2009-10-05 01:18:27.0
テーマ:【創】永遠の巴里の恋人 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「永遠の巴里の恋人」中編




BGMはこちらで^^



BYJシアターです。

joonも週明けに病院へ行くそうで、容態が好転していることを祈ります。

今、残っている仕事はアニソナのようですよね。

まだ、放送が決まっているのは、日本だけですから、
(韓国は放送局との契約の折り合いさえついていない・・・)
放送を遅らせても、ゆっくりと静養してほしいです。
個人的には、アニメよりjoonの健康優先でお願いしたいです。

私も体調がイマイチなんですが・・・
身代わり地蔵ならぬ、身代わりおばさん・・・だったらいいけど^^

あなたのためなら、この身も投げ出す覚悟^^

では!


本日は「永遠の巴里の恋人」中編です。



ここはパリです。
ジョンジュもリカも、韓国人でも日本人でもありません。まさにパリの恋人です。

日本とも韓国とも違う空気を感じてください!



ではここより本編。
お楽しみください。


~~~~~~~~


主演:ぺ・ヨンジュン

【永遠の巴里の恋人】中編



しばらくしたある夜。
リカの部屋のドアをジョンジュがノックしている。


ジ:リカ、リカ。起きてくれ。
リの声:(部屋の中から)なんですか。もう2時ですよ。
ジ:頭が痛いんだ。喉も痛い。風邪を引いたらしいんだ。
リの声:キッチンの引き出しに薬が入っているでしょう。
ジ:リカじゃないとわからないよ。リカ、リカ!
リの声:もう・・・。(仕方なく起きる)待っててください。服を着るので。
ジ:服なんていいよ。誰も見てないんだから。それより早くしてくれ。


リカは、パジャマ用の薄手のパンツにキャミソール、それにざっくりとした長めのカーディガンをかけて出てくる。
呆れた顔をしてジョンジュを見る。


リ:先生。どうしたんですか。(母親のように額に手をかざし、熱を見る)う~ん、熱が出てきたみたいですね。頭が痛くて喉も痛いんですね。


リカが先導して二人、キッチンへ移動する。キッチンの引き出しから薬を探す。


リ:もう、ここにうちの漢方薬が入っているのに。先生だって探せるでしょ。
ジ:日本語はムリだよ。
リ:漢字で書いてあるんだし、読めるはずですよ。ヘイジャは平気で自分で飲んでましたけど。



責めるように、リカが、ジョンジュを見上げる。メガネをかけていないジョンジュが、甘えた目でリカを見ている。
リカは、ちょっとドキッとするが、同じ引き出しからペンライトをとり出して、


リ:ア~ンして。先生、ア~ンです。ああ、少し喉が腫れてますね。(薬を選び出し、水と一緒に渡す)


ジョンジュは、言われた通り、ごっくんと飲み干す。
そしてまた、黙ってリカを見ている。
リカが困って、冷蔵庫からミネラルウォーターを一本取り出した。


リ:さあ、これを持ってベッドへ行って寝てください。(ジョンジュの背中を押して、ジョンジュの寝室へ行く)ちょっと待っててくださいね。柚子茶を入れてきますから。


しばらくして、ジョンジュの寝室へ柚子茶を持ってリカが入ってきた。


リ:飲んで。温まりますから。
ジ:懐かしいなあ。(柚子茶を覗き込む)
リ:・・・ヘイジャの置き土産です・・・。(ジョンジュの顔を見る)


ジョンジュが、ちょっと甘えた顔をして、


ジ:寝るまでここにいて。(自分の寝ているベッドの左端を軽くトントンとたたく) 一緒には寝てくれないんだろ?
