僕だけを見て
これは、2007年の4月。サークルの1周年記念に書いたお話です。
KAZOKUシリーズの中では少し異色の作品。語りはジュンでございます。
時は、ジュンがホテリアーの撮影の途中。例のシーンを明日に控えたそんな時・・
メイキングシーンをご存知の方にはイメージしやすいのではないでしょうか。
私が考えるホテリアーの撮影秘話(笑)私自身、少し気に入っている作品です^^
そしてコラージュは、この作品でのコラボ、akke135mさんです。
「明日、朝5時ですね。
大丈夫です、間に合うように帰ってきます。
すみません、このあと僕の出番無いので・・
今回のシーン、自分でもう1度考えてみたいんです。
時間下さい。お疲れ様でした・・」
明日は5時入りで、このドラマでの初のキスシーン。
物語の重要な軸になりそうな場面に、僕はいつになく落ち着かない。
撮影に入ってから、ずっと舞台であるホテルにいわば缶詰状態。
ほとんど外にも出ずの撮影には、少なからず息が詰まる。
彼の気持ちでのキス。
彼の孤独、そして、
初めての愛に戸惑う彼の想い。
頭では分かっているのに、どう表現したらいいのか。
今は、身体の半分以上を彼の感情が占めている。
僕は今、堪らなくヌナに逢いたかった。
もう、何ヶ月逢っていない?
撮影に入る前夜からだから・・3ヶ月?
ヌナに逢えば、ヌナの顔を見れば、このモヤモヤした悩みも
消えそうな気がした。
半日の休みが貰えた事を、まだヌナに知らせてはいない。
そうだ。今日は、内緒で会社にヌナを迎えに行こう。
そして夜は、レウォンと久しぶりにゲームをしよう。
あいつにこの間送ってやったRPG、どこまで進んでいるかな。
攻略本を買ったって電話で言っていたから、
もうクリアしてしまったかも知れない。
あの部屋の空気に触れたら、僕の中の“男の顔”が見えてくる
ような気がする。
ソウルの街は、満開の桜でピンクに色づいていた。
その春の香りは、僕の心をまっすぐヌナに向かわせる。
僕は、帽子を目深に被り、車を映画社に走らせた。
映画社の向かいのビルの脇に車を止め、携帯を握る。
“なんで緊張してるんだろう・・変だな・・なんか、手、震えてる”
短縮の【1】を、押そうとした時、ビルの中から、ヌナが出てきた。
僕の見たことのない、柔らかな春色のスカート。
“あ・・髪、染めた?”
綺麗なブラウンに染まった髪は緩やかにウエーブが掛かっている。
“似合わないから”と言ってつけようとしなかった、オレンジの口紅。
「ヌ・・・」
思わず声を掛けそうになって、僕は慌ててシートに隠れた。
ヌナの後ろから、ビルを出てきた長身の男。
笑顔で、ヌナの肩に自然に手を置いている。
そして少し言葉を交わしては、大声で笑い、歩き出す。
相槌を打つヌナは、その手を気にしているようだが、
男はその手の力を緩めない。
・・・ダレダ・・・アイツ・・
その男は・・誰?
君は、なぜ肩を抱かれているの?
なぜ・・微笑んでいる・・の?
いつの間にか、強く噛み締めていたんだろう。
僕の唇は、渋い鉄の味がした。
遠ざかっていく2人をバックミラーの中に見ながら、
思わず、力一杯ハンドルを殴りつける。
“パァーーーー!!”
突然鳴るクラクション。
ヌナは驚いたように振り向き、そして・・・僕の車に気付く。
ミラーから見た、その唇が、
・・・ジュン・・・と動いた。
「母さん、お帰り~!ヒョン、来てるんだよ!」
「・・ジュン」
「お帰り。朝まで時間貰ってきたんだ。明日は5時から撮影。
腹減ってるだろ?今夜のメニューは、ヨンジュン特製のチヂミで
ございます。手、洗ってきたら?それとも・・・誰かと食べてきた?」
「ジュンらしくないわね。その言い方。
言いたい事があったらハッキリ言ったら?」
「いいの?・・レウォンもいるのに?」
「私にやましい所なんかないわ。
何を見て勘違いしてるのか知らないけど」
「勘違い?アレが?そう。・・ならいい」
「ジュン!だから、あなたらしくない!そんな言い方」
「僕らしいって何?僕だって男だ!恋人を目の前で抱かれたら
嫉妬だってする。しかも、今は半分ドンヒョクだ。
いつもの僕じゃないさ。やっと逢えた恋人に受けた仕打ちに、黙って
耐えなきゃいけないのか?妬くなって?・・それはムリだ。
僕の知らないヌナを見せられて、気分がいいわけないだろ?
・・・待てよ!!」
「着替えるの。どいて」
「ヌナ!!レウォン・・少し、母さん借りるっ!」
寝室のクローゼットの前で立ち止まるヌナ。
心なしか震えているのは、気のせいか?
