく。
カチッという音がして、リヨンが後ろから見ると、ヨンソンの影に炎が見える。


リ:ヨンソン! だめよ! 焼いちゃだめよ!


走っていくが、もうヒジンの遺書はほぼ灰になっていた。


リ:どうするの? 焼いちゃって。あのコの残したたった一つのものなのよ!
ヨ:残しておいて、どうするんだよ・・・。これは両親宛てでも警察宛てでもない。おまえに宛てたものだ。そして、オレにも恨みを残すために・・・。(辛そうな顔をする)
リ:違うわ。ヨンソンのことなんか、恨んでないわよ。・・・愛してただけよ。
ヨ:そんな・・・。だったら、なぜ、オレのベッドにいたんだよ・・・。オレを恨んでなくて、なぜ、あんな所にいたんだよ。(もう苦しくて泣きそうになる)
リ:・・・あなたを待ってたのよ。きっと、あなたが帰ってくるのを・・・。それで待ちきれなくなって・・・。
ヨ:・・・。(リヨンを見つめる)
リ:あなたに気持ちを伝えたかっただけかもしれない・・・。あなたがなかなか帰らなくて・・・。ああ、勘違いしたかも・・・。
ヨ:何を?
リ:私と逢ってるって・・・。そう思い込んだのかも。
ヨ:それで、オレのベッドで死んだの?(涙が落ちる)
リ:わからない・・・。でも、手紙には、私に「後悔させる」と書いてあっただけで、死ぬとは書いてなかったもん。初めから本気で死ぬ気だったかどうか・・・。
ヨ:でも、なんでオレのベッドなの?
リ:ただ愛してたのよ・・・。あなたを感じたかっただけかもしれない・・・。あなたを恨んだり憎んだりはしてないわ。ただ愛してたのよ。
ヨ:でも、オレはおまえが好きなんだよ。(リヨンの顔を覗き込む)
リ:女は・・・好きな男じゃなくて、相手の女を恨むものよ・・・。だから・・・私が一番辛い場所を選んだのかもしれない・・・。でも、ヨンソン。遺書は焼いちゃだめよ。(涙が落ちる)
ヨ:・・・。焼いても、オレたちの心には一生残るよ。残ってしまうんだよ。これ以上、誰に見せろというんだよ。オレは現場だけで十分だ・・・。
リ:・・・。ああ、ヒジン・・・。なんていうことを・・・。


ヨンソンがリヨンを抱きしめ、二人は灰になったヒジンの思いを見つめた。





結局、一週間後に控えていた婚約式は、実現することはなかった。


ヒジンがヨンソンの部屋で、しかもベッドで亡くなったことは、ヨンソンの家庭では大きな問題になっていた。
遺書はなかったものの、叔父や叔母は、ヨンソンがヒジンに何かしてこういう結果をもたらしたのではないかと勘ぐり、ヨンソンの立場はなかなか厳しいものになっていた。

それでもヨンソンの両親は、彼とリヨンの関係を見て、これはヒジンの横槍だろうと同情してくれたが、叔父や叔母の手前もあるし、自分の息子に起きたこの重大な事件を見過ごすわけにはいかなかった。


あの時、遺書を焼かなければ、少しは説明がついたかもしれない。


あの事件があって以来、ヨンソンは自宅アパートに帰ることができず、友人の家に寝泊りしていた。そのため、リヨンともゆっくりと時間をとって話す機会が持てなかった。

ヒジンの葬式を済ませると、ヨンソンはリヨンとの新居に予定していたアパートに移った。


リヨンはリヨンで、自分たちのアパートでヒジンが亡くなったわけではなかったが、ここにはまだヒジンの持ち物が残されていたし、ここで逢うのは、なんとなく彼女が見ているようで、イヤだった。



ヒジンの葬式が済んでから、リヨンは自分の変調に気がついた。
まったく夜、眠れない。今までにないモヤモヤした感じ。食欲もなく、やる気も出ない。
時々起きる立ちくらみ。そして、思考がいつものように明確ではない感じがする。
そんな日々がリヨンを襲っていた。


