鋼の男 -誕生日に- (2008年)
連日UPさせて頂いた「KA・ZO・KU」シリーズ。今回で最後でございます。
この後に書いたのがクリスマス創作「愛してる
-聖夜に君と-」
考えたらシリーズ、そんなに沢山書いてないんですね^^
このお話は、肩の手術をしたと聞いてすぐに書いたので、
結構リアルタイムだったかも。兵役中に手術の知らせを受けたレウォンは・・・
長い間、KA・ZO・KUシリーズを読んで下さいまして、ありがとうございました~!!
それが僕の元に知らされたのは、
演習が終わってドロドロの体をシャワーで流そうとしていた
時だった。
入隊して8ヶ月。すっかり軍隊生活にも慣れてきた。
だが僕は、時々集会室のTVから父さんのニュースが流れたり
する度に、その話題の嘘くささに呆れたり、元気そうなその姿に
ホッとしたりと、少しばかり複雑な想いをしていた。
僕が正月に入隊してすぐ、父さんの足のギブスは外れた。
少し不自由そうにしていたけど仕事で日本に行ったりしていたし、
僕がいた時も、ユキを軽々と肩車したり、例のごとく母さんを
愛しげに抱いていたりしたから、まさか肩の具合がそんなに悪かった
なんて、僕は思いもしなかったんだ。
シャワー室に向かう僕を連隊長が呼んでいるという。
「おいレウォン、また誰かに貰ったのか~?」
その時廊下にいた何人もが、笑いながらそう言って
僕をからかった。
僕は聞かない振りをしていたけれど、皆がこんな風に言うのは、
この間僕の所に差出人不明のラブレターが届く事件があったからだ。
その手紙が外からでなく、内部から出されたものだったから、
騒ぎは水面下で面白おかしく伝わった。
僕はその時連隊長に呼ばれ、散々な目にあったんだ。
もちろん僕は身に覚えがあるはずも無く、むしろ被害者だってのにさ。
この手の呼び出しにあまりいい記憶の無い僕は、
今度は何事かと気が重かった。
隊長室をノックすると、中から「入れ」と声がした。
「必勝!!お呼びでありましょうか。
2等兵、ペ・レウォンでありますっ」
「ん。ああ来たか・・まあ座れ」
前回と比べ拍子抜けするほどフレンドリーな口調で、
連隊長は僕に椅子を勧めた。
そして、数部の新聞を僕の前に滑らせた。
「何でありますか」
「読んで見ろ。貴様の父上の事が載っている」
僕がヨンジュンの息子だという事実は、ここではこの連隊長と、
同期入隊のドンハしか知らない。軍隊という特殊な集団で
普通と違うという事は、色んな問題を引き起こす。
まして僕の父はこの国で、いや。
アジア中の国で知らない人はいない人物だ。
騒動の種は、蒔かないに越した事はない。
「自分の父は今、アメリカにおりますが」
「やはり知らなかったか。父上は先日帰国されたらしい。
そして、明日手術されるそうだ。
実は先ほど、母上から電話を頂いた」
「手術?!足はもうだいぶ良いと先日父から手紙が」
「手術するのは肩だそうだ。1番重症だったのはどうやら
そこだったらしい。成功率は高いらしいが、緊急帰国までして
望む手術だ。難しい物なのかもしれん。
で、命令だ。貴様に今日から10日間の休暇取得を命じる」
「休暇、でありますか」
「母上の話では極秘に手術して、メディアへの公表は経過を見て、
という事だった。特別扱いをする訳ではないが、ペ・レウォン。
行って父上の不屈の精神を学んで来い。
貴様は勇気もあるし、根性も据わっている。
だが、貴様には何かが足りない。慣れも出てきたのだろう。
貴様の目には隙がある、だから付け入られるんだ」
夜の病院はライトアップがされていたが、
何処か人を寄せ付けない威圧感がある。
