2009-04-11 00:47:07.0
テーマ:鳳仙花が咲くまでに カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

鳳仙花が咲くまでに 9話 「封印した過去」

Photo

「鳳仙花が咲くまでに」9話でございます。このあたりからお話は少しづつ動き出し

ます。
そして劇団宇宙の冬公演も演目も発表に・・それは、あの作品でした^^
 

 

 


東京の夏が好きだ。


仁や常さんは、「こんなに湿気があって暑い東京は住む

所じゃない」と言うが、それでも彼らが東京から離れな

いのは、やっぱり仕事絡みで仕方なくって事以上の何か

があるんだろう。

 

大都市は世界中どこか似た所があるけれど、

東京の夏は、特別な空気がある。


肌に纏わりつくようなじっとりとした暑さ。

今にもタイヤが溶け出しそうな、陽炎ゆらめくアスファルト。


さすがにグッタリはするけれど、

それでも住宅街の風にはためく洗濯物や、公園での子供達の

しゃぼん玉。銭湯帰りのガヤガヤした商店街の生活音。

そして、夕立の後のビルの隙間から見える渋谷方面に伸びた

大きな虹。


そんな風景が僕は堪らなく好きだった。

“今夜もまた熱帯夜”なんて言われても、

なぜかまた頑張れてしまう。

 

しかも今年はその風景を、僕は操と2人で見ている。


ほんの些細な出来事に一緒に大笑いし、

財布の中のお釣りが合わないと、深刻に大喧嘩し、

そして1時間後には、その喧嘩の原因さえ忘れ、

また笑い合う。


食わず嫌い王の僕は、操の作る料理に毎日挑戦させられ、

おかげで偏食はかなり解消したが、困った事に体重は

見事比例して増加した(幸い体脂肪は何とか維持しているが)


仁よりスリムなのが自慢だったのに、今ではどっちがどっちか、

まるで見分けがつかない。

(髪型と目の色で皆、判断しているらしい)


操はこのくらいが好きだと言うが、彼女は元々仁の熱烈な

ファンだ。少しの嫉妬も手伝って僕は朝のジョギングの

コースを延ばし、ジムにも通い出した。

 

操と暮らし始めて僕の世界は一変した。

日本に来て、家族と仲間が出来た事だけでも大変な変化だっ

たのに、恋人といえど、他人と生活を共にするなど僕には考

えられない事だったから。

 

平和で穏やかな日々。

新鮮な驚きの連続。

 

僕は幸せだった。

 

 

それは、7月も半ばを過ぎた頃。


研究所が夏季休暇に入り、授業からしばし開放された僕は、

12月本公演の準備に入った。


事務所で前回公演のアンケートや、各演劇誌の批評に目を通し、

今公演が目指す方向性を探っていく。

実際、今回の公演がどうなるのか僕にも想像がつかなかった。

 


事の始めは、数日前に代表から僕宛にかってきた電話だった。


韓国でパワフルな国民性に刺激されたのか、何か思うところ

あっての事か、代表は決まっていた本公演の演目をいきなり

変更したのだ。

 

「たいおう・・し?何ですか?」


「“太王四神記”だ。今話題の韓国ドラマ。

韓流スターのペ・ヨンジュン、知ってるか?」


「ええ、名前だけは嫌と言うほど。

似てるそうですね。僕と仁は」


「ハハ、あいつ嫌がってるからな、すぐ比較されるって。

今回、こっちに来てそのドラマの監督と会う機会があってな。

何か妙に話が弾んで、しかも萌をすごく気に入ってくれてさ。

ぜひ監督の次回作にって誘われたんだが、萌の奴あっさり断り

やがったんだ。“私は木島の演出の舞台にしか立ちません!”

ってさ。その生意気な態度がまた気に入られて、じゃあ日本

での上演権をぜひ宇宙にって言って下さったんだ。

・・萌がキハって役を演る条件で」


「思い出しました。確か時代劇じゃなかったですか?

あれをミュージカルに?」


「当たり前だ。宇宙で演るんだぞ、タップがなくてどうする」


「新作じゃないですか!衣装から何から今からの準備で間に合う

でしょうか。代表が帰国されるのは3ヶ月も先です。

台本だって帰国してから書いたら・・」


「誰が俺が書くと言った。お前が書くんだよ」


「は?」


「お前が書け。研究所も大変だろうが休暇に入っただろう?