4月になって、ヨンソンから電話が入った。


ヨ:リヨン? 婚約式のことだけど、叔父さんや叔母さんのことを考えると、来年にしたほうがいいんじゃないかって、両親が言うんだ。どうする?
リ:・・・そうね。(元気のない声だ)
ヨ:リヨン?
リ:ごめんなさい。体調が凄く悪いのよ。
ヨ:大丈夫?
リ:なんとか・・・。
ヨ:で、どうする?
リ:ヨンソン・・・。やっぱり、しばらく待とう、婚約は。
ヨ:そう? オレは指輪の交換だけでもしたいんだけど。・・・確かに、ヒジンのことは・・・かわいそうだった。でも、婚約すれば、一緒にだって住めるじゃないか。おまえ、今のところにいつまでもいるのはよくないよ・・・。
リ:そうだけど。
ヨ:生きてるオレたちには、オレたちの人生があるだろ?
リ:ヨンソン・・・。私、今、とっても具合が悪いの。
ヨ:とにかくオレは今度のことで、負けたくないんだ。あの時のことは、ときどき頭に浮かぶよ・・・。一生忘れないかもしれない。でも、彼女のしたことに負けたくない・・。オレは怒ってるんだよ、ヒジンに。
リ:ヨンソン。あんまり亡くなった人の悪口を言うものじゃないわ・・・。
ヨ:リヨン。ここはやっぱり早く婚約して・・・一緒に住もう。そして、オレたちがこれに負けないで生きることが大切じゃないの?
リ:ヨンソン・・・。私・・・あなたみたい、強く考えられないの。今、とっても体調が悪いのよ。それに最近、なにかモヤモヤして・・・。ちゃんと物事が考えられないの・・・。まるで、あのコが私を監視しているようで・・・。
ヨ:(驚く)何を言ってるんだよ。早くこっちへ引っ越して来いよ! そんな所にいるからだよ。
リ:だけど、ヨンソン。(苦しい)ヒジンはあなたの従妹だもん。絶対、ずっとついて来るわ。彼女から、逃げられない・・・。
ヨ:リヨン? 何を言ってるんだよ? 今からそっちへ行くよ。一人でいるのはよくないよ。だめだよ!
リ:来ないで。・・・あのコが怒るわ。
ヨ:待ってて。これから行く!



リヨンも自分で言っていることがおかしいのはよくわかっているが・・・。
本当は、ヨンソンにこう言いたかった。

「あなたがたとえ、違うベッドに寝ていても、あのコがいるようで、とてもあなたと寝られそうにないの」と。
でも、そんなことを言ってしまったら、どれだけ、ヨンソンが傷つくか・・・。

ヒジンは私の性格をよく知っていた・・・。なかなか、黒と言ったものを、白に変えられないことを。グレーにすることが、私にとってどれだけたいへんなことかも・・・。



ヨンソンがやってきた。
チャイムを鳴らす。ドアを叩く。


ヨ:開けて! リヨン! 開けて!
リ:・・・ヨンソン・・・だめ。
ヨ:叫ぶぞ! おい! 開けろよ!


リヨンがその声に慌ててドアを開ける。


リ:ヨンソン・・・。(顔を見る)
ヨ:いったいどうしたんだよ、その顔。(あまりの顔色の悪さに驚く)大丈夫? 医者に診せたのか?
リ:うううん・・・。(首を振る)
ヨ:なぜ?(中へ入ってくる)
リ:だって、病気じゃないもん・・・。
ヨ:じゃあなあに?


リヨンがじっとヨンソンを見つめる。


ヨ:なんだよ?
リ:ヒジンよ・・・。
ヨ:リヨン。どうしたんだよ。何を言ってるんだよ。
リ:きっと彼女がとりついているんだわ・・・。
ヨ:リヨン。(悲しい顔をしてリヨンを見て抱きしめる)そんなことがあるはずないじゃないか。
リ:どうしても夜、眠ることができないの・・・。あのコを思い出しちゃうの・・・。
ヨ:ここにいるのはよくないよ。オレの所へおいでよ。
リ:ごめんね、ごめん。心配させちゃって。ホントに変よね。(泣いてしまう)
ヨ:・・・。(顔を両手で挟んで)リヨン。二人でいれば大丈夫だよ。オレがおまえを守るよ。ね?


リヨンはヨンソンを見つめるが、急にヨンソンの手を振り払い、洗面所へ行く。


ヨ:リヨン!


リヨンが苦しそうにトイレの中でもどしていた。





ヨンソンの説得もあって、リヨンは心療内科を訪ねた。
極度のストレスから来る、不眠症、自立神経失調症だった。
もともと、リヨンには線の細い神経質な所があったが、普段は明るい性格の影に隠れている。

今回のような出来事に遭うと、その神経の細さから、夜寝れなかったり、考え込んだりと、どんどん自分の気持ちを追い込んでいくのだ。
頭を使わない時でも、体が敏感にストレスに反応していく。


医師:自分自身を追い詰めやすい性格だから、自分で、「これでも大丈夫」と言い聞かせながら、ゆったりと構えることが大切だよ。自分の気持ちを、自分でコントロールしていくことが大事だ。
そうすれば、症状はだんだん治まっていくと思うよ。とりあえず、薬を出そう。これを飲むとゆっくり寝られるが、できるだけ自分から寝られるように気持ちをコントロールする技を身につけることだね。


