2009-04-18 00:21:24.0
テーマ:鳳仙花が咲くまでに カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

鳳仙花が咲くまでに 10話 「顔の見えない男」

Photo

これまでのあらすじ


劇団宇宙(そら)の演出家、バーナード・シン・ワイズマン(影山信)は、ある朝、下北

沢駅前で
宇宙のオーディションを受けに来た、松原操と出逢う。入団した操とバーニ

ーは惹かれ合い、愛し合う
ように。だが操には、以前の劇団太陽の演出家、寺田と

の辛い過去があり、バーニー自身も知られたく
ない過去を抱えていた。初めての愛

を得たバーニーは、劇団本公演の演出を任され、戸惑いながらも充実
した日々を送

っていた。そんな時、かつての操の恋人、寺田から電話が・・・

 
 

 

 
「初めまして影山先生。俺の事、少しは知っているのかな?

この間、うちの北島と話したそうだから1回御挨拶をと思い

ましてね」


「太陽の方ですよね。お名前は存じ上げています。

・・それで寺田さん。今日はどんなご用件ですか」

 

初めて聞くその声。

ゆっくりと話すその低い声は、妙に落ち着いている。

僕は努めて冷静に、心の奥を悟らせまいと答えた。

 

「案外冷たいなぁ。先生は今、木島の代わりの劇団代表代行

なんだろう?俺に対してそんな口の聞き方は、あまり利口だ

とは思わないけどね」


「申し訳ないですが、僕も暇ではないので。お話は手短にお願

い出来ますか。確かに僕は代表代行ですが、もし木島が出たと

しても応対はあまり変らなかったと思います。

むしろあなたの名前を聞いた時点で切っていたでしょう」

 

「あんたも人が悪い。結構俺の事知ってるみたいじゃないか。

木島が喋ったのか?あぁ分ったよ。俺もまどろっこしいのは嫌い

だから。今日はとりあえず用件だけだ。なに簡単さ、

“操を返してもらう”それだけの事だ。

俺も随分捜したんだが、まさかこんな近くにいるとは思わなか

った。灯台下暗し”って奴だな。

木を隠すには森の中、役者を隠すには役者の中にってか」


「宇宙を受けたのは彼女の意思です。

あなたには、彼女を拘束する権利は無い」


「影山先生、勘違いしちぁいけない。操に意思なんてもの、

ありゃしないんだ。あれは俺が育てた女優だから。

いやちょっと違うな。正確に訂正しようか。

操は“俺が育てた女”なんだ。俺が1番あいつを知っている。

何、ちょっとした行き違いがあっただけさ。

少し外の空気を吸えばすぐに帰ってくる」

 

「・・本気で言ってるのか。彼女は飼われた鳥なんかじゃない」


「あんたの声、兄貴に似てるな。

今の台詞なんか本当に仁そっくりだ。

そうだ!ウエストサイドの決闘シーン。ほら、リフと闘う場面。

あ、演出家先生はご存知でしたね」


「寺田さん。これだけははっきり言っておきます。

彼女はあなたの所には戻らない。今後、そちらと交流を持つ事も

ない・・それがすべてだ」


「へへ、影山先生。いや、ワイズマンさん。日本語堪能だねぇ、

アメリカ人なんだって?あんまり俺を甘く見ないほうがいい。

あんたの事は調べさせてもらった。時間が掛かったが面白い話

もね。ゴシップ誌に売ろうかとも考えてるけど、まずはネット

からかな、やっぱ。スキャンダルで売れた奴はスキャンダルで

消されていく。・・因果応報?ちょっと違うか。

ま、そちらの出方次第だけどね。


そうそう、あいつどうだった?色男のあんたの事だ。色んな女知っ

てるんだろうが、味は悪くないだろ?命じた事は拒まないし、結構

な事までやってくれる。ハハ、先生、もう少し時間やるよ。

俺もこれから忙しくなるんだ。メジャーへの足掛りを掴んだんで

ね。木島や先生達に関わっていられないのさ、実に残念だけど。

だから、あんた俺が引き取るまで、せいぜいあいつ可愛がって・・」

 

ガッシャーン!!!