半月あれば書けるな」


「代表!待ってください。僕は台本なんか書いた事が無い!」


「お前なら書ける。むしろ俺よりお前の方が書けるはずだ。

お前が劇評家として成功したのは、劇評が的確で信頼出来るか

らだけじゃない。お前の個性的な文章に読者が引き込まれた

からだ。しかも今まで3年、お前はウチの舞台を肌に刻み込ん

できたはずだ。劇団員の個性も、どんな芝居をするかも頭に入っ

てる。どうせ演出もやるんだから台本もお前が書いた方がいい。

俺はこっちで結構忙しいんだ」


「代表。今、何て」


「俺の性格はもう分かってるだろう?ひらめいたんだ!

せっかくの話題の新作、いつまでも俺が指揮執るより、

お前の方がより新鮮で斬新な舞台になるんじゃないかってな。

萌もお前の演出なら喜んで出るって言ってるし。

言っとくが、これは決定事項だ。異議も辞退も却下する。

今回はお前が演出、舞監は村上。俺は演助にまわる」


「代表!!」


「あぁ、衣装は気にしなくていいぞ。実際の撮影で使わなか

ったのが沢山あるらしい。主役のタムドクの衣装も何十着とボツ

になったのがあるってさ。貧乏劇団にこれほどのプレゼントは

ないし。いいか、俺が帰るまでに立ち稽古まで進めとけよ。

帰ったら通して見せてもらうからな。

分ったら、キャスト早く決めて、さっさと始めろ」

 


台本作成、キャストの選考、そして本公演の初演出。

いきなりの指令に僕は戸惑った。

木島代表の声は、明らかに面白がっていた。

演目の選定は意外だったが、それ以外はきっと渡韓前から決め

ていたんだろう・・やられた。あの人がやりそうな事だ。

 


「登場人物多いな。これは群舞の奴らにもちゃんとセリフあげら

れそうだ。当然タムドクは仁だろう。ホゲは拓海かな。

キハが萌なら瞳がスジニか・・」

 

劇団員の写真をデスクいっぱいに広げ、パズルのように並べ替え

ながら腕組みして考え込んでいると、黙って見ていた事務所のス

タッフがくすくす笑い出した。


「副代表、遂に独り言が日本語になりましたね。

それってやっぱり、彼女の影響ですか?」


「あ、そう?気がつかなかった。でも寝言はまだ英語も混じる

らしいね。眠ってるから僕は分からないけど」


「はぁ~・・ごちそう様です。そうだ!さっき席外された時、

クリスから電話が。珍しく深刻そうな声でしたよ。

携帯の方にメールするそうです。来てませんか?」


「そう?あぁ、マナーにしたままだった。

うん、来てるね。どうもありがとう」

 


NYからのクリスのメール。その件名は“驚くな”


相変わらず大袈裟な、と開いたそこには、

僕が記憶の隅に封印した人の消息が書かれていた。

 

【バーナード、久しぶりだ。忙しそうだね。君が幸せそうで友人

としてボクも嬉しいよ。仁さんに当分海外のスケジュール入れる

なって言われて、正直少し落ち込んでるけど。

あぁ、メールしたのは、そんな事じゃない・・・驚くな。


エリザベス・ロッダが死んだ。


まだ死因がはっきりしないんだ。

マンハッタンのホテルのスイートルームで発見されたらしい。

もしかしたら自殺?薬物中毒って話もあるが。

44だから君より5つ年上か。相変わらずの美貌で社交界では・・】

 

最後まで読まずに、僕はその画面を閉じた。

 

煙草を片手に事務所を出た僕は、非常ドアを開け外階段の上

に腰掛け、静かに火を点けた。ゆっくりと立ち上る紫煙。

そのゆらめく煙と共に、封印したはずの過去が甦ってくる。

 


今から8年前。

僕と彼女は、ある契約で結ばれていた。

 

『ほら、見える?あの白髪の紳士。あの上院議員、演劇界では

絶大な権力を持ってるの。ねぇ、本当にいいの?

