2009/06/18 00:42
テーマ:【創】恋の病2 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋の病2」7最終回







 

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BYJシアターです。



本日はいよいよ「恋の病2」7部、最終回。


ここより本編。
お楽しみください。





人は、

こんな私を見て、
なんと思うだろう

心に空いていた穴に
ぴったりと嵌ったような恋心

恋をすることも
すっかり忘れていたのに


でも・・・

この胸のざわめき

あの人を抱きしめたいと思う気持ち

あの人が触れる女の指を憎らしいと思うジェラシー


これは分析せずともわかる

恋だ

バカげた恋だといわれても
今の私を止めることはできない・・・





ペ・ヨンジュン主演
「恋の病2」7部




バーに戻ってくると、JJと目が合った。

私は微笑んだが、JJはじっと真顔で私を見つめている。
カウンターに入って隣に立っても、ずっと黙ったまま、私の顔を見つめていた。


「・・・?」

「何を話したの?」

「え?」

「姉さんと何話したの?」
「・・・別に」
「・・・」

JJが深いため息をついた。


客が入ってきて、私たち二人はまたバーテンに戻った。
JJは客を相手に快活によく話したが、私の顔を見る目はなぜかやるせなかった・・・。





12時を過ぎて客足が遠のくと、いつもより早めに店じまいをしようとJJが言い出した。
私も初出勤だったので、彼の言う通りにした。
JJに代わってレジをチェックして、売り上げとつり銭の計算をした。

JJは、私のお金を勘定している姿をじっと見つめている。


「ユナは計算が速いね」
「だって、会社でもこんなことばかりだもん」
「・・・」

「できた。ピッタリ!」

「ありがとう。じゃあ、もう閉めていくか」
「うん」

「疲れただろ?」
「うん。なんか緊張したせいかな。肩がこっちゃった。足も棒みたい・・・」
「立ち仕事だからね」
「うん・・・」

「うちへ帰ったら、足を揉んでやるよ」
「いいわよ。左手が利かないんだから」

「それでもやってやるよ。さあ、帰ろう」

JJがやさしく微笑んだ。









家へ帰ると、私たち二人はベッドに倒れこんだ。


「ああ、疲れたなあ。久しぶりだと疲れるなあ・・・ユナも、疲れただろ」
「うん」

「・・・。足貸してごらん」
「うん・・・」

私は、パンツを脱いで、足を隣に寝転ぶJJのお腹に乗せた。

「はい!」

「重い!」

「苦しかった? ごめん・・・」
「大丈夫だよ。ふくらはぎを揉むか?」
「うん・・・」

JJの大きな右手が私のふくらはぎを揉む。

「どう?」

「気持ちいい・・・反対も」
「よし・・・」

「・・・気持ちいい」



「ユナ・・・」
「なあに?」

「姉さんと、何、話してたの?」
「別に。 大したことじゃないわよ」
「・・・じゃあ・・・言えるだろ?」
「う~ん・・・忘れた。だから、大した話じゃないのよ・・・」

「・・・窓から姉さんの顔が見えた・・・。たぶん、おまえもあんな顔して話していたはずなんだ・・・」
「・・・」

私が泣いた時、姉さんももらい泣きしそうになって、目を潤ませた・・・。


「話してよ」
「・・・」

「・・・」
「頑張れって・・・」
「・・・」
「JJを好きなら・・・迷わず・・・頑張れって・・・」
「・・・」
「そう言ってくれたの・・・」
「うん・・・」

「だから・・・」
「・・・」
「私はもう迷わないわ・・・」
「・・・」

JJが私の顔を見つめた。


「・・・迷ってたんだ・・・」
「・・・」
「ずっと?」
「・・・」
「オレといることを迷ってたの・・・?」

「そうじゃないの・・・。JJ、あなたを愛していることに迷いはないの・・・」
「でも・・・何かが割り切れなかったんだね?」

「・・・ごめんなさい・・・」

「オレが前に言ったこと?」
「・・・」
「昔の彼女に似てるって」
「・・・」
「そうなの?」

「あなたが、ホントに私でいいのか・・・ユナでいいのか・・・」
「当たり前だろ? ユナ、オレはぜんぜん迷ってないよ」
「・・・」
「ユナを、おまえを愛しているから」
「・・・ごめんね・・・自分に自信がなくて」

「そうだね・・・。ユナが時々オレを見る目が・・・やるせない時があった。・・・オレもおまえの気持ちが揺れているのがわかった・・・それがとても心配だったよ・・・」
「・・・」

「でも、オレにはおまえがオレを好きなのはわかるんだ・・・おまえがたとえ、迷っていたとしても。オレには迷いなんてないよ。おまえとこうしていることが自然に思えるから。おまえは、オレがおまえを好きになったきっかけを気にしてるんだね」
「・・・」

「きっかけはきっかけだよ・・・。おまえと出会えて、本当によかったと思ってる」
「・・・」

「おまえが好きなんだ・・・。ユナ。彼女とおまえはまるで違う。全くの別人だよ。性格がまるで違うんだよ」




「こうして、おまえの足を揉んでいるのだって・・・オレは楽しいよ」
「・・・」
「ユナは、オレにとっては大切な人だから・・・」
「・・・JJ・・・」

「うそはないよ」
「・・・」
「おまえを思う気持ちにうそはない・・・」
「・・・・」


JJはそう言って私の足をやさしく揉み続けている。


「うん・・・。あなたを信じる・・・あなたを疑っていたんじゃないの・・・これは、私自身の気持ちの持ち方なのよ」
「・・・うん・・・」

「JJ、ずっと近くにいて、いいよね?」
「・・・」


JJの返事がないので、私は体を起こして、彼の顔を見た。
JJの目が潤んでいた・・・。


「ずっと好きでいていいよね?」
「うん・・・」
「ありがと・・・」




私たちは静かに見つめ合った。
JJの止まった手がまた動き出して、ふくらはぎから移動して私の内股を撫でた・・・。


私は起き上がって座り、寝ているJJの顔を見下ろした。
彼はじっと私を見つめている・・・。

私はシャツをゆっくりと脱いだ。ブラジャーを外して横に置き、じっと彼の目を見つめた。
JJのシャツのボタンを一つ、一つ、ゆっくり外していく。JJはただ私を見つめているだけで、私にされるがままになっている。シャツの胸を開いて、私はやさしく胸からお腹へと鳩尾を通って、ゆっくりと指でなぞった。

彼の胸が、お腹が、波打った・・・。

彼の目を見つめたまま、私は彼のジーンズのベルトを外し、寝たままの彼のジーンズを下ろした。

JJはじっと私を見つめている。まるで、私の愛を確かめようとするように・・・。


私はショーツを脱いで全裸で、彼の上に跨った。
そして、JJの手を掴んで、私の乳房の上に置いた。


JJはゆっくり私の胸を掴んで撫でた。そして、私の体の線をなぞるように、胸から脇を通ってウエストを通り、太腿を通ってまた内側へ移動した。


「ジョンジェ・・・」

私は小さく彼の名を呟いた。


「オレを丸ごと、おまえにやるよ」

JJが私を見つめて言った。

「・・・」

「パク・ユナに・・・全部。オレの全てを」

「・・・ジョンジェ・・・」


私の目から涙がこぼれた。








私たちはより深く愛し合ったが、その間もずっとお互いの目を見つめ合っていた。
お互いの愛を監視するように・・・。お互いの愛を確認するように・・・。

下にいる彼の目を私はまるで睨みつけるように、じっと見つめて。
私はこんなに強い意志を思って、自分から人を愛したことは、これが初めてだった・・・。








昨晩は、あんなに見つめ合っていた私たちだが、一晩経って、今朝は何事もなかったように、二人でブランチを取って過ごしている・・・。

ただ、私の心には平安がやってきた・・・。
JJは、私を、ユナを愛しているという確信が・・・自信が持てるようになったから。


「ユナ、消毒変えてくれる?」
「うん、いいわよ」

私は、上半身裸のJJの包帯を解く。傷がどんどん回復してきている。

「治ってきたね」
「うん」

「沁みる?」

私は消毒液で傷口を消毒する。

「大丈夫。ユナはナースにもなれそうだな(笑う)」
「・・・なれるわよお・・・JJだけのね」

私も笑った。昨日も一昨日もその前も傷口のガーゼを変えた。でも、今、この二人の間に流れる、しっくりとした雰囲気は、きっと昨日の愛の確認があったからだ。

JJが少し腕を回してみた。

「駄目よ、まだそんなに動かしちゃ」
「大丈夫だよ、このくらい」
「もう少しの辛抱だってば。あ、ドラゴンさんの顔がちゃんと治ってる・・・よかったね」
「ユナはそんなこと、気にしてたの?」

「これもJJの一部だもん・・・。さ、包帯するわよ」
「よろしく、お姉さん」
「ひど~い。人が気にしてることを簡単に言うのね。・・・JJのバカ」

私はそういいながらも、実はそれほど怒ってはいなかった。もうJJと私の間には、年齢なんて関係ないことはわかっているから・・・。


「ユナ」
「なあに?」

私は包帯を巻きながら、JJに返事をした。

「ジョンジェでいいよ。昨日みたいに」
「・・・」
「JJじゃなくて、ジョンジェで・・・」
「・・・」

「オレを丸ごと、おまえにあげたんだから・・・おまえにはそう呼んでほしい」
「・・・」

私は胸が詰まった。


何度も呼びたかった名前。
ただの通称ではなく、私の男として、呼びたかった名前・・・。


「ジョンジェ・・・」
「そう・・・それでいい・・・」
「・・・うん・・・」







それからしばらくして、まだ包帯は巻いているものの、ジョンジェの腕もだんだん動くようになってきた。

私はいつものように、バーの準備をして、ビルの一階に看板を出しに行き、看板のライトのスイッチを入れた。
すると、背後から声がした。

「ユナ・・・」
「・・・」

私が振り返ると、お姉さんが立っていた。

「お姉さん・・・」
「あなた、こんな所で、何やってるの・・・。会社も休んで、家にもいなくて・・・まさかあの男と・・・」
「あの男と・・・?」
「そんな格好して、バーテンでもやってるの?」
「ええ。今の私の仕事はバーテンよ」
「・・・ったく・・・あなたって子は・・・」

私とお姉さんが睨み合っていると、階段の上からジョンジェの声がした。

「ユナ!」

「あ、ジョンジェ」
「どうしたの?」
「今、お姉さんが来たの」
「店へあがってもらったら?」

「うん。お姉さん、店のほうへ来て。2階」
「・・・」



私は叔母を案内して、ドリアンへ戻った。
叔母は、店内を見回している。


「お姉さん、座って・・・あ、まずは紹介ね。こちら、ハン・ジョンジェさん・・・。私の叔母」
「叔母のチャン・ウンジュです」
「初めまして。ハン・ジョンジェです・・・。どうぞ、おかけください」

「お姉さん、座って」

ジョンジェがコーヒーを入れようとした。


「やるわ。私がやる」

私は急いでカウンターの中へ入った。叔母がきつい目をして、私たちを見つめた。


「今、ジョンジェがケガしてるでしょう・・・だから、私が手伝ってるの・・・」

私はサイフォンにランプを当てながら、呟くように言った。

「彼のコーヒーはおいしいけど・・・今日は私ので我慢してね」


「ユナ。どんなつもりでこんなこと、しているの? 会社は有給をとってずっと休みだし、電話にも出ない・・・あなた、携帯は無くしたの?」

その言葉にジョンジェが私を睨みつけた。
彼にはそのことを内緒にしていた・・・。再三、叔母からの電話があっても、私が一切出ていなかったことを。


「どうして出なかった?」
「邪魔されたくなかったのよ・・・」
「なんで・・・」
「・・・あとで話すわ・・・二人の時に」


「いったいどういうつもりなの?」
「お姉さん、見た通りよ。好きな人を手伝っているの。彼がケガをしたから、手伝っているのよ」
「チンピラに刺されるような・・・」
「お姉さん! 誤解しないで。お客さんを助けようとして刺されたの。だから、直接、ジョンジェとは関係ないの」

「でも、そんな危険な客が来るような所でしょ?」
「お姉さん。ジョンジェとあの男とは、人間の種類が違うの。間違えないで」

「でも、私は見ましたよ。あなたの刺青。あんなりっぱなものを彫っているんですもの・・・疑いたくなりますよ」
「・・・」

「この子は一度結婚には失敗しましたが、真面目な家庭で育った子なんです。ちゃんと大学まで出して・・・今も、ちゃんとした会社に長く勤めていて・・・」

「それがどうしたの? だから、なんなの? ずっと長い間、代わり映えのしない仕事を繰り返し、繰り返し、続けているだけよ。周りはどんどん若い子に変わっていって・・・今ではたった一人のオールドミス・・・。そんなのが楽しいと思ってた? そんなのが素敵な勤めだと思ってた?」

「・・・」

「それより私は、本当に愛してる人と一緒にいたいのよ」
「ユナ・・・あなた、この人をよく見てごらん。こんなに若いのよ・・・」

「だから?」
「続かないわよ・・・」
「それだっていいじゃない・・・。何にもない、ただつまらない、味気ない人生を漫然と続けるよりは・・・」
「・・・」

「叔母さん・・・。ユナのお姉さん。僕は、ユナを幸せにする自信があります。だから、安心してください」
「何ですって?」

「僕たちは愛し合っているんです・・・。あなたから見たら、水商売で彫り物があって・・・年下で・・・。でも、僕らにはそんなことは関係ない・・・。確かにグレた時代がありました・・・。大切な人たちを失って、自暴自棄になった時があった・・・。でも、今の僕を見ていただきたいんです」

「お姉さん。彼は一人でこれだけの店を切り盛りしているの・・・。とても頑張っているの・・・。私たちは私たちでやっていくわ・・・大丈夫」

「ユナ・・・」

「もう、私は十分大人でしょ? 任せて。彼は、ジョンジェは素敵な人だから・・・」
「・・・」

叔母は黙って、私の差し出したコーヒーを飲んだ。




もう誰にも私たちを引き離すことなんてできない。

たとえ叔母が心配しているように、私が先に年老いて捨てられたとしても・・・
私は後悔なんてしないわ。
こんなに人を好きになることを教えてくれた人だもの。
こんなに幸せをくれた人だもの・・・。



「帰るわ」
「お姉さん」
「自分でよく考えなさい。あなたの人生だもの。仕事のことも、これからの暮らしも」
「ええ・・・そうします。私の人生だもん。人に責任なんて押し付けない。自分でしっかり立ってみせるわ」
「うん・・・」

「お姉さん。許してください・・・。そして、僕とユナを祝福してください」
「・・・」


叔母は複雑な顔をしてジョンジェを見た。そして、何も答えず、少し肩を落として帰っていった。




「ジョンジェ・・・。私・・・今を大切に生きたいのよ」
「うん・・・」

ジョンジェが頷いた。そして、少し俯いて考え事をしていたが、顔を上げて、私を見た。


「ずっと一緒にいてくれるね?」
「ええ」
「何があっても」
「ええ」

「オレの家族になってくれる?」
「・・・ええ・・・」

私は涙が出てきた。

「ありがとう。ユナは、最高のパートナーだね」
「・・・うん、ジョンジェも・・・」


私はジョンジェの胸に抱かれて、うれしさに泣き崩れた。











今、私は、2歳の娘とやさしい夫に囲まれて、平穏で幸せな日々を送っている。
3年前まで、自分の子供さえ諦めていた私が、子供を産みこの手で抱いた。
そしてまた二人目の子供を授かって、今では、妻であることも母親であることも、当たり前のように過ごしている。

夫とは共稼ぎで、私は会社勤めでの経理の知識を生かして、近所の花屋の経理と、仕立て屋の経理を週に一回ずつ定期的に見て廻っている。そして、昼過ぎには娘を叔母に預けて、夫の仕事を手伝っていく。

第二子を授かってからは、私も前ほどフットワークがよくないので、もう少ししたら、仕事を減らして、娘の世話をしながら、臨月を迎えようと思っている。





「お姉さ~ん、こんにちは」
「ああ、来たの。ジェナちゃん、おいで。ユナもなんか冷たいものでも飲んでいきなさい」
「うん」

叔母が笑顔で、私と娘に冷たいお茶を出した。


「もうあなたもそろそろ休みなさいよ」
「うん、わかってる。でも、あと少し」
「あんたはいつもそう言って頑張っちゃうんだから。でも、もう若くないんだから、休み休みしないとね。妊娠中毒症にでもなったら、それこそ大変」

「わかってるって。でもね、やっと軌道に乗ってきたところでしょう。だから、お店が気になっちゃうのよ」

「ホントに心配性なんだから。・・・頑張るね・・・」
「・・・」
「やっぱり・・・いい人に出会えたんだ・・・。ユナが一生懸命になれる・・・」
「・・・」

「でも! 店は、ダンナに任せなさい。それに、人も雇っているんだから、安心して休みなさいよ」
「うん・・・」

「カフェ・バー、うまくいってるんでしょ?」

「それは、順調。今度のところは、オープンカフェだから、こんな天気のいい日は、結構お客さんが来るのよ。昼ランチに来た人がね、夜も来てくれるの。オカマさんも来るけど、ふん。(笑う)主婦も安心して飲みに来られる雰囲気だって好評」

「ユナがお店に立ってると安心なのかもね。あんたはちっとも水商売っぽくないから。でも、そのお腹じゃあ、もうやめたほうがいいわ」
「うん。お客さんにも言われちゃった。ママはもう引っ込んでって。かわいい子産んだら、出てきてよって」

「そう・・・。ということは・・・ここに二人来るのお? 困ったわ」
「私もちゃんと面倒見るわよ。もう二人だもん! 安心して!」




「ああ、いいお天気ねえ・・・。もう初夏ね・・・。あのお店で、コーヒーやお酒を飲んだら気持ちいいでしょうね」

叔母は、リビングから見える晴れ渡った空を眺めている。








3年前、突如私に訪れた恋。

私は、それまでの自分を振り切るように、彼に走った・・・。そして、私の人生は180度変わった。

いつも同じところから前へ歩み出すことさえできなかった、臆病な私は、あの日、どこかへ消えた・・・。




「あ、電話だ。もしもし。今、お姉さんのとこ。もう終わったの? うん・・・。これから車でそっちへ回る。うん、じゃあ」

「どうしたの? ダンナ?」

「うん。今度ね、カフェの庭に少し木を入れて趣きを作ろうって話してたの。オープンの時は、そこまでお金が回らなかったから・・・。今、植木屋さんと木を選びに行ってるのよ。もう終わったそうだから、これから、拾って店へ行くわ」

「ご苦労さん。運転、気をつけなさいよ」

「うん。じゃあね。ジェナ。お姉さんと仲良く待っててね」
「早めに、お店、切り上げて帰ってきなさいよ」
「うん、わかってる。もう、そんなに心配しないで。じゃあね!」





私は車で夫を迎えにいく。


彼は、道端で植木屋の親方と話をしていた。


「ジョンジェ!」


私は車の中から声をかけた。

彼が車に気づいて、植木屋に挨拶をすると、車のほうに向かって歩いてくる。
いつも通りのやさしい笑顔で・・・。



「お待たせ。どうだった? いいのあった?」
「うん、なかなかいい庭になりそうだよ」
「そ? よかった」

「運転代わるよ」
「いいのに・・・」

「代わるよ」
「うん」

私は、運転席から出て、助手席に移った。



「楽しみだね。また一つ、お店が素敵になるね」
「これもママのマネージメントのお蔭かな」
「もう、口がうまい!」
「ふん。(笑う)」





夫のジョンジェの事業は今、順調だ。

前のバーから、子供が生まれるのを機に新しいところへ移転した。自分たちの子供も出入りできる店。そんな発想から、同じ駅でも少し奥まったところに広めの土地を購入した。

天気のよい日はオープンカフェになるように、表の大きなガラスの格子戸にはかなりお金をかけた。

今では、昼は主婦でもランチが楽しめるカフェ・バーだ。夜も温かな日はそのままオープンにして、夜風にあたりながら、ワインやビール、カクテルを味わう。夜もメニューを増やし、ここでデートを楽しむカップルも増えた。