救急患者が搬送されてきたらしく、看護師の慌しい声と、
家族の叫ぶ声がロビーまで響いていた。
本当にここに父さんがいるんだろうか。
つい1週間前、NYから葉書が届いたばかりなのに。
半信半疑で事務所から教えられた病室の前に着くと、
そこにはフィリップヒョンが僕を待っていた。
父さんの代理だと言って、何度か僕の所へ面会にも来てくれた
ヒョン。僕の顔を見つけると、その端整な顔がいきなり満面の
笑顔に変わった。
「レウォン。驚いたろう?急に手術だなんて。
休暇取れてよかった。今、中にいるよ」
「肩だって?そんな事、父さんちっとも・・」
「我慢強いからね。日本に行った時も、そんな素振りちっとも
見せなかったし。僕やソンウンヒョンとふざけて、笑って、
はしゃいでた。本当に楽しそうだったよ。
レウォンが来るって聞いて君に逢いたがってる。
早く行ってあげて」
「うん。ヒョンは?入らないの?」
「僕は朝からずっといたから。
レウォンを待ってたんだ、逢いたくて。これで帰るよ」
「そう・・いつもありがとう、ヒョン」
緊張した僕がそっとドアを開けると、そこにいたのは、
いつもの呆れた父さんだった。
人が心配してやって来たってのに、
何を考えてるのか、この人は・・
「よう!レウォン。よく来たな。
悪いな、休暇なんか取らせて」
「・・あのね、父さん。何やってんの?」
「見たら分るだろう?まだランニングは出来ないから
歩いてるんだ。足は結構調子いいんだぞ。
まだゆっくりペースだけど。今日は5キロ目標なんだ。
もう少しで終わるから、そこで座ってろよ」
家から持ってきたのか、それとも特別にリハビリ器具を入れて
もらったのか。父さんはトレーニングウェアで、
ランニングマシーンに乗っている。
額には汗なんか掻いて、何かとっても生き生きしてたりして。
・・・知ってたけどね。父さんの性格は。
だけど、さすがに緊急帰国して、明日手術な訳だろう?
・・・勘弁してくれよな。
「手術、明日なんだろう。そんな事したら、医者に叱られるよ」
「無理しなきゃいいって言ってたぞ。
だって手術するのは肩なんだから」
「・・母さんは?」
「さっき帰った。お前が帰ってくるからって飯作りに。
すれ違わなかったか?」
「いいや」
僕はしばらく壁にもたれ、黙々と歩く父さんをじっと見ていた。
この人の辞書に、“程々”って文字はないんだろうか。
今回、長期の休暇で行っていたアメリカでだって、
きっと毎日リハビリに励んでいた筈で。
さすがにギブスをしていた頃は、そんな足では動く事は出来なかった
けど、あの時の父さんの読書量には、僕は目を見張ったものだ。
活字中毒じゃないかと思う程、様々な本を読み漁り、
読み物が無くなるとユキに絵本を読んでやり、終いには僕の大学の
テキスト類や、母さんの会社の書類にまで目を通す始末だった。
「レウォン、ラスト100メートル。少し速くするから見ててくれ」
「父さん、無理するなよ。この間まで痛かったんだろう?」
「いいから見てろよ。俺にだって出来るんだ・・・」
マシーンのモニターを操作し、少し速度を上げたらしい。
速足、とはいかないまでもさっきより確実に速いペースだ。
「うっ・・ふう・・さすがに少しキツイ・・な」
「父さん!」
「ゴ~~ル!ふぅ・・・レウォン、見たか?な、結構歩けるだろう?」
「心配してわざわざ休暇取って来たんだけどね、僕は」
「ハハ、そうだった。あ・・おい、よく見せろ・・似合うな、軍服」
「そうかな」
「また背、伸びたか?もうフィリップくらいあるだろう。
お、胸も筋肉付いて来た。
どうだ、俺には経験がないが・・お前、辛くないのか?」
