この冬の出来事 太王の帰還と僕の決心
これは2007年のクリスマス記念に書いた作品です。でも仕上げに時間が掛かって、
結局は2008年、元旦のUPになってしまいましたが(笑)
「太王の帰還」・・そうです。テサギの撮影が終わって、ジュンがやっと帰ってきた
ペ家。その時、レウォンは密かな決心を・・・ミナとの関係も、この後「愛してる」に続
いていきます^^
この冬のクリスマスは、やたらと賑やかだった。
かの太王が、やっと鎧を脱いで帰ってきたからだ。
「そうだ!家でパーティーしましょう!」
満身創痍の父さんを励ます会だ。
しかも我が家での初めての盛大なパーティー。
母さんの気合いは半端じゃない。
その大掛かりな準備に僕も借り出され、
(動ける男手はあんただけなの!と、母さんの激が飛んだ)
リビングは僕の手によって素晴らしいパーティー会場に変身した。
天井まで届きそうなツリーには、キラキラと様々なオーナメントが
煌いている。
去年、生まれたばかりのユキを連れて日本から母さんが帰って来る
時、父さんが買った巨大なクリスマスツリー。
撮影で帰るのが深夜になっても、
毎晩父さんは嬉しそうに飾りつけをしていた。
大きな体を折り曲げるようにツリー中にライトを這わせ、
脚立の天辺に登って最後の星を付けた時には、
僕を大声で呼んで「レウォン!傑作だろ?」と得意気な顔で
笑っていた。
そのツリーの飾りつけは、今年は僕の仕事。
「お前には絵心が無い」と、
父さんはリビングのソファーで、あれこれいちいち指示を出す。
退院した父さんは、何日かに一度病院に通っているけど、
すごく元気だ。思うように動かない足をわざと動かしては、
毎日母さんに叱られている。
結構な怪我のはずなんだけど、何だか楽しそうなんだ。
大きな仕事を終えた安堵感からか、顔もとても穏やかで。
ユキをあやしてる時の顔なんか、ホント親ばか丸出しだし。
分かる気もするよ。
父さんがこんなに何も考えずに長期間家にいられるのは、
本当に久しぶりだから。
アジア中の“かぞく”が心配する中、当の本人は家族と過ごす
クリスマスが嬉しくて、準備に忙しい僕たちの周りを松葉杖で
うろうろと邪魔をする。
「あのね、父さん。大丈夫だから。
お客さん来るのにまだ時間あるし、DVDでも見てれば?
準備なら僕と母さんで出来るし、夕方にはミナも来るしさ。
まだ安静にしてなきゃいけないんだろう?」
「邪険にするなよ。安静ったって、これ以上どう安静にすれば
いいんだ?足だって、こーんなとこまでギブスでガチガチなんだぜ、
家から出られもしないのに。ユキは昼寝しちゃったし・・
手持ち無沙汰なんだ」
「ジュン?大丈夫よ。下ごしらえは大体終わったから。
後はミナちゃんに手伝ってもらうわ。あの娘、お料理上手なのよ。
お母様の躾がいいのね。きっといいお嫁さんになるわ」
「お嫁!・・・か、母さん、何言ってんだよ。
僕達まだ、そんなんじゃ・・」
「バカね。当たり前じゃない。何照れてるの?
あんたみたいな半人前に大事な娘さんをくれる親なんかいないわよ。
第一あんたはまだ男としての修行が足りないわ。
せいぜい男を磨いて、ミナちゃんに捨てられないようにしなさいな。
あ!だからって今どきの子みたいに、女の子のバッグ持ってあげたり、
ホイホイ言う事聞いたりするのは止めなさいね。まさか、あんた・・」
「してないよ!息子を信用しないのかよ」
「どうなんだか・・・ジュン。私少し買い物に行って来るわ。
パーティーの事で頭いっぱいで、ユキのオムツやら何やら必要なもの
買うの忘れてたの・・ね、私が居ないからってばたばた動き回ったら
ダメよ。レウォン、ちゃんと監視しててね。じゃ、行って来ます」
何だかんだ捲くし立てて、あっという間に母さんは出掛けてしまった。
しかも出掛けに当然のように父さんと母さんはキスなんかしてるし・・
「・・ふう、嵐だな。母さんは何だってああ元気なんだ?
世間じゃ父さんの怪我を心配して、“かぞく”の人達大変なんだぜ。
まさか家で妻に怒られてます!なんて思わないって・・」
「ハハハ、笑の愛情は海より深し・・だ。聞いた話じゃ、
怪我の一報家に入れた時。笑、電話口で震えてたらしいよ。
気丈に話してたけど声が震えてたって。笑の気持ちは分かるよ。
あいつは事故で大切な人を亡くしてるんだ・・
でも笑は俺の所に来なかった。
毎晩同じ時間に、“大丈夫?”ってメールだけ。
あいつなりの精一杯さ。
俺が何言ったって聞かないのも分かってるからな。
“仕事のときのジュンは私のジュンじゃないから”それがあいつの
口癖だし。今までだって散々心配かけてきた。だから、ここへ帰って
きたら笑の言う事は絶対なんだ。産休だってまともに取らなかった
あの仕事人間が、休職までしたんだぞ。俺は幸せ者だよ。
お前の事だって、あいつなりの愛情なんだ。言葉は乱暴だが、
心配してるんじゃないか。息子ならちゃんと聞いてやれ」
「・・分かってるよ」
ああ。父さん。
分かってる。
あの時、その場にいたんだ、僕は。
済州のヤンさんからの電話での第一報。
最初にそれを受けたのは、僕だったんだ。
母さんは電話を代わって・・・
話はちゃんとしてるんだ。受け答えもしっかりしてた。
でもね。
立ってられなかったんだよ。
電話を受けながら、今、父さんが腰掛けてるそのソファーに、
へなへなと崩れていった。
そして電話を切ったとき、僕に向かって笑って言ったんだ。
「ジュン・・怪我しちゃった・・」って。
そう、笑ってたんだよ。顔はね。
足に力入らなくて、立てないくせに。
真っ青な顔して涙ぼろぼろ流しながら・・・さ。
きっと叫び出しそうな想いだったんだろうけど。
母さんは、そんな人だ。
だから、僕は、
そんな母さんだからこそ、言えない事があった。
もうすぐその時が来るのに、なかなかその言葉が口に出来ない。
母さん・・分かってる?
僕、もうすぐ20才になるよね。
・・行かなきゃいけない所が、あるだろ?
「何考えてる」
「え?」
「お前、このところ変だぞ・・俺が分からないと思ってたのか」
「別に・・何でもないよ」
「・・行くのか?」
「行くってどこ・・」
「急にってのはやめろよ。あいつ今度は倒れるぞ。
それでなくても家の男達は笑に心配ばかりかけてるんだ。
お前の気持ちも、分かってるつもりだけどな。
なぁ、レウォン。
俺の出来なかった事を全部お前が背負わなくてもいいんだぞ。
大学にしても、兵役にしても。
いい息子でいる必要なんかないんだ。我がままだっていいんだ。
この事は、それくらい重要な事なんだから・・」
「父さん、僕はこの国の男子だ、義務は果たす。
僕は父さんの息子だろ?」
「ああ」
「そうだよ。僕はペ家の長男だ。今までだってそれを誇りに
思ってきた。・・・母さんには、僕が・・ちゃんと言うから」
どうして分かったんだろう。
父さんが帰ってきてまだそんなに日が経ってないのに。
母さんとユキとの時間を大切にしていて、
僕の事なんか見てくれてないと思っていたのに。
僕は時々、父さんがエスパーじゃないかって思うときがある。
あの目に嘘は何もつけない。
僕がどんなに隠したって、きっと全部お見通しなんだ。
父さんの“かぞく”の人達は、あの目が魅力的なのだと言う。
もしかしたら父さんには、アジア中の女性の心まで見えているのか?
そんな事をフッと考えて、僕は少し可笑しかった。
そうだ。
僕は来年早々、入隊する。
母さんに黙って入隊検査を受けた事。
その結果が先週、送られてきた事。
いつ話そう・・
どんなシチュエーションでも、母さんのリアクションは
変わらない気がするけど、なるべくなら傷は浅いほうがいい。
この所、僕はずっと喉の奥でその言葉を呑み込んでいた。
「それはそうと、今日のメニューは何だっけ?
