2008-11-24 00:49:02.0
テーマ:創作 菜の花の記憶 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

菜の花の記憶  6話 「Sunday Morning」

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瞳とバーナードが教会で出逢った同じ朝。仁は隣に瞳が居ない事に気づきます。

そして・・この回のサブタイトルが決まらなくて悩んだのを思い出しました^^結局、

私には珍しい横文字のタイトルに(爆)





・・いつも、いつだって、君は僕の大事なものを

持っていってしまうんだね。

 マムの愛も・・・ダンスの才能も。 


だから・・だからさ。

 君の大事なもの・・今度は、僕にくれるよね?

・・・ホラ、ここに・・いる

 

 

 




「止めろ!!」




・・夢?

夢だったのか?

 


やけにリアルなその夢。

まだその声が耳に残っている。

顔の見えない男。

あれは・・誰だ。

 

妙な汗をかいて思わず飛び起きた俺は、

隣に眠っているはずの瞳が居ないことに気がついた。

 

「瞳!」


大声で呼んでみても、返事はない。

ぽっかり空いたベッドのスペースには、

もう温もりさえなかった。

 

素肌にローブを引っ掛け、ベッドを抜け出した俺は、

テーブルの上の小さなメモに気付いた。

そこには、


「少し、街の空気を吸ってきます」


と、瞳の字で書かれている。

 

・・あいつが、1人で出かけた?

 


初日のパーティーで大勢の人に囲まれ、機関銃のように

英語で話しかけられてから英語恐怖症になったらしい瞳は、

あれから1人で行動したことがない。

近くのドラッグストアに行く時でさえ、

俺や相原の手を引っ張っていく。


俺は慌ててGパンを穿き、シャツを手に部屋を飛び出した。

 

「あのバカ、1人でどうするんだ!しかも方向音痴の癖に」

 

いったいどの道を行ったんだろう。


午前7時。


ホテル前のカフェを覗き、瞳が好きなベーグルサンドの屋台

まで走ると、もうこの時間に開いている瞳のテリトリーは無い。


メインストリートから路地の奥まで、俺は瞳を捜して走っていく。

 

日曜の早朝。

 

どう見てもジョギングではない俺に、通行人の視線が痛い。

なかなか見つからない苛立ちで、瞳と同じ水色のジャケットの

女性に後ろから声を掛け、逆ナンパされた時には正直キレそうに

なった。


そんな何本目かの路地の奥。

聞きなれたボーイソプラノが俺を呼び止めた。

 


「ジン!どうしたのー?」


「アル?」

 

2日目に芝居を見に来てくれたが、翌日に公演は打ち切り。

その後、母親の具合がよくないとかで、

ここ暫くアルは顔を見せていなかった。

 

「アル、お前の家、この辺なのか?」

「うん、そこのアパート。ジンこそどうしたの?

こんな朝早く。ヒトミは?」

 

アルが指差したその部屋は、古いアパートの地下にあった。


赤く錆びた鉄骨の骨組みが剥き出しになった外壁。

雨水と道路のごみが直接流れ込んでくる階段下。

その玄関の前にはおびただしい数の酒瓶が転がっている。

キッチンだろうか、小さな窓枠にも酒瓶がびっしりと置かれて

いるのが、外からでも充分見て分かる。


どう見てもいい環境と思えないその住まいに、俺は絶句した。

 

夫の死が受け入れられず、母が酒びたりになっているとは、

アルから以前聞いていた。

病院、更正施設などを出たり入ったりしていると。

そしてアルは学校も行かずに昼夜働き、

その母と家計を支えている。

 

そんな母を見てきたアルが、その原因を作ったワイズマンを

憎んだとしても、決して不思議ではない。

 

「ジン、マムね。病院に入っちゃった。またダメなんだよ。

出てきたときはもうお酒は止めた!って言うんだけど。

今度はどのくらいだろ・・もう慣れたけどさ。

ねぇ、ジン。ワイズマンに会ったんでしょう?どんな奴だった?