「うん・・辛くないって言えば嘘にはなるよ。演習はキツいし、
人間関係も色々だし。でもね、父さん。あそこにいると、
家にいるより父さんのニュースが入ってくるんだよ。
何故か、父さんが近く感じるんだ。変だよね。
日本でのイベントの様子とか、観覧車に乗ってる所とか、
鎌倉のお寺でアイスキャンディーを食べた事とか。
TVからいつも父さんの名前が聞こえるんだ。
家にいる時にはね、気にならなかったんだよ。小さい時から当たり前に
TVに父さんが出てたし、耳や目が父さんを探す事なんてなかったから。
大体、父さんがスターだっていうのも時々忘れてたくらいだしね」
「ハハ、そうだな」
「だから不思議に寂しくないんだ。いつも父さんが傍にいてくれる
みたいで。他の連中は、ホームシックにかかったり、
恋人の裸を想像して悶々としてたり、結構大変だけどね」
この病室は完全にプライバシーが保たれているんだろう。
ソウルの中心にあるというのに、窓の外からは鬱蒼と茂る
緑の木々しか見えない。今回は以前の様に、病院に気兼ねして
退院を早めるなんて事は起こらなさそうだ。
「明日の手術。お前、いてくれるのか?」
「当たり前だろ。そのための休暇だよ」
「・・そうか。安心した」
「どうしてさ。僕がいてもいなくても、関係ないだろう?
母さんだっているし、ヒョンだって来てくれるんじゃないの?
僕なんかよりよっぽど頼りになるよ」
父さんはフフっと笑うと、腰掛けていたベッドから立ち上がり、
備え付けの冷蔵庫の中から四角いボトルのミネとスポーツドリンクを
取り出した。そして、“ほらっ”と僕に向かってスポーツドリンクを
放り投げると、自分は旨そうにミネを流し込んだ。
「レウォン・・俺、お前と離れてみて分った事があったんだ。俺にとって
お前は、悪く言えば笑に付いて来たおまけみたいなもんだろう?
それが物凄く大切なおまけになって、
俺にとって無くてはならない存在になったけど」
「うん。そうだね」
「俺もそう思ってたんだ。お前が兵役に行って、俺達の・・
いや、俺の手を離れて出て行ったあの時まで。
でもな、それは少し違ってたんだ。お前はな、俺の“風”だったんだよ」
「風?」
「ああ、風。お前がいなくなって暫くして思ったんだ・・
笑が太陽で、ユキが花。そしてお前は俺の“風”だったんだって。
風はいつも穏やかに吹いていて気づかない事も多い。時々荒れて俺を
悩ませたり、怒らせたりするけど、それは必要な嵐なんだ。
そしてある日、風が止まった・・気づかないんだ、初めはさ。
あまりにも静かで。でもやがて感じる。どこかで吹いている風を思って、
寂しくて堪らなくなる・・うまく言えないけど、そんな気持ち。
そして今、ここにある風が、俺には心地いい」
「・・ふ~ん・・詩人だね。ありがとう、嬉しいよ」
「まったく、大人になりやがって。つまんねえな。
もっと照れたり怒ったりしろよ」
「成長したと言って欲しいね。むしろ喜ぶべきだ、親なんだから」
「ぬかせ・・」
分かってるよ、父さん。
うん・・分かってる。
僕にとっても父さんは、大きな存在なんだ。
僕は父さんみたいにうまく表現できないし、
照れくさくて言葉にしないだけだけどね。
・・風か。
アジアのヨンジュンの風だってさ、この僕が。
ヘヘ・・分不相応。
翌日の手術には、事務所の社長、ヤンさんとフィリップヒョン。
知らせを聞いて飛んできた、熱々のソンウンさんとウンジョンさん
カップル。母さんとユキ、そして、僕のミナ・・
親しい顔が病室に集った。
驚いた事に、父さんの手術は全身麻酔だという。
肩だけなのに?