リ:(ちょっと赤くなって)そんな・・・風邪が移ります。(ベッドの端に腰掛けて)じゃあ、寝付くまで。・・・男の人ってほんとに大げさ。風邪もひきやすいし。
ジ:(ちょっとドキッとして)そんなに男を知っているのか・・・。
リ:ええ、知ってますよ。うちは男所帯でしたから。母が13の時に亡くなってから、父と一つ違いの弟と三人暮らしだったんです。
ジ:(しんみりと)そうか。男の気持ちがわかるか・・・。じゃあ、手を握って、眠るまで。男の甘えもわかるだろ? (手を差し出す)


リカは、ちょっと躊躇するが、相手が病人なので、手を握る。


リカの手では余るほど、大きな手。
熱で熱い手。


ジョンジュは、少し目を瞑って手を握られたままにするが、パッと目を開けて、握っていた手を解き、その手でリカの太ももの辺りを触る。
リカは驚くが動けない。
リカのパジャマ用のパンツは薄手で、ほとんど服を着ていないと同じだ。

ジョンジュの手の温もりがわかる。
その手はゆっくり太ももの内側のほうへ動いてくる。
リカは我を忘れそうになるが、振り切るように立ち上がった。


リ:お休みなさい!


顔も見ず、部屋を飛び出す。急いで自分の部屋へ入り、カギをかける。
胸のドキドキが収まらない。


リカの声:
『先生は・・・先生は、私の体の変化に気づいたかしら・・・』



恥ずかしさと、そして、本当はそのまま、自分からジョンジュのベッドに入ってしまいたい衝動が交差して、リカはベッドに入ってもなかなか寝付くことができなかった。









翌日の朝。キッチン。
リカが、おかゆを炊いている。
ジョンジュの具合が心配だが、昨晩のこともあり、簡単には寝室へ顔を出すことができない。

何か口実がほしい。


お盆におかゆと薬、蒸しタオルをのせて、ジョンジュの部屋をノックする。
返事がない。
リカが入っていく。ジョンジュは、まだ眠っていた。

サイドテーブルにお盆を置き、ベッドに腰掛けて、ジョンジュの寝顔を見る。
リカは愛しさが増して、本当に一緒に横になりたい衝動にかられる。
ジョンジュの額を触る。
熱は少し下がったようだ。
ジョンジュが気がついて目を覚ます。リカを見上げた。


ジ:来てくれたの。(じっとリカを見る)
リ:(恥ずかしさを抑えて)おかゆを作ったの。 食べてみる?(リカは自分の言葉に驚く。昨日までと違って親しそうに話している)
ジ:昨日はごめん。・・・ふざけてしたわけじゃないんだ・・・。本当にリカが必要だったんだ・・・。
リ:汗をかいたんだったら、体を拭いたほうがいいわ。(蒸しタオルを渡す)パジャマも着替えたほうがいいし。


ジョンジュが体を拭いている間、ジョンジュを見ないようにして、新しいTシャツとパジャマ用のパンツを持ってくる。
リカが、うつむきながら、着替えを渡す。


リ:はい、先生。
ジ:リカ。もう先生なんて呼ばなくていい。ジョンジュでいい。そのほうがいい。


その言葉に、リカがジョンジュの顔を見た。
ジョンジュのキレイな上半身が目に入る。
リカは、胸が苦しくなってきた。


ジ:昨日、リカにしたこと、本気なんだよ。リカを抱きたいと思った。・・・リカが好きだから。


ジョンジュが、リカのほうへ手を伸ばし、リカの顔をじっと見つめている。

リカは、自らその手を掴んだ。
ジョンジュがリカを引き寄せる。

ああ、ジョンジュに今、私は抱かれたい・・・。

リカの恋心が揺れる。


ジ:今日はしばらくここにいて。リカを感じていたいんだ。


ジョンジュは、リカを自分の横に引き寄せて、座らせる。
二人は、顔がくっつくくらいの距離で見つめ合う。
ジョンジュが、リカのタートルネックのセーターを上に引き上げ、リカは薄手のタンクトップだけになる。

リカが、じっとジョンジュを見つめた。

そして、ジーンズを脱ぎ、そのままジョンジュのベッドに入る。
小さなリカが、病身のジョンジュをまるで子供を抱くように胸に抱く。

ジョンジュは、「フ~」と息を漏らし、リカの胸に頬擦りをして、リカのニオイを嗅ぐように深呼吸し、気持ちよさそうに顔を埋めた。
リカはやさしく、ジョンジュの髪を撫で、額にそっと口づけをして、自分の腕の中に包み込むように抱きしめる。


二人は抱きあったまま、眠りに落ちた。











一月のある日、昼近く。
ジョンジュとリカが、手をつないで蚤の市を見ている。
リカは小物が好きで、小物があると立ち止まる。
ジョンジュと二人で、ブラブラ歩くが、ジョンジュに手を引かれ、裏通りにあるアンティークショップに入った。
中に入ると、ジョンジュは手を解き、ドンドン奥へ入っていく。
リカは中ほどのところで、かわいいろうそく立てを選んでいる。


ジ:リカ、おいで。(奥からリカを呼ぶ)


リカは呼ばれるままに、ジョンジュのほうへ入って行く。
店の一番奥に猫足のアンティークのショーケースがあり、そこをジョンジュが覗いている。


ジ:リカ、見てごらん。ほら、あれ。あのガーネットのネックレス。いいだろ?