奥のカウンターはイギリスのパブ風だ。その奥に、ジョンジェがいて、おいしいカクテルを作る。

オープンコーナーが好きな人もいれば、ジョンジェの作り出すバーの雰囲気に酔いしれる人々もいる・・・。

もちろん、姉さんは常連だ・・・。

ここの店がドリアンと違ったところといえば、そこに愛があることだ・・・。




「ホントにいい天気だね。ユナのお腹が爆発する前に、どこか行こうか、三人で」
「どこ?」
「海でも見に行くか?」


ああ、あの日の海・・・。



「うん、そうしよう」
「よし、今週の日曜日は出かけるぞ」
「うん」

ジョンジェはうれしそうに私を見て笑った。







私は最近、こう思うのだ。

私は確かにあの人に似ていただろう・・・。

でも・・・よく考えれば、あの人が私に似ていたのだ・・・。
私のほうが、先にこの世に生を受けたのだから。

ジョンジェは、私に出会うために、あの人と恋をした・・・。
それが運命だった。

二人の幸せは、私とジョンジェが出会えて、初めて始まるのだ。
その出会いのために、それまでの人生があった・・・。



だから、私はこの幸せを大切にする・・・。

よりジョンジェが幸せになるように・・・。
娘たちが幸せになるように・・・。


だって。

そこに、私の幸せと愛があるのだから・・・。









The End







次回からは
ペ・ヨンジュン/石田ゆり子で「Another April Snow」をお送りします。

ではお楽しみに・・・・。


2009/06/17 02:29
テーマ:【創】恋の病2 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋の病2」6







 

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BYJシアターです。



本日は「恋の病2」6部。



ここより本編。
お楽しみください。







人は、

こんな私を見て、
なんと思うだろう


心に空いていた穴に
ぴったりと嵌ったような恋心

恋をすることも
すっかり忘れていたのに

でも・・・

この胸のざわめき

あの人を抱きしめたいと思う気持ち

あの人が触れる女の指を憎らしいと思うジェラシー


これは分析せずともわかる

恋だ


バカげた恋だといわれても

今の私を止めることはできない・・・




ペ・ヨンジュン主演
「恋の病2」6部





「JJ・・・?」
「う~ん・・・」

「JJ・・・」


翌朝は、私は久しぶりに朝食を作った。

食べてくれる人のいる幸せに胸が弾んだ。
昨日のウンスの襲撃で、店のドアは壊され、JJの二の腕は20針も縫う大ケガをした。JJにとっては、最悪の日になったはずだった・・・。でも、私とJJの間には、新しい絆ができた日でもあった。

昨夜もJJとともに眠り、私は充足感で満ちあふれていた。


「おはよう」
「今日は早いねえ・・・」

JJがベッドの中から眠そうな目をして、私を見上げた。


「今朝はね、朝ごはんを作ったの。あなたに食べさせたくて・・・」
「うん・・・」

彼はやさしい目をして私を見て、頷いた。


「でも、ゆっくり寝ていていいのよ。JJはケガしてるんだもん。あなたが起きられる時間でいいの・・・後で一緒に食べよう」
「うん・・・。なんか、すごく体が重いんだ・・・。ちょっと貧血ぎみだからかな」
「そうね・・・。薬も飲まなくちゃね」

「ふん・・・。それなのに。 夕べ、頑張ってしまった僕がいけないんです・・・」

そういって、JJが笑った。

私は、恥ずかしそうに彼を見た。今も甘えたい気分でいっぱいだ・・・。


「うん・・・。・・・。後で、朝ご飯をベッドに持ってきてあげる」
「ありがとう・・・。ユナも、少し隣で寝て」
「・・・いいわよ」


私は笑いながら、JJの横に寝そべった。


「ジーンズぐらい脱げよ」
「・・・うん・・・」


二人はベッドの中で足を絡ませた。



「こうしてるだけで、なんか幸せだよなあ・・・」
「うん・・・」
「もう少しだけ寝かせて・・・」
「いいわよ。仕事も休みなんだし、ゆっくり寝て・・・」
「でも、今日はいっぱいやることがあるんだ・・・もう少しだけ・・・まどろみたい」

私はJJの頭の下に腕を入れて、腕枕をした。

二人はじっと見つめ合った。



「ユナは・・・ずっとここに住んでくれるのかな・・・」
「・・・」
「だといいねえ・・・」
「・・・」

「少し寝るよ・・・」

「お休み・・・」


JJが目を瞑った。



私はあなたのところにずっといるわ・・・。
本当はすぐに、そういいたかったけど・・・。
それは、あなたにとって重荷かもしれないから・・・口には出せなかった。
元気になっても、あなたがそう思ってくれるように・・・私は祈っている。





午後になってからのJJは忙しかった。
酒屋に電話を入れて、今週は休業するので、配達は休んでほしいと伝えた。理由は、JJが説明する前から相手はわかっていた。
そして、知り合いの大工に電話を入れた。ドリアンの内装を手がけた人だ。玄関のドアが壊されたので、至急直してもらいたいと伝え、前のものより頑丈なものにしてがほしいとJJが付け足した。大工は、夕方には、ドリアンへ顔を出せるという話だった。



「ケガをしたっていうのに、いろいろやることがあるのね」
「そうだね・・・あと、医者だ。消毒にいかなくちゃな」



JJは着替えをしながら、クローゼットの中を何かごそごそとやっている。
私はJJがクローゼットにこもる度に、動悸が激しくなる。

彼が私に昔の恋人の写真を突きつけそうな気がするのだ・・・。



「JJ?」
「少し待ってね」

「なんか・・・手伝おうか?」
「いや・・・自分でできる・・・」
「うん・・・」

しばらくして、JJが出てきた。



「ユナの引き出し、作ったからね。ここにしまうといいよ。ジャケット類はこっちのハンガーにかけて」


JJが私のために、引き出しを開けてくれた。

私はうれしかった。

「ありがとう・・・」


私はボストンバッグの中身をJJの引き出しの中にしまった。
あの子の写真を見られないように、一人で片付けたんだ・・・。

でも・・・これで、JJが私にあの写真を見せるなんてことは考えなくてよくなった・・・彼は、そんなことはしない・・・。




「それから、ユナ。これ、着てごらん」
「何?」
「バーテン用のベスト」
「え~え!」

私はちょっと気恥ずかしかったが、幸せな気分になった。


「JJのでしょ? 大きくない?」
「まずは着てみて」

「うん」


その黒のベストは、シックで、脇がサテン地に切り替わっており、なかなか、おしゃれな作りになっていた。
私が着てみると、少し長めで、脇が緩々だった。


「そうかあ・・・。でも、似合うよ。少しつめれば、着られそうだな・・・」
「つめて着るの?」
「そう」
「でも、私、そんなに縫い物が上手じゃないの」
「大丈夫。いい人がいるんだ。OK。これを直して着る。元々はこれを作った人だから。直してもらうよ」
「これって、オーダーメイドなの?」
「そうだよ」
「そんな・・・直すなんて、勿体ない・・・」
「いいんだよ。買うより安く作ってくれるんだ。これ、生地がいいだろ? あ、ユナは生地屋さんじゃない」
「うん・・・生地はいいよ、これ。どっしりしてるもん・・・高かったでしょ?」
「それを安く作ってもらうんだ」
「へえ・・・」

「あとで、行こう。これに、白のYシャツを着て、黒のパンツをはいて、蝶ネクタイ。かっこいいなあ」
「またまた、煽てて」
「ホントに似合うよ」
「うん・・・」

「後は、カクテルだね」
「そうだった・・・」

「ドリアンからシェーカーを持ち帰って練習しよう」
「うん」

「うまくできるかな・・・」
「大丈夫だよ。カクテルの中身の配合が覚えられなくても、オレが言った通りに作ればいいから。おまえがやらなくちゃいけないのは、シェイクだ」

JJが右手を振ってみせた。

「メニューを覚えるのはたいへんだからさ。まずは、これね」
「シェイクね」
「そう。シェーカーの中に入れた氷が解けないように、すばやくシェイク!」
「そうなの? あれって氷が入ってるの?」
「そうだよ。飲むと冷たいだろ? でも、水っぽくないだろ? 氷を解かさないで、カクテルだけ冷やして仕上げるんだ」
「そうなんだあ・・・。勉強になるね」
「だろ?」
「うん・・・そうなのかあ・・・花嫁修業になるな・・・」


私がそういいながら、ベストを脱いでリビングに向かうと、JJがその後ろ姿をじっと見つめていた。

「なあに?」

私は振り向いて、JJに聞いた。


「ううん・・・別に」
「そうお?」


私は、ベストをたたみながら、ふと、あの人のことを思った。

彼女もそう言ったのだろうか・・・。
でも、その時は、亡くなっていたはず・・・。
それとも・・・私の姿に、あの人を思い出したのだろうか・・・。

少し・・・幸せな気分が後退した。





「ええと、そのベストを持って、それから、病院だろ。大工だろ。カクテル。あと、レジはどうなってるんだ・・・。おじさんに聞かなくちゃ・・・」

JJがおじさんに電話をしている。

私は、JJの姿を見た。



全て、JJのせいじゃない・・・。
私がかってに、あの人のことを思い出したのだ・・・。
幸せを感じるのも、幸せを壊すのも、全て、私の気持ちにかかっている・・・。

JJは今、私に幸せをくれている・・・。
愛してくれている・・・そう、彼は、ユナを愛しているはずだから・・・。



電話が終わって、JJが私を見た。

「レジはそのままだって・・・。お金が入ったままだ」
「・・・大丈夫かしら・・・」
「まあ、行ってみよう」
「うん」



玄関まで来て、私はJJに聞いた。

「車のカギ、持ってる?」
「ああ、家のカギとセットだからね」
「そうか・・・。私、練習してみる。車の運転」
「・・・」

「5年前までは乗ってたんだもん。軽自動車だけど。通勤に使ってたんけど、引っ越してから電車になっちゃったから」
「通勤に乗ってたんだったら、すぐ運転できるよ」
「そうかなあ・・・。まずは、やってみる。あとで、練習するね」
「うん・・・。でも、他の車にぶつけないようにね。また、お金がかかっちゃうから・・・」

そう言って、JJは笑った。

「もう!」

私はJJの肩を叩いた。



私は今まで臆病だった。転ぶ前に、転ぶ心配ばかり・・・。
試しもしないで、駄目出しばかりしていた。
最初の結婚が失敗だったから・・・?

でも、今回は成り行きとはいえ、もうJJとの生活は始まっている。
私は恋の真っ只中にいるはずだ・・・。

こんなに好きな人の前で、臆病になっていたのでは、チャンスを逃してしまう・・・。
チャンス・・・好きな人と幸せになることだ・・・。

JJは私に幸せをくれる。守ってくれる・・・。それに、甘んじていては駄目よ・・・。
私が彼にできることはいっぱいあるはずだもん・・・。




「車はドリアンの裏の駐車場だから、あとで練習しようか」
「うん」

私たちは連れ立って出かけた。

まずは、JJがドリアンの様子を見にいった。玄関のドアが打ち付けてあったので、ケガをした今の彼には自力で入れないことがわかって、早速、大工にその状況を電話した。後で、大工に開けてもらい、中の様子を見ることにした。

次に、ドリアンの近くの細い道をくねくねと歩いて、小さな民家の前に立った。



「ここは?」
「ここはね・・・」


JJが戸を開けた。


「おばさ~ん、いる?」
「は~い、ちょっと待ってて・・・」


ちょっとしゃがれた声がして、中から、60過ぎの太った女性が出てきた。


「ああ、JJ。久しぶり。どうしたの?」
「ちょっと直してほしいものがあるんだ」
「どれ、見せてごらん。お連れもいるの?」
「うん」

JJと中の女性が私を見た。私は軽く会釈をして、JJの後をついていった。

ここは仕立て屋で、中の工房は、たぶんだが・・・オカマのための衣装がたくさんかかっていて、どうも彼女がそれらを作っているようだ。


「どれだい?」
「このベスト」
「ああ、懐かしいねえ。JJがバーテンで勤めに出た時に作ったやつだね」
「うん。これをさ、彼女が着られるように直してほしいんだ」

「ふ~ん。ああ、そういえば、そのケガ。聞いたよお。たいへんだったねえ・・・」
「まあね・・・」

「それで、女のバーテンさんを雇ったのかい」
「うん・・・まあ」

「ちょっと姉さん、おいで。これ着てごらん」
「あ、はい・・・」

「ずいぶん、細いねえ・・・」

おばさんは、私の体のサイズを測り、ピンで、ベストを補正していく・・・。


「かわいい人が来てくれてよかったじゃないか」
「ええ・・・」

「こんな感じかな。丈も7cm切るかね・・・」

おばさんは手際よく、チャコで印をつけてピンを打っていく。






JJの携帯が鳴って、JJが部屋の外へ出た。


「あんた、JJのこれ?」

おばさんが小指を出した。私は顔を赤くした。

「そうなんだ。ふ~ん。彼を助けて、バーテンをするのかい?」
「・・・はい・・・」
「そりゃあ、いい心がけだ・・・」
「あのう、ここはあ・・・?」

「ここは、見ての通りのオカマの衣装屋さ。あの人たち、ちょっと派手な衣装でショーをやったりするだろ? それに、皆、ほしい服があってもなかなかサイズが合わなかったりするからさ。ほら、元が男だから、細いって言っても、肩なんかぜんぜん違うんだよ。それで、ここで直したり、安く作ってやるんだよ」
「へえ・・・なんで、JJが・・・」

「姉さんの紹介。オカマの姉さん、知ってるかい?」
「ええ。私もよくしてもらっています」
「そうかい。姉さんがね、ここなら、安く作れるからって、JJを連れてきたのさ。ホストは、ちょっと変わったもん着てると、客の視線を引くからさ」

「へえ・・・。どんな? 今の彼しか知らないから」

「う~ん・・・。シャツなんかよく作ったよ。ほら、オパール加工した生地とか、わかるかい。柄が透けてるやつ」
「ええ」
「そういうのや、レース風の生地でシャツを作るんだよ。それをあの子が着ると、すごくセクシーなんだ」

おばさんが笑った。

JJはそんなものを着ていた。

「ふ~ん・・・。一点物っていうわけですね?」
「そうそう、つまり、安いってことよ。そういうもので、ブランドものは高いから」
「ふ~ん・・・」
「あの子、高いもん買わないでうまくやってたよ」
「そうですか・・・」

JJは無駄を省いて、できるだけ安く仕上げていたんだ・・・。

私が感心していると、JJが入ってきた。


「大工さんだった。夕方、5時過ぎるって。それでどう?いつ頃までにできる?」
「早くしろってか?」
「まあねえ・・・」

JJが笑った。

「仕方ないねえ。あんたの店がかかってるんだ。明後日でいいかい?」
「ああ。ありがとう」
「加工料はたんまりいただくよ」

「OK。じゃあ、明後日取りにきます」
「ああ、お姉さんに一枚、プレゼントしてやるよ」
「何を?」
「パンツ。黒でサイドにサテンのラインが入ってるんだ。待ってて」


おばさんが棚を探す。

「ああ、これ。若い子に頼まれたけど、結局取りに来なかった。やめちまったのかな。あんたにやるよ。このベストにぴったりだから」
「いいんですか?」

「ああ、その代わり、ちゃんとJJを助けるんだよ」
「はい」

「おばさん。ありがとう」

そう言って、JJがおばさんの頬にキスをした。
JJの何気ないその仕草に、私は驚き、ちょっと胸がざわめいた。




おばさんの工房を出ると、JJが「ユナ」と呼んで、軽くキスをした。
私は店の外だったので、「いやん・・・」と小さく言って、俯いた。
JJは笑って、「ユナの顔がおばさんにちょっとヤキモチ妬いてたよ」と言った。


JJには、私の気持ちが全部見えていた・・・うん・・・女の気持ちがわかるのよね・・・。

私は気恥ずかしくて、JJのシャツの下のほうを掴んで、俯いて歩いた。





ここ数日で、JJを通して知り合った人たちは、皆親切で心の温かい人たちばかりだった。
ウンスのような男もいるが、オカマの姉さんも仕立て屋のおばさんもあったかくて、人に思いやりがある。
私が今まで知らなかった世界に、こんな人たちが住んでいた・・・。

私の知っていた世界は小さい。会社と叔母と、元夫・・・。

JJが住んでいる世界は特殊かもしれないが、私にはJJのそばにいるほうが心が和む・・・。





私は少し心が温かく豊かになった。幸せな気分で病院まで行ったが、JJの傷口の消毒をしているナースの目は、まるで奇異なものを見るようで、ふと、叔母のことも思い出し、少し切なくなった。

JJは医師に、「忙しいので、消毒だけなら自宅でしたい」と言って、一週間分の薬の処方箋を書いてもらった。

JJにはこの人たちの目がわかっていたのだ・・・。






それから3日後、私はJJを車に乗せ、ドリアンへ出勤した。
ドリアンの裏の駐車場に車を止めると、JJが「ふ~」とため息をついた。

「なあに?」
「ああ! 命拾いした・・・」
「やだあ・・・」
「でも、なんとかここまで来たよな」

「ひどい! ぜんぜん平気だったじゃない」
「まあね」
「でしょ?」
「うん。よかったよ。ユナがまともに運転できて」

JJが笑った。


「もう、やだあ」

私も笑いながら、車から降りた。




今日から初出勤だ。
私もなんとかバーテンの仲間入り・・・。見かけだけだが・・・。



昨日、ドリアンのドアが直されて、前より厚く、カギも強化された。
閉めきっていた窓を大きく開けて、JJと私は、血が茶色に変色したままの床を何度も何度も拭いた・・・。
新鮮な花を少し多めに買ってきて、今までドライフラワーがかかっていたところに、かけ直す。
空気が一転して爽やかになった。



「また、やり直しだな・・・」

JJがぽつりと漏らした・・・。


ドリアンの掃除を済ませ、私は奥で着替えをした。
しばらくはJJの体調も考えて、バーだけを開店することにした。


裏で着替えをして出てくると、JJがにっこり笑った。

「どうお?」
「いいねえ」

「そう? ちょっとメイクを直してくれるね」


私は化粧室で、アイラインを引いてマスカラを丁寧につけた。化粧がくどくなるといけないので、口紅はピンクがかったベージュを塗り、抑え目にした。

鏡に向かって髪を直しながら、もう少し栗色に髪を染めようかなと思っている自分に、私は驚いた。
ほんの少し前まで髪を染めるのも億劫がっていたから・・・。

メイクを仕上げて、鏡に映る全身をチェックすると、意外と様になっていた。白シャツに、黒のベストとパンツ。
それに、ダークグリーンの蝶ネクタイ。普段の私より、アグレッシブで生き生きとしている・・・。


「JJ、見て!」

JJがカウンターの中から仕上がった私を見た。
ちょっとぼうっとした顔をして、やさしく微笑んだ。

「ホントによく似合うねえ。ユナは何をやっても上品な感じなんだなあ・・・」

私も微笑んだ。


この言葉は私への賛辞だ・・・きっと。
品良く、上品にまとまっているのは・・・私だ。 
・・・それとも。もし、彼女が私の年齢になれば、こんな感じに収まるのか・・・。




「こっちへおいで。手順を確認しよう」
「うん・・・」


カウンターの中へ入ると、JJが私の髪を撫でて、にっこり笑った。 そして、顔を寄せて、私にキスしようとした。

「待って」

私は口紅を軽く拭った。
JJの顔が近づいて、私にキスをした。私はJJに捕まって、長いキスをした。

「この格好、気に入った?」
「うん・・・。キレイだ・・・」

JJは、私を見つめて満足そうな顔をした。


私はJJに教わった通りの手順でおさらいする。カウンターにおしぼりとコースターを出し、注文を聞く。
水割りの酒と水の割合を確認して、カクテルの酒の確認をする。
いずれにせよ、ずっとJJがカウンターの中に座っていてくれるので、私はそれほどナーバスにはならなかった。

