KA・ZO・KU ― レウォンの初恋 ―
今夜、サークルに「愛してる-その翌日-」をUPしてきました。
こちらは過去作ですが、レウォンとミナの出逢いのお話を。
冒頭とラストは、ジュンがインスを演じていたあの映画^^の頃。
この時、レウォン16才。回想シーンでのレウォンは中1。13歳です。
正式にジュンが父になってからも、まだレウォンはジュンをヒョンと呼んでいます。
ヒョンは大好きだけれど、ちょっと複雑な思春期の頃・・
2005年、6月18日。
ヒョンの2作目の映画のクランクアップの日。
真夜中に帰ってきたヒョンは、ひどく疲れた様子で、
ソファーに身を投げ出した。
「お帰り。全部終わったの?」
「ああ、終わった。何かな・・気が抜けちゃったみたいだ。
なあ・・俺って・・誰だったっけ・・・」
「何言ってんだよ。今回は、いつにもまして、壮絶だね。
ヒョン?僕は・・誰?」
「君は・・・俺の息子。自慢の息子だ・・レウォン」
「うん。そうだよ。・・よかった。大丈夫そうだね。
ねえ、シャワー浴びる?」
「そうだな・・ちょっと疲れた・・
笑は・・・・ま、だ・・
現・・・・・場・・・・・」
「ヒョン!!!!!!!」
ヒョンは僕の目の前で、静かに倒れた。
その頃母さんは、まださっきまでヒョンがいた撮影現場にいて、
クランクアップの余韻の中これから打ち上げに向かう・・
そんな時だった。
今回の映画は、母さんの会社でヒョンが初めて撮ったもので、
広報の責任者になっている母さんは、力の入れ方が断然違った。
世間的には、まだヒョンは独身の俳優で、母さんと僕の存在は
知られていなかったから、ヒョンと行動を共にする事はできず、
具合の悪そうなヒョンが帰るのを見送るしかなかったんだ。
僕は、母さんの携帯にヒョンが入院した事をそっとメールした。
社長には、携帯で直接話した。
社長はほかのスタッフに気遣いながら、母さんが病院へ行ける様
なんとか計らってくれた。
真夜中の病院。
母さんの走る靴音。
あわててドアを開ける母さんを、ヒョンは例の悪戯小僧の顔で
(ちょっと、引きつってたけどね)ベッドから見上げた。
「ジュン!!」
「笑・・無理して来る事ないのに。大丈夫。ただの過労だ。
明日には退院できるって。あの孝行息子が教えたんだな?
・・お前、黙ってればいいのに。」
「バカ!当たり前でしょ?もう!無茶するんだから・・
どう?インスはもう、いなくなった?」
「どうかな・・・でも、苦しかったんだ。
わかってはいるんだよ、頭ではね。だけど、ほら・・
僕は寝取られ亭主だから。
こんな事、現実にあったら耐えられないよ」
「バカね。そんな事あるわけ無いじゃない。
あなたの笑さんは、そんなにモテないわよ。」
「バカ、バカって言うなよ・・・・よけい落ち込む」
「ふふ、よかった、大丈夫そうね。もう、心配させて・・
明日からこっちは大変なのよ。ただでさえ、撮影大幅に延びて
公開まで間が無いって言うのに。明日は芸能ニュースも大騒ぎね。
“ヨンジュン緊急入院!”って!」
「そうだね・・ゴメン、笑。もう平気だよ。
忙しいだろ?帰っていいよ。笑に知らせたバツとして、レウォンに
残ってもらうから。お前としばらく話もしてないしな。
さ、もう行って!少し眠るよ。レウォン・・・笑を送って・・・」
母さんを送って病室に入ると、ヒョンは眠っていた。
“綺麗な人だよな”・・・親父を形容する言葉じゃないけど。
本当の父親を知らない僕にとって、ヒョンは兄のようではあるが、
父そのものだ。血こそ繋がってないけど、僕にとって父はこの人だけ。
でも未だ“父さん”とは呼んでいない。呼べない訳じゃない。
心ではそう思っているんだから。でも・・・・
「レウォン君のお父さんって、どんな人?一度も逢ったことないよね。
出張の多いサラリーマン?お店やさん?ねえ、何やってる人?」
僕が中学一年の冬、ヒョンと母さんは、結婚した。
僕に父親がいなかったのは、結構有名な話だったから、
(なにしろ、僕が喧嘩するたびに、相手の親がそれをネタに家に
乗り込んできたし、その相手は、あ、の、母さん・・だろ?
