BGMはこちらで^^BYJシアターです。ヨンジュンさんが帰国されたので・・・シアターも再開です。彼の体を案じながら、読むものって何がいいかしら・・・と思いましたが、こちらの「永遠の巴里の恋人」は、私のホントにホントの初期の作品です。今は、小説風に書いていますが、これはまさにシナリオ風であります。ですから、多少読みづらい感じもするかもしれませんが、私はここに流れる雰囲気やニオイが好きなんです。まだ、ヨンジュンさんの配役も若かったですねえ・・・。でも、今でもできると思います^^では、全3回でお送りします。よろしかったら、お付き合いください!^^字幕はありませんが、今回はパリですので、基本的にはフランス語です^^(頑張れ、ヨンジュナ!)二人の恋模様以外は、パリについて変な記述があっても大目に見ていただいて(笑)、読み飛ばしてください。韓国ドラマの「パリの恋人」とはまったく違ったストーリーです。【配役】チェ・ジョンジュ (32~4歳・彫刻家、韓国出身、180cm、メガネをかけています)リカ (23~5歳・日本からの留学生、157cm、長い黒髪)ここはパリです。ジョンジュもリカも、韓国人でも日本人でもありません。まさにパリの恋人です。日本とも韓国とも違う空気を感じてお楽しみください!ではここより本編。お楽しみください。~~~~~~~~「主題歌」♪♪~あなたがそばにいると幸せあなたが笑うと胸がときめくあなたのしぐさ、まねてみるあなたの心、いつも探してる私の近くって幸せでしょ?私の笑顔ってあなたは好き?私の声、あなたに響く?私の思い、受け止めてほしい疑いなんて持たないでただ信じればいいの、あなたの気持ち好きだって言ったでしょめちゃくちゃ好きだって何があっても好きだってあなたしか見えないってあなたには何が見えているの?愛してるって言葉、よくわかってる?簡単になんて言わないで本当に正しく 使ってる?一番好きなもの、選び取って心に従えばいいだけよ本当に心から震えるほどに感じた時に使うのよ!好きだって言ったでしょめちゃくちゃ好きだって何があっても好きだって私は変わらないってあなたは変わっていくのかしら?愛してるって言葉、覚悟してね!簡単になんてささやかないできっと私は信じてしまう、疑うことも知らずにそれほど、あなたを、あなたを愛しているから心が震えたら、私に言っていつまでも愛していると・・・♪♪~いつまでもそばにいると・・・♪♪~主演:ぺ・ヨンジュン【永遠の巴里の恋人】前編ある11月の昼下がり。パリの画材店。小さな紙袋を握りしめ、リカが出てくる。ジーンズによれたシャツを着て、その上にセーターと短めのジャケットを羽織り、背中にバッグを背負っている。首には毛糸の長いマフラーを無造作に巻きつけて、短めのジャケットと小さな顔が相まって身長が157センチにしてはすっきりと八頭身のプロポーションを作り出している。ポケットの中の小銭を確認してため息をつく。多色使いの毛糸の帽子から流れ出る長い黒髪をなびかせて通りを大股で歩いていく。リカの携帯がなる。同居人のヘイジャからだ。ヘイジャ:リカ、おはよう。リカ:あんた、何時だと思ってるの? 昨日はどうしたのよ。・・・大家さんがきたわよ。家賃払えって。ヘイジャ、どうなってるの。このままだと追い出されちゃう。私、あんたの分まで払えないわ。今日だって絵の具、2本しか買えなかったわ。へ:わかってる。ごめん。それより今日3時からバイトがあるの。でもミッシェルの車が壊れちゃってパリまで戻れないの・・・リカ、お願い、代わりに行って。リ:どこまで行ったの? お金もないのに。どんな仕事? やばいことはいやよ。へ:とにかく行って。大学でもらった仕事よ。行けばわかるわ。お願い。70ユーロ、もらえるから。リ:一日でそんな大金・・・危険なこと?へ:大丈夫。うちの学校の紹介だもの。彫刻家の先生のところ。大学の講師もしてるわ。お願い行って。今日だけはお願い。場所を言うわ。