オレにも会わせてくれよ。会って、あいつの目を見て言ってやり

たいんだ。“ダディーを返せ!”ってさ。

オレ、もうあんなマム、見たくないんだ」

 

こんなひどい状況なのに、アルは俺に笑顔で話している。


・・・アル。

お前が憎んでるその男は、俺の弟だ。


久しぶりに会った嬉しさで俺に纏わりついて話すアルに、

俺はその言葉が言えなかった。

 

アルと俺。

ワイズマンと瞳。


その朝、偶然にも同時刻に出逢っていた。

 

 

「ジン。ね、ジン?どうしたの?」

 

「あ・・いや、何でもない。そうか、お前1人なのか。

そうだ!俺のホテルに来いよ。俺達はあと3週間くらいしか

いないが、その間にはママ帰ってくるんじゃないか?

ベッド1つ俺たちの部屋に入れてもらえばいいんだし。

な、そうしろ」

 

「いいの?ホントに?サンキュー、ジン!

あ・・でも、ジンの部屋はダメだ」

 

「どうして」

 

「だって。ヒトミいるだろ?」

 

「そりゃいるさ」

 

「オレ子供じゃないからね。

新婚さんのベッドの横じゃ寝られないよ」

 

「お前!!生意気言いやがって。

お前いくつだよ、立派にまだ子供だろうが」

 

「ジン、ココはアメリカだよ、忘れてない?

しかもオレ、大人の中で仕事してるんだぜ。オレだってあと

3年もしたらオトナになるさ。周りはいいオンナばっかなんだし。

あぁ、でもそっちには行ってもいい?

誰か独り者の寂しい奴もいるだろ?」

 

 


「・・・・で?それでア、タ、シの部屋な訳?

この生意気な子と一緒に寝ろっての?」

 

「頼むよ、常さん。1人部屋は常さんの所しかないんだ」

 


アルを連れてホテルに戻ると、俺達がいないと常さんが大騒ぎ

している所だった。そこへひょっこり子供を連れて俺が戻って

きたもんだから、何がどうなってるんだとまた大騒ぎ。

俺の説明を聞いた常さんは、大袈裟に腕を組んでアルを品定め

している。アルはニヤっと笑うと、悪びれもせずに俺に向かって

「腹が減った」と、のたまった。

 

常さんがまた何か喚く前にとにかく朝飯・・と言う事で、

ホテルのレストランに、俺、アル、常さん、木島、相原が

やってきた。

 

店内では拓海とアキラが、窓際の席で欠伸をかみ殺しながら

クラブハウスサンドにかぶり付いていた。

昨夜は何を見てきたのか。芝居が跳ねた後、拓海が興奮して

部屋で奇声を上げていたのを劇団員全員が知っている。

(うるさい!と文句を言いに行った常さんが2人にうまく飲ま

され更に騒ぎが大きくなったのは、とんだおまけだったが)


木島がアキラの頭を小突いてその横を通り過ぎると、まだ半分

眠っていた2人は、飛び上がるほど驚き、サンドイッチ片手に

ソースを垂らしながら、直立不動になった。

 

「だ、代表!仁さん・・お、おはようございますっ!」

 

「おう。聞いたぞ。昨夜はご機嫌だったな。何かえらく稼いで

るらしいじゃないか。もう日本に帰りたくないんじゃないか?