 

僕がいきなり受話器を叩き付けた音に、

事務所のスタッフは飛び上がった。

受話器を置いた時に、勢い余って机にぶつけたらしい。

固く握り締めた拳から血が滲んでいた。

 

「副代表!血が!」


「え?あぁ。大丈夫だよ。

ごめん、もう時間だね。お疲れ様、あがって下さい」


「ええ、はい。お疲れ様です・・副代表!」


「あぁ。何?」


「私、もう何年もこの人の木島代表への攻撃、見てきました。

代表はああいう方だから、気にするな、放っておけって仰るけど、

あれは本当に陰湿で、とても悪意に満ちていて・・


ご存知ですか?有名な書き込みサイトから、演劇関係者の個人

ブログにまで、あの人の劇団批判、木島代表批判は、とにかく酷

い内容なんです。仁さんのファンの人達がいつも見張ってくれて

るんだけど、埒が明かなくて。

代表はあんな人でも昔の仲間だから強く言わないんです。

本当に人がいいんだから・・今度は副代表に何を言ってきたん

ですか?代表だけじゃ飽き足らず、副代表にまで!

私、許せないです!これって犯罪ですよね?

黙ってる事無いです。警察に早く被害届・・」


「いや、本当に大丈夫だ。気にしなくていい。心配掛けたね。

また電話があったらまっすぐ僕の所に。

この事は誰にも言わないで。いいね?」

 

 

今日は一体何の日だ?

確か朝の占いじゃ、山羊座の運勢は良かったはずだ。

あぁ、そう言えば「思いがけない出逢いがあるかも~」などと

言っていたかもしれない。・・思いがけない出逢い、ね。

確かにこれもそうかもしれないが。

 


スタッフの帰った事務所で1人、また煙草に手を伸ばした。

窓辺に立ち外を見ると、玄関の花壇の鳳仙花が風に揺れている。

夕焼けの後の薄暗い空の下、その花は凛として咲いていた。

 

いつになく煙草が苦い。

半分程吸っただけで、灰皿にそれを押し付けた。

 


さっきの寺田と、クリスの声が耳の奥で響いている。


3年前の僕なら、いや、3ヶ月前の僕だったら、ただ一笑に付し

ていただろう。Lizの死は悼むが、だからといって僕の生活に

は何の支障も来たさなかったに違いない。

寺田の挑発にも、眉1つ動かさなかったはずだ。

 

だが、今の僕には操がいる。

失くしたくない人がいる。


奴のために操がどれだけ苦しんできたのか。

詳しい事を話してはくれないが、

操はそれを忘れようとしている。

 

知らなくていい事は聞こうとは思わない。

知らせない方が幸せならば、僕も話さない。


やっと戻ったあのおおらかな笑顔を、

もう二度と曇らせたくない。

彼女に指1本触れさせはしない。


僕は、操に知られる事なくこの件を片付けようと思っていた。

 

 

不思議な事に、それから1ヵ月近く経っても寺田からの接触は

何も無かった。腹立たしさと苛立ちは覚えたが、日々の忙しさ

にそれらも少し忘れかけていた。

 

本公演の準備が進んでいた。

 

仕事に没頭する事で気を紛らそうとした僕は、

例の台本を1週間で書き上げて(面白い原作だったのでつい、

気合が入った)同時進行で進めていたキャスト選考を終わらせ、

稽古に入った。

 

もうすぐ8月だ。

 
これからポスター、チラシの制作、各方面への宣伝も行わなけ

ればならない。9月になればまた研究生が戻ってくる。

スケジュールは待ってくれない。

 

“太王四神記”は古代朝鮮最大のヒーロー、広開土大王をモデル

にした壮大な歴史ファンタジーだ。日本に来て3年、やっとこの国

の入り口が分ってきた僕に、373年生まれの韓国の英雄と言われ

る人物の事など、皆目見当もつかない。

だが実際に書いてみると、台本にする作業はとても面白かった。

DVDを見て大体の感じを掴んだ僕は、好きな様に書いていいとの

指示が出たのをいい事に、舞台用に大胆に各場面を構成した。

ダンスシーンもふんだんに盛り込み、戦闘場面、センターで仁が

叫びながら踊るシーンを書いた時、僕は興奮してキーボードを打

つ手が少し震えたほどだ。

 

仁のタムドクはきっと、様々な演技賞を取ったウエストサイドの

ベルナルドより彼の当り役になるだろう。

若い頃の少し遊び人のような軽さや、青年期の恋に苦しむ姿。

王の貫禄をつけた終盤では、きっと圧巻の存在感を見せ付ける

はずだ。


仁の姿が見えるだけに、主演級の4人以外の重要な人物を、

他のメンバーに演じきれるのか、正直少し不安があった。


だが稽古に入った途端、それが杞憂だった事がすぐに分かった。


僕が思っていたより、劇団メンバーの演技力はついていた。

特に今年は代表の不在もあり、各自武者修行的に様々な仕事を

請けていた。そんな刺激的な経験が、彼らをまた一回り成長

させたんだろう。


だが、稽古場での彼らにそんな事を言う訳にはいかない。

彼らにはこれからの稽古期間、たっぷり泣いてもらわなければ。

 