つまみの野菜スティックも作り、冷蔵庫にしまう。基本的に、JJのバーは飲むのが主体なので、料理は作らない。
出すものといえば、キスチョコやナッツ、野菜スティックに生ハム、フルーツ程度だった。





時間が来て、私は一階に看板を出し、明かりのスイッチを入れた。

そして、JJとともに、カウンターの中で、客が来るのを待った。午後6時過ぎ、ドアが開いた。

姉さんだった。


「開店おめでとう!」

「ああ」

「あら、キレイなお姉さんも一緒? ユナ、バーテンになっちゃったの?」
「・・・ええ」
「そうかあ・・・じゃあ、難しいの、頼んじゃお」
「困ったわ」

「テストよ。じゃあ、マルゲリータ」
「かしこまりました」


私がシェーカーに氷を入れて逆さにして水を切ると、JJが横から酒を量って入れる。
私はシェイクをして、グラスに注ぎ、お姉さんの前に出した。


「なあんだ。ずるい。二人で作るんだ。・・・う~ん、でも、おいしい」
「そう? 成功?」
「うん、愛がい~っぱい入ってて、ご馳走様」

「姉さんたら!」

JJが睨んで笑った。


「ふん。うまくできてるわよ。ホントにおいしい・・・。そうか、しばらくは二人でやるのね・・・それがいいわ・・・。ユナ、あんた、エライわ・・・。その格好、かっこいいよ!」
「ありがとう・・・」

「あんたはそんな格好をしても濃い化粧でも、清楚なんだ・・・不思議。いいわ、清潔な感じで。バーテンはきりっとしてるのが一番だもん」
「・・・」

「JJ、それにしても大変だったね」
「まあね・・・」

「とりあえず、よかったわ。ユナがいて、ちょっとしゃくだけど。(笑う)ああ、手伝いたかった!」
「そんなあ。 よその店の看板娘を借りてきたら、あとが大変だよ」
「まあ、そうね。私がそこに立ったら、オカマバーになっちゃうもんね」

姉さんはそう言って笑った。


ひとしきり、姉さんは話してから、出勤していった。
姉さんが席を立ったあと、スカーフが落ちていたので、私は拾って、姉さんを追いかけた。




「姉さ~ん!」

「・・・?」

「スカーフ!」

私は走って、姉さんの元へ歩み寄った。


「あ、ありがとう。スルスルしているから、落ちちゃうのね・・・ピンで留めるか・・・」


「姉さん・・・」
「なあに?」

「・・・」
「何?」

「姉さんはJJの彼女、ご存知でしたよね?」
「・・・」

「仕立て屋のおばさん紹介したり、JJに協力してるもん・・・」
「仕立て屋のババアが言ったの? やだ・・・。私が惚れてるだけよお」

「でも、私が似てるって最初からわかってたんでしょ?」

「それで何を聞きたいの?」

「今の私をどう思いますか? JJにとって彼女の身代わりですか?」

「・・・。だったらどうすんの?」
「・・・」

「そんなこと、考えたって仕方がないわ。今のあんたは輝いてる。それでいいじゃない・・・。今、JJのそばにいんのは、ユナ、あんたよ。あの子はもう、この世にはいないんだから」

「・・・」

「JJにそんなこと、聞きなさんなよ。あの子だって答えられないから・・・。あんたを好きな理由を探させたら、堂々巡りになっていくわ・・・。あんたがJJを好きじゃないなら聞く。好きなら・・・あんただけを好きになる時間を作ってあげたらいいじゃない・・・」

「・・・」

私は、姉さんの言葉に涙がこみ上げた。



「化粧が崩れるよ。ユナ! あんた、安心しちゃ駄目よ!」

私は顔を上げた。

「JJだって、この5年間、無傷なわけないんだから。自分が好きなら、頑張らないと。他へ行っちゃうわよ! あんたが大切なものは何?」

「・・・」

「頑張んな!」

最後に、姉さんはやさしい声で私を励まして、笑顔で去っていった。

姉さんのやさしさが心に沁みた。


初めて結ばれた日から、私はずっとJJと一緒にいる・・・。
これも運命よね?
ただの成り行きじゃなくて、そこに愛があるからよね?




くるっと方向を変えて、ドリアンに戻りながら、私はふと、ドリアンの窓を見上げた。

JJが複雑な顔で、私をじっと見つめていた・・・。

じいっと・・・。


きっと私の心の葛藤を知っている・・・。



私もJJを見つめて・・・JJに微笑みかけた。

JJは、それを見てやさしく笑った。






7部に続く





お楽しみに!






2009/06/16 01:55
テーマ:【創】恋の病2 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋の病2」5






 

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BYJシアターです。



本日は「恋の病2」5部。

ここより本編。
お楽しみください。







人は、
こんな私を見て、
なんと思うだろう



心に空いていた穴に
ぴったりと嵌ったような恋心


恋をすることも
すっかり忘れていたのに


でも・・・

この胸のざわめき


あの人を抱きしめたいと思う気持ち

あの人が触れる女の指を憎らしいと思うジェラシー


これは分析せずともわかる

恋だ


バカげた恋だといわれても

今の私を止めることはできない・・・







ペ・ヨンジュン主演
「恋の病2」5部








ドリアンのドアが激しくノックされている。

私とナジャは息を殺して、外の様子を伺った。

後で聞いた話だが、その時、JJは、カウンターの下にある「防犯ブザー」を押していた。
これは、警察につながっていて、酒場で事件が起きたときにすぐに対応できるようになっていた。



「おじさん、まだかしら・・・」

ナジャが呟いた。
私は彼女の口をふさぎ、首を横に振った。



ドアのカギを外からウンスがいじっている・・・。


「兄さんよう~。いるんだろう! おい! おまえら、いるんだろう!」


ドアが何度も何度も引っ張られ、とうとう木製のドアは、外枠の建具から引きちぎられるように、開いた。




ウンスが中へ入ってくると、JJはカウンターの中にいた。


「なんだ。おまえは」
「やっぱり、いるんじゃねえか!」

「まだ、開店前だぞ」
「でも、あいつはいるだろうが!」

「誰だ?」

「ナジャだよ・・・」
「ナジャ? 来てないよ。まだ開店してないんだ。ドアにカギがかかってただろ?」

「ふざけんじゃねえよ。てねえが匿ってるのはわかってるんだ・・・」
「いったい、何があったんだ。ここは、おまえの店じゃないぞ。ここで騒ぎを起こされるのは困る」

「兄さん・・・。あんた、ナジャに手え、出したのか?」

「まさか・・・。オレは、そんなことはしないよ。おまえだって、わかるだろ? ケンカでもしたのか?」

「あんた・・・。ナジャに何したんだ?」

「・・・。少し落ち着けよ。コーヒーでも入れようか。おまえとナジャに何があったか知らないが、急に入ってきて、何事だよ」

「知らばっくれやがって・・・」
「・・・ウンス」

JJがウンスを睨んだ。

「ふん・・・」

ウンスがカウンターに座った。
JJは、ウンスの顔を睨みつけて、コーヒーのサイフォンをセットする。


もうすぐ、おじさんが来るはずだ・・・。


ウンスはいらいらしてカウンターを手で叩きながら、窓のほうを見た。窓際のイスに、女物のバッグと、カーディガンを見つけた。


「やっぱり、来てんじゃあねえか!」


JJも私の荷物に気がついた・・・。


ウンスが立ち上がって、私の荷物を取りにいく。

「これ、女もんだろ!」
「よく見ろ。ナジャのものじゃないだろ?」


私のカーディガンは、ハイゲージで編まれた薄手のもので地味なグレーだった。派手なナジャがとても着そうにない。

ウンスがバッグを手に取った。
会社用の大きめなトートバッグだった。中には弁当箱も入っていたので、重かった。


「違うだろ?」

「誰のだよ・・・誰か、ここに来てるのか?」

「今、用に出かけてる」

「バッグも持たずに?」
「ああ。そのバッグじゃ重いからな。小さなポーチで出かけた」

「誰だ」

「おまえに関係あるのか?」
「・・・」
「オレの客だ」

「あやしいなあ・・・あんたの言うことは、皆おかしいぜ・・・」

ウンスがJJを睨みつけた。


JJは黙って、コーヒーを入れた。


「ホントにおかしいぜ。ドアを壊されたのに、何でそんな顔でいられるんだ・・・。客が出かけているのに、何でカギをかけてんだ・・・」

「・・・」

「あんたは、全くおかしいぜ・・・」

JJは黙って、コーヒーを出した。


「・・・ふざけんじゃねえよ・・・。どこへ隠した・・・あんたの客と、ナジャを・・・」
「・・・」

「トイレか・・・」


ウンスがトイレの中を覗きにいく。

その隙に、JJは、携帯をおじさんの携帯につないだ。



ウンスがトイレから出てきた。


「他にどこがあるんだ・・・」
「・・・」
「こういう店は、どこで着替えてるんだよ・・・」


周りを見渡す。

ウンスはポケットからナイフを取り出して、手の中で遊び始めた。

「兄さんよお・・・。正直なのが一番だぜ・・・」

「ウンス・・・」

「兄さんほどの人が、たかが女のことで、ケガしたいなんてさあ・・・」


ウンスがJJの顔を睨みつけた時、JJの後ろの鏡に切れ目があることに、気がついた。

回り込んで、JJの後ろを見ると、そこがドアだった・・・。

「てめえ・・・」


ウンスの目が光り、カウンターを乗り越えようとした。と同時に、JJもそれに気がついて、逆にカウンターを飛び越えた。

次の瞬間、JJの足がウンスの胸に当たり、ウンスを蹴り倒した形になった・・・。


「てめえ!」


転んだウンスは右手で遊んでいたナイフを開いて立ち上がり、JJ目掛けて、ナイフを刺した。

JJは咄嗟に避けたが、そのナイフはJJの左肩のすぐ下の二の腕を長く切った。

裂けたシャツの間から、ドラゴンのタトゥが見えて、ウンスは驚いて後ずさりした。
そして、ドラゴンから血が滲め出て、真っ赤に染まっていく・・・。


「ウンス・・・。ナイフを捨てろ」

ウンスは、呆然とJJの肩を見つめた。血が噴出した。


階段を駆け上がってくる複数の靴音がして、ウンスは、ドアのほうを見た。

おじさん始め、刑事が入ってきた。


ウンスは少し暴れたが、刑事に現行犯でその場で捕らえられた。
おじさんは、早速、JJの腕に店のタオルを巻きつけ、救急車を呼んだ。

「大丈夫か?」

「・・・遅いよ、おじさん・・・」
「悪かった・・・」

「奥にナジャがいる・・・」
「うん・・・」

おじさんは若い刑事に奥の部屋を見に行くように指示した。





私は、若い刑事の声にドアのカギを開けた。
出て、カウンター越しにJJを見ると、JJが血だらけになっていた。

「死んじゃう・・・」
「大丈夫だよ・・・」

床に座り込んだJJが私を見て呟いた。



グラスを拭く長い手ぬぐいとマドラーを掴んで、私はカウンターから出て、JJの二の腕に巻きつけ、マドラーを挟み、きつく締めた。

「こんなに、こんなに・・・血が・・・」
「大丈夫・・・」

JJのシャツも、ジーンズも床も血だらけだった・・・。そして、私のスカートも・・・。



ナジャは蒼白になったまま、若い刑事に抱かれてJJの前を通った。そして、血だらけのJJを見て、泣き崩れた。


外から救急車のサイレンが聞こえた。



「救急車が着いたな・・・この人は知り合い?」
「ええ・・・」

「あんたも一緒に行くかい?」
「はい!」

私はおじさんを見つめた。



「ユナ、君のバッグとカーディガン・・・」


私はJJに言われて、気がついた・・・。もしかして、これがあったから、ウンスは逆上してしまったのか。



「動けるか? JJ。 狭い階段をタンカで運べないから・・・」
「歩けますよ、おじさん」

JJは私とおじさんに抱きかかえられて立ち上がった。
そして、おじさんに捕まって階段を一歩ずつゆっくり下りていった。


「ここは・・・」


私はドリアンが心配になった。
若い刑事が私を見た。


「大丈夫。現場検証して、ドアは打ち付けていくから」
「・・・お願いします」

私は頭を下げて、救急車に向かった。








警察病院についたJJは、早速、腕の傷の縫合のために手術室へ入った。
手術室の前のベンチに、私とおじさんは並んで座り、手術が終わるのを待った。


「あんた、JJの・・・」
「私たち・・・付き合ってるんです・・・」

「そうか・・・。今日は、どんな様子だったの?」
「私がドリアンの掃除を手伝っていました。そこへ、あの・・・ナジャさん? あの人が入ってきて、JJに匿ってほしいと言ったんです。付き合ってる人と別れ話をしていたら、急に人が変わって、水をかけてきて、殺してやるって脅したって・・・。それで、JJが『ウンスか』と尋ねて・・・私たちを奥の間に匿ったんです・・・」

「そうか・・・。あいつはホストなんだけどね、たちが悪くて。前に何回か別れ話で、相手をケガさせてるんだ」

「それなのに、まだ平気で仕事を続けているんですか?!」

「うん。皆現行犯じゃなかったしね・・・。相手が訴えないんだ、家庭を持ってる人だったりしたんでね。自分優先で」
「そうでしたか・・・でも、怖くないのかしら・・・そんな人が普通にしてるって・・・」

「うん・・・。やられた本人が訴えないから、ただの噂になっちまう。店はクビになっても、ほら、見た目がいいから、次の店へ流れる・・・。雇うほうもわかっていても、噂ということで、蓋をしちまうんだ・・・」

「そうですか・・・」

「でも、今度はJJを刺しちまったからね・・・。これは事件だ。あいつは引き下がらない。それに現行犯だしな」

「・・・。おじさん? おじさんでいいんですか?」
「ああ、ユンです」
「ユン刑事さん・・・。JJと、ウンス?は、一緒に働いてたんですか?」
「いや。JJは5年前にホストから足を洗ってるからね。その頃はウンスはまだガキさ」
「・・・」

「ウンスは、JJの店を待ち合わせに使っていただけだろ。もっとも、JJは伝説のホストだから」

「伝説?」

「ああ、他とはちょっと違ってた。あいつは、汚れないんだ・・・。穢れないというか・・・。他のやつらと違って・・・いつ見てもキレイなままだった」

「・・・心が?そういう意味ですか?」
「そういうことかな・・・。だから、女はそういう男を追いかける。下卑たやつらはすぐ飽きる・・・」

「仕事の目的が違ったから?」
「・・・あんたは知ってたの?」

「ええ・・・少し本人から聞きました・・・」
「そう・・・」

「ユン刑事はご存知だったんですか? あのう・・・婚約者の人・・・」
「うん・・・。実はね、オレは交通課じゃないんだが、あの事故のこと、JJから頼まれてさ・・・。この界隈の水商売のやつらをよく知ってるから。JJは、ただの顔見知りだったけど・・・あれはたいへんな事故だったから・・・」

「そうでしたか・・・」
「うん・・・」

「じゃあ、私を見て、何か感じますか?」
「あんた?」

「そうです・・・何か感じますか?」

「う~ん・・・。あんたが気にしてるのは、年齢かい? やつには合ってるんじゃないの? あれで苦労してるから。あんまり若いだけの子よりいいかもしれない。それに、堅気の、ちゃらちゃらしてない子のほうが、やつには合ってる気がするよ」


この人は、あの子を知らないんだ・・・。
生きていた時を知らないんだものね・・・。



「ユン刑事さん・・・」

「まだ、なんか質問があるの?」


「あのう・・・。聞きづらいんですけど・・・あの彫り物のこと、ご存知ですか?」
「・・・」

「彼には、そぐわないような・・・。別に拘ってるわけじゃないんです・・・。ただなぜって。なんか理由があるのかなと思って・・・」

「それはねえ・・・。う~ん・・・」
「・・・」

「あの事故の後、ホストを辞めて、普通の仕事に就こうとしたけど、就けなかったんだよ。履歴がね・・・。大学も出てないし、前の仕事がホストだろ・・・。それでね、あいつに残ったのは、弟の手術のために貯めた金だけだった・・・。それで、やけになって、やったんだよ・・・。「オレは、ホントに、はみ出し者だ」って言ってね・・・。一番辛かったんじゃないかな。その時が。親も兄弟もなくて、二人が死んじゃったから・・・。でも、残った金を生かした生き方があるはずだって、いろいろ話し合って、それでバーテンになったんだよ・・・自分の店を持ちたいってね」

「そうでしたか・・・」



あのタトゥは、ホスト時代のものではなかった・・・。
彼女も知らない「秘密」なんだ・・・。









中から、ナースが出てきた。

「ハン・ジョンジェさんのご家族の方ですか?」

私は一瞬意味がわからなかった。



「ハン・ジョンジェさんのご家族の方ですか?」

困って、おじさんを見ると、おじさんが頷いて私を見た。


「そうです」
「では、先生のほうからお話があるのでどうぞ」



私は、おじさんに付き添われて中へ入った。

さっき、おじさんはきっと、「家族の方」という言葉に私が戸惑って、おじさんに助けを求めたと思っていただろう・・・。

私は・・・JJの名前を知らなかった・・・。タトゥは知っていても、名前を知らなかった。

だから、それがJJなのか、確認したかっただけだった。





「手術は無事終わりました。20針ほど縫合しました。今日は出血が多かったので、このまま一泊して様子を見ていただいて、明日の午後一番に退院という形になります」

「わかりました。事情聴取はできますか?」
「ええ、ご本人は意識がありますから」
「わかりました」

「ご家族のかたは、着替えを取ってきていただけますか?」
「ああ、そうですね・・・ありがとうございました」



私とおじさんは主治医にお礼を言って、JJの病室へ向かった。

事件の後だったので、JJは個室に寝かされていた。








「JJ、大丈夫?」

「大丈夫だよ。・・・おじさん、ご心配をおかけしました」
「無事でよかった」
「あんまり無事じゃないですよ。ドアとオレの腕、ケガしましたよ」

JJはやさしい笑顔で笑った。



「ドアぐらいなんだ」
「あれ、高かったからなあ・・・。でも、簡単に壊れた」
「ホントだ」

おじさんもホッとして笑った。



「ユナにも迷惑かけたね」
「彼女にも事情を聞いたよ」

「そうですか・・・。おじさん、彼女は普通の人ですから、あまり事件には巻き込まないでくださいね」
「わかってるよ」

「JJ。明日、着て帰る着替えが必要なの」
「そうか・・・血だらけだもんな・・・」
「あれは、全て証拠として、警察行きだよ」
「そうなんですか・・・」


「よかったら、私が取ってくるけど・・・それでもいい?」


JJはにこっと私を見たが、その後、少し顔が曇った。
でも、またやさしい笑顔になって、私を見つめた。


「頼んでもいい?」
「うん。うまく組み合わせできないかもしれないけど、いいよね?」
「いいよ。ユナがコーディネイトしてくれたら、何でも着るよ」
「・・・うん」

私は、そんなJJの言葉もうれしくて、胸がドキドキした。



「寝室の奥に格子の引き戸があっただろ。あそこがクローゼットだから。中に棚と引き出しがあるから、下着と着替えやすいような大きめのTシャツと上着と・・・それからジーンズがいいかな」

「うん・・・わかった」

「ユナは車乗れる?」
「運転? もう4、5年運転してないから・・・」
「ならいいよ」
「ごめんね」
「いいんだよ。運転できたら、おまえが動きやすいだろうと思って」