クリスマスだからって、チキンとかそんなもん作らないだろ?笑は。
あいつ、天邪鬼だからな。さっきチゲの匂いしてたし。
俺もそう思ってたんだ。あいつの普通の飯が一番うまい。
そんな気取ったゲスト今日は呼んでないし・・
お前、現場に何回か来たから知ってる人も来るぞ。
映画界に入るなら、顔繋いでおけ。七光りだろうが何だろうが人脈は
持ってたほうが断然プラスになる。お前が嫌がろうとこれだけは現実だ。
そうだ、留学するならフィリップに聞いて・・・・
あ、笑・・お帰り。ユキまだ寝てるよ。ん?動いてないよ、
大人しくしてたさ。レウォンと男同士の話をしてたんだ。なあ?」
「あ、うん」
「そう?それならいいけど。レウォン、ミナちゃんそろそろ
くるかしら?電話してくれない?今、4時でしょう?
お客様がみえるのは7時だから、そろそろ手伝ってもらいたいし。
・・ジュン、ちょっと見て!このセーターどうかしら。
ちょっと変ったデザインでしょ?あなたに似合うんじゃないかと
思って・・うん。やっぱり思った通りだわ。
ジュンは最高のモデルね。とっても素敵!」
その夜。
賑やかなパーティーは本当に楽しかった。
皆、口々に母さんの料理を絶賛し、お酒が進んだ。
父さんも“怪我に障るから少しにして”と言う母さんの声を
今夜ばかりは聞き流して、杯を重ね、豪快に笑った。
父さんがこんなにスタッフ以外の人に心を開いて笑うのを
あまり見たことが無かった僕は、少なからず驚いたんだ。
それだけ今回の作品は、父さんにとって大事な作品だったん
だろうな。
部屋の隅でその光景を眺めていた僕に話しかける人が居た。
僕は初対面だったが、その顔はよく知っている。
長い髪をゆるく束ねて、グラスを差し出すその人は、
僕ににっこり微笑んだ。
「レウォン君、だよね。ヒョンから聞いてた・・思った通りだ。
いつも君の自慢から始まるんだよ、ヒョンの話は」
「あ・・はい。僕がレウォンです。初めまして・・」
「初めまして。僕の事は、知ってるよね?」
「ええ。父さんがあなたの事よく話してくれます。
ずっとアメリカにいらしたんですか?
韓国語今回勉強されたって・・凄いですよね。とてもそうは思えない」
「君だって日韓のバイリンガルだって、ヒョンが・・
君の事を色々想像してたんだ。ヒョンが逢えばすぐに分かるよって。
不思議だね、血が繋がってないんだろう?でも、ヒョンによく似てる」
「同じ母さんの飯食べてるからですよ。
そしたら顔まで似てきたんだ。変ですよね?
そうだ、あなたも今日母さんの飯食べたから、
似てくるかも・・ですよ。」
「ハハハ!そうだね。そうなったら嬉しいけど。
君、監督目指してるんだって?留学したいんだそうだね。
僕で力になれることなら遠慮なく言ってくれよ。
多分、役に立てる事が多いと思うから」
「はい・・ありがとうございます。あ、すみません、
ちょっと失礼します」
その人と話している僕を、向かい側からミナが見ていた。
レモンイエローのドレスが僕の目に眩しい。
僕は、まっすぐミナに向かって歩いていった。
「いいな。紹介して欲しかったわ」
「あんないい男に、どこのバカが自分の恋人を紹介するんだ。
そんな地雷は踏まないよ。
遅くなっちゃったな・・送ってくよ。行こう」
パーティーは盛り上がり、もしかしたら朝まで続くかも知れない。
僕達は、静かに家を出た。
車で送ると言う僕に、少し歩こうとミナが誘った。
ミナの家まで、45分。
僕達は手を繋ぎ、ただ歩いた。
一昨日降った雪が、道路の両脇に積もっている。
僕は繋いだ手を僕のコートのポケットに入れた。
「おば様に、まだ言ってないのね」
「・・うん」
「分かるわ・・私がレウォン君でも多分言えない。おじ様には?」
「バレた。ハハ、敵わないよ」
「そう・・・2年か・・長いよね・・私・・・待てるかなぁ」
ポケットの中で握っていた手が不意に離れた。
ミナは1人、先に立って歩き出す。
「ミナ」
「レウォン君が私の事、どう思ってるのか、時々不安になるの。
こんな私でいいのかな・・とか、中学の頃から知ってるから、
女として見れなくて、未だにキスしかしてくれないのかな、とか。
私達、付き合ってもう長いよね・・・」
住宅街に入り、家々にはクリスマスの飾りつけが煌いていた。
僕の目の前で赤いサンタが、チカチカと点滅している。
突然のミナの言葉に僕は足が止まった。
振り向いたミナの顔も、隣家の光で七色に輝いている。
「そうじゃない!」
「レウォン君・・」
同時に声を上げたその時には、ミナは僕の胸の中にいた。
僕はその華奢な体を夢中で抱き締めた。
「ゴメン・・ごめん・・・ミナに待っててくれとは言えない。
でも、もし僕の事を好きでいてくれるなら・・待っていて欲しい。
僕は男になりたい。もっと大きな男に。
ヨンジュンの息子ってだけのこんな半端な僕じゃなくて、
もっと地に足が着いた、強い男になりたい・・
いつか、あの父さんを超えられるような」
「分かってる・・レウォン君の気持ちは分かってる。
私を大切にしてくれてるんだって事も分かってる・・
でも、お願い。お願いだから、今夜は一緒にいて。それだけで・・
それだけで・・待てるから」
「ミナ」
2008年。
年が明けて、僕は入隊した。
父さんは何とか手術を免れ、
太腿まであったギブスもやっと取れた。
年末に念願の大きな賞を受賞した父さんの書斎の机の上は、
次々に送られてくる台本であっという間に埋め尽くされ、
静かだった療養生活は、少しづつ動き出した。
母さん。
もう泣いてないかい?
パーティーの翌日。
僕が告白した時の母さんの顔、忘れないよ。
ミナが僕にくれた勇気で、僕は気持ちを告げられた。
父さんが「笑・・もういいな?」
と、母さんを抱き締めてくれた。
母さん。
僕は元気だよ。大丈夫。
ここから、不思議に家の事が見えるんだ。
きっと父さんは、動けるようになった足で必要以上のトレーニング
をして、また母さんをハラハラさせているだろう?
ユキはパタパタその周りを歩き回って、父さんはにこにこだ。
あぁ・・・母さんのチゲが食べたいな。
今年は父さん、年男だね。
きっと、
きっといい事があるよ。
休憩の終了を上官が大声で叫ぶ。
僕は銃を手に、また走り出した。
走る男 -今年の誕生日ー (2007年)
これは2007年の誕生日記念です。済州でのロケ中に35才の誕生日を迎えた
ジュン。そのジュンがあるニュースを知って・・・金版、銀版のDVDの彼がイメージで
す。白いトレーニングウエアの彼を思い出しながら読んでくださいね^^
「父さん!待てよ。ね、父さんってば!!」
今、僕の目の前を全力疾走で走っている男。
世間では、この男を“微笑の貴公子”と呼ぶ。
この韓国を代表する、超有名俳優だ。
本来ならこんな公道を変装もせず、ボディーガードも付けずに
走るなんて、とても考えられない無謀な事なんだけれど、
この男には今、それよりも何よりも大切な事がある。
鋼の意思を持ち、常に自らを律し、真摯に仕事に邁進し、
誰に対しても微笑みを絶やさず、周囲の人々に気を使う。
そんな完璧に見えるこの男には、唯一弱点がある。
それは、この男の最愛の“家族”
彼は、僕の父だ。
このところ父さんは、一昨年からかかりっきりの大型時代劇
ドラマの最後の追い込みで、連日家を空けている。
本来なら今年の春には撮影も済んで、夏休みには新潟のお爺ちゃん
の家に家族で遊びに行く筈だったんだけど・・
何だか色々あったみたいで、撮影は延びに延びた。
その結果、“世界一の家庭人”を自負する父さんは、
家族に思うように逢えないこの状況に、少なからずイライラしている
訳で。
人前でそんな顔、絶対に見せない父さんの焦りの矛先は・・
息子の僕に向けられる。
もちろん父さんは、僕を本当の息子のように愛してくれるし、
僕らは同時に親友でもある。
ただね。
その愛し方は、僕にとっては・・ほんの少し迷惑だ。
そして時々、僕はその愛の深さに面食らう。
今、母さんは、担当している新作映画のプロモーションで
日本へ行っている。
会社が今、日本進出に力を入れている事もあって、
通訳も兼ねている母さんは出張も多い。
そんな母さんが、今日の芸能ニュースの映像で、
主役の役者さんの後ろに控えめに映っていたんだ。
大学は夏休み、今日はバイトも休みだった僕は、
家でユキの世話をしながら、そのニュースを見ていた。
ユキはおもちゃが散乱するサークルの中、つかまり立ちでご機嫌だ。
別にTVに母さんが映ってたって言うのは、何の問題もないんだ。
問題は。
その役者さんが母さんを熱い眼差しで見つめているのが、
僕にも判ったほど、はっきり映っていた事。
その人は、映画に関する司会者の質問を、母さんの目を見ながら
うっとりと聞き、その答えを、“母さんに”優しく微笑んで返していた。
他には誰もいないかのように。
昔、日陰の身(わざと母さんはそう言ったりした)だった母さんが、
よく焼きもちを妬いて喧嘩になっていた。
お互いに愛し合っているのに、言葉だけが溢れ出し、相手を傷つける。
そんな壮絶な夫婦喧嘩を(結婚前もだけど)僕は何回も目撃した。
今、ユキが生まれて、妻として世間に認められて。
自信がついたのかな、息子の僕から見ても母さんはものすごく、その・・
“綺麗に”なったんだ。
父さんは、そんな母さんにまた惚れ直しちゃったらしくて。
早い話が形勢逆転、今、母さんが心配でならないんだ。
・・・やばいな。
父さん見てなきゃいいけど・・・
僕はその映像を見ながら、一人気をもんでいたんだ。
そしたら・・
案の定、と言うか、思ったよりずっと早く父さんから電話が入った。
「レウォン?いたのか。今日バイトは?ユキは元気か?
