2009-10-06 00:57:56.0
テーマ:【創】永遠の巴里の恋人 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

【BYJシアター】「永遠の巴里の恋人」後編




BGMはこちらで^^




BYJシアターです。


本日は「永遠の巴里の恋人」後編です。

この作品は古いので、小説というよりシナリオで・・・。
読みにくかったら、ごめんなさい。


joonだけでなく、私もイマイチ体調がよくないので、
レス返しができなくて、スレを置いているだけですみませんvv

では・・・

ジョンジュとリカの世界へ入っていきましょうね^^



ここはパリです。
ジョンジュもリカも、韓国人でも日本人でもありません。まさにパリの恋人です。

日本とも韓国とも違う空気を感じてお楽しみください!



リカが目撃してしまった、ジョンジュとマリーの姿。

リカとジョンジュの二人に未来はあるのでしょうか・・・。




ではここより本編。
お楽しみください。

~~~~~~~~



主演:ペ・ヨンジュン

【永遠の巴里の恋人】後編






翌朝。
昨夜は、リカはジョンジュの寝室には来なかった。
ジョンジュは、昨夜のリカの様子が気にかかり、キッチンのほうへ出ていく。
キッチンは、リカがいないと空虚な空間である。

カウンターに、リカの置き手紙がある。


リカの声:
『製作があるので、大学の美術室へ行きます。帰りはわかりません。先に寝てください。リカ』


ジョンジュは、キッチンのカウンターに座り込み、昨夜のことを回想する。





【回想】

ホテルのベッドの上。
服のまま、マリーを押し倒し、抱きしめるジョンジュ。
激しいキスをして、5年ぶりにマリーを抱く。
マリーの濡れた瞳に、ジョンジュは「愛している」と言おうとするが、その瞬間、頭の中でリカの声がする。


「浮気しているの? 私を愛してるって言ったじゃない。私だけじゃないの・・・」 


ジョンジュは、ハッとしてマリーを見る。

マリー、マリー、マリー。
愛しい人のはずだった・・・。

そのマリーが帰ってきたのだ。

今度こそ、ジョンジュが心を決めれば、この恋を貫くことができるはずだ。
それがどうしたことか、まるで浮気を咎められた夫のように、ジョンジュは心も体も熱くなるのを覚えた。


マ:どうしたの?(ジョンジュの動きが止まったのを見て不思議に思う)


ジョンジュがじっとしている。

自分の中で何が起こったのか・・・。
リカは何物なのか。

こんなに長い間、待ちわびた瞬間にそっと現れる。


リカ、オレはおまえをそんなにも愛しているのか・・・。マリーよりずっと・・・。


しばしマリーを見つめるが、ジョンジュには、もう続けることができなかった。


ジ:すまない・・・。


ジョンジュは立ち上がり、愛するマリーを一人残して、部屋を出ていく。

マリーはベッドの上で額に手を置いて、やるせなく天井を見つめている。






ジョンジュが夜の街を歩いている。
春の夜風を顔に受け、ポケットに手を突っ込み、複雑な顔をしてそぞろ歩く。

結局自分は、あんなに長い間待ちわびた女を置き去りにして、こうして家路を戻ろうとしている。
今までだって、マリーを待つ間、他の女を抱いたこともあった。


リカ、おまえはそんなに大切な女なのか。


一生の恋と信じた女を残し、彼女のためにこうして歩いている。

見失いかけた真実が目を開き、心の闇に一筋の光を放つ。
自分は今まで何をしてきたのか・・・。







真夜中の家の前。
坂を上り、我が家が見えてきた。
ジョンジュは、心が満たされていくのがわかる。リビング前のベランダの照明がついている。

心がはやり、走っていく。

遠くからリカが毛布に包まって静かに座っているのが見える。
その姿にジョンジュの思いは満ちて、早く行って彼女を抱きしめたいと思う。

息を切らしながら、庭側からベランダに向かった。


ジ:リカ!