「じゃあ・・・取りに行ってくる」
「うん。気をつけて。あ、クローゼットにボストンバッグもあるから。すぐ、わかると思うから」
「わかった」

「じゃあ、ユナさんが着替えを取りにいってる間に事情聴取するか」
「いいですよ」
「そうしよう」

「じゃあ、JJ。ユン刑事さん。私はこれで。行ってきます」

「気をつけてね」

JJがベッドからにこやかに笑った。








私は、早速、JJのマンションへ着替えを取りにいくことにした。


病院内では電源を消していた携帯のスイッチを入れると、お姉さんから何度か電話が入っていた。


「もしもし、ユナ」
「ユナ、あなた、何しているの?」
「何か用?」

「今日ね、夕飯の買い物に駅のほうへ出たら、近くのバーで事件があって・・・覗いたら、あなたがいて・・・」
「・・・それで?」
「最初、事件に巻き込まれたのかと思って声をかけようとしたら、あなた・・・刺された男に付き添ってたわね」
「それで・・・」
「それでって? あの人は何?」

「・・・恋人です・・・」

「恋人って・・・随分若いし・・・それに、シャツの裂け目から、肩の彫り物がわかったわよ。あんな危険な人と付き合って・・・」
「お姉さん! 彼は刺されただけよ。刺したんじゃないのよ! お客さんが追われてきたのを助けただけ。彼はぜんぜん危険でもなんでもないわ!」

「あなた・・・騙されているわ・・・」
「切るね! 心配しないで。彼はまっとうです! お姉さんが思ってるようなこと、何にもないから! 今、忙しいの!」


私は、電話を切った。

あそこにお姉さんがいたなんて・・・。



私は少し苛立たしい気分になって、病院の前からタクシーに乗り、JJの部屋へ急いだ。








私はお姉さんとの電話で、心が少し軋んでいた。
慌しく、JJの部屋に入り、寝室の奥のあるクローゼットの戸を開いた。
そこには、スーツやジャケット、柔らかい生地のシャツ、パンツ類がかかっているパイプがあって、反対側は引き戸になっていた。
JJのスーツが気になって、一枚ずつ、引き出してみた。ホスト時代のものはなかった・・・。
たぶん。 まったく普通のスーツしかなかったから・・・。


JJのために、そこにかかっているジーンズを一本取って、私は気がついた。
私自身のスカートも血だらけだったことを・・・。

もう一本、細いシルエットのものを探して、私はそれに履き替えた。


次に引き戸を引いてみた。

その中は、上段が、YシャツやTシャツ、セーターなどを入れる棚になっていて、下段が下着などをしまう引き出しになっていた。
まずは、上段から、脱ぎやすそうな半そでのTシャツと、カーディガンを選んだ。

そして下着を探すべく、下段の引き出しを開けてみた。トランクスや靴下がきれいに整頓されてしまわれていた。

私は、JJの引き出しに興味があったので、その下の引き出しも順に開けていった・・・。

たたんだパンツの入っている引き出し。
トレーニングウエアの入っている引き出し。
ベルトだけ入っている引き出しなどがあった・・・。

ベルトの引き出しの中に、四角いものが入っていたので、私はそれを引っ張り出した。


それは、2枚の写真立てとビデオだった。
一枚は、20代の女性の胸までの正面写真だった・・・。


これがあの人かもしれない。

そうだ。大きさからいって、葬儀のときに使ったものかもしれない。


笑っていない彼女は、ちっとも私に似ていなかった。
たぶん、かわいい・・・。
でも、若い分、あまりその人となりがわかるような表情や深みが感じられなかった。

もう一枚の写真を見た。

それは、海辺で、JJと彼女と弟らしき人の三人が笑って写っている写真だった。

水着のJJの肩にはタトゥなどなかった・・・。

今の彼よりずっと若く、髪が茶髪で、濡れてクリクリしている髪がかわいらしい。彼は屈託なく笑っている。
弟は10代後半だろうか、静かに笑っていた・・・。

そして、彼女は、JJを盗み見するように少し横を向いて、微笑んでいた。
私にそっくりだった・・・。

その顔の表情が。
その仕草が・・・。

俯き加減に横目で見ている目と微笑んだ口元、そして、手や肩の表情が私によく似ていた・・・。

これがあの人なんだ・・・。



私はビデオを手に取った。
そこには、「ヘジン 衣装合わせ」と書かれていた。


私は写真を見たせいか、胸がざわざわとざわめいた。

揺れる思いで、リビングのビデオデッキに差し込み、それをテレビに映し出した。






それは途中から始まっていて、彼女がウエディングドレスを選んでいるところからだった。



JJの声が聞こえた。

「新婦のへジンさんがウエディングドレスを選んでいます・・・」


「う~ん・・・どれがいいかなあ・・・。JJ、これ、どう思う?」

「派手」

「そうかな・・・? ねえ、これ、キレイ! 見て!」


彼女は、フリルがいっぱいついているウエディングドレスをとり出して、体に当てた。


「それ? ふりっこじゃない」
「う~ん・・・」

彼女の俯き加減の顔の表情が、私によく似ていて、私は胸が痛くなった。
そして、体に合わせて、動かす手の動きも・・・どことなく似ていた。


「でも、いいよう、これ。良家のお嬢さんって感じでしょ?」


そう言って、彼女がカメラに向かって笑った。

この笑顔・・・。
この笑顔こそ、私だった・・・。


「やめろよ。そんなの・・・」
「そうお? なんかさあ、上品に見える感じのがほしいんだよねえ」

彼女はそういった。


「もっとさ、シンプルなほうが上品だよ」
「そうかなあ・・・。とりあえず、これ、着てみるね。JJ !  ビデオはいいから、自分の選びなさいよ。ここはいいからさ」

「オレはどれでもいいよ。主役はおまえだろ?」

「そんなこと言っちゃって。もうちょっと気合入れてやってよね。大事な結婚式なんだから!」
「わかったよ」

彼女は少し脅すような目をして笑った。 若さと幸せにあふれていた。


JJと幼馴染で年の近かった彼女は、ため口でシャキシャキと話している。

性格は私とはまるで違った・・・。
年上だというのに、いつもJJに引っ張ってもらっている私とはまるで違った。


「ジョンジェ! ねえ、もういいから、タキシード探しなさいよ!」


最後に、彼女はそう言った。

当たり前だが・・・彼女は、彼を名前で呼んだ。







ビデオはここで終わった。


20代の彼女は、これを着て彼の隣に並ぶことはなかった・・・。
あれば、きっと、ここに、二人の、あるいは、ウエディングドレスの彼女の写真があるはずである。

これしか、ビデオも写真も残っていないのだろうか。


私は少しぼうっとして、その画面を眺めていた。これから、何日かして、この子は死んでしまったのだ・・・。

自分より若い彼女を見て、私は涙が出た。

夢の前に倒れてしまった彼女・・・。ライバル心より、私は愛しさがこみ上げてきた。

20代の彼女はまだウエディングドレスさえ、ちゃんと選べない・・・。
彼との恋と、弟の世話で毎日を過ごし・・・そう・・・青春だ。

きっと、声だけのJJだってそうだったはずだ・・・。


今のJJにはどこか年より大人びたところがある・・・。
老成しているというか、彼は彼女と一緒に青春を葬ってしまったのか・・・。


ビデオを見終わって、JJにより愛しさが募った。

私はまた元のところまでビデオを巻きなおし、引き出しに戻した。


涙を拭いて、この部屋の中を見ると、より寂しさがこみ上げた。




たぶん・・・この時だ。
この時、私の中に強い意志が生まれたように思う・・・。

私がJJを支えてあげようと。

そんな、とても強い思いが浮かんで私を捉えた。私の全てで、彼を支えたいと・・・。

もう私は会社へは行かない・・・。
彼のそばで、彼に尽くしたいと・・・私はその時、心からそう思った。







私は彼の着替えを用意して、クローゼットの横にあったボストンバッグに詰め込み、部屋を後にした。







病院へ戻ると、JJがベッドの上に座っていた。


「お待たせ。ユン刑事は帰ったの?」
「うん。ごめんな。おまえを巻き込んで」
「いいの」
「・・・」

「これでいいかしら。よくわからないけど、一応選んできた」

私は彼のベッドの足元に、ボストンバッグから着替えを取り出してみせた。

「いいよ。ありがとう」

「・・・JJ」
「何?」

「私、明日から会社、休む。あなたの世話をするわ。いいでしょ?」
「そんな・・・。オレのことで、仕事を休むなよ。クビになるぞ」
「いいの。でもね。有給がたくさん残っているから、まずはそれを使うわ。今までそれを使う、大切なことなんて何もなかった・・・。でも、今はJJのために、使いたいの・・・一番、大切なことに使いたいの」

「・・・。おいで、もっとこっちへ・・・近くに来て」
「うん・・・」


私は、JJの近くに座った。

JJは使える右手で、私の頭を撫でて、襟足を掴んだ。


「ありがとう。ユナには、迷惑かけちゃうね・・・。でも、うれしいよ・・・ホントに。 すごく、うれしいよ」

そう言って、彼は私をじっと見つめた。

彼の仕草は、まるで父親のようだった。年の近い彼女にもこうしたのだろうか。
私と話している彼は、ビデオを撮っていた彼や写真の彼より、ずっと大人になっていた。

この彼は、私のものだ・・・。

私はJJの言葉がうれしくて、恥ずかしそうに笑った。すると、JJはもっとやさしく父親のように笑った。








JJは一晩病院に泊まって、明日退院ということだったので、私は、いったん家へ戻り、自分の着替えをパッキングして、またJJの家へ行った。そして、JJの家で暮らせるように、自分の湯のみや歯ブラシをJJのものの横に並べた。


そして、一人、JJの部屋に泊まった。
一度しか泊まっていないのに、その風呂場もベッドも懐かしかった。

そして、隣にJJがいないのが寂しかった。


早くJJと寝たい・・・そんなことを考えた・・・。









翌朝、私はJJのバーに寄ってみた。 
ドアには板が貼られていて、立ち入り禁止と書かれていた。

病院へ行って、JJの最後の検査が終わるまで時間があったので、私は会社に電話を入れて、有給休暇を申し出た。


「パクさん、そんな急に、20日間なんて・・・」
「でも、それだけ残っているわけですから」
「困るなあ。ジウォン君だけでは仕事にならないしな・・・」

課長がそう言った時、病院内のアナウンスが流れた。

「あれ、パクさん・・・どこにいるの?」
「今、病院です。・・・ジウォンさんが言っていたように、実は、すごい更年期なんです・・・。とても仕事ができる状態じゃないんです・・・」

「そうなの? そうは見えなかったけど・・・。う~ん、じゃあ、なんとかするけど、具合がよくなり次第出てきてくださいよ」
「はい、わかりました・・・。お薬をいただいたんで、なんとか回復するとは思いますけど・・・」

「お大事にね・・・」
「ありがとうございました・・・」

私は電話を切った。


すごいうそをついた・・・。
でも、いいの・・・。今はJJが大切。 大切なものを選択したんだもん・・・。








午後になって、JJが退院した。
私はJJの荷物を持って、並んで歩いた。
知らない人が見たら、私たちは長く付き合っているか、あるいは家族だろう。


まだ、何回も会っていないのに・・・。

それがこんな距離で接している。

JJはどう思っているのだろう・・・。
好きだと言っても、こんな年上の私と二人で歩くことを・・・。









JJの部屋へ戻ると、JJがベッドに寝転んだ。

「ああ、やっと帰ってきたなあ・・・。たった一日なのにね。ああいう状態で入院すると、なんか気持ちが疲れるね」

「お茶でも入れてあげようか?」

「ユナも疲れてるだろう?」
「いいの。入れてあげる」

「ふん」

JJはうれしそうな顔をして、笑った。




「何があるかなあ・・・」

私はお湯を沸かして、キッチンの棚を見た。

「コーヒーだろ、紅茶だろ、柚子茶だろ・・・オレが入れてやるよ」


JJが起き上がってきた。


「いいわよ。ケガしてるんだもん・・・」

JJは紅茶を入れようとしたが、うまくできなかった。

「ホントだ。うまくいかないね」
「でしょ? 私に任せなさい・・・。紅茶入れるね」
「うん」


私がカップを用意して紅茶を入れていると、JJがダイニングテーブルに着いて、呟いた。

「何日ぐらい、休むのかなあ・・・。二週間はキツイよなあ・・・。事件が起こった店は、客足も遠のくしね」
「JJのせいじゃないのにね」


その時、私はちょっと閃いた。



「ねえ、私が手伝えない?」
「ユナが?」
「うん・・・」

「そうだなあ・・・」
「掃除でもなんでもやるわ。JJの手の代わり」

「でもねえ・・・バーだからね。カクテルとか作れないと」
「教えてくれる? そうしたらやるわ」

「・・・」

「駄目?」

「ありがとう・・・」
「・・・」
「ユナはいつも一生懸命なんだね・・・」
「そうでもないわよ・・・」

「でも、いつもオレに合わせてくれるし・・・オレを大事にしてくれる・・・」
「・・・駄目?」
「・・・」
「あなたのためにしたいの」
「・・・」
「駄目?」
「・・・」
「・・・私のためにしたいのよ・・・」

「いいの?」
「うん・・・」

「酔っ払いの相手だよ」
「でも・・・私はバーテンだもん・・・」

「そうだね。おまえはホステスじゃない。うん・・・オレが隣に立って、見張ってるから大丈夫か」
「うん。JJがいるから、大丈夫」






JJが何か思い立って、クローゼットのほうへ向かった。

私は一瞬、あのビデオや写真でも取りにいったのかと思い、胸がキュンと痛くなった。


でも、違った。

JJが手にしていたのは、蝶ネクタイだった。


「これ、ユナに似合いそうだよ」
「蝶ネクタイ?」

「そう・・・オレがバーテンをしてた時につけていたやつ。自分の店を持ってからは、ノータイだけど、ユナにはこれが似合いそうだ」

JJが私の首にタイを当てた。


「かわいい・・・かっこいい・・・」


そういって、笑った。


「ホント?」
「うん。これ、つけてたら、それっぽいよ。いいよ」
「え~え!」


私も笑った。



そうだ。
このタイは、前の彼女は知らないんだ・・・。

これも、私とJJのもの・・・。



「じゃあ、カッコだけでもバーテンらしくするわ」

「もちろん、ちょっと特訓してね」
「ええ?!」

「当たり前だろ」
「JJは仕事に厳しいよね」
「当たり前」


そう言って、JJは私を見つめて、右手で私の顎を掴んだ。そして、キスをして、私の目をじっと覗き込んだ。




「なんか、ユナを抱きたくなっちゃったな・・・」
「・・・JJ・・・」
「こんなにかわいいおまえをほっとけないよ・・・」
「う~ん。ケガが治ったらね・・・」

「・・・駄目?」
「・・・」


私は困った。



「ユナが助けてくれれば・・・大丈夫だよ・・・」


そう言って、JJが私の肩を撫でた。


私は、その言葉だけで体が熱くなった・・・。







6部へ続く



では次回をお楽しみに!

Ciao^^












2009/06/15 00:42
テーマ:【創】恋の病2 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋の病2」4






 

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BYJシアターです。


本日は「恋の病2」4部。




これは全てフィクションです。
また私は水商売の経験がないので、記述におかしなところがあるかもしれません。
その点はお許しを。
ここでは、JJとユナの二人の恋の行方を中心にお読みください。
また、特に職業についての考えはありませんが、
年も違う、住む世界も違う二人が知り合って・・・と考えていただければうれしいです。



  
これより本編。
お楽しみください。








人は、

こんな私を見て、
なんと思うだろう

心に空いていた穴に
ぴったりと嵌ったような恋心


恋をすることも
すっかり忘れていたのに


でも・・・

この胸のざわめき
  
あの人を抱きしめたいと思う気持ち

あの人が触れる女の指を憎らしいと思うジェラシー


これは分析せずともわかる

恋だ


バカげた恋だといわれても

今の私を止めることはできない・・・







ペ・ヨンジュン主演
「恋の病2」4部
  







最後の客が帰ったのは、12時半だった。

JJはまだ営業時間だったにもかかわらず、早々に店じまいをした。
そして、私のところへ戻ってきた。
私の座っているカウンター席をグルッと回して、私を自分のほうへ向かせた。


「お待たせ・・・」
「・・・」
「どうした?」


そういって、私の髪を撫でて、口をちょっと尖らせて、私を見た。


「どうしたの? ずっと黙りこくって。本当は、帰りたかった?」
「うううん・・・」

私は首を横に振った。


「じゃあ、どうしたの?」


彼は心配そうな目をして、私の顔を覗き込んだ。
私は、ちょっとうつむき加減に、言葉を選びながら答えた。
  

「苦しいの・・・」
「・・・」
「胸が・・・」
「・・・」
「息ができないくらい・・・」
「・・・」

「あなたは私にここにいてって言うけど・・・あなたは・・・本当に、私が好き?」
「・・・」
  
「私はあなたを好きになりかけてる・・・。(本当はもう逃げられないほどなの・・・)だから、遊びの相手なんて・・・嫌なの・・・」

「・・・オレは・・・君と恋をしたい・・・」


私は彼の顔を見上げた。JJは真剣な目をして、私を見ている。


「でも、私にはわからないの・・・。なぜ、あなたが私なのか・・・。だって、もっともっと素敵な人がいっぱいいるじゃない・・・」



「おまえは特別・・・」



彼はそういって、私の頬を撫でて、大きな手で顔を包んだ。
  

「初めて出会ったあの夜・・・。オレは、おまえを見て、驚いたんだ・・・」
「・・・」
「こんなことを言ったら、おまえに嫌われちゃうかな・・・。でも、言ったほうがいいね・・・なぜ、おまえかって・・・。昔の恋人に・・・雰囲気が似てるんだ・・・。目付きも、口元も・・・。こんなこと言って、がっかりした?」
  

胸がより苦しくなった。


「・・・なぜ、その人と別れたの?」


JJは、私の顔から手を離し、ちょっと首をかしげて、ポツンと言った。

「うん・・・。死んじゃったんだよ、交通事故で」
「・・・」

「あいつの弟も一緒に・・・。二人を乗せたタクシーにね、居眠り運転のトラックが対向車線から突っ込んできて、ぶつかった・・・。それで、全てが終わり・・・」
「・・・」

「こんな話、聞かせたくなかったけど・・・。おまえが年のこととか、いろいろ気にしてるみたいだから・・・。最初はね、彼女によく似ていて、懐かしかった・・・。それで、花屋の前でおまえを見かけた時、ここへ誘ったんだ。一緒にちょっとお茶が飲みたくて・・・。あいつに、ここを見せたかった・・・。でも、その後は、うん・・・。おまえはおまえだから・・・」
  
「・・・いつの話?」

「もう、5年になるかな・・・」
「・・・」

「あいつの弟がね、心臓が悪くて・・・その治療費を稼ぐのに、ホストをやってたんだ・・・。幼馴染なんだよ、オレたち。普通の仕事じゃ、ぜんぜん金が足らなくてさ・・・借金なんかするより、水商売やったほうがましだろ? 二人で一生懸命働いたけど・・・、その事故で全てご破算・・・。金を貯める意味もなくなっちゃった」
「・・・」

「それで、ホストもやめたんだ、虚しくなっちゃって・・・。あいつさあ、弟ね、オレのサーフィンする姿が好きでさ。たまに車に乗せて、海へ連れてってたんだ。いつか一緒にやりたいって言って。あいつが車で休めるように、ワゴン車買って・・・。でも、それも一瞬で消えた。オレの未来が一瞬で消えちゃったんだ」

「・・・」


「でもね・・・。長い間、ホストなんかやってたから、やめても、なかなか普通の世界には戻れない・・・。それで、バーテンになって、バーを持つことを考えたんだ。だから、このバーは、弟からの贈り物だよ」

「・・・」

「どうした? 傷ついた? おまえを傷つけたくて、話したんじゃないんだ。なんでおまえかって、聞かれたから・・・。そのきっかけを話しただけ。傷つけたら、ごめん・・・。でも、それはただのきっかけなんだよ」