リカが覗き込む。


ジ:やっぱりおまえに合ってるよ。見せてもらおう。


リカは、どんどん、ジョンジュが決めるので、ドキドキしながら付き合う。店員がカギを開け、うやうやしく、トレイの上にのせる。


店:こちらの品は、50年代のものですが、この彫金が見事です。ガーネットの周り、鎖は22金でできています。ガーネットの裏まで金を張るのは当時の技法で、これが返ってガーネットの輝きを抑えてシックです。長さも40~45センチまでフック式で調節ができますよ。


22金のキラキラしないマットな仕上がり。 一粒石のガーネットがやさしい光を放っている。


ジ:やっぱりいいね。おまえの一月の誕生石だし、今のおまえの格好にも合っているし、もっと大人になってからも、エレガントな服装にも合いそうだ。長く使えそうだね。(うれしそうにリカを見つめる)


リカは、ジョンジュの言葉がうれしい。
今の自分も将来の自分もジョンジュが愛してくれるような気がする。長く使えるものをプレゼントしてくれる気持ちがうれしい。


ジ:つけてもいいですか?
店:どうぞ。


ジョンジュがリカの首に手を回し、ネックレスをつけてくれる。鏡で見ると、本当によく似合う。
今のリカのポップな服装にもマッチしている。
さすがにジョンジュは芸術家だ。とても目がきく。
そして、たとえれば、綿や麻の風合いのリカという素材にとてもマッチしているのだ。


ジ:こちらを下さい。
店:ではお箱に入れましょう。
リ:このまま、つけていきたいの。(ジョンジュを見る)
店:ではお箱だけお包みしましょう。




店を出たところで、リカが、ジョンジュの手を引っ張った。
ジョンジュが、「何?」という顔をするが、リカがジョンジュに飛びついて言う。


リ:ありがとう。あなたにお礼のキスがしたかったの。(ジョンジュにキスをする)
ジ:誕生日、おめでとう。リカも24歳だね。(顔を覗き込む)
リ:うん・・・。ジョンジュ、これ探すの、たいへんだった? 何件もお店、回った? (抱きついたまま、聞く)
ジ:(笑って)やっぱり気に入ったものを買わなくちゃね。



リカの心は喜びでいっぱいだ。
この充実感。
ジョンジュがリカを愛してくれているという実感。


リカは幸福に酔いしれていた。









朝の洗面所。
大きな鏡のある広い洗面台。

リカが、歯を磨いている。
薄手の短めのタンクトップ、胸が少し透けて、ちょっとおへそが見える。それに黒のショーツをはいている。
ジョンジュが柔らかい薄手のパジャマ用のパンツを腰ではき、上半身裸で入ってきた。

リカは口をすすぎ、場所を譲る。
ジョンジュが、鏡に向かってシェービングクリームを塗り始まる。
リカは、鏡を背に洗面台にどんと座り、足をブラブラさせながら、ジョンジュのヒゲ剃りの準備を見ている。
その視線は少し挑発的でセクシーだ。

ジョンジュは、横目で彼女を確認しながら、鼻歌を歌い、頬、口の周りをシェービングクリームでいっぱいにする。
そして彼女のほうに顔を向け、ツンとした目つきのまま、さっと彼女の鼻の下にクリームを一塗りし、口元だけ微笑む。

リカはあっと驚いて、鏡のほうへ振り返り、覗き込み、鏡の中のジョンジュにうれしそうに微笑みかける。
リカはクリームのヒゲをつけたまま、覗き込むように彼がヒゲを剃るのを見つめる。
ジョンジュが剃り終わって軽くタオルでクリームを拭き取る。ついでにリカのクリームも拭き取る。


リ:(笑いながら、せがむ)ねえ、もっとやって。ねえ、もっと!