ジョンジュは思いをこめて、優しい目でリカの顔を覗き込むが、見上げたリカの目には絶望感があふれていた。

あの瞬間、ジョンジュの頭に浮かんだリカの声。

「浮気しているの? 私を愛しているって言ったじゃない。 私だけじゃないの・・」

まさにあの言葉を発しているリカの目。

声はなくても、リカの心がジョンジュを責める。

(ここからスローモーション)
そして、抱き上げたリカを抱くことも許されず、リカは無表情で自分の脇を通り過ぎていった。

まるで、ジョンジュのしてきたことをすべて知っているかのように。






夜、ベランダ。
イスに座り、ワインを飲むジョンジュ。
酔うことができない。
やるせない思いに心が沈んでいく。
足元にはボボが静かに寝ている。

戻らぬリカを待つ。
ジョンジュは昨晩のリカを思う、けなげにジョンジュを待ち続けていたリカ。


オレは彼女の愛に応えていたか。
いつも愛で満たしてあげただろうか。
・・・自分の心さえつかめず、心を裏切っていただけではないか・・・。






昼間。
帰らぬリカを待ち続けたジョンジュはとうとう、リカの部屋の中へ入っていく。

整然とキレイに片付いているリカの部屋。

壁いっぱいに貼られていたジョンジュのスケッチは、もうそこにはない。

リカがジョンジュに肩車をせがんで、揺れる肩の上で一生懸命に、貼り付けたジョンジュのスケッチ。



あの日、肩車されたリカは、ジョンジュの頭を抱き、笑いながら、スケッチを貼り付けていた。
下にいるジョンジュをアゴで使い、「もっと右! もっと左! もっと前よ!」と指図した。
そして、ベッドの上へ降ろされたリカがジョンジュを、笑顔で見つめた。

「お礼よ!」と言って、ジョンジュの手を引っ張り、自分のベッドに押し倒し、圧し掛かるようにキスをしたリカ。
ジョンジュの頬に、鼻に、額に、唇に・・・顔中、キスをして笑いかけるリカ。
ジョンジュがリカを抱こうとすると、


リ:だめ! 今日のあなたは私の僕よ。私のいう通りにして。


そういって、ベッドの上に倒れているジョンジュのセーターを脱がせ、自分もジョンジュにまたがったまま、セーターを脱ぎ、タンクトップを脱いだ。
長い黒髪の間から覗いたリカの顔は、妖しく美しかった。
そして、リカはやさしかった・・・。

あんなに、ジョンジュを全身全霊で愛してくれたのに・・・。


もう、あの全てが、ここには存在しない・・・。


ジョンジュの瞳が涙でいっぱいになった。








一週間後。午後の大学の構内。
芸術学部の建物からリカが出てくる。

少し痩せたリカ。
正面の大きな木の下にジョンジュが立っている。

ジョンジュに気がついたリカの胸が締め付けられる。
逃げ出したいが逃げる道はない。
正面の階段をゆっくり下りてジョンジュに近づく。

ジョンジュがじっとリカを見つめている。
リカが木の脇を通りすぎようとした。
ジョンジュの腕が伸びてきて、リカの腕をぐっと握り、引き寄せる。
ジョンジュがリカを真剣な顔で見つめる。
リカは目をそらしたままだ。


ジ:なぜ戻らない?
リ:(横を向いたまま)わかっているでしょ。私はもう戻ることができない。
ジ:なぜ?(リカを問いただすように、力いっぱい、自分の方へ引き寄せる)
リ:ここは大学よ。まずいでしょ。同じ学部の学生にこんなことしちゃ。
ジ:そんな事よりこっちの事のほうが大切だ。リカのほうが大切だ。
リ:知らなかったわ・・・。
ジ:とにかく話そう。こんな別れ方はだめだ。
リ:(目をそらしたまま)私を待ってた? どんな気持ちで待ってた?
ジ:・・・。
リ:私はあなたを愛してから、ずっと待ってた。ずっとずっと待ってた。あなたが本当に私だけを見つめてくれることを、ずっとずっとずっと待ってた。
ジ:リカ・・・。
リ:(初めてジョンジュの顔を見て)本当に愛してくれなきゃいやなの!(リカがジョンジュの手を振り切り、走っていく)




ジョンジュは一瞬ハッとして動けなくなるが、今ここでリカを手放したらもう戻らない。

リカの後を追っていく。