午後3時前、丘の上の一軒家。お金もなく、その上わけのわからない仕事を押し付けられて、リカは、悶々としながら坂を登りきり、丘の上にある瀟洒なレンガの家を訪ねる。呼び鈴を押しても誰も出ない。「すみません」ドアを押すと、勝手にドアが開いて中へ入る。リ:(大きな声で)すみません!どなたかいませんか? 大学の紹介で来ました。男の声:中へ入って左奥のアトリエへまわってくれ。リカは、男の声に従って、家の左側を通り、一番奥にある広いアトリエに入っていく。中に、着古した黒のTシャツにジーンズ姿の背の高い男がいて、リカのほうを振り返った。チェ:君?(メガネのふちに指を当て、上から下まで見る) 注文と違うじゃない。リカは、何のことだかわからず、リ:チェ先生? 今日は友達が来られなくて代わりに来ました。チ:そう・・・でも君じゃだめだな。そんなやせっぽちのチビは頼まなかった。リ:(ムッとして)なんですか、それ。失礼じゃないですか。チ:いや、ごめん。(笑って見つめる)これは仕事だからね・・・。背の高い、お尻の大きな子を頼んだんだ。君、専攻は何?リ:油絵です。チ:そうか。同じ学部の人間とは仕事をしないことにしているんだ。後で問題になるといけないからね。文学部の女の子を頼んだはずだけど。その子はどう。リ:比較文学専攻です。チ:なら、その子が来るのを待つ。今日はいいよ。リ:先生。そういう訳にはいかないんです。私たち、お金が必要なんです。家賃が払えなくて・・・。チ:でもそれは僕のせいじゃない。それに君のバイトにはならないよ。それともここで脱いでみるかい、やせっぽちさん。僕のほしいモデルは豊満な子なんだけど。リカの声:『やっぱりモデルか。まいったな。裸? 最低。・・・でもどうする。お金は必要よ・・・。どうせこういう人は人の裸なんて見慣れているんだし、脱ぐか・・・』リカが、チェの前で、帽子を取り、マフラーをはずして、ジャケットを脱ぎ、セーターを脱ごうとした。チ:脱ぐ必要はない。君では創作意欲が湧かない。それよりついて来なさい。(部屋を出てドンドン歩いていく。)早くいらっしゃい。(声だけ聞こえる)リカは、訳がわからず、セーター姿でついていく。チェが、寝室に入り、脱いであるパジャマやTシャツ、枕カバーを取って、リカに渡そうとする。リカが困って、手を出すと、その上に次から次へと置いていく。そして、今度は、ユーティリティに入っていく。チ:洗濯して。リカは、新型の洗濯乾燥機を眺め回す。チェは、リカの手から洗濯物を取り上げると、そのドラムの中へポンと入れ、洗剤を入れてスイッチを押す。「どう?」と右手を広げて、手品師のようなしぐさをした。チ:おいで。キッチンに入る。チ:コーヒーを入れて。リカは、初めてみるコーヒーメーカーに戸惑う。チェは、サッサとコーヒー豆を挽き、コーヒーメーカーに水を入れ、豆をセットして、スイッチを入れる。「どう?」また手品師になった。掃除機を持ち出して、「これはどう?」と手招きする。リ:これはできます。チ:そう。よかった。じゃあ、ここを掃除して。今日の分を払うよ。まあ、あまりたくさんは払えないけどね。少しは役に立つだろ。リカは、リビング、ダイニング、キッチンと掃除機をかける。掃除が終わり、コーヒーを持って、アトリエへ戻った。リ:終わりました。チ:そう。(財布を見ながら)大盤振る舞いで15ユーロというとこかな。リカが財布を覗き込むと、チェは、嫌そうに財布を引っ込めた。アトリエのガラス戸を外から犬が引っ掻いて中に入りたそうにしている。リカが見つけて、ガラス戸を開け、大きなふわふわの真っ白な犬をなでながら、リ:先生。私、犬の散歩は得意です。これもやっていいですか?チェが、しょうがないなといった感じで笑って近寄ってきた。チ:ボボ、お前も行くか?(と犬に聞く)ところで、君、なんて名前?リ:リカです。チ:じゃあ、リカといっしょに1時間、散歩に行っておいで。(近くに置いてあったリードをリカに渡す)これで30ユーロにしよう。