まだいくらか顔にクリームが残るジョンジュが、座っているリカの足を割って入るように体を押しつけてきて、リカの腰を引き寄せる。
リカはジョンジュの首に腕を回し、洗面台に座った形から軽くジョンジュの腰に足を回し抱っこされた格好になる。
ちょっと見つめ合うが、軽くキスをして笑いあい、ふざけたように軽いキスを何度も繰り返しながら、二人は洗面所を後にする。


鏡には、腰にリカの足をからめて抱っこしたまま、出ていくジョンジュの後ろ姿が映り、二人の笑い声だけが残った。







ジョンジュのアトリエ。
仕事の構想を練るジョンジュ。
一歩下がったところで小さなイスにリカが座って、ジョンジュの後ろ姿をスケッチしている。
ジョンジュが頬杖をついて頭を右にやれば、リカの頭も右に傾く。
左に行けば左。
ジョンジュの動きに合わせて動くリカがいる。






夜のひととき。
リビングの大きな一人がけのソファ。オットマンに足を投げ出して、本を読むジョンジュ。
そこへリカがやってきて、ジョンジュに向かい合うように彼の太ももをまたいで座り込み、本の隙間からジョンジュを見つめる。


ジ:後で・・・。
リ:後っていつ?
ジ:もう少し・・・。(そういったまま、本を読み続ける)


リカは、じっと読み終わるのを待つ。
ジョンジュが怒ったようにリカを見て、本を閉じる。


リ:怒った? 本当に怒った? (ジョンジュをちょっと見つめて、変な顔を作ってジョンジュを誘う)
ジ:おまえはいつも・・・。(神経質なはずなのに、なぜかリカには本気で怒れない)
リ:じゃまをする?
ジ:・・・タイミングが悪い・・・。


リカは、ちょっとすねて立ち上がり、去ろうとするが、逆にジョンジュがぐいっと手を引っ張る。


ジ:せっかくその気になったのに。


リカがうれしそうにジョンジュに向き合って座り直し、ジョンジュに顔を近づけた。









午後。
ジョンジュのいないアトリエ。

リカが絵の道具を借りに来る。
棚の上を調べ、道具箱を見て。知恵の輪を見つけて、ちょっと微笑んでいじってみる。

作業用のテーブルにやって来て、ジョンジュのイスに座り、脇のチェストをしばし見つめる。

ジョンジュのいつも使っている一番上の引き出しをパッと引き出す。
勢いよく開けたので奥のほうまで見渡せる。
奥に一枚の写真が入っている。

リカが、見つめる。

20代半ばのジョンジュと美しい女が仲良く肩を寄せている。
それはこの家で撮られたものだ。

日付は6年前。
リカの顔から血の気が引いていく。

なぜ、そんな古い写真がこの引き出しに入っているのか。

ジョンジュが一番使う引き出し。
当たり前のように毎日使う引き出し。
リカはジョンジュの仕事場のこの引き出しの中を見たことはなかった。

なぜか。
人の神聖な仕事場の引き出しを開けることは、その人の頭の中を開けて見るのと同じように感じていたからだ。

しかし、今日、簡単に開けてしまった。
まるでパンドラの箱のように。
見てはいけないジョンジュの頭の中。


でも、手に取らずにはいられない。

写真の裏・・・ジョンジュの字で「ジュ・テーム!モン・マリー!(愛してる!僕のマリー)」
女の名前は「マリー」。


何かもっと証拠はないか。
ジョンジュの頭の中を表す証拠。
リカが、その神聖と思われた引き出しをどんどん開けていく。

一番下の引き出し。

小さなアルバム。

開いてみる。

大学時代のジョンジュ。
今よりずっと若く幼い感じ。
まだ線が細くかわいらしい。
それと同時期と思われる頃の写真。常に彼女と一緒だ。
大きな賞を受賞しているジョンジュ。
授賞式のオフショット、彼女と並んでうれしそうに笑うジョンジュ。
ボボの写真。赤ちゃんのボボを抱く幸せそうなその人。



リカは、打ちのめされそうになる。
ジョンジュの若く光り輝く時代はすべて彼女と一緒だ。


マリー、マリー。
あなたはジョンジュの何?