・・そうか・・・・おい。お前だから単刀直入に聞くが・・・
パク・ジュンギって役者、どんな奴だ」
・・ホラ、ね?予想的中。
「父さんの方が知ってるんじゃないの?同じ業界にいるんじゃないか」
「この世界ってさ、案外狭いようで裾野は広いんだ。
共演者、事務所の付き合い、友人の紹介・・そんなことでもなきゃ
知り合いになんかならないさ。お前、知ってるだろ?
今、人気あるらしいし。ミナちゃんなんか好きそうじゃないか」
「妬いてんだ」
「何?」
「ニュースだよ。見たんだろ?ミナの名前まで出して・・」
「いいから答えろよ。どんな奴なんだ?」
「新進気鋭!女より美しいと言われ、その演技力は高く評価されて
いる。年は・・26歳?父さん。母さんに直接聞けばいいだろ?
携帯あるじゃないか」
「・・・5歳のお前を初めて見た時さ。正直言って俺は少し驚いた」
「はあ??何で今、その話になるんだよ!」
「俺は笑に惚れてたし、年上なんて気にしてなかった。
ただ笑と一緒にいたかった・・」
「だ、か、ら、何?!」
「結婚歴がある、子供がいる・・
驚いたけど、そんな事は何の障害にもならなかったんだ。
笑に対する気持ちはそんなもんじゃ消えなかった。
それに・・お前の事も俺は愛した」
「・・父、さん」
「今思うとさ。お前は恋の障害どころか、お前の存在こそが、
俺をますます笑に向かわせたんじゃないかと思うんだ。
お前と遊んで、お前と笑って、喧嘩して。
親父になろうなんて大それた事じゃなく、ただ俺はお前が好きだった。
お前とも俺は、“家族”になりたかったんだ」
「・・・分かってたよ。
僕にとっても“ヒョン”は特別な存在だったからね」
「俺には、あの男が笑に惹かれたのが分かるんだ。
笑の表面的な美しさだけじゃなく、笑の中にある大きな包み込むような
暖かさを、きっとあいつは感じ取った。あの時の俺の様に・・
あいつも結構な年下だがそんな事は関係ない。俺は・・笑を失えないんだ」
「父さん。そうだった。父さんにとって母さんは、失えないすべて
なんだよね。そこまで1人の人を愛せるって、息子ながら感動するよ。
仕事にしても何にしても、いつも全力でさ、自分の体と心、全部を
使っちゃうだろ?父さんのそんな姿が、きっと“かぞく”の人達の
胸を打つんだね・・・からかって悪かったよ。
親が愛し合ってるってのは、嬉しい反面、照れくさくもあるんだ。
父さんが僕の親父になってくれてよかった、よ・・・・・あ!ああ~!!」
「どうした?何だよいきなり!レウォン?!」
「よし、来い。いいぞ・・・もう少し・・・・やった!すごいぞユキ!!」
「レウォン!おい、レウォン!!」
「ハッハハ、父さん!やったよ。ユキが歩いた」
「ぇ・・」
「ね、これ携帯から掛けてるの?今、動画送るよ」
「ぉぃ、レウォン」
僕は右手に電話、左手に携帯を持ち、
いきなりサークルの中で歩き出したユキの姿を撮り、父さんに送った。
ユキはにこにこ笑っていて、例えようのないくらい可愛かった。
「行った?父さん・・・父さん?」
おいおい、今1人なの?父さん。
そんなに泣いたら、誰かが飛んでくるんじゃないの?
いつも真っ直ぐで、直球勝負。
溢れる愛を隠そうともしない。
僕は、僕が撮った動画を見ながら泣いている父さんの声を
ずっと聞いていた。
その声は、幸せをかみしめる、素敵な泣き声だった。
あのニュースが流れてから3日。今日は母さんが帰ってくる日。
しかも明日は父さんの誕生日だ。
「今年は何があっても家族で誕生日を祝う!」
ここ数年、父さんの誕生日は仕事が入っていて、
(かぞくの人達にとってもこの日は特別な日だからね)
ゆっくり家で過ごしたことがない。
日本に発つ前、母さんはそれだけを約束して出掛けていった。
父さんは、まだ済州から動けないかも知れないけれど、
その時は僕らが向こうに行けばいいんだし。
ところが、夜になっても帰ってこなかった母さんから、
とんでもないメールが入ったんだ。
それは深夜に、僕の所だけでなく済州の父さんの所にも送られていた。
いつも父さんの仕事の妨げになることは絶対しない母さんなのに。
『ジュン、レウォン、ごめんなさい。
ジュンの誕生日までに帰国出来なくなりそうです。
実は初来日で緊張していたジュンギ君が、高熱で入院してしまったの。
今、熱も下がって快方に向かいつつあるんだけど、私に傍に居てほしいと
言っているの。病人を放って帰る訳にもいかなくて・・
何とか日付が変わる前に帰れるといいんだけど。
ジュン。直接済州に行くわ。今あなたにすごく逢いたい・・サランヘヨ』
僕にまで同じ文面で来たメール。
母さんの焦っている顔が浮かんで、僕は急に落ち着かなくなった。
と同時にコレを読んだ父さんの顔も浮かんできた。
早朝僕は堪らず、まずユキのシッターさんとバイト先に断りの電話を掛け、
ミナにメールで事の詳細を説明し、一緒に来てくれるように頼んだ。
ユキはこんな時にも兄孝行だ。
すやすや眠っていて、愚図りもせずおとなしくベビーカーに乗ってくれた。
空港までミナの車で急ぐと、僕らは済州に飛んだ。
空港には、連絡しておいた父さんのマネージャーさんが迎えに来ていた。
ヤンさんはもうずっと父さんに付いてくれている人で、
我が家にもよくやって来る。
僕達を見ると、何故か可笑しそうに笑いだした。
「何?何か変ですか?」
「いや、レウォンも大きくなったと思ってさ。
ミナちゃんとユキちゃんとの3ショットは、若い親子にも見えたよ。
ハハ・・そしたらヒョンはお爺ちゃんか?あの年で?
それこそ世間がぶったまげるな」
「もう!冗談言ってる場合じゃないですよ。
父さんは?大丈夫、ですよね」
「さすが息子だ。よく分かってるな。ヒョンね・・・今、監禁中!
あの様子じゃ、今にも日本行きの飛行機に飛び乗りかねないからね。
ユキちゃんの顔見れば少し落ち着くんじゃないか?
ヒョン、今とてもナーバスになってるから。
奥さんが帰らないって言うのより、ジュンギの看病してるってのが・・ね。
ヒョンはジュンギをよく知らないから、余計気になるんだろ?
上の空で、ころころ表情変って。面白いよ」
「呑気ですね。でも父さんが本気出したら、きっと誰も敵わないですよ。
ユキ連れてきて正解だったな・・・
ホテル、前と違うんですよね。どこですか?」
父さんは、本当に監禁されていた。
部屋の前には屈強なガードマンが2人。部屋の中にも数人の関係者。
それは“父さんを守る”為ではなくて、“父さんの逃亡防止”だとは、
他の人にはきっと分からないだろうな。
「父さん」
「レウォン、来たのか。まさかお前まで俺が逃げると思ってるのか?