リ:(うれしくなって)はい。(ジャケットを着てマフラーをして帽子をかぶる)ボボ、おいで。リカと一緒に行こう。(ボボ、リカの言うなりについて行く)チェは、ボボが知らない人間に従順なので、珍しいこともあるなと不思議そうに見送っている。夜。リカたちの部屋。ヘイジャが帰っている。リ:大家さんには今日の30ユーロを足して我慢してもらった。まだあなたの足りない分、150ユーロはなんとか早めに払わなくちゃ。 ヘイジャ、明日はチェ先生のところへ行くわね。へ:うん。・・・ミッシェルがね、オーディションの準備のために少しお金がいるって言うの。リ:(露骨にイヤな顔をして) ヘイジャ。大丈夫? 彼ってあやしくない?へ:何よ。恋もしたことのない人に言われたくないわ。(怒って自分の部屋に入る)リカは気まずいが、ヘイジャがミッシェルと付き合うようになってから、生活が乱れ、家賃も滞納ぎみになっているのが気になる。もともとリカと違い、ヘイジャは韓国でも有数の良家の娘で、パリでの生活にはお金に困るはずがなかった・・・それなのに、もう親に無心することもできずにいること自体、ふつうではない。ミッシェルにどれだけのお金を注いでいるのか。ハンサムでやさしいが、リカには彼の態度が鼻についてどうしても好きになれなかった。翌朝。リカたちの部屋。リカは、ヘイジャの分もトーストを焼き、カフェオレを作っている。リ:(ヘイジャの部屋の戸をたたきながら)ヘイジャ、朝食できたわよ。ヘイジャ?ドアを開けると、ヘイジャがいない。リカへの走り書きがあって、ヘイジャの声:『ごめん。ミッシェルの所へ行きます。仕事も彼が世話してくれます。先生のほうは断ります。学校へはしばらく行けないと思う。リカ、ごめん。リカの気持ち、よくわかっているの。でも止められない。彼がいないと生きられないから。 ヘイジャ』リカは、深いため息をついた。ヘイジャの行く末が心配だ。夢見たパリまで留学したのに。卒業まであと数ヶ月。なんの不自由もないはずの人が。どうして・・・。リカの胸は痛い。夕方。リカのバイト先のハンバーガーショップ。リカが一生懸命、ハンバーグを焼いている。ムンムンと立ち上る煙の中、リカが延々とハンバーグを焼き続けている。バイトが休みの水曜日の午後。学校帰り。リカはあの彫刻家の家へ向かった。またドアが開いていた。リ:先生? チェ先生、いらっしゃいますか。チ:アトリエへ回ってくれ。リカが、アトリエへ入る。チェが作業テーブルから顔を上げてリカを見る。チ:ああ、君か・・・友達は来なかったよ。リ:すみません。チ:まあいい。違う仕事を先に始めたから、もういいよ。リ:先生。この間はたくさんお金をいただいたので、今日はそのお返しにお手伝いにきました。チ:う~ん、ボボの散歩でもするかい。リ:それもしますが、洗濯とか、コーヒーとか、掃除機とか。チ:できるの?(イスから立ち上がる)リ:先生。私、これでも頭はいいんです。1回見ればできます。(自信を持って微笑む)チ:よし。ついてきなさい。寝室に入り、パジャマ、枕カバー、シャツなど、リカが洗濯物を集める。リカは洗濯乾燥機の前に立ち、ふたを開け、洗濯物をドラムの中へ押し込み、洗剤を入れ、スイッチを押す。そして手品師のように「どうです?」と手招きする。チェ先生が「よし」と首を振り、キッチンへ進む。リカが、さっさとコーヒー豆を保存容器から出して、豆を挽き、コーヒーメーカーに水を入れ、豆をセットして、スイッチを押す。リカが、「どうですか?」と手品師になった。チェ先生は笑って、チ:よし。後はお得意の掃除機だね。よろしく頼む。(といってアトリエへ去っていく)2時間後。リカは、ボボの散歩から帰り、ブラッシングを終えると、リ:先生。全部、終わりました。(チェの前に立つ)チ:ありがとう。(リカの顔を見てちょっと考え)・・・もしよかったら、定期的に来ないか。君にカギを預けておけば、君も勝手に仕事ができるだろ。