ま、みんな、返り討ちにあって帰っていったけど)
母さんが再婚して、僕の苗字が変わったっていうのは、
かなり、あの近辺じゃ、センセーショナルな事件だったわけ。
すぐに、引っ越せばよかったんだけど、その時、ヒョンは難しい
一人二役(三役?)のドラマを抱えていて、地方ロケも多かったし、
母さんも、チーフに昇進したばかりで忙しく、一学期間だけ、
そこに留まることになったんだ。
【春になったら一緒に暮らせる】
その頃の僕たちは、それを合言葉の様にして、過ごしていた。
(実際は、近所の問題なんかじゃなくて、もっとス・ゴ・イ波が、
その後、僕達家族にやってくるんだけどね)
その冬。僕のクラスに一人の転校生がやってきた。
長い髪に、桜色の頬をした、色白の女の子。
「初めまして。キム・ミナです。よろしくお願いします。」
僕は、ひと目で・・ヤラレタ!
彼女は、商社勤務の父親の転勤に伴って、転校を繰り返していた。
久しぶりに帰ってきたこの祖国にも、何年いられるか判らないと、
小さいため息を漏らした。
僕は、彼女の関心をひきたくて、
わざと、意地悪な言葉を耳元で言ったり、
必要以上にふざけて、仲間とはしゃいだりしていた。
しかし、僕の言葉に、知らん顔される事も多く、
顔には出さないが、結構凹んだりしていた。
「僕と、友達になってください。」
この一言が、どうも言えない。
「ああ~~、僕もヒョンみたいに、ハンサムならいいのに・・」
僕の、ため息は、漢江より長かった。
学校からの帰り道。
漢江公園のブロックの上。
僕は一人で、歌を歌う。
ヒョンがいつも、鼻歌のように歌う、この曲。
≪椿咲く~、春なのに~、あーなーたーはー帰らない~~♪≫
「その歌、知ってるわ、でもなんで、日本語なの?」
驚いて振り向くと、・・・・・そこには彼女がいた。
僕はあんまり驚きすぎて、あやうく、ブロックから落ちそうになった。
「レウォン君だっけ?家、この方角なの?
・・・どうしたの?私の顔になにか付いてる??」
僕はあまりにもポカンとした顔をしていたんだろう。
彼女が笑っている。
「あ!あ!・・えーと・・ミナの家もこっちなのか。
変なとこ見られちゃったな」
「ふふっ、いい声ね。でも少し音程外れてたわよ」
「うるさいな、よけいな、お・せ・わ!だったらお前は、
ちゃんと歌えるのか?」
「うん・・この歌知ってるけど、日本語じゃ歌えないわ。
ねえ、どうして日本語なの?」
「あぁ、この歌?父さんの思い出の歌なんだって。
僕の母さんは日本人なんだ。」
「思い出の歌?・・どんな思い出?」
「何度聞いても、教えてくれないんだ。
秘密・・とか言っちゃって・・昔を思い出して笑ってる」
「ふふ、素敵なお父さんね。・・かっこいい??」
「ああ・・・かっこいいよ。
あんなかっこいい男、他に知らない」
僕は今、ミナと話している。
しかも、話題はヒョンのことだ。
僕は自然に“父さん”と言い、
その“父さん”を自慢している。
「歌かぁ・・・私ね、ホントは歌手になりたいの。オペラのね。
レウォン君、オペラ見たことある?」
「ん~、ゴメン・・無い・・」
「ううん、いいの。小さい時、両親に連れて行ってもらって。
憧れたなぁ。あの舞台で綺麗なドレスを着てアリアを歌いたいって」
「そうか、なればいいじゃないか。
音楽の成績もいいんだろ?悩む事ないよ」
「そうね・・私ね、左の耳、聞こえないんだ・・
小さいとき病気でね。だからこっちから後ろの感覚もないんだよね」
ミナは、身体の左半分を示した。
「・・・あっ!だから時々、知らん顔・・」
「そう。右は普通だから、よく誤解されるんだよね。
母たちは、耳が悪いと音楽の世界では苦労するって。
反対されてるの。
実際左側から伴奏が聞こえてくると、音取れないことあるんだ・・
諦めなくちゃいけないのかな?時々ここに考え事しに来るの」
そう言って、ミナは鉄柵に手をかけて、漢江の流れを見つめていた。
その横顔が、かわいくて、寂しそうで・・僕の胸がちくっと痛んだ。
「あのさ・・・・僕、尊敬してる人がいるんだ。
その人は、とても強い人で、いつも真っ直ぐ前を向いて
少しのことでは動じない。どんなに皆が無謀だからやめろって言っても、