大丈夫なのに・・何を皆、気にしてるんだか・・
やぁ、ミナちゃん久しぶり!ちょっと見ない間にまた綺麗になったね。
ホント、こいつには勿体無いなぁ・・・・ユキ。おいで」
父さんがこの前ユキを抱いたのは、2ヶ月くらい前だったかな?
大きな手のひらに包まれて、小さなユキはご機嫌だ。
父さんの長い髪を引っ張り、父さんの指輪をいじっている。
そして今度は父さんの帽子を取ろうと手を伸ばす。
父さんとユキがじゃれあっている時、
TVのニュースが今度はこんな映像を流した。
『速報が入ってきました!日本での新作映画のプロモーションを終えた
俳優パク・ジュンギssiが、只今より帰国の途に着きます。
これは先ほどの成田の映像です。今回来日中に体調を崩し、入院。
まだ本調子ではない様ですが、笑顔でファンに手を振るジュンギssi。
初来日は成功と言えるでしょう!
今後の海外での活躍も楽しみですね!』
一瞬、部屋全体が静まり返った。
だってその映像には、ジュンギssiが乗る車椅子を押す
母さんが映っていたから。
顔が映らないように下を向いてはいたが、あれは紛れもなく母さんだ。
「何時の便?」
「父、さん?」
「笑はこっちに来ると言ってた。彼女は俺に嘘は付かない」
「きっと笑は俺を待ってる。俺が迎えてあげなきゃ」
「えっ?!」
父さんはユキをミナに預けると、ユキの手を握った。
ユキの小さな手が父さんの指をしっかり握っている。
父さんが放そうとしても、その小さな指はなかなか放れない。
こういう時の赤ん坊の力って結構強いんだ。
父さんはフッと笑うと、ユキの頬にキスをして、あっという間に
部屋を出て行った。
外ではボディーガードが“逃がした”と大騒ぎだ。
・・だから言ったじゃないか。
本気出した父さんに敵う奴なんていないって・・
その場をミナにまかせ、僕は父さんの後を追った。
行き先は決まってる・・済州空港だ!
追跡は物凄く簡単だった。
なにせ素顔のヨンジュンが、たった1人で出待ちの“
かぞく”の前に現れたんだ、
全速力で走っていたけど、ちゃんと“かぞく”の人達に笑顔で手は
振って行ったらしい。興奮したアジュンマ達を見れば、
父さんの行った方角は一目瞭然だった。
飛行機が何時に着くかも分からないのに、まったく無謀な事をする。
この後空港がどんな混乱になるのか・・僕は想像もしたくない。
でも。
行くんだろうな。
自分の立場も、肩書きも関係なく、ただ
“妻を迎えに空港に行く”夫。
今の父さんには、きっとこれが唯一の真実なんだ。
ホテルから空港までは約2キロ。
見晴らしのいい一本道は、前を走る父さんがよく見える。
足は、僕の方が速いはずだ。
自慢じゃないが、高校の時に駅伝で区間新を取った。
この距離なら僕の方が断然有利。
その僕が追いつかない。距離がなかなか縮まらない。
あの毎日のトレーニングには長距離走のメニューも入ってたの?JP!
それでもやっと、白い上下のトレーニングスーツはもう目の前だ。
「父さん!待てよ、ねえ、父さんってば!」
その時、僕らの頭上を一機の飛行機が通り過ぎる。
僕らはスピードを落とし、しばらくその飛行機を見つめていた。
やがて立ち止まった父さんは、近づいてきた僕を見ずにこう言った。
「きっと、もう空港には包囲網が張られてるんだろうな。
あいつは手配しただろうし。でもなレウォン・・俺、行きたいんだ。
あそこで笑を迎えてやりたい。いつも迎えてもらってばかりの俺が、
笑に“お帰り”を言ってやりたいんだ。
・・バカな嫉妬だよ。分かってるんだ。
それが色んな人に迷惑を掛けてしまうってことも」
「だったら」
「笑うなよ・・夢、見たんだ」
「夢?」
「あぁ、昨夜。
広い真っ白な部屋の中で、笑が彼を看病してるんだ。
笑いながら彼に歌を歌ってる・・
そして、優しい声で彼をこう呼ぶんだよ・・“ジュン”って」
「父さん」
「バカだろ?自分でも情けないよ・・でも嫌なんだ。
・・笑には俺以外を “ジュン”とは呼ばせない」
「あのね」
「分かったらもう行け!これから世紀のラブシーンを
演じてくるさ。ハハ、明日のニュースは俺がトップだ!
アジア中に流れるぞ・・・舐められて堪るか!」
「父さん!!」
父さんはまた走り出した。
その背中はとても楽しそうだ。
足取りは軽く、振り向いて僕に投げキッスなんかしたりして。
・・何だかな。ハハハ!!可笑しいや・・
走り去るその男は、きっと今笑っている。
驚く妻の顔を思い浮かべて、にこやかに笑っている。
「スゴイ誕生日だ・・今年は」
35歳の少年が愛に向かって走って行く。
きっと母さんは、驚いて泣き出すかもしれない。
「明日の芸能ニュースは、我が家の家宝だな」
僕は空港に背を向けて歩きながら、
空を見上げ、1人ほくそ笑んだ。
僕だけを見て
これは、2007年の4月。サークルの1周年記念に書いたお話です。
KAZOKUシリーズの中では少し異色の作品。語りはジュンでございます。
時は、ジュンがホテリアーの撮影の途中。例のシーンを明日に控えたそんな時・・
メイキングシーンをご存知の方にはイメージしやすいのではないでしょうか。
私が考えるホテリアーの撮影秘話(笑)私自身、少し気に入っている作品です^^
そしてコラージュは、この作品でのコラボ、akke135mさんです。
「明日、朝5時ですね。
大丈夫です、間に合うように帰ってきます。
すみません、このあと僕の出番無いので・・
今回のシーン、自分でもう1度考えてみたいんです。
時間下さい。お疲れ様でした・・」
明日は5時入りで、このドラマでの初のキスシーン。
物語の重要な軸になりそうな場面に、僕はいつになく落ち着かない。
撮影に入ってから、ずっと舞台であるホテルにいわば缶詰状態。
ほとんど外にも出ずの撮影には、少なからず息が詰まる。
彼の気持ちでのキス。
彼の孤独、そして、
初めての愛に戸惑う彼の想い。
頭では分かっているのに、どう表現したらいいのか。
今は、身体の半分以上を彼の感情が占めている。
僕は今、堪らなくヌナに逢いたかった。
もう、何ヶ月逢っていない?
撮影に入る前夜からだから・・3ヶ月?
ヌナに逢えば、ヌナの顔を見れば、このモヤモヤした悩みも
消えそうな気がした。
半日の休みが貰えた事を、まだヌナに知らせてはいない。
そうだ。今日は、内緒で会社にヌナを迎えに行こう。
そして夜は、レウォンと久しぶりにゲームをしよう。
あいつにこの間送ってやったRPG、どこまで進んでいるかな。
攻略本を買ったって電話で言っていたから、
もうクリアしてしまったかも知れない。
あの部屋の空気に触れたら、僕の中の“男の顔”が見えてくる
ような気がする。
ソウルの街は、満開の桜でピンクに色づいていた。
その春の香りは、僕の心をまっすぐヌナに向かわせる。
僕は、帽子を目深に被り、車を映画社に走らせた。
映画社の向かいのビルの脇に車を止め、携帯を握る。
“なんで緊張してるんだろう・・変だな・・なんか、手、震えてる”
短縮の【1】を、押そうとした時、ビルの中から、ヌナが出てきた。
僕の見たことのない、柔らかな春色のスカート。
“あ・・髪、染めた?”
綺麗なブラウンに染まった髪は緩やかにウエーブが掛かっている。
“似合わないから”と言ってつけようとしなかった、オレンジの口紅。
「ヌ・・・」
思わず声を掛けそうになって、僕は慌ててシートに隠れた。
ヌナの後ろから、ビルを出てきた長身の男。
笑顔で、ヌナの肩に自然に手を置いている。
そして少し言葉を交わしては、大声で笑い、歩き出す。
相槌を打つヌナは、その手を気にしているようだが、
男はその手の力を緩めない。
・・・ダレダ・・・アイツ・・
その男は・・誰?
君は、なぜ肩を抱かれているの?
なぜ・・微笑んでいる・・の?
いつの間にか、強く噛み締めていたんだろう。
僕の唇は、渋い鉄の味がした。
遠ざかっていく2人をバックミラーの中に見ながら、
思わず、力一杯ハンドルを殴りつける。
“パァーーーー!!”