ここの仕事は届け出しなくていいから。留学生はアルバイトの時間に制限があるから、たいへんだろう。少しはお金の足しになるし。リ:(目を輝かせて)いいんですか。うれしいです。やらせてください。・・・同じ学部でもいいんですか?チ:ああ、君はちゃんと仕事ができる人のようだから。それから、僕はチェ・ジョンジュだ。仕事がらみの人間以外にチェ先生といわれるのはキライなんだ。先生、またはジョンジュ先生にしてください。リ:わかりました。ジョンジュ先生。(うれしそうに微笑む)ハンバーガーショップの休みの日。リカが、ジョンジュの家の仕事をしている。洗濯するリカ。掃除機をかけるリカ。ボボがリカの後ろを、しっぽを振ってついていく。リカがアトリエのテーブルにコーヒーを置いていく。ジョンジュはまったく気にせず、仕事を続けている。3週間後の昼。リカたちの部屋。リカは、リビングでPCを使って、美術史のレポートを書いている。ドアが開き、ヘイジャが入ってくる。その顔色の悪さにリカは驚く。リ:ヘイジャ。(心配そうに近寄る)へ:ただいま。(幽霊のようにゆっくりソファに座り、うつむいている)リ:コーヒーでも入れる?へ:うん・・・。(しばらくして、わっと泣き出す) リカ、私・・・。リ:ヘイジャ。(ヘイジャの足元に座り、ヘイジャの膝や肩をなでる)へ:私ってバカ。本当にバカ・・・。リカ、私・・・知らない男に何度も抱かれた・・・。ミッシェルのために。リ:・・・(絶句)へ:バカでしょう。ミッシェルの仕事って・・・。リ:何よ、それ。(言っているうちにだんだん腹が立ってくる)なんで、なんであんたがそんな事しなくちゃいけないのよ。へ:愛してたのよ。愛してたのよ、ミッシェルを。でもあいつは違ってた。あいつは黄色い女を食い物にするだけの男だったのよ。リ:(ぞっとして)これからどうするの。へ:逃げて来たの、あいつから。・・・どうしよう。どうしたらいいの。リ:ヘイジャ。(少し考えてから)帰りなさい。帰りなさいよ、韓国へ。捕まっちゃだめよ。早く、早く支度して。ここにいてはいけないわ。ヘ:・・・。(天を仰ぐように)こんなことでパリを去るなんて。リ:急がないと。航空券はある? ジャンに手配してもらおうか、安いやつ。あの子のバイト先の旅行会社で。今すぐ乗れるやつ。ヘイジャが泣き崩れる。リカが携帯でジャンに連絡する。とにかく至急航空券が必要だと。ヘイジャとリカが、猛スピードで荷作りをする。必要なものだけ、スーツケースに突っ込んでいる。リ:もうすぐ、ジャンとジュリーが車で迎えに来るわ。(窓の外を見る)へ:リカ、あんたもここを離れていたほうがいいわ。ミッシェルが来るもん。あんたには手を出さなくても私のこと、探すわ。リカはヘイジャに言われて、怖くて震えてしまう。チャイムが鳴った。リ:(恐々出る)誰?ジャン:ジャンとジュリーだ。リカがアパートの施錠を開ける。二人が入ってくる。ジュリー:早く行こう。ヘイジャ。支度できたの? リカ、あんたも必要なもの、持って。しばらくは帰らないほうがいいわ。ジャン:とにかく、二人とも支度して。リカ。急いで。あいつが気がつく前に出発しよう。リカは、緊張感で胸が張り裂けそうだが、ボストンバッグに簡単な着替えとPCと教科書を突っ込む。ジャンがリカの絵の道具を持って、四人は階段を転げ落ちるように下りていく。ジャンの車のトランクに荷物を押し込み、四人は車に乗り込んだ。ジャン:まずは空港へ行こう。助手席のジュリーがヘイジャに航空券を渡す。ジュリー:10時の便よ。これに乗るのよ。お金は月末までにジャンの会社に振り込めばいいから。ヘイジャが震える手でそれを受け取る。顔は真っ青である。リカも震えているが、青ざめたヘイジャの肩を抱きしめて、車は空港へと向かった。真夜中。ジャンとジュリーの暮らす部屋。3人はおし黙って、ソファに座っている。ジャン:(ぽつんと)たいへんだったな。ジュリー:ヘイジャがあいつにひっかかるなんて。ミッシェルってやつ、くせもの。