2015-09-16 17:33:10.0
テーマ:創作 同じ空の下で カテゴリ:日記(今日の出来事)

同じ空の下で 3






ようやく3話です。いや~、長らく放置していたので、 気になる

ところだらけで・・・やっとこさUPにこぎつけましたよ。

どうぞご笑納下さいませ♪









舞の手を強引に引っ張りながらガードをくぐり、


本多劇場の前を通る頃、エドはやっとその手を離した。





舞は、楽しそうに小さい声でケラケラ笑っている。


そして、まだ少しおぼつかない足で、劇場の大階段を上り始めると、


最上段で、大きく伸びをした。





短めのキャミソールの裾から覗いた素肌が、妙に真っ白い。


エドは、舞から慌てて目を逸らした。o






「あ~、良い気持ち。ね、エドもおいでよ」



「酔っ払い…さ、帰るぞ。それとも瞳ちゃん呼ぶか?」



「いやよ、そんな酔ってないもん。それにそんな事したら

またパパに大目玉よ。大体パパが大袈裟なの。まだ全然平気だったのに」



「平気なうちに帰れって事だろう?オレだって自分の誕生会

抜けてわざわざ送ってやってんだ。感謝しろよな」



「“オレ”だって。イヤね、最近のエド。背伸びしちゃって」



「っせーな。いいだろ、別に」







…いつまでも姉貴ぶるなよな。


もう18だ。オレだってもう、子供じゃない。





「ね、エド。あんた、本気の恋した事ある?」



「え」






いつの間にかミュールを脱いだ舞は、階段の上に座り、


裸足の足を組んで、大きく息を吐いた。





組んだ足の間からスカートの中が見えそうで、


エドは溜息を吐き、また目を逸らす。





「おい。舞。いい加減にしろよ」



「ね?どうなの?エド。あんた、あれだけモテるんだから、

たぶん、ガールフレンドの1人や2人いるんだろうけど」



「別にモテてなんかいない。おい、いいだろ?もう」



「本気の恋よ。体中が震えちゃうくらいの恋。

きっと一目惚れなんじゃないかなぁ。逢った瞬間に、ハートにビビッと

運命感じちゃう!みたいな…」



「は?くだらな。女ってすぐそれな」



「何がくだらないの?本当の恋ってそういうものじゃない?

ある日きっと白馬の王子様が…女の子なら皆、夢見てるわ」



「へ…ぇ」



「ね。さっき拓海ちゃんが私の友達と付き合ってるって言ってた

でしょう?何だか考えちゃって。恋愛って色んな形があるのは分かる

けど、そんな年上の人となんて私、想像できないんだよね。

パパとママがいつまでもラブラブなのは、いいなって素直に思うけど」



「おい。拓海なんかの言う事、いちいち聞くなよな。

どこまで本当の話か分かったもんじゃないぞ」



「ね、エドは?エドはどんな恋がしたい?」



「舞」



「色々あるでしょう?夕日が差す放課後のプールサイドで、水泳部の

マネージャーに突然告られるとか。行き帰りの電車の中で、他校のJKに、

こっそりラブレターもらうとか」



「古っ!何だ?それ。お前、ライトノベルの読みすぎだ。

いつの時代のシチュエーションだよ。そんなの無い無い!」



「そうなの?じゃやっぱり拓海ちゃんが言うみたいに、高校くらいの

男の子って皆、ヤレればいいとしか思ってないの?え?エド、あんたも?」



「ヤレっ…バカ!何言ってんだ、お前。

はぁ…勝手にしろ。オレは先に行くからな」



「ちょっと、エド。私を送ってくれるんでしょ?

