2009/11/04 10:35
テーマ:創作の部屋 カテゴリ:韓国俳優(ペ・ヨンジュン)

創作の部屋~朝月夜~<46話>

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自宅まで仕事を持ち込むことは、できるだけ避けたいと思っているのだが、そうも言っていられない日もある。

今日も、片付けてしまいたい仕事があって、帰宅後はずっとPCの前に座っていた。

気がつくと、時計の針は午前0時を過ぎていた。


PCを閉じて、部屋の明かりを消そうとした時、かすかな物音がした。

気のせいかな・・・そう思いながらも耳を澄ませた。


玄関のドアに何かがぶつかる音。

小さな息づかい。

誰かいる・・・?

躊躇いながらそっとドアを開けてみた。


深夜の凍った風とともに入ってきたのはマリーだった。

「途中で、迷っちゃって・・・。こんな時間になっちゃった」

「どうしたんだ?」

マリーは靴を脱ぐと、ふらつく足取りでソファに座り込み、「お水をいっぱいくれない?飲んだら、帰るから」と言った。


            



僕は水の入ったグラスを差し出しながら、「酔ってるのか?」と聞いた。

「酔ってない」

うつろな表情でマリーは答えたが、それは明らかに違っていた。

その証拠に、グラスの水を一気に飲み干すと、マリーはソファに横たわった。


「おい」

「酔ってなんかいない・・・」

マリーは、呟くように言うと目を閉じた。

「おい」

僕がもう一度声をかけた時には、小さな寝息を立てていた。


マリーの頬を撫ぜるように、叩いてみた。

冬の夜道を歩いてきたマリーの頬は、とても冷たかった。

僕は、寝室から持って来た毛布をマリーにそっと被せて、リビングの明かりを消した。


             



目覚まし時計の音で、目が覚めた。

冬の朝は、布団のぬくもりが恋しくて、ベッドから出る気になれないのだが、ゆうべ遅くにマリーが来たことを思い出し、ためらう間もなくベッドから離れた。

しかし、リビングのソファで眠っているはずのマリーの姿はどこにもなかった。


ソファの上に、たたんで置いてある毛布。

その上には、小さな紙片が置かれ、「ゴメン・・・」とひと言書いてあった。


コーヒーくらい飲んで行けばいいのに・・・紙片を見つめながら、僕は心の中で呟いた。

真夜中に迷い込んできた野良猫に、ミルクもやらずに追い出してしまったような気分だった。


携帯電話の番号も、メールアドレスも教え合っていない僕たちは、実際に会わない限り連絡の取りようがなかった。

マリーに会いたいと思っていたわけではないが、なんとなく気になりながら、数日が過ぎた。


              



せっかくの日曜日だと言うのに、その日は朝からみぞれ混じりの雨が降っていた。

こういう日は、何もする気になれない。

パンとコーヒーで簡単に朝食を済ませると、僕はまたベッドにもぐり込みぐずぐずしていた。


マリーが来たのは、昼を少し過ぎた頃だった。

チャイムの音にドアを開けると、大きな包みを抱えたマリーが立っていた。

「昼ごはん、まだよね?」

そう言うと、マリーは僕の脇をすり抜けて、キッチンに入って行った。


包みから、取り出したものはいくつかのプラスチックの容器。

その中には、大量の惣菜が詰め込まれていた。

「料理、できなかったんじゃないのか・・・」


「おばあちゃん、直伝の日本料理よ」

「おばあちゃんは、韓国人だろう?」

「ママの真似をして作っている内に、おばあちゃんの方がママより上手になっちゃったの」


「これは・・・おばあちゃんの手作り?」

「1週間おばあちゃんのところに泊り込んで教わった。私の、手作り」

「私の」と言う、言葉を強調してマリーは言った。


               



「どう?」

テーブルに並べられた料理に箸を伸ばす僕に、マリーが聞いた。

「うまい」

「ほんと!よかった!ミソチゲしか作れない男と付き合おうって、決めたからには、私も料理を覚えないとって、頑張ったの」


「知ってたのか?」

「多分そうじゃないか・・・って。当たり・・・でしょう?」

僕は、苦笑いするしかなかった。


不思議なことにマリーの持ってきた惣菜を食べながら、僕は懐かしさに浸っていた。

それは、ユキと一緒に食べた会津の郷土料理を思い出したからだった。

マリーに対して後ろめたさを感じ、僕の箸はさらにせわしなく動いた。


実際にマリーの作った料理はおいしかった。

「うまい」を連発する僕に、すっかり上機嫌のマリーは、後片付けも全て引き受けてくれて、僕はソファに座って、食後のお茶が出てくるのを待っていた。


                



「ありがとう」

隣に座ったマリーに向かって、僕は言った。

「お礼なんていいわよ。この間、泊めてもらったお返し」


「なぜ、黙っていなくなった?」

「目が覚めたら、自分の部屋じゃなかった。どうやってここまでたどり着いたのかも思い出せなくて」

「ずいぶん酔ってた」


「合わせる顔がなくて・・・私、何かした?」

「いや」

「そう・・・よかった」

マリーは、安心したと言う様子だった。


「何かあったのか?」

「う・・・ん、別に。」

「客に絡まれた?」

「そんなことは、いつものことよ」

マリーはため息混じりに言った。


「ねえ、別れた奥さんは、韓国の人・・・よね?」

「ああ・・・」

「次に結婚するとしたら、やっぱり韓国人がいいって、思ってる?」

「その方が生活しやすいような気がする」

そう答えるのが無難だと思った。


               



「じゃあ、日本人とのハーフは?」

「君がそうだからか?」

「私と・・・と言うわけじゃなく・・・」

「特にこだわりはない」

「日本人に対するこだわりは?」

「なぜ、そんなことを聞く?」

僕の脳裏に、またしてもユキのことが浮かんだ。


「なぜ?」

僕は、重ねて聞いてみた。

「隠していてもどこかでバレるのよ。半分、日本人の血が入ってるって言うこと」

「それがどうした?」

真顔で尋ねる僕がいた。


「年配の客の中には、いまだに日本人に対するこだわりを持った人がいるの。汚い言葉を並べ立てて・・・。挙句の果てには、会ったこともない私のママにまで、発言が及ぶ・・・。それが、やりきれなくて・・・」

マリーはそこで一度、言葉を切った。


「私は、ママを誇りに思ってる。ママを愛したパパもね」

返す言葉を失っている僕を察して、マリーは「ごめん、つまらない話し・・・しちゃった」と小さく笑って見せた。


「そんな店、やめればいい」

僕は、マリーを引き寄せると強く抱きしめた。




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