BGM:Page "You and me" Happy Holidays - Love Vacations
Happy Holidays - Love Vacations
BYJシアターです^^本日は「Holidays」in 2005 中編です。思い思いの時を過ごすカップルたち。今日は誰に会えるでしょうか・・・。お楽しみください。ここより本編。【Happy Holidays - Love Vacations】中編主演:ぺ・ヨンジュン【To Be or Not To Be】(恋しい胸に・・・)「よし! 荷物は全部積んだぞ!」「こんな雪の日に引越しなんて最悪!」「怒るなよ」「先輩。何やって、日本なんかに左遷されちゃったの?」「おい、そういう言い方はないだろ?」「こういうのを栄転っていうんだよ、普通は・・・」「まあね。・・・せっかく広報の主任になったのに・・・」(ちょっと下を見る)「じゃあ、おまえ、行かないの?」(きつい目つきで見つめる)「そんなあ・・・」(伏し目がちに言う)二人は引越しの荷物を積んだ小型トラックに乗り込む。【Oh,Myテディベア】よりスンジュン・商社マン(ぺ・ヨンジュン)ミンジュ・アパレルの広報(チョン・ジヒョン)「どうするんだよ?」スンジュンは運転席に座ってミンジュを見つめる。「どうするって・・・普通行くでしょ?」(不服そうな声)「でも、いやならいいよ」「いやとは言ってないじゃない」(ちょっとケンカごしに言う)「でも、仕事辞めたくないんだろ?」「・・・・」「一人で行ってもいいよ」「そんなあ・・・」(眉間にしわを寄せて下を向いている)「まあ、いいや。とりあえず、この荷物は実家に預けるよ」「・・・」「おい」(ミンジュを見つめる)「なあに?」「・・・まあ、いいや」スンジュンは借りてきた軽トラックのエンジンをかけた。ミンジュと二人、なんとなく気まずい。たった数週間前に、ミンジュは勤めているアパレル会社の広報部で認められ、やっと主任になったところだった。ミンジュはキャリアウーマンを続けると断言していたし、スンジュンもそれを応援していた。まさか、あれから10日後にスンジュンの日本行きが決まるとは思わなかった。まさに青天の霹靂。頭ではわかっている。二人は一緒にいたほうがいいことは。でも、なんとなく、ミンジュには解せない。どうしても、自分の中の何かが頭を持たげ、スンジュンにきつく当たってしまうのだ。二人は黙ったまま、車を走らせている。もうすぐスンジュンの実家の近くだ。今年は実家の両親はハワイへ出かけている。まさか、両親もこんなに急に彼が赴任するとは思っていなかったのだ。実家に着いて、スンジュンは自分の部屋を開け、荷物を降ろす。二人はただ黙ったまま、黙々と荷物を実家の部屋と納戸に分けて仕舞い込んだ。全てが終わって、スンジュンがミンジュを見た。二人はまだ気まずい。「じゃあ、帰るか」「うん・・・」ミンジュは来た道を帰っていくのかと思っていたが、スンジュンが違う方向に車を走らせている。ミンジュの実家の方向だ。「先輩・・・。こっちへ行ったら・・・」「おまえの家だよ・・・」(前を見ながら言う)「だって、そんな方に行ったって」「オレたち、もう住む場所もないんだから・・・おまえはこのまま実家へ帰れよ」「えっ?」(驚く)「・・・いいよ、オレと一緒にホテルになんか泊まらなくても。一人で行くよ」「・・・だって・・・」「たぶん、3年くらいしたら韓国に戻ると思うし・・・だめなら、また考える」ミンジュは、さっきまでスンジュンに冷たく当たっていたくせに、自分の希望通りに一人だけ韓国の残ることになって、なぜか急に悲しくなってきた。なぜか、涙がこみ上げてくる。鼻を啜る。スンジュンがミンジュの様子の変化に気がついた。「なんだよ」(運転しながら言う)「・・・」(鼻を啜っている)「泣くなよ」「・・・」「おまえ、残りたいんだろ? いいよ、オレは一人で行くから」「・・・」「別にヤケで言ってるんじゃないんだ。せっかくおまえが認められて、主任になったんだし。おまえには合ってる仕事だし・・・。チャンスだしな。いいよ。