今あなたはどこにいるの? 
もう終わったことなの? 
あなたは終わってもジョンジュは終わってないの?


この引き出しにマリーは住み着いている。


リカは呼吸ができない。


いったい、いったい、私の信じたジョンジュはどこ・・・。

私はその人が残していったものをただ世話をしているだけなのか・・・。

教えて。
教えて、ジョンジュ。


胸の苦しさに呼吸がままならないリカ。
両手でガーネットを握りしめる。


リカの声:
『どうか、どうか、私の願いを叶えて。あの人を私だけのものにして。どうか、ジョンジュの心が私だけにありますように。私の思いを叶えてください』



思いが成就するというガーネット。
リカが一人、ジョンジュへの思いに沈んでいく・・・。







夜。
ジョンジュの寝室。
スタンドが明るめについている。
リカがベッドの奥のほうに背中を向けて寝ている。
そこへジョンジュがパジャマ用のパンツを履いて上半身は裸で現れる。手には白のTシャツを持っている。
ベッドに腰掛け、Tシャツを着ていると、リカがくしゃみをする。



ジ:(肩を出して寝ているリカに布団を首の所までかけてあげながら)風邪ひくぞ。
リ:・・・誰かがうわさしてる。
ジ:(枕の上に腕を組み、頭を乗せてあおむけに寝転ぶ)誰が?
リ:(ジョンジュのほうに体を向けて)くしゃみ1回は誰かがうわさしているって言うでしょう。ねえ、誰だと思う?
ジ:わからない。(天井を見ている)
リ:昔の恋人かも。(探りを入れる)


ジョンジュは黙っている。


リ:ねえ、前から聞きたかった事があるの。・・・いつ、私のこと、好きになった?
ジ:忘れた。(リカを横目で見て)おまえは?
リ:教えたら答える?
ジ:うん。
リ:ジョンジュがベランダで酔ってた日・・・。あの日に・・・。


リカはあの時のジョンジュの目を思い出す。胸が苦しくなったあの目。


ジ:ハハハ。酔っ払ってた時?(リカの気持ちがわかっていない。冗談だと思っている)う~ん、いつ、リカを好きになったかな・・・。
リ:忘れたの? じゃあ、私が思い出させてあげる。催眠術を使うわ。(リカ、ベッドから起き上がり、ジョンジュの顔の前に手をかざし)あなたはだんだん眠くなる。眠くなっていきます。ほら、もうあなたは無意識の世界に入りました。


ジョンジュは笑いながらも目を閉じ、リカに合わせる。


リ:あなたには今、ステキな恋人がいます。若くて魅力的で、あなたを幸せにしてくれる人です。さあ、あなたは彼女に出会って、いつ恋に落ちましたか?
ジ:(目を閉じたまま、しっとりとやさしい口調で)彼女が初めて僕のアトリエに入ってきた時です。僕が彼女を見て、「君、注文と違うじゃない」と言った時の、ちょっと怒った彼女の顔を心からかわいいと思いました。それから・・・彼女がキッチンのカウンターでレポートを書いていたあの日、その横顔の美しさに見とれました。その後、二人で座って話をして、彼女に愛しさを感じて、吸い込まれるように僕は恋に落ちました。


リカは、ジョンジュが出会いをちゃんと覚えていてくれたことがうれしくて、うっすら涙ぐむ。


リ:(しんみりと)それから私はここに住んでいるのよね・・・。(明るい声を演出して)では次の質問です。(意を決して)あなたはいつ、彼女を初めて抱きたいと思いましたか?その時、あなたの心には彼女だけでしたか?