一緒についていったヨンソンは、この医師のアドバイスから、リヨンを一人で放っていくことはできないと、強引にヨンソンの新居へ引越しさせた。


そして、しばらくは、ヨンソン自身もリヨンが心配なので、泊まりやソウルを離れる仕事は避けて、なるべくリヨンのそばにいるように気遣った。


やがて、リヨンの不眠も治り、笑顔が戻ってきて、なんとかこの窮地を脱出できたかに見えた。







続く・・・




2009/10/11 00:50
テーマ:【創】二人の街角 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「二人の街角」1

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BYJシアターです。

あなたはおうちでいい子にしているかな?
あなたがゆっくりしていてくれたら安心だけど。

あなたが元気なら創作も楽しいけど、

全てはあなた次第だよ・・・




本日は「二人の街角」1です。

こちらは「四月の雪」が公開されていた頃に書いていたものです。

本編は4部構成です。




ではこれより本編。
お楽しみください!


~~~~~~~~~





「二人の街角」1




あなたを
忘れなくてはいけない

あなたを
思い出してはいけない


あなたを思うと、
あの人の
白い手が見える


一針一針、
丁寧に、
布に
針を差す指が見える


一度しか会ったことがないのに




あの人は、
確実に
あなたの隣にいる




主演:ペ・ヨンジュン
    チョン・ドヨン




午前11時。
ある街のバス・ステーション。
ヨンソンはべンチに座り、ソウルから来るバスを待っている。


リヨンは、次のバスで来るはずだ。
2年ぶりの再会で、彼女はどう変わっているだろうか。


ソウルからの到着便が着き、人々が降りてくる。
ヨンソンは立ち上がり、降りてくる人を眺めている。
一人二人三人、そして、リヨンがゆっくりと降りてきた。

リヨンは周りを見渡してヨンソンを見つけると、いつにも変わらない軽快な笑顔を浮かべた。
二人が歩み寄る。


リ:待った?(笑顔である)
ヨ:そんなでもないさ。(懐かしさでリヨンをじっと見つめる)
リ:そう、今日も車?(なにげなく目を逸らす)
ヨ:うん・・・。(横顔もじっと見る)
リ:そうか・・・。(横を見て街を眺める)
ヨ:行こうか?
リ:うん。


二人は、この小さな街へと繰り出す。二人とも重い荷物など持っていない。普通の軽いバッグだけ。
ともにジーンズに、10月らしくカジュアルなジャケットを羽織っている。
特に改めた挨拶もない。ただ、歩く。


ヨ:この辺はあんまり変わらないなあ。(見回しながら歩く)
リ:ホント・・・2年前と変わらないわね。ホントに変わったものがなんにもない街よね。
ヨ:そこがいいだろ?
リ:うん。この街を選んだあなたは正解。なんの変哲もない。まったく飽きるものさえないわね。(笑う)


二人で街を見渡しながら歩く。


ヨ:今日もあのガラス工房に行くつもり?
リ:もちろんよ。集めてるんだもん。それも楽しみの一つ。
ヨ:そう・・・。


リ:ねえ、見て。あんな所に、ソフトクリームのお店ができたわ。
ヨ:フン。(笑う)ホントに食べることには目が速いなあ。
リ:そうお?(うれしそうに笑顔で見つめる)帰りに食べるわ。
ヨ:よし、わかった。(笑う)川のほうへ歩いてみるか?
リ:そうね。うわあ~、今日はお天気だし、気持ちがいいわねえ。(空を見上げる)


通りをまっすぐ進み、小さな街のショーウィンドーをブラブラ眺めながら、街の北側にある橋へ向かう。

ファーストフードのハンバーガー店の前を通りかかる。
店内で、若い男女が、ハンバーガーやポテトを頬張っている。





若いヨンソンがリヨンの食べる姿を呆れながら見つめている。


ヨ:おい、おまえさあ、フライドポテトばかり食べてると、ブタになるぞ。(うんざり顔で見ている)
リ:いいじゃん、勝手でしょ。好きなんだもん。(次から次に口に入れている)
ヨ:最近のおまえって、この辺がさあ、(自分のウエストを摘む)ちょっとモタついてるよな。
リ:そうお? 気のせいだよ。ヨンソンも少し食べなよ。(勧める)
ヨ:あ~あ。(ため息をつく)おまえと結婚したら、毎日、ファーストフードかもしれないな。