大学の外のマロニエの並木道。リカの後ろからジョンジュがやってくる。



ジ:もっとちゃんと話をさせてくれ。リカ、今おまえを失うことはできない。リカ!


ジョンジュの声に、リカは立ち止まり、振り返って、ジョンジュの目を見つめる。


ジ:リカ。愛しているんだ!


リカは泣きそうになる。


リ:これだけ傷つけても、あなたは平気でそんな事を言うの? あなたの本当の気持ち? 簡単に愛してるなんて言っちゃだめよ。 あの人は? マリーは? あの人を諦めたから、私で我慢するの? そんなの、もういや!
ジ:本当に愛してるんだ。・・・確かに自分の心がわからなくなった時があった。迷った時があった。でも、彼女と会って、おまえを本当に愛している事に気がついたんだ。許してくれ、リカ。もう一度やり直そう。

リ:もう一緒にはいられない。つらすぎて・・・。(しっかりジョンジュを見つめて)私はあなたが好き。(リカの目から涙がこぼれる)
好きで好きで気が狂いそうなの、ジョンジュ。・・・あなたを疑って、信じることができなくて。いつも心のどこかで本当に愛してくれてるって、あなたに問いかける。もう終わりにしなくちゃ・・・。
(目を落として)あなたがいない夜はつらい・・・。あなたがいないと眠れない。知らず知らずにあなたの温もりを探してしまう。つらくてつらくて、あなたのベッドに戻りたくなる・・・。でもだめ! きっとまた心が苦しくなるから。
(ジョンジュを見つめて)もう、もう戻れない・・・。(リカの胸元にはあのガーネットのネックレスが揺れている)
ジ:リカ。(リカのつらさが心に沁みてきて、リカを引き止めることさえできない)



ジョンジュは、万感の思いを込めてリカを抱きしめる。

今、この腕の中にいるリカを、こんなに温かいリカを、自分は手放さなければならない・・・。
ジョンジュは、胸が張り裂けそうな思いで抱きしめる。

リカは抱かれるままになるが、これが最後とジョンジュを力いっぱい抱きしめた。












一年後。
東京の外資系の銀行。
首からIDカードを下げて、キレイな色使いのスーツ姿の理香子が歩く。

スポーツ選手のように引き締まったふくらはぎにくびれた足首。
カツカツと歩くパンプスがよく似合う。
肩に少しかかる髪を耳にかけ、コーヒーを片手にオフィスを歩く。

フランス人の同僚が声をかけ、理香子が「ダコール!」元気よく返事をして席に向かう。
コンピュータを前に、耳にかけた電話のマイクで顧客とフランス語で商談をする。時に真剣に、時に笑顔で。






パリのジョンジュの家。
風邪ぎみのジョンジュが咳をしながら、キッチンの引き出しから風邪薬を探す。
日本語の漢方薬の袋には、リカが書いたフランス語で、症状と飲み方が書いてある。
「二日酔い」「頭痛」「咳・鼻水」「風邪総合」。
ジョンジュは一袋、選び出して、水で飲む。


ふと気がついて、その袋をよく見る。

『松本漢方薬局 東京都世田谷区三軒茶屋・・・TEL・・・・』


リカの実家である・・・。

リカは一年前、大学を退学し日本へ帰国していた。
画家としての才能を嘱望されていたにもかかわらず、自分のせいでこのフランスを去ったリカ。



リカが去ったあと、むなしく過ぎた日々。
この家さえ主を失ったかのようにシーンと静まり返っている。
リカが来る前は、いったいどうやって暮らしていたのか。
あまりの広さに気がついて家を売ろうと考えた時もあったほどだ。

一人では広すぎる空間・・・。



ジョンジュは受話器をとって電話をする。


ジ:チェ・ジョンジュです。この間の話、東京芸大でのシンポジュウム、お引き受け致します。


ジョンジュが漢方薬の袋を一つ持ってキッチンから出ていく。







五月下旬の東京。
新宿のホテルのフロントで、三軒茶屋というところまでの行き方を書いてもらったジョンジュが山手線に乗っている。
駅を一つずつ覗き込むように確認しながら、渋谷で降りる。ホームの真ん中に立ち尽くし、英語で「田園都市線」への乗り換えを聞いている。
わからない階段を下り、悩みながら、電車に乗る。ドキドキしながら、また駅の確認をしている。