隠れた才能の開花って奴だな。いいぞ、それならトニーとチノ

のオーディションやり直すし。いつでも言って来い」

 

「「代表・・そりゃないっすよ」」

 

「アハハハ!!」

 


その後、店内の中央に陣取った俺たちは、アルの旺盛な食欲に

目をむいていた。


アルは、オレンジジュース、シリアル2杯、トースト3枚、

ベーコンエッグ両目に、フライドポテト大盛りをペロっと食べ

終わると、傍に来たウェイトレスを捕まえて、今度はパンケーキと

コーラを追加した。

 

「おいおい、大丈夫かよ」


「ん、まだ入る」


もしかしたらコイツは、もう何日もまともに食べていなかった

のかも知れない。

 

「オレ、このおじさんの部屋なの?この人知ってるよ。

初日のパーティーにもいたし、翌日もギャーギャー泣いてた人

だろ?この人どう見ても役者でもダンサーでもないよね。

一体何者?」

 

大きな口を開けて、シロップをこれでもかと染み込ませたパン

ケーキを頬張っているアルは、俺が残したベーコンを狙っている。

喰っていいぞと目で合図すると、横からフォークで2枚一緒に突き

刺し、パンケーキがまだ残っている口の中に一気に放り込んだ。

 

「よく噛みなさい!いいこと?あと30回噛んでから飲み込むの!

さっきからあんた見てたらロクに噛んでないじゃないの。

そんな軟らかい物ばっか食べてると、歯にも体にもよくないのよ!

まったく躾がなってないったら・・アタシが何者かですって?

あ、の、ね、坊や。アタシはジンちゃんの家族なの!

下北の生き字引って言われてるし、芝居にも詳しいわ。

そうね・・強いて言えば“劇団宇宙の顧問”ってとこかしら。

ね、木島ちゃん、そうよね?

ちょっとジンちゃん!ちゃんと訳した?」

 

「顧問?・・ハハ、まあ、そんなところですかね。

なあ、仁。この子、どうするつもりだ?いくら親が入院中だって

いってもお前とは何の関係もないんだ。

手元に置いとくのは難しいんじゃないか?」

 

「ああ。一応大家と、アルの親方には俺のところでしばらく預かる

とは言って来た。大家はある意味コイツが厄介者だったから

“どうぞどうぞ”ってなもんだったよ。親方はコイツが俺の話を

してたらしくて、“お世話になります”って頭下げられた。

木島、悪いが・・頼む。何か、放っとけなくて」

 

ふと見ると、コーラをお替りしようとしたアルを、常さんが

たしなめている。アルは抵抗して、アッカンベーだ。

 

「アル!!コーラばっかり飲んでると、骨が溶けるわよ!

ミルクになさい!きっといつもジャンクフードばっかなんでしょ?

こら!待ちなさい!アタシの言う事聞きなさいってばー!」

 

日本語でまくし立てる常さんと、早口の英語で応戦するアル。

話が通じている訳でもないのに、妙に噛み合っていて、

2人とも何だか楽しそうだ。

 


「やっぱり先生なんだな、お前は。不幸な子供を放っておけない

んだろ?お前が責任持つって言うなら、俺は構わないさ。

それにアイツ面白そうだしな。

ところで、瞳は?まだ連絡つかないのか?」

 

「携帯の電源、切ってるんだ。探したけど、見つからない。

あいつ、英語話せないのに。いくら朝だって、ここはアメリカだ。

何かあってからじゃおそ・・・・瞳」          

 


瞳は入り口できょろきょろと俺達を探していた。

その瞳を先に見つけ、アルはその胸に飛びつく。

 

瞳は突然現れたアルに驚きながらも、その頭を撫で、楽しそうに

笑っている。アルが耳打ちするように俺達の場所を教えたらしい。

(殆ど身振り手振りで)、俺達を見つけ、弾ける様に微笑むと

まっすぐ俺の横にやってきた。

 


「ああー!皆で美味しい物食べてたのね?いい匂い・・

お腹空いた~!ね、あいちゃんの何?私も同じのにしようかな。

・・・・何?皆・・・どうしたの?」

 

「バカ瞳!仁さんがどれだけ心配したと思ってんの?