返事がない。

リカがジョンジュを見つめる。
寝ているふりをしているのか寝ているのか。


リ:答えなさい。・・・ジョンジュ、ジョンジュったら。


ジョンジュの寝息が聞こえる。
リカが指先で、ジョンジュの鼻筋をさすり、頬やあごを優しく指の背で撫でる。
寝ているジョンジュを愛しそうに見つめながら、ささやくように語りかける。


リ:いつ、私をほしいと思った? いつから私を抱きたいと思った? いつから?・・・ あの人はその時、心にいなかった? 本当に、純粋に私だけを好きだった・・・? あの人は・・・あなたの心から消えない人なの? 答えて、ジョンジュ。 私だけを愛してくれる? ジョンジュ、私は、あなたが何かで苦しんでいたあの日、あなたを好きになりました。冗談じゃないのよ・・・あの日のあなたの目が、私を捕らえて放さなかったのよ・・・。


そういいながら、彼の胸に添い寝するリカ。
本当の思いを打ち明けたいリカ。
本当のことを聞きたいリカ。


リカが瞳を閉じると、流れ落ちた涙がジョンジュの胸を濡らした。







リカのいない午後。
ジョンジュのアトリエ。
電話が鳴る。ジョンジュは受話器をとる。


ジ:はい、チェです。
マ:私、マリー。なかなか電話をくれないのね。
ジ:ああ。(マリーの声に凍るような、熱くなるような不思議な動揺)
マ:なぜ? あの若い人のためかしら。
ジ:誰?
マ:一月に蚤の市で見かけたわ。あなたと仲良く手をつないでた。昔、私たちもよく手をつないで歩いたわよね・・・。もうあの子に決めてしまったの? 私はお払い箱?
ジ:マリー。出て行ったのは君だよ。どれだけの長い時間、僕が苦しんだと思う? ・・・君には想像できないよ。
マ:そうね、あなたは芸術家だもの。心が敏感なのよ。・・・でも私だって悩んだ。あなたとの暮らしを捨てたこと、とても悔やんだの。若かったのよ。心を抑えることができなかった。あなたに思い知らせたかった・・・あなたなしだって生きていけるって。でもだめだったわ。
ジョンジュ、私に会って。会えばわかるわ。誰があなたに一番ふさわしいのか。
ジ:そう簡単には会えないよ。まだ自分の気持ちが整理できてないんだ。
マ:キライになったの?
ジ:わからない・・・。
マ:とにかく来て。待ってる。いつまでも待ってるわ。ジョンジュ、・・・私のジョンジュ!


電話を切った後、しばらく考える。


今会うべきなのか。
もしマリーに会って本当にマリーでなければだめだったら、リカはどうする。
今のオレはリカを愛しているはずではないか。


引き出しを開け、マリーの写真を見る。

リカに会う前まで、日々思っていた女。
20の時からずっと思い続けた女。
それがリカが現れて、知らぬ間に簡単にリカに席を明け渡してしまったマリー。
その長い年月、心に住み続けたマリー。


確認しよう。
本当の気持ちを。
オレは、本当に誰を愛しているのか。



ジョンジュは心を決めたように洋服を着替え、約束のホテルに向かう。



今日のリカは帰りが遅いはずだ。








翌日の午前中。
ユーティリティ。
リカが、洗濯機に洗濯かごから洗濯物を押し込もうとしてシャツを落とし、拾う。

シャツのニオイを嗅ぐ。ジョンジュではないニオイ。


『ポアゾン?』
濃厚な香り。
リカとは正反対の香り。そして、大人の女の香り。


よく見るとシャツの胸に長い栗色の髪が1本ついている。
そっと取り上げる。
上から下からその髪を見つめる。リカの髪ではない女の髪。胸がつぶれそうになりながら、何度も見つめる。触ってみる。引っ張ってみる。指に絡めてみる。自分の髪と比べてみる。どう見ても違う髪。・・・押し寄せる疑いの波。


マリーなの? それとも知らない他の女?


リカはティッシュを2枚とり、大事そうにその髪を包む。
見知らぬ女の髪・・・。

包みをジーンズのポケットに入れ、たんたんと仕事を続ける。
これをジョンジュに問い詰めるか・・・悲痛な顔で、リカが仕事を続ける。








午後。
ジョンジュのアトリエ。
新しい公会堂のオブジェを考えながらも、昨日のマリーを思う。





【回想】
ホテルのラウンジ。ジョンジュが座っている。前からマリーが現れる。
マ:待った?