地下の駅から地上に出て、また悩む。
人に聞きながら進むジョンジュ。
行き過ぎたり戻ったり・・・。

しばらくすると、目の前に『松本漢方薬局』の看板が現れる。

中を覗く。
白衣を着た50がらみの男がいる。
入ろうとすると、若い白衣の男が中から荷物を持って出たり入ったりしている。
彼はいったい何者なのか。
心が揺れる。


ここで引き返すか。・・・いや、何のためにここまで来たのだ。ここに来るため、普段引き受けぬ仕事を引き受けてきたのではないか。
何を躊躇しているんだ。


ジョンジュが、薬局に入っていく。


男:いらっしゃいませ。
ジ:(言葉に詰まって)すみませんが(英語で言う)
男:あっ、ちょっと待ってください。Wait a minute! ヒロシ~。外人のお客さんだ。来てくれ。


若い薬剤師が出てくる。


ヒ:なんでしょうか?(英語)
ジ:(困ってしまい、薬の袋を差し出す)これを・・。(英語)
ヒ:ああ、風邪薬ですね・・・。(よく見るとフランス語で何か書かれている。ジョンジュの顔を見る。英語で)フランスの方ですか。
ジ:(英語で)いえ、韓国です。でも今はフランスに住んでいます。
ヒ:(またジョンジュの顔を見る。もう一人の薬剤師に)姉さんの関係の人かな。フランス語で書かれてるよ。


父親と二人、袋を見る。


父:(日本語で)理香子、知ってますか?
ジ:(日本語で)リカさん。(微笑む)
父:(息子に)知り合いだ。わざわざ来てくれたんだよ。ちょっと英語で何か聞いてくれ。
ヒ:(英語で)姉の理香子を知っているんですね。これは姉から貰ったものですか。
ジ:(英語で)ええ、リカから。とてもよく効くので、ほしいんです・・・。(やっと本題を切り出して)ところで、リカは元気にしていますか。
ヒ:(英語で)はい、元気です。すみません。あなたのお名前は? 
ジ:(英語で)チェ・ジョンジュです。
父:ああ、下宿先の彫刻家の先生。お世話になってどうもその節は・・・。それはそれは。奥様はお元気ですか、先生。


ヒロシが通訳する。


ジ:(奥様で言葉に詰まったが、英語で)ええ。あのう、リカは絵を続けていますか。
ヒ:(英語で)ああ、残念なんですが、日本に帰ってからはやめてしまって、今はフランス語を生かして外資系の銀行に勤めています。


ジョンジュは、その言葉に胸が痛くなる。
あんなに絵が好きだったリカ・・・。
毎日、時間があれば、ジョンジュをスケッチしていたリカ。


ヒ:(英語で)あいにく姉は今外出していて、よろしければ滞在先を教えてください。きっと会いたいと思うので。


ジョンジュは躊躇うが、ここで躊躇ってはいけないと、滞在先を書き記す。


ジ:(英語で)ではリカによろしく。(薬を買って帰る)


ジョンジュが去ったあと、


ヒ:下宿先の先生がわざわざ来てくれたんだ。
父:あれは違うな。恋人だよ。理香子と同じニオイがする・・・理香子のパリの恋人だ。


ヒロシが驚いて父を見て、出ていったジョンジュを思う。







午後3時。新宿御苑。
ジョンジュはすることもなく、公園の中を散歩する。周りは家族連れやカップルばかり。
リカに会えず、心は沈むが、勇気を出して実家を訪ねたのだから、それだけは自分を評価しよう。

ふざけて遊ぶ若いカップル。リカと森を散歩した時を思い出す。






【回想】
腕を組みながら森を散歩する二人。
リカが何か思いついたように、「おぶって。おぶって!」とせがむ。
しかたなく、背負うジョンジュ。
彼の首に手を回し、幸せそうに背中で目を閉じるリカ。


リ:ジョンジュの体の音が聞こえる。(リカが体に耳を当てながら、聞き分けるように)鼓動・・・胸の音・・・血液が流れる音・・・好きだって言っているジョンジュの心の声が聞こえる・・・(リカは体をぴったりつけて目を閉じる)
ジ:こら、落とすぞ。(前に落とすように体を曲げる)
リ:やだやだ。(笑い転げる)


ふざけて、体をゆするジョンジュ。
リカが悲鳴をあげながら笑う。
やさしく落とされるリカ。