おまえは残れよ。それがいいよ」「・・・でも・・・」「オレの犠牲になることはないよ。自分の仕事を貫けよ」「・・・でも・・・」「オレは一人で行く。決めたよ」もうミンジュの実家は見えている・・・。「止めて!」スンジュンは、少し手前で車を止めた。「このまま、別れちゃうの?」(スンジュンを見る)「今は仕方ないだろ? オレはあさって発たなくちゃならないし。おまえが一緒にホテルに泊まる必要はないよ」「・・・」「泣いたって仕方ないだろ? オレは・・・おまえを応援してるだけだよ」「先輩・・・」「ここで別れるか。家の前まで行かなくていいのか?」「・・・」「そんな顔するなよ。出張でソウルにも来るだろうし、おまえも休みに東京へ来ればいいじゃないか?な?」「先輩・・・」「行くぞ。じゃあ元気でな」スンジュンはあっさり別れていってしまった・・・。ミンジュが見ている前をさっさと車に乗って、帰っていってしまった。あまりに簡単な別れだった。あんなに思いつめて愛していた人が、とてもあっさり、簡単に去っていく。確かに離婚するわけでもない。お互いの仕事を続けるためだ。先輩はミンジュに最良の選択をしてくれたのだ・・・。夜になって、ベッドに入ったが、ミンジュは眠ることができなかった。結婚して、ずっと二人でいることが当たり前だった。いや、大学時代から一緒にいることが当たり前だった。初めて一人置いていかれてしまった。確かに、彼は無常に置いていったのではない・・・。ミンジュのために、一人離れていっただけだ。ホントによかったのかな・・・。私は何をしたいんだろう。先輩がいる時は気づかなかったけど・・・先輩がいないと眠れない。そうだ、先輩は出張に行っていると思えばいいんだ。このまま、別れることになったりしないよね・・・。あんなに先輩のことを待って、結婚したのに・・・。ミンジュは寝付けず、台所へいって、ミルクを温める。母が出てきた。「ミンジュ。寝てなかったの?」(驚く)「うん。お母さんは?」「ふん。(笑う)ちょっとトイレ」「そっか・・・」「スンジュンさんはあさって発つの?」「そうよ」(ミルクパンの中を見ている)「それで、あなたが一ヶ月したら、日本へ行くのね?」「・・・・」「どうしたの?」「お母さん、私・・・」「どうしたの?」「仕事を続けようかと思って・・・」「・・・」「どう思う?」「一人でやっていけるのね?」「・・・」「ならいいんじゃない」「それだけ?」(拍子抜けして母を見る)「だって、あなたたちが決めたことなんでしょ? なら仕方ないじゃない。親が口出すようなことじゃないわよ」(ダイニングテーブルに座る)「それでいいと思う?」(ミルクをカップに入れてテーブルへ行く)「・・・どうかしら・・・お母さんにはわからないけど・・・。一つ、教えてあげようか?」母が少し笑って、ミンジュを見た。「何?」「昔、お父さんが浮気しちゃった時のこと」「そんなことあったの?」「うん・・・」「それで?」「お母さんの友達だったの・・・相手が」「えっ!」(ちょっとショック)「でも、別れなかった・・・」「それって、女の意地? お父さんや相手に対する意地なの?」「どうかな・・・。お母さんはね、その時、決めたの。別れることもできるけど、別れないって」「なんで?」ミンジュは母を見つめた。母はちょっと下を向いたが、顔を上げて、ミンジュをしっかり見据えて言った。「お母さんが生きていくのに、お父さんが必要だったからよ。絶対に失いたくない人だった・・・。もしお父さんがいなくなったら・・・そう思ったら、辛くて、きっと生きていけないような気がしたの。だから、意地じゃなくて、自分が生きるために、お父さんから離れちゃいけないって思ったのよ。一度、手放してしまったら、もう戻ってこないでしょ? 一番愛している人を自分からは手放しちゃいけないって。そう思ったのよ・・・」「・・・・。そうだったんだ。今、お父さんが亡くなってどう? 今は生きていけるの?」「だって、ミンジュ。お父さんはお母さんのもとで亡くなったのよ。もう一生お母さんのものよ」ミンジュは母の話を聞いていて、涙が出てきた。