2012/05/19 01:33
テーマ:金色の鳥篭 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

金色の鳥篭-新緑の初陣-

Photo



















先日から書いていたお友達のサークルのアニバーサリーに贈る

創作。やっと書き終わりました~!向こうに先にUPしてきたので、こ

ちらにも置いておきますね。結果、今夜が一番進んだかも^^

全体の3分の1は今夜書きましたからね(爆)








風は翠。


雲ひとつ無い晴天。王子の初陣に相応しい朝だ。

 

頬を少し赤く染め、凛と背筋を伸ばした王子は、緊張で噛み


締める唇を少し震わせて、真っ直ぐその目を未来へ向ける。

 

その様子に、傍らに従う親友が大きくその名前を呼ぶと、


王子は振り向き、少しはにかんだように柔らかく微笑んだ。

 

 

あの日から続いてきた道。


いきなり目の前から走り去った華奢な背中と小さな少年。


失いたくなくて眠れぬ夜を過ごし、あの朝、死をも覚悟して

隊の前に出た。


取り戻そうと挑む俺の目の前に、柔らかく微笑む大きな人が

立った。

 

 


敗北とか諦めとかじゃない。


この人になら。


この人となら。


惚れたのは…俺のほうだった。

 


命を懸けても少しも惜しくない運命的な出逢い。


選んだ道は真っ直ぐで揺るぎ無く、それはいつも俺を支えて

くれた。


だから今も胸を張り、俺はこの道を歩く。

 

 

出立の時が近づき、辺りが騒がしくなった。


やっと緊張が解れてきたのか、王子は見送る妹姫に笑顔で

手を振っている。

隊列全体に響き渡る声で、チュムチ将軍が大声で冗談を


飛ばした。大きな笑い声が起こり、兵士達の顔は皆、明るい。


長い髪をなびかせ森の奥から颯爽とお館様が馬を走らせて

来る。


隊列全体を見渡し、王子の笑顔に少し頬を緩めるとそのまま

静かに列に加わった。

 

 


そして…風が変わる。


圧倒的な空気が、その場を支配する。

 


歓声と踏み鳴らす靴音。


新緑から漏れる溢れる光が、眩く馬上の人を包んでいた。

 



王だ。


我らの王がやってきた。

 



片手で手綱を捌き、ゆっくりとした歩調で進むその姿は神々し

く、それはまるで一枚の絵のようだ。


我が軍に攻め入られ抗う事もせずに兄弟国になっていく国々

は、きっとこの王の姿を見た瞬間、畏れと共に魅せられてしま

うのだろう。



あの朝の俺の様に。

 

 


隊列の先頭に着いた王が澄んだ空を見上げた。


眩しい陽の光に少し目を細め、やがて小さく微笑みそして頷く。


まだ緊張している様子の王子を呼び、自分の横に着かせると


けして大きくはないが、よく通る低い声で皆に向かってこう語り

かけた。

 

 



「・・・見よ!美しい朝だ。


この光も、この風も、きっと我が王子アジクの初陣にとの、


天からの贈り物であろう。


皆の者。


よくぞ今日まで未熟な私と后を支え、共にアジクを育ててくれた。


今日からはこのアジクも、高句麗の一矢となって皆と共に歩む。


どうか、仲間に入れて欲しい!皆の力が必要だ」

 




「父上・・・」

 

「王様!」

 

「我らが王!!タムドク王!!


アジク様!王子様!!」

 


天下に轟く高句麗の王がひとりの父となった姿に誰もが驚き、

感動し、再び兵達から大歓声が起きた。


皆は口々に、王の名と王子の名前を叫ぶ。


その光景に心を打たれ、俺の目にも熱いものが込み上げて

来た時、耳のすぐ傍で、聞き覚えのある透明な囁き声が聞

こえた。

 



「…って言うわけだからヒョヌ。アジクだけじゃなく今日から

アタシもよろしくね。大丈夫よ、一兵士としてちゃんと隊長の

命令には従うから」

 

「えっ?」

 



驚いて振り向くとそこには、きちんと戦支度を整えた高句麗の

后、スジニが居た。


肩には愛用の弓が数本。


長い髪を束ねて微笑む姿は、二児の母になった今でもまるで

少女の様だ。

 



「しっ!なっ、なんて格好をしてるんですお后様。


まさか戦に出る…なんてつもりじゃないでしょうね?」

 

「そうよ、当たり前じゃない。こんな格好で他にどこに行くって

いうの」

 