「なあ、バーニー。俺のタムドク、変か?」

 

稽古2日目。

仁が僕の部屋にやって来た。


その夜、操は瞳と舞と一緒に木島家の女ばかりの夕食会に行っ

ていて留守だった。稽古のために、韓国から木島代表を置いて

単身帰国した萌が3人を呼んだのだ。きっと女ばかりで、そこに

いない男達の悪口で盛り上がっているに違いない。

 

僕がドアを開けた時、仁はワインのビンを振りながら鼻をくしゃ

っと上げ、口をへの字に曲げ、眉間に皺を寄せ立っていた。


そんな変な顔をする時の仁は、僕に何か話しがある時だ。

お互いの事が一番分っていて、それでいてまだどこか少し遠慮

している。ふざけた態度で誤魔化さないと、なかなか本題に入

れない・・兄弟っていうのも結構複雑。

 

操が作っていった肉じゃがと、茄子の揚げ浸し、

スモークサーモンと胡桃のサラダ。仁が持って来たワインと、

常さんのぬか漬けとおにぎり。何だか変な献立だ。

 

「おいどうした。稽古始まったばかりじゃないか。

まだこれからだろう?」


「いや、そうじゃなくてさ。あの役ってイメージあるだろう?

ヨンジュンが演じたイメージって奴がさ。今回あのドラマ何回も

見て、彼の存在感と演技力にぶったまげたんだ。俺さ、似てるだ

のタップのヨン様だの色々言われて、少し色眼鏡で見てた事反省

したよ。世の女達が心奪われるはずさ。

俺の目から見てもかっこいいもんな」


「珍しく弱気だね。仁らしくもない」


「弱気にもなるさ。瞳がヨンタム王に夢中なんだ」


「なるほどね。そりゃお気の毒」


「おまけに舞まで言うんだぜ、“おうさま、ちゅてき~”って。

影山家の女達のヒーローさ。だからさ、ヨンジュン以上のタムドク

にならないと俺の立場が危ういわけだ。いつまでも寝室にヒゲの

王様のポスターなんか貼らせて堪るか!・・おい、バーニー!

聞いてんだぞ!俺のタムドク、変じゃないかって!」

 

「セリフ、極力無くすつもりなんだ」


「あん?」


「セリフさ・・・実は今の台本は決定稿じゃないんだ。

もう少し稽古が進んだら、決定稿を配るよ。

今は自分の役をきちんと掴む時だ。大幅なアレンジはそれから。

僕はあれを宇宙じゃなきゃ出来ない舞台にする。

宇宙はタップ劇団だ。タップが主役になってこそ宇宙らしさが

出る。今のうちにお前が焼きもち妬いておけよ。

そのうち瞳がお前に惚れ直す。大丈夫さ。

仁のタムドク、世界で一番かっこいいヒーローにしてやるから」

 


その話に驚いたのか、仁は僕を見つめたまま無意識に僕の煙草

をくわえていた。あ!と僕が止める間もなく火を点けた仁は、

深く吸い込んで旨そうに息を吐いた。

 

「Wao、Stop!仁、禁煙したんだろう?瞳に言いつけるよ」


「そんな事言ってる場合か?今の台本でさえ驚いてるのに、

あれが決定稿じゃないって?あんな難解なストーリーのセリフ

を削るって?・・お前の頭ん中、一体どうなってんだ?」


「褒めてくれてるんだよね。ありがとう」


「ケッ、バカ言え。呆れてんだよ。俺が何でお前を褒めなきゃ

なんない?ハーバード出の考える事は俺には理解出来ないっ

て・・あぁ、旨いな。今度からここを隠れ場所にするか。

瞳には内緒な」

 

大きく煙草を吸い込み、ウインクする仁。


内緒だって?

瞳はきっととっくに知ってるさ。

大体、毎日あれだけキスしてて分らないはずないじゃないか。

 


「なあ、このチーズ、食っていいか?」


おもむろに立ち上がった仁は、冷蔵庫を覗き込み、つまみを漁っ

ている。そして、操の魚肉ソーセージをくわえてチーズをひら

ひらと振って見せた。

 

・・あのソーセージ、僕が黙って食べたら操、怒るよな、きっと。

 

「そのチーズ、この間マムが送ってくれたんだ。今、バターとか

高いからね。お中元、だったっけ?