急にどうしたのよ。ね、ちょっと待って。エド、待ってってば!」







…チッ!くされ中年拓海!!ろくな事、言いやしねぇ。


あいつ、酒飲んでなきゃ、超面白くて大好きなんだけど。


親父に話せないエロイ相談も、拓海には話せるし。







でも。


これはダメだ。



21にもなって未だにおとぎ話の国にいる舞に、


あいつ、余計な事吹き込みやがって。







コイツは…舞は…


フツウの女とは違うんだよ。







猛烈に腹が立った。


背中に、追って来る舞のミュールのカツカツとした足音を聞きながら、


エドは、大股で仁のマンションに向かって歩き出した。







「ねぇ、ちょっと!エド~」


時々カカッと突っかかるような舞の足音。


エドはまた溜息を吐き、舞に分からないように少しだけ速度を緩めた。















「…えっ?アルが?」



「ああ」



「じゃ、公演は?ロングランは?」



「もちろん降板した。トニー賞受賞後の大事な舞台だったのにな。

残念ながら当日の舞台は休演。翌日から代役が立ってる。

バーニーは看病と諸々の処理があって、残ったんだ」



「どうしてそんな…エレベーター事故ってどういう事?

それよか、全治どのくらいなのよ!」



「傷自体は多分2ヶ月くらいかな。右足の複雑骨折と裂傷。

でも、問題は後遺症が残るかも知れないんだ。まだ分からないけど」



「えっ?」



「本当は、俺が残ってやれば良かったんだけど。

まさかこんな事になるとは思わなかったから、スケジュール入れて

たんだ。宇宙の仕事なら何とかなるけど、客演じゃそうはいかない

から」



「アル…」



「歩けなくなるとかそんなんじゃないけど、今後ダンサーと

して満足できる踊りが出来るかどうか…

バーニーは辛いだろうな。アルはバーニーを庇って落ちたんだ。

不幸中の幸いは、落ちたのが1階から地下2階までだった事だ。

もし、家がある12階から落ちたら命がなかった」



「そりゃそうだけど!」



「なぁ、常さん。瞳に何て話そうか。

アルが成功してアメリカ中に認められて、あんなに喜んでたのに。

あいつにとって、アルは弟みたいなもんなんだ」



「仁ちゃん」



「くそっ!!やっと、やっとここまで…あいつは、アルの

才能は…アルは本物のダンサーなんだ!!