「どうしたの? ミンジュ?」母が心配そうに顔を覗きこむ。「やっぱり・・・。先輩がいなくちゃ・・・」ミンジュが急に泣き出してしまう。「ミンジュ。あなたたちはちゃんと話し合ったの? お互い、気持ちを全部出し合って、話し合ったの? 二人がしっかり決めたんだったら大丈夫よ」「お母さん・・・。私、一人じゃ、寂しくて。寂しくて・・・」一人でなんか・・・寂しくて・・・。先輩。先輩は寂しくないの?我慢できるの?私はやっぱり・・・。「・・・お母さん。私、帰るわ」「あなた、今、夜中の1時よ」「でも、帰る、先輩のところへ。このミルク、あげる」(カップを母に差し出す)「ミンジュ!・・・ちょっと、ミンジュ!」ミンジュは急いで2階の自分の部屋へ上がり、服を着替える。「お母さん、タクシー、呼んで!」「タクシーって言ってもあなた、こんな時間じゃ、危ないわよ・・・」ミンジュが座りこんで泣き出した。母は驚いてしまう。そうだ!先輩に電話しなくちゃ!先輩に自分の気持ちを言わなくちゃ!黙っていたんじゃだめだって。あの時だって、相手の気持ちをちゃんと確認しなくちゃだめだって、先輩が教えてくれたじゃない。ミンジュは携帯でスンジュンに電話する。「先輩?」「ミンジュ?」「寝てた?」「・・・いや・・・」(少し困ったような声だ)「先輩・・・」「どうしたんだ?」「迎えに来て・・・」「・・・どうしたんだよ?」「帰る。帰りたいの」「車はもうないよ。軽トラも返しちゃったし」「でも、帰りたいの、先輩のところへ」(泣き出してしまう)「おい! ミンジュ!(困惑する) ・・・じゃあ、朝になったらソウルへ出てくればいい」「今、帰りたいのお」(強く言う)「ミンジュ・・・」「・・・一人でなんか行かないで。(しゃくり上げる)置いてかないで・・・」「だって、それはおまえを・・・」「一緒に行くから。・・・一緒に行くから・・・置いてかないで・・・」(大泣きになってしまう)「ミンジュ!」「今、帰りたいの、先輩のところへ。今、会いたいのよお・・・」「わかったから・・・。なんとかするから・・・そこにいろよ」「・・・来てくれるの?」「・・・うん・・・行くよ・・・」「・・・気をつけてね・・・」スンジュンは泊まっているホテルに頼んでレンタカーを借り、車を走らせる。彼自身、ミンジュを実家に置いてきたものの、一睡もすることができなかったのだ。ミンジュは、自分でも驚きの結末だった。あんなに悪態をついていた先輩に、結局、自分のほうから一緒に行きたいと言い出したのだから・・・。いつも女は損していると言って、スンジュンに食ってかかっていたのに、いざ、はしごを外されそうになったら、自分のほうから、スンジュンにしがみついてしまった。ちょっと悔しい気もする。でも、それが愛なんだ。スンジュンが来るまで、とても安らかな気持ちでスンジュンを待つことはできなかった。午前3時に到着したスンジュンに思わず、ミンジュは抱きついた。自分のわがままに付き合って、スンジュンは寝ずに車を飛ばし、迎えにきてくれたのだ。朝も10時近くになっているが、二人はまだミンジュの実家の二階で寝ている。あんな真夜中に、大騒ぎをした娘を迎えに来てくれて、やさしく抱きしめてくれたスンジュンを、母は、起こすことはできない。もう少し、二人を寝かせておいてあげよう。二階の元ミンジュの部屋のシングルベッドで、二人は抱き合って熟睡している。二人が眠りにつけたのは明け方だった。お互いがかけがえのない人間だということを思い知った夜でもあった。今、安らかな顔をして幸せそうに眠る二人を起こそうとするものは、誰もいない・・・。【Start a new life again】(人生の旗揚げ)12月26日。今日、記念すべき初演日を迎える。ヒスはかなり緊張しているが、このチャンスをくれた彼のために全力で臨むつもりだ。【夕凪】よりYJ(キム・ヤンジュ)・作家(ぺ・ヨンジュン)チョン・ヒス・女優(ソン・イェジン)ヒスは楽屋の大きな鏡の前で化粧を整える。左側の顔を見る。交通事故でできた傷は近くで見ると、隠すことはできない・・・。