2008-11-25 01:11:09.0
テーマ:創作 菜の花の記憶 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

菜の花の記憶  7話 「片言の日本語」

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7話は、教会での瞳とバーナードです。5話、6話、7話は時間が平行して流れていき

ます。ですから、この7話のラストで帰って来た瞳が、6話で仁達の居るレストランに

現れた事になります・・ややこしくてすみません。(汗っ・・)






「Hitomi・・」


その朝、バーナード・ワイズマン氏は

偶然会った教会で私の名前を呼んだ。


あの記事が出てから1週間ちょっと。

彼は驚きに目を見張り、咄嗟に私の目を少し避けるように

顔を伏せた。


そしてフッと前を向きなおすと、左の口の端を少し上げて

私に向かって不器用に微笑んだ。

 


それは。

少し照れた時の仁さんの癖にすごく似ていた。


やっぱりこの人は彼の兄弟だ。

 

ミサが終わった静かな教会の中。

私達は一番後ろの席に並んで座った。

 

正面には優しい顔のマリア像。

私達が話し出すのをじっと待っている様だ。

 

ワイズマン氏は、ただ黙って前を向き、

時々目を伏せて、居心地悪そうに私を気にしている。

 

私は聞きたい事が沢山あった。言いたい事も沢山あった。

沢山ありすぎて、何から話していいのか分からない。

 

“仁さんと、兄弟だという事実”

“何故、兄弟が別れてしまったのか”

“何故、仁さんは、このことをまるで憶えていないのか”


そして・・


あの記事は、あなたの本心?

 


思い切って話し出そうとした私は大事な事を思い出した。

 

しまった・・忘れてた!

私ってば、英語話せないじゃない!!

 

「あ、あの・・Nice to meet you,Mr Waizuman・・

はぁ、駄目。これ以上は無理だわ。すみません、ごめんなさい。

私、英語まるでダメなんです。学校の成績も悪かったけど、

こっちに来てから、さらに英語恐怖症になっちゃって・・

あなたに逢ったら聞きたいことがいっぱいあったんですけど

早口で話しかけられると、もうアウトなんです。

頭は真っ白になっちゃうし、心拍数上がっちゃっうし。

この間なんか、道端で倒れそうになったんですよ。いつもは、

仁さんが一緒にいてくれるから大丈夫なんですけど、って・・

日本語で謝ったって分からないわよね。参ったな、どうしよう」

 

「・・・だいじょぶ、いいよ。OK、ゆっくりなら・・

たぶん、わかる」


「えっ?」

 

突然日本語で話されて、私は正直驚いた。

思わず勢いよく顔を覗き込んだ私に、少し困ったような顔をした

彼は、それからゆっくりとした日本語で話し始めた。

 

「5さいまでぼくは、いえでは“にほんご”だった。ともだちとは、

えいごだったし、セサミストリートやスパイダーマンみてたけど」


「5歳って・・・仁さんが日本に行った時?」


「なんでしってるの?“エド”は、そのことおぼえてないでしょ?

それとも、おもいだしたの?」


「え、ど?」


「エドワード・ジン・ワイズマン。My brother」

 


私は余程ポカンとした顔をしていたらしい。

しばらく動く事もできなかった。

だって、仁さんの英語名なんて、考えたこともなかったもの。


【バーナード・シン・ワイズマン】と【エドワード・ジン・ワイズマン】


双子の兄弟。

 
その人は、私の顔を覗き込むと、初めて大声で笑った。

 

「ぷっ!あっははは!!」

 

「あの!何が可笑しいんですか?ちょっと驚いただけです!