驚いてジョンジュを見るリカの顔。(リカの顔のアップ。ここからスローモーションになる)次第に笑顔になり、ジョンジュに抱き起こされて、ジョンジュの顔に近づいていく。

二人の影がゆっくり揺れるあたたかな午後。







夜。
デートから帰ってきた理香子。茶の間でくつろいでいると、弟のヒロシが入って来た。


ヒ:姉さん、今日ね・・・。
リ:ヒロシ。姉さん、結婚することにしちゃった。お見合い結婚もいいよね。
ヒ:(困ってしまって)そう、よかったね。(立ち去ろうとするが、やはり今これを言わないのはフェアではないように思えて、理香子の横に座る)姉さん。今日ね、チェ・ジョンジュさんていう先生が店に来たよ。


理香子は驚いて言葉を失う。


ヒ:一応、滞在先ね。(ジョンジュの書いた紙を渡す)まだ2日くらいいるみたい。
リ:ありがとう・・・。(受け取り、ヒロシを見て)なあに、その目は。
ヒ:いや・・・。会ったほうがいいなと思って。じゃあ。(立ち上がる)
リ:(冷静をつくろって)サンキュ! (テレビのほうを見る)
ヒ:姉さん、父さんがね・・・あの人は姉さんの恋人だって。姉さんと同じニオイがするって。理香子のパリの恋人だって。


ヒロシは、理香子の反応を待ったが、テレビを見て振り向かないので、仕方なく、静かに去っていく。






一人になると、理香子はさっと立ち上がってテレビを消し、2階の自分の部屋へ上がった。
スタンドを1つだけつけ、暗い部屋の中で、じっと考える。


この一年、忘れようと努力した理香子。
今日、結婚を決めてきた理香子。


なのに、今頃現れるなんて。どうしろというの。


答えを出せずに、バスルームに向かう理香子。
脱衣所でブラウスを脱ぐ。鏡に映る自分を見る。
首に下がったガーネットのネックレス。一度も外したことのないネックレス。


リカの声:
『忘れた? 忘れたことなんかなかったくせに! うそつき! 
一時も忘れてなんかいなかったじゃない! 何を強がっているの! 
行くのよ、リカ! 今行かなかったら一生後悔する。絶対後悔するから・・・。
ジョンジュがここまで訪ねてきたのよ、あの人が。あんたのために、ここまで。
電車を乗りついで道を尋ねて・・・ただ遊びに来るはずないじゃない!

あんたはあの人をよく知っているでしょう。
あの人よりよく知っているんでしょう。
あんたが愛している人、それはあの人でしょう。
ジョンジュ以外なんて、ちっとも愛してないくせに!
行くのよ、リカ! 行くのよ! 
強情を張っちゃだめ!』






理香子はシャワーを浴び、急いで身支度をする。

時計を見る。11時近い。
ヒロシの部屋へ行く。


リ:ヒロシ! 連れてって。ジョンジュ先生の所へ連れてって。
ヒ:今から? 今日行くの? これから?(驚く)
リ:うん、行きたいの、今じゃなきゃだめなの。今日でなきゃだめなの!


ヒロシは、姉のせっぱつまった様子に慌てて着替え、一緒に階段を下りていく。
階段横の茶の間で、父が軽く晩酌をしながら、テレビを見ている。


父:どうした、二人とも慌てて。(二人を見る)
ヒ:・・・姉さんが、これから先生に会いに行きたいっていうんだよ。


驚いて、父が、しばし理香子の顔を見つめる。


リ:父さん、ごめん。今日結婚するって言ってたのに、こんなことになっちゃって。でもね、どうしても行きたいの、今行かないと後悔しそうだから。あの人に会いたいの。


父は娘を見つめる。


父:おまえは何を言ってるんだ。もういい加減、終わりにしなさい。
リ:父さん・・・。ごめんなさい。わがまま、言っちゃって・・・。でもね、でも・・・今、あの人に会わないと・・・。
父:そんなにあの男が忘れられないのか。だったらなぜ日本に戻ってきた? パリまで行って、頑張った勉強を、絵まで捨ててなぜ戻ってきた?
リ:・・・。
父:もうやめなさい。終わったことじゃないか。もうあの男に振り回されるな。
リ:振り回されてなんかいない。私が会いたいのよ。
父:日本に来たついでにおまえの様子を見に来ただけだろ? 