それで貰ったって、ハムなんかと一緒に。仁にも来ただろ?」


「はぁ~?来てないぞ、家には!あ。こないだ来た洗剤がそうか。

お袋、俺にはチーズ寄越さない気なのか?俺が好きなの知ってる

くせに、バーニーだけ差別かよ。

そうかそうか、お前はお袋のお気に入りだからな」


「食い物1つで。子供か、お前は」


「あぁ~!こうなりゃ自棄だ。

お前んちの食い物、食い尽くしてやる」

 

2人暮らしの冷蔵庫なんてたいして入ってないのに、

仁はそう言うと、冷蔵庫に頭を突っ込んだ。

そして、「あっ!」と呟いて奥から残り物を取り出した。


「バーニー、これ」


「それ?今朝食べた残り。おいしかったからもう少し食べようと

思ったんだけど、さすがに余った。これは操は食べないからね。

・・エド、憶えてる?」


「うん、グランマがよく作ってくれた・・オートミールだ。

あぁ、この味・・・・うん、そう、そうだ。こんなだった・・」

 

朝の残りのオートミール。

もうミルクを吸い切っておかゆのようになっていた。

冷蔵庫で冷たく冷えたそれを、エドはゆっくり食べ始めた。


そして僕の顔を恥ずかしそうに見ると、スプーンをくわえなが

らニヤッと笑った。

 

「あぁ!そうだ。大事な事お前に話すの忘れてた。

昨日親父から電話があったんだ。俺達が12月に舞台演るって

聞いて少し調べたんだってさ。定年後のオタク男は暇だからな。

そしたらさ、今年は渋谷方面やこの近くに新しい劇場がいくつも

出来たろう?そのこけら落としが12月に集中するらしいんだ。

下北にも劇場が1つと、スタジオが3つも出来た。

俺達の四神記の初日が4日だろ?大安吉日、まさに初日日和。

で、こけら落としと言えばやっぱり大安だよな。

そこでだ・・俺達と上演日が完全に被ってくる所があるんだと。

どこだと思う?驚くな。劇団太陽だ」


「太陽?寺田の」


「怪しくないか?太陽は今までスタジオ公演しかやった事がない。

せいぜいキャパ200。ネットで大劇場批判までしてた寺田が出るの

はあの下北劇場だ。知ってるだろ?俺達の本多より大きいんだ。

あの劇場、キャパ1000だぞ!なあ、もしかしたらわざとやってき

たんじゃないか?それに日程だってぶつけて。

目と鼻の先での競演。遂に木島と直接対決。

ま、今回の相手はお前だけど。

よっぽど自信あんのかな・・一体、何演る気だろう」

 


『ま、そちらの出方次第だけどね』

 


テーブルの上の煙草は仁に吸われて空になっていた。

 

僕はその空箱を、思わず握りつぶした。

 

 

 

コラージュ、mike86



[コメント]

1.Re:鳳仙花が咲くまでに 10話 「顔の見えない男」

2009-04-18 06:39:35.0 pandaru

キタ~! 寺田が動き始めましたね~

陰湿、悪意に満ちた挑戦状を叩きつけられたバーナード。
操を守りきれるのか?

宙が「太王四神記」?
鎧を纏いタップを踏む仁タム...ウ~~ン?

宝塚でも成功したんだから又違った魅力あふれる四神記になるかもしれ
ない。信と仁の傑作になってほしいなあ~

寺田の策略に負けないで~


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2.Re:鳳仙花が咲くまでに 10話 「顔の見えない男」

2009-04-18 16:57:12.0 yukitanpoo

こんにちは^^

いよいよebeちゃんもむかつく寺田の登場だね。
まあ世の中には【嫌な男】っていうのもいるけど、
度を越すのはね~
陰湿なのはいただけない・・・・・

とにかくバーニー頑張れ!だわ。

コメント削除

3.pandaruちゃん、ありがとう!

2009-04-18 23:18:31.0 ebe

こんばんはー。

朝早くコメントいただいたのに、遅くなってごめんなさい・・
今日は仕事、夜までだったので、やっと落ち着いてPC前です。

出たな、寺田!(爆)

このお話を書いてる時に、ちょうど宝塚の太王四神記公演の発表が
あったの。びっくりしたよー。タイムリー過ぎて設定変えようかとも
思っちゃった^^このテサギ公演、お話に絡んできますー。

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4.pooちゃん、ありがと!

2009-04-18 23:24:28.0 ebe

こんばんはー。

んー、陰湿な男。
いるのよね、こんな奴。自分のことしか考えてないのよ。

もう!!バーニー。

もっとボコボコにしていいのに~~!

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