リ:ハハハ。まさか! でも、たまにはね、食べたいな・・・。いいでしょう?
ヨ:たまにはな・・・。(笑う)
リ:うん。たまにはさ・・・。(笑う)




ヨ:今でもフライドポテトは好き?(リヨンを見る)
リ:(店の中を見ながら)さすがに昔みたいには食べないわ。でも、たまに無償に食べたくなる時があるけどね。でも、ウエストの辺りはモタついてないわよ。(笑う)


そういってから、リヨンは少し後悔する。
ヨンソンも笑って、リヨンのウエストの辺りを見て、ふと寂しくなる。

もう抱き合うことなんてないのだから・・・そんな心配をする必要はない。




二人は通りを北へ向かって歩いている。

リ:そういえば、この間、久しぶりにヨンソンの写真を見たわ。
ヨ:どこで?
リ:『Look』にモンゴルの写真、載せてたでしょ?
ヨ:見たの? うれしいな。(笑顔になる)
リ:たまたまね・・・。ちょっと本屋で覗いてたら、ヨンソンの名前が載ってたから、懐かしかったよ。(前を見ながら笑顔で言う)
ヨ:そう・・・そうか・・・。(ちょっと俯く)



本屋で、グラビア誌を片っ端から見ていくリヨン。『Look』という雑誌のグラビアにヨンソンの写真を見つける。
うれしそうに、愛しそうに見つめると、大事そうに雑誌を抱きしめながら、レジへ行く。



リ:最近、人物は撮らないの?
ヨ:よく知っているな。(苦笑する)
リ:・・・う~ん。婦人雑誌で見かけないからさ。(いつも探しているけど見かけない・・・)
ヨ:そうか・・・。
リ:人が上手だったじゃない?
ヨ:・・・そうかな・・・。


人気(け)のない、リヨンの家のサイドテーブルの上。写真雑誌や婦人雑誌がたくさん積んである。



ヨ:最近は人より風景のほうがラクになった・・・。
リ:なぜ?
ヨ:人の心を写すのが・・・しんどくなったのかな・・・。
リ:そうかな。きっとそんなことないよ・・・。続けたほうがいい・・・。人物が上手だよ。(やさしく言う)
ヨ:・・・・。


ヨンソンが、暗室で人物の写真を焼いて、ため息をつき、自分の写真をじっと眺めている。


ヨ:被写体の心の芯が捉えられない、掴めない。そんな感じが続いているんだ・・・。(自分の心の芯が欠けてしまっているせいかもしれないけど・・・)
リ:ふ~ん。哲学的だね・・・。やっぱりヨンソンは芸術家だよね。
ヨ:今でも仕事してるの?
リ:うん。相変わらず。
ヨ:楽しい?
リ:まあね・・・。
ヨ:前と同じ小学校にいるの? 


この前、会った時は知らなかったけど、人のうわさでは、おまえはあの小学校を辞めたという話だけど・・・。


リ:今は、教師はしてないの・・・。小学校はやめたわ・・・体を壊したから・・・。
ヨ:いつやめたの?(あんなに子供が好きだったじゃないか)
リ:・・・。ああ・・・6年前よ。
ヨ:じゃあ・・・あれから・・・すぐ?
リ:・・・うん・・・。
ヨ:そうだったのか・・・。君はまだ小学校の先生だと思ってたよ。・・・ご家族は元気?
リ:えっ? ええ・・・。あなたのご家族は?
ヨ:うん、元気・・・。
リ:そう・・・。



5年前のクリスマスイブ。
ソウルの大きな本屋で。いつものように、グラビア誌を探しにいったリヨンが、ヨンソンとその連れの女性とバッタリと出くわす。
お互いに正面から出会ってしまったので、少しドギマギするが、ヨンソンから声をかける。


ヨ:リヨン! 久しぶりだね。元気だった? (パートナーに)大学時代の友人なんだ。キム・リヨンさん。
ミ:パク・ミンジャです。初めまして。
リ:あ、初めまして。


この人かな・・・先輩から聞いた人は。ミンジャの持っている本で、確信を持つ。


ヨ:今日は一人? 
リ:えっ? うううん・・・婚約者と一緒。今ちょっと時計屋さんに行ってるの・・・。
ヨ:・・・そう・・・。結婚するの?(内心動揺する)
リ:・・・ええ。
ヨ:・・・そうなんだ。・・・おめでとう。
リ:・・・ありがとう・・・。
ヨ:いつ?
リ:えっ? ・・・年が明けたら・・・すぐ。
ヨ:そうなんだ。(じっとリヨンを見つめる)
リ:(視線を避ける。ミンジャの持っている本を見て)キレイなパッチワークの本ですね。
ミ:あ、これですか? 仲間の本なんです。
リ:・・・パッチワークをなさるんですか?(彼女の本を持つ白い手を見つめる)