リ:ここまで訪ねてきてくれたのよ!
父:理香子。目を覚ましなさい。新しい道を行くと決めたんだろ? もう忘れろ。・・・おまえに絵を諦めさせ、あんなに望んでいた夢を諦めさせた男じゃないか! もうやめろ!
リ:違うの。(涙がこぼれる)違うのよお、父さん。あの人が悪いんじゃないの。私のせいなのよ。だから、だから行かせて。
父:理香子!(理解できない)
リ:・・・終わってなんかいない。終わることができないのよお・・・。(辛く、苦しそうに言う)あの人を忘れることができないのよ!
父:おまえというやつは!


父が思い余って、理香子を掴もうとすると、ヒロシが父の肩を掴んで、父親を押し倒した。


ヒ:父さん、ごめん。姉さん、早く行こう。


倒れた父を見て、理香子は一瞬ひるむが、ヒロシが理香子の腕を引っ張っていく。


ヒ:姉さん、早く!
リ:父さん、ごめん。ごめんなさい!


理香子は泣きながら、ヒロシに腕を引っ張られ、駐車場の車のほうへ向かう。






車の中。
ヒロシが、時々理香子を見る。

理香子は心ここにあらずといった表情で、じっと前を見据えている。






ホテルの前。
車から降りる理香子。


ヒ:一人で大丈夫? 時間が遅いから、駐車場で待っていようか。
リ:(首を横に振り)うううん。ありがとう。帰っていいわ。大丈夫。わがまま言ってごめんね。なんかあったら電話するから。
ヒ:うん。・・・頑張れよ。(手を振って車を出す)


理香子は、弟のやさしさに泣きそうになる。






午後11時半。ホテルのフロント。


リ:すみません。1202号室のチェ・ジョンジュさん、お願いします。松本リカと申します。


フロントが部屋に電話を入れるが、出ない。


フ:いらっしゃらないようですね。メッセージを残されますか。
リ:いえ、ここで待ってみます。
フ:松本リカ様ですね?
リ:はい。

リカはホテルの入り口が見えるソファに腰掛け、ロビーに座って待つ。
心は激しく動揺しているが、強い意志で待つことにする。

リカの声:
『一晩だって、私はここで待つわ』

目を瞑り、じっと我慢して待つ。






12時近く。
初夏の風に吹かれながら、ジョンジュが新宿の高層ビル街を歩いている。

東京の夜は美しい。

しかし、隣にリカがいなければ、やはりここは外国でしかない。
一人ぼっちだ。

この頬を撫でる風さえも心に寂しさを運んでくるだけ。





【回想】
挿入歌が流れる中、高層ビル街を夜風に吹かれ歩くジョンジュと、回想のリカのシーンが交互に流れていく。




【挿入歌】「君への思い」

♪♪~
こもりがちな僕の心に
明るい世界、くれたのは君だね


当たり前のように愛してくれた君
なにげない愛で包んでくれた


つらい気持ち、乗り越えるとき
君の笑顔がいつも後押ししてくれる
心の中で報告するよ
今日も
僕に起きた出来事


すべてが君に甘えすぎて
君を失ってしまったのだろうか


当たり前のように愛してくれた君
なにげない愛で包んでくれた


失って気づく愚かさを知り
君に許しを乞いたいけれど
君の愛をこえる強さを
今は
僕もちゃんと持っているよ


今はただ風に吹かれて
君を思い、答えを待つよ


どんな時も愛してくれた
君を失うことは僕にはできない


風よ、どうかあの人に
僕の思いを伝えてほしい
♪♪~~





【リカの回想ショット】

多色使いの帽子をかぶり、毛糸の長いマフラーをした初めての日のキュートなリカ。
ジョンジュの額に手をかざし熱を見る、姉のようなリカ。
ベッドの中で熱のあるジョンジュを胸に抱く、聖母のようなリカ。
鏡の前でシェービングクリームを塗ったジョンジュとおどけていたリカ。

ジョンジュと手をつなぎ、通りを散歩する幸せそうなリカ。
ジョンジュにおんぶされ、まどろむ少女のようなリカ。
ジョンジュをスケッチする真剣な眼差しの画家のリカ。

一人寂しくベランダに佇む放心のリカ。
マロニエの並木で涙にくれる悲しみのリカ。
走り去っていく別れの日のリカ。



