2008-11-23 00:37:09.0
テーマ:創作 菜の花の記憶 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

菜の花の記憶  5話 「踏み出したステップ」

Photo

バーナードの書いた記事で、劇団の演目はあっという間に打ち切りに。

さぞや落ち込んでいると思いきや・・宇宙の連中はやっぱり逞しかったようです(笑)

 


 



あの記事が新聞に載って、あっという間に

劇場との契約は打ち切りになった。

3週間公演のはずが、たった2日間・・

 

追い立てられるように装置の撤去を終え、衣装で

溢れかえる楽屋を明け渡した私達は、まるでいらなく

なった玩具の様に、ポイッとNYの街に放り出された。

 

クリスは責任を感じ、再上演できる劇場を探しに動き出した。

他の仕事も抱えているのに、私達の為に彼は走り回っている。

その姿に私達は恐縮し、手伝おうと申し出たが、

クリスは笑ってこう答えた。

 

「僕の仕事ですよ。僕が好きでやっているんです。

もう1度、皆さんの舞台が見たい1ファンのわがままです。

僕にやらせてください。皆さんはこの機会を無駄にしないで。

1つでも多く舞台を見て、1つでも多く“芸の肥し”にして下さい。

・・日本語、これで合ってますよね、“ゲイのこやし”でしょ?」

 

ニコニコとオヤジギャグを言うクリス。

時々変な日本語を使っては、私達を笑わせてくれる。

クリスはその明るい性格で、すっかり私達の仲間になっていた。

 

「クリスって日本語上手だよね。いったいどこで覚えたの?」


「ハイ、昔の恋人が教えてくれたんです。彼は日系のマッチョで

ステキな男性でした。言語の習得には恋人を作るのが一番です」

 

はぁ・・そうでございましたか。

そうだよね~。クリスってソッチの人だったっけ。

でも惜しいなあ、金髪の超イケメンなのに女の子がダメなんて。

 


そうだ。クリスの言う通り!

私達もこのまま帰国なんか出来ない。

こんな中途半端なまま納得なんか出来ない。

 
ここはブロードウェイ。

1つでも多くの何かを、吸収しなくちゃ・・

だって、私達が目差す全てのものがここにあるんだから。

 


その日から劇団の皆は、

それぞれブロードウェイの街に散っていった。

 

代表とあいちゃんは、毎日ミュージカルの舞台を見に行っている。

大劇場のロングラン公演から、オフ、オフオフの舞台まで。

舞台を分析し、激論をホテルに帰ってから戦わせている2人の姿

は、どう見ても、頼もしい劇団代表夫婦。

ただ、いつもその激論は、あいちゃんの勝利で終わる所が

御愛嬌なんだけど。

 

驚いたことに、拓海先輩とアキラ君達、数人の男性団員は

ユニットを組み、NYの街中に飛び出して、ストリートダンス

を踊り出していた。


劇団のオリジナルミュージカルをベースに脚色した創作

エチュードや、パントマイム。

タップを基本にしたストリートダンス。


笑える場面も満載で、言葉が通じなくても何だか結構受けて

いるみたい。その売り上げで相当数の舞台を見ているって話

だから結構稼いでいるのかな。あのメンバーにそんな才覚が

あったなんて、正直本当にびっくりした。

 


仁さんと私は、翌日からホテルの近くのダンススタジオに

レッスンに通っていた。あの記事が気になっているのか、

彼は物凄く真剣な生徒だ。

時間の都合がつく限りのレッスンを全部取っている。


36歳の長身の東洋人男性が、長髪をなびかせて激しく踊る姿に、

フロアの女性ダンサー達の溜息が段々深くなる。


そのうち彼の容貌だけでなく、そのダンスを見るために、

他のクラスからの見学者が日に日に増えていった。

 
“影山 仁のタップ”は、やっぱり本物だった。

 
本場のダンサーが彼のステップや、その高いジャンプに驚き、

技を盗もうとやってくる。

早口の英語で何やら難しい質問をしては、彼と一緒に踊りだす。

でも・・そのうちにあの劇評の噂が立ち始めた。


噂が広まるのに時間は掛からなかった。仁さんがその本人だと

知ると、今度は興味本位や冷やかし半分で見学に来る人達が

増えてしまった。ところが、彼のダンスはそんな人達を逆に

魅了してしまったらしい。

 

私は嬉しかった。

彼らが仁さんのダンスを認めてくれたからじゃない。

 

仁さんがとても・・楽しそうだったから。

 

楽しそうに彼らの中で笑いながら踊っている仁さん。

いつも稽古中はストイックで、私でさえ近寄りがたい空気を

纏っている彼が、大声で彼らのジョークに笑い、普段はあまり

踊らないヒップホップやレゲエのリズムをその身体に刻み込ん

でいる姿に、私は胸が熱くなった。

 

これが、彼の本当の顔。

その笑顔は私と一緒の時の彼。


苦しみから逃れるために、自分を追い込むために、

そして・・美雪さんの想いに近づこうと始めたダンス。


NYに来て、あの劇評があって。

自分のダンスを見つめ直すために来たレッスンで、

彼は何か掴んだのかも知れない。

 

ある日、タップクラスの先生に仁さんが呼ばれた。

何やら真剣に話していた2人。やがて仁さんは私の方を見て、

「妻と一緒になら」と答えた。

(このくらいの英語なら何とか分かるけど。いったい何?)