しかし、特殊メイクを習ってから、なんとか遠めにはごまかすことができるようになった。女優になることが夢で終わってしまいそうなヒスであったが、YJが、舞台なら、メイク次第でなんとかなるのではないかと、アドバイスをしてくれた。そして、今日という日を迎えた。主演ではないが、舞台に立つチャンスを掴んだのだ。YJ、キム・ヤンジュ。私の愛すべき、パートナー。彼は今まで小説しか書かなかったのに、舞台のためのシナリオを何冊も書き下ろした。編集者や周りの人々は彼の行動に驚いたけれど、それが報われて、今、彼のおかげで私は役につけたのだ。ヤンジュはそうじゃないと言った。君の力だと・・・。そして、劇を書きたくなったのは、君を知ったからだと・・・。君のおかげで、仕事の幅が広がったと・・・。でも、私にはわかる。彼が私のために最善を尽くしてくれたことが。このチャンスを絶対に掴もう。女優として、自分の力で立てるように!ヤンジュが感動して、やっぱり君のために書いてよかったと思えるように!化粧が終わった頃に、楽屋をノックする音がする。「はい」「ヒス、いいかい?」「ええ」YJが入ってきた。「まだ、着替えてないんだ」「うん、これから。ねえ、ここに座って」YJは少し足を引きずるように歩き、鏡の前の椅子に座る。交通事故で負った怪我のため、彼は少し足を引きずる。でも、彼はそれを苦にはしていない。自分が生き残れたこと、ヒスと出会えて、二度目の人生を歩き始めたことを誇りに思っているのだ。ヒスは、座っているYJに顔を見せる。「ねえ、どうお?」「ぜんぜんわからないね。うまく化けるようになったなあ」(笑う)「ホント?」ヒスはもう一度鏡を見る。「自分ではなんとなくわかるけど、他人はわからないわね」左側の顔を映し、確認する。「大丈夫だよ。着替えるかい?」「ええ。ねえ、後ろのファスナー手伝ってね」「先生を使うんだ」「もちろんよ。楽屋では旦那様だもの」ヒスが着替えをし、背中を向けて、YJにファスナーをあげてもらっている。「できたよ」「ありがとう」YJがヒスの後ろ姿を愛しそうに見つめ、少しだけ、髪を撫で、肩を抱いた。「頑張れよ・・・」「うん・・・」振り返って微笑んだヒスには、華があった・・・。本当にこの子は女優として生まれてきた華がある・・・。事故で失ってしまった美貌は惜しいけれど、その代わり、心の強さを手に入れたのかもしれない。「悔いが残らないように頑張るわ」「うん!」ドアがノックされる。「ヒスちゃん、公演10分前だよ」「ありがとうございま~す!」(ドアに向かって言う)「ヤンジュ。舞台の真ん中でちゃんと見ててね!」「うん」(顔をしっかり見つめる)「先生、ありがとう」(真面目な顔をして言う)「ヒス・・・。自分の力で取った仕事だ。皆にその力を見せてやれよ」「うん!」今日はマスコミも来ている。気持ちを集中させて頑張ろう。舞台は長丁場だ。しかし、初演は皆が注目している。できるだけの力を出そう。ヒスとYJは、楽屋を出て、YJは客席のほうへ歩いていく。ヒスは舞台の袖で、椅子に座った。静かに目を閉じる。自分の中を無の状態にする・・・。開演のベルが鳴った・・・。前から三番目の客席で、緊張してYJが座っている。思いをこめて、舞台を見つめる。ヒスはそっと目を開けた。今までとはガラッと違った表情になる。甘さも怯えもない・・・女優の顔になった。そして、立ち上がり、舞台の幕が上がるのを、袖で待つ。客席のYJの目の前が明るくなった。ヒスは、まるで神が降りたように、安定した歩みで、舞台に向かって歩み出した・・・。【Home Sweet Home】(懐かしの我が家へ)シカゴ・カウンティ病院のスタッフルーム。TVが今、新年のカウントを終えたところだ。ああ、新年になっちゃったか・・・。時計を見る。11時に約束したのに、もう一時間も過ぎている。ロッカーを開けて、白衣を脱ぐ。今年も最後まで働いた・・・。スタッフルームのドアが開いて、婦長のアーニーが入ってきた。「A Happy New Year! ヨンス!」【さよならは言わないで】よりキム・ヨンス・医師(ぺ・ヨンジュン)パク・ジヒョン・妻( キム・へス)「Å Happy New Year! アーニー」「もう年が明けちゃったのね・・・。