彼、その世界で有名な人よ。それにあなたは彼の好みだと思う。

握手してちょっと冷たい目して御覧なさい。きっとすぐに連絡先

を聞いてくる・・ああバーナード、やっぱりやめなさい。

今からでも遅くないわ、帰りましょう』


『Liz、言ったはずだ。僕は犯罪以外なら何でもすると。

いいから黙って紹介しろ。実力じゃ、誰にも負けない。

だけど今はその入り口にさえ立たせて貰えないんだ。

ドアを開けたいんだよ。ドアノブに手を掛けるためなら、

少しの屈辱ぐらい耐えて見せる・・見てろよ、エド・・』


『バーナード、あなたにこんな事、似合わないわ』


『Liz。僕は進むしかない。あいつはきっとやってくる。

僕には分かるんだ。だからその時のために頂点に立って、

あいつを待たなきゃ』


『あいつ?誰?バーナード、あなた』


『僕に触るな!契約違反だ。あなたは僕には触れられない。

あなたは僕が成功するのを手伝う。その代価として僕はあなた

を満足させる・・あなたが言い出したんだ。

僕の心はいらない、僕の体だけが欲しいと。

“愛してくれる手”だけが欲しいと。

だから僕には決して触れないと・・そうだったよね。

変わった条件だったけど、僕にとってもそれは好都合だった』


『バーナード、ええ、そうよ。分かってるわ。でもね・・

あなたはこのままじゃきっと壊れてしまう。

その心の氷がきっとあなたを凍らせる。あなたが望むならどんな

手助けもするわ。でもね、もっと自分を愛してあげなさい』

 


彼女との出逢いはその半年前。

ある日潜り込む事に成功した社交界のパーティー。

新聞で見た事のある各界の名士の顔、顔、顔・・


一張羅のスーツに安物のネクタイ。飲んだ事もないシャンパン。

見ず知らずの顔に知ったかぶりの挨拶を交わしていく僕。

 

『初めまして。劇評家のバーナード・シン・ワイズマンです。

今週のBeauty and the Beast、ご覧になりましたか?

新人のBeastが実にいい。作曲者のアランともよく話すんですが』


怪訝な顔の相手を気にもせず、自信たっぷりの顔で話す僕を後ろ

から誰かが小突いた。


『バーナード、ここにいたのね。

すみません、彼、お借りしますわ』

 


・・それがリズ。

エリザベス・ロッダだった。


彼女は、入り口に僕が入ってきた時から

僕の行動をずっと見ていたらしい。


一目で場違いだと分かる若造が、無理に粋がって乗り込んできた

パーティー。キョロキョロと落ち着かなかったかと思えば、急に

大胆に大物に挨拶していく。目立つアジア系の顔に、あからさま

な嫌悪感を抱いたゲストも多かった。

ハッタリがバレる前に、これ以上恥を掻かせないように、

彼女は僕を連れ出したのだ。

 

Lizは僕より5つ年上。大手新聞の社長夫人だった。


気がつけば親が決めていた結婚。

新妻を省みず、愛人の元から帰ってこない夫。


Lizは夫を愛していた。

愛していたからこそ・・僕を買った。


僕を買い、僕にされるがまま愛される事を望んだ。

そして僕を、権威ある夫の新聞社の劇評家にしようと計画した。


Lizを愛さない夫が、Lizの愛人と知らず僕の才能を評価する。

僕が成功すればするほど、夫は妻の愛人を大切にするだろう。


それがLizの復讐であり、Lizなりの夫への愛情表現だった。

僕はそれに乗り、のしあがって行けばいい。

 

Lizが・・死んだ。

 


「ね、どうしたの?こんな所で」


僕の頭の上から、操の声がした。

何度も呼んだのかも知れない。驚く僕の顔を、不思議そうに

見つめている。考え事をする僕が変な顔をしていたのか、

操は僕の肩に手を掛け、優しく微笑んだ。

 

「ね、どうしたの?あ、いけない!

信先生、どうされたんですか」


「いいよ。ここには誰もいない。敬語はいらないさ。

何でもないよ、クリスがまたくだらないメール寄越したんだ。

仁に冷たくされて凹んでるってさ。

瞳のレッスン終わったの?

休み中の特別授業なのに出席率良かったんだってね」


「そりゃそうよ。瞳さんのレッスン人気だもの。

分かりやすくて面白くて。ねぇ、どうしたらあんな声が出る

んだろう。瞳さんの声、何て言ったっけ?」


「女神の声。どこかの批評家がつけたらしいけど、いいネーミング

だ。天性の才能と努力。彼女は本当に楽しそうに歌うだろ?