「彼は誰」
「・・・答えなきゃいけない?」
「答えられないの?」
「・・・答え・・たくない」
「何があった」
「・・・・・」
「ヌナ。ヌナこそ、らしくない・・何か、あったね」
「ジュン・・」
ヌナの頬を、涙が伝う。
その涙は・・・・僕の頭に血を昇らせた。
力ずくで壁にヌナを押し付けると、無理矢理、唇を奪う。
“らしくない”僕の激しいキスに、ヌナは抗った。
「ジュ、ン・・い、や・・」
「何故?・・・どうして?・・僕を見てよ・・・僕だけを見て。
他の男に微笑まないで。苦しいんだ・・痛いんだよ、ヌナ・・」
「ジュン・・あのね、あの人は・・・ジュン!!」
僕は、部屋を飛び出した。
今はヌナのどんな言い訳も聞きたくなかった。
聞けば何をするか、自分でも解らなかった。
僕の中の、激しい何かが、
「嫌だ・・」と叫んでいた。
ホテルに戻った僕を、マネージャーが目ざとく見つける。
「あれ?ヨンジュナ、今夜泊まって来るんじゃ・・」
「ヌナに振られた・・・明日のシーン、11話のラストだよね。
大丈夫。多分・・出来るよ。不本意ではあるけど」
「え?」
どうして、ちゃんと話を聞かなかったんだろう。
つまらない独占欲。
想いを伝えきれない、あのもどかしい気持ち。
自分がこんなにガキだって今更気付いた。
ヌナの頬を濡らした一滴の涙。
その泣き顔が、僕の頭から離れない。
その夜は、結局一睡も出来なかった。
朝5時。撮影開始。
正体を知られたドンヒョクは、
ジニョンをホテル通用口で待ち伏せる。
誤解を解きたい。自分の気持ちを解って欲しい。
通路の間にジニョンを閉じ込め、想いをぶつけ、キスをする。
彼の気持ちを理解できたと思ったのに、NGを連発する。
涙がこぼれる・・・何故?
自ら休憩を申し込み、タバコを吸おうと外に出たとき、
そこに・・・・ヌナがいた。
「ヌ、ナ」
「ちゃんと話さなきゃと思って・・有給取っちゃった。
マネージャーさんが特別に通してくれたの。
ジュン、私に振られたって言ったんですって?
いつ振ったのかしら?私」
「・・昨夜はごめん・・・頭に血が昇った。
冷静じゃいられなかった。話も聞きたくなかった。
自分で聞いたくせに・・バカだろ?嫌になるよ・・
今日はいつもより早く終われると思う。
待っててくれる?今、話聞いたら、出来なくなるかも
知れないから・・・ね、見てて」
「お待たせしました。お願いします」
ジニョンを待ち伏せする所からの長廻し。
ドアを壊し、彼女を閉じ込め、壁際に追い詰める。
「僕の目が見える?・・僕の声が、聞こえる?
・・よく聞いて・・・・・愛してる、ジニョン・・」
キスシーンが初めてなわけじゃないのに、唇が震える。
ユンアが僕の首に腕を廻し、気持ちに押されそうな僕を助けてくれた。
モニターで確認したその顔は・・・苦悩するドンヒョクだった。
「待った?」
「綺麗な眺めね・・ここ、ドンヒョクの部屋よね。
ここで待つようにって、案内してくれたんだけど。
よかったの?スタッフの人、私の事知らないんでしょう?」
「ごく一部以外はね。大丈夫、誰も来ないよ。今日はもう終わったし、
明日ここでの撮影ないから今夜は僕が借りた。ヌナとゆっくり話したい」
「さっきのシーン、素敵だった。きっと話題になるわよ。
正直、少し妬けたわ。女なら、あのドンヒョクにあそこまで
されたら、堕ちるわね。・・・ね、どこから話したらいい?」
「ヌナが話したいところから。ともかく座って・・もう平気だよ。
どんな内容でも聞く勇気は出来たから」
「大袈裟ね・・ごめんなさい。ジュンに心配掛けたくなかったの。
ドラマに集中してる時だし、ここに缶詰でしょ?
相談したかったけど、出来なかった。
あのね・・・レウォンのことなの。
あの人ね、レウォンの伯父なの。シン・ジフンさん。
ジウォンさんが亡くなってからも、色々気に掛けてくださってた。
でも日本人だから・・私。
表立って手助けすることも、出来なかったんだと思う。
それが去年、ご夫婦で乗ってらした車で事故に遭われて。
奥様、未だに植物状態なの。後遺症で、ご自身も足、悪くされて。
・・・跡継ぎが欲しくなったのよ。子供には恵まれなくてね。
奥様を愛してらっしゃるから、養子を取るしかなくて。
・・・レウォンをね・・くれないかって。
自分達がちゃんとした教育も受けさせるし、大切に育てるからって。
日本人とのハーフじゃ、この国で生きるにはレウォンには辛いだろう
って・・・断ったのよ!レウォンを手放すなんて出来ないって!