(TVを見る)ねえ、明日から休暇でしょ?」(コーヒーを入れている)「そうだよ」(着替えながら話す)「どこへ行くの? 韓国に帰るの?」(ちょっとコーヒーを飲む)「いや、ボストンへね」(セーターの上にダウンジャケットを羽織っている)「ボストン?」「うん、ジヒョンが学生時代に留学してた所。一度、二人で行ってみようっていうことになって」「・・・何年ぶり?」「さあ・・・17、8年ぶりぐらいじゃないのかな?」「そんなに? どうして行かなかったのかしら?」ヨンスが黙って、アーニーを見た。「あ、ごめんなさい・・・。思い出したわ・・・私ってバカね・・・。ごめんね・・・」「いいんだよ。これからはちょくちょく行くよ」(笑顔を見せる)「そうね。でも、こんな時期、あったかい所へ行ったほうがいいのに」「今度・・・今度、行ってみるよ」「そうね・・・。じゃあ、いい休暇を!」「サンキュ!」アーニーはヨンスの頬に頬を寄せて出ていった。明日から、ヨンスとジヒョンはボストンへ旅立つ。韓国からここシカゴまで、飛行機で渡ってきたジヒョンだったが、まだ、気軽には飛行機に乗って遊びまわるというところまでは、ホントのところ、回復しきってはいない。しかし、シカゴからボストンまでなら、ヨンスと二人でなんとか行けるだろう。着替えを終えて、スタッフルームを出てくる。まだ、働いているスタッフがヨンスに声をかけてくる。「A happy new year! Have a nice vacation!」「Thank you! Have a nice day ! Bye~!」午前0時過ぎ、年が明けたシカゴの街。空を見上げる。外は、雪がしんしんと降っている。ジヒョンは病院前の小さな、安ハンバーガーショップで待っているはずだ。ヨンスは車の往来に注意しながら、通りを渡り、店のほうへ歩いていく。店に入る。店の中は、間接照明で柔らかな明かりだ。客は2、3人。皆、病院のスタッフだ。雪を払いながら、中を見回すと、ジヒョンが一人、奥の席で本を読んでいた。「ごめん! 遅くなっちゃって」ああ・・とジヒョンが本から顔を上げた。ヨンスと共に、冷たい空気がジヒョンのもとへやってきた。「寒かった?」「ごめんね。待っただろう」「大丈夫よ。座って。この本、意外とおもしろいわ・・・。(本の表紙を見る)今、何時?」「12時12分」「ホント? 気がつかなかった」(笑う)いつも、彼女はこんな調子だ。ヨンスを責めることはない。「ねえ、お腹、空いたでしょ? 何食べる? と言っても、ハンバーガーとハンバーガーとハンバーガーしかないけど!」(メニューを見て笑う)「じゃあ、そのハンバーガーとそっちのハンバーガーとこっちのハンバーガー」「そんなに食べるの?」「冗談だよ。一つでいいよ」「What do you want?」太ったアフリカ系のウェートレスが来た。「ええとね、こっちのハンバーガーとコーヒー。ジヒョンは?」「私はアップルパイに生クリームを添えて。それと・・・コーヒーでいいわ」「OK!」ヨンスが振り返って、ウェートレスが去っていくのを見て、「ジヒョン、ここのアップルパイって最低だよ。いいの?」「うん!」(笑顔)「そう?」「今、食べたいのよ」「ならいいけど」「ねえ、両手を貸して」ヨンスが両手を差し出すと、ジヒョンがヨンスの両手を包むように握って温める。「冷たい。寒かったわね」(やさしく笑う)「ねえ・・・荷物はもうパッキング終わったの?」「ええ、ほとんどね。・・・あと、あなたを折りたたんでしまうだけよ」(笑う)「そう? ありがとう」(笑う)「いや、待てよ。もしかして、そんなに大きなの、買ったの?」「よく気がついたわね。そうよ」(得意そうに笑う)「なんで?」「驚いた? 冗談よ。私が買ったんじゃないのよ。韓国語を習いに来ている生徒さんたちからのプレゼントなの」「なんで?」「新婚旅行にどうぞって」「あ~あ、そういうこと。・・・ホントだ・・・。新婚旅行へ行ってなかったね」「そうなの。私も言われて気がついたわ。