「うん・・・私も、ごめんね・・・」


「?」

「なんか、私、誤解してた。あなたはちゃんとした人だったんだよね・・・」
「そんなことはないけど・・・浮き草は、浮き草だよ」

「気なんて悪くしてないよ・・・。本当の気持ちが聞けて、うれしい・・・」

「そう?」
「うん」
  

私の目から涙がこぼれた。私の心のダムが決壊し、崩れ落ちるように、私の中から、涙があふれ出した。
  

「泣くなよ」
「・・・やさしすぎるよ・・・」


「泣くなよ。そんなに泣くなよ」


私の涙がぽたっぽたっと、膝の上に落ちた。
JJが私を抱きしめた。
  

「それでも・・・それでも、私はもう・・・42才だもん・・・。あなたに初めて会った日が42回目の誕生日だったの」
「そうなの? ふ~ん・・・若く見えるね。オレは、34だから・・・8つ違いなんだ」
「うん・・・」

「それなのに、なんでこんなにかわいいんだろうね・・・。年なんて関係ないよ」
  
「JJ、私、23の時に一度、結婚したことがあるの。でも、相手の人が酒乱で、2年で別れちゃった・・・。夜になると口汚く私を罵ったの・・・。それがだんだん、暴力を振るうようになって、最後はあばら骨が折れちゃった・・・。それで、お姉さんに相談して、別れたの。父や母が生きていたら、我慢なんてしないで、すぐ別れていたかもしれないわ」

「・・・大変だったね・・・」

「今思うと、あれは、DVだよね・・・。昔は、酒乱で片付けられてたけど・・・。もう、17年前・・・。お見合いですぐ結婚したから、相手をよく知らなかった・・・。それから、ほとんど男の人とまともに付き合ったことがないの」

「・・・」

「だから、うまく立ち回れないの・・・どうしていいかわからないの」
「そう・・・」



そう言うと、JJはやさしく私を抱きしめた。私は子供のように、年下の彼に抱かれている。



「もうそんな古いことは忘れろよ。オレは、今、ユナが好きだ」
「・・・」

「好きになってくれる?」
「うん・・・」


私は、こっくりと頷いた。
でも、その後、JJが真剣な顔をして、私を見据えた。
  

「でも、まだハードルがあるな」
「何?」

「おまえの目で・・・確めてほしいんだ」
「何を?」
  
「この先は、ユナが決めろ・・・。オレは、今、おまえがいい。それだけしか言えない」
「・・・」
  

JJには、何があるというのか・・・。
JJは複雑な表情をして、私をじっと見つめている。
  

「うちへ来いよ」
「何か、見せたいのね?」
「うん・・・。来てくれるね?」
「うん・・・」


私は頷いた。


「会社は何時から?」
「9時」

「じゃあ、それに間に合うように、おまえの家まで送るよ」
「・・・今日、見せたいの?」

「ああ・・・」

「うん・・・行く・・・。あなたのところへ行くわ」

  
今、私の中にあふれているのは、JJへの思いだけだ。会社も今の暮らしも全て、二の次・・・。

JJは、私を好きだと言った。
今、私を求めている・・・。私も、あなたが好き・・・。
  


でも、JJの表情は厳しかった。

彼はいつものように、店の後片付けをした。私たちは裏の駐車場に置いた車に乗って、銀行に寄り、そして、彼の自宅へと車を走らせた。
  







彼のマンションは、叔母の家とは反対方向で、新しいマンションが立ち並ぶところにあった。
地下の駐車場に車を入れて、私たちは、JJの部屋へ向かった。5階立ての4階の東南。そこに彼の部屋はあった。
  


「どうぞ、入って」

「お邪魔します・・・」


彼の部屋は、とてもあっさりしていた。生活に必要最低限のものしかなかった。


ここで、結婚生活を始めようと思っていたのか、間取りは3LDKだった。
でも、その中身はガランとしていた・・・。


「よかったら、ソファに座って。あまりものはないけど。ソファとテーブルとベッドがあれば、それでなんとか暮らしていけるだろう」
「うん・・・」




JJは、冷蔵庫から、ミネラルウォーターを出してきた。


「飲む?」
「うん・・・」


彼が二人分、コップに注いだ。

部屋を見回しても、特に見せたいものがあるようには見えなかった。
彼は何を見せたいんだろう・・・。



水を飲み終わると、JJがちょっと間をおいて、私を見た。


「おいで」


彼が寝室に入っていった。


私は、もう覚悟ができている・・・。


彼の後をついて、部屋に入った。





JJは、小さなスタンドの電気をつけて、私のほうを向いて、ベッドに腰掛けた。
  

「これから、おまえに見せたいものがあるんだ・・・」


彼の目がじっと私を見据えている。


「・・・なあ・・・に?」


私は、胸がざわめいた。


「うん・・・。おまえもここに座って」


私もJJの隣に向かい合うように座った。 


  
JJがシャツを脱いだ・・・。

目の前に、彼のたくましい胸が見えた・・・。
そして、肩が・・・。

そして・・・タトゥが・・・。


左肩を中心に胸から背中へ、そして、二の腕に、ドラゴンが描かれていた・・・。



彼は、じっと私を見つめている・・・。
私もじっと・・・そのタトゥを見つめた・・・。



「どう?」
「・・・」


彼は、私に判断を任せている・・・。これから先、付き合うのか・・・別れるのか・・・。
  

私は言葉にならなかった。


何を判断したらいいの・・・。
何を選んだらいいの?
  

「ユナ」
「ごめん・・・どうしたらいいの、私・・・」

「駄目?」
「うううん・・・」


私は首を振った。


「・・・」
「JJ、私に選ばせないで。私に答えを出させないで」
「・・・」
「私は・・・あなたが好き・・・それだけ・・・」




JJがゆっくり私に覆いかぶさって、ベッドに押し倒した。そして、彼が私を上から見下ろした。
  
彼は・・・美しかった。そのタトゥも含めて、全てが美しかった・・・。



「平気? こんなオレでも」
「・・・」


私は答えず、指で彼のタトゥをなぞった。


「ねえ・・・」

「・・・JJ、私、もう引き返せないの・・・」
「・・・」
「あなたが好きで・・・気持ちが、引き返せないの」

  

私を見下ろす彼の目をじっと見つめた。


「・・・抱いて・・・」


JJはちょっと切なそうな目をして、私の目を見つめて、髪を撫でた。


「いいの?」
「いいの。抱いて。抱いてほしいの、あなたに・・・」
「・・・」


JJはじっと私の目を見つめていたが、私のブラウスのボタンを外した。
  

いいの・・・もう私の心はあなたのものだもん・・・。
あなたに愛してほしいの・・・。



彼がブラジャーを外した。


「ユナは、キレイなままなんだね・・・」
「・・・」



JJが私の胸を見て、そう呟いた。 

私はその言葉に涙が出た。
忘れかけていた愛を、今、手にした・・・。


私はまだ生きているんだ・・・。


彼の首に腕を回して、力いっぱい彼を抱きしめた。



「愛してる・・・愛してる・・・今、それがわかった。あなたを愛してる・・・」
「・・・ユナ」

  
彼が唇を重ねた。



彼の肩のドラゴンは、彼の血管が浮き上がると、まるで生きているように、輝いた・・・。

そして、それは、私を見つめていた。

  
「JJ・・・」
「おまえが好きだよ・・・。今のユナが好きだ」


彼はそう言った・・・。
  








私は生まれたままの姿で、彼の腕の中で眠った・・・。

足と足が擦りあって、彼の男らしい足の感触が私を幸せにする。
彼の厚い胸が、太い腕が、私を女にしてくれる・・・。




目覚ましが鳴って、JJが目を覚まし、少し起き上がった。


「ユナ、時間だよ」
「うん・・・」

「ユナ」
「ごめん・・・もう少しだけ、こうしていて・・・」

「ふん。(笑う)早く起きろよ」
「もう少し・・・」



私は、本当に疲れていた。

もちろん、彼の腕の中は心地よかったが、たぶん、多少の気疲れがあったのだと思う・・・。私は本当に目を開けることができなかった。


「わかった。もう少しだけね・・・」
「うん・・・」


そういうと、私は、また彼の腕の中で眠りに落ちた。
さっきと違ったことといえば・・・彼が私を抱いたこと・・・。

眠っているというのに・・・私は女だった・・・。


  






彼に送られて、自分のアパートに戻り、会社の始業時間には支障なく出勤することができた。


でも、デスクに座って、仕事をしながらも、頭の中はJJのことだった。


昨日のことを思い起こす。

たぶん、あれでよかったのだと思う。
彼を好きなのだし・・・それでよかったんだ・・・。

彼が私にタトゥを見せて、私に覆いかぶさったことを思い出すと、全身が燃えるように熱くなった。
  

職場のデスクで、私は一人、赤い顔をした・・・。

決算も終わって、仕事も楽になったので、周りもゆったりとした雰囲気だ。
その中で、私は一人、昨夜を思い出し、頬を火照らせている。
  


「パクさん、どうしたの? 体調でも悪いの?」
「え? ・・・かもしれないわ・・・」

「顔が赤いわよ」
「うん・・・」

「熱かしら?」


私は、向かい側に座っている25才の彼女の顔を見た。

彼女には、私の頭の中はわかるまい・・・。
でも、明らかに、年増の女を見下した目をしている。
  

「風邪かもしれないわ・・・。ちょっと頭痛もするの」
「早退したら。今、忙しくないんだし」

「そうねえ・・・」


早退・・・その言葉に、JJを思い出し、私は、今すぐ会いたくなった。


「今日は帰ろうかな・・・」
「そうしたほうがいいわ。お大事に」
  

課長が私を見た。
  

「めずらしいねえ。パクさんが早引きするなんて」
  
「すみません・・・」
「いいよ。いつも無遅刻・無欠勤なんだから」

「課長? 私に対する当て付けですか?」
「まさかあ! ジウォンちゃんに言ってるわけじゃないよお」


「では、お先に失礼します」


私は立ち上がった。

皆は目礼しただけだった。







私はロッカーへ行き、帰り支度をした。
時計は、2時半を回っていた。

これから、JJがバーに出勤してくる。

私は少しでも早く彼に会いたくて、急いでロッカールームを後にした。





「オバサン、帰っちゃったね」


25才のジウォンが言った。


「その言い方はひどいよ」
「でも、きっと更年期かなんかよ」
「辛辣だなあ」
「そうに決まってる。うちのママも、顔が火照るって言ってたもん」


私が経理の前を通りかかると、そんな会話が聞こえてきた・・・。


「何言ってるのよ。この間、営業のキム君が、『パクさんてキレイだよなあ』って言ってたから、あなた、妬いてんでしょ?」

「違うわよ!」
「全く!」


経理の皆の笑い声が聞こえた。



そう・・・。キム君、そんなこと言ったんだ・・・。


私はちょっとうれしかった。
JJだけでなく、他の若い男に認められたことが自信につながった。



早く、ドリアンへ行かなくちゃ!

私は弾むような思いで、会社を後にした。
  







ドリアンへの階段を駆け上ったのは、午後3時10分だった。

私は、心を落ち着かせて、ドアを開いた。

店の仕込みをしていたJJが振り返った。

  
「・・・どうしたの?」

「来ちゃった・・・」
「・・・」

「会いたくて・・・会いたくて来ちゃったの」
「仕事は休んだらいけないよ」
「うん・・・ごめんね。でも、どうしても、会いたくて。早退しちゃった」
  

JJがやさしく微笑んだ。


「ふん。じゃあ、ここで働くか?」
「うん・・・なんでもする」

「なんでも?」
「うん・・・」

「じゃあ、トイレ掃除をよろしく!」
「え?」

「なんでもするんだろ?」
「うん・・・いいよ」


私は自分でも驚くくらい、快活に微笑んだ。

  
彼の店を一緒に準備することがうれしい・・・。
まるで、彼と私が一つになったようだ・・・。



洗面所に入ってすぐ、目にした鏡に映った私の顔は、輝いていた・・・。

そして、華やかな雰囲気まである。
JJの愛の力で、私はこんなに幸せな顔をしている・・・。

幸せが胸いっぱいに広がった。




トイレ掃除を丁寧に済ませて、バーに出ていくと、JJがうれしそうな目をして、私を見た。


「ご苦労さん」


私はうれしかった。
  








そこへ、いきなりドアが開いた。


「JJ、ごめん! 匿って!」

「どうした?」


20代後半の女が飛び込んできた。

そうだ。この間、ここで、JJの手相を見ていた女だ。


女は私に気がついて、一瞬躊躇したが、緊急のようで、私を無視して、JJにすがった。


「助けて!」
  
「何かあったの?」

「喫茶店であいつと別れ話してたら・・・殺してやるって」
「・・・」

「急に人が変わっちゃって、いきなり、水をかけられたの。それで、てめえ!って、手を出してきたから、目の前のコーヒーカップ、投げつけちゃった。・・・どうしよう。あいつ、いつもナイフを持ってるから・・・。逃げてきたけど、ここだってすぐわかっちゃうかも。バレちゃうかも。いつもここで飲んでるの、知ってるから・・・」

「ウンスか?」
「そう・・・」

「あいつは・・・」


JJが少し考えて、私と女を見た。


「仕方ない。もう逃げてる時間がないな・・・。こっちへ来い。ユナもおいで!」



私たちは、カウンターをくぐって中へ入り、その奥のドアを開けた。


「ここにおとなしくしてろよ」
「・・・」

「ユナも出てきたら駄目だよ。わかったね」
「うん」

「彼女を見てあげて」
「わかった・・・」
  

私とその女は、奥の間の3畳に隠れた。ここは休憩室のようだ。

JJがドアを閉めて、知り合いの刑事に電話をしている。


「ああ、おじさん。JJ。 ウンス、知ってるよね? そう・・・(声を小さくして)少年院出の・・・。うん。今、ナジャが別れ話をしてたら、急に人が変わって手を出してきたって、うちに逃げ込んできたから・・・。何度もやってるからね・・・」


小声でJJが電話で話している。
  
携帯で移動しながら、ドアの鍵をかった。そして、窓から外を覗いた。
  

「じゃあ、よろしく・・・。うん、おじさんが来るまでは鍵は開けないよ」

  

私と女は、奥の部屋からそっとJJの様子を見ている。


「どうしよう・・・。一歩出たら刺されるわ・・・」
「そんな・・・」
「そうよ、きっと。あいつ、すごく気が短いの・・・」
「・・・」

  
JJがドアを開けた。


「おじさんが来るまでここにいろ。今、パトカーで向かってくれるそうだから」
「・・・」

「パトカーには手は出せないだろ」
「どうかな・・・」

「ユナ。悪いね。彼女を見てやってくれる?」
「ええ・・・でも、大丈夫?」

「たぶん・・・たぶんね・・・」


JJがそう言うと、ドアをドンドン叩く音がした。
  


「あれはおじさんじゃないな・・・」


JJの目がきつくなった。


「JJ・・・」
「大丈夫。もうすぐおじさんが来てくれるはずだから。おまえたちはここから一歩も出るな。ちゃんと鍵をかけること。いいね? オレかおじさんが声をかけるまで、静かに。いいね?」
「・・・」

  
「ドアの鍵がもてばいいけど・・・」


そう言って、JJがドアを閉めた。


私は中から鍵をかけた。


「あんた、JJの彼女?」


私は頷いた。
  

「ごめんね・・・巻き込んで。JJが、JJが、付き合うなって反対したのに・・・危ないって・・・。それなのに、私」
「・・・」


私は、女を抱きしめた。



私も胸が痛い・・・。

JJに、JJに、もしものことがあったら・・・。

  
「なんとかなるわよ・・・。きっと・・・きっと・・・」



泣き出したいのは、私のほうだった・・・。








5部へ続く・・・





お楽しみに!




2009/06/14 02:25
テーマ:【創】恋の病2 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋の病2」3






 
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BYJシアターです。

本日は「恋の病2」3部。





これは全てフィクションです。
また私は水商売の経験がないので、記述におかしなところがあるかもしれません。
その点はお許しを。
ここでは、JJとユナの二人の恋の行方を中心にお読みください。
また、特に職業についての考えはありませんが、
年も違う、住む世界も違う二人が知り合って・・・と考えていただければうれしいです。



  

これより本編。
お楽しみください。






人は、
こんな私を見て、
なんと思うだろう

心に空いていた穴に
ぴったりと嵌ったような恋心


恋をすることも
すっかり忘れていたのに


でも・・・

この胸のざわめき

あの人を抱きしめたいと思う気持ち

あの人が触れる女の指を憎らしいと思うジェラシー


これは分析せずともわかる

恋だ


バカげた恋だといわれても

今の私を止めることはできない・・・








ペ・ヨンジュン主演
「恋の病2」3部









「どうしたの? 静かだね」

JJはそう言って、BGMをかけた。


「眠い?」
「うううん・・・」

「・・・」

「何を話したらいいのかなって思って・・・」

「う~ん、そうだねえ・・・」

JJは右折しながら、考えている。



「ホントに海へ行くの?」
「いいだろう? たまには、そういう所へ行きたいなと思って」
「うん・・・」

「水商売をやってるとね、たまに自然に触れたくなるんだよ」
「・・・」



私たちの車は高速に入った。

私は夜の高速から見える街の灯を眺めた。


「こんな夜中でも大きなビルは起きてるのね・・・」
「そうだね。実際に人はいなくてもね、ビルは起きてるように見えるね」

「海は好き?」

「うん。前は、サーフィンをやってたんだけど」
「けど? やめちゃったの?」

「うん、ちょっとね・・・」

「言えないこと?」

「って、わけじゃないけど。一緒にやってた仲間が事故で亡くなっちゃったから・・・」
「それで怖くなったの?」

「そうじゃないんだ・・・」
「・・・でも、やめたくなることがあったのね?」
「まあね・・・」

「ふ~ん・・・。海が好きなんだ」

「うん。ほら、すぐ行けるじゃない。山は、山登りの準備もいるし・・・別荘も持ってないしな」
「そう」


私はちょっと笑った。彼と会話を少しずつ繋いでいる。
彼をすごく感じているのに、お互いにまだ知り合ったばかりで話すことがない。

特に私は話が上手なわけでもないし、それに・・・男の人とこうして二人きりで話すのも何年ぶりかだ・・・。



「君は海と山とどっちが好き?」

「う~ん、どっちも。(笑) あなたみたいに自分から関わっていかないから、自然を見て楽しむ感じかな」

「そう・・・。仕事は何しているの?」
「私? 小さな生地問屋の経理・・・。3月、4月は決算期で忙しいの」
「そうなんだ。じゃあ、お金の計算は得意なんだ」
「というわけでもないけど」


私はJJの横顔を見た。鼻筋の通ったキレイな顔をして前を見つめている。

彼は年上のこんな私と一緒にいて、楽しいのだろうか・・・。



「バーを始めてどのくらいになるの?」
「今年の5月で、丸3年かな・・・。その前は、バーテン」
「そう」

「その前も聞きたい?」
「そんなにいろいろあるの?」

「まあね、水商売はいろいろあるさ。バーテンは、バーを始めたくて就いた仕事だから」
「そうなんだ」

「聞きたい?」

「そんなに聞くと、私のことも話さなくちゃならないでしょ?」
「話したくないんだ」
「うん・・・ちょっとね。別に変なことはないけど・・・思い出したくなくて」
「そ。まあ、いいよ」



「ここで、下りるかな・・・」
「高速、下りるの?」
「うん・・・後は下を走ろう」



私たちを乗せた車が高速を下りた。



私がJJについて知っていることは、あの日、彼が酔っ払いの男の子から私を助けてくれたこと。そして、バーのマスターであること。そして・・・笑顔が素敵なこと・・・そして、私の心を掻きむしるほど・・・感じさせること・・・。



「よし。この道をまっすぐ行こう」
「うん・・・」

「眠かったら、寝てていいよ」
「でも、それじゃあ、あなたが寂しいでしょ?」
「まあね」


信号で止まると、彼が私の顔を見て笑った。


「なんか、緊張してる?」
「う~ん・・・初めての人と、初めての遠出で、ちょっと緊張してる・・・」

「そう? でも、独り者なんでしょ?」

「・・え、そうだけど・・・」

「彼氏はいるの?」

「いないわ」

「ならいいじゃない。誰にも気兼ねはいらない・・・」
「まあね・・・」

「オレも一人だし」

「そう・・・恋人は?」

「う~ん・・・今は、それらしき人はいない・・・」

「じゃあ、そうじゃない人はいるの・・・?」
「そうじゃない人? 難しい定義だね、それ」


JJは信号が青になり、また車を走らせる。


「そう? 私なんか、恋人じゃなかったら、友達? それ以外は考えられないけど」
「そうか・・・」


私は、ここで、少し胸がざわざわとざわめいた。

私の頭の中が、自分で作ったシチュエーションに、ちょっと嫉妬している。
私が一人だということを確認していたのは、自分も一人で、これから恋が始まるという意味だと思っていたから・・・。


そこに、他の女もいるわけ?