 

戻ってきた仁さんは、私に一言、


「トニーとマリアのナンバー、ん~そうだな・・ダンパがいい。

一緒に踊るぞ。準備しろ」と言った。

 

私の返事も聞かず、もうバッグからMDを探している彼。

 

「えっ?ちょっ、ちょっと待って!私も踊るの?」


「当たり前だ。ソロで一曲通しで踊ってくれって言うから、

“お前と一緒なら”って言ったんだ。早く支度しろ」


「仁さん、仁さん、仁さん!!ねぇ、さっき“トニーとマリアの

ダンパ”って言わなかった?」


「そうだ。ベルナルドとマリア2人のシーンなんてないからな」


「そうだけど・・・ね、・・踊れるの?」


「コラ、馬鹿にするな。今の振りは俺が付けたんだ。

何ならお前のも踊ってやろうか?

昔、お前にマリアのナンバー教えたのが誰だか忘れたのか?」


「あ。」


「分かったら、ほら、スタンバれ」

 


仁さんは、有無を言わさず私をフロアのセンターに引っ張り

出した。見学者がまた増えた。フロアの壁際はビッシリだし、

入れなかった人が廊下から沢山覗いている。

 

“どうしよう・・仁さんはともかく私のタップなんて全然ダメだよ。

参ったなぁ、何か分かんない間にこんな事になっちゃって・・”

 

仁さんがMDをセットする。

そして焦っている私の方を向いて、

左の口角を少し上げクスッと笑った。

 

“え~い!こうなったらどうにでもなれ!だわ”

 

うつむいた姿勢からのスタートのマリア。

曲が始まり、静かに顔を上げると、

そこには柔らかく優しい表情のトニーがいた。

 


・・・驚いた。

本当に、驚いた。

 

なんて・・なんて踊りやすいの?


私がステップを踏み込むほんの、ほんの僅か先を、

確実に仁さんはリードしてくれる。

まるで私の身体と彼の身体が最初から1つだったかのように。


意識して合わそうとなんかしてない。

ただ目を見ているだけで、相手の動きが分かる・・

 


おずおずとマリアに手を差し出すトニー。

恋の始まり、一目で恋に落ちる若い2人。


その初々しさも、情熱を込めた熱い瞳も、

それはベルナルドではなく、紛れもなく仁さんのトニー。

 

踊りながら、私はトニーに恋をしていた。

ここがどこかも忘れるくらいに。

 

見えない群舞に引き裂かれ、遠ざかる2人。

フロアの両隅から2人が伸ばした腕は、曲が終わっても

互いを求めていた。

 


「「ウワァ~オ」」


「「ブラボー!!」」

 


大きな歓声に、私はハッと我に返った。

自分が今どこにいるのか、一瞬何も分からない。


鳴り止まない拍手の中、仁さんが真っ直ぐ私の方にやって来る。

そして私の頭をくしゃくしゃとその大きな手で撫でると、

これ以上ないくらいの飛びっきりの笑顔で、私の額に小さく音を

立ててキスをし、その逞しい腕で力強く抱き締めた。

 

「ありがとう。これで自信がもてた。

俺は俺のタップを踊るよ。誰が何を言ってももう大丈夫だ。

実は少しあの記事、気にしてた。確かに俺のタップは、殆ど自己流

だし・・瞳、この間から考えてたんだけど、帰国したらマスコミの

仕事、断っていいかな?俺、やっぱり踊りたい。舞台が好きなんだ。

今、お前と踊っててそれが痛いほど分かった。

もっと踊りたい、もっと、もっとって・・

木島から研究所のダンス講師、ずっと前から頼まれてたんだ。

これまではそんな気持ちにもならなかった。俺が人を教えるなんて。

・・やってみるよ。俺に出来るかは分からないけど、働かないとな。

でも舞台とタップからは離れられない。我がまま言ってごめん。

ギャラは減っちゃうけど、それでいいかな?奥様」

 

 

うん。仁さん。

うん・・・うん。

 

そうよ。

踊っているあなたが、一番好き。

舞台の上のあなたは、誰よりもかっこいい。

 

私があなたに何かしてあげられるとは思わないけれど、

いつも私が見ているから。

 

あなたが、どこの誰でも。

あなたの過去に何があっても。

あなたの心が何かを叫んでいても。

私は傍で笑っていればいい。


・・ね、そうなんでしょう?