子供生んでまたいい声になった。舞は贅沢な子供だよ。

毎日あの声の子守唄が耳元で聞けるんだから」


「そうね、きっと耳のいい子に育つわ。パパもあの深い声で、

羨ましい環境よね。あぁ、何だか大声で歌ったらお腹空いちゃ

った。あとどのくらいで終わる?買い物行って来るわ。

何が食べたい?操ちゃん特製、冷製トマトパスタ?」


「怒るぞ・・あぁ、もう6時か。もう少し掛かるかな、

でももうすぐ帰るよ」

 

事務所に戻りデスクの上のPCの画面を見つめる。

だが頭の中がぐしゃぐしゃで何も集中出来ない。


耳の奥にあの時の、別れた夜のLizの声が聞こえてくる。

 

自分で言い出した契約条件。

僕の心はいらないと僕に触れなかったLiz。


だが、あの夜。


Lizは僕を抱き締めた。

僕を抱き締め、僕に「愛している」と囁いた。

 

彼女に出来る僕への支援は、限界にきていた。

演劇界に影響力のある人物への紹介、資金面の援助。

地方紙への連載にこぎつけ、少しずつだが仕事が廻って来る。


まもなく夫の新聞社も僕の才能に気付き、彼女の目的は達せ

られるかもしれない。僕が彼女を必要としなくなる時・・

それは僕との別れ。

彼女はそれを恐れていた。

 

“愛はいらない”と言いながら、愛を求めていたのはLizだった。

“僕の心はいらない”と言いながら、Lizは僕を愛してしまった。

 

彼女が愛を口にした時、僕達の契約は消滅した。


だがその瞬間、僕にも分かった事があった。

 

心を求めていなかったのは、僕の方だった。

愛される事から逃げていたのは、僕だった。

触れられる事を避けていたのは、僕だったんだ、と。

 

逃げるように後にした、あのスイートルーム。

その夜に見た、運命のミュージカル。


それからまもなく僕の劇評が認められた。

あの夜に見た舞台の批評が高く評価されたのだ。


皮肉にも僕を高く買ってくれたのは、Lizの夫の新聞社、

BWタイムズだった。元々人種問題に寛容だったそこは、

他の出版社の様に急に掌を返したりはしなかった。

Lizが僕に与えてくれた全てのチャンスが、1つの形になっていく。


専属契約をしない事で、僕のプライドは保たれた。

あとは、実力で頂点に立つだけだ。そして・・・エドを待つ。

 

操。


ごめん。


今日の僕は、少し無理をしそうだ。

 

後悔はしていない。僕は必死に走ってきた。

あれも、僕には必要な時間だった。

 

生トマトも今日は食べるよ。


だから、少し、君の胸で泣いてもいいかな。

涙はきっと見せないけど、あの時の僕に謝らせたいんだ。

Lizを傷つけたあの時の僕を、君は叱ってくれるかな。

 

 
スタッフのデスクで電話が鳴った。


僕のデスクに転送されたその電話。

自己紹介したその男の声は、少し含み笑いをしていた。

 

 

「もしもし。影山信先生ですか?

初めまして・・私、寺田と申します」



コラージュ、mike86



[コメント]

1.Re:鳳仙花が咲くまでに 9話 「封印した過去」

2009-04-11 09:15:55.0 pandaru

ebeちゃん おはようございます。

夢にまで出てくるリズ...
ニューヨークでの彼の半生は生易しくはなかったのね。

リズとの関係は想定内だったけどあちらまで...ちょっとショック!
アメリカって国は何びとも受け入れてくれるけど頭角を現すまではそれ
なりの代償を求められるってことかな?

でも封印した過去であってもそれがあってこそ今のバーニーの実力や
魅力を形成したってことでしょう。
操はきっと理解してくれるはず。
自分の傷と相殺ってことじゃなくって。

リズの死はバーニーの過去を葬り去るのに好都合なのか、さらに彼の
心を痛めつけるのか今後の展開が楽しみです。

新しい登場人物「寺田」って何者?


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2.pandaruちゃん、ありがとう。

2009-04-11 18:37:41.0 ebe

こんばんはー。

バーニーのNY時代に関しては、色々考えたの。
仁が消え、グランマが亡くなり、マムは入院。
たった一人で生きてきた彼、必死に働き、いい成績を取って、
いつかダンサーになってマムの笑顔を見たいと・・

それが怪我をした事で、叶わなくなった。怪我の原因は、階段から
落ちた子供を助けたから・・これ、仁の事故のトラウマですね。
(菜の花に書かれてますが)
思わず助けちゃったんだろうな。しかも仁は、自分があんなになりた
かったダンサーになってる。だからますます仁を憎んだ・・

そう考えたら、生半可な気持ちでトップに立ちたいって想ってなかっ
たんじゃないかと。どんな事をしても、劇評家としての地位を得るん
だ!って。

操は、理解してくれるんです。
ただ、操自身がね~・・・

新しい人物、寺田。
彼は、操の前の劇団の代表で演出家です。
そして、操の元カレ・・

こいつ、超嫌な奴でして。書いてて何度もムカついた!(爆)
ただ・・こんな人、居るんですよ。私の友人が近い経験してるので・・




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