アジア人の女の子にすぐ手を出して金を奪って捨てていくやつよ。まさか、ヘイジャが・・・あの子が引っかかるなんて。リ:・・・知らなかった。そんなやつだったなんて。(悔しい)ジャン:リカ。どうする、これから。しばらくはここにいろよ。それから新しい部屋を探したほうがいい。リ:うん、迷惑かけてごめんね。ジュリー:(リカの横に座り、リカを抱きしめ)気にしないで。リカのせいじゃないもん。リカがいると刺激になっていいし。(ジャンのほうを見る)三人は笑ってみたものの、また黙り込んでしまった。明け方。ソファで毛布に包まって横になるリカ。ああ・・・。一睡もすることができない。ヘイジャは無事に家までたどり着けただろうか。二日後。ジョンジュの家の広いキッチンカウンター。早めに仕事を終えたリカが背の高いイスに座っている。PCを開く。ヘイジャから無事に着いたこと。チケット代を振り込んだというメールが入っている。リカは、PCで美術史のレポートの続きを書き始める。参考文献を見ながらレポートに熱中している。近くにジョンジュが来て、じっと見つめていることもまったく気づかない。ジ:真面目に勉強しているな。利口そうに見えるぞ。(睨みつけて言う)リ:(びっくりして)おどかさないで下さい。ジ:僕の家だよ。(笑う)どうした。勉強をする場所もとうとう失くしたか。家賃が払えなくなったのかい?リ:いえ・・・。ジ:どうした?リ:それが・・・。ジョンジュがリカの隣に座って話を聞く。リカがヘイジャのことをかいつまんで話す。ジョンジュは、じっと聞いていた。ジ:おまえは大丈夫なのか。(心配そうにリカを見つめる)付きまとわれたりしてないのか。リ:(「おまえ」という表現にドキッとするが、平生を保ちながら)今のところ、大丈夫です。それにあいつには嫌われていたし。でも怖くて部屋には戻れないんです。今はカップルの友達の部屋に寝泊りしているんですけど。ジョンジュがじぃっと考えている。それからリカを見て、ジ:ここでよかったら、一部屋空いているぞ。ここへ来るかい。ここなら、そいつも手出しできないだろう。リ:(妙にドキドキして)それは・・・。ジ:男一人といっても別に何も起こらないさ。今まで通り、仕事をしてくれたら家賃はいらないし、おまえの食費も浮くだろ。それにオレはオレで自由に暮らしていくし。リカは、ジョンジュが「オレ、おまえ」と言うのにドギマギしながら、今までとはもう状況が変わっていることに気づく。ジ:どうする?リ:(選択の余地はない)先生に甘えていいですか。一人では高くて部屋が借りられないんです。ジ:よし。じゃあ好きな時に引っ越しておいで。(リカのPCのほうを見て)何のレポート?リ:ペール先生の美術史です。ジ:いつまで?リ:今週いっぱい。ジ:じゃあ、明日引っ越して、あさってプリントアウトしてアトリエのテーブルに提出。わかったね。リ:えっ?ジョンジュが、さっさとキッチンを出ていく。賽は投げられた。もう彼のペースで動き始めている。翌日。ジャンとジュリーに手伝ってもらい、リカはたいへんな引越しを一日で終えた。リカの部屋はキッチンに近く仕事もしやすい。簡単なシャワーとトイレがついている。ジョンジュの寝室とアトリエは家の反対側にあるので、なんとも暮らしやすい環境だ。リカは、ジョンジュへの提出日に、必死でレポートを書き上げ、アトリエのテーブルの上に置く。ジョンジュがアトリエに入り、レポートを目にする。それからアトリエのテーブルで、リビングのソファで、ベッドの上で、赤ペンを持って添削する。次の朝。リカがキッチンへ出ていくと、カウンターの上にリカのレポートがおいてある。その上にメモがある。ジョンジュの声:『トレビアン! ただし、フランス語の用法でおかしい点がある。赤を入れたので直して提出しなさい。 おまえは優秀なんだね。 ジョンジュ PS:おまえの本名はマツモト・リカコか』リカはちょっと鼻高々、うれしい気持ちになる。