今まであいつがどれだけ…どんな想いで…

常さん。やっぱ酒くれ。思いっきり強い奴」









エドが舞を家に送り届け、代わりに瞳を連れてMIYUKI


に戻った時、店には劇団の重鎮メンバーしか残っていなかった。


常さんはカウンターを離れて仁と飲んでいて、拓海とアキラは、


奥のベンチシートで静かに膝を抱えている。


カウンターの中の操が食器を洗う音だけが、小さくカチャカチャ響いていた。





さっきまでの店の様子とのあまりの変わり様に、


エドは開けたドアの前で驚き、棒立ちになった。


後から入ってきた瞳が、エドにぶつかって「痛っ!」と声を上げる。



「瞳ちゃん…」





ふわりと花のような笑顔の瞳が入ってくると、


張り詰めていた店内の空気が一変した。


瞳は、真っ直ぐに仁の傍まで進み、その手を取ると、自然に


隣に座り、高く透き通るその声で、愛するその名前を呼んだ。





「もう!仁さん。帰ったんなら空港から電話してくれたって

いいじゃない。エドから今聞いてびっくりしちゃった。元気だった?」



「瞳ちゃん」



「ね、アルも元気だった?受賞後、ずっと忙しいって言ってたものね。

トニー賞、ロングラン。凄いことだけど、体調が心配だな…

ん?何?皆、そんな顔して。ね、操ちゃん。何かあった?」



「瞳ちゃん、あのね」


仁が瞳の手を強く握り返す。


そして何も言わずに、瞳の小さな体を強く抱きしめた。











2学期が始まってまもなく、エドは担任教師に呼び出された。


理由は自分でも分かっていた。


学期初めに出さなければいけなかった進路関係の書類を、


まだ提出していなかったから。


そして、先週末に行なわれた校内模試を、


全教科白紙で出したからだ。





進路指導室までの廊下がやけに長く感じる。


渡り廊下で立ち止まり、窓の外のプールをぼんやりと眺めた。





去年の秋まで1日1万メートル以上は泳いでいたプール。


2年の時、個人メドレーの選手としてインターハイの東京都代表に


なったのが、遠い昔の様に感じた。





「セーッ、セーッ、セーッ!潤、ラスト1本!!」





コーチの甲高い声が、ここまで響いてくる。


エドが自分の後任に指名した、2年生の現キャプテンの潤。


スイマーとしての記録は今ひとつだが、真面目で誰にでも優しく、


2年からも1年からも慕われている。





「頑張ってるな、潤」





良い記録が出たんだろう。コーチがストップウォッチを潤に見せ、


盛大に頭を撫でている。プールサイドの部員達が駆け寄って、


全員で水の中から潤を引き上げた。





「どうしたの?エド。プールが恋しくなった?」





その声に振り向くと、いつのまにか隣に可奈子が立っていた。





同級生の可奈子は、元水泳部のマネージャー。


かつて、家族より長い時間をエド達とプールで過ごした仲間だ。


丸顔にポニーテールの可奈子は背が低く、エドの胸くらいしかない。


下からエドを見上げる様にして覗き込む表情は、悪戯を見つけた


子供みたいに無邪気だった。



「おう」


「何が“おう”よ。私、ずいぶん前から居たんだよ。

ちょっとショックだな。私ってそんなに気配無い?」



「悪かったな」



「いいけどね。私なんて、そんなもんだよ。エドこそどうしたの?

いつも1、2番のエドが先週の模試、100番にも入ってなかった」



「あぁ。もう貼り出されてんだ」



「さっきね。私、自分のより先にエドのから見るから。

で、どうしたの?熱でもあった?」



「別に。至って平熱。機能も正常」



「ならどうして?あんなの考えられないよ」



「おかげで進路指導室がオレを呼んでるんだ。自業自得だけど。

…な、可奈子。オレって、ガキか?」





窓の外のプールでは、今度は1年生のタイムを計っているらしい。


応援する潤のハスキーな大声が聞こえてくる。


エドは可奈子と、またぼんやりとプールを見つめた。



「ガキ?それどういう意味?エドはガキなんかじゃないじゃん。

私達の永遠のキャプテンだよ、エドは。エドのリーダーシップで

私達ひとつになれたし、あの鬼コーチのキツい練習にだって耐えられた。

そうでしょう?あの潤だって、エドを目標にああやって頑張ってるんだよ」



「そうかな」



「そうだよ。スポーツ万能で勉強出来てさ、みんなの憧れだもん。

しかも両親と伯父さんが有名人で…」



「チっ、お前まで雅紀みたいな事言うのかよ」



「だって、事実じゃん。ね、変だよ?今日のエド。

本当にどうしたの?何かあった?」



「そ、ちょっとな。夏休み、色々あったんだ、実は。

オレにとっては一大事…そうだ。お前、今日暇?

夕飯、オレん家で食ってかねぇ?」



「えっ?う、うん!暇、暇!今日、予備校なんて無いよ」



「あは、ホント、お前正直な。でもわりぃ。オレ、今日1人で帰りたく

ないんだ。付き合ってくれ。あいつと2人きりなんて真っ平だし…

じゃ、大人しく怒られてくるよ。ちょっと待ってろな。

終わったらすぐLINEする」





ペタンコになった上履きを引き摺るようにエドが歩き出す。



「あ、うん!分かった!!待ってるね、エド」





2~3歩行った所で、エドが後ろ手に軽く手を振る。


可奈子は、胸の前で小さく右手を握り締めた。









「うわ~!ここが下北かぁ。TVでは見たことあるけど、

私、来たの初めて」



「へぇ、意外。お前、食べんの好きだから、ここら辺のグルメ情報とかに

精通してると思ってた」



「え?あぁ、私、井の頭線ってあんまり乗らないから、さ」





本当は、可奈子は何度も下北沢に来ていた。


エドの住む街を見てみたくて。





だけど駅までは来られても、どうしても改札をくぐる決心が


つかず、結局は下り電車にUターン。


毎回溜息を吐きながら、家がある吉祥寺に帰っていたのだ。





初めてエドに誘われた放課後。


初めてエドと2人で並んで歩く、下北沢の街。





異常にテンションが高い可奈子は、改札を抜け、階段を跳ねる様に


駆け下りると、ロータリーで大きく伸びをし、深呼吸した。





「おい、急に何だよ。行くぞ」



「ね!エドのお母さんのお店ってどこ?ここから近い?

