創作 この空の向こうに
先週、無事に「金色の鳥篭」は完結しました~。毎週の御声援、嬉しかったです。
で、今日はまた短編を持ってきました^^
これは、「菜の花の記憶」の最終話の少し後。
バーニーが日本にやってくる時のお話です。
サークルにも載せた事がない作品(笑)。去年、このブログで、下北沢ツアーをした
時に、参加者の方にお土産で差し上げた作品です。
短いお話ですが、バーニーファンの貴方に・・^^
「じゃあ、ここで。
ありがとう・・君には世話になった。元気で」
僕が差し出した右手を、彼は一瞬驚いたように見つめた。
そしてニヤッと微笑むと、スリムな体に似合わない馬鹿力で
強く握り返してきた。
「バーナード・・君からそんな言葉を聞くなんて思わなかったよ。
ボクの奮闘とお節介も案外無駄じゃ無かったって事だね。
NY演劇界からice manが消えるのは大きな損失だけど、君にとっては
これで良かったんだって思う。あくまでも、友人としてだけどね」
「クリス」
「向こうへ行ったら仁サンによろしく言ってくれ。
ボクの気持ちは変わらない。これからも、ずっとあなたを愛してるって」
「殺されてもしらないよ。エドはあれで血の気が多い」
「ワオ!それは本望だな。そのうち殺されに行くよ。逢いたいから」
「フッ、言っておく。じゃ・・・・・おい、手、離してくれるか?」
初めて飛行機に乗ったわけでもないのに、この高揚感は何なんだろう。
窓の外のNYの街並みがどんどん小さくなる。
日本へ旅立ったエドを想う時、
ポートランドの街から見える飛行機は、僕にとって
嫌悪の対象でしかなかった。
何度、それに石を投げ、
何度、それに叫んだ事だろう。
置き去りにされた悲しみと、片割れを無くした喪失感。
たった5歳の僕にとって、ひとつの世界が・・そこで終わった。
僕を無視し、酒浸りのマムを罵倒していたグランマは、
ただ風邪をこじらせただけであっという間に亡くなった。
苦しむグランマの手を握っていたのは僕だったのに、
グランマが死の間際になって呼んだのは僕ではなく、エドの名前だった。
・・何だって言うんだ・・
僕は・・・僕が・・ここに居るのに・・・
マムは酒に逃げられたが、僕にはどこにも逃げる場所が無い。
周りには優しくしてくれる大人もいたけれど、結局は赤の他人だ。
強くならなければ。
強く、そして・・誰にも負けないように。
本当は憧れていたのかもしれない。
雲の向こうの、遥か空の彼方。
エドが渡って行った、まだ見ぬ父の国に。
いくらアメリカ人だと言っても、
僕の傍をいつもついてきた“日本”というアジアの国に。
忘れないように、いつか来るその時のために隠れて話していた、
その言葉。
僕の片言の日本語を、あの日、瞳は微笑んで聞いてくれた。
きっと聞き取れない言葉もあっただろう。
それなのに彼女は、笑顔のまま僕に向き合ってくれた。
そして・・いつの間にか、自然に僕も笑っていた。
瞳があの歌を歌い出した時、僕は心臓が止まるかと思うほど驚いた。
エドがあの歌を憶えていたのか?
あの一面の菜の花を思い出したのか?
耳が憶えていた歌。
あの日、エドと遊んだ遠い記憶。
あの劇評を書いたのは、初日パーティーの夜。
31年ぶりのエドと向き合い、その顔を睨みつけた、あの夜。
エドは、変わっていなかった。
そして、やはり僕を忘れていた。
僕より少し大きくて、目は僕と違って、濃い茶色。
その眉の上にジョンと喧嘩した時の傷が残っているのを見つけた時、
本当は思わず抱き締めそうになったんだ・・
怪我をしたエドの仇を討とうと、僕がジョンを殴った幼い日。
エド・・
想いを振り切るように足早に僕は会場を後にした。
その夜。
僕はエドの手の感触が消えない内に、原稿を書き終えた。
用意していた文章。思ってもいない劇評。
全てが終わった。
新聞社に向け送信をクリックした瞬間。
僕には虚しさしか残っていなかった。
エドを憎んでいたのに。
その憎しみだけが、僕を動かしていたのに。
あの朝、教会で瞳に逢わなかったら・・
そう考えると僕は少し怖くなる。
きっと僕は今、この飛行機には乗っていない。
そしてこんな清清しい気持ちで、この景色を眺めてはいなかっただろう。
感謝しているよ。
バカでかい声のエヴァ達に。
彼女達の歌が聞こえなかったら瞳はあの扉を開けはしなかった。
仕方ない。今度日本から、エヴァの好きなケン・ワタナベの
ポスターでも送ってやるか。
・・・少し眠いな。
昨夜は眠れなかったから。
泊まりにきたアルがずっと喋っていたし、
夜中に突然やってきたクリスは、
酔っ払って下手なヘビメタをシャウトするし。
可笑しな夜だったな。
昨夜の僕は、ずっと笑っていたような気がする。
僕はそっと目を閉じた。
そして・・信じられないくらいに、眠りはすぐに訪れた。
『バーニー!バーニー!!ねてんの?
ほら、つぎはバーニーがオニだよ』
『あ・・ごめん。きもちよくてねちゃってた。
だってエド、ぜんぜんみつからないんだもん』
『あたりまえだよ。かくれんぼだもの。
これだけひろいと、さがすのたいへんだけどね~』
『ダディーは?ダディーどこ?』
『あれ?いま、いっしょにバーニーさがしてたのに
・・・イタッ!!』
『どうしたの?エド・・・ああ!ダディーめっけ!』
『あれれ、ダディーもねてたのか・・
おい!ダディー!!おきろーーー!』
『お・き・ろ~~!キャハハハ!!エド、みて!
ダディーのかお・・アハハハ!』
『え?ああ~~!!アハッハハハ!!おっかしいの。
“なのはな”だらけだ!』
『“なのはな”?』
『うん。さっきダディーがおしえてくれた。
これ、にほんで“なのはな”っていうんだって!』
『ふうん・・なのはな・・』
『そうだよ、バーニー。なのはな。にほんごだ』
『そうか。にほん・・ダディーのくにだ』
『うん。そうだよ!ダディーのくにだ~~!!』
・・・・お客様。お客様?
「・・What?・・・」
「まもなく成田国際空港に到着します。シートベルトを」
「Thank you・・・いや・・ありがとう」
仁。
僕は、やっとこの空を越えたよ。
ずっと心で追っていたあの空を。
そして、もうすぐ君のいる国に着く。
そこには、何が待っているんだろうか。
見た事も無い、父の国。
誰も・・僕を知らない国。
僕は、もう1度生まれ変わろう。
着陸を知らせるライトが消えていく。
僕はシートベルトを外す手に力を込めた。
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