いつも自分たちの居場所が移動しているから気がつかないでしょう?」ジヒョンはふざけて言ったのに、ヨンスは感慨深げにジヒョンを見る。そこへハンバーガーとアップルパイが来た。ジヒョンはうれしそうな顔をして、バッグから袋を取り出し、アップルパイの生クリームの上に細長いろうそくを一本立てる。「ねええ。もうカウントダウンは終わっちゃったけど、二人で新年を祝いましょ!」「そういうことね・・・」(アップルパイを見る)「うん・・・」さっきの大柄なウェートレスがドンドンドンとやってきて、パッと手を出し、ろうそくに火をつけて微笑む。「A Happy New Year! Doctor!」「Thank you!」また、去っていくのを振り返り、ヨンスが見る。「怒られるかと思ったよ」「私も!」二人で笑う。「・・・新年明けましておめでとう。今年もよろしく」「明けましておめでとう。今年も仲良くしていきましょうね」「ああ・・・」「アーニーが、もっとあったかいところへ行けばいいのにって言ってたよ」(食べながら言う)「ホントにそうよね。来年はバハマでも行く?」「・・・う~ん、そうだね・・・」「・・・・」(顔を見る)「どうしたの?」「ヨンス、何か、隠してる?」「ふ~ん・・・。(ちょっとため息をついて)実はね、ソウルの○○大学のERの助教授に来ないかって教授から手紙が来たんだ・・・。母校じゃないけど」「・・・なんで黙ってたの?」「・・・韓国に戻るのは、君には辛いかなと思って・・・」「なぜ?」「お父さんやお母さんや・・・ジウォンのことがあるだろう・・・」「ヨンス・・・。気にしなくてもいいのよ。私には家族はあなただけでいいの。私たちは世界中どこへ行っても一緒なんだし。二人だけでいいの」「・・・うん・・・」「それより、その話・・・行きたいんでしょう?」「う~ん・・・。ここも楽しいけどね」「そうお?」「・・・」二人はしばし押し黙る。「・・・ヨンス、帰りましょう、韓国へ」「えっ?」「あなたの力を生かせるところへ。だって、アメリカじゃあ、臨床で患者を見られないんでしょ?」「まあね。でも、研究医も慣れたよ。ここ一年やって、結構おもしろいし」「でも、それは本来のあなたじゃないわ・・・。それじゃつまらないじゃない。せっかくのあなたの力が生かせてないもん・・・。行くところがあるなら、帰ろう。ちゃんと人助けができるところへ帰ろう」「・・・・」(ジヒョンを見つめる)「ヨンス、なんの心配もいらないのよ。あなたとだったら、韓国まで飛んでいくわよ」「・・・一緒なら平気だよね?」「ええ。だって、ここまであなたを追ってきたんですもの。帰れるわ、きっと・・・」「そうだよね・・・」見つめ合う。「ヨンス・・・。あなたが高波に飲み込まれて死にかけた時・・・私は・・・神様と約束したの・・・」「・・・何を?」「あなたを返してくれたら、助けてくれたら、一生かけてこの恩返しをしますって。一生医学に携わって、神様、あなたのお手伝いをしますって。 たくさんの人を助ける約束をしますから、ヨンスを返してくださいって・・・」「そうだったの・・・」(胸がいっぱいになる)「うん・・・」「そうだったんだ・・・」「だから、あなたを生かせるところへ帰るべきだわ。私はそれを一番願っているのよ」「・・・」「・・・」「ありがとう」「・・何が?」「やっぱり、君が助けてくれたんだね」(顔を見つめる)「違うわ。医者でしょ?・・・そんなことわかってるじゃない・・・」「・・・ありがとう・・・」二人は、ハンバーガーショップの外へ出る。雪が積もってきた。「明日、飛行機、飛ぶかしら?」ジヒョンがちょっと心配そうに空を見る。「ジヒョン、明日は明日の風が吹く。だろ?」(顔を覗きこむ)「(笑う)そうね!」「いつもは君の台詞だったね。今回は僕に任せて。いいだろ?」「(笑う)もうお、頼もしいわ!」「行こうか。車までちょっと濡れるよ」ヨンスは、自分のコートでジヒョンを包み込む。ジヒョンはヨンスにぴったりくっついて、二人は地下鉄の高架下に止めてあるヨンスの車まで、抱き合うようにして、歩いていった。後編へ続く。