訝しがる僕に、ヒョンがウインクしながら小声でこう言った。
「医学的な事は僕もよく分からないけど・・それってDrの気が散る
からじゃないかな。だって、意識もはっきりしてて、
目の前で自分の手術が行われてたら、あの好奇心の塊のヒョンが黙って
いられるわけないじゃないか。いちいち、“今はどこを切ったんですか?”
とか“それはどういう処置ですか?“とか、きっと質問攻めにするだろう?
Drだって困るって!」
「アハッ、そりゃそうだね、やりかねない」
「だろう?だからこれがベストの選択なんだよ」
「おい、そこの若手のイケメン2人!何、ニヤニヤ笑ってんだ?
・・俺も混ぜろ」
「ソンウンヒョン、だから・・」
「お前ら。全部聞こえてるぞ。俺で遊ぶな」
手術室に入る時、父さんはストレッチャーの上から
母さんを抱き締めて、看護師が止める間もなく、キスをした。
父さんはニヤッと笑い、僕らに左手を高く掲げガッツポーズのまま
手術室に消えていった。
「休暇、ありがとうございました!ペ・レウォン、只今戻りました」
「うん。記事や報道で知ったが、無事成功だったようだな。おめでとう」
「ありがとうございます」
「もう退院されたとか。経過もいいのかな?」
「おかげ様で。元気すぎて母が手を焼いています」
「それは何よりだ。で、私からの宿題はどうした。
何か学べたかね?父上から」
「はい。学んだ、というか・・相変わらず父は面白い人でした」
「面白い?」
「はい。あの人は、いつも全開なんです。特別頑張ってる訳じゃない。
父にとっては、それが普通なんです。
普通のトレーニング、普通の役作り、普通のダイエット・・
それは過酷で、他の人にはストイックに見えたりするのでしょうが、
そんな辛さも、父には当然の事で・・正直、時々家族にとっては呆れた
行動に映る事もあります。突然とんでもない事、考えますから。
付き合っていて飽きません。心配させられ、いつも、驚かされます」
「冷静な分析だな。貴様、血が繋がっていないから、
そんなに冷静なのか」
「そうかもしれません。でも自分にとって、父と呼べるのはあの人
だけなんです。・・大切な人です。自分はもしかしたら、母よりあの人が
好きなのかも知れません。いつも笑顔で、悪戯やジョークが大好きで。
でもカメラの前に立つ父は、普段より数倍大きく見える・・・
プロなんだな、と思います。自分はまだまだ未熟です。自分には、父の様に
苦しい時、痛くて堪らない時に他人を思いやれる心の余裕はありません。
父がどれだけの想いで今回の撮影を終えたのか・・
笑顔の裏の努力と絶対に投げ出さない責任感。
幼い時から見てきた父は、遥か雲の上です。
ありがとうございました。今回、逢えてよかったです。
手術に立ち会えてよかった。術後、自分達の所に帰ってきた父は、
麻酔が効いているのに強く拳を握り締めていました。
手術室に入る前、自分達に見せたガッツポーズ、そのままだったんです。
あの人は・・父は・・やはり、鋼の男でした」
「鋼の男、か」
「打たれ強く、自分に厳しく、柔軟で誰よりも優しい・・
父は、鋼の男です」
部屋を出ようとする僕の背中に、連隊長が声を掛けた。
「貴様、いい目になった。宿題はこなして来たじゃないか・・
隙の無い目だ。ここの厳しさも、父上を誰よりも近くで見てきた
貴様には生温い物だったのかも知れんな。
やっぱり君は、彼の息子だ。ハハ、また手紙が来るかもしれんぞ。
惚れ直したって」
「それは、勘弁願います・・」
「ハハハハ」
父さん。
ソウルの空は、今、晴れている?
ここはね・・もう空が高いよ。
近くでヒグラシが鳴いてるから、夏もそろそろ終わりなのかも知れない。
そこで・・“風”は吹いている?
そうだ。
大事な事を言い忘れて来ちゃったんだ。
今年は傍で言ってあげられなくて、ゴメンよ。
父さん。
センイルチュカハムニダ・・・
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