彼は別段、何とも答えていないのに・・・私の妄想が、他の女の影を感じて、胸がキュ~ンと痛くなった。


そうじゃない人の定義は何か・・・?



「いろいろな女の人を誘っているの?」
「え? まさか! こうやって、女の人と二人で出かけるのは久しぶりだよ」


遠出をしないで、ホテルに行くのは、久しぶりではないのか・・・?

  

「なんで私を誘いたくなっちゃったの?」
「う~ん・・・君の目が誘ってるからかな」
「え・・・?」

「冗談だよ。姉さんが言ってたでしょ? オレの好みだって」

そういって、JJは笑った。

次の信号で、JJが楽しそうに私を見た。


「好きなんだよ、君みたいな人」
「・・・」

「あんまり、年とか気にしないほうがいいよ。関係ないから」


遊ぶには関係ない?
そういうことね?


「オレには年なんてあまり関係ないんだ・・・」
「・・・」

「いいなと思えばそれでいい・・・」

「遊びだから?」
「そう見える?」
「わからない・・・」


JJは笑った。


「君の目は素敵だね・・・。かわいいよ」


私は、ため息をついた。彼の目があまりにも・・・素敵だったから・・・。


「自分で、気がつかない? 目がかわいいよ。口元も・・・」
「・・・ありがとう」

そう答えるのがやっとだった。
呼吸が苦しくなって、どう答えたらいいか、わからなくなった。


「オレは親もいないから、別に人の目なんて気にしないんだ。自分がいいなと思えばそれでいい」
「そう」

「君は気にするの? 男は年上じゃなきゃ駄目だとか。頼れる感じがいいの?」
「うううん・・・そんなことないけど・・・」
「だったら、いいじゃない」
「うん・・・」

「まあ、オレが二十歳だったら、気になるかな・・・というより、話が合わないよね?」
「そうね」

私はちょっとほっとして、笑った。


「3時か・・・ホント、寝てていいよ。オレに気を使わなくて」
「うん」

「日の出を拝まないで寝ちゃったら、悲しいからさ」
「じゃあ・・・少し寝るね・・・」
「いいよ」

私は、JJの横で、眠りについた。彼は年下だけれど、頼れる。そんな気がした。






それから、しばらくして、私はJJに起こされた。
海に着いたのだ。


「ユナ。着いたよ」
「え? ああ」

私は目を覚ましてぼんやり周りを見回した。


「まだ外は真っ暗だけど・・・もう少ししたら夜明けだ」
「うん・・・」

JJがコーヒーと買い物袋を取り出した。

「さっき、コンビニがあったから買ったんだ。コーヒー、まだあったかいよ」
「ありがとう。あなたって気がつくのね」
「自分が飲みたかっただけだけど」

JJはそういって笑った。

「それから、歯ブラシと・・・君、化粧品持ってきた? 持ってるポーチが小さいから・・・。 これ、肌に合うかどうかわからないけど、コンビニでトラベルセットが売ってたから。顔洗った後、つけたいだろ?」

JJは、自分の分の歯ブラシを取り出すと、私に袋を渡した。

中に基礎化粧品の小瓶の入ったトラベルセットが入っていた・・・。

私は、彼の顔を見た。


この気の利き方って・・・?


私はお礼を言って受け取った。







空が少し明けてきた。


「外で見ようか」
「うん」

「待てよ。その格好じゃ寒いから。ちょっと待って」

JJは車を降りて、車のトランクから毛布とシートを出してきた。


「行こうか」
「うん」


私はまだ薄暗い砂浜をJJについて歩いた。

JJがシートを敷いて、座った。


「こっちへ来てごらん」


彼が膝を開いて、抱くような格好で待っている。私はちょっと躊躇した。


「なんだよ。寒いから、早く」
「・・・うん」



私はJJに後ろから抱かれるように座った。
私が座ると、JJが毛布を開き、二人を包み込むように毛布で体を包んだ。


「どう? あったかい?」
「・・・うん」
「そう」


JJの顔が、私の顔のすぐ右上にあったので、彼の声が耳元で響いた。彼の呼吸も私の耳にかかった。


「ふ~ん、もう少しだね」
「うん・・・」

「ふん。(笑う)また、無口になったね」


そう言って、私に圧し掛かるように、私をギュッと抱きしめて、私の顔を覗き込んだ。私は微笑むことしかできなかった。





空を見上げると、水平線から薄っすらと夜が明けてくるのがわかる。

ゆっくりゆっくり上がっていった太陽が、海を振り切るように、ポンと昇って、海と別れた。
空がオレンジ色に染まった。


「キレイ・・・」
「うん」

「ほら、あそこの雲見て。すごいオレンジ・・・」
「ホントだ」

彼がまたギュッと抱きしめた。



顔に当たる風は冷たかったが、体はJJの温もりを感じて温かい。

こんな心の温かくなる朝焼けを見たのは、何年ぶりだろう・・・いや、初めてかもしれない・・・。


JJの体の感触が直に私の肌に伝わる。重なり合った私の背中は、彼の胸の厚さを感じている。
抱かれた腕は、私を抱いているJJの腕の力強さを感じている。私を挟んでいる足は筋肉がしっかりついていて、硬い・・・。

頑丈な鎧のようなJJに抱かれて、私の胸はまたキュンとした。




「空全体がオレンジに染まったね」
「うん・・・」


私の目はオレンジの空を見上げていたが、私の意識は右頬に当たるJJの頬に集中していた。

私は・・・吐息をもらしたかった・・・。横を向いてあなたの顔を見つめたかった。
でも、私は我慢した。我慢して、何事もないように、彼に抱かれていた・・・。




「ねえ、ここへ来てよかった?」

そういって、彼が右手で私の顎を掴んで、自分の顔のほうへ向けた。私は恥ずかしそうに目を伏せ、彼にもたれた。

あごを掴んだ彼の大きな手は、その親指だけを動かして、私の唇を撫でた。
そして、そのまま、私の顔を引き寄せてキスをした。
私は彼にされるがままになっている。キスされた瞬間、彼のジャケットの肘をギュッと掴んだ。

うっとりと閉じていた瞳を開けて、彼を見た。彼はにこやかに私を見つめていた。そして、風になびく私の髪を撫でた。


「う~ん」

彼は笑顔でもう一度キスをした。


彼の肩にもたれていた私に、彼が聞いた。


「どうしようか。少し仮眠していこうか」
「え?」

私が顔を上げると、彼は笑った。


「この近くに行きつけの民宿があるから。聞いてみようか。よくサーフィンしに来て、休ませてもらってたから」
「うん・・・」


本当の仮眠だった。

私は少しホッとした。




海岸からほんの2分ほど歩いて、小さな民宿の前に立った。


「早すぎない?」
「サーフィンなんて早朝からだから、大丈夫。それに漁師は朝が早いから」


JJが民宿の玄関に回った。



「おはようございます。すみませ~ん」
「はあ~い」


中から老人が出てきた。



「おはようございます」
「あれ、久しぶりだねえ」

「ちょっと休ませてもらえますか? 久しぶりに日の出を見にきたんです」
「そうかい。いいよ。いつものところ、空いてるよ。車はどうした? どこに止めた」


老人が顔を出して、私の後ろのセダンを見た。



「あれ・・・。ワゴン車はやめたの?」

「ええ。もうサーフィンはやらないから・・・」

「そうかあ・・・。でも、また、気が変わったらやったらいい。あまり過去に囚われるにはよくないよ」
「ええ・・・」

「お連れもいるのかい?」
「ええ」
「じゃあ、もう一部屋用意するか?」
「でも、ちょっと寝たらすぐ帰りますからいいです」

「そうか。朝ご飯でも出そうか?」
「いいですか?」
「ああ。じゃあ、10時ごろにするか?」
「すみません」

私も後ろで頭を下げた。





部屋は4畳半ほどの部屋だった。
何もない簡素な部屋だ。


「じゃあ、ちょっと寝て、ご飯を食べさせてもらって、またドライブしながら、帰ろうか」
「ええ」

JJは、布団を一つだけ敷いた。


「一緒に寝ようか」
「・・・」


私はちょっと呼吸が苦しくなった。


「別に変なことはしないさ。君とくっ付いて寝たいだけだよ。いいだろ?」
「・・・」

「海岸と同じ・・・。いいだろ?」
「うん」


上着を脱いで彼が寝転んだ。
私はカーディガンをゆっくり脱いで、JJを見た。



「おいで」


JJが笑顔で自分の横を叩いたので、そこに寝そべった。
JJが腕を伸ばし、腕枕をした。


「これでいいね。お休み」
「お休みなさい・・・」


「うん、お休みのキスを忘れたね」


そういって、私に軽くキスをした。

そして、そのまま私は、彼に抱かれて眠った。彼の胸に顔をつけて・・・まるで子供のように、厚い胸に抱かれて眠った。






海の帰りは、少し寄り道をしながら、私たちは二人の時間を楽しんだ。


私は叔母に電話を入れて、「急な用事を思い出したので家へ帰ってしまってごめんなさい」とだけ、伝えた。

バッグはまた後日とりにいくからと。

叔母は少し納得のいかない様子だったが、「じゃあ、またとりにいらっしゃい」ということで、電話を切った。




JJは、ホントに気が利いてやさしくて・・・私は彼に甘えているだけでよかった・・・。
彼とは、そんなに言葉を交わさなくても、居心地がよかったし、二人でいることが楽しかった。

でも、なぜ、JJが私を誘ったのか。 なぜ、私がいいのか。 それは、全くわからなかった・・・。

彼はどう見ても、マザコンではなかった・・・。
それに・・・こんなキレイでやさしい人なら、いくらでも若くてキレイな女の子との出会いがあるはずだと思った。

なぞはなぞのまま、日が暮れた。







JJの車が私のアパートの近くの通りに止まった。


「今日はありがとう。すごく楽しかったわ」
「うん。ここでいいよね?」
「ええ。ここから歩いて1分くらいだもん」

「・・・ユナ。また、店のほうへ来てくれるよね?」
「うん・・・」

「今度、いつ来られる?」
「・・・」

「わかった・・・。気が向いたら、おいで。待ってるから」
「・・・うん・・・」

「じゃあ」


私は約束できなかった・・・。

JJは、素敵だった。私をドキドキさせて・・・恋をさせてくれた・・・。

でも。

なぜ、私でいいのか、最後までわからなかった。

恋とは、そういうものなのか・・・。

私は、最近、恋などしていないので、よくわからなかった。私は彼を好きになった・・・。
でも、それで、JJによいのか、わからなかった・・・。
そして、私のような平凡な女が、バーのマスターをしている若い彼を持つという現象にも、自分自身が納得いかなかった・・・。

  







それから、しばらくした木曜日。


「あら、キレイなお姉さん」
「え?」

会社の近くのスーパーで、生鮮食料品を見ていると、後ろから声をかけられた。


「あのう・・・」
「私よ、こ・ん・ば・ん・は! わからない?」
「姉さん?」
「そう!」


ほっそりとした顔の、やなぎ腰の男が私を見下ろしていた。
長い髪を後ろで束ね、化粧もしていなかったので、すぐには「姉さん」だとは気がつかなかった。
でも、服装は同じスーツ姿でも男のスタイルとは違っていた。彼女は、白のテロンとした「パンタロン」をはいていた。



「ここの駅、使ってんの?」
「ええ、会社がこの近くにあって・・・」

「そう。今日は私、ママの代わりに請求書持って、会社を回ってたの。ねえ、何買ってんの?」
「え? 今晩のおかず・・・魚にしようかなと思って・・・」

「あら? JJの所へは行かないの?」
「え? まあ、そんなにしょっちゅう行ったら、おかしいでしょ?」
「ちっともおかしくないわよ。行きなさいよ」
「でも・・・」


それは毎日会いたい・・・。


彼と別れた日には、次の約束ができなかった。
あの日のことがそれほど心に残るとは思わなかったから・・・。

でも、あれから、時間が経つにつれ、彼が私の中で大きく広がって、気がつけば、彼のことばかり考えている・・・。
二人で過ごした時間が愛しくて、また、彼に会いたくなる。

なのに・・・。

本当に私でいいのか・・・。単なる遊びなのか・・・。



「・・・あんまり、押しかけて彼に迷惑かけたくないんです・・・」
「迷惑かしら? だって、あの子があんたを気に入ってるんじゃないの?」
「・・・」

「どう見ても、あんたから積極的にいってるようには見えないんだけど。こんな真面目さんの服装して・・・」
「・・・」

「でも、本当はあんたも好きね? そうでしょ?」
「・・・」

「好きじゃないの?」
「いえ・・・好き・・です」

「よね? 目がそういってる。好きだって。恋してるって」
「・・・」


「なら、同伴出勤しよう!」
「え? 姉さんの所へですか? 私、あんまり、お金ないんです・・・」

「バカね。JJの所よ。うちは、男の客ばっかりだから。あと、ババアね。オカマ好きの。皆、ブスばっかり。気はいいんだけど、ブスばっかり」


私は姉さんの話し方がおかしくて笑った。


「あんた、笑うとすごくかわいい。本気なら、通い詰めなくちゃ。あの子、もてるでしょ? 狙ってるのが多いんだから」
「そうなんですか?」

「見てわかるでしょ? あの美貌よ。元の客が今だに通ってくるもん」

「元の客って・・・?」
「ほら、ホスト時代の。忘れられないのよ! あいつが」



私は、急に呼吸が苦しくなった。
JJは元ホストだった・・・。

たくさんの女を相手にしてきた男・・・。


「そうですか・・・」
「どうした? 怖気づいたの?」
「・・・いえ」

「行くわよ! その魚、置いて。お店になんか持っていけないでしょ?」
「ええ・・・まあ・・・」

姉さんは、私が手にしていた魚の切り身のパックを戻して、私の腕を引っ張り、JJの店へ連れていった。



「もう、あんた。ぐずぐずしてたら駄目よ。男と女の世界はね、先手必勝なんだから」
「・・・そうなんですか?」
「そうよ! まあ、私はあいつに振られちゃったけどね。男には、興味ないって」
「はあ・・・」

「ねえ、どうしたの? 行くでしょ?」
「ええ・・・」


「実は私、あんたがここのスーパーに入るの、見つけてついてきちゃったの・・・。JJにはさ、あんたみたいなまともな女と付き合ってほしいからさ」
「・・・」

「ここの世界はさ、すれっからしばっかりでしょ? あの子にはそういうの、似合わないからさ。おいで!」

JJはホストだった。

やっぱり、JJは、私とは、まるで違う世界に住んでいた。



ホストなんて・・・私の大嫌いな人種・・・。

今、バーのマスターになって、私と近くなったのだろうか・・・。

こんなにも私の心を波立たせる彼・・・。



この間は、彼の腕の中で眠って、私は安らぎを感じた。

あの安らぎは多くの女が感じたことなのだろうか・・・。







少し躊躇する私を引っ張って、姉さんは、ドリアンのドアを開けた。


「いらっしゃい」


6時を少し回ったばかりのせいか、店にはまだ客が入っていなかった。


「おはよう! 今日は同伴出勤しちゃった」

「どうしたの? 姉さんのバーに行くの?」
「違うわよ。あんたの所へ届けにきたのよ。この子がスーパーで夕飯のおかずなんか買ってたから」


私とJJは見つめ合った。

JJはじっと私を見据えた。

彼が今度いつ来られるって聞いたのに、私は答えられなかった。


彼は怒っているだろうか?




「お二人さん、こちらへどうぞ」
「並んじゃおうね」

姉さんがにこやかに私を見て、エスコートしてくれた。


私は、JJの顔を見た瞬間から、もうドキドキしていて、歩くのもやっとだ。
JJはポーカーフェイスで私を見て、コースターとお手拭きを置いた。



「ねえ、JJ。私はこれから仕事だから・・・。コーヒー、まだ残ってる?」
「いいよ。ユナは?」
「私は・・・」

「この子、まだ食事してないのよ。会社の帰りがけだもんね」

「そうか・・・。サラダと・・・トーストでも食べるか・・・。ここはバーだから、もうこの時間は火を使った料理は出せないから。店が臭うだろ?」

「よかったじゃない。JJが作ってくれるサラダなら、いいわよね」
「・・・ありがとう」


JJは食パンをトースターに入れると、冷蔵庫からレタスと生ハムをとり出す。


「そうだ、温泉卵もあるから・・・これも添えてやるよ」


食パンが焼きあがったところで、8等分に切って、軽くバターを塗った。
皿にパンを並べ、その上にレタスと生ハムをあしらい、真ん中に温泉卵を解すように置き、ワインビネガーとオイルで味付けをして、私の前に出した。


「自分であえて食べてごらん」
「うん・・・」

「やだ、おいしそう」
「少しあげるわ」

「ホント? ユナちゃんと間接キッス。いいわよね、JJ?」

JJがふんと笑って、私と姉さんにコーヒーと水を出した。



「おいしい」
「そう?」
「うん」

「私もおいしい」
「ありがと」

「今度は私のために作ってね」
「バカ・・・」


姉さんはコーヒーを飲みながら、私とJJを見ている。



「いい感じなのになあ・・・まだ、あっちのほうには発展してないのね? ユナちゃん」
「え?」
「なんか、まだよそよそしい」


私はトーストが喉に詰まった。


「姉さん、下らないこと言ってないで、出勤したほうがいいよ。もう6時半過ぎてるよ」

「あら? もうこんな時間。でも、今日は出勤前にお仕事してきたから、少し遅れても大丈夫。ユナ、今度は本当に同伴出勤してね」

「・・・」

「じゃあ、JJ、ご馳走様」

姉さんがテーブルに代金を置いた。



「いいよ」
「そういうわけにはいかないわよ」

「ユナを連れてきてくれたからさ。おごり」
「サンキュ。やっぱり、連れてきてよかったのね。じゃあ。ユナ、頑張りなさいよ」


姉さんは、私とJJを残して、帰っていった。

二人だけになった。



「一人じゃ・・・来られないの?」
「・・・」

「どうして?」


JJが私を見据えて、カウンターごしに手を伸ばしてきた。

そして、この間のように、私の顎を掴んだ手で、親指だけ動かして、私の唇を撫で、私の口の中にそっと指を入れた。

私は彼にされるがままに、目を瞑った。






「お兄さん、こんばんはあ」


店のドアが開いて、客が入ってきた。

JJは手を引っ込め、私の皿を片付けた。

これから出勤らしきホステスが客との待ち合わせをしているらしい。
ホストらしき男も入ってきて、同伴する客を待っている。
普通の男女も、男同士も、今の時間は、ここで飲むというより、待ち合わせのようだ。






私だけ、バーの雰囲気とは少し違っているような気がして、どうしていいのかわからなくて、カウンターの隅で静かに座っていた。

しかし、さっきのJJの仕草で、私の内側は、熱く燃えていた。



「もう一杯、コーヒーでも飲むか?」
「どうしよう・・・」

「ここが混むのはこれからだから。皆、食事をしてからここへ来るから、飲む客が入るのは8時過ぎかな・・・。今の時間は待ち合わせの人ばかりだよ」

「そうなの・・・」

「今日はこのままいられるの?」


JJが小皿に、キスチョコを乗せて、私の前に置いた。



「・・・」

「コーヒーを出そう」



JJが私に2杯目のコーヒーを入れると、ドアが開いて、女が入ってきた。





「こんばんは」

「いらっしゃい」

「いつもの・・・」

「OK」


「JJ、今晩、空いてる?」

「いや」

「そう、そっか。つまんないな」

「どうした?」


「これから、あいつのとこ、行くんだけどさ・・・。 最近、なんかつまんなくって。JJじゃないと、すぐ飽きちゃう」
「なら、家でテレビでも見てたほうがいいんじゃないの」

「やだ。その方がもっとつまんない・・・。ねえ、手え、貸して・・・」



女がJJの手を握った。そして、手相を見て話している・・・。

あの女も、ホスト時代の客なのか・・・。

JJの女を見る視線がやさしかった・・・。私の胸はキュンとなって、そして軋んだ。


女はJJの手をずっと握っていた。 

他の客に呼ばれて、JJが手を外すのに、女の手を両手でぎゅっと握って、少しお茶目に笑った。

私は、彼が両手で握ってあげた女の手を食い入るように見つめた。




突如、私の中で湧き上がった女へのジェラシー。それは渦を巻いて、グルグルと私の全身を縛り上げる・・・。

そして、暗く重い雨雲を私の心の中へ運んできた・・・。


こんなに、あの女が憎らしく見えるなんて・・・。




私は静かに座りながらも、JJを執拗に目で追っている。

どうか、もうあの女のところへは行かないで・・・。





7時半を境に客層が変わってきた。

待ち合わせや同伴出勤の客が帰って、少し酒の入ったサラリーマンたちがやってきた。

あの女も、きっと行き着けの男のところへ行くのだろう。

飽きたと言いながらも、つまらないと言いながらも、男なしではいられないのだ・・・。


私には、やっとホッとする「普通の客」ばかりになってきたが、店がだんだん混んできたので、今日はこれで帰ろうかなと思った。


JJの手が空いて、彼が私のところへやってきた。



「何か飲むかい?」

「JJ、混んできたから、もうそろそろ、私・・・」


そこまで言って、JJの目を見ると、彼の目が「帰るな」と言っているように見える。



「何飲む?」

「・・・」


私が答えないと、JJは勝手にカクテルを作って、私の前に置いた。

  

「これ飲んで、待ってて・・・」


彼が睨むように、じっと私を見た。


私は呼吸が苦しくなった。



もう、私は勝手には帰れない・・・。
彼が許してくれるまで。


彼が帰っていいよと言うまでは・・・。









4部へ続く



お楽しみに!