ミ:ええ。それが仕事なんです。(笑顔で答え、うれしそうにヨンソンを見上げて微笑む)
リ:そうなんですか・・・。


リヨンはミンジャの顔を見入る。
この人だ、やっぱり。パッチワークをする人だって、先輩が言っていたもの。


リヨンが大きな瞳で食い入るように、ミンジャの幸せそうな瞳を見入っている。
ヨンソンはそんなリヨンの様子をもう見ていられなかった。


ヨ:じゃあ、リヨン。僕たちはこれで。
リ:(自分の様子に気がついて)ああ、そうね。
ヨ:婚約者によろしく・・・。
リ:え、ええ。じゃあ、お元気で。失礼します。(ミンジャに頭を下げる)


腕を組んだヨンソンたちが立ち去るのを見届けると、リヨンは少し涙ぐみ、鼻をすする。
そして、思いを振り切るように、いつものようにグラビア誌を端から見ていく。





秋の晴れ渡った空の下、やさしい日差しを受けながら、二人は無言で通りを歩いていく。


前から、バギーに子供を乗せた若い夫婦が通りかかる。
リヨンの目がバギーに乗った赤んぼを追う。

それをヨンソンが見る。


オレたちにもあんな時代があったかもしれないな・・・。





リヨンの頭の中で、若い日の自分の声が聞こえる。


リ:お願いします。お腹の子を助けて・・・お願い! お願いします、助けて!

リヨンがストレッチャーの上で、救急隊員の腕を掴んで、苦しみの中、やっとの思いで頼む。



小学校の体育の授業中に、リヨンは、急にお腹に強い差し込みを感じて、その場に蹲った。あまりの激痛に動くことができない。
リヨンの足を伝わって、血が流れ出てくる。子供たちが驚き、職員室へ先生を呼びに走って行く。

校庭に救急車が止まり、リヨンがストレッチャーで運ばれていった。




二日後。病院のベッドの上。
白い天井をじっと見つめるリヨン。放心状態だ。
ドアが開き、大学の先輩が入ってくる。


先:リヨン。大丈夫?
リ:先輩。来てくれたの。ありがとう。
先:たいへんだったわね・・・。
リ:うん。
先:こんなことになるなんて、あなた・・・。(叱るような辛そうな顔をする)
リ:怒った?
先:(首を横に振る)うううん・・でも、小学校のほうはもうおしまい。わかったわね?
リ:どうして?
先:大学のほうに連絡が入ったの。ああいう先生にはもうやめていただくって。あなたの荷物ももう整理しちゃったらしいわよ。
リ:・・・そんなあ・・・。
先:まあ、私立だからね。それにうちの就職課でもいつもお世話になってる学校だからさ・・・。こっちからは文句が言えなくて。次の先生をお願いされて、もう面接に行ってるはずだわ。
リ:・・・・。そう・・・。先輩には迷惑かけちゃったね。
先:いいのよ、これも仕事だもん。・・・それより・・・。
リ:なあに?
先:ねえ、ヨンソンはこのこと、知ってるの?
リ:・・・。(顔を背ける)
先:知らないのね? 黙ってそんなことしちゃだめよ。
リ:・・・。
先:あなたから別れておいて、こんなことしちゃだめよ。ヨンソンがかわいそうじゃない。彼は辛くても二人でやっていこうって言ってくれたんでしょう? 
なのに、それを断って、自分から別れたくせに・・・。だめよ、黙って一人で子供を生もうなんて考えちゃ。
リ:・・・かもしれない・・・。それでバチが当たったんだわ・・・。でもね、妊娠に気がついたのは別れた後だったの。
先:そう。それでもだめよ。これ以上、彼を苦しめるものじゃないわ。
リ:・・・。でも、先輩。もう私のお腹は空っぽ。心と同じく空っぽよ。


25歳になったリヨンの5月の終わり。
若葉が芽吹く中、リヨンは一人深く沈みこみ、それは惜別と悲しみの季節となった。





ヨ:今は何をしてるの?
リ:えっ?(彼の話を聞いていなかった)
ヨ:今はどんな仕事をしているの?
リ:今? 画廊に勤めてるの。私は自分では芸術家にはなれないから、若い作家の発掘に精を出してるわ。
ヨ:いい仕事だね・・・。
リ:・・・ありがとう・・・。



街の北側にある川まで来て、100mほどの橋の欄干に佇む。二人で川を眺める。


ヨ:あ、あそこに釣りをしてる人がいるね。下へ下りてみないか?
リ:うん、いいわよ。

土手を下って、釣り人の様子を見に行く。ヨンソンは昔から釣りが好きで、釣り人の所へ行って話を聞いている。リヨンは土手の中腹に座ってその様子を見ている。





初秋の海。