そしたら・・・
どこで調べたんだか・・ジュンのことを持ち出したの」
「僕?」
「うん・・“ぺ・ヨンジュンと付き合ってるのか。
年上の子持ちの未亡人、しかも日本人。
そんなスキャンダル、今の彼にどれだけのダメージになるか。
返事は考え直したほうがいい”って」
「脅してきたんだな」
「お義兄さんにとっては、大真面目な話なのよ。
レウォンにとっても私にとっても、これ以上いい話はないって・・
ごめんなさい。私がいい返事をしないものだから、
昨日は会社にまでやって来たの。
ジュンが見たのは、玄関で義兄さんがよろけて私の肩につかまった時ね。
足が悪いからこのまま歩いてくれって。嫌だったけど、仕方なかった。
ジュンまで巻き込みたくなかったの。ジュンに迷惑かけたく・・」
「ヌナは、僕が迷惑に感じると思ったの?」
「ううん、だからこそ、話せなかった・・
ジュンは私達のために何を捨ててもやってしまう人だもの。
今、心配ごとに巻き込みたくなかったの。ジュンの“かぞく”として」
「解った。ヌナ、この件はもう僕に任せて。
・・知ってるだろ?今の僕は、凄腕のハンターなんだよ。
有能なレオもいるしね。ハハ、冗談ばっかじゃないさ。
それなりに優秀な弁護士、ウチの事務所も抱えてるから。
心配するなよ・・まだ不安?」
「違うの・・やっぱりジュンは、私達の為に何でもやって
くれちゃうんだなって思って」
「そんなの当たり前だろ。
・・ね、1つ質問したいんだけど・・いい?」
「何?」
「あの・・さ。仕事の時はいつもキリッとパンツスタイルのヌナが、
なんであんな、ふわっとしたスカート、はいてたの?
それに・・その口紅。
“似合わないからオレンジはしない”って言ってなかった?」
「あぁ、それも、この話に関係してるのよ・・不安だったの。
ジュンに逢えなかったから。
この間、雑誌のインタビュー記事読んだの。
ジュン、何て言ったか憶えてないの?」
「何か言ったっけ?僕」
「言ったわ!好きな女性のタイプ。こともあろうに私と正反対の
“長い髪の清楚で守ってあげたい感じの女性”って!」
「あぁ、アレか。うん、言った。
ヌナと正反対を思い浮かべたんだ。意識的に」
「もう!!私、ショックだった・・だから、スカートもはいたし、
髪も流行色にして、美容師さんが髪の色に合うって薦めてくれた
口紅だって・・嫌われちゃうんじゃないかって。
やっぱり若い、春の花みたいに笑う女の子がいいんじゃないかって・・」
「ハハハ!!バカだなぁ。意識したからこそ逆を言ったのに・・
そうか、解った。よし、この問題も解決するよ。
今度からこういう質問には、
“自己啓発を怠らない、しっかりと自分を持った自立した女性”
って言うことにする・・・これなら、いい?」
「・・う、ん」
「バカだな、僕達。2人別々に嫉妬してたんだね。
成程ね・・逢えない日が続くと、こんな風になっちゃうんだ・・
こりゃ、やっぱり“決める時期”だって事だな」
「ねぇ・・それと・・ね。逢えたついでにお願いしていいかな。
コレは仕事、なんだけど」
「ん?会社の?」
「うん・・あのね、今度ウチが配給する日本映画の試写、見て欲しいの。
できたら、“ペ・ヨンジュン”さんのコメントが欲しいんだけど」
「へ~、珍しいね。ヌナがそんなこと頼むなんて。面白いの?その映画」
「そう。素敵なお話なのよ。あるPCの創作サークルで知り合った顔も
知らない男女が恋をするの・・お互いの創作の中で、気持ちを打ち明け
あうんだけど、色んな障害があって・・
2人の創作を読んでいるサークルメンバーの励ましで、
彼は彼女に逢う決心をするの」
「日本映画か。監督、誰?最近僕も興味あるんだ。
ネットが結ぶ恋だね。
解った。面白そうじゃない。ぜひやらせてもらうよ」
「よかった~!ジュンの映画評があれば、恐いもん無しだわ。
よし、コレでヒット確実っ!!」
ヌナと並んで話すソファーの上。
長い話にピリオドを打とうと、僕はヌナの腰を強く引き寄せた。
もう、話は終わりだ。
幾晩、離れてたと思ってるの?
ヌナの頬を両手で挟み、指でその唇を辿る。
昨夜とは違う、ゆっくり、ヌナの心の中まで絡めとるようなキス。
解ったよ。
ヌナの願いは全部叶えてあげる。
だから、今は・・・
僕だけを・・見て・・・
長く、深いキスの後、首筋に僕の唇が落ちていく時、
ヌナは、吐息と共に、僕に呟いた。
「あ・・そう、だ・・レウォンが、ね・・言ってた・・・
あ、のゲーム・・最、後の、魔王・・が、見つか、らないんで、すって
・・あっ・・ん、ヒョ、ンに、聞い、てく、れって・・んっ・・・」
もう、黙って・・・・ヌナ。
今の君は、僕だけのものだ。
言っただろ?
「僕だけを、見て」って。
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