ジ:いや。


ジョンジュがマリーを見る。
ジョンジュより三つ年上のマリー。
一緒に暮らしていた頃に較べると、多少ふけたが、金持ちのピエールと一緒だっただけに、その輝きは只者ではない。
韓国人の父を持つマリー・パーク。
母はフランス人で、完全なフランス人としての教育を受けてきた女。それだけにジョンジュにとっては謎めいたところがあり、それが魅力でもあった。
その顔は東洋人のようでいて、光る瞳には西洋の輝きがあった。


マ:ジョンジュ、ステキになったわ。本当にあなたはキレイな男だわ。
ジ:マリー。何を言ってるの? 久しぶりに会った男に言う言葉かい。
マ:そう? なんといえばいいのかしら。そんなあなたに会いたくて、毎日あなたからの電話を待っていたと言ったほうがいいかしら。ジョンジュ。これでも真面目よ。本当にあなたに会いたかった。昔の私は、あなたを愛しているのに、あなたの仕事を理解できなくてあなたを困らせたわ。でももう大丈夫。もうそんなことはしないわ。
ジ:どういうこと?
マ:仕事に厳しいのは芸術家だけじゃないってことがわかったの。実業家もそうだった。もうジョンジュの気持ちを逆撫でしたりしない。男の人の仕事がわかったのよ。それだけでもあなたから一度離れてみてよかったかもしれない・・・。あとは・・・本当に好きな男と一緒になれれば幸せだとわかったのよ。
ジ:・・・・。


ジョンジュには、今のマリーがよく理解できない。

彼女は変わってしまったのか。

それとも昔からこういう人だったのか。
確かに言葉を検証すればおかしな事は言っていないのだが、それがとても耳障りなのは、なぜなのか。


ジ:君は変わったのかな。何か不思議な感じがするよ。僕たちは僕が二十歳の時から7年間も一緒にいたのに、今の君を見ていると、知らない人のようだ。
マ:あの女の子のせいかしら。あの子はいくつ?
ジ:24だ。
マ:私より11歳も年下?(少し笑って)それじゃ考え方もまったく違うかもね。まだ青いのね。
ジ:マリー。・・・君に会わないほうがよかったかもしれない。もう帰るよ。


ジョンジュは、これ以上ここに居たくなくて席を立った。
ラウンジを出てロビーのほうへ向かう。後ろからマリーがやってきて、ジョンジュの腕を掴む。


マ:ジョンジュ。強がってごめんなさい。私、あなたを忘れたことはなかった。いつもあなただけだった。ジョンジュ、私から去らないで。私を受け止めて。あなたが忘れられなくてピエールと別れたのよ。


マリーがジョンジュを階段のほうへ引っ張っていき、人目のないところで、いきなりジョンジュにキスをする。
ジョンジュは驚くが、なぜか甘い気持ちになってきて・・・彼女を抱く。
慣れ親しんだ口づけ。
今までの思いがフラッシュバックしてきて、マリーはまたジョンジュの恋人に戻っていく・・・。

そして、また会う約束をする・・・。








夕刻。リビング。
リカが物思いにふけっている。今朝のジョンジュのシャツのことが頭から離れない。
ジーンズのポケットに入れたあの栗色の髪。
ジョンジュに問いただすべきか。

そこへジョンジュがやってきた。


ジ:あれ、今日はジャンたちのパーティに行くんじゃなかったの?