突然鳴るクラクション。
ヌナは驚いたように振り向き、そして・・・僕の車に気付く。
ミラーから見た、その唇が、
・・・ジュン・・・と動いた。
「母さん、お帰り~!ヒョン、来てるんだよ!」
「・・ジュン」
「お帰り。朝まで時間貰ってきたんだ。明日は5時から撮影。
腹減ってるだろ?今夜のメニューは、ヨンジュン特製のチヂミで
ございます。手、洗ってきたら?それとも・・・誰かと食べてきた?」
「ジュンらしくないわね。その言い方。
言いたい事があったらハッキリ言ったら?」
「いいの?・・レウォンもいるのに?」
「私にやましい所なんかないわ。
何を見て勘違いしてるのか知らないけど」
「勘違い?アレが?そう。・・ならいい」
「ジュン!だから、あなたらしくない!そんな言い方」
「僕らしいって何?僕だって男だ!恋人を目の前で抱かれたら
嫉妬だってする。しかも、今は半分ドンヒョクだ。
いつもの僕じゃないさ。やっと逢えた恋人に受けた仕打ちに、黙って
耐えなきゃいけないのか?妬くなって?・・それはムリだ。
僕の知らないヌナを見せられて、気分がいいわけないだろ?
・・・待てよ!!」
「着替えるの。どいて」
「ヌナ!!レウォン・・少し、母さん借りるっ!」
寝室のクローゼットの前で立ち止まるヌナ。
心なしか震えているのは、気のせいか?
「彼は誰」
「・・・答えなきゃいけない?」
「答えられないの?」
「・・・答え・・たくない」
「何があった」
「・・・・・」
「ヌナ。ヌナこそ、らしくない・・何か、あったね」
「ジュン・・」
ヌナの頬を、涙が伝う。
その涙は・・・・僕の頭に血を昇らせた。
力ずくで壁にヌナを押し付けると、無理矢理、唇を奪う。
“らしくない”僕の激しいキスに、ヌナは抗った。
「ジュ、ン・・い、や・・」
「何故?・・・どうして?・・僕を見てよ・・・僕だけを見て。
他の男に微笑まないで。苦しいんだ・・痛いんだよ、ヌナ・・」
「ジュン・・あのね、あの人は・・・ジュン!!」
僕は、部屋を飛び出した。
今はヌナのどんな言い訳も聞きたくなかった。
聞けば何をするか、自分でも解らなかった。
僕の中の、激しい何かが、
「嫌だ・・」と叫んでいた。
ホテルに戻った僕を、マネージャーが目ざとく見つける。
「あれ?ヨンジュナ、今夜泊まって来るんじゃ・・」
「ヌナに振られた・・・明日のシーン、11話のラストだよね。
大丈夫。多分・・出来るよ。不本意ではあるけど」
「え?」
どうして、ちゃんと話を聞かなかったんだろう。
つまらない独占欲。
想いを伝えきれない、あのもどかしい気持ち。
自分がこんなにガキだって今更気付いた。
ヌナの頬を濡らした一滴の涙。
その泣き顔が、僕の頭から離れない。
その夜は、結局一睡も出来なかった。
朝5時。撮影開始。
正体を知られたドンヒョクは、
ジニョンをホテル通用口で待ち伏せる。
誤解を解きたい。自分の気持ちを解って欲しい。
通路の間にジニョンを閉じ込め、想いをぶつけ、キスをする。
彼の気持ちを理解できたと思ったのに、NGを連発する。
涙がこぼれる・・・何故?
自ら休憩を申し込み、タバコを吸おうと外に出たとき、
そこに・・・・ヌナがいた。
「ヌ、ナ」
「ちゃんと話さなきゃと思って・・有給取っちゃった。
マネージャーさんが特別に通してくれたの。
ジュン、私に振られたって言ったんですって?
いつ振ったのかしら?私」
「・・昨夜はごめん・・・頭に血が昇った。
冷静じゃいられなかった。話も聞きたくなかった。
自分で聞いたくせに・・バカだろ?嫌になるよ・・
今日はいつもより早く終われると思う。
待っててくれる?今、話聞いたら、出来なくなるかも
知れないから・・・ね、見てて」
「お待たせしました。お願いします」
ジニョンを待ち伏せする所からの長廻し。
ドアを壊し、彼女を閉じ込め、壁際に追い詰める。
「僕の目が見える?・・僕の声が、聞こえる?
・・よく聞いて・・・・・愛してる、ジニョン・・」
キスシーンが初めてなわけじゃないのに、唇が震える。
ユンアが僕の首に腕を廻し、気持ちに押されそうな僕を助けてくれた。
モニターで確認したその顔は・・・苦悩するドンヒョクだった。
「待った?」
「綺麗な眺めね・・ここ、ドンヒョクの部屋よね。
ここで待つようにって、案内してくれたんだけど。
よかったの?スタッフの人、私の事知らないんでしょう?」
「ごく一部以外はね。大丈夫、誰も来ないよ。今日はもう終わったし、
明日ここでの撮影ないから今夜は僕が借りた。ヌナとゆっくり話したい」
「さっきのシーン、素敵だった。きっと話題になるわよ。
正直、少し妬けたわ。女なら、あのドンヒョクにあそこまで
されたら、堕ちるわね。・・・ね、どこから話したらいい?」
「ヌナが話したいところから。ともかく座って・・もう平気だよ。
どんな内容でも聞く勇気は出来たから」
「大袈裟ね・・ごめんなさい。ジュンに心配掛けたくなかったの。
ドラマに集中してる時だし、ここに缶詰でしょ?
相談したかったけど、出来なかった。
あのね・・・レウォンのことなの。
あの人ね、レウォンの伯父なの。シン・ジフンさん。
ジウォンさんが亡くなってからも、色々気に掛けてくださってた。
でも日本人だから・・私。
表立って手助けすることも、出来なかったんだと思う。
それが去年、ご夫婦で乗ってらした車で事故に遭われて。
奥様、未だに植物状態なの。後遺症で、ご自身も足、悪くされて。
・・・跡継ぎが欲しくなったのよ。子供には恵まれなくてね。
奥様を愛してらっしゃるから、養子を取るしかなくて。
・・・レウォンをね・・くれないかって。
自分達がちゃんとした教育も受けさせるし、大切に育てるからって。
日本人とのハーフじゃ、この国で生きるにはレウォンには辛いだろう
って・・・断ったのよ!レウォンを手放すなんて出来ないって!
そしたら・・・
どこで調べたんだか・・ジュンのことを持ち出したの」
「僕?」
「うん・・“ぺ・ヨンジュンと付き合ってるのか。
年上の子持ちの未亡人、しかも日本人。
そんなスキャンダル、今の彼にどれだけのダメージになるか。
返事は考え直したほうがいい”って」
「脅してきたんだな」
「お義兄さんにとっては、大真面目な話なのよ。
レウォンにとっても私にとっても、これ以上いい話はないって・・
ごめんなさい。私がいい返事をしないものだから、
昨日は会社にまでやって来たの。
ジュンが見たのは、玄関で義兄さんがよろけて私の肩につかまった時ね。
足が悪いからこのまま歩いてくれって。嫌だったけど、仕方なかった。
ジュンまで巻き込みたくなかったの。ジュンに迷惑かけたく・・」
「ヌナは、僕が迷惑に感じると思ったの?」
「ううん、だからこそ、話せなかった・・
ジュンは私達のために何を捨ててもやってしまう人だもの。
今、心配ごとに巻き込みたくなかったの。ジュンの“かぞく”として」
「解った。ヌナ、この件はもう僕に任せて。
・・知ってるだろ?今の僕は、凄腕のハンターなんだよ。
有能なレオもいるしね。ハハ、冗談ばっかじゃないさ。
それなりに優秀な弁護士、ウチの事務所も抱えてるから。
心配するなよ・・まだ不安?」
「違うの・・やっぱりジュンは、私達の為に何でもやって
くれちゃうんだなって思って」
「そんなの当たり前だろ。
・・ね、1つ質問したいんだけど・・いい?」
「何?」
「あの・・さ。仕事の時はいつもキリッとパンツスタイルのヌナが、
なんであんな、ふわっとしたスカート、はいてたの?