ジョンジュにお礼を言いたいが出かけている様子。しかし、彼がいない理由もわかる気がする。お礼など言われるのが恥ずかしいのだ。リカは、ちょっぴり幸せな気分になった。ある日の午後。ジョンジュのアトリエ。ジョンジュがテーブルで構想を練っている。リカが離れた所に小さなイスを置いて座り、ジョンジュをデッサンしている。ジ:よく飽きないな。違うものを描けよ。(自分の仕事をしながら言う)リ:いいえ。楽しいんです。先生は知らないかもしれないけど、先生の顔っていろいろな表情があって、おもしろい。ライフワークにします。ジ:そんなに長居するな。(呆れながらも自分の仕事を続ける)ジョンジュの仕事が一段落つき、顔を上げると、リカがさっきの姿勢のまま、スケッチを続けていた。ジョンジュは驚く。ジ:おまえ、ずっとそこにいたのか?リ:そうですよ。(笑う)先生って本当に没頭しやすい性質なんですね。私のこと、忘れてましたか?ジョンジュは自分自身に驚く。いつも他人がいると、気が散りやすく、一人部屋にこもって仕事をしてきたというのに、この女は二時間もこの部屋にいたのだ。まったく気にもかけなかった。リカがスケッチブックを閉じて、立ち上がった。ジ:どうした?(リカを目で追う)リ:先生が一息ついたので、私も終わります。コーヒー入れますね。リカが部屋を出ていく。ジョンジュが、不思議そうな顔をしてリカを見送った。【回想】マリーと暮らしていた頃。ジョンジュが神経質にこのアトリエで仕事をしている。マリーが覗く。マ:どう、終わった?ジ:まだだ。ちょっとあっちへ行っててくれないか。気が散るんだよ。マリーは悲しそうにため息をつき、去っていく。マリーがコーヒーを持ってくる。ジョンジュが眉間にしわをよせている。マ:コーヒー、飲まない? 疲れたでしょう。ジ:集中させてほしいんだ。キッチン。リカがコーヒーをカップに注いでいると、ジョンジュがキッチンへやってきて、カウンターに座った。リ:持っていってあげたのに。ここで召し上がりますか。どうぞ。ジ:(カップを受け取りながら)おまえは本当に不思議だなあ。よく二時間も付き合っていられるよ。リ:先生。忘れちゃ困ります。私はただの家政婦ではありません。これでも画家です。それだけの集中力はあります。ジ:(黙ってうなずいて聞くが)近くにいてもまったく気にならない・・・不思議な存在だよな。(顔を見る)リ:(褒められているのか、けなされているのか)空気のようななんて言わないでくださいね。まだ若くてピチピチしてるんですから。ジョンジュがうなずき、笑いながら、じっとリカを見入る。昼下がり。今日は、リカが大学に行っている。それに帰りはハンバーガーショップだ。ジョンジュは、リカがいない日はなぜか、もの寂しい気分になる。手持ち不沙汰のこの気持ち。リカがいると、返って仕事にも張りが出るような気がする。アトリエのテーブルで道具をいじりながら、一人物思いに耽る。ジョンジュの声:『リカが好きなのか。イエス。・・・あんな子供がいいのか。あれでももうすぐ24だ。・・・どんな所が好きなのか。・・・よくわからない。・・・色気を感じることがあるのか。時々。でもあいつは自分をまったくわかっていない。・・・胸がときめくのか。ふいに見つめられるとドキドキする。・・・あいつは空気みたいに近くにいても息苦しくない。・・・それなのに、そばにいないと寂しくなる。 でも、リカはおまえをどう思っている? ただの家主か先生か。・・・あいつにとっておまえは男なのか?』自分の心を持て余すジョンジュ。電話が鳴る。ジョンジュは、なにげなく電話に出た。ジ:はい、チェです。女:ジョンジュ。わかる。マリーよ。ジョンジュは、心臓が止まりそうになった。マリーだ。ジョンジュの初めての女。マ:まだそこに住んでいたのね・・・よかった。ボボは、私のボボは元気?ジ:ああ。どうしたの。マ:ピエールと別れたの。あなたへの腹いせに結婚した人。やっぱりだめ。ジョンジュ、会いたかった。もう5年も経ったのね。