自分がいったん決めたら絶対に諦めない。自分を信じてるから。
・・・結局は自分なんだよ。誰がなにを言ったって。
“自分で決めた事は、自分で責任を取る”言葉では簡単だけどね。
それをやってしまうヒョンを僕は、世界で一番スゴイと思う。
やってみればいいじゃん。だめだったら、またやり直せばいいよ。
ハハハ!僕が説教してるよ。僕のキャラじゃないよな。」
「レウォン君・・・・ありがと。
なんか、少し勇気出てきた。もう一回両親と話してみるね。
だって・・諦めたくないもん。
レウォン君の周りはすてきな人がいるんだね、羨ましいな。
ね、さっきの歌、教えてくれない?日本語で。
弱気になったら、歌えるように。
だって・・レウォン君が励ましてくれてるような気がするでしょ?」
僕はそのあと、なんて答えたか正直憶えていない。
気がついたら、彼女と一緒に歌い、
彼女と一緒に、笑っていた。
「今日は、ありがとう・・・帰るね・・じゃ、学校で」
「あぁ・・学校で」
僕は、見えなくなるまで、彼女の後姿をずっと見送った。
「おい!・・・・なんて顔してるんだ?ボーっとして。」
「・・ヒョン!!あ・・起きたの?」
いつの間にか、ヒョンが僕を見ていた。ベッドから身を乗り出して。
「ニタニタ笑ったり、切なそうな顔したり・・
何考えてたんだよ!まったく、お前といると飽きないなぁ」
「くそ!また変なとこ見られた・・あ!そうだ。
前から聞いてみたかったんだ。
ねぇ、ヒョン、よく歌ってるよね。“釜山港へ帰れ”。
なんであの歌が思い出の歌なの?
しかも、ヒョンが歌ってるの、日本語じゃない。」
「あぁ。あれか?話してやろうか・・あの歌はな、
俺が笑に惚れた記念の歌なんだ」
「どういうこと?」
「前に、電話の声に惚れた話、しただろ?
その後、しばらくして、会社の廊下の奥から聞こえてきたんだ、
この曲が。誰もいない、廊下で、窓の外見ながら、笑が歌ってた。
日本語でな。普段のバリバリやってる笑からは想像できない、
寂しそうな顔でさ・・・ヤラレタよ。俺の心、鷲掴み・・ハハハ」
「母さんが?」
「ああ。お前のお父さんに教えてもらったんだそうだ。大学で。
たどたどしい日本語で、祖国の歌を。
日本人でも、あの曲は知ってる人多いしな。彼を想っていたんだろうな。
あの時の、笑の顔は、今でも憶えてる。
俺は・・・もう決してあんな顔は笑にさせない。
“ツバキサク・・ハルナノニ・・アナタハ・・カエラナイ・・・”
な、悲しい歌だよな。」
「ヒョン」
ああ・・この人は本当に母さんが好きなんだな。
わかってはいたけれど。
「おい!それはそうと、さっきの百面相は、な・ん・だ・よ!
・・・女の事でも考えてたか?」
「ヒョン!!ちがうよ、何言ってんだよ!」
「お!!図星かぁ~・・はぁ~、あの小さかったレウォンがな~。
どんな娘だ??同じクラスの、すらっとして背の高い、髪が長くて、
いいにおいがする・・・だろ?」
「ヒョン!!どうして??」
「さすが親子だな。俺と同じ。ま、俺の場合は、
どこの誰かもわからなくて、声も掛けられなかったけど」
「そんなにかっこいいのに?ヒョン、モテたんじゃないの?」
「こればかりはな。そう自分の思うようにはいかない。
俺が笑と結婚するのに、何年かかったか忘れたか?
しかも、最後はおまえのおかげだ。でもこれだけは、はっきり言えるよ。
俺が本気で惚れたのは笑だけだ・・これまでも、これからも。
レウォン、本気で惚れたら絶対逃がすな。男は勝負だぞ。」
「うん、肝に銘じるよ。ヒョンみたいに苦労しないように。」
「ああ、そうしろ・・・・あんな想いはもうたくさんだ。」
「ヒョン、母さん選ぶなんて、物好きだね。
他にいっぱい良い人いるだろうに。」
「そうだな。自分でも時々思うよ。なんで、笑なんだろうって。」
「あ、の、母さんだよ?」
「あぁ、あ、の、笑さんだ」
「フフフッ・・・・」
「ハハハハッ・・・・」
僕は笑った。
ヒョンも笑った。
あぁ、この笑顔だ。
この人は、僕も幸せにしてくれる。
ヒョン・・・
母さんを好きになってくれて、ありがとう。
僕の“家族”になってくれて、ありがとう。
世界一大好きだよ。
“父さん”・・・・
コメント作成するにはログインが必要になります。