2009/06/13 10:07
テーマ:【創】恋の病2 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋の病2」2






 
BGMはここをクリック!







kiko3です。

創作の続きをアップします^^

創作は読み手が少ないのですが^^
それでもいいです^^

ブログは、その人の心の表現の場。

だから、それでいいです^^

ここのブログって、65000字も入るの、ご存知でしたか?
すごいですよね^^

サークルもそうなるといいね^^なんて、楽しみにしているんですが・・・。






BYJシアターです。



本日は「恋の病2」2部。
ざわざわと胸の中に広がっていく恋の予感・・・。
そんなものを楽しんでください^^

これは全てフィクションです。
また私は水商売の経験がないので、記述におかしなところがあるかもしれません。
その点はお許しを。
ここでは、JJとユナの二人の恋の行方を中心にお読みください。
また、特に職業についての考えはありませんが、
年も違う、住む世界も違う二人が知り合って・・・と考えていただければうれしいです。


ではここより本編。
お楽しみください。

  





人は、
こんな私を見て、
なんと思うだろう

心に空いていた穴に
ぴったりと嵌ったような恋心


恋をすることも
すっかり忘れていたのに



でも・・・
この胸のざわめき


あの人を抱きしめたいと思う気持ち

あの人が触れる女の指を憎らしいと思うジェラシー



これは分析せずともわかる

恋だ


バカげた恋だといわれても
今の私を止めることはできない・・・

  





ペ・ヨンジュン主演
「恋の病2」2部









「ユナ、あなた大丈夫?」
「何?」
「なんか心ここにあらずみたい」

「そんなことはないわよ」

「だって、いつもは、このおかずに入ってるのなあに?って、あなたいろいろ言うくせに。今日はず~っと黙ってる」
「そうかしら。今日のはすごくおいしいなって思いながら、食べてるわよ」

私は、叔母のウンジュを見て笑った。


「本当? なんか怪しいけど・・・。ねえ、少し飲まない?」
「え?」

「飲もうよ。どうせ、泊まっていくんでしょ?」


叔母が席を立って、キッチンのほうへ行く。


「お姉さん。どこか・・・外に、飲みにいく・・・?」
「ええ~? もうご飯食べちゃったし、面倒じゃない? うちでゆっくり飲もうよ。そのほうが安上がりだし。山(サン)でいいよね? 冷でいいかな?」

「うん・・・」



叔母は冷蔵庫から氷を出して酒の準備をしている。

私は、叔母の家へ来てからも、JJのことが頭から離れなかった。


というより、なんか・・・どんどん、彼が私の中で広がっていくのである。
最初は、頭の片隅。だから、叔母の話も聴けた。


なのに、JJがどんどん広がって、私の右脳から左脳から前頭葉から、海馬まで、全てを埋め尽くしていっている。



指先から連想して? JJ !

では、2×8+9= JJ !

では・・・明日の天気は? う~んと、JJ !

では、詩を読む時に一番大切なことは? JJです・・・。


そう? 

なら、

あなたが、抱きしめられたいと思っているのは?  ・・・JJです・・・。


今、一番、会いたいのは?


JJよ!






「どっこしょ。外で飲むっていっても、駅前なんてサラリーマンばっかりだし」
「そうよね・・・うちが楽ね・・・うん」
「でしょ?」
「うん!」



私は叔母の目を盗んで、時計を見た。

まだ8時を回ったところだ。


「どうしたの? なんかあるの? さっきから時計ばっかり見てる」
「ん? 別に・・・」

「そうそう。ユナにねえ、お見合いの話がきてるのよお」
「そうなの?」

叔母は引っ込み思案の私を心配して、よく見合いの話を探してきてくれる。


「結構いい感じの人よ。ソウル市役所に勤めてるんだって。生活は安定しているわよ」
「へえ・・・いくつ?」
「ええとね。写真見る?」
「あるの?」
「うん」

「いいわ・・・まだ、いい。でも、いくつ?」
「53、4くらいだったかな」

「それでいい感じっていうの?」
「でしょ?」

「そんな、年上・・・」
「だって、10歳くらいしか違わないのよ。最近の縁談じゃあ、若いほうじゃない」



確かにそうだ。

40を過ぎてから、急に相手の年齢が上になった。それに、子供なんて当たり前のようにいる。
皆、子供が成人しているなんて、ラッキーだとか言っちゃって・・・本当にそう? 

私だって、まだまだ産める年なのに・・・何がラッキーなの・・・? 

成人した子供の代わりに老後の面倒を見るのがラッキーなの?




「ねえ、実直そうな人だったわよ。写真見なさいよ」
「いいわ。いらない・・・」

「でも、勿体ないわ・・・せっかくのチャンス」
「何がチャンスよ? お姉さんとのほうが、ぴったりの年頃じゃない」
「ユナ!」
「私・・・もっとちゃんとした相手がほしい・・・ちゃんと私を見てくれるような」
「あら、おじさんだから、いい加減てことはないわよ。あなたは年頃より若く見えるし、かわいいもん。きっと、かわいがってくれるわよ」

「かわいがる・・・ああ、なんか嫌・・・そんな表現しないで」

「そんなこと、言いなさんな。縁は大切にしなくちゃ」
「・・・」

「ねえ、気分直しに飲もう。ね?」
「うん・・・」
「なんか、気になるの?」
「・・・別に・・・」

「オンザロックでどうぞ」

「ありがとう」

「まあ、お見合いのほうは、気が向いたら、声かけて。このまま、一人なんて寂しいわよ。私は、ユナがこうやってきてくれると、楽しいけど。あなたがそれで終わっちゃうのが、ちょっとね、叔母としては、かわいそうなの」

「うん・・・考えておく」



叔母はにっこり笑うと、楽しげにいろいろと最近の身の周りの話をしてくれて、私を楽しませてくれた。



でも。

私の頭の中は・・・あのカウンターの中にいたJJのことばかりだ・・・。



「1時看板だから・・・」

彼は、私を待っているだろうか。

待っていなかったとしても・・・私は彼に・・・会いたい。

久しぶりに、男の人にしっかりと見つめられた。



帰りがけ、ドアを開ける瞬間、彼の胸が私の肩に触れた。男を感じた・・・。



私は叔母を前にしながらも、胸の中に燻り始めた火を消すことができなかった。







「あ~あ、なんか眠くなっちゃった。今、何時かしら」

叔母が時計を見た。

「10時半か・・・早いけど、寝ていい? なんか、今日は眠たいわ。いつもより多く飲んだかな・・・」


そう、私は、あまり飲まなかった・・・。
叔母の話に笑ったが、気がそぞろで、どんな話だったかもよく覚えていない・・・。



「布団敷こうか。もうお風呂はいいわ、今日は。ああ、眠い。あなたも適当にして、お風呂に入って寝なさいね」



叔母はそう言うと、さっさと寝てしまった。




私は、後片付けをして、風呂に入り、布団の上に寝転がった。
目を瞑っても、心が起きていて、寝付くことができなかった。



待ってるかしら・・・。

お客がいっぱい来ているんですもの。

気になんてしていないわ。



ああ、どうしよう・・・。



私は、てんてんと寝返りを繰り返す・・・。

そして、ハッと気がついた。

なんでこんなに重く考えていたんだろう。

彼はバーのマスターで、いつも客に言うように、「また来てくださいね」と言っただけかもしれない。
近くに泊まりにきているのだから、「ちょっと飲みに来ちゃった」と軽く言えばいいじゃないか。



今日、行かないでまた次回といっても、それでは彼が忘れてしまうかもしれない。

私は・・・覚えていてほしい・・・。





私は起き上がって出かける準備をした。
洗面所で鏡を見ると、顔がテカテカ光っているので、メイクだけさらっと仕上げた。
薄くファンデを塗って、頬紅をほんの少し高めの頬に差し、マスカラを少しと、眉を少し書き足した。リップはグロスだけ塗り、できるだけ素顔っぽく仕上げる。髪は洗いっぱなしだったので、ミディアムショートヘアの髪にゆるいウェーブが出ていたが、それが返って、若々しく見えたし、自然な感じがしたので、ブローせず、それに軽くトリートメントを手ぐしで撫で付ける程度にした。



服装も普段着を意識した。

ちょっと寝る前のナイトキャップといった感じに見せたくて、カットソーにカーディガンが羽織る。パンツははいてきたクロップドパンツでいいだろう。ハンドバッグも仰々しいので、化粧品を入れてきた小さなポーチに、リップとコンパクトと財布とハンカチだけを入れた。

玄関で、叔母のサンダルを借りようと思ったが、あまりにラフなので、素足にヒールを履き、玄関を出た。







もう午前0時を回っていたが、それでも、なぜか私は「今日を逃していけない」という気持ちに駆り立てられていた。


夜の街を走りに走って、私は「ドリアン」へ向かった。









1時が看板と言っていたから、まだやっているはずだ。

狭い階段を駆け上って、あめ色のドアを思い切り開いた。




バーの中は、カウンターに客が一人座っているだけだった。



私はちょっと気後れして、カウンターの中を見た。

JJが鏡に映った私を見つけて、振り返った。 

  

「来たね」
「・・・」

JJが私を見てうれしそうな顔をした。暗いバーの中で、彼の顔だけがライトに当たったように輝いて見える。

JJがコースターとおしぼりを置いて、席を指定した。


「こっちへおいで」


JJがじっと私の目を見据えているので、私は胸の鼓動がどんどん速くなってくるのが自分でもよくわかった。

足が縺れそうになりながらも、ゆっくりと、カウンターへ近づいた。



客が私のほうを振り返った。



「あら。ずいぶん、キレイなお姉さん、捕まえちゃったんじゃない」


私はその言葉に驚いて、その客を見た。

その客は、女装をして・・・たぶん、男だ。 にんまりと、私を見ている。


「余計なこと、言うなよ」

JJが言った。


「さあ、お姉さんの隣へいらっしゃいよ!」

その客がうれしそうに私を手招きした。



「隣に座ってやってくれる?」
「え、ええ・・・」


私は、その奇妙な客に頭を下げて、隣へ座った。



「何飲む?」
「そうねえ・・・」

「私のと同じの、作ってあげて。このキレイなお姉さんにも」
「・・・」

「じゃあ・・・同じカクテルでいいね」

「強くしなさいよ。襲えるように」
「え?」

私は驚いた。

「この人の言うことは聞かないようにね。女性用に軽くするよ。心配しなくて大丈夫だよ。こっちのお姉さんは特別なお姉さんだから」

JJが笑った。




「・・・空いてるのね・・・もう看板だから?」
「違うの。客をどんどん帰しちゃったのよ。遅く来た客には、『もう看板です』って言うくせに、店を閉めない。怪しいなと思ったの。私を一人占めしたかったんじゃなかったのね。あなたを待ってたのね」

その客は笑って、私を見て、挑戦的な目をした。



「その人、あっちの方面の人だから。気にしないで」
「あっち?」
「私もあなたの仲間よ。仲良くしましょう」


ああ、オカマか。


「ふ~ん。JJは、こういう子が好きなんだ」


オカマが私をじっと見た。

JJは黙って私を見て、にんまりした。


「ちょっと清楚な感じのキレイなお姉さんね・・・。まだ蕾って感じがいいわね。でも、ホントはもう蕾じゃない・・・そこがいいのかしら?」

「・・・」

「私、彼と寝たことあるのよ・・・」

「え?」

「裸で・・・」

「・・・」

「男同士でだろ? はい。カクテル」


JJが出したオレンジのカクテルにはミントの葉が乗っていた。
JJが微笑んだ。



「男同士だって、裸は知ってるもん。すごくいいわよ・・・シビレちゃう」

そういって、オカマは私をじっと見て、笑った。


「姉さん。この人、堅気なんだから、あんまりどぎついこと、言わないようにね。気をつけて」
「そ。堅気さんなの? それで清楚な感じなんだ・・・。堅気でも、恋があなたをこの時間にここへ来させちゃうんだわね・・・」


姉さんはそういってにんまりして、また、私をじっと見た。

私は、心の中を見透かされているようで、頬を赤くした。






「看板をしまってくるよ」

JJがカウンターを出て、ビルの入り口に出してある看板をしまいにいく。
JJがバーから出て行くと、姉さんは私のほうへくるっと体の向きを変えて私は見た。


「ほら、あんたを待ってたでしょ」
「・・・」
「彼、何回も時計、見てたもん・・・」
「・・・」

「あなた、キレイな肌してるわね・・・」
「私・・・若くないです・・・」

「そんなのはわかるわよ。でも、とても若く見えるわ。肌がキレイ。水商売はさ、若い子でも肌がボロボロの子がいるから。年なんて関係ないの・・・。手入れされた女の勝ち。年なんて・・・。いい女なら、それでいいのよ」
「・・・」

「私なんて、この道、30年もやってるんだもん。女も男もたくさん見てきてるから。いい女には年は関係ないわ・・・」
「・・・」


ドアが開いて、JJが戻ってきた。



「何、話してたの?」
「この道、30年の話」

「そうだよね。長いよね、姉さんは。もう一杯飲む?」
「ブランデイにしようかな・・・ねえ、JJの驕りにして」
「ふん。(笑う)いいよ」

「やった! やっぱり、男はいい女には弱いわね」


姉さんが私に目配せした。



私はJJと姉さんを見つめた。私は、結構、この空間は好きかもしれない・・・。なぜか、心が和む。



「安心して飲んでいいよ。送ってあげるから・・・」
「あら、送り狼に変身しないの? つまんないわね」
「・・・」

「あんただって、つまんないでしょ?」
「私は・・・」

「姉さん。堅気をからかわないようにね」                                          

「ごめ~ん。いつものくせが出ちゃう~」
「ふん。(笑う)」

私も控えめに笑った。



「あらん、笑ったじゃない。かわいい・・・。ねえ、JJ、この子、かわいいわあ。笑顔がすごくかわいい」

「ねえ、まだ酔ってないくせに。ふざけないでよ」

「バレたあ? ねえ、乾杯しましょ。キレイなお姉さんに」
「そうするか」



JJが私用と自分用に、水割りを作って、私たちは三人で乾杯した。
その後、姉さんのオカマ道の話を小一時間聞いて、私はあまりにおもしろいので、大いに笑った。


時間はもう1時を回っていたが、私はJJにタクシーに乗せてもらえばいいと、その時は考えていた・・・。



「じゃあ私はもう帰るわね。ああ、楽しかった。お二人さんで仲良くね・・・」
「気をつけて帰れよ。タクシーに乗せてやろうか?」

「サンキュー。JJ、大好きよ。私のために、タクシー拾ってくれる?」


少し酔っ払った姉さんの肩を抱いて、JJが私を見た。


「すぐ、戻ってくるから。待ってて」





狭い階段を酔った姉さんを抱いて、JJが下りていった。
私は通りの見える窓のほうへ行き、JJと姉さんの様子をみた。JJは姉さんを担いで、タクシーを探している。
やっと拾ったタクシーの中へ姉さんを押し込もうとすると、姉さんは、タクシーに乗る間際、JJの頬にキスをした。