ジ:・・・・。マ:会いたいの。こんなこと言ってごめんなさい。私が家を出たくせに。でも会いたいの。ジ:今、答えられないよ。どう考えたらいいかわからない・・・。マ:時間をあげるわ。電話して。あなたも終わっていないでしょう。私のこと。・・・まだ一人なの?ジ:ああ。マ:電話をちょうだい。必ずして。待っているわ。私のジョンジュ。電話を切るジョンジュ。しばし呆然とする。ふいをくらった感じ!テーブルの脇の引き出しを開ける。そこにジョンジュとマリーの肩を寄せた写真がある。まだ20代半ば。ジョンジュの大学時代からの恋人。ライバルが多い中、勝ち取った美しい恋人。ジョンジュが大きな賞を取って認められてから、二人はこの家で暮らし始めた。楽しいはずの暮らし。しかし、現実は違った。ジョンジュは自分の仕事に没頭し、彼女を置き去りにし、寂しい思いをさせた。彼女の望んだ生活・・・多くの芸術家に囲まれてパーティにパートナーとして出席する。初めこそジョンジュもそんな暮らしをしたが、もともと人前に出る人間ではなく、自分を内省することで、作品を生み出してきたのだ。商業的な仕事も多く手がけるが、わざわざ人前に出て自分自身をアピールすることはない。確かに愛していたマリー。そんなジョンジュを残して、新しい男へと旅立ったマリー。それでも彼女は不幸だった。本当に愛したのがジョンジュだったから。でも二人は一緒には暮らせない・・・しかし、深く愛し合っていたのだ。そうだった・・・ジョンジュはこの5年間、確かにマリーを待っていた。マリーの残していった犬ボボとともに。マリーがまたジョンジュのもとへ訪れることを・・・。ジョンジュの心は混沌とする。前触れもなく、スルスルっと心の中に入り込んだリカ。気がついた時には、勝手に心の奥に住み着いている。まるでそこにいるのが当然というように。身構えることなく、始まってしまったリカへの恋心。しかし、ジョンジュ。リカとはまだ何も始まってはいないではないか。マリーに戻るのが正しいのか・・・。 リカは? 安らぎをくれる、ときめきをくれる、微笑みをくれる。しかし、おまえのことをどう思っているのだ。5年の歳月は・・・? 一瞬の恋で消えるのか? そんな簡単なことだったのか。午後9時過ぎ。ジョンジュの家。リカが仕事から帰って、冷蔵庫のミネラルウォーターを飲んで一息つく。キッチンのカウンターにはチーズとパンの食べかけがあり、さっきまでジョンジュがここにいたことがわかる。リ:先生? 先生。リビングの外のライトがついており、ジョンジュはベランダにいるらしい。リ:こんな寒い日にわざわざ出なくても。ガラス戸の外を見ると、テーブルの上にワインとグラスが置いてある。ジョンジュがイスを3つ並べ、足を投げ出して座っている。リカがガラス戸を開け、リ:先生。寒いですよ。もう入ったら?ジョンジュは動かず、寝てしまっているようだ。リカがジョンジュの横へ行く。リ:(ジョンジュを揺り起こしながら)先生。先生、だめですよ。風邪引いちゃいます。起きてください。ジョンジュは深酔いしたらしく、なかなか起きない。リ:先生!(リカがジョンジュの頬に手をあたると、とても冷たい) 先生、先生!ジ:ああ~、リカ? う~む・・・。(また寝てしまう)リ:寝ちゃだめだって。先生、私の肩につかまって。さあ、起きて。ジ:うむ、リカじゃだめかな・・・。リ:何言ってるの・・・頑張って起きてくださいよ。こんなところで寝たら凍死しちゃいますよ。リカは、酔いつぶれているジョンジュをなんとか抱き起こし、肩を貸して寝室のほうへ連れて行く。千鳥足のジョンジュ。小さなリカに重く覆いかぶさるように歩いている。ジ:リカ・・・。おまえはいつもハンバーガーの臭いがするなあ。(酔いながら、耳元でささやく)リ:う~うん、先生のほうが臭い。(酔っ払いはイヤだ)もうなんでこんなに飲んだんですか?ジョンジュのベッドにやっとたどり着き、カバーをはがし、ジョンジュを座らせようとするが、ジョンジュは、バランスがとれず、ベッドに倒れこむ。