ボートの上で、リヨンがパーカーを目深にかぶり、口だけ出して、仰向けに寝転んでいる。


リ:ねえ、まだ釣れないの?
ヨ:待てよ。釣りは焦っちゃだめなんだよ。
リ:そう・・・。
ヨ:寝てろよ。
リ:もう寝飽きた!
ヨ:じゃあ、起きてろよ。(目は竿を見つめている)
リ:フン(笑う)わかった。(パーカーから顔を出す)


ヨンソンの竿がしなり始める。


ヨ:あ、来た! 来たぞ!
リ:ホント?


リヨンが起き上がる。ヨンソンの竿がかなりしなり、引っ張られている。


リ:すごい! ヨンソン、すごい!


うれしくなったリヨンが立ち上がる。


ヨ:リヨン! おい、座れよ! 座れったら!


釣竿に引っ張られたヨンソンを助けようと、リヨンがヨンソンのほうへ寄っていったため、ボートはバランスを崩して、ヨンソンとリヨンの二人は海へ落ちてしまう。


ヨ:(水面から顔を出して)リヨン! リヨン!


立ち泳ぎしながら、あまり泳げないリヨンを探す。ヨンソンはリヨンを探して、パニック状態になる。


リヨン! リヨン! リヨン! どこ?


彼女のパーカーのフードがふっくらと浮いているのを見つけると、死に物狂いで泳いでいく。
そして、引っ張って抱き寄せ、ボートのところまで泳ぎ着く。


ヨ:リヨン!リヨン! (必死で声をかける)


水を飲み込んだリヨンが苦しそうにもがいて、水を吐き出し、ヨンソンの首にしがみつく。





その夜の海の家。


リ:ごめんね。今日は悪かったわ。(上目使いで見る)
ヨ:いいよ・・・生きててよかったよ・・・。(感慨深げに言う)
リ:怒ってるよね?(少ししょげてヨンソンを見る)
ヨ:怒ってないよ。
リ:そうお?


それにしても運ばれた夕食は、ここの主人の釣った魚の刺身だった。


ヨ:自分で釣らなくても、刺身が出てきたな・・。(苦笑する)
リ:きっとヨンソンの魚のほうが大きかったよ。
ヨ:・・・。(ため息をついて、がっかりした様子で、刺身の魚を見つめている)
リ:ヨンソン! (箸で刺身をつまみ、ヨンソンに口に向けて差し出す)ほら、ア~ン!


ヨンソンがパクッと食べて、うれしそうに微笑む。リヨンが笑う。


ヨ:なんだよ?
リ:男ってちょろいなと思って。(いたずらっぽく笑う)
ヨ:なんで?
リ:こんなことくらいで、喜ぶんだもん。
ヨ:・・・。おまえを好きな男にしか使えない手だよ・・・。(視線を外して、他のおかずを突付きながら言う)
リ:・・・。そうね・・・。(ヨンソンを愛しそうに見つめる)
ヨ:・・・。(顔を上げる)
リ:でも、ヨンソンにだけ使えればいい。ね! それで、100%、私の人生はうまくいく! そうでしょ?
ヨ:・・・ひどい女だな。(苦笑するが、その後、熱い目になる)
リ:ね!

二人は見つめ合って、楽しそうに夕食をとった。





ヨンソンが釣り人のところから戻ってきた。


ヨ:結構釣れるもんだな・・・。(感心している)
リ:釣ったの、見せてもらったの?
ヨ:うん。この辺はいいスポットらしいよ。
リ:ふ~ん・・・。


リヨンも立ち上がって、二人は土手を登る。ふと、ヨンソンが振り返って、川を見つめて言う。


ヨ:昔、釣りに行って、二人で海に落ちたよな。(笑う)
リ:そんなこともあったわね。(川を振り返る)




土手を登りながら、ヨンソンの頭の中にあの日の夜が思い出される。


リ:あれ? ねえ、ここのオンドル、壊れてない? ここ、ぜんぜん温かくならないよ。
ヨ:こっちは温かいよ。(自分の布団の中から言う)
リ:え~え。どれどれ・・・あ、ホントだあ! ずる~い。私のとこ、冷たいもん。
ヨ:じゃあ、こっちへ来いよ。
リ:う~ん・・・(迷うが)そうするかな・・・。


リヨンは、枕を持ってヨンソンの布団に入り、ヨンソンは枕元のスタンドの明かりを小さくする。
ヨンソンがリヨンに腕枕をする。


ヨ:温かいだろ?(やさしく見つめる)
リ:うん。・・・でも、暑い。ヨンソンと一緒だと暑苦しい。(腕枕を外す)
ヨ:フン(笑う)じゃあな。オレはもう寝るよ。(後ろを向いて寝てしまう)


ヨンソンは寝入ったようで、リヨンだけ、取り残された気分になる。ヨンソンの背中をノックする。


リ:もしもし? もう寝たの?
ヨ:・・・・。
リ:もしもし? ねえ?
ヨ:・・・。


リヨンは上体を起こして、ヨンソンに覆いかぶさるようにヨンソンの顔を覗く。