「冗談言ってる場合ですか。いいですか?今すぐに宮にお戻り

ください」

 

「イヤよ。ずっとこの日を待ってたんだもの。アジクの初陣の時

には絶対に一緒に行くってアタシ決めてたんだ」

 

 


きっとわくわくと胸躍らせているのだろう。


少し上目遣いに大きな瞳を輝かせ、后は満面の笑みを見せた。

 

この人は俺がその表情に弱い事も、その大抵の頼みを断れ

ない事も、計算済みなのか。


明らかに行く気満々で、大きく張った胸を拳でトントンと叩いて

みせている。そんな后に気付いた弓隊の隊員達が騒ぎ出した

時、隊列の先頭ではチュムチ将軍が、アジク王子への祝福の

歌を大声で歌い出したようだった。

 


少し照れて頭を掻く王子と、その歌に合わせて陽気に踊り出

す兵士達。


踊りの輪の中心は、王子の側近である息子スファンだ。


急に始まった祭りのような騒ぎに、隠れていたはずの后は

気を許したのか大きな声で笑い出した。

 



「アハハ!ヒョヌ。何?その顔!そんな眉間に皺ばっかり寄せ

てるから、何時まで経っても後添えが来ないのよ。


それにもっとさ、こう心を広くしてないと早く老けるよ」

 

「この顔は生まれつきです。それに誰のせいでこんな顔してる

と思ってるんですか。当然王様は御存知ないんでしょう?


ダメです、無理ですよ。何かあったらどうするんです」

 

「弓の腕は落ちてないわ。宮でいつも稽古してたから。


アジクもすっごく筋が良いけど、アタシにはまだまだ勝てない

しね」

 

「后。いや、スジニさん。さ、戻って下さい。


さっき隊長の命に従うと言いましたよね。なら従ってもらいます」

 

「もう~、お願いよヒョヌ、連れてって!昔はあんなに優しかっ

たのに。アタシの為なら何でもするって言ってくれてたじゃない」

 

「いつの話ですか?昔は昔、今は今です。知ってるでしょう?


俺は生涯タムドク王の忠実な家臣。王が全てなんです。


大丈夫、心配しなくてもアジク様は我々が護ります。それにい

ざという時には、すぐ傍にスファンがおります。親の俺が言うの

もなんですが、あいつは強い。弓でも槍でも今、あいつに勝て

る者はそうは居ないでしょう。


それに、あいつはアジク様が大好きなんですよ。だから・・・」

 

「親父!!それ以上は恥ずかしいから止めてくれ。それに

そんな大声で怒鳴りあってれば、全部皆に聞こえてるけどね」

 

「え?あ・・・」

 

 


驚いて辺りを見回すと、すぐ傍でスファンが仁王立ちしていた。


いつの間にか隊全体も俺達を見ている。



「うわっ!!」と慌てて后を隠そうとする俺を、大きな笑い声が

包む。


溜息を吐くそんな俺の耳に、からかう様なチュムチ将軍の

大きな声が飛んで来た。

 

 


「おうよ、ヒョヌ。国内外に忠義と名高い高句麗の弓隊長!


お前、そのじゃじゃ馬に未だに惚れてるからって、そいつの我

がままを簡単に聞いちゃいけねぇぜ。初陣だろうが何だろうが

息子の戦にオモニがついていくなんざ、聞いた事がねえ。

構うこたぁねえから、さっさと宮に戻すんだな。戦は遊びじゃね

えんだから」

 


「ちょっとチュムチ!遊びとは何?アタシが戦を知らないとでも

思ってるわけ?昔、前に向かって走ることしか知らないあんた

を、何度アタシが助けてやったか、憶えてないとは言わせないよ」

 

「バ~カ!まがりなりにも后だろうよ、お前は。后ってのは城を

護るもんだぜ。だいたいお前がそんなだから、アジクがいつま

で経っても甘ちゃんなんだよ」

 

「ちょっ…あんたね!」

 

「そこまでだ。こら、頭から湯気が出てるぞ。スジニ」

 

「え?湯気だろうが何だろうが!!アッ・・・王様」

 

 

そこには腕を組み、少し小首を傾げた笑顔の王が立っていた。


悪戯が見つかった后が、ばつが悪そうに少し後ずさると、王は

すっと手を伸ばしあっという間にその体を抱き取った。


そして后の額に自らの額を押し当てると、愛おしそうに呟いた。

 



「ん。湯気はもう冷めたかな?」

 