無事に姉さんのタクシーが走り出すと、JJが向きを変えて、通りを戻ってくる。



そして、彼はドリアンの窓の方を見上げた。

窓から覗いている私と目があって、二人はじっと見つめ合った。


私は、なぜか・・・ここで、覚悟を決めなくてはならないような気がした。


あの人が私に向かって歩いてくる・・・。
あの人が、私の中へやってくる。そんな気がして、私の動悸は一気に高まった。








ドアが開いて、JJが戻ってきた。

JJがにっこりした。


「二人っきりになっちゃったね」
「・・・」

「どうしたの?」
「ん? 何でもないけど・・・」
「けど?」

「ごめんなさい・・・うまく言えないわ・・・」


JJは私を見つめながら、カウンターの中へ入った。


「どうする? まだ飲む? 帰る?」
「・・・」

「どっち?」
「どっちかしら・・・」
「どうした? 緊張してるの? 二人きりで」
「・・・」

「来てくれてありがとう・・・」

「私が来ると、思った?」

「う~ん、懸けかな・・・。でも、君は来た・・・一歩前進・・・」
「・・・一歩前進?」
「そう・・・二人の仲が一歩前進・・・」


JJは笑った。

私は、呼吸が苦しくなった。

男に見据えられて、こんなことを言われたことがなかったから・・・。


「私・・・あなたより、年上よ」

「だから?」

「だから・・・」

「君はただ飲みに来ただけ?」
「・・・」

「オレには興味がなかった?」
「興味って・・・」


JJが水を一杯を飲むと、私を見て、カウンターから出てきた。

そして、私の座っているイスを彼のほうへクルっと回した。イスが回転して、私とJJが正面から向き合った。


「オレに興味はない?」
「・・・」

「オレはあるよ。君に・・・」


JJが私の足の間に割って入って、私とJJの顔の距離がより近づいた。


「困らせないで」

「本当に困る? 困るようなら来ないでしょ?」

「・・・こんなこと、初めてだから・・・」

「・・・男に誘われるのが?」


「もっと、お客さんがいっぱいいて、あなたを・・・あなたを観察できるのかと思った・・・」
「それが客は帰って、いなかった・・・」
「そう・・・」

「もっと早く来ればよかった」
「そうね・・・そうだけど・・・なかなか、気持ちが決まらなくて」

「ただ、来るだけなら、気持ちなんて決めてくることないじゃない」
「そうね・・・」
「・・・だろ?」

「私、混乱してきちゃったわ・・・。もう帰ったほうがよさそうだわ」

「一人の家へ?」
「・・・」
「それとも、オレのところ?」
「え?」
「それとも、叔母さんのところ?」
「・・・」

「その服装からすると、叔母さんのところがベストかな?」
「・・・」

「シャンプーがいいニオイだ」

「・・・」

「石鹸のニオイもする・・・」

「・・・」


そんな意味で、お風呂に入ったんじゃないの・・・。



「どこへ行きたい?」

「どこって・・・? こんな夜中に?」


「オレはまだ寝ないんだ。いつもここを片付けてから帰ると、早くて、4時。普段は5時ごろに寝る・・・」

「でも・・・」

「少し待って。ここを片付けるから。そうしたら、二人でどこかへ行こう。車で送るよ」
「・・・」

「どうせ、明日は休みだろ? ここも日曜日は休みだから。 待ってて」


そう言って、JJはカウンターの中へ入り、残りのグラスを洗い、カウンターを拭いた。
彼は、生ごみの袋を縛ると、それを持って、カウンターから出てきた。


「ビルの地下に置いてくるから待ってて」



そして、戻ると、レジの精算をして、現金を銀行の夜間金庫用のバッグに閉まった。

そして、バーの中を簡単に点検すると、私を見て、笑った。



「待たせたね」

「じゃあ、行こうか。トイレはいいの?」

「あ、借りるわね」


私は、彼のペースに飲まれたまま、トイレに向かった。

鏡で自分の顔を確認する。
唇にグロスを足した。



トイレから出てくると、JJがジャケットを持って待っていた。


「行こうか」

「・・・」


ドアを出る時、また彼の胸に肩が当たった。

JJの男を感じる度に私の胸がキュンと痛くなった。



ビルの裏に駐車場があり、彼の車が止まっていた。

セダン型の白のフォードに、二人で乗り込んだ。



「ちょっと、銀行に寄らせてね」

そういって、近くの銀行の前に車を止め、夜間金庫にバッグを入れた。



「さあ、デートしようか」
「・・・」

「まずは・・・海でも行ってみる?」
「え、そんな遠く?」

「もっと近くがいいの? ホテルとか?」
「・・・」


私は困ってしまって、言葉が出なかった。


「まずは、海までドライブ。それがよさそうだな。いいだろう? 夜明けの海が見られるよ」
「ええ」

「じゃあ、行くか。夜の高速はロマンチックだよ。特に、素敵な人と一緒の時はね」
「・・・」



そう言うと、車を発進させた。



「それにしても、そのシャンプーは香りがいいよ」

彼は運転しながら、そう言った。



私には、キスをされるより、その一言のほうが体の中の全てを溶かす効果があった。







3部へ続く




お楽しみに!
















2009/06/12 02:26
テーマ:【創】恋の病2 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「恋の病2」1

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BYJシアターです。





ブログでは以前の作品を置いています。
これは2007.5~連載したものです。

ブログは家主の心の表現の置き場所ですので、
私の部屋となれば、創作は置かないわけにはいかないので
ここに置きます・・・。



本日は「恋の病2」です。


以前連載した「恋の病」とは、主人公・内容等、全く別物です。
主人公の「JJ」は前回の「J」ではありません。
その点をご承知おきください。



では!

ここより本編。
お楽しみください。








今日、私は42歳の誕生日を迎えた。

だからといって、別段、なんてことはなかった。
いつもと全く変わらない。
いつもと違ったことといえば、決算期で残業したこと・・・。
誰も「誕生日だからお帰り」とは言わない・・・。
まあ、誰も誕生日だなんて知らないのだけれど・・・。
  



人は、
こんな私を見て、
なんと思うだろう

心に空いていた穴に
ぴったりと嵌ったような恋心


恋をすることも
すっかり忘れていたのに


でも・・・

この胸のざわめき

あの人を抱きしめたいと思う気持ち

あの人が触れる女の指を憎らしいと思うジェラシー


これは分析せずともわかる

恋だ


バカげた恋だといわれても

今の私を止めることはできない・・・
  






ペ・ヨンジュン主演
「恋の病2」1






残業をして、会社からの帰り道。
暗い通りを歩くのが嫌で、私は、駅までの近道でもある「飲み屋横丁」を歩いた。普段の私は、そこを6時前に通るので、それほどの喧騒もなく、整然とした様子の通りを通っていた。
今日は、午後11時も回って、飲み屋横丁にはヨッパイがあふれ、女が笑い、いつもとすっかり違った様相を呈している。
私は、そんな通りを、ちょっとうつむき加減に、目立たないように歩いた。それなのに、学生のような男に捕まった。


「ちょっとお姉さんさ。おばちゃんかな? おばちゃんさ。あんた、生きてて楽しい? おばちゃんしてて楽しい?」
「・・・」

学生は酔っている。


「よう。答えろよ」
「・・・」
「なんか言えよ。おい、ババア」
「・・・!」

この男を避けて通ろうとしても、男が前に立ちはだかる。私は一歩も進めない。


「よう、なんか言えよ!」
「・・・」
「ちょっと」

通りかかった男が私の腕を掴んだ。


「何だよう。オレがこのおばちゃんに話してんだよ」
「オレの連れだ」
「・・・」
「なんか文句があるのか」
「・・・いえ・・・」

サングラスをしたその男が私の腕を引っ張って、学生のような男を睨みつけた。
学生は仲間に引っ張られ、また飲み屋の中へ戻っていった。


「すみません」
「いいんですよ。こんな時間に、女の人がここを一人で歩くのはよくない」
「ええ」

「どこまで行くんです?」
「駅まで。今日は遅くまで残業で・・・暗い道を通りたくなくてここを通ったけど・・・失敗だったかな」
「まあ、変なのがいますからね。駅前まで送っていきますよ」
「でも、悪いです・・・」
「その近くまで行くから」
「そうですか? すみません」


背の高いその男は、年の頃は、30前半であろうか。
カーキ色のトレンチコートを着て、私の真横を歩いている。


「本当にすみません。いつもはもっと帰りが早いんですけど・・・今は、決算期でこんなに遅くなってしまって」
「そうですか」
「あなたは?」
「僕?」
「ええ・・・。あ、ごめんなさい。初めてお会いした方にいろいろ聞いちゃって・・・私、しゃべりすぎました」
「いいんですよ。今日はちょっと用があって。普段はここの駅は使ってないんだ」
「そうなんですか。でも、助かりました」
「もうすぐ駅ですね」
「ええ」




地下鉄の入り口で、男は立ち止まった。


「じゃあここで」
「お乗りにならないんですか?」
「僕はこの先に用があるので、ここで」
「どうもありがとうございました」

伏し目がちに見ていた男を、私は最後に見上げた。


男の端正な横顔が目に入った。私の視線に男は気がついたのか、振り返って、私を見た。
彼はサングラスをしていたので、その視線の確かな先はわからなかったが、たぶん、私に笑顔をくれたのだと思う。

男はにっこりと笑った。






帰りの地下鉄の中で、男の顔が頭に浮かんだ。
最後に笑った顔がスローモーションのように蘇った。

私は、少し顔を赤らめた。
一瞬の出来事だったはずの男の顔をしっかり覚えている。

私はちょっと微笑んで、窓ガラスに映った自分の姿を見た。
あの男とは不釣合いな老けた女。

それが私だった。

これが今の私の姿。


隣に立って、ガムを噛みながら、付け爪をいじっている軽い感じの女のほうがまだ、あの男に似合っているように思う。
私は、自分の少し疲れた、そして、年寄りじみた顔にうんざりした。







それから、2週間経って、あれもいい思い出のように思われた頃、私は会社から3つ目の駅に降り立った。
そこには、叔母の家があり、今日はその叔母の所へ遊びにいくことになっていた。
私の両親は、私が23歳で結婚してからすぐに交通事故で他界してしまった。その後は、この叔母が一人っ子の私にとっては、親代わりであり、姉代わりでもあった。叔母と私は、15しか年が離れていないので、子供が独立して一人になった叔母は、今では私よりも溌剌とした人生を送っている。
  
結婚してたった2年で離婚したのも、この叔母のアドバイスに背中を押されたからだ。

夫は酒乱で、私は夜になると、気が休まることがなかった。断酒すると、誓いながらも、夜がくれば、狂ったように酒を探した。一杯入ってしまえば、夫は私を呪うような言葉ばかり吐き出した。

当時、両親を亡くしたばかりの私は、夫に頼るしかなかった。なのに・・・夫は、私が天涯孤独になり、自分を頼って暮らすことを罵った。そして、朝になれば、また彼は元のやさしい夫に戻り、「君のご両親の墓は僕が立てるよ」と言った。見合い結婚だったからか。彼には真の愛情がなかった。もうなんの後ろ盾もない私は、彼にとってはお荷物でしかなかった。
本来なら、彼の愛で癒されたかった時期だったのに。


こんな日々が続く中で、私は生きていくことに嫌気が差した。

何で、あの人の心が揺れる度に、私まで傷つくのか・・・。
酒乱は、時に人の体まで傷つける・・・。


二年我慢したところで、私は初めて、叔母に相談した。

彼女は即答で、きっぱり「別れなさい」と言った。「あなたの人生はまだ始まったばかりよ」と・・・。


それから、もう20年近く経ち、私の人生に花のような時間は流れただろうか・・・。
ただただ、会社と家の往復で、心だけが疲れ、癒される間もなく、週が明け、暮れていく・・・。


今日も叔母の家へ遊びにいく。
それがたった一つの楽しみだ。






駅前の花屋に、かわいい苗木があったので、私はそれを手土産に買おうと、花の苗を覗き込んだ。
花屋の中から、人が出てきて、私をじっと見ているのにも気がつかなかった。


「この間はちゃんと帰れましたか?」
「え?」

私は声のする方向を見上げた。その声には聞き覚えがあり、その深い声の持ち主と言えば・・・そうだ。あの時の男だ。男は今日もサングラスをかけていた。


「あ、あの時の。すみません。私、あなたをちゃんと見たのが最後の瞬間だけだったから」
「そうですか。僕からはあなたはよく見えた」


そういって、男は笑った。

男の視線が私の髪にいった。
あの次の日、どういうわけか、今まで放ったらかしにしてきた白髪を栗色に染めた。大して目立ってはいなかったが、なぜか、翌日、美容院の前を通りかかると、私の体は吸い込まれる美容院の中へ入っていった。


「今日はお休みなの?」

男が聞いた。

「ええ。土日はお休み」
「それで。普段着のほうがあなたらしい・・・。若々しく見えますよ」
「・・・ありがとう」

「よかったら、僕の店でコーヒーでもいかがですか?」

「喫茶店をやっているんですか?」
「いえ。実はバーだけど・・・日の出ているうちは、コーヒー店なんですよ」
「そうですか・・・どうしようかな・・・」
「無理ならいいんです」

「いえ、お邪魔じゃなかったら、いいですか?」
「ええ」


男の笑顔は輝いていた。緑が爽やかな季節に相応しい笑顔。
風が吹いて、彼の髪がなびいた。

私の目は彼に釘付けになった。

男の髪がキラキラと輝きながら揺れている・・・。

今までだったら、臆病な私は、男に声をかけられてもついていくなんてことはなかったのに。



私と男は歩き始めた。男の真横に、私も並ぶ。



男の手には、バラの花束があった。


「バラが好きなんですか?」
「う~ん。まあね。これはもう賞味期限切れの花です」

男は笑った。


「あの店ではね、盛りを過ぎた花を安く売るんですよ。それで、いつも仕入れる・・・」
「何のために?」
「最終的には、店の洗面所に置くポプリにする・・・」
「へえ・・・」

「なあに?」
「え? 男の人なのに、なんかおしゃれというか、気が利いているというか」
「そう? 女性客はそういうところに心を惹かれるでしょ? それに、酔っ払いのニオイが充満しているトイレは嫌いなんだ」
「そう・・・ふ~ん」

「あなたはそんなこと、考えない?」
「う~ん・・・私ってあんまり考えなく生きてきたのかな・・・見習わないと」

私はそういって笑った。男も私を見て、控えめに笑った。

今日の初夏のような日差しがそうさせるのか、心がとても開放的になる。



「あ!」
「何?」
「うううん、大したことじゃないの・・・。今、前の子が転びそうになったから」
「うん・・・」

「でも、大丈夫ね。お母さんがついてるもん・・・。私って心配性・・・それに、臆病」
「そうなの?」
「ええ・・・」

「でも、来てくれるんだね?」
「ああ・・・そうね・・・なぜかしら・・・」

「そこの通りを渡るとすぐ。あのビルの2階」
「ああ、あそこ・・・」




狭いビルの細い階段を登る。


「ここは狭いから・・・酔っ払いは危ない」
「ホントね」
「参ったなあ。ちょっと謙遜していったのに」
「あ、ごめんなさい」


「待って。鍵を開けるから」


彼が花束を小脇に抱えた。

「持つわ」
「あ、ありがとう。・・・開いた。どうぞ」


男があめ色をした木のドアを開けた。


「ちょっと薄暗いけど。今、窓を開けるから」


私は彼の後について中へ入る。


そこはまるで、イギリスのパブのような、あめ色の木の世界だ。


「どう? 明るくなったでしょ」
「ええ。なんか・・・なんともいえない世界ね」
「そう? 気に入った?」
「ええ・・・」
「カウンターのほうへおいで」
「ええ・・・」


私は彼に促されるように、カウンターの席に着いた。


「待ってね。これから開店準備だから。君に本日一番のコーヒーを入れてあげるよ」
「・・・ありがとう」


彼はカウンターの中で、開店の準備をしている。壁の要所要所に、ドライフラワーがかかっている。


彼はさっき買った花束をまた縛りなおして、壁に下げた。


「う~ん。ブレンドでいいかな?」
「ええ」


「ハーブも育ててるの?」

私はカウンターの上に並んでいる小さな鉢の中のハーブを触った。


「うん。ちょっと飾るのにね・・・たとえば、ミントをティーやアルコールに添える。それだけでもいい感じだろ? まあ、いろいろアレンジできて、便利だよ。それに、ポプリにも入れるから」
「へえ・・・なんか繊細」

私は、ミントの葉を触って笑った。



「お腹空いてる?」
「うううん。まだ」
「そう・・・でも、僕は食べたいから、君も一緒に食べて」
「・・・」

「あと一時間したら開店時間だから・・・。一緒に食べて」


男はそういって、サングラスを外して、エプロンを腰に巻きつけた。


男がサンドイッチを作り始めた。
私は、男の顔をじっと見つめる。


「どうした? オレの顔に何かついてる?」
「え? うううん・・・別に・・・。なんかついてきて、コーヒーとサンドイッチをご馳走になるなんて、いいのかな・・・」
「いいよお。一人で食べたくなかっただけだから」
「そうなのお?」

私がそう言って笑うと、彼は手元から、私の顔に視線を移した。

私は・・・急に胸が痛くなった・・・。
男の視線があまりに強かったから・・・。


「だから、付き合って」
「ええ・・・」


「さ、召し上がれ。お手拭きもいるだろ」

そういって、サンドイッチの皿と、お手拭きをカウンター越しに出した。その時も、私をしっかりと見据えた。


「あ、ありがとう」
「どうした? 緊張してるの?」
「・・・」

「別に、意識しなくていいよ。食べて」
「ええ・・・」


男はマグカップに入れたコーヒーを飲みながら、私を見つめた。
私は喉を詰まらせながら、サンドイッチを頬張った。


「うん・・・。その髪の色、いいよ」
「・・・そう・・・ありがとう」
「うん・・・」


男はそういって、自分もサンドイッチを食べ始めた。



ここに来て、いくらも経っていないというのに、彼と私の関係が妙に近くなったような気がする。
それは気のせいだろうか・・・。

こんな年下の・・・たぶん、5歳以上10近く違う彼が、まるで、年上のように振舞っている・・・。
でも、それが、私には心地よい・・・。


この不思議な空間・・・。


「コーヒーのお代わりいる?」
「え?」


私が緊張していると、男がコーヒーを注いだ。


「ありがとう」

そういって、カップを受け取る。


そのコーヒーを見つめていると、私の携帯が鳴った。


「あ、いけない・・・。ちょっとごめんなさい・・・」


私は携帯に出て、小声で話す。


「あ、お姉さん。ごめんなさい・・・。うん。道草・・・。そうね、あと1時間はかからないわ・・・。ごめん。じゃあまた後で。うん? 夕飯? もちろん、食べていく」

そういって、私は電話を切った。


「お姉さん?」

男はコーヒーを飲みながら、私をじっと見据えた。


「ホントは、叔母。でも、15しか年が違わないから、昔から仲良しで」
「用があったんだ」
「というか、叔母の家へ遊びにいく途中だったの。ここは叔母のところだから・・・。でもいいのよ。いつも行ってるから。気にしないで」

「そう・・・君はどこに住んでるの?」
「私? 私は、会社のある駅から反対方向に2つ目。ここからだと地下鉄で5つ目」
「ふ~ん。15分くらい?」
「そうね・・・」


「あ、ご馳走様」
「お粗末様」

そういって、男はまた見つめた。


「もうそろそろ行くわ」
「ご相伴、ありがとう」
「どういたしまして」

「また、おいで。叔母さんのところへ来たら」
「・・・ええ・・・」

「今日は・・・帰りが遅いの?」
「え?」

「さっき、そういってたから・・・」
「ああ、叔母のところで、夕飯食べるから」
「そう・・・」

「あ、きっと泊まってく。よく泊まるの」
「君って、一人なんだ・・・」

「ええ・・・」

「そう・・・」

「私、もう行くわ」

「よかったら、夜、叔母さんと飲みにきたら? 土曜の夜、ちょっと酒場で飲むのもいいよ」
「・・・叔母がいいって言ったらね・・・」
「・・・うん」

男が軽く頷いて、笑った。


「さ、こっちも看板出す時間かな」
「ところで、なんていうお店。看板も見ないで入っちゃった。お世話になったくせに、やだわ」

私は笑った。
男がカウンターから出てきて、私に店の名刺を渡した。


「よかったら、どうぞ」

男が間近で私を見下ろした。男の熱が伝わってきた。


「ありがとう・・・。『ドリアン』?」
「そう」
「『ドリアン・グレイ』?」
「?」
「オスカー・ワイルドの?」
「うううん」

「あ、違うの? そ。なんか、あなたを見てそう思ったわ」
「なぜ?」

「え?」


あなたがキレイだから・・・。


「なんとなくよ」
「ふん」

男は笑って、私の目をじっと見た。


「これは、ただの果物さ。知ってる? ドリアン」
「ああ、あのちょっと臭いやつね」
「でも、食べると、うまいだろ?」
「そ、そうね・・・」


男が間近で見下ろしている。
・・・食べると、うまいよ・・・って。


「そんな感じね」
「へえ・・・」

「あ、もう行くわ」
「どうも」


私がドアを開けようとすると、男の胸が私の肩に触れた。

「開けてやるよ」
「・・・ありがと」

「そうだ。名前は?」
「・・・ユナ」
「ユナ・・・」
「そう、ユナ・・・あなたは?」
「JJ・・・皆そう呼ぶ」
「JJ・・・」
「そう、JJ」

一瞬、二人は黙って見つめ合った。彼の目が私の唇を見た。


「じゃあ・・・」


私がドアから出ると、彼が私に言った。


「1時看板だから。それまでにおいで」



私は振り返り、彼を見つめた。









2部へ続く・・・









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