仁さんから話は聞いてました。あなたが双子の弟だって事。

もっとも彼がそれを知ったのは、ついこの間の公演初日の夜

だったんですけど。彼、36年間何も知らずに生きてきたんです。

動揺してたわ、とても。でも名前の事は言ってなかった。

多分・・まだ彼も知らないんだと思う」

 

「ごめんよ。おどろいたかおがとても、かわいいかったから。

あの、もすこしゆっくりはなしてくれる?ちょっと、わかんない

とこある・・マムはエドを、にほんにいかせたくなかったんだ。

マムは、ぼくより・・エドをあいしてたから」

 


ポツポツ話すその日本語は、まるで子供の言葉の様だった。

質の良いスーツを着こなした36歳の男性の口から出る幼い表現。

それは、どこか切ない、少し悲しい響きだった。

 

「エドワード・・彼の名前なんですね、5歳までの。

何故、仁さんは何もかも忘れちゃったのかしら?

あなたは憶えてるんですよね。

兄弟だった事も、何故彼が日本に行ったかって事も」

 

「Yes。うん、おぼえてるぜんぶ。にほんごもわすれないように、

ひとりになるとしゃべってた。エドとわかれてさみしかったし、

エドとはなしもしたかった。でもいまはわすれたいんだ。

ぼくはアメリカンなんだから、にほんごはいらない・・

それなのに、みみが“にほんご”をひろってくるんだよ。

アキラクロサワ、マツイ、イチロー、ミヤザキアニメ・・

しってる。わかるんだ。こころが、おぼえてるのかな」

 

「ワイズマンさん・・」

 

「バーナードだ、ぼくは。そうよんでくれるかな。

そうだ、ひとみは、とくべつ“バーニー”でいい。

もういまでは、ぼくをそうよぶひとだれもいないけど。

ね、ここにはどうして?なにしにきたの?」

 

「偶然なんです。散歩してたら凄い声が聞こえて、その声を

辿ってたらここに・・バー、ナードさんはさっき熱心に祈って

らっしゃいましたね。何を祈っていたんですか?」

 

「バーニーだよ」

 

「あ、はい・・じゃ、“バーニー”」

 

「ここはおちつくんだ。ぼくの“ひひょう”がきびしいっていう

のはしってる?ハハ、ひとみはもう“ひがいしゃ”だったね。

ぼくはうそがかけないし、、ぶたいにかんぺきをもとめてしまう。

ぼくのきじはしんようされてるけど、やっぱりいろいろある。

こころがくるしくなることもね。そんなとき、ここをみつけた。

ちいさなきょうかいだけど、あったかいんだ。

ここのゴスペルもいいでしょ?さっきのシスターエヴァのこえは

ブロードウェイのスタークラスだよ」

 

「さっき、お母様の事話されてましたよね。

仁さんとあなたのお母様が」

 

「マムのこと?それともエドとのこと?そんなにおもしろいはなし

じゃない。あぁ、ちょっとつかれたよ。

だって“にほんご”はなすの、おひさしびりだし」

 

「“おひさしびり”?“おひさしぶり”です、それを言うなら。

正確には“お”もいらないんですけどね・・ふふ」

 

「あっ、そう?まちがえちゃった」

 


あ・・笑った時の目、仁さんに似てる。


声は、仁さんより少し高いかな。

鼻は?頬は?眉は?

ふ~ん、こんな所にほくろがあるんだ。

そうだ、確か仁さんはこの眉の上に傷があった・・

 

笑いながら私の目は、

彼との相違点を知らず知らずに探していた。

 

「そんなににてる?ぼくは、エドに」


「ええ、似てます。雰囲気は全然違うけど。

だって当たり前ですよね。双子なんだもの」


「そう、かな。いくら双子でもべつべつにくらして、

べつべつものをたべて、べつべつにいきてきたのに?

かぞくってそんなじゃないだろう?!


・・忘れたくせに!エドは僕の事も、マムの事も・・

僕は忘れなかった。本当は忘れたかったのに。

エドの事なんか・・エドなんか・・とっくに、忘れて・・

おとなしく子供と遊んでればよかったんだ。

あそこで真面目に先生やってれば。

よりによって何でDancerなんだよ!!どうしてActorなんだ!!