「あの、王様、あのね」

 

「チュムチはああ言ってたが、アジクが心配というだけで行くの

ではないのだろう?お前はずっと飛ぶ機会を待っていた。


新しい弓を作り、密かに鍛錬も積んでいた。


そんなお前を、私が知らなかったと思っていたのか?」

 

「ご…ごめんなさい」

 



優しい口調とは裏腹に、王の表情は厳しかった。


后はそれまでの笑みが消え、唇を噛んで下を向いている。

 



「ヒョヌ将軍。すまない、后と話がしたいのだ。


出立の時刻ではあるが、しばし時をくれぬか。少しでいい、悪

いな」

 

「あ、いえ。承知しました」

 



俺の返事が終わらぬうちに、王は后を連れ隊から離れた場所

に馬を着ける。その様子を俺が目で追っていると、やがてチュ

ムチ将軍がやってきた。

 



「ああいう嫁を持つと男は苦労だな。亭主の言う事も聞かずに

自分勝手に飛び跳ねようとする。その点、うちのタルビは良い

女だぞ!献身的だし、いつでも俺を一番に立ててくれるから

な。女ってもんは亭主に仕えるのが本分だ。甘やかしたらつけ

あがるだけさ」

 


「…そういうもんですかね」

 


「おうよ、そういうもんだ。お前もあんな女をいつまでも想って

ねえで、さっさと若い嫁でも貰え。ぐずぐずしてるとスファンの

方が先になっちまうぞ」

 


「それはそれでいいじゃないですか。俺は全然構いませんよ」

 

「忠義の上に片恋も貫くってか。まったくお前は損な性分だな」

 

「損?一介の魚屋が高句麗の将軍にまでなれたんです。これ

以上、俺は何も望みません」

 

 


ふと視線をお館様に移すと、その目は静かに王達を追っていた。


遠くの后の姿に小さく笑みを湛えながら、その表情はとても柔

らかい。



忠義の上に片恋も貫く。



それは、お館様にこそ当てはまる言葉だ。


何も望まないと言いながら、俺はまだ心のどこかで彼女を待っ

ている…

 

 


王たちの馬がこちらにやって来る。


俺の横で后を降ろすと、王はそのまま隊列の先頭に向かった。


ほんのり上気した肌と、桃色の唇に微笑みを湛えた后は、自分の

馬に乗ると、宮には帰らずゆっくりと隊列の先頭に移動していく。

 



「どうなってんだ。王様と話をしてきたんだろう?


宮に戻るんじゃないのかよ。おいお前、行くのか?」

 


背筋を伸ばし手綱を引く后は、にこりと微笑むと静かに答え

た。その声はさっきの男勝りのスジニではなく、高句麗の后と

しての声だった。

 



「今回の戦から、私も戦闘に加わります。高句麗の后として外

交的にも努めたいと思いますので、皆さんよろしくお願いしま

すね」

 


「おいおい。どうなってんだ?」

 



キリっと前を向いて先頭のアジク王子の傍まで進んだ后は、

王子の肩を軽く叩くと、少し後方に退いた。

慌てて戻ってきたチュムチ将軍に王が代わって返事をする。

 



「ということだ、チュムチ。だけど勘違いするな。私は別にスジ

ニを甘やかしているわけではない。王としてスジニの戦闘力と

后としての能力が欲しいだけだ」

 

「聞こえてたのか、意地が悪いぜ。しかし、それが本当の理由

かい?案外王様が“一人寝が寂しい”なんてあいつに言ったん

じゃないのかね」

 

「確かに戦場は殺風景だからな。お前達の様な男達だけで

は、私が安らげん」

 

「出た、本音だ!まったくこれが諸国を黙らせる広開土王だっ

てんだから。俺達家臣がちゃんとしねえと、いつまた大国に狙

われるかしれねえぞ!」

 

「あははは、そうかもしれぬな。では皆の者、そうならぬ様、心

して任に当たってくれ。待たせたな。では、出立だ!!」

 

 

 


新緑の光眩しい、初陣の朝。


弾ける様な王の言葉に、兵達の顔にまた笑顔が広がった。


士気上がる旅立ちの時。


后が戦闘に加わったこの日から、高句麗の快進撃は止まる事


を知らず、さらに領土を拡大していく事となる。

 

 



隊から離れて二人。


あの時、王は本当は后に何と言ったのだろう。


忠義と片恋の損な性分の俺は、


未だにその答えを考えては、一人笑う時があるのだ。




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