それに・・その口紅。
“似合わないからオレンジはしない”って言ってなかった?」
「あぁ、それも、この話に関係してるのよ・・不安だったの。
ジュンに逢えなかったから。
この間、雑誌のインタビュー記事読んだの。
ジュン、何て言ったか憶えてないの?」
「何か言ったっけ?僕」
「言ったわ!好きな女性のタイプ。こともあろうに私と正反対の
“長い髪の清楚で守ってあげたい感じの女性”って!」
「あぁ、アレか。うん、言った。
ヌナと正反対を思い浮かべたんだ。意識的に」
「もう!!私、ショックだった・・だから、スカートもはいたし、
髪も流行色にして、美容師さんが髪の色に合うって薦めてくれた
口紅だって・・嫌われちゃうんじゃないかって。
やっぱり若い、春の花みたいに笑う女の子がいいんじゃないかって・・」
「ハハハ!!バカだなぁ。意識したからこそ逆を言ったのに・・
そうか、解った。よし、この問題も解決するよ。
今度からこういう質問には、
“自己啓発を怠らない、しっかりと自分を持った自立した女性”
って言うことにする・・・これなら、いい?」
「・・う、ん」
「バカだな、僕達。2人別々に嫉妬してたんだね。
成程ね・・逢えない日が続くと、こんな風になっちゃうんだ・・
こりゃ、やっぱり“決める時期”だって事だな」
「ねぇ・・それと・・ね。逢えたついでにお願いしていいかな。
コレは仕事、なんだけど」
「ん?会社の?」
「うん・・あのね、今度ウチが配給する日本映画の試写、見て欲しいの。
できたら、“ペ・ヨンジュン”さんのコメントが欲しいんだけど」
「へ~、珍しいね。ヌナがそんなこと頼むなんて。面白いの?その映画」
「そう。素敵なお話なのよ。あるPCの創作サークルで知り合った顔も
知らない男女が恋をするの・・お互いの創作の中で、気持ちを打ち明け
あうんだけど、色んな障害があって・・
2人の創作を読んでいるサークルメンバーの励ましで、
彼は彼女に逢う決心をするの」
「日本映画か。監督、誰?最近僕も興味あるんだ。
ネットが結ぶ恋だね。
解った。面白そうじゃない。ぜひやらせてもらうよ」
「よかった~!ジュンの映画評があれば、恐いもん無しだわ。
よし、コレでヒット確実っ!!」
ヌナと並んで話すソファーの上。
長い話にピリオドを打とうと、僕はヌナの腰を強く引き寄せた。
もう、話は終わりだ。
幾晩、離れてたと思ってるの?
ヌナの頬を両手で挟み、指でその唇を辿る。
昨夜とは違う、ゆっくり、ヌナの心の中まで絡めとるようなキス。
解ったよ。
ヌナの願いは全部叶えてあげる。
だから、今は・・・
僕だけを・・見て・・・
長く、深いキスの後、首筋に僕の唇が落ちていく時、
ヌナは、吐息と共に、僕に呟いた。
「あ・・そう、だ・・レウォンが、ね・・言ってた・・・
あ、のゲーム・・最、後の、魔王・・が、見つか、らないんで、すって
・・あっ・・ん、ヒョ、ンに、聞い、てく、れって・・んっ・・・」
もう、黙って・・・・ヌナ。
今の君は、僕だけのものだ。
言っただろ?
「僕だけを、見て」って。
帰ろう・・・ ― KA・ZO・KU その後 ―
このお話から番外編としてのイベント(クリスマス、サークル誕生日、JOON誕生日、
等)UPが定番になりました。ちなみにこれは、2006年のクリスマス創作です。
昨日の「そして、未来へ・・」を書いた時には、まだテサギの撮影がどのくらい遅れ
ているのかも分らなかった時。この回を書いていた時も彼の動向が分らなかったの
か、仕事の事について詳しく書いていませんね(笑)
さて。前作で笑ちゃんのお腹には小さな天使が宿り・・クリスマスのこの日、レウォン
は落ち着きません。それは・・
追記・・画像差し替えました!
サークル掲載時にコラボしてくれたvivi☆さんのコラージュです!
“はい。これで、本日の講義は終わります。
では皆さん、よいクリスマスを!“
「じゃ、お先っ!!」
「おい、レウォン!なんだよ、そんなに急いで。
もしかしてデートかぁ?」
「違うよ、そうじゃないけど・・あぁ、でもそんなもんかもな。
ハハ!妹が帰ってくるんだ。じゃあな!」
「ふ~ん、なんだそうか・・妹ね・・えっ、え~?!」
僕は友達の声を背中で聞きながら、急いで教室を飛び出した。
2007年 クリスマス・イヴ。
キャンパスを全速力で駆け抜ける僕に、アチコチから声がかかる。
「レウォン、どうした?なぁ、お前の親父さんの新しい映画さぁ・・」
「よう!!今、校門の近くでお前の彼女の車見たぞ!」
「サンキュ!父さんはまだ仕事でさ・・代わりに行くとこあるんだ。
わるい!急いでるからまたな!」
今年の春の、あの衝撃的な記者会見から9ヶ月。
国内はもとより、海外での“ヨンジュン結婚騒動”も
なんとか治まり、僕も息子として世間に認知(おいおい・・)
され、僕ら家族の周囲もやっと静かになっていた。
息を切らせて校門に着いた僕は、
そこに待っていたミナの車に乗り込んだ。
「早かったわね。走ってきたの?
ちょっと、レウォン君、鏡見たら?・・ね、そんなに嬉しい?
顔、にやけてるわよ。ふふ!おかしい~~ハハッ!」
「え?そんなわけないだろ?あ・・ほんとだ・・・・
おい、治んないよ。どうしたらいいんだ?
・・・ハハ!だめだ。治りそうにないや。
なぁ、飛行機まだだよな。大丈夫かな。無事に着くといいけど」
「お、兄、さ、ん、心配ね~。ユキちゃんも今からこれじゃ
お嫁に行く時は大変だわね。兄バカなお兄さん持って」
「だって、今日はこんな寒いのにさ。
ソウルは日本より寒いんだぞ!風邪ひいたらどうすんだよ。
母さんも、そういうとこあまり気、使わないからな~」
「ふふ・・おじさまと同じ事言ってる。
今、スタジオでお逢いしてきたの。
くれぐれもよろしく頼まれちゃったわ。
お迎えレウォン君1人じゃ心配なんじゃない?」
「ああ、そうなんだ・・・もう朝から大変さ!
“こんな日にスケジュール入れた”って珍しくマネージャーさんに
当たってたよ。ま、周りは慣れてるからね。
母さんの事と、ユキの事になると、てんでダメなんだ。父さんは」
「素敵よね~おじさま。最近ますます男らしい感じで。
発表してから笑顔もパワーアップしたっていうか・・
かえってファン増えたんじゃない?
そうそう、この間日本で撮ったトークショーよかったわ!
あの番組2度目なんでしょ?私、お話聞いててウルウルしちゃった。
かっこよかったわよね・・・・レウォン君?・・何?そんな顔して。
・・・やだ。ね、もしかして、妬いてるの?
バカね、おじさまのことよ?あなたのお父さんじゃない!」
「父さんだって、まだ35だからな・・アレで、結構色々あったらしいし。
あの人に口説かれて堕ちない女はいないだろうから。
ホント、父さんはかっこいい・・・おい!ち、ちょっと!!!」
急にハンドルを切ったミナは路肩に車を止め、僕を睨んだ。
「ミ、ナ?」
「・・・・謝って。
レウォン君、私の事、そんな風に思ってたの?
私が口説かれて堕ちるって?おじさまに?
ねぇ、謝ってよ。
私は誰の恋人なの?・・・私だけがそう思ってたって事?」
「ミナ・・ゴメン。そんなつもりじゃ・・」
「・・ああヤダ。私、こんな自分が嫌でたまらない。
あなたの事になると、冷静でいられなくなっちゃう・・
こんな言い方したくないのに・・」
「ごめん・・僕が悪かった・・こっち向いてくれよ。
泣くなよ・・君は僕の恋人だ。そうだろ?」
夕日の当たる車内。
涙が伝うミナの顔がかわいくて、
僕はその唇にキスをした。
いつもより少し長いそれは、
いつもより、深く熱かった。
到着ロビーにはまだ、母さん達が乗った飛行機は着いてなかった。
安心してベンチに座り、ミナの肩を抱き、髪を撫でていると、
後ろから僕の頭に、強烈な張り手が飛んできた。
「痛って~~!!!」
「こら!10年早い!!
人前でそんなことやるのは、一丁前になってからよ、レウォン!」
「母さん!!あ、れ?どうして?え?だって、まだ・・」
「ちょうど、空きがあったから、1つ前の便で帰ってきたの。
遅くなると寒くなるでしょ?
ミナちゃん、わざわざありがとう。コイツが変なことしそうになったら、
私に言うのよ。案外手が早そうだから・・
ジュンが仕込んでるかも知れないからね」
「か、母さん、バカ言うなよ!何言ってるんだよ!」
「大声出さないの!今、寝たところなんだから・・・
ミナちゃんは初めてよね。“ユキで~す。ヨロシクね”」
「ご無沙汰しています、おばさま。わ・・かわいい・・
ちっちゃいんですね。ホント、色白いわ。
ユキちゃんっておじさまが名前つけた訳、分かるな。
日本語で“雪”だなんて、素敵・・」
「そうなの。ジュンはね、目の中に入れても本当に痛くない
らしいの。ふふ・・私も18年ぶりの高齢出産でしょ?