東京の空の下、ジョンジュが風に吹かれて歩いている。







ジョンジュがホテルに着く。
回転ドアを通り、ゆっくりロビーに入ってくる。
前を見ると、ロビー中央、植木の前のソファに、静かに女がうつむいて座っている。
髪を肩までたらした細身の女。
ユニークな色合わせで初夏の香りがするいでたちをしている。
他にもまだ人はいるのだが、その女のセンスのよさに、そこの場所だけ明るい感じがする。


ジョンジュがフロントへ行き、カギをもらう。フロントの男が、英語で、


フ:お帰りなさいませ。(カギを差し出す) 先ほどお客様がお見えでしたが。(周りを見るが、リカはロビー中央の植木の陰で見えない)お待ちになるとおっしゃっていましたが・・・・。
ジ:なんて名乗っていましたか。
フ:さあ、メッセージはいいとおっしゃって・・・(首をかしげながら)なんとかリカ様だったと思います。
ジ:何時ごろ?
フ:まだ30分は経っていないと思います。
ジ:ありがとう。


リカが訪ねてきてくれた・・・それもこんな時間に!
会わなくては。
今を逃してはいけない。
ただの挨拶にこんな夜中に来るはずはないのだ。


ジョンジュの心の声:『リカ!』


ロビーを見回すが、リカはいない。ホテルの外へ飛び出す。


『リカ、どこへ行ったんだ。待っていてほしかった。ごめんよ、ごめん。オレがフラフラ出歩いていたから・・・。でもおまえに会わずにはいられない』


新宿の高層ビル街で、一人佇むジョンジュ。




後ろから、

リカの声:ジョンジュ! ジョンジュ!


振り返るジョンジュ。
先ほど見かけた初夏の香りのする女が立っている。

リカの声をしたその女はだんだんジョンジュに近づいてくる。
顔がはっきり見える。

リカの顔。
心を締めつける懐かしいリカの顔。

ジョンジュは、一瞬涙が出そうになる。
自分が想像していたちょっとアバンギャルドでかわいいリカではないが、25歳のリカは少し大人びて凛として美しい。

ジョンジュも、リカのほうへドンドン近づいていき、リカの前に立つ。
リカはガーネットのネックレスを下げている。

いつも記憶の中にいたジョンジュの顔。
今、目元が光っている。

リカの瞳は以前と変わらない。
いや、もっと強い意思を持っている。


ジョンジュが、万感の思いを込めてつぶやく。


ジ:リカ・・・。


リカはジョンジュを見つめ、ジョンジュのほうへ倒れそうになる。

『やっぱり愛している』

ゆるぎない思い。


ジ:会いたかった・・・。リカ。おまえなしでは・・・。リカがいないと心の中が空っぽだよ。許してくれるかい。


お互いがお互いを求めている。


リカの声:『もういい。もういいの、ジョンジュ。私はここにいるわ』


リ:もう逃げない・・・。もう離れない・・・。それでいい?
ジ:うん・・・。(大粒の涙が一つこぼれる)待っていたよ、リカを。ずっと・・・。リカだけを。愛してる、リカ。


リカはジョンジュの愛を確信し、ジョンジュを見つめ続ける。


ジ:リカ、そばにいて。いつまでもオレのそばにいて。ずっと一緒に暮らそう・・・おまえはオレの永遠の恋人だから。


リカが大きくうなずく。
ジョンジュはリカを引き寄せ、包み込むようにしっかりと抱きしめる。

リカは、笑顔のまま、ジョンジュを見つめ、背伸びをして、ジョンジュの顔を両手で包み込む。
ちょっと泣きそうなジョンジュの顔が近づいて、キスをする。
リカがジョンジュの首に腕を回し、抱きついた。

そして二人は熱いキスをする。

もう離れない、もう放さない!


二人は見つめ合い、そしてまた、熱いキスをする。
終わることのないキス。

今までの思いを込めて、
お互いを求めるように・・・お互いを吸い込むように。




高層ビル街のど真ん中、ジョンジュとリカが、真夜中の街頭が照らす中、
いつまでも二人抱きあって熱い口づけをかわした。










THE END







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