 


そうだ、次は私の番。


あの記事には書いてなかったけれど、あれから私は考えていた。


私は、“私の歌”を歌っていたのか、と。


私にしか歌えない、

“木村 瞳”の歌。

 

タップもお芝居も皆にはとても敵わない。

でも歌を、私の声を褒めてくれる人がいる。

 

神様は、あの怪我の後も私から声を奪っていかなかった。

“もっと歌え!”と言われているんだと、声が戻った時そう感じた。

 

私にも何か掴めるだろうか。

漠然と、“こんな歌が歌いたい!”という

イメージだけはあるのだけれど。

 


翌日の朝。

私は、早くにホテルを出て、1人街を歩いていた。

 

早朝の街は、色々な音が溢れていた。

昨夜の喧騒の後も其処かしこに見られるけれど、小鳥の囁きも

よく聞こえる。実はNYはとても緑の多い街だ。

 

少し路地に入ると、大通りとは違った生活音がある。

その生活音でさえも、どこか弾けたリズムを刻んでいるようで。

私は、そんな住宅地をジョギングの人達に混ざって

のんびりと歩いていた。

 

その時、どこか遠くから歌声が聞こえて来た。

微かに・・でもとてもしっかりした音。


・・何処?何処から聞こえるの?

その声が私を呼んでいるようで、私はキョロキョロと辺りを探した。


声に誘われるように、足は自然に前に進む。

2ブロック先に見つけた其処は、教会だった。


「あ・・今日は、日曜日?」


段々大きくなるその歌声。それは・・・ゴスペル。


階段を上がり、そっとその重い扉を開けてみた私の耳に、

その歌声はダイレクトに飛び込んできた。

 

 


言葉が出ない。

胸が痛い。

これは、歌?

それとも魂の叫び?

 

祭壇の上には大きな体の(ゆうに私の3倍はありそうな)女性が3人。

たった3人の声が、2ブロック先のあの路地までこんな重い扉を通し

て聞こえていたなんて。

その声量と深く響く声に私は圧倒され、動く事も出来ない。

 


・・・・どのくらい時間が経ったんだろう。

気がついた時には、すっかりミサは終わっていて、

あんなに大勢いた人達の姿はもうどこにも無かった。

私は呆然とただ立ち尽くしていたらしい。

 

その時、最前列に男性がまだ1人残っているのに気がついた。

スーツ姿のその人は、人々が帰った後も何かを熱心に祈っている。

大きな背中は少し猫背で、前に組んだ両手は固く握って。


やがて祈りが終わったその人は立ち上がり、私の方に振り向いた。

                                                                                                               

「「あっ・・」」

 


同時に叫んだその人は、私の知っている人だった。


初日の夜、劇場で私とぶつかった人。

 


“バーナード・シン・ワイズマン”


彼の・・・弟。

 

 

その頬には、


    涙の跡があった。

 


コラージュ、mike86



[コメント]

1.Re:菜の花の記憶  5話 「踏み出したステップ」

2008-11-23 08:58:04.0 pandaru

ebe様 おはようございます。

興奮冷めやらぬ間の5話アップに感謝します。

転んでもただでは起きない「宙」の面々...

仁は自分のタップや演技に揺るぎない自信があるから手ひどい酷評に
もかえって奮い立ったのかも...

早朝、引き寄せられるようにたどり着いた、とある教会...

ミサが済んでも一人祈り続ける男ドンヒョク..いや、バーナードワイズマ
ン。仁に瓜二つの男の涙を見てしまった瞳... ヤバ!






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2.Re:菜の花の記憶  5話 「踏み出したステップ」

2008-11-23 16:12:42.0 yukitanpoo

こんにちは^^

連休の中日、今日も忙しかったかな?
私はやっと クリスマスの飾りをだしたよ・・(^ー^;)

仁のタップ、見てみたい!!! かっこいいんだろうな~
妄想がひろがりすぎ!?
瞳も新しい発見がありそうだね・・・

バーナードとはやっぱり縁があるのね!?

 

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3.pandaruさん、こんばんは♪

2008-11-23 17:57:30.0 ebe

転んでもただでは起きない(爆!)

そうなんですぅ。こいつら^^はそんなに柔じゃなかったの。
逆にこの状況を楽しんでるみたい。
それはやっぱり、リーダー木島さんの影響が大きいかもね。

バーナードと出逢ってしまった瞳。
この後、どうなるのでしょう・・

続きは、明日~^^

・・私に「様」はいりませんよ。(そんな柄じゃないですぅ)
ebeちゃん、でいいので、そう呼んでくださいな♪

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4.うん。忙しかった・・^^

2008-11-23 18:07:18.0 ebe

yukitanpooちゃん、こんばんはー。

今日は団体のお客さんが多くて・・お宮参りだとか、法事だとか、
大人数なのよ。ずっと走ってたわ(その割に痩せないのは何故?^^)

クリスマス!全然やってないよ~。
出窓にイルミネーション点けるの憧れてるんだけど、結局毎年先送り。
他のお宅を見て癒されてます(爆)

仁のタップね。あくまでも仁のタップ(大爆!)
カッコイイと思うよ~。長髪が揺れて、速いステップを長い足が
刻んでいく・・はあ~、妄想は果てしない。

瞳とバーナード。
逢っちゃったね~^^

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