ちょっと心配だったけど、安産だったわ。
それにしても、新潟の父がユキを離さなくて参ったわ。空港で大騒ぎよ。
たぶんあの調子じゃ、お正月はこっちに来るわね。うるさくなるわよ~!」
超元気な母さんの腕の中で、僕の妹が眠っている。
一ヶ月半前に生まれた“ユキ”
父さんはあの記者会見で、僕達の存在と生まれてくる妹の事を
発表していた。
初めこそ、国内外のメディアは
『ヨンジュン結婚していた!!』
『相手は5歳年上、子持ちの未亡人!!!』
『夫人は現在妊娠2ヶ月!!39歳の高齢出産!!!!!』
と、物凄い騒ぎだったが、
父さんの真剣な態度に、まず“かぞく”達が事実を受け入れた。
“結婚祝い”に“安産のお守り”
韓国や日本の事務所には、瞬く間にプレゼントの山ができたそうだ。
日本の実家で、出産した母さん。
極秘来日して、しっかり立会い出産も経験した父さんは、
感激と涙でしばらく動くこともできなかった。
僕も、初めて見る自分の妹が可愛くて仕方が無かった。
そうそう、僕はユキが生まれた瞬間から、“父さん”と呼び始めた。
キッカケが必要だったからね。
なにせ、5歳の頃から“ヒョン”って呼び続けてたんだ。
そう簡単には変えられない。
一大決心して呼び始めたのに、
こんどは父さんがクレームをつけた。
「なぁ、レウォン・・嬉しいんだけど。
今まで通りでいいよ。なんかくすぐったくてさ。」
「ヒョン・・いや、父さん。
ユキがしゃべるようになった時、僕が“ヒョン”って呼んでたら、
僕の事を、“オッパ”って呼んでくれなくなるかも知れないだろ?
それはヤダね。僕はユキの“オッパ”なんだから。
だからヒョンはもう、僕にとっても“父さん”なんだ。い、い、ね!」
ユキの事を持ち出されたら、父さんに勝ち目はない。
僕の顔を見て、ふっとため息をつくと、うんうんと頷いた。
来日中、僕と父さんと新潟のおじいちゃん・・
母さんがまだ本調子じゃないことをいい事に、ユキの世話を奪い合って、
それは壮絶(?)な戦いだった。
「“お父さん、ミルクは僕が作りますから”って、
おじいちゃんに伝えろ!」
「え~!父さん、僕がやるよ。それに、そのくらいの日本語
もう喋れるくせに。母さんの傍にいてあげなよ。
また“ジュンはどこ?”って言い出すから・・
ね、夫婦水入らずで、さ」
「レウォン。俺は父親だぞ!どうして、俺が一番ユキを抱く時間が
短いんだ?気が付けば、誰かがユキの世話をしている・・
お前も息子なら、俺の味方しろよな!」
「僕だって権利はあるだろ?たった1人の妹なんだよ?
色々手伝う事もあるだろうって、日本に来たのに。
ヒョンだってずるいよ。勝手に名前決めちゃって。
僕も考えたかったよ・・いい名前だけどさ」
「ペナルティー1回だな。“ヒョン”って言った・・ミルクは俺が作る」
「もう!父さん~!」
争って2人で、ダイニングに行くと、
そこにはユキを抱いて、ミルクを飲ませてるおじいちゃんがいて・・
「お父さん・・」
「おじいちゃん・・」
「おお、ジュン。やっぱりこの子はお前に似てるな。鼻筋がすーっと
通って綺麗だ。笑に似たら、あのちょこんとした鼻だからな。
よかったな~美人さんで」
はぁ~~おじいちゃんには誰も敵わない。
男3人の戦いは結局いつもおじいちゃんの勝利で終わる。
父さんはそんな光景を眩しそうな目で見つめ、ユキをはさんで、
片言の日本語でおじいちゃんと話をするんだ。
新潟のこの家は、とても居心地がいい所で、
ユキが生まれる一週間前にやってきた、僕らは、
稲刈りや、畑仕事も進んで手伝った。
まさか、韓国のトップスターが、コンバインに乗って稲刈りしている
なんて、誰も想像しないだろうな。
日程ぎりぎりまで滞在した僕らは、
まだ帰国しない母さんとユキに心を残して日本を後にした。
その、2人がやっと帰ってきた。
ユキは、すやすや眠っている。
「あぁ・・・本当、かわいいな。」
「そうね。少し、レウォン君にも似てるんじゃない?
ほら、目はくっきり二重だし。
ユキちゃん、私、ミナよ。よろしくね。」
その時、僕の携帯が着信を知らせた。
「もしもし?あ、父さん?うん、無事に着いたよ。ユキも元気。
これから帰るよ。母さんに代わる?」
携帯を母さんに渡し、
母さんが父さんと話している間、僕はユキを抱いていた。
血を分けた僕の妹。
あの父さんと、母さんの子供。
僕は今までの14年間をなんとなく思い出していた。
人の出逢いって本当に不思議だ。
ひとつの出逢いが形になって、今僕の腕の中で眠っている。
父さんにも、僕にも似ているというその顔を見ていたら、
なぜか、涙が出てきた。
さ、ユキ。
お家に帰ろうな。
これからは、4人家族だ。
オッパが、父さんと母さんの話をいっぱい、いっぱいしてあげるよ。
小さな小さな、僕達の天使。
クリスマスのソウルの町は、祝福の音楽が鳴り響いていた。
KA・ZO・KU ― そして、未来へ・・・ ―
思えば、この話はサークルUP時には「最終話」と銘打っていました。
レウォンを書く事も、このシリーズそのものも最後のつもりで。
なのに、確か2ヶ月もしないうちに番外編を書き、その後も書き続けています。
彼のちょっとした言動やエピソードを知ると、このKAZOKUに当てはめて
考えたりして・・
さて、この回は例の「世紀の記者会見」です^^
シリーズもこのお話を入れて、あと6作。もう少しお付き合い下さいね♪
・・そうそう。このお話を書いたのはまだテサギがクランクアップする前。
撮影があんなに延びるなんて思ってなかった頃です。
なので、本当の日付とは大きな差が・・(笑)
「カット!!
はい、これで、すべて撮影終了となります。
クランクアップ、おめでとうございまーす!!
皆さん長い間、お疲れ様でしたー!」
2007年 初春
ソウルの撮影スタジオ
去年、いや、一昨年からヒョンがかかりきりだった大型歴史劇。
やっと、クランクアップの日を迎えた。
僕はスタジオの片隅で、スタッフに、にこやかに挨拶している
ヒョンを見ていた。
監督、助監督、照明さん、音響さん、美術さん・・・
そういえば、ヒョンはいつもスタッフの中にいる。
本来なら大スターとして、
ディレクターズチェアーにただ座っていればいいのに。
親しげに肩を叩き、
共に笑い、冗談を言い、
時には彼らの仕事を手伝う。
現場にいるヒョンは、とても男らしい顔をしている
長い撮影が終わった今は、開放感もあってか、とても晴れやかだ。
そんなヒョンを見ていた僕を、社長が見つけた。
「よう、レウォン!また、背が伸びたな。
もう親父よりでかいんじゃないか?
・・・なあ、相変わらずいい男だな、お前の親父は。
お前も、そう思うだろ?」
僕たちの目は、ヒョンをずっと追っていた。
「うん、信じられないくらいにね。
・・・ねえ、おじさん。ヒョンはね、僕の目標なんだ」
「あん?お前も俳優になるのか?あいつ、そんな事言って
なかったけどな。やる気があるなら、俺のとこに来い。
第2のヨンジュンになれるかもしれないぞ、お前なら」
「違うよ、おじさん。いろんな意味で、人生の目標・・かな。
とても超えられそうに無い、とてつもない大きな壁さ。
普通ならここで、グレたりするとこなんだろうけど、
僕はそれすら出来そうにない。
“偉大な父を持つ、宿命”ってヤツ?
僕もいつか、あんな男になれるのかな・・はぁ~なんか凹む」
「そうだな。ま、俺がお前だったら確実にグレてるな。
あんな男が親父だったら、息子はたまったもんじゃない。ハハ・・
・・大学、始まるのか?あいつ言ってたぞ!