リ:やめたの。あなたも家にいるんでしょう? 一緒にご飯を食べたいの。
ジ:いいよ。でもジャンたちに悪くない? 引越しの時もお世話になったし。
リ:いいのよ! 私はあなたと一緒にいたいのよ! (リカ自身も驚くほど、ヒステリックに言う)
ジ:(驚く)じゃあ一緒に過ごそう。


証拠はここにあるのに・・・。
ジョンジュに昨日のことを聞きたいが、言葉にすることができない。








ある日の午後。
ジョンジュが出かけていく。
帽子を目深にかぶり、隠れるようについていく黒尽くめのリカ。
ひたすらジョンジュを見つめて歩く。


(リカの視線で)
サンジェルマンのオープンカフェに座るジョンジュ。

リカが、今、あそこに行って隣に座ってしまえば笑って終わらせられる。・・・どうする。ここで追い詰めるか、許すか・・・心が決まらない。


ジョンジュの目が前方を見つめている。
リカの胸が苦しい。
その方向を目で追うことができない。
今はただひたすら、ジョンジュを見つめることしかできない。
そこに心が張り付いてしまったかのように。



女がやってくる。

あのマリーだ。

優雅に座る。

リッチな匂いのする女。
西洋の血が少し混じった女。
ジョンジュと変わらないか少し年上の女。
キレイな女。
華やかな笑いをする女。
指をからめる女。
ジョンジュを熱い目にする女。

燃えるような瞳で見つめ返す女。


マリーの足。
長く美しく手入れされた足。
洗練された組み方をする足。


そして、栗色の長い髪。
リカが手にしたあの栗色の髪。


二人は立ち上がり、歩き出す。
マリーがジョンジュの腕に手を通す。

釣り合っている二人。
人目を奪いそうなほど美しい二人・・・。


リカにはこれ以上見ることができない。
これ以上ついていくことができない。

自分よりすべてが勝る女。 

『敗北』、リカの頭をかすめる言葉。


ジョンジュの声:『リカじゃだめかな・・』








夕暮れ。
ジョンジュの家。
完全に打ちのめされたリカ。


たぶん、あの人は今日、帰らない。
この絶望感をかかえ、一人で過ごさなければならないのか。

広いリビングに一人。
むなしさを感じるリカ。

自室に入りベッドに座る。


ふと見上げると、ドア側の壁に貼られたおびただしいジョンジュのスケッチ。
リカが毎日毎日、描き続けたジョンジュへのラブレター。
リカは突然立ち上がり、力任せに、全部引きはがす。

ジョンジュがくれた道具箱。

狂ったようにそれを引きずって庭の外へ持ち出す。

ジョンジュがくれた絵の具を力いっぱい折る。
1本、2本・・・。

筆を折る。
1本、2本・・・。


リカの声:
『どうしたというの・・・男のために、私は自分の夢まで折ってしまうというの・・・。バカ・・・バカな子・・・』


こらえきれず、芝生に膝をつき、両手をついて、声をあげて泣くリカ。

心配そうに近づき見つめるボボがいる。








その夜。ベランダ。
帰らぬジョンジュを待ちながら、毛布に包まりお茶を飲むリカ。しょんぼりと弱々しく膝を抱いて、床に敷いた大きなクッションの上に座っている。横でボボが寝ている。


リ:(ボボに)リカじゃだめだっていうの? バービーが好きだっていうの? しかたがない? 本当にしかたがない? ボボ、あんたならわかるでしょう。 あんたのパパはリカを愛してる? 本当は誰を愛してるの?


ボボは、撫でられて尻尾を振るが、なぜか沈んだ様子。
リカが赤い鼻をして佇んでいる。








真夜中。ベランダ。
庭からジョンジュが息をこらしてやってくる。


ジ:リカ。どうしたんだい。外はまだ寒いだろう。(リカの顔をやさしい目で覗く)待っててくれたのかい?


ジョンジュはあふれるほどやさしい目をしている。まるでリカに会えてうれしいとでも言いたいほどに。

リカはその顔を見て、ジョンジュに抱き起こされて立ち上がるが、彼の胸のあたりから香るものがある。


『ポアゾン! 毒薬・・・あなたはすべて飲み干して来たの?』


リカがジョンジュの顔を睨みつける。


リ:お休みなさい!


リカが、ジョンジュの横をすり抜け、ガラス戸を開け、去っていく。
ボボさえ、リカについて去っていく。


ジョンジュは、一人寂しく、ベランダに取り残された。








後編に続く・・・。




ジョンジュとリカの恋は・・・。

そして、
マリーとジョンジュは・・・。


恋に翻弄されて、二人はどこへいくのか。







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