美味しいって評判だよね。またこの間、雑誌に出てたよ」



「あぁ、まあな。旨いんじゃない?オレは昔から食ってるから

よく分かんないけど」



「贅沢だよエド。うちなんか、母さん料理下手なんだもん。

カレーだってレトルトの方が断然美味しいんだから」



「レトルト旨いじゃん。オレなんかかえってそういうのに

憧れてたよ。3食ジャンクフードだっていいくらいだ。

な、悪いけどOREGONはまた今度な。今日はさ、家に来て欲しいんだ。

怪我人が居て、さ」



「怪我人?誰?お父さん?」



「いや…」








劇団稽古場は秋公演の稽古中だった。


仁や拓海たちが各々自分のパートを踊る傍で、バーニーが


若手のダンサーの踊りを静かに見守っている。





そんな父の顔をちらりと横目で見て、


エドは稽古場脇の外階段に向かった。





「うぅわわっ、ちょっと、すごい!皆、本物だよ」



「ん?何が」



「柴田アキラでしょ、桜井文哉に槙タケル。

あ、あの人何て言ったっけ。何とか智!最近CMで踊ってる…

わっ!それに、あれ、伯父さんでしょ?影山仁!!」



「当たり前だろ、稽古場なんだから。

しかしよく知ってんな、うちの劇団員なんて、そんなメジャーじゃ

ないのに。それよか可奈子、いいか。びっくりすんなよ」



「びっくり?エド、もうしてるって~!」





興奮する可奈子に呆れながら、エドはポケットから


鍵を取り出した。








玄関を開けると、リビングからソウルミュージックが


聞こえてきた。


それは、エドでも知っているスタンダードナンバー。


ドアの前で小さな溜息を吐いて、


エドは力いっぱい、ドアノブを廻した。





「ただいま」



「Hello!Ed. Welcome home!」



「あ!お帰り、エド。あれれ?」



「…舞。何でお前が居るんだよ!!」








そこには舞がOREGONのコーヒーポットを持ったまま立っていた。


そして正面には、車椅子に乗った大柄な黒人の男が、


にこやかにエドに笑いかけていた。





[コメント]

1.Re:同じ空の下で 3

2015-09-17 11:08:47.0 HASHIKO

ebeちゃんこんにちは^^

またまた雨ですね。

この間うちの大雨で大変な水害があって自然災害の怖さ、水の力の
威力を思い知らされました。

被害に遭われた方々に心痛めています。

福島の方は大丈夫だったのかしら?

ここのところ私も超??忙しくて創作、ゆっくり読んでいられなくて
お気に入りに入れて少しずつ読ませてもらっています。
文才のない私はこういうものが書けるebeちゃんを羨望の目で
見ていますよ。
ハナちゃんはやっぱりしっかり親の血を受け継いでいるんだわ(*^^)v

仙台行きは何時なのかしら?
もう気もそぞろ・・・
仕事が手につかないんじゃないのかな(笑)

後日談楽しみにしているよ~~~(^o^)/

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2.HASHIKOちゃん、こんばんは。

2015-09-19 00:23:32.0 ebe

秋の長雨とはいうけれど、今年は雨が多すぎるね。
しかも、水害の被害に見舞われた地域の方、本当に大変でした。
お見舞い申し上げます…

おかげさまで、ー福島の旦那の実家付近は被害は無かったみたい。
しかhし、自然の脅威って、本当恐ろしいね。

創作…今回直し作業してて、やっぱり書く事、好きだなと思いまし
たよ。ハナには及ばないけどね^^

えへへ。仙台は23日に行きます。コンサート最終日。
もう、今からドキドキしてますよー(笑)
Mステで生中継もするから、もしかしてコンサート中の中継だったら
スタンドの私とハナの姿、探してみてね♪

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