リ:ねえ、寝ちゃったの?
ヨ:・・・・。(寝息が聞こえる)
リ:もう!


リヨンは起き上がり、枕を持って、ヨンソンの反対側の布団に入る。


リ:ねえ、もっとそっちへ行ってよ。
ヨ:なんだよ?(面倒くさそうに言う)
リ:ここで寝るわ。
ヨ:どっちだって同じだろ。(呆れながら、後ろ向きに寝返りをしようとする)
リ:だめよ!・・・そっち、向いちゃ。
ヨ:なんだよ? 注文が多いな・・・。早く寝かせろよ。明日も早いんだから。
リ:え~え、明日も釣りするの?
ヨ:当たり前だろ?
リ:え~え!
ヨ:早く寝ろよ。
リ:ヨンソン! こっち向いてよ。(ヨンソンの顔を両手ではさんで、リヨンのほうへ向ける)それから、片手をこっちへ伸ばして。(腕を引っ張る)腕枕して!
ヨ:さっきと同じじゃない。
リ:そうよ。・・・やっぱりこのほうがいいから。
ヨ:暑いって言ったくせに・・・。
リ:いいの・・・温かいほうがやっぱりいい・・・。抱っこして寝てよ・・・。(自分からヨンソンの腕の中へ入り込む)・・いいでしょう?

ヨンソンはうれしそうにリヨンを抱きしめてまた目を閉じる。
ヨンソンの腕の中で、幸せそうにリヨンが「ふ~ん」と吐息を漏らして、眠りにつく。




土手を登りきったリヨンが、ヨンソンに言う。


リ:ねえ、ガラス工房へ行ってみる?


ヨンソンは顔を上げ、今のリヨンを見つめる。彼女はあの頃と少しも変わっていない。
大して時間が経っていないようにも思える。眼差しもそのままだ・・・。


でも、今は二人の間には、深い河がある。




リ:ねえ、ガラス工房へ、行きましょう。
ヨ:ああ・・・。


橋を渡りきり、向こう岸にあるガラス工房へ向かう。


4年前も、2年前も来たガラス工房。
リヨンはここのガラス細工の小さな置物が好きらしい。


リ:すごい。またバージョンアップしてる! いろいろ増えてるねえ。
ヨ:今日は何を買うの?
リ:一応ね、買いたいものはあるんだ・・・。
ヨ:?
リ:今ね、アニマル占いってあるの、知ってる? あなたは羊。
ヨ:君は?
リ:私? ト・ラ。
ヨ:恐いな。食べられそうだな。(笑う)
リ:(笑う)だからね、羊とトラを探すのよ。


リヨンがショーウィンドーを眺めていく。ヨンソンはその後ろから、リヨンをじっと眺めている。


陳列してあるガラス細工を持ち上げて、リヨンが光にかざして、眺めている。
リヨンの目が光って見える。ガラスに当たった光が目に反射しているのか、リヨンの目に涙が浮かんでいるのか、彼女の目が、美しく輝く。

リヨンが羊を見つけて、うれしそうに手を振る。隣にトラもいたらしい。


リ:あったわ! ちょっと買ってくるわね。(そういって奥の店員のところへ行く)


ヨンソンは、遠くからその様子を眺めている。

リヨンは相変わらず元気がよくて、昔と少しも変わっていない。少し心が重いのは自分だけなのだろうか。


リ:すみません。あそこにある、動物の置物の、羊を二つ、ください。
店:羊を二つですね。ご一緒にお包みしてよろしいですか?
リ:あの、一つはプレゼントなので、リボンをつけてください。
店:かしこまりました。



店から出てきて、リヨンがヨンソンに、リボンのついたほうを渡す。


リ:はい! お土産! 羊さんよ。
ヨ:ありがとう。君も買ったの?
リ:もちろんよ。
ヨ:トラ?
リ:・・・うん・・・。
ヨ:包みは間違えてないよね。
リ:大丈夫よ。羊にはリボンをつけてくださいって言ったから。
ヨ:そう・・・。僕はトラがよかったな・・・。
リ:・・・そんな・・・。トラなんて持って帰ったらおかしいでしょ? だめよ。
ヨ:・・・そうだね・・・。



ヨンソンの机の上。若い女の子とのツーショット写真。彼女を後ろから抱きしめるようにして、セルフタイマーで撮影したものだ。その写真の前に、キリンや象のガラス細工の置物が置いてある。


リヨンの部屋の出窓。小さな観葉植物、カラフルなろうそくが並び、キリンと象のガラス細工が置いてある。


リ:これで、おうちの人へのお土産ができたでしょ?
ヨ:・・・うん、そうだね。


奥さんはこのガラス細工は気に入ってる?
私がいつも、選びに選んでいるのよ・・・。


言葉にしては、聞くことができない。二人の今の時間が壊れてしまいそうで・・・。





6年前の2月末。
リヨンのアパートで、ソファの下にヨンソンとリヨンが並んで座っている。