あ、Sorry、ごめん。ぼくらしくないな・・

そうか、ゴスペルききにきたの?ここはちいさいだけど、

ゴスペルはいいよ。そうだ、ここでうたわせてもらえばいい。

べんきょになるから」

 


英語での突然の激昂。

溢れてくる仁さんへの想い。

途中は何を言ってるのか殆ど分からなかったけど、


この人は・・


仁さんを愛している。

 


私はその後、バーニーにシスター・テレサとシスター・エヴァを

紹介してもらった。彼は熱心に「彼女はミュージカルシンガーで、

才能がある」と力説してくれ(多分、そう言ってたと、思う)

おかげで、押しかけ生徒は、なんとか受け入れてもらえた。


エヴァは私を見るなり、「こんな小さな子に歌が歌えるの?」と、

(多分、そう言ってたと、思う)驚いた。


ん?小さな子って・・いったい私を幾つだと思ったのかしら?

 


「OK、ヒトミ。ちょっと声出してみて」


エヴァは私をオルガンの前に連れて行った。


「さて、何を歌う?」


「えっ?」

 

まさか、今、歌う事になるなんて思いもしなかった私は、

いきなり歌えと言われてマジに焦った。

劇団のミュージカルナンバー?

それともクラッシックなイタリア歌曲の方がいいの?

 

迷ったあげく私が歌い出した歌は、

仁さんがよく口ずさむ歌だった。


結婚して(一緒に暮らしだして)すぐの頃、

声の出ない私に歌ってくれた童謡。

 


『やば、歌い出し高すぎた!ファルセットになっちまう。

瞳。お前の声で歌ってくれよ・・お前の歌が聞きたいよ』

 

彼はよくそう言って私を抱きしめてくれたっけ。

 


♪ 菜の花畑に、入日薄れ、

   見渡す山の端、霞ふかし

 春風そよ吹く、空を見れば、

   夕月、かかりて、にほひ淡し♪

 


ガターン!!

 

その時、席で聞いていたバーニーが物凄い勢いで立ち上がった。

前の座席を握り締めたその指が、明らかに震えている。

 

「・・・・ひとみ。

その、うた・・なに?」

 

「朧月夜?」

 

「おも、ろ?」

 

「お・ぼ・ろ月夜。童謡です、日本の。知ってるんですか?」

 

「・・・・NO、NO・・・いや、いや・・しらない」

 

「バーニー?」

 

「シスターテレサ、エヴァ!もう今日はいいよね?

明日から、ひとみを頼みます。ひとみ。おくるよ。

かえらなきゃ、しんぱいするよ。エドが」

 

「あ、もうこんな時間。そうなんです、あの人心配性で・・

私が出かけようとすると、“誰と一緒か”“何処に行くのか”

いちいち聞くんですよ。

あんなことがあったから、気持ちは分かるんだけど。

よく知ってるんですね。仁さんが心配性だって」

 

「・・・・」

 

教会を出た私は、バーニーと一緒で助かったと心底思った。

完全にホテルへの帰り道が分からなくなっていたから。

はぁ・・これじゃ、仁さんが心配するのも当然だわ。

 

「メインストリートにでたら、タクシーのろう。

すこしあるくよ」

 

「ありがとうございます、助かりました。やさしいんですね」

 

「ぼくがやさしい?やさしいのはエドのほうだ。

やさしくて、しんじやすくて。ともだちにからかわれたり、

ぼくにだまされたり。カードをやっても、かくれんぼしても、

かつのはいつもぼく。

“バーニーはつよいなぁ”っていつもわらってた。

あのときだって、グランマのあんなうそ、エドはしんじたんだ・・・

ひとみ。あなたってふしぎなひとだね。

あなたのそばだと、よけいなことまではなしちゃいそうだ。

なんか。マムに、にてるな」

 

「私が?」

 

「マムもちいさなひとだった。わらったかおがかわいかった。

エドはおぼえてないだろうけど、ひとみをえらんだのは、

あいつもこころがおぼえてたのかもしれない。

エドは・・マムがだいすきだったから」

 

 

 