“レウォンなら、ソウル大にも行けるのに”って」
「言ったでしょ?ヒョンと同じとこ行くって。
ヒョンは卒業できなかったからね。
僕はあそこで勉強して、アメリカに行く。
ヒョンの夢を僕が叶えるんだ。
・・でも、ほんとに僕にそんなことが出来るのかな?
“よし!頑張るぞ!”と思ったり、“アァ~”って落ち込んだり
何だか落ち着かないんだ。」
「ハハッ、青少年。まさに、そ、れ、が、青春だ!悩め、悩め!
・・まったくあいつは何でもできると思ったが、
子育てまで上手かったのか。あ~やだやだ」
背中越しに僕にひらひら手を振りながら、
社長はスタジオのスタッフの輪の中に入っていった。
「ん?どうした?レウォン」
ボーっとしていた僕の隣に、いつの間にかヒョンが立っていた。
「ん?あれ?もういいの?打ち上げは?」
「今回は大プロジェクトだからね。打ち上げも仕事のうち。
一週間後に、記者発表があって、その後にパーティーになった。
ま、スタッフはこれから飲みに行くんだろうけどな。
俺はほら、“家族が一番”だろ?・・ハハ!!笑にメールしたら、
もう家にいるってさ。ちょっと、待ってろ。顔落としてくる」
小さい頃から、僕はヒョンに連れられてよく撮影現場に
出入りしていた。母さんと正式に結婚してからは、
以前より少なくはなったが、それでもこの場所は、
いつでも僕を興奮させる。
監督の「よ~い・・・アクション!!」の掛け声。
カチンコの音。
音響、照明、さまざまな機材。
息を詰めて見守るスタッフ。
そして、俳優達。
いつか僕も入りたい・・この中に。
いつも、いつも思っていた。
心が、体中の血が、騒ぎ出す。
“あぁ、僕は・・・映画が好きだ”って。
家に帰った僕らを、母さんの参鶏湯が待っていた。
ヒョンはその晩、いつもより饒舌で、
おいしそうに参鶏湯を食べては、少し焼酎も飲んだ。
そして・・少し頬を染めた母さんの内緒話に驚き、
やさしく母さんを抱き寄せた。
夕食の後、自室に戻ろうとする僕に、
ヒョンが思いついた様にこう言った。
「そうだ!・・なぁ、レウォン。
明日から記者発表まで、オフにしてもらったんだ。
・・釣りに行かないか?久しぶりに、キャンプしてさ。
お前に話しておきたいこともあるし。
いいだろ?男同士でさ、な?」
翌日、僕らはヒョンの運転(これが実は結構怖い!)で、
湖にキャンプに出かけた。
久しぶりの二人だけの遠出。
ヒョンはよく笑い、上機嫌で、
途中出逢った日本のアジュンマ達にも、
笑顔でサインし、記念写真に納まっていた。
そして、湖畔に僕らはテントを張り、
缶詰とラーメンの晩御飯で、心も体も温まり、
ヒョンの特別の許可を得て、僕は少しタバコも吸った。
僕らは、一晩中、いろんな話をした。
『高校の時、友達と海を見に行き、そのまましばらく
帰らなかった話』
『デビュー作の撮影のとき、ほんとに溺れかけた話』
『バック宙が出来るようになって嬉しくて、
調子に乗って骨折した話』
ヒョンの話は面白く、僕らは笑い転げた。
もちろん、男同士の卑猥な話も欠かせない。
ヒョンはさんざん僕をからかい、大いに盛り上がった。
そしてヒョンが話し出した。
『母さんと、出逢った頃の話』
僕も記憶にはあったけれど、
ヒョンの口から語られる母さんへの想いは、
18歳の僕の心にズシンと響いた。
母さんが“僕の母親”としての顔だけじゃなく、
時折見せる“女”としての顔を、
小さな頃は少しフクザツな思いで見ていたこともあったけれど、
この2人には、僕でも到底入り込めない深い愛情がある。
「お前から母さんを奪って、悪かったな・・」
ぽつりとヒョンはそう言った。
・・・ううん、違うよ、ヒョン。
僕はそんな風に思った事、本当にないんだ。
深くタバコを吸いながら、暗い湖をみているヒョン。
その横顔は、僕が見ても、息が止まるくらい美しくて。
・・ヒョン。
僕にとっては、あなたは父さんなんだ。
母さんを奪った人じゃない。
“父”を、与えてくれた人なんだ。
その晩、僕らは、朝まで眠らなかった。
6日間の休暇を、思いっきり楽しんだ僕らは、
気持ちも新たにソウルへ帰ってきた。
休暇中にヒョンから聞かされた “決意”
それと・・・“もうひとつのビッグニュース”
そうして、
記者発表の日はやって来た。
朝から落ち着かないのはヒョンではなく、
僕と母さんの方だった。
ヒョンはそんな僕達を笑い、母さんを抱きしめ、
僕にわざと見せ付けるように、キスをし、
そして、まるでいつもと変わらずに、迎えの車に乗り込んだ。
母さんも出社した。
「家で会見を見てても落ち着かないから・・」
そういって、少し緊張した顔で、出かけていった。
そうだね、母さん。
明日から。
いいや、きっと今日から、
母さんの周りは大変なことになるだろうしね。
僕はその後、会見場に向かった。
今回は自分の目で、ヒョンの会見を見たかったから。
事務所に寄り、他のスタッフと一緒に会見場へ着くと、
もうものすごい数の記者たちが、
国内外から集まってきていた。
立錐の余地がないほどの、脚立、三脚。
プレスカードを首から提げた記者、
マイクテストをするインタビュアー、
そして。
カメラ・・カメラ・・カメラ!!!
これから始まる会見に備え、皆、準備に余念がない。
僕は、非常口のそばのドアの前で、ひとつ深呼吸をした。
そしてプロデューサー、監督が入場した後、出演者が入ってきた。
ヒョンは長い髪をひとつにまとめ、黒のスーツに縁なしメガネ。
背筋をピンと伸ばして、笑顔で入ってきた。
そして、席に着くと・・・僕の方を見て、ニヤっと笑った。
まぶしい程の、一斉のフラッシュ。
報道陣の掛け声が会場に響きわたる。
会見が始まった。
関係者の紹介、このドラマについての解説、
プロデューサー、監督の挨拶、そして・・
主演のヒョンが、マイクを握った。
・・その時、突然僕の携帯が震えだした。
ディスプレイを見て驚いた僕は、慌ててメールを開いた。
『送信者 キム・ミナ 受信者 ペ・レウォン
レウォン君、元気?今日はお知らせがあります。
実は、父がまたソウル勤務になりました。
今回は本社に戻る形なので、たぶんもう転勤はないと思います。
私は音大受験を控えてたし、日本に残ることを先生がたも薦めて
くださったけれど、私もソウルに行く事にしました。
大学は来年またソウルで受けます。
私にはまだ時間があるし、焦ることはないものね。
それに・・少しでも早く、レウォン君の傍に行きたかったから・・
早く逢いたいな。
PS 今・・ソウルに着きました。』
僕は夢中で返信を押した
『送信者 ぺ・レウォン 受信者 キム・ミナ
今、どこ?』
『送信者 キム・ミナ 受信者 ペ・レウォン
“漢江公園”』
驚いて顔を上げると、そこはものすごい喧騒だった。
まばゆいばかりのカメラのフラッシュ。
一斉に叫ぶ記者たちの声。
大混乱の会見場。
もう僕からはヒョンの姿もよく見えない。
あぁ・・・ヒョン。
遂にやったんだね。
ゴメン!!肝心なとこ聞きそびれちゃったよ。
その瞬間に息子として立会いたかったのにな。
僕は、ごった返す会見場を、流れに逆らいながら出口に急いだ。
ああ・・タクシーが捕まらない・・
僕は走った。
君が待っているその場所へ。
今頃、母さんはどうしているだろう。
でも、僕はもう何も心配してないよ。
これから、どんなことが待っていても、
大丈夫。
母さんはヒョンが護ってくれる。
そしてもうひとりの小さな家族が、僕達を見守っていてくれる。
・・僕も少し、大人になったかな。
今、走ってるこの道がどんな絆に繋がるのか、
僕にもまだ分からない。
でも、今は精一杯走ってみたい。
息が切れて、足がもつれても、
待っている人がいる、そこに走って行きたい。
ヒョン。
父さん。
最高にかっこいいよ。
・・・僕の名前は、 「ペ・レウォン」
僕は胸を張って、この名前で生きていきます。
そして僕は、最後の角を、
全速力で、駆け抜けた・・・・・
| <前 | [1] ... [164] [165] [166] [167] [168] [169] [170] [171] [172] [173] ... [189] | 次> |