リ:(雑誌を見ながら)この写真、いいわね。角度がいいわ。
ヨ:・・・。(顔を見て笑う)
リ:あら、私の言うことが信じられない? これが一番いい!
ヨ:・・・ありがとう。
リ:ホントにいいわ。このコ、いい感じで撮れてるもん。私もこんな感じで撮ってほしいな。
ヨ:(顔を見る)ムリ。
リ:! 何よ! それ。
ヨ:やっぱ、もとがよくないとさ。
リ:ひどい! どっちかって言うと、私のほうがかわいいのに!
ヨ:え~え。おまえ、そこまで言う! まいったな。(呆れて笑う)
リ:もう、見てあげない! あんたの写真なんて、もう見てあげない!(本気で怒る)
ヨ:おい! さっき、誓いあったばかりなのに!(本気で怒る)
リ:・・・。
ヨ:さっき、誓ったじゃないか・・・。これからは一緒に生きていくって。
リ:・・・。
ヨ:おまえから、壊すのかよ・・・。
リ:・・・ごめん・・・。
ヨ:いいよ・・・。
リ:・・・言い過ぎた・・・。ごめんなさい。
ヨ:もういいよ・・・。
リ:ホントにごめん・・・。
ヨ:もういいよ。オレも悪かったよ。・・・(ちょっとしたを見る)おまえが一番だよ。・・・一緒に写真、撮ろうか? 今日の記念に。
リ:うん。
ヨ:待って。用意する。


ヨンソンが仕事のカメラのカバンからカメラと三脚を出してくる。構図を決めて、セルフタイマーをセットする。

ヨ:そこを動くなよ。いいか、いくぞ!


ヨンソンがリヨンの後ろへ走りこみ、リヨンを後ろから抱きしめる。


リ:婚約記念! キムチ!(笑う)


ヨンソンがギュッと後ろからリヨンを抱きすくめ、二人が大笑いした写真が撮れる。
そのまま、ヨンソンがリヨンの顔を自分のほうに向けてキスをする。二人は楽しそうにキスをした。


玄関のドアの鍵が開く音がして、ヒジンが入ってきた。


ヒ:ただいま~。


ヨンソンに抱かれたリヨンが手を振り解き、立ち上がる。


リ:お帰り。(笑顔で見る)


ヒジンは驚いたように、二人の顔をマジマジと見ていたが、


ヒ:お兄さん、来てたの?
ヨ:うん、ついさっき、来たばかりだよ。
ヒ:そう・・・。
ヨ:ヒジン。(立ち上がる)オレたち、結婚することにしたんだ。
ヒ:えっ? (静かだが、動揺したように驚く)
ヨ:もう付き合って、4年だし。オレもカメラマンの助手からやっと独り立ちしたし。いい時期じゃないかって。おまえも祝ってくれるだろう?
ヒ:・・・。
ヨ:従妹のおまえと、リヨンが大学の同級生で、それでオレたち、知り会えたんだから、一番におまえに報告したかったんだ。
ヒ:そう・・・。
リ:ヒジン・・・喜んでくれるでしょう? (心配した顔で見つめる)
ヒ:ええ・・・おめでとう。(目を見ないで言う)
リ・ヨ:ありがとう!
ヒ:・・・今日は疲れたから、もう寝るわ・・・。
リ:ヒジン、大丈夫?
ヒ:ええ、じゃあ、お休み。(自室へ入っていく)


リヨンとヨンソンが顔を見合わせる。今まで3人で仲良くやってきたのに、ヒジンは喜んでくれるどころか、虚ろな顔をして去っていった。
その時、二人の脳裏をほんの少し、不安が横切った。

しかし、二人は自分たちの幸せに酔い、その時のヒジンの顔など、次第に忘れていった。


婚約式も近くなり、二人には忙しい毎日が続いていた。
リヨンは、新学期が始まり、小学校の教師としての生活があり、ヨンソンにはカメラマンとしての生活があった。
その間を縫って、両親への挨拶、新居探し、婚約式への案内状、当日のスーツの手配、そして、もちろん、デートは欠かせなかった。


リヨンの部屋には、ヒジンがいるので、もっぱら、ヨンソンを訪ねて彼のアパートで時を過ごした。
結婚が決まったという安心感からか、リヨンはヨンソンの部屋に泊まることもあり、夜戻らぬリヨンをイライラした気持ちで待ち続けるヒジンの気持ちなど、推し量ることなどできなかった。

まず、ヨンソンの仕事の時間が不規則であったこともあるが、その時のリヨンには、ヒジンを思いやる配慮などなかった。
ただ今は、毎日が楽しくて、この時期だからこそ、ヨンソンとリヨンは、恋愛を謳歌すべく、幸せに酔いしれていた。



そのすぐ近くに忍び寄る不吉な影など、二人には、気がつくすべもなかった。








続く






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