さっきまであんたを探しに走り回ってたんだよ!何にも言わずに

出かけるなんて。もう!あんたって娘は!」

 

「あ・・ごめんなさい。少し散歩してくるつもりだったの。

朝の街の空気に触れたら、私も仁さんみたいに何か掴めるかな

って。でも行ってよかった。仁さん。明日から私、あの教会に

通うことにする。だからダンススタジオは今日で最後。いい?」

 

「教会?」

 

「うん。ここから1時間くらい歩いた所にね、小さな教会が

あって、日曜ミサをやってたの。そこから聞こえる声に引き

寄せられるように、気付いたらドアを開けてた・・

そこで、ゴスペルを聞いたの。

深くて透明で・・あれこそ“女神の声”よ!

体の奥から響いてくるの、その声。あぁ、あんな歌が歌えたら・・

あの、代表。お聞きしたい事があるんです。

今の私の歌に足りない物は何ですか?」

 

「お前にも、答えは分かってるんだろ?“声量”それに尽きる。

あともう少しボリュームが欲しいな。ウチはマイク付けないん

だから」

 

「はい。分かってました。手術の後から特に、ですよね。

音域は広がったし、表現力も付いてきたと思うんです、

自分なりに。でも何か違う・・

仁さん。私、歌いたい。体の底から声を出したいの。

その教会でね、シスターに紹介してくれる人がいて。

一緒に歌っていいって言って下さったの。

教える事は出来ないけど、一緒に歌う事であなた自身が

感じなさいって」

 

「紹介してくれる人?

地元の人と知り合いになったのか?話せないのに」

 

「え?・・あ、う、うん。そうなの。

日系の人が、いてね・・・あ~またトマト残してる。

仁さんってば、こんなに小さく切ってあるのに器用に残す

んだから、もう!」

 

「それにしても方向音痴で英語が苦手な瞳が、よくその教会

から真っ直ぐ帰って来れたわね。あんたタクシーだって1人で

乗ったことないでしょう?」

 

「え?・・あぁ、その人がね、タクシーにも乗せて下さったの。

若い娘が1人で物騒だからって。

若い娘ったって、私もうミセスなのにね。ハハッ・・」

 

俺の残したサラダをつつきながら、ウェイトレスにクリーム

チーズベーグルを注文し、アルの口に付いたシロップを拭いて

やっている瞳。

 


さっき一瞬俺の目を避けるようにしたのは思い過ごしだろうか。

瞳が今まで俺に見せたことのない、微妙な表情。

 

教会。ゴスペル。日曜ミサ。

 


俺の心の端に浮かんだほんの少しの疑問。

何故か、胸の奥がざわついた。

 

 

・・キミノダイジナモノ・・

コンドハ、ボクニクレル?

 

 

ホテルの向かい側のカフェ。


そのオープンテラスで長い足を組み、新聞を広げ、

静かに優しい眼差しで瞳を見つめている男がいた。


瞳をタクシーでここまで送り、シスターに瞳を紹介した男。

ワイズマンは小さく溜息をつくと、席を立った。

 

 

瞳は、おいしそうにベーグルを頬張っている。

そして俺と目が合うと、目を細めて微笑んだ。

 

その笑顔は、

 

俺の心のざわつきを一気に消していった。

 



コラージュ、mike86



[コメント]

1.Re:菜の花の記憶  6話 「Sunday Morning」

2008-11-24 08:49:25.0 pandaru


「...胸騒ぎ...」なんてタイトルつけたいくらい...いやな予感が。
abeちゃん 
おはようございます。お言葉に甘えましてこう呼ばせて頂きますね。 
夢の舞台ニューヨーク....禁断の果実を食べてしまいそうな瞳。

ワイズマンに会ったことを言えなかった瞳
一瞬、仁の視線を外した瞳を見逃さなかった仁...心休まらない仁。


2.pandaruちゃん、こんばんはー^^

2008-11-24 17:50:09.0 ebe

私も早速、ちゃんづけです♪

・・いやな予感?

うふふ、どうでしょうか。
バーナードの心、それを知った瞳。

教会での瞳とバーナードは次回!

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