「おい、おい。代表と仁さんにもうバレてるよ」


「当たり前ですよ、拓海さん。こういう情報はすぐ漏れる

もんです。ま、昨夜アレだけ騒いだら、バレたも何もないと

思いますけど・・

拓海さん、俺、常々思ってたんですけど、拓海さんって妻子持ち

の匂いしませんよね。生活感ないし、相変わらずお盛んだし。

いいんですか?奥さん、怖くないんですか?」

 

「あ?あぁ、女房ね。もういないんだ」

 

「は?」

 

「めんどくさいから誰にも言ってないんだ。3ヶ月くらい前に子供

連れて出てった。実家から離婚届送りつけてきて、判押せってさ。

紙切れ一枚で俺はバツイチ。哀れだろ?」

 

「僕は奥さんの方に同情しますよ。結婚して少しは大人しくなるか

と思ったら。妬き疲れたんですね、きっと。

よくこれまで持ったというべきか。・・あれ?瞳ちゃんだ」

 

「瞳?そういえばさっきいなかったな」

 

「向かい側のカフェの前です。タクシーから。

あ、拓海さん!男と一緒です」

 

「男だぁ?誰だ?しっ、アキラ・・仁さん見てないよな」

 

「大丈夫です。今、背中向いてます。拓海さん、あの男」

 

「ああ、間違いない。劇団の仇、ワイズマンだ。

・・でもなんで、瞳と?」

 

 


タクシーでのバーニーは、それまでと打って変わって

一言も喋らなかった。ただ何かを考えながら、窓に肘をつき、

外をずっと見つめていた。

 

タクシーを降りると、

(ちゃんと回り込んで私にドアを開けてくれた)

バーニーは大きく手を広げて、優しく私にハグをした。

あまりの早業に拒否も出来なかった私は、

されるがままに抱き締められてしまう。

 

「あした。いくでしょう?きょうかい」

 

「え?・・あ、はい」

 

バーニーは、私の耳元でこう囁いた。

 

「むかえにいきます。ひとめにつかないところで、まってる・・

エドには、このこと・・いう?」

 


この事?・・この事って?


まだハグされていた腕を慌てて振りほどくと、

バーニーは私を見つめ、にこっと微笑んだ。

 


「じゃ、あした」

 

 

その場面を、先輩とアキラ君に見られていたとは知らずに、

差し出された手を握り返し、バーニーと別れた。

 

私がホテルに入るのを見届けるからと、

道路を渡りきるまで腕を組み立っているバーニー。

 

私は、ぺこりと頭を下げた。

 

ここはアメリカだもの、あのハグは、

あれは、ただの挨拶・・よね。

 


レストランで仁さんの顔を見つけた時、

私は無意識のうちにただ微笑んでいた。

 


仁さんに内緒にしたかった訳じゃない。

 

ただ、

なんとなく、言ってはいけない・・

 


そんな気が、したから。





コラージュ、mike86



[コメント]

1.Re:菜の花の記憶  7話 「片言の日本語」

2008-11-25 13:42:47.0 pandaru

ebeちゃん こんにちは。

手の早いバーナード、ハグされて悪い気はしなかっただろう瞳...

双子って想いを寄せる相手も似通ってしまうのかなあ...
それとも仁の幸せを壊したいだけなのだろうか。
そうするには瞳はあまりにも健気で愛おしい天使のような存在。

じゃあ 明日!バーニーは軽くいったけど....

瞳は約束を守れるのだろうか... 
後をつけるかもしれない仁、 あ~あ火花が散りそう...
 

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2.pandaruちゃん、遅くなっちゃって^^

2008-11-25 22:43:17.0 ebe

こんばんはー。

さて、バーニーの思惑は何処に?

瞳は、恋愛に関して超天然で、無防備。
仁はそんな瞳が可愛くて仕方がないけど、心配もつのって・・

次回は、ほんの少し時間が動きます(3日くらいだけど^^)
そして、遂に仁とバーニーの対面へ。

31年間、離れて暮らしていた双子。バーニーの心の中は・・

これからもよろしくね~!

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