リ:先生。コートだけは脱いで・・・。だめか。リカにはジョンジュは重たすぎ、もう持ち上げることはできない。リカはコートを羽織ったままのジョンジュに布団をかける。リ:先生。メガネだけは取りますよ。壊れるといけないから・・・ね、先生!「う~ん」といいながら、ジョンジュがリカのほうに顔を向け、メガネを取ってもらう。メガネを外すと、ジョンジュが反射的に薄目を開け、リカを見つめた。ジ:メルスィボークー。(笑顔でそういうと寝てしまう)リカはそのジョンジュの目にハッと息を飲み、部屋を出る。リカは、胸に矢を射られた気分だ。メガネを外したジョンジュの目は、思っていたより、鋭く光り、魅惑的だった。リカの声:『先生は、先生は私が思っていたより、若い。若くて美しい・・・』今まで意識したことなどなかった・・・。自分より年上で、ちょっと頑固で変わっていて、ちょっと親切だったはずの先生が、今は、実はそんなに年上でもなく、とてもチャーミングな目をした、不思議なくらい愛しさを感じる人間に入れ替わっている!その夜、リカはてん転として眠ることができなかった。あの目。あの目がリカを捕らえて放さない。リカの中で、何かが起こり、何かが始まっていた・・・恋が、リカを捕らえて放さなかった。翌日の朝。リカは、キッチンで朝食を作り、いつものようにカウンターの内側で背の高い丸イスに座り、一人で朝食を食べ始めている。ジョンジュが寝室から出てきた。シャワーに入ってきたようだ。服装もこざっぱりとしている。リ:(平生を保つようにちょっと冷たく言う)おはようございます。ジ:(頭が痛そうに)ああ、おはよう。ううん・・・。(カウンターに座り頭を抱えている)リ:(お茶の用意をしながら)先生、昨日はどうしたんですか。ベランダでなんか寝ちゃうから、私、運ぶの、たいへんだったんですよ。ジ:ああ、覚えてないなあ。そう・・・あそこで寝ちゃったんだ。(いつもの先生に戻っている)リ:はい、二日酔い用の漢方薬。これ飲むと二日酔い、ラクになりますよ。ジ:ありがとう。(ぐいっと飲んで)うん、まずい。頭が割れそうに痛いよ・・・。(目が開けられないといった顔をしている)リ:先生。何も覚えてないんですか。頭の痛そうなジョンジュが首を少し横に振った。リ:私にひどい事言ったんですよ。リカじゃだめだって。私がチビだからってひどい・・・。人が肩を貸してあげようとしているのに・・・。ジ:またゆっくりおまえの話を聞くよ。今はそっとしておいてくれ。リ:わかりました・・・。行きます。学校へ行ってきます。(そういって少しキッチンから離れようとするが、またジョンジュのほうを見てはっきりした口調で)先生。私のこと、おまえはいつもハンバーガーの臭いがするなんて言わないで下さい! 今度から、おまえはいつも絵の具の臭いがすると言ってください。行ってきます!リカが怒ったように、出ていった。夜。ジョンジュの家。リカがハンバーガーショップのバイトを終え、玄関前で髪や服の臭いを嗅ぎながら、家のカギを開けて入ってくるが、ジョンジュは留守のようだ。自分の部屋の前までくると、大きな木箱が置いてあり、手紙が載っている。ジョンジュの声:『好きなように使いなさい。仕事より勉強を優先させなさい。昨日は悪かったね。 そしてありがとう。 ジョンジュ PS:おまえのお父さんの薬は本当によく効くよ』箱を自室に運びいれ、中を見てみると、油絵の絵の具やまだ使える筆など、今リカがほしくてたまらないものばかりが入っている。リ:先生・・・ジョンジュ。彼の名前を口にしてみる。胸に甘く痛みが走り、二度ほどこぶしで胸をたたく。目を瞑る。もう一度口にしてみる。リ:ジョンジュ。・・・私のジョンジュ。甘い胸の痛みが、波打つ鼓動のように、全身に広がっていくのを、リカは切なく感じていた。中編に続く・・・。ジョンジュが・・・リカが・・・お互いを感じ、恋に落ちていきます。ではまた明日。